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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61H
審判 全部無効 2項進歩性  A61H
管理番号 1293397
審判番号 無効2013-800197  
総通号数 180 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2014-12-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-10-11 
確定日 2014-10-29 
事件の表示 上記当事者間の特許第4539810号発明「音叉型治療器」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4539810号の特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明についての出願(以下、「本件特許出願」という。)は、平成14年4月23日(優先権主張 2001年4月23日、日本国)を国際出願日として、特願2002-584842号として出願され、平成22年7月2日に特許権の設定登録がなされた。
これに対して、請求人 鎗田 周己は、平成25年10月11日付け審判請求書によって、上記請求項1、2に係る発明の特許を無効にすることについて、本件特許無効審判を請求した。
以後の手続きの経緯は次のとおりである。
平成26年1月29日付け 答弁書(被請求人)
同年4月17日付け 弁駁書(請求人)及び上申書(請求人)
同年5月1日付け 審理事項通知書(当審合議体)
同年6月6日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)
同年6月6日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同年6月23日 第1回口頭審理
同年6月24日付け 上申書(被請求人)
同年7月9日付け 上申書(請求人)

第2 本件特許発明
本件特許第4539810号の特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明(以下、総称して,「本件特許発明」、又は、各々の請求項を区別して「本件特許発明1」?「本件特許発明2」という。)は、本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。

「【請求項1】
U字状の振動子と、該振動子のU字基部に延設した伝動杆と、該伝動杆の先端部に取り付けられる押当部材から構成される音叉型治療器において、該押当部材の先端の押し当て部分が、多少尖った或いは扁平な丸み、扁平状あるいは凹みの各形状から選択される1の形状を有すると共に、腫れや凝り、頭痛、筋肉痛などの症状のある顔面、頭部、背中、肩、腰、手(腕)、足(脚)の患部に押し当てられるように構成されることを特徴とする音叉型治療器。
【請求項2】
上記伝動杆に握り部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の音叉型治療器。」

第3 当事者の主張(概要)、及び証拠方法
1 請求人の主張する無効理由、及び証拠方法
請求人は、「特許第4539810号発明の特許請求の範囲の請求項1?2に記載された発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする」との審決を求め、以下の1?2の無効理由により無効とされるべきであると主張し、証拠方法として、甲第1?6号証を提出している。

無効理由1:本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一であるので、特許法第29条第1項第3号により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1は、同法123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。
無効理由2:本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであり、本件特許発明2は、同法123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

(証拠方法)
(1)甲第1号証
「TUNING FORK THERAPY LEVEL THREE MANUAL」の写し
(2)甲第2号証
「Tuning Fork Therapy」に関するQ&Aを記載したWebページ
(3)甲第3号証
「Tuning Fork Therapy」に関する本およびマニュアルを紹介したWebページ
(4)甲第4号証
「TUNING FORK THERAPY LEVEL THREE MANUAL」(甲第1号証)の書誌事項を記載した箇所
(5)甲第5号証
フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」の「ISBN」のページ
(6)甲第6号証
フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」の「版と刷」のページ

2 被請求人の主張(概要)、及び証拠方法
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求め、その理由として、本件特許には,上記無効理由は存在しない点を主張し、証拠方法として、乙第1号証を提出している。
(証拠方法)
(1)乙第1号証
甲第1号証のマニュアルの表紙、目次および第12頁

第4 甲第1?6号証の記載事項
甲各号証には、各々、以下の事項が記載されている。
(表記の関係で、登録商標を表す○Rのマークを省略している。以下同じ。)
1 甲第1号証
甲第1号証(TUNING FORK THERAPY LEVEL THREE MANUAL)には、以下の事項が記載されている。(訳文は、請求人の提出した「翻訳」を援用する。以下、同じ)
(ア) 第9頁第2行?第16行
「What is Acupressure?
Acupressure is the ancient art of using the fingers to press on key points, called “acupressure points” on the surface of the body to stimulate the body’s natural curative abilities. Acupressure and Acupuncture use the same points of the body; the only difference between the two is that Acupressure uses no needle. Acupressure points can be successful in relieving:
Headaches Eyestrain Sinus problems Neck pain Backaches Arthritis Muscle aches Stress and tension」
(訳文)
「指圧療法とは何か?
指圧療法は、体の自然治癒力を刺激するために、体の表面の指圧の“ツボ”と呼ばれる重要なポイントを、指を使って押すという古来の技術である。 指圧療法と鍼療法は共に体の同じポイントを利用するが、両者の違いは、指圧療法では、針を使用しないということである。 指圧のツボは、以下の症状を緩和する効果がある。
頭痛、目の疲れ、膿瘻(のうろう)に関する障害、首[頸部]の痛み、背中の痛み、関節炎、筋肉痛、ストレスと緊張」
(イ) 第11頁第1行?第6行
「Using Tuning Forks on Acupressure Points
How to Use Tuning Forks on Acupressure Points
We will use tuning forks on various acupressure points on the body. To choose your tuning forks for specific point, you must first remember what was taught in previous chapters under the title, “Choosing your Tuning Fork”.」
(訳文)
「指圧のツボへの音叉の適用
指圧のツボへの音叉の適用の仕方
我々は、体の種々の指圧のツボに音叉を適用する。 特定のツボに対応した音叉を選択するために、まず「音叉の選択」と題した前述の章で学んだことを思いだす必要がある。」
(ウ) 第20頁の図および第1行?第3行
「This point is located exactly opposite of the Inner Gate point. It is located two and 1/2 fingers above the wrist crease on the back of the forearm between the two arm bones.」
(訳文)
「このツボは、内側ゲートポイントのちょうど反対側に位置している。 このツボは、前腕の甲側であって、手首のシワから指幅2本半だけ上方であり、2本の骨の間に位置している。」
第20頁の図には、腕に音叉の端部を当てている点が図示されている。
(エ) 第73頁の写真
第73頁の写真には、U字状の振動子と、振動子のU字基部に設けられた伝動杆とを備えた音叉が示されている。

以上、甲第1号証に開示された発明の技術的事項をまとめると以下のようになる。
A)上記(ア)?(エ)の記載及び写真から、U字状の振動子と、振動子のU字基部に設けられた伝動杆とを備えた音叉が記載されている。
B)上記(ア)?(イ)の記載から、音叉は、指圧のツボへ押し当てて使用する治療用の音叉であることが記載されている。
C)上記(ア)?(ウ)の記載及び図から、頭痛、筋肉痛等を緩和するために、手(腕)、足(脚)のツボに、音叉の先端部分が押し当てられることが記載されている。

2 甲第2号証
甲第2号証は、「Tuning Fork Therapy」に関するQ&Aを記載したWebページである。
甲第2号証には、
音叉を使用した療法を対象とした「Tuning Fork Therapy(登録商標)」は、1990年代の終わりごろに開発され、「Tuning Fork Therapy(登録商標)」に係る音叉を使用した療法に関する最初の本は、2000年に刊行されたことが記載されている。

3 甲第3号証
甲第3号証は、「Tuning Fork Therapy」に関する本およびマニュアルを紹介したWebページであり、同号証には以下の事項が記載されている。
(ア)2/4頁左欄第1行?第11行
「Tuning Fork Therapy-Level Three Book
Tuning Fork Therapy-Level Three Manual
Paperback
142 pages
ISBN: 1-4116-0054-1
Copyrighted First Edition 2000, Copyright Second Edition 2003, Revised 2009 Edition
This book will guide the student on using Tuning Forks on Acupressure Points on the body. This book will focus on 20 points. 10 points for the arms and hand and 10 points for the legs and feet.」
(訳文)
「Tuning Fork Therapy-Level Three Book
Tuning Fork Therapy(登録商標)レベル3マニュアル
ペーパーバック
142頁
ISBN: 1-4116-0054-1
著作権のある初版は2000年、著作権のある第2版は2003年、改定版は2009年に刊行
この本は、体の指圧のツボに音叉を押し当てて使用することについて、受講生をガイドするものである。この本では、20か所のツボに焦点をあてている。10か所のツボは手および腕であり、10か所のツボは足および脚である。

以上をまとめると、甲第3号証には、
「Tuning Fork Therapy-Level Three Book(Tuning Fork Therapy-Level Three Manual)」の初版は2000年に刊行された点、体の指圧のツボに音叉を押し当てて使用することが記載されている。

4 甲第4号証
甲第4号証は、甲第1号証の原本の別の頁である。
甲第4号証の第2頁目(2枚目)の第8行目には、「ISBN: 978-1-4116-0054-6」との13桁の国際標準図書番号が記載されている。
甲第4号証の第2頁目(2枚目)の第11行目には、「Copyright 2003 Francine Milford, Second Edition 2007」と記載されている。
甲第4号証の第104頁(References 参照)第9行目には、「Wieder, Dr. June Lestie, Song of the Spine.(2004). Booksurge.com」との記載がある。

5 甲第5号証
甲第5号証には、ISBN(国際標準図書番号)の意義及び現行規格(2007年以降)について、「ISBNは2006年までは、10桁であったが、・・・13桁ISBNの規格が制定され、2007年1月1日から完全施行された。」との記載がある。

6 甲第6号証
甲第6号証には、版に関して、出版物の「版」としては種々の表現(例えば、「1.内容の変更を表すもの一初版、第2版、訂正版、増補版、補正版、2010年版など」)が使用されることが記載されている。

第6 請求人の主張
1 甲第1号証が本件出願前に公知であったことについて
甲第2号証および甲第3号証によれば、甲第1号証である「TUNING FORK THERAPY LEVEL THREE MANUAL」は、体の指圧のツボに音叉を押し当てて使用する療法について記載したマニュアルであって、その初版は2000年に刊行されたものであると理解される。
なお、本件特許の優先日は2001年4月23日であるから、甲第1号証は本件特許の優先日以前に刊行されていたものである。
刊行物自体に発行年月日が記載されていることが特許法第29条第1項第3号における「頒布された刊行物」(以後、単に「頒布された刊行物」と呼ぶ)に該当するための要件ではない。「頒布された刊行物」に該当するか否かの判断は、当該刊行物自体の記載のみではなく、当該刊行物が本件特許出願前に頒布されたか否かを示す証拠に基づいて総合的に判断すべきものである。
本件においては、甲第1号証(Tuning Fork Therapy Level Three Manual)には、発行年月日は直接記載されていないものの、「Tuning Fork Therapy」に関する本およびマニュアルを販売する目的で紹介したWebページである甲第3号証には、「Tuning Fork Therapy Level Three Manual」に関して「Copyrighted First Edition 2000」と記載されている。
この「Copyrighted First Edition 2000」における「2000」は、「Tuning Fork Therapy Level Three Manual」が西暦2000年に発行されたものであることを意味するものである。従って、甲第1号証のタイトルおよび甲3号証の上記記載から、甲第1号証は遅くとも2000年12月31日までには頒布されていたと推定することができる。

2 甲第1号証の原本と甲第3号証の「Tuning Fork Therapy-Level Three Book」とが同じであることについて
甲第1号証の原本のISBN(国際標準図書番号)は978-1-4116-0054-6(甲第4号証参照)であり、甲第3号証の「Tuning Fork Therapy-Level Three Book」のISBNは1-4116-0054-1である。
ISBN(国際標準図書番号)の意義については、甲第5号証(フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」)に記載されている通りであり、甲第1号証の原本の表記は現行規格に基づく表示であり、甲第3号証の「Tuning Fork Therapy-Level Three Book」の表記は旧規格に基づく表示である。
そして、両者の最初の4桁の数字「4116」は出版者記号であり、後の4桁の数字「0054」は書名記号で出版物に固有の番号であって、それぞれ同一の番号となっている。
すなわち、甲第1号証の原本と甲第3号証の「Tuning Fork Therapy-Level Three Book」の出版者記号と書名記号は完全に一致しており、両者は同一の書籍であることが示されている。

3 無効理由1について
甲第1号証には、以下のa)?c)が開示されている。
a)甲第1号証は、U字状の振動子と、振動子のU字基部に設けられた伝動杵と、伝動杵の先端部に一体的に設けられた押当部材とを備え、指圧のツボへ押し当てて使用する治療用の音叉を開示している。
b)また、甲第1号証は、音叉の押当部材の先端の押し当て部分が、扁平な丸みの形状を有していることを開示している。
c)更に、甲第1号証は、頭痛、筋肉痛等を緩和するために、手(腕)、足(脚)の指圧のツボに音叉の押当部材の先端の押し当て部分を押し当てることを開示している。
以上説明したように、甲第1号証は、本件特許発明1の全ての構成要件に一致する構成を開示しており、甲第1号証が開示する発明の構成と、本件特許発明1の構成の間には相違点はない。なお、甲第1号証が開示する発明の技術的意義と、本件特許発明1の技術的意義についても、相違するところはない。
すなわち、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1は、同法123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

4 無効理由2について
本件特許発明2は、本件特許発明1に従属するものであって、本件特許発明1の構成要件に「伝動杆に握り部を設ける」という構成要件を新たに加えたものをその構成要件としている。
そして、上述したように、甲第1号証は、本件特許発明1の全ての構成要件に一致する構成を開示している。
一方、甲第1号証には、「伝動杆に握り部を設ける」という構成は開示されていないことから、「伝動杆に握り部を設ける」という点において、甲第1号証が開示する発明の構成と、本件特許発明2の構成とは相違する。
しかしながら、この「握り部」は「片手で握り易く」する程度のものである(本件明細書第2頁第18行?第19行参照)から、「伝動杆に握り部を設ける」という構成は、技術の具体的適用に伴う設計変更に相当すると考えられ、本件特許発明2は、当業者が容易に想到することができたものと考えられる。
すなわち、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づき当業者が容易に想到することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許発明2は、同法123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。

第7 被請求人の主張
1 甲第1号証の特許法第29条第1項第3号における「頒布された刊行物」としての適格性について
甲第1号証は、それ自体には発行年月日が何ら記載されていないが、甲第4号証(第2枚目のISBNが13桁である点、第2枚目の著作権表示が2003年版の2007年第2版である点)及び第5号証(ISBNの13桁の表示が2007年以降である点)には、甲第1号証の書籍が本件出願前に刊行された初版の書籍(2000年発行)でないことを裏付ける記載があり、甲第1号証が本件出願前に公知でないことは明らかであり、この証拠自体に基づいて「頒布された刊行物」ということはできない。
甲第2号証は、インターネットのWebページの記載内容をプリントアウトしたにすぎないものであって、そこに本件書籍の著者の「最初の本」が本件特許出願前の2000年に市場に出回ったと記載されているが、この「最初の本」と甲第1号証である本件書籍が同一であるかどうかは明らかにしておらず、これにより甲第1号証が本件特許出願前に頒布された刊行物であることは証明されていない。
第3号証は、そのWebページをプリントアウトした年月日(2013/08/30)から、2013年8月30日には本件書籍が頒布されていることは明らかであるが、このことが、本件書籍が本件特許出願前に頒布されていたことを証明することにはならないのは当然であり、またその本件書籍の紹介記事における著作権表示の年は、甲第1号証である本件書籍がその年に現実に頒布されたことをなんら証明するものではない。したがって、甲第3号証は、甲第1号証である本件書籍が本件特許出願前に頒布された刊行物であることを証明していない。また、甲第3号証の書籍と甲第1号証の原本とは、全頁数が相違するなど、同一のものとはいえない。
以上のように、甲第1号証、甲第2号証および甲第3号証のいずれに基づいても、甲第1号証の特許法第29条第1項第3号における「頒布された刊行物」としての適格性は、証明されていない。

2 無効理由1及び無効理由2について
本件特許発明1(請求項1の発明)は、甲第1号証に記載された発明と同一ではない。
また、本件特許発明2(請求項2の発明)は、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明できるものではない。

第8 当審の判断
請求人の主張する無効理由1(特許法第29条第1項第3号)及び無効理由2(特許法第29条第2項)は、本件特許発明1は甲第1号証に記載された発明と同一、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明ができたことを理由とするものである。
まず、その判断の前提として、甲第1号証が、本件特許出願(優先権主張日2001年4月23日)前に頒布された刊行物に当たるかどうかを検討する。

1 甲第1号証の頒布日、及び甲第1号証が本件特許出願前に頒布された刊行物に当たるかどうかについて
甲1号証の頒布日について、甲第1号証には、明確な記載はないが、以下の(ア)?(ウ)に述べるように頒布日を推定する手がかりが、甲第1号証及び甲第1号証と同じ原本(「TUNING FORK THERAPY LEVEL THREE MANUAL」)の写しである甲第4号証には、ある。
(ア)甲第4号証の2頁目(2枚目)の第11行目には、「Copyright 2003 Francine Milford, Second Edition 2007」 との記載があり、2007年にSecond Edition(第二版)となっており、2003年版から編集が加えられているとがわかる。これから、甲第1号証は、2007年1月以降に頒布されたことが、窺える。
(イ)甲第4号証の第104頁(References 参照)第9行目には、「Wieder, Dr.June Lestie, Song of the Spine.(2004).Booksurge.com」との、2004年に発行されたと推測される文献を参照している記載がある。これから、甲第1号証は、2004年1月以降に頒布されたことが、窺える。

(ウ)甲第4号証の2頁目(2枚目)の第8行目には、「ISBN: 978-1-4116-0054-6」との13桁の国際標準図書番号が記載されている。ISBNについて説明する甲第5号証の第2頁の現行規格(2007年以降)には、「ISBNは2006年までは、10桁であったが、・・・13桁ISBNの規格が制定され、2007年1月1日から完全施行された。」との記載があり、13桁の国際標準図書番号は、2007年1月1日以降に発行された書籍に付与されるものである。これから、甲第1号証は、2007年1月以降に頒布されたことが、窺える。
してみると、上記(ア)?(ウ)を総合すると、甲第1号証は、2007年1月以降に頒布されたものと認められる。
よって、甲第1号証及び甲第4号証の記載から、甲第1号証の頒布日は、2007年1月以降であると認定でき、甲第1号証が、本件特許出願前(優先権主張日2001年4月23日)に頒布された刊行物に当たらないことは、明らかである。

請求人は、『刊行物自体に発行年月日が記載されていることが特許法第29条第1項第3号における「頒布された刊行物」(以後、単に「頒布された刊行物」と呼ぶ)に該当するための要件ではない。「頒布された刊行物」に該当するか否かの判断は、当該刊行物自体の記載のみではなく、当該刊行物が本件特許出願前に頒布されたか否かを示す証拠に基づいて総合的に判断すべきものである。』旨主張するが、本件甲第1号証の場合、甲第1号証と原本が同じである甲第4号証の記載を総合的に判断して、甲第1号証は本件特許出願前(優先権主張日2001年4月23日)に頒布された刊行物に当たらないことは、明らかであると判断できる。
なお、請求人は、平成26年7月9日付け上申書において、『請求人が主張していることは、「甲第1号証の書籍は、本件出願前に発行されたこと」ではなくて、「甲第1号証の書籍の初版は、本件出願前に発行されたこと」である。』旨主張しているが、無効理由1(特許法第29条第1項第3号)と無効理由2(特許法第29条第2号)との関係で、判断すべきは、「甲第1号証の原本である書籍は、本件出願前に発行されたこと」であるので、上記上申書での主張は、採用できない。

2 甲第1号証と、甲第2号証及び甲第3号証の関係について
上記1での検討により、甲第1号証の頒布日は、2007年1月以降であると認定でき、甲第1号証は、本件特許出願前に頒布された刊行物に当たらないことは、明らかであるが、念のため、甲第1号証と、甲第2号証及び甲第3号証との関係について、審判合議体の判断を示す。

甲第2号証の記載から、『音叉を使用した療法を対象とした「Tuning Fork Therapyは、1990年代の終わりごろに開発され、「Tuning Fork Therapy」に係る音叉を使用した療法に関する最初の本は、2000年に刊行されたこと』は、窺えるが、「Tuning Fork Therapy」に係る音叉を使用した療法に関する本は複数存在する(例えば甲第3号証参照)ので、その最初の本と甲第1号証の原本との関係が明確でない。

甲第3号証の「Tuning Fork Therapy-Level Three Book」と甲第1号証の原本との関係について、甲第4号証も参照すると、両者に関係があることを窺わせる証拠(両者のISBNが1-4116-0054で一致する。)もあるが、両者に関係があることを否定する証拠(甲第3号証のものの全頁数が143頁であり、甲第1号証の原本の頁数が、甲第1号証の目次及び甲第4号証から、104頁であり、両者の頁数が一致しない。)もある。それらの証拠を総合的に判断すると、甲第3号証の「Tuning Fork Therapy-Level Three Book」と甲第1号証の原本と関係(例えば、両者は同一のものである。)があるとは、明確にはいえない。

3 小括
以上で、検討したように、甲第1号証は、本件特許出願前(優先権主張日2001年4月23日)に頒布された刊行物に当たらない。

4 無効理由1について
請求人の主張する、無効理由1は、「本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一であるので、特許法第29条第1項第3号により特許を受けることができないものであり、本件特許発明1は、同法123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。」というものである。
無効理由1の根拠条文(特許法第29条第1項第3号)は、「第二十9条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。・・・
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明」である。
上記1?3で判断したように、甲第1号証は、本件特許出願前(優先権主張日2001年4月23日)に頒布された刊行物でないから、甲第1号証は、特許法第29条第1項第3号でいう「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物」に当たらない。また、甲第2号証?甲第3号証も、特許法第29条第1項第3号でいう「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明」の直接の証拠では、ない。
よって、無効理由1に関して、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明と同一であるかは判断するまでもなく、本件特許発明1は、特許法第29条第1項第3号により特許を受けることできないとすることはできず、同法123条第1項第2号に該当し無効とすることは、できない。

5 無効理由2について
請求人の主張する、無効理由2は、「本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものであり、特許法第29条第2項により特許を受けることができないものであり、本件特許発明2は、同法123条第1項第2号に該当し無効とすべきである。」というものである。
無効理由2の根拠条文(特許法第29条第1項第3号に基づく特許法第29条第2項)は、「第二十9条 産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。・・・
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明
2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたときは、その発明については、同項の規定にかかわらず、特許を受けることができない。 」である。
上記1?3で判断したように、甲第1号証は、本件特許出願前(優先権主張日2001年4月23日)に頒布された刊行物でないから、甲第1号証は、特許法第29条第1項第3号でいう「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物」に当たらない。また、甲第2号証?甲第3号証も、特許法第29条第1項第3号でいう「特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となつた発明」の直接の証拠では、ない。
よって、無効理由2に関して、本件特許発明2は、甲第1号証に記載された発明から当業者が容易に発明できたどうかは判断するまでもなく、本件特許発明2は、特許法第29条第2項により特許を受けることできないとすることはできず、同法123条第1項第2号に該当し無効とすることは、できない。

第9 むすび
以上のとおりであるから、本件特許発明1の特許は、無効理由1によっては、無効にすべきものとはいえない。
そして、本件特許発明2の特許は、上記無効理由2によっては、無効とすべきものとはいえない。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人の負担とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-28 
結審通知日 2014-09-04 
審決日 2014-09-17 
出願番号 特願2002-584842(P2002-584842)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A61H)
P 1 113・ 113- Y (A61H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷川 一郎  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 松下 聡
蓮井 雅之
登録日 2010-07-02 
登録番号 特許第4539810号(P4539810)
発明の名称 音叉型治療器  
代理人 杉山 直人  
代理人 鈴木 征四郎  
代理人 白銀 博  

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