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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1296071
審判番号 不服2013-18090  
総通号数 182 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-02-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-19 
確定日 2015-01-09 
事件の表示 特願2011-151524「渦流式センサによる厚板の表面欠陥検出方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月29日出願公開、特開2011-191326〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成17年3月31日に出願した特願2005-100544号の一部を新たな特許出願として、平成23年7月8日に出願したものであって、平成24年12月17日付けで拒絶理由が通知され,平成25年3月11日付けで手続補正がなされ,同年6月12日付けで拒絶査定がなされ,平成25年9月19日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに,同時に手続補正(以下,「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成25年9月19日付け手続補正を却下する。

[理由]
1 本件補正について(下線は補正箇所を示す。)
本件補正により,補正前の特許請求の範囲の請求項1は,
「 【請求項1】
被検材である厚板の表面に存在する欠陥を、被検材の搬送中に渦流式センサを用いて検出する方法であって、
前記渦流式センサは、E型形状の強磁性体の3本の脚部にコイルを巻き、中央の脚部を励磁コイルとし、外側の2つの脚部を検出コイルとしたE型センサから構成し、そのE型センサを複数個、前記被検材の搬送方向に沿って互いに離間して配置すると共に、隣接するE型センサどうしを前記被検材の搬送方向から見て隙間がないように、かつ、前記被検材の幅方向の左右の2つのコーナーに対応した位置に、前記E型センサがコーナー部に重なるように配置され、さらに、各E型センサの各コイルを構成する磁極面と厚板との距離を20?30mmに調整して、前記渦流式センサの励磁コイルに交流電圧を印加して前記被検材に渦電流を発生させ、この渦電流によって、前記被検材の搬送方向に直角な方向に並べた2つの検出コイルに生じる誘起電圧を検出し、それらの検出信号の差分信号に基づいて密着性未開口の表面欠陥の検出を行うことを特徴とする厚板の表面欠陥検出方法。」
と補正された。
本件補正は,補正前の請求項1に係る発明を特定するために必要な事項である「前記被検材の幅方向の左右の2つのコーナーに対応した位置に、前記E型センサが配置されるように配置」を,「前記被検材の幅方向の左右の2つのコーナーに対応した位置に、前記E型センサがコーナー部に重なるように配置」と「前記E型センサ」の配置を限定し、「欠陥の検出を行う」を「密着性未開口の表面欠陥の検出を行う」と検出する欠陥の種類を限定するとともに、文章を整えた補正を含むものである。
したがって,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前(以下,「平成18年法改正前」という。)の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そこで,本件補正後の前記請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が,特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

2 引用刊行物およびその記載事項(下線は当審で付与した。)
(1)本願の原出願の出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2005-31014号公報(以下「刊行物1」という。)には、「磁気センサ」について、図面とともに次の事項が記載されている。
(1-ア) 「【0003】 このような強磁性体をコアに持つコイルに励磁用コイルと検出用コイルを持つセンサの一例としては、例えばE型コアを用いた鋼帯などの金属被検体の表面欠陥の非破壊検査装置がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平5-164745号公報(請求項1、2、段落[0031]-[0034]、図1)
【0004】 特許文献1は、図4に示すようなE型の強磁性体コア8を持つセンサ7(以下、E型センサと呼ぶ)を使用して、鋼板等の金属被検体の上面および下面の両面に存在する孔食を渦電流手法で検出する手法を開示している。このようにE型センサを使用すると金属被検体の表面または表層の微小な欠陥を精度良く検出できる。E型センサは、E型形状の強磁性体コアの3本の脚部それぞれにコイル9A、9B、9Cが巻装されており、脚部端面を金属被検体10に対向させて、かつ3本の脚部を金属被検体10の幅方向に並べて配置される。中央の脚部に巻装された一次コイル9Bにより交流磁束を発生させ、外側の二次コイル9A、9Cにて差分検出を行う。欠陥11が存在する場合には二次コイルに流れ込む交流磁束5Aと5Cに差が生じるため、差分出力が生じ、欠陥が検出できる。交流磁束印加による幅方向差分を行う上で、上記の配置にてE型センサを使用するメリットは、磁束の流れる被検体内の領域を励磁コイルと検出コイルの間に限定できるため、磁束が広がってしまう場合と比べ、検出能を向上させることができる点と、磁束の流れる向きを欠陥を検出する上で適当な方向に制御できるという点である。
【0005】 通常の交流磁束を用いた欠陥検出用センサ(渦流探傷に用いる、円筒状の強磁性体に一次コイルと二次コイルを巻いて、強磁性体端面を被検体に対向させたもの)では、磁束は被検体面に沿って略二次元的に放射状に流れる。そのため、欠陥の方向による、検出能の変化がないというメリットがある。しかし、例えば、圧延方向に長い欠陥だけを検出するためには、360度均一に磁束の流れる方式は最適ではない。磁束が欠陥によって遮られる程度が大きいほど検出能が上がると考えられるため、圧延方向に長い欠陥を検出するには、磁束の向きは金属被検体の圧延方向に集中させることが望ましい。E型センサでは、磁束の流れる方向は、3本の脚部の並び方向によって制御され、ここでは幅方向に並べられているため、磁束は金属被検体の幅方向に流れ、欠陥検出能が向上するのである。また脚部付け根部分(上側水平部)は共通で強磁性体であるため、上記の磁束がループとして流れやすいというメリットがある。
以上に述べたように金属被検体の厚み方向には表層領域に磁束が集中し、またE型センサの採用により、平面的には金属被検体の幅方向に磁束が集中できるということになり、表層に存在する、圧延方向に長い欠陥の検出能を向上させることができる(すなわち、より小さい欠陥まで安定して検出できるようになる)。
【0006】 ところで、幅方向の広い範囲を短時間で測定するためには、上記のE型センサをアレイ化することが考えられる。その一例を以下に説明する。
E型センサを幅方向に並べてアレイ化する場合には、センサとセンサの間の感度低下領域をカバーするため、圧延方向に複数列配置(千鳥配置)する必要がある。・・・」

(1-イ) 「【0014】実施の形態1.
前述した鋼板の表面・表層欠陥を検出するくし形センサに対して、本発明を適用した例について述べる。
図1は本発明の磁気センサの構成図である。図1に示すように、本発明の磁気センサは、くし形形状の強磁性体コア1の両端の脚部2A、2Bを除き、各々の脚部にコイル3A、3B、3C、・・・を巻装してなるものである。換言すれば、くし形形状センサの両端部に(少なくとも)1本ずつダミー脚2Aおよび2Bを設けるものである。ダミー脚2A、2Bはコイルを用いて信号検出、励磁を行わないという点以外は、脚間のピッチ、脚の形状などは他の脚と同じような寸法、形状、材質とする。なお、図1において、4は差動増幅器のごとき検出回路である。
【0015】 本磁気センサを使用して、例えば、圧延されて移動する金属被検体10の表面または表層に存在する欠陥11をオンラインで検出する場合には、くし形形状の強磁性体コア1の両端のダミー脚2A、2Bを含む全ての脚部を金属被検体面に対向して略垂直に配置し、かつその脚部が金属被検体10の圧延方向あるいは、移動方向と直交する方向となる幅方向に略平行に並べて配置される。そして、脚部のそれぞれにコイルが巻かれた隣り合う3本の脚部の組を、例えば図1の左から選択し、この3本の脚部のそれぞれに巻かれたコイルの組について、図5について説明したように、中央の脚部に巻装されたコイル3Bに交流電流を印加することにより、一次コイル、すなわち励磁コイルとして、交流磁束を発生させ、外側の2つのコイル3Aおよび3Cを二次コイルである検出用コイルとして誘起された電圧の信号にて差分検出を行う。欠陥が存在する場合には両二次コイル3A、3Cに流れ込む交流磁束5Aと5Cに差が生じるため、欠陥を検出することができる。この動作を電子走査でタイミングを切替ながら、選択する3本の脚部の組を右方向へ1本ずつずらしていく。そして、最終組の3つのコイル3E、3F、3G(中央のコイル3Eを励磁、外側の2つのコイル3E、3Gを検出に使用する)による測定が終了するまでこの探傷検査を行う。

上記(1-ア)の記載と図1?5を参照し、E型センサを使用した金属被検体の表面欠陥の渦電流手法での検査では、搬送される金属被検体を検査することが慣用技術であることを考慮すると、上記刊行物1には、 次の発明が記載されていると認められる。
「E型センサを使用して、搬送される鋼板などの金属被検体10の表面または表層の孔食を渦電流手法で検出する金属被検体の表面欠陥の非破壊検査方法であって、
E型センサは、E型形状の強磁性体コアの3本の脚部それぞれにコイル9A、9B、9Cが巻装されており、
中央の脚部に巻装された一次コイル9Bにより交流磁束を発生させ、外側の二次コイル9A、9Cにて差分検出を行い欠陥を検出するもので
脚部端面を金属被検体10に対向させて、かつ3本の脚部を金属被検体10の幅方向に並べて配置させ、
幅方向の広い範囲を短時間で測定するために、 E型センサを圧延方向に複数列配置(千鳥配置)して幅方向に並べ、センサとセンサの間の感度低下領域をカバーする金属被検体の表面欠陥の非破壊検査方法。」(以下、「引用発明」という。)

3 対比・判断
補正発明と引用発明とを対比する。

ア 引用発明は、「鋼板などの金属被検体10」の「表面または表層の孔食を渦電流手法で検出する」のであるから、少なくとも薄い板である鋼板などの金属被検体「表面」の欠陥を検知するものといえる。
一方、補正発明の「被検材である厚板」は、表面に存在する欠陥を、被検材の搬送中に「渦流式センサ」を用いて検出するのであるから、金属被検材であるといえる。
そうすると、引用発明の「鋼板等の金属被検体10」と、補正発明の「被検材である厚板」とは、「金属被検材の板」である点で共通するといえる。
そうすると、引用発明の「E型センサを使用して、搬送される鋼板などの金属被検体10の表面または表層の孔食を渦電流手法で検出する金属被検体の表面欠陥の非破壊検査方法」と、補正発明の「被検材である厚板の表面に存在する欠陥を、被検材の搬送中に渦流式センサを用いて検出する方法であって、」「厚板の表面欠陥検出方法」とは、「金属被検材の板の表面に存在する欠陥を、被検材の搬送中に渦流式センサを用いて検出する方法であって、」「金属被検材の板の表面欠陥検出方法」の点で共通する。

イ 引用発明は、一次コイルに交流磁束を発生させているが、コイルに「交流磁束を発生させ」るために、コイルに「交流電圧を印加」することは自明である。
また、引用発明のE型センサは、渦流式センサである。
そうすると、引用発明の「E型センサは、E型形状の強磁性体コアの3本の脚部それぞれにコイル9A、9B、9Cが巻装されており、
中央の脚部に巻装された一次コイル9Bにより交流磁束を発生させ、外側の二次コイル9A、9Cにて差分検出を行い欠陥を検出するもので
脚部端面を金属被検体10に対向させて、かつ3本の脚部を金属被検体10の幅方向に並べて配置させ」たものと、
補正発明の「渦流式センサは、E型形状の強磁性体の3本の脚部にコイルを巻き、中央の脚部を励磁コイルとし」「たE型センサから構成し、」「前記渦流式センサの励磁コイルに交流電圧を印加して前記被検材に渦電流を発生させ、この渦電流によって、前記被検材の搬送方向に直角な方向に並べた2つの検出コイルに生じる誘起電圧を検出し、それらの検出信号の差分信号に基づいて密着性未開口の表面欠陥の検出を行う」ものとは、
「渦流式センサは、E型形状の強磁性体の3本の脚部にコイルを巻き、中央の脚部を励磁コイルとし」「たE型センサから構成し、」「前記渦流式センサの励磁コイルに交流電圧を印加して前記被検材に渦電流を発生させ、この渦電流によって、前記被検材の搬送方向に直角な方向に並べた2つの検出コイルに生じる誘起電圧を検出し、それらの検出信号の差分信号に基づいて表面欠陥の検出を行う」ものの点で共通する。

ウ 引用発明の「圧延方向に複数列配置(千鳥配置)」は、「センサとセンサの間の感度低下領域をカバーする」ための配置であることからすると、「被検材の搬送方向から見て隙間がないように配置」するものであることは自明であるといえるから、引用発明の「幅方向の広い範囲を短時間で測定するために、E型センサを圧延方向に複数列配置(千鳥配置)して幅方向に並べ、センサとセンサの間の感度低下領域をカバーする」と、補正発明の「そのE型センサを複数個、前記被検材の搬送方向に沿って互いに離間して配置すると共に、隣接するE型センサどうしを前記被検材の搬送方向から見て隙間がないように、かつ、前記被検材の幅方向の左右の2つのコーナーに対応した位置に、前記E型センサがコーナー部に重なるように配置され、さらに、各E型センサの各コイルを構成する磁極面と厚板との距離を20?30mmに調整し」とは、「そのE型センサを複数個、前記被検材の搬送方向に沿って互いに離間して配置すると共に、隣接するE型センサどうしを前記被検材の搬送方向から見て隙間がないように配置」の点で共通する。

そうすると,両者は,
「金属被検材の板の表面に存在する欠陥を、被検材の搬送中に渦流式センサを用いて検出する方法であって、
前記渦流式センサは、E型形状の強磁性体の3本の脚部にコイルを巻き、中央の脚部を励磁コイルとし、外側の2つの脚部を検出コイルとしたE型センサから構成し、そのE型センサを複数個、前記被検材の搬送方向に沿って互いに離間して配置すると共に、隣接するE型センサどうしを前記被検材の搬送方向から見て隙間がないように配置され、前記渦流式センサの励磁コイルに交流電圧を印加して前記被検材に渦電流を発生させ、この渦電流によって、前記被検材の搬送方向に直角な方向に並べた2つの検出コイルに生じる誘起電圧を検出し、それらの検出信号の差分信号に基づいて欠陥の検出を行う金属被検材の板の表面欠陥検出方法。」
である点で一致し、以下の点で相違するといえる。

(相違点1)
金属被検材の板について、補正発明では、「厚板」と特定しているのに対して、引用発明では、薄い板である点。

(相違点2)
表面欠陥について、補正発明では、「密着性未開口」「の欠陥」であるのに対して、引用発明では、「孔食」である点。

(相違点3)
複数個のE型センサの配置について、補正発明では、「前記被検材の幅方向の左右の2つのコーナーに対応した位置に、前記E型センサがコーナー部に重なるように配置され、さらに、各E型センサの各コイルを構成する磁極面と厚板との距離を20?30mmに調整して」いるのに対して、引用発明では、そのように配置し、調整しているのかが明らかでない点。

(1)相違点1についての検討
引用発明の「鋼板などの金属被検体10」は、上記アで検討したように「表面または表層の孔食を渦電流手法で検出する」のであるから、鋼板等の厚さとは関係しないと考えられるので、厚い鋼板等も対象となるといえる。
さらに、被検体に合わせて、構成要素の大きさを含めて調整することは欠陥検査において技術常識である。
そうすると、引用発明の「鋼板等の金属被検体10」を、「厚板」に適用して相違点1に記載の補正発明の構成とすることは、当業者が容易に想到するものといえる。

(2)相違点2についての検討
本願の明細書には、「【0002】 厚板などの磁性金属材料の表面に発生する表面欠陥としては、図5(a)?(c)に示す様なヘゲと呼ばれる密着性未開口の欠陥がある。」と記載されており、「密着性未開口の欠陥」は「ヘゲ」を含んでいる。
一方、渦流探傷において、ヘゲ状の疵を検出対象とすることは周知である(例えば、特開平9-80028号公報には【0002】【従来の技術】・・・従来、単一の周波数で渦流探傷により疵を検出する場合、ヘゲ状の疵は検出しやすい・・・と記載されている。)。
そうすると、渦流探傷においてヘゲを検出対象とすることは当業者にとって自明のことといえる。
してみると、「鋼板などの金属被検体10」の欠陥である孔食を検出対象とする引用発明において、欠陥として「ヘゲ」を対象とし、相違点2に記載の補正発明の構成とすることは、当業者が必要に応じて適宜成し得る設計事項にすぎない。

(3)相違点3についての検討
ヘゲを対象に含む渦流探傷において、センサがコーナー部に重なるように配置される構成は周知(以下、「周知技術1」という)である(例えば、特開2001-305108号公報には「【0002】【従来の技術】渦流探傷装置は、・・・ヘゲ・・・に起因する渦電流の変化を検出コイルによって検出することにより、表面欠陥の有無を非破壊で検査する装置である。・・・【0014】・・・渦流探傷装置は、面プローブ及びコーナプローブが板材の全周に渡って千鳥状に配置されているので、板材の全周に渡って欠陥の有無を探傷することができる。また、板材の大きさが変化する場合には、・・・コーナプローブの位置を移動させる。」と記載されている。)。
また、非接触式の渦流探傷において、センサヘッドと被検体との間にリフトオフ(隔たり)があることは、周知(以下、「周知技術2」という)である(例えば、特開2000-46802号公報には「【0015】・・・被検体とし、リフトオフ量M=40mmとして、従来型のセンサヘッドと本願発明に係るセンサヘッドとの比較を行った。」と記載されている)。
そして、鋼板などの金属被検体の渦流探傷において、金属被検体全体を検査することは当然の課題であるから、被検体の幅方向の左右のコーナー部を含めて鋼板全体の探傷を行おうとすることは当然の課題であり、また、非接触式での探傷中に、センサヘッドと被検体が接触による傷の生成やセンサの破壊を防ぐために、センサヘッドと被検体との間にリフトオフを設けることは、当業者が普通に考慮する技術事項である。
してみると、引用発明に上記周知技術1を適用するにあたり、上記周知技術2を採用して相違点3に記載の補正発明の構成とすることは、十分動機付けがあり、阻害要因もなく、当業者が容易に想到するものといえる。

(3)そして,補正発明の作用効果は,刊行物1記載の事項および周知技術から当業者が予測し得る範囲内のものにすぎない。

(4)したがって,補正発明は,引用発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 まとめ
以上のとおりであるから,本件補正は,平成18年法改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により,却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?3に係る発明は,平成25年3月31日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?3に記載された事項により特定されたものであって,その請求項1に係る発明は,次のとおりであると認める。
「 【請求項1】
被検材である厚板の表面に存在する欠陥を、被検材の搬送中に渦流式センサを用いて検出する方法であって、
前記渦流式センサは、E型形状の強磁性体の3本の脚部にコイルを巻き、中央の脚部を励磁コイルとし、外側の2つの脚部を検出コイルとしたE型センサから構成し、そのE型センサを複数個、前記被検材の搬送方向に沿って互いに離間して配置すると共に、隣接するE型センサどうしを前記被検材の搬送方向から見て隙間がないように、かつ、前記被検材の幅方向の左右の2つのコーナーに対応した位置に、前記E型センサが配置されるように配置し、さらに、各E型センサの各コイルを構成する磁極面と厚板との距離を20?30mmに調整して、前記渦流式センサの励磁コイルに交流電圧を印加して前記被検材に渦電流を発生させ、この渦電流によって、前記被検材の搬送方向に直角な方向に並べた2つの検出コイルに生じる誘起電圧を検出し、それらの検出信号の差分信号に基づいて欠陥の検出を行うことを特徴とする厚板の表面欠陥検出方法。」(以下,「本願発明」という。)

2 引用刊行物およびその記載事項
本願出願前に頒布された刊行物1?5およびその記載事項は,上記「第2 2」に記載したとおりである。

3 当審の判断
本願発明は,補正発明の「前記被検材の幅方向の左右の2つのコーナーに対応した位置に、前記E型センサがコーナー部に重なるように配置」を,「前記被検材の幅方向の左右の2つのコーナーに対応した位置に、前記E型センサが配置されるように配置」と限定した「前記E型センサ」の配置を省き,
補正発明の「密着性未開口の表面欠陥の検出を行う」を,「欠陥の検出を行う」と、補正発明において限定されていた検出する欠陥の種類を省き、整えた補正を元に戻したものに相当する。
そうすると,本願発明の構成要件を全て含む補正発明が,上記「第2 3」において検討したとおり,引用発明および周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,引用発明および周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるというべきである。

第4 まとめ
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その他の請求項について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-24 
結審通知日 2014-11-04 
審決日 2014-11-18 
出願番号 特願2011-151524(P2011-151524)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 祐一蔵田 真彦  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤田 年彦
信田 昌男
発明の名称 渦流式センサによる厚板の表面欠陥検出方法  
代理人 特許業務法人銀座マロニエ特許事務所  

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