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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 産業上利用性 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1297053
審判番号 不服2013-14858  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-08-02 
確定日 2015-02-03 
事件の表示 特願2007-510857「光学センサの耐用寿命を延ばすためのシステムおよび方法」拒絶査定不服審判事件〔平成17年11月10日国際公開,WO2005/106435,平成19年11月29日国内公表,特表2007-534967〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成17年4月25日(パリ条約による優先権主張日 平成16年4月26日,米国)を国際出願日とする出願であって,平成23年4月13日付けで拒絶理由が通知され,同年10月18日付けで意見書及び手続補正書が提出され,さらに,平成24年3月29日付けで拒絶理由が通知され,同年9月25日付けで意見書及び手続補正書が提出され,平成25年4月8日付で拒絶査定がされたのに対し,同年8月2日に拒絶査定不服の審判請求がされ,それと同時に手続補正(以下「本件補正」という。)がなされたものである。

第2 本件補正についての補正却下の決定

[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正後の請求項1に係る発明
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,
「【請求項1】
活性化しているときに、ある領域内の物質の存在または濃度に関するデータを取得するように構成されている光学センサの寿命を延ばす方法であって、前記光学センサは(i)前記物質の存在の影響を受ける光学特性を有する指示分子、および(ii)放射線源を備え、
(a)前記光学センサが活性化している期間中前記放射線源のデューティサイクルが0%よりも大きく、100%よりも小さくなるように構成された光学センサを使用する工程と、
(b)前記領域内のある場所に前記光学センサを配置する工程と、
(c)Zを0より大きいとして、工程(b)を実行した後時間Zの期間外部電源から前記光学センサに電力を供給することにより前記光学センサを活性化し、前記活性化された光学センサが前記外部電源から供給された電力を消費する工程と、
(d)前記光学センサが活性化し前記外部電源から供給された電力を消費しているときに前記時間Zの期間中前記放射線源の前記デューティサイクルが0%よりも大きく、100%よりも小さくなるように前記放射線源を動作させる工程と、
(e)Zが前記光学センサを活性化する前に決定されているものとして、前記時間Zが経過した後、前記光学センサを非活性化する工程とを含む方法。」(下線は補正箇所を示す。)と補正された。

2 補正事項について
補正前の「時間Zの期間に前記光学センサを活性化する工程」を「時間Zの期間外部電源から前記光学センサに電力を供給することにより前記光学センサを活性化し、前記活性化された光学センサが前記外部電源から供給された電力を消費する工程」とする補正は,光学センサの活性化は「外部電源から前記光学センサに電力を供給することにより」行われ,活性化された光学センサは「前記外部電源から供給された電力を消費する」ものであることを限定したものであり,また,補正前の「光学センサが活性化しているとき」を「光学センサが活性化し前記外部電源から供給された電力を消費しているとき」とする補正は,「光学センサが活性化しているとき」を「光学センサが活性化し前記外部電源から供給された電力を消費しているとき」に限定するものである。してみれば,両者とも,いわゆる限定的減縮に相当するものであるから,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。
そこで,本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3 特許法第29条第1項柱書について
原査定の拒絶の理由の一つは,補正前の請求項1?28及び45?54に係る発明が人間を手術する方法に該当し,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので特許を受けることができないとするものであり,平成25年4月8日付の拒絶査定には「補正後の請求項1の『前記領域内のある場所に前記光学センサを配置する工程』、・・・は、発明の詳細な説明【0088】の記載からみて、依然として、センサを人間に埋め込む工程を含んでおり、これは人体内で装置を使用する方法(装置を挿入する方法が含まれる)であるから、人間を手術する方法に該当する(審査基準第II部第1章2.1.1.1)。」と記載していることから,本願補正発明について,まず,その点について検討する。
(1)当審の判断
本願補正発明は,上記1に記載されているとおり,「ある領域内の物質の存在または濃度に関するデータを取得するように構成されている光学センサの寿命を延ばす方法であって」,「前記領域内のある場所に前記光学センサを配置する工程」を含む発明となっている。この「前記領域内のある場所に前記光学センサを配置する工程」について,本願明細書には,
「【0055】
図14は、特定の領域内の物質の存在または濃度を感知する、本発明の他の実施形態による、プロセス1400を例示する流れ図である。プロセス1400は、工程1402から始まることができ、そこでは、光学センサは、その領域内の所望の場所に配置される(例えば、生体内に埋め込まれる)。工程1403で、センサが活性化される。例えば、センサは、外部電源からそのセンサに給電することにより活性化することができる。」
「【0088】
・・・本明細書で説明されている光学センサは、特定の用途または動作環境に限定されない。例えば、本発明によるセンサは、人間に埋め込むことができ、また人体のさまざまな生物学的検体(例えば、グルコース、酸素、毒素など)を測定するために使用することができる。」(下線は当審において付与した。)と記載されている。
当該記載を参酌するに,本願補正発明の「ある領域内の物質の存在または濃度に関するデータを取得する」ことは,「人体のさまざまな生物学的検体(例えば、グルコース、酸素、毒素など)を測定する」ことを含むものであり,本願補正発明の「前記領域内のある場所に前記光学センサを配置する」ことは,人体のさまざまな生物学的検体(例えば、グルコース、酸素、毒素など)を測定するために,光学センサを人体に埋め込んで配置することを含むものである。ここで,人体にセンサを埋め込むという行為は,人体に対して外科的処置を施して行うものであるから,医療行為に他ならず,医療機器自体に備わる機能を方法として表現したところの医療機器の作動方法に該当しないことは明らかである。そして,本願補正発明の発明特定事項から,光学センサを配置する「領域内のある場所」として,人体を除外しているとは認められず,むしろ,上記本願明細書の記載に鑑みれば,「領域内のある場所」として「生体内に埋め込まれる」ことが例示されており,「領域内のある場所」が人体を含むものと解釈されるのであるから,光学センサを配置する「領域内のある場所」として人体を除外しているとは到底いえないところである。
してみれば,本願補正発明は,人体にセンサを埋め込むという医療行為を含むものであり,医療行為を含む発明については,日本国特許庁の「特許・実用新案 審査基準」(第II部 第1章 産業上利用することができる発明)を参照するに,特許法第29条第1項柱書に規定されている「産業上利用することができる発明」に該当しないとされており,さらに,平成12年(行ケ)第65号判決(東京高裁 平成14年4月11日判決言渡)においても,このような医療行為について,特許法第29条第1項柱書に規定されている「産業上利用することができる発明」に該当しないと判示されている。
したがって,本願補正発明は,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たしていないので,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(2)請求人の主張について
請求人は,審判請求書で「即ち、審査官殿が根拠とする段落〔0088〕の記載は、あくまで1つの例示として人体に埋め込む態様を取り得る旨記載するものであるところ、請求項1等に記載の『領域』は物質の存在または濃度に関するデータを取得するための領域であることが明示されているものであり、この記載に接した当業者が、当該領域を人体内の領域と解釈することなどあり得ないことは明らかである。」等と主張しているが,「例示として人体に埋め込む態様」が記載されている以上,当該領域が特許請求の範囲において明示的に人体を除外する旨特定しているのであればまだしも,そのような明示的な除外のない本件補正発明において,そのように解すことができないことは上記のとおりであるから,請求人の主張には根拠がない。また,「領域」が人体内の領域に特定されるといえないとも主張しているが,上記で示したとおり,本願明細書に「例示として人体に埋め込む態様」が記載され,特許請求の範囲において明示的に人体を除外する旨特定されていないのであるから,特許請求の範囲の記載として人体内の領域であると特定されていなくとも,特許請求の範囲の「領域」として人体内の領域を含むものとして特定されていると解されるものである。したがって,この点においても,請求人の主張には根拠がない。


4 特許法第29条第2項について
(1)引用刊行物及びその記載事項
本願の優先日前に頒布され,原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である国際公開02/078532号(以下「引用例1」という。)には,次の事項が記載されている。なお,以下の摘記事項においては,引用発明の認定に関連する箇所の当審訳に下線を付与した。
(1-ア)「This invention relates to implantable sensors and measuring devices for monitoring the level or concentration of a parameter within a living organism.
It is not uncommon for patients to be subjected to multiple blood tests in order to monitor a particular medical condition. In the case of some conditions such as diabetes, blood samples are required to be taken several times a day. This is inconvenient and causes patient management difficulties, particularly in the cases of the elderly and the young. It would be convenient if a device could be provided in which the values of variable parameters, e.g. the level of glucose within the blood, could be monitored without the necessity for serial blood tests.」(1頁2?10行)
(当審訳:この発明は,埋め込みセンサーで,生体におけるパラメターのレベル又は濃度をモニターする測定装置に関するものである。
患者が,特別な医学的状態をモニターするために多様の血液検査を受けることは少なからずあることである。糖尿病のような場合には,血液のサンプルを1日に数回取る必要がある。これは不便なことであり,特にお年寄りや幼少の者に対しては,患者の管理を困難にしている。連続した血液検査の必要がなく,例えば血中のグルコースのレベルのようなパラメーター値を測定する装置があれば便利なことである。」

(1-イ)「The chemical indicator may be one which absorbs light emitted by the LED or responds to exposure to the LED (excitation wavelength) by emitting light at a different wavelength (fluorescent or phosphorescent indicators). It is known that some fluorophores are bleached when subject to light at a wavelength where absorption occurs. The consequence of this is that the fluorescent signal can drift over long periods of time. Bleaching is related to the intensity and time that the fluorophore is exposed to the excitation light from the LED and can therefore be minimised by minimising the intensity of the LED light but also by pulsing the light and optimising the duty cycle, i.e. a pulse of say 15 milliseconds every 15-30 minutes would provide adequate continuous monitoring for say feedback to an implantable drug pump and would mean that drift due to bleaching of the fluorophore would be reduced such that the sensor could remain in place for a period of years without incurring inaccuracies.」(3頁9?20行)
(当審訳:化学標識は,LEDから放出される光を吸収し,(蛍光又は燐光性の標識の)異なる波長の光を放出することによって,(励起波長である)LEDの露光に反応するものである。蛍光体は,ある波長の光を受け,吸収が生じるところにおいて,“退色”することが知られている。この結果,蛍光信号は,長い期間にわたって,変動することになる。退色は,蛍光体がLEDからの励起光に曝される強度及び時間に関係し,強度を最小限にするだけでなく,光をパルス化することによって最小化することができ,LEDの光のデューティサイクルを最適化する,すなわち,例えば15?30分毎に15ミリ秒のパルス光とすることにより,例えば体内に埋め込んだ薬品ポンプのフィードバック制御に対する的確な連続的なモニターに寄与するものであり,蛍光体の退色による変動が減少され,その結果,センサーは何年間もの間,設置場所において正確性を保つことになる。」

(1-ウ)「The sensor 2 shown in the attached drawing, when assembled has a diameter of approximately I cm and a total thickness of about 2 mm.
A ceramic circuit board in the form of a disc 4 carries an induction coil 6 which receives power from a coil (not shown) within an external transmitter/receiver 8. Disc 4 also has mounted on it a data processing chip 10 which is provided an application specific integrated circuit (ASIC).
The disc 4 also supports LED dyes 12 and 14, detectors 16 an 18 and radio transmitter/ receiver chip 20 all powered from the induction coil 6. ・・・・
The coil 6 is able to power and excite the dyes 12 and 14 on disc 4 so as to emit light. The dye 12 emits green light which interacts with fluorescent indicators 26 mounted on a disc 28, which is in close contact with the capsule 22,24. The disc 28 comprises a polymeric film and in the case of glucose, will incorporate an indicator system 26 responsive to the presence of glucose.」(6頁24行?7頁13行)
(当審訳:添付図面にはセンサー2が示されており,それは約1cmの直径で約2mmの全厚さで組み立てられたものである。
ディスク4で示されるセラミック回路基板は,外部のトランスミッター/レシーバー8の中にあるコイル(図示されていない)から電力を受ける誘導コイル6を備えている。ディスク4は,特定用途向け集積回路(AISIC)を持つデータ処理チップ10も搭載している。
ディスク4は,LEDダイ12及び14,検出器16及び18,無線トランスミッター/レシーバーチップ20を支持しており,それらは全て誘導コイル6から電力が供給される。・・・・
コイル6は,LEDダイ12及び14に電力を供給し,励起させることにより,光を放出させる。このLEDダイ12は,カプセル22,24に密着しているディスク28に搭載されている蛍光体標識26と相互作用する緑光を放出する。ディスク28は,高分子フィルムでできており,グルコースの場合には,グルコースの存在に応じる標識システム26を組み込んでいる。」

してみれば,上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。
「生体におけるパラメターのレベル又は濃度をモニターする埋め込みセンサーを用いた方法において,
上記センサーのディスクは,外部のトランスミッター/レシーバーの中にあるコイルから電力を受ける誘導コイルを備え,さらに,LEDダイ,検出器,無線トランスミッター/レシーバーチップを支持しており,それらは全て誘導コイルから電力が供給され,
その誘導コイルは,LEDダイに電力を供給し,励起させることにより,光を放出させ,その放出された光は,グルコースの場合には,グルコースの存在に応じる蛍光体標識と相互作用するものであって,
LEDの光のデューティサイクルを最適化する,すなわち,例えば15?30分毎に15ミリ秒のパルス光とすることにより,蛍光体の退色による変動が減少され,その結果,センサーは何年間もの間,設置場所において正確性を保つようにする方法。」(以下「引用発明」という。)
なお,引用発明の認定に当たっては,図面番号を省略し,「誘導コイル6」及び「コイル6」は「誘導コイル」に,「蛍光体標識26」及び「標識システム26」は「蛍光体標識」に記載を統一している。

(2)対比・判断
ア 対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
(ア)引用発明の「蛍光体標識」及び「LEDダイ」は,本願補正発明の「物質の存在の影響を受ける光学特性を有する指示分子」及び「放射線源」に相当し,引用発明の「生体におけるパラメターのレベル又は濃度をモニターする埋め込みセンサー」は,「蛍光体標識」及び「LEDダイ」を有する「光学センサ」であるから,本願補正発明の「ある領域内の物質の存在または濃度に関するデータを取得するように構成されている光学センサ」に相当する。そして,「埋め込みセンサー」であるから,引用発明には,本願補正発明の「(b)前記領域内のある場所に前記光学センサを配置する工程」があることは明らかである。

(イ)本願補正発明における「活性化」とは,本願補正発明で「外部電源から前記光学センサに電力を供給することにより前記光学センサを活性化し、前記活性化された光学センサが前記外部電源から供給された電力を消費する」,「前記光学センサが活性化し前記外部電源から供給された電力を消費している」と特定されていることから,電力が供給され,その供給された電力を消費している状態といえる。また,「非活性化」とは,電力が供給されず電力を消費していない状態といえる。
一方,引用発明の「外部のトランスミッター/レシーバーの中にあるコイルから電力を受ける誘導コイル」が「LEDダイに電力を供給し,励起させることにより,光を放出させる」ことについて,「外部のトランスミッター/レシーバーの中にあるコイル」から埋め込みセンサーにある「誘導コイル」に電力を供給することは,「外部電源から光学センサに電力を供給する」ことであり,誘導コイルに供給された電力は,ディスクに搭載されているLEDダイ,検出器,無線トランスミッター/レシーバーチップの全てにその電力が供給されるものであるから,供給された電力は消費されていることになる。
そして,引用発明の電力が供給されている時間は0より大きいものであり,センサーは,埋め込まれた後に作動されるものであるから,引用発明の「外部のトランスミッター/レシーバーの中にあるコイルから電力を受ける誘導コイルを備え,さらに,LEDダイ,検出器,無線トランスミッター/レシーバーチップを支持しており,それらは全て誘導コイルから電力が供給され,その誘導コイルは,LEDダイに電力を供給し,励起させることにより,光を放出」することは,本願補正発明の「(c)Zを0より大きいとして、工程(b)を実行した後時間Zの期間外部電源から前記光学センサに電力を供給することにより前記光学センサを活性化し、前記活性化された光学センサが前記外部電源から供給された電力を消費する工程」に相当する。
また,引用発明の「生体におけるパラメターのレベル又は濃度をモニターする」ことは,本願補正発明と同様「活性化しているとき」(電力が供給されているとき)に行われることは自明のことである。

(ウ)本願補正発明の「放射線源のデューティサイクル」とは,本願明細書で「光源のデューティサイクルは、指示分子から測定値を得るために必要に応じて光源が指示分子を照射するように機能している時間の割合である。」(【0042】),「デューティサイクルは、センサが活性化している期間中、LEDがオンである時間の割合である。」(【0071】)と記載されているから,放射線源の活性化される時間の割合のことであると解されるところ,引用発明の「LEDの光のデューティサイクルを最適化する,すなわち,例えば15?30分毎に15ミリ秒のパルス光とする」における「パルス光」は,本願補正発明の「放射線源のデューティサイクルが0%よりも大きく、100%よりも小さくなるように」されていることを満たすものである。そして,そのパルス光は,引用発明では「誘導コイルは,LEDダイに電力を供給し,励起させることにより,光を放出させ」ことによって生じるものであるから,上記(イ)を参照すれば,「光学センサが活性化している期間中」,「光学センサが活性化し前記外部電源から供給された電力を消費しているときに前記時間Zの期間中」に行われるものであるといえる。
してみれば,引用発明の「LEDの光のデューティサイクルを最適化する,すなわち,例えば15?30分毎に15ミリ秒のパルス光とすること」は,本願補正発明の「(d)前記光学センサが活性化し前記外部電源から供給された電力を消費しているときに前記時間Zの期間中前記放射線源の前記デューティサイクルが0%よりも大きく、100%よりも小さくなるように前記放射線源を動作させる工程」に相当するとともに,それはセンサーを使用している時に行われるから,本願補正発明の「(a)前記光学センサが活性化している期間中前記放射線源のデューティサイクルが0%よりも大きく、100%よりも小さくなるように構成された光学センサを使用する工程」にも相当するといえる。

(エ)引用発明の「蛍光体の退色による変動が減少され,その結果,センサーは何年間もの間,設置場所において正確性を保つようにする方法」は,本願補正発明の「光学センサの寿命を延ばす方法」に相当する。

してみれば,本願補正発明と引用発明とは,
(一致点)
「活性化しているときに,ある領域内の物質の存在または濃度に関するデータを取得するように構成されている光学センサの寿命を延ばす方法であって,前記光学センサは(i)前記物質の存在の影響を受ける光学特性を有する指示分子,および(ii)放射線源を備え,
(a)前記光学センサが活性化している期間中前記放射線源のデューティサイクルが0%よりも大きく,100%よりも小さくなるように構成された光学センサを使用する工程と,
(b)前記領域内のある場所に前記光学センサを配置する工程と,
(c)Zを0より大きいとして,工程(b)を実行した後時間Zの期間外部電源から前記光学センサに電力を供給することにより前記光学センサを活性化し,前記活性化された光学センサが前記外部電源から供給された電力を消費する工程と,
(d)前記光学センサが活性化し前記外部電源から供給された電力を消費しているときに前記時間Zの期間中前記放射線源の前記デューティサイクルが0%よりも大きく,100%よりも小さくなるように前記放射線源を動作させる工程とを含む方法。」の点で一致し,以下の点で相違する。

(相違点)
本願補正発明では,「(e)Zが前記光学センサを活性化する前に決定されているものとして、前記時間Zが経過した後、前記光学センサを非活性化する工程」を含む方法であるのに対し,引用発明では,センサーにある「誘導コイル」が「外部のトランスミッター/レシーバーの中にあるコイルから電力を受ける」際に,すなわち,外部のトランスミッター/レシーバーの中にあるコイルからセンサーにある誘導コイルに電力を供給する際に,電力を供給する前に電力を供給する時間を決定しておき,その時間の経過後,電力の供給を止めているかどうか不明である点。

イ 当審の判断
引用発明の埋め込みセンサーを用いた方法は「例えば15?30分毎に15ミリ秒のパルス光」とするものの,摘記(1-ア)に記載されているとおり,具体的には,糖尿病患者に対するものであり,「1日に数回」測定されるものである。してみれば,LEDダイを発光させるべく,1日中にわたってセンサーに電力を供給し続ける必要のないものであり,測定を行う時間帯だけセンサーに電力を供給すればよいことは当業者において自明のことといえる。そして,引用発明が,外部のコイルから体内に埋め込んだセンサーの誘導コイルに電力を無線で供給することに鑑みると,常時電力を供給することは常時電力を搬送する電磁波に曝すこととなるが,電磁波が患者の体あるいは患者に付している他の機器に悪影響を及ぼすことは通常に想到することであるから,1日のうち予め測定する時間と時間帯を決めておき,その時間だけセンサーに電力を供給すること,すなわち,電力を供給する前に電力を供給する時間を決定しておき,その時間の経過後,電力の供給を止めるようにすることは当業者が通常行う程度のことといえる。
そして,本願補正発明の効果である指示分子が放射線より励起,酸化され光退色(光酸化)により劣化することを防ぎ,センサーの寿命を延ばすということも,引用例1の摘記(1-イ)に記載されているとおりであり,何ら格別のものではない。

したがって,本願補正発明は,引用発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 まとめ
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するものであり,同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。


第3 本願発明について

1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されることとなるので,本願の請求項1?54に係る発明は,平成24年9月25日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1?54に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1及び29に係る発明(以下「本願発明1」,「本願発明29」という。)は,次のとおりのものである。
「【請求項1】
活性化しているときに、ある領域内の物質の存在または濃度に関するデータを取得するように構成されている光学センサの寿命を延ばす方法であって、前記光学センサは(i)前記物質の存在の影響を受ける光学特性を有する指示分子、および(ii)放射線源を備え、
(a)前記光学センサが活性化している期間中前記放射線源のデューティサイクルが0%よりも大きく、100%よりも小さくなるように構成された光学センサを使用する工程と、
(b)前記領域内のある場所に前記光学センサを配置する工程と、
(c)Zを0より大きいとして、工程(b)を実行した後時間Zの期間に前記光学センサを活性化する工程と、
(d)前記光学センサが活性化しているときに前記時間Zの期間中前記放射線源の前記デューティサイクルが0%よりも大きく、100%よりも小さくなるように前記放射線源を動作させる工程と、
(e)Zが前記光学センサを活性化する前に決定されているものとして、前記時間Zが経過した後、前記光学センサを非活性化する工程とを含む方法。」
「【請求項29】
光学センサであって、
物質の存在の影響を受ける光学特性を有する指示分子と、
光源と、
前記光学センサが前記物質の存在または濃度を感知するために使用されている間、一定時間前記光源をオンにし、次いで一定時間前記光源をオフにする工程を繰り返すよう構成されたデューティサイクルコントローラと、
前記デューティサイクルコントローラに結合され、ユーザが前記デューティサイクルコントローラを構成することを可能にするインターフェースとを備える光学センサ。」

2 特許法第29条第1項柱書について
本願発明1は,本願補正発明と同じく「(b)前記領域内のある場所に前記光学センサを配置する工程」が発明特定事項とされており,これに関する本願明細書の記載も上記第2の3で記載したとおりであるから,本願発明1についても,上記第2の3で指摘したとおり,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たすものではない。

3 特許法第29条第2項について
(1)引用刊行物及びその記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である上記引用例1の記載事項は,上記第2の4の(1)で記載したとおりである。

(2)対比・判断
上記第2の2に記載したとおり,本願補正発明は,本願発明1にさらに限定事項を追加したものであるから,本願発明1は,本願補正発明から限定事項を省いた発明といえる。その本願補正発明が,前記第2の4の(2)に記載したとおり,引用発明に基いて当業者が容易に発明することができたものである以上,本願発明1も同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものである。

加えて,平成25年4月8日付の拒絶査定において,具体的に言及されている本願発明29についても検討する。上記第2の4の(1)で方法の発明として記載している引用発明をセンサーの発明として,本願発明29と引用発明に記載のセンサーとを対比するに,引用発明の「埋め込みセンサー」,「蛍光体標識」及び「LEDダイ」は,本願発明29の「光学センサ」,「物質の存在の影響を受ける光学特性を有する指示分子」及び「光源」に相当し,引用発明の「生体におけるパラメターのレベル又は濃度をモニターする」際に「LEDの光のデューティサイクルを最適化する,すなわち,例えば15?30分毎に15ミリ秒のパルス光とする」ことは,本願発明29の「前記光学センサが前記物質の存在または濃度を感知するために使用されている間、一定時間前記光源をオンにし、次いで一定時間前記光源をオフにする工程を繰り返すよう構成された」ことに相当する。そして,上記「デューティサイクルを最適化する,すなわち,例えば15?30分毎に15ミリ秒のパルス光とする」ことは,デューティサイクルを最適化するためにパルス光のパルス間隔等を変更することであるから,引用発明に記載のセンサーは「デューティサイクルコントローラ」を備えているといえる。
してみれば,本願発明29と引用発明に記載のセンサーとは,
「光学センサであって,
物質の存在の影響を受ける光学特性を有する指示分子と,
光源と,
前記光学センサが前記物質の存在または濃度を感知するために使用されている間,一定時間前記光源をオンにし,次いで一定時間前記光源をオフにする工程を繰り返すよう構成されたデューティサイクルコントローラとを備える光学センサ。」で一致し,
引用発明に記載のセンサーが,本願発明29のように「デューティサイクルコントローラに結合され、ユーザがデューティサイクルコントローラを構成することを可能にするインターフェース」を備えているかどうか不明である点で相違する。
上記相違点について検討するに,引用発明に記載のセンサーにおいても,患者の状態に応じて的確な測定を行うためには,その状態に応じてパルス光のパルス間隔等を適宜変更する必要があることは明らかであり,その際,ユーザがデューティサイクルコントローラに都合よくアクセスできるよう「インターフェース」を設けること,すなわち,「デューティサイクルコントローラに結合され、ユーザがデューティサイクルコントローラを構成することを可能にするインターフェースとを備える」ようにすることは当業者が容易になし得たことである。そして,それによる効果も,当業者の予期しうる範囲を超えるものではない。
したがって,本願発明29についても,引用発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものである。


第4 むすび
以上のとおり,本願発明1は,特許法第29条第1項柱書に規定する要件を満たすものではなく,さらに,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができず,本願発明29についても,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。

よって,結論のとおり,審決する
 
審理終結日 2014-08-29 
結審通知日 2014-09-01 
審決日 2014-09-24 
出願番号 特願2007-510857(P2007-510857)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G01N)
P 1 8・ 14- Z (G01N)
P 1 8・ 575- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 伊藤 裕美波多江 進  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 藤田 年彦
三崎 仁
発明の名称 光学センサの耐用寿命を延ばすためのシステムおよび方法  
代理人 小野 新次郎  
代理人 山本 修  
代理人 小林 泰  
代理人 上田 忠  
代理人 竹内 茂雄  

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