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審決分類 審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B21B
審判 全部無効 2項進歩性  B21B
管理番号 1295140
審判番号 無効2013-800041  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-03-15 
確定日 2014-11-19 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5025315号発明「熱間圧延用複合ロール、熱間圧延用複合ロールの製造方法及び熱間圧延方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5025315号に係る経緯の概要は、以下のとおりである。
平成19年 4月19日 特許出願(特願2007-110961号)
平成24年 6月29日 設定登録
平成25年 3月15日 本件無効審判請求(請求項1乃至4に対して )
同 年 6月 3日 答弁書、訂正請求書(被請求人)
同 年 7月18日 弁駁書(請求人)
同 年11月12日 口頭審理陳述要領書(請求人)
同 年11月26日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
同 年12月 3日 上申書(被請求人)
同 年12月10日 口頭審理

第2 平成25年6月3日付け訂正請求(以下「本件訂正請求」という)について
1.本件訂正請求の内容
本件訂正請求は、本件特許の特許請求の範囲及び明細書を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲及び訂正明細書のとおりに訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は次のとおりである(当審注:下線部分が訂正箇所である。)。
(訂正事項)
本件特許の請求項1について、
「鋼系材料からなる芯材の周囲に、質量比で、C:1.0?3.0%、Si:0.2?2.0%、Mn:0.2?2.0%、V:3.0?10.0%、Cr:3.0?10.0%、Mo、Wの1種または2種を2.0?10.0%およびTiを0.2%以下含有し残部Feおよび不可避的不純物からなる外層材を形成し、連続鋳掛け法を用いて複合ロールを製造するにおいて、溶解炉より外層材を出湯する際に取鍋もしくは注湯炉に出湯1kg当たりTiを0.5?5.0g添加することを特徴とする熱間圧延用複合ロールの製造方法。」とあるのを、
「鋼系材料からなる芯材の周囲に、質量比で、C:1.0?3.0%、Si:0.2?2.0%、Mn:0.2?2.0%、V:3.0?10.0%、Cr:3.0?10.0%、Mo、Wの1種または2種を2.0?10.0%およびTiを0.02%以上0.2%以下含有し残部Feおよび不可避的不純物からなる外層材を形成し、連続鋳掛け法を用いて複合ロールを製造するにおいて、溶解炉より外層材を出湯する際に取鍋もしくは注湯炉に出湯1kg当たりTiを0.5?5.0g添加することを特徴とする熱間圧延用複合ロールの製造方法。」と訂正する。

2.本件訂正請求についての判断
上記訂正事項は、外層材のTiの含有量について、0.2%以下含有することを発明特定事項としていたものについて、下限を限定し、0.02%以上0.2%以下と訂正するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的としたものと認められる。
そして、外層材のTiの含有量について下限を0.02%とすることは、本件明細書の段落【0021】の「最終的な本願発明材のTi含有量は、MC炭化物の晶出の接種核としての効果ならびに基地組織における極めて硬く微小なTi炭化物(TiC)の析出による耐摩耗性の向上効果を有する0.02%を下限とし、また介在物欠陥を生じない限界値として0.2%を上限とした。」という記載からみて、願書に添付した明細書に記載した事項であることは明らかである。
したがって、上記訂正事項は、特許請求の範囲の減縮を目的とし、願書に添付した明細書に記載した範囲内の訂正であり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

3.まとめ
以上のとおり、上記訂正事項は、特許法第134条の2第1項及び同条第9項で準用する特許法第126条第5及び6項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。

第3 本件発明
上記「第2」において、本件訂正請求における訂正は認められるので、本件特許の請求項1乃至4に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、本件特許の請求項1乃至4に係る発明をまとめて「本件特許発明」という。)。
1.本件特許の請求項1に係る発明(以下、「本件特許発明1」という。)
「鋼系材料からなる芯材の周囲に、質量比で、C:1.0?3.0%、Si:0.2?2.0%、Mn:0.2?2.0%、V:3.0?10.0%、Cr:3.0?10.0%、Mo、Wの1種または2種を2.0?10.0%およびTiを0.02%以上0.2%以下含有し残部Feおよび不可避的不純物からなる外層材を形成し、連続鋳掛け法を用いて複合ロールを製造するにおいて、溶解炉より外層材を出湯する際に取鍋もしくは注湯炉に出湯1kg当たりTiを0.5?5.0g添加することを特徴とする熱間圧延用複合ロールの製造方法。」

2.本件特許の請求項2に係る発明(以下、「本件特許発明2」という。)
「質量比でNi:0.2?5.0%、Co:0.2?10.0%、Nb:0.2?2.0%の1種または2種以上を含有したことを特徴とする請求項1に記載の熱間圧延用複合ロールの製造方法。」

3.本件特許の請求項3に係る発明(以下、「本件特許発明3」という。)
「帯鋼または鋼板を熱間圧延する連続熱間圧延機群に組み込まれる熱間圧延用複合ロールであって、請求項1または2に記載の製造方法にて製造されたことを特徴とする熱間圧延用複合ロール。」

4.本件特許の請求項4に係る発明(以下、「本件特許発明4」という。)
「鋼板を熱間連続圧延機にて圧延成形する熱間圧延方法において、前記圧延機群における後方3基の圧延機の少なくとも1基以上の圧延機にて複合ロールの直径を250?620mm且つ縦弾性係数を200GPa以上とした請求項3に記載の熱間圧延用複合ロールを使用し、引張強さ800MPa以上の鋼板を圧下率40%以上で圧延することを特徴とする圧延方法。」

第4 請求人及び被請求人の主張の概要及び証拠方法
1.請求人の主張は、おおむね、以下の無効理由1、2のとおりである。
(1)無効理由1
本件特許発明1乃至4は、特許出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である下記の甲第1号証?甲第7号証に記載された発明及び周知技術に基づいて、当業者が特許出願前に容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同法第123条第1項第2号に該当し、本件特許は無効とすべきものである。(審判請求書5頁下から7?2行)
<証拠方法>
(1)甲第1号証:特開2002-346613号公報
(2)甲第2号証:特開平3-56642号公報
(3)甲第3号証:特開平5-98392号公報
(4)甲第4号証:中江秀雄、「鋳造工学」、産業図書株式会社、1998 年4月1日、初版第3刷、p.131-133
(5)甲第5号証:“IRON CASTINGS HANDBOOK、THE GRAY AND DUCTILE IRON FOUNDERS' SOCIETY INC.、1971、p.192-199
(6)甲第6号証:特公平7-78267号公報
(7)甲第7号証:特公昭43-9043号公報

(2)無効理由2
本件特許発明1は、明細書に記載されないTiを0.02%以下含む外層材まで、特許請求の範囲に含むことになり、発明の詳細な説明に記載したものではなく、本件特許発明2?4についても、本件特許発明1を引用する部分において、同様の瑕疵があり、発明の詳細な説明に記載したものとはいえないことから、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、同法第123条第1項第4号に該当し、本件特許は無効とすべきものである。(審判請求書5頁末行?6頁3行)

2.被請求人の主張の概要
(1)無効理由1について
甲第1?7号証のいずれにも、「溶解炉より外層材を出湯する際に取鍋もしくは注湯炉に出湯1kg当たりTiを0.5?5.0g添加すること」は記載も示唆もされておらず、本件特許発明1が、「Tiを晶出核としてMC炭化物を均一に分布させ、かつ、Ti添加の副作用である酸化物系介在物を残存させない」という顕著な効果を発揮するのであるから、本件特許発明1は、当業者によって容易に想到し得るものでない。(答弁書9頁19?28行)

(2)無効理由2について
本件特許発明1は、「Tiを0.02%以上 0.2%以下含有」することを発明特定要件とし、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載したものとなっており、無効理由2に該当しない。(答弁書11頁8?13行)

<証拠方法>
(1)乙第1号証:特開平5-148584号公報
(2)乙第2号証:特開平5-169219号公報
(3)乙第3号証:「Continuous Pouring Process for Cladding(CPC
process) of Rolls」, ISS, 2002年9月
(4)乙第4号証:社団法人日本金属学会、「改訂6版金属便覧」、丸善株 式会社、平成12年5月30日、944?947頁
(5)乙第5号証:「ROLES OF OXIDES IN STEELS PERFORMANCE -
METALLURGY OF OXIDES IN STEELS-1 -」,Proceeding
of The Sixth International Iron and Steel
Congress, 1990, Nagoya, ISIJ
(6)乙第6号証:溝口庄三、「技術・研究トピックス 銅のオキサイドメ タラジー」、ISIJ情報ネットワーク、平成3年6月 号、N285?N286頁

第5 当審の判断
(無効理由1について)
1.本件特許発明について
(1)本件特許発明の特許請求の範囲は、前記「第2」に記載のとおりであるところ、本件特許明細書には次の記載がある。
ア 本件特許発明は、「熱間帯鋼連続圧延において、圧延鋼材との間で高い摩擦係数を有し摩耗が少なく、かつ扁平や降伏損傷しない作動ロールおよびその製造方法を提供するとともに、これを用いて仕上げ後段圧延機群において高圧下圧延を安定して行うことにより、生産性が高く経済的な圧延方法を提供するものである。」(【0005】)
イ 「本発明の要旨とするところは、
(1)帯鋼または鋼板を熱間圧延する連続熱間圧延機群の後方3基の圧延機に組み込まれる熱間圧延用複合ロールにおいて、鋼系材料からなる芯材の周囲に、質量%で、C:1.0%?3.0%、Si:0.2?2.0%、Mn:0.2?2.0%、V:3.0?10.0%、Cr:3.0?10.0%を含有し、Mo、Wの1種または2種を2.0?10.0%を含有し、およびTiを0.2%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる外層材を連続鋳掛け法を用いて形成することにより複合ロールを構成し、・・・(略)・・・
(3)連続鋳掛け法にて複合ロールを製造するにおいて、溶解炉より外層材を出湯する際に取鍋もしくは注湯炉に出湯1kg当たりTiを0.5?5.0g添加したこと。」(【0006】?【0008】)
ウ 本件特許発明は、「ホットストリップミルの仕上げ後段圧延機列での高強度鋼板の高圧下圧延が可能となり経済的で生産性の向上ができ、さらに圧延製品の品質向上がなされ、工業的に大きな価値を有するものである。」(【0010】)
エ 「まず本発明の圧延用ロール材の主要な構成について述べる。耐摩耗性を確保し、圧延鋼材との間で大きな摩擦を確保するためには、炭化物は硬くて粒状のものが望ましく、MC型炭化物を主体に使用する。とくに本発明を適用する熱間帯連続仕上げ後段圧延機群において鋼圧延用ロールとして最も重要な性質である耐摩耗性を確保するため、従来技術で述べた高圧下圧延を実現するためには、MC炭化物の晶出量は面積率で5%以上確保することが必要である。」(【0011】)
オ 「Tiを本願発明の連続鋳掛け法に利用した際に、Tiは極めて強い酸化物形成元素であり、酸化物系介在物が外層材に残存することが分った。すなわちTiが溶湯内酸素と反応して多量の酸化物系介在物となり、これが連続鋳掛法の特徴の一つをなす溶湯の誘導加熱による撹拌により凝固界面に到達して捉えられ介在物欠陥として凝固後の外層材に残存し材料を著しく損なう結果となった。一方、Tiは前述のとおりMC炭化物の晶出核として分散、特に結晶粒内に晶出しより分散して均一に分布させる極めて有効なものであり、副作用の介在物欠陥として残存させないこととの両立が不可欠であった。」(【0021】)
カ 「本発明においてはTiを溶解炉からの出湯時の取鍋中もしくは注湯炉に投入し、かつその量は出湯1kg当たりTiを0.5?5.0gとすることが望ましいことを見出した。」(【0021】)
キ 「他の合金元素と同様に溶解炉中に添加すればTiの多くは酸化物としてスラグの一部となり、溶湯内のTiも凝固までの経過時間が十分あることにより浮上分離してMC炭化物の晶出核となりえない。」(【0021】)
ク 「耐火枠内に直接添加した場合には耐火枠内にて酸化反応を生じ、直接的に前記のとおり誘導撹拌により凝固界面に至り介在物欠陥となる。」(【0021】)
ケ 「最終的な本願発明材のTi含有量は、MC炭化物の晶出の接種核としての効果ならびに基地組織における極めて硬く微小なTi炭化物(TiC)の析出による耐摩耗性の向上効果を有する0.02%を下限とし、また介在物欠陥を生じない限界値として0.2%を上限とした。」(【0021】)

(2)以上によれば、本件特許発明は、連続鋳掛け法を用いて外層材を形成する熱間圧延用複合ロールの製造方法において、外層材における炭化物を硬くて粒状のものとするために、MC炭化物の晶出核として有効なTiを連続鋳掛け法の外層材に添加したものであり、Tiの添加について、溶解炉中に添加した場合は、Tiの多くは酸化物としてスラグの一部となり、溶湯内のTiも凝固までの経過時間が十分あることにより浮上分離してMC炭化物の晶出核となりえず、また、耐火枠内に添加した場合は、耐火枠内にて酸化反応を生じ、介在物欠陥となるという問題を解決するために、Tiを溶解炉からの出湯時の取鍋中もしくは注湯炉に投入し、かつその量を出湯1kg当たりTiを0.5?5.0gとし、外層材のTi含有量を、MC炭化物の晶出の接種核としての効果及び微小なTi炭化物の析出による耐摩耗性の向上効果を有する0.02%を下限とし、介在物欠陥を生じないように0.2%を上限としたことにより、圧延鋼材との間で高い摩擦係数を有し、摩耗が少なく、扁平や降伏損傷しない作動ロールを製造することができるという効果を奏するものである、と理解することができる。

2.甲第1号証の記載について
(以下、甲第1号証を単に「甲1」、甲第2号証を単に「甲2」などと記載する。)
(1)甲1には、「熱間圧延用複合ロールおよびそれを用いた熱間圧延方法」(発明の名称)について、次の記載がある(下線は当審により付与。)。
「【請求項1】 帯鋼または鋼板を熱間連続圧延する仕上げタンデム圧延機群の後方3基の圧延機に作動ロールとして組み込まれる熱間圧延用複合ロールであって、該ロールの直径を250?620mmとし、縦弾性係数を200?260Gpaにすると共に、外層の化学成分が質量比で、C:1.0?3.0%、Si:0.2?2.0%、Mn:0.2?2.0%、V:3.0?10.0%、Cr:3.0?10.0%およびMo、Wの1種または2種を2.0?10.0%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなることを特徴とする熱間圧延用複合ロール。
【請求項2】 質量比で、Ni:0.2?5.0%またはCo:0.2?10.0%の1種または2種を含有したことを特徴とする請求項1に記載の熱間圧延用複合ロール。」(【特許請求の範囲】)
「Al、Ti、Zrは、MC型炭化物の晶出核を生成し、炭化物の大きさを減少し、かつ、分散晶出させる効果があり、この目的で添加されても本発明の効果を損なうものではない。」(【0016】)
「次に、製造方法について述べる。先ず、本発明の化学成分からなる溶湯を耐火枠と芯材との間に注入して誘導加熱を行ない、次いで、該耐火枠の下方に設けた水冷モールドで前記溶湯を凝固して外層部を形成し、しかる後、一体となった外周部と芯材を順次下方へ引出して複合ロールを製造する。これにより、本発明材の理想的な鋳造組織となり、かつ、他法に比べ極めて緻密な組織が得られるものである。」(【0019】)
「【実施例】本発明の実施例として表1に示す化学成分にて連続鋳掛け法にて鋳造し、前記熱処理を施した後、図1に示す熱間圧延設備の構成図のように、6基の仕上連続圧延機を有するホットストリップミルにおいて仕上後段圧延機群3として仕上後段作動ロール1のところに組み込み圧延作業に供した。」(【0022】)

(2)上記の記載から、甲1には、
「化学成分が質量比で、C:1.0?3.0%、Si:0.2?2.0%、Mn:0.2?2.0%、V:3.0?10.0%、Cr:3.0?10.0%及びMo、Wの1種または2種を2.0?10.0%含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる溶湯を、耐火枠と芯材との間に注入して誘導加熱を行ない、次いで、該耐火枠の下方に設けた水冷モールドで前記溶湯を凝固して外層部を形成し、しかる後、一体となった外周部と芯材を順次下方へ引出して複合ロールを製造する熱間圧延用複合ロールの製造方法。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されているということができる。

3.対比・判断
(1)甲1発明において、「溶湯を、耐火枠と芯材との間に注入して誘導加熱を行ない、次いで、該耐火枠の下方に設けた水冷モールドで前記溶湯を凝固して外層部を形成し、しかる後、一体となった外周部と芯材を順次下方へ引出して複合ロールを製造する熱間圧延用複合ロールの製造方法」とは、連続鋳掛け法による熱間圧延用複合ロールの製造方法に関するものであることは技術常識である。
そして、甲1発明の「溶湯」の「外層」は、本件特許発明1の「外層材」に相当する。
そうすると、本件特許発明1と甲1発明とは、「芯材の周囲に、質量比で、C:1.0?3.0%、Si:0.2?2.0%、Mn:0.2?2.0%、V:3.0?10.0%、Cr:3.0?10.0%及びMo、Wの1種または2種を2.0?10.0%残部Feおよび不可避的不純物からなる外層材を形成し、連続鋳掛け法を用いて複合ロールを製造する熱間圧延用複合ロールの製造方法。」である点で一致し、次の相違点1?3で相違する。
(相違点1)
芯材について、本件特許発明1では鋼系材料からなるのに対し、甲1発明では、鋼系材料から成るかどうかは明らかではない点。
(相違点2)
外層材について、本件特許発明1では、Tiを0.02%以上0.2%以下含有するのに対し、甲1発明では、Tiの含有量は不明な点。
(相違点3)
本件特許発明1では、溶解炉より外層材を出湯する際に取鍋もしくは注湯炉に出湯1kg当たりTiを0.5?5.0g添加するのに対し、甲1発明では、Tiが添加されるとしても、Tiの添加はどのように行われているか不明な点。

(2)事案に鑑み、まず、相違点3について検討する。
甲1には、「Al、Ti、Zrは、MC型炭化物の晶出核を生成し、炭化物の大きさを減少し、かつ、分散晶出させる効果があり、この目的で添加されても本発明の効果を損なうものではない。」(【0016】)と記載されていることから、甲1には、TiをMC型炭化物の晶出核を生成し、炭化物の大きさを減少し、かつ、分散晶出させる目的で添加することが記載されていると認められる。

そこで、甲2?7の記載に基いて、TiをMC型炭化物の晶出核を生成し、炭化物の大きさを減少し、かつ、分散晶出させる目的で添加する際に、「溶解炉より外層材を出湯する際に取鍋もしくは注湯炉に出湯1kg当たりTiを0.5?5.0g添加する」ことを当業者が容易に想到し得たかどうかについて、以下、検討する。

まず、甲2?甲7の記載について検討する。
ア 甲2(特開平3-56642号公報)について
甲2には、「熱間圧延用鍛造ロール及びその製造法」(発明の名称)について、次の記載がある。
(甲2ア)「特許請求の範囲
(1)C 1.5?2.5重量%(以下同じ)
Si 1.2%以下
Mn 1.2%以下
Cr 1.5?6.0%
Mo
W >Mo+0.5Wとして1.5?5.0%
V 4.5?8.0%
残部が不可避的不純物であつて、かつ
C=%V×0.24+(0.4?1.0)%及び
0.3Cr+(Mo+0.5W)が2.6%以上
を満足することを特徴とする、胴内部及び軸部が強靭性に富みかつ耐摩耗性と耐熱性に優れた熱間圧延用鍛造ロール。
(2)特許請求の範囲第(1)項において、
Ni3.0%以下、Co5.0%以下、Nb2.0%以下、Ti2.0%以下の1種以上を添加したことを特徴とする、胴内部及び軸部が強靭性に富みかつ耐摩耗性と耐熱性に優れた熱間圧延用鍛造ロール。」(1頁左下欄4行?右下欄3行)
(甲2イ)「本発明においては、高硬度かつ粒状のMC型炭化物を形成する元素の主体はVであるが、Nb及びTiもVと同様のMC型炭化物を形成するのでVとともに添加すると効果的である。しかし、添加量が多くなると溶解が困難となるので、それぞれ上限を2.0%とした。」(5頁左上欄17行?右上欄2行)

これらの記載から、甲2には、熱間圧延用鍛造ロールの成分中に2.0%以下のTiを含有させることにより、NbとともにVと同様のMC型炭化物を形成させて、胴内部及び軸部が強靭性に富みかつ耐摩耗性と耐熱性に優れた熱間圧延用鍛造ロールとすることができることが記載されていると認められる。

イ 甲3(特開平5-98392号公報)について
(甲3ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】C:1.0?2.5%,Si:0.3?2.0%,Mn:0.1?2.0%,Cr:3.0?10.0%,Mo<6.0%,W<6.0%,V:8.0?15.0%,残部Feおよび不可避不純物よりなる成分に、Ti:0.01?2.0%を添加することを特徴とする熱間圧延用耐摩耗・耐熱亀裂ロール材。」
(甲3イ)「【0014】さらに発明者らは検討を重ねた結果、微量のTiを添加するとTi酸化物の周辺に炭化物が微細に晶析出すること、および亀裂伝播のもととなるネット状炭化物の析出を抑制することを見出した。その結果、靱性および熱亀裂特性が改善できる。
【0015】この場合Ti量が0.01%未満ではその効果は充分でなく、2.0%以下でその効果は充分発揮される。最終的には、炭化物の量により添加量は調節すればよい。なおTiの添加法としては、脱酸剤として添加すると合理的である。また確実にTi酸化物を生成するために、同時にFe_(3)O_(4)やFeO等のスケールを添加するとより効果的である。」

これらの記載から、甲3には、熱間圧延用耐摩耗・耐熱亀裂ロール材中に、Tiを0.01?2.0%含有させることにより、亀裂伝播のもととなるネット状炭化物の析出が抑制され、その結果、靭性及び熱亀裂特性が改善できることが記載されていると認められる。

ウ 甲4(中江秀雄、「鋳造工学」、産業図書株式会社、1998年4月1日、初版第3刷、p.131-133)について
甲4には、「7.1 接種処理とその機構」の項に、次の記載がある。
(甲4ア)「接種とは,鋳鉄溶湯に取鍋や鋳型内で少量の特種な物質を添加することで,主として黒鉛化に作用し,セメンタイトの生成を防止する溶湯処理をいう.また通常は接種処理により,得られた鋳鉄の組織は均一化し,材質,特に機械的性質の向上をもたらす.これらの効果が単なる合金化作用に比べて著しいものを接種といっている.現時点で多用されている接種剤は,Fe-Si合金を基本に,少量のCa,Sr,Ba,Ce,Alなどの強力な脱酸元素を含有させたものが一般的である.」(131頁下から7?末行)
(甲4イ)「接種処理の特徴の1つには,その効果が時間と共に変化(減少)する現象がある.この現象をフェーディングという.したがって,接種した溶湯は安定した状態にあるとは言い難く,むしろ非平衡な遷移状態にある,と言うべきであろう.ここに接種機構を考える上での重要なヒントが隠されている,と筆者は考えている.すなわち,接種剤が溶湯中に溶解する過程で,何らかの黒鉛核物質が生成されている,と考えられている.この生成物質は化学的,あるいは物理的に不安定で,時間と共に消滅すると考えると,先のフェーディング現象が良く説明できる.」(132頁15?22行)

これらの記載から、甲4には、接種とは、鋳鉄の主として鋳鉄の黒鉛化に作用し、セメンタイトの生成を防止するために、取鍋や鋳型内で少量の物質を鋳鉄に添加する溶湯処理であり、この接種処理により、鋳鉄の組織は均一化し、材質、機械的性質の向上をもたらすことが記載され、接種処理は、その効果が時間と共に変化(減少)するフェーディングと呼ばれる現象があることが記載されていると認められる。

エ 甲5(IRON CASTINGS HANDBOOK、THE GRAY AND DUCTILE IRON
FOUNDERS' SOCIETY INC.、1971、p.192-199)について
甲5には、次の記載がある(和訳は請求人によるもの。)。
「c) Inoculation The addition of small quantities of alloying
material to the molten metal just before it is poured into the
molds is called inoculation. Certain elements in very small
quantities have an important effect on the nuclei for the
formation of graphite during solidification and thus influence
the resulting structure and the strength of the iron.」(199頁上から1?5行)
和訳:「接種 鋳型に注入する直前の溶湯に少量の合金材を添加することを接種という。ある種の元素は極少量で、凝固過程での黒鉛形成のための核として重要な作用を有し、その結果、鋳鉄の組織および強度に影響する。」

この記載から、甲5には、鋳型に注入する直前の溶湯に少量の合金材を添加することが接種と呼ばれるものであり、該合金材は、凝固過程での黒鉛形成のための核として作用し、鋳鉄の組織および強度に影響することが記載されていると認められる。

オ 甲6(特公平7-78267号公報)について
甲6には、「圧延用複合ロール及びその製造方法」(発明の名称)について、図表とともに次の記載がある。
(甲6ア)「〔技術分野〕
本発明は固相芯材の周囲に外層材を鋳造して構成した圧延用複合ロール及びその製造方法に関する。」(2頁3欄7?9行)
(甲6イ)「Al、Ti等の酸化物生成元素はロール鋳造中に溶湯へ接種されると溶湯中に酸化物例えばAl_(2)O_(3)、Ti_(2)O_(3)などが生成し、この酸化物が核となって、この周囲にVC炭化物が晶出する。従って、VC炭化物を分散晶出するには重要な元素であって、上記元素の内の1種又は2種をAl:0.05?0.20%、Ti:0.02?0.10%の範囲で添加する必要がある。」(3頁5欄38?44行)
(甲6ウ)「本発明の複合ロールは第6図及び第7図の装置によって製造される。
同図に示されるように、SCM440等の合金鋼からなるロッド状芯材1が昇降可能に設置され、該芯材1が挿通された開口を有するプラットホーム3上には、上部から順に予熱コイル4、耐火枠5、誘導加熱コイル6及び水冷ホールド7がそれぞれ芯材1を中心として同軸的に配設されている。芯材1は低い速度をもって下方に一定速度で運動するよう図示外の手段により支持されている。かゝる装置においてまず予熱コイル4により芯材1を加熱し、取鍋8に貯留された高速度鋼等からなる溶湯9をノズル8aを介して予熱された芯材1の外周と耐火枠5とにより郭成された環状空隙内に導入する。耐火枠5の周囲に設けた加熱コイル6により耐火枠5内の溶湯9が加熱される。耐火枠5の下端は、水冷モールド7に接しており、水冷モールド7と芯材1との間に導入された溶湯が順次凝固し外層部2を形成する。」(4頁7欄9?25行)
(甲6エ)「結晶粒径を小さくするために凝固速度を大きくすると、副作用として外層と芯材の溶着が損なわれることがある。そこで、前述したように外層溶湯に誘導加熱コイルを用いて熱を供給し、完全に溶着させる必要がある。しかしながら誘導加熱は熱を供給するとともに溶湯を攪拌させるため加熱電力を増加するとともに攪拌力も増加し、溶湯表面の酸化被膜材およびスラグ等の異物を凝固界面に結果として凝固後の外層に異物が残存し、著しく品質を損なう場合がある。これを防止するため、攪拌力を抑制する目的で周波数を大きくする必要があり、第5図に示すとうり、5KHz以上にすることによりこの異物かみ込みによる欠陥を防止することが可能となった。」(4頁8欄16?27行)
(甲6オ)第6図「



(甲6カ)第7図「


これらの記載から、甲6には、固相芯材の周囲に外層材を鋳造して構成した圧延用複合ロールの製造方法において、Al又はTiの1種又は2種を、Al:0.05?0.20%、Ti:0.02?0.10%の範囲でロール鋳造中に溶湯へ接種することで、溶湯中にAl_(2)O_(3)、Ti_(2)O_(3)などのVC炭化物を晶出させるための核となる酸化物を生成させることが記載されており、外層溶湯に誘導加熱コイルによって熱を供給する際に、誘導加熱によって溶湯が攪拌されるために、溶湯表面の酸化被膜材及びスラグ等の異物が凝固後の外層に残存することを防止するために、攪拌力を抑制する目的で、誘導加熱の周波数を5KHz以上と大きくして、異物かみ込みによる欠陥を防止することも記載されていると認められる。

カ 甲7(特公昭43-9043号公報)について
甲7には、「圧延用ロールの製造法」(発明の名称)について、次の記載がある。
「そこで胴外殻厚肉部の組織、硬度の変化がなくて偏析層およびそれに附随した層状欠陥を減少または消失してロール径が最小となるまで一定の性能を維持できる真の意味での遠心力鋳造の特性を充分に発揮したロールが望まれている。
本発明は、圧延用ロールの胴外殻厚肉部を遠心鋳造により造形し、その内部中空部に胴芯部および頸部を鋳込んで、胴外殻厚肉部と胴芯部とを異質体より構成せしむるに当り、胴外殻厚肉部となる溶湯の鋳込前溶湯内にチタニウムを添加し、その添加量をしてロール製造後の残留量が0.04%以上となるようにすることにより上記の要望に応えしめたのである。しかして、一般原料鉄中には、チタニウムが相当量含まれたものがあるが、再溶解中にチタニウムは0.01%前後まで酸化消失するので、例えばアダマイトロール材の場合にチタニウムの残留量0.04%以上歩留らせるには、溶湯内にチタニウムを0.1%添加しなくてはならない。」(1頁右欄14?31行)

この記載から、甲7には、圧延用ロールの胴外殻厚肉部を遠心鋳造法により造形する圧延用ロールの製造法において、胴外殻厚肉部の組織、硬度の変化がなくて偏析層およびそれに附随した層状欠陥を減少または消失したロールを製造するために、ロール製造後のチタニウムの残留量が0.04%以上となるように、胴外殻厚肉部となる溶湯の鋳込前溶湯内に、チタニウムを添加することが記載されていると認められる。

そうすると、甲2?5には、MC型炭化物の晶出核を生成し、炭化物の大きさを減少し、かつ、分散晶出させる目的でのTiの添加について、「溶解炉より外層材を出湯する際に取鍋もしくは注湯炉にTiを添加する」ことについて、直接的な記載ないし示唆があるとはいえない。

また、甲6には、固相芯材の周囲に外層材を鋳造して構成した圧延用複合ロールの製造方法において、溶湯中にAl_(2)O_(3)、Ti_(2)O_(3)などのVC炭化物を晶出させるための核となる酸化物を生成させるために、Tiをロール鋳造中に溶湯へ接種することが記載されているもの、接種を行う場所についての記載はない。
一方、甲4及び甲5の記載からは、鋳鉄溶湯に取鍋や鋳型内で、凝固過程での黒鉛形成のための核として少量の物質を添加することが「接種」という用語で表されるように周知技術であるといえる。
しかしながら、甲6に記載された「接種」と、甲4、5に記載された「接種」とは、Al、Ti等の酸化物生成元素である点で添加する物質は同じであるものの、甲6に記載されたものは、VC炭化物を分散晶出するための酸化物の核を生成しようとするものであり、甲4、5に記載されたものは、溶湯の凝固過程での黒鉛形成のための核を生成しようとするものであって、両者の「接種」のための物質を添加する目的、機序及び作用効果が異なるものであるから、甲4、5の「接種」についての記載を根拠として、甲6に記載されたAl、Ti等の酸化物生成元素の溶湯への「接種」が、取鍋において行われていると特定することはできない。

また、甲4、5に記載された溶湯の凝固過程での黒鉛形成のための核として少量の物質を添加する接種では、その効果が時間と共に変化(減少)すること(甲4イ)を考慮すれば、甲4、5に記載された「接種」は、溶湯が凝固する直前に行われることが望ましいといえるものである。
そうすると、甲4に「接種」が取鍋に対して行われることが記載されているとしても、溶湯が凝固を始めるまでに、比較的、時間がある取鍋に対して接種を行うことを積極的に選択する動機付けは見いだすことができない。

そして、甲7には、圧延用ロールの胴外殻厚肉部を遠心鋳造法により造形圧延用ロールの製造法において、胴外殻厚肉部となる溶湯の鋳込前溶湯内に、チタニウムを添加することが記載されている。
しかしながら、甲7におけるチタニウムの添加は、鋳込前のどの時点で行われるのかは不明であり、甲7におけるチタニウムの添加が、MC型炭化物の晶出核を生成し、炭化物の大きさを減少し、かつ、分散晶出させる目的で行われたものかどうかも不明であり、しかも、甲7に記載されたものは、遠心鋳造法による造形圧延用ロールの製造法であって、本件特許発明1のような連続鋳掛け法を用いたものではなく、遠心鋳造法と連続鋳掛け法とでは、溶湯の注入の仕方が異なることは技術常識であるから、甲7の記載を根拠として、「溶解炉より外層材を出湯する際に取鍋もしくは注湯炉にTiを添加する」ことを当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

以上のことから、請求人の提示した証拠からは、連続鋳掛け法を用いて複合ロールを製造するにあたり、TiをMC炭化物の晶出核として機能させるために、溶解炉より外層材を出湯する際に取鍋もしくは注湯炉にTiを添加することが、本件特許出願前に公知、周知技術ないし技術常識であったとすることはできない。

そして、「他の合金元素と同様に溶解炉中に添加すればTiの多くは酸化物としてスラグの一部となり、溶湯内のTiも凝固までの経過時間が十分あることにより浮上分離してMC炭化物の晶出核となりえ」(上記「第4 1.(1)キ」)ず、「耐火枠内に直接添加した場合には耐火枠内にて酸化反応を生じ、直接的に前記のとおり誘導撹拌により凝固界面に至り介在物欠陥となる」(同「ク」)という、Tiの添加を溶解炉又は耐火枠内に行った場合に生じる問題については、甲1?7においては記載されていない。
本件発明では、上記の問題を認識した上で、連続鋳掛け法を用いて複合ロールを製造するにおいて、溶解炉より外層材を出湯する際に取鍋もしくは注湯炉に出湯1kg当たりTiを0.5?5.0g添加し、外層材にTiを0.02%以上0.2%以下含有させることにより、TiをMC炭化物の晶出核として機能させ、副作用の介在物欠陥として残存させないようにして(同「オ」)、高い摩擦係数を有し摩耗が少なく、かつ扁平や降伏損傷しない作動ロールが得られる(同「ア」)という、甲1?7に記載されたものからは当業者によって予測されない顕著な効果を奏するものであるから、甲1発明及び甲6、7に記載されたものにおいて、取鍋もしくは注湯炉にTiを添加することが排除されないとしても、本件特許発明1は、甲1発明及び甲2?7の記載からは、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

(3)請求人の主張について
「甲第6号証においても、第2表の記載等から、一般的な『接種』と同じく接種材を溶解炉中ではなく、溶解炉より外層材を出湯する際に添加していることが分かる。
・・・(略)・・・甲第6号証の発明の詳細な説明の第6、7図に示されているように甲第6号証に用いられた装置は取鍋8から耐火枠5に溶湯9が注入されるものであり」(弁駁書4頁25行?5頁7行)、及び、「甲第6号証記載の発明において、Tiを『ロール鋳造中に溶湯へ接種』できる、又はロール鋳造中に溶湯へTiの添加が行われる可能性のある場所は、取鍋8と耐火枠5との何れか一方、或いは両方となります。
しかしながら、耐火枠内の溶湯表面は『酸化被膜材およびスラブ等の異物』(甲第6号証4頁8欄22行)で覆われているので、耐火枠内の溶湯にTiを添加することは物理的に困難であると思料できます。
したがって、甲第6号証記載の発明において、Tiの添加が行われる場所は取鍋であると特定できます。」(口頭審理陳述要領書3頁7?14行)と主張しているので、甲6において、Tiの添加が行われる場所は取鍋であると特定できるかどうかについて、検討する。

甲6の「誘導加熱は熱を供給するとともに溶湯を攪拌させるため加熱電力を増加するとともに攪拌力も増加し、溶湯表面の酸化被膜材およびスラグ等の異物を凝固界面に結果として凝固後の外層に異物が残存し、著しく品質を損なう場合がある。」(4頁8欄20?24行)という記載からみて、甲6に記載された溶湯9の表面に、酸化被膜材及びスラグ等の異物が存在することがあるとしても、甲6の「取鍋8に貯留された高速度鋼等からなる溶湯9をノズル8aを介して予熱された芯材1の外周と耐火枠5とにより郭成された環状空隙内に導入する。」(4頁7欄19?21行)という記載及び第7図からみて、Al、Ti等の酸化物生成元素の溶湯中への「接種」は、第7図の耐火枠5内の表面から溶湯9の内部にかけて配置されたノズル8aから溶湯9とともに添加することで、溶湯9の表面の酸化被膜材及びスラグ等の異物にかかわらず、耐火枠5内の溶湯9にAl、Ti等の酸化物生成元素の添加を行うことも可能であるということができる。
そうすると、甲6において、Al、Ti等の酸化物生成元素を溶湯へ添加することができる場所は、取鍋8に限定されるものではないことから、Al、Ti等の酸化物生成元素の溶湯への添加が、取鍋において行われていると特定することはできない。

以上のとおり、請求人の上記主張は採用できない。

4.まとめ
以上のとおり、相違点1、2について検討するまでもなく、本件特許発明1は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

5.本件特許発明2乃至4について
本件特許発明2乃至4は、実質的に請求項1を引用し、本件特許発明1の全ての発明特定事項を含むものであり、本件特許発明1と同様な理由から、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものとすることはできない。

(無効理由2について)
上記「第2」のとおり、本件訂正請求は認められるので、当該無効理由2は解消した。


第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1乃至4の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
熱間圧延用複合ロール、熱間圧延用複合ロールの製造方法及び熱間圧延方法
【技術分野】
【0001】
本発明は鉄鋼の圧延において特に鋼板の熱間連続圧延、すなわちホットストリップミルの仕上げ圧延機列に用いられる圧延用ロール、該圧延用ロールの製造方法および前記圧延用ロールを使用した圧延方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、鉄鋼の金属組織を微細化することにより、引張強度、降伏強度、靱性および疲労強度等の機械的性質が向上することが確認され、そのような鋼板の実機圧延機での生産が強く望まれている。鋼板の熱間連続圧延機にて微細粒組織を得るための重要な要素技術として、例えば下記の特許文献1には、後段圧延機群にてスリップを生じにくい作動ロールを用い高圧下圧延を実施することが開示されている。その要点は以下のとおりである。
【0003】
前記後段圧延機列にて高圧下圧延を実現するにおいては、前段圧延機列に比べ、例えば仕上げ厚みが6.0mm以下の如く、圧延鋼板の板厚が著しく小さく且つ温度も低くて変形しにくいために、圧延用ロールと圧延鋼板との短い接触部において大きな圧延荷重に耐えて安定して鋼板を圧延する、すなわち摩擦により前進させることが可能な圧延用ロールが不可欠である。すなわち、圧延鋼板との間で高く安定した摩擦係数を確保し、さらに圧延ロールの表面が降伏せず偏平が小さく、更に、摩耗の少ないロールが強く望まれていた。
しかしながら、前記のように、変形し難い薄板を、後段圧延機群にて圧延するに際し、高圧下圧延を行おうとすると従来材質、例えば高合金グレン鋳鉄材、鋳掛けハイス材等からなる圧延ロールでは表面粗度の低下やロール表面の扁平によりスリップ現象が現れ、安定的な圧延ができない問題があった。さらに、圧延荷重の増加に伴いロールの損傷が著しくなり、またロールの扁平および降伏によりこの傾向が増徴され、その操業は実用的には不可能であった。
そこで、鋼系材料からなる芯材の周囲に、質量%で、C:1.0%?3.0%、Si:0.2?2.0%、Mn:0.2?2.0%、V:3.0?10.0%、Cr:3.0?10.0%、Mo、Wの1種または2種を含有し残部Feおよび不可避的不純物からなる外層材を形成し、連続鋳掛け法を用いて複合ロールとし、複合ロールの直径を250?620mm且つ縦弾性係数を200GPa以上としたことを特徴とする熱間圧延用複合ロールを用いて圧下率40%以上で圧延を可能としたものである。
【特許文献1】特開2002-346613号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、後段圧延機群において高強度の鋼板を比較的小径ロールや高い圧下率の圧延条件下において、鋼板噛み込み後の通板途中にスリップが生ずることが10%以上の確率で生ずることが観察され、大量圧延において安定した操業を実現するにはスリップ発生頻度をさらに低減したロールが必要となった。
【0005】
本発明は、上述したような問題を解決するためのものであって、熱間帯鋼連続圧延において、圧延鋼材との間で高い摩擦係数を有し摩耗が少なく、かつ扁平や降伏損傷しない作動ロールおよびその製造方法を提供するとともに、これを用いて仕上げ後段圧延機群において高圧下圧延を安定して行うことにより、生産性が高く経済的な圧延方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を達成するために、本発明の要旨とするところは、
(1)帯鋼または鋼板を熱間圧延する連続熱間圧延機群の後方3基の圧延機に組み込まれる熱間圧延用複合ロールにおいて、鋼系材料からなる芯材の周囲に、質量%で、C:1.0%?3.0%、Si:0.2?2.0%、Mn:0.2?2.0%、V:3.0?10.0%、Cr:3.0?10.0%を含有し、Mo、Wの1種または2種を2.0?10.0%を含有し、およびTiを0.2%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる外層材を連続鋳掛け法を用いて形成することにより複合ロールを構成し、複合ロールの直径を250?620mm且つ縦弾性係数を200GPa以上としたこと。
【0007】
(2)質量比でNi:0.2?5.0%、Co:0.2?10.0%、Nb:0.2?2.0%の1種または2種以上を含有したこと。
【0008】
(3)連続鋳掛け法にて複合ロールを製造するにおいて、溶解炉より外層材を出湯する際に取鍋もしくは注湯炉に出湯1kg当たりTiを0.5?5.0g添加したこと。
【0009】
(4)鋼板を熱間連続圧延機にて圧延成形する熱間圧延方法において、前記圧延機群における後方3基の圧延機の少なくとも1基以上の圧延機にて上記の熱間圧延用複合ロールを使用し、圧下率40%以上で圧延することにより引張強さ800MPa以上の鋼板を得ることにある。
【発明の効果】
【0010】
以上のように本発明によればホットストリップミルの仕上げ後段圧延機列での高強度鋼板の高圧下圧延が可能となり経済的で生産性の向上ができ、さらに圧延製品の品質向上がなされ、工業的に大きな価値を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
まず本発明の圧延用ロール材の主要な構成について述べる。耐摩耗性を確保し、圧延鋼材との間で大きな摩擦を確保するためには、炭化物は硬くて粒状のものが望ましく、MC型炭化物を主体に使用する。とくに本発明を適用する熱間帯連続仕上げ後段圧延機群において鋼圧延用ロールとして最も重要な性質である耐摩耗性を確保するため、従来技術で述べた高圧下圧延を実現するためには、MC炭化物の晶出量は面積率で5%以上確保することが必要である。一方、同時に晶出するM_(7)C_(3)、M_(2)C、M_(3)C炭化物は少量では本発明の効果を損なうものではないが、前記特許文献1では10%以下としたが安定な操業をするためには5%以下にすることが望ましい。すなわち、これらの炭化物はMC炭化物に比べ粗大で、かつ集合して晶出するためにその量が多すぎるとかえってロール表面は平坦になり、また、粒状で微細なMC炭化物の効果も損ない、圧延鋼材との間で十分な摩擦を確保できなくなる。
【0012】
以下、本発明にかかわる化学成分の限定した理由を述べる。
C:1.0?3.0%
Cは、ロールの性能に直接影響する硬さをえるために最も重要な元素である。しかし、1.0%より少ないと耐摩耗性および耐肌荒れ性を向上するために有効な硬い炭化物の晶出量が少なく、さらに基地に固溶するCが不足し、焼入れによっても十分な基地硬さを得られなくなると同時に、合金添加の効果を十分発揮できず耐摩耗性が著しく劣化し、一方、3.0%を超えると本来は脆い炭化物の晶出量が増加し、とくに粗大な炭化物が凝集して結晶粒界に晶出し、前述のとおり圧延中にこれが表層から剥離し圧延製品を損傷し使用に耐えないためこれを上限とした。
【0013】
Si:0.2?2.0%、Mn:0.2?2.0%
Si、Mnは、本発明を特徴づけるものではないが、共に脱酸効果および溶湯の流動性を高めることを目的として、各々0.2?2.0%の一般の高速度鋼に含まれる量を含有させるが、しかし、0.2%未満ではその効果が不十分であり、2.0%を超えると靭性が低下するためその範囲とする。
【0014】
V:3.0?10.0%
Vは、優先的にCと結合し、前記既存ロールに認められるセメンタイト(Fe_(3)C)やクロム炭化物(Cr_(7)C_(3))に比べて極めて硬く粒状のMC型炭化物、すなわち、VC炭化物を晶出し耐磨耗性を向上するために極めて有効な元素である。また、本発明においては晶出炭化物の平均粒径を15μm以下にすることが望ましく、微小で粒状に晶出させ、かつ極めて硬いVC炭化物を積極的に利用することが不可欠である。また、VC炭化物は溶湯より優先的に初晶として晶出し、凝固組織を決定する理由からもVは重要な元素であり、その含有量はCとの関係で選択される。本発明のC:1.0?3.0%範囲では、3.0%未満ではVC炭化物が晶出せず、耐摩耗性を向上させ得ないため下限とした。一方、10%を超えると前記のとおり初晶の炭化物が多量に晶出し、材料強度を損なうとともに炭化物が粒界に偏析して、これが圧延使用中に掛け落ち、耐肌荒れ性を損なうためこれを上限とした。
【0015】
Cr:3.0?10.0%
Crは、単独ではCr_(7)C_(3)炭化物として結晶粒界に網目状に多量に凝集して晶出するため、これを多量に生成させないため10.0%以下に限定して含有させる。また、Mo,Wとともに硬いM_(2)C型の共晶炭化物を形成することがあるが、後述のとおり、その晶出量を限定する必要がある。一方、Crは基地組織にも固溶し、焼入れにより硬さを向上させ、さらに焼き戻しにおいては析出効果を促進うるために有効な元素であり、その効果を発揮するためには3.0%以上含有することが必要であり、これを下限とした。
【0016】
Mo、Wの1種または2種を2.0%?10%
Mo及びWは、主として硬いM_(2)C型の共晶炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させるもので、前記特許文献1においては積極的に用いられていた。この炭化物は棒状に結晶粒界に晶出する。この点、前述の凝集して晶出するFe_(3)C、Cr_(7)C_(3)ほど著しく有害ではないが、複数の炭化物が密集して晶出した場合は、結果的に大きな炭化物としてみなされ、これが欠け落ちるため晶出量を少量に抑制することが不可欠であり、実用的には組織に占める面積率で3%以下とすることが望ましい。なお、本発明材においては鋳造時に晶出したM_(2)C型炭化物はその後の熱処理工程を経てM_(6)C型炭化物になる。一方、MoはCrと同様、一部が基地組織にも固溶して焼入れにより硬さを向上させ、さらに焼戻しにおいて析出効果を促進し、Wも一部が基地組織に固溶し、高温での強度および硬さを向上するため、熱間圧延に供した場合、耐摩耗性を向上させる作用を有しており、その効果が現れるためには1種または2種を2.0%?10.0%含有することが必要であり、前記晶出炭化物の量を考慮した場合、望ましくは両元素の総量が4%以上15%以下である。
【0017】
Ni:0.2?5.0%
Niは、0.2%以上添加すると焼入性を向上させる効果を有する。直径の大きいロールなどが大きい硬度深度が要求される場合には、その要求に応じて添加すると良い。しかし、多量に添加すると残留オーステナイトが過剰となり、かえって高硬度が得られなくなるため、5.0%以下の範囲で用いることが有効である。
【0018】
Co:0.2?10.0%
Coは、0.5%以上添加すると高温使用下で基地の硬さと強度を向上させるもので、特に熱間圧延用ロールには10.0%以下の範囲で用いることが有効である。
【0019】
Nb:0.2?2.0%
Nbは、Vと同様にMC炭化物を生成するため、Vの代替元素として0.2?2.0%添加することは有効である。上限値はNbの添加により過共晶域となり初晶としてMC炭化物が偏析して晶出しない2.0%とした。
【0020】
つぎに製造方法について述べる。
先ず、本発明の化学成分からなる溶湯を耐火枠と芯材との間隙に注入して誘導加熱を行い、次いで、該耐火枠の下方に設けた水冷モールドで前記溶湯を凝固して外層部を形成し、しかる後、一体となった外周部と芯材を順次下方へ引き抜出して複合ロールを製造する。こうした連続鋳掛け法により、本発明材の理想的な鋳造組織が可能となり、かつ他法に比べ極めて緻密な組織が得られるものである。
【0021】
さて、前記特許文献1ではAl、Ti、Zrは、MC型炭化物の晶出核を生成し、炭化物の大きさを減少し、かつ、分散晶出させる効果があり、この目的で添加されても効果を損なうものではないとされている。また、特許2886368公報にもTiの添加が開示されている。しかしながら、Tiを本願発明の連続鋳掛け法に利用した際に、Tiは極めて強い酸化物形成元素であり、酸化物系介在物が外層材に残存することが分った。すなわちTiが溶湯内酸素と反応して多量の酸化物系介在物となり、これが連続鋳掛法の特徴の一つをなす溶湯の誘導加熱による撹拌により凝固界面に到達して捉えられ介在物欠陥として凝固後の外層材に残存し材料を著しく損なう結果となった。一方、Tiは前述のとおりMC炭化物の晶出核として分散、特に結晶粒内に晶出しより分散して均一に分布させる極めて有効なものであり、副作用の介在物欠陥として残存させないこととの両立が不可欠であった。そこで、本発明においてはTiを溶解炉からの出湯時の取鍋中もしくは注湯炉に投入し、かつその量は出湯1kg当たりTiを0.5?5.0gとすることが望ましいことを見出した。なお、Tiの添加はフェロ・チタン(Fe-Ti)により行い、前記添加量はTi分であり、実際のフェロ・チタンの添加量はTiの含有量を考慮して添加する。たとえば含有量が70%である場合のフェロ・チタンの添加量は0.7?7.1gとなる。他の合金元素と同様に溶解炉中に添加すればTiの多くは酸化物としてスラグの一部となり、溶湯内のTiも凝固までの経過時間が十分あることにより浮上分離してMC炭化物の晶出核となりえない。一方、耐火枠内に直接添加した場合には耐火枠内にて酸化反応を生じ、直接的に前記のとおり誘導撹拌により凝固界面に至り介在物欠陥となる。最終的な本願発明材のTi含有量は、MC炭化物の晶出の接種核としての効果ならびに基地組織における極めて硬く微小なTi炭化物(TiC)の析出による耐摩耗性の向上効果を有する0.02%を下限とし、また介在物欠陥を生じない限界値として0.2%を上限とした。なお、Al、Zr及びMg等の添加も接種効果を有しTiと併用して添加することも本願発明の効果を損なうものではない。
【0022】
次に、本発明の基地組織を達成するための熱処理について述べる。
前述のとおり、本発明においては、先ず焼入れにより基地を硬いマルテンサイトもしくはベイナイトとする必要がある。そこで、熱処理炉にてロール全体を1000℃以上に加熱し、一定時間保持した後、大気中もしくは衝風にて常温近くまで冷却することにより焼入れ硬化する。もちろん、焼入れ時に割れが発生しない範囲で冷却速度を高めてもよく、本効果を損なうものではない。
【0023】
しかしながら、焼入れにより生成されたマルテンサイト若しくはベイナイトは非常に硬いが、高温では不安定な組織であるため、特に熱間圧延に供する本発明においては、使用中に高温に加熱され別の組織に不均質に変態し望ましくない。そこで、焼入れ後は引続き500℃以上で焼戻しを実施し、析出硬化作用と適度の靭性を付与するとともに焼入れで生じた大きな残留応力を低減させ、耐事故性を向上させる。
【0024】
高圧下圧延を行った場合には、圧延荷重は基本的には大きくなる。このときロールの縦弾性係数が小さいとロールが大きく扁平し、鋼材との接触長が大きくなり、このことが、さらに圧延荷重を増大させることになり、経済的でなく圧延作業も不安定になる。本発明がなされた仕上げ圧延機群の後段圧延機においては、特にこの現象が起こらないようにすることが必要である。そこで、ロールの扁平を小さく抑え、本発明の効果を達成するため、発明材の縦弾性係数を200GPa以上とした。なお縦弾性係数の上限値は鉄系ロールにて実用的な260GPaである。
【0025】
さらに仕上げ後段圧延機において高圧下圧延行うに際し、ロール直径を小さくすれば圧延荷重、すなわち、駆動動力を小さくでき経済的である。しかしながら、前述のとおり小径ではロールと圧延鋼材との接触長さがさらに小さくなり、特に40%以上の圧下率では従来のロールでは圧延に必要な摩擦力を確保できず、小径化が難しかった。一方、本発明ロール材においては十分な摩擦力を確保できるため、ロールを小径とすることができ、実用的にその効果が顕著になる値として、従来は、620?850mmであったロールの直径を620mm以下とし、その下限値は前記仕上げ圧延機群においては折損事故等の圧延事故の発生を実用的に防止できるロール強度が確保できる250mmとした。
【実施例】
【0026】
本発明の実施例として表1に示す化学成分にて連続鋳掛法にて鋳造し、前記熱処理を施した後、図1に示す熱間圧延設備の構成図のように、6機の仕上げ連続圧延機を有するホットストリップミルにおいて仕上圧延機群3として仕上げ後段作動ロール1のところに組み込み、引張強さ800MPaの鋼板の圧延作業に供した。なお、符号2は補強ロールであり、4は仕上げ前段圧延機群であり、5は粗圧延機を示す。また、ロールの直径は600mmとしたが、表1に示す従来例および本発明例であるロールでは最終No.6圧延機の上方ロールを直径490mmの小径ロールとし、下方ロールを直径600mmとした。なお、ロールの胴長は1850mm、全長4470mmとした。圧下率は前段から順に、50%、45%、40%、50%、45%、40%とし、後段圧延機3機はいずれも圧下率40%以上にて厚み1.8mmの帯鋼に圧延成形を行った。従来例では、鋼板の噛み込みは可能であったが通板途中でスリップが10%以上の確率で生じた。これに対し本発明の2ロールではスリップの発生は1%以下となり安定した圧延操業が可能となった。なお、図2に一般的な低圧下率での圧延時に使用されている高合金グレン鋳鉄ロール、従来ロール及び本願発明ロールの圧延時の鋼板とロールとの間の摩擦係数を圧下率との関係で示す。従来ロールでは高圧下条件下で比較的低い摩擦係数が発生するのに対し、本願発明ロールでは0.27以上の安定した摩擦係数を確保している。なお、摩擦係数は柳本らにより提案された圧延荷重と摩擦係数の関係式(日本機械学会論文集42(1976)965ページ参照)を用いて実際の圧延荷重より求めた。
【0027】
【表1】

【0028】
このように従来ロールでは高強度鋼板の高圧下圧延を行ったところ、とくに噛み込み後の通板途中にスリップがある確率で生じ、圧延作業に支障をきたしていたのに対し、本発明ロールを供することにより、高圧下条件下においても安定した圧延作業が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明材になる熱間連続圧延設備の構成図。
【図2】本発明に係るロールと従来ロールを使用に供した際の圧延鋼材との摩擦係数を示す図である。
【符号の説明】
【0030】
1 仕上後段作動ロール
2 補強ロール
3 仕上後段圧延機群
4 仕上前段圧延機群
5 粗圧延機
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼系材料からなる芯材の周囲に、質量比で、C:1.0?3.0%、Si:0.2?2.0%、Mn:0.2?2.0%、V:3.0?10.0%、Cr:3.0?10.0%、Mo、Wの1種または2種を2.0?10.0%およびTiを0.02%以上0.2%以下含有し残部Feおよび不可避的不純物からなる外層材を形成し、連続鋳掛け法を用いて複合ロールを製造するにおいて、溶解炉より外層材を出湯する際に取鍋もしくは注湯炉に出湯1kg当たりTiを0.5?5.0g添加することを特徴とする熱間圧延用複合ロールの製造方法。
【請求項2】
質量比でNi:0.2?5.0%、Co:0.2?10.0%、Nb:0.2?2.0%の1種または2種以上を含有したことを特徴とする請求項1に記載の熱間圧延用複合ロールの製造方法。
【請求項3】
帯鋼または鋼板を熱間圧延する連続熱間圧延機群に組み込まれる熱間圧延用複合ロールであって、請求項1または2に記載の製造方法にて製造されたことを特徴とする熱間圧延用複合ロール。
【請求項4】
鋼板を熱間連続圧延機にて圧延成形する熱間圧延方法において、前記圧延機群における後方3基の圧延機の少なくとも1基以上の圧延機にて複合ロールの直径を250?620mm且つ縦弾性係数を200GPa以上とした請求項3に記載の熱間圧延用複合ロールを使用し、引張強さ800MPa以上の鋼板を圧下率40%以上で圧延することを特徴とする圧延方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-12-27 
結審通知日 2014-01-08 
審決日 2014-01-31 
出願番号 特願2007-110961(P2007-110961)
審決分類 P 1 113・ 121- YAA (B21B)
P 1 113・ 537- YAA (B21B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 坂本 薫昭  
特許庁審判長 鈴木 正紀
特許庁審判官 川端 修
石川 好文
登録日 2012-06-29 
登録番号 特許第5025315号(P5025315)
発明の名称 熱間圧延用複合ロール、熱間圧延用複合ロールの製造方法及び熱間圧延方法  
代理人 永坂 友康  
代理人 細見 吉生  
代理人 石田 敬  
代理人 古賀 哲次  
代理人 亀松 宏  
代理人 細見 吉生  
代理人 徳永 英男  
代理人 細見 吉生  
代理人 青木 篤  
代理人 中村 朝幸  

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