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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) B32B
管理番号 1294434
審判番号 不服2013-18088  
総通号数 181 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-01-30 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-19 
確定日 2014-11-27 
事件の表示 特願2012-169870「色調補正フィルム及びそれを用いた透明導電性フィルム」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 5月23日出願公開,特開2013- 99924〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,平成24年7月31日(優先権主張平成23年10月21日)の出願であって,平成25年5月10日付けで拒絶理由が通知され,同年6月13日に意見書が提出されたが,同年7月11日付けで拒絶査定がなされたところ,同年9月19日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され,当審において,平成26年6月18日付けで拒絶の理由が通知され,同年8月20日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
平成26年8月20日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項からみて,本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は次のとおりのものと認められる(「JIS Z 8729」の記載内容からみて,請求項1の「L^(*)a^(*)b表色系」なる記載は明らかな誤記であって,正しくは「L^(*)a^(*)b^(*)表色系」であると認められるから,当該誤記を訂正して本願発明を認定した。なお,「*」については,後述の引用文献の記載も含めて,本審決では上付文字に統一して表記する。)。

「透明基材フィルムの両面にハードコート層が積層されており,前記両ハードコート層上にそれぞれ色調補正層1,色調補正層2,及び錫ドープ酸化インジウム層が順に積層されている透明導電性フィルムであって,
前記両ハードコート層は,波長400nmの光に対する屈折率が1.51?1.61,膜厚が1?10μmであり,
前記両色調補正層1は,金属酸化物微粒子と活性エネルギー線硬化型樹脂とを含み,波長400nmの光に対する屈折率が1.63?1.86,膜厚が25?55nmであり, 前記両色調補正層2は,シリカ微粒子と活性エネルギー線硬化型樹脂とを含み,波長400nmの光に対する屈折率が1.33?1.53,膜厚が10?55nmであり,
前記両錫ドープ酸化インジウム層は,波長400nmの光に対する屈折率が1.85?2.35,膜厚が5?50nmであり,
全光線透過率が85%以上,且つJIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b^(*)表色系における透過色のb^(*)の値が-2≦b^(*)≦2である,静電容量式タッチパネル用の透明導電性フィルム。」

3 当審で通知した拒絶理由の概要
当審において平成26年6月18日付けで通知した拒絶の理由(以下「当審拒絶理由」という。)の概要は,本願の請求項1及び2に係る発明は,特開2011-98563号公報に記載の発明及び周知の事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

4 引用例
(1)特開2011-98563号公報
ア 特開2011-98563号公報の記載
前記当審拒絶理由で引用した特開2011-98563号公報(以下「引用文献」という。)は,本願の優先権主張の日より前(以下,単に「本願優先日前」という)に頒布された刊行物であって,当該引用文献には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの表面から順に,高屈折率層,低屈折率層及び錫ドープ酸化インジウム層が積層された透明導電性フィルムであって,
高屈折率層は,金属酸化物微粒子と紫外線硬化性バインダーとより形成され,光の波長400nmにおける屈折率が1.63?1.86,膜厚が40?90nmであり,低屈折率層は,光の波長400nmにおける屈折率が1.33?1.53,膜厚が10?50nmであり,錫ドープ酸化インジウム層は,光の波長400nmにおける屈折率が1.85?2.35,膜厚が5?50nmであることを特徴とする透明導電性フィルム。
【請求項2】
ポリエステルフィルムと高屈折率層との間に,膜厚1.0?10.0μmのハードコート層が積層されている請求項1に記載の透明導電性フィルム。
【請求項3】
ポリエステルフィルムの錫ドープ酸化インジウム層の反対面に機能層が形成されている請求項1又は請求項2に記載の透明導電性フィルム。」

(イ)「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,例えばタッチパネル等に用いられ,透過光の着色を抑え,全光線透過率に優れた透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在,画像表示部に直接触れることにより,情報を入力できるデバイスとしてタッチパネルが用いられている。このタッチパネルは光を透過する入力装置を液晶表示装置,CRT等の各種ディスプレイ上に配置されるものであり,代表的な形式として,透明電極基板2枚を透明電極層が向かい合うように配置された抵抗膜式タッチパネルや,透明電極層と指の間に生じる電流容量の変化を利用した静電容量タイプのタッチパネルがある。
【0003】
抵抗膜式タッチパネルや静電容量タイプのタッチパネルの透明電極基板として,ガラス板,透明樹脂板や各種の熱可塑性高分子フィルム等の基材上に,酸化錫を含有するインジウム酸化物(錫ドープ酸化インジウム,ITO)や酸化亜鉛等の金属酸化物による透明導電層を積層したものが一般的に用いられている。このようにして得られた透明電極基板は,金属酸化物層の反射及び吸収に由来する可視光短波長領域の透過率の低下による,黄色の呈色が見られることが多い。そのため,タッチパネルの下に配置される表示装置の発色を正確に表現することが難しいという問題があった。
【0004】
この問題を解決するために,透明導電層を多層光学膜と組み合わせた透明導電性積層体が提案されている(特許文献1を参照)。この透明導電性積層体においては,多層光学膜として,異なる屈折率の層が積層されているが,多層光学膜の構成要素として,金属アルコキシドの加水分解物が使用されていることから,透過色の黄色の着色を抑える効果とヘイズ値を低くすることの両立が不十分であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000-301648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで,本発明の目的とするところは,透過光の着色を抑え,ヘイズ値が低く,全光線透過率の高い透明導電性フィルムを提供することにある。」

(ウ)「【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するために,第1の発明の透明導電性フィルムは,ポリエステルフィルムの表面から順に,高屈折率層,低屈折率層及び錫ドープ酸化インジウム層(ITO層)が積層されて構成されている。そして,高屈折率層は,金属酸化物微粒子と紫外線硬化性バインダーとより形成され,光の波長400nmにおける屈折率が1.63?1.86,膜厚が40?90nmであり,低屈折率層は,光の波長400nmにおける屈折率が1.33?1.53,膜厚が10?50nmであり,錫ドープ酸化インジウム層は,光の波長400nmにおける屈折率が1.85?2.35,膜厚が5?50nmであることを特徴とする。
【0008】
第2の発明の透明導電性フィルムは,第1の発明において,ポリエステルフィルムと高屈折率層との間に,膜厚1.0?10.0μmのハードコート層が積層されている。
第3の発明の透明導電性フィルムは,第1又は第2の発明において,ポリエステルフィルムの錫ドープ酸化インジウム層の反対面に機能層が形成されている。」

(エ)「【発明の効果】
【0011】
本発明によれば,次のような効果を発揮することができる。
第1の発明の透明導電性フィルムでは,高屈折率層は光の波長400nmにおける屈折率が1.63?1.86,膜厚が40?90nmであり,低屈折率層は光の波長400nmにおける屈折率が1.33?1.53,膜厚が10?50nmであり,ITO層は光の波長400nmにおける屈折率が1.85?2.35,膜厚が5?50nmに設定されている。このように,高屈折率層,低屈折率層及びITO層の屈折率を,光の波長400nmにおける屈折率に基づいて適切に設定することにより,透明導電性フィルムの透過光の黄色味を抑えることができると同時に,透過率を上げることができる。従って,第1の発明の透明導電性フィルムによれば,透過光の着色を抑え,ヘイズ値が低く,全光線透過率を高めることができる。
【0012】
ここで,屈折率には波長分散性があり,短波長領域では屈折率が高くなる傾向がある。一般に,各層の屈折率調整では,ナトリウムのD線(光の波長589nm)の値を用いることが多いが,本発明の中間層及びITO層のように金属酸化物微粒子を含む層においては,屈折率の波長分散の影響が大きくなる。黄色味を抑えるには光の波長400nmの透過率制御が重要であるため,波長589nmの屈折率で各層の屈折率を調整した場合,光の波長400nmの透過率を十分に調整することはできなくなり,黄色味低減効果が十分に得られない。本発明では,光の波長400nmの屈折率を使用して各層を設計するため,効果が最大となる。」

(オ)「【発明を実施するための形態】
【0013】
以下,本発明を具体化した実施形態について詳細に説明する。
〔透明導電性フィルム〕
本実施形態の透明導電性フィルムは,ポリエステルフィルムの表面から順に,高屈折率層,低屈折率層及び錫ドープ酸化インジウム層(ITO層)が積層されて構成されている。そして,高屈折率層は,金属酸化物微粒子と紫外線(UV)硬化性バインダーとより形成され,光の波長400nmにおける屈折率が1.63?1.86であり,膜厚が40?90nmである。また,低屈折率層は,光の波長400nmにおける屈折率が1.33?1.53であり,膜厚が10?50nmである。さらに,ITO層は,光の波長400nmにおける屈折率が1.85?2.35,膜厚が5?50nmである。
【0014】
以下に,この透明導電性フィルムの構成要素について順に説明する。
<ポリエステルフィルム>
ポリエステルフィルムは透明基材であり,ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂で代表されるポリエステル系樹脂である。ポリエステルフィルムの膜厚は通常25?400μm,好ましくは35?250μmである。
<高屈折率層>
高屈折率層は金属酸化物微粒子と,紫外線硬化性バインダーとを混合してなる高屈折率層用塗液を紫外線硬化させた硬化物により形成される。金属酸化物微粒子としては,酸化チタン及び酸化ジルコニウムが好ましい。酸化チタン及び酸化ジルコニウムの光の波長400nmにおける屈折率は製法によって異なるが,2.0?3.0であることが好ましい。また,紫外線硬化性バインダーとしては,(メタ)アクリロイル基を有する多官能モノマー,オリゴマー及び重合体が挙げられ,光の波長400nmにおける屈折率が1.4?1.7であることが好ましい。
【0015】
高屈折率層の塗液は乾燥硬化後の硬化膜について光の波長400nmにおける屈折率が1.63?1.86,好ましくは1.66?1.86になるように調整する。さらに,高屈折率層の乾燥硬化後の膜厚は40?90nm,好ましくは45?90nmになるように塗布後硬化される。屈折率及び膜厚がこれらの範囲外では,JIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b表色系における透過色の前記b^(*)の値が大きくなってしまい,透明導電性フィルムの透過色の黄色味が明瞭に認識されるようになる。また,高屈折率層の屈折率が1.86より大きい場合には,塗膜中の粒子の割合が多くなり,ヘイズ値が上昇してしまう。高屈折率層の膜厚が上記の範囲外では,前記b^(*)の値が大きくなってしまい,透明導電性フィルムの透過色の黄色味の着色が明瞭に認識されるようになる。
<低屈折率層>
低屈折率層の材料としては,平均粒子径が10?100nmの無機微粒子と活性エネルギー線硬化型樹脂とを混合した塗液を,塗布,硬化させた層である。無機微粒子としては,コロイダルシリカや中空シリカ微粒子が挙げられる。活性エネルギー線硬化型樹脂としては,例えば(メタ)アクリロイル基を有する多官能モノマー,オリゴマー及び重合体が挙げられる。
【0016】
低屈折率層の塗液は,乾燥硬化後の硬化膜について光の波長400nmにおける屈折率が1.33?1.53になるように調整する。この屈折率が1.33より小さい場合,低屈折率層の塗液中における中空シリカ微粒子等の割合が増えるため,塗膜が脆くなるとともに,製膜を良好に行うことができなくなる。その一方,屈折率が1.53より大きい場合,透過色についてb^(*)の値が大きくなってしまい,透明導電性フィルムの透過色の黄色味の着色が明瞭に認識されるようになる。
【0017】
乾燥硬化後の膜厚は10?50nm,好ましくは15?45nmになるように塗布後硬化される。この膜厚がこれらの範囲外では透過色の前記b^(*)の値が大きくなってしまい,透明導電性フィルムの透過色の黄色味の着色が明瞭に認識されるようになる。
<高屈折率層及び低屈折率層の形成方法>
ポリエステルフィルム上に設けられる高屈折率層及び低屈折率層の形成方法は従来公知の方法でよく,特に制限されない。例えばドライコーティング法,ウェットコーティング法等の方法を採ることができる。生産性及び製造コストの面より,特にウェットコーティング法が好ましい。ウェットコーティング法としては公知の方法で良く,例えばロールコート法,スピンコート法,ディップコート法などが代表的な方法として挙げられる。その中でロールコート法等,連続的に層を形成できる方法が生産性の点より好ましい。
<ITO層>
低屈折率層の上に積層されるITO層は,光の波長400nmにおける屈折率が1.85?2.35であり,好ましくは1.90?2.30である。屈折率がこの範囲を外れると,透明導電性フィルムの透過色が着色を呈し,透過率も低下する。また,ITO層の乾燥硬化後の膜厚は5?50nmであり,好ましくは20?30nmである。この膜厚が5nmより薄い場合には,均一に成膜することが難しく,安定した抵抗が得られなくなる。その一方,膜厚が50nmより厚い場合には,ITO層自身による光の吸収が強くなり,黄色味低減効果が薄れる。このITO層の製膜方法は特に制限されず,例えば蒸着法,スパッタリング法,イオンプレーティング法,CVD法(化学蒸着法)又はメッキ法を採用できる。これらの中では,層の厚み制御の観点より蒸着法及びスパッタリング法が特に好ましい。尚,ITO層を形成した後,必要に応じて100?200℃の範囲内でアニール処理を施して結晶化することができる。具体的には,高い温度で結晶化するとITO層の屈折率は小さくなる傾向を示す。従って,ITO層の屈折率の調整は,アニール処理の温度と時間を制御することで調整可能である。
<ハードコート層>
ポリエステルフィルムと高屈折率層との間には,ハードコート層を形成することができる。ハードコート層としては,例えばテトラエトキシシラン等の反応性珪素化合物と,活性エネルギー線硬化型樹脂とを混合してなるハードコート層用塗液を紫外線硬化させた硬化物が挙げられる。活性エネルギー線硬化型樹脂としては,例えば単官能(メタ)アクリレート,多官能(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのうち生産性及び硬度を両立させる観点より,鉛筆硬度(評価法:JIS-K5600-5-4)がH以上となる活性エネルギー線硬化型樹脂を含む組成物の重合硬化物であることが好ましい。
【0018】
そのような活性エネルギー線硬化型樹脂を含む組成物としては特に限定されるものではないが,例えば公知の活性エネルギー線硬化型樹脂を2種類以上混合したもの,紫外線硬化性ハードコート材として市販されているもの,或いはこれら以外に本発明の効果を損なわない範囲において,その他の成分をさらに添加したものを用いることができる。その乾燥硬化後の膜厚は1.0?10.0μmが好ましく,屈折率は1.45?1.60であることが好ましい。膜厚が1.0μmより薄い場合には,鉛筆硬度がH未満になるため好ましくない。一方,膜厚が10μmより厚い場合には,硬化収縮によるカールが強くなるとともに,不必要に厚くなり,生産性や作業性が低下するため好ましくない。
【0019】
また,ハードコート層の形成方法は特に限定されず,通常行われている塗布方法,例えばロールコート法,スピンコート法,ディップコート法,バーコート法,グラビアコート法等のいかなる方法も採用される。
<機能層>
ポリエステルフィルムの反対面には,機能層を設けることができる。この機能層は,透明導電性フィルムに所定の機能を付与できるいずれの機能層も適用することができる。機能層は,例えばハードコート層,指紋なじみ層,防眩層,自己修復層などである。ハードコート層は従来公知のものでよく,特に制限されない。」

(カ)「【実施例】
【0031】
以下に,製造例,実施例及び比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明するが,本発明はそれら実施例の範囲に限定されるものではない。なお,各層の屈折率は以下のように測定した。
<屈折率の測定方法>
(1)屈折率1.63のPETフィルム〔商品名「A4100」,東洋紡績(株)製〕上に,ディップコーター〔杉山元理化学機器(株)製〕により,各層用塗液をそれぞれ乾燥硬化後の膜厚で100?500nm程度になるように層の厚さを調製して塗布した。
(2)乾燥後,紫外線照射装置〔岩崎電気(株)製〕により窒素雰囲気下で120W高圧水銀灯を用いて,400mJの紫外線を照射して硬化した。硬化後のPETフィルム裏面をサンドペーパーで荒らし,黒色塗料で塗りつぶしたものを反射分光膜厚計〔「FE-3000」,大塚電子(株)製〕により,反射スペクトルを測定した。
(3)反射スペクトルより読み取った反射率から,下記に示すn-Cauchyの波長分散式(式1)の定数を求め,光の波長400nmにおける屈折率を求めた。
【0032】
N(λ)=a/λ4+b/λ2+c ・・・(式1)
a,b,c:波長分散定数
<屈折率の測定方法>
(1)屈折率1.63のPETフィルム〔商品名「A4100」,東洋紡績(株)製〕を100℃で1時間予備乾燥を行った後,PETフィルム上にインジウム:錫=10:1(質量比)のITOターゲットを用いてスパッタリングを行い,実膜厚20nmの透明導電層としての錫ドープ酸化インジウム層(ITO層)を形成し,透明導電性フィルムを作製した。
(2)この透明導電性フィルム裏面をサンドペーパーで荒らし,黒色塗料で塗りつぶしたものを反射分光膜厚計〔「FE-3000」,大塚電子(株)製〕により,反射スペクトルを測定した。
(3)反射スペクトルより読み取った反射率から,上記式(1)を用いて,光の波長400nmにおける屈折率を求めた。
【0033】
なお,実施例及び比較例に記載の各層の屈折率は,前段の屈折率の測定方法から求めた屈折率である。
<全光線透過率,ヘイズ値の測定方法>
ヘイズメーター〔「NDH2000」,日本電色工業(株)製〕により全光線透過率(%)及びヘイズ値(%)を測定した。
<透過色の測定方法>
色差計〔「SQ-2000」,日本電色工業(株)製〕を用いて透過色,b^(*)を測定した。このb^(*)は,JIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b表色系(審決注:誤記であり,正しくは「L^(*)a^(*)b^(*)表色系」と認められる。)における値である。
<巻き取り性の評価方法>
両面ハードコート(HC)フィルムをロール状に巻き取り,目視で観察することにより,フィルムの巻き取り性を下記に示す評価基準によって評価した。
【0034】
◎:巻きじわ及びへこみなどの凹凸状変形が全くない。
○:巻きじわ又はへこみなどの凹凸状変形がほとんどない。
×:巻きじわ又はへこみなどの凹凸状変形が大きい。
〔製造例1,ハードコート層用塗液(HC-1)の調製〕
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート80質量部,トリアクリル酸テトラメチロールメタン20質量部,1,6-ビス(3-アクリロイルオキシー2-ヒドロキシプロピルオキシ)ヘキサン20質量部,光重合開始剤[商品名:IRGACURE184,チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製]4質量部及びイソブチルアルコール100質量部を混合してハードコート層用塗液(HC-1)を調製した。
〔製造例2,高屈折率層用塗液(H-1)の調製〕
平均粒子径が0.02μmの酸化ジルコニウム微粒子を79質量部,1分子中にアクリロイル基を6個有するウレタンアクリレート〔分子量1400,日本合成化学工業(株)製,紫光UV7600B〕21質量部及び光重合開始剤〔商品名「IRGACURE 184」,チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製〕5質量部を混合し,メチルエチルケトンで上記固形分が10質量%になるように希釈し,高屈折率層用塗液(H-1)を調製した。
・・・(中略)・・・
〔製造例9,低屈折率層用塗液(L-1)の調製〕
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート10質量部,シリカ微粒子分散液〔商品名「XBA-ST」,日産化学(株)製〕90質量部,イソプロピルアルコール900質量部,光重合開始剤〔商品名「IRGACURE 907」,チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製〕5質量部を混合し,低屈折率層用塗液(L-1)を調製した。
〔製造例10,変性中空シリカ微粒子(ゾル)の調製〕
中空シリカゾル〔触媒化成工業(株)製,商品名:ELECOM NY-1001S1V,イソプロピルアルコールによる中空シリカゾルの25質量%分散液,平均粒子径60nm〕2000質量部,γ?アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製,KBM5103〕70質量部及び蒸留水80質量部を混合して変性中空シリカ微粒子(ゾル)(平均粒子径:60nm)を調製した。
・・・(中略)・・・
【0035】
次に,ヒドロキシル基含有フッ素アリエーテル重合体,メチルエチルケトン43質量部,ピリジン1質量部及びα-フルオロアクリル酸フルオライド1質量部より重合性二重結合を有する含フッ素反応性重合体溶液(固形分13質量%,α-フルオロアクリロイル基への水酸基の導入率40モル%)を調製した。この含フッ素反応重合体溶液40質量部と,前記変性中空シリカ微粒子60質量部と,光重合開始剤〔チバスペシャリティケミカルズ(株)製,イルガキュア907〕2質量部と,イソプロピルアルコール2000質量部とを混合して低屈折率層用塗液(L-2)を調製した。
〔製造例12,低屈折率層用塗液(L-3)の調製〕
前記変性中空シリカ微粒子60質量部と,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40質量部と,光重合開始剤〔チバスペシャリティケミカルズ(株)製,イルガキュア907〕2質量部と,イソプロピルアルコール2000質量部とを混合して低屈折率層用塗液(L-3)を調製した。
・・・(中略)・・・
〔製造例14,ハードコート層用塗液(HC-A1)の調製〕
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート95質量部,平均粒子径0.5μmのアクリル樹脂微粒子(屈折率1.495)5質量部,メチルエチルケトン100質量部,光重合開始剤〔商品名:「IRGACURE184」,チバジャパン(株)製〕4質量部を混合してハードコート層用塗液(HC-A1)を調製した。
〔製造例15,ハードコート層用塗液(HC-A2)の調製〕
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート97質量部,平均粒子径1.5μmのアクリル樹脂微粒子(屈折率1.495)3質量部,メチルエチルケトン100質量部,光重合開始剤〔商品名:「IRGACURE184」,チバジャパン(株)製〕4質量部を混合してハードコート層用塗液(HC-A2)を調製した。
(実施例1-1)
製造例1で調製したハードコート層用塗液(HC-1)をロールコーターにて,厚さ125μmのPETフィルム上に,乾燥硬化後の膜厚が4μmになるように塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,ハードコート処理PETフィルムを作製した。
【0036】
該ハードコート処理PETフィルム上に,高屈折率層用塗液H-1を用い,ロールコーターにて乾燥後の膜厚が60nmになるように塗布後,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,高屈折率層を形成した。高屈折率層の上へ,低屈折率層用塗液L?1を用い,ロールコーターにて乾燥後の膜厚が20nmになるように塗布後,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,低屈折率層を形成し,色調補正フィルムを作製した。
【0037】
該色調補正フィルムの裏面に製造例1で調製したハードコート層用塗液(HC-1)をロールコーターにて,乾燥硬化後の膜厚が4μmになるように塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射し,硬化させることにより,両面にハードコート層が積層されている色調補正フィルムを作製した。
【0038】
この両面にハードコート層が積層されている色調補正フィルムを100℃で1時間予備乾燥を行った後,インジウム:錫=10:1(質量比)のITOターゲットを用いてスパッタリングを行い,低屈折率層上に,実膜厚30nmの透明導電層としてのITO層を形成し,150℃で30分間アニール処理を施し,透明導電性フィルムを作製した。得られた透明導電性フィルムについて,透過色の色調(b^(*)),全光線透過率(%)及びヘイズ値(%)を前記方法で測定し,それらの結果を表1に示した。
・・・(中略)・・・
(実施例1-3)
高屈折率層の乾燥硬化後の膜厚を65nm,低屈折率層の乾燥硬化後の膜厚を25nm,ITO層の膜厚を25nmにする以外は,実施例1-1と同様にして透明導電性フィルムを作製した。得られた透明導電性フィルムについて,透過色の色調(b^(*)),全光線透過率(%)及びヘイズ値(%)を前記方法で測定し,それらの結果を表1に示した。
・・・(中略)・・・
(実施例1-5)
低屈折率層の乾燥硬化後の膜厚を45nm,ITO層の膜厚を25nmにする以外は,実施例1-1と同様にして,透明導電性フィルムを作製した。得られた透明導電性フィルムについて,透過色の色調(b^(*)),全光線透過率(%)及びヘイズ値(%)を前記方法で測定し,それらの結果を表1に示した。
・・・(中略)・・・
(実施例1-7)
高屈折率層の乾燥硬化後の膜厚を65nm,低屈折率層用塗液L-3を使用し,低屈折率層の乾燥硬化後の膜厚を30nm,ITO層の膜厚を25nmにする以外は,実施例1-1と同様にして透明導電性フィルムを作製した。得られた透明導電性フィルムについて,透過色の色調(b^(*)),全光線透過率(%)及びヘイズ値(%)を前記方法で測定し,それらの結果を表2に示した。
(実施例1-8)
高屈折率層の乾燥硬化後の膜厚を45nm,低屈折率層用塗液L-3を使用し,低屈折率層の乾燥硬化後の膜厚を30nm,ITO層の膜厚を25nmにする以外は,実施例1-1と同様にして透明導電性フィルムを作製した。得られた透明導電性フィルムについて,透過色の色調(b^(*)),全光線透過率(%)及びヘイズ値(%)を前記方法で測定し,それらの結果を表2に示した。
・・・(中略)・・・
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

・・・(中略)・・・
【0043】
・・・(中略)・・・(実施例2-1)
製造例1で調製したハードコート層用塗液(HC-1)をロールコーターにて,厚さ125μmのPETフィルム上に,乾燥硬化後の膜厚が2μmになるように塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,ハードコート処理PETフィルムを作製した。
【0044】
このハードコート処理PETフィルム裏面に製造例13で調製したハードコート層用塗液(HC-A1)をロールコーターにて,乾燥硬化後の膜厚が2μmになるように塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射し,硬化させることにより,両面ハードコートフィルムを作製した。得られた両面ハードコートフィルムの巻き取り性を評価したところ◎であった。上記両面ハードコートフィルムのハードコート層上に,実施例1-1と同様に,高屈折率層,手屈折率層及びITO層を形成し,透明導電性フィルムを得た。得られた透明導電性フィルムについて,透過色の色調(b^(*)),全光線透過率(%)及びヘイズ値(%)を前記方法で測定し,それらの結果を表4に示した。
(実施例2-2)
製造例1で調製したハードコート層用塗液(HC-1)をロールコーターにて,厚さ125μmのPETフィルム上に,乾燥硬化後の膜厚が4μmになるように塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,ハードコート処理PETフィルムを作製した。このハードコート処理PETフィルム裏面に製造例13(審決注:誤記であり,正しくは「製造例15」と認められる。)で調製したハードコート層用塗液(HC-A2)をロールコーターにて,乾燥硬化後の膜厚が4μmになるように塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射し,硬化させることにより,両面ハードコートフィルムを作製した。
【0045】
得られた両面ハードコートフィルムの巻き取り性を評価したところ○であった。この両面ハードコートフィルムの片面上に,実施例1-1と同様にして,高屈折率層,低屈折率層及びITO層を形成し,透明導電性フィルムを得た。得られた透明導電性フィルムについて,透過色の色調(b^(*)),全光線透過率(%)及びヘイズ値(%)を前記方法で測定し,それらの結果を表4に示した。・・・(中略)・・・
【0046】
【表4】



イ 引用文献に記載された発明
引用文献の【0032】の屈折率の測定方法に関する記載及び【0040】の【表2】(前記ア(カ)を参照。)から,「実施例1-8」におけるハードコート層,高屈折率層,低屈折率層及びITO層の光の波長400nmにおける屈折率がそれぞれ1.53,1.76,1.43及び2.00であること,及び,「実施例1-8」とされた透明導電性フィルムの透過色b^(*)が0.0で全光線透過率が88.8%であることを把握できるから,前記ア(ア)ないし(カ)の記載から,引用文献には,「実施例1-8」として次の発明が記載されていると認められる。

「厚さ125μmのPETフィルム上に,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート80質量部,トリアクリル酸テトラメチロールメタン20質量部,1,6-ビス(3-アクリロイルオキシー2-ヒドロキシプロピルオキシ)ヘキサン20質量部,光重合開始剤[商品名:IRGACURE184,チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製]4質量部及びイソブチルアルコール100質量部を混合して調製したハードコート層用塗液HC-1をロールコーターにて,乾燥硬化後の膜厚が4μmになるように塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,ハードコート層を形成し,
当該ハードコート層上に,平均粒子径が0.02μmの酸化ジルコニウム微粒子を79質量部,1分子中にアクリロイル基を6個有するウレタンアクリレート〔分子量1400,日本合成化学工業(株)製,紫光UV7600B〕21質量部及び光重合開始剤〔商品名「IRGACURE 184」,チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製〕5質量部を混合し,メチルエチルケトンで上記固形分が10質量%になるように希釈して調製した高屈折率層用塗液H-1を用い,ロールコーターにて乾燥後の膜厚が45nmになるように塗布後,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,高屈折率層を形成し,
当該高屈折率層上に,中空シリカゾル〔触媒化成工業(株)製,商品名:ELECOM NY-1001S1V,イソプロピルアルコールによる中空シリカゾルの25質量%分散液,平均粒子径60nm〕2000質量部とγ?アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製,KBM5103〕70質量部と蒸留水80質量部とを混合して調製した変性中空シリカ微粒子ゾル(平均粒子径:60nm)60質量部,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40質量部,光重合開始剤〔チバスペシャリティケミカルズ(株)製,イルガキュア907〕2質量部及びイソプロピルアルコール2000質量部を混合して調製した低屈折率層用塗液L-3を用い,ロールコーターにて乾燥後の膜厚が30nmになるように塗布後,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,低屈折率層を形成し,
前記PETフィルムの裏面に,前記ハードコート層用塗液HC-1をロールコーターにて乾燥硬化後の膜厚が4μmになるように塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることによって,ハードコート層を形成し,
100℃で1時間予備乾燥を行った後,インジウム:錫=10:1(質量比)のITOターゲットを用いてスパッタリングを行い,低屈折率層上に,実膜厚25nmの透明導電層としてのITO層を形成し,
150℃で30分間アニール処理を施すことによって得られる透明導電性フィルムであって,
前記両ハードコート層,前記高屈折率層,前記低屈折率層及び前記ITO層の光の波長400nmにおける屈折率がそれぞれ1.53,1.76,1.43及び2.00であり,
JIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b^(*)表色系における透過色b^(*)の値が0.0で,全光線透過率が88.8%であり,
静電容量タイプのタッチパネルの透明電極基板として用いられる透明導電性フィルム。」(以下「引用発明」という。)

(2)周知の事項
ア 特開2011-54208号公報の記載
前記当審拒絶理由で周知の事項を認定する際に例示した特開2011-54208号公報(以下「周知例1」という。)は,本願優先日前に頒布された刊行物であって,当該周知例1には次の記載がある。(下線は,後述する周知技術の認定に特に関係する箇所を示す。後述する周知例2ないし4についても同様。)
「【0003】
タッチパネル装置は,タッチパネルセンサ上への接触位置(接近位置)を検出する原理に基づいて,種々の形式に区別され得る。昨今では,光学的に明るいこと,意匠性があること,構造が容易であること,機能的にも優れていること等の理由から,容量結合方式のタッチパネル装置が注目されている。容量結合方式のタッチパネル装置においては,位置を検知されるべき外部導体(典型的には,指)が誘電体を介してタッチセンサに接触(接近)することにより,新たに奇生容量が発生し,この静電容量の変化を利用して,タッチパネルセンサ上における対象物の位置を検出するようになっている。容量結合方式には表面型と投影型とがあるが,マルチタッチの認識(多点認識)への対応に適していることから,投影型が注目を浴びている(例えば,特許文献1)。
【0004】
投影型容量結合方式のタッチパネルセンサは,誘電体と,誘電体の両側に異なるパターンでそれぞれ形成された第1電極部および第2電極部と,を有している(例えば,特許文献2)。典型的には,第1電極部および第2電極部は,それぞれ格子状に配列された導電体を有し,外部導体(典型的には,指)がタッチパネルセンサに接触または接近した際に生じる,電磁的な変化または静電容量の変化に基づき,導電体の位置を検出するようになっている。
【0005】
このような投影型容量結合方式のタッチパネルセンサは,一般的に,第1電極部が形成された第1の基材フィルムと,第2電極部が形成された第2の基材フィルムと,を接着層により接合することによって,作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特表2007-533044
【特許文献2】特開平4-264613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで,昨今においては,薄型化および光学特性の向上が要望されている。しかしながら,上述した作製方法で作製されるタッチパネルセンサにおいては,二枚のフィルムが貼り合わされるため,厚みが厚くなるだけでなく,透過光に対して光学的作用を及ぼし得る界面の数を増やしてしまう。この結果,表示装置からの映像光の透過率を低下させてしまうとともに,表示装置が表示する映像の画質を劣化させてしまう。
【0008】
また,投影型容量結合方式のタッチパネルセンサにおいて接触位置(接近位置)の検出精度を向上させるためには,第1電極部および第2電極部を互いに対して精度良く位置決めすることも必要となる。しかしながら,上述した作製方法で作製されるタッチパネルセンサ,すなわち,電極部を形成された二枚のフィルムを貼り合わせることによって作製されるタッチパネルセンサにおいては,第1基材フィルムおよび第2基材フィルムを互いに対して精度良く位置決めすることは困難である。
【0009】
これに対して,特許文献1では,一枚の基材フィルムの両面に,フォトリソグラフィー技術を用いて電極部をそれぞれ所望のパターンで形成する方法が開示されている。この方法では,基材フィルムを透過しない遠紫外線が,基材フィルムの両側に形成されたレジスト膜を露光するための光として採用されるとともに,基材フィルムとして遠紫外線を遮光する機能を有したフィルムが用いられている。これにより,二枚のレジスト膜を互いに異なるパターンで同時露光することが可能となり,一枚の基材フィルムの両面に異なるパターンの電極部を形成することが可能となっている。
・・・(中略)・・・
【0032】
なお,「容量結合」方式および「投影型」の容量結合方式との用語は,タッチパネルの技術分野で用いられる際の意味と同様の意味を有するものとして,本件においても用いている。なお,「容量結合」方式は,タッチパネルの技術分野において「静電容量」方式や「静電容量結合」方式等とも呼ばれており,本件では,これらの「静電容量」方式や「静電容量結合」方式等と同義の用語として取り扱う。」

イ 国際公開第2011/065032号の記載
前記当審拒絶理由で周知の事項を認定する際に例示した国際公開第2011/065032号(以下「周知例2」という。)は,本願優先日前に頒布された刊行物であって,当該周知例2には次の記載がある。
「[0002] 近年,様々な電子機器のディスプレイ上に入力デバイスとして,透明なタッチパネルが取り付けられている。タッチパネルの方式としては,抵抗膜式,静電容量式などが挙げられる。特に,静電容量式はマルチタッチが可能であり,モバイル機器などの用途に多く採用されている。
[0003] 静電容量式のタッチパネルは,パターンを形成した透明導電層を用いる。・・・(中略)・・・
[0008]本発明は,かかる従来技術の課題に鑑みてなされたもので,その目的は,レジストを用いて透明導電層にパターンを形成する方法を用いても,短い製造工程で基板の両面に異なる形状のパターンを同時に形成することができ,基板の両面に形成されたパターンが微細なものであっても位置合わせが容易であり,さらに,パターン形状を目立たなくする上で有利な透明導電性積層体及びその製造方法並びに静電容量式タッチパネルを提供することにある。
・・・(中略)・・・
[0031] 図1は,本発明の透明導電性積層体の断面例1の説明図である。透明導電性積層体11は,透明基板1の両面に設けられた導電性パターン領域4a及び非導電性パターン領域4bを形成した第一の透明導電層3aと,導電性パターン領域4a及び非導電性パターン領域4bを形成した第二の透明導電層3bとから構成される。ここで導電性パターン領域とは,透明導電層のうち,導電性を有する部分のことをいい,非導電性パターン領域とは,透明導電層のうち,導電性を有する部分を除いた導電性を有しない部分のことをいう。
・・・(中略)・・・
[0035] 図5は,本発明の透明導電性積層体の断面例5の説明図である。透明導電性積層体11は,第一の透明基板1aの片面に設けられた導電性パターン領域4a及び非導電性パターン領域4bを形成した第一の透明導電層3aと,第二の透明基板1bの片面に設けられた導電性パターン領域4a及び非導電性パターン領域4bを形成した第二の透明導電層3bと,第一の透明導電層3aと第二の透明導電層3bを外側にして,第一の透明基板1aと第二の透明導電基板1bとの間に設けた粘着層6とから構成される。」

ウ 特開2009-76432号公報の記載
前記当審拒絶理由で周知の事項を認定する際に例示した特開2009-76432号公報(以下「周知例3」という。)は,本願優先日前に頒布された刊行物であって,当該周知例3には次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
本発明は,可視光線領域に於いて透明性を有し,かつフィルム基材上にアンダーコート層を介して透明導電体層が設けられた透明導電性フィルムおよびその製造方法に関する。さらには,当該透明導電性フィルムを備えたタッチパネルに関する。
【0002】
本発明の透明導電性フィルムは,液晶ディスプレイ,エレクトロルミネッセンスディスプレイなどのディスプレイ方式やタッチパネルなどに於ける透明電極のほか,透明物品の帯電防止や電磁波遮断などのために用いられる。特に,本発明の透明導電性フィルムはタッチパネル用途において好適に用いられる。なかでも,静電容量結合方式のタッチパネル用途において好適である。
【背景技術】
【0003】
タッチパネルには,位置検出の方法により光学方式,超音波方式,静電容量方式,抵抗膜方式などがある。抵抗膜方式のタッチパネルは,透明導電性フィルムと透明導電体層付ガラスとがスペーサーを介して対向配置されており,透明導電性フィルムに電流を流し透明導電体層付ガラスに於ける電圧を計測するような構造となっている。一方,静電容量方式のタッチパネルは,基材上に透明導電層を有するものを基本的構成とし,可動部分がないことが特徴であり,高耐久性,高透過率を有するため,車載用途等において適用されている。
・・・(中略)・・・
【0024】
図5も,本発明の透明導電性フィルムの一例を示す断面図である。なお,図5では,図1と同様の構成をもって説明しているが,図5においても,当然,図2,図3で説明した構成と同様の構成を適用できる。図5の透明導電性フィルムは,透明なフィルム基材1の両面に,アンダーコート層2を介して,パターン化された透明導電体層3を有する場合である。なお,図5の透明導電性フィルムは,両側に,パターン化された透明導電体層3を有するが,片側のみがパターン化されていてもよい。また,図5の透明導電性フィルムは,両側のパターン化された透明導電体層3のパターン部aと非パターン部bが一致しているが,これらは一致していなくてもよく,各種の態様にて両側で適宜にパターン化することができる。他の,図においても同様である。
【0025】
図6乃至図9も,本発明の透明導電性フィルムの一例を示す断面図である。図6乃至9の透明導電性フィルムは,前記図1または図5で示す透明導電性フィルムが,透明な粘着剤層4を介して2枚積層されている。また,図6乃至図9では積層して得られる透明導電性フィルムは,少なくとも片面に前記パターン化された透明導電体層3が配置されるように積層されている。図6乃至図7では,図1に示す透明導電性フィルム2枚を透明な粘着剤層4を介して積層している。図6では,図1に示す透明導電性フィルムの透明なフィルム基材1に,他の透明導電性フィルムのパターン化された透明導電体層3が,透明な粘着剤層4を介して積層された場合である。図7では,図1に示す透明導電性フィルムの透明なフィルム基材1同士が,透明な粘着剤層4を介して積層された場合である。図8乃至図9では,図1に示す透明導電性フィルムと図5に示す透明導電性フィルムを透明な粘着剤層4を介して積層している。図8では,図1に示す透明導電性フィルムのパターン化された透明導電体層3と図5に示す透明導電性フィルムの片面のパターン化された透明導電体層3とが透明な粘着剤層4を介して積層された場合である。図9では,図1に示す透明導電性フィルムの透明なフィルム基材1と図5に示す透明導電性フィルムの片面のパターン化された透明導電体層3とが透明な粘着剤層4を介して積層された場合である。図6乃至図9では,図1または図5で示す透明導電性フィルムが,透明な粘着剤層4を介して2枚積層されている場合が例示されているが,図1または図5で示す透明導電性フィルムは,上記図6乃至図9の態様に従って,適宜に3枚以上を組み合わせることができる。なお,図6乃至図9では,図1と同様の構成をもって説明しているが,図6乃至図9においても,当然,図2,図3で説明した構成と同様の構成を適用できる。」

エ 特開2008-98169号公報の記載
前記当審拒絶理由で周知の事項を認定する際に例示した特開2008-98169号公報(以下「周知例4」という。)は,本願優先日前に頒布された刊行物であって,当該周知例4には次の記載がある。
「【0020】
図1は,本発明に係る透明タッチスイッチの第1実施形態を示す概略断面図である。この透明タッチスイッチ101は,静電容量式のタッチスイッチであり,透明基板11にアンダーコート層13を介して透明導電膜12が形成された第1の透明面状体1と,透明基板21にアンダーコート層23を介して透明導電膜22が形成された第2の透明面状体2とを備えている。第1の透明面状体1と第2の透明面状体2とは,それぞれの透明導電膜12,22が対向するようにして,粘着層15を介して貼着されている。
・・・(中略)・・・
【0141】
また,図33の概略断面図に示すように,一つの透明基板31の両面にそれぞれ所定間隔をあけて帯状透明導電部32,42を複数配置し,複数の抵抗スリット35,45及び複数の分離スリット36,46を備える帯状透明調整部33,43を各帯状透明導電部32,42の間に配置すると共に,帯状透明導電部32,42と帯状透明調整部33,43とが絶縁スリット34,44を介在させて隣接するように透明面状体30を構成することもできる。透明基板31の両面にそれぞれ形成される帯状透明導電部32,42および帯状透明調整部33,43は,その長手方向が互いに直交するよう配置される。このような構成の透明面状体30を用いて静電容量式のタッチスイッチを形成した場合,粘着層15を介して2つの透明面状体(第1の透明面状体1及び第2の透明面状体2に相当)を貼り合わせる必要が無くなり,製造上の作業性を高めることができる。また,タッチスイッチが備える透明基板31は一枚だけであると共に,粘着層15を必要としないので,タッチスイッチの厚みを薄くすることが可能になる。」

オ 周知例1ないし4から把握される周知の事項
周知例1ないし4の記載(前記アないしエを参照。)から,静電容量式のタッチパネルの透明電極基板としては,透明基板の片面のみに透明導電層が設けられた透明導電性積層体を2枚貼合して構成したもの(以下「片面基板貼合タイプ」という。)と,透明基板の両面に透明導電層が設けられた透明導電性積層体を用いるもの(以下「両面基板タイプ」という。)のいずれもが本願優先日前に周知であったと認められ,かつ,周知例1及び4の記載(前記ア及びエを参照。)から,前記両面基板タイプは,前記片面基板貼合タイプのものに比べて,薄型化や透過率の向上といった利点を有することもまた本願優先日前に周知であったと認められる(以下,「静電容量式のタッチパネルの透明電極基板には片面基板貼合タイプ及び両面基板タイプがあり,両面基板タイプは,片面基板貼合タイプのものに比べて,薄型化や透過率の向上等の利点を有すること」を「周知の技術的事項」という。)

5 対比
本願発明と引用発明とを対比する。
(1)引用発明の「PETフィルム」,「ハードコート層」,「高屈折率層」,「低屈折率層」,「ITO層」,「酸化ジルコニウム微粒子」,「1分子中にアクリロイル基を6個有するウレタンアクリレート〔分子量1400,日本合成化学工業(株)製,紫光UV7600B〕」を紫外線照射により硬化させた樹脂,「変性中空シリカ微粒子ゾル」中の変性中空シリカ微粒子,「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート」を紫外線照射により硬化させた樹脂,「静電容量タイプのタッチパネル」及び「透明導電性フィルム」は,本願発明の「透明基材フィルム」,「ハードコート層」,「色調補正層1」,「色調補正層2」,「錫ドープ酸化インジウム層」,「金属酸化物微粒子」,「色調補正層1」に含まれる「活性エネルギー線硬化型樹脂」,「シリカ微粒子」,「色調補正層2」に含まれる「活性エネルギー線硬化型樹脂」,「静電容量式タッチパネル」及び「透明導電性フィルム」に,それぞれ相当する。

(2)引用発明では,「PETフィルム」(透明基材フィルム)の両面に「ハードコート層」(ハードコート層)が形成されているから,引用発明は「透明基材フィルムの両面にハードコート層が積層されて」いるという本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(3)引用発明の「ハードコート層」(ハードコート層)のうち一方の「ハードコート層」上には高屈折率層用塗液H-1を用いて「高屈折率層」(色調補正層1)が形成され,当該「高屈折率層」上には低屈折率層用塗液L-3を用いて「低屈折率層」(色調補正層2)が形成され,当該「低屈折率層」上には「ITO層」(錫ドープ酸化インジウム層)が形成されているから,本願発明と引用発明は,「一方のハードコート層上に色調補正層1,色調補正層2,及び錫ドープ酸化インジウム層が順に積層されている」点で一致する。

(4)引用発明の2つの「ハードコート層」は,いずれも,光の波長400nmにおける屈折率が1.53,乾燥硬化後の膜厚が4μmであって,本願発明の「ハードコート層」の屈折率及び膜厚についての「1.51?1.61」及び「1?10μm」という要件を満足しているから,引用発明は,「両ハードコート層は,波長400nmの光に対する屈折率が1.51?1.61,膜厚が1?10μmであ」るという本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(5)引用発明の「高屈折率層」(色調補正層1)は,酸化ジルコニウム微粒子と1分子中にアクリロイル基を6個有するウレタンアクリレート〔分子量1400,日本合成化学工業(株)製,紫光UV7600B〕と光重合開始剤〔商品名「IRGACURE 184」,チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製〕を含有する高屈折率層用塗液H-1をハードコート層上に塗布した後,紫外線を照射して硬化させることにより形成したものであって,硬化後の「高屈折率層」には,「酸化ジルコニウム微粒子」(金属酸化物微粒子)と「1分子中にアクリロイル基を6個有するウレタンアクリレート〔分子量1400,日本合成化学工業(株)製,紫光UV7600B〕を紫外線照射により硬化させた樹脂」(活性エネルギー線硬化型樹脂)とが含まれている。
また,引用発明の「高屈折率層」の光の波長400nmにおける屈折率は1.76で,乾燥後の膜厚は45nmであって,本願発明の「色調補正層1」の屈折率及び膜厚についての「1.63?1.86」及び「25?55nm」という要件を満足している。
したがって,引用発明の「高屈折率層」は,「金属酸化物微粒子と活性エネルギー線硬化型樹脂とを含み,波長400nmの光に対する屈折率が1.63?1.86,膜厚が25?55nmであ」るという本願発明の「色調補正層1」についての発明特定事項に相当する構成を具備している。

(6)引用発明の「低屈折率層」(色調補正層2)は,変性中空シリカ微粒子ゾルとジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと光重合開始剤〔チバスペシャリティケミカルズ(株)製,イルガキュア907〕を含有する低屈折率層用塗液L-3を高屈折率層上に塗布した後,紫外線を照射して硬化させることにより形成したものであって,硬化後の「低屈折率層」には,「変性中空シリカ微粒子ゾル中の変性中空シリカ微粒子」(シリカ微粒子)と「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを紫外線照射により硬化させた樹脂」(活性エネルギー線硬化型樹脂)とが含まれている。
また,引用発明の「低屈折率層」の光の波長400nmにおける屈折率は1.43で,乾燥後の膜厚は30nmであって,本願発明の「色調補正層2」の屈折率及び膜厚についての「1.33?1.53」及び「10?55nm」という要件を満足している。
したがって,引用発明の「低屈折率層」は,「シリカ微粒子と活性エネルギー線硬化型樹脂とを含み,波長400nmの光に対する屈折率が1.33?1.53,膜厚が10?55nmであ」るという本願発明の「色調補正層2」についての発明特定事項に相当する構成を具備している。

(7)引用発明の「ITO層」(錫ドープ酸化インジウム層)の光の波長400nmにおける屈折率は2.00で,実膜厚は25nmであって,本願発明の「錫ドープ酸化インジウム層」の屈折率及び膜厚についての「1.85?2.35」及び「5?50nm」という要件を満足している。
したがって,引用発明の「ITO層」は,「波長400nmの光に対する屈折率が1.85?2.35,膜厚が5?50nmであ」るという本願発明の「錫ドープ酸化インジウム層」についての発明特定事項に相当する構成を具備している。

(8)引用発明の「JIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b^(*)表色系における透過色b^(*)の値」は0.0で,「全光線透過率」は88.8%であって,本願発明の「JIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b^(*)表色系における透過色のb^(*)の値」及び「全光線透過率」についての「-2≦b^(*)≦2」及び「85%以上」という要件を満足している。
したがって,引用発明は,「全光線透過率が85%以上,且つJIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b^(*)表色系における透過色のb^(*)の値が-2≦b^(*)≦2である」という本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(9)引用発明は「静電容量タイプのタッチパネル」(静電容量式タッチパネル)の透明電極基板として用いられるものであるから,引用発明は,「静電容量式タッチパネル用の」ものであるという本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

(10)前記(1)ないし(9)のとおりであるから,本願発明と引用発明とは,
「透明基材フィルムの両面にハードコート層が積層されており,一方のハードコート層上に色調補正層1,色調補正層2,及び錫ドープ酸化インジウム層が順に積層されている透明導電性フィルムであって,
前記両ハードコート層は,波長400nmの光に対する屈折率が1.51?1.61,膜厚が1?10μmであり,
前記色調補正層1は,金属酸化物微粒子と活性エネルギー線硬化型樹脂とを含み,波長400nmの光に対する屈折率が1.63?1.86,膜厚が25?55nmであり,
前記色調補正層2は,シリカ微粒子と活性エネルギー線硬化型樹脂とを含み,波長400nmの光に対する屈折率が1.33?1.53,膜厚が10?55nmであり,
前記錫ドープ酸化インジウム層は,波長400nmの光に対する屈折率が1.85?2.35,膜厚が5?50nmであり,
全光線透過率が85%以上,且つJIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b^(*)表色系における透過色のb^(*)の値が-2≦b^(*)≦2である,
静電容量式タッチパネル用の透明導電性フィルム。」である点で一致し,次の点で相違する。

相違点:
本願発明では,他方のハードコート層上にも,色調補正層1,色調補正層2,及び錫ドープ酸化インジウム層が順に積層されており,前記色調補正層1は,金属酸化物微粒子と活性エネルギー線硬化型樹脂とを含み,波長400nmの光に対する屈折率が1.63?1.86,膜厚が25?55nmであり,前記色調補正層2は,シリカ微粒子と活性エネルギー線硬化型樹脂とを含み,波長400nmの光に対する屈折率が1.33?1.53,膜厚が10?55nmであり,前記錫ドープ酸化インジウム層は,波長400nmの光に対する屈折率が1.85?2.35,膜厚が5?50nmであるのに対して,
引用発明では,他方(裏面)のハードコート層上には,これらの層が積層されていない点。

6 判断
(1)相違点の容易想到性について
ア 前記4(2)オで認定したように,静電容量式のタッチパネルの透明電極基板としては片面基板貼合タイプ及び両面基板タイプがあり,両面基板タイプは,片面基板貼合タイプのものに比べて,薄型化や透過率の向上等の利点を有すること(周知の技術的事項)が本願優先日前に周知であったと認められるところ,片面基板貼合タイプである引用発明において,薄型化や透過率の向上を達成するため,裏面のハードコート層上に,もう一方の面に形成したものと同じ構成の高屈折率層,低屈折率層及びITO層を形成して,両面基板タイプとして構成することは,周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たことである。

イ 前記アの両面基板タイプとして構成した引用発明において,裏面のハードコート層上に形成した「高屈折率層」(色調補正層1)は,酸化ジルコニウム微粒子と1分子中にアクリロイル基を6個有するウレタンアクリレート〔分子量1400,日本合成化学工業(株)製,紫光UV7600B〕と光重合開始剤〔商品名「IRGACURE 184」,チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製〕を含有する高屈折率層用塗液H-1をハードコート層上に塗布した後,紫外線を照射して硬化させることにより形成したものであって,硬化後の「高屈折率層」には,「酸化ジルコニウム微粒子」(金属酸化物微粒子)と「1分子中にアクリロイル基を6個有するウレタンアクリレート〔分子量1400,日本合成化学工業(株)製,紫光UV7600B〕を紫外線照射により硬化させた樹脂」(活性エネルギー線硬化型樹脂)とが含まれ,光の波長400nmにおける屈折率は1.76で,乾燥後の膜厚は45nmであるから,本願発明の他方のハードコート層上に形成した「色調補正層1」の「金属酸化物微粒子と活性エネルギー線硬化型樹脂とを含み,波長400nmの光に対する屈折率が1.63?1.86,膜厚が25?55nmであり」という要件を満足している。
また,前記アの両面基板タイプとして構成した引用発明において,裏面の前記高屈折率層上に形成した「低屈折率層」(色調補正層2)は,変性中空シリカ微粒子とジペンタエリスリトールヘキサアクリレートと光重合開始剤〔チバスペシャリティケミカルズ(株)製,イルガキュア907〕を含有する低屈折率層用塗液L-3を高屈折率層上に塗布した後,紫外線を照射して硬化させることにより形成したものであって,硬化後の「低屈折率層」には,「変性中空シリカ微粒子」(シリカ微粒子)と「ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートを紫外線照射により硬化させた樹脂」(活性エネルギー線硬化型樹脂)とが含まれ,光の波長400nmにおける屈折率は1.43で,乾燥後の膜厚は30nmであるから,本願発明の本願発明の他方の色調補正層1上に形成した「色調補正層2」の「シリカ微粒子と活性エネルギー線硬化型樹脂とを含み,波長400nmの光に対する屈折率が1.33?1.53,膜厚が10?55nmであり」という要件を満足している。
さらに,前記アの両面基板タイプとして構成した引用発明において,裏面の前記低屈折率層上に形成した「ITO層」(錫ドープ酸化インジウム層)は,光の波長400nmにおける屈折率が2.00で,実膜厚が25nmであるから,本願発明の本願発明の他方の色調補正層2上に形成した「錫ドープ酸化インジウム層」の「波長400nmの光に対する屈折率が1.85?2.35,膜厚が5?50nmであり」という要件を満足している。
したがって,引用発明において,薄型化や透過率の向上を達成するため,裏面のハードコート層上に,もう一方の面に形成したものと同じ構成の高屈折率層,低屈折率層及びITO層を形成して,両面基板タイプとして構成するという前記構成の変更を行うことは,引用発明を,相違点に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備するものとすることにほかならない。

ウ 以上のとおりであるから,引用発明を,相違点に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備するものとすることは,周知の技術的事項に基づいて当業者が容易になし得たことである。

(2)全光線透過率及びb^(*)の値について
前記(1)で述べた,裏面のハードコート層上に,もう一方の面に形成したものと同じ構成の高屈折率層,低屈折率層及びITO層を形成するという構成の変更によって,引用発明の全光線透過率及びJIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b^(*)表色系における透過色のb^(*)の値は変化すると考えられるから,当該構成の変更後の引用発明における全光線透過率及びb^(*)の値について以下で検討する。
ア 全光線透過率の値について
(ア)本願明細書には,本願発明の実施例について,次のとおり記載されている(下線は,後述する「実施例2-1」及び「実施例2-12」の構成の認定に特に関係する箇所を示す。)。
「【実施例】
【0036】
以下に,実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが,本発明はそれら実施例の範囲に限定されるものではない。なお,各例におけるITO層以外の層の屈折率は下記に示す方法により測定した。
【0037】
<屈折率(ITO層以外の層)>
(1)波長400nmの光に対する屈折率が1.72のPETフィルム(商品名「A4100」,東洋紡績株式会社製)上に,ディップコーター(杉山元理化学機器株式会社製)により,各層用塗液をそれぞれ乾燥硬化後の膜厚で100?500nm程度になるように層の厚さを調整して塗布した。
(2)乾燥後,紫外線照射装置(岩崎電気株式会社製)により窒素雰囲気下で120W高圧水銀灯を用いて,400mJの紫外線を照射して硬化した。硬化後のPETフィルム裏面をサンドペーパーで荒らし,黒色塗料で塗りつぶしたものを反射分光膜厚計(「FE-3000」,大塚電子株式会社製)により,反射スペクトルを測定した。
(3)反射スペクトルより読み取った反射率から,下記に示すn-Cauchyの波長分散式(式1)の定数を求め,光の波長400nmにおける屈折率を求めた。
N(λ)=a/λ4+b/λ2+c (式1)
(N:屈折率,λ:波長,a,b,c:波長分散定数)
【0038】
〔ハードコート層用塗液(HC-1)の調製〕
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート96質量部,光重合開始剤[商品名:IRGACURE184,チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製]4質量部,及びイソブチルアルコール100質量部を混合してハードコート層用塗液(HC-1)を調製した。ハードコート層用塗液(HC-1)を用いて形成されるハードコート層の屈折率は1.52であった。
【0039】
〔ハードコート層用塗液(HC-2)の調製〕
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート96質量部,アクリル微粒子[商品名:MA-150,綜研化学(株)製]5質量部,光重合開始剤[商品名:IRGACURE184,チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製]4質量部,及びイソブチルアルコール100質量部を混合してハードコート層用塗液(HC-2)を調製した。ハードコート層用塗液(HC-2)を用いて形成されるハードコート層の屈折率は1.53であった。
【0040】
〔色調補正層1用塗液の調製〕
色調補正層1用塗液として次の原料を使用し,各原料を表1に記載した組成で混合して,色調補正層1用塗液C1-1?C1-4を調製した。なお,表1中の各原料の配合割合を示す数値は重量部である。
金属酸化物微粒子:平均粒子径が0.02μmの酸化ジルコニウム微粒子
平均粒子径が0.02μmの酸化チタン微粒子
活性エネルギー線硬化型樹脂:6官能ウレタンアクリレート(日本合成化学工業(株)製紫光UV-7600B)
光重合開始剤:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製IRGACURE184(I-184)
溶媒:メチルイソブチルケトン
【0041】
得られた色調補正層1用塗液C1-1?C1-4を用いて形成される色調補正層の屈折率を,上記方法により測定した。その結果を表1に示す。
【表1】

【0042】
〔色調補正層2用塗液の調製〕
色調補正層2用塗液として次の原料を使用し,各原料を表2に記載した組成で混合して,色調補正層2用塗液C2-1?C2-5を調製した。表1中の各原料の配合割合を示す数値は重量部である。
シリカ微粒子:日揮触媒化成(株)製アクリル修飾中空シリカ微粒子 スルーリアNAU
:日産化学(株)製 XBA-ST
金属酸化物微粒子(比較例用):平均粒子径が0.02μmの酸化ジルコニウム微粒子
活性エネルギー線硬化型樹脂:日本化薬(株)製 DPHA
光重合開始剤:チバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製IRGACURE907(I-907)
溶媒:イソプロピルアルコール
【0043】
得られた色調補正層2用塗液C2-1?C2-5を用いて形成される色調補正層の屈折率を,上記方法により測定した。その結果を表2に示す。
【表2】

【0044】
(実施例1-1)
東レ(株)製PETフィルム(製品名:U-403,膜厚:125μm,屈折率1.72)の一面に,ハードコート層用塗液(HC-1)をバーコーターにて塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,乾燥硬化後の膜厚が2.5μmのハードコート層(1)を形成した。続いて,PETフィルムの他面にハードコート層用塗液(HC-2)をバーコーターにて塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,乾燥硬化後の膜厚が2.5μmのハードコート層(2)を形成した。
【0045】
上記ハードコート層(1)上に,色調補正層1用塗液(C1-1)をバーコーターにて塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,乾燥硬化後の膜厚が55nmの色調補正層1(1)を形成した。続いて,ハードコート層(2)上に,色調補正層1用塗液(C1-1)をバーコーターにて塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,乾燥硬化後の膜厚が55nmの色調補正層1(2)を形成した。
【0046】
上記色調補正層1(1)上に,色調補正層2用塗液(C2-1)をバーコーターにて塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,乾燥硬化後の膜厚が30nmの色調補正層2(1)を形成した。続いて,色調補正層1(2)上に,色調補正層2用塗液(C2-1)をバーコーターにて塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させることにより,乾燥硬化後の膜厚が30nmの色調補正層2(2)を形成し,色調補正フィルム(S-1)を作成した。
・・・(中略)・・・
【0049】
(実施例1-4)
色調補正層2(1)の色調補正層2用塗液をC2-2とした以外は,実施例1-1と同様にして,色調補正フィルム(S-4)を作製した。
・・・(中略)・・・
【0059】
実施例1-1?1-13で得られた色調補正フィルムの性質を表3に示す。
【表3】

【0060】
(実施例2-1)
上記色調補正フィルム(S-1)の色調補正層2(1)上にインジウム:錫=10:1のITOターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより,膜厚が20nmの錫ドープ酸化インジウム層(ITO層)(1)を形成し,ついで,色調補正層2(2)上にインジウム:錫=10:1のITOターゲットを用いてのスパッタリングを行うことにより,膜厚が20nmの錫ドープ酸化インジウム層(2)を形成し,150℃,30分のアニール処理を施し,透明導電性フィルムを作製した。
・・・(中略)・・・
【0063】
(実施例2-4)
色調補正フィルムを(S-4)とした以外は,実施例2-1と同様の方法にて透明導電性フィルムを作製した。
・・・(中略)・・・
【0071】
(実施例2-12)
錫ドープ酸化インジウム層(1)及び錫ドープ酸化インジウム層(2)の膜厚を30nmとし,アニール処理を150℃,60分とした以外は,実施例2-1と同様にして,透明導電性フィルムを作製した。
・・・(中略)・・・
【0075】
得られた透明導電性フィルムについて,ITO層の屈折率,透過色b^(*),及び全光線透過率を測定した。その結果を下記表4に示す。なお,ITO層の屈折率,透過色b^(*),及び全光線透過率は,下記に示す方法により測定した。
【0076】
<屈折率(ITO層)>
(1)波長400nmの光に対する屈折率が1.72のPETフィルム(商品名「A4100」,東洋紡績株式会社製)上にインジウム:錫=10:1のITOターゲットを用いてスパッタリングを行い,実膜厚20nmの透明導電層としての錫ドープ酸化インジウム層(ITO層)を形成し,下記実施例および比較例のそれぞれの条件でアニーリングを施し,透明導電性フィルムを作製した。
(2)上記透明導電性フィルム裏面をサンドペーパーで荒らし,黒色塗料で塗りつぶしたものを反射分光膜厚計(「FE-3000」,大塚電子株式会社製)により,反射スペクトルを測定した。
(3)反射スペクトルより読み取った反射率から,上記(式1)を用いて,光の波長400nmにおける屈折率を求めた。
なお,表4に記載の屈折率は,上記屈折率測定用サンプルから求めた屈折率である。
【0077】
<透過色>
色差計(「SQ-2000」,日本電色工業株式会社製)を用いて透明導電性フィルムの透過色,b^(*)を測定した。このb^(*)は,JIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b表色系における値である。
【0078】
<全光線透過率>
ヘイズメーター(「NDH2000」,日本電色工業株式会社製)により透明導電性フィルムの全光線透過率(%)を測定した。
【0079】
【表4】



(イ)本願明細書の【0041】の【表1】から,「色調補正層1用塗液C1-1」が,金属酸化物微粒子として酸化ジルコニウム微粒子を79重量部,活性エネルギー線硬化型樹脂を21重量部,光重合開始剤を5重量部,及び溶媒を1000重量部という組成で混合したものであり,「色調補正層1」の屈折率が1.76であることを把握でき,本願明細書の【0043】の【表2】から,「色調補正層2用塗液C2-1」が,シリカ微粒子としてスルーリアNAUを40重量部,活性エネルギー線硬化型樹脂を60重量部,光重合開始剤を5重量部,及び溶媒を4000重量部という組成で混合したものであり,「色調補正層2」の屈折率が1.43であることを把握でき,本願明細書の【0079】の【表4】から,「実施例2-1」のITO層(1)及び(2)の屈折率が同じ2.13であり,透過色b^(*)及び全光線透過率がそれぞれ0.0及び87.2%であること,及び,「実施例2-12」のITO層(1)及び(2)の屈折率が同じ1.90であり,透過色b^(*)及び全光線透過率がそれぞれ1.0及び86.2%であることを把握できるから,本願明細書の前記(ア)の記載から,本願明細書に記載された「実施例2-1」及び「実施例2-12」が,次のような構成のものであると把握できる。
a 「実施例2-1」の構成
東レ(株)製PETフィルム(製品名:U-403,膜厚:125μm,屈折率1.72)の片面に,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート96質量部,光重合開始剤[商品名:IRGACURE184,チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製]4質量部,及びイソブチルアルコール100質量部を混合して調製したハードコート層用塗液(HC-1)を,バーコーターにて塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させて形成した,光の波長400nmにおける屈折率が1.52で乾燥硬化後の膜厚が2.5μmのハードコート層(1)を設け,
前記東レ(株)製PETフィルム(製品名:U-403,膜厚:125μm,屈折率1.72)の他面に,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート96質量部,アクリル微粒子[商品名:MA-150,綜研化学(株)製]5質量部,光重合開始剤[商品名:IRGACURE184,チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製]4質量部,及びイソブチルアルコール100質量部を混合して調製したハードコート層用塗液(HC-2)を,バーコーターにて塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させて形成した,光の波長400nmにおける屈折率が1.53で乾燥硬化後の膜厚が2.5μmのハードコート層(1)を設け,
前記ハードコート層(1)及び(2)上に,それぞれ,金属酸化物微粒子として平均粒子径が0.02μmの酸化ジルコニウム微粒子79重量部,活性エネルギー線硬化型樹脂として6官能ウレタンアクリレート(日本合成化学工業(株)製紫光UV-7600B)21重量部,光重合開始剤としてチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製IRGACURE184(I-184)5重量部,及びメチルイソブチルケトン1000重量部を混合して調製した色調補正層1用塗液(C1-1)をバーコーターにて塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させて形成した,光の波長400nmにおける屈折率が1.76で乾燥硬化後の膜厚が55nmの色調補正層1(1)及び(2)を設け,
前記色調補正層1(1)及び(2)上に,それぞれ,シリカ微粒子として日揮触媒化成(株)製アクリル修飾中空シリカ微粒子 スルーリアNAU40重量部,活性エネルギー線硬化型樹脂として日本化薬(株)製 DPHA60重量部,光重合開始剤としてチバ・スペシャルティ・ケミカルズ(株)製IRGACURE907(I-907)5重量部,及びイソプロピルアルコール4000重量部を混合して調製した色調補正層2用塗液(C2-1)をバーコーターにて塗布し,120W高圧水銀灯にて400mJの紫外線を照射して硬化させて形成した,光の波長400nmにおける屈折率が1.43で乾燥硬化後の膜厚が30nmの色調補正層2(1)及び(2)を設けることで,色調補正フィルム(S-1)を作成し,
当該色調補正フィルム(S-1)の色調補正層2(1)及び(2)上に,それぞれ,インジウム:錫=10:1のITOターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより,膜厚が20nmの錫ドープ酸化インジウム層(ITO層)(1)及び(2)を形成し,
150℃,30分のアニール処理を施すことによって作製した,
前記錫ドープ酸化インジウム層(ITO層)(1)及び(2)の光の波長400nmにおける屈折率が2.13で,全光線透過率が87.2%で,JIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b^(*)表色系における透過色のb^(*)の値が0.0である,透明導電性フィルム。

b 「実施例2-12」の構成
実施例2-1の色調補正フィルム(S-1)の色調補正層2(1)及び(2)上に,それぞれ,インジウム:錫=10:1のITOターゲットを用いてスパッタリングを行うことにより,膜厚が30nmの錫ドープ酸化インジウム層(ITO層)(1)及び(2)を形成し,
150℃,60分のアニール処理を施すことによって作製した,
前記錫ドープ酸化インジウム層(ITO層)(1)及び(2)の光の波長400nmにおける屈折率が1.90で,全光線透過率が86.2%で,JIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b^(*)表色系における透過色のb^(*)の値が1.0である,透明導電性フィルム。

(ウ)前記(イ)の本願明細書に記載の「実施例2-1」及び「実施例2-12」と,引用発明とを比べると,両者の各層の構成は専ら次の点で相違する。
a 「ハードコート層」について
両者ともにアクリル樹脂により構成されてはいるが,本願明細書に記載の「実施例2-1」及び「実施例2-12」の膜厚が2.5μmであり,一方の面のハードコート層がアクリル微粒子[商品名:MA-150,綜研化学(株)製]を含有するのに対して,引用発明の膜厚が4μmであり,両面のハードコート層ともにアクリル微粒子は含有していない点。

b 「色調補正層1」(高屈折率層)について
両者ともに同一組成の塗液を用いて形成されたものであるが,本願明細書に記載の「実施例2-1」及び「実施例2-12」の膜厚が55nmであるのに対して,引用発明の膜厚が45nmである点。

c 「色調補正層2」(低屈折率層)について
両者ともにアクリル樹脂にシリカ微粒子を含有させた材質により構成されており,光の波長400nmにおける屈折率が1.43で膜厚が30nmであるが,
本願明細書に記載の「実施例2-1」及び「実施例2-12」の「色調補正層2」が,シリカ微粒子として日揮触媒化成(株)製アクリル修飾中空シリカ微粒子 スルーリアNAU40重量部と,活性エネルギー線硬化型樹脂として日本化薬(株)製 DPHA60重量部とを含有する色調補正層2用塗液(C2-1)を用いて形成されたものであるのに対して,
引用発明の「低屈折率層」が,中空シリカゾル〔触媒化成工業(株)製,商品名:ELECOM NY-1001S1V,イソプロピルアルコールによる中空シリカゾルの25質量%分散液,平均粒子径60nm〕2000質量部とγ?アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン〔信越化学工業(株)製,KBM5103〕70質量部と蒸留水80質量部とを混合して調製した変性中空シリカ微粒子ゾル(平均粒子径:60nm)60質量部と,ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート40質量部とを含有する低屈折率層用塗液L-3を用いて形成されたものである点。

d 「錫ドープ酸化インジウム層」(ITO層)について
両者ともにインジウム:錫=10:1のITOターゲットを用いてスパッタリングによる成膜後にアニール処理を施したものであるが,
本願明細書に記載の「実施例2-1」が150℃,30分のアニール処理を施したものであって,「錫ドープ酸化インジウム層」の光の波長400nmにおける屈折率が2.13で膜厚が20nmであり,「実施例2-12」が150℃,60分のアニール処理を施したものであって,「錫ドープ酸化インジウム層」の光の波長400nmにおける屈折率が1.90で膜厚が30nmであるのに対して,
引用発明が150℃で30分間アニール処理を施したものであって,「ITO層」の光の波長400nmにおける屈折率が2.00で実膜厚が25nmである点。

(エ)前記(ウ)の各層の構成の違いによる全光線透過率への影響について検討する。
a 「ハードコート層」の違いによる全光線透過率への影響について
引用文献1の【0046】の【表4】には,一方の面のハードコート層を平均粒子径1.5μmのアクリル樹脂微粒子(屈折率1.495)を含有するハードコート層用塗液(HC-A2)で形成すること以外は引用文献に記載の「実施例1-1」と同様に作製(前記4(1)ア(カ)の【0034】,【0044】及び【0045】を参照。)した「実施例2-2」の全光線透過率が実施例1-1の全光線透過率より1.2ポイント低い「89.1%」になることが示されており,このことからは,一方の面に平均粒子径1.5μmのアクリル樹脂微粒子を含有させると全光線透過率が1.2ポイント減少することを把握できる。
一方,同【表4】には,両ハードコート層の膜厚を2μmとし,一方の面のハードコート層を平均粒子径0.5μmのアクリル樹脂微粒子(屈折率1.495)を含有するハードコート層用塗液(HC-A1)で形成すること以外は引用文献に記載の「実施例1-1」と同様に作製した「実施例2-1」の全光線透過率が「90.3%」という「実施例1-1」の全光線透過率と同じ値を示すことが示されており,このことからは,一方の面のハードコート層にアクリル樹脂微粒子を含有させたとしても,膜厚を「4μm」から「2μm」に減少させると全光線透過率が変化しないことを把握できる。
前記(ウ)aのとおり,本願明細書に記載の「実施例2-1」及び「実施例2-12」の「ハードコート層」と,引用発明の「ハードコート層」とは,一方の面の「ハードコート層」にアクリル微粒子[商品名:MA-150,綜研化学(株)製]を含有するのか否かという違い,及び,「2.5μm」と「4μm」という膜厚の違いが存在するところ,前記引用文献1の【0046】の【表4】から把握できる事項に照らせば,これらハードコート層の構成の違いによる全光線透過率への影響は概ね相殺されると推察されるから,前記(1)で述べた構成の変更後の引用発明においては,本願明細書に記載の「実施例2-1」及び「実施例2-12」に比べて「色調補正層1」(高屈折率層)のアクリル微粒子の含有の有無及び膜厚に違いが存在しても,全光線透過率には殆ど影響しないと推定される。

b 「色調補正層1」(高屈折率層)の違いによる全光線透過率への影響について
(a)本願明細書の【0044】ないし【0051】,【0059】の【表3】,【0060】,【0065】及び【0079】の【表4】から,本願明細書に記載の「実施例2-1」と「実施例2-6」とは,「色調補正層1」のうちの一方の膜厚が55nmであるのか25nmであるのかという点以外に構成の違いは存在せず,「実施例2-1」の全光線透過率が87.2%で,「実施例2-6」の全光線透過率が86.3%であることを把握できるところ,このことからは,屈折率が1.43で膜厚が30nmの「色調補正層2」が表面に形成された,屈折率が1.76の「色調補正層1」の膜厚が55nmに対して30nm薄くなると,全光線透過率が0.9ポイント減少すると理解できる。

(b)一方,前記(ウ)bのとおり,引用発明の「高屈折率層」と,本願明細書に記載の「実施例2-1」及び「実施例2-12」の「色調補正層1」とは,同一組成の塗液を用いて形成されたものであって,引用発明の「高屈折率層」における膜厚45nmが,本願明細書に記載の「実施例2-1」及び「実施例2-12」の「色調補正層1」の膜厚55nmに対して10nm薄いという点以外に構成上の違いは存在せず,また,引用発明の「高屈折率層」の屈折率は1.76で,その上に形成された「低屈折率層」の屈折率が1.43で膜厚が30nmであるところ,前記(a)に照らせば,本願明細書に記載の「実施例2-1」及び「実施例2-12」において,両方の「色調補正層1」の膜厚を10nm小さくして,引用発明の「高屈折率層」の膜厚と同じ45nmとすると,全光線透過率が0.6(=0.9×10/30×2)ポイント程度減少すると推定される。

c 「色調補正層2」(低屈折率層)の違いによる全光線透過率への影響について
(a)引用文献の【0034】,【0038】,【0039】の【表1】及び【0040】の【表2】から,引用文献に記載の「実施例1-3」と「実施例1-7」について,両者の「高屈折率層」はともに屈折率が1.76で膜厚が65nmの同一構成のものであって,「実施例1-3」の「低屈折率層」が「低屈折率層用塗液L-1」を用いて形成しているのに対して,「実施例1-7」の「低屈折率層」が引用発明の「低屈折率層」を形成するための塗液と同じ「低屈折率層用塗液L-3」を用いている点,及び,「実施例1-3」の「低屈折率層」の膜厚が25nmであるのに対して,「実施例1-7」の「低屈折率層」の膜厚が30nmであって,5nm厚い点以外に構成の違いは存在せず,「実施例1-3」の全光線透過率が89.4%で,「実施例1-7」の全光線透過率が90.4%であることを把握できるところ,このことからは,屈折率が1.76で膜厚が65nmの「高屈折率層」上に形成された「低屈折率層」について,これを形成するための塗液を「低屈折率層用塗液L-1」から「低屈折率層用塗液L-3」に変更するとともに,膜厚を25nmから30nmに増加すると,全光線透過率が1ポイント増加すると理解できる。

(b)一方,引用文献の【0034】,【0038】及び【0039】の【表1】から,引用文献に記載の「実施例1-3」と「実施例1-5」について,両者の「低屈折率層」はともに「低屈折率層用塗液L-1」を用いて形成されたものであって,「実施例1-3」の「高屈折率層」の膜厚が65nmであるのに対して,「実施例1-5」の「高屈折率層」の膜厚が60nmであって,5nm薄い点,及び,「実施例1-3」の「低屈折率層」の膜厚が25nmであるのに対して,「実施例1-5」の「低屈折率層」の膜厚が45nmであって,20nm厚い点以外に構成の違いは存在せず,「実施例1-3」の全光線透過率が89.4%で,「実施例1-5」の全光線透過率が91.2%であることを把握できるところ,このことからは,屈折率が1.76で膜厚が65nmの「色調補正層1」と,その表面に「低屈折率層用塗液L-1」を用いて形成された,膜厚が25nmの「色調補正層2」について,「色調補正層1」の膜厚を5nm薄くし,「色調補正層2」の膜厚を20nm厚くすると,全光線透過率が1.8ポイント増加すると理解できるから,各層の膜厚の変化を1/4に,すなわち,「色調補正層1」の膜厚を1.25nm薄くし,「色調補正層2」の膜厚を5nm厚くすると,全光線透過率が0.45(=1.8/4)ポイント程度増加すると推定される。
ここで,前記「色調補正層1」の1.25nmという膜厚の変化は,65nmという「色調補正層1」の膜厚自体に比べてきわめて小さく,当該膜厚の変化による全光線透過率への影響は,「色調補正層2」の膜厚の変化による影響に比べて,概ね無視して差し支えないものと考えられるから,結局,屈折率が1.76で膜厚が65nmの「色調補正層1」と,その表面に「低屈折率層用塗液L-1」を用いて形成された,膜厚が25nmの「色調補正層2」について,「色調補正層2」の膜厚を5nm厚くすると,全光線透過率が0.45ポイント程度増加すると推定される。

(c)前記(a)及び(b)から,「低屈折率層」について,これを形成するための塗液を「低屈折率層用塗液L-1」から「低屈折率層用塗液L-3」に変更すると,全光線透過率が0.55(=1-0.45)ポイント程度増加すると推定できる。

(d)本願明細書の【0044】ないし【0046】,【0049】,【0060】,【0063】の記載から,本願明細書に記載の「実施例2-1」と「実施例2-4」について,「実施例2-1」の「色調補正層2」のうちの一方である色調補正層2(1)が「色調補正層C2-1」を用いて形成されているのに対して,「実施例2-4」の「色調補正層2」のうちの一方である色調補正層2(1)が「色調補正層C2-2」を用いて形成されている点以外に構成の違いは存在せず,「実施例2-1」の全光線透過率が87.2%で,「実施例2-4」の全光線透過率が86.4%であることを把握できるところ,このことからは,「色調補正層2」について,これを形成するための塗液を「色調補正層C2-1」から「色調補正層C2-2」に変更すると,全光線透過率が0.8(=87.2-86.4)ポイント程度減少すると理解できる。

(e)引用文献の【0034】に記載された「低屈折率層用塗液L-1」の組成と,本願明細書の【0042】及び【0043】の【表2】に記載された「色調補正層2用塗液C2-2」の組成から,両者が,同じシリカ微粒子(日産化学(株)製 XBA-ST)と,同種の活性エネルギー線硬化型樹脂(「色調補正層2用塗液C2-2」が含有する「日本化薬(株)製 DPHA」の主成分は,「低屈折率層用塗液L-1」が含有するジペンタエリスリトールヘキサアクリレートである。)とを同じ配合量で混合した塗液であることを把握できるから,これら塗液により形成された引用文献に記載の「実施例1-3」の「低屈折率層」と本願明細書に記載の「実施例2-4」の「色調補正層2」の一方である色調補正層2(1)は,略同一の光学特性を有するものと認められる。
そうすると,前記(c)及び(d)に照らせば,本願明細書に記載の「実施例2-1」及び「実施例2-12」において,両方の「色調補正層2」を形成するための塗液を「色調補正層C2-1」から「低屈折率層用塗液L-3」に変更すると,全光線透過率が0.5(=(0.8-0.55)×2)ポイント程度減少すると推定される。

d 「錫ドープ酸化インジウム層」(ITO層)の違いによる全光線透過率への影響について
本願明細書の【0071】に記載されたとおり,本願明細書に記載の「実施例2-1」と「実施例2-12」とは,「錫ドープ酸化インジウム層」の光の波長400nmにおける屈折率及び膜厚以外に層構成の違いは存在しないところ,本願明細書の【0079】の【表4】から把握できるように,「錫ドープ酸化インジウム層」の光の波長400nmにおける屈折率が2.13で膜厚20nmの「実施例2-1」の全光線透過率は87.2%であり,光の波長400nmにおける屈折率が1.90で膜厚30nmの「実施例2-12」の全光線透過率は86.2%であるから,「錫ドープ酸化インジウム層」以外の層構成が「実施例2-1」と「実施例2-12」と同一であって,「錫ドープ酸化インジウム層」の光の波長400nmにおける屈折率及び膜厚を引用発明の「ITO層」と同じ2.00(「実施例2-1」の屈折率と「実施例2-12」の屈折率の略中間値である。)及び25nm(「実施例2-1」の膜厚と「実施例2-12」の膜厚の中間値である。)とした透明導電性フィルムの全光線透過率は,「実施例2-1」と「実施例2-12」の中間値である86.7%程度であると推定される。

(オ)前記(エ)dのとおり,「錫ドープ酸化インジウム層」以外の層構成が「実施例2-1」と「実施例2-12」と同一であって,「錫ドープ酸化インジウム層」の光の波長400nmにおける屈折率及び膜厚を引用発明の「ITO層」と同じ2.00及び25nmとした「透明導電性フィルム」(つまり,本願明細書に記載された「色調補正フィルム(S-1)」の両面に引用発明と同一構成の「錫ドープ酸化インジウム層」を形成した「透明導電性フィルム」)の全光線透過率は86.7%程度になるものと推定されるところ,当該「透明導電性フィルム」と,前記(1)で述べた構成の変更後の引用発明との間の構成上の違いは,前記(ウ)aないしc(ただし「本願明細書に記載の「実施例2-1」及び「実施例2-12」」を「透明導電性フィルム」と読み替える。)のとおりとなる。
しかるに,前記(エ)aないしcで検討した「錫ドープ酸化インジウム層」以外の「ハードコート層」,「色調補正層1」(高屈折率層)及び「色調補正層2」(低屈折率層)の構成の違いによる全光線透過率への影響に照らせば,前記(1)で述べた構成の変更後の引用発明の全光線透過率は,当該「透明導電性フィルム」の全光線透過率の86.7%程度という値より1.1(=0.6+0.5)ポイント程度低い85.6%程度と推認できる。
したがって,前記(1)で述べた構成の変更後の引用発明の全光線透過率は,本願発明が規定する全光線透過率の範囲(85%以上)を満足していると認められる。
すなわち,引用発明において,前記(1)で述べた構成の変更を行うことで,全光線透過率の値が新たな相違点になることはない。

(カ)なお,仮に,前記(1)で述べた構成の変更後の引用発明の全光線透過率が本願発明が規定する全光線透過率の範囲外(85%未満)のものとなるとしても,次の理由から,引用発明において全光線透過率を本願発明が規定する全光線透過率の範囲である85%以上とすることは,当業者が容易に想到し得たことである。

引用文献の【0006】(前記4(1)ア(イ)を参照。)に記載されているように,引用発明は全光線透過率の高いものとすることをその目的の一つとしているところ,さらなる全光線透過率の向上を達成するために,例えば,透明基材である「PETフィルム」の厚さを,引用文献の【0014】(前記4(1)ア(オ)を参照。)に記載された「25?400μm」という範囲内で,125μmよりも小さな値に変更するなどして,前記(1)で述べた構成の変更後の引用発明の全光線透過率の値を85%以上とすることは,当業者が適宜なし得た設計上の事項である。

イ b^(*)の値について
引用文献の【0003】及び【0004】(前記4(1)ア(イ)を参照。)の記載から,引用発明は,金属酸化物層であるITO層の反射及び吸収に由来する可視光短波長領域の透過率の低下による黄色の呈色を,高屈折率層及び低屈折率層を積層することによって抑制しているものと理解できるところ,「JIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b^(*)表色系における透過色b^(*)の値」とは黄色の呈色の程度を示すパラメータであって,引用発明が「JIS Z 8729に規定されているL^(*)a^(*)b^(*)表色系における透過色b^(*)の値が0.0」という構成を有しているということは,専らITO層によって生じる黄色の呈色を高屈折率層及び低屈折率層によって完全に解消していることにほかならない。
そうすると,引用発明において,前記(1)で述べた「裏面のハードコート層上に,もう一方の面に形成したものと同じ構成の高屈折率層,低屈折率層及びITO層を形成」するという構成の変更を行ったとしても,当該構成の変更によって新たに設けられるITO層によって生じる黄色の呈色は,同じく当該構成の変更によって新たに設けられる高屈折率層及び低屈折率層によって解消されることとなるのだから,引用発明のb^(*)の値が0.0である以上,前記構成の変更後の引用発明のb^(*)の値も略0.0になると推認される。
したがって,前記(1)で述べた構成の変更後の引用発明のb^(*)は,本願発明が規定するb^(*)の範囲(-2≦b^(*)≦2)を満足していると認められる。
すなわち,引用発明において,前記(1)で述べた構成の変更を行うことで,b^(*)の値が新たな相違点になることはない。

(3)効果について
本願発明の奏する効果は,引用文献の記載及び周知の技術的事項に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(4)まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,当業者が引用発明及び周知の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものである。

7 むすび
本願発明は,当業者が引用発明及び周知の技術的事項に基づいて容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,当審拒絶理由によって拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-25 
結審通知日 2014-09-30 
審決日 2014-10-14 
出願番号 特願2012-169870(P2012-169870)
審決分類 P 1 8・ 121- WZ (B32B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 最首 祐樹竹村 真一郎  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 鉄 豊郎
清水 康司
発明の名称 色調補正フィルム及びそれを用いた透明導電性フィルム  
代理人 特許業務法人岡田国際特許事務所  

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