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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1297733
審判番号 不服2013-20019  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-10-15 
確定日 2015-02-19 
事件の表示 特願2012-554916「光学ユニットおよび内視鏡」拒絶査定不服審判事件〔平成24年12月13日国際公開,WO2012/169369〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は,2012年5月25日(優先権主張2011年6月6日,日本国)を国際出願日とする出願であって,平成24年12月6日に手続補正書が提出され,平成25年1月30日付けで拒絶理由が通知され,同年4月1日に意見書が提出されたが,同年7月10日付けで拒絶査定がなされたところ,同年10月15日に拒絶査定不服審判が請求され,当審において,平成26年9月22日付けで拒絶の理由が通知され,同年11月17日に意見書及び手続補正書が提出されたものである。

2 本願発明
本願の請求項1ないし11に係る発明は,平成26年11月17日提出の手続補正書によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし11によってそれぞれ特定されるものであるところ,請求項1に係る発明は次のとおりのものと認められる。

「被写体像を固体撮像素子の受光面である像面に結像する複数のレンズと,
明るさ絞りと,
前記明るさ絞りよりも,前記像面側に配設された,可視光を透過し特定の波長光をカットする多層干渉膜が成膜されたコーティング面のある光学部材と,を具備し,
FナンバーFNO,最大像高IH,および,前記明るさ絞りを物点として,前記明るさ絞りから発した近軸光線が像面で反射して,さらに前記コーティング面で反射して再び前記像面に到達してゴースト光となる場合に,当該近軸光線により発生するゴースト光が結像する位置と,前記像面との距離Δd,が,(式1)を満足することを特徴とする光学ユニット。
0.75<|FNO・IH/Δd|<2.0 (式1)」(以下,「本願発明」という。)

3 当審で通知した拒絶の理由について
当審において平成26年9月22日付けで通知した拒絶の理由(以下,「当審拒絶理由」という。)の概要は,平成26年11月17日提出の手続補正書による補正前の請求項1及び9に記載された,「前記明るさ絞りから発した光線が前記像面で反射して,さらに前記コーティング面で反射して再び前記像面に到達するゴースト光路の近軸結像位置と前記像面との距離」というΔdの定義が指し示す内容が,技術常識及び本願明細書の記載を参酌しても理解できず,本願の請求項1及び9に係る発明,並びに,請求項1または9の記載を引用する形式で記載された請求項2ないし8,10,11に係る発明が明確でないから,特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない,というものであった。
請求人は,平成26年11月17日に手続補正書を提出して,請求項1及び9に記載されたΔdの定義を「前記明るさ絞りを物点として,前記明るさ絞りから発した近軸光線が像面で反射して,さらに前記コーティング面で反射して再び前記像面に到達してゴースト光となる場合に,当該近軸光線により発生するゴースト光が結像する位置と,前記像面との距離」と補正し,本願明細書の発明の詳細な説明の【課題を解決するための手段】の欄における該当箇所(【0008】)を同様の記載にする補正事項を含む補正を行うとともに,同日提出の意見書において,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された「第1実施形態」(【0011】ないし【0031】)におけるΔdの具体的な算出方法について,
「イ また,当該距離Δdが「-10.13mm」となることを以下に説明いたします。
前側主点位置HF,後側主点位置HB,焦点距離fとして,それぞれ物点,像点までの距離をa,bとしたとき(参考図1参照),レンズの結像式は下記のとおりであります。
1/a+1/b=1/f

本願発明の第1実施例について,明るさ絞りを物点としたときの接合レンズのHF,HB,f,物点距離aは下記(参考図2参照)のようになり,上記式を使って計算すると,接合レンズ単体での像点距離bはHBから物体側に3.2546mmとなります。

接合レンズより像面側に配置されるフィルタを加えると像点位置は実際の長さと空気換算長の差分だけ像側に移動し,距離はイメージャ面より物体側に6.0345mmとなります(参考図3参照)。

さらにイメージャ面,フィルタでの反射を加えると,光路2回通過分の空気換算長だけ像点が物体側に移動し,イメージャ面から10.1337mmの距離になります(Δd=-10.1337mm)(参考図4参照)。

このように,本願発明において前記「距離Δd」は,「約-10.13mm」となります。」
と説明している。
本願明細書の発明の詳細な説明の「ゴースト光路における像面と近軸結像位置との差Δd」(【0030】)等の記載や,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された第1ないし第3実施形態について,前記意見書に記載の算出方法に基づいて求めた各Δdの値が,本願明細書の発明の詳細な説明に記載された各Δdの数値と一致すること等からみて,本願発明の「前記明るさ絞りを物点として,前記明るさ絞りから発した近軸光線が像面で反射して,さらに前記コーティング面で反射して再び前記像面に到達してゴースト光となる場合に,当該近軸光線により発生するゴースト光が結像する位置と,前記像面との距離Δd」が,前記意見書に記載の算出方法によって求められるパラメータを指していることは,当業者が容易に理解できることと認められるから,平成26年11月17日提出の手続補正書による補正によって,当審拒絶理由は解消している。

4 原査定の拒絶の理由の概要
平成26年11月17日提出の手続補正書による補正前の請求項1に係る発明(本願発明に対応する。)に対する原査定の拒絶の理由の一つは,請求項1に係る発明は,特開2009-151191号公報に記載された発明であるから,特許法29条1項3号に該当し,特許を受けることができない,または,特開2009-151191号公報に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,同法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

5 引用例
(1)特開2009-151191号公報の記載
原査定の拒絶の理由で引用された特開2009-151191号公報(以下,「引用文献」という。)は,本願の優先権主張の日(以下,「本願優先日」という。)より前に頒布された刊行物であって,当該引用文献には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,内視鏡に使用される対物レンズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来,医療の分野における患者の体内の治療・診断等,外部から観察することが難しい部位の観察に内視鏡が用いられている。近年,経鼻内視鏡に代表されるような内視鏡の細径化が求められており,内視鏡に用いる対物レンズにもその外径の小型化が望まれている。
【0003】
従来,内視鏡に用いる対物レンズは非常に画角が大きいため,一般的に,対物レンズの最も物体側に平凹レンズを使ったレトロフォーカスタイプのレンズが多く採用されている。この種のレトロフォーカスタイプのレンズ系において,対物レンズを小さく設計する方法としては,最も物体側の平凹レンズに強い負のパワーを持たせる方法がある。しかし,第1面を平面で構成すると画角のバラツキが大きくなるという問題がある。また,レトロフォーカスタイプにおいて,前群負レンズ群のパワーを大きくし,仕様を保とうとすれば,必然的に後群の凸パワーを大きくしなければならない。
しかるに,従来,第1面を曲面で構成した内視鏡用対物レンズとして,例えば,次の特許文献1,2に開示されたものがある。
【特許文献1】特開平08-334688号公報
【特許文献2】特開平02-188709号公報(第2図)
・・・(中略)・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし,特許文献1に記載の内視鏡用対物レンズでは,第一レンズをメニスカス形状とすることにより,凹レンズとしてのパワーは小さくなる。これでは画角が小さくなってしまうため,第一レンズと明るさ絞りの距離を大きくとることにより,画角が小さくなった分を吸収する構成となっている。つまり,レンズが巨大化してしまい,近年の細径化が求められている内視鏡には適さない。
また,特許文献2に記載の内視鏡用対物レンズでは,像面湾曲やコマ収差の補正ができず画質が悪くなり,微小な細部を観察する内視鏡に実用できない。
【0007】
本発明は,上記従来の課題に鑑みてなされたものであり,画角のバラツキを小さくしながら,収差を充分に補正して良好な画質を得ることができ,且つ,小型化することが可能な内視鏡用対物レンズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため,本第一の発明による内視鏡用対物レンズは,明るさ絞りを挟んで前群レンズ群と後群レンズ群とを有し,前記前群レンズ群が,物体側より順に,物体側に凸面を向けた負の屈折力を持つメニスカス形状の第1レンズと,正の屈折力を持つ第2レンズとからなり,前記後群レンズ群が,曲率半径の小さな面を像側へ向けた正の屈折力を持つ第3レンズと,正の屈折力を持つ第4レンズと,負の屈折力を持つ第5レンズとからなり,前記第4レンズと前記第5レンズとが接合され,且つ,次の条件式(1)?(3)を満足することを特徴としている。
-2<SF<-0.9 …(1)
0.94<D/(f×sinθ)<1.7 …(2)
0.86<(D_(1)+D_(2)-f_(1))/(2×f_(3))<1.13 …(3)
但し,SFは第1レンズのシェイプファクターであり,物体側の曲率半径をR1,像側の曲率半径をR2としたとき,SF=(R2+R1)/(R2-R1)で示される値である。Dは第1レンズの像側の面の面頂から明るさ絞りまでの距離(空気換算長),fは全系の合成焦点距離,θは半画角,D_(1)は第1レンズの物体側の面の面頂から明るさ絞りまでの実測定距離,D_(2)は明るさ絞りから第3レンズの像側の面までの距離(空気換算長),f_(1)は第1レンズの焦点距離,f_(3)は第3レンズの焦点距離である。」

イ 「【0070】
実施例18
図35は本発明の実施例18にかかる内視鏡用対物レンズの構成を示す光軸に沿う断面図,図36は実施例18の光学系における球面収差,コマ収差(メリジオナル光線),コマ収差(サジタル光線)像面湾曲を示すグラフである。
実施例18の内視鏡用対物レンズは,明るさ絞りSを挟んで,前群レンズ群G1と,後群レンズ群G2を有して構成されている。図35中,F1,F2はフィルタ,CG1,CG2はカバーガラス,IMは像面である。
前群レンズ群G1は,物体側より順に,物体側に凸面を向けた負の屈折力を持つメニスカス形状の第1レンズL1と,物体側が凸面で像側が平面の平凸形状の第2レンズL2を有して構成されている。
後群レンズ群G2は,曲率半径の小さな面を像側へ向けた,物体側が平面で像側が凸面の平凸形状の第3レンズL3と,両凸形状の第4レンズL4と,物体側に凹面を向けた負の屈折力を持つメニスカス形状の第5レンズL5とで構成されている。第4レンズL4と第5レンズL5は接合されている。
【0071】
次に,実施例18の内視鏡用対物レンズを構成する光学部材の数値データを示す。
数値実施例18
単位:mm
面データ
面番号 曲率半径 面間隔 屈折率 アッベ数
物体面 ∞ 10.0763
1 6.2316 0.2383 1.88815 40.76
2 0.7298 0.4493
3 5.8354 1.0961 1.93429 18.90
4(絞り) ∞ 0.0204
5 ∞ 1.7021 1.83945 42.71
6 -1.5523 0.0681
7 2.3645 1.2936 1.48915 70.23
8 -1.4515 0.2451 1.93429 18.90
9 -4.6058 0.0681
10 ∞ 0.2111 1.51563 75.00
11 ∞ 0.4582
12 ∞ 0.2723 1.52498 59.89
13 ∞ 0.0204
14 ∞ 0.6808 1.51825 64.14
15 ∞ 0.4425 1.50792 63.00
16 ∞ 0
17(像面) ∞ 0
各種データ
焦点距離 1.00000
Fナンバー 7.8981
画角 81.68203°
像高 1.198
レンズ全長 7.2665
バックフォーカス -0.07295
なお,第18実施例では,フィルタF1は,通常の白板ガラス,F2は赤外カットフィルタである。フィルタF1の物体側面にはYAGレーザーカットコートが施され,像側面にはマルチコートが施されている。また,フィルタF2の両面にはマルチコートが施されている。」

ウ 「【図面の簡単な説明】
【0074】
・・・(中略)・・・
【図35】本発明の実施例18にかかる内視鏡用対物レンズの構成を示す光軸に沿う断面図である。
・・・(中略)・・・
【符号の説明】
【0075】
G1 前群レンズ群
G2 後群レンズ群
L1 物体側に凸面を向けた負の屈折力を持つメニスカス形状の第1レンズ
L2 物体側が凸面で像側が平面の平凸形状の第2レンズ
L2 両凸形状の第2レンズ
L3 曲率半径の小さな面を像側へ向けた,物体側が平面で像側が凸面の平凸形状の第3レンズ
L3’ 両凸形状の第3レンズ
L3” 物体側が平面で像側が非球面の凸面の平凸形状の第3レンズ
L3”’ 曲率半径の小さな面を像側へ向けた,像側が非球面である両凸形状の第3レンズ
L4 両凸形状の第4レンズ
L5 物体側に凹面を向けた負の屈折力を持つメニスカス形状の第5レンズ
CG カバーガラス
F フィルタ
IM 像面
S 明るさ絞り
・・・(中略)・・・
【図35】



(2)引用文献に記載された発明
引用文献の図35(前記(1)ウを参照。)から,【0071】に記載された「フィルタF1」の位置が第5レンズL5の像側であり,フィルタF1の物体側面の面番号が「10」であり,【0071】に記載された「赤外カットフィルタF2」の位置がフィルタF1と像面IMとの間であることを看取できるから,前記(1)アないしウから,引用文献には,次の発明が記載されているものと認められる。

「明るさ絞りSを挟んで,前群レンズ群G1と,後群レンズ群G2を有して構成され,
前群レンズ群G1は,物体側より順に,物体側に凸面を向けた負の屈折力を持つメニスカス形状の第1レンズL1と,物体側が凸面で像側が平面の平凸形状の第2レンズL2を有して構成され,
前記後群レンズ群G2は,曲率半径の小さな面を像側へ向けた,物体側が平面で像側が凸面の平凸形状の第3レンズL3と,両凸形状の第4レンズL4と,物体側に凹面を向けた負の屈折力を持つメニスカス形状の第5レンズL5とで構成され,前記第4レンズL4と前記第5レンズL5は接合されており,
通常の白板ガラスの物体側面にYAGレーザーカットコートが施され,像側面にマルチコートが施されたフィルタF1が,前記第5レンズL5より像側に設けられ,前記YAGレーザーカットコートの面番号が10であり,
両面にマルチコートが施された赤外カットフィルタF2が,前記フィルタF1と像面IMとの間に設けられ,
面データが表1のとおりであり,各種データが表2のとおりである,
内視鏡用対物レンズ。

【表1】面データ
面番号 曲率半径 面間隔 屈折率 アッベ数
物体面 ∞ 10.0763
1 6.2316 0.2383 1.88815 40.76
2 0.7298 0.4493
3 5.8354 1.0961 1.93429 18.90
4(絞り) ∞ 0.0204
5 ∞ 1.7021 1.83945 42.71
6 -1.5523 0.0681
7 2.3645 1.2936 1.48915 70.23
8 -1.4515 0.2451 1.93429 18.90
9 -4.6058 0.0681
10 ∞ 0.2111 1.51563 75.00
11 ∞ 0.4582
12 ∞ 0.2723 1.52498 59.89
13 ∞ 0.0204
14 ∞ 0.6808 1.51825 64.14
15 ∞ 0.4425 1.50792 63.00
16 ∞ 0
17(像面) ∞ 0

【表2】各種データ
焦点距離 1.00000
Fナンバー 7.8981
画角 81.68203°
像高 1.198
レンズ全長 7.2665
バックフォーカス -0.07295

(【表1】(屈折率及びアッベ数を除く。)及び【表2】(Fナンバー及び画角を除く。)の単位はmm)」(以下,「引用発明」という。)

6 対比
(1)引用発明の「像面IM」,「第1レンズL1,第2レンズL2,第3レンズL3,第4レンズL4,第5レンズL5」,「明るさ絞りS」,「YAGレーザーカットコート」,「フィルタF1」,「Fナンバー」及び「内視鏡用対物レンズ」は,本願発明の「像面」,「複数のレンズ」,「明るさ絞り」,「コーティング面」,「光学部材」,「FナンバーFNO」及び「光学ユニット」に,それぞれ相当する。

(2)引用発明の内視鏡用対物レンズには赤外カットフィルタF2が設けられているところ,当該赤外カットフィルタF2が赤外線が固体撮像素子へ入射することを防止するためのものであることが当業者に自明であるから,引用発明の像面IMに固体撮像素子の受光面が配置されることは明らかである。
したがって,引用発明の「第1レンズL1,第2レンズL2,第3レンズL3,第4レンズL4,第5レンズL5」は,「被写体像を固体撮像素子の受光面である像面に結像する」という本願発明の「複数のレンズ」に係る発明特定事項に相当する構成を具備している。

(3)引用発明において,「明るさ絞りS」は前群レンズ群G1と後群レンズ群G2の間に配置されており,「フィルタF1」は後群レンズ群G2の最も像側にある第5レンズL5よりさらに像側に設けられているのだから,「フィルタF1」が「明るさ絞りS」よりも「像面IM」側に配設されていることは明らかである。
したがって,引用発明の「フィルタF1」は,「前記明るさ絞りよりも,前記像面側に配設された」という本願発明の「光学部材」に係る発明特定事項に相当する構成を具備している。

(4)引用発明の「YAGレーザーカットコート」がYAGレーザー光(最も一般的なネオジウムドープYAGレーザーの波長は1064nm)をカットし,可視光を通過させることが当業者に自明であるから,可視光を透過し特定の波長光をカットするものであるといえる。
したがって,引用発明の「YAGレーザーカットコート」と本願発明の「コーティング面」とは,「可視光を透過し特定の波長光をカットする」点で一致する。

(5)引用発明における「|FNO・IH/Δd|」について計算すると,次のアないしウのとおり,約1.185であると算出できるから,引用発明は,「FナンバーFNO,最大像高IH,および,前記明るさ絞りを物点として,前記明るさ絞りから発した近軸光線が像面で反射して,さらに前記コーティング面で反射して再び前記像面に到達してゴースト光となる場合に,当該近軸光線により発生するゴースト光が結像する位置と,前記像面との距離Δd,が,(式1)0.75<|FNO・IH/Δd|<2.0を満足する」という本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

ア 引用発明の内視鏡用対物レンズの「FNO」は【表2】中の「Fナンバー」の値である7.8981であり,「最大像高」は【表2】中の「像高」の値である1.198(mm)である。

イ 引用発明の内視鏡用対物レンズの「Δd」を,前記3で述べた意見書に記載の算出方法に基づいて求めると,次のとおり,約-7.987である。

「明るさ絞りS」を物点として,前記「明るさ絞りS」から発した近軸光線が「像面IM」で反射して,さらに「YAGレーザーカットコート」(コーティング面)で反射して再び前記「像面IM」に到達してゴースト光となる場合,当該近軸光線が通過するレンズは,第3レンズL3,第4レンズL4及び第5レンズL5からなる後群レンズ群G2である。
複数のレンズからなる光学系の前側主点の位置HF,後側主点の位置HB及び焦点距離fは,いわゆる近軸光線追跡法によって算出することができるところ,当該近軸光線追跡法によって後群レンズ群G2におけるHF,HB及びfを計算すると,前側主点は最前側レンズ面(面番号5)から像面IM側に約0.854mmの位置にあり,後側主点は最後側レンズ面(面番号9)から明るさ絞りS側に約1.102mmの位置にあり,焦点距離は約1.449mmであると算出できる。
物点距離aは,物点である明るさ絞りSと最前側レンズ面(面番号5)との距離(0.0204mm)と,最前側レンズ面(面番号5)と前側主点との距離(約0.854mm)の和である約0.874mmであるところ,レンズの結像式から,像点距離bは後側主点の位置HBから物体側に約2.202(=(0.874×1.449)/(0.874-1.449),負の値は物体側であることを示す。)mmであると算出でき,像点・最後側レンズ面間距離は約3.304mm(=2.202+1.102)であると算出できる。
最後側レンズ面(面番号9)から像面IM(面番号17)までの実距離(面番号9から面番号16までについての,各面番号での面間隔の総和)は約2.153mmであり,その空気換算長(面番号9から面番号16までについての,「各面番号での面間隔/各面番号での屈折率」の総和)は約1.606mmであるから,後群レンズ群G2より像面IM側に配置される光学部材(フィルタF1(面番号10及び11),赤外カットフィルタF2(面番号12及び13)及び面番号14及び15で構成される光学部材)による空気換算長の差は約0.547mm(=2.153-1.606)である。
像点位置は空気換算長の差である約0.547mmだけ像面IM側に移動するから,像面IMから明るさ絞りS側に約4.910mm(=3.304+2.153-0.547)の位置となる。
さらに像面IM,フィルタF1のYAGレーザーカットコート(面番号10)での反射を考慮して,光路2回通過分の空気換算長約3.077mm(面番号10から面番号16までについての,「各面番号での面間隔/各面番号での屈折率」の総和の2倍)を加えると,像点の位置は像面IMから明るさ絞りS側に約7.987mm(=4.910+3.077)であると算出できる。
したがって,引用発明におけるΔdの値は約-7.987mmである。

ウ 前記ア及びイから,引用発明における「|FNO・IH/Δd|」の値は約1.185(=7.8981×1.198/7.987)と算出できる。

(6)前記(1)ないし(5)のとおりであるから,本願発明と引用発明とは,
「被写体像を固体撮像素子の受光面である像面に結像する複数のレンズと,
明るさ絞りと,
前記明るさ絞りよりも,前記像面側に配設された,可視光を透過し特定の波長光をカットするコーティング面のある光学部材と,を具備し,
FナンバーFNO,最大像高IH,および,前記明るさ絞りを物点として,前記明るさ絞りから発した近軸光線が像面で反射して,さらに前記コーティング面で反射して再び前記像面に到達してゴースト光となる場合に,当該近軸光線により発生するゴースト光が結像する位置と,前記像面との距離Δd,が,(式1)を満足する光学ユニット。
0.75<|FNO・IH/Δd|<2.0 (式1)」
である点で一致し,次の点で相違する。

相違点:
本願発明の「コーティング面」は多層干渉膜が成膜されたものであるのに対して,
引用発明の「YAGレーザーカットコート」が多層干渉膜であるのか否かは特定されていない点。

7 判断
(1)相違点の容易想到性
ア 例えば,本願明細書の発明の詳細な説明の【0004】に従来の内視鏡用光学ユニットとして例示された特開平9-54255号公報(特に,【0004】の「このようなレーザーカットフィルターのほとんどは,レーザー光の波長の光を反射する多層膜干渉型フィルターを用いている。」との記載を参照。),同じく本願明細書の発明の詳細な説明の【0004】に従来の内視鏡用光学ユニットとして例示された特開平11-76146号公報(特に,【0006】の「これら従来例として用いられるレーザーカットフィルターは,そのほとんどがレーザー光の波長の光を反射する多層膜干渉フィルターで,このレーザーカットフィルターは,レーザー光の波長の光の透過率を出来る限り小さく抑え,一方可視域の光の透過率はできるだけ高くしてある。」との記載を参照。))の記載からみて,本願優先日前,「レーザー治療装置を併用する内視鏡の光学ユニットに用いるYAGレーザー等の治療に用いるレーザー光をカットするフィルタ」としては,「光の干渉効果を用いた多層干渉膜」を用いることが多かったものと認められる(以下,「内視鏡用光学ユニットに設けられるYAGレーザー光カットフィルタとして,光の干渉効果を用いた多層干渉膜を用いること」を「周知技術」という。)。

イ 引用発明の「YAGレーザーカットコート」として,どのようなタイプのフィルタを用いるのかは,当業者が適宜決定すれば足りる設計事項にすぎない(そもそも,表1の面データにおいて「YAGレーザーカットコート」の膜厚が考慮されていないことからすると,ある程度の膜厚が必要な吸収型フィルタであるとは考え難く,「光の干渉効果を用いた多層干渉膜」が想定されているのではないかと考えられる。)ところ,前記アで認定したとおり,YAGレーザー光をカットするフィルタとして「光の干渉効果を用いた多層干渉膜」を用いることは本願優先日前に周知であったのだから,引用発明の「YAGレーザーカットコート」の具体的構成として,当該周知技術の「光の干渉効果を用いた多層干渉膜」を採用すること,すなわち,引用発明を,相違点に係る本願発明の発明特定事項に相当する構成を具備するものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

(2)効果について
本願発明の奏する効果は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が予測できた程度のものである。

(3)まとめ
以上のとおりであるから,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

8 むすび
本願の請求項1に係る発明は,引用文献発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-18 
結審通知日 2014-12-24 
審決日 2015-01-06 
出願番号 特願2012-554916(P2012-554916)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 殿岡 雅仁  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 清水 康司
鉄 豊郎
発明の名称 光学ユニットおよび内視鏡  
代理人 長谷川 靖  
代理人 伊藤 進  
代理人 篠浦 治  

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