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審決分類 審判 査定不服 4項3号特許請求の範囲における誤記の訂正 特許、登録しない。 B23K
審判 査定不服 4項4号特許請求の範囲における明りょうでない記載の釈明 特許、登録しない。 B23K
審判 査定不服 4項1号請求項の削除 特許、登録しない。 B23K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 B23K
管理番号 1296754
審判番号 不服2013-18746  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-09-27 
確定日 2015-01-20 
事件の表示 特願2008-529963「ミグ/マグ溶接の制御方法およびその方法に用いる溶接装置」拒絶査定不服審判事件〔平成19年 3月22日国際公開、WO2007/032734、平成21年 2月26日国内公表、特表2009-507646〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、平成18(2006)年9月11日(パリ条約による優先権主張平成17(2005)年9月12日、スウェーデン王国)を国際出願日とする特許出願であって、平成24年3月6日付けで拒絶の理由が通知され、平成24年6月6日に意見書とともに手続補正書が提出され特許請求の範囲について補正がなされ、平成24年10月19日付けで最後の拒絶の理由が通知され、平成25年1月18日に意見書とともに手続補正書が提出され特許請求の範囲についてさらに補正がなされたが、平成25年6月18日付けで上記平成25年1月18日提出の手続補正書でした補正は却下されるとともに拒絶をすべき旨の査定がなされた。
これに対し、平成25年9月27日に該査定の取消を求めて本件審判の請求がされると同時に手続補正書が提出され、特許請求の範囲について補正がなされたものである。

第2 平成25年9月27日付けの手続補正について
1 補正事項
平成25年9月27日付けの特許請求の範囲についての手続補正(以下、「本件補正」という。)は、平成24年6月6日付けで補正された特許請求の範囲をさらに補正しようとするものであって、その補正事項は以下の補正事項aないしiのとおりである。なお、下線部は補正箇所を示す。

(1)補正事項a
請求項1を以下のように補正する。
<補正前の請求項1>
「 【請求項1】
電極端部と被加工物との間に短絡溶滴の存在を伴うミグ溶接またはマグ溶接の制御方法であって、
短絡時間の確定と、
アーク時間の確定と、
電極のエネルギー供給が、周期時間の百分率として測定された短絡時間である短絡率が変更可能な設定値を超えた場合は増加し、前記短絡率が前記設定値を下回った場合は減少するように、前記エネルギー供給を制御することであって、前記周期時間が前記短絡時間および前記アーク時間の和であり、溶接電流がもはや存在しない状態であるアーク消滅が検知され、かつ前記アーク消滅に関わる前記周期時間が無視されることと、
を含むことを特徴とする制御方法。」
<補正後の請求項1>
「 【請求項1】
電極端部と被加工物との間に短絡溶滴の存在を伴うミグ溶接またはマグ溶接の制御方法であって、前記方法は、
短絡時間を確立することと、
アーク時間を確立することと、
電極のエネルギー供給が、確立された短絡時間を周期時間で割ることにより求められる値を百分率で表す短絡率が変更可能な設定値を超えた場合は増加し、前記短絡率が前記設定値を下回った場合は減少するように、前記エネルギー供給を制御することであって、前記周期時間が前記短絡時間および前記アーク時間の和であり、溶接電流がもはや存在しない状態であるアーク消滅が検知され、かつ前記アーク消滅に関わる前記周期時間が無視されることと、
を含むことを特徴とする制御方法。」

(2)補正事項b
請求項2を以下のように補正する。
<補正前の請求項2>
「 【請求項2】
前記周期時間の一部としての前記短絡時間の前記設定値を達成するために制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の制御方法。」
<補正後の請求項2>
「 【請求項2】
前記周期時間の一部としての前記短絡時間の設定値を達成するために制御を行うことを特徴とする請求項1に記載の制御方法。」

(3)補正事項c
請求項3を以下のように補正する。
<補正前の請求項3>
「 【請求項3】
50から1000ミリ秒以内の外乱の後に連続状態が得られるように制御が調節されることを特徴とする請求項1又は2に記載の制御方法。」
<補正後の請求項3>
「 【請求項3】
外乱状態の後50から1000ミリ秒以内に連続状態が得られるように制御が調節されることを特徴とする請求項1又は2に記載の制御方法。」

(4)補正事項d
請求項4ないし11を以下のように補正する。
<補正前の請求項4ないし11>
「 【請求項4】
前記短絡時間の確定が短絡の確定から成り、測定電圧値を基にして、前記短絡に関して設定した限界値よりも前記電圧値が下がれば短絡が確定しているとみなすことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の制御方法。
【請求項5】
前記アーク時間の確定がアークの確定から成り、測定電圧値を基にして、前記アークに関して設定した値を前記電圧値が超えればアークが確定しているとみなすことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の制御方法。
【請求項6】
前記短絡時間の確定が短絡の確定から成り、光測定を基にして、短絡に関して設定した限界値よりも光強度が下がれば短絡が確定しているとみなし、前記アークに関して設定した値を測定光強度が超えればアークが確定しているとみなすことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の制御方法。
【請求項7】
前記アーク時間の確定がアークの確定から成り、光測定を基にして、前記アークに関して設定した値を測定光強度が超えればアークが発生しているとみなすことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の制御方法。
【請求項8】
前記短絡時間の確定が短絡の確定から成り、音波測定を基にして、測定された音波周波数があらかじめ設定した値の時に短絡が確定しているとみなすことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の制御方法。
【請求項9】
前記アーク時間の確定がアークの確定から成り、音波測定を基にして、測定された音波周波数があらかじめ設定した値の時にアークが発生しているとみなすことを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の制御方法。
【請求項10】
前記周期時間が前記短絡時間と短絡直後の前記アーク時間との和で算出されることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の制御方法。
【請求項11】
前記エネルギー供給の制御が、前記短絡率が前記設定値を超える場合は前記電極へのエネルギー供給が増加され、前記短絡率が前記設定値を下回る場合は前記電極へのエネルギー供給が減少される方法で前記電極へのエネルギー供給を制御することを含むことを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の制御方法。」
<補正後の請求項4ないし11>
「 【請求項4】
前記短絡時間の確立が短絡の確立から成り、測定電圧値を基にして、前記短絡に関して設定した限界値よりも前記電圧値が下がれば短絡が確立しているとみなすことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の制御方法。
【請求項5】
前記アーク時間の確立がアークの確立から成り、測定電圧値を基にして、前記アークに関して設定した値を前記電圧値が超えればアークが確立しているとみなすことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の制御方法。
【請求項6】
前記短絡時間の確立が短絡の確立から成り、光測定を基にして、短絡に関して設定した限界値よりも光強度が下がれば短絡が確立しているとみなし、前記アークに関して設定した値を測定光強度が超えればアークが確立しているとみなすことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の制御方法。
【請求項7】
前記アーク時間の確立がアークの確立から成り、光測定を基にして、前記アークに関して設定した値を測定光強度が超えればアークが発生しているとみなすことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の制御方法。
【請求項8】
前記短絡時間の確立が短絡の確立から成り、音波測定を基にして、測定された音波周波数があらかじめ設定した値の時に短絡が確立しているとみなすことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の制御方法。
【請求項9】
前記アーク時間の確立がアークの確立から成り、音波測定を基にして、測定された音波周波数があらかじめ設定した値の時にアークが発生しているとみなすことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の制御方法。
【請求項10】
前記周期時間が前記短絡時間と短絡直後の前記アーク時間との和で算出されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の制御方法。
【請求項11】
前記エネルギー供給の制御が、前記短絡率が前記設定値を超える場合は前記電極へのエネルギー供給が増加され、前記短絡率が前記設定値を下回る場合は前記電極へのエネルギー供給が減少される方法で前記電極へのエネルギー供給を制御することを含むことを特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の制御方法。」

(5)補正事項e
補正前の請求項12を削除する。

(6)補正事項f
補正前の請求項13を請求項12とし、以下のように補正する。
<補正前の請求項13>
「【請求項13】
被加工物(8)の位置に供給されるよう調節された電極端部(7’)を有する電極(7)を保持する溶接トーチ(3)、およびエネルギーを前記電極(7)に供給するよう調節された溶接機(1)を含むミグ溶接またはマグ溶接のための溶接装置であって、前記溶接装置が、
短絡時間を確定するよう調節された第一の手段(9、10)と、
アーク時間を確定するよう調節された第二の手段(9、11)と、
前記電極(7)のエネルギー供給が、周期時間の百分率として測定された短絡時間である短絡率が変更可能な設定値を超える場合は増加し、前記短絡率が前記設定値を下回る場合は減少するように、前記短絡率を一定に維持するために前記エネルギー供給を制御するよう調節された調整器(9)であって、前記周期時間が前記短絡時間および前記アーク時間の和であり、溶接電流がもはや存在しない状態であるアーク消滅が検知され、かつ前記アーク消滅に関わる前記周期時間が無視される、調整器(9)と、
を含むことを特徴とする溶接装置。」
<補正後の請求項12>
「 【請求項12】
被加工物(8)の位置に供給されるよう調節された電極端部(7’)を有する電極(7)を保持する溶接トーチ(3)、およびエネルギーを前記電極(7)に供給するよう調節された溶接機(1)を含むミグ溶接またはマグ溶接のための溶接装置であって、前記溶接装置が、
短絡時間を確立するよう調節された第一の手段(9、10)と、
アーク時間を確立するよう調節された第二の手段(9、11)と、
前記電極(7)のエネルギー供給が、確立された短絡時間を周期時間で割ることにより求められる値を百分率で表す短絡率が変更可能な設定値を超える場合は増加し、前記短絡率が前記設定値を下回る場合は減少するように、前記短絡率を一定に維持するために前記エネルギー供給を制御するよう調節された調整器(9)であって、前記周期時間が前記短絡時間および前記アーク時間の和であり、溶接電流がもはや存在しない状態であるアーク消滅が検知され、かつ前記アーク消滅に関わる前記周期時間が無視される、調整器(9)と、
を含むことを特徴とする溶接装置。」

(7)補正事項g
補正前の請求項14ないし16を請求項13ないし15とし、以下のように補正する。
<補正前の請求項14ないし16>
「 【請求項14】
前記溶接装置の動特性を制御するためのプロセス調整器(9’)をさらに含むことを特徴とする請求項13に記載の溶接装置。
【請求項15】
前記短絡率を一定に維持するために前記プロセス調整器(9’)が前記調整器(9)からの入力信号を受取ることを特徴とする請求項14に記載の溶接装置。
【請求項16】
前記短絡率を一定に維持するための前記調整器(9)が、前記溶接機(1)の電力モジュールのサイリスタの点火角度を制御することを特徴とする請求項13に記載の溶接装置。」
<補正後の請求項13ないし15>
「 【請求項13】
前記溶接装置の動特性を制御するためのプロセス調整器(9’)をさらに含むことを特徴とする請求項12に記載の溶接装置。
【請求項14】
前記短絡率を一定に維持するために前記プロセス調整器(9’)が前記調整器(9)からの入力信号を受取ることを特徴とする請求項13に記載の溶接装置。
【請求項15】
前記短絡率を一定に維持するための前記調整器(9)が、前記溶接機(1)の電力モジュールのサイリスタの点火角度を制御することを特徴とする請求項12に記載の溶接装置。」

(8)補正事項h
補正前の請求項17を請求項16とし、以下のように補正する。
<補正前の請求項17>
「 【請求項17】
前記短絡率を一定に維持するための前記調整器(9)が、前記短絡率が前記設定値を下回る時はより多くの電極(7)が供給され、その逆も同様であるように電極供給装置(2)を制御することを特徴とする請求項13から16のいずれかに記載の溶接装置。」
<補正後の請求項16>
「 【請求項16】
前記短絡率を一定に維持するための前記調整器(9)が、前記短絡率が前記設定値を下回る時はより多くの電極(7)が供給され、前記短絡率が前記設定値を上回る時はより少ない電極(7)が供給されるように電極供給装置(2)を制御することを特徴とする請求項12乃至15のいずれかに記載の溶接装置。」

(9)補正事項i
補正前の請求項18及び19を請求項17及び18とし、以下のように補正する。
<補正前の請求項18及び19>
「 【請求項18】
前記短絡率を一定に維持するための前記調整器(9)が、前記短絡率が前記設定値を超える場合は前記電極への前記エネルギー供給が増加され、前記短絡率が前記設定値を下回る場合は前記電極への前記エネルギー供給が減少される方法で前記電極への前記エネルギー供給を調節するよう前記溶接機を制御することを特徴とする請求項13から16のいずれかに記載の溶接装置。
【請求項19】
最後に使用した制御パラメータを保存し、かつこれを次の溶接の開始時に適用するための手段を含むことを特徴とする請求項13から18のいずれかに記載の溶接装置。」
<補正後の請求項17及び18>
「 【請求項17】
前記短絡率を一定に維持するための前記調整器(9)が、前記短絡率が前記設定値を超える場合は前記電極への前記エネルギー供給が増加され、前記短絡率が前記設定値を下回る場合は前記電極への前記エネルギー供給が減少される方法で前記電極への前記エネルギー供給を調節するように前記溶接機を制御することを特徴とする請求項12乃至15のいずれかに記載の溶接装置。
【請求項18】
最後に使用した制御パラメータを保存し、かつ前記制御パラメータを次の溶接の開始時に適用するための手段を含むことを特徴とする請求項12乃至17のいずれかに記載の溶接装置。」

2 補正の適否
(1)補正事項a
補正事項aは、補正前の請求項1における「確定」を「確立すること」と補正し、同様に「周期時間の百分率として測定された短絡時間である短絡率」を「確立された短絡時間を周期時間で割ることにより求められる値を百分率で表す短絡率」と補正し、さらに第1段落の「制御方法であって、」の後に「前記方法は、」なる用語を追加するものであるところ、これらが、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、単に「改正前特許法」という。)第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当することは明らかである。

(2)補正事項b
補正事項bは、「前記設定値」の「前記」を削除するものであり、これが改正前特許法第17条の2第4項第3号の誤記の訂正を目的とするものに該当することは明らかである。

(3)補正事項c
補正事項cは、「外乱の後」を「外乱状態の後」とするなどして修飾関係の明確化を図るものであって、これが改正前特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当することは明らかである。

(4)補正事項d
補正事項dは、原審の指摘に対応して「確定」なる用語を「確立」に補正するなどするもので、これが改正前特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当することは明らかである。

(5)補正事項e
補正事項eは、改正前特許法第17条の2第4項第1号の請求項の削除を目的とするものに該当する。

(6)補正事項f
補正後の請求項12に関する補正事項fは、請求項1に対する補正事項aと同様のものであり、改正前特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当することは明らかである。

(7)補正事項g
補正事項gは、補正前請求項12の削除に伴い請求項の項番を繰り上げるもので、改正前特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当する。

(8)補正事項h
補正事項hは、「その逆も同様である」を「前記短絡率が前記設定値を上回る時はより少ない電極(7)が供給される」とするなどして記載の明確化を図るものであって、これが改正前特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当することは明らかである。

(9)補正事項i
補正事項iは、補正前請求項12の削除に伴い請求項の項番を繰り上げる等するもので、改正前特許法第17条の2第4項第4号の明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当することは明らかである。

(10)小括
以上のように、補正事項aないしiは、改正前特許法第17条の2第4項の各号のいずれかを目的とするものであり、本件補正は、改正前特許法第17条の2第4項の規定に適合する。また、補正事項aないしiは新たな技術的事項を導入するものでないことは明らかであり、よって本件補正は適法である。

第3 本願発明
上記のとおり本件補正は適法であるところ、本願の請求項1に係る発明は、明細書及び図面の記載からみて、上記第2の1(1)に示す補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものと認める(以下、請求項1に係る発明を「本願発明」という。)。

第4 引用刊行物記載の発明
これに対して、原査定の平成24年10月19日付け拒絶の理由に引用された、本件の優先日前に頒布された刊行物である以下の文献には、以下の発明または事項が記載されていると認められる。
刊行物1:特開平 8-155645号公報
刊行物2:特開2003-326361号公報

1 刊行物1
(1)刊行物1に記載された事項
刊行物1には、「固定鋼管の溶接方法」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。なお、下線は理解の便のため当審で付したものである。

ア 特許請求の範囲
「【請求項1】 アーク状態検出指標を溶接電流の関数として予め設定し、その指標を満足するよう溶接電源の出力電圧を自動調整して、接触固定した鋼材同士をガスシールド溶接する方法において、
上記関数を溶接姿勢に応じた複数個設定し、溶接姿勢の変化にともない最適な関数を選択することを特徴とする固定鋼管の自動溶接方法。
【請求項2】 上記アーク状態検出指標を短絡時間率としたことを特徴とする請求項1記載の固定鋼管の自動溶接方法。ここで、短絡時間率とは、溶接時のアーク期間と短絡期間との時間比である。」


「【0004】そこで、上記溶接電流の設定よりむしろ、この熟練作業者の技能領域である「アークの観察による出力電圧の設定」に着目し、そこにファジィ制御を応用した所謂ファジィ1元制御法を組入れた溶接電源が最近開発され、実用化されている(『第143回溶接法研究会資料、SW-2265-93』、社団法人 溶接学会、1993年7月23日、株式会社 ダイヘン提出)。つまり、それは、アークの発生状態を検出し、その検出値を溶接電源にフィードバックすることで溶接中のアーク状態が常に良好になるよう出力電圧を自動設定できる装置であり、具体的内容は後述するが、アーク状態の指標として、図2に示すアーク期間と短絡期間の時間比率である短絡時間率を使用し、目標となる短絡時間率を溶接法の種類、ワイヤ径、溶接電圧等によって変化させ、溶接時の実際の短絡時間率がこの目標値と一致するようにファジィ制御によりフィードバックさせるものである。そして、このファジィ1元制御を取入れた溶接電源を使用して、充分な経験を持たない溶接作業者でも熟練作業者と同じように、溶接速度、接合部の突出長さ、溶接ワイヤ長さの変化に対して適正な条件設定ができるようになり、且つ高品質の溶接が達成できるようになった。」


「【0007】
【作用】本発明では、アーク状態検出指標を溶接電流の関数として予め設定し、その指標を満足するよう溶接電源の出力電圧を自動調整して、接触固定した鋼材同士をガスシールド溶接する方法において、上記関数を溶接姿勢に応じた複数個設定し、溶接姿勢の変化にともない最適な関数を選択するようにしたので、溶接姿勢が種々変化した場合でも溶接電源の出力電圧の自動設定が円滑に行えるようになる。その結果、非熟練作業者でも良好な溶接が可能となった。また、本発明では、上記アーク状態検出指標を短絡時間率としたので、上記効果が確実に達成できるようになる。なお、短絡時間率は、溶接時のアーク期間と短絡期間との時間比であり、下記式で定義できる。
短絡時間率=(T_(S1)+T_(S2)+T_(S3)+・・・)/(T_(S1)+T_(A1)+T_(S2)+T_(A2)・・)
ここで、T_(S1),T_(A1)・・・ は、例えば図4のアーク電圧波形におけるそれぞれのアーク発生期間、及び短絡期間を表わす。」


「【0008】以下、図4?5に基づき、本発明の内容を補足しておく。上記ファジィ1元制御を取り入れた溶接電源を利用して出力電圧を自動設定する平板鋼材のガスシールドアーク溶接においても、アーク状態を検出する指標は使用していた。すなわち、図4にMAG溶接の短絡移行時における出力電圧、溶接電流の波形及び溶滴1の移行状態を示すが、溶接ワイヤ2先端の溶滴1は、アーク期間において形成され、短絡期間に溶融池3へと移行する。この短絡9移行に際し、良好なアーク状態が維持されている間では、一定形状を有する溶滴1の移行が円滑に行われており、アーク期間と短絡期間が一定周期で繰り返されている。従って、アーク状態を図4の波形から求められる数値(短絡時間、アーク時間、アーク平均電流、アーク期間の電力等)から計算される適当な指数で代表させることができる。そのような指数の例として、アーク期間と短絡期間の時間比率である短絡時間率や短絡周波数等が用いられていた。
【0009】本発明は、このアーク状態検出指標を溶接姿勢に応じて分割し、最適なものを使用するようにしたものである。・・・後略」


「【0011】
【実施例】
(実施例1)管種X60,サイズ 内径600mmφ×厚み18.3の鋼管を径0.9mmφのソリッドワイヤを用いてMAG溶接(Ar80%+CO_(2 )20%)した。まず、溶接を始める前に過去の実績を調査し、アーク状態検出指標として短絡時間率を用い、目標短絡時間率と溶接電流との関係を溶接姿勢毎に定めた。その一例を図1に曲線で示す。」

カ 図4
以下に示す図4によれば、1つの短絡時間と1つのアーク時間とで、1つの周期時間が構成されることが理解できる。



(2)刊行物1に記載の発明
上記摘記事項イは、「従来の技術」に関する記載であるものの、刊行物1記載の(改良)発明の前提たるものであるから、当該記載も踏まえて、刊行物1記載の発明を認定することとする。
また、上記摘記事項ウの短絡時間率の算出式と上記認定事項カとを合理的に解釈すれば、「短絡時間率」は、短絡時間を周期時間で割ることにより求められることが理解できる。
そして、刊行物1に記載された摘記事項アないしオ及び認定事項カを、図面を参照しつつ、技術常識を踏まえて本願発明に照らして整理すると、刊行物1には以下の発明が記載されていると認められる。(以下、「刊行物1発明」という。)
「溶接ワイヤ2先端と鋼材との間に短絡する溶滴1の存在を伴うMAG溶接の自動溶接方法であって、前記方法は、
アーク状態の波形から短絡時間を求めることと、
アーク状態の波形からアーク時間を求めることと、
溶接ワイヤ2の溶接電圧を、短絡時間を周期時間で割ることにより求められる短絡時間率が、目標となる短絡時間率と一致するように、前記溶接電圧をフィードバック制御することを含み、周期時間が前記短絡時間および前記アーク時間の和である、自動溶接方法。」

2 刊行物2
刊行物2には、「アークスタート性判定方法」に関して、図面とともに、以下の事項が記載されている。 なお、下線は理解の便のため当審で付したものである。また、原文のまる囲み数字は、「まる1」のように記載した。

「【0002】
【従来の技術】図5は、従来技術における溶接状態を監視するアークモニタ装置を含む消耗電極ガスシールドアーク溶接装置の構成図である。以下、同図を参照して説明する。
【0003】溶接電源装置PSは、溶接に適した溶接電圧Vw及び溶接電流Iwを出力すると共に、溶接ワイヤ1の送給を制御するための送給制御信号Fcをワイヤ送給モータWMへ出力する。溶接ワイヤ1は、ワイヤ送給モータWMに直結された送給ロール5の回転によって、溶接トーチ4を通って送給されると共に、給電チップ5aから給電されて、母材2との間にアーク3が発生する。」


「【0004】電圧検出器VDは、溶接電圧Vwを検出して電圧検出信号Vdを出力する。電流検出器IDは、溶接電流Iwを検出して電流検出信号Idを出力する。アークモニタ装置AMは、上記の電圧検出信号Vd及び電流検出信号Idを入力として、下記の回路によって溶接状態を監視して、異常状態が発生したときは警報を発する。電圧平均値算出回路VDAは、上記の電圧検出信号Vdを入力として数百ms?数s程度の時定数で平均化して溶接電圧平均値信号Vdaを出力する。電流平均値算出回路IDAは、上記の電流検出信号Idを入力として数百ms?数s程度の時定数で平均化して溶接電流平均値信号Idaを出力する。・・・(後略)」


「【0005】図6は、上述した溶接状態の判定方法を示す電圧・電流波形図である。同図(A)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(C)は溶接電圧平均値信号Vdaの時間変化を示し、同図(D)は溶接電流平均値信号Idaの時間変化を示す。同図は、消耗電極ガスシールドアーク溶接の代表的な溶接法である短絡移行溶接の場合を例示しており、それ以外のグロビュール移行溶接、パルスアーク溶接等の場合も同様である。以下、同図を参照して説明する。
【0006】まる1 時刻t1以前の期間(良好な溶接状態)
時刻t1以前の期間は良好な溶接状態のときであるので、同図(A)に示すように、溶接状態は溶接電圧Vwが低い短絡電圧値となる短絡期間と高いアーク電圧値となるアーク期間とを周期的に繰り返す。同様に、溶接電流Iwは、短絡期間中は上昇しアーク期間中は下降する動作を繰り返す。従来技術の溶接状態判定方法では、このような急激に変化する電圧・電流波形を数百ms?数s程度の大きな時定数で平滑して溶接電圧平均値及び溶接電流平均値を算出し、これらが予め定めた適正範囲内にあるかどうかで溶接状態を判定するのが一般的である。したがって、同図(C)に示すように、良好な溶接状態のときの溶接電圧平均値信号Vdaは略直線となり、その値は電圧適正範囲Wv内に収まっている。同様に、同図(D)に示すように、溶接電流平均値信号Idaも略直線となり、その値は電流適正範囲Wi内に収まっている。」


「【0007】まる2 時刻t1以降の期間(異常な溶接状態)
時刻t1直前において、ワイヤ送給速度の変動、ワイヤ突出し長さの変動、溶融池や溶滴の不規則運動等の種々な外乱によって溶接状態が不安定となりアーク切れが発生すると、同図(A)に示すように、溶接電圧Vwは最大値の無負荷電圧となり、同図(B)に示すように、溶接電流Iwは通電しなくなる。その結果、同図(C)に示すように、溶接電圧平均値信号Vdaは時定数のために徐々に大きくなり時刻t2で電圧適正範囲Wv外となる。また、同図(D)に示すように、溶接電流平均値信号Idaは時定数のために徐々に小さくなり時刻t2で電流適正範囲Wi外となる。これを判別して、溶接状態の異常状態を判定する。上記ではアーク切れの場合について説明したが・・・(後略)」

上記摘記事項アないしエを、図面(特に図6)を参照しつつ、技術常識を踏まえて整理すると、刊行物2には以下の事項が記載されていると認める。(以下、「刊行物2事項」という。)
「溶接ワイヤ1端部と母材2との間に短絡を伴うガスシールドアーク溶接の制御方法において、
溶接電流Iwがもはや存在しない状態であるアーク切れが判別されること。」

第5 対比
本願発明と刊行物1発明とを対比すると以下のとおりである。
まず、刊行物1発明の「溶接ワイヤ2」が本願発明の「電極」に相当することは、技術常識に照らして明らかであり、同様に、「先端」は「端部」に、「鋼材」は「被加工物」に、「短絡する溶滴1」は「短絡溶滴」に、「MAG溶接」は「マグ溶接」に、「自動溶接方法」は「制御方法」に、「アーク状態の波形から短絡時間を求めること」は「短絡時間を確立すること」に、「アーク状態の波形からアーク時間を求めること」は「アーク時間を確立すること」に、「溶接電圧」は「エネルギー供給」に相当することも明らかである。
次に、刊行物1発明の「短絡時間を周期時間で割ることにより求められる短絡時間率」は、本願発明の「確立された短絡時間を周期時間で割ることにより求められる値を百分率で表す短絡率」に相当し、また刊行物1発明の「短絡時間率」は、本願発明の「短絡率」に相当する、ということができる。
そして、刊行物1発明の「溶接ワイヤ2の溶接電圧を、短絡時間を周期時間で割ることにより求められる短絡時間率が、目標となる短絡時間率と一致するように、前記溶接電圧をフィードバック制御すること」は、これを上記対応関係で書き改めると、
「電極のエネルギー供給を、確立された短絡時間を周期時間で割ることにより求められる値を百分率で表す短絡率が、目標となる短絡率と一致するように、前記エネルギー供給をフィードバック制御すること」となるところ、
当該事項は、本願発明の
「電極のエネルギー供給が、確立された短絡時間を周期時間で割ることにより求められる値を百分率で表す短絡率が変更可能な設定値を超えた場合は増加し、前記短絡率が前記設定値を下回った場合は減少するように、前記エネルギー供給を制御すること」なる事項と、
「電極のエネルギー供給を、確立された短絡時間を周期時間で割ることにより求められる値を百分率で表す短絡率が、設定値と一致するように、前記エネルギー供給を制御すること」である限りにおいて共通する。

したがって、本願発明と刊行物1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「電極先端と被加工物との間に短絡溶滴の存在を伴うマグ溶接の制御方法であって、前記方法は、
短絡時間を確立することと、
アーク時間を確立することと、
電極のエネルギー供給を、確立された短絡時間を周期時間で割ることにより求められる値を百分率で表す短絡率が、設定値と一致するように、前記エネルギー供給を制御することを含み、前記周期時間が前記短絡時間および前記アーク時間の和である、制御方法。」

そして、本願発明と刊行物1発明とは、以下の2点で相違している。
1 <相違点1>
「電極のエネルギー供給を、確立された短絡時間を周期時間で割ることにより求められる値を百分率で表す短絡率が、設定値と一致するように、前記エネルギー供給を制御すること」に関し、
本願発明は、電極のエネルギー供給が、短絡率が変更可能な設定値を超えた場合は増加し、前記短絡率が前記設定値を下回った場合は減少するように、前記エネルギー供給を制御するのに対し、
刊行物1発明は、電極のエネルギー供給(溶接電圧)を、短絡率が目標となる短絡率と一致するように、前記エネルギー供給(溶接電圧)をフィードバック制御する点。

2 <相違点2>
本願発明は、溶接電流がもはや存在しない状態であるアーク消滅が検知され、かつ前記アーク消滅に関わる前記周期時間が無視されることを含むのに対し、刊行物1発明は、そのようなものか不明な点。

第6 相違点の検討
1 <相違点1>について
刊行物1発明は、短絡率が目標値と一致するようにエネルギー供給(溶接電圧、以下同様)をフィードバック制御するものであるところ、フィードバック制御の性質上、(制御量たる)短絡率が目標値を超えれば(操作量たる)エネルギー供給を増加または減少させ、逆に短絡率が目標値を超えればエネルギー供給を減少または増加させるものであることは明らかである。そして、マグ溶接のようなアーク溶接においては、短絡率を減少させるにはエネルギー供給を増加させればよいことも容易に理解し得ることである。
さらに、刊行物1発明のようなフィードバック制御において、目標値すなわち設定値を変更可能とすることは、例示するまでもなく従来周知の事項である。
以上を併せ考えれば、刊行物1発明に従来周知の事項を適用して、相違点1に係る本願発明の特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものというのが相当である。

2 <相違点2>について
上記第4の2にて指摘したように、刊行物2事項は、
「溶接ワイヤ1端部と母材2との間に短絡を伴うガスシールドアーク溶接の制御方法において、
溶接電流Iwがもはや存在しない状態であるアーク切れが判別されること。」というものであるところ、これを本願発明の用語に倣って表現すれば、刊行物2事項の「溶接ワイヤ1」は本願発明の「電極」に相当し、同様に「母材2」は「被加工物」に、「溶接電流Iw」は「溶接電流」に、「アーク切れ」は「アーク消滅」に、「判別」は「検知」に相当するといえる。また、刊行物2事項の「ガスシールドアーク溶接」と本願発明の「マグ溶接」とは、ガスシールドアーク溶接、である点において共通する。
したがって、刊行物2事項は、
「電極端部と被加工物との間に短絡を伴うガスシールドアーク溶接の制御方法において、
溶接電流がもはや存在しない状態であるアーク消滅が検知されること。」と言い改めることができる。

一方、刊行物1発明は、「周期時間が前記短絡時間および前記アーク時間の和である」ことから、短絡時間でもアーク時間でもない「アーク消滅」の時間はもともと指標として考慮していないものであるところ、同じガスシールドアーク溶接分野の刊行物2事項を適用して、より積極的にアーク消滅を検知することにより、アーク消滅に関わる時間を確実に無視することも、当業者が通常の創作能力の発揮によりなし得るところである。
そうしてみると、刊行物1発明に刊行物2事項を適用し、溶接電流がもはや存在しない状態であるアーク消滅を検知し、アーク消滅に関わる周期時間を無視することとして、相違点2に係る本願発明の特定事項とすることも、当業者が容易に想到し得るところというべきである。

3 小括
したがって、本願発明は、刊行物1発明、刊行物2事項及び従来周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第7 むすび
以上のとおり、本願発明は、刊行物1発明、刊行物2事項及び従来周知の事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その余の請求項2ないし18に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-25 
結審通知日 2014-08-26 
審決日 2014-09-08 
出願番号 特願2008-529963(P2008-529963)
審決分類 P 1 8・ 574- Z (B23K)
P 1 8・ 121- Z (B23K)
P 1 8・ 573- Z (B23K)
P 1 8・ 571- Z (B23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大屋 静男山崎 孔徳  
特許庁審判長 石川 好文
特許庁審判官 長屋 陽二郎
刈間 宏信
発明の名称 ミグ/マグ溶接の制御方法およびその方法に用いる溶接装置  
代理人 高岡 亮一  

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