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審決分類 審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
審判 査定不服 特17条の2、3項新規事項追加の補正 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) H01L
管理番号 1296888
審判番号 不服2012-11217  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2012-06-14 
確定日 2015-01-28 
事件の表示 特願2007-235523「基板上に堆積された膜組成物及びその半導体デバイス」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 1月17日出願公開、特開2008- 10888〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、2001年11月1日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2000年11月21日、米国)を国際出願日とする特願2002-544771号(以下「原出願」という。)の一部を平成19年9月11日に新たな特許出願としたものであって、平成23年9月5日付けの拒絶理由通知に対して、同年11月11日に手続補正書及び意見書が提出されたが、平成24年2月9日付けで拒絶査定がされた。
そして、同年6月14日に審判請求がされるとともに手続補正書が提出され、同年9月19日付けの審尋に対して、同年12月19日に回答書が提出され、その後、当審における平成25年5月1日付けの拒絶理由通知に対して、同年9月9日に手続補正書及び意見書が提出され、さらに、当審における平成26年1月6日付けの最後の拒絶理由通知に対して、同年4月7日に手続補正書及び意見書が提出された。

第2 補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
平成26年4月7日に提出された手続補正書による補正を却下する。

[理由]
1 本件補正の内容
平成26年4月7日に提出された手続補正書による補正(以下「本件補正」という)は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1?27を補正して、本件補正後の特許請求の範囲の請求項1?12とするものであり、本件補正前の請求項1?15と本件補正後の請求項1?12は各々次のとおりである。

(本件補正前)
「【請求項1】
半導体デバイスにおける基板上に形成された前記原子層堆積法により堆積された膜組成物であって、
第1の反応物を提供するために前記基板の表面領域上の少なくとも30%において吸着された付着性材料を含むイニシエーション層であって、前記第1の反応物が、前記原子層堆積法の条件下で第2の反応物を形成するように反応材料とともに化学的に反応されており、
前記イニシエーション層上に形成された第1の反応層であって、前記第1の反応層が、前記原子層堆積法の条件下で前記イニシエーション層の前記第2の反応物とともに化学的に反応された金属または金属化合物から構成され、
前記イニシエーション層は少なくとも1つの亜鉛含有化合物である、
ことを特徴とする膜組成物。
【請求項2】
前記イニシエーション層は、50Åを超えない厚さであることを特徴とする請求項1に記載の膜組成物。
【請求項3】
前記イニシエーション層は、10Åを超えない厚さであることを特徴とする請求項2に記載の膜組成物。
【請求項4】
前記イニシエーション層は、前記基板上に化学吸着するが、前記さらなる層には化学吸着しないことを特徴とする請求項1に記載の膜組成物。
【請求項5】
少なくとも2つのさらなる反応層を含むことを特徴とする請求項1に記載の膜組成物。
【請求項6】
少なくとも5つのさらなる反応層を含むことを特徴とする請求項5に記載の膜組成物。
【請求項7】
少なくとも10のさらなる反応層を含むことを特徴とする請求項6に記載の膜組成物。
【請求項8】
前記さらなる反応層は、前記イニシエーション層の少なくとも5倍の厚さであることを特徴とする請求項6に記載の膜組成物。
【請求項9】
前記膜はバリア膜であることを特徴とする請求項1に記載の膜組成物。
【請求項10】
前記膜はゲート酸化膜であることを特徴とする請求項1に記載の膜組成物。
【請求項11】
前記付着材料は、前記基板の表面領域の少なくとも50%に吸着されることを特徴とする請求項8に記載の膜組成物。
【請求項12】
前記付着材料は、前記基板の表面領域の少なくとも80%に吸着されることを特徴とする請求項5に記載の膜組成物。
【請求項13】
前記付着材料は、前記基板の表面領域の少なくとも90%の前記基板上に吸着されることを特徴とする請求項12に記載の膜組成物。
【請求項14】
前記反応層は一酸化窒素、亜酸化窒素、窒素、NH_(3)、SiH_(4)、PH_(3)、H_(2)Sまたは水蒸気のうちのひとつであることを特徴とする請求項1に記載の膜組成物。
【請求項15】
前記イニシエーション層は、塩化亜鉛であることを特徴とする請求項1に記載の膜組成物。」

(本件補正後)
「【請求項1】
半導体デバイスにおける基板上に形成された原子層堆積法により堆積された膜組成物であって、
第1の反応物を提供するために前記基板の表面領域上の少なくとも30%において吸着された付着性材料を含むイニシエーション層であって、前記第1の反応物は、前記原子層堆積法の条件下で第2の反応物を形成するように第1の反応材料とともに化学的に反応されており、
前記イニシエーション層上に形成された第1の反応層であって、前記第1の反応層は、前記原子層堆積法の条件下で前記イニシエーション層と異なる材料の第2の反応材料と、前記イニシエーション層の前記第2の反応物とが化学的に反応された金属化合物から構成され、
前記イニシエーション層は少なくとも1つの亜鉛含有化合物である、
ことを特徴とする膜組成物。
【請求項2】
前記イニシエーション層は、50Åを超えない厚さであることを特徴とする請求項1に記載の膜組成物。
【請求項3】
前記イニシエーション層は、10Åを超えない厚さであることを特徴とする請求項2に記載の膜組成物。
【請求項4】
前記イニシエーション層は、前記基板上に化学吸着するが、前記原子層堆積法の条件下において前記第2の反応材料と、前記第2の反応物とが化学的に反応された金属化合物から構成される、前記第1の反応層上に形成された層であるさらなる反応層には化学吸着しないことを特徴とする請求項1に記載の膜組成物。
【請求項5】
少なくとも2つのさらなる反応層を含み、前記さらなる反応層は、前記原子層堆積法の条件下において前記第2の反応材料と、前記第2の反応物とが化学的に反応された金属化合物から構成される、前記第1の反応層上に形成された層であることを特徴とする請求項1に記載の膜組成物。
【請求項6】
少なくとも5つのさらなる反応層を含むことを特徴とする請求項5に記載の膜組成物。
【請求項7】
少なくとも10のさらなる反応層を含むことを特徴とする請求項6に記載の膜組成物。
【請求項8】
前記さらなる反応層は、前記イニシエーション層の少なくとも5倍の厚さであることを特徴とする請求項6に記載の膜組成物。
【請求項9】
前記付着性材料は、前記基板の表面領域の少なくとも50%に吸着されることを特徴とする請求項8に記載の膜組成物。
【請求項10】
前記付着性材料は、前記基板の表面領域の少なくとも80%に吸着されることを特徴とする請求項9に記載の膜組成物。
【請求項11】
前記付着性材料は、前記基板の表面領域の少なくとも90%の前記基板上に吸着されることを特徴とする請求項10に記載の膜組成物。
【請求項12】
前記イニシエーション層は、塩化亜鉛であることを特徴とする請求項1に記載の膜組成物。」

2 補正事項の整理
本件補正による補正事項を整理すると、以下のとおりである。

(1)補正事項1
補正前の請求項1の「前記原子層堆積法」を、補正後の請求項1の「原子層堆積法」と補正すること。

(2)補正事項2
補正前の請求項1の「前記第1の反応物が、前記原子層堆積法の条件下で第2の反応物を形成するように反応材料とともに化学的に反応されており」を、補正後の請求項1の「前記第1の反応物は、前記原子層堆積法の条件下で第2の反応物を形成するように第1の反応材料とともに化学的に反応されており」と補正すること。

(3)補正事項3
補正前の請求項1の「前記第1の反応層が、前記原子層堆積法の条件下で前記イニシエーション層の前記第2の反応物とともに化学的に反応された」を、補正後の請求項1の「前記第1の反応層は、前記原子層堆積法の条件下で前記イニシエーション層と異なる材料の第2の反応材料と、前記イニシエーション層の前記第2の反応物とが化学的に反応された」と補正すること。

(4)補正事項4
補正前の請求項1の「金属または金属化合物」を、補正後の請求項1の「金属化合物」と補正すること。

(5)補正事項5
補正前の請求項4の「前記さらなる層」を、補正後の請求項4の「前記原子層堆積法の条件下において前記第2の反応材料と、前記第2の反応物とが化学的に反応された金属化合物から構成される、前記第1の反応層上に形成された層であるさらなる反応層」と補正し、補正前の請求項5の「少なくとも2つのさらなる反応層を含む」を、補正後の請求項5の「少なくとも2つのさらなる反応層を含み、前記さらなる反応層は、前記原子層堆積法の条件下において前記第2の反応材料と、前記第2の反応物とが化学的に反応された金属化合物から構成される、前記第1の反応層上に形成された層である」と補正すること。

(6)補正事項6
補正前の請求項9、10、14を削除するとともに、補正前の請求項11、12、13、15を、それぞれ、補正後の請求項9、10、11、12に繰り上げること。

(7)補正事項7
補正前の請求項11、12、13の「前記付着材料」を、補正後の請求項9、10、11の「前記付着性材料」と補正すること。

(8)補正事項8
補正前の請求項12が「請求項5」を引用していたところを、補正後の請求項10が「請求項9」を引用するものとし、補正前の請求項13が「請求項12」を引用していたところを、補正後の請求項11が「請求項10」を引用するものとすること。

(9)補正事項9
補正前の請求項16?27を、削除すること。

3 新規事項の追加の有無及び補正目的の適否についての検討
(1)補正事項3について補正目的の適否の検討
補正事項1?9のうち、最初に、補正事項3について検討する。
補正事項3は、「前記原子層堆積法の条件下で」「イニシエーション層の前記第2の反応物」と「化学的に反応」して「第1の反応層」となるものが、「イニシエーション層と異なる材料の第2の反応材料」であることを特定することによって、請求項1に係る発明の技術的範囲を限定的に減縮しようとするものであるから、補正事項3は、特許請求の範囲の減縮を目的とする補正に該当する。
したがって、補正事項3は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項(以下「特許法第17条の2第4項」という。)第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから、特許法第17条の2第4項に規定する要件を満たしている。

(2)補正事項3について新規事項の追加の有無の検討
ア 平成26年4月7日付けの意見書において、請求人は、「請求項1の補正は、段落0017、0018及び0021の記載に基づいており」と説明しており、また、補正事項3は請求項1についての補正である。そこで、補正事項3における新規事項追加の有無を検討するにあたり、本願明細書の段落0017、0018及び0021を以下のとおり摘記する。

「【0017】
次に、図2Aを参照して、イニシエーション層14を形成する付着性材料の第1の反応性部位16を、少なくとも1つの第1の反応材料18と反応させる。次に、図2Bを参照して、前述のALD条件の下で、第1の反応材料18が第1の反応性部位16と反応して、第2の反応性部位20を形成する。反応は、例えば、第1の反応材料18の1つまたは複数の化学成分が、第1の反応性部位16の1つまたは複数の成分を置換して、第2の反応性部位20を形成する置換反応であっても良い。TDMATがイニシエーション層14に対する付着性材料として機能し、1つまたは複数の露出するジメチルアミノ配位子が第1の反応性部位16として機能する例では、第1の反応材料18は、ガス状の窒素含有化合物(その混合物を含む)からなる群から選択される1つまたは複数種の化合物であっても良い。これらの化合物としては、例えば、一酸化窒素、亜酸化窒素、窒素、およびアンモニア(NH_(3))を挙げることができる。窒素およびアンモニアが好ましく、アンモニアが特に好ましい。アンモニアを導入することにより、例えば、Ti-N-H結合単位(linkage unit)を第2の反応性部位20として形成することができる。他の好適な第1の反応材料18としては、SiH_(4)、PH_(3)、H_(2)S、および水蒸気さえ挙げることができる。
【0018】
次に、図3Aを参照して、ALDプロセスを継続させて、第2の反応材料22を第2の反応性部位20と反応させる。第2の反応材料22は、部位20と反応して膜層をイニシエーション層14上に形成するのであれば、どんな化学元素または化合物であっても良い。ある実施形態においては、第2の反応材料22は水蒸気であっても良い。他の実施形態においては、第2の反応材料は好ましくは、金属または金属を含む化合物である。これらの中で、タングステンを含む化合物が特に望ましいと考えられる。TDMATをイニシエーション層14に対する付着性材料として用いるときで、かつ窒素を含む化合物を第1の反応材料18として用いるときに使用する場合には、六フッ化タングステン(WF_(6))が特に好ましい。WF_(6)を第2の反応材料22として導入することによって、水素(-H)基を置換してTi-N-W-F結合を形成することができる。」
「【0021】
イニシエーション層および反応層は、異なる材料から構成されていることが好ましい。したがって、TDMATを用いてイニシエーション層14を形成する例においては、WNxの連続的な反応層を(第1の反応材料18としてNH_(3)を、そして第2の反応材料22としてWF_(6)を用いて)、Ti層上に堆積させて、最終的な膜を形成することが好ましいと考えられる(ここで、xは好ましくは整数1、2、3、4などである)。ここでもう一度、連続的な反応層のそれぞれを前述の方法で形成する間に、イニシエーション層14は実質的に劣化しないことに留意されたい。また、イニシエーション層は、第1の反応層24と比べて、ひいては、その上に形成されるさらなる層26、28、30、および32などの何れと比べても、比較的薄い層である。イニシエーション層は、約50Åの厚さよりも大きくてはいけなく、好ましくは、約10Åの厚さを超えてはいけない。イニシエーション層は約1または2Åの厚さを上回らないことが、さらに望ましい。各反応層は、イニシエーション層の約2倍の厚さから、より好ましくは、約10倍から約100倍の厚さの範囲までの、どこにあっても良い。全体としては、最終的な膜は通常、約数百オングストロームの厚さ程度である」

イ 摘記した本願明細書の段落【0018】には、「第2の反応材料22は、部位20と反応して膜層をイニシエーション層14上に形成するのであれば、どんな化学元素または化合物であっても良い。」と記載されており、第2の反応材料は、イニシエーション層と同じ材料であるか、異なる材料であるかのいずれかであるから、第2の反応材料は、部位20と反応して膜層をイニシエーション層14上に形成するという条件を満たす範囲で、イニシエーション層と異なる材料を含み得るものであり、しかも、同段落【0018】には、イニシエーション層を形成する付着性材料としてTDMATを用いる際に、第2の反応材料として六フッ化タングステン(WF_(6))が特に好ましいと記載されており、第2の反応材料がイニシエーション層と異なる材料である実施例も示されている。

ウ しかしながら、補正事項3についての補正の根拠とされた、上記段落0017、0018及び0021のいずれにも、イニシエーション層が亜鉛含有化合物である場合に、第2の反応物と化学的に反応する第2の反応材料を、イニシエーション層と異なる材料とすることについては、何ら記載がなされていない。そして、上記イで検討したように、イニシエーション層がTDMATである場合、イニシエーション層と異なる材料を、第2の反応物と化学的に反応する第2の反応材料として利用することが記載されているとしても、当該記載により、直ちに、イニシエーション層が亜鉛含有化合物である場合においても、イニシエーション層と異なる材料を、第2の反応物と化学的に反応する第2の反応材料として利用できることが、示唆されているとはいえない。TDMATと亜鉛含有化合物は、基板の表面領域に吸着する点において共通の性質を有しているということはいえるが、基板に吸着したTDMATからなるイニシエーション層の第1の反応物と第1の反応材料が反応して形成された第2の反応物と、基板に吸着した亜鉛含有化合物からなるイニシエーション層の第1の反応物と第1の反応材料が反応して形成された第2の反応物とは、別の物質であり、異なる反応特性を有するものと認められる。したがって、イニシエーション層がTDMATである場合に、第2の反応物と化学的に反応する第2の反応材料として、イニシエーション層と異なる材料が利用可能であるとしても、イニシエーション層がTDMATである場合に、第2の反応物と化学的に反応する第2の反応材料として、イニシエーション層と異なる材料が利用可能であるとする理論的根拠は不明であり、第2の反応物と化学的に反応する第2の反応材料として、イニシエーション層と異なる材料が利用可能であることが、当業者にとって周知の事項であるともいえない。

エ 上記周知の事項であるかの点について、基板上に最初に亜鉛含有化合物を供給して金属化合物からなる反応層を形成する、従来のALD法を検討するに、例えば、下記第3の2(1)と4(1)ウにおいて検討する、引用例1と周知例2を参照することができる。
引用例1には、透明絶縁性基板上に、亜鉛含有化合物であるジエチルジンクと硫化水素を交互に供給してZnS膜を形成する方法が記載されており、周知例2には、被成長基板上に、亜鉛含有化合物であるジメチルジンクと硫化水素を交互に供給してZnS膜を形成する方法が記載されている。これらの方法において、1回目に供給する原料ガスと、3回目に供給する原料ガスはいずれもジエチル亜鉛又はジメチル亜鉛であり、同じ原料ガスを供給している。そこで、仮に、上記1回目に供給するガス、第2回目に供給するガス、3回目に供給するガスが、それぞれ、本願明細書に記載された付着性材料、第1の反応材料、第2の反応材料に対応するものと考えたときに、引用例1の方法及び周知例1の方法のいずれも、付着性材料と第2の反応材料が同じ原料ガスを用いるものとなっている。
したがって、イニシエーション層を形成するための付着性材料として亜鉛含有化合物を用いる場合に、第2の反応材料として、イニシエーション層と異なる材料を用いることが、当業者にとって周知の技術であるということはできないから、本願明細書の記載に接した当業者にとって、イニシエーション層を形成するための付着性材料として亜鉛含有化合物を用いる場合に、第2の反応材料として、イニシエーション層と異なる材料を用いることが、自明な事項であるともいえない。

オ また、イニシエーション層が少なくとも1つの亜鉛含有化合物である場合の具体例に関して、補正事項3についての補正の根拠とされた、上記段落0017、0018及び0021以外に、本願明細書の段落【0014】には、「他の有用な付着性材料は、塩化亜鉛である。他の有用な化合物としては、例えば、テトラエトキシオルソシリケート(tetraethoxyorthosilicate)(TEOS)、三塩化アルミニウム、トリメチルガリウム、トリメチルアルミニウム、およびトリメチル亜鉛(trimethylzinc)を挙げることができる。」と記載されているが、イニシエーション層を形成するための付着性材料である亜鉛含有化合物として、塩化亜鉛とトリメチル亜鉛を用いうることが例示されているのみであって、付着性材料として塩化亜鉛又はトリメチル亜鉛を含む亜鉛含有化合物を用いた場合に、金属化合物をイニシエーション層14上に形成するために、第1及び第2の反応材料としてどのような物質を用い得るかについては、出願当初の明細書、特許請求の範囲、又は図面(以下「当初明細書等」という。)には記載も示唆もされておらず、そのため、イニシエーション層を形成するための付着性材料として亜鉛含有化合物を用いる場合に、第2の反応材料として、イニシエーション層と異なる材料を用いる点についても、当初明細書等に記載又は示唆がなされた事項であるとはいえない。

(3)補正事項3についての検討のまとめ
以上のとおり、イニシエーション層を形成するための付着性材料として亜鉛含有化合物を用いる場合に、第2の反応材料として、イニシエーション層と異なる材料を用いることが、当初明細書等に記載又は示唆された事項であるとはいえず、当業者にとって周知の事項であるともいえないため、補正事項3は、当初明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものであるといえるから、補正事項3は、当初明細書等に記載された事項の範囲内においてなされたものではない。
したがって、補正事項3は、特許法第17条の2第3項の規定にする要件を満たしていない。

(4)新規事項の追加の有無及び補正目的の適否についての検討のまとめ
補正事項3は、特許法第17条の2第3項の規定にする要件を満たしていない。
したがって、他の補正事項1、2、4?9について、新規事項の追加の有無及び補正目的の適否の検討をするまでもなく、本件補正は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない。

4 補正却下の決定のむすび
以上の次第で、本件補正は、特許法第17条の2第3項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
1 以上のとおり、本件補正(平成26年4月7日に提出された手続補正書による補正)は却下されたので、本願の請求項1?27に係る発明は、平成25年9月9日に提出された手続補正書により補正された明細書、特許請求の範囲及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1?27に記載されている事項により特定されるとおりのものであり、そのうち、請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、請求項1に記載されている事項により特定される、上記第2の1において本件補正前の請求項1として記載されたとおりのものであり、再掲すると次のとおりである。

【請求項1】
「半導体デバイスにおける基板上に形成された前記原子層堆積法により堆積された膜組成物であって、
第1の反応物を提供するために前記基板の表面領域上の少なくとも30%において吸着された付着性材料を含むイニシエーション層であって、前記第1の反応物が、前記原子層堆積法の条件下で第2の反応物を形成するように反応材料とともに化学的に反応されており、
前記イニシエーション層上に形成された第1の反応層であって、前記第1の反応層が、前記原子層堆積法の条件下で前記イニシエーション層の前記第2の反応物とともに化学的に反応された金属または金属化合物から構成され、
前記イニシエーション層は少なくとも1つの亜鉛含有化合物である、
ことを特徴とする膜組成物。」

2 引用例1の記載と引用発明
(1)引用例1の記載
当審における平成26年1月6日付けの最後の拒絶理由通知に引用された、本願の優先権主張日前に日本国内において頒布された刊行物である、特開平7-77705号公報(以下「引用例1」という。)には、「表示装置及びその製造方法」(発明の名称)に関して、図1、2とともに、次の記載がある。(ここにおいて、下線は当審が付与したものである。以下同じ。)

ア 「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は表示装置及びその製造方法に係り、特に液晶ディスプレイ、エレクトロルミネッセンス等において、各画素のスイッチング用のみならず、シフトレジスタやラッチ等の駆動回路用にもTFT(薄膜トランジスタ)を用いている駆動回路一体型のアクティブマトリクス基板を有する表示装置及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の駆動回路一体型のアクティブマトリクス基板を有する表示装置には、駆動回路を構成するTFTに高い移動度が必要なため、各画素のスイッチング用のTFT(以下、「画素用TFT」と呼ぶ)及び走査線及び信号線に接続された駆動回路用TFT(以下、「駆動回路用TFT」と呼ぶ)の両方とも、p-Si(多結晶シリコン)層を活性層とする多結晶シリコンTFT(以下、「p-SiTFT」と略す)が用いられていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記従来の駆動回路一体型のアクティブマトリクス基板を有する表示装置において、駆動回路用TFTの高速化のために用いるp-Si TFTはオフ電流が大きいため、駆動回路用TFTのみならず、画素用TFTにもp-SiTFTを用いると、表示品質が低下するという問題点があった。
【0004】(・・・途中省略・・・)
【0007】そこで本発明は、同一の基板上に、画素用TFT及び駆動回路用TFTとしてa-Si TFT及びp-Si TFTを容易に作り分け、画素用TFTのオフ電流の低減と駆動回路用TFTの高速化を同時に達成する駆動回路一体型のアクティブマトリクス基板を有する表示装置及びその製造方法を提供することを目的とする。」

イ 「【0016】
【実施例】以下、本発明を図示する実施例を用いて詳細に説明する。図1(a)は本発明の第1の実施例による液晶表示装置のプレーナー型TFTマトリクス基板を示す概略平面図、図1(b)はその一部断面図である。この液晶表示装置のプレーナー型TFTマトリクス基板には、図1(a)に示されるように、画素用TFTが形成されたA領域と駆動回路用TFTが形成されたB領域とがある。
【0017】A領域においては、図1(b)の左側に示されるように、共通の透明絶縁性基板10上に、厚さ150nmのa-Si活性層14aが形成され、このa-Si活性層14a表面に、n+ 型ソース領域20a及びn+ 型ドレイン領域22aが相対して形成されている。また、これらn+ 型ソース領域20aとn+ 型ドレイン領域22aとに挟まれたa-Si活性層14a上には、例えば厚さ200nmのSiO_(2 )(酸化シリコン)膜からなるゲート絶縁膜16aを介して、例えば厚さ300nmのAl(アルミニウム)膜からなるゲート電極18aが形成されている。
【0018】(・・・途中省略・・・)このようにして、画素用TFT32aが形成されている。
【0019】他方、B領域においては、図1(b)の右側に示されるように、共通の透明絶縁性基板10上に、(111)方向に強く配向した結晶性高抵抗膜である厚さ150nmのZnS膜12が形成されている。そしてSiと格子定数が近いZnS膜12上には、厚さ150nmのp-Si活性層14bが形成されている。また、このp-Si活性層14b表面には、A領域と同様に、n+ 型ソース領域20b及びn+ 型ドレイン領域22bが相対して形成され、これらn+ 型ソース領域20bとn+ 型ドレイン領域22bとに挟まれたp-Si活性層14b上には、厚さ200nmのSiO_(2) 膜からなるゲート絶縁膜16bを介して、厚さ300nmのAl膜からなるゲート電極18bが形成されている。
【0020】(・・・途中省略・・・)このようにして、駆動回路用TFT32bが形成されている。
【0021】即ち、図1に示す液晶表示装置のプレーナー型TFTマトリクス基板は、同一の透明絶縁性基板10上に、a-Si活性層14aを用いたa-Si TFTからなる画素用TFT32a及びp-Si活性層14bを用いたp-Si TFTからなる駆動回路用TFT32bが形成されている駆動回路一体型のアクティブマトリクス基板である。」

ウ 「【0022】次に、図1の液晶表示装置のプレーナー型TFTマトリクス基板の製造方法を、図2に示す工程図を用いて説明する。尚、図1(b)に対応して、図2(a)?(d)の左側には画素用TFTの形成予定領域であるA領域の工程断面を、その右側には駆動回路用TFTの形成予定領域であるB領域の工程断面をそれぞれ示す。
【0023】まず、透明絶縁性基板10上に、例えばALD法(原子層堆積法)を用いて、ZnS膜12を厚さ150nmに堆積する。このときの形成条件は、基板温度270℃で、流量5sccmの(C_(2) H_(5) )_(2) Zn(ジエチルジンク)と流量40sccmのH_(2) S(硫化水素)とをパージ時間5秒を間に挟んで交互に5秒間だけ供給するサイクルを500サイクル行う。こうして形成したZnS膜12は(111)方向に強く配向した多結晶膜になっている。
【0024】続いて、ZnS膜12膜を希塩酸溶液を用いて選択的に除去し、画素用TFT形成予定領域であるA領域においては、透明絶縁性基板10を露出させると共に、駆動回路用TFT形成予定領域であるB領域においては、透明絶縁性基板10上にZnS膜12膜を残存させる(図2(a)参照)。これ以降の工程は、A領域及びB領域において、同一のプロセスで進行する。即ち、P-CVD(プラズマ気相成長)法を用い、全面にSi(シリコン)層を厚さ150nmに形成する。このときの形成条件は、基板温度350℃、圧力1Torr、放電電力50Wで、流量1sccmのSiH_(4) (シラン)ガス及び流量20sccmのH_(2) (水素)ガスを用いる。
【0025】こうして形成したSi層は、A領域においては、透明絶縁性基板10上に成長するためにa-Si活性層14aとなり、B領域においては、Siと格子定数が近いZnS膜12上に成長するためにp-Si活性層14bとなる。続いて、P-CVD法を用い、全面にSiO_(2 )膜を厚さ200nmに形成する。このときの形成条件は、基板温度300℃、圧力0.1Torr、放電電力30Wで、流量1sccmのSiH_(4) ガス及び流量20sccmのN_(2) Oガスを用いる。こうして、A領域におけるa-Si活性層14a上及びB領域におけるp-Si活性層14b上に、それぞれSiO_(2) 膜からなるゲート絶縁膜16a、16bを形成する(図2(b)参照)。」

エ 摘記した上記段落【0022】?【0024】を参照すると、図2(a)から、ALD法によって透明絶縁性基板10の全面に形成されたZnS膜12は、画素用TFT形成予定領域であるA領域では、希塩酸溶液によって選択的に除去されることによって透明絶縁性基板10が露出しており、駆動回路用TFT形成予定領域であるB領域では、除去されずに残存していることが見て取れる。

(2)引用発明
ア 摘記した上記段落【0023】の記載によれば、引用例1におけるALD法は、基板温度270℃とし、流量5sccmのジエチルジンクと流量40sccmの硫化水素とをパージ時間5秒を間に挟んで交互に5秒間だけ供給するという原子堆積法の条件で、ジエチルジンクと硫化水素の供給サイクルを500サイクル行うことにより、ZnS膜12を透明絶縁性基板10上に形成するものである。

イ 引用例1には、上記ALD法について、その反応過程の詳細については記載されていない。しかしながら、ALD法自体は成膜方法として周知の方法であって、その反応過程の詳細については、以下引用する周知例1に次のように記載されている。

・周知例1:国際公開99/10558号
上記周知例1には、「VERTICALLY-STACKED PROCESS REACTOR AND CLUSTER TOOL SYSTEM FOR ATOMIC LAYER DEPOSITION(訳:原子層堆積用の垂直に積み重ねられたプロセス反応器およびクラスタツールシステム)」(発明の名称)に関して、図1a、1bとともに、次の記載がある。(ここにおいて、翻訳は周知例1に係る国際出願の国内段階における公表公報(特表2001-514440号公報)を参考にして当合議体が作成したものである。)

(ア) 「ALD processes proceed by chemisorption at the deposition surface of the substrate. The technology of ALD is based on concepts of Atomic Layer Epitaxy (ALE) developed in the early 1980s for growing of polycrystalline and amorphous films of ZnS and dielectric oxides for electroluminescent display devices. The technique of ALD is based on the principle of the formation of a saturated monolayer of reactive precursor molecules by chemisorption. In ALD appropriate reactive precursors are alternately pulsed into a deposition chamber. Each injection of a reactive precursor is separated by an inert gas purge. Each precursor injection provides a new atomic layer additive to previous deposited layers to form a uniform layer of solid film The cycle is repeated to form the desired film thickness.(訳:ALDプロセスは、基板の堆積表面における化学吸着により進行する。ALDの技術は、エレクトロルミセンス表示デバイス用のZnSおよび誘電性酸化物の多結晶およびアモルファス膜を成長させるために、1980年代の初頭に開発された原子層エピタキシーのコンセプトに基づいている。ALDの技術は、化学吸着による反応性先駆物質分子の飽和単層の形成原理に基づいている。ALDでは、適切な反応性先駆物質が交互に堆積チャンバ中にパルス供給される。反応性先駆物質の各注入は不活性ガスパージにより分離される。各先駆物質注入は前に堆積された層に対して追加的な新しい原子層を提供して、固体膜の均一層を形成する。このサイクルが繰り返されて所要の膜厚が形成される。)」(第3頁25行?第4頁2行)

(イ) 「To further illustrate the general concepts of ALD, attention is directed to Fig. la and Fig. lb herein. Fig. la represents a cross section of a substrate surface at an early stage in an ALD process for forming a film of materials A and B, which in this example may be considered elemental materials. Fig. la shows a substrate which may be a substrate in a stage of fabrication of integrated circuits. A solid layer of element A is formed over the initial substrate surface. Over the A layer a layer of element B is applied, and, in the stage of processing shown, there is a top layer of a ligand y. The layers are provided on the substrate surface by alternatively pulsing a first precursor gas Ax and a second precursor gas By into the region of the surface. Between precursor pulses the process region is exhausted and a pulse of purge gas is injected.(訳:ALDの一般的なコンセプトをさらに示すために、図1aおよび図1bに注意を向ける。図1aは物質AおよびBの膜を形成するALDプロセスにおける初期段階での基板表面の断面図である。この物質AおよびBはこの例では元素状態で存在すると考えることができる。図1aは集積回路の製造段階における基板を示している。元素Aの固体層は初期の基板表面を覆うように形成される。A層を覆うように、元素Bの層が加えられ、示されている処理段階では、配位子yの上部層が存在している。これらの層は、第1の先駆物質ガスAxおよび第2の先駆物質ガスByを表面領域に交互にパルス供給することにより基板表面上に提供される。先駆物質をパルス供給する間に、プロセス領域は排気され、パージガスのパルスが注入される。)」(第4頁8?17行)

(ウ) 「Fig. lb shows one complete cycle in the alternate pulse processing used to provide the AB solid material in this example. In a cycle a first pulse of gas Ax is made followed by a transition time of no gas input. There is then an intermediate pulse of the purge gas, followed by another transition. Gas By is then pulsed, a transition time follows, and then a purge pulse again. One cycle then incorporates one pulse of Ax and one pulse of BY, each precursor pulse separated by a purge gas pulse. (訳: 図1bはこの例においてAB固体物質を提供するために使用される交互パルス処理中の1つの完全なサイクルを示している。1サイクルでは、ガスAxの第1のパルスにはガス入力のない遷移時間が続く。その後パージガスの中間パルスが存在し、その後に他の遷移が続く。その後にByガスがパルス供給され、遷移時間が続き、その後再度パージガスのパルス供給が続く。1サイクルは、Axの1パルスとBYの1パルスを組み込んでおり、各先駆物質パルスはパージガスパルスにより分離されている。)」(第4頁18?23行)

(エ) 「 As described briefly above, ALD proceeds by chemisorption. The initial substrate presents a surface of an active ligand to the process region. The first gas pulse, in this case Ax, results in a layer of A and a surface of ligand x. After purge, By is pulsed into the reaction region. The y ligand reacts with the x ligand, releasing xy, and leaving a surface of y, as shown in Fig. la. The process proceeds cycle after cycle, with each cycle taking about 1 second in this example.(訳:先に簡単に説明したように、ALDは化学吸着により進行する。初期の基板はプロセス領域に対して活性な配位子からなる表面を提供する。第1のガスのパルス供給によって、このケースではAxは、配位子xが表面を覆うAの層となる。パージ後に、Byが反応領域にパルス供給される。図1aに示されているように、y配位子はx配位子と反応し、xyを放出し、yからなる表面を残す。このプロセスはサイクル毎に進行する。この例では各サイクルは約1秒かかる。)」(第4頁24?29行)

以上、周知例1には、2種類の原料ガスを用いるALD法における、以下の反応過程が記載されている。すなわち、第1の先駆物質ガスAxと第2の先駆物質ガスByを交互に基板表面上にパルス供給すると、初期の基板に吸着したガスAxは、配位子xが表面を覆うAの層となり、この配位子xが、次にパルス供給されたガスByの配位子yと反応してxyが放出されるとともに、Aの層を覆うBの層が形成され、このBの層の表面を配位子yが覆うようになる。そして、ガスAxとガスByの供給プロセスを繰り返すことにより、基板上にAとBが順次積層したAB固体物質が得られることが記載されている。
そこで、周知例1に記載されたALD法における反応過程を参照すると、引用例1に記載された上記ALD法において、ジエチルジンクが上記先駆物質ガスAxに対応し、硫化水素が上記先駆物質ガスByに対応するものと認められ、したがって、ジエチルジンクには、基板への吸着後に供給される硫化水素と反応する、配位子xに相当する部分(以下「第1の反応部位」という。)を有しており、また、硫化水素には、上記ジエチルジンクの層と反応した後に供給される2回目のジエチルジンクと反応する、配位子yに相当する部分(以下「第2の反応部位」という。)を有しているものと認められる。

ウ 引用例1から摘記した上記段落【0019】と【0025】の記載によれば、ZnS膜12は、その格子定数がSiと近いために、p-Si(多結晶シリコン)層を形成するための下地層となり、上記p-Si層は駆動回路用TFTの活性層14bとなる。したがって、ZnS膜は駆動回路用TFTの基板の一部を構成している。

エ そこで、引用例1から摘記した上記(1)ア?エの記載事項と、上記ア?ウの検討した事項を、ZnS膜12のうち、1回目のジエチルジンクの供給、硫化水素の供給、及び2回目のジエチルジンクの供給によって形成された部分に注目して総合すると、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されているものと認められる。

「駆動回路用TFTが形成される透明絶縁性基板10上に、原子層堆積法により堆積されたZnS膜12であって、
前記透明絶縁性基板10上に1回目のジエチルジンクを供給することによって、前記透明絶縁性基板10の表面にジエチルジンクが吸着することによって形成された第1の層であって、その表面に第1の反応部位を有する前記第1の層が形成され、
前記第1の層上に供給された硫化水素と、前記第1の反応部位とを反応させることによって形成された第2の層であって、その表面に第2の反応部位を有する前記第2の層が形成され、
前記第2の層上に供給された2回目のジエチルジンクと、その表面に前記第2の反応部位を有する前記第2の層とを反応させることによって第3の層を形成することにより、前記透明絶縁性基板10上にZnS膜が形成された、
ことを特徴とするZnS膜12。」

3 本願発明と引用発明との対比
(1)次に、本願発明と引用発明を対比する。
ア 引用発明の「駆動回路用TFT」及び「透明絶縁性基板10」は、それぞれ本願発明1の「半導体デバイス」及び「基板」に相当しており、したがって、引用発明の「駆動回路用TFTが形成される透明絶縁性基板10」は「半導体デバイスにおける基板」に相当する。

イ 本願発明の「基板上に形成された前記原子層堆積法により堆積された膜組成物」とは、「基板上に形成された前記原子層堆積法により堆積された膜」として形成される「組成物」を意味するものと認められるところ、引用発明の「透明絶縁性基板10上に、原子層堆積法により堆積されたZnS膜12」も、「透明絶縁性基板10上」に「原子層堆積法により堆積された」膜として形成される、「ZnS」からなる組成物という意味を有するものと認められる。
したがって、引用発明の「透明絶縁性基板10上に、原子層堆積法により堆積されたZnS膜12」は、本願発明の「基板上に形成された前記原子層堆積法により堆積された膜組成物」に相当する。

ウ 引用発明の「1回目のジエチルジンク」は、「透明絶縁性基板10」の表面に最初に吸着されることによって「第1の層」を形成し、当該「第1の層」の表面には、次に供給される「硫化水素」と反応する「第1の反応部位」を有している。一方、本願発明の「付着性材料」は、「基板」の表面領域上に最初に吸着されることによって「イニシエーション層」を形成し、当該「イニシエーション層」の表面には、次に供給される「反応材料」と反応する「第1の反応物」を有している。
したがって、引用発明において、「透明絶縁性基板10」の表面に最初に吸着して形成されるの「第1の層」は、本願発明において、「基板」の表面に最初に吸着して形成される「イニシエーション層」に相当する。
また、引用発明において「第1の層」を形成するために供給される「1回目のジエチルジンク」は、本願発明において「イニシエーション層」を形成するために供給される「付着性材料」に相当する。
また、引用発明において「透明絶縁性基板10」に吸着して形成された「第1の層」の表面に有している「第1の反応部位」は、本願発明において「基板」に吸着して形成された「イニシエーション層」の表面に有している「第1の反応物」に相当する。
また、引用発明において「第1の反応部位」と反応する「硫化水素」は、本願発明において「第1の反応物」と反応する「反応材料」に相当する。
以上の検討に基づくと、引用発明の「前記透明絶縁性基板10に1回目のジエチルジンクを供給することによって、前記基板10の表面にジエチルジンクが吸着することによって形成された第1の層であって、その表面に第1の反応部位を有する前記第1の層」は、本願発明において「第1の反応物を提供するために前記基板の表面領域上」「において吸着された付着性材料を含むイニシエーション層」に相当する。

エ 引用発明において、「第1の層」の「第1の反応部位」が、供給された「硫化水素」と反応ことによって、「その表面に第2の反応部位を有する前記第2の層」が形成される。一方、本願発明において、「イニシエーション層」の「第1の反応物」が、「反応材料とともに化学的に反応」することによって、「前記原子層堆積法の条件下」で「第2の反応物」を形成している。
そして、上記ウで検討したように、引用発明の「第1の層」、「第1の反応部位」及び「硫化水素」が、それぞれ、本願発明の「イニシエーション層」、「第1の反応物」及び「反応材料」に相当しており、また、引用発明の「その表面に第2の反応部位を有する前記第2の層」が、上記2(2)アに記載した「原子堆積法の条件」下で形成されていることは明らかである。
したがって、引用発明の、「第1の層」の「第1の反応部位」が、供給された「硫化水素」と反応することによって形成される、「その表面に第2の反応部位を有する前記第2の層」は、本願発明の、「イニシエーション層」の「第1の反応物」が「反応材料とともに化学的に反応」することによって「前記原子層堆積法の条件下」で形成される、「第2の反応物」に相当する。
以上の検討に基づくと、引用発明において、「前記第1の層上に供給された硫化水素と、前記第1の反応部位とを反応させることによって」「その表面に第2の反応部位を有する前記第2の層が形成」されることは、本願発明において、「前記第1の反応物が、前記原子層堆積法の条件下で第2の反応物を形成するように反応材料とともに化学的に反応されて」いることに相当する。

オ 引用発明は、「透明絶縁性基板10」上に形成された、「第1の層」及び「第2の層」の上で、さらに、「その表面に前記第2の反応部位を有する前記第2の層」が「2回目のジエチルジンク」と反応することにより「第3の層」を形成し、これら「第1ないし第3の層」によって「ZnS膜」が形成されているものであり、このことは、「透明絶縁性基板10」上の「第1の層」の上に、「第2及び第3の層」からなる「ZnS膜」が形成されているということもできる。
そして、上記ウ、エで検討したように、引用発明の「第1の層」、「その表面に第2の反応部位を有する前記第2の層」がそれぞれ、本願発明の「イニシエーション層」、「第2の反応物」に相当しており、引用発明の「ZnS」が「金属化合物」であり、また、本願発明の「第1の反応層」とは「前記原子層堆積法の条件下で前記イニシエーション層の前記第2の反応物とともに化学的に反応された金属または金属化合物から構成され」たものであることも考慮すれば、引用発明において、「ZnS膜」が「前記第2の層上に供給された2回目のジエチルジンクと、その表面に前記第2の反応部位を有する前記第2の層とを反応させることによって第3の層を形成することにより、前記透明絶縁性基板10上に」形成されていることは、本願発明において、「第1の反応層」が「前記原子層堆積法の条件下で前記イニシエーション層の前記第2の反応物とともに化学的に反応された金属または金属化合物から構成され」ているとともに、「前記イニシエーション層上に形成された」ものであることに相当している。

カ 引用発明において、「第1の層」が「前記基板10の表面にジエチルジンクが吸着することによって形成された」ものであることは、本願発明において「前記イニシエーション層は少なくとも1つの亜鉛含有化合物である」ことに相当する。

(2)以上を総合すると、本願発明と引用発明の一致点と相違点は、次のとおりとなる。

《一致点》
「半導体デバイスにおける基板上に形成された前記原子層堆積法により堆積された膜組成物であって、
第1の反応物を提供するために前記基板の表面領域上において吸着された付着性材料を含むイニシエーション層であって、前記第1の反応物が、前記原子層堆積法の条件下で第2の反応物を形成するように反応材料とともに化学的に反応されており、
前記イニシエーション層上に形成された第1の反応層であって、前記第1の反応層が、前記原子層堆積法の条件下で前記イニシエーション層の前記第2の反応物とともに化学的に反応された金属または金属化合物から構成され、
前記イニシエーション層は少なくとも1つの亜鉛含有化合物である、
ことを特徴とする膜組成物。」

《相違点》
《相違点1》
本願発明は、「付着性材料」が「基板の表面領域上の少なくとも30%において吸着」されているのに対して、引用発明は、本願発明の「付着性材料」に相当する「1回目のジエチルジンク」が「透明絶縁性基板10の表面」の何%において「吸着」されているかについて特定されていない点。

4 相違点1についての判断
(1)相違点1について
ア 上記2(1)エの検討によれば、透明絶縁性基板10のうち駆動回路用TFT形成予定領域であるB領域のみにZnS膜12が形成されているが、希塩酸溶液によってA領域のZnS膜を除去する前には、透明絶縁性基板10の全面にZnS膜が形成されていたものと認められる。また、引用例1から摘記した上記段落【0023】の記載によれば、ジエチルジンクと硫化水素は、透明絶縁性基板10の全面にわたって供給されているものと認められる。したがって、ALD法によって形成されたZnS膜12は、透明絶縁性基板10の全域にわたって形成されたものであるということができる。

イ 引用例1に記載されたALD法において、透明絶縁性基板10上に最初に供給されたジエチルジンクに対して、次に供給される硫化水素が反応してZnS膜が形成されるものと認められ、このことは逆に言うと、透明絶縁性基板10上に最初に供給されたジエチルジンクが吸着されないところには、硫化水素がジエチルジンクと反応してZnS膜が形成されることはないものと考えられるから、上記アで検討したように、透明絶縁性基板10の全域にわたってZnS膜12が形成されているということは、最初に供給されたジエチルジンクが透明絶縁性基板10のほぼ全領域を覆うように堆積していることを示しているものと認められる。

ウ 引用例1に記載されたALD法において、最初に供給されたエチルジンクが透明絶縁性基板10のほぼ全領域を覆うように堆積されていることは、次の周知例2の記載からも推定することができる。

・周知例2:特開平6-326040号公報
上記周知例2には、「原子層マスクの作製方法」(発明の名称)に関して、図1?3とともに、次の記載がある。

(ア) 「【0002】
【従来の技術】(・・・途中省略・・・)また、従来、原子層成長法は化合物半導体結晶を制御良く成長するための技術として開発されており(例えば、GaAsの原子層成長の文献:J. Nishizawa,H. Abe and T. Kurabayashi : J. Electrochem. Soc. 132(1985)1197)、しかし、この成長をマスク材料の成長に用いた例は無い。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ナノメータ加工を目的としたマスクとしては前述したように、原子層単位で均一性を制御した結晶性のマスクであることが望まれる。本発明は上記要求項目を実現するために提案されたもので、その目的は原子精度で制御された結晶性を有する極薄マスク、または単原子層厚さの結晶性を有するマスクを形成することにある。」

(イ) 「【0005】
【作用】本発明は選択成長のマスク形成法において、自己停止機構を有するIII族原料ガスあるいは、II族原料ガスと、V族原料ガスあるいは、VI族原料ガスを交互に供給することにより原子層で制御された結晶性マスクを形成する。または、自己停止機構を有するII族、III族、V族、VI族元素を含む原料ガスのいずれかを単独で供給することにより単原子層厚さのマスクを形成する。これらのマスクの利用により、ナノメータサイズの微細電子デバイスを形成するマスク加工技術において、その加工精度を深さ方向、マスク端共に原子精度に向上することができる。」

(ウ) 「【0006】
【実施例】次に本発明の実施例について説明する。図1は本発明の実施例として、II-VI族化合物である硫化亜鉛(ZnS)の原子層マスクの形成法を説明するための装置模式図である。図において1はIII族原料であるトリメチルガリウム、2はII族原料であるジメチルジンク、3はV族原料であるアルシン、4はVI族原料である硫化水素である。5は基板加熱用ヒータ、6は被成長用基板、7はマスク加工と観察に用いる走査トンネル顕微鏡(STM)である。8?11は原料の供給を制御するための止弁である。
【0007】図2は、ZnSの原子層マスクを成長したときの成長速度の基板温度変化を示す図である。横軸に基板温度、縦軸に成長速度をとってある。図1において、まず、被成長基板上にジメチルジンク2を流量1sccmで、1秒間供給した。この時に基板上に到達したジメチルジンクは、一部分解してモノメチルジンクとなって基板表面に吸着する。この吸着分子上には、ジメチルジンクがさらに飛来しても吸着しない。すなわち、一原子層の吸着しか起こらない。その後、3秒間ジメチルジンクを真空排気した後、硫化水素4を流量1sccmで、1秒間供給した。この時、供給された硫黄原子はそれ自体の蒸気圧が高いために、ZnSを形成した後は、それ以上吸着できず基板表面から離脱していくため、一原子層の付着しか起こらない。その後、硫化水素の真空排気を3秒間行った。このシーケンスにより一分子層のZnSが形成される。図2に示すように、成長速度が基板温度に依存せずZnSの一分子層(約0.27nm)で一定となるZnSの成長は、基板温度200?400℃の範囲で可能であった。この温度より低温側では、過剰吸着により成長速度は一分子層以上であり、高温では吸着分子が基板から離脱するため、成長速度は一分子層以下となった。
【0008】(実施例1)図3はGaAs化合物半導体上にZnSマスクを2分子層成長させ、形成したマスクをSTMにより加工し、図4は、その後、GaAsの選択成長を行った結果について示した図である。まず、被成長基板であるGaAs基板の温度を350℃まで上げ、上記原子層マスクの成長条件下でZnSを2分子層(0.54nm)成長した。この時のマスクの結晶性は、電子線回折から単結晶であることが確認できた。その後、基板温度を室温まで下げ、試料を成長室からSTM室に移動した。さらに、この試料をSTMを用いて、STMのW探針に+5.5V、280msのパルス電圧を印加することにより、20原子(2.7nm)×20原子(2.7nm)のマスク除去を行った。マスク除去後のSTM観察を行った結果、段差2分子層(0.54nm)の20原子幅(2.7nm)の溝が観測され、加工が原子精度で行えることが確認できた(図3参照)。図(a)はマスクと基板の側面図、図(b)はラインプロファイルである。」

(エ)「【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法に用いられる製造装置の概略図を示す。
【図2】マスクの成長速度の基板温度変化を示す。
【図3】加工マスクを示すもので、(a)は側面図、(b)はラインプロファイルである。」

(オ) 摘記した上記段落【0007】の記載を参照すると、マスクの成長速度の基板温度変化を示す図2から、基板温度を適切な範囲(200?400℃)とすることにより、基板に吸着する速度を一分子層で一定とすることができることが見て取れる。

(カ) 摘記した上記段落【0008】の記載を参照すると、ラインプロファイルを表した図3(b)から、ZnSの2分子層からなるマスクは、0.54nmの厚さの単結晶であり、マスクを形成すべき箇所において均一に形成されていることが見て取れる。

周知例2の上記(ア)?(カ)の記載事項から、原子層成長法を用いて、被成長基板上に原子層単位で均一性を制御したZnSからなるマスクを形成するにあたり、被成長基板温度を適切に設定して、上記被成長基板にジメチルジンクを供給すると、ジメチルジンクが一部分解したモノメチルジンクとなって基板表面に吸着し、この吸着分子上にはジチルジンクがさらに飛来しても吸着せず、一原子層の吸着しかおこらないことが記載されている。つまり、被成長基板にジメチルジンクを供給すると、ジメチルジンクの分子は基板の吸着可能な箇所に順次吸着して、基板の吸着可能な領域の全てを埋め尽くすことにより原子層単位で均一な厚さの吸着層が形成されるものと認められる。
引用例1に記載されたALD法においては、透明絶縁性基板10上に供給される原料ガスはジエチルジンクであって、ジメチルジンクではないけれども、いずれの原料ガスも、亜鉛原子にアルキル基が結合した同様の分子構造を有しており、有機金属材料ガスとしてよく使用されるものなので、引用例1においても、供給されたジエチルジンクは、透明性絶縁性基板10のほぼ全面に吸着して、透明性絶縁性基板の全面にわたって原子層単位で均一な厚さの吸着層が形成されていることが推定できる。

エ 以上の検討から、引用発明において、「1回目のジエチルジンク」は「透明絶縁性基板10の表面」のほぼ全面を覆うように吸着しているものと認められるので、引用発明においても、「付着性材料」は「基板の表面領域上の少なくとも30%において吸着」されているものと認められる。

オ したがって、相違点1は、本願発明と引用発明の実質的な相違点ではない。

(2)判断についてのまとめ
上記(1)で検討したとおり、相違点1は、本願発明と引用発明の実質的な相違点ではなく、本願発明と引用発明との間に相違点は存在しない。

第4.結言
以上のとおり、本願発明は、引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本願は、他の請求項について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-28 
結審通知日 2014-09-02 
審決日 2014-09-16 
出願番号 特願2007-235523(P2007-235523)
審決分類 P 1 8・ 561- WZ (H01L)
P 1 8・ 113- WZ (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲辻▼ 弘輔  
特許庁審判長 鈴木 匡明
特許庁審判官 恩田 春香
池渕 立
発明の名称 基板上に堆積された膜組成物及びその半導体デバイス  
復代理人 濱中 淳宏  
代理人 特許業務法人 谷・阿部特許事務所  

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