• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  H01S
管理番号 1294172
審判番号 無効2012-800038  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-03-30 
確定日 2014-12-10 
事件の表示 上記当事者間の特許第4033644号「窒化ガリウム系発光素子」の特許無効審判事件についてされた平成24年11月14日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成24年(行ケ)第10435号平成25年 9月19日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 本件特許第4033644号に係る手続の概要
本件特許第4033644号に係る手続の経緯は、概略以下のとおりである。

平成13年 7月 3日 特願2001-202726号出願(優先権主張平成12年7月18日。以下「優先日」という。)
平成15年11月19日 拒絶理由通知(起案日)
平成17年 4月26日 拒絶査定(起案日)
平成17年 6月 6日 拒絶査定に対する審判事件
平成19年10月 9日 審決(原査定を取り消す。本願の発明は特許すべきものとする。 )
平成19年11月 2日 本件特許第4033644号の設定登録(請求項1ないし7)

第2 本件無効2012-800038号に係る手続の概要
本件無効2012-800038号に係る手続の経緯は、概略以下のとおりである。

平成24年 3月30日 無効審判請求(「特許第4033644号の特許請求の範囲の第1項及び第3項ないし第7項に係る発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求める。)
平成24年 6月22日 審判事件答弁書(被請求人)
平成24年 7月19日 審理事項通知(起案日。請求人及び被請求人へ)
平成24年 9月14日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成24年 9月14日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成24年 9月28日 口頭審理(調書)
平成24年10月12日 上申書(被請求人)
平成24年11月14日 審決(審決日。請求不成立。以下「前審決」という。)
平成24年12月20日 知的財産高等裁判所出訴(平成24年(行ケ)第10435号)
平成25年 9月19日 審決取消の判決言渡(以下「前判決」という。)

第3 本件発明
本件無効審判の対象である本件特許第4033644号の請求項1、3ないし7に係る発明は、本件特許明細書及び本件図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1、3ないし7にそれぞれ記載された事項により特定されるとおりの次のものである。

「【請求項1】
ストライプ状の発光層の両端面に、光出射側鏡面と光反射側鏡面を持つ共振器構造を有する窒化ガリウム系発光素子において、
光出射側鏡面には、窒化ガリウムより低い屈折率を有する低反射膜が、該光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層され、該光出射側鏡面に接した第1の低反射膜が、ZrO_(2),MgO,Al_(2)O_(3),Si_(3)N_(4),AlN及びMgF_(2)から選ばれたいずれか1種から成り、
光反射側鏡面には、ZrO_(2),MgO,Si_(3)N_(4),AlN及びMgF_(2)から選ばれたいずれか1種からなる単一層の保護膜が接して形成され、かつ、該保護膜に接して、低屈折率層と高屈折率層とを低屈折率層から積層して終端が高屈折率層となるように交互に積層してなる高反射膜が形成されてなる窒化ガリウム系発光素子。
【請求項3】
前記低反射膜が、前記第1の低反射膜に接しており、かつSiO_(2)からなる第2の低反射膜を有する請求項1に記載の窒化ガリウム系発光素子。
【請求項4】
前記低屈折率層がSiO_(2)からなり、前記高屈折率層がZrO_(2)又はTiO_(2)からなる請求項1乃至3のいずれか1つに記載の窒化ガリウム系発光素子。
【請求項5】
前記高反射膜は、前記低屈折率層と前記高屈折率層とを交互に繰り返して2ペア以上5ペア以下の積層膜とする請求項1乃至4のいずれか1つに記載の窒化ガリウム系発光素子。
【請求項6】
前記低反射膜の膜厚は、λ/4n(λは発振波長、nは低反射膜の屈折率)とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の窒化ガリウム系発光素子。
【請求項7】
前記低反射膜を2層以上とした第1の低反射膜の膜厚は、λ/2n(λは発振波長、nは低反射膜の屈折率)とする請求項1乃至5のいずれか1つに記載の窒化ガリウム系発光素子。」(以下、請求項1、3ないし7に係る発明を、「本件発明1」、「本件発明3」ないし「本件発明7」という。)

第4 請求人の主張の概要及び証拠方法
1 審判請求書
請求人が主張する無効理由は、要するに、次のものである。
「本件発明1及び本件発明3ないし本件発明7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明4及び本件発明5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された発明並びに甲第5号証及び甲第6号証に記載された周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
したがって、本件発明1及び本件発明3ないし本件発明7は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件発明1及び本件発明3ないし本件発明7に係る特許は、特許法123条1項2号の規定により無効とされるべきである。」

2 口頭審理陳述要領書(第8及び9頁)
本件発明1に係る相違点の容易想到性
本件発明1と被請求人の主張する「引用発明1」とに、被請求人の主張するような相違点1及び相違点2が存在したとしても、甲第2号証には、審判請求書の「7.3.2.2(2)(i)」のアないしエに摘記した、次の記載がある。
「本発明は半導体レーザ素子に関し、・・・端面が劣化することのない信頼性の高い半導体レーザ素子に関する。」
「上記の従来技術を改良したものに、保護膜として、熱伝導性に優れた結晶質AlN膜を用いた半導体レーザ素子がある。」
「・・・半導体レーザ素子の共振器端面に形成されたAlN保護膜は、大気雰囲気中の水分と反応することにより、分解し、変質してしまうことがある。・・・本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、・・・端面劣化が生じにくい信頼性の高い半導体レーザ素子を提供することにある。」
「半導体レーザ素子の一対の共振器端面30、40のうちの一方の共振器端面(低反射率側端面)30に於いては、端面30上に放熱用誘電体膜として熱伝導率2.0W/cm・degの結晶質AlN膜(膜厚1950Å)10が形成されている。このAlN膜10上にはパッシベーション膜として熱伝導率0.21W/cm・degのAl_(2)O_(3)膜(膜厚1220Å)11が形成されている。他方の共振器端面(高反射率側端面)40上には、AlN膜(膜厚1950Å)20、Al_(2)O_(3)膜(膜厚1220Å)211非晶質Si膜(膜厚550Å、熱伝導率0.026/cm・deg)22、Al_(2)O_(3)膜(膜厚1220Å〉23、Si膜(膜厚550Å)24及びAl_(2)O_(3)膜(膜厚2440Å)25がこの順番で半導体レーザ素子側から積層されている。」(3頁左上欄16行?右上欄10行)

これらの記載によれば、半導体レーザ素子の端面の保護膜としてAlN保護膜は従来技術としてよく知られていたが、甲第2号証は、AlN保護膜の信頼性をさらに高めるために、AlN保護膜の上に、Al_(2)O_(3)パッシベーション膜を形成するものである。これに対し、甲第1号証は、窒化物半導体レーザ装置において、共振器端面に形成される、端面劣化の防止のための保護層として、Al_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x、y、z≦1、且つ、0≦x+y+z≦1)からなる膜を形成することを記載するものである。したがって、甲第1号証において、窒化物系半導体レーザ素子の共振器端面の保護層の組成がAlNを含む一般式で記載されていても、よく知られていたAlN保護膜を開示する甲第2号証の記載に基づいて、甲第1号証の共振器端面の保護層の組成として、AlNを選択することは容易に想到し得ることである。

3 証拠方法
(1) 請求人は、審判請求書に添付して甲第1号証ないし甲第6号証を提出している。

甲第1号証:特開2000-49410号公報
甲第2号証:特開平3-142892号公報
甲第3号証:小沼稔他編著、「よくわかる半導体レーザ」、平成7年4月10日、工学図書株式会社、141頁ないし149頁
甲第4号証:特開2000-22269号公報
甲第5号証:特開平8-191171号公報
甲第6号証:特開平9-129983号公報

(2) 請求人は、平成24年9月14日付け口頭審理陳述要領書において、甲第7号証を提出した。
甲第7号証:特開平9-194204号公報

第5 被請求人の反論の概要及び証拠方法
請求人が主張する上記無効理由に対して、被請求人は、以下のように反論している。
1 審判事件答弁書
(1) 引用発明1の認定(同答弁書第3ないし8頁)
Al_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x、y、z≦1、且つ、0≦x+y+z≦1)をx=y=z=0という特定の組成比で用いることは甲第1号証において記載されておらず、甲第1号証にはAlNからなる保護層20a、20bが開示されていない。

(2) 本件発明1に係る相違点の容易想到性(同答弁書第8及び9頁)
ア 甲第1号証にAlNからなる保護層が記載されているとする請求人の引用発明1の認定は誤りであって、これと甲第2号証とを組み合わせても、本件発明1の構成自体が得られない。したがって、請求人の主張には理由がない。

イ 甲第1号証の発明は、保護層の形成を、従来技術におけるスパッタリング法や電子ビーム蒸着法ではなく、ダメージを与えない「MO-CVD法あるいはMBE法」で行うものである(段落【0014】、【0023】、【0029】、【0085】参照)から、 スパッタリング法により保護層を形成する甲第2号証の技術と組み合わせることには阻害要因がある。
2 証拠方法
被請求人は、審判事件答弁書に添付して乙第1号証ないし乙第3号証を提出している。

乙第1号証:甲第1号証(特開2000-49410号公報)の審査過程で提出された手続補正書(平成20年4月16日付け提出)
乙第2号証:甲第1号証(特開2000-49410号公報)の審査過程で通知された拒絶理由通知書(平成20年5月9日付け起案)
乙第3号証:甲第1号証(特開2000-49410号公報)に対して下された拒絶査定(平成20年9月11日付け起案)

3 平成24年10月12日付け上申書
(1) 甲第1号証に、
「【0024】本発明の窒化物半導体レーザ装置の窒化物半導体レーザダイオードのレーザ端面に設けられた保護層は、窒化物レーザダイオードが発振する光に対して透明であるAl_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)Nからなっているので、窒化物半導体レーザダイオードと十分な格子整合をとることが可能である。従って、窒化物半導体レーザダイオード、特に活性層内の欠陥発生を抑制することが可能で、窒化物半導体レーザ装置の長寿命化できる。さらに、保護層と窒化物半導体レーザダイオードとの熱膨張係数の整合をとることができるので、熱応力による欠陥発生を抑制することができる。さらに、MO-CVD法やMBE法を用いて保護層を窒化物半導体レーザダイオード端面に堆積すると、保護層の堆積工程においてレーザダイオード端面が損傷を受けることを抑制することができる。保護層上に反射層を設けることによって、反射率を高めることができる。」

「【0040】上述したように、保護層20aおよび20bの材料としては、半導体レーザダイオードを構成する窒化物半導体の結晶層との格子整合をとるために、窒化物半導体材料を用いることが好ましい。しかしながら、半導体レーザダイオードを構成する窒化物半導体の結晶層との格子整合がとれ、且つレーザが発振する光に対する透明性を有していれば、他の材料を用いても良い。もちろん、上述したように、熱膨張係数の整合および高い電気抵抗を有している材料を用いることが好ましい。さらに、保護層20aおよび20bは、MO-CVD法やMBE法で形成されることが好ましい。」

と記載されているとおり、甲第1号証の発明は、「従来のよりも寿命が長い高信頼性を有する窒化物半導体レーザ装置を提供することを目的とする」(甲第1号証の段落【0010】)ものであり、その解決策として、窒化物半導体レーザダイオードと十分に格子整合し熱膨張係数も整合する透明な保護層を提案するものである。
そして、甲第1号証の発明の実施例では、GaN保護膜あるいはInGaN(In_(0.02)Ga_(0.98)N)保護膜が選択されているのであるが、これはGaNやIn_(0.02)Ga_(0.98)Nがレーザの発振光に対して透明であるばかりでなく、InGaNからなるMQW(多重量子井戸層)に対して格子整合や熱膨張係数の整合性にも優れているためである(段落【0033】や【0040】の記載などを参照。)。
したがって、AlNが単に透明であるというだけでAlN保護層が実質的に甲第1号証に開示されているという請求人の主張には、明らかに無理があり、甲第1号証には、形式的にも実質的にも、「AlN」を保護層として開示する記載は存在しない。(同上申書第3頁下から6行ないし第5頁5行)

(2) 上記(1)のとおり、甲第1号証の発明の共振器端面の保護層としてどのような材料を選択するかは、窒化物半導体レーザダイオードと十分に格子整合するかどうか、窒化物半導体レーザダイオードと熱膨張係数が整合するかどうか、及びレーザの発振光に対して透明であるかどうか、という観点を総合的に判断されるものである。
しかるところ、甲第2号証には、このような格子整合や熱膨張係数の整合に関する知見が何ら開示されておらず、甲第1号証記載の発明で選択されているGaNあるいはInGaNに代えて、甲第2号証に開示されたAlNを採用する動機がない。(同上申書第6頁下から7行ないし第7頁4行)

(3) 甲第2号証の発明は、窒化物半導体レーザダイオードではなくAlGaAs、InGaP、InGaAsP系の半導体レーザに関する発明であるから、その保護膜の材料にAlNを使用することが知られているからといって、これを直ちに、窒化物半導体レーザダイオードに関する甲第1号証記載の発明に適用できない。(同上申書第7頁5ないし10行)

(4) 甲第2号証の発明は、AlN保護膜の上にAl_(2)O_(3)パッシベーション膜を形成するものであるから、甲第1号証の発明に甲第2号証の発明を適用するのであれば、光出射側鏡面と同様に、光反射側鏡面にAlN保護膜が形成されたその上にAl_(2)O_(3)パッシベーション膜が形成されるべきである。
そして、甲第1号証記載の発明の光反射側鏡面にAlN保護膜とAl_(2)O_(3)パッシベーション膜が形成されると、「AlN保護膜」と「低屈折率層と高屈折率層とを低屈折率層から積層して終端が高屈折率層となるように交互に積層してなる高反射膜」との間に「Al_(2)O_(3)パッシベーション膜」が形成されることになるため、保護層に接して上記高反射膜が形成される本件発明1とは別個の発明が想起されることになる。
したがって、甲第1号証の発明と甲第2号証の発明とを組み合わせても、本件発明1は想起されない。(同上申書第7頁11ないし26行)

第6 前判決の説示
1 前判決は、前審決の理由の要点について、次のとおり説示した。
「イ 以上によれば,刊行物1には,次の発明(引用発明)が記載されていることが認められる。
『窒化物半導体レーザダイオードと,窒化物半導体レーザダイオードのレーザ端面に設けられた保護層とを有し,
保護層は,
窒化物半導体レーザダイオードが発振する光に対して透明であるAl_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなり,
窒化物半導体レーザダイオードは,
In_(u)Ga_(1-u)N/In_(v)Ga_(1-v)N(0≦u,v≦1)からなる多重量子井戸活性層を有し,
保護層に接して,窒化物半導体レーザダイオードが発振する光を反射する反射層を更に有し,
反射層は,屈折率が互いに異なる第1および第2層が交互に積層された積層構造を有し,
保護層がGaNであり、第1層および第2層は,それぞれ.SiO_(2)およびTiO_(2),または窒化物半導体レーザダイオードが発振する光に対して透明であり,且つ屈折率が互いに異なる2種類のAl_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなる,窒化物半導体レーザ装置であって,
窒化物半導体レーザダイオードが,
アンドープのIn_(0.02)Ga_(0.98)N/In_(0.15)Ga_(0.85)Nからなる多重量子井戸活性層を有し,
多重量子井戸活性層の前面及び後面にGaN層が形成され,
後面に設けられたGaN層の上に,SiO_(2)層及びTiO_(2)層が交互に5対積層された反射層が形成された,窒化物半導体レーザ装置。』
(2) 刊行物2によれば,以下の刊行物2発明が記載されているものと認められる。
『一対の対向する共振器端面のうち少なくとも一方の共振器端面が,該共振器端面上に形成された放熱用誘電体膜と,該放熱用誘電体膜上に形成されたバッジペーション膜とを備えており,
該放熱用誘電体膜は,該バッジペーション膜の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有し,
該バッジペーション膜は,該放熱用誘電体膜よりも高い耐水性を有した半導体レ一ザ素子(請求項1を参照)であって,
放熱用誘電体膜がAlN膜である(請求項2を参照),
半導体レーザ素子。』
(3)本件発明1と引用発明とのー致点及び相違点は次のとおりである。
【一致点】
『「発光層の両端面に,光出射側鏡面と光反射側鏡面を持つ共振器構造を有する窒化ガリウム系発光素子において,光出射側鏡面に,膜が積層され,光反射側鏡面には,単一層の保護膜が接して形成され,かつ,該膜に接して,低屈折率層と高屈折率層とを低屈折率層から積層して終端が高屈折率層となるように交互に積層してなる高反射膜が形成されてなる窒化ガリウム系発光素子。』
【相違点1】
発光層の形状に関し,本件発明1は,『ストライプ状』であるのに対して,引用発明は,ストライプ状であるか否か不明である点。
【相違点2】
光出射側鏡面の膜に関し,本件発明1は,『窒化ガリウムより低い屈折率を有する低反射膜が,該光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層され,該光出射側鏡面に接した第1の低反射膜が,ZrO_(2),MgO,Al_(2)O_(3),SiN_(4),AlN及びMgF_(2)から選ばれたいずれか1種から成』るのに対して,引用発明は,窒化ガリウムより低い屈折率を有する膜が,光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層されてはおらず,GaN層である点。
【相違点3】
光反射側鏡面の単一層の保護膜の材料に関し,本件発明は,『ZrO_(2),MgO,Al_(2)O_(3),SiN_(4),AlN及びMgF_(2)から選ばれたいずれか1種』であるのに対して,引用発明は,GaNである点。
(4) 相違点に関する審決の判断は以下のとおりである。
ア 相違点2について
刊行物2発明は,半導体レーザ素子の共振器端面にAlN膜を形成することを前提に,AlN膜の欠点を,パッシベーション膜を形成することで克服したものと解される。しかしながら,引用発明は,保護層として『AlN』を用いたものではなく,刊行物1にも,保護層の具体的な材料として『AlN』は記載されておらず,『In_(u)Ga_(1-u)N/In_(v)Ga_(1-v)N(0≦u,v≦1)からなるMQW活性層』を有する『窒化物半導体レーザ装置』の保護層として『AlN』の選択を示唆する記載もないことから,引用発明の保護層の上に,刊行物2発明の『パッシベーション膜』を形成する動機付けが見当たらない。
また,刊行物1には,光出射側鏡面(前面)に保護層を2層以上積層することを示唆する記載のないことに照らせば,引用発明の保護層は,ひとまず,単一層と解されるところ,引用発明において,刊行物2の記載に基づいて『AlN』を選択することを想定すると,あわせて,パッシベーション膜を形成する手間が生じるものと考えられるから,当業者が引用発明において,あえて『AlN』を選択すべき理由が見出せない。
したがって,刊行物2の記載に基づいて,引用発明の保護層の材料として『AlN』を選択することは容易に想到し得たとはいえない。
さらに,文献(『よくわかる半導体レーザ』小沼稔他編著,平成7年4月10日,141頁ないし149頁(甲3),特開2000-22269号公報(甲4),特開平8-191171号公報(甲5),特開平9-129983号(甲6))の各記載を参酌しても,引用発明において,保護層の材料として『AlN』を選択すべき理由が見あたらない。
したがって,引用発明において,相違点2に係る本件発明1の構成を採用することは当業者が容易に想到しえたとはいえない。
よって,相違点1及び3を検討するまでもなく,本件発明1は,当業者が刊行物1及び2並びに上記の文献に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。
イ 本件発明3ないし7について
本件発明3ないし7と引用発明とは,少なくとも相違点1ないし3において相違するから,上記と同様の理由で容易に発明することができたものではない。」(前判決5頁12行ないし8頁20行)

なお、上記の「刊行物1」及び「刊行物2」は、それぞれ、甲第1号証及び甲第2号証を指す。

2 前判決は、前審決における引用発明の認定について、次のとおり説示した。
「以上によれば,刊行物1において,保護層の材料として『AlN』が除外されているとはいえず,刊行物1には,レーザ光に対して透明であり,かつ,AlNを含む一般式からなる材料が開示されていると認められる。したがって,審決が,『甲1に,保護層の材料としてAlNが開示されていると認めることはできない』としたのは,誤りである。」(前判決19頁9行ないし13行)

3 前判決は、引用発明と本件発明1との一致点・相違点について、次のとおり説示した。
「3 以上を前提として,上記に認定した引用発明と本件発明1との一致点・相違点について見ると,一致点及び相違点1については審決が認定したものと同一であるが,相違点2及び3については以下のとおり認定すべきこととなる。
【相違点2”】
光出射側鏡面の膜に関し,本件発明1は,『窒化ガリウムより低い屈折率を有する低反射膜が,該光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層され,該光出射側鏡面に接した第1の低反射膜が,ZrO_(2),MgO,Al_(2)O_(3),SiN_(4),AlN及びMgF_(2)から選ばれたいずれか1種から成』るのに対して,引用発明は,窒化ガリウムより低い屈折率を有する膜が,光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層されてはおらず,AlNを含むAl_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなる層である点。
(下線部が,審決認定の相違点2との相違部分)
【相違点3”】
光反射側鏡面の単一層の保護膜の材料に関し,本件発明1は,『ZrO_(2),MgO,Al_(2)O_(3),SiN_(4),AlN及びMgF_(2)から選ばれたいずれか1種』であるのに対して,引用発明は,AlNを含むAl_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)である点。
(下線部が,審決認定の相違点3との相違部分)
・・・前記のとおりの引用発明の認定誤りが審決にあったことをもって,少なくとも審決の結論に影響を及ぼす可能性があるとして,ここでまず審決を取り消し,続いて検討すべき争点については審判の審理で行うべきものとするのが相当と考える。・・・
なお,本件発明3?7の容易想到性判断も,本件発明1についてのそれを前提とするものであり,これについても本件発明1に関する判断と同様である。」(前判決20頁9行ないし22頁6行)

第7 当審の判断
1 甲第1号証ないし甲第4号証の記載事項
(1) 甲第1号証の記載事項
優先日前に頒布された刊行物と認められる甲第1号証には、以下のアないしシの記載がある。
ア 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 窒化物半導体レーザダイオードと、前記窒化物半導体レーザダイオードのレーザ端面に設けられた保護層とを有し、
前記保護層は、前記窒化物レーザダイオードが発振する光に対して透明であるAl_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x、y、z≦1、且つ、0≦x+y+z≦1)からなる窒化物半導体レーザ装置。
【請求項2】 前記保護層の屈折率をn、前記窒化物レーザダイオードが発振する光の波長をλとするとき、前記保護層の厚さが、λ/2nの整数倍である請求項1記載の窒化物半導体レーザ装置。
【請求項3】 前記窒化物半導体レーザダイオードは、In_(u)Ga_(1-u)N/In_(v)Ga_(1-v)N(0≦u、v≦1)からなる多重量子井戸活性層を有する請求項1に記載の窒化物半導体レーザ装置。
【請求項4】 前記保護層はMO-CVD法あるいはMBE法で形成されて
いる請求項1に記載の窒化物半導体レーザ装置。
【請求項5】 前記保護層に接して、前記窒化物レーザダイオードが発振する光を反射する反射層を更に有する請求項1に記載の窒化物半導体レーザ装置。
【請求項6】 前記反射層は、屈折率が互いに異なる第1および第2層が交互に積層された積層構造を有する請求項5に記載の窒化物半導体レーザ装置。
【請求項7】 前記第1層の屈折率をn_(1)、前記第2層の屈折率をn_(2)、前記窒化物レーザダイオードが発振する光の波長をλとすると、前記第1層および第2層の厚さは、それぞれλ/4n_(1)およびλ/4n_(2)の関係を満足する請求項6記載の窒化物半導体レーザ装置。
【請求項8】 前記保護層の厚さは、前記保護層の屈折率をn、前記窒化物レーザダイオードが発振する光の波長をλとしたとき、λ/2nの整数倍の厚さである請求項5に記載の窒化物半導体レーザ装置。
【請求項9】 前記保護層の厚さが、前記保護層の屈折率をn、前記窒化物レーザダイオードが発振する光の波長をλとしたとき、λ/4nの厚さである請求項5に記載の窒化物半導体レーザ装置。
【請求項10】 前記保護層がGaNであり、前記第1層および第2層は、それぞれ、SiO_(2)およびTiO_(2)、または前記窒化物レーザダイオードが発振する光に対して透明であり、且つ屈折率が互いに異なる2種類のAl_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x、y、z≦1、且つ、0≦x+y+z≦1)からなる請求項6に記載の窒化物半導体レーザ装置。」

イ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、窒化物半導体レーザ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】GaN、InN、AlN等の窒化物半導体を用いた半導体レーザ装置は、緑色から青色までの光の発振が可能であり、高密度光ディスク装置の光源として期待されている。ここでは青色の窒化物半導体レーザ装置を例にあげて従来技術について述べる。
【0003】図11に従来の窒化物半導体レーザ装置600を示す。窒化物半導体レーザ装置600において、サファイア基板61の上にn型GaNからなる電極形成層62(下部62aおよび上部62bを含む)、n型GaAlNからなるクラッド層63、InGaN/GaNからなる多重量子井戸活性層(以下、MQW活性層という)64、p型GaAlNからなるクラッド層65、p型GaNからなる電極形成層66が順次設けられている。下部電極形成層62aの上にはTi/Alの積層体からなるn型側の電極(以下n型電極という)67が、電極形成層66の上にはNi/Auの積層体からなるp型側の電極(以下p型電極という)68がそれぞれ形成され、レーザダイオード(レーザ素子またはキャビティとも称される)60が得られる。レーザ光を放射または反射するレーザダイオード60の端面(以下、レーザ端面という)双方に、SiO_(2)またはSiNからなる保護層69が設けられている。この保護層69を設けることにより、両側のレーザ端面の劣化を防いでいる。ここで、SiO_(2)またはSiNは正確にこの化学量論比の化合物である必要は無く、SiO_(2)またはSiNと実質的に等しい比抵抗(絶縁性と屈折率を有していればよい。
【0004】従来の窒化物半導体レーザ装置600は以下の様な製造方法で製造される。まず、サファイア基板61の上に電極形成層62、クラッド層63、MQW活性層64、クラッド層65、電極形成層66を順次結晶成長させる。その後、電極形成層66の一部より電極形成層62の途中までエッチングして下部電極形成層62aを露出させる。露出した電極形成層62aの上にn型電極67を、電極形成層66の上にp型電極68をそれぞれ蒸着により形成する。その後、レーザ端面双方に、保護層69をスパッタリング法や電子ビーム(EB)蒸着法で形成する。」

ウ 「【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述の従来の窒化物半導体レーザ装置600および700は、寿命、特に高出力時の寿命が短いという問題があった。本願発明者は、上述の窒化物半導体レーザ装置の寿命が短い原因が下記の点にあることを見い出した。
【0008】(1)レーザダイオード60および70は複数の結晶層から構成されているのに対し、レーザダイオード60および70の端面に形成される保護層69、80および反射層90はSiO_(2)あるいはTiO_(2)で形成されているので、アモルファス層であり、且つアモルファス層を構成する材料の結合手(例えばSi-O)の長さがレーザダイオードを構成している結晶層と格子定数と異なるので、これらの界面において格子不整合が起こり、結晶層中(特にMQW活性層中)に格子欠陥が生じる。また、レーザ端面に保護層69、80および反射層90をスパッタリング法や電子ビーム蒸着法で形成すると、ターゲットから飛散した材料粒子が比較的高エネルギーでレーザ端面に衝突するので、この粒子の衝突エネルギーによってレーザ端面が損傷を受け、その結果、レーザダイオード60および70を構成する結晶層に格子欠陥が生じるという現象も起こっていると考えられる。
【0009】(2)レーザダイオード60および70を構成する複数の結晶層の熱膨張係数、保護層69、80および反射層90の熱膨張係数が異なるために、保護層69、80および反射層90を形成後室温まで冷却する過程や、動作中(特に高出力動作中)に、結晶層(特にMQW活性層)に歪みが発生し、結晶欠陥が発生または増加する。例えば、上述のMQW活性層64の熱膨張係数(3.15×10^(-6)K^(-1))と保護層69の熱膨張係数(1.6×10^(-7)K^(-1))とは大きく異なる。
【0010】本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、従来のよりも寿命が長い高信頼性を有する窒化物半導体レーザ装置を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明の窒化物半導体レーザ装置は、窒化物半導体レーザダイオードと、前記窒化物半導体レーザダイオードのレーザ端面に設けられた保護層とを有し、前記保護層は、前記窒化物レーザダイオードが発振する光に対して透明であるAl_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x、y、z≦1、且つ、0≦x+y+z≦1)からなり、そのことによって上記目的が達成される。」

エ 「【0024】本発明の窒化物半導体レーザ装置の窒化物半導体レーザダイオードのレーザ端面に設けられた保護層は、窒化物レーザダイオードが発振する光に対して透明であるAl_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)Nからなっているので、窒化物半導体レーザダイオードと十分な格子整合をとることが可能である。従って、窒化物半導体レーザダイオード、特に活性層内の欠陥発生を抑制することが可能で、窒化物半導体レーザ装置の長寿命化できる。さらに、保護層と窒化物半導体レーザダイオードとの熱膨張係数の整合をとることができるので、熱応力による欠陥発生を抑制することができる。さらに、MO-CVD法やMBE法を用いて保護層を窒化物半導体レーザダイオード端面に堆積すると、保護層の堆積工程においてレーザダイオード端面が損傷を受けることを抑制することができる。保護層上に反射層を設けることによって、反射率を高めることができる。」

オ 「【0025】
【発明の実施の形態】(実施形態1)図1は、本発明の実施形態にかかる青色の窒化物半導体レーザ装置100の斜視図である。
【0026】窒化物半導体レーザ装置100は、窒化物半導体レーザダイオード10と、両側のレーザ端面に形成されたGaNからなる保護層20aおよび20bを有している。GaNからなる保護層20aおよび20bは、窒化物半導体レーザダイオード10の発振する光に対して透明である。すなわち、保護層20aおよび20bを形成するGaNは、窒化物半導体レーザダイオード10が発振する光の光エネルギーよりも大きなバンドギャップを有している。保護層20aおよび20bを形成する半導体材料は、GaNに限られず、窒化物半導体レーザダイオード10の発振する光に対して透明であればよい。
【0027】窒化物半導体レーザダイオード10は以下の構造を有している。n型GaNからなる基板12の下には、Ti/Al積層体からなるn型電極11が設けられている。基板12の上には、Siドープのn型Ga_(0.9)Al_(0.1)Nからなるクラッド層13、アンドープのIn_(0.02)Ga_(0.98)N_(/)In_(0.15)Ga_(0.85)Nの積層体からなるMQW活性層14、Mgドープのp型Ga_(0.9)Al_(0.1)Nからなるクラッド層15、Mgドープのp型GaNからなる電極形成層16およびNi/Au積層体からなるp型電極17が順次設けられている。さらに、窒化物半導体レーザダイオード10の両側の端面にはGaNからなる保護層20aおよび20bが設けられている。
・・・(略)・・・
【0033】また、保護層20aおよび20bを形成するGaNの熱膨張係数は3.17×10^(-6)K^(-1)であり、MQW活性層14の熱膨張係数(3.15×10^(-6)K^(-1))と非常に近いので、室温に冷却したときや動作中にMQW活性層14と保護層20aおよび20bとの間には熱応力による歪みがほとんど生じない。
【0034】なお、保護層20aおよび20bの厚さは、GaNの屈折率n=2.6、レーザ発振波長λ=420nmとしてλ/2n=0.08μmの2倍、すなわち0.16μmに設定しているが、λ/2nの整数倍に設定しておけばよい。保護層20aおよび20bの厚さをλ/2nの整数倍に設定することにより、保護層20aおよび20bを形成していない場合と同じようにレーザの発振特性が変わらないようにすることができる。生産性の観点から、保護層20aおよび20bの厚さはλ/2nまたはλ/nであることが好ましい。」

カ 「【0039】なお、上記実施形態1では保護層20aおよび20bの材料としてGaNを用いたが、この保護層20aおよび20bの材料としては、Al_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x、y、z≦1、且つ、0≦x+y+z≦1)を好適に使用することができ、これらの層がレーザの発振光に対して透明になるようにx、yおよびzを選べばよい。保護層20aおよび20bの材料として、Al、In、Bを含有した窒化物半導体材料を用いることによって、良好な格子整合が得られる材料の組み合わせが広がる。
【0040】上述したように、保護層20aおよび20bの材料としては、半導体レーザダイオードを構成する窒化物半導体の結晶層との格子整合をとるために、窒化物半導体材料を用いることが好ましい。しかしながら、半導体レーザダイオードを構成する窒化物半導体の結晶層との格子整合がとれ、且つレーザが発振する光に対する透明性を有していれば、他の材料を用いても良い。もちろん、上述したように、熱膨張係数の整合および高い電気抵抗を有している材料を用いることが好ましい。さらに、保護層20aおよび20bは、MO-CVD法やMBE法で形成されることが好ましい。
・・・(略)・・・
【0042】保護層20aおよび20bの組成およびMQW活性層14の組成は、上述したように、レーザの発振光に対して透明であるように選択するとともに、保護層20aおよび20bの格子定数とMQW活性層14の格子定数との差が、MQW活性層14の格子定数の約3%以下となるように、選択することが好ましい。上記格子定数の差が約3%を超えると、保護層20aおよび20bとMQW活性層14との界面に格子不整合が生じ、MQW活性層14中に格子欠陥が生じ、窒化物半導体レーザ装置の寿命が低下することがある。なお、保護層20aおよび20bの厚さが十分に厚い場合には、保護層20aおよび20bが応力を吸収できるので、約3%を超える格子不整合があっても、寿命が低下しない場合がある。
【0043】また、保護層20aおよび20bの熱膨張係数とMQW活性層14の熱膨張係数との差がMQW活性層14の熱膨張係数の約20%以下となるように、選択することが好ましい。」

キ 「【0047】(実施形態2)本発明による実施形態2の窒化物半導体レーザ装置200を図4Aおよび図4Bを参照して説明する。図4Aは実施形態2の窒化物半導体レーザ装置200の斜視図であり、図4Bは図4Aの4B-4B’線に沿った断面図である。
【0048】実施形態2の窒化物半導体レーザ装置200は、実施形態1の半導体レーザダイオード10の後面に形成された保護層20bの外側に、さらに反射層30aを有している点、および、半導体レーザダイオード10の前面(出射面)側に設けた保護層20aの厚さが約0.08μmであり、後面側に設けられた保護層20bの厚さ約0.16μmである点において、実施形態1の窒化物半導体レーザ100と異なる。窒化物半導体レーザ装置200のその他の構成は、窒化物半導体レーザ100の構成と実質的に同じであるので、実質的に同じ機能を有する構成要素は同じ参照符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0049】窒化物半導体レーザ装置200の反射層30aは、図4Bに示したように、AlN層31(厚さ:約0.05μm)/GaN層32(厚さ:約0.04μm)の屈折率が互いに異なる2種類の窒化物半導体層が交互に8対積層された構造を有している。これらの窒化物半導体層31および32の厚さは、それぞれ、レーザの発振光(例えばλ=420nm)に対してλ/4n(n:それぞれの層の屈折率)の厚さになっており、これにより後面の反射率は約93%となっている。また、これらの窒化物半導体層31および32はアンドープの半導体層なのでその比抵抗は109Ω・cm以上あり、これらの窒化物半導体層31および32を通してリーク電流が流れる心配は無い。
・・・(略)・・・
【0053】次に、保護層20b上にAlN層31(厚さ:約0.05μm)/GaN層32(厚さ:約0.04μm)の2種類の窒化物半導体層を交互に8対堆積し、反射層30aを形成する。AlN層31およびGaN層32の厚さは、それぞれの屈折率をn(AlNの屈折率2.0、GaNの屈折率2.6)として、それぞれ発振波長λ=420nmに対してλ/4nの厚さになっている。この反射層30aを設けることにより、半導体レーザダイオード10’の後面での反射率は約93%になる。また、AlN層31およびGaN層32はアンドープ状態で成長しているので、それぞれの比抵抗は109Ω・cm以上あり、AlN層31およびGaN層32層を通してリーク電流が流れる心配は無い。」

ク 「【0058】(実施形態3)本発明による実施形態3の窒化物半導体レーザ装置300の断面図を図5に示す。窒化物半導体レーザ装置300は、反射層30bの構成が実施形態2の窒化物半導体レーザ装置200と異なる。窒化物半導体レーザ装置300のその他の構成は、窒化物半導体レーザ装置200と同様なので、実質的に同じ機能を有する構成要素は同じ参照符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0059】窒化物半導体レーザ装置300は、半導体レーザダイオード10の後面に設けられた保護層(GaN)20b上に、厚さがλ/4n(n:各層の屈折率、λ:レーザ発振波長)のSiO_(2)層33およびTiO_(2)層34の2種類の絶縁層が交互に5対積層されて反射層30bが形成されている。半導体レーザダイオード10の前面には、厚さがλ/2nの保護層20aが形成されている。
【0060】この窒化物半導体レーザ装置300の製造方法について説明する。図2Cに示すように、半導体レーザダイオード10’の後面に保護層20bを0.16μmの厚さに形成するまでは、実施形態2と同様である。
【0061】次に、保護層20b上にSiO_(2)層33(厚さ:0.07μm)/TiO_(2)層34(厚さ:0.04μm)の互いに屈折率が異なる2種類の絶縁層を交互に5対形成する。これらの層厚は各々発振波長λ=420nmに対してλ/4nの厚さになっており、これにより裏面の反射率は約98%になる。これらのSiO_(2)層33/TiO_(2)層34は、保護層20b上に形成されるため、堆積工程において半導体レーザダイオード10’の活性層14の端面に直接の影響は与えないので、スパッター法や電子線蒸着法を用いて形成してもよい。しかしながら、半導体レーザダイオード10’の結晶層へのダメージを最小にするために、MBE法で成長する方が好ましい。
【0062】その後、λ/2nの厚さの保護層(GaN)20a(厚さ:0.08μm)を半導体レーザダイオード10’の前面に形成する。以下、先の実施形態と同様にして窒化物半導体レーザ装置300が得られる。
【0063】実施形態3では、実施形態1と同様に半導体レーザ装置の寿命が延びる効果が得られるとともに、さらに高い反射率が得られる。」

ケ 「【0064】(実施形態4)本発明による実施形態4の窒化物半導体レーザ装置400の断面図を図6に示す。窒化物半導体レーザ装置400は、半導体レーザダイオード10の後面に形成されている保護層20cの構成が実施形態2の窒化物半導体レーザ装置200と異なる。窒化物半導体レーザ装置400のその他の構成は、窒化物半導体レーザ装置200と同様なので、実質的に同じ機能を有する構成要素は同じ参照符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0065】半導体レーザダイオード10の後面に形成された保護層(GaN)20cは、λ/4n(n:保護層の屈折率、λ:レーザ発振波長)の厚さを有している。・・・」

コ 「【0070】(実施形態5)本発明による実施形態5の窒化物半導体レーザ装置500の断面図を図8に示す。窒化物半導体レーザ装置500は、半導体レーザダイオード10の後面に形成されている反射層40の構成が実施形態2の窒化物半導体レーザ装置200と異なる。窒化物半導体レーザ装置500のその他の構成は、窒化物半導体レーザ装置200と同様なので、実質的に同じ機能を有する構成要素は同じ参照符号で示し、その詳細な説明は省略する。
【0071】窒化物半導体レーザ装置500は、半導体レーザダイオード10の後面に設けられた保護層(GaN)20b上に、Al_(0.5)Ga_(0.5)N層41(0.01μm)/AlN層42(0.03μm)/Al_(0.5)Ga_(0.5)N層41(0.01μm)/GaN層43(0.04μm)の4層積層体を16対堆積されている。半導体レーザダイオード10の前面には、厚さがλ/2nの保護層(GaN)20aが形成されている。」

サ 「【0079】(実施形態6)本発明の実施形態6は、実施形態5の窒化物半導体レーザ装置500において、半導体レーザダイオード10の後面に設けられた保護層(GaN)20bを省略し、半導体レーザダイオード10の後面にAl_(0.5)Ga_(0.5)N層41(0.01μm)/AlN層42(0.03μm)/Al_(0.5)Ga_(0.5)N層41(0.01μm)/GaN層43(0.04μm)の4層積層体を16対堆積する。この構成によっても、高い反射率を有する反射層を得ることができる。
【0080】なお、半導体レーザダイオード10の後面に直接形成される保護層として、In_(0.02)Ga_(0.98)N層を用いてもよい。」

シ 「【0087】【発明の効果】本発明によれば、低出力時は勿論のこと、歪みや欠陥の影響が大きい高出力発振時においても高信頼性の長寿命の窒化物半導体レーザ装置を得ることが出来る。本発明の窒化物半導体レーザ装置は、高密度光ディスク装置等の光源に好適に利用される。」

ス 上記イで言及されている図11は、以下のものである。

セ 上記クで言及されている図5は、以下のものである。


(2) 甲第2号証の記載事項
優先日前に頒布された刊行物と認められる甲第2号証には、以下のアないしキの記載がある。
ア 「2.特許請求の範囲
1.一対の対向する共振器端面のうち少なくとも一方の共振器端面が、該共振器端面上に形成された放熱用誘電体膜と、該放熱用誘電体膜上に形成されたパッシベーション膜とを備えており、
該放熱用誘電体膜は、該パッシベーション膜の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有し、
該パッシベーション膜は、該放熱用誘電体膜よりも高い耐水性を有している半導体レーザ素子。
2.前記放熱用誘電体膜がAlN膜である請求項1に記載の半導体レーザ素子。」(第1頁左下欄第4行ないし14行)

イ 「(産業上の利用分野)
本発明は半導体レーザ素子に関し、特に、高出力動作時でも端面が劣化することのない信頼性の高い半導体レーザ素子に関する。」 (第1頁左下欄第16行ないし19行)

ウ 「(発明が解決しようとする課題)
しかしながら、上述の従来技術においては、以下に述べる問題点があった。
保護膜によって、レーザ光放射中の端面酸化膜の成長は抑制されるが、保護膜形成直後に於いても、保護膜と端面との界面には、薄い酸化膜がどうしても存在している。従って、端面近傍での発熱自体を抑制することはできない。また、従来の保護膜は、熱伝導性が悪いという欠点を有している。このため、端面近傍でレーザ光の吸収による温度上昇が生じると、発生した熱を発熱部分から外部へ充分に放出することができない。このように、放熱効果の低い従来の誘電体保護膜では、半導体レーザ素子の端面劣化を充分に防止することができない。
上記の従来技術を改良したものに、保護膜として、熱伝導性に優れた結晶質AlN膜を用いた半導体レーザ素子がある(特願平01-110269号)。この半導体レーザ素子に於いては、熱伝導性に優れた結晶質AlN膜によって端面が保護されているために、端面は酸化されにくく、しかも端面近傍の発熱部分から外部への放熱が充分に行われる。なお、ここでいう結晶質とは、単結晶であることに限定されず、多結晶を含むものものである。熱伝導性に優れた結晶質AlN膜は、300℃程度以下の比較的低温で形成することができるという利点を有している。しかし、Al_(2)O_(3)、SiO_(2)、SiN等からなる従来の保護膜は、300°C程度以下の温度では、熱伝導性の良い結晶質の膜として形成することができない。これらの膜を結晶質の膜として形成するためには、300℃程度以上の高温で行うプロセスが必要となる。このような高温プロセスは、半導体レーザ素子に対して熱による損傷を与え、その特性を劣化させてしまう。このため、従来の保護膜材料を用いて放熱効果に優れた保護膜を形成することはできない。
AlNには、半導体レーザ素子に損傷を与えることのない比較的低温のプロセスで、熱伝導性に優れた結晶質の膜になるという利点がある。しかし、AlNには、例えば、次式に示すように、水と反応してアンモニア等に分解するという欠点がある。

2AlN+3H_(2)O → Al_(2)O_(3)+2NH_(3)↑

このため、半導体レーザ素子の共振器端面に形成されたAlN保護膜は、大気雰囲気中の水分と反応することにより、分解し、変質してしまうことがある。分解し、変質してしまったAlN膜は、もはや充分に半導体レーザ素子の端面を保護することができない。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、大気雰囲気中で高出力動作を行っても端面劣化が生じにくい信頼性の高い半導体レーザ素子を提供することにある。」(第2頁左上欄第8行ないし右下欄3行。下線は審決にて付した。以下同様。)

エ 「(課題を解決するための手段)
本発明の半導体レーザ素子は、一対の対向する共振器端面のうち少なくとも一方の共振器端面が、該共振器端面上に形成された放熱用誘電体膜と、該放熱用誘電体膜上に形成されたパッシベーション膜とを備えており、該放熱用誘電体膜は、該パッシベーション膜の熱伝導率よりも高い熱伝導率を有し、該パッシベーション膜は、該放熱用誘電体膜よりも高い耐水性を有しており、そのことにより上記目的が達成される。
また、前記放熱用誘電体膜がAlN膜であっても良い。」 (第3頁左下欄第14行ないし16行)

オ 「(実施例)
以下に本発明を実施例について説明する。
第1図に、本発明半導体レーザ素子の実施例の共振器方向に垂直な断面図を示す。また、第2図に、第1図のA-A線断面図を示す。・・・(略)・・・半導体レーザ素子の一対の共振器端面30、40のうちの一方の共振器端面(低反射率側端面)30に於いては、端面30上に放熱用誘電体膜として熱伝導率2.0w/cm・degの結晶質AlN膜(膜厚1950Å)10が形成されている。このAlN10上にはパッシベーション膜として熱伝導率0.21W/cm・degのAl_(2)O_(3)膜(膜厚1220Å)11が形成されている。他方の共振器端面(高反射率側端面)40上には、AlN膜(膜厚1950Å)20 Al_(2)O_(3)膜(膜厚1220Å)21、非晶質Si膜(膜厚550Å、熱伝導率0.026w/cm・deg)22、Al_(2)O_(3)膜(膜厚1220Å〉23、Si膜(膜厚550Å)24及びAl_(2)O_(3)膜(膜厚2440Å)25がこの順番で半導体レーザ素子側から積層されている。 このように本実施例では、共振器端面30、40に放熱用誘電体膜として熱伝導率の比較的高い結晶質AlN層10、20が設けられている。このため、端面近傍で発生した熱は速やかに発熱部から発熱部外へ放熱される。従って、端面近傍での温度上昇が抑制され、温度上昇による端面劣化が防止される。また、低反射率側端面30に於いて、放熱用誘電体膜であるAlN膜上にパッシベーション膜として、耐水性に優れているAl_(2)O_(3)膜11が設けられている。このため、端面30上のAlN膜10は、大気と接触することがなく、大気雰囲気中の水分等によって劣化することがない。高反射率側端面40上に於いては、AlN膜20上に、Al_(2)O_(3)膜21等からなる多層膜がパッシベーション膜として設けられているために、AlN膜20と大気とが接触することがなく、大気雰囲気中の水分等によってAlN膜20が劣化してしまうことがない。」(第2頁右下欄第16行ないし第3頁左下欄第8行)

カ 「レーザの発振波長を7800Å、Al_(2)O_(3)膜11の膜厚を1220Å、Al_(2)O_(3)膜11の屈折率を1.60、AlN膜10の屈折率を2.0とした。」(第3頁左下欄第14行ないし16行)

キ 「また、低反射率側端面30に於いては、パッシベーション膜としてAl_(2)O_(3)膜11を用いたが、これ以外に、SiO_(2)、TiO_(2)、ZrO_(2)、Si_(3)N_(4)等の耐水性の比較的高い材料からなる膜を用いても、本実施例と同様の効果が得られる。・・・また、本実施例は、AlGaAs系の半導体レーザであるが、他の系、例えば、InGaAlP系、InGaAsP系の半導体レーザであっても本実施例と同様の効果が得られる。」(第4頁右下欄第19行ないし第5頁左上欄第10行)

(3) 甲第3号証の記載事項
優先日前に頒布された刊行物と認められる甲第3号証には、以下のアないしエの記載がある。
ア 「第6章 半導体レーザとフォトダイオードの構造
半導体レーザは、すでに理解したように、半導体のPN接合に順方向に電圧を印加し、電流つまりキャリアを注入することにより反転分布を形成し、電子-正孔の再結合エネルギーを光として取り出す部品です。この機能を得るために様々な工夫がこらされています。」(141頁1ないし5行)

イ 図6-2(b)(143頁)には、ストライプ状のp電極を有する端面発光型の半導体レーザが示されている。図6-2 (b)は次のものである。

ウ 「6-1-2 光の横モード制御のためのストライプ構造
光の進行方向に垂直な面内の光強度分布のモードを横モードといい、PN接合に平行方向の分布を水平横モード、垂直方向の分布を垂直横モードといいます。本節では水平横モード制御の基本であるストライプ構造について説明します。
水平横モードを制御するためには、活性層の一部のみにレーザ光を閉じ込める必要があり、そのためにレーザにはストライプ構造が形成されています。ストライプ構造の基本は図6-3に示すように、電流路以外の領域を高抵抗にしたり、電極をストライプ状にすることにより、活性層の一部のみに電流を注入し、その部分のみで利得を得るというものです(後述する利得導波構造)。
このように活性層に部分的に電流注入することで、水平横モードの制御が可能になるとともに、しきい値電流の低減も実現されます。」(145頁5ないし16行)

エ 「以上説明しましたダブルヘテロ(DH)接合構造とストライプ構造の併用で、しきい値電流が低減し、安定したレーザ発振が可能になってきました。
6-1-3 ストライプ構造の種類
これまで非常に多くのストライプ構造の半導体レーザが提案されてきましたが、大別すると、(i)利得導波型と(ii)屈折率導波型になります。」(146頁6ないし10行)

(4) 甲第4号証の記載事項
優先日前に頒布された刊行物と認められる甲第4号証には、以下のアないしウの記載がある。
ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、光情報処理用光源として有用な半導体レーザ素子、特にGaN系青色半導体レーザ素子に関するものである。」

イ 「【0020】図1及び図2は、それぞれ本発明の一実施例の基本構造を模式的に示している。発光ストライプ領域4を有するGaN系半導体レーザに、へき開により共振器端面を形成した後、両端面に、高い標準生成エンタルピー(△Ho)を有するSc_(2)O_(3)等の誘電体膜1、2を形成する。薄膜の形成法には、高周波スパッタ法、イオンビームスパッタ法、又は電子ビーム蒸着法を用いることができる。」

ウ 「【0030】次に、本発明の具体的な実施例について図3及び図4を用いて説明する。まず、A面((11-20)面)サファイア基板6上のGaNバッファ層7、層厚3μmのn型GaNコンタクト層8、層厚0.1μmのn型In_(0.1)Ga_(0.9)N層9、層厚0.4μmのn型Al_(0.14)Ga0.86N/GaN変調ドープ超格子クラッド層(各層の層厚はそれぞれ2.5nm)10、層厚0.1μmのn型GaN層11、In_(0.15)Ga_(0.85)N量子井戸層(層厚3.5nm)とIn_(0.02)Ga_(0.98)Nバリア層(層厚10.5nm)を交互に積層した多重量子井戸活性層12、層厚0.02μmのp型Al_(0.2)Ga_(0.8)N層13、層厚0.1μmのp型GaN層14、層厚0.4μmの型Al_(0.14)Ga_(0.86)N/GaN変調ドープ超格子クラッド層(各層の層厚はそれぞれ2.5nm)15、層厚0.05μmのp型GaNコンタクト層16を順次積層したダブルヘテロ構造結晶を形成する。結晶成長は、有機金属気相成長法(MOVPE法)を用いて行なうことができる。
【0031】次に、このダブルヘテロ構造結晶の一部を、前記p型Al_(0.12)Ga_(0.88)N層15の途中までエッチングして、発光ストライプリッジ20を形成する。」

2 引用発明の認定
上記1(1)によれば、甲第1号証には、次の発明(前判決に倣って「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。
「窒化物半導体レーザダイオードと,窒化物半導体レーザダイオードのレーザ端面に設けられた保護層とを有し,
保護層は,
窒化物半導体レーザダイオードが発振する光に対して透明であるAl_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなり,
窒化物半導体レーザダイオードは,
In_(u)Ga_(1-u)N/In_(v)Ga_(1-v)N(0≦u,v≦1)からなる多重量子井戸活性層を有し,
保護層に接して,窒化物半導体レーザダイオードが発振する光を反射する反射層を更に有し,
反射層は,屈折率が互いに異なる第1および第2層が交互に積層された積層構造を有し,
第1層および第2層は,それぞれ.SiO_(2)およびTiO_(2),または窒化物半導体レーザダイオードが発振する光に対して透明であり,且つ屈折率が互いに異なる2種類のAl_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x,y,z≦1,且つ,0≦x+y+z≦1)からなる,窒化物半導体レーザ装置であって,
窒化物半導体レーザダイオードが,
アンドープのIn_(0.02)Ga_(0.98)N/In_(0.15)Ga_(0.85)Nからなる多重量子井戸活性層を有し,
多重量子井戸活性層の前面及び後面に保護層が形成され,
後面に設けられた保護層の上に,SiO_(2)層及びTiO_(2)層が交互に5対積層された反射層が形成された,窒化物半導体レーザ装置。」

3 本件発明1と引用発明との対比・判断
(1) 対比
上記「第6 3」の前判決の説示と同様に、引用発明と本件発明1との一致点・相違点は、次のものである。
<一致点>
「発光層の両端面に、光出射側鏡面と光反射側鏡面を持つ共振器構造を有する窒化ガリウム系発光素子において、光出射側鏡面に、膜が形成され、光反射側鏡面には、単一層の保護膜が接して形成され、かつ、該保護膜に接して、低屈折率層と高屈折率層とを低屈折率層から積層して終端が高屈折率層となるように交互に積層してなる高反射膜が形成されてなる窒化ガリウム系発光素子。」

<相違点1>
発光層の形状に関し、本件発明1は、「ストライプ状」であるのに対して、 引用発明は、ストライプ状であるか否か不明である点。

<相違点2>
光出射側鏡面の膜に関し、 本件発明1は、「窒化ガリウムより低い屈折率を有する低反射膜が、該光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層され、該光出射側鏡面に接した第1の低反射膜が、ZrO_(2),MgO,Al_(2)O_(3),Si_(3)N_(4),AlN及びMgF_(2)から選ばれたいずれか1種から成」るのに対して、 引用発明は、窒化ガリウムより低い屈折率を有する低反射膜が、光出射側鏡面から屈折率が順に低くなるように2層以上積層されてはおらず、AlNを含むAl_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x、y、z≦1、且つ、0≦x+y+z≦1)からなる層である点。

<相違点3>
光反射側鏡面の単一層の保護膜の材料に関し、 本件発明1は、「ZrO_(2),MgO,Si_(3)N_(4),AlN及びMgF_(2)から選ばれたいずれか1種」であるのに対して、引用発明は、AlNを含むAl_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x、y、z≦1、且つ、0≦x+y+z≦1)である点。

(2) 判断
ア <相違点1>について
上記1(3)及び1(4)によれば、活性層の一部分に電流を集中させ、発光層をストライプ状とすることは、端面発光型の半導体レーザ素子の基本構造であり、窒化物半導体レーザ素子にも適用される、優先日時点で周知の技術と認められる。
引用発明も端面から光を出射する半導体レーザダイオードすなわち端面発光型の半導体レーザ素子であるから、引用発明において、「アンドープInGaNのMQW活性層」の一部分に電流を集中させ、該活性層をストライプ状とすること、すなわち、本件発明1の上記<相違点1>に係る構成を備えることは、当業者が周知技術に基づいて、適宜なし得たことと認められる。

イ <相違点2>について
(ア) 光出射側鏡面の膜の材料について
引用発明の出射面側保護層の材料は一般式「Al_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x、y、z≦1、且つ、0≦x+y+z≦1)」で表され、x=y=z=0を代入した際にはAlNとなる。
そして、請求人は、「甲第1号証において、窒化物系半導体レーザ素子の共振器端面の保護層の組成がAlNを含む一般式で記載されていても、よく知られていたAlN保護膜を開示する甲第2号証の記載に基づいて、甲第1号証の共振器端面の保護層の組成として、AlNを選択することは容易に想到し得ることである。 」(上記「第4 2」参照。)と主張する。
しかしながら、上記1(2)ウ及びオによれば、甲第2号証に記載された半導体レーザ素子のAlN保護層は、熱伝導性が良いという観点から選択されたものである。これに対して、上記1(1)エによれば、引用発明の保護層の材料は、熱伝導性が良いという観点ではなく、従来の保護層(SiO_(2)またはTiO_(2))に比べ、窒化物半導体レーザダイオードと格子定数及び熱膨張係数が整合するという観点から選択されたものであって、かかる観点からAlN保護層が選択されるとは直ちにいえない。
加えて、上記1(2)ウないしオによれば、AlN保護層は熱伝導性は良いものの、大気雰囲気中の水分と反応して分解、変質することを防ぐためのパッシベーション膜を必要とするところ、上記一般式で表される保護層の材料はAlNに限られないから、引用発明において、パッシベーション膜という付加的な構成要素を必要とするAlNを選択する動機は見当たらない。
してみると、引用発明において、本件発明1の<相違点2>に係る構成のうち、「光出射側鏡面に接する第1の低反射膜を、窒化ガリウムより低い屈折率を有し、、ZrO_(2),MgO,Al_(2)O_(3),Si_(3)N_(4),AlN及びMgF_(2)から選ばれたいずれか1種から成るものとする。」との構成を備えることは、当業者が甲第2号証の記載に基づいて容易に想到し得たこととは認め難い。

(イ) 光出射側鏡面に接する膜に、該膜より屈折率の低い膜を積層する点について
さらに、上記1(2)によれば、引用発明において、光出射側鏡面に接する膜の材料としてAlNを選択する場合には、該膜の上にパッシベーション膜を備えるものとすることが想定されるが、パッシベーション膜の材料は、AlN層の水分からの保護の観点で選択されるのであって、屈折率は考慮されていない。
そして、上記1(2)キによれば、該パッシベーション膜は、Al_(2)O_(3)膜以外に、SiO_(2)、TiO_(2)、ZrO_(2)、Si_(3)N_(4)でもよいものと認められる。
しかるに、上記1(1)キに摘記した甲第1号証の【0053】及び上記1(2)カの記載によれば、AlN層の屈折率は2.0であるところ、
上記1(2)カの記載によればAl_(2)O_(3)の屈折率は1.6であり、
甲第6号証の「【0031】・・・SiO_(2)の屈折率は1.46であるから」との記載によればSiO_(2)の屈折率は約1.5であり、
また、技術常識に照らし、Si_(3)N_(4)の屈折率は2.0、TiO_(2)の屈折率は2.2?2.7、ZrO_(2)の屈折率は2.1程度であると解される(例えば、特開2000-196152号公報段落【0077】「また、光取り出し層20の材料としては、窒化シリコン(SiN_(x))を挙げることができる。すなわち、窒化シリコンの屈折率は、約2.0であり、GaNの屈折率と近いために、活性層3から放出された光が層間において全反射されることを防止することができる。また、その他にも、例えば、In_(2)O_(3)(屈折率は約2.0)、Nd_(2)O_(2)(屈折率は約2.0)、Sb_(2)O_(3)(屈折率は約2.04)、ZrO_(2)(屈折率は約2.1)、CeO_(2)(屈折率は約2.2)、TiO_(2)(屈折率は約2.2?2.7)、ZnS(屈折率は約2.35)、Bi_(2)O_(3)(屈折率は約2.45)などを用いても同様に良好な結果を得ることができる。」を参照。)。
すなわち、パッシベーション膜の材料として例示された5種類のうち、2種類の屈折率はAlNの屈折率より低く、1種類の屈折率はAlNの屈折率と同程度であり、2種類の屈折率はAlNの屈折率より高いものと推認される。
してみると、引用発明において、光出射側鏡面に接する膜の材料としてAlNを選択したとして、該膜の上にパッシベーション膜を備えるものとすることを想定しても、光出射側鏡面に接する膜(AlN層)に、該膜より屈折率の低い膜を積層することを、必ずしも導けない。

(ウ) 上記(ア)及び(イ)によれば、引用発明において、本件発明1の上記<相違点2>に係る構成を備えることを、当業者が甲第2号証の記載に基づいて容易に想到し得たとは認められない。

ウ <相違点3>について
請求人は、「保護層20a及び20bは、Al_(1-x-y-z)Ga_(x)In_(y)B_(z)N(0≦x、y、z≦1、且つ、0≦x+y+z≦1)からなり、x=y=z=0とした場合には、保護層20a及び20bは、AlNからなる層となる。」(審判請求書8頁24行ないし27行)と主張する。
しかしながら、引用発明において、出射側保護層をAlNとすることを、当業者が甲第2号証の記載に基づいて容易に想到し得たとは認め難いことは、上記イ(ア)のとおりである。
よって、引用発明において、本件発明1の上記<相違点3>に係る構成を備えることを、当業者が甲第2号証の記載に基づいて容易に想到し得たとは認め難い。

エ 上記アないしウによれば、引用発明において、本件発明1の上記<相違点2>及び<相違点3>に係る構成を備えることは、当業者が甲第1号証の記載及び甲第2号証の記載に基づいて容易に想到し得たこととは認められない。
よって、本件発明1は、当業者が引用発明、甲第1号証の記載及び甲第2号証の記載に基づいて容易に発明をすることができたものとは認められない。

4 本件発明3ないし本件発明7について
上記第3によれば、本件発明3ないし本件発明7は、本件発明1の特定事項をすべて含むものであるから、本件発明1が、引用発明、甲第1号証の記載及び甲第2号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえない以上、本件発明3ないし本件発明7が、引用発明、甲第1号証の記載及び甲第2号証の記載に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものといえないことは明らかである。

5 まとめ
以上のとおりであるから、本件発明1及び本件発明3ないし本件発明7についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではなく、同法第123条第1項第2号に該当しないから、無効とすることはできない。

第8 むすび
以上のとおり、請求人が主張する無効理由によっては、本件発明1及び本件発明3ないし本件発明7についての特許を無効とすることはできない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2013-12-26 
結審通知日 2014-01-06 
審決日 2014-02-20 
出願番号 特願2001-202726(P2001-202726)
審決分類 P 1 123・ 121- Y (H01S)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 近藤 幸浩  
特許庁審判長 江成 克己
特許庁審判官 松川 直樹
中田 誠
登録日 2007-11-02 
登録番号 特許第4033644号(P4033644)
発明の名称 窒化ガリウム系発光素子  
代理人 堀籠 佳典  
代理人 牧野 知彦  
代理人 ▲廣▼瀬 文雄  
代理人 日野 英一郎  
代理人 尾崎 英男  
代理人 古城 春実  
代理人 蟹田 昌之  
代理人 加治 梓子  
代理人 豊岡 静男  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ