ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H05K 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H05K |
---|---|
管理番号 | 1296915 |
審判番号 | 不服2013-22056 |
総通号数 | 183 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-03-27 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-11-11 |
確定日 | 2015-01-28 |
事件の表示 | 特願2011- 84531「金属のマイグレーションを阻止する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 8月11日出願公開、特開2011-155296〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1.手続の経緯 本件出願は、2005年10月26日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年10月27日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2007-539225号の一部を平成23年4月6日に新たに特許出願したものであって、平成24年9月14日付けで拒絶理由が通知され、平成25年3月19日に意見書並びに明細書及び特許請求の範囲を補正する手続補正書が提出されたが、平成25年7月9日付けで拒絶の査定がなされ、これに対し、平成25年11月11日に拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に、手続補正書が提出されて特許請求の範囲を補正する手続補正がなされたものである。 第2.平成25年11月11日付けの手続補正についての補正却下の決定 [補正却下の決定の結論] 平成25年11月11日付けの手続補正を却下する。 [理由] 1.本件補正の内容 平成25年11月11日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲の請求項5に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年3月19日付けの手続補正書により補正された)下記Aに示す記載を、下記Bに示す記載へと補正するものである。 A 本件補正前の特許請求の範囲の請求項5 「 【請求項5】 a)少なくとも1つの導体が銀を含む、間隔を空けて配置された2つの導体を有する表面と、 b)前記2つの導体間の前記表面内のリッジであって、前記2つの導体間で銀マイグレーションにより引き起こされる短絡をほぼ除くリッジとを含み、 前記リッジの少なくとも1つの側壁の部分が、前記第1導体と第2導体とが異なる電位にある場合に前記部分上の最も強い電界に対して垂直な方向から2°以内である装置。」 B 本件補正後の特許請求の範囲の請求項5 「 【請求項5】 a)少なくとも1つの導体が銀を含む、間隔を空けて配置された2つの導体を有する基板の表面と、 b)前記2つの導体間の前記表面内のリッジであって、前記2つの導体間で銀マイグレーションにより引き起こされる短絡をほぼ除くリッジとを含み、 前記リッジの少なくとも1つの側壁の部分が、前記第1導体と第2導体とが異なる電位にある場合に前記部分上の最も強い電界に対して垂直な方向から2°以内であり、 前記リッジは、前記基板と同じ材料で作られている 装置。」(アンダーラインは補正箇所を示すもので、請求人が付したものである。) 2.本件補正の目的 本件補正は、本件補正後の請求項5に関しては、「2つの導体を有する表面」を「2つの導体を有する基板の表面」と限定し、「リッジ」を「基板と同じ材料で作られている」と限定するものであり、しかも、その補正前の請求項5に記載された発明と補正後の請求項5に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正後の請求項5に関する補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。 3.独立特許要件 そこで、本件補正後の特許請求の範囲の請求項5に係る発明(以下 、「本件補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかについて、以下に検討する。 3-1.引用刊行物とその記載事項 原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-183470号公報(以下、「刊行物」という。)には、図面とともに、次の事項が記載されている。 ア.「【0002】 【従来の技術】湿気や水分の存在下において、基板に形成されている銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)等の金属配線の隣り合う配線間に極性の異なる電圧が印加されると、配線金属がイオン化されて一方の配線から他方の配線へ移動し導通路が形成されて配線が短絡する現象、すなわちマイグレーションの発生することが知られており、特に配線間の幅が狭い場合、電圧が高い場合にその発生は顕著になる。また、基板の材料に極く微量含まれるハロゲン化合物が水分に溶解して生成するハロゲンイオン、例えば塩素イオン(Cl^(-))は配線金属を腐食させるが、その時に生成する金属イオンがマイグレーションに寄与することも知られている。」 イ.「【0005】本発明は上述の問題に鑑みてなされ、マイグレーションの防止された配線およびその防止方法を提供することを課題とする。」 ウ.「【0010】 【発明の実施の形態】本発明のマイグレーションの防止された配線およびその防止方法は、無機および/または有機の陽イオン交換体と陰イオン交換体と樹脂結合剤、または陽イオン交換体と樹脂結合剤からなる混合物(以降、「イオン交換体と樹脂結合剤との混合物」、または単に「混合物」と略称する場合がある)が配線間に障壁状の線状体として、または配線間を埋める充填体として形成されているマイグレーションの防止された配線およびマイグレーションの防止方法である。すなわち、図1は基板1上に所定の間隔で形成された複数本の配線2間にイオン交換体と樹脂結合剤との混合物を線状体8_(1)として形成させた場合の平面図であり、図2は図1における[2]-[2]線方向の断面図である。また、図3は基板1上に所定の間隔で形成された複数本の配線2間に混合物を充填体8_(2)として形成させた場合の平面図であり、図4は図3における[4]-[4]線方向の断面図である。 【0011】基板1はプリント回路板用のリジッドな樹脂基板、フレキシブル・プリント回路板用のフレキシブルな樹脂基板、ないしはガラス基板やセラミック基板であってもよく、基板の種類は問わない。また、配線2もその形成方法は問わない。すなわち、銅箔等をエッチングして形成させたもの、銀ペースト等を印刷したもの、アルミニウムまたは銅を真空蒸着したもの、ITO(インジウム錫酸化物)またはクロム/銅/クロム等をスパッタリングしたもの、銅またはニッケルをメッキしたものであってもよい。」 エ.「【0017】イオン交換体と樹脂結合剤との混合物を基板上の配線間に障壁状の線状体として形成させるには、スクリーン印刷法または凸版印刷法によって混合物を適用し、常温硬化または加熱硬化させるのが好適である。形成させる線状体の幅は配線間の幅によってほぼ決定される。例えば、ライン幅すなわち配線幅0.2mm、スペース幅すなわち配線間の幅0.2mmのような場合には、線状体の幅は0.1mm程度になる。線状体の高さは配線の高さによって異なるほか、スクリーン印刷法を採用するか凸版印刷法を採用するかによっても異なる。すなわち、スクリーン印刷法による場合は固形分濃度の大きいペーストをスクリーンの開孔から押し出すので形成されている配線の高さ以上の高さに形成させることができ、凸版印刷法による場合には凸版の凸部の下端面に固形分濃度の小さいインキをピックアップするので形成される配線の高さは必然的に小さくなる。一般的な配線の高さは、銅箔をエッチングして形成させたものが18μmまたはそれ以上、銀ペーストを塗布して焼き付けたものが8μm前後またはそれ以上、ITO(インジウム・錫酸化物)やその他の金属をスパッタリングしたものが0.2μm前後であり、ニッケルをメッキしたものは1μm以上である。そして、イオン交換体と樹脂結合剤との混合物がこれらの高さの配線間に線状体として形成される。」 オ.記載事項ウ.の段落【0011】並びに図1及び図2の図示内容によれば、配線2が銀を含み、基板1の表面は、間隔を空けて配置された2つの配線2を有することが分かる。 カ.記載事項ア.によれば、配線間に極性の異なる電圧が印加される、すなわち、一方の配線と他方の配線とが異なる電位にある場合にマイグレーションが発生することが分かる。 キ.記載事項ウ.の段落【0010】及び記載事項エ.並びに図2の図示内容によれば、障壁状の線状体8_(1)の側壁の部分が、2つの配線2間、すなわち、一方の配線2と他方の配線2とのマイグレーションにより引き起こされる短絡をほぼ除くことが分かり、また、記載事項ウ.の段落【0011】によれば、配線2が銀を含むことから、マイグレーションは銀マイグレーションであるといえる。 ク.記載事項エ.によれば、線状体8_(1)は、イオン交換体と樹脂結合剤との混合物から作られていることが分かる。 ケ.認定事項カ.及びキ.を総合すると、線状体8_(1)の側壁の部分が、一方の配線2と他方の配線2とが異なる電位にある場合に障壁となるように設けられることが分かる。 上記記載事項、認定事項及び図示内容を総合して、本件補正発明に則って整理すると、刊行物には、以下の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。 「a)配線2が銀を含む、間隔を空けて配置された2つの配線2を有する基板1の表面と、 b)前記2つの配線2間の前記表面内の線状体8_(1)であって、前記2つの配線2間で銀マイグレーションにより引き起こされる短絡をほぼ除く線状体8_(1)とを含み、 前記線状体8_(1)の側壁の部分が、一方の配線2と他方の配線2とが異なる電位にある場合に障壁となるように設けられ、 前記線状体8_(1)は、イオン交換体と樹脂結合剤との混合物から作られている 装置。」 3-2.本件補正発明と引用発明との対比 本件補正発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「配線2」は、その技術的意義及び機能からみて、本件補正発明における「導体」に相当し、以下同様に、それぞれの技術的意義及び機能からみて、引用発明における「基板1」は「基板」に、「線状体8_(1)」は「リッジ」に、「一方の配線2」は「第1導体]に、「他方の配線2」は「第2導体」に、それぞれ相当する。 また、本願明細書の段落【0015】には「好ましくは、これらの障壁16と20は、電界方向に対し垂直または、ほぼ垂直(<2°)の少なくとも1つの壁を有する。」旨記載されていることを参酌すると、本件補正発明の「リッジ16」は「障壁16」となるように設けられているものであるから、引用発明における「障壁となるように設けられ」は、「障壁となるように設けられ」という限りにおいて、本件補正発明における「部分上の最も強い電界に対して垂直な方向から2°以内である」に相当する。 したがって、本件補正発明と引用発明は、 「a)導体が銀を含む、間隔を空けて配置された2つの導体を有する基板の表面と、 b)前記2つの導体間の前記表面内のリッジであって、前記2つの導体間で銀マイグレーションにより引き起こされる短絡をほぼ除くリッジとを含み、 前記リッジの側壁の部分が、第1導体と第2導体とが異なる電位にある場合に障壁となるように設けられる 装置。」 の点で一致し、以下の点で相違している。 [相違点1] 本件補正発明においては、「リッジの側壁の部分」が、「前記部分上の最も強い電界に対して垂直な方向から2°以内であ」るのに対して、引用発明においては、「線状体8_(1)(本件補正発明の「リッジ」に相当。)の側壁の部分」が障壁となるように設けられるものの、障壁となるように設けられる「線状体8_(1)の側壁の部分」の角度が「前記部分上の最も強い電界に対して垂直な方向から2°以内であ」るかどうかが不明である点(以下、「相違点1」という。)。 [相違点2] 本件補正発明においては、「リッジ」が基板と同じ材料で作られているのに対して、引用発明においては、「線状体8_(1)(本件補正発明の「リッジ」に相当。)」がイオン交換体と樹脂結合剤との混合物から作られている点(以下、「相違点2」という。)。 3-3.当審の判断 上記相違点1について検討する。 本願明細書の段落【0015】には「好ましくは、これらの障壁16と20は、電界方向に対し垂直または、ほぼ垂直(<2°)の少なくとも1つの壁を有する。これらの壁に沿う電界がゼロまたは、ほぼゼロであることから、銀イオンは、これらの壁に沿って移動することができないか、移動することはとてもありそうもないことになる。したがってリッジまたは溝は、銀がアノードからカソードへマイグレートするのを阻止するバッファ・ゾーンとなる。」旨記載されていることを参酌すると、「リッジ」である「障壁16,20」により「銀イオン」は移動できなくなるものであって、「これらの障壁16と20は、電界方向に対し垂直または、ほぼ垂直(<2°)」である場合に、これらの壁に沿って移動することができないとするものである。 一方、刊行物にも、上記3-1.ウ.で摘記したように線状体8_(1)は「障壁状の線状体」であるから障壁として機能し、線状体8_(1)は、銀イオンWP壁に沿って移動することができないようにするものであることは明らかであって、刊行物の図2には、模式的に描かれているものの、障壁状の線状体8_(1)の側壁が、配線2に挟まれた場所で最も強い電界が発生していると解される基板の上側の面からほぼ垂直な方向に設けられることが看取される。 さらに本件補正発明について検討すると、本願明細書の段落【0016】には「金属の種類、2つの導体10と12の間の電位差、2つの導体10と12の間のギャップの幅、および溝20の深さ、または段差18やリッジ16の高さなど金属マイグレーションに関する他の要因によって決まる2°より大きい角度が用いられることもある。」旨記載されているように、「リッジの側壁の部分」の角度が2°より大きくなることを排除していない。そうすると、「リッジの側壁の部分」の角度を「部分上の最も強い電界に対して垂直な方向から2°以内」とすることに臨界的意義があるとは認めらない。 これらのことを総合すると、「リッジの側壁の部分」を「前記部分上の最も強い電界に対して垂直な方向から2°以内であるとすることは」当業者が通常の創作力の発揮によって適宜なし得る程度の設計的事項にすぎないと認められる。 そして、上記設計的事項を参酌すれば、引用発明における線状体8_(1)の側壁の部分を、「前記部分上の最も強い電界に対して垂直な方向から2°以内であ」るものとして、相違点1に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは当業者が容易に相当し得たことである。 上記相違点2について検討する。 マイグレーションを防止するための「リッジ」を基板と同じ材料で作ることは、周知の技術(以下、「周知技術」という。例えば、特開平11-312849号公報の段落【0005】、【0014】及び図1並びに特開平3-284894号公報の第2図(a)及び第2(d)等参照。)である。 そして、引用発明及び上記周知技術は、いずれも導体を有する基板に関する技術に属するものであって、さらに、引用発明及び上記周知技術はいずれも導体間のマイグレーションを防止するという課題を有するものである。 してみれば、引用発明に上記周知技術を適用する動機付けが存在するといえるから、引用発明における線状体8_(1)に上記周知技術を適用することにより、相違点2に係る本件補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことである。 また、本件補正発明は、全体としてみても、引用発明及び上記周知技術から予測できる作用効果以上の顕著な作用効果を奏するとも認められない。 したがって、本件補正発明は、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。 3-4.むすび 以上のとおり、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである 。 第3.本願発明について 1.本願発明の内容 平成25年11月11日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1ないし8に係る発明は、平成25年3月19日付けの手続補正により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに願書に最初に添付した図面の記載からみて、特許請求の範囲の請求項1ないし8に記載された事項により特定されるとおりのものと認められ、そのうち、請求項5に係る発明(以下、「本願発明」という。)は、前記第2.[理由]1.Aに記載したとおりである。 2.引用文献 原査定の拒絶の理由に引用された刊行物(特開2000-183470号公報)の記載事項は、前記第2.[理由]3-1.に記載したとおりである。 3.対比・判断 本件補正発明は、前記第2.[理由]2.で検討したように、本願発明の発明特定事項を限定したものに相当する。 そして、本願発明の発明特定事項を全て含む本件補正発明が、前記第2.[理由]3-3.に記載したとおり、引用発明及び上記周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願発明と引用発明とを対比すると、両者は実質的に、前記第2.[理由]3-3.で示した相違点1の点でのみ相違するのであるから、本願発明は、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。 4.むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-09-01 |
結審通知日 | 2014-09-02 |
審決日 | 2014-09-17 |
出願番号 | 特願2011-84531(P2011-84531) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(H05K)
P 1 8・ 575- Z (H05K) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 井上 信、飛田 雅之 |
特許庁審判長 |
島田 信一 |
特許庁審判官 |
小関 峰夫 中川 隆司 |
発明の名称 | 金属のマイグレーションを阻止する方法及び装置 |
代理人 | 吉澤 弘司 |
代理人 | 岡部 正夫 |