• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 C12N
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 C12N
管理番号 1297586
審判番号 不服2013-1666  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-01-30 
確定日 2015-02-12 
事件の表示 特願2009-114359「HIV調節/アクセサリータンパク質の融合タンパク質」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 8月13日出願公開、特開2009-178165〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1.手続の経緯
本願は、2003年(平成15年)5月14日を国際出願日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年5月16日 デンマーク)とする特願2004-506348号の一部を、特許法第44条第1項の規定により平成21年5月11日に分割出願したものであって、平成24年2月27日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたが、同年9月6日付で拒絶査定がなされ、これに対して、平成25年1月30日に拒絶査定に対する審判請求がなされるとともに、同日付で特許請求の範囲について手続補正がなされたものである。

2.平成25年1月30日付の手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年1月30日付の手続補正を却下する。
[理由]
(1)補正後の本願発明
上記補正により、特許請求の範囲の請求項2、3、及び22?26が削除され、請求項1は、補正前の、
「【請求項1】Vif、Vpr、Vpu、Vpx、RevおよびTatから選択される少なくとも3つのHIVタンパク質のアミノ酸配列、または前記タンパク質のアミノ酸配列の誘導体を含む融合タンパク質であって、前記HIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体は、融合タンパク質中のアミノ酸配列の対応部分を公知のHIV-1単離株の各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも70%の相同性を示すアミノ酸配列であり、そして、当該融合タンパク質はHIVタンパク質のアミノ酸配列間に切断配列REKRAVVGを含まない、融合タンパク質。」から、
「【請求項1】Vif、Vpr、Vpu、Vpx、RevおよびTatから選択される少なくとも3つのHIVタンパク質のアミノ酸配列、または前記タンパク質のアミノ酸配列の誘導体を含む融合タンパク質であって、前記HIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体は、融合タンパク質中のアミノ酸配列の対応部分を公知のHIV-1単離株の各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも90%の相同性を示すアミノ酸配列であり、そして、当該融合タンパク質はHIVタンパク質のアミノ酸配列間に切断配列REKRAVVGを含まない、融合タンパク質。」へと補正された。

上記補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「少なくとも70%の相同性」を「少なくとも90%の相同性」に限定するものであって、その補正前の当該請求項に記載された発明とその補正後の当該請求項に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、請求項1についての上記補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

(2)特許法第29条第2項
(2-1)引用例
原査定の拒絶の理由で引用文献1として引用された本願優先日前の2002年1月24日に頒布された刊行物である国際公開第02/6303号(以下、「引用例1」という。)には、(なお、下線は当審により付与した。)
(i)「本発明は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)アクセサリータンパク質のVif、Vpu及びNefのタンパク質コンポーネントの配列を含むポリタンパク質に関係する。幾つかの具体例において、このポリタンパク質のコンポーネントタンパク質は、N末端からC末端へ、Vif、Vpu及びNefの順序で配置される。幾つかの具体例においては、少なくとも1つのタンパク質コンポーネントは、弱毒化形態のアクセサリータンパク質である。幾つかの具体例においては、ヒト免疫不全ウイルスのアクセサリータンパク質のVif、Vpu及びNefタンパク質コンポーネントの各々は、弱毒化形態である。
幾つかの具体例においては、プロテアーゼ開裂部位を、ポリタンパク質のタンパク質コンポーネントの間に導入する。」(第7頁第13行?第21行)、
(ii)「vif/vpu/nef融合タンパク質カセット(pVVN)及びタンパク質分解性開裂部位を有するvif/vpu/nef融合タンパク質構築物(pVVN-P)の構築及び発現:融合タンパク質としてアクセサリー遺伝子を含むマルチ遺伝子DNA発現カセットを構築するために、我々は、弱毒化して尚免疫学的に活性なvif(N17)vpu(M5256)及びnef(S313)クローンを出発点として選択した。vif及びvpuの停止コドンを除去して、融合タンパク質が個々の遺伝子と同じエピトープを有するようにイン・フレームで融合した。このvif/vpu/nef融合遺伝子構築物を、pVVNと呼ぶ。我々は、タンパク質分解による開裂部位を有するvif/vpu/nef融合タンパク質を発現させることによって、天然のアミノ及びカルボキシ末端を保存することをも希望し、該融合タンパク質を、ここでは、pVVN-Pと呼ぶ。」(第30頁第7行?第15行)、
(iii)「それらのデータは、HIV-1に感染したNIH3T3/CD4/CCR5細胞を用いるpVVN及びpVVN-Pによる特異的溶解のパーセンテージを示している。50:1のエフェクター:標的比において、VVN及びVVN-Pによる溶解パーセンテージは、二向性ウイルスに感染した標的では、それぞれ、29及び42%であり、特異的溶解は、T向性感染標的において、16及び21%である。興味深いことに、pVVN-P構築物により誘導された特異的CTLのパーセンテージは、常に、pVVN構築物による免疫化よりも高い。」(第35頁第6行?第12行)、
(iv)「自然の感染において、抗HIV-1 CTL応答は、非常に初期に現われ、一時的に、ウイルスのセットポイントの確立に相関するようである。CTLは、ウイルス感染細胞をターゲットとして破壊することによるウイルスクリアランスにおいて決定的な役割を演じる。特異的CTL応答の生成によって免疫応答をウイルスタンパク質に向けることは、ウイルス内の複数の抗原性標的に対する広範な免疫応答の誘導を可能にするであろう。」(第36頁第21行?第26行)、
(v)「我々の研究において、これらのvif、vpu及びnef遺伝子を、様々な臨床状態の患者から分離したウイルスからクローン化した。これらの遺伝子の機能的及び弱毒化形態の両方を発現するDNA構築物を、免疫適格マウスにおいて細胞性及び液性応答を誘導する能力について分析した。機能的及び弱毒化遺伝子を免疫原として使用した免疫学的データは、完全に類似している。弱毒化並びに機能的クローンの両方が、強いが変化しやすいCTL及びT細胞増殖応答をマウスにおいて誘導することができた。」(第37頁第14行?第20行)
(vi)「【請求項11】 HIV Vifが、SEQ ID NO:1であり;HIV Vpuが、SEQ ID NO:2であり且つHIV Nefが、SEQ ID NO:3である、請求項11に記載のポリタンパク質。」(特許請求の範囲第11項)、と記載されている。

上記引用例1記載事項(ii)に記載された「vif及びvpuの停止コドンを除去して、イン・フレームで融合させたvif/vpu/nef融合遺伝子構築物によりコードされる融合タンパク質 VVN」は、タンパク質分解性開裂部位を有さず、また、弱毒化して免疫学的に活性なvif(N17)vpu(M5256)及びnef(S313)遺伝子を用いているから、引用例1には、「弱毒化されたVif、Vpu、及びNefからなる、開裂部位を含まないVif-Vpu-Nef融合タンパク質」の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。

また、同じく引用文献2として引用された本願優先日前の2002年5月10日に頒布された刊行物である国際公開第02/36806号(以下、「引用例2」という。)には、
(vii)「【請求項6】前記HIV抗原が、Gag、Env、Pol、Nef、Vpr、Vpu、Vif、Tat、およびRevからなる群より選択される、請求項5に記載の核酸構築物。
【請求項7】前記疾患関連抗原が、連結してひとつになっているが、この順序である必要はないHIVの抗原性フラグメントGag-Pol-Tat-Rev-NefまたはTat-Rev-Env-Nefを含む、請求項6に記載の核酸構築物。」(請求項6、7)、と記載され、同じく引用文献3として引用された本願優先日前の2001年12月6日に頒布された刊行物である国際公開第01/91536号(以下、「引用例3」という。)には、
(viii)「【請求項15】ウイルス抗原がHIV GP120、GP41、P24、Tat、Vif及びRevタンパク質からなる群から選択される、請求項13に記載の組換えウイルス。」(請求項15)、と記載されている。

(2-2)対比
本願補正発明の「誘導体」について、本願明細書の段落【0019】には、「しかし、融合タンパク質中のHIVタンパク質が生物学的に活性である危険性は、さらに減少させることが望ましいかもしれない。この目的にとって、融合タンパク質の一部である個々のHIVタンパク質の特に好ましい「誘導体」は、低下した活性を持つHIVタンパク質または活性を全く持たないHIVタンパク質が得られるように、いくつかのアミノ酸、より好ましくは10個を超えないアミノ酸、最も好ましくは5個を超えないアミノ酸が、欠失しているか、または挿入もしくは置換されているアミノ酸配列誘導体である。」と記載されており、「低下した活性を持つHIVタンパク質または活性を全く持たないHIVタンパク質」とは、弱毒化したHIVタンパク質に他ならないから、本願補正発明の融合タンパク質に含まれるHIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体には、弱毒化した誘導体が包含されている。
そこで、「Vif、Vpr、Vpu、Vpx、RevおよびTatから選択される少なくとも3つのHIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体を含む融合タンパク質であって、前記HIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体は、融合タンパク質中のアミノ酸配列の対応部分を公知のHIV-1単離株の各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも90%の相同性を示すアミノ酸配列であり、そして、当該融合タンパク質はHIVタンパク質のアミノ酸配列間に切断配列REKRAVVGを含まない、融合タンパク質」である態様の本願補正発明と引用発明を対比すると、引用発明の「弱毒化されたVif、Vpu、及びNefからなる、開裂部位を含まないVif-Vpu-Nef融合タンパク質」は、本願補正発明の「少なくとも3つのHIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体を含む融合タンパク質であって、当該融合タンパク質はHIVタンパク質のアミノ酸配列間に切断配列REKRAVVGを含まない、融合タンパク質」に相当し、両者は、そのような融合タンパク質である点で共通する。

一方、両者は、(イ)少なくとも3つのHIVタンパク質が、前者では、Vif、Vpr、Vpu、Vpx、RevおよびTatから選択されるものであるのに対して、後者ではVif、Vpu、Nefである点、及び(ロ)HIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体が、前者では、公知のHIV-1単離株の各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも90%の相同性を示すアミノ酸配列であるのに対して、後者では、アミノ酸配列の相同性については特定されていない点、の2点で相違する。

(2-3)当審の判断
(2-3-1)相違点(イ)について
上記引用例2記載事項(vii)に、「前記HIV抗原が、Gag、Env、Pol、Nef、Vpr、Vpu、Vif、Tat、およびRevからなる群より選択される」及び「前記疾患関連抗原が、連結してひとつになっているが、この順序である必要はないHIVの抗原性フラグメントGag-Pol-Tat-Rev-NefまたはTat-Rev-Env-Nefを含む」と記載され、また、上記引用例3記載事項(viii)に「ウイルス抗原がHIV GP120、GP41、P24、Tat、Vif及びRevタンパク質からなる群から選択される」とあるように、細胞性免疫又は体液性免疫の獲得のためのHIV抗原として、Nef、Vpr、Vpu、Vif、Tat、およびRevという調節又はアクセサリータンパク質を用いることは、本願優先日前既に周知の手段であったから、Vif-Vpu-NefのNefに代えて、他の調節又はアクセサリータンパク質であるTatやRevを用いることは、当業者であれば必要に応じて適宜なし得たことであり、この点に格別の特徴は見出せない。

(2-3-2)相違点(ロ)について
上記引用例1記載事項(vi)に、「HIV Vifが、SEQ ID NO:1であり;HIV Vpuが、SEQ ID NO:2であり且つHIV Nefが、SEQ ID NO:3である」と記載され、弱毒化形態のVif、Vpu、Nefをコードする核酸配列の例が、それぞれ配列番号1?3に示されている。また、それらによりコードされるアミノ酸配列は、相同性検索の結果、公知のHIV-1単離株である単離株HXB2R(GenBankアクセッション番号K03455)におけるVif、Vpu、及びNefに対して、Vifはアミノ酸レベルで89.6%の同一性(96.4%の類似性)、Vpuは核酸レベルで97.2%(注:K03455にはVpuのアミノ酸配列は示されていない。)の同一性、及びNefはアミノ酸レベルで96.7%の同一性を有するものである。
そうすると、本願補正発明における「相同性」とは、狭義では「類似性」と同じであるから、引用発明の弱毒化形態のVif-Vpu-Nefの実施例で用いたアミノ酸配列は、公知のHIV-1単離株HXB2Rの各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも90%の相同性を示すアミノ酸配列であり、相違点(ロ)は実質的な相違ではない。
また仮に、実質的な相違であるとした場合であっても、本願補正発明における90%という数値には、その臨界的意義は見出せず、一方、上記引用例1記載事項(v)に「機能的及び弱毒化遺伝子を免疫原として使用した免疫学的データは、完全に類似している。」と記載されているように、弱毒化しても免疫原性を維持しなければならないのであるから、アミノ酸配列の相同性を90%以上とすることは、当業者が容易になし得たことである。

(2-3-3)本願補正発明の効果について
本願明細書には、本願補正発明の融合タンパク質をコードする核酸配列を、ウイルスゲノムに挿入してウイルスベクターを作成することが記載されているにとどまり、実際に、このウイルスベクターによってCTL誘導やT細胞増殖を誘導できることは確認されておらず、本願補正発明において奏される効果が、上記引用例1?3の記載から予測できない程の格別なものとはいえない。

(2-4)審判請求人の主張
審判請求人は、平成25年1月30日付審判請求書中で、(a)「本願発明者は、少なくとも3つのHIVタンパク質から構成される融合タンパク質であって、天然のN末端およびC末端を持つHIVタンパク質の生成を誘発するかもしれない細胞性プロテアーゼの特異的切断配列をこれらのHIVタンパク質のアミノ酸配列間に含んでおらず、同時に各HIVタンパク質が弱毒化されていない融合タンパク質を提供することにより、上述したような不利な点を克服しました。
本願発明の骨子はまさに、本願発明の融合タンパク質が融合タンパク質を形成するHIVタンパク質のアミノ酸配列間に切断配列を有しないという事実にあります。本願発明の融合タンパク質は、切断されて天然のHIVタンパク質を生成することができません。」、及び(b)「HIV特異的T細胞応答者率は86.7%であり、異なるAIDワクチンを用いたその他の臨床試験では、適当な結果が全く示されなかったので、これは驚くべきことでした。従来のワクチンに関しては、標的のHIV遺伝子に対する免疫応答が生じず、もし生じても効果がないことが証明されました。
上記で説明した臨床試験データは、国際公開第2011/042180号(参考資料1として提出致します)の対象とされており、具体的には、実施例3(第25?34頁)において、前記の臨床試験が詳細に説明されており、結果が図2に示されています。」と主張している。

まず、上記(a)の主張については、上記引用例1記載事項(iii)には、pVVNとタンパク分解切断部位を有するpVVN-pの両方について、HIV-1に感染したNIH3T3/CD4/CCR5細胞を用いてのCTLの特異的溶解のパーセンテージが、二向性ウイルスに感染した標的では、29%と42%、T向性感染標的では16%と21%であり、pVVN-P構築物により誘導された特異的CTLのパーセンテージは、常に、pVVN構築物による免疫化よりも高いと記載されている。しかしながら、タンパク分解切断部位を有さないpVVNにおいても、29、16%と有意に細胞性免疫誘導がなされたことが具体的に記載されており、しかも、引用例1には、HeLa細胞中のVVNは、61kDaの融合タンパク質の形態で存在し切断されないことも具体的に確認されており、融合タンパク質を構成するHIVタンパク質のアミノ酸配列の間に切断配列を有さないVVNは、切断されて本来のHIVタンパク質を生成させることはないにもかかわらず、細胞性免疫を誘導することが確認されており、引用例1には、タンパク分解切断部位を有さないVVNをその一態様とする発明が明確に記載されている。
しかも、弱毒化タンパク質を用いる態様も本願補正発明が包含しているのは、上記(2-2)で述べたとおりであるから、審判請求人の上記(a)の主張は採用できない。

次に上記(b)の主張についても、本願優先日から9年後に公開されたWO2011/042180に記載のワクチンは、その図面1に示されているように、Vif-Vpr-Vpu-Revという融合タンパク質だけでなく、ウイルスベクターの異なる場所に、不活性化Nef及び不活性化Tat、Gag-Polを含有するウイルスベクターであり、本願発明1の融合タンパク質自体の効果を証明するものではなく、しかも、本願明細書の記載からは明らかではない効果について、本願優先日から9年という長期間を経過した後に、初めて明らかにされたものであるから、審判請求人の上記(b)の主張も採用できない。

(2-5)小括
以上の理由から、本願補正発明は、引用例1?3の記載及び周知手段から当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により、独立して特許を受けることができるものではない。

(3)むすび
以上のとおり、本件補正は、平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、特許法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

3.本願発明について
平成25年1月30日付手続補正は上記のとおり却下されたので、本出願に係る発明は、平成24年2月27日付手続補正により補正された明細書及び図面の記載からみて、その請求項1?26に記載された事項により特定されるとおりのものであり、そのうち請求項1に係る発明は、以下のとおりである。

「Vif、Vpr、Vpu、Vpx、RevおよびTatから選択される少なくとも3つのHIVタンパク質のアミノ酸配列、または前記タンパク質のアミノ酸配列の誘導体を含む融合タンパク質であって、前記HIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体は、融合タンパク質中のアミノ酸配列の対応部分を公知のHIV-1単離株の各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも70%の相同性を示すアミノ酸配列であり、そして、当該融合タンパク質はHIVタンパク質のアミノ酸配列間に切断配列REKRAVVGを含まない、融合タンパク質。」(以下、「本願発明」という。)

4.特許法第29条第2項について
(1)引用例
上記引用例1?3の記載事項及び引用発明は、上記2.(2-1)に記載のとおりのものである。

(2)対比・判断
本願発明は、本願補正発明を一態様として包含するものであり、本願発明は、引用発明と、上記2.(2-2)に記載した共通点及び相違点(イ)を有し、また、相違点(ロ)として、本願発明では、HIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体が、公知のHIV-1単離株の各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも70%の相同性を示すアミノ酸配列であるのに対して、引用発明では、アミノ酸配列の相同性については特定されていない点、の2点で相違する。
そして、上記2.(2-3)に記載した理由と同様な理由により、本願発明は、引用例1?3の記載及び周知手段に基づき当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

5.特許法第36条第4項第1号について
本願発明は、融合タンパク質という化学物質に係る発明であり、化学物質に係る発明について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に発明の詳細な説明に記載されているといえるためには、その化学物質が製造可能なように記載されているだけでなく、その用途が明らかにされ使用できるように記載されていること、あるいは技術常識を参酌すれば記載されているに等しいことが要件とされる。
一方、本願発明には、HIVタンパク質のアミノ酸配列の誘導体を含む融合タンパク質であって、融合タンパク質中のアミノ酸配列の対応部分を公知のHIV-1単離株の各HIVタンパク質のアミノ酸配列と比較した場合に、少なくとも70%の相同性を示すアミノ酸配列の誘導体を含む融合タンパク質が包含されている。
しかしながら、少なくとも70%の相同性を示すアミノ酸配列では、HIVタンパク質とはアミノ酸配列が著しく異なり、その結果、細胞性又液性免疫を誘導できない融合タンパク質が多数包含されていることは明らかである。
したがって、本願請求項1に記載の化学物質に係る発明には、その用途が不明であって使用できない物が包含されており、本願の発明の詳細な説明には、当該発明について当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されているものとは認められず、本願は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

6.むすび
以上のとおりであるから、本願請求項1に係る発明は、特許法第29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、また、本願請求項1に記載の発明について、本願は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許を受けることができないものであるから、他の請求項に係る発明については検討するまでもなく、本願は拒絶をすべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-09-11 
結審通知日 2014-09-17 
審決日 2014-10-02 
出願番号 特願2009-114359(P2009-114359)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (C12N)
P 1 8・ 537- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
P 1 8・ 121- Z (C12N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 明日香鈴木 崇之  
特許庁審判長 鈴木 恵理子
特許庁審判官 高堀 栄二
田中 晴絵
発明の名称 HIV調節/アクセサリータンパク質の融合タンパク質  
代理人 江崎 光史  
代理人 虎山 一郎  
代理人 上西 克礼  
代理人 鍛冶澤 實  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ