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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1296423
審判番号 不服2013-19036  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-01 
確定日 2015-01-15 
事件の表示 特願2012- 1860「マイクロ化学分析システム及びマイクロ混合装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 4月 5日出願公開,特開2012- 68267〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成18年11月29日(以下「遡及日」という。)に出願した特願2006-321306号の一部を平成24年1月10日に新たな特許出願としたものであって,平成25年4月4日付けで拒絶理由が通知され,同年6月7日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年6月24日付で拒絶査定がされたのに対し,同年10月1日に拒絶査定不服の審判請求がなされ,それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
異種の液体を混合して反応させることにより一方の液体の化学分析を行うマイクロ化学分析システムであって、
第1の液体が流れる第1の流路と、
第2の液体が流れる第2の流路と、
前記第1の液体および前記第2の液体の混合液が流れる第3の流路と、
前記第1の流路および前記第2の流路の合流点に設けられ、前記第1の流路、前記第2の流路および前記第3の流路よりも膨出した所定容積を有し、前記第1の液体と前記第2の液体が一時貯留され、外殻の一部が樹脂で構成される混合ポッドと、
前記混合ポッドの外部に当接し、パルスが印加されることにより、励振して振動波を送波する圧電素子により該混合ポッド内に撹拌力を与える混合促進手段と、
前記第1の液体と前記第2の液体の反応結果を検出する分析手段と、
前記分析手段が出力する反応結果を液体の化学的特性を示す物理量に換算する処理手段と、を備え、
前記混合促進手段は、前記混合ポッドに接し、前記混合ポッドの一部を変形させることを特徴とするマイクロ化学分析システム。」(下線は補正箇所を示す。)と補正された。

2 補正事項について
補正前の「混合ポッド」を「外殻の一部が樹脂で構成される混合ポッド」とする補正は,混合ポッドの構成について限定を加えたものであり,補正前の「混合ポッド内に撹拌力を与える」を「前記混合ポッドの外部に当接し、パルスが印加されることにより、励振して振動波を送波する圧電素子により該混合ポッド内に撹拌力を与える」とする補正は,混合ポッド内に撹拌力を与える手段について限定を加えたものであるから,両者ともいわゆる限定的減縮に相当するものであり,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 引用刊行物及びその記載事項
(1)本願の遡及出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2006-239499号公報(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,引用発明の認定に関連する箇所に下線を付与した。
(1-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の基板と、該第1の基板の一方の面側に接着される第2の基板とからなり、前記第1の基板又は第2の基板の少なくも何れか一方にマイクロチャネルが形成されているマイクロチップにおいて、
前記マイクロチャネルが形成されている基板が弾性体から構成されており、
前記マイクロチャネルの途中にマイクロミキサーが配設されており、
前記マイクロミキサーは、
(1)該マイクロチャネルの前後の幅よりも大きな幅を有する容積拡大部と、
(2)前記容積拡大部の壁面の一部を変形及び復元させて該容積拡大部の容積を変化させる少なくとも1個の手段とからなることを特徴とするマイクロチップ。
・・・
【請求項4】
第1の基板がポリジメチルシロキサンからなり、第2の基板がポリジメチルシロキサン、ガラス、シリコン、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリメチルメタクリレート及びポリカーボネートからなる群から選択される1種類の素材からなり、前記第1の基板の第2の基板との接着面側に少なくとも1本のマイクロチャネルが形成されており、該マイクロチャネルの途中に該マイクロチャネルの長手方向軸線に対して対称形の容積拡大部が形成されており、該マイクロチャネルの長手方向軸線に対して各半分の容積拡大部に対して、該各半分の容積拡大部の壁面を隔壁として圧力室が前記長手方向軸線に対して対称的にそれぞれ配設されていることを特徴とする請求項1?3の何れかに記載のマイクロチップ。」

(1-イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも一方の基板内に流路(マイクロチャネル)、反応容器及び/又はポートなどの微細構造(マイクロストラクチャー)が形成されている、いわゆるマイクロチップに関する。更に詳細には、本発明は、マイクロチャネル内で流体を混合・撹拌するためのマイクロミキサーを有するマイクロチップに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、マイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)などの名称で知られるように、基板内に所定の形状の流路を構成するマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を設け、該微細構造内で物質の化学反応、合成、精製、抽出、生成及び/又は分析など各種の操作を行うことが提案され、一部実用化されている。このような目的のために製作された、基板内にマイクロチャネル及びポートなどの微細構造を有する構造物は「マイクロ流体チップ」とか「マイクロ化学チップ」と呼ばれる。
【0003】
マイクロチップは遺伝子解析、臨床診断、薬物スクリーニング及び環境モニタリングなどの幅広い用途に使用できる。常用サイズの同種の装置に比べて、マイクロチップは(1)サンプル及び試薬の使用量が著しく少ない、(2)分析時間が短い、(3)感度が高い、(4)現場に携帯し、その場で分析できる、及び(5)使い捨てできるなどの利点を有する。」

(1-ウ)「【0034】
図6(B)は図4及び図5に示されるマイクロミキサー9Aにおいて大気圧室29を配設した場合の効果を実証する拡大平面写真図である。図6(i)は、Y字形のマイクロチャネルから流れてきた2種類の液体が合流マイクロチャネルから本発明のマイクロミキサーの容積拡大部に入ったところで、第1の圧力室11を正圧にし、第2の圧力室13を負圧にした状態の写真であり、図6(ii)は、第1の圧力室11を負圧にし、第2の圧力室13を正圧にした状態の写真である。圧力室が拡大しているときは圧力室内部がクリアーに見え、圧力室が縮小しているときは圧力室内部がグレーにくすんで見える。液体は圧力室が縮小された可変容積部方向から圧力室が拡大された可変容積部方向に向かって(すなわち、写真における実矢線方向に)押しやられる。このようにマイクロミキサーの容積拡大部において両液が混合され、層流界面の無い均一な単一液体となってマイクロチャネル下流側に流れていくことが実証された。」

(1-エ)「【0037】
・・・
図10は流れが発生している場合の混合動作であったが、流れが無い場合でも、第1の可変容積部15B及び第2の可変容積部17Bの容積を変化させることで、攪拌の効果が得られる。その場合、第1の圧力室11B及び第2の圧力室13Bは必ずしも交互動作である必要はない。」

(1-オ)図6(B)には,以下の図面が記載されており,ここには,2種類の液体が各々のマイクロチャネルから流れて合流マイクロチャネルで合流し容積拡大部に入ること,該容積拡大部の容積を変化させる手段が該容積拡大部の壁面の外部に当接していることが示されている。


してみれば,上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「マイクロチップを有するマイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)において,
上記マイクロチップが,ポリジメチルシロキサンからなる第1の基板と,該第1の基板の一方の面側に接着されるポリジメチルシロキサン,ガラス,シリコン,ポリスチレン,アクリル樹脂,ポリメチルメタクリレート及びポリカーボネートからなる群から選択される1種類の素材からなり第2の基板とからなり,前記第1の基板又は第2の基板の少なくも何れか一方にマイクロチャネルが形成されているマイクロチップであって,
前記マイクロチャネルが形成されている基板が弾性体から構成されており,
前記マイクロチャネルの途中にマイクロミキサーが配設されており,
前記マイクロミキサーは,
(1)該マイクロチャネルの前後の幅よりも大きな幅を有する容積拡大部と,
(2)前記容積拡大部の壁面の一部を変形及び復元させて該容積拡大部の容積を変化させる手段で,該容積拡大部の壁面の外部に当接している該手段とからなるマイクロチップであり,
上記マイクロチャネルがY字形のマイクロチャネルであり,2種類の液体が各々のマイクロチャネルから流れて合流マイクロチャネルで合流し容積拡大部に入り,該容積拡大部において両液が混合され,層流界面の無い均一な単一液体となってマイクロチャネル下流側に流れていく,
マイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)。」(以下「引用発明」という。)


(2)本願の遡及出願日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2004-184315号公報(以下「引用例2」という。)には,次の事項が記載されている。なお,下線は当審において付与した。
(2-ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、微小な流路内で微小容量の流体を混合させたり反応させたりなどするマイクロチャンネルチップに関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、進歩の著しいマイクロマシニング技術によって、シリコンやガラス、プラスチック等の基板を加工して、微小流路(マイクロチャンネル)をもつデバイスを作製し、その微小空間を各種反応(混合や合成、分離、分析等)の場として利用することが試みられ、注目を浴びている。このようなデバイスは、その使用目的に応じて、マイクロミキサーとかマイクロリアクタと呼ばれている。」

(2-イ)「【0026】
請求項2の発明においては、反応流路変形手段として、反応流路を構成している基板および蓋板のいずれか又は両方の反応流路に対応する部分に圧電素子を貼着して構成したバイモルフ構造を用いる。バイモルフ構造の圧電素子に電圧パルスを印加すると、電圧印加による圧電素子の伸縮に伴って基板または蓋板が湾曲するので、反応流路の形状が変化し、その結果として、原料流体が撹拌されてよく混合される。しかも、圧電素子を貼着しても、マイクロチャンネルチップの厚さが少し増加するだけであり、面積を増加させないから、小型化の要求を十分に満たすことができる。
【0027】
請求項3の発明においては、圧電素子を独立駆動可能な複数の圧電素子とするので、複数の圧電素子を独立に駆動することによって、反応流路をより複雑に変形させることができ、撹拌効果を高めることができる。」


4 対比・判断
(1)対比
補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「Y字形のマイクロチャネルで」「2種類の液体が」「流れ」る「各々のマイクロチャネル」は,補正発明の「第1の液体が流れる第1の流路と、第2の液体が流れる第2の流路」に相当し,引用発明の「2種類の液体が各々のマイクロチャネルから流れて」「合流」する「合流マイクロチャネル」は,補正発明の「前記第1の液体および前記第2の液体の混合液が流れる第3の流路」に相当する。

イ 引用発明の「該容積拡大部において両液が混合され」る「該マイクロチャネルの前後の幅よりも大きな幅を有する容積拡大部」は,上記アに鑑み,「前記第1の流路、前記第2の流路および前記第3の流路よりも膨出した所定容積を有」する「混合ポッド」に相当する。そして,それは「2種類の液体が各々のマイクロチャネルから流れて」「合流」する「合流マイクロチャネル」部に形成されるものであり,それらのマイクロチャネルより容積が拡大されているということは,それら2種類の液体がそこで「一時貯留」の状態になるといえる。さらに,それは「ポリジメチルシロキサンからなる第1の基板と,該第1の基板の一方の面側に接着されるポリジメチルシロキサン,ガラス,シリコン,ポリスチレン,アクリル樹脂,ポリメチルメタクリレート及びポリカーボネートからなる群から選択される1種類の素材からなり第2の基板」の間に形成されるマイクロチャネルの容積を拡大したものであり,上記樹脂からなる第1の基板と上記樹脂も選択される第2の基板との間に形成されるものであるから,引用発明の「容積拡大部」は「外殻の一部が樹脂で構成される」ものといえる。
してみれば,引用発明の「ポリジメチルシロキサンからなる第1の基板と,該第1の基板の一方の面側に接着されるポリジメチルシロキサン,ガラス,シリコン,ポリスチレン,アクリル樹脂,ポリメチルメタクリレート及びポリカーボネートからなる群から選択される1種類の素材からなり第2の基板」との間に形成される「該容積拡大部において両液が混合され」る「該マイクロチャネルの前後の幅よりも大きな幅を有する容積拡大部」は,補正発明の「前記第1の流路、前記第2の流路および前記第3の流路よりも膨出した所定容積を有し、前記第1の液体と前記第2の液体が一時貯留され、外殻の一部が樹脂で構成される混合ポッド」に相当する。

ウ 引用発明の「該容積拡大部において両液が混合され」る「前記容積拡大部の壁面の一部を変形及び復元させて該容積拡大部の容積を変化させる手段で,該容積拡大部の壁面の外部に当接している該手段」は,摘記(1-エ)の記載から,それは攪拌力を与えているものである。してみれば,引用発明の「該容積拡大部において両液が混合され」る「前記容積拡大部の壁面の一部を変形及び復元させて該容積拡大部の容積を変化させる手段で,該容積拡大部の壁面の外部に当接している該手段」は,補正発明の「前記混合ポッドの外部に当接し」て「該混合ポッド内に撹拌力を与える混合促進手段」で「前記混合促進手段は、前記混合ポッドに接し、前記混合ポッドの一部を変形させる」ものに相当する。

エ マイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)とは,一般に,微量液体試料について混合,反応,検出,分析,結果出力等の機能を一つのチップに集積化したマイクロ化学分析システムのことであり,補正発明の「前記第1の液体と前記第2の液体の反応結果を検出する分析手段と、前記分析手段が出力する反応結果を液体の化学的特性を示す物理量に換算する処理手段」について,本願明細書【0018】で「そのため、この化学分析システム1は、サンプルを分注して試薬と混合し、サンプル液と試薬液とを反応させ、その反応結果を検出し、反応データをサンプル液の化学的特性を示す物理量に変換し、得られた物理量を視認可能に出力する。」と記載されており,補正発明における「物理量」とは視認可能なものに過ぎないことから,上記補正発明の「分析手段」及び「処理手段」は,上記一般のマイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)における技術範囲の域をでるものではない。そして,引用発明の「マイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)」について,摘記(1-イ)に「マイクロチャネル内で流体を混合・撹拌する」,「微細構造内で物質の化学反応,・・・,分析など各種の操作」,「サンプル及び試薬の使用」,「現場に携帯し、その場で分析」等の記載があることから,引用発明の「マイクロスケール・トータル・アナリシス・システムズ(μTAS)又はラブ・オン・チップ(Lab-on-Chip)」は,補正発明の「異種の液体を混合して反応させることにより一方の液体の化学分析を行うマイクロ化学分析システムであって」「第1の液体と第2の液体の反応結果を検出する分析手段と、前記分析手段が出力する反応結果を液体の化学的特性を示す物理量に換算する処理手段と、を備え」た「マイクロ化学分析システム」に相当するといえる。

してみれば,補正発明と引用発明とは,
(一致点)
「異種の液体を混合して反応させることにより一方の液体の化学分析を行うマイクロ化学分析システムであって,
第1の液体が流れる第1の流路と,
第2の液体が流れる第2の流路と,
前記第1の液体および前記第2の液体の混合液が流れる第3の流路と,
前記第1の流路,前記第2の流路および前記第3の流路よりも膨出した所定容積を有し,前記第1の液体と前記第2の液体が一時貯留され,外殻の一部が樹脂で構成される混合ポッドと,
前記混合ポッドの外部に当接し,該混合ポッド内に撹拌力を与える混合促進手段と,
前記第1の液体と前記第2の液体の反応結果を検出する分析手段と,
前記分析手段が出力する反応結果を液体の化学的特性を示す物理量に換算する処理手段と,を備え,
前記混合促進手段は,前記混合ポッドに接し,前記混合ポッドの一部を変形させるマイクロ化学分析システム。」
の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点1)
混合ポッドが設けられる位置について,補正発明は,「前記第1の流路および前記第2の流路の合流点」であるのに対し,引用発明では,「合流点」とは特定されていない点。

(相違点2)
混合ポッドの外部に当接し、該混合ポッドの一部を変形させることにより,該混合ポッド内に撹拌力を与える混合促進手段が,補正発明は,「パルスが印加されることにより、励振して振動波を送波する圧電素子」であるのに対し,引用発明では,そのような手段ではない点。

(2)当審の判断
ア 相違点1について
マイクロ化学分析システムにおいて,二つの流体を混合する混合部を設ける際に,その小型化を図る(合流点と混合部との距離を短縮する)ために,あるいは,両流体の効率的な混合(流体同士の衝突による攪拌作用)のために,二つの流路の合流点に混合部を設けることは本願の遡及出願日前に周知慣用手段である(例えば,平成25年6月24日付の拒絶査定時に周知文献として提示した特開2001-252897号公報の【0001】,図2,図12及び図13並びに特開2004-53370号公報の【0001】,【0002】,図1,図2,図3及び図6,さらには,特開2005-169219号公報の図1及び図13,等参照)から,マイクロ化学分析システムである引用発明においても,上記周知慣用技術に鑑み,「容積拡大部」(補正発明の「混合ポッド」)を2種類の液体が各々のマイクロチャネルから流れて合流する「合流点」に設けることは当業者が容易になし得ることである。

イ 相違点2について
引用例2には,マイクロ分析化学システムにおいて,摘記(2-イ)に記載のとおり,反応流路の形状を変化させて流体を攪拌,混合する際に,小型化を図るため,あるいは,攪拌効果を高めるために,反応流路に圧電素子を貼着させ,それに電圧パルスを印加し、電圧印加による圧電素子の伸縮に伴って反応経路の基板または蓋板を湾曲させることが記載されており,この圧電素子は補正発明の「パルスが印加されることにより、励振して振動波を送波する圧電素子」に他ならない。
引用発明は,「容積拡大部」の形状を変化させて流体を攪拌,混合する際に,具体的には,摘記(1-ウ)に記載のとおり,圧力室を設けその圧力を変化させることにより「容積拡大部」の形状を変化させるものであるが,引用発明もマイクロ分析化学システムであり,その小型化あるいは攪拌効果を高める必要性があることから,引用例2に鑑みて,「前記容積拡大部の壁面の一部を変形及び復元させて該容積拡大部の容積を変化させる手段で,該容積拡大部の壁面の外部に当接している該手段」として「パルスが印加されることにより、励振して振動波を送波する圧電素子」を設けることは当業者が容易になし得ることである。

ウ そして,補正発明に基づく効果として,引用例1の記載事項,引用例2の記載事項及び周知技術を参照するに,当業者が予期し得ない格別顕著なものは認められない。
加えていうに,上記アにおいて周知慣用手段を開示している例として記載した特開2005-169219号公報には,上記のとおり混合ポッドに相当するものを合流点に設けること,混合ポッドの外殻の一部が樹脂であること(【0018】参照),混合促進手段が圧電素子であること(【0025】参照)が同時に記載されていることからも,上記相違点1及び2としての相乗効果も格別顕著なものとはいえない。

エ したがって,補正発明は,引用発明並びに引用例2の記載事項及び周知技術に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?9に係る発明は,平成25年6月7日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?9に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
異種の液体を混合して反応させることにより一方の液体の化学分析を行うマイクロ化学分析システムであって、
第1の液体が流れる第1の流路と、
第2の液体が流れる第2の流路と、
前記第1の液体および前記第2の液体の混合液が流れる第3の流路と、
前記第1の流路および前記第2の流路の合流点に設けられ、前記第1の流路、前記第2の流路および前記第3の流路よりも膨出した所定容積を有し、前記第1の液体と前記第2の液体が一時貯留される混合ポッドと、
前記混合ポッド内に撹拌力を与える混合促進手段と、
前記第1の液体と前記第2の液体の反応結果を検出する分析手段と、
前記分析手段が出力する反応結果を液体の化学的特性を示す物理量に換算する処理手段と、を備え、
前記混合促進手段は、前記混合ポッドに接し、前記混合ポッドの一部を変形させることを特徴とするマイクロ化学分析システム。」

2 引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記引用例1及び2の記載事項は,上記第2の3の「引用刊行物及びその記載事項」に記載したとおりである。

3 対比・判断
上記第2の2の「補正事項について」に記載したとおり,補正発明は,本願発明にさらに限定事項を追加したものであるから,本願発明は,補正発明から限定事項を省いた発明といえる。その補正発明が,前記第2の4「対比・判断」に記載したとおり,引用発明並びに引用例2の記載事項及び周知技術に基いて当業者が容易に発明することができたものである以上,本願発明も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである

第4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する。
 
審理終結日 2014-11-13 
結審通知日 2014-11-18 
審決日 2014-12-04 
出願番号 特願2012-1860(P2012-1860)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 長谷 潮  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 三崎 仁
信田 昌男
発明の名称 マイクロ化学分析システム及びマイクロ混合装置  
代理人 特許業務法人三澤特許事務所  
代理人 特許業務法人三澤特許事務所  

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