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この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2011800051 審決 特許
無効2012800042 審決 特許
無効2013800042 審決 特許
無効2011800177 審決 特許
無効2011800046 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61K
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
審判 全部無効 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降)  A61K
管理番号 1297180
審判番号 無効2010-800164  
総通号数 183 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-03-27 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-09-15 
確定日 2014-09-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4509118号「医薬組成物及びその製造方法、並びに医薬組成物におけるジヒドロピリジン系化合物の安定化方法」の特許無効審判事件についてされた平成25年 4月 3日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において請求項1ないし9に係る発明に対する部分の審決取消しの決定(平成25年(行ケ)第10137号、平成25年 7月29日;平成25年(行ケ)第10138号、平成25年 7月29日)があったので、審決が取り消された部分の請求項に係る発明についてさらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4509118号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。 特許第4509118号の請求項5ないし6に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その27分の7を請求人の負担とし、27分の20を被請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
(1)本件特許第4509118号の請求項1?12に係る発明についての特許は、平成17年10月5日(優先権主張、特願2004-293771号、平成16年10月6日)を国際出願日として出願され、平成22年5月14日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
(2)これに対して、請求人は、「特許第4509118号の請求項1?12に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、甲第1?13号証を提出し、本件特許の請求項1、7に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、請求項1?5、7?12に係る発明の特許は、同条第2項の規定に違反してなされたものであり、また、請求項1?12に係る発明の特許は、第36条第4項第1号、同条第6項第1号の規定に違反してなされたものであり、無効とすべきであると主張した。
(3)被請求人は、平成22年12月6日に提出した答弁書中、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は、いずれも理由がない旨主張するとともに、同年同月同日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。
(4)これに対し、請求人は、平成23年2月3日に弁駁書、及び証拠方法として甲第14、15号証を提出して、同弁駁書において、上記訂正は、訂正の要件を満たさず、訂正は認められるものではない旨主張した。(その結果、訂正前の特許については、審判請求当初に申し立てた無効理由を解消していない旨主張した。)
(5)口頭審理に先立ち、請求人は、平成23年7月22日に口頭審理陳述要領書、及び証拠方法として甲第16号証を提出した。また、被請求人は、平成23年7月26日に、口頭審理陳述要領書を提出した。そして、平成23年8月9日に行われた第1回口頭審理において、請求人からは審判請求書、平成23年2月3日付け弁駁書及び平成23年7月22日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおりの陳述がなされ、被請求人からは平成22年12月6日付け答弁書及び平成23年7月26日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおりの陳述がなされた。
(6)当合議体は、請求人に対し、平成23年8月24日付け無効理由通知書により、平成22年12月6日でした訂正請求後の本件特許の請求項1?6、11、12は、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしておらず、同請求項に係る特許は無効とすべきものと認められる旨を通知した。また、請求人には、職権審理の結果、同請求項について、同無効理由通知書記載の無効理由により無効とすべきである旨を記載した審理結果通知書を通知の上、意見を求めた。
(7)これに対し、被請求人は、平成23年9月26日に、意見書、及び乙第1号証を提出するとともに、訂正請求書を提出して訂正を求めた(以下、この訂正請求書による訂正請求を「第一次訂正請求」という。)。なお、請求人は意見書を提出しなかった。
(8)これらを踏まえ、平成24年2月22日付けで、
「訂正を認める。
特許第4509118号の請求項1?12に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決(以下、「第一次審決」という。)がなされた。
(9)これに不服の被請求人が審決取消訴訟を提起し、その後、本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判(訂正2012-390078号)を請求した。そして、上記訴訟は、知的財産高等裁判所において平成24年(行ケ)第10118号事件として審理され、平成24年7月2日付けで、第一次審決を取り消す旨の決定がなされ、本件特許無効審判事件は、審判官に差し戻された。
(10)これを受けて、当合議体より、平成24年7月9日付けで、特許法第134条の3第2項の規定により訂正請求のための通知をしたところ、被請求人より、平成24年7月23日に訂正請求書(以下、この訂正請求を「第二次訂正請求」、この訂正請求書を「第二次訂正請求書」という。)及び乙第2?10号証が提出された。
(11)そして、当合議体より、平成24年10月17日付けで、被請求人の提出した本件訂正請求の訂正請求書副本を送付したところ、請求人より、平成24年11月20日付けで弁駁書(以下、この弁駁書を「第二次弁駁書」という。)及び甲第17?21号証が提出された。
(12)これに対して、当合議体より、平成25年2月13日付けで、請求人が提出した本件弁駁書によりなされた請求の理由の補正について、同弁駁書の第18頁第21行?第19頁第5行、第20頁第23?31行において新たに主張された特許法第36条第6項第2号に関する無効理由は、請求の理由の要旨を変更するものであるから、これらの事項を追加することによる請求の理由の補正については許可しない旨の許否の決定がなされた。
(13)これらを踏まえ、平成25年4月3日付けで、
「訂正を認める。
特許第4509118号の請求項4ないし6、8に係る発明についての特許を無効とする。
特許第4509118号の請求項1ないし3、7、9に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判の総費用は、これを21分し、その5を請求人の負担とし、その16を被請求人の負担とする。」との審決(以下、「第二次審決」という。)がなされた。
なお、第二次審決は平成25年4月12日に送達され、該送達により、第二次訂正請求により削除するとしてこれを認められた、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項3、6、7を削除した訂正については確定した。
(14)これに不服の請求人、被請求人双方が審決取消訴訟を提起し、その後、被請求人は本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判(訂正2013-390097号)を請求した。そして、上記訴訟は、知的財産高等裁判所において平成25年(行ケ)第10137号、平成25年(行ケ)第10138号事件として審理され、平成25年7月29日付けで、第二次審決を取り消す旨の決定がなされ、本件特許無効審判事件は、審判官に差し戻された。
(15)平成25年8月12日に請求人側に参加申請がなされたので、平成25年8月20日付けで、当事者双方に参加申請書副本を送付したのち、平成25年10月3日付けで、当該参加の申請を許可する旨の参加許否の決定がなされた。
(16)当合議体より、平成25年10月3日付けで、特許法第134条の3第2項の規定により訂正請求のための通知をしたところ、平成25年10月17日に訂正請求書が提出された(以下、この訂正請求を「本件訂正請求」、この訂正請求書を「本件訂正請求書」という。)。
(17)当合議体より、平成25年11月8日付けで、被請求人の提出した本件訂正請求の訂正請求書副本を送付したところ、参加人より、平成25年12月11日に、弁駁書(以下、この弁駁書を「本件弁駁書」という。)及び証拠説明書とともに丙第1?4号証が提出された。
(18)平成26年3月11日付弁駁書副本の送付通知に対して、被請求人は、平成26年4月10日に答弁書を提出した。
2.訂正事項
上記のとおり、本件訂正請求がなされたので、本件審判事件において先にした第一次訂正請求及び第二次訂正請求は特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。また、上記1(13)に記載したとおり、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項3、6、7を削除した訂正については第二次審決の送達により確定している。したがって、本件訂正請求の内容は、訂正前の、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲の請求項1、2、4、5、8?12(以下、「特許請求の範囲」という。)、明細書(以下、「特許明細書」という。)を、各々、同訂正請求書に添付した特許請求の範囲(以下、「訂正特許請求の範囲」という。)、明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正しようとするものである。
すなわち、以下の特許請求の範囲
「【請求項1】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合してなる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄の少なくもいずれかが、黄色三二酸化鉄である請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
黄色三二酸化鉄の含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1質量部である請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】(削除)
【請求項7】(削除)
【請求項8】
(I)ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含む製造方法により得られる錠剤である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
錠剤が、速崩性錠剤である請求項7から8のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
(I)ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法。
【請求項11】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする、医薬組成物におけるベシル酸アムロジピンの安定化方法。
【請求項12】
ベシル酸アムロジピンを含有する医薬組成物に用いられ、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とするベシル酸アムロジピンの安定化剤。」
を、下記の訂正特許請求の範囲のとおり訂正するとともに、当該訂正に対応する明細書及び図面の記載事項を合わせて訂正することを求めるものである。
「【請求項1】
ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを含有し、前記カラギーナンの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部であり顆粒剤又は錠剤であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合してなる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
(I)ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含む製造方法により得られる錠剤である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
(I)ベシル酸アムロジピンと、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部のカラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法。
【請求項5】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする、顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)における熱、水に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法。
【請求項6】
ベシル酸アムロジピンを含有し、顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)に用いられ、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とするベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤。」
3.訂正の可否の判断
(1)特許請求の範囲の訂正について
本件訂正請求書では、第二次訂正請求時の請求項を訂正前の請求項であるとして記載がなされている。
しかし、上記2に記載したとおり、第一次訂正請求、第二次訂正請求はともに取り下げられたものとみなされるから、本件訂正請求における訂正前の請求項1、2、3、4、5、6、7、8、及び9に関する被請求人の主張については、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1、2、8、4、5、9、10、11、及び12に関するものと解し、以下検討する。 なお、第二次訂正請求時になされた、特許請求の範囲の請求項3、6、7を削除する訂正が第二次審決の送達により確定していることは上記1(13)に記載したとおりである。
よって、本件訂正請求は、特許請求の範囲の請求項4、5、及び9を削除することを求めるとともに、請求項1、2、8、10、11、及び12について以下のとおり訂正することを求めるものである。
(1)-1 請求項1の訂正について
この訂正は、訂正前の請求項1記載の医薬組成物の「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれか」を「カラギーナン」に限定し、さらに、カラギーナンのベシル酸アムロジピンに対する含有量をベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部と規定し、かつその剤形を「顆粒剤、錠剤」と規定することを求めるものである。それらカラギーナンのベシル酸アムロジピンに対する含有量、剤形についての規定は、「<6>カラギーナンの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部である<1>から<5>のいずれかに記載の医薬組成物である。」、「<7>医薬組成物が、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又はドライシロップ剤である<1>から<6>のいずれかに記載の医薬組成物である。」との特許明細書の段落0007に記載されるものに限定したものである。
そうすると、この訂正は、訂正前の請求項1の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「願書に添付した明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(1)-2 請求項2の訂正について
この訂正は、訂正前の請求項2記載の医薬組成物の「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれか」を「カラギーナン」に限定したものであり、また、被引用請求項1に関する訂正については上記(1)-1記載のとおりであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(1)-3 請求項3の訂正について
この訂正は、訂正前の請求項8を請求項3とし、かつ「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれか」を「カラギーナン」に限定したものであり、また、被引用請求項2に関する訂正については上記(1)-2記載のとおりであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(1)-4 請求項4の訂正について
この訂正は、訂正前の請求項10を請求項4とし、かつ「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれか」を「前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部のカラギーナン」と訂正することを求めるものであり、それは、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれか」を「カラギーナン」に限定し、カラギーナンのベシル酸アムロジピンに対する含有量を訂正前の段落0007に記載されており、また段落0016に好ましいと記載されていた数値に限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(1)-5 請求項5の訂正について
この訂正は、訂正前の請求項11を請求項5とし、かつその剤形を「顆粒剤、錠剤」に限定し、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナン」を「黄色三二酸化鉄及びカラギーナン」に限定したものであり、かつ「医薬組成物」を「医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)」として、特定の剤形の組成物を除くこと、さらに、「ベシル酸アムロジピンの安定化方法」を「熱、水に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法」として、安定化方法を規定することを求めるものである。
まず、その剤形を「顆粒剤、錠剤」に限定する点については上記(1)-1で検討したとおりである。剤形に関して、特許明細書の段落0033には、「特に制限されず」と記載されており、訂正明細書において除くとされている「コーティング錠剤」もまた、訂正前の請求項11記載の「医薬組成物」に含まれていたものであるといえるから、特定の剤形の組成物を除くとする点は特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
次に、ベシル酸アムロジピンの安定化方法を「熱、水に対する」ものとする点について検討する。特許明細書の段落0001には、本発明は、加温、光、湿度などの保存環境条件に対するジヒドロピリジン系化合物の安定化方法に関する旨の記載がある。また、同段落0076には、本発明によれば、顆粒剤や細粒剤などの比表面積が大きな剤形にあっては、光、水分、熱に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を保持できる医薬品を提供できる旨記載されている。さらに、特許明細書の実施例には、ベシル酸アムロジピンに黄色三二酸化鉄またはカラギーナンを配合した顆粒剤または速崩性錠剤について、5℃密閉系、40℃75%RH開放系、60℃密閉系、光照射の各条件で不純物含量を測定することにより保存安定性試験を行い、温度、湿度、光の保存環境下の影響を確認したことが具体的に記載されている。
これら特許明細書の記載によれば、ジヒドロピリジン系化合物であるベシル酸アムロジピンの保存環境を規定する条件には、たとえば、熱、水分、光が存在していること、そして、黄色三二酸化鉄又はカラギーナンを混合することにより、それら熱、水、光などの条件を変化させた別個の試験が行われ、それら試験の結果をもって各条件が安定性に与える影響について確認すると認識されていたものといえるから、訂正前の請求項11における安定化方法には、熱、水に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法が含まれていたものと認められる。
そうすると、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもないし、また、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(1)-6 請求項6の訂正について
この訂正は、訂正前の請求項12を請求項6とし、かつその剤形を「顆粒剤、錠剤」に限定し、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナン」を「黄色三二酸化鉄及びカラギーナン」に限定したものであり、かつ「医薬組成物」を「医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)」として、特定の剤形の組成物を除くこと、さらに、「ベシル酸アムロジピンの安定化剤」を「ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤」として、安定化剤を規定することを求めるものである。
「ベシル酸アムロジピンの安定化剤」を「ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤」とする訂正以外の上記訂正については、すでに(1)-5において検討のとおりである。そして、「熱、水に対する安定化剤」に関連して、特許明細書の段落0001には、本発明は、加温、光、湿度などの保存環境条件に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を向上させた医薬組成物に関する旨の記載がある。また、同段落0076や実施例の記載は、上記(1)-5に記載したとおりである。請求項6は安定化剤に関する発明であって、安定化方法に関する請求項5に係る発明とは発明のカテゴリーが異なるだけであるから、上記(1)-5において請求項5に係る発明について検討した事項は、請求項6に係る発明についても同様であるといえる。よって、特許明細書の記載からみて、訂正前の請求項12記載の安定化剤には熱、水に対する安定化剤が含まれていたものと認められる。
そうすると、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもないし、また、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものである。
(2)特許明細書の訂正について
特許明細書の訂正は、いずれも、特許請求の範囲の訂正に伴い、対応する明細書の記載を訂正することを求めるものである。
特許請求の範囲の訂正については、上記(1)記載のとおりであるから、特許明細書の訂正は、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(3)請求人側参加人は、本件弁駁書において、本件特許発明5、6に係る本件訂正は当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではなく、また実質上特許請求の範囲を拡張するものであって、特許法第126条第3項、第4項の規定に違反するものである旨主張する。同参加人の主張は、概略、当初明細書の安定化方法、安定化剤に関する記載、並びにその出願経緯(丙第1号証、及び丙第2号証)から、訂正前の請求項11、12に係る発明は、各々、「光、水分、熱の三者全てに対する安定化方法」、「光、水分、熱の三者全てに対する安定化剤」の発明であるのに対し、訂正後の本件特許発明5、6の安定化方法、安定化剤は、それら三者全てに対する安定化方法、安定化剤のみならず、光に対する安定化方法、安定化剤として機能しないが、熱及び水に対して安定化方法、安定化剤として機能する発明をも論理的に含むものとなったが、後者の発明については訂正前の請求項11、12に含まれていたとは認められないばかりか、当初明細書にも記載がないというものである。
しかし、上記(1)-5、(1)-6においてすでに検討のとおり、特許明細書には、ジヒドロピリジン系化合物であるベシル酸アムロジピンの安定性を左右する条件として熱、水、光の存在を認識した上で、各条件の安定性に及ぼす影響について、別個に試験を行い、それぞれの条件ごとに安定性を確認した旨が記載されているから、訂正前の請求項11、12には、光に対する安定化方法、安定化剤、又は水に対する安定化方法又は安定化剤、又は熱に対する安定化方法、安定化剤についての発明が記載されていたものと認められるから、同参加人の主張は上記判断を左右するものではない。
(4)したがって、平成25年10月17日付けの訂正は、特許法第134条の2第1項第1号乃至第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
4.本件特許発明
上記のとおり訂正が認容されたので,本件特許第4509118号の請求項に係る発明は,訂正請求書に添付された訂正明細書、及び訂正特許請求の範囲の請求項1?6に記載されたとおりのものであり、そのうち、訂正特許請求の範囲の請求項1?6は次のとおりである。
「【請求項1】
ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを含有し、前記カラギーナンの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部であり顆粒剤又は錠剤であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合してなる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
(I)ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含む製造方法により得られる錠剤である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
(I)ベシル酸アムロジピンと、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部のカラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法。
【請求項5】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする、顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)における熱、水に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法。
【請求項6】
ベシル酸アムロジピンを含有し、顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)に用いられ、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とするベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤。」
本件無効審判の請求後に本件特許に関し、上記のとおり訂正が行われた結果,特許請求の範囲の請求項に対応する訂正後の請求項の番号に変更が生じている。
前記のとおり、第二次審決の送達により、特許請求の範囲の請求項3、6、7の削除はすでに確定しており、本件訂正請求については上記のとおり訂正が認容されたので、特許請求の範囲の請求項4、5、9は削除された。
すなわち、現在の請求項の番号1、2、3、4、5、及び6は、それぞれ特許請求の範囲の請求項1、2、8、10、11、及び12の減縮を目的として訂正したものであり、各請求項に対応するものである。
請求人は、特許請求の範囲の請求項番号により無効を申し立てているので、請求人の主張の概要においては、請求項番号の後に、対応する訂正後の番号を括弧内に記載することとし、本審決中において検討する請求項の番号は原則として訂正後の番号で表記する。
また、審判合議体は、その訂正が認容された第一次訂正請求時の請求項番号に対して無効理由を通知した。第一次訂正請求時の請求項は、各々、特許請求の範囲の請求項を減縮したものに対応するものであるから、現在の請求項1、2、3、4、5、及び6は、それぞれ第一次訂正請求時の請求項1、2、8、10、11、及び12に対応する。
以下、訂正後の請求項1?6に係る各発明をそれぞれの請求項の番号に対応させて「本件特許発明1」「本件特許発明2」、・・・「本件特許発明6」という。また、これら各請求項に係る発明をまとめて単に「本件特許発明」ということもある。
5.請求人の主張、証拠方法
第二次弁駁書において、請求人によってなされた、本件特許発明が、特許法第36条第6項第2号に違反してなされたものである旨の請求の理由の補正については、許可しないとの決定がなされた。
また、上記4.記載のとおり、特許請求の範囲の請求項3、6、7が削除された結果、特許査定時の請求項7に対する下記理由1、2-1、3;同請求項3に対する下記理由2-4、3;同請求項6に対する下記理由3の主張については、対象請求項が存在しない。そして、同請求項7に対する、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第6号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明と周知技術、または甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨の理由の主張についても、同請求項7が削除されたので対象請求項は存在しない。
そうすると、請求人が本件特許発明に対して主張する無効理由(理由1、理由2-1?2-6、理由3)、及び証拠方法は以下のとおりである。
<無効理由>
(新規性について)
理由1
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるから、当該特許は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。
(進歩性について)
理由2-1
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び当該技術分野において本件出願優先権主張日前の周知技術(以下、「周知技術」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-2
本件特許発明1は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第6号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明と周知技術、または甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-3
本件特許発明2は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第6号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明と周知技術、または甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-4
本件特許発明3、4は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術、または甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-5
本件特許発明5は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、または甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-6
本件特許発明6は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、または甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(記載要件について)
理由3
・黄色三二酸化鉄によるベシル酸アムロジピンの安定化について
特許明細書中に試験データの記載がない、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.1未満を含む全範囲において、ベシル酸アムロジピンが熱、あるいは湿度に対して安定化するという本件所望の効果を奏すると推認し得ない。
・カラギーナンによるベシル酸アムロジピンの安定化について
特許明細書中に試験データの記載がない、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して1以外の全範囲において、ベシル酸アムロジピンが光に対して安定化するという本件所望の効果を奏すると推認し得ない。また、0.3未満を含む全範囲において、ベシル酸アムロジピンが熱に対して安定化するという本件所望の効果を奏すると推認し得ない。配合比1未満の全範囲において、ベシル酸アムロジピンが湿度に対して安定化するという本件所望の効果を奏すると推認し得ない。
本件特許発明1?6は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから特許を受けることができないものであり、本件特許発明1?6は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
<請求人が提出した証拠方法>
甲第1号証:国際公開第03/097045号パンフレット
甲第2号証:特開2004-210797号公報
甲第3号証:今日の治療薬(1998年版)、南江堂、第532頁(発行日1998年2月20日)
甲第4号証:医薬品添加物事典、第1版、薬事日報社、第24、60頁(発行日1994年1月14日)
甲第5号証:International Journal of Pharmaceutics,103、p69-76 (1994)
甲第6号証:Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 27、p19-24 (2002)
甲第7号証:特開2003-104888号公報
甲第8号証:特開2000-191516号公報
甲第9号証:特開2003-34655号公報
甲第10号証:薬剤学マニュアル、南山堂、第84頁(出版日1998年3月31日)
甲第11号証:医薬品インタビューフォーム(アムロジピン錠「ケミファ」)2009年12月作成(改訂第4版)
甲第12号証:特開2009-35545号公報
甲第13号証:Marine Chemistry,38,p.133-143 (1992)
甲第14号証:第十五改正日本薬局方第1追補,第40?41頁
甲第15号証:National Environmental Journal (on-line version),The 4 Technology Solutions/IRON-THE ENVIRONMENTAL IMPACT OF A UNIVERSAL ELEMENT,Vol.4,No.3,p.24-25 (1994) 2
甲第16号証:平成18年(行ケ)10563号大合議判決(知財高判平成20年5月30日)
甲第17号証:安定性試験ガイドラインについて(薬新薬第30号)
甲第18号証:新原薬及び新製剤の光安定性試験ガイドラインについて(薬審第422号)
甲第19号証:特許・実用新案審査基準(第II部第2章2.5(2)丸付き数字2)
甲第20号証:東京高裁平成13年11月1日判決(平成12年(行ケ)第238号)
甲第21号証:特許・実用新案審査基準(第I部第1章2.2.1.2、2.2.1.3及び3.2.2.2)
<請求人側参加人が提出した証拠方法>
丙第1号証:本件出願に関し、平成22年2月5日に提出された意見書写し
丙第2号証:本件出願に関し、平成22年2月5日に提出された手続補正書写し
丙第3号証:大日本住友製薬株式会社 技術研究本部 製剤研究所 落合康作成 平成25年12月6日付け実験成績照明書
丙第4号証:L’IMPIEGO DIOSSIDI DI FERRO NELLA RICOPERTURA FILMOGENA DI COMPRESSE,G.C.CESCHEL-M.GIBELLINI,1980年2月28日原稿受領
6.当審が通知した無効理由の概要
<無効理由>
(記載要件について)
理由4-1
本件訂正請求後の請求項1、2、5、6には、同請求項記載の医薬組成物が「水溶液剤を除く。」ものである旨が規定されている。しかし、本件明細書の記載を参酌しても、当該用語によって表される医薬組成物がいかなる剤形の薬剤を意味するかは不明であり、結果として、水溶液剤を除く医薬組成物がいかなる剤形の薬剤を意味するかも不明であるといえるから、上記請求項に、同請求項に係る発明が明確に記載されていると認めることはできない。
よって、本件特許は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。
理由4-2
本件訂正請求後の請求項1、2、5、6には、ゼリー剤、すなわち半固形製剤という、光、水分、熱に対するベシル酸アムロジピンの安定性を保持できる医薬組成物を提供する旨の本件特許請求の範囲に係る発明の目的を達成できない態様が含まれていることとなり、また、液状製剤についても上記ゼリー剤、すなわち半固形製剤についての試験結果から把握されると同様の結果が得られるものと推察される。
そうすると、請求項1、2、5、6には、本件明細書記載の製剤を超えた発明が記載されているものと認められる。
よって、本件特許は特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである。
7.被請求人の主張
被請求人は、1.(3)記載のとおり、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由、及び、6.に記載される当審が通知した無効理由は、いずれも理由がない旨主張するとともに、以下の証拠方法を提出した。
<被請求人が提出した証拠方法>
乙第1号証:新しい製剤学、廣川書店、目次vii、P257-269 (平成6年2月20日発行)
乙第2号証:経口投与製剤の処方設計 P37、38 (平成10年4月15日発行)、橋田 充編集、株式会社 薬事時報
乙第3号証:経口投与製剤の設計と評価 P88 (平成7年2月10日発行)、橋田 充 編集、株式会社薬業時報社
乙第4号証:医学と薬学 59巻4号 P573?581 (2008)、株式会社 自然科学社
乙第5号証:粉体工学会誌 Vol.44 No.5 (2007) P367?376、松田 芳久
乙第6号証:新しい製剤学 P122?133、P378?397 (平成5年9月10日初版発行)、株式会社廣川書店
乙第7号証:第4版 実験化学講座11 反応と速度 P169、170 (平成5年2月5日発行)、丸善株式会社
乙第8号証:医薬品の安定性 P24?29、52?55、118?125、190?209 (1995年2月15日発行)、吉岡澄江 著、株式会社 南江堂
乙第9号証:医薬品インタビューフォーム (1993年8月作成)一般名:ニフェジピン P1?32、製造販売元 バイエル薬品株式会社
乙第10号証:医薬品インタビューフォーム (2003年8月作成)一般名:ベシル酸アムロジピン P1?18、製造販売元 ファイザー株式会社
8.当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号について
(1)-1 理由1について
ア.甲第1号証
甲第1号証の製剤例3には、1ユニットあたり、ディオバン薬物80.00mg、アムロジピン薬物6.94mgを含有する錠剤処方例が記載されている(p17)。
同製剤例で用いられているアムロジピン薬剤は、ノルバスクとの商品名で市販されている薬物である(甲第1号証 p12下から2行?P13 2行)。そして、ノルバスクがベシル酸アムロジピンを有効成分とする市販薬であることは本件出願優先権主張日前に周知の事実であったといえる(甲第2号証 p9 下から2行、甲第3号証 p532参照)。また、上記製造例3には、同錠剤は、たとえば製剤例1と同様にして製造されることが記載されている。そこで、製剤例1をみると、ディオバンを含有する粒剤から得られた錠剤に、ディオラック組成物でフィルムコーティングした、フィルムコーティング錠剤が記載されている(p13?14)から、製剤例3に記載された錠剤も同様にディオラック組成物でフィルムコーティングされた錠剤であると認められる。ここでディオラックとは、黄色酸化鉄と赤色酸化鉄を含有する組成物であり(甲第1号証 p17のディオラックの組成を記載した表)、また、黄色酸化鉄が黄色三二酸化鉄であり、また、赤色酸化鉄が三二酸化鉄であることは本件出願優先権主張日前に周知の事実である(甲第4号証参照)。
イ.対比・判断
(本件特許発明1について)
ア.で指摘した甲第1号証の記載事項から、甲第1号証には、「ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄を含有する医薬組成物であって、黄色三二酸化鉄と三二酸化鉄をコーティング層に含有するコーティング錠剤」が記載されているものと認められる。
しかし、甲第1号証には、本件特許発明1の発明を特定する事項である、医薬組成物にカラギーナンを含有させることについて記載はない。
そうすると、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明とすることはできない。
(2)特許法第29条第2項について
(2)-1 理由2-1について
(本件特許発明1について)
甲第1号証には、上記(1)-1で指摘したとおりの記載がある。しかし、甲第1号証には、本件特許発明1の発明特定事項である、医薬組成物に、カラギーナンを含有させることについて記載も示唆もないし、ベシル酸アムロジピンの安定化を目的としてカラギーナンを含有させることが、本件出願優先権主張日前に周知であるとも認められない。
そうすると、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(2)-2 理由2-2?2-6について
ア.甲第5号証
甲第5号証には、次のとおりの記載がある(以下、翻訳文で示す。)。
(5A)「合成酸化鉄は、400nm以下の波長の放射光の強力な吸収剤である。・・・これらの性質は、ソリブジン(BV-araU)とニフェジピンという2つの光感受性薬物の光安定化に使われた。湿式造粒法で製造した、0.2%w/w黄酸化鉄を含むソリブジンおよびニフェジピン、または含まないソリブジンおよびニフェジピンの、10mgの力価を有する水溶性コーティングされていない錠剤を、室内光および/または400フットカンデラの光に直接曝露させて光安定試験が行われた。曝露の後、光分解による力価の減少および分解生成物の濃度増加が分析された。0.2%w/wの黄酸化鉄を含むコーティングされていない錠剤は、黄酸化鉄を含まないコーティングされていない錠剤よりも光に対して安定であった。0.2%w/wの黄酸化鉄を中心に含むコーティングされていない錠剤とフィルムコーティング錠との光分解に対する効果の違いが調べられた。0.2%w/wの黄、赤、または黒酸化鉄を含むコーティングされていない錠剤は、11%w/wのOpadry(登録商標)ホワイトでコーティングした錠剤よりも光保護効果が高かった。さらに、0.05%w/wの赤および0.04%w/wの黄酸化鉄を同時に含むコーティングされていない錠剤は、0.2%w/w黄または赤酸化鉄のいずれかを単独で含むコーティングされていない錠剤よりも光保護効果があった。」(第69頁、Summary(要約)1?11行)
(5B)「ニフェジピンは光の存在下で主に2つの分解生成物、ニトロフェニルピリジンおよびニトロソフェニルピリジンに分解する(BersonおよびBrown、1955)。合成酸化鉄のニフェジピンに対する光安定化効果を研究するために黄酸化鉄が選ばれ、ニフェジピンのコーティングされていない錠剤に含められ、その後、光源曝露に対する安定性がモニターされた。」(第70頁左欄第8?15行)
(5C)「粒剤の調製 本研究に用いられた錠剤を作製するのに使用される粒剤の製剤組成は下記の通り(表省略;表には、ソリブジンまたはニフェジピン(製剤中、10.0または12.5% w/w)、酸化鉄(黄、赤、または黒)(製剤中、0.2% w/w)を含有する組成物が記載されている。)
活性成分(ソリブジンまたはニフェジピン)及びラクトースは別々に20番メッシュのふるいにかけられ、・・・。酸化鉄は、30番メッシュのふるいにかけられ微結晶セルロースと混合され・・・。その後、この混合物は、活性成分、ラクトース及び糊化澱粉を入れたボウルに加えられた。ボウルの内容物は、低速で5分間混合され、精製水を用いて造粒され・・・乾燥された。・・・着色剤を含有しない粒剤が、対照物として供される錠剤を製造するために、同様な製法により製造された。着色剤の代わりに、ラクトースが適量加えられた。」(第70頁 右欄第17行?第71頁 左欄第21行)
(5D)「粒剤の圧縮錠剤 ソリブジン粒剤は圧縮され、・・・ニフェジピン粒剤は、1/4インチの円形凹型治工具を用いたF-プレスで,10mg力価の100mgの円形錠剤に圧縮打錠された。」(第71頁 左欄第22?第29行)
(5E)「錠剤のコーティング 12.5% w/w オパドライコーティング水懸濁液が・・・調製された。・・・該コーティング懸濁液が、・・・コーティングパンを用いて圧縮錠剤に適用された。・・・コーティングの量は錠剤の重量の増加に応じて決定された。」(第71頁 左欄第30行?末行)
(5F)「結果及び考察 ニフェジピンとソリブジンのコーティングされていない錠剤は、それが酸化鉄を含有するものも含有しないものもともに各種光源に曝露した後、力価の損失及び各分解生成物の濃度の増加を測定することによって、それぞれの分解がモニターされた。(表1省略;表1には、酸化鉄を含有しないものは、光曝露14日後のニフェジピン残存%が56.8%であるのに対して、0.2% w/w 黄色酸化鉄を含有するものは同75.2%であったことが記載されている。)」(第72頁 右欄第1?7行、第73頁 表1)
(5G)「0.2%の黄色酸化鉄を含む又は含まない10mg力価のニフェジピン錠剤が、400フットカンデラの光に14日間曝露された。14日間の曝露後、いずれの酸化鉄も含まない錠剤は初期のニフェジピン力価の57%しか保持できていなかったのに対し、酸化鉄を含む錠剤については、初期のニフェジピン力価の75%が検出された(表1)。加えて、酸化鉄を含まない錠剤における分解生成物濃度は、酸化鉄を含む錠剤に比べて高かった。これは、酸化鉄にはニフェジピンの光分解を弱める働きがあることを示している(表1)。」(第74頁左欄第1?12行)
(5H)「上で取り上げた2種類の光感受性薬のうちソリブジンを選んでさらなる研究を行った。錠剤中の黄酸化鉄の濃度が0.2から0.5%w/wに増量されると、光安定化効果も若干増加した(表4)。より高濃度での酸化鉄は、光に対して不安定な活性成分に対してより一層の保護を与え得るであろうけれども、酸化鉄の着色剤としての使用はアメリカでは最大摂取量が1日当たり5mgの元素鉄に制限されている(医薬品添加剤便覧、1986)。」(第74頁左欄第26?末行)
(5I)「ソリブジン錠剤に関する酸化鉄の光安定化効果がフィルムコーティングのような従来の光保護手段と比べられた。ソリブジン錠剤は3,6,11% w/w オパドライホワイト(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、二酸化チタン、ポリエチレングリコール、ポリソルベート80を含有する)でコーティングされ、コーティングされていない錠剤とともに・・・の蛍光灯に7日間曝露された。これらの錠剤は、光分解、すなわちソリブジンのZ-アイソマーの濃度増加が分析された。・・・(表6省略;表6には、ソリブジンへの光曝露1,3,7日後の、コートされていない錠剤、3,6,11% w/w オパドライホワイトでコートされたソリブジン錠剤各々におけるのZ-アイソマー形成割合について記載されている。7日後の値は、順に、0.68、0.52、0.24、0.21%であることが記載されている。)」(第75頁左欄第22行?右欄第13行)
(5J)「上記のとおり、酸化鉄の光安定化効果はフィルムコーティングのそれより優れている。コーティングは、錠剤製造工程においてさらなる工程を要するために、コストがかかるし、時間もかかる。光感受性薬物のコーティングされていない錠剤製剤に酸化鉄を含めることによってコーティングしなくともよくなる。」(第76頁左欄第5?11行)
(5K)「結論 酸化鉄が光感受性薬物であるソリブジンとニフェジピンのコーティングされていない錠剤の製剤に用いられて、該薬物の光分解を減じた。ソリブジン錠に対する0.2% w/w 酸化鉄添加による光安定化効果は、11% w/w オパドライホワイトコーティングのそれより優れていた。・・・酸化鉄の安定化効果は、光不安定な薬物を、その製造時、もしくはその後の保存時に保護するのにたいへん有用である。」(第76頁左欄第14行?右欄第3行)
イ.甲第6号証
甲第6号証には、次の通りの記載がある(以下、翻訳文で示す。)。
(6A)「アムロジピン,R,S-2-[(2-アミノエトキシ)メチル]-4-(2-クロロフェニル)-3-エトキシカルボニル-5-メトキシカルボニル-6-メチル-1,4-ジヒドロピリジン(AML)は,高血圧症と狭心症[1]に広く用いられる強力な長期持続性のあるカルシウム拮抗剤であり,1,4-ジヒドロピリジン類と総称される類に属する。該類の全ての化合物に共通する性質は,光に曝されると薬物が酸化され[2-4],ピリジン類似体(AMLOX)を生成することである(Fig.1)。)」(第19頁左欄第2?11行)
(6B)「したがって、原末並びに製剤中におけるAMLとAMLOXとを同時分析するための迅速で正確なUV誘導法がここに報告されている。光曝露を最小化するために、その過程は、可能な限り速やかな実験条件を採用して、直接マトリックス懸濁液に対して行われた。」(第20頁左欄第3?第10行)
(6C)「アムロジピンの純粋な粉末は,ファイザー(ローマ,イタリア)から提供を受けた。・・・ノルバスク(ファイザー,イタリア)・・・。)」(第20頁左欄第17行?第20頁右欄第1行)
(6D)「以下の賦形剤;澱粉、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸が製剤に通常含有される量添加された。薬剤の分析用に5錠が計測されて粉末化された。1錠に対応する量が正確に計測され、エタノールと攪拌して50mlとした。この懸濁液1mlはエタノールで希釈して10mlとされ、濾過することなく分析された。」(第21頁左欄第1?12行)
(6E)「自然光への曝露は、6月?7月の期間で、晴天の日の9時から17時まで連続してサンプルを曝露して行われた。人工光による照射は、280-360nmのUVランプ(30W、距離30cm)に曝露して行われた。AML原末は薄層にて提供され、曝露期間中、種々の時間において分析された。この目的のために粉末10mgが正確に計測され、エタノールで希釈され20μg/mlの濃度とされた。製剤に関しては、10錠が自然光並びに人工光に曝露され、・・・種々の時期に分析された。この過程は包装されている錠剤に関しても同様になされた。」(第21頁左欄第14?末行)
(6F)「提案された方法は原末並びに、包装材により包装されているか若しくはされていない医薬品投与形態に対する自然光並びに人工光の効果を研究するために適用された原末中のAMLOX量は、太陽光、人工光下で、各々8時間後、5時間後、約10%存在していた。製剤化された錠剤は、十分安定であり、自然光曝露46時間後、人工光曝露30時間後において、各々AML表示量の10%減少であった。これに反して、錠剤は包装材により包装されているならば光分解からよく保護された。」(第23頁右欄第14?末行)
ウ.甲第7号証
甲第7号証には、次の通りの記載がある。
(7A)「ジヒドロピリジン誘導体がニソルジピン、ニトレンジピン、ベニジピン、マニジピン、バルニジピン、アムロジピン、エホニジピン、ニルバジピンもしくはその医薬として許容し得る塩である請求項1もしくは請求項2記載のジヒドロピリジン誘導体の錠剤。」(請求項3、段落0011)
(7B)「酸化鉄が三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄を単独か、もしくは両者を組み合わせて使用するものである請求項4記載のジヒドロピリジン誘導体のフイルムコーティング錠剤。」(請求項5)
(7C)「ジヒドロピリジン誘導体は、光に対する安定性が低く、水性溶媒への溶解度が非常に低いために経口投与の場合には消化管液中で薬物が製剤から溶出するような工夫が必要である。そのため、ジヒドロピリジンの医薬組成物に関しては多くの特許出願並びに特許が存在する。例えば、・・・光に対して不安定な薬物の安定性を向上させるために、フィルムコーティング剤皮に酸化チタンを配合することが慣用の技術として利用されている。」(段落0004)
(7D)「これらの従来技術は、・・・作業工程が煩雑となり、・・・必ずしも望ましい技術とは言い難い。・・・又、酸化チタンをフィルムコーティング剤皮に使用してジヒドロピリジン誘導体のフィルムコーティング錠剤を作成した場合にも必ずしも満足のいく製剤中のジヒドロピリジン誘導体の光安定性を得られるものではなかった。」(段落0005)
(7E)「フイルムコーティング剤皮に酸化鉄を配合することにより、光に安定なジヒドロピリジン誘導体のフイルムコーティング錠剤を提供するものである。」(段落0009)
(7F)「実施例1 ニソルジピンのフイルムコーティング錠剤 以下の処方及び製法を用いて本発明品1のニソルジピンのフイルムコーティング錠剤を得た。」(段落0020) つづいて、(素錠部)に、1.ニソルジピン(10mg)・・・、(フィルムコーティング部)に、・・・2.酸化チタン、・・・4.三二酸化鉄(0.46mg)、5.黄色三二酸化鉄(0.19mg)を用いたニソルジピンのコーティング錠剤が記載されている。(段落0021)
(7G)「実施例2 ニソルジピンのフイルムコーティング錠剤 以下の処方及び製法を用いて本発明品2のニソルジピンのフイルムコーティング錠剤を得た。」(段落0026) つづいて、(素錠部)は実施例1と同一で、(フィルムコーティング部)に、・・・2.酸化チタン、・・・4.三二酸化鉄(0.13mg)を用いたニソルジピンのコーティング錠剤が記載されている。(段落0026)
(7H)「比較例2 ニソルジピンのフィルムコーティング錠剤
実施例2のフィルムコーティング部成分4を同量の酸化チタンに代え(審決注:実施例2のフィルムコーティング部は、1.ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、2.酸化チタン、3.マクロゴール6000(ポリエチレングリコール)、4.三二酸化鉄からなる。よって、比較例2のフィルムコーティング部に含有される無機物は酸化チタンのみである。)、実施例2と同様の製法でニソルジピンのフィルムコーティング錠剤を得た。このフィルムコーティング錠剤は実施例2よりも光安定性に劣っていた。」(段落0031)
エ.甲第8号証
甲第8号証には、次の通りの記載がある。
(8A)「光に不安定な薬物を含有した粉体を、着色剤を含む結合液で湿式造粒してなる経口固形組成物。」(請求項1)
(8B)「光に不安定な薬物がソファルジン、ニフェジピン、・・・である請求項1?5のいずれかに記載の経口固形組成物。」(請求項6)
(8C)「着色剤が食用黄色4号、・・・黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、・・・である請求項1?6のいずれかに記載の経口固形組成物。」(請求項7)
オ.甲第9号証
甲第9号証には、次の通りの記載がある。
(9A)速崩壊性固形製剤中の活性成分として、ニフェジピン、ニソルジピン、塩酸マニジピン、ベシル酸アムロジピン等のCa拮抗薬が記載されている(段落番号0005)。
(9B)実施例1?3:塩酸マニジピン整粒物(A、C、E)と黄色三二酸化鉄整粒物(B、D、F)を含む混合物を打錠して錠剤を製造することが記載されている(段落番号0015?0017)。
(9C)表3中に、製造された錠剤が口腔内速崩壊性であることを示すデータが記載されている(段落番号[0022]、表3)。
カ.対比・判断
(本件特許発明1について) 理由2-2
上記甲第5?9号証のいずれの証拠にも、本件特許発明1の発明を特定する事項である、医薬組成物にカラギーナンを含有させることについて記載はない。
そうすると、本件特許発明1は、甲第5?9号証に記載されたいずれの発明及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(本件特許発明2について) 理由2-3
本件特許発明2は、本件特許発明1において、ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを「含有し」とされている点について、その含有方法を「混合してなる」とさらに特定するものである。
そして、本件特許発明1が、甲第5?9号証に記載されたいずれの発明及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められないことは、(本件特許発明1について)、の項に記載したとおりであるから、本件特許発明2は、本件特許発明1について、と同様の理由により、甲第5?9号証に記載されたいずれの発明及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(本件特許発明3について) 理由2-4
本件特許発明3は、本件特許発明2をさらにその製造方法について、
(I)ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含む製造方法により得られる錠剤である、請求項2に記載の医薬組成物、に特定するものである。
そして、本件特許発明2が、甲第5?9号証に記載されたいずれの発明及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められないことは、(本件特許発明2について)、の項に記載したとおりであるから、本件特許発明3は、本件特許発明2について、と同様の理由により、甲第5?9号証に記載されたいずれの発明及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(本件特許発明4について) 理由2-4
本件特許発明4は、
(I)ベシル酸アムロジピンと、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部のカラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法に係る発明である。本件特許発明4においては、その工程(I)において、カラギーナンを混合する工程が規定されているように、ベシル酸アムロジピンとカラギーナンとの含有する医薬組成物の製造方法の発明であり、その工程(II)において、打錠する工程が規定されているから、本件特許発明4は実質的には錠剤の製造方法の発明であると認められる。
上記甲第5?9号証のいずれの証拠にも、本件特許発明4の発明特定事項である、医薬組成物にカラギーナンを含有させることについて記載はない。
そうすると、本件特許発明4は、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証、及び本件出願優先権主張日前の周知技術、または甲第9号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたもの及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(本件特許発明5について) 理由2-5
甲第5号証には、上記摘記事項(5A)、(5C)、(5D)、(5F)からみて、ニフェジピンと黄色酸化鉄とを含有する錠剤であって、黄色酸化鉄がニフェジピンとともに錠剤を構成する組成物中に含有されている錠剤、が記載されているものと認められる。そして、甲第5号証には、さらに、表1に、光曝露14日後のニフェジピン残存割合や分解生成物濃度について、黄色酸化鉄を含有する錠剤と含有しない錠剤との比較から、黄色酸化鉄がニフェジピンに対する光安定化効果を有することが示されている(摘記事項(5F)、(5G))。
これら記載からみて、甲第5号証には、「ニフェジピンと黄色酸化鉄とを含有する錠剤であって、黄色酸化鉄がニフェジピンとともに錠剤を構成する組成物中に含有されている錠剤における光に対するニフェジピンの安定化方法。」の発明(以下、「引用発明5」という。)が記載されているものと認められる。
本件特許発明5と引用発明5とを対比する。
ここで、黄色酸化鉄が黄色三二酸化鉄であることが本件出願優先権主張日前に周知の事実であることは、(1)-1の項においてすでに指摘したとおりである。
また、引用発明5の「錠剤」において、黄色三二酸化鉄は、コーティング層に含有するものではないから、同「錠剤」は、本件特許発明5の「顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)」に相当する。そして、黄色三二酸化鉄は、医薬成分であるニフェジピンと混合することにより、ニフェジピンとともに錠剤を構成する組成物中に含有されてなるものである(摘記事項(5C))。
そうすると、両者は、「医薬成分と黄色三二酸化鉄とを混合する錠剤である医薬組成物における医薬成分の安定化方法(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点
(i)本件特許発明5が顆粒剤又は錠剤である医薬組成物における熱、水に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法であるのに対して、引用発明5が光に対するニフェジピンの安定化方法である点。
以下、上記相違点(i)について検討する。
ニフェジピンが光に不安定な薬物であることは本件出願優先権主張日前に周知の事実である(摘記事項(5A)、(8B))。そして、このような光に対する不安定性は、ニフェジピンのみならず、ニフェジピンと同じく1,4-ジヒドロピリジン骨格を有し、1,4-ジヒドロピリジン類もしくはジヒドロピリジン類と総称される全ての化合物に共通する性質であることもまた本件出願優先権主張日前に周知の事実である(摘記事項(6A)、(7A)、(7C))。
さらに、甲第6号証には、アムロジピンが1,4-ジヒドロピリジン類に属し、光にさらされると酸化されてピリジン類似体を生成することが記載されている(摘記事項(6A))。そして、市販薬であるノルバスクについて、自然光もしくは人工光を曝露した場合のアムロジピン残存量とその酸化類似体生成量とを同時分析した結果が記載されており(摘記事項(6F))、それによれば、製剤化された錠剤は、十分安定であるとされてはいるが、自然光曝露46時間後、人工光曝露30時間後において、各々AML表示量の10%減少したのに対して、包装されている場合にはよく保護される、とある。ここで、ノルバスクが、(2)-1 ア.に記載したとおり、ベシル酸アムロジピンを有効成分とする市販薬であることは本件出願優先権主張日前に周知の事実であったといえるし、また、上記分析結果からは、包装材による包装がなされていない場合にアムロジピンが減少していることが見て取れるから、ベシル酸アムロジピンの光安定性についてはいまだ改善の余地があるものと把握される。
そうすると、同じく光不安定な物質であるジヒドロピリジン誘導体である、甲第6号証記載のベシル酸アムロジピンの光に対する不安定性を改善するために、引用発明1において、ニフェジピンにかえてベシル酸アムロジピンを用いてなる本件特許発明1を当業者が想到することに格別の困難性は見いだせない。
また、甲第7号証には、ジヒドロピリジン誘導体が光に対する安定性が低いことが記載されており、それらジヒドロピリジン誘導体として、アムロジピン若しくはその医薬として許容しうる塩が挙げられている(摘記事項(7A)(7C))。ところで、アムロジピンを含有する薬剤として、ベシル酸アムロジピンが本件出願優先権主張日前すでに薬として市販されていたことは、(2)-1 ア.に記載のとおりであるから、前記市販のベシル酸アムロジピンは、甲第7号証記載のアムロジピン誘導体の医薬として許容しうる塩に該当するものであり、甲第7号証に記載されているに等しいか、示唆されていたものと認められる。
そして、甲第7号証には、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄を単独か、若しくは両者を組み合わせた酸化鉄をフィルムコーティング剤皮に配合してなる製剤が、ジヒドロピリジン誘導体錠剤の光安定性を改善したことが記載されている。さらに、同号証に酸化鉄が酸化チタンに比べて優れた光安定化作用を有することが記載されているように、酸化鉄を用いた場合には、ジヒドロピリジン誘導体に対し、従来知られている酸化チタンをしのぐ光安定化剤を提供し得たものであることが理解できるのであって、その光安定化作用はそこに具体的に記載される製剤形態にのみ発揮される作用であると限定的に解釈されるべきものでないことは明らかである。また、甲第5号証には、「コーティングは、錠剤製造工程においてさらなる工程を要するために、コストがかかるし、時間もかかる。光感受性薬物のコーティングされていない錠剤製剤に酸化鉄を含めることによってコーティングしなくともよくなる。」(摘記事項(5J))と記載され、実際、摘記事項(5G)に摘記したように、酸化鉄を中心に含むコーティングされていない錠剤という形態でニフェジピンの光安定化効果を改善できたことが具体的に記載されているように、酸化鉄を有効成分に配合してそれを錠剤化することで、コーティングという製剤形態に比べて、より少ない工程からなる簡便な方法で製剤化して有効成分を光安定化しうることが示されているところでもある。
以上の甲号証各号の記載によれば、ニフェジピンと同じく光不安定なジヒドロピリジン誘導体である、甲第7号証記載の、もしくは本件出願優先権主張日前の周知技術を考慮することにより甲第7号証に記載された医薬として当業者が容易に想到し得たと認められるベシル酸アムロジピンに対して、その光に対する不安定性を改善するために、引用発明1において、ニフェジピンにかえてベシル酸アムロジピンを用いてみることは当業者がなしうるとしても、上記医薬組成物の構成成分である黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかが、ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化作用や効果を有することや、ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを混合して、医薬組成物における熱、水に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法とすることについて、甲号証各号には記載も示唆もない。
そして、本件訂正明細書には、ジヒドロピリジン系化合物の安定化方法に関して、特許明細書におけると同じ記載があるから、本件特許発明5の「熱、水に対するベシル酸アムロジピンの安定化」については、3(1)-5において検討したのと同様、光に対する安定化とは別の条件として認識されているものと認められる。
甲第6号証には、薄層にて提供されたアムロジピン(AML)原末、あるいは包装材により包装されているかもしくはされていないその錠剤製剤を、6月?7月の期間で、晴天の日の9時から17時まで連続して自然光に曝露するか、あるいは280-360nmのUVランプ(30W、距離30cm)の人工光に曝露してAMLの光安定性を調べたことが記載されている(甲第6号証 摘記事項(6E)、(6F))。また、甲第5号証記載の光感受性薬であるニフェジピンの酸化鉄による光安定化効果は、摘記事項(5G)に摘記したとおり、400フットカンデラの光に14日間曝露後、ニフェジピン力価の損失を測定することによりなされた。そして、その際、錠剤は単一の層になるようにペトリ皿に置かれ、400フットカンデラの光に曝露させ、24時間ごとに錠剤は裏返され、光曝露の面積を最大になるようにされたものであるし(甲第5号証 第71頁右欄第1?17行)、甲第7号証には、ニソルジピンの錠剤を、60万Lux・時間に曝露し、薄層クロマトグラフィーによってニソルジピンの分解物を測定することによりニソルジピンの光安定性を調べたことが記載されている(甲第7号症 段落0029)。上記光安定性試験は熱や水分の影響を受けないような特別の条件下で行われたものではないが、光以外の条件を一定にして行われた試験結果は通常光条件の違いを反映したものであると判断される。安定性に当該試験において、ジヒドロピリジン系化合物が周辺環境中に存在する熱や水分にさらされていたとしても、光安定性のみに着目して行われた試験であるから、光曝露されることなく、加温や湿度が負荷された条件下において、すなわち、熱や水に対して、黄色三二酸化鉄がジヒドロピリジン系化合物を安定化することができるということはできない。
また、光、熱、水などが、経口投与製剤において有効成分の安定化に影響することが優先日前にすでに知られており(乙第2号証、乙第3号証)、熱や水に対する安定性が医薬品として製造・販売するために必要であるとしても、それら異なる条件に基づく有効成分の安定性に対する影響をどのようにすれば防ぐことができるかは不明であるから、ある条件による影響を試験する方法において、異なる条件における影響を調べることを当業者が通常行う確認であるとか、ましてや当然に行うべき確認義務があるとはいえない。たしかに、丙第4号証には、黄色酸化鉄をセファレキシンを核とする錠剤のコーティング剤の成分として用いた製剤について、光、熱、水に対する有効成分の安定性を確認したことが記載されている。しかし、同号証は、本件特許発明とは全く異なる一有効成分に関するものであって、また、錠剤のコーティングにおいて最も変質が起こりやすい成分である黄色三二酸化鉄の使用をテストするとの目的の下、光のほか、熱や水に対する安定化を測定したというものにすぎず、当該刊行物の記載をもって、コーティング層中にではなく黄色三二酸化鉄を混合する医薬組成物においても、光のほか、熱や水に対する有効成分の安定性を確認することが本件出願優先日前周知であるとか、光に対する安定性が知られる本件特許発明について熱や水に対する安定性について調べることは当業者に容易であるということはできない。
そうすると、本件特許発明5は、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
(本件特許発明6について) 理由2-6
甲第5号証には、(本件特許発明5について)、の項において指摘した事項が記載されており、これら記載からみて、甲第5号証には、「黄色酸化鉄を含有する錠剤における、ニフェジピンの光に対する安定化剤。」の発明(以下、「引用発明6」という。)が記載されているものと認められる。
本件特許発明6と引用発明6とを対比する。
ここで、黄色酸化鉄が黄色三二酸化鉄であることが本件出願優先権主張日前に周知の事実であることは、(1)-1の項においてすでに指摘したとおりである。
また、引用発明6の「錠剤」は、(本件特許発明8について)の項において検討したのと同様の理由で、本件特許発明6の「顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)」に相当する。
そうすると、両者は、「医薬成分を含有する錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有する、コーティング錠剤を除く。)に用いられ、黄色三二酸化鉄を含有する、医薬成分の安定化剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点
(i)本件特許発明6がベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤であるのに対して、引用発明6がニフェジピンの光に対する安定化剤である点。
以下、上記相違点(i)について検討する。
ニフェジピン、並びに、ニフェジピンと同じく1,4-ジヒドロピリジン骨格を有し、1,4-ジヒドロピリジン類もしくはジヒドロピリジン類と総称される全ての化合物が光に不安定な性質であることが本件出願優先権主張日前に周知の事実であること、ベシル酸アムロジピンが光に対して不安定で、その光安定性についてはいまだ改善の余地があることは、すでに、(本件特許発明5について)の項で検討したところである。
そして、甲第5?7号証には、各々、(本件特許発明5について)の項で指摘した事項が記載されており、それら記載からみて、黄色三二酸化鉄が、光不安定なベシル酸アムロジピンの光に対する安定化効果を有すると認められることは、(本件特許発明5について)の項で検討したとおりである。
しかし、それら甲号証各号には、上記医薬組成物の構成成分である黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかが、ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化作用や効果を有すること、そして、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを熱、水に対する安定化剤とすることについて記載も示唆もされていない。
そうすると、本件特許発明6は、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
(3)特許法第36条第4項第1号、同法同条第6項第1号違反について
理由3
(3)-1 本件特許発明の課題
本件訂正明細書には、本発明は、加温、光、湿度などの保存環境条件に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を向上させた医薬組成物及びその製造方法、並びに医薬組成物におけるジヒドロピリジン系化合物の安定化方法に関する旨、記載されている(段落0001)。
本件訂正明細書の、発明が解決しようとする課題の項には、「医薬組成物中の添加剤や保存環境の影響に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を確保し、さらに、取扱い性に優れ、服用しやすく、安定な」、より詳細には、「添加剤の種類や、剤形、包装形態などが限定されず、また、非包装状態においても、調剤行為や保存環境の影響を受けない、安定な」、「高齢者など、嚥下能力が低下している患者に対しても投与しやすい剤形、又は、高齢者への慎重投与に対応可能であり容易に用量調節ができる剤形で提供することができる」、ジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物を提供することである旨が記載されている(段落0005)。
(3)-2 本件訂正明細書の発明の詳細な説明における本件特許発明の課題解決の記載
(本件特許発明1について)
本件特許発明1は、ジヒドロピリジン系化合物であるベシル酸アムロジピンを含有する医薬組成物であり、また、カラギーナンの含有量が、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部であり顆粒剤又は錠剤であることを特徴とする医薬組成物に係る発明である。
上記した本件訂正明細書の記載によれば、本件特許発明1の課題は、光、熱、水などの保存環境条件に対するベシル酸アムロジピンの安定性を向上させた顆粒剤又は錠剤である医薬組成物を提供することと認められる。
本件訂正明細書の発明の詳細な説明には、「医薬組成物中に酸化鉄又はカラギーナン、あるいは酸化鉄及びカラギーナンの両者を含有させることにより、ジヒドロピリジン系化合物が著しく安定化すること」、具体的には、「酸化鉄やカラギーナンが、ジヒドロピリジン系化合物の酸化による不純物の生成を抑制すること」を見出して、上記課題を解決し得た旨が記載されている(段落0006)。
また、医薬組成物における安定化剤の含有量について、本件訂正明細書には、カラギーナンの、前記医薬組成物における含有量としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、医薬組成物中のジヒドロピリジン系化合物1質量部に対して、0.05?1.2質量部が好ましく、0.05?1.0質量部がより好ましく、0.1?0.8質量部が更に好ましく、0.2?0.5%質量部が更により好ましいことが、段落0016に記載されている。
これらの記載から、本件特許発明1において規定されているカラギーナンの含有量は、好ましい含有量であるとして記載されていた値であることが理解できる。
本件訂正明細書には、さらに、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して、カラギーナンを1質量部含有してなる粒状剤形態の医薬組成物中の、40℃75%R.H.開放系、60℃密閉系、及び光照射条件下、1か月保存後の不純物含量がカラギーナンを含有しない組成物に比べて抑制されていることが表2に記載されている。
また、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して、カラギーナンを0.3、0.4、0.5質量部含有してなる速崩性錠剤の、60℃開放系条件下、1ヶ月保存後の不純物含量がカラギーナンを含有しない組成物に比べて抑制されていることが図4から理解できる。これら保存試験におけるカラギーナンのベシル酸アムロジピンに対する質量部は、本件特許発明1の規定を満足するものである。
しかし、同図からは、カラギーナンを同0.05質量部もしくは0.1質量部(審決注:図4には0.05質量部と記載されているが、対応する訂正明細書の段落0063、0065の記載によれば、0.1質量部となり、同図に記載された不純物量がいずれのカラギーナン含量に対するものであるかを一義的に定めることができないことから、両質量部を併記することとする。以下、同じ。)含有してなる速崩性錠剤の、60℃開放系条件下、1か月保存後の不純物含量が、安定化剤であるカラギーナンを含有しない対照製剤に比べて多いことが読み取れる。
そして、本件訂正明細書においては、不純物の生成を抑制することをもって、化合物の安定化を評価していることは、「医薬組成物中に酸化鉄又はカラギーナン、あるいは酸化鉄及びカラギーナンの両者を含有させることにより、ジヒドロピリジン系化合物が著しく安定化することを見出した。具体的には、酸化鉄やカラギーナンが、ジヒドロピリジン系化合物の酸化による不純物の生成を抑制することを見出した。」との段落0006の記載から明らかである。また、60℃開放系条件が、加温及び/又は加湿、すなわち熱及び/又は水に対する保存の条件を意図したものであることは、本件訂正明細書の段落0067に、試験例5として、40℃75%密閉系、60℃開放系及び光照射条件で保存安定性試験を行った結果、加温、加湿又は光により不純物が生ずる旨の認識がなされていることから明らかである。
そうすると、図4の記載によれば、本件訂正明細書中、上記のとおり好ましい含有量として記載されている、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して、カラギーナンを0.05質量部もしくは0.1質量部含有してなる錠剤である医薬組成物において、熱及び/又は水といった保存環境条件に対するベシル酸アムロジピンの安定性を向上させるという所期の目的をいかにして達成しうるかについて記載されているものと認めることができない。
本件訂正明細書には、上記のほか、表3に、カラギーナンを含有する顆粒剤形態の医薬組成物について、40℃75%R.H.開放系、60℃密閉系の条件下で保存安定性試験を行い、2週間、4週間で不純物含量を測定した結果が記載されているが、試験対象医薬組成物の、ベシル酸アムロジピン1質量部に対し、カラギーナンは2質量部含有されており、その試験結果にかかわらず、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して、カラギーナンを0.05以上0.3未満質量部で含有する医薬組成物の保存安定性を向上させることを確認するものに当たらないことは明らかである。
また、上記のほか、本件訂正明細書には、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して、カラギーナンを0.05以上0.3未満質量部配合することによるベシル酸アムロジピンの保存安定性向上に関連する記載はなされていない。
そして、図4の記載から、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して、カラギーナンを0.05質量部もしくは0.1質量部含有してなる錠剤である医薬組成物が、熱及び/又は水といった保存環境条件に対するベシル酸アムロジピンの安定性を向上させえないものと認められることは上記のとおりであるし、また、他に、該認定を覆すに足る証拠の存在を認めることができない以上、該カラギーナン含有量における、上記以外の保存環境条件、たとえば、光に対しベシル酸アムロジピンの安定性を向上しうるか否かについては不明であるというほかない。
そうすると、本件訂正明細書には、少なくとも、本件特許発明1の発明特定事項の範囲内である、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して同0.05質量部以上、0.3質量部未満のカラギーナンを含有してなる顆粒剤又は錠剤である医薬組成物について、ベシル酸アムロジピンの保存安定性を向上しうるものと記載されているとは認められないのであるから、本件訂正明細書には、顆粒剤、錠剤である医薬組成物に本件特許発明1の発明特定事項に規定されるカラギーナンを含有させることによって、熱、光、水などの保存環境条件に対するベシル酸アムロジピンの安定性を向上させた顆粒剤又は錠剤である医薬組成物を提供する旨の本件特許発明1が解決しようとする課題を達成できない態様が含まれているといえる。
したがって、本件訂正明細書には、当業者が本件特許発明1をその全体にわたり実施することができる程度に、当該発明が明確かつ十分に記載されているとは認められず、また本件訂正特許請求の範囲の請求項1には、本件訂正明細書記載の医薬組成物を超えた発明が記載されているものと認められるのであって、本件特許発明1について、特許法第36条第6項第1号に違反してなされたものである。
(本件特許発明2、3について)
本件特許発明2、3は、直接的、又は間接的に請求項1を引用し、本件特許発明2にあっては、本件特許発明1の「ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを含有」する「医薬組成物」について、該含有成分である「ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを」「混合してなる」と規定する発明であるし、本件特許発明3にあっては、本願特許発明2の「混合」「する工程」に、さらに、「得られた混合物を乾式打錠する工程」を含むとして、その錠剤の製造方法を規定する発明である。
そして、本件特許発明1には、熱、光、水などの保存環境条件に対するベシル酸アムロジピンの安定性を向上させた顆粒剤又は錠剤である医薬組成物を提供する旨の本件特許発明1が解決しようとする課題を達成できない態様が含まれていることは、上記した(本件特許発明1について)において検討したとおりである。
よって、同特許発明2、3には、上記した(本件特許発明1について)において検討したと同様の理由により、その発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとして記載されていない場合を包含しているといえるから、同発明は本件訂正明細書に記載された発明であるということはできない。
(本件特許発明4について)
本件特許発明4は、本件特許発明3に係る医薬の製造方法に係る発明であるから、上記した(本件特許発明1について)、(本件特許発明2、3について)において検討したと同様の理由により、その発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとして記載されていない場合を包含しているといえるから、同発明は本件訂正明細書に記載された発明であるということはできない。
したがって、本件訂正明細書は、本件特許発明1?4について、その発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとして記載されているということはできないから、同発明は本件訂正明細書に記載されているとは認められない。
また、本件特許発明1?4に関する医薬組成物中の含有量等についていかにして実施しうるか不明であるから、本件訂正明細書には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に本件特許発明1?4が記載されていると認めることはできない。
被請求人は、本件訂正明細書には、本件特許発明の課題及び解決手段に関する記載がなされていること、また、本件特許発明に該当する医薬組成物や、その製造方法、安定化方法や安定化剤によって 本件特許発明の課題が解決できると当業者が認識できるように記載されている以上、わずかに効果が劣る事例が存在するからといって、そのことだけをもって、上記認定は覆すべきものというには当たらない旨、主張する。
しかし、訂正特許請求の範囲の請求項1?4に係る特許発明は、平成26年4月10日に提出した答弁書中、被請求人も記載のとおり、「少なくとも一以上の環境要因に対する安定化効果を実現すること」を課題として含むものである。
そして、上記記載の「一以上の環境要因」に、光、熱、水が含まれることは明らかであり、また、本件特許発明1?4が、ベシル酸アムロジピン1質量物に対して、カラギーナンを0.05質量部以上、0.3質量部未満含有する場合に、そのいずれの環境要因に対する安定化についてもこれを向上させるという課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとして本件訂正明細書に記載されているということができないのは上記検討のとおりであり、上記請求人の主張は採用し得ない。
(本件特許発明5について)
本件特許発明5は、ジヒドロピリジン系化合物であるベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする顆粒剤又は錠剤である医薬組成物における熱、水に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法に係る発明である。
そして、乙第10号証には、III.有効成分に関する項目 丸付き数字1 固体状態における安定性 に関する過酷試験において、熱、湿度、熱及び湿度、及び光のいずれの項目についても、6ヶ月、若しくは12ヶ月保存期間後、その性状がわずかに黄色化したことが認められた旨記載されているから、ベシル酸アムロジピンが、熱、水に対する安定化を改善する余地があると認められる。
上記した本件訂正明細書の記載によれば、本件特許発明5の課題は、熱、水に対するベシル酸アムロジピンの安定性を向上させた、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合してなる医薬組成物を提供することと認められる。そして、これらの保存環境条件が別個の条件であることは、上記3(1)-5においてすでに検討したとおりであり、顆粒剤又は錠剤である医薬組成物における熱、水それぞれに対してベシル酸アムロジピンを安定化することができた場合に、本件特許発明5の課題を達成しうるものといえる。
ベシル酸アムロジピン1質量部に対して、たとえば、カラギーナンを0.3、0.4、0.5質量部含有してなる速崩性錠剤が、ベシル酸アムロジピンの熱又は水に対する安定性を向上させることができることはすでに上記した(本件特許発明1について)において検討したとおりである。
よって、本件訂正明細書には、カラギーナンについてこれを顆粒剤、錠剤である医薬組成物に種々の含有量で包含させることによって、熱、水それぞれに対するベシル酸アムロジピンの安定性を保持することが記載されているということができるから、本件訂正明細書の記載から、本件特許発明の特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項を採用することにより本件特許発明の課題を解決できると当業者は認識することができる。
そこで、次に、黄色三二酸化鉄のベシル酸アムロジピンの熱又は水に対する安定化作用について検討する。
医薬組成物における安定化剤の含有量について、本件訂正明細書には、三二酸化鉄の中でも、黄色三二酸化鉄はより高い安定化効果を示すことから、前記黄色三二酸化鉄の含有量としては、医薬組成物中のジヒドロピリジン系化合物1質量部に対して、0.05?1質量部が好ましく、0.08?1質量部がより好ましく、0.1?0.5質量部が更に好ましいことが、段落0015に記載されている。
そして、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して、黄色三二酸化鉄を1質量部含有してなる粒状剤形態の医薬組成物中の、加温、光照射、加湿条件1か月後の不純物含量が抑制されていることが表2に記載されており、また、黄色三二酸化鉄を同0.3質量部含有してなる粒状剤形態の医薬組成物中の、加湿、加温後の不純物含量が経時的に抑制されていることが、各々、図1、図2に記載されている。また、黄色三二酸化鉄を同0.1質量部含有してなる速崩性錠剤形態の医薬組成物中の、加温、光照射、1か月後の不純物含量が抑制されていることが、図5に記載されている。さらに、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して、黄色三二酸化鉄を0.05質量部、0.1質量部、0.5質量部含有してなる速崩性錠剤の、加温1か月後の不純物含量の関係が図3として記載されており、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して、黄色三二酸化鉄を0.1、0.5質量部含有してなる速崩性錠剤が黄色三二酸化鉄を含有しない組成物に比べて不純物含量が抑制されていることが記載されている。
このように、本件訂正明細書には、黄色三二酸化鉄についてもこれを顆粒剤、錠剤である医薬組成物に種々の含有量で包含させることによって、熱、水それぞれに対するベシル酸アムロジピンの安定性を保持することが記載されているということができるから、本件訂正明細書の記載から、本件特許発明の特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項を採用することにより本件特許発明の課題を解決できると当業者は認識することができる。
また、添加剤については、具体的に安定化作用が確認された試験例1?6記載のもののほか、いかなる添加剤を用いることにより課題が解決できるかについて記載はない。しかし、添加剤は本件特許発明において任意の成分であって、本件訂正明細書の段落0005は、添加剤の種類によらず上記安定性が得られる旨をいうものであるから、あらゆる添加剤を用いた場合に安定化作用を奏することが確認されなければ当該発明が解決できないとするのは相当ではない。
本件訂正発明に係る医薬組成物において安定化をもたらす添加剤は、上記のとおり、試験例2?5に記載されているのであって、その範囲において本件特許発明5の課題を解決しうることを当業者が認識できるように記載されていると認められる。
(本件特許発明6について)
本件特許発明6は、本件特許発明5に係る安定化方法の発明を安定化剤とした発明であって、(本件特許発明5について)において検討した事項と同様、本件訂正明細書には、黄色三二酸化鉄についてもこれを顆粒剤、錠剤である医薬組成物に種々の含有量で包含させることによって、熱、水それぞれに対するベシル酸アムロジピンの安定性を保持することが記載されているということができるから、本件訂正明細書の記載から、本件特許発明の特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項を採用することにより本件特許発明の課題が解決できると当業者は認識することができる。
また、添加剤については、(本件特許発明5について)において記載したのと同様のことがいえる。
したがって、本件訂正明細書は、本件特許発明5、6について、その発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとして記載されているといえるから、同発明は本件訂正明細書に記載されているということができる。
また、本件特許発明5、6に関する医薬組成物中の含有量等について本件訂正明細書に記載されていることはすでに上記検討のとおりであり、本件訂正明細書には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に本件特許発明5、6が記載されているということができる。
参加人は、ベシル酸アムロジピンは、熱、水に対しては安定な化合物であるから、そもそも課題自体が存在しない旨主張する。しかし、ベシル酸アムロジピンは、保存時に熱、水による影響を受ける化合物であり、熱、水に対する安定化を改善する余地がある化合物であるといえることは、上記(本件特許発明5について)において検討したとおりである。
また、請求人、参加人は、図3、図4には、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して、黄色三二酸化鉄を0.1質量部含有してなる速崩性錠剤の、加温1か月後の不純物量が黄色三二酸化鉄を含有しない対照製剤に比べて多いこと、同じく、カラギーナンを同0.05質量部もしくは0.1質量部(審決注:図4には0.05質量部と記載されているが、対応する訂正明細書の段落0063、0065の記載によれば、0.1質量部となる)含有してなる速崩性錠剤の、加温1か月後の不純物量が、各々、安定化剤である黄色三二酸化鉄、カラギーナンを含有しない対照製剤に比べて多いことが示されており、その値において所期の目的を達成しえないことは明らかであるから、上記した安定化剤の含有量である場合をその範囲に含んでいる、「熱、水に対するベシル酸アムロジピンの安定性方法」に関する請求項5、及び「ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤」に関する請求項6には、本件特許発明の課題を解決できない発明が含まれている旨主張しており、参加人は、この点について、丙第3号証として実験成績証明書を提示し、黄色三二酸化鉄をベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05質量部以下含有する場合には、安定化効果を奏しないことは実験により確認されるものであるし、また、その安定化作用は誤差範囲であるとか、添加剤の種類にかかわらず安定化作用を奏することについて確認されていないなどとして、本件発明の全体について課題が解決できる、あるいは実施できるように記載されていない旨主張する。参加人はさらに、本件特許発明6は、あらゆる種類の添加剤を含む医薬組成物であるのに、共存する添加剤の種類にかかわらず安定化されうることを裏付ける記載はないし、いかなる添加剤の場合に安定化剤として機能するのか記載がないから本件特許発明を実施することができない旨主張する。
しかし、本件特許発明5、6は、各々、「熱、水に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法」、「ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤」に係る発明である。
そして、「ベシル酸アムロジピン」に対し「三二酸化鉄」もしくは「カラギーナン」を配合することにより、「熱、水に対」し、「ベシル酸アムロジピン」を「安定化」させることができる旨が本件訂正明細書に記載されていること、すなわち、本件特許発明5、6に該当する安定化方法や安定化剤によって本件特許発明の課題が解決できると当業者が認識できるように記載されているといえることは上記したとおりであるから、本件特許発明5、6に請求人らが主張する記載の不備はない。
以上のとおり、上記請求人の主張はいずれも採用し得ない。
(4)特許法第36条第6項第2号違反について 理由4-1
本件訂正特許請求の範囲の請求項1、2、5、6は顆粒剤又は錠剤である医薬組成物、同医薬組成物における保存環に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法、並びに同医薬組成物に用いられ、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とする、ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤に関する発明である。
これに対して、理由4-1は、6.にその概要を記載したとおり、同請求項に対応する第一次訂正請求時の請求項記載の「水溶液剤を除く」医薬品がいかなる剤形の薬剤であるか不明であることを理由とするものである。
しかし、本件訂正請求により、訂正特許請求の範囲の同請求項には、「水溶液剤」に係る発明は包含されないこととなったから、本件特許は特許法第36条第6項第2号の規定に違反しない。
(5)特許法第36条第6項第1号違反について 理由4-2
理由4-2は、6.にその概要を記載したとおり、同請求項に対応する第一次訂正請求時の請求項には、ゼリー剤、すなわち半固形製剤という、光、水分、熱に対するベシル酸アムロジピンの安定性を保持できる医薬品を提供する旨の本件特許請求の範囲に係る発明の目的を達成できない態様が含まれていることを理由とするものである。
しかし、本件訂正請求により、訂正特許請求の範囲の同請求項には、「半固形製剤」に係る発明は包含されないこととなったから、本件特許は特許法第36条第6項第1号の規定に違反しない。
9.むすび
以上のとおり、本件特許発明1?4の特許は、無効理由3によって無効とすべきものであり、本件特許発明5、6の特許は、無効理由1、2-1?2-6、3、4-1、4-2によっては無効にすべきものであるとはいえない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その27分の7を請求人の負担とし、27分の20を被請求人の負担とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
別掲 ------------------------------------
(参考)二次審決
審決
無効2010-800164
兵庫県豊岡市出石町八木32
請求人 大橋 直人
大阪府大阪市中央区伏見町四丁目1番1号 明治安田生命大阪御堂筋ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 高島 一
大阪府大阪市中央区伏見町四丁目1番1号 明治安田生命大阪御堂筋ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 土井 京子
大阪府大阪市中央区伏見町4-1-1 明治安田生命大阪御堂筋ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 鎌田 光宜
大阪府大阪市中央区伏見町4丁目1番1号 明治安田生命大阪御堂筋ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 田村 弥栄子
大阪府大阪市中央区伏見町四丁目1番1号 明治安田生命大阪御堂筋ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 山本 健二
東京都千代田区丸の内1丁目3番1号 東京銀行協会ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 村田 美由紀
大阪府大阪市中央区伏見町4-1-1 明治安田生命大阪御堂筋ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 當麻 博文
東京都千代田区丸の内1丁目3番1号 東京銀行協会ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 小池 順造
東京都豊島区東池袋3丁目23番5号
被請求人 エルメッド エーザイ 株式会社
東京都渋谷区代々木1-24-10 TSビル4階 山の手合同国際特許事務所
代理人弁理士 廣田 浩一
上記当事者間の特許第4509118号「医薬組成物及びその製造方法、並びに医薬組成物におけるジヒドロピリジン系化合物の安定化方法」の特許無効審判事件についてされた、平成24年 2月22日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成24年(行ケ)10118号、平成24年 7月 2日判決言渡)があったので、更に審理の上、次のとおり審決する。
結 論
訂正を認める。
特許第4509118号の請求項4ないし6、8に係る発明についての特許を無効とする。
特許第4509118号の請求項1ないし3、7、9に係る発明についての審判請求は、成り立たない。
審判費用は、その21分の5を請求人の負担とし、21分の16を被請求人の負担とする。
理 由
1.手続の経緯
(1)本件特許第4509118号の請求項1?12に係る発明についての特許は、平成17年10月5日(優先権主張、特願2004-293771号、平成16年10月6日)を国際出願日として出願され、平成22年5月14日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
(2)これに対して、請求人は、「特許第4509118号の請求項1?12に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、甲第1?13号証を提出し、本件特許の請求項1、7に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、請求項1?5、7?12に係る発明の特許は、同条第2項の規定に違反してなされたものであり、また、請求項1?12に係る発明の特許は、第36条第4項第1号、同条第6項第1号の規定に違反してなされたものであり、無効とすべきであると主張した。
(3)被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は、いずれも理由がない旨主張するとともに、平成22年12月6日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。
(4)これに対し、請求人は、平成23年2月3日に弁駁書、及び証拠方法として甲第14、15号証を提出して、同弁駁書において、上記訂正は、訂正の要件を満たさず、訂正は認められるものではない旨主張した。(その結果、訂正前の特許については、審判請求当初に申し立てた無効理由を解消していない旨主張した。)
(5)口頭審理に先立ち、請求人は、平成23年7月22日に口頭審理陳述要領書、及び証拠方法として甲第16号証を提出した。また、被請求人は、平成23年7月26日に、口頭審理陳述要領書を提出した。そして、平成23年8月9日に行われた第1回口頭審理において、請求人からは審判請求書、平成23年2月3日付け弁駁書及び平成23年7月22日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおりの陳述がなされ、被請求人からは平成22年12月6日付け答弁書及び平成23年7月26日付け口頭審理陳述要領書に記載のとおりの陳述がなされた。
(6)当合議体は、被請求人に対し、平成23年8月24日付け無効理由通知書により、平成22年12月6日でした訂正請求後の本件特許の請求項1?6、11、12は、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしておらず、同請求項に係る特許は無効とすべきものと認められる旨を通知した。また、請求人には、職権審理の結果、同請求項について、同無効理由通知書記載の無効理由により無効とすべきである旨を記載した審理結果通知書を通知の上、意見を求めた。
(7)これに対し、被請求人は、平成23年9月26日に、意見書、及び乙第1号証を提出するとともに、訂正請求書を提出して訂正を求めた(以下、この訂正請求書による訂正請求を「第一次訂正請求」という。)。なお、請求人は意見書を提出しなかった。
(8)これらを踏まえ、平成24年2月22日付けで、
「訂正を認める。
特許第4509118号の請求項1?12に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決(以下、「第一次審決」という。)がなされた。
(9)これに不服の被請求人が審決取消訴訟を提起し、その後、本件特許の特許請求の範囲の減縮等を目的とする訂正審判(訂正2012-390078号)を請求した。そして、上記訴訟は、知的財産高等裁判所において平成24年(行ケ)10118号事件として審理され、平成24年7月2日付けで、第一次審決を取り消す旨の決定がなされ、本件特許無効審判事件は、審判官に差し戻された。
(10)これを受けて、当合議体より、平成24年7月9日付けで、特許法第134条の3第2項の規定により訂正請求のための通知をしたところ、平成24年7月23日に訂正請求書が提出された(以下、この訂正請求を「本件訂正請求」、この訂正請求書を「本件訂正請求書」という。)。
(11)そして、当合議体より、平成24年10月17日付けで、被請求人の提出した本件訂正請求の訂正請求書副本を送付したところ、請求人より、平成24年11月20日付けで弁駁書(以下、この弁駁書を「本件弁駁書」という。)が提出された。
(12)これに対して、当合議体より、平成25年2月14日付けで、請求人が提出した本件弁駁書によりなされた請求の理由の補正について許否の決定がなされた。
同補正の許否の決定は次のとおりである。
「上記弁駁書の第18頁第21行?第19頁第5行、第20頁第23?31行において新たに主張された特許法第36条第6項第2号に関する無効理由は、請求の理由の要旨を変更するものであるから、これらの事項を追加することによる請求の理由の補正については許可しない。
なお、上記弁駁書に記載された上記以外の主張については、請求の理由の要旨を変更するものではないから、許否の検討を要しない。」
2.訂正事項
上記のとおり、本件訂正請求がなされたので、第一次訂正請求は特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。したがって、本件訂正請求の内容は、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲(以下、「特許請求の範囲」という。)、明細書(以下、「特許明細書」という。)を、各々、同訂正請求書に添付した特許請求の範囲(以下、「訂正特許請求の範囲」という。)、明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正しようとするものである。
すなわち、以下の特許請求の範囲
「【請求項1】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合してなる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄の少なくもいずれかの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?8質量部である請求項1から2のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項4】
黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄の少なくもいずれかが、黄色三二酸化鉄である請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
黄色三二酸化鉄の含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1質量部である請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
カラギーナンの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部である請求項1から5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物が、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又はドライシロップ剤である請求項1から6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
(I)ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含む製造方法により得られる錠剤である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
錠剤が、速崩性錠剤である請求項7から8のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
(I)ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法。
【請求項11】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする、医薬組成物におけるベシル酸アムロジピンの安定化方法。
【請求項12】
ベシル酸アムロジピンを含有する医薬組成物に用いられ、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とするベシル酸アムロジピンの安定化剤。」
を、下記の訂正特許請求の範囲のとおり訂正するとともに、当該訂正に対応する明細書及び図面の記載事項を合わせて訂正することを求めるものである。
「【請求項1】
ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを含有し、前記カラギーナンの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部であり顆粒剤又は錠剤であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合してなる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
(I)ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含む製造方法により得られる錠剤である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄とを含有し、顆粒剤又は錠剤であることを特徴とする、熱、水分に対するベシル酸アムロジピンの安定性を確保した医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)。
【請求項5】
黄色三二酸化鉄の含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1質量部である請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
錠剤が、速崩性錠剤である請求項1から5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
(I)ベシル酸アムロジピンと、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部のカラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法。
【請求項8】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする、顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)における保存環境に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法。
【請求項9】
ベシル酸アムロジピンを含有し、顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)に用いられ、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とするベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤。」
3.訂正の可否の判断
(1)特許請求の範囲の訂正について
(1)-1 請求項1の訂正について
この訂正は、訂正前の請求項1記載の医薬組成物の「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれか」を「カラギーナン」に限定し、カラギーナンのベシル酸アムロジピンに対する含有量を訂正前の請求項6記載の数値のものとし、かつその剤形を訂正前の請求項7に記載される「顆粒剤、錠剤」に限定したものである。
そうすると、この訂正は、訂正前の請求項1の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(1)-2 請求項2の訂正について
この訂正は、訂正前の請求項2記載の医薬組成物の「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれか」を「カラギーナン」に限定したものであり、また、被引用請求項1に関する訂正については上記(1)-1記載のとおりであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(1)-3 請求項3の訂正について
この訂正は、訂正前の請求項8記載の医薬組成物の「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれか」を「カラギーナン」に限定したものであり、また、被引用請求項2に関する訂正については上記(1)-2記載のとおりであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(1)-4 請求項4の訂正について
この訂正は、補正前の請求項4のうち被引用請求項1を引用する「ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄とを含有することを特徴とする医薬組成物。」の発明について、その剤形を訂正前の請求項7に記載される「顆粒剤、錠剤」に限定したものであり、かつ「医薬組成物」を「熱、水分に対するベシル酸アムロジピンの安定性を確保した医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)」として、組成物を規定し、特定の剤形の組成物を除くことを求めるものである。
ところで、「特許明細書」の段落0076には、本発明によれば、顆粒剤や細粒剤などの比表面積が大きな剤形にあっては、光、水分、熱に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を保持できる医薬品を提供できる旨記載されており、「熱、水分に対するベシル酸アムロジピンの安定性を確保した」との規定は、訂正前の請求項4記載の組成物が備えている性質を表したものと認められるし、また、剤形に関して、「特許明細書」の段落0033には、「特に制限されず」と記載されているから、訂正明細書において除くとされている「コーティング錠剤」もまた、訂正前の請求項4記載の組成物に含まれていたものであるといえる。
そうすると、この訂正は、訂正前の請求項4の特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(1)-5 請求項5の訂正について
この訂正は、被引用請求項4が訂正されたことに伴い、訂正前の請求項5が実質的に訂正されたものである。
そして、訂正後の請求項4については上記(1)-1記載のとおりであるから、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(1)-6 請求項6の訂正について
この訂正は、訂正前の請求項9を請求項6とし、かつ、その被引用請求項7、8を同請求項1?5に訂正することを求めるものである。
ところで、訂正後の請求項1?5は、上記検討のとおり、各々、訂正前の請求項1、2、8、4、5に基づいて訂正がなされたものであり、そのうち、訂正前の請求項1、2、4、5にあっては、上記に加えて、その剤形を訂正前の請求項7に記載される「顆粒剤、錠剤」に限定したものである。
そして、訂正後の請求項1?5に記載された発明は、いずれも、訂正前の請求項7、もしくは8に記載された発明に基づいて、直接、もしくは間接的に適法に訂正されたものであることは上記検討のとおりであり、そのことは、請求項6の訂正についても同様である。
(1)-7 請求項7の訂正について
この訂正は、訂正前の請求項10を請求項7とし、かつ「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれか」を「前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部のカラギーナン」と訂正することを求めるものであり、それは、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれか」を「カラギーナン」に限定し、カラギーナンのベシル酸アムロジピンに対する含有量を訂正前の段落0016に好ましいと記載されていた数値に限定したものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(1)-8 請求項8の訂正について
この訂正は、訂正前の請求項11を請求項8とし、かつその剤形を「顆粒剤、錠剤」に限定し、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナン」を「黄色三二酸化鉄及びカラギーナン」に限定したものであり、かつ「医薬組成物」を「医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)」として、特定の剤形の組成物を除くこと、さらに、「ベシル酸アムロジピンの安定化方法」を「保存環境に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法」として、安定化方法を規定することを求めるものである。
特定の剤形の組成物を除く点については上記(1)-4で検討したとおりである。また、「特許明細書」の段落0006には、本発明は、酸化鉄又はカラギーナンを混合することにより、熱などの保存環境に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を確保した医薬組成物を提供するものである旨の記載がなされており、訂正前の請求項11における安定化方法には、保存環境に対する安定化方法が含まれていたものと認められる。
そうすると、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(1)-9 請求項9の訂正について
この訂正は、訂正前の請求項12を請求項9とし、かつその剤形を「顆粒剤、錠剤」に限定し、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナン」を「黄色三二酸化鉄及びカラギーナン」に限定したものであり、かつ「医薬組成物」を「医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)」として、特定の剤形の組成物を除くこと、さらに、「ベシル酸アムロジピンの安定化剤」を「ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤」として、安定化剤を規定することを求めるものである。
「ベシル酸アムロジピンの安定化剤」を「ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤」以外の上記訂正については、すでに(1)-8において検討のとおりである。そして、「熱、水に対する安定化剤」に関連して、「特許明細書」の段落0076には、(1)-4で指摘した記載がなされており、当該明細書の記載からみて、訂正前の請求項12記載の安定化剤は熱、水に対する安定化剤として機能するものであると認められる。
そうすると、この訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(2)「特許明細書」の訂正について
「特許明細書」の訂正は、いずれも、「特許請求の範囲」の訂正に伴い、対応する明細書の記載を訂正することを求めるものである。
「特許請求の範囲」の訂正については、上記(1)記載のとおりであるから、「特許明細書」の訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(3)したがって、平成24年7月23日付けの訂正は、特許法第134条の2第1項第1号乃至第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
4.本件特許発明
上記のとおり訂正が認容されたので,本件特許第4509118号の請求項に係る発明は,訂正請求書に添付された訂正明細書、及び訂正特許請求の範囲の請求項1?9に記載されたとおりのものであり、そのうち、訂正特許請求の範囲の請求項1?9は次のとおりである。
「【請求項1】
ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを含有し、前記カラギーナンの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部であり顆粒剤又は錠剤であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合してなる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
(I)ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含む製造方法により得られる錠剤である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄とを含有し、顆粒剤又は錠剤であることを特徴とする、熱、水分に対するベシル酸アムロジピンの安定性を確保した医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)。
【請求項5】
黄色三二酸化鉄の含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1質量部である請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
錠剤が、速崩性錠剤である請求項1から5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
(I)ベシル酸アムロジピンと、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部のカラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法。
【請求項8】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする、顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)における保存環境に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法。
【請求項9】
ベシル酸アムロジピンを含有し、顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)に用いられ、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とするベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤。」
本件無効審判の請求後に本件特許に関し、上記のとおり訂正が行われた結果,特許査定時の請求項に対応する訂正後の請求項の番号に変更が生じている。
すなわち、特許査定時の請求項3、6、7は削除され、また、現在の請求項の番号1、2、3、4、5、6、7、8、及び9は、それぞれ特許査定時の請求項1、2、8、4、5、9、10、11、及び12の減縮を目的として訂正したものであり、各請求項に対応するものである。
なお、本件訂正請求書では、請求項8、9を削除し、と記載されているが(6.(3)丸付き数字7、8を参照)、同丸付き数字3に「請求項8を請求項3とする訂正をする。」、同丸付き数字5に「請求項9を請求項6とする訂正をする。」との記載と矛盾するので、請求項の削除は、請求項3、6、7についてのみなされ、請求項8、9については特許請求の範囲を減縮する訂正を請求するものと解した。
請求人は、特許査定時の請求項番号により無効を申し立てているので、請求人の主張の概要においては、請求項番号の後に、対応する訂正後の番号を括弧内に記載することとし、本審決中において検討する請求項の番号は原則として訂正後の番号で表記する。
また、審判合議体は、その訂正が認容された第一次訂正請求時の請求項番号に対して無効理由を通知した。第一次訂正請求時の請求項は、各々、特許査定時の請求項を減縮したものに対応するものであるから、現在の請求項1、2、3、4、5、6、7、8、及び9は、それぞれ第一次訂正請求時の請求項1、2、8、4、5、9、10、11、及び12に対応する。
以下、訂正後の請求項1?9に係る各発明をそれぞれの請求項の番号に対応させて「本件特許発明1」「本件特許発明2」、・・・「本件特許発明9」という。また、これら各請求項に係る発明をまとめて単に「本件特許発明」ということもある。
5.請求人の主張、証拠方法
本件弁駁書において、請求人によってなされた、本件特許発明が、特許法第36条第6項第2号に違反してなされたものである旨の請求の理由の補正については、許可しないとの決定がなされた。
また、上記4.記載のとおり、特許査定時の請求項3、6、7が削除された結果、特許査定時の請求項7に対する下記理由1、2-1、3;同請求項3に対する下記理由2-4、3;同請求項6に対する下記理由3の主張については、対象請求項が存在しない。そして、同請求項7に対する、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第6号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明と周知技術、または甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである旨の理由の主張についても、同請求項7が削除されたので対象請求項は存在しない。
そうすると、請求人が本件特許発明に対して主張する無効理由(理由1、理由2-1?2-8、理由3、理由4-1、4-2)、及び証拠方法は以下のとおりである。
<無効理由>
(新規性について)
理由1
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明であるから、当該特許は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。
(進歩性について)
理由2-1
本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び当該技術分野において本件出願優先権主張日前の周知技術(以下、「周知技術」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-2
本件特許発明1は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第6号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明と周知技術、または甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-3
本件特許発明2は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第6号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明と周知技術、または甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-4
本件特許発明4、5は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-5
本件特許発明3、7は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術、または甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-6
本件特許発明6は、甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-7
本件特許発明8は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、または甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-8
本件特許発明9は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、または甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(記載要件について)
理由3
・黄色三二酸化鉄によるベシル酸アムロジピンの安定化について
本件特許明細書中に試験データの記載がない、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.1未満を含む全範囲において、ベシル酸アムロジピンが熱、あるいは湿度に対して安定化するという本件所望の効果を奏すると推認し得ない。
・カラギーナンによるベシル酸アムロジピンの安定化について
本件特許明細書中に試験データの記載がない、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して1以外の全範囲において、ベシル酸アムロジピンが光に対して安定化するという本件所望の効果を奏すると推認し得ない。また、0.3未満を含む全範囲において、ベシル酸アムロジピンが熱に対して安定化するという本件所望の効果を奏すると推認し得ない。配合比1未満の全範囲において、ベシル酸アムロジピンが湿度に対して安定化するという本件所望の効果を奏すると推認し得ない。
本件特許発明1?9は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから特許を受けることができないものであり、本件特許発明1?9は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
<請求人が提出した証拠方法>
甲第1号証:国際公開第03/097045号パンフレット
甲第2号証:特開2004-210797号公報
甲第3号証:今日の治療薬(1998年版)、南江堂、第532頁(発行日1998年2月20日)
甲第4号証:医薬品添加物事典、第1版、薬事日報社、第24、60頁
(発行日1994年1月14日)
甲第5号証:International Journal of Pharmaceutics, 103、p69-76 (1994)
甲第6号証:Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 27、p19-24 (2002)
甲第7号証:特開2003-104888号公報
甲第8号証:特開2000-191516号公報
甲第9号証:特開2003-34655号公報
甲第10号証:薬剤学マニュアル、南山堂、第84頁(出版日1998年3月31日)
甲第11号証:医薬品インタビューフォーム(アムロジピン錠「ケミファ」)2009年12月作成(改訂第4版)
甲第12号証:特開2009-35545号公報
甲第13号証:Marine Chemistry, 38, p. 133-143 (1992)
甲第14号証:第十五改正日本薬局方第1追補,第40?41頁
甲第15号証:National Environmental Journal (on-line version), The 4 Technology Solutions/IRON-THE ENVIRONMENTAL IMPACT OF A UNIVERSAL ELEMENT, Vol. 4, No. 3, p. 24-25 (1994) 2
甲第16号証:平成18年(行ケ)10563号大合議判決(知財高判平成20年5月30日)
甲第17号証:安定性試験ガイドラインについて(薬新薬第30号)
甲第18号証:新原薬及び新製剤の光安定性試験ガイドラインについて(薬審第422号)
甲第19号証:特許・実用新案審査基準(第II部第2章2.5(2)丸付き数字2)
甲第20号証:東京高裁平成13年11月1日判決(平成12年(行ケ)第238号)
甲第21号証:特許・実用新案審査基準(第I部第1章2.2.1.2、2.2.1.3及び3.2.2.2)
6.当審が通知した無効理由の概要
<無効理由>
(記載要件について)
理由4-1
本件訂正請求後の請求項1、2、4、5、8、9には、同請求項記載の医薬組成物が「水溶液剤を除く。」ものである旨が規定されている。しかし、本件明細書の記載を参酌しても、当該用語によって表される医薬組成物がいかなる剤形の薬剤を意味するかは不明であり、結果として、水溶液剤を除く医薬組成物がいかなる剤形の薬剤を意味するかも不明であるといえるから、上記請求項に、同請求項に係る発明が明確に記載されていると認めることはできない。
よって、本件特許は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。
理由4-2
本件訂正請求後の請求項1、2、4、5、8、9には、ゼリー剤、すなわち半固形製剤という、光、水分、熱に対するベシル酸アムロジピンの安定性を保持できる医薬組成物を提供する旨の本件特許請求の範囲に係る発明の目的を達成できない態様が含まれていることとなり、また、液状製剤についても上記ゼリー剤、すなわち半固形製剤についての試験結果から把握されると同様の結果が得られるものと推察される。
そうすると、請求項1、2、4、5、8、9には、本件明細書記載の製剤を超えた発明が記載されているものと認められる。
よって、本件特許は特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである。
7.被請求人の主張
被請求人は、1.(3)記載のとおり、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由、及び、6.に記載される当審が通知した無効理由は、いずれも理由がない旨主張するとともに、以下の証拠方法を提出した。
<被請求人が提出した証拠方法>
乙第1号証:新しい製剤学、廣川書店、目次vii、第257-269頁
(発行日 平成6年2月20日)
乙第2号証:経口投与製剤の処方設計 P37、38(平成10年4月15日発行)、橋田 充編集、株式会社 薬事時報
乙第3号証:経口投与製剤の設計と評価 P88(平成7年2月10日発行)、橋田 充 編集、株式会社薬業時報社
乙第4号証:医学と薬学 59巻4号 P573?581 (2008)、株式会社 自然科学社
乙第5号証:粉体工学会誌 Vol.44 No.5 (2007) P367?376、松田 芳久
乙第6号証:新しい製剤学 P122?133、P378?397(平成5年9月10日初版発行)、株式会社廣川書店
乙第7号証:第4版 実験化学講座11 反応と速度 P169、170(平成5年2月5日発行)、丸善株式会社
乙第8号証:医薬品の安定性 P24?29、52?55、118?125、190?209(1995年2月15日発行)、吉岡澄江 著、株式会社 南江堂
乙第9号証:医薬品インタビューフォーム(1993年8月作成)一般名:ニフェジピン P1?32、製造販売元 バイエル薬品株式会社
乙第10号証:医薬品インタビューフォーム(2003年8月作成)一般名:ベシル酸アムロジピン P1?18、製造販売元 ファイザー株式会社
8.当審の判断
(1)特許法第29条第1項第3号について
(1)-1 理由1について
ア.甲第1号証
甲第1号証の製剤例3には、1ユニットあたり、ディオバン薬物80.00mg、アムロジピン薬物6.94mgを含有する錠剤処方例が記載されている(p17)。
同製剤例で用いられているアムロジピン薬剤は、ノルバスクとの商品名で市販されている薬物である(甲第1号証 p12下から2行?P13 2行)。そして、ノルバスクがベシル酸アムロジピンを有効成分とする市販薬であることは本件出願優先権主張日前に周知の事実であったといえる(甲第2号証 p9 下から2行、甲第3号証 p532参照)。また、上記製造例3には、同錠剤は、たとえば製剤例1と同様にして製造されることが記載されている。そこで、製剤例1をみると、ディオバンを含有する粒剤から得られた錠剤に、ディオラック組成物でフィルムコーティングした、フィルムコーティング錠剤が記載されている(p13?14)から、製剤例3に記載された錠剤も同様にディオラック組成物でフィルムコーティングされた錠剤であると認められる。ここでディオラックとは、黄色酸化鉄と赤色酸化鉄を含有する組成物であり(甲第1号証 p17のディオラックの組成を記載した表)、また、黄色酸化鉄が黄色三二酸化鉄であり、また、赤色酸化鉄が三二酸化鉄であることは本件出願優先権主張日前に周知の事実である(甲第4号証参照)。
イ.対比・判断
(本件特許発明1について)
ア.で指摘した甲第1号証の記載事項から、甲第1号証には、「ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄を含有する医薬組成物であって、黄色三二酸化鉄と三二酸化鉄をコーティング層に含有するコーティング錠剤」が記載されているものと認められる。
しかし、甲第1号証には、本件特許発明1の発明を特定する事項である、医薬組成物にカラギーナンを含有させることについて記載はない。
そうすると、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明とすることはできない。
(2)特許法第29条第2項について
(2)-1 理由2-1について
(本件特許発明1について)
甲第1号証には、上記(1)-1で指摘したとおりの記載がある。しかし、甲第1号証には、本件特許発明1の発明特定事項である、医薬組成物に、カラギーナンを含有させることについて記載も示唆もないし、ベシル酸アムロジピンの安定化を目的としてカラギーナンを含有させることが、本件出願優先権主張日前に周知であるとも認められない。
そうすると、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(2)-2 理由2-2?2-8について
ア.甲第5号証
甲第5号証には、次のとおりの記載がある(以下、翻訳文で示す。)。
(5A)「合成酸化鉄は、400nm以下の波長の放射光の強力な吸収剤である。・・・これらの性質は、ソリブジン(BV-araU)とニフェジピンという2つの光感受性薬物の光安定化に使われた。湿式造粒法で製造した、0.2%w/w黄酸化鉄を含むソリブジンおよびニフェジピン、または含まないソリブジンおよびニフェジピンの、10mgの力価を有する水溶性コーティングされていない錠剤を、室内光および/または400フットカンデラの光に直接曝露させて光安定試験が行われた。曝露の後、光分解による力価の減少および分解生成物の濃度増加が分析された。0.2%w/wの黄酸化鉄を含むコーティングされていない錠剤は、黄酸化鉄を含まないコーティングされていない錠剤よりも光に対して安定であった。0.2%w/wの黄酸化鉄を中心に含むコーティングされていない錠剤とフィルムコーティング錠との光分解に対する効果の違いが調べられた。0.2%w/wの黄、赤、または黒酸化鉄を含むコーティングされていない錠剤は、11%w/wのOpadry(登録商標)ホワイトでコーティングした錠剤よりも光保護効果が高かった。さらに、0.05%w/wの赤および0.04%w/wの黄酸化鉄を同時に含むコーティングされていない錠剤は、0.2%w/w 黄または赤酸化鉄のいずれかを単独で含むコーティングされていない錠剤よりも光保護効果があった。」(第69頁、Summary(要約)1?11行)
(5B)「ニフェジピンは光の存在下で主に2つの分解生成物、ニトロフェニルピリジンおよびニトロソフェニルピリジンに分解する(BersonおよびBrown、1955)。合成酸化鉄のニフェジピンに対する光安定化効果を研究するために黄酸化鉄が選ばれ、ニフェジピンのコーティングされていない錠剤に含められ、その後、光源曝露に対する安定性がモニターされた。」(第70頁左欄第8?15行)
(5C)「粒剤の調製 本研究に用いられた錠剤を作製するのに使用される粒剤の製剤組成は下記の通り(表省略;表には、ソリブジンまたはニフェジピン(製剤中、10.0または12.5% w/w)、酸化鉄(黄、赤、または黒)(製剤中、0.2% w/w)を含有する組成物が記載されている。)
活性成分(ソリブジンまたはニフェジピン)及びラクトースは別々に20番メッシュのふるいにかけられ、・・・。酸化鉄は、30番メッシュのふるいにかけられ微結晶セルロースと混合され・・・。その後、この混合物は、活性成分、ラクトース及び糊化澱粉を入れたボウルに加えられた。ボウルの内容物は、低速で5分間混合され、精製水を用いて造粒され・・・乾燥された。・・・着色剤を含有しない粒剤が、対照物として供される錠剤を製造するために、同様な製法により製造された。着色剤の代わりに、ラクトースが適量加えられた。」(第70頁 右欄第17行?第71頁 左欄第21行)
(5D)「粒剤の圧縮錠剤 ソリブジン粒剤は圧縮され、・・・ニフェジピン粒剤は、1/4インチの円形凹型治工具を用いたF-プレスで,10mg力価の100mgの円形錠剤に圧縮打錠された。」(第71頁 左欄第22?第29行)
(5E)「錠剤のコーティング 12.5% w/w オパドライコーティング水懸濁液が・・・調製された。・・・該コーティング懸濁液が、・・・コーティングパンを用いて圧縮錠剤に適用された。・・・コーティングの量は錠剤の重量の増加に応じて決定された。」(第71頁 左欄第30行?末行)
(5F)「結果及び考察 ニフェジピンとソリブジンのコーティングされていない錠剤は、それが酸化鉄を含有するものも含有しないものもともに各種光源に曝露した後、力価の損失及び各分解生成物の濃度の増加を測定することによって、それぞれの分解がモニターされた。(表1省略;表1には、酸化鉄を含有しないものは、光曝露14日後のニフェジピン残存%が56.8%であるのに対して、0.2% w/w 黄色酸化鉄を含有するものは同75.2%であったことが記載されている。)」(第72頁 右欄第1?7行、第73頁 表1)
(5G)「0.2%の黄色酸化鉄を含む又は含まない10mg力価のニフェジピン錠剤が、400フットカンデラの光に14日間曝露された。14日間の曝露後、いずれの酸化鉄も含まない錠剤は初期のニフェジピン力価の57%しか保持できていなかったのに対し、酸化鉄を含む錠剤については、初期のニフェジピン力価の75%が検出された(表1)。加えて、酸化鉄を含まない錠剤における分解生成物濃度は、酸化鉄を含む錠剤に比べて高かった。これは、酸化鉄にはニフェジピンの光分解を弱める働きがあることを示している(表1)。」(第74頁左欄第1?12行)
(5H)「上で取り上げた2種類の光感受性薬のうちソリブジンを選んでさらなる研究を行った。錠剤中の黄酸化鉄の濃度が0.2から0.5%w/wに増量されると、光安定化効果も若干増加した(表4)。より高濃度での酸化鉄は、光に対して不安定な活性成分に対してより一層の保護を与え得るであろうけれども、酸化鉄の着色剤としての使用はアメリカでは最大摂取量が1日当たり5mgの元素鉄に制限されている(医薬品添加剤便覧、1986)。」(第74頁左欄第26?末行)
(5I)「ソリブジン錠剤に関する酸化鉄の光安定化効果がフィルムコーティングのような従来の光保護手段と比べられた。ソリブジン錠剤は3,6,11% w/w オパドライホワイト(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、二酸化チタン、ポリエチレングリコール、ポリソルベート80を含有する)でコーティングされ、コーティングされていない錠剤とともに・・・の蛍光灯に7日間曝露された。これらの錠剤は、光分解、すなわちソリブジンのZ-アイソマーの濃度増加が分析された。・・・(表6省略;表6には、ソリブジンへの光曝露1,3,7日後の、コートされていない錠剤、3,6,11% w/w オパドライホワイトでコートされたソリブジン錠剤各々におけるのZ-アイソマー形成割合について記載されている。7日後の値は、順に、0.68、0.52、0.24、0.21%であることが記載されている。)」(第75頁左欄第22行?右欄第13行)
(5J)「上記のとおり、酸化鉄の光安定化効果はフィルムコーティングのそれより優れている。コーティングは、錠剤製造工程においてさらなる工程を要するために、コストがかかるし、時間もかかる。光感受性薬物のコーティングされていない錠剤製剤に酸化鉄を含めることによってコーティングしなくともよくなる。」(第76頁左欄第5?11行)
(5K)「結論 酸化鉄が光感受性薬物であるソリブジンとニフェジピンのコーティングされていない錠剤の製剤に用いられて、該薬物の光分解を減じた。ソリブジン錠に対する0.2% w/w 酸化鉄添加による光安定化効果は、11% w/w オパドライホワイトコーティングのそれより優れていた。・・・酸化鉄の安定化効果は、光不安定な薬物を、その製造時、もしくはその後の保存時に保護するのにたいへん有用である。」(第76頁左欄第14行?右欄第3行)
イ.甲第6号証
甲第6号証には、次の通りの記載がある(以下、翻訳文で示す。)。
(6A)「アムロジピン,R,S-2-[(2-アミノエトキシ)メチル]-4-(2-クロロフェニル)-3-エトキシカルボニル-5-メトキシカルボニル-6-メチル-1,4-ジヒドロピリジン(AML)は,高血圧症と狭心症[1]に広く用いられる強力な長期持続性のあるカルシウム拮抗剤であり,1,4-ジヒドロピリジン類と総称される類に属する。該類の全ての化合物に共通する性質は,光に曝されると薬物が酸化され[2-4],ピリジン類似体(AMLOX)を生成することである(Fig.1)。)」(第19頁左欄第2?11行)
(6B)「したがって、原末並びに製剤中におけるAMLとAMLOXとを同時分析するための迅速で正確なUV誘導法がここに報告されている。光曝露を最小化するために、その過程は、可能な限り速やかな実験条件を採用して、直接マトリックス懸濁液に対して行われた。」(第20頁左欄第3?第10行)
(6C)「アムロジピンの純粋な粉末は,ファイザー(ローマ,イタリア)から提供を受けた。・・・ノルバスク(ファイザー,イタリア)・・・。)」(第20頁左欄第17行?第20頁右欄第1行)
(6D)「以下の賦形剤;澱粉、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸が製剤に通常含有される量添加された。薬剤の分析用に5錠が計測されて粉末化された。1錠に対応する量が正確に計測され、エタノールと攪拌して50mlとした。この懸濁液1mlはエタノールで希釈して10mlとされ、濾過することなく分析された。」(第21頁左欄第1?12行)
(6E)「自然光への曝露は、6月?7月の期間で、晴天の日の9時から17時まで連続してサンプルを曝露して行われた。人工光による照射は、280-360nmのUVランプ(30W、距離30cm)に曝露して行われた。AML原末は薄層にて提供され、曝露期間中、種々の時間において分析された。この目的のために粉末10mgが正確に計測され、エタノールで希釈され20μg/mlの濃度とされた。製剤に関しては、10錠が自然光並びに人工光に曝露され、・・・種々の時期に分析された。この過程は包装されている錠剤に関しても同様になされた。」(第21頁左欄第14?末行)
(6F)「提案された方法は原末並びに、包装材により包装されているか若しくはされていない医薬品投与形態に対する自然光並びに人工光の効果を研究するために適用された原末中のAMLOX量は、太陽光、人工光下で、各々8時間後、5時間後、約10%存在していた。製剤化された錠剤は、十分安定であり、自然光曝露46時間後、人工光曝露30時間後において、各々AML表示量の10%減少であった。これに反して、錠剤は包装材により包装されているならば光分解からよく保護された。」(第23頁右欄第14?末行)
ウ.甲第7号証
甲第7号証には、次の通りの記載がある。
(7A)「ジヒドロピリジン誘導体がニソルジピン、ニトレンジピン、ベニジピン、マニジピン、バルニジピン、アムロジピン、エホニジピン、ニルバジピンもしくはその医薬として許容し得る塩である請求項1もしくは請求項2記載のジヒドロピリジン誘導体の錠剤。」(請求項3、段落0011)
(7B)「酸化鉄が三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄を単独か、もしくは両者を組み合わせて使用するものである請求項4記載のジヒドロピリジン誘導体のフイルムコーティング錠剤。」(請求項5)
(7C)「ジヒドロピリジン誘導体は、光に対する安定性が低く、水性溶媒への溶解度が非常に低いために経口投与の場合には消化管液中で薬物が製剤から溶出するような工夫が必要である。そのため、ジヒドロピリジンの医薬組成物に関しては多くの特許出願並びに特許が存在する。例えば、・・・光に対して不安定な薬物の安定性を向上させるために、フィルムコーティング剤皮に酸化チタンを配合することが慣用の技術として利用されている。」(段落0004)
(7D)「これらの従来技術は、・・・作業工程が煩雑となり、・・・必ずしも望ましい技術とは言い難い。・・・又、酸化チタンをフィルムコーティング剤皮に使用してジヒドロピリジン誘導体のフィルムコーティング錠剤を作成した場合にも必ずしも満足のいく製剤中のジヒドロピリジン誘導体の光安定性を得られるものではなかった。」(段落0005)
(7E)「フイルムコーティング剤皮に酸化鉄を配合することにより、光に安定なジヒドロピリジン誘導体のフイルムコーティング錠剤を提供するものである。」(段落0009)
(7F)「実施例1 ニソルジピンのフイルムコーティング錠剤 以下の処方及び製法を用いて本発明品1のニソルジピンのフイルムコーティング錠剤を得た。」(段落0020) つづいて、(素錠部)に、1.ニソルジピン(10mg)・・・、(フィルムコーティング部)に、・・・2.酸化チタン、・・・4.三二酸化鉄(0.46mg)、5.黄色三二酸化鉄(0.19mg)を用いたニソルジピンのコーティング錠剤が記載されている。(段落0021)
(7G)「実施例2 ニソルジピンのフイルムコーティング錠剤 以下の処方及び製法を用いて本発明品2のニソルジピンのフイルムコーティング錠剤を得た。」(段落0026) つづいて、(素錠部)は実施例1と同一で、(フィルムコーティング部)に、・・・2.酸化チタン、・・・4.三二酸化鉄(0.13mg)を用いたニソルジピンのコーティング錠剤が記載されている。(段落0026)
(7H)「比較例2 ニソルジピンのフィルムコーティング錠剤
実施例2のフィルムコーティング部成分4を同量の酸化チタンに代え(審決注:実施例2のフィルムコーティング部は、1.ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、2.酸化チタン、3.マクロゴール6000(ポリエチレングリコール)、4.三二酸化鉄 からなる。よって、比較例2のフィルムコーティング部に含有される無機物は酸化チタンのみである。)、実施例2と同様の製法でニソルジピンのフィルムコーティング錠剤を得た。このフィルムコーティング錠剤は実施例2よりも光安定性に劣っていた。」(段落0031)
エ.甲第8号証
甲第8号証には、次の通りの記載がある。
(8A)「光に不安定な薬物を含有した粉体を、着色剤を含む結合液で湿式造粒してなる経口固形組成物。」(請求項1)
(8B)「光に不安定な薬物がソファルジン、ニフェジピン、・・・である請求項1?5のいずれかに記載の経口固形組成物。」(請求項6)
(8C)「着色剤が食用黄色4号、・・・黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、・・・である請求項1?6のいずれかに記載の経口固形組成物。」(請求項7)
オ.甲第9号証
甲第9号証には、次の通りの記載がある。
(9A)速崩壊性固形製剤中の活性成分として、ニフェジピン、ニソルジピン、塩酸マニジピン、ベシル酸アムロジピン等のCa拮抗薬が記載されている(段落番号0005)。
(9B)実施例1?3:塩酸マニジピン整粒物(A、C、E)と黄色三二酸化鉄整粒物(B、D、F)を含む混合物を打錠して錠剤を製造することが記載されている(段落番号0015?0017)。
(9C)表3中に、製造された錠剤が口腔内速崩壊性であることを示すデータが記載されている(段落番号[0022]、表3)。
カ.対比・判断
(本件特許発明1について) 理由2-2
上記甲第5?9号証のいずれの証拠にも、本件特許発明1の発明を特定する事項である、医薬組成物にカラギーナンを含有させることについて記載はない。
そうすると、本件特許発明1は、甲第5?9号証に記載されたいずれの発明及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(本件特許発明2について) 理由2-3
本件特許発明2は、本件特許発明1において、ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを「含有し」とされている点について、その含有方法を「混合してなる」とさらに特定するものである。
そして、本件特許発明1が、甲第5?9号証に記載されたいずれの発明及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められないことは、(本件特許発明1について)、の項に記載したとおりであるから、本件特許発明2は、本件特許発明1について、と同様の理由により、甲第5?9号証に記載されたいずれの発明及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(本件特許発明3について) 理由2-5
本件特許発明3は、本件特許発明2をさらにその製造方法について、
(I)ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含む製造方法により得られる錠剤である、請求項2に記載の医薬組成物、に特定するものである。
そして、本件特許発明2が、甲第5?9号証に記載されたいずれの発明及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められないことは、(本件特許発明2について)、の項に記載したとおりであるから、本件特許発明3は、本件特許発明2について、と同様の理由により、甲第5?9号証に記載されたいずれの発明及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(本件特許発明4について) 理由2-4
甲第5号証には、上記摘記事項(5A)、(5C)、(5D)、(5F)からみて、「ニフェジピンと黄色酸化鉄とを含有する錠剤であって、黄色酸化鉄がニフェジピンとともに錠剤を構成する組成物中に含有されている錠剤。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。そして、甲第5号証には、さらに、当該錠剤が、黄色酸化鉄を含有しない組成物から製造された錠剤に比べて、ニフェジピンの光分解を減少させることができたこと(摘記事項(5F)、(5G))も記載されている。
本件特許発明4と引用発明1とを対比する。
黄色酸化鉄とは、黄色三二酸化鉄であることは上記(1)-1で指摘したとおり本件出願優先権主張日前に周知の事実である。
また、引用発明1の「錠剤」において、黄色酸化鉄は、ニフェジピンとともに錠剤を構成する組成物中に含有されていて、コーティング層中に存在するものではないから、同「錠剤」は、本件特許発明1の「顆粒剤又は錠剤であることを特徴とする医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)」に相当する。
そうすると、両者は、「医薬成分と黄色三二酸化鉄とを含有する錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点
(i)医薬成分として、本件特許発明4がベシル酸アムロジピンを含有するのに対し、引用発明1がニフェジピンを含有している点。
(ii)本件特許発明4が「熱、水分に対するベシル酸アムロジピンの安定性を確保した医薬組成物」であるのに対し、引用発明1の医薬組成物にはそのような規定がなされていない点。
以下、上記相違点(i)について検討する。
ニフェジピンが光に不安定な薬物であることは本件出願優先権主張日前に周知の事実である(摘記事項(5A)、(8B))。そして、このような光に対する不安定性は、ニフェジピンのみならず、ニフェジピンと同じく1,4-ジヒドロピリジン骨格を有し、1,4-ジヒドロピリジン類もしくはジヒドロピリジン類と総称される全ての化合物に共通する性質であることもまた本件出願優先権主張日前に周知の事実である(摘記事項(6A)、(7A)、(7C))。
さらに、甲第6号証には、アムロジピンが1,4-ジヒドロピリジン類に属し、光にさらされると酸化されてピリジン類似体を生成することが記載されている(摘記事項(6A))。そして、市販薬であるノルバスクについて、自然光もしくは人工光を曝露した場合のアムロジピン残存量とその酸化類似体生成量とを同時分析した結果が記載されており(摘記事項(6F))、それによれば、製剤化された錠剤は、十分安定であるとされてはいるが、自然光曝露46時間後、人工光曝露30時間後において、各々AML表示量の10%減少したのに対して、包装されている場合にはよく保護される、とある。ここで、ノルバスクが、(2)-1 ア.に記載したとおり、ベシル酸アムロジピンを有効成分とする市販薬であることは本件出願優先権主張日前に周知の事実であったといえるし、また、上記分析結果からは、包装材による包装がなされていない場合にアムロジピンが減少していることが見て取れるから、ベシル酸アムロジピンの光安定性についてはいまだ改善の余地があるものと把握される。
そうすると、同じく光不安定な物質であるジヒドロピリジン誘導体である、甲第6号証記載のベシル酸アムロジピンの光に対する不安定性を改善するために、引用発明1において、ニフェジピンにかえてベシル酸アムロジピンを用いてなる本件特許発明1を当業者が想到することに格別の困難性は見いだせない。
また、甲第7号証には、ジヒドロピリジン誘導体が光に対する安定性が低いことが記載されており、それらジヒドロピリジン誘導体として、アムロジピン若しくはその医薬として許容しうる塩が挙げられている(摘記事項(7A)(7C))。ところで、アムロジピンを含有する薬剤として、ベシル酸アムロジピンが本件出願優先権主張日前すでに薬として市販されていたことは、(2)-1 ア.に記載のとおりであるから、前記市販のベシル酸アムロジピンは、甲第7号証記載のアムロジピン誘導体の医薬として許容しうる塩に該当するものであり、甲第7号証に記載されているに等しいか、示唆されていたものと認められる。
そして、甲第7号証には、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄を単独か、若しくは両者を組み合わせた酸化鉄をフィルムコーティング剤皮に配合してなる製剤が、ジヒドロピリジン誘導体錠剤の光安定性を改善したことが記載されている。さらに、同号証に酸化鉄が酸化チタンに比べて優れた光安定化作用を有することが記載されているように、酸化鉄を用いた場合には、ジヒドロピリジン誘導体に対し、従来知られている酸化チタンをしのぐ光安定化剤を提供し得たものであることが理解できるのであって、その光安定化作用はそこに具体的に記載される製剤形態にのみ発揮される作用であると限定的に解釈されるべきものでないことは明らかである。また、甲第5号証には、「コーティングは、錠剤製造工程においてさらなる工程を要するために、コストがかかるし、時間もかかる。光感受性薬物のコーティングされていない錠剤製剤に酸化鉄を含めることによってコーティングしなくともよくなる。」(摘記事項(5J))と記載され、実際、摘記事項(5G)に摘記したように、酸化鉄を中心に含むコーティングされていない錠剤という形態でニフェジピンの光安定化効果を改善できたことが具体的に記載されているように、酸化鉄を有効成分に配合してそれを錠剤化することで、コーティングという製剤形態に比べて、より少ない工程からなる簡便な方法で製剤化して有効成分を光安定化しうることが示されているところでもある。
そうすると、ニフェジピンと同じく光不安定なジヒドロピリジン誘導体である、甲第7号証記載の、もしくは本件出願優先権主張日前の周知技術を考慮することにより甲第7号証に記載された医薬として当業者が容易に想到し得たと認められるベシル酸アムロジピンに対して、その光に対する不安定性を改善するために、引用発明1において、ニフェジピンにかえてベシル酸アムロジピンを用いてみることは当業者であれば容易に想到しうるものである。
そして、上記のごとき光安定化効果については、甲第5号証、並びに、甲第6号証もしくは甲第7号証の記載から予想しうる範囲内のものである。
次に、上記相違点(ii)について検討する。
本件特許発明4は、医薬組成物を、「熱、水分に対するベシル酸アムロジピンの安定性を確保した医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)」と規定する。
本件訂正明細書には、「本発明によれば、医薬組成物中の添加剤や保存環境の影響に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を確保し、さらに、取扱い性に優れ、服用しやすく、安定なジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物を提供することができる。」と記載されており、ここで、安定性とは、「光、水分、熱に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性」(段落0008)とされている。そして、そのようなジヒドロピリジン系化合物の安定化方法は、ジヒドロピリジン系化合物と、酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することにより達成できることも記載されている(段落0047)。 これら本件訂正明細書の記載からみて、本件特許発明4における上記「熱、水分に対するベシル酸アムロジピンの安定性を確保した」、との規定は、ベシル酸アムロジピンと黄色三二酸化鉄とをともに含有することにより医薬組成物にもたらされる性質を表現したものと認めるのが相当である。
本件特許発明4が、「熱、水分に対するベシル酸アムロジピンの安定性を確保した」ことを発明特定事項とするものであり、また、本件訂正明細書に、本件特許発明の熱や水分に対する効果についての記載がある一方で、甲第5号証?甲第7号証には、ジヒドロピリジン系化合物の熱や水分などの保存環境等に対する黄色三二酸化鉄の作用や効果について記載はない。
しかし、ベシル酸アムロジピンを黄色三二酸化鉄と混合した医薬組成物とすることは、医薬成分であるベシル酸アムロジピンの光に対する安定性を考慮することによって当業者が容易に採用し得たといえるものであることは、上記相違点(i)についてすでに検討したとおりであるから、甲号証各号に明示の記載がなくとも、当該医薬組成物は当然に「熱、水分に対するベシル酸アムロジピンの安定性を確保した」との性質がもたらされており、相違点(ii)は実質的な相違点ではない。
ところで、甲第6号証には、薄層にて提供されたアムロジピン(AML)原末、あるいは包装材により包装されているかもしくはされていないその錠剤製剤を、6月?7月の期間で、晴天の日の9時から17時まで連続して自然光に曝露するか、あるいは280-360nmのUVランプ(30W、距離30cm)の人工光に曝露してAMLの光安定性を調べたことが記載されている(甲第6号証 摘記事項(6E)、(6F))。また、甲第5号証記載の光感受性薬であるニフェジピンの酸化鉄による光安定化効果は、摘記事項(5G)に摘記したとおり、400フットカンデラの光に14日間曝露後、ニフェジピン力価の損失を測定することによりなされた。そして、その際、錠剤は単一の層になるようにペトリ皿に置かれ、400フットカンデラの光に曝露させ、24時間ごとに錠剤は裏返され、光曝露の面積を最大になるようにされたものであるし(甲第5号証 第71頁右欄第1?17行)、甲第7号証には、ニソルジピンの錠剤を、60万Lux・時間に曝露し、薄層クロマトグラフィーによってニソルジピンの分解物を測定することによりニソルジピンの光安定性を調べたことが記載されている(甲第7号症 段落0029)。
たしかに、上記光安定性試験においては、光曝露以外の条件、たとえば熱や水分の存在量といった測定条件について明示の記載はなされていない。しかし、たとえ、上記各号証に記載された試験が、光に対する安定性にのみ着目して行われた試験であったとしても、上記光安定性試験は熱や水分の影響を受けないような特別の条件下で行われたものでもない以上、アムロジピンなどの光に対して不安定なジヒドロピリジン系化合物は、当該試験において、周辺環境中に存在する熱や水分にさらされていたと推測される。そして、そのような条件下でなされた試験において、ジヒドロピリジン系化合物が光に対して安定であったという結果には、その試験条件において存在した熱や水分に対しても安定であったことが内包されているといえる、すなわち換言すると、その程度の熱、水分に対する安定性も同時に確認されていたということになる。実際、たとえば、甲第6号証に記載の測定条件、特に日時をみると、当該試験は、医薬品の通常の保存条件である室温を上回る温度において、すなわち多少なりとも熱負荷がかかった条件下でなされたものと把握される。そして、この程度の熱、水分に対する安定性が既に確認できているとすると、アムロジピンなどのジヒドロピリジン系化合物が医薬効果を有する成分であって、通常の取り扱い、運搬又は保存状態において、光のみならず、当該医薬品の品質に影響を与えるような熱や水分による作用に対して保護されるべきものであることを考慮するならば、アムロジピンを含有成分とする医薬品であるベシル酸アムロジピンと黄色三二酸化鉄との医薬組成物について、さらに、甲号証各号に具体的な記載がない熱、水分の高い状態における安定性を有することが確認されたからといって、そのことをもって直ちに本件特許発明1が格別顕著な効果を奏し得たものと結論付けることはできない。
以上のとおりであるから、本件特許発明4は、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
被請求人は、本件特許発明4は、1)ベシル酸アムロジピンが、熱、水分の影響を受けて、不純物を発生するという知見を得て、熱、水分に対する不純物の発生を抑制してベシル酸アムロジピンを安定化するという課題を見出したものであり、その課題は、甲第5号証に記載のニフェジピン錠剤においては存在せず、またニフェジピンの光に対する安定化効果とは別個独立かつ達成困難な技術的課題であり、2)光安定化効果についてだけをみても、甲第5号証記載の、黄色酸化鉄含有ニフェジピン錠剤の光安定性は、400フットカンデラの光照射条件において、光曝露14日後、75%程度までニフェジピンの含量が低下しており、遮光効果を期待できるとはいえない手段を、アムロジピンに適用した場合に、ニフェジピンほど分解しやすくないベシル酸アムロジピンにおいて、ニフェジピンに対して相対的に生成しうる量が少ない分解物の生成に対しても効果的に抑制できたのは、当業者の予想の範囲内とはいえないし、3)本件訂正明細書の対照例2と実施例3の40℃75%R.H.開放系、もしくは60℃密閉系における2週間保存品のHPLCチャートを比較し、ベシル酸アムロジピン顆粒剤については黄色三二酸化鉄の配合により不純物ピークの低下が認められるのに対し(図5)、ニフェジピン錠剤については、高湿環境(50℃90%R.H.、解放、遮光)、高温環境(60℃、密閉、遮光)で不純物含量に変化が見られなかったこと(表2)が示されていることから、アムロジピンがニフェジピンに比べて格別顕著な効果、または異質の効果がある旨主張する。
しかし、そもそも、上記のとおり、光安定化を目的として、当業者は容易に本件特許発明を想到し得たといえるから、たとえ、ニフェジピンに、酸化鉄の配合による、熱、水分に対する安定化に対する課題や効果が存在しないのに対して、ベシル酸アムロジピンには当該課題や効果が存在する旨の被請求人の主張は上記判断を左右しない。
なお、仮に、本件特許発明4が新たな課題を見出した発明である旨の被請求人の主張について検討してみても、以下に記載のとおりであり、その主張は採用しうるものではない。
まず、1)に関して、被請求人は、本件訂正請求書中、露光、高温、高湿条件下におけるHPLCチャート(図1-1、1-2、図3)には、ニフェジピン錠剤には、高温、高湿条件下において特異的なピークが認められないのに対し、ベシル酸アムロジピン錠剤には、条件毎に異なる保持時間においてピークが認められる旨を主張するが、ベシル酸アムロジピンが分解するため配合禁忌との報告がある乳糖を含有する組成物から構成されたベシル酸アムロジピン錠剤(本件訂正明細書の段落0002)に分解物が生成したからといって、ベシル酸アムロジピン自体が、熱や水に対して安定化すべきという課題が存在するとまでいえるものではない。また、乙第4号証(本件出願優先権主張日後に頒布された刊行物である)には、ベシル酸アムロジピンの市販製剤の主たる分解生成物が酸化体とラクトン体であること(574頁右欄)、ラクトン体はベシル酸アムロジピンに特有な分解物であることが記載されている(575頁左欄)。そこで採用されている条件は、ベシル酸アムロジピンの市販製剤を60℃、相対湿度75%、遮光下、1週間保存した後に分解物を分析するというものであり、酸化的分解が進んだ、夏季の高温・多湿の過酷な条件を想定したものであり(575頁左欄)、本件訂正明細書において採用されている加速試験よりさらに過酷な条件である。乙第4号証におけるような極めて過酷な条件において分解物が認められたからといって、そのことをもって直ちに、請求人がいうような、熱や水分に対してベシル酸アムロジピンを安定化させるという課題があるといえるものでもないし、ましてや、光に対する安定化とは別個独立かつ達成困難な技術的課題であると認めうるものでもない。
次に、2)光安定化効果に関して、甲第5号証には、酸化鉄を含まないニフェジピン錠剤との比較試験結果から、黄色酸化鉄にニフェジピンの光分解を抑制する作用があると結論づけており(摘記事項(5G))、これに照らせば、黄色酸化鉄はニフェジピンに対する遮光効果を期待しうるものといえる。よって、甲第5号証には遮光効果を期待できるといえる手段が記載されていないことを前提とする被請求人の主張は、その前提において誤りがある。
さらに、3)については、図5における試験対象は、本件訂正明細書の実施例3、対照例2のベシル酸アムロジピン製剤であるから、賦形剤としてマンニトール、結合剤としてPVP-K30を含有する顆粒剤であり、表2のそれは、訂正請求書の実験1のニフェジピン製剤であるから、乳糖(水和物)、微結晶セルロース、部分アルファー化デンプン、ステアリン酸マグネシウムを含有する錠剤であって、両者は、その組成(添加剤)、剤形(顆粒剤、錠剤)の点で異なる試験条件下でなされたものであるし、また試験時の高湿環境はニフェジピンとベシル酸アムロジピンとで異なるから、ともにHPLC法による測定結果であるとしても、異なる試験条件下で行われた試験結果を比較することはできない。
(本件特許発明5について) 理由2-4
本件特許発明5は、本件特許発明4記載の黄色三二酸化鉄について、その含有量をベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1質量部と特定するものである。
甲第5号証には、医薬成分であるニフェジピンと酸化鉄の医薬組成物中の含有量に関して、錠剤を作成するために、ニフェジピンを製剤中、12.5% w/w、酸化鉄(黄、赤、または黒)を製剤中、0.2% w/wの割合で含有する組成を有する粒剤を用いたことが記載されており(摘記事項(5C)、これを、医薬成分であるニフェジピン1質量部に対する値に換算すると、酸化鉄は0.016質量部となる。また、黄色酸化鉄の含有量については、甲第5号証にさらに、「錠剤中の黄色酸化鉄の濃度がこの値は、0.2から0.5% w/wに増量されると光安定化効果も若干増加する。」(摘記事項(5H))とも記載されており、仮に、この上限値に当たる量が上記のニフェジピンに対して含有されたとすると、ニフェジピン1質量部に対して酸化鉄が0.04質量部となる。また、甲第5号証には、より高濃度の酸化鉄が、より一層の光保護効果を与えることとともに、最大摂取量が定められていることについても記載されており(摘記事項(5H))、これらの記載に接した当業者であれば、酸化鉄の含有量について、最大摂取量を上限として考慮しつつ、より多く含有させることでより好ましい光安定化効果が得られることを期待するものと認められる。そうすると、ベシル酸アムロジピンを医薬成分とした場合にも、酸化鉄の含有量について、上記のニフェジピンについて記載された配合量を参考に、光安定化効果を最適化するために可能な限り増加させる値を検討することは当業者が容易になし得るところと認める。
そして、本件特許発明4が、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものと認められることは、(本件特許発明4について)の項に記載したとおりであるから、本件特許発明5は、(本件特許発明4について)に記載したのと同様の理由により、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(本件特許発明6について) 理由2-6
本件特許発明6は、本件特許発明1?5をさらに錠剤について、速崩性錠剤に特定するものである。
そのうち、本件特許発明4を引用する発明は以下のとおり記載することができるものである。
「ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄とを含有し、顆粒剤又は速崩性錠剤であることを特徴とする、熱、水分に対するベシル酸アムロジピンの安定性を確保した医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)。」
甲第9号証には、Ca拮抗薬である塩酸マニジピン整粒物と、黄色三二酸化鉄整粒物とを混合し、打錠して製造された錠剤が速崩壊性錠剤であることがデータとともに記載されており(摘記事項(9B)、(9C))、また、該Ca拮抗薬として上記塩酸マニジピンのほかベシル酸アムロジピンを用い得ることも記載されている(摘記事項(9A))。
そうすると、甲第9号証に記載された発明において、塩酸マニジピンに代えて、ベシル酸アムロジピンを医薬成分とする速崩性錠剤を想到することは、当業者が容易になしえたものである。
そして、その効果についてみても、本件特許発明が引用する本件特許発明4が有する効果として、(本件特許発明4について)の項においてすでに記載した効果に加えて、甲第6号証記載の速崩性錠剤が有する効果をあわせ有するにすぎないのであって、なんら当業者の予測を超えるところはない。
以上のとおりであるから、本件特許発明6は、甲第9号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(本件特許発明7について) 理由2-5
本件特許発明7は、
(I)ベシル酸アムロジピンと、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部のカラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法に係る発明である。本件特許発明7においては、その工程(I)において、カラギーナンを混合する工程が規定されているように、ベシル酸アムロジピンとカラギーナンとの含有する医薬組成物の製造方法の発明であり、その工程(II)において、打錠する工程が規定されているから、本件特許発明7は実質的には錠剤の製造方法の発明であると認められる。
上記甲第5?9号証のいずれの証拠にも、本件特許発明7の発明特定事項である、医薬組成物にカラギーナンを含有させることについて記載はない。
そうすると、本件特許発明7は、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証、及び本件出願優先権主張日前の周知技術、または甲第9号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたもの及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(本件特許発明8について) 理由2-7
甲第5号証には、(本件特許発明4について)の項においてすでに指摘した事項に加えて、表1に、光曝露14日後のニフェジピン残存割合や分解生成物濃度について、黄色酸化鉄を含有する錠剤と含有しない錠剤との比較から、黄色酸化鉄がニフェジピンに対する光安定化効果を有することが示されている(摘記事項(5F)、(5G))。
これら記載からみて、甲第5号証には、「ニフェジピンと黄色酸化鉄とを含有する錠剤であって、黄色酸化鉄がニフェジピンとともに錠剤を構成する組成物中に含有されている錠剤における光に対するニフェジピンの安定化方法。」の発明(以下、「引用発明8」という。)が記載されているものと認められる。
本件特許発明8と引用発明8とを対比する。
ここで、黄色酸化鉄が黄色三二酸化鉄であることが本件出願優先権主張日前に周知の事実であることは、(1)-1の項においてすでに指摘したとおりである。
また、引用発明8の「錠剤」において、黄色三二酸化鉄は、コーティング層に含有するものではないから、同「錠剤」は、本件特許発明8の「顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)」に相当する。そして、黄色三二酸化鉄は、医薬成分であるニフェジピンと混合することにより、ニフェジピンとともに錠剤を構成する組成物中に含有されてなるものである(摘記事項(5C))。
そうすると、両者は、「医薬成分と黄色三二酸化鉄とを混合する錠剤である医薬組成物における医薬成分の安定化方法(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点
(i)医薬成分として、本件特許発明8がベシル酸アムロジピンを含有するのに対し、引用発明8がニフェジピンを含有している点。
(ii)本件特許発明8が顆粒剤又は錠剤である医薬組成物における保存環境に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法であるのに対して、引用発明8が光に対するニフェジピンの安定化方法である点。
以下、上記相違点(i)、(ii)について検討する。
本件特許発明8のうち、「ベシル酸アムロジピンと黄色三二酸化鉄とを混合する錠剤である医薬組成物」は、本件特許発明4における「熱、水分に対するベシル酸アムロジピンの安定性を確保した」、との規定が、(本件特許発明4について)の項で検討したとおり、ベシル酸アムロジピンと黄色三二酸化鉄とをともに含有することにより医薬組成物にもたらされる性質を表現したものと認めるのが相当であること、また、構成成分が混合されうことにより医薬組成物に含有されていることから、本件特許発明4の医薬組成物に包含されるものである。
そうすると、相違点(i)については、(本件特許発明4について)の項で検討したのと同様の理由で当業者が容易に想到し得たものである。
次に相違点(ii)について検討する。
本件特許発明8の「保存環境に対するベシル酸アムロジピンの安定化」とは、本願訂正明細書の「本発明は、・・・加温、光、湿度などの保存環境条件に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を向上させた医薬組成物及びその製造方法、並びに医薬組成物におけるジヒドロピリジン系化合物の安定化方法に関する。」(段落0001)、「本試験結果から、ジヒドロピリジン系化合物に対して黄色三二酸化鉄又はカラギーナンを配合することにより、温度、湿度、光の保存環境下の影響を受けない医薬組成物を提供することが明らかとなった。」(段落0056)、あるいは、「本発明によれば、患者に投与するまでの医薬品の保存環境、又は自動分包機などの調剤中の作業環境の影響を受けにくい、又は、流通や調剤行為などでの顆粒剤や錠剤の破損又は粉砕に伴う薬物の含量低下を懸念する必要がなく、高い品質を維持する医薬品を提供できる。」(段落0076)との記載からみて、ベシル酸アムロジピンが患者に投与されるまで保存される、温度、湿度、光の環境に対する安定化を意味するものと認められるのであって、少なくとも光に対する安定化を包含しているものであるといえるから、その点において、本件特許発明8と引用発明8とは実質的に相違しない。
以上のとおり、上記相違点(i)は当業者が容易に想到し得たものであり、また相違点、(ii)は実質的な相違点ではない、と認められるから、本件特許発明8は、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(本件特許発明9について) 理由2-8
甲第5号証には、(本件特許発明8について)、の項において指摘した事項が記載されており、これら記載からみて、甲第5号証には、「黄色酸化鉄を含有する錠剤における、ニフェジピンの光に対する安定化剤。」の発明(以下、「引用発明9」という。)が記載されているものと認められる。
本件特許発明9と引用発明9とを対比する。
ここで、黄色酸化鉄が黄色三二酸化鉄であることが本件出願優先権主張日前に周知の事実であることは、(1)-1の項においてすでに指摘したとおりである。
また、引用発明9の「錠剤」は、(本件特許発明8について)の項において検討したのと同様の理由で、本件特許発明8の「顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)」に相当する。
そうすると、両者は、「医薬成分を含有する錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有する、コーティング錠剤を除く。)に用いられ、黄色三二酸化鉄を含有する、医薬成分の安定化剤。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点
(i)医薬成分として、本件特許発明9がベシル酸アムロジピンを含有するのに対し、引用発明9がニフェジピンを含有している点。
(ii)本件特許発明9がベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤であるのに対して、引用発明9がニフェジピンの光に対する安定化剤である点。
以下、上記相違点(i)、(ii)について検討する。
ニフェジピン、並びに、ニフェジピンと同じく1,4-ジヒドロピリジン骨格を有し、1,4-ジヒドロピリジン類もしくはジヒドロピリジン類と総称される全ての化合物が光に不安定な性質であることは本件出願優先権主張日前に周知の事実であること、ベシル酸アムロジピンが光に対して不安定で、その光安定性についてはいまだ改善の余地があることは、すでに、(特許発明4について)の項で検討したところである。
そうすると、相違点(i)については、(本件特許発明4について)の項で検討したのと同様の理由で当業者が容易に想到し得たものである。
次に相違点(ii)について検討する。
甲第5?7号証には、各々、(本件特許発明4について)の項で指摘した事項が記載されており、それら記載からみて、黄色三二酸化鉄が、光不安定なベシル酸アムロジピンの光に対する安定化効果を有すると認められることは、(本件特許発明4について)の項で検討したとおりである。
しかし、それら甲号証各号には、上記医薬組成物の構成成分である黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかが、ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化作用や効果を有すること、そして、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを熱、水に対する安定化剤とすることについて記載も示唆もされていない。
そうすると、本件特許発明9は、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認めることはできない。
(3)特許法第36条第4項第1号、同法同条第6項第1号違反について
理由3
本件訂正明細書には、本件特許発明の課題について、「医薬組成物中の添加剤や保存環境の影響に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を確保し、さらに、取扱い性に優れ、服用しやすく、安定な」、より詳細には、「添加剤の種類や、剤形、包装形態などが限定されず、また、非包装状態においても、調剤行為や保存環境の影響を受けない、安定な」、「高齢者など、嚥下能力が低下している患者に対しても投与しやすい剤形、又は、高齢者への慎重投与に対応可能であり容易に用量調節ができる剤形で提供することができる」、ジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物を提供することである旨が記載されている(段落0005)。そして、「医薬組成物中に酸化鉄又はカラギーナン、あるいは酸化鉄及びカラギーナンの両者を含有させることにより、ジヒドロピリジン系化合物が著しく安定化すること」、具体的には、「酸化鉄やカラギーナンが、ジヒドロピリジン系化合物の酸化による不純物の生成を抑制すること」を見出して、上記課題を解決し得た旨が記載されている(段落0006)。
また、医薬組成物における安定化剤の含有量について、本件訂正明細書には、三二酸化鉄の中でも、黄色三二酸化鉄はより高い安定化効果を示すことから、前記黄色三二酸化鉄の含有量としては、医薬組成物中のジヒドロピリジン系化合物1質量部に対して、0.05?1質量部が好ましく、0.08?1質量部がより好ましく、0.1?0.5質量部が更に好ましいこと、また、カラギーナンの、前記医薬組成物における含有量としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、医薬組成物中のジヒドロピリジン系化合物1質量部に対して、0.05?1.2質量部が好ましく、0.05?1.0質量部がより好ましく、0.1?0.8質量部が更に好ましく、0.2?0.5%質量部が更により好ましいことが、それぞれ、段落0016、0017に記載されている。
そして、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して、黄色三二酸化鉄、カラギーナンを、各々、1重量部含有してなる粒状剤形態の医薬組成物中の、加温、光照射、加湿条件1か月後の不純物含量が抑制されていることが表2に記載されており、また、黄色三二酸化鉄を同0.3重量部、カラギーナンを同2重量部含有してなる粒状剤形態の医薬組成物中の、加湿、加温後の不純物含量が経時的に抑制されていることが、各々、図1、2に記載されている。また、黄色三二酸化鉄を同0.1重量部含有してなる速崩性錠剤形態の医薬組成物中の、加温、光照射、1か月後の不純物含量が抑制されていることが、各々、図5に記載されている。さらに、速崩性錠剤について、ベシル酸アムロジピンに対する黄色三二酸化鉄の配合比と加温、光照射後1か月の不純物含量の関係、ベシル酸アムロジピンに対するカラギーナンの配合比と加温後1か月の不純物含量の関係が、各々、図3、図4として記載されている。
このように、本件訂正明細書には、黄色三二酸化鉄、又はカラギーナンを顆粒剤、錠剤である医薬組成物に種々の含有量で包含させることによって、光、水分、熱、すなわち保存環境に対するベシル酸アムロジピンの安定性を保持することが記載されているということができるから、本件訂正明細書の記載から、本件特許発明の特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項を採用することにより本件特許発明の課題が解決できると当業者は認識することができる。
したがって、本件訂正明細書は、本件特許発明1?9について、その発明の課題を解決できると当業者が認識できる範囲のものとして記載されているといえるから、同発明は本件訂正明細書に記載されているということができる。
また、本件特許発明1?9に関する医薬組成物中の含有量等について本件訂正明細書に記載されていることはすでに上記検討のとおりであり、本件訂正明細書には、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に本件特許発明1?9が記載されているということができる。
請求人は、図3、図4には、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して、黄色三二酸化鉄を0.1重量部含有してなる速崩性錠剤の、加温1か月後の不純物量が黄色三二酸化鉄を含有しない対照製剤に比べて多いこと、同じく、カラギーナンを同0.05重量部もしくは0.1重量部(審決注:図4には0.05重量部と記載されているが、対応する訂正明細書の段落0063、0065の記載によれば、0.1重量部となる)含有してなる速崩性錠剤の、加温1か月後の不純物量が、各々、安定化剤である黄色三二酸化鉄、カラギーナンを含有しない対照製剤に比べて多いことが示されており、その値において所期の目的を達成しえないことは明らかであるから、上記した安定化剤の含有量である場合をその範囲に含んでいる、請求項1?3、7、並びに「熱、水分に対するベシル酸アムロジピンの安定性を確保した医薬組成物」に関する請求項4、「保存環境に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法」に関する請求項8、及び「ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤」に関する請求項9には、本件特許発明の課題を解決できない発明が含まれている旨主張する。
たしかに、請求人が主張するとおり、対照製剤に比べて不純物含量が多い製剤例が見受けられる。しかし、本件訂正明細書には、本件特許発明の課題及び解決手段に関する記載がなされていること、また、本件特許発明に該当する医薬組成物や、その製造方法、安定化方法や安定化剤によって本件特許発明の課題が解決できると当業者が認識できるように記載されているといえることは上記したとおりであって、対照製剤と比べて効果がわずかに劣る事例が存在するからといって、そのことをもって、上記認定を覆すべきものというにはあたらない。
以上のとおり、上記請求人の主張はいずれも採用し得ない。
(4)特許法第36条第6項第2号違反について 理由4-1
本件訂正特許請求の範囲の請求項1、2、4、5、8、9は顆粒剤又は錠剤である医薬組成物、同医薬組成物における保存環に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法、並びに同医薬組成物に用いられ、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とする、ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤に関する発明である。
これに対して、理由4-1は、6.にその概要を記載したとおり、同請求項に対応する第一次訂正請求時の請求項記載の「水溶液剤を除く」医薬品がいかなる剤形の薬剤であるか不明であることを理由とするものである。
しかし、本件訂正請求により、訂正特許請求の範囲の同請求項には、「水溶液剤」に係る発明は包含されないこととなったから、本件特許は特許法第36条第6項第2号の規定に違反しない。
(5)特許法第36条第6項第1号違反について 理由4-2
理由4-2は、6.にその概要を記載したとおり、同請求項に対応する第一次訂正請求時の請求項には、ゼリー剤、すなわち半固形製剤という、光、水分、熱に対するベシル酸アムロジピンの安定性を保持できる医薬品を提供する旨の本件特許請求の範囲に係る発明の目的を達成できない態様が含まれていることを理由とするものである。
しかし、本件訂正請求により、訂正特許請求の範囲の同請求項には、「半固形製剤」に係る発明は包含されないこととなったから、本件特許は特許法第36条第6項第1号の規定に違反しない。
9.むすび
以上のとおり、本件特許発明4?6、8の特許は、無効理由2-4、2-6、2-7によって無効とすべきものであり、本件特許発明1?3、7、9の特許は、無効理由1、2-1?2-3、2-5、2-8、3、4-1、4-2によっては無効にすべきものであるとはいえない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、その21分の5を請求人の負担とし、21分の16を被請求人の負担とすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
平成25年 4月 3日
審判長 特許庁審判官 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
特許庁審判官 平井 裕彰
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(参考)一次審決
審決
無効2010-800164
兵庫県豊岡市出石町八木32
請求人 大橋 直人
大阪府大阪市中央区伏見町四丁目1番1号 明治安田生命大阪御堂筋ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 高島 一
大阪府大阪市中央区伏見町四丁目1番1号 明治安田生命大阪御堂筋ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 土井 京子
大阪府大阪市中央区伏見町4-1-1 明治安田生命大阪御堂筋ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 鎌田 光宜
大阪府大阪市中央区伏見町4丁目1番1号 明治安田生命大阪御堂筋ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 田村 弥栄子
大阪府大阪市中央区伏見町四丁目1番1号 明治安田生命大阪御堂筋ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 山本 健二
東京都千代田区丸の内1丁目3番1号 東京銀行協会ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 村田 美由紀
大阪府大阪市中央区伏見町4-1-1 明治安田生命大阪御堂筋ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 當麻 博文
東京都千代田区丸の内1丁目3番1号 東京銀行協会ビル 高島国際特許事務所
代理人弁理士 小池 順造
東京都豊島区東池袋3丁目23番5号
被請求人 エルメッド エーザイ 株式会社
東京都渋谷区代々木2-2-13 新宿TRビル4階 山の手合同国際特許事務所
代理人弁理士 廣田 浩一
上記当事者間の特許第4509118号発明「医薬組成物及びその製造方法、並びに医薬組成物におけるジヒドロピリジン系化合物の安定化方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。
結 論
訂正を認める。
特許第4509118号の請求項1?12に係る発明についての特許を無効とする。
審判費用は、被請求人の負担とする。
理 由
1.手続の経緯
(1)本件特許第4509118号の請求項1?12に係る発明についての特許は、平成17年10月5日(優先権主張、特願2004-293771号、平成16年10月6日)を国際出願日として出願され、平成22年5月14日にその発明について特許の設定登録がされたものである。
(2)これに対して、請求人は、「特許第4509118号の請求項1?12に記載された発明についての特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。」との審決を求め、甲第1?13号証を提出し、本件特許の請求項1、7に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に規定する発明に該当し、請求項1?5、7?12に係る発明の特許は、同条第2項の規定に違反してなされたものであり、また、請求項1?12に係る発明の特許は、第36条第4項第1号、同条第6項第1号の規定に違反してなされたものであり、無効とすべきであると主張した。
(3)被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由は、いずれも理由がない旨主張するとともに、平成22年12月6日に訂正請求書を提出して訂正を求めた。
(4)これに対し、請求人は、平成23年2月3日に弁駁書、及び証拠方法として甲第14、15号証を提出して、同弁駁書において、上記訂正は、訂正の要件を満たさず、訂正は認められるものではない旨主張した。(その結果、訂正前の特許については、審判請求当初に申し立てた無効理由を解消していない旨主張した。)
(5)口頭審理に先立ち、請求人は、平成23年7月22日に口頭審理陳述要領書、及び証拠方法として甲第16号証を提出した。また、被請求人は、平成23年7月26日に、口頭審理陳述要領書を提出した。
(6)当合議体は、請求人に対し、平成23年8月24日付け無効理由通知書により、平成22年12月6日でした訂正請求後の本件特許の請求項1?6、11、12は、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしておらず、同請求項に係る特許は無効とすべきものと認められる旨を通知した。また、請求人には、職権審理の結果、同請求項について、同無効理由通知書記載の無効理由により無効とすべきである旨を記載した審理結果通知書を通知の上、意見を求めた。
(7)これに対し、被請求人は、平成23年9月26日に、意見書、及び乙第1号証を提出するとともに、訂正請求書を提出して訂正を求めた。なお、請求人は意見書を提出しなかった。
2.訂正事項
平成23年9月26日に新たに訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされたので、平成22年12月6日になされた訂正請求は特許法第134条の2第4項の規定により取り下げられたものとみなされる。したがって、本件訂正請求の内容は、本件特許の設定登録時の特許請求の範囲(以下、「特許請求の範囲」という。)、明細書(以下、「特許明細書」という。)を、各々、同訂正請求書に添付した特許請求の範囲(以下、「訂正特許請求の範囲」という。)、明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正しようとするものである。
すなわち、以下の特許請求の範囲
「【請求項1】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを含有することを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合してなる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄の少なくもいずれかの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?8質量部である請求項1から2のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項4】
黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄の少なくもいずれかが、黄色三二酸化鉄である請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
黄色三二酸化鉄の含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1質量部である請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
カラギーナンの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部である請求項1から5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物が、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又はドライシロップ剤である請求項1から6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
(I)ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含む製造方法により得られる錠剤である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
錠剤が、速崩性錠剤である請求項7から8のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
(I)ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法。
【請求項11】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする、医薬組成物におけるベシル酸アムロジピンの安定化方法。
【請求項12】
ベシル酸アムロジピンを含有する医薬組成物に用いられ、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とするベシル酸アムロジピンの安定化剤。」
を、下記の訂正特許請求の範囲のとおり訂正するとともに、当該訂正に対応する明細書及び図面の記載事項を合わせて訂正することを求めるものである。
「【請求項1】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを含有することを特徴とする医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤、及び、液剤を除く。)。
【請求項2】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合してなる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄の少なくもいずれかの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?8質量部である請求項1から2のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項4】
黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄の少なくもいずれかが、黄色三二酸化鉄である請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
黄色三二酸化鉄の含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1質量部である請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
カラギーナンの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部である請求項1から5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物が、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又はドライシロップ剤である請求項1から6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
(I)ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含む製造方法により得られる錠剤である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
錠剤が、速崩性錠剤である請求項7から8のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
(I)ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法。
【請求項11】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする、医薬組成物(ただし、液剤を除く。)におけるベシル酸アムロジピンの安定化方法。
【請求項12】
ベシル酸アムロジピンを含有する医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤、及び、液剤を除く。)に用いられ、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とするベシル酸アムロジピンの安定化剤。」
3.訂正の可否に対する判断
(1)特許請求の範囲の訂正について
(1)-1 「特許請求の範囲」の請求項1の訂正について
この訂正は、「ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを含有することを特徴とする医薬組成物。」を「ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを含有することを特徴とする医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤、及び、液剤を除く。)。」とすることを求めるものである。
上記の訂正は、訂正前の医薬組成物から、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤、及び、液剤」という特定の剤形の組成物を除くことを求めるものである。
ところで、医薬製剤が、剤形の観点から、固形製剤、半固形製剤、液状製剤に分類することができることは、本件出願優先権主張日前に広く知られている(第十三改正 日本薬局方解説書 1996 縮刷版 廣川書店 製剤総則A-59参照)。そして、「特許請求の範囲」には、「医薬組成物」と記載があるにすぎず、その剤形についてなんらの規定もなされていない。また、「特許明細書」の記載をみると、剤形に関しては段落0033に、「特に制限されず」と記載がある。これらの記載に照らせば、訂正前の特許請求の範囲の「医薬組成物」には、上記した三つの製剤が全て含まれていたものと認めるのが相当である。そして、訂正明細書において除くとされている「コーティング錠剤」、「液剤」は、各々、固形製剤、液状製剤に該当するものであるから、本件訂正請求は、「特許請求の範囲」の「医薬組成物」に含まれる剤形からその一部を削除することを求めるものである。
そうすると、上記訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(1)-2 「特許請求の範囲」の請求項11の訂正について
この訂正は、「ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする、医薬組成物におけるベシル酸アムロジピンの安定化方法。」から「ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする、医薬組成物(ただし、液剤を除く。)におけるベシル酸アムロジピンの安定化方法。」とすることを求めるものである。
上記の訂正は、訂正前の医薬組成物から、「液剤」という特定の剤形の組成物を除くことを求めるものであり、上記(1)-1と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(1)-3 「特許請求の範囲」の請求項12の訂正について
この訂正は、「ベシル酸アムロジピンを含有する医薬組成物に用いられ、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とするベシル酸アムロジピンの安定化剤。」を「ベシル酸アムロジピンを含有する医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤、及び、液剤を除く。)に用いられ、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とするベシル酸アムロジピンの安定化剤。」とすることを求めるものである。
上記の訂正は、訂正前の医薬組成物から、「黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤、及び、液剤」という特定の剤形の組成物を除くことを求めるものであり、上記(1)-1と同様の理由により、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるし、また、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(2)「特許明細書」の訂正について
「特許明細書」の訂正は、いずれも、「特許請求の範囲」の訂正に伴い、対応する明細書の記載を訂正することを求めるものである。
「特許請求の範囲」の訂正については、上記(1)記載のとおりであるから、「特許明細書」の訂正は、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてするものであり、特許請求の範囲を実質上拡張又は変更するものでもない。
(3)したがって、平成23年9月26日付けの訂正は、特許法第134条の2第1項第1号乃至第3号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項の規定によって準用する特許法第126条第3項及び第4項の規定に適合するので、当該訂正を認める。
4.請求人の主張、証拠方法
請求人が主張する無効理由(理由1、理由2-1?2-9、理由3、理由4-1、4-2)、及び証拠方法は以下のとおりである。
なお、以下にあっては、訂正特許請求の範囲に記載された請求項1?12に係る発明を、各々「本件特許発明1」?「本件特許発明12」、あるいは単に「本件特許発明」という。
<無効理由>
(新規性について)
理由1
本件特許発明1、7は、甲第1号証に記載された発明であるから、当該特許は、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。
(進歩性について)
理由2-1
本件特許発明1、7は、甲第1号証に記載された発明及び当該技術分野において本件出願優先権主張日前の周知技術(以下、「周知技術」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-2
本件特許発明1は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第6号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明と周知技術、または甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-3
本件特許発明2は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第6号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明と周知技術、または甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-4
本件特許発明3?5は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-5
本件特許発明7は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第7号証に記載された発明と周知技術、甲第6号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明、甲第7号証に記載された発明と甲第8号証に記載された発明と周知技術、または甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-6
本件特許発明8、10は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術、または甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-7
本件特許発明9は、甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-8
本件特許発明11は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、または甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
理由2-9
本件特許発明12は、甲第5号証に記載された発明及び甲第6号証に記載された発明、または甲第5号証に記載された発明と甲第7号証に記載された発明と周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、当該特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
(記載要件について)
理由3
・黄色三二酸化鉄によるベシル酸アムロジピンの安定化について
本件特許明細書中に試験データの記載がない、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.1未満を含む全範囲において、ベシル酸アムロジピンが熱、あるいは湿度に対して安定化するという本件所望の効果を奏すると推認し得ない。
・カラギーナンによるベシル酸アムロジピンの安定化について
本件特許明細書中に試験データの記載がない、ベシル酸アムロジピン1質量部に対して1以外の全範囲において、ベシル酸アムロジピンが光に対して安定化するという本件所望の効果を奏すると推認し得ない。また、0.3未満を含む全範囲において、ベシル酸アムロジピンが熱に対して安定化するという本件所望の効果を奏すると推認し得ない。配合比1未満の全範囲において、ベシル酸アムロジピンが湿度に対して安定化するという本件所望の効果を奏すると推認し得ない。
本件発明1?12は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たしていないから特許を受けることができないものであり、本件発明1?12は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
<請求人が提出した証拠方法>
甲第1号証:国際公開第03/097045号パンフレット
甲第2号証:特開2004-210797号公報
甲第3号証:今日の治療薬(1998年版)、南江堂、第532頁(発行日1998年2月20日)
甲第4号証:医薬品添加物事典、第1版、薬事日報社、第24、60頁
(発行日1994年1月14日)
甲第5号証:International Journal of Pharmaceutics, 103、p69-76 (1994)
甲第6号証:Journal of Pharmaceutical and Biomedical Analysis 27、p19-24 (2002)
甲第7号証:特開2003-104888号公報
甲第8号証:特開2000-191516号公報
甲第9号証:特開2003-34655号公報
甲第10号証:薬剤学マニュアル、南山堂、第84頁(出版日1998年3月31日)
甲第11号証:医薬品インタビューフォーム(アムロジピン錠「ケミファ」)2009年12月作成(改訂第4版)
甲第12号証:特開2009-35545号公報
甲第13号証:Marine Chemistry, 38, p. 133-143 (1992)
甲第14号証:第十五改正日本薬局方第1追補,第40?41頁
甲第15号証:National Environmental Journal (on-line version), The 4 Technology Solutions/IRON-THE ENVIRONMENTAL IMPACT OF A UNIVERSAL ELEMENT, Vol. 4, No. 3, p. 24-25 (1994) 2
甲第16号証:平成18年(行ケ)10563号大合議判決(知財高判平成20年5月30日)
5.当審が通知した無効理由の概要
<無効理由>
(記載要件について)
理由4-1
平成22年12月6日付け訂正請求書に記載される請求項1?6、11、12は、同請求項記載の医薬組成物が「水溶液剤を除く。」ものである旨規定される。しかし、本件明細書の記載を参酌しても、当該用語によって表される医薬組成物がいかなる剤形の薬剤を意味するかは不明であり、結果として、水溶液剤を除く医薬組成物がいかなる剤形の薬剤を意味するかも不明であるといえるから、上記請求項に、同請求項に係る発明が明確に記載されていると認めることはできない。
よって、本件特許は特許法第36条第6項第2号の規定に違反してなされたものである。
理由4-2
訂正後の請求項1?6、11、12に係る発明には、ゼリー剤、すなわち半固形製剤という、光、水分、熱に対するベシル酸アムロジピンの安定性を保持できる医薬組成物を提供する旨の本件特許請求の範囲に係る発明の目的を達成できない態様が含まれていることとなり、また、液状製剤についても上記ゼリー剤、すなわち半固形製剤についての試験結果から把握されると同様の結果が得られるものと推察される。
そうすると、請求項1?6、11、12には、本件明細書記載の製剤を超えた発明が記載されているものと認められる。
よって、本件特許は特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものである。
6.被請求人の主張
被請求人は、1.(3)記載のとおり、「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求め、上記請求人の主張する無効理由、及び、5.に記載される当審が通知した無効理由は、いずれも理由がない旨主張するとともに、以下の証拠方法を提出した。
<被請求人が提出した証拠方法>
乙第1号証:新しい製剤学、廣川書店、目次vii、第257-269頁
(発行日 平成6年2月20日)
7.本件特許発明に対する判断
(1)本件特許発明
本件特許発明は、訂正特許請求の範囲に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。
「【請求項1】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを含有することを特徴とする医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤、及び、液剤を除く。)。
【請求項2】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合してなる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄の少なくもいずれかの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?8質量部である請求項1から2のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項4】
黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄の少なくもいずれかが、黄色三二酸化鉄である請求項1から3のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項5】
黄色三二酸化鉄の含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1質量部である請求項4に記載の医薬組成物。
【請求項6】
カラギーナンの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部である請求項1から5のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項7】
医薬組成物が、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又はドライシロップ剤である請求項1から6のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項8】
(I)ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含む製造方法により得られる錠剤である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
錠剤が、速崩性錠剤である請求項7から8のいずれかに記載の医薬組成物。
【請求項10】
(I)ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法。
【請求項11】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする、医薬組成物(ただし、液剤を除く。)におけるベシル酸アムロジピンの安定化方法。
【請求項12】
ベシル酸アムロジピンを含有する医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤、及び、液剤を除く。)に用いられ、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とするベシル酸アムロジピンの安定化剤。」
(2)特許法第29条第1項第3号について
(2)-1 理由1について
ア.甲第1号証
甲第1号証の製剤例3には、1ユニットあたり、ディオバン薬物80.00mg、アムロジピン薬物6.94mgを含有する錠剤処方例が記載されている(p17)。
同製剤例で用いられているアムロジピン薬剤は、ノルバスクとの商品名で市販されている薬物である(甲第1号証 p12下から2行?P13 2行)。そして、ノルバスクがベシル酸アムロジピンを有効成分とする市販薬であることは本件出願優先権主張日前に周知の事実であったといえる(甲第2号証 p9 下から2行、甲第3号証 p532参照)。また、上記製造例3には、同錠剤は、たとえば製剤例1と同様にして製造されることが記載されている。そこで、製剤例1をみると、ディオバンを含有する粒剤から得られた錠剤に、ディオラック組成物でフィルムコーティングした、フィルムコーティング錠剤が記載されている(p13?14)から、製剤例3に記載された錠剤も同様にディオラック組成物でフィルムコーティングされた錠剤であると認められる。ここでディオラックとは、黄色酸化鉄と赤色酸化鉄を含有する組成物であり(甲第1号証 p17のディオラックの組成を記載した表)、また、黄色酸化鉄が黄色三二酸化鉄であり、また、赤色酸化鉄が三二酸化鉄であることは本件出願優先権主張日前に周知の事実である(甲第4号証参照)。
イ.対比・判断
(本件特許発明1について)
ア.で指摘した甲第1号証の記載事項から、甲第1号証には、「ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄を含有する医薬組成物であって、黄色三二酸化鉄と三二酸化鉄をコーティング層に含有するコーティング錠剤」が記載されているものと認められる。
甲第1号証に記載される上記製剤形態は、「ただし、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤、・・・を除く。」として、本件特許発明1から削除されたものであり、また、甲第1号証には、ディオラックをフィルムコーティング以外に用いて、上記形態以外の他の形態にベシル酸アムロジピンを調製することについて記載はない。
そうすると、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明とすることはできない。
(本件特許発明7について)
本件特許発明7は本件特許発明1を引用しており、本件発明1と同様に、甲第1号証に記載される上記製剤形態は、特許請求の範囲から除かれているものである。
したがって、本件特許発明7は、本件特許発明1について記載したのと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明とすることはできない。
(3)特許法第29条第2項について
(3)-1 理由2-1について
(本件特許発明1、7について)
甲第1号証には、上記(2)-1で指摘したとおりの記載がある。しかし、甲第1号証には、黄色三二酸化鉄と三二酸化鉄をコーティング層に含有するコーティング錠剤以外のベシル酸アムロジピンの製剤形態については上記のとおり記載も示唆もないし、また、ベシル酸アムロジピンの安定化を目的として他の製剤形態とすることが、本件出願優先権主張日前に周知であるとも認められない。
そうすると、本件特許発明1、7は、甲第1号証に記載された発明及び本件出願優先権主張日前の周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
(3)-2 理由2-2?2-9について
ア.甲第5号証
甲第5号証には、次の通りの記載がある(以下、翻訳文で示す。)。
(5A)「合成酸化鉄は、400nm以下の波長の放射光の強力な吸収剤である。・・・これらの性質は、ソリブジン(BV-araU)とニフェジピンという2つの光感受性薬物の光安定化に使われた。湿式造粒法で製造した、0.2%w/w黄酸化鉄を含むソリブジンおよびニフェジピン、または含まないソリブジンおよびニフェジピンの、10mgの力価を有する水溶性コーティングされていない錠剤を、室内光および/または400フットカンデラの光に直接曝露させて光安定試験が行われた。曝露の後、光分解による力価の減少および分解生成物の濃度増加が分析された。0.2%w/wの黄酸化鉄を含むコーティングされていない錠剤は、黄酸化鉄を含まないコーティングされていない錠剤よりも光に対して安定であった。0.2%w/wの黄酸化鉄を中心に含むコーティングされていない錠剤とフィルムコーティング錠との光分解に対する効果の違いが調べられた。0.2%w/wの黄、赤、または黒酸化鉄を含むコーティングされていない錠剤は、11%w/wのOpadryRホワイトでコーティングした錠剤よりも光保護効果が高かった。さらに、0.05%w/wの赤および0.04%w/wの黄酸化鉄を同時に含むコーティングされていない錠剤は、0.2%w/w 黄または赤酸化鉄のいずれかを単独で含むコーティングされていない錠剤よりも光保護効果があった。」(第69頁、Summary(要約)1?11行)
(5B)「ニフェジピンは光の存在下で主に2つの分解生成物、ニトロフェニルピリジンおよびニトロソフェニルピリジンに分解する(BersonおよびBrown、1955)。合成酸化鉄のニフェジピンに対する光安定化効果を研究するために黄酸化鉄が選ばれ、ニフェジピンのコーティングされていない錠剤に含められ、その後、光源曝露に対する安定性がモニターされた。」(第70頁左欄第8?15行)
(5C)「粒剤の調製 本研究に用いられた錠剤を作製するのに使用される粒剤の製剤組成は下記の通り(表省略;表には、ソリブジンまたはニフェジピン(製剤中、10.0または12.5% w/w)、酸化鉄(黄、赤、または黒)(製剤中、0.2% w/w)を含有する組成物が記載されている。)
活性成分(ソリブジンまたはニフェジピン)及びラクトースは別々に20番メッシュのふるいにかけられ、・・・。酸化鉄は、30番メッシュのふるいにかけられ微結晶セルロースと混合され・・・。その後、この混合物は、活性成分、ラクトース及び糊化澱粉を入れたボウルに加えられた。ボウルの内容物は、低速で5分間混合され、精製水を用いて造粒され・・・乾燥された。・・・着色剤を含有しない粒剤が、対照物として供される錠剤を製造するために、同様な製法により製造された。着色剤の代わりに、ラクトースが適量加えられた。」(第70頁 右欄第17行?第71頁 左欄第21行)
(5D)「粒剤の圧縮錠剤 ソリブジン粒剤は圧縮され、・・・ニフェジピン粒剤は、1/4インチの円形凹型治工具を用いたF-プレスで,10mg力価の100mgの円形錠剤に圧縮打錠された。」(第71頁 左欄第22?第29行)
(5E)「錠剤のコーティング 12.5% w/w オパドライコーティング水懸濁液が・・・調製された。・・・該コーティング懸濁液が、・・・コーティングパンを用いて圧縮錠剤に適用された。・・・コーティングの量は錠剤の重量の増加に応じて決定された。」(第71頁 左欄第30行?末行)
(5F)「結果及び考察 ニフェジピンとソリブジンのコーティングされていない錠剤は、それが酸化鉄を含有するものも含有しないものもともに各種光源に曝露した後、力価の損失及び各分解生成物の濃度の増加を測定することによって、それぞれの分解がモニターされた。(表1省略;表1には、酸化鉄を含有しないものは、光曝露14日後のニフェジピン残存%が56.8%であるのに対して、0.2% w/w 黄色酸化鉄を含有するものは同75.2%であったことが記載されている。)」(第72頁 右欄第1?7行、第73頁 表1)
(5G)「0.2%の黄色酸化鉄を含む又は含まない10mg力価のニフェジピン錠剤が、400フットカンデラの光に14日間曝露された。14日間の曝露後、いずれの酸化鉄も含まない錠剤は初期のニフェジピン力価の57%しか保持できていなかったのに対し、酸化鉄を含む錠剤については、初期のニフェジピン力価の75%が検出された(表1)。加えて、酸化鉄を含まない錠剤における分解生成物濃度は、酸化鉄を含む錠剤に比べて高かった。これは、酸化鉄にはニフェジピンの光分解を弱める働きがあることを示している(表1)。」(第74頁左欄第1?12行)
(5H)「上で取り上げた2種類の光感受性薬のうちソリブジンを選んでさらなる研究を行った。錠剤中の黄酸化鉄の濃度が0.2から0.5%w/wに増量されると、光安定化効果も若干増加した(表4)。より高濃度での酸化鉄は、光に対して不安定な活性成分に対してより一層の保護を与え得るであろうけれども、酸化鉄の着色剤としての使用はアメリカでは最大摂取量が1日当たり5mgの元素鉄に制限されている(医薬品添加剤便覧、1986)。」(第74頁左欄第26?末行)
(5I)「ソリブジン錠剤に関する酸化鉄の光安定化効果がフィルムコーティングのような従来の光保護手段と比べられた。ソリブジン錠剤は3,6,11% w/w オパドライホワイト(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、二酸化チタン、ポリエチレングリコール、ポリソルベート80を含有する)でコーティングされ、コーティングされていない錠剤とともに・・・の蛍光灯に7日間曝露された。これらの錠剤は、光分解、すなわちソリブジンのZ-アイソマーの濃度増加が分析された。・・・(表6省略;表6には、ソリブジンへの光曝露1,3,7日後の、コートされていない錠剤、3,6,11% w/w オパドライホワイトでコートされたソリブジン錠剤各々におけるのZ-アイソマー形成割合について記載されている。7日後の値は、順に、0.68、0.52、0.24、0.21%であることが記載されている。)」(第75頁左欄第22行?右欄第13行)
(5J)「上記のとおり、酸化鉄の光安定化効果はフィルムコーティングのそれより優れている。コーティングは、錠剤製造工程においてさらなる工程を要するために、コストがかかるし、時間もかかる。光感受性薬物のコーティングされていない錠剤製剤に酸化鉄を含めることによってコーティングしなくともよくなる。」(第76頁左欄第5?11行)
(5K)「結論 酸化鉄が光感受性薬物であるソリブジンとニフェジピンのコーティングされていない錠剤の製剤に用いられて、該薬物の光分解を減じた。ソリブジン錠に対する0.2% w/w 酸化鉄添加による光安定化効果は、11% w/w オパドライホワイトコーティングのそれより優れていた。・・・酸化鉄の安定化効果は、光不安定な薬物を、その製造時、もしくはその後の保存時に保護するのにたいへん有用である。」(第76頁左欄第14行?右欄第3行)
イ.甲第6号証
甲第6号証には、次の通りの記載がある(以下、翻訳文で示す。)。
(6A)「アムロジピン,R,S-2-[(2-アミノエトキシ)メチル]-4-(2-クロロフェニル)-3-エトキシカルボニル-5-メトキシカルボニル-6-メチル-1,4-ジヒドロピリジン(AML)は,高血圧症と狭心症[1]に広く用いられる強力な長期持続性のあるカルシウム拮抗剤であり,1,4-ジヒドロピリジン類と総称される類に属する。該類の全ての化合物に共通する性質は,光に曝されると薬物が酸化され[2-4],ピリジン類似体(AMLOX)を生成することである(Fig.1)。)」(第19頁左欄第2?11行)
(6B)「したがって、原末並びに製剤中におけるAMLとAMLOXとを同時分析するための迅速で正確なUV誘導法がここに報告されている。光曝露を最小化するために、その過程は、可能な限り速やかな実験条件を採用して、直接マトリックス懸濁液に対して行われた。」(第20頁左欄第3?第10行)
(6C)「アムロジピンの純粋な粉末は,ファイザー(ローマ,イタリア)から提供を受けた。・・・ノルバスク(ファイザー,イタリア)・・・。)」(第20頁左欄第17行?第20頁右欄第1行)
(6D)「以下の賦形剤;澱粉、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ステアリン酸が製剤に通常含有される量添加された。薬剤の分析用に5錠が計測されて粉末化された。1錠に対応する量が正確に計測され、エタノールと攪拌して50mlとした。この懸濁液1mlはエタノールで希釈して10mlとされ、濾過することなく分析された。」(第21頁左欄第1?12行)
(6E)「自然光への曝露は、6月?7月の期間で、晴天の日の9時から17時まで連続してサンプルを曝露して行われた。人工光による照射は、280-360nmのUVランプ(30W、距離30cm)に曝露して行われた。AML原末は薄層にて提供され、曝露期間中、種々の時間において分析された。この目的のために粉末10mgが正確に計測され、エタノールで希釈され20μg/mlの濃度とされた。製剤に関しては、10錠が自然光並びに人工光に曝露され、・・・種々の時期に分析された。この過程は包装されている錠剤に関しても同様になされた。」(第21頁左欄第14?末行)
(6F)「提案された方法は原末並びに、包装材により包装されているか若しくはされていない医薬品投与形態に対する自然光並びに人工光の効果を研究するために適用された原末中のAMLOX量は、太陽光、人工光下で、各々8時間後、5時間後、約10%存在していた。製剤化された錠剤は、十分安定であり、自然光曝露46時間後、人工光曝露30時間後において、各々AML表示量の10%減少であった。これに反して、錠剤は包装材により包装されているならば光分解からよく保護された。」(第23頁右欄第14?末行)
ウ.甲第7号証
甲第7号証には、次の通りの記載がある。
(7A)「ジヒドロピリジン誘導体がニソルジピン、ニトレンジピン、ベニジピン、マニジピン、バルニジピン、アムロジピン、エホニジピン、ニルバジピンもしくはその医薬として許容し得る塩である請求項1もしくは請求項2記載のジヒドロピリジン誘導体の錠剤。」(請求項3、段落0011)
(7B)「酸化鉄が三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄を単独か、もしくは両者を組み合わせて使用するものである請求項4記載のジヒドロピリジン誘導体のフイルムコーティング錠剤。」(請求項5)
(7C)「ジヒドロピリジン誘導体は、光に対する安定性が低く、水性溶媒への溶解度が非常に低いために経口投与の場合には消化管液中で薬物が製剤から溶出するような工夫が必要である。そのため、ジヒドロピリジンの医薬組成物に関しては多くの特許出願並びに特許が存在する。例えば、・・・光に対して不安定な薬物の安定性を向上させるために、フィルムコーティング剤皮に酸化チタンを配合することが慣用の技術として利用されている。」(段落0004)
(7D)「これらの従来技術は、・・・作業工程が煩雑となり、・・・必ずしも望ましい技術とは言い難い。・・・又、酸化チタンをフィルムコーティング剤皮に使用してジヒドロピリジン誘導体のフィルムコーティング錠剤を作成した場合にも必ずしも満足のいく製剤中のジヒドロピリジン誘導体の光安定性を得られるものではなかった。」(段落0005)
(7E)「フイルムコーティング剤皮に酸化鉄を配合することにより、光に安定なジヒドロピリジン誘導体のフイルムコーティング錠剤を提供するものである。」(段落0009)
(7F)「実施例1 ニソルジピンのフイルムコーティング錠剤 以下の処方及び製法を用いて本発明品1のニソルジピンのフイルムコーティング錠剤を得た。」(段落0020) つづいて、(素錠部)に、1.ニソルジピン(10mg)・・・、(フィルムコーティング部)に、・・・2.酸化チタン、・・・4.三二酸化鉄(0.46mg)、5.黄色三二酸化鉄(0.19mg)を用いたニソルジピンのコーティング錠剤が記載されている。(段落0021)
(7G)「実施例2 ニソルジピンのフイルムコーティング錠剤 以下の処方及び製法を用いて本発明品2のニソルジピンのフイルムコーティング錠剤を得た。」(段落0026) つづいて、(素錠部)は実施例1と同一で、(フィルムコーティング部)に、・・・2.酸化チタン、・・・4.三二酸化鉄(0.13mg)を用いたニソルジピンのコーティング錠剤が記載されている。(段落0026)
(7H)「比較例2 ニソルジピンのフィルムコーティング錠剤
実施例2のフィルムコーティング部成分4を同量の酸化チタンに代え(審決注:実施例2のフィルムコーティング部は、1.ヒドロキシプロピルメチルセルロース2910、2.酸化チタン、3.マクロゴール6000(ポリエチレングリコール)、4.三二酸化鉄 からなる。よって、比較例2のフィルムコーティング部に含有される無機物は酸化チタンのみである。)、実施例2と同様の製法でニソルジピンのフィルムコーティング錠剤を得た。このフィルムコーティング錠剤は実施例2よりも光安定性に劣っていた。」(段落0031)
エ.甲第8号証
甲第8号証には、次の通りの記載がある。
(8A)「光に不安定な薬物を含有した粉体を、着色剤を含む結合液で湿式造粒してなる経口固形組成物。」(請求項1)
(8B)「光に不安定な薬物がソファルジン、ニフェジピン、・・・である請求項1?5のいずれかに記載の経口固形組成物。」(請求項6)
(8C)「着色剤が食用黄色4号、・・・黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄、・・・である請求項1?6のいずれかに記載の経口固形組成物。」(請求項7)
オ.甲第9号証
甲第9号証には、次の通りの記載がある。
(9A)速崩壊性固形製剤中の活性成分として、ニフェジピン、ニソルジピン、塩酸マニジピン、ベシル酸アムロジピン等のCa拮抗薬が記載されている(段落番号0005)。
(9B)実施例1?3:塩酸マニジピン整粒物(A、C、E)と黄色三二酸化鉄整粒物(B、D、F)を含む混合物を打錠して錠剤を製造することが記載されている(段落番号0015?0017)。
(9C)表3中に、製造された錠剤が口腔内速崩壊性であることを示すデータが記載されている(段落番号[0022]、表3)。
カ.対比・判断
(本件特許発明1について)
甲第5号証には、上記摘記事項(5A)、(5C)、(5D)、(5F)からみて、「ニフェジピンと黄色酸化鉄とを含有する錠剤であって、黄色酸化鉄がニフェジピンとともに錠剤を構成する組成物中に含有されている錠剤。」の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。そして、甲第5号証には、さらに、当該錠剤が、黄色酸化鉄を含有しない組成物から製造された錠剤に比べて、ニフェジピンの光分解を減少させることができたこと(上記摘記事項(5F)、(5G))も記載されている。
本件特許発明1と引用発明1とを対比する。
黄色酸化鉄とは、黄色三二酸化鉄であることは上記(2)-1で指摘したとおり本件出願優先権主張日前に周知の事実である。
また、本件特許発明1は、「医薬品組成物」に係る発明であるが、本件訂正明細書には、本件訂正特許請求の範囲の医薬組成物は、その剤形に制限はないとされ(段落0033)、たとえば、錠剤が例示されている(段落0039)から、引用発明1の「錠剤」は、本件特許発明1の「医薬組成物」に相当する。
そうすると、両者は、「医薬成分と黄色三二酸化鉄とを含有する医薬品組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点
(i)医薬成分として、本件特許発明1がベシル酸アムロジピンを含有するのに対し、引用発明1がニフェジピンを含有している点。
以下、上記相違点(i)について検討する。
ニフェジピンが光に不安定な薬物であることは本件出願優先権主張日前に周知の事実である(摘記事項(5A)、(8B))。そして、このような光に対する不安定性は、ニフェジピンのみならず、ニフェジピンと同じく1,4-ジヒドロピリジン骨格を有し、1,4-ジヒドロピリジン類もしくはジヒドロピリジン類と総称される全ての化合物に共通する性質であることもまた本件出願優先権主張日前に周知の事実である(摘記事項(6A)、(7A)、(7C))。
さらに、甲第6号証には、アムロジピンが1,4-ジヒドロピリジン類に属し、光にさらされると酸化されてピリジン類似体を生成することが記載されている(摘記事項(6A))。そして、市販薬であるノルバスクについて、自然光もしくは人工光を曝露した場合のアムロジピン残存量とその酸化類似体生成量とを同時分析した結果が記載されており(摘記事項(6F))、それによれば、製剤化された錠剤は、十分安定であるとされてはいるが、自然光曝露46時間後、人工光曝露30時間後において、各々AML表示量の10%減少したのに対して、包装されている場合にはよく保護される、とある。ここで、ノルバスクが、(2)-1 ア.に記載したとおり、ベシル酸アムロジピンを有効成分とする市販薬であることは本件出願優先権主張日前に周知の事実であったといえるし、また、上記分析結果からは、包装材による包装がなされていない場合にアムロジピンが減少していることが見て取れるから、ベシル酸アムロジピンの光安定性についてはいまだ改善の余地があるものと把握される。
そうすると、同じく光不安定な物質であるジヒドロピリジン誘導体である、甲第6号証記載のベシル酸アムロジピンの光に対する不安定性を改善するために、引用発明1において、ニフェジピンにかえてベシル酸アムロジピンを用いてなる本件特許発明1を当業者が想到することに格別の困難性は見いだせない。
また、甲第7号証には、ジヒドロピリジン誘導体が光に対する安定性が低いことが記載されており、それらジヒドロピリジン誘導体として、アムロジピン若しくはその医薬として許容しうる塩が挙げられている(摘記事項(7A)(7C))。ところで、アムロジピンを含有する薬剤として、ベシル酸アムロジピンが本件出願優先権主張日前すでに薬として市販されていたことは、(2)-1 ア.に記載のとおりであるから、前記市販のベシル酸アムロジピンは、甲第7号証記載のアムロジピン誘導体の医薬として許容しうる塩に該当するものであり、甲第7号証に記載されているに等しいか、示唆されていたものと認められる。
そして、甲第7号証には、三二酸化鉄、黄色三二酸化鉄を単独か、若しくは両者を組み合わせた酸化鉄をフィルムコーティング剤皮に配合してなる製剤が、ジヒドロピリジン誘導体錠剤の光安定性を改善したことが記載されている。さらに、同号証に酸化鉄が酸化チタンに比べて優れた光安定化作用を有することが記載されているように、酸化鉄を用いた場合には、ジヒドロピリジン誘導体に対し、従来知られている酸化チタンをしのぐ光安定剤を提供し得たものであることが理解できるのであって、その光安定化作用はそこに具体的に記載される製剤形態にのみ発揮される作用であると限定的に解釈されるべきものでないことは明らかである。また、甲第5号証には、「コーティングは、錠剤製造工程においてさらなる工程を要するために、コストがかかるし、時間もかかる。光感受性薬物のコーティングされていない錠剤製剤に酸化鉄を含めることによってコーティングしなくともよくなる。」(摘記事項(5J))と記載され、実際、摘記事項(5G)に摘記したように、酸化鉄を中心に含むコーティングされていない錠剤という形態でニフェジピンの光安定化効果を改善できたことが具体的に記載されているように、酸化鉄を有効成分に配合してそれを錠剤化することで、コーティングという製剤形態に比べて、より少ない工程からなる簡便な方法で製剤化して有効成分を光安定化しうることが示されているところでもある。
そうすると、ニフェジピンと同じく光不安定なジヒドロピリジン誘導体である、甲第7号証記載の、もしくは本件出願優先権主張日前の周知技術を考慮することにより甲第7号証に記載された医薬として当業者が容易に想到し得たと認められるベシル酸アムロジピンに対して、その光に対する不安定性を改善するために、引用発明1において、ニフェジピンにかえてベシル酸アムロジピンを用いてなる本件特許発明1を当業者が想到することに格別の困難性は見いだせない。
そして、上記のごとき光安定化効果については、甲第5号証、並びに、甲第6号証もしくは甲第7号証の記載から予想しうる範囲内のものである。また、本件訂正明細書に記載される熱や水分に対する効果について、確かに、ジヒドロピリジン系化合物の熱や水などの保存環境等に対する黄色三二酸化鉄の効果について、甲第5号証?甲第7号証には記載されていない。しかし、医薬品が、その保存の際、一般に、光のみならず、当該医薬品の品質に影響を与えるような熱や水による作用に対して保護されるべきであることは、当該技術分野における技術常識である。それゆえ、たとえば、医薬品の規格、試験法などを記した公定書である日本薬局方においては、その医薬品の種類に応じて、通常の取り扱い、運搬又は保存状態において、内容医薬品に規定された性状及び品質に対して影響を与える光の透過や水分の進入を防ぐために、医薬品をいれる容器の種類を規定したり、あるいは、高温多湿の状態は製剤にとって良い条件ではないことから、製剤の保存中の温度を規定したり、保存中の製品の品質を確保するなどの目的で添加剤を加えているところである(第十三改正 日本薬局方解説書 1996 縮刷版 廣川書店 通則A-47、54、55 製剤総則A-57?59参照)。したがって、たとえ、温度や湿度に対して医薬品が安定であるべきことについて各甲号証に明示の記載がなくとも、医薬品である以上、温度や湿度、すなわち、熱や水に対し安定であることは当然の課題であり、検討されるべきであることは当業者であれば容易に理解しうるところといえる。そして、本件訂正特許請求の範囲には、医薬成分であるベシル酸アムロジピンと黄色三二酸化鉄とを配合することが規定されているにすぎず、そのような発明特定事項は、上記検討のとおり、光に対する安定性を考慮することによって当業者が容易に採用し得たといえるものであり、また、熱や水に対する安定性をもたらすために特別の発明特定事項を採用したものでもない。
ところで、甲第6号証には、薄層にて提供されたアムロジピン(AML)原末、あるいは包装材により包装されているかもしくはされていないその錠剤製剤を、6月?7月の期間で、晴天の日の9時から17時まで連続して自然光に曝露するか、あるいは280-360nmのUVランプ(30W、距離30cm)の人工光に曝露してAMLの光安定性を調べたことが記載されている(甲第6号証 摘記事項(6E)、(6F))。また、甲第5号証記載の光感受性薬であるニフェジピンの酸化鉄による光安定化効果は、摘記事項(5G)に摘記したとおり、400フットカンデラの光に14日間曝露後、ニフェジピン力価の損失を測定することによりなされた。そして、その際、錠剤は単一の層になるようにペトリ皿に置かれ、400フットカンデラの光に曝露させ、24時間ごとに錠剤は裏返され、光曝露の面積を最大になるようにされたものであるし(甲第5号証 第71頁右欄第1?17行)、甲第7号証には、ニソルジピンの錠剤を、60万Lux・時間に暴露し、薄層クロマトグラフィーによってニソルジピンの分解物を測定することによりニソルジピンの光安定性を調べたことが記載されている(甲第7号症 段落0029)。
たしかに、上記光安定性試験においては、光暴露以外の条件、たとえば熱や水分の存在量といった測定条件について明示の記載はなされていない。しかし、たとえ、上記各号証に記載された試験が、光に対する安定性にのみ着目して行われた試験であったとしても、上記光安定性試験は熱や水分の影響を受けないような特別の条件下で行われたものでもない以上、アムロジピンなどの光に対して不安定なジヒドロピリジン系化合物は、当該試験において、周辺環境中に存在する熱や水分にさらされていたと推測され、その程度の熱、水分に対する安定性も同時に確認されていたということができる。実際、たとえば、甲第6号証に記載の測定条件、特に日時をみると、当該試験は、医薬品の通常の保存条件である室温を上回る温度において、すなわち多少なりとも熱負荷がかかった条件下でなされたものと把握される。そして、この程度の熱、水分に対する安定性が既に確認できているとすると、アムロジピンなどのジヒドロピリジン系化合物が医薬効果を有する成分であって、通常の取り扱い、運搬又は保存状態において、光のみならず、当該医薬品の品質に影響を与えるような熱や水による作用に対して保護されるべきものであることを考慮するならば、アムロジピンを含有成分とする医薬品であるベシル酸アムロジピンと黄色三二酸化鉄との医薬組成物について、さらに、各甲号証に具体的な記載がない熱、水分の高い状態における安定性を有することが確認されたからといって、そのことをもって直ちに本件特許発明1が格別顕著な効果を奏し得たものと結論付けることはできない。
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
本件審判被請求人は、1)光に対する安定化効果についてみても、ジヒドロピリジン系化合物の中でもそのわずかな化学構造の違いによって光分解の速度定数が500倍以上もの差があるし、2)本件特許発明1の、水分、熱などの総合的な保存環境等に対し全体的にバランスの良い安定性を実現するという課題、及びそのための解決手段について、請求人が提示したいずれの甲号証にも記載も示唆もされていないし、その効果についても、本件訂正明細書に、実施例1、2及び対照例1の顆粒剤を用いて、5℃密閉系、40℃75%R.H.開放系、60℃密閉系の各条件下で1ヶ月間、保存安定性試験を行い、不純物の含量を測定した結果を表2に記載し、ジヒドロピリジン系化合物に対して黄色三二酸化鉄又はカラギーナンを配合することにより、温度、湿度、光の保存環境下の影響を受けない医薬組成物を提供することが明らかとなった点(段落0056、0057)や、あるいはまた、実施例13で得られた速崩性錠剤を用いて、ベシル酸アムロジピンに対する黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄の混合系の、40℃75%密閉系、60℃開放系及び光照射条件における保存安定化効果について検討を行い、1ヶ月後に、不純物含量を測定した結果を対照例3及び実施例7と比較した結果を表5に記載して、酸化鉄を配合した実施例は明らかに加温、加湿又は光により生じる不純物含量を抑制することが明らかとなった点(段落0067、0068)が記載されているとして、総合的な保存環境等に対し全体的にバランスの良い安定性を示すという、各甲号証に比べて有利な効果を奏する旨主張する。
しかし、1)に関して、被請求人は、本件特許の審査手続中において提出した資料中、アムロジンやニフェジピンをはじめとする各種の1,4-ジヒドロピリジン系化合物の光分解速度定数が異なることを示すに留まり、甲第5号証に記載される、黄色三二酸化鉄の配合によってニフェジピンの光分解効果が抑制される程度と、ベシル酸アムロジピンの光分解が抑制される程度とを比べる試験結果を示すものでもなく、本件特許発明が甲第5号証記載の発明と比べて予想を超えた光安定化効果を奏するものであることを裏付けるに足る資料をなんら示していない。
次に、2)に関しては、光に対する安定性をもたらすとの観点から採用された黄色三二酸化鉄とベシル酸アムロジピンとの医薬組成物について、光安定性試験条件下においてアムロジピンなどのジヒドロピリジン系化合物がさらされている周辺環境における熱、水分よりさらに過酷な条件下における安定化効果が確認されたからといって、それを格別顕著な効果であるといえないことは、すでに上記したとおりである。よって、上記請求人の主張は採用し得ない。
(本件特許発明2について)
本件特許発明2は、本件特許発明1において、ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを「含有する」とされている点について、その含有方法を「混合してなる」とさらに特定するものである。
そうすると、本件特許発明2と引用発明1とは、医薬成分として、本件特許発明1がベシル酸アムロジピンを混合してなるのに対し、引用発明1がニフェジピンを含有している点で相違する。
甲第5号証には、医薬成分と酸化鉄、その他の添加剤を混合して医薬組成物を調製しており(摘記事項(5C)(5D))、引用発明1においてニフェジピンを含有するということには具体的には混合するとの態様を含むものであり、この点は実質的な相違点ではない。
そして、本件特許発明1が、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められることは、(本件特許発明1について)の項に記載したとおりであるから、本件特許発明2は、本件特許発明1についての同様の理由により、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(本件特許発明3について)
本件特許発明3は、本件特許発明1の黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄の少なくもいずれかの含有量をベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?8質量部であると特定するものである。
甲第5号証には、医薬成分であるニフェジピンと酸化鉄の医薬組成物中の含有量に関して、錠剤を作成するために、ニフェジピンを製剤中、12.5% w/w)、酸化鉄(黄、赤、または黒)を製剤中、0.2% w/wの割合で含有する組成を有する粒剤を用いたことが記載されており(摘記事項(5C)、これを、医薬成分であるニフェジピン1質量部に対する値に換算すると、酸化鉄は0.016質量部となる。また、黄色酸化鉄の含有量については、甲第5号証にさらに、「錠剤中の黄色酸化鉄の濃度がこの値は、0.2から0.5% w/wに増量されると光安定化効果も若干増加する。」(摘記事項(5H)とも記載されており、仮に、この上限値に当たる量が上記のニフェジピンに対して含有されたとすると、ニフェジピン1質量部に対して酸化鉄が0.04質量部となる。また、甲第5号証には、より高濃度の酸化鉄が、より一層の光保護効果を与えることとともに、最大摂取量が定められていることについても記載されており(摘記事項(5H))、これらの記載に接した当業者であれば、酸化鉄の含有量について、最大摂取量を上限として考慮しつつ、より多く含有させることでより好ましい光安定化効果が得られることを期待するものと認められる。そうすると、ベシル酸アムロジピンを医薬成分とした場合にも、酸化鉄の含有量について、上記のニフェジピンについて記載された配合量を参考に、光安定化効果を最適化するために可能な限り増加させる値を検討することは当業者が容易になし得るところと認める。
そして、本件特許発明1が、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、それをさらに本件特許発明3のごとく特定することは上記のとおりであるから、本件特許発明3もまた、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(本件特許発明4について)
本件特許発明4は、本件特許発明1をさらに少なくとも黄色三二酸化鉄を含有する医薬組成物に特定するものである。そして、引用発明1が黄色三二酸化鉄を含有する発明であることは、(本件特許発明1について)の項に記載したとおりであり、本件特許発明4は、同項記載と同様の理由並びに上記理由により、甲5号証及び甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(本件特許発明5について)
本件特許発明5は、本件特許発明3記載の酸化鉄を黄色三二酸化鉄に、また、その含有量をベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1質量部と特定するものであり、その数値は、本件特許発明3において規定される範囲に包含されるものである。
そして、本件特許発明1が、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものと認められることは、(本件特許発明3について)の項に記載したとおりであるから、本件特許発明5は、本件特許発明1についてと同様の理由並びに上記理由により同各号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(本件特許発明7について)
本件特許発明7は、本件特許発明1をさらにその剤形について、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤又はドライシロップ剤に特定するものである。
ところで、引用発明1が、錠剤に係る発明であって、甲第5号証に記載された発明であることは(本件特許発明1について)の項に記載のとおりである。
そして、本件特許発明1が、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められることは、(本件特許発明1について)の項に記載したとおりであるから、少なくとも、本件特許発明7の、錠剤の剤形に係る発明については本件特許発明1についてと同様の理由により同各号証記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
そして、甲第5号証には、ニフェジピンと酸化鉄(黄、赤、または黒)とを混合して粒剤を製造し、つづいて当該粒剤を打錠することにより錠剤を製造することが記載されており(摘記事項(5C)、錠剤を製造する工程に先立ち粒剤が製造されており、また、粒剤という剤形は医薬品の形態として周知汎用のものであるから、錠剤に代えて粒剤の形態により医薬組成物を提供することも、甲5号証及び甲第6号証、又は甲5号証及び甲第7号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものである。
(本件特許発明8について)
本件特許発明8は、本件特許発明7をさらにその製造方法について、
(I)ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含む製造方法により得られる錠剤である、請求項7に記載の医薬組成物、に特定するものである。
甲第5号証には、ニフェジピンと酸化鉄(黄、赤、または黒)、及び他の配合剤を混合したのち、精製水を用いて造粒し、乾燥して粒剤を製造し、つづいて得られた粒剤を打錠することによりニフェジピンと酸化鉄とを含有する錠剤を製造することが記載されている(摘記事項(5C)、(5D))。そして、表1には、前記酸化鉄として黄色酸化鉄を含有を用いて得られた錠剤について、具体的に黄色酸化鉄を含有しない錠剤との比較において、黄色酸化鉄のニフェジピンに対する光安定化効果が示されている。
これら記載からみて、甲第5号証には、「ニフェジピンと、黄色酸化鉄を混合したのち、得られた混合物を湿式顆粒圧縮成型して得られたニフェジピンと黄色酸化鉄とを含有する錠剤。」の発明(以下、「引用発明8」という。)が記載されていると認められる。
本件特許発明8と引用発明8とを対比する。
ここで、黄色酸化鉄が黄色三二酸化鉄であり、また、赤色酸化鉄が三二酸化鉄であることが本件出願優先権主張日前に周知の事実であることは、(2)-1、及び(本件特許発明1について)の項においてすでに指摘したとおりである。
そうすると、両者はともに、「(I)医薬成分と黄色三二酸化鉄とを混合する工程、並びに(II)前記(I)で得られた混合物を打錠する工程を含む製造方法により得られる錠剤である、医薬組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点
(i)医薬成分として、本件特許発明8がベシル酸アムロジピンを含有するのに対し、引用発明8がニフェジピンを含有している点。
(ii)打錠工程において、本件特許発明8が乾式打錠するのに対して、引用発明8が湿式顆粒打錠している点。
以下、上記相違点(i)、(ii)について検討する。
まず、相違点(i)については、本件特許発明8は、本件特許発明7と同様、「医薬成分と黄色三二酸化鉄とを混合してなる錠剤である医薬品組成物。」であるから、(本件特許発明1について)、(本件特許発明2について)、及び(本件特許発明7について)の項で検討したのと同様の理由で当業者が容易に想到し得たものである。
次に相違点(ii)について検討する。
錠剤の製造における打錠工程は、乾式法と湿式法に大別され、乾式法には直接粉末圧縮法、乾式顆粒圧縮法、及び反乾式顆粒圧縮法が、また、湿式法には湿式顆粒圧縮法が含まれること、それらは各々、工程数、あるいは工程中における熱や水分の関与、あるいは顆粒化の時期等が異なり、医薬成分の性質や使用量に応じて好適な製造法が存在することもたとえば甲第10号証に記載されているように本件出願優先権主張日前に周知の事実である。
そうすると、ベシル酸アムロジピンを医薬成分とした場合に、それら周知の打錠法のうちのいずれが好適であるかを当業者が検討して、水分を用いずに製造する乾式打錠工程を採用してみることに格別の困難性は見いだし得ない。
以上のとおり、上記相違点(i)、(ii)はいずれも当業者が容易に想到し得たものであると認められるから、本件特許発明8は、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
(本件特許発明9について)
本件特許発明9は、本件特許発明7、8をさらにその錠剤について、速崩性錠剤に特定するものであり、そのうち、請求項7を引用する発明であって、かつ同請求項7が請求項1を引用する場合の発明は以下のとおり記載することができるものである。
「ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを含有することを特徴とする細粒剤、顆粒剤、速崩性錠剤、カプセル剤又はドライシロップ剤(ただし、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤、及び、液剤を除く。)。」
甲第9号証には、Ca拮抗薬である塩酸マニジピン整粒物と、黄色三二酸化鉄整粒物とを混合し、打錠して製造された錠剤が速崩壊性錠剤であることがデータとともに記載されており(摘記事項(9B)、(9C))、また、該Ca拮抗薬として上記塩酸マニジピンのほかベシル酸アムロジピンを用い得ることも記載されている(摘記事項(9A))。
そうすると、甲第9号証に記載された発明において、塩酸マニジピンに代えて、ベシル酸アムロジピンを医薬成分とする速崩性錠剤を想到することは、当業者が甲第9号証記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものである。
そして、その効果についてみても、本件特許発明が引用する本件特許発明1が有する効果として甲第5号証に記載される効果や、当該発明に期待される効果を現に有していることを確認したにすぎない効果であって、(本願特許発明1について)の項においてすでに記載した効果に加えて、甲第9号証記載の速崩性錠剤が有する効果をあわせ有するにすぎないのであって、なんら当業者の予測を超えるところはない。
(本件特許発明10について)
本件特許発明10は、医薬組成物の製造方法の発明であって、その方法は、本件特許発明8記載の錠剤を製造する方法として請求項8に記載される工程と同一の工程に係る医薬組成物の製造方法の発明である。本件特許発明10においては、その工程(II)において、打錠する工程が規定されているから、本件特許発明10は実質的には錠剤の製造方法の発明であると認められる。
そうすると、本件特許発明10は、(本件特許発明8の発明について)の項で、その製造方法について検討したのと同じ理由により、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
(本件特許発明11について)
本件特許発明11、医薬組成物(ただし、液剤を除く。)におけるベシル酸アムロジピンの安定化方法の発明であって、その方法は、ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とするものである。
ところで、ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することにより得られた医薬組成物は、本件特許発明2に係る医薬組成物であって、当該医薬組成物の発明は、(本件特許発明2について)の項において検討したとおり、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証、甲第7号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。そして、本件特許発明2は、光不安定なベシル酸アムロジピンに対して安定化効果を有することもまた、(本件特許発明2について)の項に記載されるとおりである。
そうすると、本件特許発明11は、(本件特許発明2の発明について)の項で、その医薬組成物について検討したのと同じ理由により、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
(本件特許発明12について)
本件特許発明12は、医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤、及び、液剤を除く。)に用いられるベシル酸アムロジピンの安定化剤の発明であって、その安定化剤は、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有するものである。
ところで、ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを含有すること特徴とする医薬組成物は、本件特許発明1に係る医薬組成物であって、当該医薬組成物の発明は、(本件特許発明1について)の項において検討したとおり、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。そして、本件特許発明1は、光不安定なベシル酸アムロジピンの安定化効果を有することもまた、(本件特許発明1について)の項に記載されるとおりである。
そうすると、本件特許発明12は、(本件特許発明1の発明について)の項で、その医薬組成物について検討したのと同じ理由により、甲第5号証及び甲第6号証、又は甲第5号証及び甲第7号証記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。
(4)特許法第36条第4項第1号、同法同条第6項第1号、第2号違反について
上記理由(3)-2のとおり、無効理由2-1?2-9は本件特許発明1?5、7?12について理由があり、請求人が無効理由3を主張する本件特許発明1?12のうち1?5、7?12は無効とすべきものであるし、また、当審が無効理由4を通知した本件特許発明1?6、11、12のうち1?5、11、12も無効とすべきものであるから、無効理由3、4-1、4-2については本件特許発明6についてのみ検討することとする。
まず、理由4-2について検討する。
本件訂正明細書には、本件訂正特許請求の範囲に記載される医薬組成物の剤形、製造方法に関連して以下の記載がある。
4-2-1 「<剤形> 本発明の医薬組成物の剤形としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、経口用固形製剤としての剤形が挙げられ、具体的には、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、トローチ剤、ドライシロップ剤などが挙げられる。これらの中でも、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドライシロップ剤が好ましく、細粒剤、顆粒剤、錠剤がより好ましい。特に、前記錠剤は、速崩性錠剤であることが好ましい。・・・」(段落0033)
4-2-2 「<製造方法> 本発明の医薬組成物の製造方法としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記したような種々の好ましい剤形について、以下のような方法が例示される。・・・」(段落0034)
4-2-3 「<製造方法の具体例1(細粒剤、顆粒剤)> 以下に、細粒剤、顆粒剤としての本発明の医薬組成物の製造方法の例を具体的に説明する。・・・<製造方法の具体例2(錠剤)>以下に、錠剤としての本発明の医薬組成物の製造方法の例を具体的に説明する。・・・<製造方法の具体例3(速崩性錠剤)> さらに、本発明に係る医薬組成物は、服用性を考慮し、速崩性錠剤として製造することができる。・・・」(段落0041?0044)
4-2-4「・・・ベシル酸アムロジピン5g及びカラギーナン5g(三晶株式会社)を用いて、実施例1と同様に、顆粒剤を得た(実施例2)。・・・さらに、同様の方法で、ベシル酸アムロジピン0.1gとマンニトール4.84g、カラギーナン(三晶株式会社)0.20gを用いて顆粒剤を得た(実施例5)。・・・表4の配合比(審決注:実施例9?12として、ベシル酸アムロジピン10.2g、マンニトールを各々483.8,481.8,480/8,479.7g、カラギーナンを各々1.0,3.0,4.0,5.1g)に従い、ベシル酸アムロジピンとマンニトール、黄色三二酸化鉄又はカラギーナンをメカノミル(Okada Seiko製)で混合し、・・・練合した。得られた湿潤粉体を・・・製錠、乾燥し、ベシル酸アムロジピン3.47mgを含有する1錠当たり質量170mgの速崩性錠剤を得た。」(段落0062、0063)
以上のとおり、本件訂正明細書には、本件発明の剤形について、「例えば」として「経口用固形製剤」が記載され(摘記事項4-2-1)、具体的には、「散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、トローチ剤、ドライシロップ剤」が挙げられている(摘記事項4-2-1)。そして、前記の具体的に挙げられた剤形に関する一般的な製造方法、並びにその具体例として、細粒剤、顆粒剤、錠剤、速崩性錠剤が記載されており(摘記事項4-2-2、また、実施例として、顆粒剤、錠剤、速崩性錠剤の製造例が記載され(摘記事項4-2-3)、その保存安定性について確認がなされている。
ところで、医薬製剤が、剤形の観点から、固形製剤、半固形製剤、液状製剤に分類することができることは広く知られており(第十三改正 日本薬局方解説書 1996 縮刷版 廣川書店 製剤総則A-59参照)、これを前記した本件訂正明細書の記載に当てはめると、本件訂正明細書の記載は、いずれも固形製剤に関するものであり、半固形製剤、あるいは液状製剤に関する記載はない。
一方、本件訂正特許請求の範囲の請求項6に係る発明は、請求項1?5を引用するものであるから、請求項1?5に規定されている「ただし、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤、及び、液剤を除く。」との規定は、本件特許発明6にも該当するものである。そうすると、本件特許発明6のうち、請求項1を引用する発明は以下のとおり記載することができるものである。
「ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを含有することを特徴とする医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤、及び、液剤を除く。)であって、カラギーナンの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部である医薬組成物。」
すなわち、本件訂正請求の範囲の請求項6は、黄色三二酸化鉄、三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかをコーティング層中に含有するコーティング錠剤以外の固形製剤、及び半固形製剤を包含するものである。
前記三つの医薬製剤は、その種類に応じて異なる添加剤が用いられることが広く知られており(第十三改正 日本薬局方解説書 1996 縮刷版 廣川書店 製剤総則A-59参照)、当該添加剤の種類や薬剤の種類によって、得られる製剤の性状が異なるものとなることもまた当業者が容易に予想しうるところであるといえる。そうすると、固形製剤が有効成分の安定化効果を奏するからといって、固形製剤とは異なるゼリー剤のような半固形製剤が必ずしも前記と同様な性質を有するといえるものではない。そして、ベシル酸アムロジピンとカラギーナンとを含有するゼリー剤が、60℃、1週間経過後、その有効成分含量が73%まで減少したことが特開2009-35545号公報の段落0027?0031に記載されている。この実験に供された組成物のベシル酸アムロジピン1質量部に対するカラギーナンの含有量は、約3.5であり、本件訂正特許請求の範囲の請求項6に規定される数値を満足するものではないものの、前記公報には、組成物中のベシル酸アムロジピン、カラギーナンのゼリー剤中の濃度に関して、各々0.2?2重量%、0.1?3重量%であることが記載されており、たとえば、前者が2重量%であり後者が0.1重量%である場合には、前記カラギーナンの含有量は0.05質量%となる等、前記請求項6に規定される数値を満足する場合も包含されるものである。その場合には、具体的に記載されている上記実験例におけると同様な結果が得られるものと推測されることに照らせば、本件特許発明6には、むしろ、光、水分、熱に対するベシル酸アムロジピンの安定性を保持できる医薬組成物を提供する旨の本件特許発明の目的を達成できない態様、たとえば半固形製剤の一種であるゼリー剤が含まれているといえるから、本件訂正明細書には、当業者が本件特許発明6をその全体にわたり実施することができる程度に、当該発明が明確かつ十分に記載されているとは認められず、また本件訂正特許請求の範囲の請求項6には、本件明細書記載の製剤を超えた発明が記載されているものと認められる。
したがって、本件特許発明6について、本件特許は、その余の理由3、4-1について検討するまでもなく、特許法第36条第4項第1号及び同法第36条第6項第1号に違反してなされたものである。
被請求人は、乙第1号証を提示し、固形製剤、半固形製剤、あるいは液状製剤という三つの医薬製剤はその形態別に製剤を大別したものであって、半固形製剤が、固形製剤と同様の性質を示すか、液体製剤と同様の性質を示すのかは、個別具体的に判断せざるを得ない旨を、また、特開2009-35545号公報の段落0027?0031記載の試験例は、「ラウリル硫酸ナトリウム」のアムロジピンに対する安定化効果を観ているだけである。カラギーナンは、同公報に記載の安定化剤と同様の化学構造を有する、硫酸基を有する陰イオン性高分子であるから、ベシル酸アムロジピンの不安定化に関与し得るのはカラギーナンではなく、ショ糖脂肪酸エステル等の各成分である。同公報記載の参考例1においてカラギーナンが配合されていなければ、更に不安定化を招く結果となり得るものであるから、特許法第36条第6項第1号に規定の検討に際して同参考例は参考となり得ない旨を主張し、さらに、本件特許発明の効果は、均一分散したベシル酸アムロジピンの近傍に酸化鉄やカラギーナンが均一分散した状態を保持し得る機能を有する剤形であれば得られることは当業者であれば容易に理解され、ゼリー剤(半固形製剤)についても、固形製剤と同様に発明の詳細な説明に記載された発明である旨を主張する(平成23年9月26日に提出した意見書)。
たしかに、乙第1号証には、半固形製剤は、形態上、固形製剤と液状製剤の中間に位置する医薬品製剤であることが記載されているにすぎない。しかし、上記した三つの医薬製剤はその種類に応じて異なる添加剤が用いられることは広く知られているところであるから(第十三改正 日本薬局方解説書 1996 縮刷版 廣川書店 製剤総則A-59参照)、少なくとも、錠剤という固形製剤が示した性質を、たとえばゼリー剤という半固形製剤もまた必ず有するとか、あるいはその逆に、半固形製剤が有する性質を固形製剤もまた必ず有するということはできないから、錠剤についてその性質を確認したからといって直ちに半固形製剤についても同様の性質を有することが確認されているものとすることはできない。
仮に、請求人がいうように、各製剤の性質は個別具体的に判断すべきものであるとしても、請求人は、カラギーナンが配合されていなければ、更にベシル酸アムロジピンの不安定化を招く結果となり得る、と主張するのみであって、当該主張を裏付ける証拠はなんら提出されていないし、そもそも、カラギーナンは、特開2009-35545号公報記載の発明においてゲル化剤として用いられている成分であり(同公報 段落0018)、半固形製剤であるゼリー剤を調製する場合に必ず配合される成分であるから、同公報に、カラギーナンが配合されていない製剤に係るゼリー剤(半固形製剤)が記載されていると理解することはできない。さらに、ベシル酸アムロジピンの不安定化に関与し得る成分であると請求人が主張するショ糖脂肪酸エステルは、本件特許発明に含有されていても良い成分とされており(本件訂正明細書 段落0025)、ベシル酸アムロジピン、カラギーナン、及びショ糖脂肪酸エステルを含有する製剤に関する参考例1は、上記規定の検討に際して参考となり得ないとする被請求人の主張は根拠を欠くものである。
また、本件訂正明細書の記載をみても、光、水分、熱に対するベシル酸アムロジピンの安定性を保持するという本件特許発明の効果が、被請求人が主張するような、均一分散したベシル酸アムロジピンの近傍に酸化鉄やカラギーナンが均一分散した状態を保持し得る機能を有する剤形とすることにより奏されるものであることは記載されているとも示唆されているとも認められないし、また、そのように均一分散した状態をどのようにしてもたらしうるのかについて記載も示唆もない。
以上のとおり、上記被請求人の主張はいずれも採用し得ない。
8.むすび
本件特許発明1?5、7、8、10?12は、甲第5号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1?5、7、8、10?12に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
本件特許発明1、2、7、8、10?12は、甲第5号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項1、2、7、8、10?12に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
本件特許発明9は、甲第9号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
よって、請求項9に係る発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。
ゆえに、本件請求項1?5、7?12に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
また、請求項6に係る発明についての特許は、平成14年法律第24号改正附則第2条第1号によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第6項第1号の規定に違反してなされたものであり、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
平成24年 2月22日
審判長 特許庁審判官 内田 淳子
特許庁審判官 穴吹 智子
特許庁審判官 平井 裕彰
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
医薬組成物及びその製造方法、並びに医薬組成物におけるジヒドロピリジン系化合物の安定化方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物に関し、より詳細には、加温、光、湿度などの保存環境条件に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を向上させた医薬組成物及びその製造方法、並びに医薬組成物におけるジヒドロピリジン系化合物の安定化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
我が国を中心に主な先進国では国民の高齢化が急速に進行し、高血圧症の半数以上が70歳以上の高齢者であると言われている。しかし、高齢者にとっては過度な血圧降下は好ましくないことから、血圧降下剤の慎重投与が必要である。そのため、作用が穏やかなこと、持続性を有している点などから、ジヒドロピリジン系カルシウム拮抗薬が高齢者の高血圧症に対する第一選択薬となっている。カルシウム拮抗作用を有するジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物としては、例えば、ベシル酸アムロジピンを含有するフィルムコート錠や、アラニジピンを含有する顆粒剤、ニフェジピンの細粒剤、塩酸マニジピンの素錠などが知られている。これらの製剤は、ジヒドロピリジン系化合物が光により分解されやすいことから、錠剤や顆粒剤にフィルムコートを施したり、又はカプセル基材に着色剤を配合したり、あるいは遮光保存することなどが指示されている(例えば、特許文献1参照)。さらに、ジヒドロピリジン系化合物は、医薬品組成物の添加剤との接触により、含量低下あるいは不純物を増加させる場合がある。例えば、賦形剤として一般的に使用される乳糖は、ベシル酸アムロジピンを分解するため、配合禁忌であるなどの報告もある(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。その対応方法としては、例えば、医薬組成物中に結晶セルロースを87?94%と高濃度に配合した錠剤が開示されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
一方、医薬品の調剤現場では、錠剤・カプセル剤などの一包化が普及するのに伴い、自動錠剤分包機が多く導入されている。しかし、自動錠剤分包機では、錠剤が非包装状態でタブレットケース内に保管されるため、光、湿度や温度などの保存環境の影響などにより、変色をはじめとする品質低下を生ずる場合があることが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。特に、服用性を高めた速崩壊性の錠剤や、用量調整が容易な顆粒剤などは、着色剤で被覆し難く、光や水分などの保存環境の影響を受けやすい。そのため、通常、包装容器により遮光保存などの取扱い方法を限定する場合がほとんどであり、例えば被覆剤を配合したコーティングを施した顆粒剤であっても、さらに遮光保存を指示しているケースもある。
【0004】
前記のように、ジヒドロピリジン系化合物は光や熱などにより酸化が促進され不安定になるばかりでなく、共存する賦形剤の種類によっては安定性が低下するため、ジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物に配合できる添加剤の種類や、剤形、包装形態などは限られている。また、自動分包機の普及により、非包装状態においても、調剤行為や保存環境の影響を受けない、安定な、ジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物が要求されている。また、ジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物は、高血圧症の高齢者が服用する機会が多いため、患者の嚥下能力が低下している場合でも投与しやすい剤形、又は、高齢者への慎重投与に対応可能で、容易に用量調節ができる剤形が望まれている。
【特許文献1】特開2003-104888号公報
【特許文献2】国際公開03/051364号
【非特許文献1】M.Abdoh et al、「Amlodipine Besylate-Excipients Interaction in solid Dosage Form」, Pharmaceutical Development and Technology、(米国)、2004年、 第9巻、第1号、 p.15-24
【非特許文献2】湯浅宏、外4名、「光およびBHT共存下における錠剤の変色」、病院薬学、1995年、第21巻、第3号、p.231-242
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記従来の医薬組成物における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、医薬組成物中の添加剤や保存環境の影響に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を確保し、さらに、取扱い性に優れ、服用しやすく、安定なジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物を提供することを目的とする。
より詳細には、本発明は、添加剤の種類や、剤形、包装形態などが限定されず、また、非包装状態においても、調剤行為や保存環境の影響を受けない、安定な、ジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物を提供することを目的とする。
また、高齢者など、嚥下能力が低下している患者に対しても投与しやすい剤形、又は、高齢者への慎重投与に対応可能であり容易に用量調節ができる剤形で提供することができる、ジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、医薬組成物中に酸化鉄又はカラギーナン、あるいは酸化鉄及びカラギーナンの両者を含有させることにより、ジヒドロピリジン系化合物が著しく安定化することを見出した。具体的には、酸化鉄やカラギーナンが、ジヒドロピリジン系化合物の酸化による不純物の生成を抑制することを見出した。さらにまた、本発明者らは、製剤に特別な防湿皮膜や遮光皮膜を施さなくても、又は、防湿包装や遮光包装などの包装を用いなくとも、医薬品としての品質を確保し、かつ服用性に優れ、又は用量調整を容易にできる、ジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物を見出し、本発明の完成に至った。
つまり、本発明は、酸化鉄又はカラギーナン、あるいは両者を混合することにより、熱などの保存環境に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を確保した医薬組成物を提供するものである。また、本発明は、医薬組成物におけるジヒドロピリジン系化合物を安定化する方法を提供するものである。また、本発明は、ジヒドロピリジン系化合物の安定化剤としての、酸化鉄やカラギーナンの新規な用途を提供するものである。
【0007】
本発明は、本発明者らの前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、本発明は、
<1> ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを含有し、前記カラギーナンの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部であり、顆粒剤又は錠剤であることを特徴とする医薬組成物である。
<2> ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合してなる前記<1>に記載の医薬組成物である。
<3> (I)ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合する工程、並びに(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程を含む製造方法により得られる錠剤である、前記<2>に記載の医薬組成物である。
<4> (I)ベシル酸アムロジピンと、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部のカラギーナンとを混合する工程、並びに(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程を含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法である。
<5> ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする、顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)における熱、水に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法である。
<6> ベシル酸アムロジピンを含有し、顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)に用いられ、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とする、ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、医薬組成物中の添加剤や保存環境の影響に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を確保し、さらに、取扱い性に優れ、服用しやすく、安定なジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物を提供することができる。
より詳細には、本発明によれば、ジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物において、顆粒剤や細粒剤のように比表面積が大きな剤形や速崩性錠剤のように被覆を施し難い剤形に対しても、品質確保のための特別なコーティング剤又はカプセル基材、あるいは、包装を用いることなく、光、水分、熱に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を保持できる医薬組成物を提供することができる。従って、本発明によれば、患者に投与するまでの医薬品の保存環境若しくは自動分包機などの調剤中の作業環境の影響、又は流通や調剤行為などでの顆粒剤や錠剤の破損若しくは粉砕に伴うジヒドロピリジン系化合物の含量低下を懸念する必要がなく、高い品質を維持する医薬組成物を提供することができる。また、本発明によれば、嚥下能力の低下している患者であっても、服用しやすい口腔内速崩壊性錠剤や、患者の症状や年齢に併せて、きめ細かな用量水準で薬物量を調剤することが可能な、顆粒剤や割錠などの医薬組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、ジヒドロピリジン系化合物の安定化のために遮光被膜などを医薬組成物に施す工程必要がなく、製造工程を簡素化でき、生産性を向上させることができる、医薬組成物の製造方法を提供することができる。
さらにまた、本発明によれば、ジヒドロピリジン系化合物の安定化のために遮光被膜などを医薬組成物に施さなくても、光や熱、添加剤などによるジヒドロピリジン系化合物の分解を抑制することができるため、医薬組成物の処方設計の自由度を高めることが出来る、ジヒドロピリジン系化合物の安定化方法又は安定化剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、40℃75%相対湿度(開放系)保存時のベシル酸アムロジピンを含有する顆粒剤における不純物含量の経時変化を示す図である。
【図2】図2は、60℃(密閉系)保存時のベシル酸アムロジピンを含有する顆粒剤における不純物含量の経時変化を示す図である。
【図3】図3は、ベシル酸アムロジピンを含有する速崩製錠剤を用いた保存安定性試験におけるベシル酸アムロジピンに対する酸化鉄の配合比に対する不純物含量の変化を示す図である。
【図4】図4は、ベシル酸アムロジピンを含有する速崩製錠剤を用いた保存安定性試験におけるベシル酸アムロジピンに対するカラギーナンの配合比に対する不純物含量の変化を示す図である。
【図5】図5は、乾式直打により製造されたベシル酸アムロジピンを含有する錠剤を用いた保存安定性試験におけるベシル酸アムロジピンに対する黄色三二酸化鉄の配合比と不純物含量比の関係を示す図である。
【図6】図6は、乾式直打により製造されたベシル酸アムロジピンを含有する錠剤を用いた保存安定性試験におけるベシル酸アムロジピンに対する三二酸化鉄の配合比と不純物含量比の関係を示す図である。
【図7】図7は、乾式直打により製造された塩酸ベネジピンを含有する錠剤を用いた保存安定性試験における塩酸ベネジピンに対する黄色三二酸化鉄の配合比に伴う不純物含量の変化を示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。以下の実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をこの実施形態にのみ限定する趣旨ではない。本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな形態で実施することができる。
【0011】
(医薬組成物)
本発明の医薬組成物は、ジヒドロピリジン系化合物と、酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを含有し、更に、必要に応じてその他の成分を含有してなる。
【0012】
<ジヒドロピリジン系化合物>
前記ジヒドロピリジン系化合物としては、ジヒドロピリジン骨格を有する化合物であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、既存のジヒドロピリジン系化合物又はそれらの薬理学上許容される塩などが挙げられる。なお、前記ジヒドロピリジン系化合物には、不斉炭素による光学異性体、多重結合や環状構造による幾何異性体、水和物なども含まれる。また、前記薬理学上許容される塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酢酸塩、プロピオン酸塩、ギ酸塩、トリフルオロ酢酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、ステアリン酸塩、コハク酸塩、エチルコハク酸塩、ラクトビオン酸塩、グルコン酸塩、グルコヘプトン酸塩、安息香酸塩、ベシル酸塩、メタンスルホン酸塩、エタンスルホン酸塩、2-ヒドロキシエタンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、パラトルエンスルホン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、アスパラギン酸塩、グルタミン酸塩、アジピン酸塩、システィン酸塩、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩、ヨウ化水素酸塩、ニコチン酸塩、シュウ酸塩、ピクリン酸塩、チオシアン酸塩、ウンデカン酸塩、アクリル酸ポリマー塩、カルボキシビニルポリマー塩などが挙げられる。
前記ジヒドロピリジン系化合物の具体例としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ニトレンジピン(ethyl methyl 1,4-dihydro-2,6-dimethyl-4-(m-nitrophenyl)-3,5-pyridinedicarboxylate:ALFA社、LUSOCHIMICA社、URQUIMA.S.A社)、ニフェジピン(Dimethyl1,4-dihydro-2,6-dimethyl-4-(2-nitrophenyl)-pyridine-3,5-dicarboxylate:コーニードケミカル)、ニルバジピン(5-Isopropyl 3-methyl(4RS)-2-cyano-1,4-dihydro-6-methyl-4-(3-nitrophenyl)pyridine-3,5-dicarboxylate:株式会社パーマケム・アジア)、ベシル酸アムロジピン((±)-3-ethyl 5-methyl 2-[(2-aminoethoxy)methyl]-4-(o-chlorophenyl)-1,4-dihydro-6-methyl-3,5-pyridinedicarboxylate benzenesulfonate:Dr.Reddy’s社、Moehs Iberica社、Gedeon Richter社、Lek Pharm社)、塩酸ニカルジピン(2-(N-benzyl-N-methylamino)ethyl methyl(RS)-1,4-dihydro-2,6-dimethyl-4-(3-nitrophenyl)pyridine-3,5-dicarboxylate monohydrochloride:Mediate社)、塩酸ベニジピン(3-[(3RS)-1-Benzylpiperidin-3-yl]5-methyl(4RS)-1,4-dihydro-2,6-dimethyl-4-(3-nitrophenyl)pyridine-3,5-dicarboxylate monohydrochloride:ダイト株式会社、Recordati社、大原薬品工業株式会社、株式会社三洋化学研究所)、塩酸マニジピン(2-[4-(diphenylmethyl)-1-piperazinyl]ethyl methyl(±)-1,4-dihydro-2,6-dimethyl-4-(m-nitrophenyl)-3,5-pyridinedicarboxylate dihydrochloride:株式会社三洋化学研究所)、アラニジピン((±)-Methyl 2-oxopropyl-1,4-dihydro-2,6-dimethyl-4-(2-nitrophenyl)-3,5-pyridinedicarboxylate)、アゼルニジピン((±)-3-(1-diphenylmethylazetidin-3-yl)5-isopropyl 2-amino-1,4-dihydro-6-methyl-4-(3-nitrophenyl)-3,5-pyridinedicarboxylate)、シルニジピン((±)-2-methoxyethyl 3-phenyl-2(E)-propenyl 1,4-dihydro-2,6-dimethyl-4-(3-nitrophenyl)-3,5-pyridinedicarboxylate)、ニソルジピン(isobutylmethyl(±)-1,4-dihydro-2,6-dimethy1-4-(ο-nitrophenyl)-3,5-pyridinedicarboxylate)、フェロジピン((±)-Ethyl methyl 4-(2,3-dichlorophenyl)-1,4-dihydro-2,6-dimethyl-3,5-pyridinedicarboxylate)、塩酸エホニジピン((±)-2-[benzyl(phenyl)amino]ethyl1,4-dihydro-2,6-dimethyl-5-(5,5-dimethyl-2-oxo-1,3,2-dioxaphosphorinan-2-yl)-4-(3-nitrophenyl)-3-pyridinecarboxylate hydrochloride ethanol)、塩酸バルニジピン((+)-(3’S,4S)-3-(1’-benzyl-3’-pyrrolidinyl)methyl-2,6-dimethyl-4-(m-nitrophenyl)-1,4-dihydropyridine-3,5-dicarboxylate hydrochloride)、Clevidipine(methyl(1-oxobutoxy)methyl4-(2,3-dichlorophenyl)-1,4-dihydro-2,6-dimethyl-3,5-pyridinedicarboxylate)、Nimodipine(2-methoxyethyl 1-methylethyl-1,4-dihydro-2,6-dimethyl-4-(3-nitrophenyl)-3,5-pyridinedicarboxylate)、Olradipine(3-ethyl 5-methyl 2-[[2-(2-aminoethoxy)ethoxy]methyl]-4-(2,3-dichlorophenyl)-1,4-dihydro-6-methyl-3,5-pyridinedicarboxylate)、Pranidipine(Methyl 3-phenyl-2-propyl-1,4-dihydro-2,6-dimethyl-4-(3-nitrophenyl)-3,5-pyridinedicarboxylate)、Elgodipine 塩酸塩(Isopropyl(2-(N-methyl-N-(4-fluorobenzyl)amine)ethyl-2,6-dimethyl-4-(2’,3’-methylenedioxyphenyl)-1,5-dihydropyridine-3,5-dicarboxylate hydrochloride)、Lercanidipine 塩酸塩(2-[(3,3-diphenylpropyl)methylamino]-1,1-dimethylethyl methyl-1,4-dihydro-2,6-dimethyl-4-(3-nitrophenyl)-3,5-pyridinedicarboxylate hydrochloride)、Niguldipine 塩酸塩(3-(4,4-diphenyl-1-piperidinyl)propylmethyl-1,4-dihydro-2,6-dimethyl-4-(3-nitrophenyl)-3,5-Pyridinedicarboxylate hydrochloride)、Furaldipine、Lacidipine、Sagandipine、Timadipine、Taludipine 塩酸塩などが挙げられる。
【0013】
前記ジヒドロピリジン系化合物の、前記医薬組成物における含有量としては、前記医薬組成物の使用時に、前記ジヒドロピリジン系化合物の有効量を患者に投与できるような含有量であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、医薬組成物100質量部に対して、0.01?20質量部が好ましく、0.05?15質量部がより好ましく、0.1?10質量部が更に好ましい。
【0014】
<酸化鉄>
前記酸化鉄としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、三二酸化鉄(Fe_(2)O_(3))、黄色三二酸化鉄(Fe_(2)O_(3)・H_(2)O)、及びそれらの混合物が好ましい。
ここで、三二酸化鉄及び黄色三二酸化鉄とは、天然に存在する顔料であり、医薬品添加物規格 2003(以下、薬添規とする)にも収載され、着色剤としての使用前例がある。三二酸化鉄は赤色から赤褐色又は暗赤紫色の粉末、黄色三二酸化鉄は黄色から帯褐黄色の粉末であり、水にほとんど溶けない。
前記三二酸化鉄としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、癸巳化成株式会社の商品名:三二酸化鉄などが挙げられる。また、前記黄色三二酸化鉄としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、日本カラコン株式会社の商品名:黄色酸化鉄カラコン、純正化学株式会社の商品名:黄色三二酸化鉄などが挙げられる。
本発明において、前記酸化鉄は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
前記酸化鉄の、前記医薬組成物における含有量としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、医薬組成物中のジヒドロピリジン系化合物1質量部に対して、0.05?8質量部が好ましく、0.08?5質量部がより好ましく、0.1?5質量部が更に好ましい。
前記酸化鉄の中でも、前記黄色三二酸化鉄はより高い安定化効果を示すことから、前記酸化鉄として前記黄色三二酸化鉄のみを使用する場合は、前記黄色三二酸化鉄の含有量としては、医薬組成物中のジヒドロピリジン系化合物1質量部に対して、0.05?1質量部が好ましく、0.08?1質量部がより好ましく、0.1?0.5質量部が更に好ましい。
【0016】
<カラギーナン>
前記カラギーナンとしては、特に制限されず、目的に応じて各種カラギーナンを適宜選択することができるが、特に、ι-カラギーナン、κ-カラギーナン、λ-カラギーナンが好ましい。
ここで、カラギーナンとは、一般に医薬品分野や食品分野で使用されている多糖類の一種であり、ι-カラギーナン、κ-カラギーナン、λ-カラギーナン及びカラギーナンの生物学的前駆体であるμ-カラギーナン及びνーカラギーナンなどの種類があることが知られている。
前記カラギーナンとしては、例えば市販のものを使用することができ、例えば、FMCコーポレーション(USA)、三晶株式会社などから入手できる。
前記カラギーナンの、前記医薬組成物における含有量としては、特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができるが、医薬組成物中のジヒドロピリジン系化合物1質量部に対して、0.05?1.2質量部が好ましく、0.05?1.0質量部がより好ましく、0.1?0.8質量部が更に好ましく、0.2?0.5%質量部が更により好ましい。
【0017】
尚、本発明の医薬組成物においては、酸化鉄又はカラギーナンのいずれかのみが含有されていてもよく、酸化鉄及びカラギーナンの両者がともに含有されていてもよい。ここで、酸化鉄及びカラギーナンの両者をともに含有する場合の、前記酸化鉄及び前記カラギーナンの合計含有量としては、特に制限されず、適宜選択することができるが、前記酸化鉄及び前記カラギーナンのそれぞれの含有量が、医薬組成物中のジヒドロピリジン系化合物に対して、それぞれ前記したような好ましい含有量の範囲内にあることが好ましい。
【0018】
<その他の成分(添加物)>
前記医薬組成物には、前記した成分以外にも、本発明の効果を損なわない範囲内で、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、コーティング剤、可塑剤、懸濁剤、乳化剤、着香剤、抗酸化剤、糖衣剤、防湿剤、流動化剤、又は着色剤などの添加物が含有されていても良い。また、添加物の種類としては、これらに限定されるものではない。
【0019】
前記賦形剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、D-マンニトール、白糖(精製白糖含む)、炭酸水素ナトリウム、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、コムギデンプン、コメデンプン、部分アルファー化デンプン、結晶セルロース、軽質無水ケイ酸、無水リン酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウムなどが挙げられる。
【0020】
前記結合剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、ポビドン、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルファー化デンプン、アルギン酸ナトリウム、プルラン、アラビアゴム末などが挙げられる。
【0021】
前記滑沢剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、硬化油、硬化ヒマシ油、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ベヘン酸グリセリド、フマル酸ステアリルナトリウムなどが挙げられる。
【0022】
前記崩壊剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドンなどが挙げられる。
【0023】
前記コーティング剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、カルボキシメチルエチルセルロース、カルメロースナトリウム、カルメロースカリウム、酢酸セルロース、酢酸フタル酸セルロースなどのセルロース誘導体、アクリル酸エチル・メタクリル酸メチルコポリマー分散液、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE、アミノアルキルメタクリレートコポリマーRS,メタクリル酸コポリマーL,メタクリル酸コポリマーLD、メタクリル酸コポリマーS,2-メチル-5-ビニルピリジンメチルアクリレート・メタクリル酸コポリマー、ジメチルアミノエチルメタアクリレート・メチルメタアクリレートコポリマなどのアクリル酸系高分子、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、マクロゴールなどの合成高分子物質、プルラン、キトサンなどの多糖類やゼラチン、コハク化ゼラチン、アラビアゴム、セラックなどの天然系高分子物質などが挙げられる。
【0024】
前記可塑剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、アジピン酸ジオクチル、クエン酸トリエチル、トリアセチン、グリセリン、濃グリセリン、プロピレングリコールなどが挙げられる。
【0025】
前記懸濁剤又は前記乳化剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合物などが挙げられる。
【0026】
前記着香剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、メントール、はっか油、レモン油、オレンジ油などが挙げられる。
【0027】
前記抗酸化剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、アスコルビン酸ナトリウム、L-システイン、亜硫酸ナトリウム、天然ビタミンE、ジブチルヒドロキシトルエン、ヒドロキシアニソールなどが挙げられる。
【0028】
前記糖衣剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、白糖、乳糖、水アメ、沈降炭酸カルシウム、アラビアゴム、カルナウバロウ、セラック、ミツロウ、マクロゴール、エチルセルロース、メチルセルロース、ポピドンなどが挙げられる。
【0029】
前記防湿剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、硬化油、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、パラフィン、ヒマシ油、マクロゴール、酢酸ビニル樹脂、酢酸フタル酸セルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、セラックなどが挙げられる。
【0030】
前記流動化剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、含水二酸化ケイ素、軽質無水ケイ酸、重質無水ケイ酸、結晶セルロース、合成ケイ酸アルミニウム、水酸化アルミナマグネシウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、第三リン酸カルシウム、タルク、トウモロコシデンプンなどが挙げられる。
【0031】
また、前記着色剤としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、例えば、食用黄色4号、食用黄色5号、食用赤色2号、食用赤色102号、食用青色1号、食用青色2号(インジゴカルミン)、食用黄色4号アルミニウムレーキなどのタール系色素、酸化チタン、酸化亜鉛、タルク、ウコン抽出液、カラメル、カロチン液、β-カロテン、銅クロロフィル、銅クロロフィリンナトリウム、リボフラビン、カーボンブラック、薬用炭が挙げられる。
【0032】
前記その他の成分としての各添加物は、それぞれ単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、前記その他の成分の、前記医薬組成物における含有量としては、本発明の効果を損なわない範囲内であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0033】
<剤形>
本発明の医薬組成物の剤形としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、経口用固形製剤としての剤形が挙げられ、具体的には、例えば、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤、錠剤、トローチ剤、ドライシロップ剤などが挙げられる。これらの中でも、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、ドライシロップ剤が好ましく、細粒剤、顆粒剤、錠剤がより好ましい。特に、前記錠剤は、速崩性錠剤であることが好ましい。ここで、本発明における速崩性錠剤とは、崩壊が極めて速い錠剤を意味し、通常は口腔内において唾液などの極めて少ない水分でも1分以内に崩壊し得る錠剤である。速崩性錠剤は錠剤を服用しにくい小児や老人に適した製剤である。
【0034】
<製造方法>
本発明の医薬組成物の製造方法としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、前記したような種々の好ましい剤形について、以下のような方法が例示される。
尚、本発明の医薬組成物においては、前記の通り、酸化鉄又はカラギーナンのいずれかのみが含有されていてもよく、酸化鉄及びカラギーナンの両者がともに含有されていてもよいが、ここで、酸化鉄及びカラギーナンの両者をともに含有する医薬組成物を製造する場合については、それらの添加方法に制限はなく、酸化鉄とカラギーナンを添加順序に関係なく別々に添加しても、両者を予め混合して添加してもよい。
【0035】
-散剤-
前記医薬組成物は、例えば、ジヒドロピリジン系化合物と、酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合して、さらに前記賦形剤などを添加して、散剤として製造することができる。
【0036】
-細粒剤、顆粒剤-
また、前記医薬組成物は、例えば、ジヒドロピリジン系化合物と、酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかと、さらに必要に応じて前記賦形剤や前記結合剤などとを、ともに混合し、造粒して造粒物を得て、細粒剤や顆粒剤として製造することができる。また、前記造粒物に、必要に応じて、矯味剤などの添加剤を加えて、細粒剤や顆粒剤として製造することもできる。
【0037】
-カプセル剤-
さらに、前記医薬組成物は、例えば、前記造粒物を、ゼラチンやヒドロキシプロピルメチルセルロースなどを基剤とするカプセルに充填して、カプセル剤として製造することもできる。
【0038】
-ドライシロップ剤-
また、前記医薬組成物は、例えば、前記造粒物に懸濁化剤、糖類や矯味剤などの添加剤を加えて、ドライシロップ剤として製造することもできる。
【0039】
-錠剤-
さらにまた、前記医薬組成物は、例えば、ジヒドロピリジン系化合物と、酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有する顆粒に、前記滑沢剤や前記崩壊剤などの前記添加物を加えて、圧縮成型し、錠剤として製造することもできる。
【0040】
なお、前記の細粒剤、顆粒剤や錠剤などには、必要に応じて、腸溶性被膜や糖衣などのコーティングを施してもよい。
【0041】
<製造方法の具体例1(細粒剤、顆粒剤)>
以下に、細粒剤、顆粒剤としての本発明の医薬組成物の製造方法の例を具体的に説明する。
前記細粒剤、顆粒剤は、例えば、公知の方法を単独又は組み合わせて使用して製造することができる。例えば、細粒剤あるいは顆粒剤の製造方法では、造粒方法が主要な操作方法となり、その他に、必要に応じて、混合、乾燥、整粒、分級などの操作を組み合わせることができる。
前記造粒方法としては、例えば、粉末に結合剤及び溶媒を加えて造粒する湿式造粒法、粉末を圧縮して造粒する乾式造粒法、加熱溶融する結合剤を加えて加熱して造粒する溶融造粒方法などが利用できる。さらに、これらの造粒法に合わせて、プラネタリーミキサーやスクリュー型混合機などを用いる混合撹拌造粒法、ヘンシェルミキサーやスーパーミキサーなどを用いる高速混合撹拌造粒法、円筒造粒機、ロータリー型造粒機、スクリュー押し出し造粒機、ペレットミル型造粒機などを用いる押し出し造粒法、転動造粒法、流動層造粒法、圧縮造粒法、破砕造粒法、噴霧造粒法などを利用できる。
前記のような造粒方法による造粒後、例えば、さらに乾燥機や流動層などにより乾燥、解砕、整粒などを行うことによって、本発明における細粒剤や顆粒剤を製造することができる。
【0042】
より具体的には、本発明における細粒剤や顆粒剤は、例えば、ジヒドロピリジン系化合物、賦形剤及び結合剤を混合機又は練合機で混合しながら、酸化鉄若しくはカラギーナン、又はそれらの混合物を添加して、混合又は練合し、さらに押し出し造粒機で造粒して造粒物を得ることができる。押し出し造粒機としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、バスケット式造粒機(円筒造粒機など)などが挙げられる。得られた造粒物は、棚式乾燥機や流動層乾燥機などにより乾燥させ、ミルやオシレーターなどで整粒して、細粒剤、顆粒剤を得ることができる。
あるいは、本発明における細粒剤や顆粒剤は、例えば、ローラーコンパクターや、スラッグ打錠機などの乾式加圧圧縮機を用いてジヒドロピリジン系化合物、賦形剤及び滑沢剤とともに、酸化鉄若しくはカラギーナン、又はそれらの混合物を攪拌混合しながら、強圧、成形し、さらに適当な大きさに解砕して造粒することができる。これらの造粒機で調製された造粒物は、そのまま本発明における細粒剤や顆粒剤として用いても良いが、さらにパワーミルやロールグラニュレーター、ロータースピードミルなどで解砕、整粒して、細粒剤や顆粒剤を得ることもできる。
また、前記造粒の際には、造粒溶媒を使用してもよい。これらの造粒溶媒としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、水や各種有機溶媒などが挙げられ、より具体的には、例えば、水、メタノール、エタノールなどの低級アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、塩化メチレン、あるいはそれらの混合液などが挙げられる。
【0043】
<製造方法の具体例2(錠剤)>
以下に、錠剤としての本発明の医薬組成物の製造方法の例を具体的に説明する。
前記錠剤は、例えば、公知の方法を単独又は組み合わせて使用して、製造することができる。例えば、錠剤の製造方法では、打錠方法が主要な操作方法となるが、混合、乾燥、糖衣、コーティングなどの操作を組み合わせることができる。打錠方法としては、例えば、ジヒドロピリジン系化合物と薬理学的に許容される添加物を混合し、直接、打錠機で錠剤に圧縮成型する直打法や、細粒剤や顆粒剤の製造方法と同様な方法で得た顆粒に、さらに必要に応じて滑沢剤あるいは崩壊剤を加えて、圧縮成型する湿式顆粒圧縮法又は乾式顆粒圧縮法などが挙げられる。錠剤の圧縮成型に用いられる打錠機は、特に限定されないが、例えば、単発打錠機、ロータリー式打錠機、有核打錠機などを用いることができる。
本発明における錠剤は、例えば、マンニトールなどの賦形剤、ポリビニルピロリドン、結晶セルロースなどの結合剤、カルメロースナトリウムやクロスポビドンなどの崩壊剤、ステリアン酸マグネシウムやタルクなどの滑沢剤を使用し、前記のような方法で打錠することにより、得ることができる。
【0044】
<製造方法の具体例3(速崩性錠剤)>
さらに、本発明に係る医薬組成物は、服用性を考慮し、速崩性錠剤として製造することができる。前記した通り、速崩性錠剤は、前記錠剤の好ましい態様である。以下に、速崩性錠剤としての本発明の医薬組成物の製造方法の例を具体的に説明する。
本発明における速崩性錠剤は、例えば、ジヒドロピリジン系化合物にマンニトール及びポリビニルピロリドン、さらに酸化鉄若しくはカラギーナン、又は酸化鉄とカラギーナンの両者を加えて混合し、水及び水と混和する有機溶媒の混合物を加えて練合する。次いで、これを、例えば、特許第3179658号公報で開示される機械により錠剤を成型した後、乾燥することにより得ることができる。前記特許第3179658号公報で開示される装置は、錠剤成型時にフィルムを介して製錠する装置であり、湿潤粉体を用いても成型パンチにはりつくことなく製錠することができ、本発明における速崩性錠剤を得るために最も適した装置である。本装置を用いると、口腔内における崩壊時間は、通常30秒以内である。
【0045】
<用途>
また、本発明の医薬組成物の用途としては、特に制限されるものではないが、例えば、高血圧症,腎実質性高血圧症、腎血管性高血圧症、狭心症,異型狭心症の治療などに、好適に用いることができる。
【0046】
<投与量>
本発明の医薬組成物によって投与される前記ジヒドロピリジン化合物の投与量としては、特に制限されず、例えば前記のような疾患の治療を目的とする場合、年齢、症状などに応じて、適宜増減できる。例えば、成人について、ジヒドロピン化合物またはその薬理学上許容される塩の量として、1日あたり、通常、0.1?250mg、好ましくは1?125mgの投与量である。1日あたりの投与量は、1回または複数回に分けて投与することができ、例えば、投与1回あたりの医薬組成物中のジヒドロピリジン系化合物またはその薬理学上許容される塩の含有量は、通常、0.01mg?250mg、好ましくは0.1mg?125mgである。
【0047】
(安定化方法/安定化剤)
本発明の医薬組成物におけるジヒドロピリジン系化合物の安定化方法は、ジヒドロピリジン系化合物と、酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することにより達成できる。従って、前記医薬組成物において、酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかが、ジヒドロピリジン系化合物とともに混合して存在していれば、その状態は特に限定されない。
なお、酸化鉄とカラギーナンは、それぞれ単独で医薬組成物に含有されていてもよいし、両者がともに医薬組成物に含有されていてもよい。本発明において、酸化鉄及びカラギーナンの両者をともに使用する場合は、それらの使用方法に制限はなく、酸化鉄とカラギーナンを使用順序に関係なく別々に使用してもよく、両者を予め混合して使用してもよい。
また、酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかは、ジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物中において、ジヒドロピリジン系化合物由来の不純物量の増加を抑制することができることから、ジヒドロピリジン系化合物のための安定化剤として有効である。
【実施例】
【0048】
以下に、製造例及び実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、医薬組成物中の添加物は、日局、薬添規、日本薬局方外医薬品規格 1997、食添などの公定書に適合したもの、又は試薬を使用した。
【0049】
(製造例1)
マンニトール169.2g及び結晶セルロース112.8gを混合し、さらに、混合物を十分に混合し、アゼルニジピン64g及び黄色三二酸化鉄4gを添加して、十分に混合する。この混合物をロータリー打錠機により、ステアリン酸マグネシウム(混合物99.5に対し0.5の質量比となるように設定する)を外部滑沢しながら製錠することにより、アゼルニジピン16mgを含有する、錠剤質量180mgの速崩性錠剤を得ることができる。
【0050】
(製造例2)
フェロジピン25g、乳糖8655g、D-マンニトール1000g、ポリビニルピロリドン300g、カラギーナン7.5g及び黄色三二酸化鉄2.5gを十分に混合する。この混合物を練合機で攪拌しながら、エタノール600gを徐々に添加して練合する。さらに、その練合物を円筒造粒機で0.5mmのスクリーンを用いて円柱状に造粒し、さらに流動層乾燥機で60℃で乾燥させた後、篩過し顆粒を得る。この顆粒99gあたりにステアリン酸カルシウム1gを添加することにより、製剤1000mgあたりに2.5mgのフェロジピンを含有する、顆粒剤を得ることができる。
【0051】
本発明に係る医薬組成物の有用性を示すために本実施例で使用した試験方法を、以下に示す。
(不純物含量の測定-1)
以下の試験例1?7で実施する、ベシル酸アムロジピンを含有する医薬組成物における不純物含量の測定は、日局に記載の液体クロマトグラフ法の濃度勾配制御(グラジエント方式)により評価した。数値の算出は、面積百分率法(相対面積法)とした。液体クロマトグラフの装置(以下、HPLC)は日立製作所D-7000を用い、以下の条件で測定した。
<HPLC Conditions>
検出器:紫外吸光光度計(測定波長:241nm)、カラム:Inertsil ODS-2 4.6mm×15cm、粒子径5μm、カラム温度:40℃、流量:1.0mL/min、注入量:10μL、分析時間:45分、HPLC用移動相 A:アセトニトリル/水/HClO4(100:900:1)、HPLC用移動相 B:アセトニトリル/水/HClO_(4)(900:100:1)、グラジエントプログラムは表1に従った。
<試料溶液の調製>
試料を秤量し、30%アセトニトリル溶液を加え溶かし、原薬質量で0.7mg/mLとなるように調製した。必要に応じて、遠心分離(3000rpm、10min.)やフィルター濾過(初流4mLは除く)を行い試料溶液とした。
【0052】
【表1】

【0053】
(保存安定性試験)
保存容器は透明ガラス瓶(密閉若しくは開放)又はシャーレを用いた。シャーレにおいては検体を均一に広げた。また、保存安定性試験には、以下の条件の恒温恒湿槽などを用いた。5℃:商品名 Medical Cooling Unit (SANYO社)、40℃75%相対湿度(以下R.H.とする):商品名 HIFLEX (ETAC社)、商品名 FX230p (ETAC社)、60℃:商品名 DN94 (YAMATO社)、光照射:総照度120万lux・h、総近紫外放射エネルギー200W・h/m^(2)(ICHガイドライン及び薬審第422号に従った)、商品名 CTX01 (Nagano Science社)。
【0054】
(実施例1?実施例2)
ベシル酸アムロジピン5g(Dr.Reddy’s社)及び黄色三二酸化鉄5g(純正化学株式会社)を乳鉢にて乳棒を用いて均一に混合した。ここにエタノール溶液を加え、練合を行った。この練合物を棚式乾燥機(DAE-20型 熱風乾燥機、三和化機工業)にて40℃で10時間乾燥し、顆粒剤を得た(実施例1)。ベシル酸アムロジピン5g及びカラギーナン5g(三晶株式会社)を用いて、実施例1と同様に、顆粒剤を得た(実施例2)。
【0055】
(対照例1)
黄色三二酸化鉄を用いなかった以外は実施例1と同様の方法で、ベシル酸アムロジピン単独の顆粒剤を調製した。
【0056】
(試験例1)
実施例1及び実施例2並びに対照例1の顆粒剤を用いて、5℃密閉系、40℃75%R.H.開放系、60℃密閉系の各条件で1ヵ月間、保存安定性試験を行い、不純物含量を測定した。結果を表2に示す。その結果、黄色三二酸化鉄を配合した実施例1の不純物含量は、全ての温度、湿度条件で検出限界以下となり、ほとんどベシル酸アムロジピンが分解していないことが確認された。カラギーナンを配合した実施例2の不純物含量も、対照例1と比較し、どの温度、湿度条件でも安定であることが確認された。また、光照射の条件下でも、黄色三二酸化鉄又はカラギーナンを配合した実施例1及び実施例2は、対照例1と比較して安定であることが確認された。本試験結果から、ジヒドロピリジン系化合物に対して黄色三二酸化鉄又はカラギーナンを配合することにより、温度、湿度、光の保存環境下の影響を受けない医薬組成物を提供することが明らかとなった。
【0057】
【表2】

【0058】
(実施例3?5)
ベシル酸アムロジピン0.1g、マンニトール(東和化成工業株式会社)4.85g、及び黄色三二酸化鉄0.03gを乳鉢で混合し、ポリビニルピロリドン(ISP社、以下、PVP-K30とする)を含んだエタノール溶液で練合した。練合物を棚式乾燥機で50℃、3時間乾燥し、顆粒剤を得た(実施例3)。同様の方法で、ベシル酸アムロジピン0.1g、マンニトール4.85g及び三二酸化鉄(癸巳化成)0.03gを用いて顆粒剤を得た(実施例4)。さらに、同様の方法で、ベシル酸アムロジピン0.1gとマンニトール4.84g、カラギーナン(三晶株式会社)0.20gを用いて顆粒剤を得た(実施例5)。
【0059】
(比較例1?4、対照例2)
実施例3と同様の方法で、黄色三二酸化鉄の代わりに、表3に示す添加剤を安定化剤として用いて、ベシル酸アムロジピンを含む顆粒剤を得た。添加剤は、固形組成物で、安定化剤などとして用いられるアスコルビン酸(第一製薬株式会社、以下Ascとする)、水酸化マグネシウム(協和化学工業株式会社、以下水酸化Mgとする)、あるいは高分子物質の対照としてメタクリル酸コポリマーLD(商品名オイドラギッド L30D-55、Rohm社、以下L30D-55とする)、クロスカルメロースナトリウム(商品名 Ac-Di-Sol、旭化成工業株式会社)を用いた。また、同様の方法で、安定化剤を配合しない系として対照例2を調製した。
【0060】
(試験例2)
賦形剤としてマンニトール、結合剤としてPVP-K30を含有する実施例3?5、比較例1?4及び対照例2の顆粒剤を用いて、40℃75%R.H.開放系、60℃密閉系の各条件で保存安定性試験を行い、2週間又は4週間で不純物含量を測定した。その結果、安定化剤を配合していない対照例2の不純物含量は、いずれの保存条件でも経時的に増加するのに対し、酸化鉄又はカラギーナンを配合することにより、実施例の不純物含量の増加が経時的に抑制されていることが確認された(図1及び図2参照)。一方、他の安定化剤の不純物含量は、何れかの保存条件で、2週間の保存期間で、既に、対照例2の不純物含量よりも著しく高くなった(表3)。そのため、これらの試験品については、保存期間4週間での測定は行わなかった。以上の結果より、酸化鉄やカラギーナンは、賦形剤や結合剤を配合した医薬組成物中において、温度や湿度により増加するベシル酸アムロジピンの不純物含量を抑制する効果を有していることが確認できた。
【0061】
【表3】

【0062】
(実施例6?12、対照例3)
表4の配合比に従い、ベシル酸アムロジピンとマンニトール、黄色三二酸化鉄又はカラギーナンをメカノミル(Okada Seiko製)で混合し、PVP-K30を含んだエタノール溶液で練合した。得られた湿潤粉体をEMP速崩錠打錠システム(EMT18及びETD18:特許第3179658号公報で開示される装置)を用いて製錠、乾燥し、ベシル酸アムロジピン3.47mgを含有する1錠当たり質量170mgの速崩性錠剤を得た。製造時の各条件として、圧縮成型時のサイズは径8mm、厚さ3.2mm、成型圧力は15kgf、一次乾燥温度は70℃、二次乾燥温度は50℃で実施した。同様の方法で、黄色三二酸化鉄又はカラギーナンを配合しない速崩性錠剤を得た(対照例3)。
【0063】
【表4】

【0064】
(試験例3)
実施例6?8及び対照例3で得られた速崩性錠剤を用いて、ベシル酸アムロジピンに対する黄色三二酸化鉄の配合比について検討を行った。60℃開放系で保存安定性試験を行い、1ヵ月後に不純物含量を測定した。また、光照射条件下においても保存安定性試験を実施した。その測定結果を用いて、図3にベシル酸アムロジピンに対する黄色三二酸化鉄の配合比と不純物含量の関係を示した。
【0065】
(試験例4)
実施例9?12及び対照例3で得られた速崩性錠剤を用いて、ベシル酸アムロジピンに対するカラギーナンの配合比について検討を行った。60℃開放系で保存安定性試験を行い、1ヵ月で不純物含量を測定した。その測定結果を用いて、図4にベシル酸アムロジピンに対するカラギーナンの配合比と不純物含量の関係を示した。
【0066】
(実施例13)
ベシル酸アムロジピン10.2g、黄色三二酸化鉄、0.5g、三二酸化鉄0.5g、マンニトール483.8gの混合物を十分に混合し、PVP-K30を含んだエタノール溶液で練合した。得られた湿潤粉体をEMP速崩錠打錠システム(EMT18及びETD18:特許第3179658号公報で開示される装置)を用いて製錠、乾燥し、ベシル酸アムロジピン3.47mgを含有する1錠当たり質量170mgの速崩性錠剤を得た。製造時の各条件として、圧縮成型時のサイズは径8mm、厚さ3.2mm、成型圧力は15kgf、一次乾燥温度は70℃、二次乾燥温度は50℃で実施した。
【0067】
(試験例5)
実施例13で得られた速崩性錠剤を用いて、ベシル酸アムロジピンに対する黄色三二酸化鉄及び三二酸化鉄の混合系の安定化効果について検討を行った。40℃75%密閉系、60℃開放系及び光照射条件で保存安定性試験を行い、1ヵ月後に、不純物含量を測定し、対照例3及び実施例7と比較した(表5に示す)。その結果、酸化鉄を配合していない対照例3と比較し、酸化鉄を配合した実施例は明らかに加温、加湿又は光により生じる不純物含量を抑制することが明らかとなった。また、安定化剤として、黄色三二酸化鉄と三二酸化鉄の混合系でも黄色三二酸化鉄単独と同様の効果を示すことが確認された。
【0068】
【表5】

【0069】
(実施例14?16、対照例4)
ベシル酸アムロジピン0.35g、黄色三二酸化鉄、0.0355g、結晶セルロース(商品名アビセルPH101、旭化成工業株式会社、以下アビセルとする)とマンニトールの混合物(アビセル:マンニトール=4:6)17.61gを十分に混合し、乾式直打法として島津オートグラフAGS-1000Dにて打錠圧300kgfで製錠し、直径8mm、質量180mgの錠剤を得た(実施例14)。同様の方法で、ベシル酸アムロジピン0.35gに対して黄色三二酸化鉄0.105g及び上記混合物(アビセル:マンニトール=4:6)17.54gを用いて(実施例15)、あるいはベシル酸アムロジピン0.35gに対して黄色三二酸化鉄0.175g及び上記混合物(アビセル:マンニトール=4:6)17.52gを用いて(実施例16)、それぞれ、直径8mm、質量180mgの錠剤を得た。さらに、同様の方法で、ベシル酸アムロジピン0.35gと上記混合物(アビセル:マンニトール=4:6)17.62gからなり、黄色三二酸化鉄を配合しない、直径8mm、質量180mgの錠剤を得た(対照例4)。
【0070】
(試験例6)
実施例14?16及び対照例4で得られた錠剤を用いて、60℃開放系、光照射の2条件で1ヶ月間の保存安定性試験を行い、不純物含量を測定した。この時、対照例4の60℃開放系での不純物含量は0.08%、光照射条件での不純物含量は0.45%であった。また、対照例4の不純物含量を基準として比較評価するために、対照例4の不純物含量に対する実施例14?16の不純物含量比を図5に示した。その結果、何れの条件においても、ベシル酸アムロジピンに対する黄色三二酸化鉄の配合比0.1?0.5において、その配合比が高くなるほど、不純物含量が低下することが確認された。錠剤においても、黄色三二酸化鉄がジヒドロピリジン系化合物の分解を抑制し、安定化する効果を有していることが明らかとなった。また、乾式直打とすることにより、有機溶媒を用いて得られた医薬組成物よりも薬物の安定性が向上することが確認された。
【0071】
(実施例17?19)
ベシル酸アムロジピン0.058g、三二酸化鉄、0.029g、結晶セルロース(商品名アビセルPH102、旭化成工業株式会社、以下アビセルとする)とマンニトールの混合物(アビセル:マンニトール=4:6)2.91gを十分に混合し、乾式直打法として島津オートグラフAGS-1000Dにて打錠圧300kgfで製錠し、直径8mm、質量180mgの錠剤を得た(実施例17)。同様の方法で、ベシル酸アムロジピン0.058gに対して三二酸化鉄0.058g及び上記混合物(アビセル:マンニトール=4:6)2.88gを用いて(実施例18)、あるいはベシル酸アムロジピン0.058gに対して黄色三二酸化鉄0.292g及び上記混合物(アビセル:マンニトール=4:6)2.65gを用いて(実施例19)、それぞれ、直径8mm、質量180mgの錠剤を得た。
【0072】
(試験例7)
実施例17?19及び対照例4で得られた錠剤を用いて、60℃開放系、光照射の2条件で1ヶ月間の保存安定性試験を行い、不純物含量を測定した。この時、対照例4の60℃開放系での不純物含量は0.08%、光照射条件での不純物含量は0.45%であった。また、対照例4の不純物含量を基準として比較評価するために、対照例4の不純物含量に対する実施例17?19の不純物含量比を図6に示した。その結果、ベシル酸アムロジピンに対する三二酸化鉄の配合比0.5?5において、光照射では、配合比が高くなるほど、不純物含量が低下することが確認された。また、加温条件でも三二酸化鉄を配合することにより、不純物含量を抑制できることが確認された。錠剤においても、三二酸化鉄がジヒドロピリジン系化合物の分解を抑制し、安定化効果を有していることが明らかとなった。
【0073】
(実施例20?22、対照例5)
塩酸ベネジピン0.04g、黄色三二酸化鉄0.004g、結晶セルロース(商品名アビセルPH102、旭化成工業株式会社、以下アビセルとする)とマンニトールの混合物(アビセル:マンニトール=4:6)1.756gを十分に混合し、乾式直打法として島津オートグラフAGS-1000Dにて打錠圧300kgfで製錠し、直径8mm、質量180mgの錠剤を得た(実施例20)。同様の方法で、塩酸ベネジピン0.04gに対して黄色三二酸化鉄0.012g及び上記混合物(アビセル:マンニトール=4:6)1.748gを用いて(実施例21)、あるいは黄色三二酸化鉄0.02g及び上記混合物(アビセル:マンニトール=4:6)1.74gを用いて(実施例22)、それぞれ、直径8mm、質量180mgの錠剤を得た。さらに、同様の方法で、塩酸ベネジピン0.04g及び上記混合物(アビセル:マンニトール=4:6)1.76gからなり、黄色三二酸化鉄を配合しない、直径8mm、質量180mgの錠剤を得た(対照例5)。
【0074】
(試験例8)
実施例20?22及び対照例5で得られた錠剤を用いて、60℃開放系で1ヶ月間の安定性試験を行い、以下の方法で不純物含量を測定した。
(不純物含量の測定-2)
本試験例において、塩酸ベネジピンを含有する医薬組成物における不純物含量の測定は、以下の通り行った。錠剤1錠を50mLメスフラスコにとり、水10mLを加えさらにメタノールを加え50mLとし、十分に超音波処理して試料溶液とした。試料溶液は、必要に応じて遠心分離や濾過を行った(n=2)。また、HPLC Conditionsは、検出器:紫外吸光光度計(主測定波長:237nm)、カラム温度:40℃、カラム:Inertsil ODS-3(4.6mm×15cm、5μm)、流量:1.5mL/min、注入量:20μL、HPLC用移動相:0.05M リン酸塩緩衝液(pH3.0)/メタノール/テトラヒドロフラン混液(65:27:8)、分析時間:30分とした。
【0075】
試験の結果、対照例5の60℃開放系1ヶ月での不純物含量は0.64%であった。一方、塩酸ベネジピンに対する黄色三二酸化鉄の配合比0.5?5において、その配合比が高くなるほど、不純物含量が低下することが確認された(図7)。以上により、黄色三二酸化鉄がジヒドロピリジン系化合物の分解を抑制し、安定化効果を有していることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、ジヒドロピリジン系化合物を含有する医薬組成物において、ジヒドロピリジン系化合物と、酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを配合することにより、顆粒剤や細粒剤のように比表面積が大きな剤形の場合や速崩性錠剤のように被覆を施し難い剤形に対しても、品質確保のための特別なコーティング剤又はカプセル基材、あるいは、包装を用いることなく、光、水分、熱に対するジヒドロピリジン系化合物の安定性を保持できる医薬組成物を提供できる。従って、本発明によれば、患者に投与するまでの医薬品の保存環境、又は自動分包機などの調剤中の作業環境の影響を受けにくい、又は、流通や調剤行為などでの顆粒剤や錠剤の破損又は粉砕に伴う薬物の含量低下を懸念する必要がなく、高い品質を維持する医薬品を提供できる。また、本発明に係る製造方法によれば、ジヒドロピリジン系化合物と、酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することによって、ジヒドロピリジン系化合物の安定化を図ることができるため、通常の遮光被膜などを医薬組成物に施す工程必要がなく、製造工程を簡素化でき、生産性を向上させることができる。
さらにまた、本発明に係る安定化方法又は安定化剤によれば、すなわち、ジヒドロピリジン系化合物と、酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することによって、光や熱、添加剤などによるジヒドロピリジン系化合物の分解を抑制することができるため、医薬組成物の処方設計の自由度を高めることが出来る。従って、本発明によれば、嚥下能力の低下している患者であっても、服用しやすい口腔内速崩壊性錠剤や、患者の症状や年齢に併せて、きめ細かな用量水準で薬物量を調剤することが可能な顆粒剤や割錠などのジヒドロピリジン系化合物を含有する薬剤を提供できる。
従って、本発明の医薬組成物は、例えば、高齢者に対する、高血圧症,腎実質性高血圧症、腎血管性高血圧症、狭心症,異型狭心症の治療などに有用である。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを含有し、前記カラギーナンの含有量が、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部であり、顆粒剤又は錠剤であることを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合してなる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
(I)ベシル酸アムロジピンと、カラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含む製造方法により得られる錠剤である、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
(I)ベシル酸アムロジピンと、前記ベシル酸アムロジピン1質量部に対して0.05?1.2質量部のカラギーナンとを混合する工程、並びに
(II)前記(I)で得られた混合物を乾式打錠する工程
を含むことを特徴とする医薬組成物の製造方法。
【請求項5】
ベシル酸アムロジピンと、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかとを混合することを特徴とする、顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)における熱、水に対するベシル酸アムロジピンの安定化方法。
【請求項6】
ベシル酸アムロジピンを含有し、顆粒剤又は錠剤である医薬組成物(ただし、黄色三二酸化鉄をコーティング層中に含有するコーティング錠剤を除く。)に用いられ、黄色三二酸化鉄及びカラギーナンの少なくともいずれかを含有することを特徴とする、ベシル酸アムロジピンの熱、水に対する安定化剤。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2014-06-16 
結審通知日 2014-06-18 
審決日 2014-08-05 
出願番号 特願2006-539323(P2006-539323)
審決分類 P 1 113・ 841- ZD (A61K)
P 1 113・ 113- ZD (A61K)
P 1 113・ 537- ZD (A61K)
P 1 113・ 536- ZD (A61K)
P 1 113・ 121- ZD (A61K)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 前田 亜希  
特許庁審判長 内田 淳子
特許庁審判官 川口 裕美子
穴吹 智子
登録日 2010-05-14 
登録番号 特許第4509118号(P4509118)
発明の名称 医薬組成物及びその製造方法、並びに医薬組成物におけるジヒドロピリジン系化合物の安定化方法  
代理人 山本 健二  
代理人 廣田 浩一  
代理人 高島 一  
代理人 田村 弥栄子  
代理人 村田 美由紀  
代理人 原 裕子  
代理人 土井 京子  
代理人 田中 昌利  
代理人 豊岡 静男  
代理人 鎌田 光宜  
代理人 當麻 博文  
代理人 岡田 紘明  
代理人 廣田 浩一  
代理人 小池 順造  

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