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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1295679
審判番号 不服2013-14304  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-25 
確定日 2014-12-24 
事件の表示 特願2009- 12244「反応室に流体を充填する方法及び組織サンプルを染色する方法」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月16日出願公開,特開2009- 80139〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成15年6月20日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2002年6月20日,2003年3月31日 豪州)を国際出願日とする特願2004-514435号の一部を平成21年1月22日に新たな特許出願としたものであって,平成22年8月31日付けで拒絶理由が通知され,平成23年3月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され,さらに,平成24年6月7日付けで最後の拒絶理由が通知され,同年12月11日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成25年3月21日付けで拒絶査定されたのに対し,同年7月25日に拒絶査定不服の審判請求がされ,それと同時に手続補正書が提出されたものである。

第2 本願発明
平成25年7月25日に提出された手続補正書による補正は,明細書の【0007】を削除するだけのものであるから,本願の請求項1?14に係る発明は,平成24年12月11日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?14に記載された以下のとおりのものである。
「【請求項1】
反応室に流体を充填する方法であって、
カバーとスライドとの間に反応室を形成するステップと、
上記反応室に第1の流体を供給するステップと、
上記反応室に、上記第1の流体より低い粘度を有する第2の流体を供給するステップと
を備えていることを特徴とする方法。
【請求項2】
上記カバーが、上記スライドの一部分の上方に上記反応室を形成することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記第2の流体が、水に対して混和性を有することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記第2の流体が、水に比べてより高い沸点を有することを特徴とする、請求項1?3のいずれか1つに記載の方法。
【請求項5】
上記第2の流体が、イソプロパノール、水及び緩衝液のうちの1つのもの、又は、これらのうちの複数のものの混合物を含むことを特徴とする、請求項1?4のいずれか1つに記載の方法。
【請求項6】
上記第1の流体が、グリセロールを含む溶液であることを特徴とする、請求項1?5のいずれか1つに記載の方法。
【請求項7】
上記第1の流体が、グリセロール、水及び緩衝液を含む溶液であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
上記第1の流体が、2%から80%までの間のグリセロールを含む溶液であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
基材の上に配置された組織サンプルを染色する方法であって、
上記組織サンプルの上方においてカバーと上記基材との間に反応室を形成するステップと、
上記反応室に第1の流体を供給するステップと、
上記反応室に、上記第1の流体より低い粘度を有する第2の流体を供給するステップと
を備えていることを特徴とする方法。
【請求項10】
上記第2の流体が、エピトープ回復溶液又は反応緩衝液であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
上記第2の流体が、水に比べてより高い沸点を有することを特徴とする、請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
上記第1の流体が、グリセロールを含むことを特徴とする、請求項9?11のいずれか1つに記載の方法。
【請求項13】
上記第1の流体が、2%から80%までの間のグリセロールを含むことを特徴とする、請求項9?12のいずれか1つに記載の方法。
【請求項14】
上記染色が、上記組織サンプルのin-situハイブリダイゼーション染色又は免疫組織化学的染色を含むことを特徴とする、請求項9?13のいずれか1つに記載の方法。」(以下,請求項の順に「本願発明1」?「本願発明14」という。)


第3 本願明細書の記載
本願の願書に添付した明細書(以下「本願明細書」という。)には,以下の事項が記載されている。
(1)発明が解決しようとする課題について
「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、スライド上で起こる化学反応は、熟練者が試薬を加えて混合することにより制御されている。これは、試薬の量及び時間を、スライドごとに制御することを可能にする。しかしながら、この手法では、時間がかかり、非常に熟練したオペレータを必要とし、かつ、スライドからスライドへの一貫した結果を得ることができない。」

(2)流体について
本願明細書では,「第1の流体」及び「第2の流体」との記載はなく,それらに対応する記載として「充填流体」等と記載されているため,充填流体等についての記載を摘記する。
ア「【0008】
好ましい態様では、充填流体は水に対して混和性を有する(miscible)ものである。
【0009】
好ましい態様では、充填流体は水に比べて、より高い沸点を有するものである。
【0010】
好ましい態様では、充填流体は上記基材又はサンプルに残留物(residue)を残さないものである。
【0011】
好ましい態様では、充填流体は生物試薬及びサンプルに対して不活性である。
【0012】
好ましい態様では、充填流体はグリセロール(glycerol)を含む溶液である。
【0013】
ある1つの態様では、充填流体はグリセロールと水と緩衝物(buffer)とを含んでいる。緩衝物はトリス緩衝食塩水(tris buffered saline)であってもよい。
【0014】
好ましい態様では、充填流体は、体積で2%から80%までの間のグリセロールを含んでいる。
【0015】
より好ましい態様では、充填流体は、体積で10%から60%までの間のグリセロールを含んでいる。
【0016】
より好ましい態様では、充填流体は、20%から30%までの間のグリセロールを含んでいる。
【0017】
ある1つの態様では、充填流体は、充填サイクル中に上記反応室内に形成される泡の放出を促進する界面活性剤を含んでいる。
【0018】
より好ましい態様では、界面活性剤はツイーン(Tween)である。」
なお,「【0007】
もう1つの態様では、本発明は、反応室の充填を行うための充填流体であって、基材上の先行する流体に比べて、より高い粘度を有している充填流体を提供する。」の記載については,第2で記載したとおり,平成25年7月25日に提出された手続補正書による補正で削除されている。

イ「【0102】
カバーの引き出しを伴った最初の充填(開放充填)は、反応室内での空洞(void)又は泡の生成を最小にしつつ反応室に流体を充填する方法をもたらす。反応室がほぼ100ミクロンの深さを有するものであるので、反応室を形成しているスライドの上方にカバーが存在する場合、反応室から泡又は空洞を流し出す(flush)ことは困難である。反応に用いられるいくつかの流体は、極端に高価であったり、有害であったりするかもしれず、それゆえそれらの消費を最小限にとどめるのが望ましい。
【0103】
適切な最初の充填流体は、25ないし30%のグリセロールを含む、水とグリセロールの混合物であるということが見出された。少量のグリセロールは、大量のグリセロールと同様に、泡の形成・発生の低減を助勢する。しかしながら、ある環境では、体積で25%のグリセロールが良好に作用するということが見出された。表面張力を低減するために、洗浄剤(例えば、ツイーン(Tween))などの添加物(additive)が含まれていてもよく、かかる添加物はまた、ある環境では空洞を除去するのに有益であるということも証明された。
【0104】
グリセロールの使用は、流体が外部のウィッキング通路を経由してスライド表面からウィックする傾向を低減する。これは、最初の充填時に生成する大きな泡の数を低減する。
【0105】
最初の充填の後に反応室内に存在するかもしれない空洞の除去を助勢するために、表面張力及び粘度が低く水と混和する(miscible)、イソプロパノールのようなアルコールなどの流体が洗い流し流体(flushing fluid)として有用であるということが見出された。
【0106】
典型的には、洗い流し(flushing)は加熱段階(heating phase)の後に起こり、反応室内の温度の上昇に伴って泡又は空洞の形成が生じるであろう。イソプロパノールなどの低粘度の流体の使用は、泡又は空洞の移動を促進する。
【0107】
反応室に流体が充填された(満たされた)後、追加の空気を閉じ込める(entrap)ことなく、さらなる流体を加えることが可能である。かくして、場合によっては、単に流体容器を満たすこと(topping up)により、流体を変えてウィッキングポスト近傍の空気圧を低減することが可能である。このように形成された反応室は、新たな流体が交換している流体と混合する傾向はないであろうといった望ましい流れ特性を呈する。反応室の毛管特性は、さほど乱流混合を生じさせず、それゆえ、反応室又はスライド表面の洗い流しをさほど必要とせず、流体の変化を正確に決める(time)ことが可能である。これは、反応の開始及び終了を、流体及び反応のある範囲にわたって十分な正確さでもって決定することを可能にする。」

(3)第1の流体,第2の流体を用いる具体的な態様について
「第1の流体」及び「第2の流体」を使用する具体的な態様として,本願明細書に以下の記載がある。
「【0112】
以下、上記反応装置のセットアップ(set up)及び使用について説明を行う。
1. スライドのロード
ガラスのスライドの上に取り付けられたパラフィン包埋組織(paraffin-embedded tissue)の切片(サンプル5)を、カバー2を伴ったスライドトレー15内にロードし、反応装置10の受け入れゾーン14に挿入する。ユーザは、所望のプロトコルと実行タイプ[すなわち、100μL(エコノミタイプ、スライドの2/3)又は150μL(標準タイプ、全スライド)])とを選択し、必要な試薬コンテナ39を収容している試薬トレー34が反応装置10にロードされるのを確実にする。
【0113】
2. 脱ロウ
染色処理(staining procedures)の実施に先立って、切片化(sectioning)に続いて組織の切片(section)からのロウ(wax)の除去を行うことが必要である。機器(instrument)で脱ロウを行うために、カバーを閉じられた位置にとどめる一方、脱ロウ溶液(dewaxing solution)を分配手段26によりスライド上に分配し、このスライドを取り付けブロック40により70°Cまで予熱する。スライドを、ポンプ(図示せず)によって惹起されたウィッキングポストまわりの低減された空気圧により、過剰の脱ロウ溶液の除去に先立って、70°Cで4分間培養する(incubate)。さらに4分間の70°Cでの培養のために、スライド上に新しい脱ロウ溶液を分配する。典型的には、このプロセスを、脱ロウを必要とするトレー内の全てのスライドに対してもう1回繰り返す。スライドを周囲温度まで冷却し、残りの溶解しているロウを含んでいる過剰の脱ロウ溶液を除去するために、カバーを開閉する。全てのスライドを、残留している脱ロウ溶液を除去するために、1つずつ、分配手段によって供給されたイソプロパノールで洗浄し、この後、全てのスライドに対して、分配手段によって分配された蒸留水で再び水分補給を行う。
【0114】
3. エピトープリトリーバル(抗原性賦活化)
IHC処理及びISH処理を行う前に、固定処理(fixation process)中に隠されてしまう(hidden)かもしれない組織内のエピトープ(タンパク質、DNA、RNA)を露出させることが必要である。この機器では、2つのプロトコルを備えることができる。
【0115】
a. 熱誘発型エピトープリトリーバル(HIER、heat-induced epitope retrieval)
脱ロウに続いて、全てのスライドは、カバーが開かれた位置でリトリーバルバッファ(最初の充填流体)(10mM、クエン酸ナトリウム/30%、グリセロール/0.05%、ツイーン)の最初の充填を受け入れ、スライドへの溶液の下降移動を促進して、泡の形成を低減する。カバーを閉じ、取り付けブロック40によりスライドを、必要なリトリーバル時間だけ100°Cに加熱する。リトリーバルが終了した後、スライドを、分配手段により、リトリーバルバッファでの個々の洗い流しで冷却する。
【0116】
b. 酵素誘発型エピトープリトリーバル(EIER、enzyme-induced epitope retrieval)
プロテアーゼ溶液(すなわち、プロテイナーゼK(proteinase K)、ペプシン(pepsin)、及びトリプシン(trypsin))を、分配手段により各スライド上に分配し、所望のリトリーバル温度(例えば、周囲温度?50°C、又は、室温)で10?30分間培養する。リトリーバルが完了した後、各スライドを、分配手段によって分配された蒸留水で洗浄する。
【0117】
4. 免疫ヒソケミストリ(IHC、immunohisochemistry)
IHCは、組織の生体検査(biopsies)及び標本(specimens)における、抗原(タンパク質)に対する抗体(タンパク質)の特異結合(specific binding)に基づいている。エピトープリトリーバル段階に続いて、各スライドは、分配手段から、ツイーン-20を含んでいるバッファを受け入れる。各スライドを、過酸化水素でもって、周囲温度で8分間処理して組織切片内の内生ペルオキシダーゼ活性(endogenous peroxidase activity)をブロックする(block)し、ツイーン-20を含んでいるTWBバッファで洗浄し、再び分配手段により分配する。特定のターゲットのタンパク質に向けられた一次抗体を、分配手段により組織サンプルに供給し、15?60分間培養する。この後に続いて、第2のビオチン標識抗体(secondary biotin-labelled antibody)の培養を行う。結合抗体(bound antibody)を、各スライド上に、ストレプタビジン?又はアルカリ性ホスファターゼ?共役ペルオキシダーゼ(streptavidin-or alkaline phosphatase-conjugated peroxidase)を分配することにより検出する。これらを、すべて分配手段よって分配された色原体(chromogen)、すなわちDAB、BCIP/NBTの添加により可視化する。切片を、分配手段によって分配されたヘマトキシリン(hematoxylin)で対比染色する(counterstained)。
【0118】
5. 原位置交配(ISH)
ISHは、細胞内における特定の核酸配列の検出を可能にする。EIER段階に続いて、組織切片を、イソプロパノールを各スライドの反応室内に分配することにより脱水し、カバーを開かれた位置に移動させて組織を乾燥させる。蛍光色素又はビオチン標識核酸のプローブ(probe)をスライドに供給し、カバーを緩慢に閉じてプローブを、該組織と交差する方向に均一となるように分布させる。このプローブを、組織切片中のその相補的DNA/RNAターゲットと、37?55°Cで1.5?2時間交配させることが可能である。ターゲットがDNAである場合、組織切片及びプローブを、まず、交配に先立って5?10分間、高温で(すなわち、95°C)変性させる(denature)。スライドを、ねじれた滝のすすぎを用いて、分配手段からのTWBを分配することにより洗浄し、非結合プローブを穏やかに除去する。洗浄に続いて、カバーを、残りの処理のために、閉じられた位置に移動させる。結合プローブを、分配手段から分配されたアンチフルオレセイン又はアンチビオチンの共役抗体をアルカリ性ホスフォターゼに供給することにより検出する。これを、分配手段から分配された酵素基質(BCIP/NBT)の添加により可視化する。
【0119】
6. 除去
特定のスライドトレーに対してプロトコルが完了した後、このスライドトレーを、他のスライドトレーの状態にかかわりなく除去することができる。このスライドトレーは、それぞれ、利用される異なるプロトコルを有しているスライドを収容することができるので、このスライドトレーは、この特定のスライドトレーに対するすべてのプロトコルが完了するまで、反応装置内に残さなければならない。光などの表示手段(indicator)は、スライドトレー上のスライドに適用されるべきすべてのプロトコルが完了したときに、これをユーザに報知する。」


第4 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,平成25年3月21日付けの拒絶査定において,「平成24年6月7日付け拒絶理由通知書に記載した理由2によって、拒絶をすべきものです。」と記載されているところ,同拒絶理由通知書の理由2は,「この出願は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」というものであり,さらに,その理由として,「発明の詳細な説明に、当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとは認められない。よって、この出願の発明の詳細な説明は、請求項1、9に係る発明及び請求項1,9を直接的または、間接的に引用する請求項2-8,10-14に係る発明について、経済産業省令で定めるところにより記載されたものではない。」と記載されているとおり,発明の詳細な説明が,経済産業省令で定めるところにより記載されていないため特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものである。
ここで,「経済産業省令」とは,特許法施行規則第24条の2(委任省令)「特許法第三十6条第4項第1号の経済産業省令で定めるところによる記載は、発明が解決しようとする課題及びその解決手段その他のその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項を記載することによりしなければならない。」という事項を規定するものである。


第5 当審の判断

1 本願発明1について
本願発明1の「上記反応室に第1の流体を供給するステップと、上記反応室に、上記第1の流体より低い粘度を有する第2の流体を供給するステップ」における「上記反応室に、上記第1の流体より低い粘度を有する第2の流体を供給する」ことの技術上の意義を理解するためには,まず,発明の詳細な説明において,「第1の流体」及び「第2の流体」がいかなる流体に対応するのかを把握しなければならない。
上記第3の「本願明細書の記載」の「(2)流体について」のアの記載には,各種の充填流体が記載されているが,これらは「第1の流体」,「第2の流体」とを区別して記載しているものではないことから,本願発明1を引用する本願発明3,4,6?8に「上記第2の流体が、水に対して混和性を有すること」(本願発明3),「上記第2の流体が、水に比べてより高い沸点を有すること」(本願発明4),「上記第1の流体が、グリセロールを含む溶液であること」(本願発明6),「上記第1の流体が、グリセロール、水及び緩衝液を含む溶液」(本願発明7),「上記第1の流体が、2%から80%までの間のグリセロールを含む溶液であること」(本願発明8)と区別して記載されているものの,それらは本願明細書においては全て「充填流体」であり,これより「第1の流体より低い粘度を有する第2の流体を供給する」ことにおいて,それぞれの充填流体を使い分けて用いることの技術上の意義を把握することはできない。
次に,上記第3の「本願明細書の記載」の「(2)流体について」のイの記載には,「適切な最初の充填流体は、25ないし30%のグリセロールを含む、水とグリセロールの混合物である」(【0103】),「最初の充填の後に反応室内に存在するかもしれない空洞の除去を助勢するために、表面張力及び粘度が低く水と混和する(miscible)、イソプロパノールのようなアルコールなどの流体が洗い流し流体(flushing fluid)として有用である」(【0105】)との記載があり,ここで一般的な物性値としての粘度を考慮すると,グリセロールの粘度よりイソプロパノールの粘度の方が低いから,前者の「25ないし30%のグリセロールを含む、水とグリセロールの混合物」を「第1の流体」,後者の「イソプロパノールのようなアルコールなどの流体」を「第2の流体」とするなら「第1の流体より低い粘度を有する第2の流体」といえるところである。また,その【0103】には「少量のグリセロールは、大量のグリセロールと同様に、泡の形成・発生の低減を助勢する。」,【0106】には「イソプロパノールなどの低粘度の流体の使用は、泡又は空洞の移動を促進する。」との記載あることから,第1の流体は「泡の形成・発生の低減を助勢する」作用があり,第2の流体は「泡又は空洞の移動を促進する」作用があることが記載されているといえる。しかしながら,「(2)流体について」のイを参照しても,「泡の形成・発生の低減を助勢する作用がある流体」と「泡又は空洞の移動を促進する作用がある流体」をこの順番で供給することの技術上の意義が明らかとはいえない。ましてや,本願明細書に記載されているような脱ロウ,エピトープリトリーバル(抗原性賦活化),免疫ヒソケミストリ,原位置交配等の反応を行う反応装置において,まず,泡の形成・発生の低減を助勢する作用がある第1の流体を供給し,次に,泡又は空洞の移動を促進する作用がある第2の流体を供給することが,どのような技術上の意義があるのかについて明らかではない。
念のために,当該技術上の意義について,具体的な態様に基づいて確認することとする。上記第3の「本願明細書の記載」の「(3)第1の流体,第2の流体を用いる具体的な態様について」には,「1.スライドロード」「2.脱ロウ」「3.エピトープリトリーバル(抗原性賦活化)」「4.免疫ヒソケミストリ」「5.原位置交配」「6.除去」のプロトコルが記載されており,「3.エピトープリトリーバル(抗原性賦活化)」として「a.熱誘発型エピトープリトリーバル」と「b.酵素誘発型エピトープリトリーバル」の2つの方法が記載されている。上記「(2)流体について」のイの記載における検討結果を踏まえ,「第1の流体」は「25ないし30%のグリセロールを含む、水とグリセロールの混合物」で,「第2の流体」は「イソプロパノールのようなアルコールなどの流体」であることに鑑みるに,「3.エピトープリトリーバル(抗原性賦活化)」の「a.熱誘発型エピトープリトリーバル」において「リトリーバルバッファ(最初の充填流体)(10mM、クエン酸ナトリウム/30%、グリセロール/0.05%、ツイーン)の最初の充填を受け入れ、スライドへの溶液の下降移動を促進して、泡の形成を低減する」(【0115】)との記載があることから,「第1の流体」は「(10mM、クエン酸ナトリウム/30%、グリセロール/0.05%、ツイーン)」に相当すると一応認められる。一方,「イソプロパノールのようなアルコールなどの流体」については,「2.脱ロウ」で「イソプロパノールで洗浄」(【0113】),「5.原位置交配」で「イソプロパノールを各スライドの反応室内に分配する」(【0118】)との記載があるが,「第2の流体」は「第1の流体」の後に供給されるものであることを考慮すると,「5.原位置交配」での「イソプロパノールを各スライドの反応室内に分配する」における「イソプロパノール」が「第2の流体」に相当することになる。そうすると,「3.エピトープリトリーバル(抗原性賦活化)」の「a.熱誘発型エピトープリトリーバル」における「(10mM、クエン酸ナトリウム/30%、グリセロール/0.05%、ツイーン)」を「第1の流体」,「5.原位置交配」での「イソプロパノール」を「第2の流体」に対応するものと一応認めたとしても,これらの工程の間には,「a.熱誘発型エピトープリトリーバル」における「リトリーバルバッファでの個々の洗い流し」(【0115】),さらには「4.免疫ヒソケミストリ」における「エピトープリトリーバル段階に続いて、各スライドは、分配手段から、ツイーン-20を含んでいるバッファを受け入れる。各スライドを、過酸化水素でもって、周囲温度で8分間処理して組織切片内の内生ペルオキシダーゼ活性(endogenous peroxidase activity)をブロックする(block)し、ツイーン-20を含んでいるTWBバッファで洗浄」(【0117】)の各種の流体(当審で付与した下線部)を供給する工程があり,もやは「第1の流体」の後に泡又は空洞の移動を促進する作用がある「第2の流体」を供給することにより,この具体的な態様の工程において,どのような作用,効果が生じるのかが当該記載からは想定することはできない。
そして,上記第3の「本願明細書の記載」の「(2)流体について」のイの記載の検討で示したとおり,第1の流体には泡の形成・発生の低減を助勢する作用があり,第2の流体には泡又は空洞の移動を促進する作用があるにしても,それが「発明が解決しようとする課題」である「従来、スライド上で起こる化学反応は、熟練者が試薬を加えて混合することにより制御されている。これは、試薬の量及び時間を、スライドごとに制御することを可能にする。しかしながら、この手法では、時間がかかり、非常に熟練したオペレータを必要とし、かつ、スライドからスライドへの一貫した結果を得ることができない。」(【0003】)とどのように関係するのかも不明であるから,そもそも「発明が解決しようとする課題」に対応する技術上の意義を見出すことはできない。。
してみれば,本願発明1の「上記反応室に第1の流体を供給するステップと、上記反応室に、上記第1の流体より低い粘度を有する第2の流体を供給するステップ」における「第1の流体より低い粘度を有する第2の流体を供給する」ことは,上記第3の「本願明細書の記載」の「(2)流体について」のイの記載から,各々,第1の流体には「泡の形成・発生の低減を助勢する」作用があり,第2の流体には「泡又は空洞の移動を促進する」作用があることを表現しようとしているにしても,それらの作用によってもたらされる技術上の意義が,具体的な態様を参酌しても何ら明らかになるものでもなく,「発明が解決しようとする課題」にいかに対応するものであるのかについての記載も発明の詳細な説明にはないことから,本願発明の詳細な説明の記載は,当業者が発明の技術上の意義を理解するために必要な事項が記載されているとはいえない。したがって,特許法施行規則第24条の2(委任省令)に規定する要件を満たさないから,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているとはいえない。
なお,技術上の意義が理解できない発明ついては,技術上の意義を有するものとしての発明を実施することができないのだから,特許法第36条第4項第1号に違反するものであることは,例えば,以下の判例を参照しても明らかである。
「法36条4項において,明細書の発明の詳細な説明について,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載しなければならないと規定した趣旨は,発明の詳細な説明に基づいて当業者が実施できない発明に対して独占的な権利を付与することは,発明を公開したことの代償として独占権を付与するという特許制度の趣旨に反する結果を生ずるためであるところ,本願明細書の発明の詳細な説明には,当業者が本願発明の技術上の意義を理解するために必要な事項の記載がない以上,当業者は,出願時の技術水準に照らしても,硬化層のかしめ側端部の位置を本件関係式に基づいて規定することにより内輪と中空軸との間に普遍的に隙間が発生しないという技術上の意義を有するものとしての本願発明を実施することができないのであるから,その記載は,発明の詳細な説明に基づいて当業者が当該発明を実施できることを求めるという法36条4項の上記趣旨に適合しないものである。」(平成24年3月14日に知財高裁でなされた平成23年(行ケ)第10251号判決参照)。

2 本願発明2?14について
本願発明9は,本願発明1と同じく「上記反応室に第1の流体を供給するステップと、上記反応室に、上記第1の流体より低い粘度を有する第2の流体を供給するステップ」を備える方法であるから,発明の詳細な説明は,本願発明9についても,特許法施行規則第24条の2(委任省令)に規定する要件を満たさず,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているとはいえない。したがって,本願発明1に従属する本願発明2?8及び本願発明9に従属する本願発明10?14についても,特許法施行規則第24条の2(委任省令)に規定する要件を満たさず,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているとはいえない。特に,「上記第2の流体が、水に比べてより高い沸点を有すること」を特定している本願発明4及び11については,その特定事項についての技術上の意義を発明の詳細な説明から把握することはできない。

3 請求人の主張
請求人は,平成23年3月7日付けの意見書では,「反応室に、まず粘度の低い第1の流体を供給し、続いて粘度の高い第2の流体を供給するので、反応室内における泡又は空洞の発生ないしは残留を最小限に抑制しつつ、反応に必要な流体を反応室に充填することができる。」と主張し,平成24年12月11日付けの意見書では,それらの第1流体,第2流体について,脱ロウ溶液を洗い流すためのイソプロパノール、蒸留水が第1の流体であり,熱誘発型エピトープリトリーバルで使用する(10mM、クエン酸ナトリウム/30%、グリセロール/0.05%、ツイーン)が第2の流体であると主張していた。
しかしながら,審判請求の理由においては,本願発明は,まず粘度の高い第1の流体を供給し,続いて粘度の低い第2の流体を供給するものであること,第1の流体は,熱誘発型エピトープリトリーバルで使用する粘度の高い(10mM、クエン酸ナトリウム/30%、グリセロール/0.05%、ツイーン)であり,第2の流体は,脱ロウ溶液を洗い流すための粘度の低いイソプロパノール、蒸留水,あるいは,酵素誘発型エピトープリトリーバルの後に分配する蒸留水であることを主張するものであり,上記意見書及び出願当初の発明とは異なる手順を本願発明として主張するものとなっている。
そこで,最新の請求人の主張である上記審判請求の理由について検討するに,第2の流体を脱ロウ溶液を洗い流すためのイソプロパノール、蒸留水とした場合は,「全てのスライドを、残留している脱ロウ溶液を除去するために、1つずつ、分配手段によって供給されたイソプロパノールで洗浄し、この後、全てのスライドに対して、分配手段によって分配された蒸留水で再び水分補給を行う。」(【0113】)ことは「2.脱ロウ」における工程で,(10mM、クエン酸ナトリウム/30%、グリセロール/0.05%、ツイーン)を充填する「3.エピトープリトリーバル(抗原性賦活化)」「a.熱誘発型エピトープリトリーバル」の工程の前に行うものであるから,第2流体を供給した後に,第1流体を供給することになり,流体の供給順が不整合である。また,第2の流体を酵素誘発型エピトープリトリーバルの後に分配する蒸留水とした場合は,「リトリーバルが完了した後、各スライドを、分配手段によって分配された蒸留水で洗浄する。」(【0116】ことは「b.酵素誘発型エピトープリトリーバル」における記載であり,「a.熱誘発型エピトープリトリーバル」と「b.酵素誘発型エピトープリトリーバル」はそれぞれ選択的に行うものであり,「a.熱誘発型エピトープリトリーバル」と「b.酵素誘発型エピトープリトリーバル」を連続して行うことは前提とされないから,この場合も技術的に是認されるものではない。
してみれば,審判請求の理由における請求人の第1流体,第2流体についての上記主張は,当を得たものではない。


第6 むすび
以上のとおり,本願の発明の詳細な説明の記載は,本願発明1?14について,特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしているとはいえないことから,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2014-07-24 
結審通知日 2014-07-29 
審決日 2014-08-11 
出願番号 特願2009-12244(P2009-12244)
審決分類 P 1 8・ 536- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷 潮森 竜介  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 三崎 仁
信田 昌男
発明の名称 反応室に流体を充填する方法及び組織サンプルを染色する方法  
代理人 田中 光雄  
代理人 山田 卓二  
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