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審決分類 審判 一部無効 2項進歩性  G10H
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G10H
審判 一部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  G10H
管理番号 1298096
審判番号 無効2011-800012  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-04-24 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-01-28 
確定日 2012-07-11 
事件の表示 上記当事者間の特許第3003559号発明「楽音生成方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成7年10月23日:出願(特願平7-299185号)
(国内優先権主張 平成7年5月19日)
平成11年11月19日:特許権の設定登録(特許第3003559号)
平成23年1月28日:本件無効審判請求
平成23年4月21日:答弁書提出(被請求人)
平成23年7月12日:口頭審理陳述要領書提出(請求人及び被請求人)
平成23年7月26日:上申書提出(被請求人)
平成23年7月26日:口頭審理

第2.本件発明
本件無効審判請求は、請求項1及び請求項7に係る発明についての特許の無効を主張するものである。本件特許の請求項1及び請求項7に係る発明は、その請求項に記載された事項により特定されるとおりのものであり、その記載は次のとおりである。

「【請求項1】指定された音を発生するための発生命令を発行する第1のステップと、
指定された音を複数の発音チャンネルの1つに割り当て、割り当てたチャンネルに対応して該指定された音の制御データをレジスタに記憶する第2のステップと、
所定時間間隔で演算開始命令を発行する第3のステップと、
各演算開始命令に応じて、前記レジスタに記憶された制御データに基づき各チャンネル毎の波形データの複数サンプルをまとめて算術的に生成するように前記各チャンネルで音生成演算を実行する第4のステップであって、この音生成演算は、生成すべき該複数サンプル分のサンプリング周期を合計した時間よりも短い時間内で行われることと、
個々のチャンネルで生成された波形データのサンプルを各サンプル点毎に混合し、該各サンプル点毎の混合サンプルデータを生成する第5のステップと、
各サンプリング周期毎に順次サンプル点の前記混合サンプルデータを順次出力する第6のステップと
を具備するようにしたことを特徴とする音生成方法。」

「【請求項7】1または複数の指定された楽音を発生するための1または複数の発生命令を受け取る第1のステップと、
前記発生命令に応答して、各指定された楽音を複数の発音チャンネルのうちの各1つに割り当て、該指定された楽音の制御データを各指定された楽音が割り当てられた各発音チャンネルに対応するチャンネルレジスタに書き込む第2のステップと、
演算開始命令を順次発行する第3のステップと、
各演算開始命令に応答して、前記チャンネルのチャンネルレジスタに記憶された制御データに基づき各発音チャンネル毎に複数サンプル分の波形データを生成する第4のステップと、
前記第4のステップで各発音チャンネルにつき生成された波形データを、前記複数サンプルの各サンプル毎に混合し、混合サンプルデータを生成する第5のステップと
を具備し、前記第4のステップは、特定の時間期間内で波形データの生成が可能な発音チャンネルがどれであるかを判定し、可能であると判定された発音チャンネルについてのみ前記波形データの生成を行うことを特徴とする楽音生成方法。」

第3.当事者の主張の要約

1.請求人の主張
請求人は、特許3003559号の請求項1、請求項7に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、その理由として、以下の無効理由を主張し、証拠方法として甲第1号証?甲第7号証を提出した。

[無効理由1]
本件請求項1、請求項7に係る発明についての特許は、平成11年9月21日付けの手続補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対して特許がなされたものであるので、特許法第123条第1項第1号の規定により無効とされるべきである。

[無効理由2]
本件請求項1、請求項7に係る発明についての特許は、特許請求の範囲の記載により特定される特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものではない、あるいは、明確でないから、特許法第36条第6項第1号、第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して特許がなされたものであるので、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とされるべきである。

[無効理由3]
本件請求項1、請求項7に係る発明は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるので、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とされるべきである。

[証拠方法]
甲第1号証:特開平4-51000号公報
甲第2号証:特開昭62-271147号公報
甲第3号証:特開平6-149594号公報
甲第4号証:特開平6-187169号公報
甲第5号証:特開平6-187170号公報
甲第6号証:特開平5-49152号公報
甲第7号証:特開平5-274788号公報

2.被請求人の主張
被請求人は、答弁書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張する無効理由に対して、以下のように反論し、証拠方法として乙第1号証ないし乙3号証を提出した。

[無効理由1について]
平成11年9月21日付けの手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるから、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているので、請求人の主張する無効理由1は理由がない。

[無効理由2について]
本件請求項1、請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、明確であるから、特許第36条第6項第1号、第2号の規定する要件を満たしているので、請求人の主張する無効理由2は理由がない。

[無効理由3について]
本件請求項1、請求項7に係る発明は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、特許法第29条第2項の規定に違反するものではないので、請求人の主張する無効理由3は理由がない。

[証拠方法]
乙第1号証:特開平2-129696号公報
乙第2号証:実開昭63-30896号公報
乙第3号証:「キーボード・マガジン・プロフェッショナル」No.3、昭和63年4月30日発行、42-43、59-61頁

第4.無効理由1(特許法第17条の2第3項違反)に対する判断

1.請求人の主張する無効理由1の詳細
請求人は、平成11年9月21日付けの手続補正が、願書に最初に添付した明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という)に記載した事項の範囲内においてしたものではないとして、次のように主張している。

(1)被請求人は、平成11年9月21日付けの手続補正により、特許請求の範囲を補正し、請求項1、請求項7に係る発明の特定事項である第1のステップについて次のように規定した。
ア.請求項1の第1のステップについて「指定された音を発生するための発生命令を発行する第1のステップ」と規定した。
イ.請求項7の第1のステップについて「1または複数の指定された楽音を発生するための1または複数の発生命令を受け取る第1のステップ」と規定した。

(2)当初明細書等には、第1ステップにおいて指定される楽音が複数であることを記載し、または、複数であることを前提とした記載のみが存在し、単一の楽音に関する記載は一切ない。上記手続補正により、請求項1は、「指定された単一の音を発生するための発生命令を発行する第1のステップ」、請求項7は、「1の指定された楽音を発生するための1の発生命令を受け取る第1のステップ」を包含するように補正され、この補正により請求項1に係る発明は、指定された単一の音を発生する・・音生成方法、請求項7に係る発明は、1の指定された楽音を発生する・・楽音生成方法、を包含することとなったが、この補正は、本件発明の、演算のオーバーヘッドを小さくするという技術的課題を生じさせない、当初明細書等に記載されていない新たな方法の発明を追加したものである。

(3)当初明細書等には、「楽音」を発生するための発生命令については記載されているが、より一般的な「音」を発生するための発生命令については記載されていない。「楽音」は、ある時間継続した一定の振動数をもち、その振動数(音の高さ)が認識できる音であり、音叉や管楽器・弦楽器の出す音を意味するものであり、単なる「音」は、全ての音を包含するものである。上記手続補正により、請求項1は、当初明細書等の「楽音」には含まれなかった、例えば、「噪音」、「楽曲」、「生活音」、「川のせせらぎ音」、「動物の鳴き声」、「オーディオCDに録音されているような3分ほどの楽曲」などを包含するように補正されたが、これは当初明細書等に記載されていない新たな事項を追加したものである。

2.当審の判断(無効理由1)

上記(1)の主張については事実であり、そのとおり認められる。

上記(2)の主張について

出願当初の明細書の【0046】-【0049】には、【図6】-【図9】の説明として次のように記載されている。
「【0046】次に、前記した本発明の第1の実施の形態ないし第5の実施の形態の要素を1まとめにした楽音生成方法および装置の動作をフローチャートを参照しながら説明する。図6はメインルーチンのフローチャートを示す図であり、メインルーチンがスタートされるとステップS10にて初期設定が行われる。初期設定ではタイマ4やDMAの設定、全発音チャンネルのクリアや、音色データおよび波形データ等の準備が行われる。次いで、ステップS20にてキーボード6からの入力が処理されるキーボード処理が行われ、ステップS30にて入力されたMIDIイベントに応じた処理が行われるMIDI処理が行われる。さらに、ステップS40にて楽音波形サンプルが生成される発音波形演算等が行われる音源処理が行われ、ステップS50にてその他の処理が行われ、ステップS20に戻り、ステップS20ないしステップS50の処理が循環して繰返し行われる(定常ループ)。これらの処理は、マルチタスクの方法を用いて他のソフトと同時に実行される。
【0047】次に、CPU1の実行するMIDI受信割込処理のフローチャートを図7に示す。この処理は、MIDIインタフェース5が外部より何らかのMIDIイベントを受信した際に割込により起動される。このMIDI受信割込処理は、他の処理より優先して行われる処理である。このMIDI受信割込処理が開始されると、ステップS100にてMIDIインターフェース5により受信された受信データが取り込まれ、ステップS110にてその受信データは受信された時点の時刻データと組にして図3に示されるような形式で前述した入力バッファに書き込まれるようにされて、割込発生時の処理へリターンされる。これにより、受信したMIDIデータは、順次、受信時刻と共に入力バッファに書き込まれるようになる。
【0048】次に、メインルーチンの定常ループでステップS30として実行されるMIDI処理の詳細フローチャートを図8に示す。MIDI処理が開始されるとステップS200にて入力バッファを読みに行き、未処理の受信データがあるかどうかの確認を行う。未処理の受信データがあるとステップS210にて判断されると、ステップS220に進み、受信データの内容に応じた分岐を行う。受信データがノートオンイベントの場合は、ステップS230に分岐されてノートオン処理が実行される。また、受信データがノートオフの場合は、ステップS240に分岐されてノートオフ処理が実行され、受信データがその他のデータの場合は、ステップS250に分岐されてその他処理が実行される。そして、これらのいずれかの処理が終了すると、MIDI処理は終了する。なお、受信データがないとステップS210にて判断されると、そのままMIDI処理を終了する。
【0049】次に、前述したMIDI処理において、受信データがノートオンイベントの場合にステップS230にて実行されるノートオン処理のフローチャートを図9(a)に示す。ノートオン処理が開始されると、ステップS300にて、入力バッファ中のそのノートオンイベントのノートナンバがNNとして、ベロシティがVELとして、それぞれレジスタに取り込まれ、そのノートオンイベントの発生時刻がTMとしてレジスタに取り込まれる。次いで、ステップS310にてレジスタに取り込まれたノートナンバNNの発音割当処理が行われ、割り当てられたチャンネル(ch)の番号がiとしてレジスタに取り込まれる。」
この記載から、MIDIイベントがMIDIインターフェースにより受信されると、受信時刻と共に入力バッファに書き込まれ、MIDI処理が開始されると入力バッファを読みに行き、該MIDIイベントがノートオンイベントの場合は、発音チャンネルが割り当てられ,割り当てられたチャンネル番号とともにノートナンバなどがレジスタに取り込まれ、割り当てられた発音チャンネルの楽音波形の演算が行われる楽音生成方法が当初明細書等には記載されているといえる。
ここで、MIDIインターフェースにより受信されるMIDIイベントは、時系列的に順次、複数受信されるが、その1つ1つは、「指定された単一の音を発生するための発生命令」といえ、仮に、MIDIイベントが1つしか受信されなければ、入力バッファにも1つのみが書き込まれ、1の発音チャンネルへの割り当てが行われて発音されるのは当然である。したがって、当初明細書等には「指定された単一の音を発生するための発生命令を発行する第1のステップ」を包含する第1のステップ、すなわち、請求項1の第1のステップが記載されていることは明らかである。また、当初明細書等に記載されたものは、該第1のステップの後、音源チャンネルアサイン、楽音波形サンプルの計算など、請求項1に記載された第2ないし第6のステップに対応するステップに対応する事項は記載されているから、結局、請求項1に係る発明は、単一の音が指定される場合も、当初明細書等に記載されたものであって、平成11年9月21日付けの手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるといえる。
請求人は、請求項1に係る発明は、「指定された単一の音を発生するための発生命令を発行する第1のステップ」を包含し、指定された単一の音を発生する場合には、該発明は、演算のオーバーヘッドを小さくするという技術的課題を生じさせないものであって、明らかな周知技術であるとさえいえるものである旨主張するが、そのような周知技術あるいは公知の技術は存在しない(後述する本件審判請求における無効理由3(特許法第29条第2項違反)においてもそのような技術は証拠として提示されていない)し、指定された音が単一の場合であっても割り当てられたチャンネルの波形データの複数サンプルをまとめて算術的に生成するように音生成演算を実行することにより、演算のオーバーヘッドを小さくすることができると考えられる。
請求項7に係る発明についても、「1の指定された楽音を発生するための1の発生命令を受け取る第1のステップ」を包含する発明について、請求項1と同様の理由により、平成11年9月21日付けの手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであるということができる。

上記(3)の主張について
請求人の主張は、要するに、当初明細書等に記載された「楽音」は、指定され、複数の発音チャンネルの1つに割り当てられるものであるが、例えば、「オーディオCDに録音されているような3分ほどの楽曲」をそのように指定して複数の発音チャンネルの1つに割り当てるようなことは、本件特許の出願時の技術では想定されていなかったことであり、そのような想定されていなかった音を含むように、楽音を「音」とする補正は、当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないというものである。
請求人が主張する、「例えば、オーディオCDに録音されているような3分ほどの楽曲」が、指定して複数の発音チャンネルの1つに割り当てるような音として出願時の技術では想定されていなかったことであるか否かについては、明らかではない。しかしながら、例えそれが想定されていなかったことであったとしても、直ちに、補正が当初明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものではないということにはならない。当初明細書等の「楽音」は、演奏情報に応じて複数の発音チャンネルのうちの1つに割り当てられ、波形が生成されて発音されるものであるから、その生成の方法によってのみ規定されるものであって、波形の具体的な中身(ピアノ音であるとか楽曲であるとか)には拘わりなく規定されるものである。
したがって、具体的な個々の音について、いちいち当初明細書等に記載がなくとも上記した生成方法により規定される音であれば当初明細書等の記載した事項の範囲内であるといえる。よって、具体的な音として「例えば、オーディオCDに録音されているような3分ほどの楽曲」を、指定された音として,複数の発音チャンネルのうちの1つに割り当てられ楽音波形が生成されて発音されることが当初明細書等に記載されていなくとも、該3分ほどの楽曲はもとより当初明細書等の楽音に含まれていたものであって、その音を含んだ「音」として補正した上記手続補正が願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものではないということはできない。

3.無効理由1(特許法第17条の2第3項違反)に対する判断のまとめ
以上のとおりであるから、平成11年9月21日付けの手続補正は、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしているので、請求人の主張する無効理由1は理由がない。

第5.無効理由2(特許法第36条第6項第1号、第2号違反)に対する判断

1.請求人の主張する無効理由2の詳細
請求人は、本件請求項1、請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない、あるいは、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないとして、次のように主張している。

(1)指定された音について
ア.請求項1、請求項7に係る発明は、それぞれ、「指定された単一の音を発生するための発生命令を発行する第1のステップ」、「1の指定された楽音を発生するための1の発生命令を受け取る第1のステップ」を包含するものであるが、単一の(1の)音(楽音)を発生させる場合には、単一の(1の)発音チャンネルにより発音させることになり、複数チャンネルで発音させる場合のオーバーヘッドの回避という本件発明の技術的課題を生じさせないから、その技術的課題解決による効果を奏することもない。明細書の発明の詳細な説明には、そのような発明は記載されていない。

イ.請求項1、請求項7に係る発明において、単一の音(1の楽音)を指定した場合には、割り当てられた1の発音チャンネル以外の発音チャンネルは何ら割り当てがないから、「各チャンネル毎の波形データの複数サンプルをまとめて算術的に生成するように前記各チャンネルで音生成演算を実行する第4ステップ」との規定に基づく発明は不明瞭であり、「個々のチャンネルで生成された波形データのサンプルを各サンプル点毎に混合し、該各サンプル点毎の混合サンプルデータを生成する第5のステップ」も、個々のチャンネルを想定できないから、発明は明確でない。

(2)楽音以外の一般的な音について
ア.請求項1に規定された第1のステップは、一般的な「音」、すなわち、例えば、オーディオCDに録音されているような3分ほどの楽曲を指定するときを含むが、発明の詳細な説明には、「楽音」以外の一般的な「音」に関する記述は全くないから、一般的な音の指定を含む音生成方法の発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

イ.また、「楽音」以外の一般的な「音」について発明の詳細な説明に記載されていないから、その技術内容は不明であり、発明が明確でない。

(3)まとめて算術的に生成について
ア.請求項1には、「制御データに基づき各チャンネル毎の波形データの複数サンプルをまとめて算術的に生成」と記載されている。これに対し、発明の詳細な説明には、この記載に関して、読み出しアドレスに対するFナンバの加算と加算により生成されたアドレスに基づく波形サンプル間の補間処理が記載されているのみである。
したがって、請求項1の上記記載、特に、「算術的に」生成との記載は、発明の詳細な説明に記載された上記楽音生成演算以外の初等数学的演算一般(例えば、音量調整処理のための乗算)を包含しているから、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

イ.請求項1に記載された、「まとめて算術的に生成」に関して、「まとめて」とは、処理単位において他の発音チャンネルに切り換えることなく、同一の発音チャンネルにおいて「複数サンプル分」の楽音波形生成演算をすることを示称するものと発明の詳細な説明からは理解することができるが、請求項1には、「まとめて算術的に生成」とだけ規定しているにすぎないから、その技術内容は不明であり、発明が明確でない。

(4)発音チャンネルの準備処理について
ア.オーバーヘッドを小さくするという本件発明の技術的課題を解決するためには、「当該複数サンプル分の制御データは1回の読み出しで行い、複数サンプル分の波形データ生成後の制御データの書き込みを一回で行うこと」という技術事項か不可欠であるが、請求項1、請求項7における第4のステップでは、「当該複数サンプル分の制御データは1回の読み出しで行い、複数サンプル分の波形データ生成後の制御データの書き込みを一回で行うこと」という技術事項が欠落している。
したがって、請求項1に係る発明において、まとめて算術的に生成される複数サンプル分の制御データの読み出し、及び、複数サンプル分の波形データ生成後の制御データの書き込みがどのように行われるのか不明であるから、発明は明確でない。請求項7についても同様のことがいえる。

イ.上記のとおり、請求項1、請求項7における第4のステップでは、「当該複数サンプル分の制御データは1回の読み出しで行い、複数サンプル分の波形データ生成後の制御データの書き込みを一回で行うこと」という技術事項が欠落しているから、請求項1、請求項7に係る発明は、上記技術的課題を解決しない別発明を含むものであって、そのような発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。

2.当審の判断 (無効理由2)

上記(1)、(2)の主張について
上記「第4.無効理由1(特許法第17条の2第3項違反)に対する判断 2.当審の判断(無効理由1)」で述べたように、請求項1、請求項7に係る発明において、指定された音が単一の場合、及び、請求項1に係る発明における一般的な「音」については、当初明細書等に記載されたものであるから、請求項1、請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものであり、また、明確であるといえる。
請求人は、単一の音が指定された場合の発明は、「個々のチャンネルで生成された波形データのサンプルを各サンプル点毎に混合し、該各サンプル点毎の混合サンプルデータを生成する第5のステップ」を行うことはありえず、該第5のステップに沿ったステップを経ることができないことは明らかであると主張する。しかしながら、複数チャンネルの波形データのサンプルを混合して混合サンプルデータを生成する通常の音生成方法において、ある時点で1チャンネルのみ波形データのサンプルしか存在しない場合に、結果としてその1チャンネルのみ波形データのサンプルが混合サンプルデータとして生成されるのは当然であって、本件発明においてもそのようになるのは当業者には明らかであるから、請求人の、該第5のステップに沿ったステップを経ることができないことは明らかであるとの主張は当を得ないものである。

上記(3)の主張について
ア.について
請求項1に記載された「算術的に」生成とは、波形データのサンプルの生成を、単に、例えば、発明の詳細な説明に記載されたようにCPUの演算により生成することを意味しているにすぎないと考えられる。また、波形データを生成する演算は、当業者に周知の様々な演算が考えられ、具体的にどのような演算により生成するのかは本件発明の課題とは無関係の事項であり、請求人の主張するような、発明の詳細な説明に具体的に実施例として記載された、読み出しアドレスに対するFナンバの加算や加算により生成されたアドレスに基づく波形サンプル間の補間処理などは、波形データのサンプルの生成の一例であると考えられ、請求項1に係る発明においては、それに限定されるものではない。
したがって、請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとすることはできない。

イ.について
請求項1には、「前記レジスタに記憶された制御データに基づき各チャンネル毎の波形データの複数サンプルをまとめて算術的に生成するように前記各チャンネルで音生成演算を実行する」と記載されている。また、この記載の「前記レジスタに記憶された制御データ」は、「割り当てたチャンネルに対応して該指定された音の制御データをレジスタに記憶」したものであるから、制御データは各チャンネルに対応してレジスタに記憶したものである。したがって、波形データのサンプルは、各チャンネル毎に、対応したレジスタの制御データに基づいて、複数サンプルをまとめて生成されるものである。
したがって、請求項1における「まとめて」生成とは、他の発音チャンネルに切り換えることなく、同一の発音チャンネルにおいて「複数サンプル分」の楽音波形生成演算をすることを意味すると請求項1の記載から理解することができるから、その技術内容は明確であり、発明は明確であるといえる。

上記(4)の主張について
オーバーヘッドを小さくすること、すなわち、各発音チャンネルの準備処理に関して、本件明細書には次のように記載されている。
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】ところで、演算処理装置(CPU)を備える汎用の装置によりアプリケーションプログラムを実行させて楽音を生成する場合、従来は1サンプリング周期(デジタル・アナログ変換器の変換タイミング)毎に各チャンネルの楽音波形サンプルを発音チャンネル分演算生成するようにしている。従って、CPUは各発音チャンネルの処理を行う場合、まず、前回の当該発音チャンネルの演算に用いた各種レジスタ値をメモリからCPUのレジスタに読み出す等の準備処理が行われる。また、当該発音チャンネルの楽音生成処理後には次回の処理のため、前記レジスタ値をメモリに書き込む必要がある。すなわち、各発音チャンネルの楽音波形サンプルの演算処理を1サンプルずつ生成するようにしていたため、楽音を生成する楽音生成処理以外の、準備処理に多くのCPUの演算時間が費やされ(オーバヘッドが大きくなる)、演算効率が悪くなり応答や楽音生成処理が遅くなるという問題点があった。」、
「【0007】そこで、本発明はCPUのオーバヘッドを少なくすることのできる楽音生成方法を提供することを目的としている。」、
「【0013】このような本発明によれば、複数の楽音波形サンプルの演算について1回だけ各発音チャンネルの準備処理を行えば良いため、オーバヘッドが小さくすることができる。このため、生成された楽音の質を向上することができると共に、同時発音チャンネル数を増加することができる。」、
「【0025】この第1の実施の形態の楽音生成方法によれば、各発音チャンネルの準備処理は、まとめて生成される複数の楽音波形サンプルの演算について1回だけ行えば良いため、全体の演算時間の内でこの準備処理に費やされる演算時間の割合が減少し、オーバヘッドを小さくすることができる。このため、生成される楽音波形サンプルの質の向上や同時発音数を増加することができる。」、
「【0063】次いで、ステップS620にて上記前回の読み出しアドレスを初期値としてFナンバを繰り返し加算し前記時間範囲内の各サンプルの読み出しアドレスを発生し、この読み出しアドレスの整数部に基づいて音色データ内の波形記憶領域WDより波形サンプルを読み出すと共に、この読み出しアドレスの小数部に基づいて読み出された波形サンプル間の補間を行い、前記時間範囲内の全補間サンプルを算出するようにする。例えば、前記時間範囲が100サンプル分の時間に相当する場合、100サンプル分まとめてこのステップにより処理が行われる。ここで、前記時間範囲内の複数サンプル分の処理は、読み出しアドレスに対するFナンバの加算と、加算により生成されたアドレスに基づく読み出しから補間の処理までの処理を単位処理として、この単位処理を繰り返して行うようになっているため、読み出しアドレスのCPUレジスタへの読み込みが全体として1回で済み、処理が高速化されている。」、
「【0074】
【発明の効果】本発明は以上のように構成されているため、複数の楽音波形サンプルの演算について1回だけ各発音チャンネルの準備処理を行えば良いようになり、オーバヘッドを小さくすることができる。このため、生成された楽音の質を向上することができると共に、同時発音チャンネル数を増加することができる。」

これらの記載から、本件発明は、オーバーヘッドを小さくするという課題を解決するために、請求項1に記載の構成(特に、「割り当てたチャンネルに対応して該指定された音の制御データをレジスタに記憶する第2のステップ」、及び、「前記レジスタに記憶された制御データに基づき各チャンネル毎の波形データの複数サンプルをまとめて算術的に生成するように前記各チャンネルで音生成演算を実行する第4のステップ」を備えた構成)とし、その結果、複数の楽音波形サンプルの演算について1回だけ各発音チャンネルの準備処理を行えば良いようになったものであるといえる。
よって、請求項1において、「(各発音チャンネルに対応した)制御データに基づき各チャンネル毎の波形データの複数サンプルをまとめて算術的に生成する」とは、各発音チャンネルの制御データを一回だけ用いて複数サンプルをまとめて生成することを意味していると解釈できる。
したがって、請求項1に係る発明は明確であり、また、発明の詳細な説明に記載されたものである。また、請求項7に係る発明についても、同様の理由により、発明は明確であり、また、発明の詳細な説明に記載されたものであるということができる。

3.無効理由2(特許法第36条第6項第1号、第2号違反)に対する判断のまとめ
以上のとおりであるから、請求項1、請求項7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであり、また、明確である。

第6.無効理由3(特許法第29条第2項違反)に対する判断

1.甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証(特開平4-51000号公報)
甲第1号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。

ア.「3.発明の詳細な説明
(a)産業上の利用分野
この発明は、複数の発音チャンネルを備え、入力された演奏情報を空いている発音系統に割り当てて発音することのできる音源装置に関する。
(b)従来の技術
現在の電子楽器等においては、複数の楽音を同時に発生するため複数の発音系統を備えたものが実用化されている。この複数の発音系統にどの演奏情報を割り当てるかの制御については従来より種々の方式が実用化されている。従来より一般的な方式は、1つのキーまたは1台の楽器(演奏装置)に1個の発音系統を割り当て、そのキーまたは演奏装置から演奏情報が出力されたときその発音系統が楽音を形成するという方式である。ここで、演奏装置とは、MIDIケーブル等を介して演奏情報を送信するコントローラであり、キーボード型のほか、管楽器型や弦楽器型のものが実用化されている。」(第1頁左下欄第16行?同頁右下欄第15行)

イ.「(f)実施例
第1図はこの発明の実施例である音源装置の構成を示すブロック図である。この音源装置はMIDIインタフェース14を介して人力される演奏情報に基づいて楽音波形を形成して出力する装置であり、自動演奏装置やキーボード、管楽器型コントローラ等の演奏装置が接続され,形成された楽音波形はインタフェース18を介してサウンドシステム(アンプ、スピーカ)等に出力される。この音源装置はCPU10によって制御され、CPU10はバス11を介して各部と接続されている。バス11上にはROM12、RAM13、MIDIインタフェース14、操作パネル15、音源回路16が接続されている。ROM12にはこの装置の動作に必要な制御プログラム等が記憶されており、RAM13にはMIDIインタフェース14を介して入力される演奏情報や操作パネル15によって設定されたパラメータ等が記憶され、操作モードを記憶するモードレジスタMODE、発音系統のグルーピングを記憶するアサインモードレジスタAMおよびMIDIチャンネルのグルーピングを記憶するチャンネルグルーピングテーブルが設定されている。MIDIインタフェース14はMIDIコネクタを備えており、複数トラックを有する自動演奏装置や複数の演奏装置等を接続することができる。操作パネル15にはスイッチ群や表示器が設けられている.スイッチ群には、+/-キー、モードキー、チャンネルセレクトキーが含まれ、操作モードやMIDIの選択時に操作される。また、音源16が形成する楽音の波形を決定するためのバラメータ等を設定するスイッチも設けられている。また、表示器には第3図に示すような表示がなされる。音源回路16は第2図にその回路図を示すような波形メモリ方式の音源回路であり、波形メモリ17に記憶されている波形データを所定のタイミングで読み出していくことによって指定された音高の楽音を形成する。したがって、音源回路16は波形メモリ17を接続しており、形成された楽音信号を出力するためのインタフェース18が接統されている。インタフェース18は上述したサウンドシステム等の装置に接続されている。
第2図は前記音源回路16主要部のブロック図である。この音源回路には4個の音源チップ(LSI)20?23が設けられており、それぞれの音源チップが波形メモリ17をアクセスして波形データを読み出し、各々8音の楽音を形成することができる.各音源チップは、バス11のデータバスを介してCPU10から演奏情報を受信する。この演奏情報には音高や発音レベル等の情報が含まれている。各音源チップは時分割チャンネル(発音系統)を8個有しているが、どの発音系統でこの楽音の発音をさせるかは、CPU10がアドレスバスを介してアドレスを送信することによって指定される。音源チップは受信した演奏情報に基づいて波形メモリ17をアクセスし、波形データを受信する。このため、各音源チップには、外部インタフェースA0-7,D0-7および内部インタフェース端子MA0-7,MD0-7を備えている。インタフェースA、Dはバス11のアドレスバス、データバスを介してCPU10に接続されており、インタフェースMA、MDはメモリインタフェース24を介して波形メモリ17に接続されている。
また、4個の音源チップ20?23が時分割動作することによって32の楽音を同時発音することができるが、それぞれの音源チップの同期をとるため、各音源チップ20?23にはシンクロイン端子SYIが設けられており、それらの端子には音源チップ20(シンクロアウト端子SYO)が出力するシンクロ信号が入力されている。また、データの競合をなくすため、音源チップ20、21をA系統、音源チップ22、23をB系統に分離し、それぞれの系統で2個の音源チップをマスタースレーブの関係で接続している。マスタチッブ20、22とスレーブチップ21、23は同一アドレスでデータを取り込むが、取り込むタイミングを異ならせてある。これにより、CPU10が同一アドレスでデータを送っても、その送信タイミングをずらすことによってマスタチップまたはスレーブチップの何れか一方にそのデータを受信させることができる。また、CPU10はA系統、B系統への演奏情報の送信は同一のアドレスを用いて時分割(切換制御)で行うが、この切り換えはチップセレクト信号CSで行う。このチップセレクト信号は音源チップ20、21には直接入力され、音源チップ22、23にはインバータ28で反転して入力される。これにより、音源チップ20、21または音源チップ22、23が択一的に選択されることになる。
各音源チップが形成した1?8個の楽音信号は各チップ内で加算され、カスケード出力端子CASOから出力される。この音源回路の楽音信号の出力端子はC1OUT、C2OUTの2系統であるため、4個の音源チップの楽音信号は2系統に加算される。この加算の組み合わせはグループセレクト信号CSBLで切り換えられる。グループセレクト信号GSELはゲート25に直接入力され、インバータ27を介してゲート26に入力される。ゲート25は音源チップ21のカスケードアウト端子CASOと音源チップ20のカスケードイン端子CASIとの接続を開閉し、ゲート26は音源チップ21のカスケードアウト端子CASOと音源チップ23のカスケードイン端子CASIとの接続を開閉する。グループセレクト信号GSELがローレベル“L”のときゲート25が開いてゲート26が閉じ、音源チップ21、20をカスケード接続する。この出力はG2OUT端子から出力される。また、このとき音源チップ23、22もカスケード接続されており、この出力はG1OUT端子から出力される。一方、グループセレクト信号GSELがハイレベル“H”のときゲート26が閉じてゲート25が開き、音源チップ21、23、22をカスケード接続する。この出力はG1OUT端子から出力される。音源チップ20の出力は単独でG2OUT端子から出力される。G1OUT端子およびG2OUT端子の出力はサウンドシステムにおいて、増幅され音響として出力される。
CPU10は音源回路の発音系統を各音源チップを単位に1または2組にグルーピングする。全体を1グループにするとき、および、2チップ(16音)づつ2組にグルーピングするときは、前述のようにグループセレクト信号GSELを“L”にしてG1OUT、G2OUT端子から16音づつを取り出すようする。全体を1グループとするときは、G1OUT、G2OUTの出力を後のインタフェース18内でミックスして32音全てをG1とする。1チップ(8音)と3チップ(24音)の2組にグルーピングするときには、グルーブセレクト信号G S E Lを“H”にしてG1OUT端子から8音、G2OUT端子から24音を取り出すようにする。」(第2頁左下欄第20行?第4頁右上欄第12行)

ウ.「第5図は発音処理動作である。この動作はCPU10が一定時間毎に繰り返し実行する。この動作においては、各MIDIチャンネルからの入力〔演奏情報〕を判断し、この入力に対応する動作を音源回路16に行わせる動作である。まずMIDIチャンネルを指定するポインタchに1をセットする(n21)、次にMIDIバッフアよりこのチャンネルに対応するMIDIデータを取り込む(n22)、MIDIデータがイベントデータであればn24?n26においてそのイベントを判断する。MIDIデータがイベントデータでなければ(すなわち、そのタイミングにそのチャンネルにイベントがなければ)直接n27に進む。n24ではMIDIイベントがノートオンであるか否かを判断し、n25ではMIDIイベントがノートオフであるか否かを判断する。MIDIイベントがノートオンイベイトであればn24?n30に進む。n30ではそのMIDIチヤンネルが属するグループ番号を検索し(n30)、このグループに属する発音系統で空いているものがあるか否かを検索する(n31)。空いているものがあればその発音系統に対してMIDIデータを発音のためのパラメータとして入力して発音させる(n35)。空きチャンネルがない場合にはn32からn33に進み、ダンプすべき発音系統をサーチする。ダンプすべき発音系統の検索基準としては、減衰が最も進んでいる系統またはキーオン時間が最も長い系統等がある。サーチののちその発音系統を強制的にダンプし(n34)、n35に進む。取り込んだMIDIデータがノートオフイベントデータであった場合には、n25→n36に進んで、その発音が割り当てられている発音系統を検索し(n26)、その発音系統に対して発音終了の処理を行ったのち(n37)n37に進む。また、MIDIイベントがノートオン、ノートオフ以外のイベントであった場合にはn26でそのイベントに対応するMIDI情報処理を実行する。こののちn27に進む。
n27ではチャンネルポインタchに1を加算し、この値が17を超えない場合にはn28の判断でn22にもどる.チャンネルポインタchが17を超えた場合には全てのMIDIチャンネルについてこの処理が終了したとしてリターンする。
以上のようにこの実施例では16チャンネルのMIDIチャンネルおよび32系統の発音系統をグループG1およびG2にグループ分けし、その範囲内でアサインをするようにしたことにより、入力される演奏悄報の種類に対して固定的に発音系統を割り当て、その同一種類の演奏情報内においては任意にアサインを可能にすることができる。これにより、必要な発音を確保することかできるうえ、必要な発音系統数を節減することができる。」(第5頁右上欄第2行?同頁右下欄第15行)

以上を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下、「甲第1号証発明」という。)が記載されている。

「音源装置を制御するCPUがバスを介してMIDIインターフェース、操作パネル、音源回路と接続されており、
音源回路に設けられた音源チップは、バスを介してCPUから演奏情報を受信し、複数の時分割チャンネル(発音系統)を有し、受信した演奏情報に基づいて波形メモリにアクセスし波形データを読み出して楽音を形成するものであり、
CPUは、MIDIインターフェースを介して各MIDIチャンネルに対応するMIDIデータを取り込み、該MIDIデータがノートオンイベントであれば、発音系統で空いているものがあるか否かを検索し、空いているものがあればその発音系統に対してMIDIデータを発音のためのパラメータとして入力して発音させる、
音源装置の発音処理動作。」

(2)甲第2号証(特開昭62-271147号公報)
甲第2号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「複数のタスクを時分割方式でリアルタイム処理を行う場合のタスクの制御方法」(第1頁右下欄第5行?第6行)

(3)甲第3号証(特開平6-149594号公報)
甲第3号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「一つの中央演算処理装置(以下CPUという)を用いて、二つ以上のタスク(仕事)を時分割並行処理をする、マルチタスク実行装置」(【0001】)

(4)甲第4号証(特開平6-187169号公報)
甲第4号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「一つの中央演算処理装置(以下CPU)を用いて、二つ以上のタスク(仕事)を時分割並行処理をする、マルチタスク実行装置」(【0001】)

(5)甲第5号証(特開平6-187170号公報)
甲第5号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「一つの中央演算処理装置(以下CPU)を用いて、二つ以上のタスク(仕事)を時分割並行処理をする、マルチタスク実行装置」(【0001】)

(6)甲第6号証(特開平5-49152号公報)
甲第6号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「高調波過負荷リレーなどの、比較的高速で実効値を演算しなければならない実効値演算リレーにおいて、高速でサンプリングされたデータを記憶し、処理するサンプルデータの処理回路」(【0001】)

(7)甲第7号証(特開平5-274788号公報)
甲第7号証には、図面とともに以下の事項が記載されている。
「【0006】本発明は上記従来の問題点を解決するもので、テープ上に録音するPCMデータを加工する代わりに、フェードイン,フェードアウト,ミュートの位置を指定するフラグを別途記録しておき、再生時にフェードイン,フェードアウトをかけることのできるフラグ記録方法、および記録再生装置を提供することを目的とする。」、
「【0014】補助データ記録部104が記録する補助データには、再生時にフェードイン,フェードアウト,ミュート処理を指定するフェードフラグ,ミュートフラグを含む。」、
「【0017】補助データ再生部106は、記録および再生ヘッド103の中の1個の補助チャネル再生用の再生ヘッドより再生された補助チャネル再生データを復調し、誤り訂正を行い補助データをシステム制御部109に送出する。
【0018】主データ再生部107は、記録および再生ヘッド103の中の8個の主チャネル再生用の再生ヘッドより再生された再生信号を復調し、誤り訂正を行い再生PCMデータPCMRPとフレームナンバデータを出力する。」、
「【0027】係数算出部111は、システム制御部109から送出されるミュートフラグとフェードフラグに基づいて主データ再生部107の出力する再生PCMデータにかける係数を算出し、乗算器112に出力する。」

2.対比
本件請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」という)と甲第1号証発明とを対比する。
甲第1号証発明におけるMIDIデータのノートオンイベントは、本件発明1の「指定された音を発生するための発生命令」に相当し、甲第1号証発明が「指定された音を発生するための発生命令を発行する第1のステップ」を具備するのは明らかである。
甲第1号証発明において、音源チップがバスを介して受信する演奏情報のノートオンイベントは、複数の発音系統のいずれかに割り当てられるパラメータ(本件発明1の「制御データ」に相当)として入力されるものであり、そのパラメータを一時的に記憶する記憶部(本件発明1の「レジスタ」に相当)を有することは明らかであるから、甲第1号証発明は、「指定された音を複数の発音チャンネルの1つに割り当て、割り当てたチャンネルに対応して該指定された音の制御データをレジスタに記憶する第2のステップ」を具備するといえる。
甲第1号証発明の音源チップは、複数の時分割チャンネル(発音系統)を有し、受信した演奏情報に基づいて波形メモリにアクセスし波形データを読み出して楽音を形成するものであるから、甲第1号証発明は、「前記レジスタに記憶された制御データに基づき各チャンネル毎の波形データのサンプルを算術的に生成するように前記各チャンネルで音生成演算を実行する第4のステップ」を有するといえる。
甲第1号証発明は、複数の発音チャンネルで楽音を形成する音源装置を対象としているから、「個々のチャンネルで生成された波形データのサンプルを各サンプル点毎に混合し、該各サンプル点毎の混合サンプルデータを生成する第5のステップ」、及び、「各サンプリング周期毎に順次サンプル点の前記混合サンプルデータを順次出力する第6のステップ」を具備することは明らかである。

したがって、両者の一致点及び相違点は、次のとおりと認められる。

[一致点]
「指定された音を発生するための発生命令を発行する第1のステップと、
指定された音を複数の発音チャンネルの1つに割り当て、割り当てたチャンネルに対応して該指定された音の制御データをレジスタに記憶する第2のステップと、
前記レジスタに記憶された制御データに基づき各チャンネル毎の波形データのサンプルを算術的に生成するように前記各チャンネルで音生成演算を実行する第4のステップと、
個々のチャンネルで生成された波形データのサンプルを各サンプル点毎に混合し、該各サンプル点毎の混合サンプルデータを生成する第5のステップと、
各サンプリング周期毎に順次サンプル点の前記混合サンプルデータを順次出力する第6のステップと
を具備するようにしたことを特徴とする音生成方法。」

[相違点1]
本件発明1は、「所定時間間隔で演算開始命令を発行する第3のステップ」を具備し、「各演算開始命令に応じて、各チャンネル毎の波形データの複数サンプルをまとめて算術的に生成するように前記各チャンネルで音生成演算を実行する」のに対し、甲第1号証発明は、そのようなステップを有しない点。

[相違点2]
第4のステップが、本件発明1では、「前記レジスタに記憶された制御データに基づき各チャンネル毎の波形データの複数サンプルをまとめて算術的に生成するように前記各チャンネルで音生成演算を実行する第4のステップであって、この音生成演算は、生成すべき該複数サンプル分のサンプリング周期を合計した時間よりも短い時間内で行われる」のに対し、甲第1号証発明は、「前記レジスタに記憶された制御データに基づき各チャンネル毎の波形データのサンプルを算術的に生成するように前記各チャンネルで音生成演算を実行する第4のステップ」とはいえるが、「複数サンプルをまとめて」生成するものではなく、「この音生成演算は、生成すべき該複数サンプル分のサンプリング周期を合計した時間よりも短い時間内で行われる」ものでもない点。

3.当審の判断
[相違点1]について
本件発明1の第3のステップにおいて所定時間間隔で発行される演算開始命令は、各チャンネル毎の波形データの複数サンプルをまとめて生成する演算を開始する命令である。
これに対して、甲第1号証発明は、このような命令を発行するステップを有しない。
請求人は、この点に関して、次の主張をしている。
「甲第1号証には、「第5図は発音処理動作である。この動作はCPU10が一定時間毎に繰り返し実行する。」との記載がある。」、
「第5図において、n24がMIDIイベントがノートオンであるため、n30からn31を経て、n35で発音系統に対して各パラメータを与え発音する処理が行われる。次に、発音チャンネルの番号を1つインクリメントし(n27)、他の演奏情報が存在するとき(MIDIイベントが存在する場合)には、当該他の指定された楽音についての発音チャンネルの割り当てをした後同様に当該他の発音チャンネルにおいてn35で発音系統に対して各パラメータを与え発音する処理が行われる。他の発音チャンネルにおける演奏情報による指定された楽音の発生を要しなくなるまでこれを繰り返す。
このような発音動作が、一定時間毎に繰り返されるものである。」、
「本件発明の第3のステップの「演算開始命令」に相当するものは、甲第1号証の第5図の発音処理を命じる命令である。」

しかしながら、請求人の主張する、甲第1号証第5図の発音処理を命じる命令は、CPUが一定時間毎に繰り返し実行するものではあるが、本件発明1のような各チャンネル毎の波形データの複数サンプルをまとめて生成する演算を開始する命令ではなく、MIDIチャンネル(「発音チャンネル」とは異なる)の情報を取り込み、MIDIイベントがあるか否かを判定し、ノートオンイベントがあれば空き系統に対し割り当てて発音を行うという動作を、全MIDIチャンネルに対して順次インクリメントしながら行うためのものである。甲第1号証発明において、波形サンプルの生成は、空き系統に対し発音が割り当てられるたびに音源回路16によって行われる(第5図では、n35が対応する)のであって、第5図の発音処理を命じる命令によって行われるのではない。
したがって、甲第1号証の第5図の発音処理を命じる命令は、本件発明の第3のステップの「演算開始命令」に相当するものではないから、請求人の上記主張は採用できるものではない。
また、本件発明1における「所定時間間隔で演算開始命令を発行する第3のステップ」を具備し、「各演算開始命令に応じて、各チャンネル毎の波形データの複数サンプルをまとめて算術的に生成するように前記各チャンネルで音生成演算を実行する」ことは、その他の甲第2号証ないし甲第7号証にも記載されておらず周知技術でもないから、甲第1号証発明において、そのような構成とすることが当業種が容易に想到し得たとすることはできない。

[相違点2]について
請求人は、本件発明1における「複数サンプルをまとめて」生成することについて、要するに、次のように主張している。
a.甲第1号証発明は、複数サンプルをまとめて生成するものではなく、この点で本件発明1と相違する。
b.コンピュータの情報処理技術に関する技術分野において、「時分割マルチタスク」、すなわち、複数のタスクを時分割処理でリアルタイム処理し、その各タスクがタスク群を構成するようにし、当該タスク群を連続して実行する(他のタスク群を実行せずに)ことは、甲第2号証ないし甲第6号証に記載されているように周知慣用技術である。
c.甲第7号証は、DAT等の記録再生装置において、フレーム単位で記録されたPCMデータの再生時にフェードイン、フェードアウトを行う際に、数フレーム分のPCMデータをまとめて演算生成していることを開示している。
d.本件発明1の技術分野はコンピュータの情報処理技術に関するものであり、甲第1号証発明に、甲第2号証ないし甲第6号証に記載されているような、コンピュータの情報処理技術に関する技術分野の周知慣用技術を適用することにより、本件発明1は、当業者が容易に発明をすることができたものである。

しかしながら、甲第1号証発明は、波形データのサンプルの生成演算を、音源回路16の4個の音源チップで行うものであって、これらの音源チップはCPU10から演奏情報を受信してそれにより波形メモリ17をアクセスし波形データを受信する。これらの音源チップでの波形データのサンプルの演算が具体的にどのように行われるかについて、すなわち、例えば、CPUが複数のタスクを実行することによりサンプルの生成を行うことなどについては、甲第1号証には全く記載されていない。むしろ、甲第1号証の音源チップは、ハードウェア構成により波形データを生成していると考えるのが自然である。
したがって、仮に、請求人の主張するように、複数のタスクを時分割処理でリアルタイム処理し、その各タスクがタスク群を構成するようにし、当該タスク群を連続して実行する(他のタスク群を実行せずに)ことが、甲第2号証ないし甲第6号証に記載されているように周知慣用技術であったとしても、タスクの実行によりサンプルの生成を行うものではない甲第1号証発明には、上記周知慣用技術を組み合わせることは全く想定できないから、請求人の上記の主張は当を得ないものである。

なお、甲第7号証について、請求人は、フレーム単位で記録されたPCMデータの再生時にフェードイン、フェードアウトを行う際に、数フレーム分のPCMデータをまとめて演算生成していることを開示していると主張している。しかしながら、甲第7号証は、テープ上に記録されたPCMデータに対してフェードインなどを行うタイミングを指定するフラグをフレーム単位で記録しておき、該フラグに基づいて乗算する係数を算出し、再生されているPCMデータに対して乗算器により前記係数を乗算する技術は開示するが、フレーム単位で記録されたPCMデータの再生時にフェードイン、フェードアウトを行う際に、数フレーム分のPCMデータをまとめて演算生成していることは開示されていない。

そうすると、甲第1号証発明において、「複数サンプルをまとめて」生成すること、さらに、「この音生成演算は、生成すべき該複数サンプル分のサンプリング周期を合計した時間よりも短い時間内で行われる」ことが当業者が容易に想到し得たとすることはできない。

結局、請求人の提出した甲第1号証ないし甲第7号証の何れにも、上記[相違点1]に関する『本件発明1における「所定時間間隔で演算開始命令を発行する第3のステップ」を具備し、「各演算開始命令に応じて、各チャンネル毎の波形データの複数サンプルをまとめて算術的に生成するように前記各チャンネルで音生成演算を実行する」こと』、及び、上記[相違点2]に関する『本件発明1における「複数サンプルをまとめて」生成すること、さらに、「この音生成演算は、生成すべき該複数サンプル分のサンプリング周期を合計した時間よりも短い時間内で行われる」こと』は記載されていないし、周知技術でもない。

4.無効理由3に対する判断のまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1が、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。
また、本件請求項7に係る発明は、請求項1に係る発明と同様の「第3のステップ」、「第4のステップ」備え、甲第1号証発明との相違点も同様であるから、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとすることはできない。

第7.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件請求項1及び請求項7に記載された発明に係る特許は、無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審決日 2011-08-09 
出願番号 特願平7-299185
審決分類 P 1 123・ 561- Y (G10H)
P 1 123・ 121- Y (G10H)
P 1 123・ 537- Y (G10H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 益戸 宏  
特許庁審判長 加藤 恵一
特許庁審判官 千葉 輝久
古川 哲也
登録日 1999-11-19 
登録番号 特許第3003559号(P3003559)
発明の名称 楽音生成方法  
代理人 遠山 光貴  
代理人 西山 彩乃  
代理人 森 修一郎  
代理人 田中 成志  
代理人 船橋 茂紀  
代理人 山田 徹  
代理人 大友 良浩  
代理人 内藤 義三  
代理人 大場 弘行  
代理人 飯田 秀郷  
代理人 辻本 恵太  
代理人 大橋 厚志  
代理人 飯塚 義仁  
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