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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B |
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管理番号 | 1294739 |
審判番号 | 不服2013-18832 |
総通号数 | 181 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-01-30 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-09-30 |
確定日 | 2014-12-03 |
事件の表示 | 特願2010-540960「再帰反射塗料及び構造物に再帰反射塗料を塗布する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 5月 6日国際公開、WO2010/051432、平成23年 3月10日国内公表、特表2011-508285〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は,2009年10月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年10月31日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成24年8月27日付けで拒絶理由が通知され,平成25年3月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが,同年5月24日付けで拒絶査定がなされたところ,同年9月30日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。 なお,審判請求人は,当審における平成25年11月29日付けの審尋に対して,平成26年4月1日に回答書を提出している。 2 補正の適否について 平成25年9月30日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は,平成25年3月1日提出の手続補正書による手続補正によって補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲について補正しようとするものであるところ,本件補正後の請求項1に記載された事項は,本願の国際出願日当初の明細書等の翻訳文(以下,明細書の翻訳文を「明細書」と,明細書の翻訳文,特許請求の範囲の翻訳文及び図面の翻訳文をあわせて「明細書等」といい,国際出願日当初のものについては「出願当初明細書」や「出願当初明細書等」という。)の請求項4,【0020】ないし【0022】等に記載されているから,本件補正のうち本件補正後の請求項1に係る補正(以下「請求項1に係る本件補正」という。)は,本願の出願当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされた補正であって,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしている。 また,請求項1に係る本件補正は,本件補正前の請求項1を削除するとともに,当該請求項1の記載を引用する請求項3を独立形式の記載に改めて,新たな請求項1とするものであるから,特許法17条の2第5項1号に掲げる請求項の削除を目的とするものに該当する。 したがって,請求項1に係る本件補正は適法になされたものである。 3 本願発明 前記2のとおり,請求項1に係る本件補正は適法になされたものであるから,本願の請求項1に係る発明は,本件補正後の請求項1に記載されたとおりの次のものと認める。 「構造物の表面に塗布されているバインダー材料中に部分的に埋め込むためのある量の再帰反射粒体を用いる再帰反射面を有する構造物であって,各々の再帰反射粒体が,少なくとも約1.5の屈折率のガラス部材を含み,その量の再帰反射粒体の少なくとも約50%が,バインダー材料に部分的に埋め込むために0.3048ミリメートル(0.012インチ)超の最大幅を有し, バインダー材料の9.29平方メートル(100平方フィート)当たり約6.80キログラム(約15ポンド)の密度で塗布され,前記構造物は, 前記構造物の少なくとも一部分上で画定された傾斜面, 構造物の傾斜面の少なくとも一部分に塗布され,厚み寸法が少なくとも約0.254ミリメートル(10ミル)である前記バインダー材料,及び 前記バインダー材料の厚み寸法内に部分的に埋め込まれた前記ある量の再帰反射粒体を含み, 前記粒体は,相互に緊密に維持されている構造物。」(以下「本願発明という。) 4 引用例 (1)特開昭47-23098号公報の記載事項 原査定の拒絶の理由において引用された特開昭47-23098号公報(以下「引用刊行物」という。)は,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物であって,当該引用刊行物には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。) ア 「3.発明の詳細な説明 本発明は道路外側あるいは中央分離帯の構造物の垂直面に設置するところの光再帰反射体に関する。 従来この種反射体としてはプリズム作用を応用したところのプラスチック又はガラス製の反射板が広く用いられ,或いは高屈折率ガラス微小球の裏面に銀又はアルミニウムの反射膜を蒸着させたところの反射テープが実用に供されて来た。しかしながら反射板は点として認識され得る程度の大きさでしかなく,又反射テープにしても一般に巾の狭いものが,しかも不連続に貼附されるのみであって,通行者に距離感を与え安全性を確保するためには不充分なものである。 本発明に係る道路用反射体は極めて安価に製作・設置され得ることを特長とするものであって,設置作業も又容易である。したがってたとえばガードレール等の場合にはその内側全面に反射体を設置することが価格面からも作業面からも極めて容易となる。ここで特に注目すべきことは,巾広く且つ連続した線を道路外側に設置することによって,通行者に正確な距離感を与えるばかりでなく,路上の暗黒物体たとえば歩行者とか無灯火の故障車などがある場合にも,これをシャドウとして認識することができるという著しい効果を発揮することである。 本発明に係る道路用反射体は直径0.2?2.0mmの粒径均一性のよい透明プラスチック又はガラス製の微小球をペイント塗膜にその粒径の1/3?2/3嵌入して成るものである。降雨時の効果を大ならしめるためには微小球の表面に撥水処理を施すことも有効である。ここに使用する透明プラスチック又はガラスの屈折率は特に大なることを要せず普通のもの,すなわち屈折率約1.5程度のものが用いられる。微小球の形状は眞球率が高く,粒径均一性が良ければ使用でき,路面標示用ガラスビーズの粒径別分級品とかプラスチックのパール重合品なども使用できる。プラスチックとしてはアクリル樹脂,酢酸ビニル,塩化ビニル等が使用できる。塗料としては所要の色彩のものならばいづれも使用できるが,特に既設の構造物すなわちガードレール,電柱等あるいは崖面の如く垂直面に直接設置する場合には「垂れ」の起こりにくい塗料を用いる必要がある。この目的には道路用ホットペイント又は熱融塗料のような厚塗装用の塗料が特に適当である。塗料の塗装厚は微小球粒径の1/3?2/3の範囲で最も有効であるが,これより厚い場合又は薄い場合に於ても有効である。本発明の最著しい特長は高屈折率ガラスを用いることなしに降雨時夜間反射能を保持し得る点にある。すなわち垂直面に於て雨水の流失が容易であり且つ再帰反射能が十分であるような微小球嵌入量を選ぶこと,又表面に作る水膜が微小球のレンズ効果を減殺しない様に充分大きな粒径の微小球を選ぶことである。又この粒径が大であることは同時に塗膜厚の大なるものが要求される結果となり,特に厚塗装用として製作されたところの道路標示用塗料が有効に用いられる。微小球のレンズ効果を減殺する水膜を除くために微小球の表面に撥水処理を施こすことは望ましいことではあるが必要な條件ではない。次に塗料の面から考えると塗装厚0.5mm以上とすることは技術的にも経済的にも困難である。一方微小球の粒径が0.4mm以下になると降雨量25mm/時間以上の豪雨の時には充分な反射能を保ち得ない。この両條件に前出の粒径と膜厚の関係を併せて考えると,有効な塗膜厚は0.13?0.5mm,使用される微小球の粒径は0.4?1.5mmである。次に嵌入する微小球の量については大なる程乾燥時の再帰反射能が大で拡散反射率は小さく,雨水の流失性は悪くなる。しかるに本発明に係る反射体の特長は降雨時の再帰反射能を大として乾燥時と変らないようにしたことである。すなわち微小球はその間隙が充分大であって微小球が雨水の流失の妨げとならないことが必要である。ただ理論上では平面上の突起物が全く流れの妨げにならないということは不可能ではあるが,上記したように粒径0.4?1.5mmの微小球のレンズ効果が減失されないことのみを目的としたときの実験的に求められた実用範囲は塗膜面に占める微小球の面積が35%以下である。そうして又低角度の再帰反射能については塗膜面に占める微小球の面積が10%以上であれば実用に供し得る。しかしながら道路屈曲部とかT字路に於てはある程度高い角度への再帰反射能も必要である。したがって最も望ましい微小球の嵌入量は塗膜面積の25?35%を微小球が占めるように作られた場合である。」(1頁左下欄9行ないし3頁右上欄末行) イ 「実施例4 垂直壁面に道路標示用熱融性白色塗料を0.5mm厚にスプレイ塗装し,直後に粒径0.8?1.2mmのガラス微小球を1m^(2)当り300gエアスプレイガンでほぼ均一に噴射嵌入した。この微小球の塗装面上に占める面積比率は約18%であった。この反射体の乾燥時再帰反射率は市販反射シートの52%,多量の水を浴びせて10秒後の再帰反射率は48%であった。又この反射体は降雨時の屋外に於てもほとんど再帰反射能の減少は感じられなかった。」(4頁右下欄5行ないし5頁左上欄4行) ウ 「4.特許請求の範囲 未乾燥塗膜厚0.13?0.50mmの塗料膜が未硬化の状態に於て,粒径が未乾燥塗膜厚の1.5?3倍すなわち0.4?1.5mmなる透明プラスチック又はガラス製の微小球を塗面の面積の10?35%を占めるように散布嵌入してなる道路用再帰反射体。」(5頁左上欄5ないし11行) (2)特開昭47-23098号公報に記載された発明 前記(1)アないしウから,引用刊行物には次の発明が記載されていると認められる。 「ガードレールの内側全面に,垂直面にも対応できる垂れの起こりにくい道路用ホットペイント又は熱融塗料のような厚塗装用の塗料を用いて,未乾燥塗膜厚0.13?0.50mmの塗料膜を形成し, 当該塗料膜が未硬化の状態において,屈折率が約1.5程度で,粒径が前記未乾燥塗膜厚の1.5?3倍すなわち0.4?1.5mmで,眞球率が高く粒径均一性が良い粒径別分級品等のガラス微小球を,塗面の面積の10?35%最も望ましくは25?35%を占めるように散布嵌入して, 前記ガラス微小球が前記塗料膜に粒径の1/3?2/3嵌入して成る光再帰反射体を形成することによって, 高屈折率ガラスを用いることなしに降雨時夜間反射能を保持することができ,光再帰反射体の設置作業を容易で低価格なものにしたガードレールであって, 前記光再帰反射体は,例えば,道路標示用熱融性白色塗料を0.5mm厚にスプレイ塗装し,直後に粒径0.8?1.2mmのガラス微小球を1m^(2)当り300gエアスプレイガンでほぼ均一に噴射嵌入して形成することで,ガラス微小球の塗装面上に占める面積比率を約18%にしたものとすることができる, ガードレール。」(以下「引用発明」という。) 5 対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1)引用発明の「ガードレール」,「道路標示用熱融性白色塗料」,「ガラス微小球」及び「光再帰反射体」は,本願発明の「構造物」,「バインダー材料」,「再帰反射粒体」及び「再帰反射面」にそれぞれ相当する。 (2)引用発明の「光再帰反射体」(再帰反射面)は,「道路標示用熱融性白色塗料」(バインダー材料)を0.5mm厚にスプレイ塗装し,直後に粒径0.8?1.2mmの「ガラス微小球」(再帰反射粒体)を1m^(2)当り300gエアスプレイガンでほぼ均一に噴射嵌入して形成したものであって,形成された「光再帰反射体」中の各「ガラス微小球」には「道路標示用熱融性白色塗料」に嵌入していない部分が存在するから,引用発明の「ガードレール」と本願発明の「構造物」とは,「表面に塗布されているバインダー材料中に部分的に埋め込むためのある量の再帰反射粒体を用いる再帰反射面を有する」点,及び,「バインダー材料の厚み寸法内に部分的に埋め込まれたある量の再帰反射粒体を含」む点で一致する。 (3)引用発明の「ガラス微小球」(再帰反射粒体)は,屈折率が約1.5程度のものであるから,引用発明の「ガラス微小球」は「約1.5の屈折率のガラス部材を含」んでいるといえる。 また,粒径が0.8?1.2mmである引用発明の「ガラス微小球」において,その最も小さな粒径は0.8mmであって,全ての「ガラス微小球」が0.3048ミリメートル(0.012インチ)を越える最大幅を有しているといえるから,当該引用発明の「ガラス微小球」は,「少なくとも約50%が,0.3048ミリメートル(0.012インチ)超の最大幅を有」するという本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。 さらに,引用発明の「ガラス微小球」の粒径0.8?1.2mmは,塗料膜の未乾燥塗膜厚である0.5mmの1.6?2.4倍の大きさであるから,引用発明の「ガラス微小球」は,未硬化の塗料膜を構成する「道路標示用熱融性白色塗料」(バインダー材料)に「部分的に埋め込むために」塗料膜の膜厚より大きい最大幅を有しているといえる。 したがって,引用発明の「ガラス微小球」と本願発明の「再帰反射粒体」とは,「約1.5の屈折率のガラス部材を含み,少なくとも約50%が,バインダー材料に部分的に埋め込むために0.3048ミリメートル(0.012インチ)超の最大幅を有」する点で一致する。 (4)引用発明の「ガードレール」の「内側全面」と,本願発明の「構造物の傾斜面の少なくとも一部分」とは,「構造物の表面の少なくとも一部」である点で一致する。 (5)引用発明の「道路標示用熱融性白色塗料」(バインダー材料)を用いて形成された塗料膜の膜厚は0.50mmであるから,当該引用発明の「道路標示用熱融性白色塗料」は,「厚み寸法が少なくとも約0.254ミリメートル(10ミル)である」という本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。 (6)前記(1)ないし(5)から,本願発明と引用発明とは, 「構造物の表面に塗布されているバインダー材料中に部分的に埋め込むためのある量の再帰反射粒体を用いる再帰反射面を有する構造物であって,各々の再帰反射粒体が,約1.5の屈折率のガラス部材を含み,その量の再帰反射粒体の少なくとも約50%が,バインダー材料に部分的に埋め込むために0.3048ミリメートル(0.012インチ)超の最大幅を有し, 前記構造物は, 構造物の表面の少なくとも一部に塗布され,厚み寸法が少なくとも約0.254ミリメートル(10ミル)である前記バインダー材料,及び 前記バインダー材料の厚み寸法内に部分的に埋め込まれた前記ある量の再帰反射粒体を含む, 構造物。」である点で一致し,次の点で一応相違する。 相違点1: 「再帰反射粒体」(ガラス微小球)を「バインダー材料」(道路標示用熱融性白色塗料)に塗布する密度について, 本願発明では,9.29平方メートル(100平方フィート)当たり約6.80キログラム(約15ポンド)であるのに対して, 引用発明では,1m^(2)当り300gである点。 相違点2: 本願発明では,「構造物」が傾斜面を有しており,「バインダー材料」が当該傾斜面の少なくとも一部分に塗布されるのに対して, 引用発明では,「ガードレール」が傾斜面を有し,「道路標示用熱融性白色塗料」が当該傾斜面の少なくとも一部分に塗布されるとは特定されていない点。 相違点3: 本願発明の「再帰反射粒体」が,相互に緊密に維持されているのに対して, 引用発明では,「ガラス微小球」がそのような構成を有するとは特定されていない点。 6 判断 前記相違点1ないし3について判断する。 (1)相違点1について ア 引用発明において用いられた「粒径0.8?1.2mmのガラス微小球」とは,粒径が0.8mmから1.2mmの間で分布するガラス微小球を指すと認められるところ,当該「0.8?1.2mm」という粒径は,「0.4?1.5mm」という必須の数値範囲の中から選択された値である。 ここで,引用発明の「0.4?1.5mm」という必須の数値範囲は,引用刊行物の「垂直面に於て雨水の流失が容易であり且つ再帰反射能が十分であるような微小球嵌入量を選ぶこと,又表面に作る水膜が微小球のレンズ効果を減殺しない様に十分大きな粒径の微小球を選ぶことである。又この粒径が大であることは同時に塗膜厚の大なるものが要求される結果となり,特に厚塗装用として製作されたところの道路標示用塗料が有効に用いられる。微小球のレンズを減殺する水膜を除くために微小球の表面に撥水処理を施こすことは望ましいことではあるが必要な條件ではない。次に塗料の面から考えると塗装厚0.5mm以上とすることは技術的にも経済的にも困難である。一方微小球の粒径が0.4mm以下になると降雨量25mm/時間以上の豪雨の時には充分な反射能を保ち得ない。この両條件に前出の粒径と膜厚の関係を併せて考えると,有効な塗膜厚は0.13?0.5mm,使用される微小球の粒径は0.4?1.5mmである。」(2頁左下欄10行ないし3頁左上欄3行。前記4(1)アを参照。)という記載から,その下限が,雨水の水膜によるガラス微小球のレンズ効果の減殺防止すなわち降雨時の再帰反射能の確保という観点から定められ,その上限が,粒径に対応する塗装厚にすることの技術的,経済的困難性という観点から定められたことを理解できる。 そうすると,引用発明のガラス微小球について,「0.4?1.5mm」という必須の数値範囲の中でどのような値の粒径のものを選択するのかは,当業者が適宜決定できる設計上の事項にすぎない。 そして,前記引用刊行物の記載「水膜が微小球のレンズ効果を減殺しない様に十分大きな粒径の微小球を選ぶ」によれば充分大きな粒径の微小球を選ぶとしているのであるから,引用発明において,降雨時の再帰反射能を確保しつつ,「0.4?1.5mm」の範囲内から,より上限である1.5mmに近い粒径として,「粒径0.8?1.2mm」に代えて,例えば1.1mmから1.5mmの間で粒径が分布するガラス微小球(以下「粒径1.1?1.5mmのガラス微小球」という。)を用いることは,当業者が容易に想到し得たことである。 なお,「粒径1.1?1.5mmのガラス微小球」の粒径は道路標示用熱融性白色塗料の膜厚0.5mmの2.2?3倍の範囲にあって,引用発明の膜厚に対する粒径の「1.5?3倍」という必須の数値範囲を満足するから,前記ガラス微小球の変更に伴って道路標示用熱融性白色塗料の膜厚を変更する必要がないことは明らかである。 イ 一方,引用発明に形成された光再帰反射体の「約18%」というガラス微小球の塗装面上に占める面積比率は,「10?35%」という必須の数値範囲の中から選択された値であるところ,引用刊行物には,「粒径0.4?1.5mmの微小球のレンズ効果が減失されないことのみを目的としたときの実験的に求められた実用範囲は塗膜面に占める微小球の面積が35%以下である。そうして又低角度の再帰反射能については塗膜面に占める微小球の面積が10%以上であれば実用に供し得る。しかしながら道路屈曲部とかT字路に於てはある程度高い角度への再帰反射能も必要である。したがって最も望ましい微小球の嵌入量は塗膜面積の25?35%を微小球が占めるように作られた場合である。」(3頁右上欄1ないし末行。前記4(1)アを参照。)と記載されており,道路屈曲部やT字路で使用する場合等,より高い角度への再帰反射能が要求されるときには,ガラス微小球の塗装面上に占める面積比率を「25?35%」とする必要があることが説明されている。 そうすると,「約18%」という引用発明のガラス微小球の塗装面上に占める面積比率を,「25?35%」という数値範囲内の適宜の値に変更することは,引用刊行物の記載に基づいて,当業者が容易に想到し得たことである。 ウ ガラス微小球として前記アの「粒径1.1?1.5mmのガラス微小球」を用い,ガラス微小球の塗装面上に占める面積比率を前記イの「25?35%」に変更した場合の,ガラス微小球の1m^(2)当りの噴射量について,以下に検討する。 (ア)「粒径1.1?1.5mmのガラス微小球」の平均粒径は,その粒径の分布範囲の中央値である1.30mmに近似できる。 そして,各ガラス微小球の形状は真球に近似できるところ,「粒径1.1?1.5mmのガラス微小球」の粒径は,道路標示用熱融性白色塗料の膜厚である0.5mmの2倍を超えているから,各ガラス微小球1個が塗装面上に占める面積は,各ガラス微小球の最大断面積と一致する。 したがって,各ガラス微小球1個が塗布面上に占める面積をS(mm^(2)),各ガラス微小球の平均粒径をR(mm)で表すと,直径がRである真球の最大断面積はπ×(R/2)^(2)であるから,次の式が成り立つ。 S=π×(R/2)^(2) ・・・・・ 式(1) また,ガラス微小球の塗装面上に占める面積比率をa(%),1m^(2)という単位面積中に存在するガラス微小球の数をn(個)で表すと,1m^(2)=10^(6)mm^(2)であるから,次の式が成り立つ。 S×n=(1×10^(6))×(a/100) ・・・・・ 式(2) 前記式(2)を変形して,Sに式(1)を代入すると,1m^(2)という単位面積中に存在するガラス微小球の数nは次のとおりとなる。 n=(1×10^(6))×(a/100)/S =(1×10^(6))×(a/100)/(π×(R/2)^(2)) =(a×10^(4))/(π×(R/2)^(2)) ・・・・・ 式(3) 一方,各ガラス微小球1個の体積をV(mm^(3))とすると,直径がRである真球の体積は4/3×π×(R/2)^(3)であるから,次の式が成り立つ。 V=4/3×π×(R/2)^(3) ・・・・・ 式(4) 1m^(2)という単位面積中に存在するガラス微小球の全体積はV×n(mm^(3))であるから,1m^(2)という単位面積中に存在するガラス微小球の総重量(すなわち,ガラス微小球の1m^(2)当りの噴射量)をM(g),ガラスの比重をρで表すと,次の式が成り立つ。 M=ρ×10^(-3)×V×n ・・・・・ 式(5) 式(5)のnとVに,式(3)と式(4)をそれぞれ代入して変形すると,次のとおりとなる。 M=ρ×10^(-3)×{4/3×π×(R/2)^(3)}×{(a×10^(4))/(π×(R/2)^(2))} =20/3×ρ×R×a ・・・・・ 式(6) (イ)高屈折率ガラスでない,屈折率が約1.5程度の普通のガラスの比重は,約2.5である(なお,当該比重の2.5という値は,前記(ア)の手法で算出した引用発明における「1m^(2)当り300g」という粒径0.8?1.2mmのガラス微小球の噴射量と整合する。)。 当該比重の値約2.5と,「粒径1.1?1.5mmのガラス微小球」の平均粒径の1.30mmと,ガラス微小球の塗装面上に占める面積比率とを,式(6)に代入することによって,「粒径1.1?1.5mmのガラス微小球」を面積比率25?35%となるように塗布する場合,すなわち,引用発明において前記ア及びイの変更を行った場合の,ガラス微小球の1m^(2)当りの噴射量を算出することができるところ,その値は約542?約758gである。当該値は9.29平方メートル(100平方フィート)当たりに換算すると約5.03?約7.04キログラムに相当する。また,「粒径1.1?1.5mmのガラス微小球」を面積比率約33.8%となるように塗布したときのガラス微小球噴射量は,9.29平方メートル(100平方フィート)当たり約6.80キログラムとなる。 すなわち,引用発明において,ガラス微小球を前記アで容易に変更できるとした粒径分布が1.1?1.5mmのものに変更し,ガラス微小球の塗装面上に占める面積比率を前記イで容易に変更できるとした25?35%という範囲内の約33.8%としたものは,本願発明の9.29平方メートル(100平方フィート)当たり約6.80キログラムという塗布時の密度のものとなることになる。 エ 本件補正後の明細書の【0022】の「ビーズ230をバインダー層の約0.15ポンド/平方フィートの密度で塗布した場合に,良好な結果が観察された。バインダー層の0.15ポンド/平方フィートより低いか又は高い密度で塗布したビーズも,良好な結果を達成できる。」との記載によれば,バインダー材料の9.29平方メートル(100平方フィート)当たり約6.80キログラム(約15ポンド)の密度で塗布したものが,それ以外の密度で塗布したものに比べて,格別に意義があるものとも認められない。 オ 前記アないしエからみて,引用発明において,ガラス微小球を9.29平方メートル(100平方フィート)当たり約6.80キログラム(約15ポンド)の密度で塗布したものとなるような変更を行うこと,すなわち,相違点1に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは,当業者が容易に想到し得たことである。 (2)相違点2について 引用発明のガードレールは,その内側全面に光再帰反射体が形成されているところ,ガードレールの内側の面(道路に面する面)に傾斜面が存在することは自明である(例えば,特開平6-299521号公報の7頁の補正後の図7を参照。)から,引用発明は,相違点2に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備しているか,少なくとも,引用発明において,相違点2に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは,当業者が適宜なし得たことである。 (3)相違点3について ア 引用発明の「道路標示用熱融性白色塗料」は垂直面にも対応できる垂れの起こりにくい厚塗装用の塗料である。 したがって,当該道路標示用熱融性白色塗料を0.5mm厚にスプレイ塗装し,直後に粒径0.8?1.2mmのガラス微小球を1m^(2)当り300gエアスプレイガンでほぼ均一に噴射嵌入して形成した,ガラス微小球が塗料膜に粒径の1/3?2/3嵌入して成る引用発明の光再帰反射体においては,ガラス微小球が,道路標示用熱融性白色塗料の乾燥硬化後にも,概ね塗布時の状態のまま道路標示用熱融性白色塗料によって固定されていると解されるから,ガラス微小球が「相互に維持されている」といえる。 イ また,前記(1)ア及びイの変更(粒径及び面積比率)を行った引用発明においては,その光再帰反射体に,道路屈曲部やT字路での使用時に必要な再帰反射能を確保するのに十分な量のガラス微小球が存在しているのであって(前記(1)イを参照。),かつ,当該「ガラス微小球」の単位面積当たりの重量は,本願発明における単位面積当たりの「再帰反射粒体」の重量と同じ値である。 したがって,前記(1)ア及びイの変更を行った引用発明においては,光再帰反射体にガラス微小球が「緊密に」存在しているといえる。 ウ 前記ア及びイから,前記(1)ア及びイの変更を行った引用発明においては,ガラス微小球が「相互に緊密に維持されている」といえるから,前記(1)ア及びイの変更を行った引用発明は相違点3に係る本願発明の発明特定事項を具備している。 したがって,引用発明において,相違点3に係る本願発明の発明特定事項のように構成することは,前記(1)と同じ理由で,当業者が容易に想到し得たことである。 (4)効果について 本願発明が奏する効果は,引用刊行物の記載に基づいて,当業者が容易に予測できる程度のものである。 (5)まとめ 以上のとおりであるから,本願発明は,引用刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。 7 むすび 本願発明は,引用刊行物に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって,本願は,他の請求項について検討するまでもなく,拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-07-03 |
結審通知日 | 2014-07-08 |
審決日 | 2014-07-23 |
出願番号 | 特願2010-540960(P2010-540960) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(G02B)
|
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 博之 |
特許庁審判長 |
藤原 敬士 |
特許庁審判官 |
清水 康司 西村 仁志 |
発明の名称 | 再帰反射塗料及び構造物に再帰反射塗料を塗布する方法 |
代理人 | 赤松 利昭 |
代理人 | 奥谷 雅子 |
代理人 | 今井 千裕 |
代理人 | 武山 美子 |
代理人 | 尾首 亘聰 |
代理人 | 内藤 忠雄 |
代理人 | 山崎 行造 |