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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B22C
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22C
審判 全部無効 2項進歩性  B22C
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22C
管理番号 1297425
審判番号 無効2013-800125  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-07-18 
確定日 2015-01-05 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4749193号発明「シェルモールド用鋳型材料」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第4749193号に係る経緯の概要は、以下のとおりである。
平成18年 3月28日 特許出願(特願2006-87657号、優先日 :平成17年3月30日)
平成23年 5月27日 設定登録
平成25年 7月18日 本件無効審判請求
平成25年10月 7日 答弁書及び訂正請求書
平成25年12月27日 口頭審理陳述要領書(請求人)
平成26年 1月31日 口頭審理陳述要領書(被請求人)
平成26年 2月10日 上申書(請求人)
平成26年 2月13日 口頭審理

第2 請求人の主張の概要
1.請求人の主張
(1)本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許の請求項1及び3に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでないので、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本件特許の請求項1及び3の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、それゆえ本件特許の請求項1及び3に係る発明は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効にされるべきものである(以下、「無効理由1」という。)。

(2)本件特許の請求項1及び3に係る発明は、当該特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、あるいは甲第1号証に記載された発明に基づいて、又は甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それゆえ本件特許の請求項1及び3に係る発明は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきものである(以下、「無効理由2」という。)。

(3)本件特許の請求項1乃至3に係る発明は、当該特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものであるか、又は甲第4号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それゆえ本件特許の請求項1乃至3に係る発明は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきものである(以下、「無効理由3」という。)。

(4)本件特許の請求項1乃至3に係る発明は、当該特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それゆえ本件特許の請求項1乃至3に係る発明は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきものである(以下、「無効理由4」という。)。

(5)本件特許の請求項1乃至3に係る発明は、当該特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、本件特許の優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、それゆえ本件特許の請求項1乃至3に係る発明は特許法第123条第1項第2号に該当し、無効にされるべきものである(以下、「無効理由5」という。)。

〈証拠方法〉
甲第1号証:特開昭64-66037号公報
甲第2号証:特許第3253579号公報
甲第3号証:ジャクトニュース、社団法人日本鋳造技術協会、平成14年10月20日、第550号、p.27-34
甲第4号証:特開昭59-215241号公報
甲第5号証:「平成12年度ものづくり人材支援基盤整備事業-技術・技能の客観化、マニュアル化等-「シェルモールド中子造型に係る技術・技能」平成13年1月」、中小企業総合事業団、2001、p.1-1-3-13
甲第6号証:ジャクトニュース、社団法人日本鋳造技術協会、平成9年8月20日、第488号、p.35-38
甲第7号証:ジャクトニュース、社団法人鋳造技術普及協会、昭和62年4月20日、第364号、p.23-28
甲第8号証:ジャクトニュース、社団法人鋳造技術普及協会、昭和59年11月20日、第335号、p.19-24
甲第9号証:「鋳型造型法」、第4版、社団法人日本鋳造技術協会、平成8年11月18日、p.78-81
甲第10号証:特開2003-112231号公報
甲第11号証:特開平4-200839号公報
甲第12号証:特公昭46-20064号公報
甲第13号証:特公昭46-34626号公報
甲第14号証:特開2002-35888号公報
甲第15号証:特開2003-220444号公報
甲第16号証:特開昭61-95735号公報
甲第17号証:「サンパール」、山川産業株式会社、2006年5月
甲第18号証:特公平6-28773号公報
甲第19号証:知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10243号判決
甲第20号証:知的財産高等裁判所平成24年(行ケ)第10049号判決

2.被請求人の主張
訂正請求書による訂正請求により、本件特許発明において用いられる「アミド可塑剤」は、本件特許明細書の段落【0023】に列挙されている具体的化合物に特定されることにより、本件特許明細書や特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第4項第1号及び同条第6項第1号に規定する要件を満たすものである。
また、訂正された本件特許発明は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第1号証及び甲第3号証から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第4号証に記載された発明ではなく、甲第4号証から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第4号証及び甲第2号証から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、甲第2号証及び甲第4号証から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件特許は、特許法第29条第1項第3号に該当せず、同条第2項の規定に違反しない。

〈証拠方法〉
乙第1号証:鋳型の生産技術教本編集部会、「鋳型の生産技術」、第2版、財団法人素形材センター、平成14年3月、p.254-255
乙第2号証:「鋳型造型法」、第4版、社団法人日本鋳造技術協会、1996年11月18日、p.83-84
乙第3号証:「実験成績証明書」(旭有機材工業株式会社)

第3 平成25年10月7日付け訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)について
(1)本件訂正請求の内容について
本件訂正請求は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求めるものであって、その内容は以下のとおりである。

a 訂正事項1
本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1である「(3)分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」を、
「(3)エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた、分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」と訂正する。

b 訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0008】に記載された「(3)分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」を、
「(3)エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた、分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」と訂正する。

(2)訂正の適否
a 訂正事項1
上記訂正事項1は、請求項1のアミド系可塑剤について本件訂正前は「(3)分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」として、分子量が600以下で且つ融点が40℃以上であることのみを特定し具体的な化合物を特定していなかったのに対し、訂正後は、当該アミド系可塑剤が具体的に「エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた」化合物であることを明らかにすることで特許請求の範囲を減縮しようとするものであるから、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。

また、上記訂正事項1は、発明特定事項を限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第134条の2第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。

さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、以下の記載がある。
「【0023】
なお、そのような本発明で用いられる、分子量が600以下で、融点が40℃以上のアミド系可塑剤としては、特に限定されるものではないが、エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、アセト酢酸o-アニシダイド等が挙げられ、これらの中でも、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミドの中から選択されることが、有効である。また、このようなアミド系可塑剤は、単独で若しくは2種以上組み合わせて、用いられることとなるのである。」

上記の記載によれば、上記訂正事項1(訂正後の「(3)エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた、分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」に訂正する)は、特許明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて導き出される事項であることは明らかであり、願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第134条の2第9項において準用する同法126条第5項の規定に適合するものである。

b 訂正事項2
訂正事項2は、上記訂正事項1に係る訂正に伴って、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るため、請求項1の記載に合わせて訂正したものである。
よって、訂正事項2は、特許法第134条の2第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当する。
また、訂正事項2に係る訂正も、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内のものであって、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものでなく、特許法第126条第5項及び同条第6項に規定された各要件を満たすものである。

よって、本件訂正請求に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、適法な訂正と認める。

第4 本件発明
本件特許の特許請求の範囲は、上記のとおり訂正が認められるから、本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された次のとおりのものである。

「【請求項1】
(1)粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下である合成球状体又はそれと鋳物砂との混合物と、(2)数平均分子量が1000以下のフェノール系樹脂と、(3)エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた、分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤とを、必須の構成成分として含有していることを特徴とするシェルモールド用鋳型材料。」(以下、「本件特許発明1」という。)

「【請求項2】
前記アミド系可塑剤が、アセトアニリド、アセトアミド、及びニコチン酸アミドのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載のシェルモールド用鋳型材料。」(以下、「本件特許発明2」という。)

「【請求項3】
前記フェノール樹脂が、低膨張性フェノール樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシェルモールド用鋳型材料。」(以下、「本件特許発明3」という。)

第5 当審の判断
以下、無効理由2、無効理由3、無効理由4、無効理由5、無効理由1の順に検討する。

1.刊行物の記載事項
(1)甲第1号証
甲第1号証(特開昭64-66037号公報)は、「樹脂被覆鋳型用材料」について、以下の記載がある。

(ア)「フエロアロイ製造の際に副生するスラグの球状造粒体の表面を、硬化性有機粘結剤で被覆して成る低膨張性樹脂被覆鋳型用材料。」(特許請求の範囲第1項)

(イ)「本発明の目的は、フエロアロイ製造の際に副生するスラブを用いた鋳型用材料の前記の欠点を改良し、低膨張性、高強度で、しかも常温自硬性鋳型のようなシエルモールド法以外の方法による鋳型形成にも適用しうる鋳型用材料を提供るす(当審注:「する」の誤記と認める。)ことにある。」(2頁右上欄12?17行)

(ウ)「本発明の鋳型用材料は、いわゆる耐火性骨材とその表面を被覆する硬化性有機粘結剤を主体として構成されている。
そして、この耐火性骨材の原料としては、フエロアロイを製造する際のスラグが用いられるが、このようなスラグには、例えばフエロクロム系スラグ、フエロニッケル系スラグ、フエロシリコン系スラグ、フエロバナジウム系スラグ、フエロチタン系スラグなどがある。これらの中で、特に入手しやすいフエロクロム系スラグやフエロニッケル系スラグが好ましいが、耐火性その他の物性が優れている点で最も好ましいのはフエロクロム系スラグである。・・・・このフエロクロム系スラグは、M_(2)O、Ag_(2)O、及びSiO_(2)を主成分としており、フエロニッケル系スラグはSiO_(2)及びMgOを主成分としている。これらのスラグの代表的な化学組成を第1表に示す。」(2頁左下欄11?同右下欄7行)

(エ)「本発明の耐火性骨材として用いる場合、これらのスラグ中の各成分の含有量については、特に制限はないが、耐火性を考慮すると、一般に1350℃以上の溶融温度を有する組成が有利であり、この観点から、耐火性に影響を与えるFe_(2)O_(3)、やCaOは5重量%以下、好ましくは2重量%以下のものがよい。しかし、これらの成分が5重量%を越えるものであっても鋳物製品の大きさ、鋳造方法、鋳造条件、鋳湯の種類などに応じて適宜使用することができる。
本発明においては、これらのスラブを球状に造粒して使用することが必要である.この造粒は、金属精錬時に出てくるスラブについて常用されている造粒法、例えばのろ鍋を傾動しながら溶融スラブを流出させ、或いは受滓容器より溶融スラブを流出させ、これにノズルを通して高速空気を噴射して溶融スラブを飛散させ、各液滴を表面張力作用によってほぼ球形の造粒体とする、いわゆる風砕法・・・・によって行うことができる。」(3頁左下欄10行?同右下欄10行)

(オ)「本発明の鋳型用材料の耐火性骨材としては、前記のスラグの球状造粒体を単独で用いてもよいし、また膨張性を調整するためにケイ砂と混合して用いてもよい。すなわち、スラグの球状造粒体を単独で用いた場合ほどの低膨張性は必要としないが、ケイ砂を単独で用いた場合よりも低膨張性を付与したいときには、ケイ砂に対し、その目的とする低膨張性に対応する割合で、球状造粒体を配合して用いることができる。この場合の球状造粒体の配合量は、5重量%以上、好ましくは10重量%以上である。
このスラグの球状造粒体と併用されるケイ砂としては、特に制限はなく、従来鋳型用材料の成分として一般に使用されていた天然ケイ砂や人造ケイ砂の中から任意に選ぶことができるが、焼着等による鋳物欠陥を回避しうる程度の耐火性を有するという点で、SiO_(2)の含有量が85重量%以上、特に90重量%以上のものを用いるのが有利である。
このケイ砂は、新砂でもよいし、またばい焼砂、炭化砂、グリーン再生砂のような再生砂、あるいはこれらをさらに研摩処理したもの、これらから微粉除去したものなどでもよい。」(4頁左上欄11行?同右上欄13行)

(カ)「次に、本発明において、スラグの球状造粒体又はこれとケイ砂との混合物の表面に被覆される硬化性有機粘結剤としては、鋳型用材料の粘結剤として通常使用されているもの、すなわち加熱により、酸性又は塩基性触媒により、あるいは過酸化物のような硬化剤により、化学的な硬化をもたらす有機粘結剤の中から任意に選択して用いることができる。
このような有機粘結剤としては、次のようなものを挙げることができる。
(1)シェルモールド法による鋳型造型に用いられる有機粘結剤としては、例えばノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、含窒素レゾール型フェノール樹脂、ベンジルエーテル型フェノール樹脂などのストレートフェノール樹脂又はこれらのフェノール樹脂と例えば尿素、メラミン、アニリン、フルフラール、フリフリルアルコール、カシューナットシェルオイル、トール油、ポリビニールアルコール、酢酸ビニール樹脂、ポリアミド樹脂、アクリル樹脂、ポリエチレン樹脂などと反応又は混合して成る変性フェノール樹脂や、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、キシレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、又はこれらの混合樹脂がある。」(4頁右上欄14行?同左下欄17行)

(キ)「本発明の鋳型用材料は、そのままでシエルモールド法、有機自硬性法、コールドボックス法などによる鋳型造型に使用することができるが、必要に応じ、従来の鋳型用材料に慣用されている任意の添加成分、例えばアミノ系シラン、エポキシ系シラン、メルカプト系シランのようなシランカップリング剤、エチレンビスステアリン酸アミド、オキシステアリン酸アミド、メチロールアミドのような脂肪酸アミド類、パラフィンワックス、カルナバワックスのようなワックス類、安息香酸、サリチル酸のような芳香族カルボン酸類、レゾルシノール、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのような多価フェノール類、ヘキサメチレンテトラミン、ベンガラ、砂鉄などを本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。」(5頁左上欄12行?同右上欄7行)

(ク)「鋳型用材料の調製;
実験用スピードミキサー中に第2表に示す約140?150℃に予熱した耐火性骨材10kgと硬化性有機粘結剤としてノボラック型フェノール樹脂300gを投入したのち50秒間かきまぜ混合を続けて該骨材表面に樹脂を溶融被覆させた。引き続き、あらかじめ冷却水150gにヘキサメチレンテトラミン(硬化剤)45gを溶解させた水溶液を全量投入すると共に送風を開始し、混合物を冷却しながらさらに約40?60秒間かきまぜ混合を続けてほぼ単砂粒に崩壊させたのち、滑剤としてステアリン酸カルシウム10gを加え15秒後にミキサーより取り出して鋳型用材料を得た。」(5頁右下欄下から3行?6頁左上欄10行)

(ケ) 第1表には、フエロニッケル系粒状スラグの代表的な化学組成が示され、化学分析値(重量%)で、SiO_(2)が52?53、Al_(2)O_(3)が2?3、Fe_(2)O_(3)が5?9、CaOが5?5.5、MgOが28?29、N_(2)Oが0.1以下、K_(2)Oが0.01以下、Sが0.05?0.06、Crがtr、Niが0.1?0.2と表示されている。

甲第1号証には「樹脂被覆鋳型用材料」について記載され、記載事項(キ)によると、この樹脂被覆「鋳型用材料」は「シエルモールド法」「による鋳型造型に使用することができる」ものであり、記載事項(ウ)には、当該樹脂被覆「鋳型用材料」とは「耐火性骨材とその表面を被覆する硬化性有機粘結剤を主体として構成され」たものと記載されている。
記載事項(ウ)には、その「耐火性骨材」の原料として、「フエロニッケル系スラグ」が記載され、記載事項(エ)には、スラグを「のろ鍋を傾動しながら溶融スラグを流出させ、あるいは受滓容器より溶融スラグを飛散させ、各液滴を表面張力作用によってほぼ球形の造粒体とする」「風砕法」により造粒を行うことが記載され、さらに、記載事項(オ)には、「耐火性骨材」としては「スラグの球状造粒体を単独」、あるいは「ケイ砂と混合して用い」ると記載されている。
記載事項(カ)には、「スラグの球状造粒体又はこれとケイ砂との混合物の表面に被覆される硬化性有機粘結剤硬化性有機粘結剤」について、「ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、含窒素レゾール型フェノール樹脂、ベンジルエーテル型フェノール樹脂などのストレートフェノール樹脂」が記載されている。
記載事項(キ)には、樹脂被覆「鋳型用材料」に「任意の添加成分」として「アミノ系シラン、エポキシ系シラン、メルカプト系シランのようなシランカップリング剤、エチレンビスステアリン酸アミド、オキシステアリン酸アミド、メチロールアミドのような脂肪酸アミド類、パラフィンワックス、カルナバワックスのようなワックス類、安息香酸、サリチル酸のような芳香族カルボン酸類、レゾルシノール、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのような多価フェノール類、ヘキサメチレンテトラミン、ベンガラ、砂鉄など」を「配合することができる」と記載されている。

そうすると、甲第1号証には下記の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「耐火性骨材とその表面を被覆する硬化性有機粘結剤を主体として構成された樹脂被覆鋳型用材料であって、この鋳型用材料はシエルモールド法による鋳型造型に使用することができるものであり、
耐火性骨材の原料はフエロニッケル系スラグであり、スラグを、のろ鍋を傾動しながら溶融スラグを流出させ、あるいは受滓容器より溶融スラグを飛散させ、各液滴を表面張力作用によってほぼ球形の造粒体とする風砕法により造粒を行うものであり、
耐火性骨材は、スラグの球状造粒体を単独、あるいはケイ砂と混合して用いるものであり、
硬化性有機粘結剤は、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、含窒素レゾール型フェノール樹脂、ベンジルエーテル型フェノール樹脂などのストレートフェノール樹脂であり、
任意の添加成分として、アミノ系シラン、エポキシ系シラン、メルカプト系シランのようなシランカップリング剤、エチレンビスステアリン酸アミド、オキシステアリン酸アミド、メチロールアミドのような脂肪酸アミド類、パラフィンワックス、カルナバワックスのようなワックス類、安息香酸、サリチル酸のような芳香族カルボン酸類、レゾルシノール、カテコール、ビスフェノールA、ビスフェノールSのような多価フェノール類、ヘキサメチレンテトラミン、ベンガラ、砂鉄などを配合することができる、樹脂被覆鋳型用材料。」

(2)甲第2号証
甲第2号証(特許第3253579号公報)には、「鋳型用砂」について、図面とともに以下の記載がある。

(コ)「【請求項1】 ニッケル鉱滓の溶融スラグを風砕処理して得られ、2MgO・SiO_(2)を主成分とし、耐火温度が約1450℃であり、粒形係数が1.2以下であり、磨鉱処理された球状砂単独又はこの球状砂と他の粒状のシリカサンドとの混合物である骨材が、注湯時に該骨材の相互結着を維持し、注湯後に該骨材相互の結着を崩壊させうる樹脂で被覆されてなる鋳型用砂。」

(サ)「【請求項3】 樹脂が、フェノール樹脂である請求項1または2の鋳型用砂。」

(シ)「【0009】また、本発明の球状砂の粒形係数は1.2以下、好ましくは1.1から1である。球形状骨材は、その表面積が多角型の粒状骨材に比べ小さいため、少ない樹脂添加量で骨材の表面を覆うことができる。・・・・」

(ス)「【0011】本発明の球状砂は、ニッケル鉱滓の溶融スラグを風砕処理して得ることができる。風砕処理とは、風砕機の中で、ブロワーにより送られた風によって細かく球状化するものである。・・・・」

(セ)「【0012】・・・・磨鉱処理は、トラフ式磨鉱機を用いて、パルプ濃度、すなわち本発明の球状砂と水との比率が、重量比で1:0.1から0.25の条件で行なうのが好ましい。」

(ソ)「【0013】本発明の球状砂は単独でも用いることができるが、他の粒状シリカサンドと混合することにより、耐火性をさらに向上することができる。すなわち、他の粒状シリカサンドを混合することにより、焼着のような鋳物用砂の欠点が補われる。他の粒状シリカサンドとしては、天然及び人造シリカサンドまたは再生砂のいずれでもよい。他の粒状シリカサンドの組成としては、SiO_(2)含有量が少なくとも85%以上が好ましく、90%以上がより好ましい。その場合、混合割合は本発明の球状砂が、本発明の骨材中好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは10から90重量%である。」

(タ)「【0015】本発明の樹脂は、注湯時に該骨材の相互結着を維持し、かつ注湯後に該骨材相互の結着を崩壊させうる性質を有する樹脂であれば特にこれに限定されない。本発明に用いる樹脂としては、例えば、フェノール系樹脂、ユリア系樹脂、メラミン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ケイ素系樹脂、ポリイミド系樹脂等が挙げられるが、特にこれに限定されない。このうち、ノボラック樹脂、フェノール樹脂またはレゾール樹脂等のフェノール系樹脂が好ましい。ここで、注湯時の温度が高い金属を使用する場合(例えば、鉄の場合注湯時の温度は、通常1300から1600℃である)、該温度でも上記性質を有する樹脂を使用することが特に好ましい。そのような樹脂の例としては、AVライト樹脂(旭有機社製)等が挙げられる。また、本発明に用いる樹脂の平均分子量は、400から600が好ましい。」

(チ)「【0020】本発明の鋳型用砂を利用する鋳型造型法としては、シェルモールド法が望ましい。
【0021】なお本発明の骨材は、フェノール樹脂と有機エステルがアルカリ金属により硬化するアルファセット法、フェノール樹脂及びポリイソシアネートが第3級アミン存在下にフェノールウレタン樹脂を作製し硬化するイソキュア法、フェノール樹脂及びギ酸メチルを用いるベータセット法、フェノール樹脂及びポリイソシアネートが塩基性触媒存在下にフェノールウレタン樹脂を作製し硬化するヘプセット法、フラン樹脂及び酸性触媒を用いるフラン鋳型法等に使用されてもよい。その際、本発明の骨材の他に、有機粘結剤および滑剤のような鋳型作製の際に慣用されている添加剤を加えてもよい。」

(ツ)「【0024】本発明の球状砂の製造方法を図1に示す。まず、図1に示すように天然のニッケル鉱石を乾燥機で乾燥し、その後ロータリーキルンで無煙炭および石灰石を配合し、電子炉で製錬した。その際生じた溶融スラグを風砕し、さらに選鉱(比重選鉱、磁力選鉱)を行なって本発明の球状砂を得た。この球状砂の粒度は30から850μmであった。得られた本発明の球状砂の粒形写真(×25)を図2に、比較として風砕処理を行なっていない多角形粒状砂(70メッシュ単一粒子径)の粒形写真(×25)を図3に示す。また、得られた球状砂の化学成分を表1に示す。」

(テ)「【0026】実施例1
骨材として本発明の球状砂を単独で使用した。本発明の球状砂以外の添加剤の配合は、表2に示す。この本発明の球状砂を150℃で加熱した後、フェ ノール樹脂を添加して混練した。次いで、温度を105℃に下げ、この温度でヘキサメチレンテトラミン水溶液(硬化剤)を本発明の球状砂100重量部に対して1.83重量部添加して混練し、更に冷風を吹き込みながら混練した。更に、流動性を高めるためにステアリン酸カルシウム(滑剤)を本発明の球状砂100重量部に対して0.05部添加して混練することにより、本発明の鋳物用砂を得た。」

(ト)「【0028】実施例2
更に実施例2は、本発明の球状砂を磨鉱処理したものを骨材とし、実施例1と同様に製造した。
【0029】実施例1および2ならびに比較実施例1から4で製造したRCSについて、粒度指数、抗折力、ベンド値、800℃および1000℃における熱膨張率、および粒形係数を測定した。その結果を表3に示す。
【0030】表3で用いたRCSの特性の測定方法は、以下のとおりである。粒度指数は、AFS法に準じて測定した。抗折力は、JIS法に準じて測定した。具体的には、JISK-6910法に準じて測定した。ベンド値は、JACT法に準じて測定した。・・・・」

(ナ) 表1には、球状砂の化学成分が示され、SiO_(2)が50-54%、MgOが32-36%、Fe_(2)O_(3)が3-5%、Al_(2)O_(3)が1-2%、CaOが1%>と表示されている。

甲第2号証には、「骨材」を「樹脂」で被覆した「鋳型用砂」について、その記載事項(ソ)には、「骨材」は「球状砂」単独あるいは「他の粒状シリカサンドと混合」したものと記載され、この「球状砂」について、記載事項(ス)によると「ニッケル鉱滓の溶融スラグを風砕処理して得ることができ」るものであり、記載事項(シ)には、「球状砂の粒形係数は1.2以下」であると記載されている。
記載事項(タ)には、「樹脂」として、「ノボラック樹脂、フェノール樹脂またはレゾール樹脂等のフェノール系樹脂」が記載され、「樹脂」の「平均分子量」として「400から600」であると記載されている。
記載事項(チ)には、「鋳型用砂」を利用する鋳型造型法として「シェルモールド法」が記載され、記載事項(チ)には、「骨材の他に、有機粘結剤および滑剤のような鋳型作製の際に慣用されている添加剤」を加えることが記載されている。

そうすると、甲第2号証には、下記の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
「骨材を樹脂で被覆した鋳型用砂について、この鋳型用砂を利用する鋳型造型法はシェルモールド法であり、
骨材は球状砂単独あるいは他の粒状シリカサンドと混合したものであり、
この球状砂は、ニッケル鉱滓の溶融スラグを風砕処理して得ることができるもので、球状砂の粒形係数は1.2以下であり、
樹脂は、ノボラック樹脂、フェノール樹脂またはレゾール樹脂等のフェノール系樹脂であり、樹脂の平均分子量は400から600であり、
骨材の他に、有機粘結剤および滑剤のような鋳型作製の際に慣用されている添加剤を加えたものである、鋳型用砂。」

(3)甲第3号証
甲第3号証(ジャクトニュース、社団法人日本鋳造技術協会、平成14年10月20日、第550号、p.27-34)には、「球状低膨張鋳物砂(サンパール)の開発」と題し、以下の記載がある。

(ニ)「平成10年に弊社が開発した球状低膨張鋳物砂「商品名:サンパール」は、理想的な鋳物砂としての特性を有しており、現在その特長を生かして、シェルモールドおよび材質的には鋳鉄を中心に、各造型プロセス各分野で高い評価を得ている。」(27頁左欄1?5行)

(ヌ)「これらベーニング・焼着・ガス欠陥等の鋳型に起因する鋳造欠陥の対策も含め、鋳型を構成する鋳物砂に求められる特性としては、次の5点が上げられる。
1(当審注:甲第3号証では丸内に1と表記されているところ、「1」と略記した。以下、同じ。)砂粒表面の清浄性、2丸い粒形、3低膨張性、4耐熱性、5適度な硬さ
これらすべての要求に応えるには、けい砂では低膨張性と耐熱性など相反する問題があるため限界があり、ジルコンサンド等の特殊砂(低膨張砂)に頼らざるを得ない。ところが、従来の特殊砂は比重が重い、原価が高い等の欠点があり、用いられる分野は限られているのが現状である。
・・・・
そこで、・・・・前記の鋳物砂に対する要求特性5点をすべて兼ね備えた骨材)の開発研究に取り組んだ結果、ようやくサンパールの開発に成功した。」(27頁左欄16行?右欄16行)

(ネ)「サンパールは、NEサンドと同様、フェロニッケル精錬工程における副産物(鉱滓)を原料としている。」(27頁右欄18?19行)

(ノ)「サンパールの場合は、溶融状態の鉱滓を風砕(空気で吹き飛ばして細かい球状粒子にしながら冷却する)という方法で処理することによって得られた、極めて真球に近い球状の骨材を原料としている。
フェロニッケル鉱滓の風砕骨材は、従来からフェロニッケルメーカの太平洋金属八戸製造所で製造されており、・・・・熱膨張もNEサンドと比較して大きかったため、NEサンドに替わる新骨材となり得なかった。
そこで、大平洋金属と共同で改良に取り組み、風砕の条件や冷却方法などに工夫を重ねることによって、熱膨張が小さく、かつ0.5mm以下の細かい球状骨材の開発に成功した。ただ、この骨材そのままでは鋳造用としては、鋳型強度の面で特徴の少ないものであったため、さらにこの骨材をトラフ式磨鉱機により湿式で処理することによって、最終的に鋳物砂として非常に特徴のある骨材にすることができた。」(27頁右欄下から2行?28頁左欄16行)

(ハ)「サンパールの粒形は極めて丸く、真球に近い。加えて、その表面は極めて平滑である。」(28頁右欄最終行?29頁左欄1行)

(ヒ)「サンパールをシェル鋳型に適用した場合、同条件で弊社再生けい砂に比較して、約1.7倍の曲げ強度を得ることができた。」(29頁右欄4行?30頁左欄1行)

(フ)「4・2.熱膨張率
図7にサンパールおよびその他鋳物砂のシェル鋳型熱膨張率挙動を示した。この図から明らかなように、サンパールによるシェル鋳型の熱膨張挙動には、けい砂にあるような急激な膨張だけの変態点がなく、最終の熱膨張率も従来の低膨張砂やNEサンドと同様極めて小さい。」(30頁右欄7?12行)

(ヘ)「サンパールは砂粒表面が平滑で、炭化した樹脂が砂粒表面から剥離しやすいため、振動などの力で簡単に崩れてしまうものと思われる。」(31頁左欄17?19行)

(4)甲第4号証
甲第4号証(特開昭59-215241号公報)には、「シェルモールド用レジンコーテッドサンド」について、以下の記載がある。

(ホ)「(1)フェノール樹脂、シランカップリング剤及び分子量が500未満のアミドを鋳型用珪砂に被覆させてなるシェルモールド用レジンコーテッドサンド。」(特許請求の範囲第1項)

(マ)「分子量が500未満のアミドが、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アセト酢酸アニリド、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチルベンズアミド、N-フェニルプロピオンアミド、メチロールステアロアミド、N-フェニルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、アセトアミド、ステアリルアミド、プロピオンアミドの群から選ばれた1種以上である特許請求の範囲第(1)項記載のシェルモールド用レジンコーテッドサンド。」(特許請求の範囲第3項)

(ミ)「これらのフェノール樹脂を使用してレジンコーテッドサンドを加熱造型して得られる鋳型の曲げ強度を向上するには、一般にフェノール樹脂の分子量を低下し、加熱造型時にフェノール樹脂の鋳型用珪砂の表面における流れを増加することにより結合力を高める方法がとられている。」(2頁左上欄4?10行)

(ム)「本発明者らは、シエルモールド用レジンコーテッドサンドより得られる鋳型の強度を大幅に改良する方法を鋭意研究した結果、鋳型用珪砂にフェノール樹脂とシランカップリング剤と分子量が500未満のアミドを被覆させることにより、鋳型の強度がきわめて向上することを見出した。シランカツプリング剤または分子量500未満のアミドを各々単独でフェノール樹脂と併用した場合、鋳型の強度はフェノール樹脂だけを使用した場合に比べ、若干の増加しか認められないので、シランカツプリング剤と分子量が500未満のアミドを同時に併用することによる鋳型の強度の大幅な向上は、これらの相乗効果によるものと考えられる。」(2頁右上欄13行?同左下欄5行)

(メ)「本発明に用いる分子量が500未満のアミドの例としては、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アセト酢酸アニリド、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチルベンズアミド、N-フェニルプロピオンアミド、メチロールステアロアミド、N-フェニルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、アセトアミド、ステアリルアミド、プロピオンアミドなどである。
これらのアミドの1種以上を使用することができる。
分子量の500以上のアミド、たとえばエチレンビスステアリルアミド、メチレンビスステアリルアミド、ポリアミド樹脂などは鋳型の強度を向上させる効果を有しない。」(2頁左下欄下から2行?同右下欄12行)

(モ)「シランカップリング剤および分子量が500未満のアミドの添加量は、フェノール樹脂100重量部に対して各々0.01?10重量部が望ましい。・・・・
本発明に用いるシランカップリング剤および分子量が500未満のアミドの配合方法は、ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂の製造時にフェノールとホルムアルデヒドの反応開始時、反応中または反応終了後のいずれの時点での配合でも可能である。
・・・・レジンコーテッドサンドの製造工程中にてシランカップリング剤とアミドを配合することもできる。この際、添加時期はフェノール樹脂の添加前または添加後、あるいは同時のいかなる場合も可能である。
・・・・
いずれの配合方法によっても得られたレジンコーテッドサンドから製造されたシェル鋳型の強度は配合しない場合に比べ、顕著に向上する。」(2頁右下欄13行?3頁右上欄1行)

(ヤ)「製造例2
冷却器付き反応釜にフェノール1000部、37%ホルマリン1795部を仕込み、ついで28%アンモニア水160部、50%水酸化ナトリウム60部を添加後、徐々に昇温し・・・・真空下で脱水反応を行ない内温が85℃になった時点でγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン10部およびステアリルアミド(分子量284)10部を添加した。その後釜出しし急冷して、レゾール型フェノール樹脂1080部を得た。」(3頁左下欄4?14行)

(ユ)「製造例3
冷却器付き反応釜にフェノール1000部、37%ホルマリン604部、次いで酢酸亜鉛10部を仕込んだ。徐々に昇温し・・・・真空下で脱水反応を行なった後、ビニルトリメトキシシラン5部およびN-メチルベンズアミド(分子量135)50部を添加した。その後釜出しして、ノボラック型フェノール樹脂920部を得た。」(3頁左下欄下から3行?同右下欄6行)

(ヨ)「実施例2
温度130?140℃に加熱した三栄6号珪砂7000部をワールミキサ一に仕込んだ後、製造例2にて得られたレゾール型フェノール樹脂140部を添加した後・・・・コーテッドサンドが崩壊するまで混練後、ステアリン酸カルシウム7部を添加し、30秒間混合して、排砂して、エヤレーションを行ないレジンコーテッドサンドを得た。
実施例3
製造例3にて得られたノボラック型フェノール樹脂を使用する以外は実施例1と同様の製造条件にてレジンコーテッドサンドを得た。」(4頁右上欄17行?同左下欄9行)

甲第4号証には、「シェルモールド用レジンコーテッドサンド」について、記載事項(ム)に「鋳型用珪砂にフェノール樹脂とシランカップリング剤と分子量が500未満のアミドを被覆」させたものと記載されている。
記載事項(メ)には、「分子量が500未満のアミド」として「アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アセト酢酸アニリド、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチルベンズアミド、N-フェニルアセトアミド、メチロールステアロアミド、N-フェニルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、アセトアミド、ステアリルアミド、プロピオンアミド」が記載されている。
記載事項(モ)には、「フェノール樹脂」として「ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂」が記載されている。

そうすると、甲第4号証には、下記の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認められる。
「鋳型用珪砂にフェノール樹脂とシランカップリング剤と分子量が500未満のアミドを被覆させたシェルモールド用レジンコーテッドサンドであって、
分子量が500未満のアミドは、アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アセト酢酸アニリド、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチルベンズアミド、N-フェニルプロピオンアミド、メチロールステアロアミド、N-フェニルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、アセトアミド、ステアリルアミド、プロピオンアミドであり、
フェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂である、
シェルモールド用レジンコーテッドサンド。」

(5)甲第8号証
甲第8号証(ジャクトニュース、社団法人鋳造技術普及協会、昭和59年11月20日、第335号、p.19-24)には、「最近のシェルモールド法用フェノール樹脂の課題」と題し、以下の記載がある。

(ラ)「シェル用フェノール樹脂は、一般に、数平均分子量が300?600のオリゴマーであるが、分子量の低下とともに溶融粘度が小さくなり強度が向上する。」(19頁右欄22?24行)

(6)甲第9号証
甲第9号証(「鋳型造型法」、第4版、社団法人日本鋳造技術協会、平成8年11月18日、p.78-81)には、「鋳型造型法」について、以下の記載がある。

(リ)「シェルモールド用粘結剤としては樹脂の熱に対する溶融特性、硬化性、硬化物の常温、高温での特性等の点から現在一般的に、熱硬化性のフェノール樹脂が使用されている。」(78頁左欄5?9行)

(ル)「樹脂の高強度化は大きく分け1溶融時の流動性を良くする、・・・・等の方法があり実用化されている。流動化の向上には樹脂の分子量の低下・・・・が有効である・・・・」(79頁右欄10?14行)

(7)甲第10号証
甲第10号証(特開2003-112231号公報)には、「シェルモールド用ノボラック型フェノール樹脂」について、以下の記載がある。

(レ)「本発明のノボラック型フェノール樹脂の数平均分子量(Mn)としては、300?1000であることが好ましく、さらに好ましくは400?900である。かかる数平均分子量のものを用いることにより、レジンコーテッドサンドとしての保存性と鋳型強度を両立させることができる。」(段落【0014】)

(8)甲第11号証
甲第11号証(特開平4-200839号公報)には、「シェルモールド用レジンコーテツドサンド」について、以下の記載がある。

(ロ)「本発明において使用されるノボラック型フェノール樹脂は、上記鋳物砂の結合剤として機能し、特に臭気の軽減を効果的に達成し、しかも従来技術と遜色ない造型性と鋳型強度を確保するためには、第2図に示すゲル分配型高速液体クロマトグラフチャートのピークYに帰属する有臭性の特異な低分子化合物を含まず、かつ未反応フェノールの含有量が0.5重量%以下であり、しかも数平均分子量が450?600のものであることが必要である。・・・・数平均分子量が450未満では造型性が悪くなり、一方600を越えると鋳型強度が弱くなるなどの不具合を生じるので好ましくない。」(2頁左下欄12行?同右下欄5行)

2.無効理由2(甲第1号証に基づく新規性進歩性)について
(1)本件特許発明1について
a 対比
本件特許発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「「シエルモールド法による鋳型造型に使用する」「樹脂被覆鋳型用材料」」は、本件特許発明1の「シェルモールド用鋳型材料」に相当し、本件特許明細書に「鋳物砂の例としては、ケイ砂のほか、オリビンサンド、ジルコンサンド、クロマイトサンド、アルミナサンド等の特殊砂、フェロクロム系のスラグ、フェロニッケル系スラグ、転炉スラグ等のスラグ系の粒子、それらの再生砂等を挙げることが出来る」(段落【0017】)と記載されていることから、甲1発明の「ケイ砂」は、本件特許発明1の「鋳物砂(ケイ砂)」に相当するといえる。
また、甲1発明の「球状造粒体」は、本件特許発明1の「合成球状体」と、「合成した球状体」という限りにおいて一致する。
さらに、本件特許明細書には「本発明で用いるフェノール系樹脂は・・・・例えば、フェノールを原料とした、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、含窒素レゾール型フェノール樹脂、ベンジルエーテル型フェノール樹脂・・・・を挙げることが出来る」(段落【0018】)と記載されていることから、甲1発明の「ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、含窒素レゾール型フェノール樹脂、ベンジルエーテル型フェノール樹脂などのストレートフェノール樹脂」は、本件特許発明1の「フェノール系樹脂」にあてはまるといえる。

してみると、本件特許発明1と甲1発明は、
「合成した球状体又はそれと鋳物砂との混合物と、フェノール系樹脂とを、必須の構成成分として含有する、シェルモールド用鋳型材料。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〈相違点1〉
合成した球状体につき、本件特許発明1では、「粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下である」のに対し、甲1発明はかかる事項を有していない点。

〈相違点2〉
フェノール系樹脂につき、本件特許発明1では、「数平均分子量が1000以下」であるのに対し、甲1発明では、「ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、含窒素レゾール型フェノール樹脂、ベンジルエーテル型フェノール樹脂などのストレートフェノール樹脂」であるものの、数平均分子量は不明である点。

〈相違点3〉
本件特許発明1の「シェルモールド用鋳型材料」が、「エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた、分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」を必須の構成成分としているのに対し、甲1発明の「樹脂被覆鋳型用材料」は、任意の添加成分として、エチレンビスステアリン酸アミドを配合するものの、本件特許発明1のようなアミド系可塑剤を必須の構成成分とするものではない点。

b 判断
〈相違点2について〉
まず、相違点2について検討する。
甲第8号証ないし甲第11号証の上記記載事項(ラ)?(ロ)からすると、シェルモールドに用いられるフェノール樹脂について、鋳型の高強度化のために、樹脂の分子量を低下させることが有効なこと、フェノール樹脂の数平均分子量を1000以下とすることが、周知の技術的事項であるということができる。
そうすると、甲1発明の樹脂被覆鋳型用材料において、鋳型の高強度化のために、上記周知の技術的事項を参酌して、本件特許発明1の相違点2に係る発明特定事項を想到することは、当業者が容易になし得たものといえる。

〈相違点1について〉
甲第1号証には、粒形係数や気孔率に関する記載は見当たらない。一方、甲1発明の球状造粒体はフエロニッケル系スラグから風砕法によって造粒を行っており、この造粒によって粒形係数や気孔率がどのような値になるかについて検討する。
ここで、甲第2号証には、ニッケル鉱滓、すなわちフエロニッケル系スラグを風砕処理することにより、粒形係数が1.2以下の球状砂、すなわち球状造粒体を得ることができることが記載されている(甲第2号証の記載事項(コ)、(ス)参照)。
すると、風砕法によって造粒を行った「球状造粒体」の粒形係数が1.2以下である可能性があるといえるが、ニッケル鉱滓を単に風砕するだけでは形状を球状とすることができないことは、甲第3号証の記載事項(ノ)に記載されているように技術常識であるから、球状の程度を表す粒形係数が1.2以下の球状体を得るためには種々の工夫が必要であって、風砕法により球状体を得るとのみの開示しかなされていない、甲第1号証から導出される甲1発明の球状造粒体の粒形係数が1.2以下であるとはいえない。
仮に、甲1発明の球状造粒体の粒形係数が1.2以下であったとしても、その気孔率は依然として不明であるし、気孔率が5%以下である根拠を甲第2号証に求めることはできない。すなわち、「サンパール」という鋳型用骨材のパンフレットである甲第17号証に、甲第2号証に係る特許番号が記載されているという単純な事実のみをもって、甲第2号証の実施例2に記載されたものがサンパールであると断じることはできない。

さらに、甲第2号証に記載された球状砂が非多孔質であると断じるものは見当たらず、仮に非多孔質であるとしても、甲第18号証に記載された、該球状砂とは材質の異なるアルミナ質原料微粉末を造粒・焼結した多孔質セラミックス球状体の気孔率から、該球状砂の気孔率を推定することは困難であり、材質の違いを差し置いても、甲第18号証の第1表には、「ナイガイセラビーズ45」という多孔質セラミックス球状体の気孔率が37.9%であることが示されているから、同表に気孔率が11.6%や10.5%の同球状体が示されているとしても、甲第2号証の球状砂の気孔率を10%以下と断じることはできない。

そうすると、相違点1は実質的なものである。

次に甲1発明の粒形係数を1.2以下、気孔率を10%以下とすることが甲第3号証から導出できるかについて検討する。
甲第1号証には、発明の目的として、「低膨張性、高強度」な「鋳型用材料を提供する」(記載事項(イ)参照)との記載はなされているものの、この目的の達成のために、粒形係数を1.2以下にすることや気孔率を10%以下にすることについての記載はなされていない。
一方、甲第3号証には、鋳物砂に求められる性質として、「丸い粒形」、「低膨張性」が含まれること(記載事項(ヌ)参照)が記載されており、「丸い粒形」は「高強度」をもたらすことが、甲第5号証の表-3(p.1-15)に記載されているように知られているから、「丸い粒形」は「高強度」と言い換えることができる。
そうすると、甲第3号証に接した当業者は、高強度とするために、甲1発明の球状造粒体をより丸くする、すなわち、粒形係数を1.2以下とする動機付けを得るということができる。
しかし、気孔率については、当業者が甲第3号証に接しても何も教示を得ることはないから、甲1発明の球状造粒体において、気孔率を10%以下とすることは、当業者といえども容易になし得ることではない。

そして、本件特許発明1において 「粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下である」合成球状体をシェルモールド用鋳型材料の必須の構成成分とすることにより、本件特許発明1は、「少ない樹脂量にて粒子の表面を覆うことが出来、その結果、充分な強度を維持し得ると共に、鋳込み後における崩壊性の良好な鋳型を形成し得る」(本件特許明細書段落【0015】)という効果を奏するものである。

してみると、本件特許発明1と甲1発明すなわち甲第1号証に記載された発明は相違点1で実質的に相違し、本件特許発明1の相違点1に係る発明特定事項は、甲第1号証に記載された発明、あるいは甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて容易になし得たものとはいえない。

〈相違点3について〉
甲1発明は、「任意の添加成分として」「エチレンビスステアリン酸アミド」を、文言上、添加し得るものであるが、甲第1号証には、このエチレンビスステアリン酸アミドの添加目的の記載はなく、添加した実施例の記載もないことから、添加目的を推認することもできないし、「任意の添加成分として」列挙されている他の多数の物質の中から、エチレンビスステアリン酸アミドを選択して添加する動機付けの記載はないといえる。
一方、本件特許発明1では、エチレンビスステアリン酸アミドを添加することにより、本件特許明細書の段落【0006】?【0007】に記載された、甲第1号証からは予測できない効果を奏するものである。
そうすると、甲1発明は、文言上、「任意の添加成分として」「エチレンビスステアリン酸アミド」を添加するものであったとしても、「エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた、分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」を必須の構成成分として添加することの実質的な開示はないといえ、相違点3に係る本件特許発明1の発明特定事項をなすことは当業者であっても容易になし得ることではない。

してみると、本件特許発明1と甲1発明は相違点3で実質的に相違し、本件特許発明1の相違点3に係る発明特定事項は、甲第1号証に記載された発明に基いて容易になし得たものとはいえない。

したがって、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1は、特許法第29条第1項又は第2条の規定に違反して特許を受けたものではない。

(2)本件特許発明2及び本件特許発明3について
本件特許発明2は、「請求項1に記載のシェルモールド用鋳型材料」と特定されるとおり、本件特許発明1を請求項2に記載された発明特定事項に特定するものである。
また、本件特許発明3は、「請求項1又は2に記載のシェルモールド用鋳型材料」と特定されるとおり、本件特許発明1、又は本件特許発明1を請求項2に記載された発明特定事項により特定した本件特許発明2を、請求項3に記載された発明特定事項に更に特定するものである。
そして、上記(1)で検討したように、本件特許発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
そうすると、本件特許発明1の発明特定事項を全て有する本件特許発明2及び本件特許発明3は、いずれも、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明3は、特許法第29条第1項又は第2条の規定に違反して特許を受けたものではない。

(3)まとめ
したがって、無効理由2についての請求人の主張は理由がない。

3.無効理由3(甲第4号証に基づく新規性進歩性)及び無効理由4(甲第4号証及び甲第2号証に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
a 対比
本件特許発明1と甲4発明とを対比すると、甲4発明の「シェルモールド用レジンコーテッドサンド」は、本件特許発明1の「シェルモールド用鋳型材料」に相当するといえる。
また、甲4発明の「鋳型用珪砂」は、本件特許発明1の「粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下である合成球状体又はそれと鋳物砂との混合物」と、「シェルモールド用骨材」という限りにおいて一致し、甲4発明の「分子量が500未満のアミド」と、本件特許発明1の「アミド系可塑剤」とは、「アミド」であるという限りにおいて一致する。
さらに、本件特許明細書には「本発明で用いるフェノール系樹脂は・・・・例えば、フェノールを原料とした、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、含窒素レゾール型フェノール樹脂、ベンジルエーテル型フェノール樹脂・・・・を挙げることが出来る」(段落【0018】)と記載されていることから、甲4発明の「ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂」は、本件特許発明1の「フェノール系樹脂」にあてはまるといえる。

そうすると、本件特許発明1と甲4発明は、
「シェルモールド用骨材と、フェノール系樹脂と、アミドを含有している、シェルモールド用鋳型材料。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〈相違点4〉
シェルモールド用骨材につき、本件特許発明1では、「粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下である合成球状体又はそれと鋳物砂との混合物」であるのに対し、甲4発明では「鋳型用珪砂」である点。

〈相違点5〉
フェノール系樹脂につき、本件特許発明1では、「数平均分子量が1000以下」であるのに対し、甲4発明の「ノボラック型フェノール樹脂またはレゾール型フェノール樹脂」であり、数平均分子量が不明である点。

〈相違点6〉
アミドにつき、本件特許発明1では、「エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた、分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」であるのに対し、甲4発明では、「アクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、アセト酢酸アニリド、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチルベンズアミド、N-フェニルプロピオンアミド、メチロールステアロアミド、N-フェニルアセトアミド、ジメチルアセトアミド、アセトアミド、ステアリルアミド、プロピオンアミド」の「分子量が500未満のアミド」である点。

b 判断
〈相違点5について〉
まず、相違点5について検討すると、相違点5は、上記相違点2と実質的に同一であるから、相違点2の検討の際に述べたものと同じ理由により、相違点5に係る本件特許発明1の発明特定事項をなすことは、当業者であれば容易になし得るものである。

〈相違点4について〉
甲第4号証において、「鋳型用珪砂」には「三栄6号珪砂」が用いられている(上記記載事項(ヨ)参照)。この珪砂は珪石を粉砕処理したものであって、合成球状体を含むものではないから、甲第4号証には、珪砂に粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下の合成球状体を混合するという思想は開示されていない。
そうすると、甲4発明において、合成球状体を混合するということは想定されていないということであるから、この相違点4は実質的なものであり、しかも、甲第4号証にも、また甲第1?3、5?18号証にも、甲4発明に粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下の合成球状体を混合させる動機付けとなるものは見当たらない。

仮に、甲2発明の球状砂に置き換えることができたとしても、甲2発明に係る甲第2号証には「粒形係数が1.2以下」の球状砂が記載されているものの、「気孔率を10%以下」とすることは記載されておらず、本件特許の優先日前に、球状砂の「気孔率を10%以下」とすることが公知であったことを示す証拠も提出されていない。
よって、甲4発明の鋳物用硅砂を甲2発明の球状砂に換えたとしても、「粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下である合成球状体」を想到することができたとはいえない。

なお、請求人は「本件発明1・・・では、・・・混合物について、合成球状体と鋳物砂との混合割合は何ら規定されておらず・・・混合物には合成球状体0.01重量%と鋳物砂99.99重量%との混合物も含まれるのであり、このようなものは、鋳物砂単独のものと実質的に区別することができない。」(審判請求書42頁11?16行)と主張するが、甲4発明は上記のとおり合成球状体を混合する思想はないのであるから、この主張により、相違点4が実質的なものであるとの判断は左右されない。

そして、本件特許発明1において 「粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下である」合成球状体をシェルモールド用鋳型材料の必須の構成成分とすることにより、本件特許発明1は、「少ない樹脂量にて粒子の表面を覆うことが出来、その結果、充分な強度を維持し得ると共に、鋳込み後における崩壊性の良好な鋳型を形成し得る」(本件特許明細書段落【0015】)という効果を奏するものである。

そうすると、本件特許発明1と甲4発明すなわち甲第4号証に記載された発明は相違点4で実質的に相違し、本件特許発明1の相違点4に係る発明特定事項は、甲第4号証に記載された発明、あるいは甲第4号証および甲第2号証に記載された発明に基いて容易になし得たものとはいえない。

〈相違点6について〉
甲4発明のアミドのうち、アセト酢酸アニリド、N-フェニルアセトアミド、すなわち、アセトアニリド、及びアセトアミドの3のアミドは、本件特許発明1のアミドとして記載されたものであり、この3のアミドに関して、甲4発明のアミドは本件特許発明1のアミドと一致しているものととれなくもない。
しかし、甲第4号証には、記載事項(ム)及び(メ)に摘示したように、分子量500未満のアミドを鋳型用珪砂にフェノール樹脂とシランカップリング剤と添加することにより、鋳型強度が向上することを見出したとの開示があり、上記3のアミドは、この分子量500未満のアミドの例示にすぎないものであって、その添加目的は鋳型強度の向上にとどまることが理解される。そして、この3のアミドが実際に添加された実施例は示されておらず、この3のアミドが鋳型強度の向上に特に優れることを認識することはできず、この3のアミドを選択する思想は見当たらない。
そうすると、甲4発明に特定された分子量500未満のアミドの中から、上記3つのアミドのみを選択することはできないし、また、仮に選択できたとしても、その選択によってもたらされるものは鋳型強度の向上にとどまり、本件特許発明1の「球状体表面を被覆する樹脂の剥離を効果的に低減乃至は阻止せしめ、以て、造型される鋳型の強度低下や、金型や中子への垢付着に伴う鋳型の離型不良を有利に防止することが出来、また、樹脂量の低減に基づく中子の割れを軽減乃至は阻止することができる」(本件特許明細書段落【0011】)という顕著な効果を予想することは、当業者であっても困難である。
よって、相違点6は実質的なものであり、この相違点6に係る本件特許発明1の発明特定事項は、甲第4号証及び甲第2号証から導出されるものでもない。

したがって、本件特許発明1は、甲4発明と上記相違点4及び相違点6で実質的に相違し、甲第4号証に記載された発明ではなく、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲第4号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1は、特許法第29条第1項又は第2条の規定に違反して特許を受けたものではない。

(2)本件特許発明2及び本件特許発明3について
本件特許発明2及び本件特許発明3は、上記「2.(2)」で検討したように、いずれも本件特許発明1の発明特定事項を全て有し、この本件特許発明1は、上記(1)で検討したように、甲第4号証に記載された発明ではなく、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲第4号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件特許発明2及び本件特許発明3のいずれも、甲第4号証に記載された発明ではなく、甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、また、甲第4号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2及び本件特許発明3は、特許法第29条第1項又は第2条の規定に違反して特許を受けたものではない。

(3)まとめ
したがって、無効理由3及び無効理由4についての請求人の主張は理由がない。

4.無効理由5(甲第2号証及び甲4号証に基づく進歩性)について
(1)本件特許発明1について
a 対比
本件特許発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「シェルモールド法」で利用する「骨材を樹脂で被覆した鋳物用砂」は、本件特許発明1の「シェルモールド用鋳型材料」に相当し、本件特許明細書に「鋳物砂の例としては、ケイ砂のほか、オリビンサンド、ジルコンサンド、クロマイトサンド、アルミナサンド等の特殊砂、フェロクロム系のスラグ、フェロニッケル系スラグ、転炉スラグ等のスラグ系の粒子、それらの再生砂等を挙げることが出来る」(段落【0017】)と記載されることから、甲2発明の「粒状シリカサンド」は、本件特許発明1の「鋳物砂」に相当するといえる。
また、甲2発明の「球状砂」は、本件特許発明1の「合成球状体」と、「合成した球状体」という限りにおいて一致する。
さらに、本件特許明細書には「本発明で用いるフェノール系樹脂は・・・・例えば、フェノールを原料とした、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、含窒素レゾール型フェノール樹脂、ベンジルエーテル型フェノール樹脂・・・・を挙げることが出来る」(段落【0018】)と記載されていることから、甲2発明の「ノボラック樹脂、フェノール樹脂またはレゾール樹脂等のフェノール系樹脂」は、本件特許発明1の「フェノール系樹脂」にあてはまるといえる。

とすると、本件特許発明1と甲2発明は、
「合成した球状体又はそれと鋳物砂との混合物と、フェノール系樹脂とを、必須の構成成分として含有する、シェルモールド用鋳型材料。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

〈相違点7〉
合成した球状体につき、本件特許発明1では、「粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下」であるのに対し、甲2発明は「粒形係数は1.2以下」であるものの、気孔率について不明である点。

〈相違点8〉
フェノール系樹脂につき、本件特許発明1では、「数平均分子量が1000以下」であるのに対し、甲2発明では、「ノボラック樹脂、フェノール樹脂またはレゾール樹脂等のフェノール系樹脂」であり、「樹脂の平均分子量は400から600」である点。

〈相違点9〉
アミドにつき、本件特許発明1では、「エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた、分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」であるのに対し、甲2発明では、骨材の他に、有機粘結剤および滑剤のような鋳型作製の際に慣用されている添加剤を加えたものである点。

b 判断
〈相違点8について〉
まず、相違点8について検討すると、相違点8は、上記相違点2及び相違点5と実質的に同一であるから、相違点2の検討のところで述べたものと同じ理由により、相違点8に係る本件特許発明1の発明特定事項をなすことは、当業者であれば容易になし得るものである。

〈相違点7について〉
甲第2号証には、球状砂の粒状係数を1.2以下にすることの記載はあるものの、気孔率を10%以下とすることは記載されていないし、上記相違点1の検討の際に述べたように、甲第2号証の実施例にサンパールという鋳型用骨材が記載されているとも認められないから、甲第2号証には、球状砂の気孔率を10%以下とすることを示唆するものさえ見当たらない。
また、無効理由3及び4の検討の際に述べたように、甲第4号証にも、あるいは甲第1、3、5ないし18号証にも、球状砂の気孔率を10%以下とすることは開示されていない。
そして、本件特許発明1において「粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下である」合成球状体をシェルモールド用鋳型材料の必須の構成成分とすることにより、本件特許発明1は、「少ない樹脂量にて粒子の表面を覆うことが出来、その結果、充分な強度を維持し得ると共に、鋳込み後における崩壊性の良好な鋳型を形成し得る」(本件特許明細書段落【0015】)という効果を奏するものである。
とすると、本件特許発明1の相違点7に係る発明特定事項は、甲2発明及び甲4発明に基いて容易になし得たものとはいえない。

〈相違点9について〉
甲第2号証には、「エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた、分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」を添加することについて示唆する記載も見当たらない。
また、甲第4号証には、上記相違点6の検討の際に述べたように、上記アミド系可塑剤のうち、アセト酢酸アニリド、アセトアニリド、アセトアミドの、3のアミドを添加する旨の記載はあるものの、他の鋳型強度向上のために添加する分子量500未満のアミドの中から、この3のアミドを選択する思想は見当たらないし、仮に選択できたとしても、その選択によってもたらされるものは鋳型強度の向上にとどまり、本件特許発明1の「球状体表面を被覆する樹脂の剥離を効果的に低減乃至は阻止せしめ、以て、造型される鋳型の強度低下や、金型や中子への垢付着に伴う鋳型の離型不良を有利に防止することが出来、また、樹脂量の低減に基づく中子の割れを軽減乃至は阻止することができる」(本件特許明細書段落【0011】)という顕著な効果を予想することは、当業者であっても困難である。

してみると、本件特許発明1の相違点9に係る発明特定事項は、甲2発明及び甲4発明に基いて容易になし得たものとはいえない。

したがって、本件特許発明1は、甲2発明及び甲4発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2条の規定に違反して特許を受けたものではない。

(2)本件特許発明2及び本件特許発明3について
本件特許発明2及び本件特許発明3は、上記「2.(2)」で検討したように、いずれも本件特許発明1の発明特定事項を全て有し、この本件特許発明1は、上記(1)で検討したように、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、本件特許発明2及び本件特許発明3のいずれも、甲第2号証及び甲第4号証に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2及び本件特許発明3は、特許法第29条第1項又は第2条の規定に違反して特許を受けたものではない。

(3)まとめ
したがって、無効理由5についての請求人の主張は理由がない。

5.無効理由1(アミド系可塑剤に関する記載不備)について
本件訂正請求によって、請求項1の「(3)分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」が、「(3)エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた、分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」と、「分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」が具体的に「エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた」もののみとなった。
この解釈は、被請求人が口頭審理で陳述した事項と整合する(第1回口頭審理調書を参照)。
一方、本件特許明細書の実施例1?6は、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミドをそれぞれ添加したものであり、これら実施例の剥離試験(強度低下率、垢付着試験)、鋳造試験(ベーニングの発生)の結果をみると、これらのアミド可塑剤を添加しない比較例に比して、造型される鋳型の強度低下や、金型の中子への垢付着に伴う鋳型の離型不良を防止するという効果があることが確認できる。
そうすると、他の「分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤」である「エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイド」においても同様に、上記造型される鋳型の強度低下や、金型や中子への垢付着に伴う鋳型の離型不良を防止するという効果を有することが推認されるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1及び3を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとまではいえず、また、本件特許発明1及び3の範囲まで、本件特許明細書の発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することはできないとまではいえない。

したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、また、本件特許の請求項1及び3の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものであり、本件特許の請求項1及び3に係る発明は特許法第123条第1項第4号に該当し、無効にされるべきものであるとする、請求人の無効理由1についての主張には理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件特許発明1ないし3の特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
シェルモールド用鋳型材料
【技術分野】
【0001】
本発明は、シェルモールド用鋳型材料に係り、特に、鋳造用シェル鋳型(中子、主型)の造型時におけるシェル砂の樹脂剥離による鋳型強度の低下防止や、金型や中子への垢付着に伴う鋳型の離型不良の防止、更には、鋳造時のベーニング欠陥の防止に有用なシェルモールド用鋳型材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、シェルモールド鋳造においては、鋳物砂、フェノールノボラック樹脂(バインダー)及びヘキサメチレンテトラミン(硬化剤)を混練して得られる樹脂被覆砂を用いて、それを加熱成形せしめ、所望の形状としてなるシェル鋳型が、一般的に使用されてきている。
【0003】
しかしながら、この種の鋳型の中で、特に、内燃機関のシリンダーヘッドのような鋳物製品を鋳造する複雑な形状の中子においては、それを用いた鋳造において、亀裂乃至は割れ(以下、中子の割れという)が惹起され易く、その結果、得られた鋳物内面に、鋳バリ(別名:ベーニング)が形成されるという問題を有している。また一方、中子の形状が複雑化する中で、ガス抜き孔は減少する傾向にあり、そのために、鋳造時において、鋳物の内面や外面に発生するガス欠陥も、問題となってきている。
【0004】
これらの問題に対して、近年、低膨張性を有する人工の球状体が、鋳型の骨材(鋳物砂)として種々提案され、その多数種類が市販もされて、上記した両方の問題の解決が計られ得るようになった。しかしながら、特許第3253579号公報(特許文献1)等に従って作製された、粒形係数が1.05の球状体を用いて、シェル鋳型を造型した場合において、かかる球状体の表面が滑らかなために、それを被覆する樹脂が剥離し易く、その結果、鋳型の強度低下や、金型や中子への垢付着に伴う鋳型の離型不良が生じるという問題が、新たに生じてきた。また、一方、各自動車メーカーは、ガス欠陥低減のために、低膨張性の球状体を用いて、使用樹脂量を極限にまで減少させる傾向があるが、その場合においては、樹脂のクッション性不足による中子の割れが、問題となってきている。
【0005】
【特許文献1】特許第3253579号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであって、その第1の目的は、粒形係数が1.2以下の球状体を用いたシェルモールド用鋳型材料において、樹脂の剥離を防止することで、鋳型の強度低下や、金型や中子への垢付着に伴う離型不良を防止することにあり、また第2の目的とするところは、更に、樹脂量の低減に基づく中子の割れを低減乃至防止することのできるシェルモールド用鋳型材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明者等は、シェル鋳型の造型時における樹脂の剥離について鋭意研究を重ねた結果、特定のアミノ系可塑剤を使用すること、更に加えて特定の樹脂を使用することが、前記した課題の解決に有効であることを見出し、更に、その知見に基づいて、本発明を完成するに至ったのである。
【0008】
すなわち、本発明の第1の態様とするところは、(1)粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下である合成球状体又はそれと鋳物砂との混合物と、(2)数平均分子量が1000以下のフェノール系樹脂と、(3)エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた、分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤とを、必須の構成成分として含有していることを特徴とするシェルモールド用鋳型材料にある。
【0009】
また、本発明の第2の態様は、前記のアミド系可塑剤が、アセトアニリド、アセトアミド、及びニコチン酸アミドのうちの少なくとも1つであることを特徴とするシェルモールド用鋳型材料である。
【0010】
さらに、本発明の第3の態様とするところは、前記のフェノール樹脂が、低膨張性フェノール樹脂であることを特徴とするシェルモールド用鋳型材料にある。
【発明の効果】
【0011】
このような本発明によれば、粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下の人工の(合成)球状体を用いたシェルモールド用鋳型材料において、所定分子量のフェノール樹脂と組み合わせた、特定の可塑剤の配合によって、かかる球状体表面を被覆する樹脂の剥離を効果的に低減乃至は阻止せしめ、以て、造型される鋳型の強度低下や、金型や中子への垢付着に伴う鋳型の離型不良を有利に防止することが出来、また、樹脂量の低減に基づく中子の割れを軽減乃至は阻止することができることとなったのである。特に、フェノール樹脂として、低膨張性樹脂を用いた場合には、上述の如き優れた効果を、より一層有利に享受することが可能となるのである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ところで、本発明において用いられる、粒形係数が1.2以下で、且つ気孔率が10%以下である合成球状体は、鋳型材料における骨材として機能するものであって、従来からそのような骨材として提案され、また、用いられてきている各種の人工の球状体が、本発明においても、適宜に選択されて用いられ得るものであって、例えば、ニッケル鉱滓の溶融スラグから得られる、粒形係数が1.05で、気孔率が5%以下のサンパール(山川産業株式会社製;商品名)、合成ムライトを主成分とする、粒形係数が1.03で、気孔率が5%以下のエスパール(山川産業株式会社製;商品名)等の名称にて市販されている球状粒子を、挙げることが出来るが、勿論、これに限定されるものではなく、本発明にて規定される粒形係数及び気孔率を満たす人工の耐火性球状粒子であれば、何れをも、利用可能である。
【0013】
なお、ここで、本発明において用いられる合成球状体の粒形係数は、一般に、粒子の外形形状を示す一つの尺度として用いられ、粒形指数とも称されるものであって、その値が1に近づくほど、球形(真球)に近づくことを意味しているものである。そして、そのような粒径係数は、公知の各種の手法で測定され、例えば、特許第3253579号公報にも明らかにされている如く、砂表面積測定器(ジョージ・フィッシャー社製)を用いて、1gあたりの実際の砂粒の表面積を測定し、その値を、砂粒が全て球形であると仮定した場合の表面積である理論的表面積で割った値を、粒形係数とする方法がある。
【0014】
また、かかる合成球状体の気孔率にあっても、公知の各種の手法にて測定可能であり、例えば、次のようにして、求めることが出来る。即ち、試料を105?120℃の恒温器中で乾燥し、恒温に達したときの質量をW_(1)(g)とする一方、かかる乾燥した試料を煮沸槽の水面下に入れ、3時間以上煮沸した後、室温まで冷却することにより、飽水試料を得、更にこの飽水試料を水中につけたまま針金で懸垂して秤量し、針金の質量を差し引いて、試料の水中質量W_(2)(g)を求める。次に、この飽水試料を水中から取り出して、湿布で手早く表面をぬぐい、水滴を除去した後、秤量して、飽水質量W_(3)(g)とし、これらの値から、下式に従って、気孔率を算出するのである。
気孔率(%)=(W_(3)-W_(1))/(W_(3)-W_(2))
【0015】
そして、本発明においては、かくの如き粒形係数が1.2以下であり、且つ気孔率が10%以下の合成球状体を用いていることにより、少ない樹脂量にて粒子の表面を覆うことが出来、その結果、充分な強度を維持し得ると共に、鋳込み後における崩壊性の良好な鋳型を形成し得る等の特徴を発揮することとなるのである。
【0016】
また、本発明に従う鋳型材料にあっては、その耐火性骨材として、上述の如き合成球状体が、単独で用いられる他、そのような合成球状体とは異なる他の粒子である鋳物砂を、所定割合において配合してなる混合物の形態において、用いることが可能である。
【0017】
このように、本発明において必要に応じて合成球状体に配合される、合成球状体とは異なる鋳物砂は、鋳造耐性(耐火性)と、鋳型の基体としての粒度分布を備えたものであって、そのような鋳物砂の例としては、ケイ砂のほか、オリビンサンド、ジルコンサンド、クロマイトサンド、アルミナサンド等の特殊砂、フェロクロム系のスラグ、フェロニッケル系スラグ、転炉スラグ等のスラグ系の粒子、それらの再生砂等を挙げることが出来るが、これらに特に限定されるものではないことは、言うまでもないところである。なお、それら鋳物砂は、単独で、或いは2種以上を組み合わせて、前記した合成球状体に配合されることになる。そして、このような鋳物砂と合成球状体との配合に際しては、ガス欠陥やベーニングを効果的に抑制するためにも、それらの配合物(混合物)の全量の10重量%以上の割合を占めるように、合成球状体が配合せしめられていることが、望ましいのである。
【0018】
また、本発明で用いるフェノール系樹脂は、合成球状体や、それに必要に応じて配合される鋳物砂を結合保持する結合剤として機能するものであって、フェノール類とアルデヒド類の反応生成物を主体とし、且つ硬化剤の存在下、又は非存在下で、加熱硬化する性質を有する樹脂であり、例えば、フェノールを原料とした、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂、含窒素レゾール型フェノール樹脂、ベンジルエーテル型フェノール樹脂の他に、変性用原料、例えばビスフェノールA、又はビスフェノールA生成残査を一部又は全部使用した変性ノボラック型フェノール樹脂等を挙げることが出来るが、また、これに限定されるものでもない。そして、この本発明で用いられるフェノール系樹脂は、樹脂剥離の面からして、その数平均分子量は、1000以下である必要があり、特に、700以下の数平均分子量のものが、好適に用いられることとなる。そして、これら用いられるフェノール系樹脂は、環境の問題から、その遊離フェノール量が2.0%以下が好ましく、特に1.0%以下が好ましいのである。
【0019】
さらに、本発明においては、上記したフェノール系樹脂の中でも、特に、低膨張性フェノール樹脂が有利に用いられることとなるが、ここで、低膨脹性樹脂とは、以下の如き特性を有するものである。即ち、鋳物砂としてのフラタリー珪砂と、この鋳物砂に対して1.5重量%の割合のテスト樹脂とを用い、それらを混練して調製されたレジンコーテッドサンドを、加熱硬化せしめて、直径30mm×高さ50mmの円柱状のテストピースを作製した後、1000℃の雰囲気に調整された炉中で、前述したテストピースを加熱した時の、60秒後の熱膨脹率が、かかるテスト樹脂に代えて、数平均分子量650?750のノボラック型フェノール樹脂を用いて、同様に作製されたテストピースの熱膨脹率に対して、0.95以下、換言すれば(テスト樹脂テストピース/数平均分子量650?750のノボラック型フェノール樹脂テストピース)熱膨脹比が、0.95以下の範囲にあるとき、かかるテスト樹脂を、低膨脹性樹脂と定義する。なお、ノボラック型フェノール樹脂の数平均分子量が650?750の範囲であれば、熱膨脹率に大きな差はなく、この範囲のノボラック型フェノール樹脂を適宜に基準として、低膨脹性樹脂の定義に用いることが出来る。そして、そのような低膨脹性フェノール樹脂としては、変性ノボラック型フェノール樹脂を挙げることが出来るが、特に、ビスフェノールA又はビスフェノールA生成残査を用いた変性ノボラック型フェノール樹脂が、有利に用いられることとなる。なお、かかるビスフェノール変性のノボラック型フェノール樹脂における好ましいビスフェノールの配合量としては、原料のフェノールとビスフェノールの合計量に対して、10%以上が好ましく、特に40%以上がより好ましく、これによって、低膨脹性フェノール樹脂を有利に得ることが出来るのである。
【0020】
そして、このようなフェノール系樹脂は、本発明に従うシェルモールド用鋳型材料の調製に際して、本発明の目的が良好に達成され得るように、適宜の割合において添加され得るところであって、その添加量を一義的に規定することは困難であるが、合成球状体の100重量部に対して又は合成球状体と鋳物砂との混合物の100重量部に対して、一般に、0.6?5質量部、好ましくは1?3質量部の割合において添加配合せしめられることとなる。
【0021】
なお、本発明において用いられるフェノール系樹脂には、造型される鋳型強度の改善等を目的として慣用されている、シランカップリング剤、例えばγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等を、フェノール系樹脂に対して0.01?5重量%程度の割合において添加することも有利に採用され、また、本発明の目的を損なわない範囲において、例えば、エポキシ系化合物、メラミン系化合物、尿素樹脂、ポリアミド樹脂等を、単独で、又は2種以上を組み合わせて、混合乃至は反応させて用いることも可能である。
【0022】
そして、本発明にあっては、上述せる如き特定の合成球状体又はそれと鋳物砂との混合物及び特定の数平均分子量のフェノール系樹脂と共に、所定のアミド系可塑剤が配合せしめられることとなるのであるが、そのようなアミド系可塑剤は、可塑効果の観点から、その分子量が600以下である必要があり、特に、200以下の分子量のものが、好適に用いられることとなる。なお、その分子量が600を超えるようになると、有効な可塑効果を期待することが出来なくなるからである。更に、そのようなアミド系可塑剤の融点も、重要であり、樹脂又はレジンコーテッドサンド(RCS)のブロック性の観点から、40℃以上の融点を有するものである必要があり、中でも、80℃以上の融点を有するアミド系可塑剤が有利に用いられることとなる。そして、そのようなアミド系可塑剤の添加量としては、可塑効果の観点から、フェノール系樹脂に対して0.5?10重量%の範囲内において、適宜に選択されることとなるが、特に、3?5重量%の添加量が、有利に採用されることとなる。
【0023】
なお、そのような本発明で用いられる、分子量が600以下で、融点が40℃以上のアミド系可塑剤としては、特に限定されるものではないが、エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニリド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、アセト酢酸o-アニシダイド等が挙げられ、これらの中でも、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミドの中から選択されることが、有効である。また、このようなアミド系可塑剤は、単独で若しくは2種以上組み合わせて、用いられることとなるのである。
【0024】
ところで、本発明に従うシェルモールド用鋳型材料は、前述した合成球状体又はそれと鋳物砂との混合物、フェノール系樹脂及びその他の成分を、当該分野で慣用されてきた被覆方法、例えばホットマーリング法、セミホットマーリング法、コールドマーリング法等によって製造され得るものであるが、中でも、生産性の観点から、特に、ホットマーリング法が、有利に採用されることとなる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を、実施例により、更に詳細に説明することとするが、本発明は、それら例示の具体例によって、何等限定的に解釈されるものではないことが、理解されるべきである。なお、本実施例において、数平均分子量(Mn)は、東ソー株式会社製ゲル濾過クロマトグラフSC-8010シリーズ・ビルドアップシステム(カラム:G1000H_(XL)+G2000H_(XL)、検出器:UV254nm、キャリヤ:テトラヒドロフラン1mL/分、カラム温度:38℃)を用いたGPC測定により、標準ポリスチレン換算の数値として求めたものである。
【0026】
-製造例1-
ガラス製反応フラスコ内に、フェノールの1000gを収容し、更に、47重量%ホルムアルデヒド水溶液の441g、触媒としての蓚酸の3gを添加した後、加熱・攪拌混合下に縮合・濃縮を行なって、遊離フェノール量が0.5重量%の高温脱水終了物を得た。この得られた高温脱水終了物の数平均分子量(Mn)は、680であった。更に、その得られた高温脱水終了物を冷却した後、γ-アミノプロピルトリエトキシシランの9gを添加混合して、フェノール樹脂(A)を得た。
【0027】
-製造例2-
ガラス製反応フラスコ内に収容したフェノールの600gに対して、ビスフェノールAの400g、47重量%ホルムアルデヒド水溶液の389g、触媒としての蓚酸の3gを添加せしめた後、加熱・攪拌混合下に縮合・濃縮を行なって、遊離フェノール量が1.6重量%の高温脱水終了物を得た。この得られた高温脱水終了物の数平均分子量(Mn)は、890であった。更に、かかる高温脱水終了物を冷却した後、γ-アミノプロピルトリエトキシシランの9gを添加混合して、フェノール樹脂(B)を得た。
【0028】
-製造例3-
ガラス製反応フラスコ内に、フェノールの600gを収容し、更に、ビスフェノールAの400g、47重量%ホルムアルデヒド水溶液の265g、触媒としての蓚酸の3gを添加した後、加熱・攪拌混合下に縮合・濃縮を行なって、遊離フェノール量が1.5重量%の高温脱水終了物を得た。この得られた高温脱水終了物の数平均分子量(Mn)は、710であった。更に、その冷却後に、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン9gを添加混合して、フェノール樹脂(C)を得た。
【0029】
<実施例1>
スピードミキサー内に、温度:約150℃に余熱した、粒形係数が1.05で且つ気孔率が5%以下の合成球状体(商品名;サンパール#60、山川産業株式会社製)の7kgと、上記製造例1で製造したフェノール樹脂(A)の77gと、アセトアミドの4.6g(フェノール樹脂に対して5重量%)とを収容して、60秒間の混練を行なった後、水105gにヘキサメチレンテトラミン13.7gを溶かした溶液を添加して、塊状物が崩壊するまで送風し、次いで、ステアリン酸カルシウムの7gを添加した後、15秒間混合して取り出すことにより、シェルモールド用鋳型材料(SH-1)を得た。
【0030】
<実施例2>
実施例1において、下記表1に示すように、フェノール系樹脂をフェノール樹脂(B)に変更し、また、樹脂添加量を1.3重量%に変更し、更に、添加物をニコチン酸アミドに変更した以外は、実施例1と同様にして、添加成分の混合を行ない、シェルモールド用鋳型材料(SH-2)を得た。
【0031】
<実施例3>
実施例1において、下記表1に示される如く、合成球状体の50重量%を三河R6号珪砂に置き換え、また、フェノール系樹脂をフェノール樹脂(B)に変更し、更に、樹脂添加量を1.5重量%に変更すると共に、添加物をアセトアニリドに変更した以外は、実施例1と同様にして混合を行なうことにより、シェルモールド用鋳型材料(SH-3)を得た。
【0032】
<実施例4>
実施例1において、下記表1に示される如く、合成球状体を粒形係数が1.03で、且つ気孔率が5%以下の合成球状体(商品名;エスパール#60;山川産業株式会社製)に変更した以外は、実施例1と同様にして混合を行ない、シェルモールド用鋳型材料(SH-4)を得た。
【0033】
<実施例5>
実施例4において、下記表1に示される如く、フェノール樹脂(A)をフェノール樹脂(C)に変更した以外は、実施例4と同様にして混合を行ない、シェルモールド用鋳型材料(SH-5)を得た。
【0034】
<実施例6>
実施例1において、下記表1に示すように、アセトアミドをステアリン酸アミドに変更した以外は、実施例1と同様にして混合を行ない、シェルモールド用鋳型材料(SH-6)を得た。
【0035】
<比較例1>
実施例1において、可塑剤等の添加物を用いないこと以外は、実施例1と同様にして混合を行ない、シェルモールド用鋳型材料(SH-7)を得た。
【0036】
<比較例2>
実施例2において、可塑剤等の添加物を用いないこと以外は、実施例2と同様にして混合を行ない、シェルモールド用鋳型材料(SH-8)を得た。
【0037】
<比較例3>
実施例3において、可塑剤等の添加物を用いないこと以外は、実施例3と同様にして混合を行ない、シェルモールド用鋳型材料(SH-9)を得た。
【0038】
<比較例4>
実施例4において、可塑剤等の添加物を用いないこと以外は、実施例4と同様にして混合を行ない、シェルモールド用鋳型材料(SH-10)を得た。
【0039】
そして、かかる得られた10種類のシェルモールド用鋳型材料について、下記の試験法により、剥離試験として強度低下率、造型時の金型汚れのチェックを行なった。また、実際の実鋳造試験(下記試験法の3項に示す。)において、シリンダーヘッド中子を造型した後、アルミニウム合金の鋳造を行なって、鋳物内・外面のガス欠陥及び鋳バリ(ベーニング)の有無を調査した。そして、それらの結果を、表1及び表2に示した。
【0040】
-試験法-
(1)粒形係数
長い円筒状の容器に詰められた砂の層を通る空気の透過速度から、実際の比表面積を求める測定器(ジョージ・フィッシャー社製の砂表面積測定器)を用いて、実比表面積を算出し、次いで粒度分布より砂を真球であると考えて求めた理論比表面積から、下式によって、粒形係数を求めた。なお、真球の場合、この粒形係数は1であり、その値が大きくなるほど、粒形が角張っていることを示している。
粒形係数=実比表面積/理論比表面積
(2)強度低下率
シェルモールド用鋳型材料4kgを、5kgスピードマラーに入れ、30秒間攪拌して、砂表面からのレジンの剥離試験を行なった。剥離試験前後の鋳型強度を測定し、強度低下率を、次式で算出した。
強度低下率(%)=(1-剥離後の強度/剥離前の強度)×100
なお、鋳型強度は、250℃で60秒間焼成して作製したテストピース(10×10×60mm)を常温まで冷却した後に、その曲げ強度を測定した。
(3)垢付着試験
前記剥離試験後の鋳型材料を用いて、直径16mm×長さ50mmの幅木を持つ直径50mm×高さ50mmの円筒形中子10個を作製し、ブロー口直下の幅木部分への垢付着状態を、目視で観察・評価した。
室温20℃、相対湿度60%下で、10名のパネラーが、幅木部分に付着している垢の付着状態を、以下の基準で評価し、これらの平均レベルで、優劣を評価した。なお、このレベルが高いほど、垢の付着性の改善効果が高いことを意味している。
レベル4:垢の付着がほとんど観察されない。
レベル3:垢の付着が少し観察されるが実用上支障はない。
レベル2:垢の付着が多く観察される。
レベル1:垢の付着が非常に多く観察される。
(4)鋳造試験
シリンダーヘッド用中子を造型した後、低圧鋳造法によりアルミニウム合金を注湯して20個のシリンダーヘッドを得た。これらの鋳物は総て切断して内部を観察し、ガス欠陥及びベーニングの有無を確認した。なお、ベーニングの発生の評価においては、シリンダーヘッド20個を分母とし、その中で、ベーニングが発生したシリンダーヘッドの個数を、分子に記載して、表記した。
【0041】
以下の表1及び表2の結果から明らかなように、本発明に従うシェルモールド用鋳型材料(SH-1?SH-6)を用いて作製されたレジンコーテッドサンドは、造型時において樹脂剥離の無い中子を与え、特に実施例5においては、樹脂剥離が更に低減され得、且つ耐ベーニング性への有効性も確認された。
【0042】
これに対して、比較例1?4に係る、アミド系可塑剤が配合されていない鋳型材料(SH-7?SH-10)にあっては、樹脂剥離が顕著であり、また、ベーニングの発生率も高いものとなった。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)粒形係数が1.2以下で且つ気孔率が10%以下である合成球状体又はそれと鋳物砂との混合物と、(2)数平均分子量が1000以下のフェノール系樹脂と、(3)エチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、アセトアニリド、アセトアミド、ニコチン酸アミド、アセト酢酸o-トルイダイド、アセト酢酸アニルド、アセト酢酸p-トルイダイド、アセト酢酸m-キシリダイド、及びアセト酢酸o-アニシダイドからなる群より選ばれた、分子量が600以下で且つ融点が40℃以上のアミド系可塑剤とを、必須の構成成分として含有していることを特徴とするシェルモールド用鋳型材料。
【請求項2】
前記アミド系可塑剤が、アセトアニリド、アセトアミド、及びニコチン酸アミドのうちの少なくとも1つであることを特徴とする請求項1に記載のシェルモールド用鋳型材料。
【請求項3】
前記フェノール樹脂が、低膨張性フェノール樹脂であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシェルモールド用鋳型材料。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2014-03-28 
結審通知日 2014-04-01 
審決日 2014-04-16 
出願番号 特願2006-87657(P2006-87657)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (B22C)
P 1 113・ 113- YAA (B22C)
P 1 113・ 121- YAA (B22C)
P 1 113・ 536- YAA (B22C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 池ノ谷 秀行  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 井上 茂夫
豊永 茂弘
登録日 2011-05-27 
登録番号 特許第4749193号(P4749193)
発明の名称 シェルモールド用鋳型材料  
代理人 中島 正博  
代理人 中島 三千雄  
代理人 中島 三千雄  
代理人 中島 正博  
代理人 杉本 将市  
代理人 津国 肇  

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