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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09J |
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管理番号 | 1297616 |
審判番号 | 不服2013-22433 |
総通号数 | 184 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-04-24 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-11-15 |
確定日 | 2015-02-12 |
事件の表示 | 特願2011-276152「粘着剤、粘着シートおよびディスプレイ」拒絶査定不服審判事件〔平成25年6月27日出願公開、特開2013-127012〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成23年12月16日の出願であって,平成25年4月18日に手続補正書が提出され,同年5月24日付けで拒絶理由が通知され,同年7月5日に意見書とともに手続補正書が提出されたが,同年8月7日付けで拒絶査定がなされ,それに対して,同年11月15日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出され,同年12月19日に審判請求書の手続補正書(方式)が提出され,平成26年2月12日付けで前置報告がなされ,同年8月8日に上申書が提出され,当審において同年同月29日付けで拒絶理由が通知され,同年10月27日に意見書とともに手続補正書が提出されたものである。 第2 本願発明について 1. 平成26年10月27日付け手続補正(以下「本件補正」という。)後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。 「アクリル系共重合体(A)と,ポリイソシアネート系硬化剤(B)(ただし,トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体を除く)及びシランカップリング剤(C)とを含み, 前記アクリル系共重合体(A)は,SP値8(cal/cm^(3))^(1/2)以上9.00(cal/cm^(3))^(1/2)未満のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A1)40?80重量%と,SP値9.00(cal/cm^(3))^(1/2)以上15(cal/cm^(3))^(1/2)以下の極性基含有エチレン性不飽和単量体(A2)20?60重量%とをラジカル重合してなり, 前記SP値8(cal/cm^(3))^(1/2)以上9.00(cal/cm^(3))^(1/2)未満のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A1)は,水酸基(a1),アミド基(a2),アミノ基(a3),およびニトリル基(a4)からなる群より選択される1種以上の極性基を有し,かつホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が,-40℃以上120℃以下であり, 前記アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量が,20万?100万であることを特徴とするタッチパネル用粘着剤。」 2. ところで,請求項1の記載(上記1.)は,例えば,「SP値8(cal/cm^(3))^(1/2)以上9.00(cal/cm^(3))^(1/2)未満のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A1)」と関連する記載についてみたとき,「水酸基(a1),アミド基(a2),アミノ基(a3),およびニトリル基(a4)からなる群より選択される1種以上の極性基を有し」と特定する記載と明らかに矛盾していることから,その記載の技術的意義が一義的に明確に理解できないものとなっている。 3. そして,本件補正により補正された明細書(以下,「本願明細書」という。下線は,当審による。)には,「SP値が9.00以上15以下の極性基を有するエチレン性不飽和単量体(A2)[以下,という]は,例えば,(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル,(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル,(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル,(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル,(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル,(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルなどの水酸基含有エチレン性不飽和単量体(a1);,(メタ)アクリルアミド,N-メチロールアクリルアミド,N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド,ダイアセトン(メタ)アクリルアミド,N-ビニルアセトアミド,N-ビニルピロリドンなどアミド基含有エチレン性不飽和単量体(a2);,アミノメチル(メタ)アクリレート,ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート,ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート,ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレートなどのアミノ基含有エチレン性不飽和単量体(a3);,アクリロニトリル,メタクリロニトリルなどのニトリル基含有エチレン性不飽和単量体(a4);,(メタ)アクリル酸,フタル酸モノヒドロキシエチルアクリレート,p-カルボキシベンジルアクリレート,エチレンオキサイドの付加モル数が2?18のフタル酸アクリレート,フタル酸モノヒドロキシプロピルアクリレート,コハク酸モノヒドロキシエチルアクリレート,β-カルボキシエチルアクリレート,2-(4-ベンゾイル-3-ヒドロキシフェノキシ)エチルアクリレート,マレイン酸,モノエチルマレイン酸,イタコン酸,シトラコン酸,及びフマル酸などカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a5)などが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし,2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの単量体の中でも,非白化性,耐発泡性および耐剥がれ性の観点から水酸基含有エチレン性不飽和単量体(a1),アミド基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び,アミノ基含有エチレン性不飽和単量体(a3)が好ましく,特に水酸基含有エチレン性不飽和単量体(a1)がより好ましい。なお,上記例示には無いが数式1の計算式によりSP値が9.00以上15以下の範囲に入る単量体を使用することができる。 また,単量体(A2)は,そのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が-40℃以上120℃以下であることも好ましい。ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が前記範囲内にあることで,粘着力および耐剥がれ性がより向上する。ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は,-30℃以上100℃以下がより好ましい。」(段落0037?0038)と記載されており,「水酸基(a1),アミド基(a2),アミノ基(a3),およびニトリル基(a4)からなる群より選択される1種以上の極性基を有」するエチレン性不飽和単量体及び「ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が,-40℃以上120℃以下であ」るエチレン性不飽和単量体は,いずれも「SP値9.00(cal/cm^(3))^(1/2)以上15(cal/cm^(3))^(1/2)以下の極性基を有するエチレン性不飽和単量体(A2)」に関するものとして説明されている。 そうすると,本件補正後の請求項1において,「SP値8(cal/cm^(3))^(1/2)以上9.00(cal/cm^(3))^(1/2)未満のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A1)」を特定するものとされる「水酸基(a1),アミド基(a2),アミノ基(a3),およびニトリル基(a4)からなる群より選択される1種以上の極性基を有し,かつホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が,-40℃以上120℃以下であり」との記載は,本願明細書の記載によれば「SP値9.00(cal/cm^(3))^(1/2)以上15(cal/cm^(3))^(1/2)以下の極性基を有するエチレン性不飽和単量体(A2)」を特定するものとされているのであるから,当該記載を「SP値8(cal/cm^(3))^(1/2)以上9.00(cal/cm^(3))^(1/2)未満のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A1)」を特定するものとする点は,本願明細書の記載に照らして一見して誤記であることが明らかであるといえる。 4. 特許出願に係る発明の要旨認定は,特段の事情のない限り,特許請求の範囲の記載に基づいてされるべきである。しかし,特許請求の範囲の請求項1の記載は,上記2.のとおり,その技術的意義が一義的に明確に理解できないし,また,上記3.のとおり,一見して誤記であることが本願明細書の記載に照らして明らかであるといえるから,本願の請求項1に係る発明(以下,「本願発明」という。)の要旨認定にあたっては,明細書の記載を参酌することが許されるというべきである。 そこで,本願発明の要旨は,本願明細書の記載を参酌すると,次のとおりのものと認めることができる。 「アクリル系共重合体(A)と,ポリイソシアネート系硬化剤(B)(ただし,トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体を除く)及びシランカップリング剤(C)とを含み, 前記アクリル系共重合体(A)は,SP値8(cal/cm^(3))^(1/2)以上9.00(cal/cm^(3))^(1/2)未満のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A1)40?80重量%と,SP値9.00(cal/cm^(3))^(1/2)以上15(cal/cm^(3))^(1/2)以下の極性基含有エチレン性不飽和単量体(A2)20?60重量%とをラジカル重合してなり, 前記SP値8(cal/cm^(3))^(1/2)以上9.00(cal/cm^(3))^(1/2)未満のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A1)は,ブチルアクリレートおよび2-エチルヘキシルアクリレートの少なくともいずれかを含み, 前記極性基を有するエチレン性不飽和単量体(A2)は,水酸基(a1),アミド基(a2),アミノ基(a3),およびニトリル基(a4)からなる群より選択される1種以上の極性基を有し,かつホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が,-40℃以上120℃以下であり, 前記アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量が,20万?100万であることを特徴とするタッチパネル用粘着剤。」 第3 当審における拒絶理由の概要 当審における平成26年8月29日付けで通知した拒絶理由(以下,「当審拒絶理由」という。)の概要は,以下のとおりのものを含むものである。 「本願発明は,その優先日前に頒布された刊行物である国際公開第2011/111576号に記載された発明に基いて,その優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。」 第4 本願発明に対する判断 1.本願発明 本願発明は,上記第2で認定のとおりのものである。 2.刊行物 国際公開第2011/111576号(当審拒絶理由で引用した刊行物1。以下,「引用例1」という。) 3.引用例1の記載事項 (1) 本願の優先日前に頒布された刊行物である引用例1には,以下のとおりのことが記載されている(下線は,当審による。)。 ア 「[請求項1] 全光線透過率が88%以上,内部ヘイズが1.5%以下,b*値が-0.5?0.5,厚さが12?75μmであるプラスチックフィルム基材の少なくとも片面側に,ホモポリマーを形成した際のガラス転移温度が-10℃以上であるモノマーを必須のモノマー成分として形成されたアクリル系ポリマーを含有し,かつ,23℃における貯蔵弾性率が0.8×10^(5)?5.0×10^(5)Paであるアクリル系粘着剤層を有し,60℃,95%RHの環境下に120時間保存した後の水分率が0.65重量%以上であることを特徴とする光学用粘着シート。 [請求項5] 前記アクリル系ポリマーが,アクリル系ポリマーを形成するモノマー成分全量(100重量%)に対して,水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルの含有量が5?35重量%であるモノマー成分より形成されたアクリル系ポリマーである請求項1?4のいずれかの項に記載の光学用粘着シート。」(特許請求の範囲請求項1及び5) イ 「技術分野 本発明は,光学部材等の貼り合わせや,光学製品の製造等に用いられる光学用粘着シートに関する。 背景技術 近年,様々な分野で,液晶ディスプレイ(LCD)などの表示装置や,タッチパネルなどの前記表示装置と組み合わせて使用される入力装置が広く用いられるようになってきた。これらの表示装置や入力装置の製造等においては,光学部材を貼り合わせる用途に透明な粘着シート(粘着テープ)が使用されている。例えば,タッチパネルと各種表示装置や光学部材(保護板等)の貼り合わせ,タッチパネルの構成部材の貼り合わせ等に,透明な粘着シートが使用されている(例えば,特許文献1?4参照)。 ・・・ 発明が解決しようとする課題 従って,本発明の目的は,高い無色透明性を有し,耐白化性,高温での接着信頼性,段差吸収性に優れ,さらには加工性にも優れた光学用粘着シートを提供することにある。」(段落0001?0008) ウ 「[アクリル系粘着剤層] 本発明のアクリル系粘着剤層は,アクリル系ポリマーを主成分として含有する粘着剤層である。上記アクリル系ポリマーとしては,ホモポリマーを形成した際のガラス転移温度が-10℃以上であるモノマー(以下,「ホモポリマーのTgが-10℃以上のモノマー」と称する場合がある)を必須のモノマー成分として形成されたアクリル系ポリマーであればよく,特に限定されない。本発明のアクリル系粘着剤層(100重量%)中の上記アクリル系ポリマーの含有量は,高温での粘着特性,高温高湿条件での外観特性の観点から,65重量%以上(例えば,65?100重量%)が好ましく,より好ましくは70?99.999重量%である。 ・・・上記粘着剤組成物には,さらに必要に応じて,架橋剤やその他の各種の添加剤が含まれていてもよい。 ・・・ 上記アクリル系ポリマーは,アクリル系モノマーを必須のモノマー成分(単量体成分)として形成(構成)された重合体であって,かつ,ホモポリマーのTgが-10℃以上のモノマーを必須のモノマー成分として形成されたアクリル系ポリマーである。 上記アクリル系ポリマーは,特に限定されないが,例えば,直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び/又は(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルを主たるポリマー成分とし,さらに極性基含有モノマーをモノマー成分として形成された重合体であることが好ましい。なお,上記「(メタ)アクリル」とは,「アクリル」及び/又は「メタクリル」(「アクリル」及び「メタクリル」のうち,いずれか一方又は両方)を表し,他も同様である。 上記の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(以下,単に「(メタ)アクリル酸アルキルエステル」と称する場合がある)としては,例えば,・・・これらの中でも,アルキル基の炭素数が3?14の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく,より好ましくはアルキル基の炭素数が3?10の(メタ)アクリル酸アルキルエステル,さらに好ましくはアルキル基の炭素数が3?10のアクリル酸アルキルエステル,特に好ましくはアクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA),アクリル酸n-ブチル(BA)である。 ・・・ なお,上記の(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び/又は(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルの含有量は,低温接着性の観点から,アクリル系ポリマーを形成するモノマー成分全量(100重量%)に対して,30重量%以上(例えば,30?99重量%)が好ましく,より好ましくは50?99重量%,さらに好ましくは50?95重量%である。」(段落0030?0037) エ 「上記極性基含有モノマーとしては,例えば,(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル,(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル,(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル,(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル,ビニルアルコール,アリルアルコールなどの水酸基(ヒドロキシル基)含有モノマー;(メタ)アクリルアミド,N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド,N-メチロール(メタ)アクリルアミド,N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド,N-ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド,N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド基含有モノマー;(メタ)アクリル酸アミノエチル,(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル,(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチルなどのアミノ基含有モノマー;(メタ)アクリル酸グリシジル,(メタ)アクリル酸メチルグリシジルなどのエポキシ基含有モノマー;アクリロニトリルやメタクリロニトリルなどのシアノ基含有モノマー;N-ビニル-2-ピロリドン,(メタ)アクリロイルモルホリン,N-ビニルピペリドン,N-ビニルピペラジン,N-ビニルピロール,N-ビニルイミダゾールなどの複素環含有ビニル系モノマー;ビニルスルホン酸ナトリウムなどのスルホン酸基含有モノマー;2-ヒドロキシエチルアクリロイルフォスフェートなどのリン酸基含有モノマー;シクロヘキシルマレイミド,イソプロピルマレイミドなどのイミド基含有モノマー;2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネートなどのイソシアネート基含有モノマーなどが挙げられる。上記極性基含有モノマーは単独で,又は2種以上を組み合わせて使用することができる。」(段落0039) オ 「本発明のアクリル系粘着剤層を構成するアクリル系ポリマーは,上記のモノマー成分の中でも,ホモポリマーのTgが-10℃以上のモノマーを必須のモノマー成分として形成されている必要がある。ホモポリマーのTgが-10℃以上のモノマーは,ホモポリマーを形成した際のガラス転移温度(Tg)が-10℃以上であればよく,上記モノマー成分((メタ)アクリル酸アルキルエステル,(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル,極性基含有モノマー,多官能性モノマーやその他の共重合性モノマー)の中から適宜選択することができる。 上記ホモポリマーのTgが-10℃以上のモノマーは,ホモポリマーを形成した際のガラス転移温度(Tg)が-10℃以上(例えば,-10?250℃)であり,好ましくは-10?230℃,より好ましくは-10?200℃である。ホモポリマーを形成した際のTgが-10℃以上のモノマーを用いることによって,高温での接着信頼性が向上する。一方,ホモポリマーを形成した際のTgが250℃以下のモノマーを用いることにより,アクリル系粘着剤層が硬くなり過ぎず,段差吸収性が向上する。 ・・・ 上記ホモポリマーのTgが-10℃以上のモノマーとしては,ホモポリマーを形成した際のTgが-10℃以上であればよく,特に限定されないが,例えば,(メタ)アクリル酸イソボルニル,N-ビニル-2-ピロリドン,N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド,メタクリル酸メチルなどが挙げられる。なお,上記ホモポリマーのTgが-10℃以上のモノマーは単独で,又は2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中でも,高温での接着信頼性向上の観点から,アクリル酸イソボルニル(IBXA)(ホモポリマーのTg:94℃),N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)(ホモポリマーのTg:54℃),N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(N-(2-ヒドロキシエチル)アクリルアミド)(HEAA)(ホモポリマーのTg:98℃)が好ましい。特に,N-ビニル-2-ピロリドン,N-ヒドロキシエチルアクリルアミドを用いると,高温での接着信頼性向上に加えて,後述の粘着シートの水分率を効果的に高めることができるため,好ましい。 上記アクリル系ポリマーを形成する全モノマー成分(モノマー成分全量)(100重量%)に対する,ホモポリマーのTgが-10℃以上のモノマーの含有量は,特に制限されないが,5重量%以上(例えば,5?60重量%)が好ましく,より好ましくは5?50重量%,さらに好ましくは5?40重量%,さらに好ましくは8?40重量%である。含有量を5重量%以上とすることにより,高温での接着信頼性が向上する。一方,含有量を60重量%以下とすることにより,アクリル系粘着剤層が硬くなり過ぎず,段差吸収性に優れる。なお,ホモポリマーのTgが-10℃以上のモノマーとして2種以上のモノマーが使用されている場合は,該ホモポリマーのTgが-10℃以上のモノマーの合計含有量が上記範囲を満たせばよい。」(段落0043?0047) カ 「また,上記アクリル系ポリマーは,親水性モノマーをモノマー成分として形成された重合体であることが好ましい。上記親水性モノマーをモノマー成分として使用すると,後述の粘着シートの水分率を効率的に高めることができ,耐白化性が向上する。 上記親水性モノマーとしては,水分に対する親和性が高いモノマーであればよく,特に限定されないが,一般的には,前述の極性基含有モノマーの中から選択することができる。中でも,上記親水性モノマーとしては,効果的に水分率を高くする観点で,水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル,後述のアミド化合物が好ましい。 上記水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしては,水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステルであればよく,特に限定されないが,例えば,(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル,アクリル酸2-ヒドロキシプロピル,(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル,(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル,(メタ)アクリル酸6-ヒドロキシヘキシル等が挙げられる。なお,上記水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルは単独で,又は2種以上を組み合わせて使用することができる。上記の中でも,高温での接着信頼性の観点で,アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA),アクリル酸4-ヒドロキシブチル,アクリル酸2-ヒドロキシプロピルが好ましい。 上記水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルの含有量は,特に限定されないが,アクリル系ポリマーを形成する全モノマー成分(モノマー成分全量)(100重量%)に対して,5?35重量%が好ましく,より好ましくは10?30重量%,さらに好ましくは15?30重量%である。含有量を5重量%以上とすることにより,後述の粘着シートの水分率を効率的に高めることができ,耐白化性が向上する。一方,含有量を35重量%以下とすることにより,高湿条件での凝集力が小さくなり過ぎない。」(段落0048?0051) キ 「なお,上記アミド化合物(式(I)で表され重合可能な官能基を有するアミド化合物)の中でも,ホモポリマーを形成した際のTgが-10℃以上であるものについては,前述の「ホモポリマーのTgが-10℃以上のモノマー」として使用してもよい(即ち,上記アミド化合物と上記ホモポリマーのTgが-10℃以上のモノマーとが重複してもよい)。このようなアミド化合物を用いると,後述の粘着シートの水分率を高めることができると同時に,高温での接着信頼性が向上するため,好ましい。このようなアミド化合物としては,例えば,N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA),N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)等が挙げられる。 上記アミド化合物の含有量は,特に限定されないが,アクリル系ポリマーを形成する全モノマー成分(モノマー成分全量)(100重量%)に対して,5?20重量%が好ましく,より好ましくは5?17重量%,さらに好ましくは5?15重量%である。含有量を5重量%以上とすることにより,高温での接着信頼性が向上する。一方,含有量を20重量%以下とすることにより,段差吸収性が向上する。」(段落0061?0062) ク 「上記アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)は,40万?200万が好ましく,より好ましくは50万?150万である。重量平均分子量を40万以上とすることにより,高温での接着信頼性が向上する。一方,重量平均分子量を200万以下とすることにより,粘着剤組成物の粘度が高くなり過ぎず,塗工性が向上する。」(段落0071) ケ 「本発明のアクリル系粘着剤層を形成するための粘着剤組成物(アクリル系粘着剤組成物)には,必要に応じて,架橋剤・・・シランカップリング剤・・・などの公知の添加剤を,本発明の特性を損なわない範囲で用いることができる。・・・ 上記架橋剤を用いることにより,アクリル系ポリマーを架橋し,アクリル系粘着剤層のゲル分率をコントロールすることができる。上記架橋剤としては,イソシアネート系架橋剤・・・などが挙げられる。上記架橋剤は単独で,又は2種以上を組み合わせて用いることができる。中でも,高温での接着信頼性向上の観点で,イソシアネート系架橋剤,エポキシ系架橋剤が好ましい。特に,架橋剤として,イソシアネート系架橋剤を用いると,プラスチックフィルム基材に対するアクリル系粘着剤層の投錨性が向上するため,さらに粘着シートの加工性が向上する。 上記イソシアネート系架橋剤(多官能イソシアネート化合物)としては,例えば,・・・などが挙げられる。上記の中でも,ヘキサメチレンジイソシアネート,キシレンジイソシアネート(キシリレンジイソシアネート)が好ましい。市販品としては,例えば,トリメチロールプロパン/トリレンジイソシアネート付加物[日本ポリウレタン工業(株)製,商品名「コロネートL」],トリメチロールプロパン/ヘキサメチレンジイソシアネート付加物[日本ポリウレタン工業(株)製,商品名「コロネートHL」],トリメチロールプロパン/キシリレンジイソシアネート付加物[三井化学(株)製,商品名「タケネート110N」]などを用いることができる。 ・・・ さらに,上記粘着剤組成物は,ガラスに対する接着性を向上させることを目的として,シランカップリング剤を含有していてもよい。上記シランカップリング剤としては,特に限定されないが,・・・などが好ましく例示される。中でも,γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。上記シランカップリング剤としては,例えば,商品名「KBM-403」(信越化学(株)製)などの市販品を利用することもできる。 上記粘着剤組成物における上記シランカップリング剤の含有量は,ガラスに対する接着信頼性向上の観点から,例えば,アクリル系ポリマーを形成するモノマー成分全量(100重量部)に対し,0.01?1重量部が好ましく,より好ましくは0.03?0.5重量部である。」(段落0079?0087) コ 「実施例 以下に,実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが,本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお,以下の記載及び表1中の「タケネートD110N」(固形分75重量%)の配合量は,「タケネートD110N」の固形分換算の配合量(重量部)で表した。また,「KBM-403」,「EDP-300」の配合量は,それぞれ「KBM-403」,「EDP-300」そのもの(商品自体)の配合量(重量部)で表した。 実施例1 モノマー成分として,アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)69.7重量部,アクリル酸2-メトキシエチル(MEA)10重量部,アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA)13重量部,N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)6重量部,N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)1.3重量部,重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチロニトリル0.1重量部,及び重合溶媒として酢酸エチル200重量部を,セパラブルフラスコに投入し,窒素ガスを導入しながら,1時間撹拌した。このようにして,重合系内の酸素を除去した後,63℃に昇温し,10時間反応させて酢酸エチルを加え,固形分濃度30重量%のアクリル系ポリマー溶液を得た。 表1に示すように,上記アクリル系ポリマー100重量部に対して,架橋剤としてイソシアネート系架橋剤(三井化学(株)製,商品名「タケネートD110N」)を0.2重量部,シランカップリング剤としてγ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製,商品名「KBM-403」)0.15重量部,架橋促進剤としてエチレンジアミンにプロピレンオキシドを付加したポリオール((株)ADEKA製,商品名「EDP-300」)0.2重量部を加え,粘着剤組成物(溶液)を調製した。 ・・・ 実施例2 表1に示すように,モノマー成分として,アクリル酸n-ブチル(BA)69.7重量部,アクリル酸2-メトキシエチル(MEA)10重量部,アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA)13重量部,N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)6重量部,N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)1.3重量部を用い,シランカップリング剤「KBM-403」を使用せず,・・・両面粘着シートを得た。 実施例3 表1に示すように,モノマー成分として,アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)75重量部,アクリル酸2-メトキシエチル(MEA)11.5重量部,アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA)5重量部,N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)7重量部,N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)1.5重量部を用い,・・・両面粘着シートを得た。 実施例4 表1に示すように,モノマー成分として,アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)70重量部,アクリル酸2-メトキシエチル(MEA)11.5重量部,アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA)10重量部,N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)7重量部,N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)1.5重量部を用いた以外は実施例1と同様にして,・・・両面粘着シートを得た。 実施例5 表1に示すように,モノマー成分として,アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)65重量部,アクリル酸2-メトキシエチル(MEA)11.5重量部,アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA)15重量部,N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)7重量部,N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)1.5重量部を用いた以外は実施例1と同様にして,・・・両面粘着シートを得た。 実施例6 表1に示すように,・・・「タケネートD110N」の使用量を0.12重量部に変更した以外は実施例5と同様にして,・・・両面粘着シートを得た。 実施例7 表1に示すように,・・・「タケネートD110N」の使用量を0.45重量部に変更した以外は実施例5と同様にして,・・・両面粘着シートを得た。 実施例8 表1に示すように,モノマー成分として,アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)60重量部,アクリル酸2-メトキシエチル(MEA)11.5重量部,アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA)15重量部,N-ビニル-2-ピロリドン(NVP)7重量部,N-ヒドロキシエチルアクリルアミド(HEAA)1.5重量部,アクリル酸(AA)5重量部を用いた以外は実施例1と同様にして,・・・両面粘着シートを得た。 ・・・ [表1] [表2] (省略) 表1及び表2の結果から明らかなように,本発明の粘着シート(実施例)は,高い無色透明性を有し,耐白化性,高温での接着信頼性,段差吸収性に優れていた。・・・ 表1中の略語は以下の通りである。 2EHA:アクリル酸2-エチルヘキシル BA:アクリル酸n-ブチル MEA:アクリル酸2-メトキシエチル 2HEA:アクリル酸2-ヒドロキシエチル NVP:N-ビニル-2-ピロリドン HEAA:N-ヒドロキシエチルアクリルアミド AA:アクリル酸 EA:アクリル酸エチル タケネートD110N:イソシアネート系架橋剤,三井化学(株)製 KBM-403:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,信越化学工業(株)製 EDP-300:エチレンジアミンにプロピレンオキシドを付加したポリオール,(株)ADEKA製」(段落0122?0151) サ 「本発明の光学用粘着シートは,光学部材等の貼り合わせや,光学製品の製造等に用いられる。このような用途に本発明の粘着シートを用いると,製品(タッチパネル等)の視認性や外観の妨げとなり得る上記の気泡や浮きの発生,白濁化等の現象が抑制されるため,美しい仕上がりの製品が得られる。」(段落0152) 4.引用例1に記載された発明 摘示ア,ウ?カ及びク?コの記載を総合すれば,引用例1には次のとおりの発明(以下「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「アクリル系ポリマー,イソシアネート系架橋剤(多官能イソシアネート化合物)及びシランカップリング剤を含有してなり, 前記アクリル系ポリマーが,ホモポリマーを形成した際のガラス転移温度が-10℃以上であるモノマー,炭素数が3?10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び/又は(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル並びに水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを必須のモノマー成分として形成された重合体であり, 前記炭素数が3?10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルが,アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)及び/又はアクリル酸n-ブチル(BA)を含み, 前記水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルが,アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA),アクリル酸4-ヒドロキシブチル,アクリル酸2-ヒドロキシプロピルから選ばれる1種または2種以上であり, 前記炭素数が3?10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル及び/又は(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステルが,前記アクリル系ポリマーを形成するモノマー成分全量(100重量%)に対して,50?95重量%であり, 前記水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルの含有量が,前記アクリル系ポリマーを形成するモノマー成分全量(100重量%)に対して5?35重量%であり, 前記アクリル系ポリマーの重量平均分子量(Mw)が,40万?200万であり, かつ,23℃における貯蔵弾性率が0.8×10^(5)?5.0×10^(5)Paである, 光学用粘着シートに用いられる, アクリル系粘着剤」 5.対比 本願発明と引用発明とを対比する。 (1) 引用発明の「イソシアネート系架橋剤(多官能イソシアネート化合物)」及び「シランカップリング剤」は,本願発明の「ポリイソシアネート系硬化剤(B)(ただし,トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体を除く)」及び「シランカップリング剤(C)」に各々相当する。 (2) 引用発明の「アクリル系ポリマー」と本願発明の「アクリル系共重合体(A)」とを以下に対比する。 ア 本願明細書では,SP値(溶解度パラメーター)は、Fedorsの算出法により単量体の構造から計算により算出されるものであって,当該SP値を求める式及び主な原子または原子団に与えられたΔei及びΔviの固有値も記載されている(段落0029?0036)。その記載に鑑みると,引用発明の「炭素数が3?10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル」のSP値は「8(cal/cm^(3))^(1/2)以上9.00(cal/cm^(3))^(1/2)未満」であると認められる。そして,引用発明の「炭素数が3?10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル」が「アクリル酸2-エチルヘキシル(2EHA)及び/又はアクリル酸n-ブチル(BA)を含」む点は,本願発明の「アルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A1)」が「ブチルアクリレートおよび2-エチルヘキシルアクリレートの少なくともいずれかを含」む点と一致する。 そうすると,引用発明の「炭素数が3?10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル」は,本願発明の「SP値8(cal/cm^(3))^(1/2)以上9.00(cal/cm^(3))^(1/2)未満のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A1)」に相当する。 イ また,引用発明の「水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル」は「アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA),アクリル酸4-ヒドロキシブチル,アクリル酸2-ヒドロキシプロピルから選ばれる1種または2種以上である水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル」であるところ,本願明細書の表2(段落0036)によれば,アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2HEA),アクリル酸4-ヒドロキシブチル,アクリル酸2-ヒドロキシプロピルのSP値及びホモポリマーのガラス転移温度(Tg)は,それぞれ,SP値12.45及びTg-15℃,SP値11.60及びTg-25℃並びにSP値11.83及びTg-7℃と記載されている。そうすると,引用発明の「水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル」は,本願発明の「水酸基(a1)・・・を有し,かつホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が,-40℃以上120℃以下である」とされる「SP値9.00(cal/cm^(3))^(1/2)以上15(cal/cm^(3))^(1/2)以下の極性基含有エチレン性不飽和単量体(A2)」に相当する。 ウ そして,引用発明のアクリル系ポリマーが「ホモポリマーを形成した際のガラス転移温度が-10℃以上であるモノマー」を必須成分として含む点は,本願発明のアクリル系共重合体(A)との相違点とはならない。 エ そうすると,引用発明の「アクリル系ポリマー」は,下記相違点1?3の点を除き,本願発明の「アクリル系共重合体(A)」に相当するといえる。 (3) してみると,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は次のとおりである。 <一致点> アクリル系共重合体(A)と,ポリイソシアネート系硬化剤(B)(ただし,トリレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンアダクト体を除く)及びシランカップリング剤(C)とを含み, 前記アクリル系共重合体(A)は,SP値8(cal/cm^(3))^(1/2)以上9.00(cal/cm^(3))^(1/2)未満のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A1)と,SP値9.00(cal/cm^(3))^(1/2)以上15(cal/cm^(3))^(1/2)以下の極性基含有エチレン性不飽和単量体(A2)とをラジカル重合してなり, 前記SP値8(cal/cm^(3))^(1/2)以上9.00(cal/cm^(3))^(1/2)未満のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A1)は,ブチルアクリレートおよび2-エチルヘキシルアクリレートの少なくともいずれかを含み, 前記極性基を有するエチレン性不飽和単量体(A2)は,水酸基(a1),アミド基(a2),アミノ基(a3),およびニトリル基(a4)からなる群より選択される1種以上の極性基を有し,かつホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が,-40℃以上120℃以下である, 粘着剤 <相違点1> アクリル系共重合体(A)(アクリル系ポリマー)を構成する極性基含有エチレン性不飽和単量体(A2)(水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル)の割合に関して,本願発明は「20?60重量%」と特定しているのに対し,引用発明は「5?35重量%」と特定している点 <相違点2> アクリル系共重合体(A)(アクリル系ポリマー)を構成するアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A1)(炭素数が3?10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル)の割合に関して,本願発明は「40?80重量%」と特定しているのに対し,引用発明は「50?95重量%」と特定している点 <相違点3> アクリル系共重合体(A)(アクリル系ポリマー)の重量平均分子量について,本願発明では「20万?100万」と特定しているのに対し,引用発明では「40万?200万」と特定している点 <相違点4> 粘着剤の用途について,本願発明では「タッチパネル用」と特定しているのに対し,引用発明では特定していない点 6.判断 以下,上記相違点について検討する。 (1)相違点1について 本願発明における「SP値9.00(cal/cm^(3))^(1/2)以上15(cal/cm^(3))^(1/2)以下の極性基含有エチレン性不飽和単量体(A2)」の割合である「20?60重量%」と,引用発明における「水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル」の含有量である「5?35重量%」とは,「20?35重量%」で重複一致しており,この点は実質的な相違点とはいえない。 仮に実質的な相違点であるといえるとしても,引用例1では,「水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルの含有量は,特に限定されないが,アクリル系ポリマーを形成する全モノマー成分(モノマー成分全量)(100重量%)に対して,5?35重量%が好ましく,より好ましくは10?30重量%,さらに好ましくは15?30重量%である。含有量を5重量%以上とすることにより,後述の粘着シートの水分率を高くしやすく,前記水分率を高めることによって耐白化性が向上する。一方,含有量を35重量%以下とすることにより,高湿下での凝集力が小さくなり過ぎない」(摘示カ)と記載され,さらに好ましい含有量の下限値は「15重量%」であると記載されていることから,塗工性や耐腐食性やアウトガス等にも着目しつつ,引用発明において,粘着シートの水分率をさらに高め耐白化性をより向上させることができるより好ましい範囲として,当該含有量の下限値を「20重量%」と設定してみる程度のことは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないものである。 そして,それによる効果について検討しても,引用発明においても,高い無色透明性,耐白化性,高温での接着信頼性,段差吸収性,加工性,気泡や浮きの発生の抑制に優れていることは,摘示イ及びコ等に示されているとおりであって,本願発明の効果が格別顕著であるともいえない。また,当該含有量の下限値である「20重量%」に臨界的な意義を認めることもできない。 (2)相違点2について 本願発明における「SP値8(cal/cm^(3))^(1/2)以上9.00(cal/cm^(3))^(1/2)未満のアルキル基含有エチレン性不飽和単量体(A1)」の割合である「40?80重量%」と,引用発明における「炭素数が3?10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル」の含有量である「50?95重量%」とは,「50?80重量%」で重複一致しており,この点は実質的な相違点とはいえない。 仮に実質的な相違点であるといえるとしても,(1)で述べたとおり,引用発明において,「水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル」の含有量の下限値を「20重量%」と設定してみる程度のことは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないものであるといえるから,残りの成分である「炭素数が3?10の直鎖又は分岐鎖状のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル」の含有量の上限値を「80重量%」と設定してみる程度のことは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないものである。そして,それによる効果についても(1)で述べたとおりである。 (3)相違点3について 本願発明における「アクリル系共重合体(A)」の重量平均分子量「20万?100万」と,引用発明における「アクリル系ポリマー」の重量平均分子量「40万?200万」とは,「40万?100万」で重複一致しており,この点は実質的な相違点とはいえない。 仮に実質的な相違点であるといえるとしても,引用例1では,「重量平均分子量を40万以上とすることにより,高温での接着信頼性が向上する。一方,重量平均分子量を200万以下とすることにより,粘着剤組成物の粘度が高くなり過ぎず,塗工性が向上する」(摘示ク)と記載され,さらに好ましい重量平均分子量の上限値は「150万」であると記載されていることから,高温での接着信頼性性や塗工性等にも着目しつつ,引用発明において,塗工性をより向上させることができるより好ましい範囲として,当該重量平均分子量(Mw)の上限値を「100万」と設定してみる程度のことは,当業者が適宜なし得る設計事項にすぎないものである。 そして,それによる効果について検討しても,引用発明においても,高い無色透明性,耐白化性,高温での接着信頼性,段差吸収性,加工性,気泡や浮きの発生の抑制に優れていることは,摘示イ及びコ等に示されているとおりであって,本願発明の効果が格別顕著であるともいえない。また,当該重量平均分子量の上限値である「100万」に臨界的な意義を認めることもできない。そもそも,本願明細書においては,「アクリル系共重合体(A)の重量平均分子量は,20万?100万が好ましい。重量平均分子量を前記範囲内にすることで粘着性および耐剥がれ性がより向上する」(段落0046)と記載されているのであって,当該重量平均分子量が相違することによるこれらの効果は,当業者であれば予測し得る程度のものにすぎない。 (4)相違点4について 引用例1においては,光学用粘着シートをタッチパネル用に適用することが記載されている(摘示イ及びサ)から,引用発明における光学用粘着シートに用いられるアクリル系粘着剤をタッチパネル用に適用することは,当業者が容易になし得ることにすぎない。 そして,それによる効果も,当業者であれば予測し得る程度のものである。 7.まとめ 上記検討のとおり,本願発明は,引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができない。 第5 むすび 以上のとおり,本願発明,すなわち,平成26年10月27日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明は,引用例1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 当審における拒絶理由は妥当なものである。 したがって,他の請求項に係る発明について更に検討するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-12-04 |
結審通知日 | 2014-12-09 |
審決日 | 2014-12-22 |
出願番号 | 特願2011-276152(P2011-276152) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(C09J)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 磯貝 香苗 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
小野寺 務 田口 昌浩 |
発明の名称 | 粘着剤、粘着シートおよびディスプレイ |