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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1297132
審判番号 不服2014-2130  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-05 
確定日 2015-02-05 
事件の表示 特願2010-500662「白色LEDランプ、バックライトおよび照明装置」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 9月 3日国際公開、WO2009/107535〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年2月19日(特許法第41条に基づく国内優先権主張 特願2008-43344号(平成20年2月25日)、特願2008-304117号(平成20年11月28日)及び特願2008-307611号(平成20年12月2日))を国際出願日とする出願であって、平成24年10月15日に手続補正がなされ、平成25年2月6日付けで拒絶理由が通知され、同年4月15日に手続補正がなされたが、同年10月28日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、平成26年2月5日に拒絶査定不服審判請求がなされると同時に手続補正がなされたものである。

第2 平成26年2月5日になされた手続補正(以下「本件補正」という。)についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
本件補正は、補正前(平成25年4月15日付け手続補正後のもの)の特許請求の請求項1につき、
「導電部と、
この導電部に実装され、ピーク波長360nm以上420nm以下の1次光を発光する発光ダイオードチップと、
この発光ダイオードチップを封止し、第1の透明樹脂硬化物からなる透明樹脂層と、
この透明樹脂層を被覆し、第2の透明樹脂硬化物中に前記1次光を受光して前記1次光より長波長の2次光を発光する蛍光体粉末が分散された蛍光体層と、
を備えた白色LEDランプであり、
上記蛍光体粉末は、ピーク波長430nm以上460nm以下の青色光を発光する青色蛍光体粉末を含み、出射光の発光スペクトルは、前記青色光に対する前記1次光のピーク強度の比(前記1次光のピーク強度/前記青色光のピーク強度)が0.5以下であり、上記出射光に含まれる上記1次光のエネルギーが0.4mW/lm以下であり、上記白色LEDランプの発光効率が20lm/W以上であることを特徴とする白色LEDランプ。」
とあったものを、
「導電部と、
この導電部に実装され、ピーク波長360nm以上420nm以下の1次光を発光する発光ダイオードチップと、
この発光ダイオードチップを封止し、第1の透明樹脂硬化物からなる透明樹脂層と、
この透明樹脂層を被覆し、第2の透明樹脂硬化物中に前記1次光を受光して前記1次光より長波長の2次光を発光する蛍光体粉末が分散された蛍光体層と、
を備えた白色LEDランプであり、
上記蛍光体粉末は、ピーク波長430nm以上460nm以下の青色光を発光する青色蛍光体粉末を含み、出射光の発光スペクトルは、前記青色光に対する前記1次光のピーク強度の比(前記1次光のピーク強度/前記青色光のピーク強度)が0.5以下であり、上記出射光に含まれる上記1次光のエネルギーが0.4mW/lm以下であり、上記白色LEDランプの発光効率が20lm/W以上であることを特徴とする、バックライト用もしくは照明装置用白色LEDランプ。」
に補正する内容を含むものである(下線は請求人が付したとおりである。)。

2 補正の目的(下線は当審にて付した。以下同じ。)
本件補正は、補正前の請求項1において、「白色LEDランプ」とあったものを、「バックライト用もしくは照明装置用白色LEDランプ」と、「バックライト用もしくは照明装置用」との限定を付加するものであるから、上記1の本件補正は、特許法第17条の2第5項第2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
そこで、本件補正後の請求項1に係る発明(以下「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるかどうか(特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第7項に規定する要件を満たすか否か)について検討する。
(1)本願補正発明の認定
本願補正発明は、上記1において、補正後のものとして記載したとおりのものと認める。

(2)刊行物の記載及び引用発明
ア 原査定における拒絶理由に引用された、本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-300043号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【請求項1】
380nm?420nmの範囲に主発光ピーク波長を有するLEDチップと、
前記LEDチップの光を吸収して発光する蛍光体を含む蛍光部と、
前記蛍光部を透過した前記LEDチップの光の内、410nm以下の光の透過率が10%以下である吸収部と、
を有する、発光装置。・・・
【請求項7】
請求項1?6のいずれかにおいて、
前記LEDチップは、樹脂成形体内に封入され、
前記蛍光部は、前記樹脂成形体の外側に被せられた第1のキャップ状の成形体であり、
前記吸収部は、前記第1のキャップ状の成形体の外側に被せられた第2のキャップ状の成形体である、発光装置。」(特許請求の範囲)

(イ)「【0003】
この色再現範囲を改善する方法として、紫外線によってRGB(赤・緑・青)に対応する発光色を出す蛍光体が各色で知られていることから、365?380nmの範囲に主発光ピーク波長を有する紫外LEDとRGB蛍光体とを組み合わせた白色LEDの発光装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、紫外LEDを用いた発光装置は、入力に対する外部量子効率が悪く、明るい発光を得にくいという問題を有していた。
【0004】
近年、紫外LEDの開発が進み、特に380?420nmの範囲に主発光ピーク波長を有する近紫外LEDにおいて、RGB蛍光体を用いて白色光を得ることができ、しかも従来の紫外LEDに比べて高出力なLEDが得られるようになった(例えば、特許文献2参照)。しかしながら、380?420nmの範囲に主発光ピーク波長を有する近紫外LEDの光は可視領域の波長成分を持つ光であるため、RGB蛍光体に完全に吸収されない場合は、可視領域の漏れ光となってしまうという問題があった。したがって、このような近紫外LEDを用いた従来の発光装置は、可視領域の漏れ光によって、目的の色調を得ることができないこと、色再現範囲が狭くなることなどの問題を有していた。」

(ウ)「【0007】
本発明にかかる発光装置によれば、380nm?420nmの範囲に主発光ピーク波長を有するLEDチップとすることで、高出力を得ることができ、かつ、蛍光部によって吸収されなかったLEDチップの光の内、410nm以下の波長すなわち近紫外線を含む紫外線及び蛍光体の発光でない可視光を効率よく吸収することができる。したがって、本発明にかかる発光装置によれば、蛍光部の発光によって得られる目的の色調の発光を得ることができると共に、広い色再現範囲が得られる。」

(エ)「【0019】
1.第1の実施形態
図1に示すように、第1の実施形態にかかる発光装置40のLED10は、ベース部材12のほぼ中央に設けられたステム13上に載置された発光するLEDチップ11が例えば樹脂成形体14中に封入されている。蛍光部20及び吸収部30は、樹脂成形体14の外側に被せられたキャップ状の成形体15,16として形成されている。樹脂成形体14の材質としては、LEDチップ11からの紫外線に対して安定な性質を有するシリコーン樹脂が好ましいが、透光性の樹脂例えばアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂などを用いることができる。・・・
【0021】
蛍光部20は、樹脂成形体14の外側に被せられた高分子物質からなる第1のキャップ状の成形体15であり、全体に分散された蛍光体22を含む。第1のキャップ状の成形体15の材料としても、紫外線に対して安定な性質を有するシリコーン系樹脂を用いることが好ましいが、例えば透光性の高分子物質であるアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、シリコーン樹脂、環状オレフィン樹脂、シリコーン系エラストマー、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマーなどを用いることもできる。
【0022】
LEDチップ11から出射された光は、第1のキャップ状の成形体15内の蛍光体22により吸収され、蛍光体22が励起される。蛍光体22が励起されると、その性質に応じて所定の分光スペクトル分布を有する蛍光を発光し、可視光、例えば白色光が出力される。このように、380nm?420nmの範囲に主発光ピーク波長を有する発光を利用して蛍光体を励起することにより、通常の可視光発光ダイオードでは得られないような色(分光スペクトル分布)を得ることが可能となる。蛍光体22としては、無機蛍光体、顔料、有機蛍光染料、擬似顔料などが挙げられ、例えば、発光色が青色の(Ca,Sr,Ba)_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+)、ZnS:Ag、CaS:Biなど、発光色が緑色のBaMg_(2)Al_(16)O_(27):Eu^(2+),Mn^(2+)、ZnS:Cu,Al,Au、SrAl_(2)O_(4):Eu^(2+)、Zn_(2)Si(Ge)O_(4):Eu^(2+)など、発光色が赤色のY_(2)O_(2)S:Eu^(3+)、3.5MgO・0.5MgF_(2)・GeO_(2):Mn、LiEuW_(2)O_(8)、BaO・Gd_(2)O_(3)・Ta_(2)O_(5):Mn、K_(5)Eu_(2.5)(WO_(4))_(6.25)など、発光色が黄色のYAG、Sr(Ba)SiO_(4)、SrAl_(2)O_(4):Eu^(2+)などを好適に用いることができる。これらの蛍光体を単一種類でも良いし、あるいは2種類以上の蛍光体を混合して用いても良く、より所望する色に近い発色が得られるように調整することができる。」

(オ)「【0029】
第1?第3の実施形態の発光装置を蛍光灯の代替技術とするためには、例えば白色光であることが好ましく、吸収部30によって410nm以下の可視光をカットすることで、蛍光部20の発光色を損なうことなく、目的の色度分布を有する白色光を得ることができる。さらに、吸収部30によって近紫外線を含む紫外線までカットすることで、人体に悪影響を与えることもない。」

(カ)「【実施例1】
【0030】
上記各実施形態で用いる蛍光部及び吸収部をシート状の成形体として試作し、色度分布、輝度分光スペクトル分布を測定したので、その結果を示す。測定は、第1のシート状の成形体17(蛍光部20)と第2のシート状の成形体18(吸収部30)とを重ね合せ、図4に示すように、第1のシート状の成形体17側にLED10を配置し、第2のシート状の成形体18側に分光放射温度計60を配置して測定を行った。LED10は、LEDチップがAlInGaN系であって、主発光ピーク波長405nmのepitex社製紫LED『L405-01V(商品名)』を用いた。蛍光部20は、シリコーンゴム100質量部に蛍光体として無機蛍光体である(Ca,Sr,Ba)_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu(根本特殊化学社製)を30質量部分散させ、加熱プレスして厚さ0.5mmの第1のシート状の成形体17を成形した。吸収部30は、波長410nm以下の光の透過率が7.5%以下、波長430nm以上450nm未満の光の透過率が70%以上、波長450nm以上の光の透過率が85%以上で、黄色度(YI)が8.7の富士写真フイルム社製紫外線カットフィルム『UV Guard(商品名)』を第2のシート状の成形体18として用いた。そして、LED10を発光させて第1のシート状の成形体17に照射し、第2のシート状の成形体18を透過した光を分光放射温度計60「PR-704(商品名)、Photo Research社製」で測定した。その結果、色度はx=0.1509、y=0.0599の青色で、輝度は1.22Cd/m^(2)であった。このときの発光の分光スペクトル分布を図5に波形Aとして示した。図5に示す波形Cは第2のシート状の成形体18を取り外して蛍光部20(第1のシート状の成形体17)の発光を測定したものである。また、比較例1として、第2のシート状の成形体18に替えて第3のシート状の成形体を用いた時の発光を同様にして測定した。第3のシート状の成形体は、一般的なUVカットシートであり、第2のシート状の成形体18と同じ形状を有した380nm以下の波長をカットする、株式会社トチセン製の紫外線吸収ポリエステルフィルム『T-UV(商品名)』を用いた。図5に示す波形Bは、比較例1の発光を測定したものである。なお、図5中、横軸は波長(nm)、縦軸は放射輝度(Cd/m^(2))をあらわす(以下の実施例でも同様である)。・・・
【0034】
図5?図8に示すように、比較例1?4の発光装置の一般的なUVカットシートではほとんど漏れ光をカットすることができなかったが、実施例1?4の発光装置によれば、410nm以下の漏れ光を確実に吸収することができ、蛍光体による発光色をほとんど損うことなく、色純度の高い目的の色調を得ることができた。また、図9に示すように、実施例4の発光装置によれば、410nm以下の紫の可視光までカットすることにより、比較例4に比べて色域が広い目的の白色光を発光することができた。
【0035】
なお、図5?図8に示すように、400nm以下の近紫外線を含む紫外線を吸収部材によって吸収することで、発光装置から外部に紫外線が漏れることはほとんどなくなり、その結果、紫外線により人体に悪影響を与えるおそれはほとんどなくなった。」

(キ)図1、4及び5は次のものである。


(ク)上記(カ)を踏まえて、(キ)の図4及び5をみると、図4に示すように、(Ca,Sr,Ba)_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Euを分散させた蛍光部である第1のシート状の成形体17側に、主発光ピーク波長405nmのLED10を配置し、第2のシート状の成形体18側に分光放射温度計60を配置し、第2のシート状の成形体18を取り外して、第1のシート状の成形体17である蛍光部20の発光を測定し、横軸を波長(nm)、縦軸を放射輝度(Cd/m^(2))とした図5において、波形Cとしてあらわしたものからは、主発光ピーク波長405nmの発光スペクトル輝度(Cd/m^(2))は、430?460nm付近の青色光である蛍光部20の発光(Cd/m^(2))430?460nm付近)の約1/8であることがみてとれる。

イ 引用発明
上記アによれば、引用文献1には、次の発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認められる。
「380nm?420nmの範囲に主発光ピーク波長を有するLEDチップと、
前記LEDチップの光を吸収して発光する蛍光体を含む蛍光部と、
前記蛍光部を透過した前記LEDチップの光の内、410nm以下の光の透過率が10%以下である吸収部と、
を有し、
前記LEDチップは、樹脂成形体内に封入され、
前記蛍光部は、前記樹脂成形体の外側に被せられた第1のキャップ状の成形体であり、
前記吸収部は、前記第1のキャップ状の成形体の外側に被せられた第2のキャップ状の成形体であって、
前記LEDチップは、ベース部材のほぼ中央に設けられたステム上に載置され、
前記樹脂成形体の材質としては、透光性の樹脂を用い、
前記蛍光部は、成形体であり、全体に分散された蛍光体を含み、透光性の高分子物質を用い、
前記蛍光体として、発光色が青色の(Ca,Sr,Ba)_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+)、ZnS:Ag、CaS:Biなどを用いる、
蛍光灯の代替技術とする、白色光が出力される発光装置。」

ウ 本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2006-282994号公報(以下「引用文献2」という。)には、以下の記載がある。
「【発明の効果】
【0017】
本発明によると、特定の青色、緑色、赤色の蛍光体を配合することにより広い色表現が可能な波長変換用の蛍光体混合物を提供することが可能である。また、これを適切な配合比として白色蛍光体混合物に具現することにより、黄変現象のような色変化現象を最小化し、演色指数が優秀な天然白色を提供することが可能である。さらに、本発明は白色発光用蛍光体混合物と近紫外線LEDを利用し優秀な白色光を出力する発光装置を提供することが可能である。・・・
【0019】
本発明に採用される青色蛍光体はA_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+)である。ここで、AはSr、Ca、Ba及びMg中少なくとも一つの元素である。この青色蛍光体は430?460nmのピーク波長を有する。例えば、(Sr、Ca)_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+)のピーク波長は図2-1に図示された通り約450nmである。」

エ 本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特表2004-501512号公報(以下「引用文献3」という。)には、以下の記載がある。
「【0040】
4.第3の蛍光体
第3の発光材料は、放射源1からの入射放射2に応答して約420?約480nmのピーク発光波長を有する可視光を放出する蛍光体であればよい。放射源1が360?420nmの範囲内にピーク発光波長を有するLEDからなる場合、第3の蛍光体は、360?420nmの範囲内にピーク波長を有する入射放射に対して420?480nmの範囲内にピーク発光波長並びに高い視感度及び量子効率を有する商業的に入手可能な蛍光体からなるものであればよい。例えば、下記の2種類の商業的に入手可能なEu^(2+)活性化蛍光体がこの基準に適合する。
【0041】
420?480nmの範囲内にピーク発光波長を有する第3の蛍光体の一例は、二価ユウロピウムで活性化されたハロリン酸塩蛍光体DPOCl:Eu^(2+)(式中、DはSr、Ba、Ca及びMgの1種以上を含む)である。DPOCl:Eu^(2+)蛍光体は、商業的に入手可能な「SECA」蛍光体D_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+)からなるのが好ましい。」

オ 上記ウ及びエによれば、本願の最先の優先日前には、近紫外線LED(360?420nmの範囲内にピーク発光波長を有するLED)とともに用いる、青色蛍光体である、A_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+)(AはSr、Ca、Ba及びMg中少なくとも一つの元素である。)は、430?460nm(420?480nm)のピーク波長を有することは周知の事項であったといえる。

カ 本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-116131号公報(以下「引用文献4」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0060】
(LED発光装置の構成)
以下において、本発明の第5の実施の形態に係るLED発光装置の構成について、図面を参照しながら説明する。図10は、本発明の第5の実施の形態に係るチップ型LED発光装置1Dを示す図である。
【0061】
図10に示すように、チップ型LED発光装置1Dは、LEDチップ2Dと、第1のリードフレーム3Dと、第1樹脂層4Dと、第2樹脂層6Dと、第2のリードフレーム7Dと、第3樹脂層8Dとを有する。なお、チップ型LED発光装置1Dは、上述した第1の実施の形態と同様に、砲弾型白色LED発光装置である。
【0062】
LEDチップ2Dは、紫外光を励起光として発するチップである。また、LEDチップ2Dは、紫外光が出射される面である光出射面9Dを有する。・・・
【0065】
第2樹脂層6Dは、屈折率n2を有する層であり、第1樹脂層4D上に設けられている。また、第2樹脂層6Dは、蛍光体5Dが混入された光透過性樹脂によって構成される。なお、第2樹脂層6Dは、LEDチップ2D及び第1樹脂層4Dが設けられた第1のリードフレーム3Dに充填されており、第1樹脂層4Dを覆っている。
【0066】
ここで、蛍光体5Dは、LEDチップ2Dが発する紫外光(励起光)を吸収して、可視光を蛍光として発する。」

(イ)「【0095】
具体的には、図1と同様の構造を有するLED発光装置(本発明構造1)と、図10と同様の構造を有するLED発光装置(本発明構造3)を作製した。すなわち、本発明構造1のLED発光装置では、第1樹脂層4の屈折率n1、第2樹脂層6の屈折率n2及び第3樹脂層8の屈折率n3が、n2>n1=n3の関係を有している。各樹脂層の屈折率は、それぞれ、図12の表3に示す通りである。
【0096】
また、図1に示すLED発光装置において、第1樹脂層4を形成することなく、蛍光体を含む第2樹脂層がLEDチップ2を直接覆う構造を有するLED発光装置を比較用として準備した(表3では、「比較用」として示した)。
【0097】
各LED発光装置の測定結果を図12の表3に示す。この表3に示すように、各実験(実験1?実験3)において、発光効率及び蛍光体励起効率について、比較用よりも本発明構造1及び本発明構造3の方が優れていることが確認された。これは、蛍光体が発する熱がLEDチップに与える悪影響を第1樹脂層が抑制するためであると考えられる。」

(ウ)図10及び図12(表3)は次のものである。


(エ)上記(ア)及び(イ)を踏まえて、(ウ)の表3をみると、引用文献4に記載された白色LED発光装置の発光効率は、29.9ないし45.5lm/Wであることがみてとれる。

キ 本願の最先の優先日前に頒布された刊行物である特開2007-16196号公報(以下「引用文献5」という。)には、以下の記載がある。
(ア)「【0087】
本発明の面状発光体に使用する発光ダイオード素子は、面状発光体の用途に応じて選択すればよいが、液晶ディスプレイのバックライト光源は良好な白色を発現できるものが好ましい。バックライト光源の好ましい具体例としては、近年開発された青色LEDと従来の赤及び緑のLEDを組み合わせたもの、青色LEDとその青色LEDの発光によって励起され青色LEDの補色を発光するフォトルミネッセント材料(二次発光手段)とを組み合わせたもの、紫外LEDと、赤、緑及び青に発光するフォトルミネッセント材料(二次発光手段)を組み合わせたものが挙げられる。このようなフォトルミネッセント材料としては、(YaGd_(1-a))_(3)(Al_(b),Ga_(1-b))_(5)O_(12):Ce(YAG蛍光体)、Y_(2)O_(2)S:Eu^(3+)、(ZnS:Cu,Al)、(Sr,Ca,Ba,Mg)_(10)(PO_(4))_(6)Cl_(2):Eu^(2+)等の無機蛍光体、クマリン、ローダミン等の有機蛍光体、イリジウム錯体燐光体等が挙げられる。」

(イ)「【0104】
実施例1:
二次発光手段としてイリジウム錯体(E2)9mgと錯体(E17)1mgをビスフェノールAジグリシジルエーテル5gとメチルヘキサヒドロ無水フタル酸5gの混合物に加えたものを用い、上記材料を混合後、脱泡させた。得られた混合物を一次発光手段である青色発光ダイオードを配置したリードフレームのカップの凹部にディスペンサーを用いて注入し、120℃で1時間硬化した。さらに砲弾型の型枠であるキャスティング内にビスフェノールAジグリシジルエーテルとメチルヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物を予め注入し、上記リードフレームを浸漬させ、120℃で1時間硬化し、砲弾型白色LEDを作製した。得られた白色LEDのx、y色度座標、演色評価数、初期発光効率及び100時間通電後の発光効率低下を測定した。その結果を表1に示す。」

(ウ)表1は次のものである。


(エ)上記(ア)及び(イ)を踏まえて、(ウ)の表1をみると、引用文献5に記載された白色LEDの初期発光効率は、35ないし40lm/Wであることがみてとれる。

ク 上記カ及びキによれば、本願の最先の優先日前には、紫外LEDを用いた発光効率が20lm/W以上である白色LEDは周知の事項であったといえる。

(3)対比・判断
ア 対比
本願補正発明と引用発明を対比すると、
引用発明の「ステム」、「(ステム上に載置される)LEDチップ」、「(LEDチップの光を吸収して発光する全体に分散され、発光色が青色の)蛍光体」、「(樹脂成形体の外側に被せられた第1のキャップ状の成形体であり、全体に分散された蛍光体を含み、透光性の高分子物質を用いる)蛍光部」、「(LEDチップを封入する透光性の樹脂を用いる)樹脂成形体」及び「(蛍光灯の代替技術とする、白色光が出力される)発光装置」は、本願補正発明の「導電部」、「(導電部に実装される)発光ダイオードチップ」、「(1次光を受光して前記1次光より長波長の2次光を発光する、青色光を発光する青色蛍光体粉末を含む)蛍光体粉末」、「(透明樹脂層を被覆し、第2の透明樹脂硬化物中に前記1次光を受光して前記1次光より長波長の2次光を発光する蛍光体粉末が分散された)蛍光体層」、「(発光ダイオードチップを封止し、第1の透明樹脂硬化物からなる)透明樹脂層」及び「(照明装置用白色)LEDランプ」にそれぞれ相当するから、
本願補正発明と引用発明は、
「導電部と、
この導電部に実装され、1次光を発光する発光ダイオードチップと、
この発光ダイオードチップを封止し、第1の透明樹脂硬化物からなる透明樹脂層と、
この透明樹脂層を被覆し、第2の透明樹脂硬化物中に前記1次光を受光して前記1次光より長波長の2次光を発光する蛍光体粉末が分散された蛍光体層と、
を備えた白色LEDランプであり、
上記蛍光体粉末は、青色光を発光する青色蛍光体粉末を含む、照明装置用白色LEDランプ。」
で一致し、以下の点で相違する。

(ア)本願補正発明の「1次光を発光する発光ダイオードチップ」は、「ピーク波長360nm以上420nm以下」であるのに対して、引用発明の「LEDチップ」は、「380nm?420nmの範囲に主発光ピーク波長を有する」点(以下「相違点1」という。)。

(イ)本願補正発明の「青色蛍光体粉末」は、「ピーク波長430nm以上460nm以下の青色光を発光する」のに対して、引用発明の「蛍光体」は、「青色」のピーク波長が明らかではない点(以下「相違点2」という。)。

(ウ)本願補正発明は、「出射光の発光スペクトル」の「青色光に対する1次光のピーク強度の比(1次光のピーク強度/青色光のピーク強度)」が「0.5以下」であり、「出射光に含まれる1次光のエネルギー」が「0.4mW/lm以下」であり、「白色LEDランプの発光効率」が「20lm/W以上である」のに対して、引用発明は、「出射光の発光スペクトル」の「青色光に対する1次光のピーク強度の比(1次光のピーク強度/青色光のピーク強度)」、「出射光に含まれる1次光のエネルギー」及び「白色LEDランプの発光効率」がこのようなものとは特定されない点(以下「相違点3」という。)。

イ 判断
(ア)上記相違点1について検討する。
引用発明の「LEDチップ」は、「380nm?420nmの範囲に主発光ピーク波長を有する」ものであるところ、引用文献1には「365?380nmの範囲に主発光ピーク波長を有する紫外LEDとRGB蛍光体とを組み合わせた白色LEDの発光装置が提案されている」(上記3(2)ア(イ))と記載されているように、365?380nmの範囲に主発光ピーク波長を有する紫外LEDを用いることも知られており、引用発明の「380nm?420nmの範囲に主発光ピーク波長を有する」LEDチップを、「360nm?420nmの範囲に主発光ピーク波長を有する」ものとなし、上記相違点1に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者において格別困難なこととはいえない。

(イ)上記相違点2について検討する。
引用発明は「蛍光体」として、「発光色が青色の(Ca,Sr,Ba)_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+)」を用いるものであるところ、(Ca,Sr,Ba)_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+)」が430?460nm程度のピーク波長を有することは従来周知のことである(上記3(2)ウないしオ)。
したがって、引用発明の「蛍光体」として、430?460nm程度のピーク波長を有する「発光色が青色の(Ca,Sr,Ba)_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Eu^(2+)」を用い、上記相違点2に係る本願補正発明の構成となすことが、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

(ウ)上記相違点3について検討する。
a 上記3(2)ア(ク)によれば、引用文献1には、実施例1として、(Ca,Sr,Ba)_(5)(PO_(4))_(3)Cl:Euを分散させた蛍光部であるのシート状の成形体側に主発光ピーク波長405nmのLEDを発光させた際の、出射光(1次光)である主発光ピーク波長405nmの発光スペクトル輝度(Cd/m^(2))が、430?460nm付近の青色光である蛍光部20の発光(Cd/m^(2))430?460nm付近)の約1/8であることがみてとれることに照らして、引用発明は、「出射光の発光スペクトル」の「青色光に対する1次光のピーク強度の比(1次光のピーク強度/青色光のピーク強度)」が「0.5以下」を満たすものであってよいといえる。

b また、引用文献1に、「吸収部30によって410nm以下の可視光をカットすることで、蛍光部20の発光色を損なうことなく、目的の色度分布を有する白色光を得ることができる。さらに、吸収部30によって近紫外線を含む紫外線までカットすることで、人体に悪影響を与えることもない。」(上記(2)ア(オ))と記載されていることに照らして、引用発明において、人体に悪影響を与える近紫外線を含む紫外線までをカットして、出射光に含まれる1次光(紫外光)のエネルギーを0.4mW/lm以下となすことは、当業者が適宜なし得る設計的事項である。

c そして上記a及びbの点については、本件請求人も、「次に、LEDチップからの出射光の漏れ光の強度を比較してみる。引用文献1の発光装置の詳細設計内容が不明なため、蛍光膜の発光強度と同様に、両者の厳密な比較評価は困難であり、しかも、引用文献1の場合、紫外線漏れ光の強度を、本発明の様に数値限定している訳でもない。従って、単純な比較になるが、引用文献1の図5?図8の発光スペクトルを参考にして、LEDチップからの光の漏れ光の強度を計算すると、いずれも0.4mW/lm以下の値を示すことが判明した。従って引用文献1の発明でも、LEDチップからの出射光の漏れ光の割合は本発明の規定を満足していることが判明した。」(平成25年4月15日付け意見書 3頁22?29行)、及び、「引用文献1では、明細書の実施例1に記載の通り、・・・富士写真フィルム社製紫外線カットフィルム『UV Guard(商品名)』を第2のシート状の成形体18として用いた。」と記載されている。ここで、上記富士フィルム社製紫外線カットフィルム『UV Guard(商品名)』の詳細特性を確認すると、代表特性は別紙1の通りである。別紙1の光透過率特性は、富士フィルム社HP(ホームページ)の商品紹介頁より抜粋したものです。図中の記載(青色のカーブ)から光透過率特性を読み取ると、410nmでほぼゼロであり、430nmで約83%であり、450nmで約88%であり、これらの光透過率値は引用文献1の請求項および明細書の記載を満たす特性であることが確認できる。この引用文献1のフィルターを発光装置に適用した場合、発光装置から漏出する紫外線(410nm以下の波長の光)は、ほぼゼロに近く、引用文献1の図5?8に示された特性とも、ほぼ合致して、紫外線の漏出防止効果は確認できる。」(審判請求書 9頁16行?10頁5行)と記載するとおり認めるところである。

d なお、本件請求人は続けて、「しかしながら同時に判明することは、450nm以上の発光(つまり青色、緑色、赤色等、可視光のほぼ全量近く)の約12%が一律にカットされるとの問題がある。つまり、引用文献1の発光装置では、紫外線漏出の防止効果はあるが、明るさを犠牲にした発光装置であることが明白である。具体的に引用文献1の記載から説明すると、『波長450nm以上の光の透過率が85%以上』との規定であり、透過率を88%から99%程度まで、10%以上向上させるケースも有り得るかも知れない。その様なフィルターを得ることが可能かどうかは不明であるが、予想されるケースは、フィルター材料の基本特性から推定して、450nm以上の透過率を向上させた場合に、同時に410nm以下の透過率も比例して増加することが必至である。そうすると、発光装置の輝度も向上する代わりに、紫外線漏出量も増加することになる。したがって、引用文献1の発光装置では、紫外線漏出量と発光輝度のうち、両者を同時に改善することは困難であり、片方の特性を満足させるためには、他方の特性が犠牲にならざるを得ないとの問題を有することが明白である。」(審判請求書 10頁6?19行)とも主張する。

e しかしながら、本願の最先の優先日前には、発光効率が20lm/W以上である紫外LEDを用いた白色LEDは周知の事項であったこと(上記3(2)カないしク)、及び、引用文献1に、「しかしながら、380?420nmの範囲に主発光ピーク波長を有する近紫外LEDの光は可視領域の波長成分を持つ光であるため、RGB蛍光体に完全に吸収されない場合は、可視領域の漏れ光となってしまうという問題があった。したがって、このような近紫外LEDを用いた従来の発光装置は、可視領域の漏れ光によって、目的の色調を得ることができないこと、色再現範囲が狭くなることなどの問題を有していた。」(上記(2)ア(イ))、「本発明にかかる発光装置によれば、380nm?420nmの範囲に主発光ピーク波長を有するLEDチップとすることで、高出力を得ることができ、かつ、蛍光部によって吸収されなかったLEDチップの光の内、410nm以下の波長すなわち近紫外線を含む紫外線及び蛍光体の発光でない可視光を効率よく吸収することができる。したがって、本発明にかかる発光装置によれば、蛍光部の発光によって得られる目的の色調の発光を得ることができると共に、広い色再現範囲が得られる。」(上記(2)ア(ウ))及び「吸収部30によって410nm以下の可視光をカットすることで、蛍光部20の発光色を損なうことなく、目的の色度分布を有する白色光を得ることができる。さらに、吸収部30によって近紫外線を含む紫外線までカットすることで、人体に悪影響を与えることもない。」(上記(2)ア(カ))と記載されていることに照らして、引用発明において、人体に悪影響を与える近紫外線を含む紫外線までをカットして、出射光に含まれる1次光(紫外光)のエネルギーを0.4mW/lm以下となしつつ、高出力を得る発光装置とすべく、発光効率を20lm/W以上となすことに格別の困難性は認められない。

f したがって、引用発明において、引用文献1の記載及び周知の事項に基づいて、上記相違点3に係る本願補正発明の構成となすことは、当業者が容易になし得ることである。

(4)まとめ
したがって、本願補正発明は、引用発明、引用文献1の記載及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 本件補正についてのむすび
上記3の検討によれば、本件補正は、特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
上記のとおり、本件補正は却下されたので、本願の請求項に係る発明は、平成25年4月15日付けで補正された明細書の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし25に記載されたものと認められるところ、その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は、前記第2、1において、補正前のものとして示したとおりのものである。

2 刊行物の記載及び引用発明
上記第2、3(2)のとおりである。

3 対比・判断
上記「第2 2 補正の目的」のとおり、本願補正発明は、本願発明に限定を付加したものである。
そして、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに限定を付加した本願補正発明が、引用発明、引用文献1の記載及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上、上記第2、3での検討と同様の理由により、本願発明は引用発明、引用文献1の記載及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明し得るものである。

4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献1の記載及び周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-25 
結審通知日 2014-12-02 
審決日 2014-12-15 
出願番号 特願2010-500662(P2010-500662)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 百瀬 正之  
特許庁審判長 吉野 公夫
特許庁審判官 近藤 幸浩
松川 直樹
発明の名称 白色LEDランプ、バックライトおよび照明装置  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  
代理人 特許業務法人東京国際特許事務所  

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