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審決分類 審判 判定 判示事項別分類コード:なし 属さない(申立て不成立) B01D
管理番号 1298223
判定請求番号 判定2015-600002  
総通号数 184 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許判定公報 
発行日 2015-04-24 
種別 判定 
判定請求日 2014-12-26 
確定日 2015-03-05 
事件の表示 上記当事者の特許第5031866号の判定請求事件について、次のとおり判定する。 
結論 「イ号製品の説明」に示す「ウェッジワイヤースクリーン装置」は、特許第5031866号発明の技術的範囲に属しない。 
理由 第1.請求の趣旨
本件判定の請求の趣旨は、請求書「5.請求の理由」の「(4)イ号製品の説明」に示す「イ号製品」が、特許第5031866号の請求項1に係る発明の技術的範囲に属する、との判定を求めるものである。
本件判定請求は、被請求人が存在しないものであり、その理由として、請求人は、平成27年2月12日付け上申書において、市場で販売されている製品に対して判定請求するものではない旨、主張している。
なお、請求人は、請求書5.(1)において、「市場でイ号製品が販売されている」旨主張するが、その根拠となる証拠はなく、回答書2.(2)において、「判定請求書記載のイ号に対して」判定を求める旨、述べるとともに、上申書において、上記のとおり主張している。
そこで、当審としては、請求書5.(4)の「イ号製品の説明」に記載された「イ号製品」に対し、判定する。

第2.本件特許発明
1.手続の経緯
本件出願 平成22年 5月12日
拒絶理由通知 平成24年 4月25日付け
意見書・補正書 平成24年 6月 4日
特許査定 平成24年 6月19日付け
設定登録 平成24年 7月 6日
判定請求 平成26年12月26日
審尋 平成27年 1月20日付け
回答書 平成27年 1月28日
上申書 平成27年 2月12日

2.本件特許発明
本件特許第5031866号(甲1、甲2)の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本件特許発明1」という。)は、特許請求の範囲、特許明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりである。
本件特許発明1の構成要件を分説すると以下のとおりである(以下「構成要件A」などという。)。
なお、この分説は請求人の判定請求書によるものであるが、妥当と認められるので、そのとおりとした。

「【請求項1】
A.断面形状が楔形の金属線材からなるウェッジワイヤーを多数並列して、前記ウェッジワイヤー間に所定寸法のスリットが設けられ、前記ウェッジワイヤーの全面が親水性塗料でコーティングされているウェッジワイヤースクリーン装置であって、
B.前記親水性塗料が、
B1.珪酸ナトリウム、
B2.酸化アルミニウム、
B3.酸化チタン
B4.のすべてと水を主成分とする無機質塗料であることを特徴とする
C.ウェッジワイヤースクリーン装置。」

第3.イ号製品
請求書5.(4)の「イ号製品の説明」に記載された「イ号製品」は、以下の構成を具備する。

「a.断面形状が楔形の金属線材からなるウェッジワイヤーを多数並列して、前記ウェッジワイヤー間に所定寸法のスリットが設けられ、前記ウェッジワイヤーの全面が親水性塗料でコーティングされているウェッジワイヤースクリーン装置であって、
b.前記親水性塗料が、
b1.珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、二酸化珪素、
b2.酸化アルミニウム、
b3.酸化亜鉛
b4.リン酸アルミニウム
b5.のすべてと水を主成分とする無機質塗料であることを特徴とする
c.ウェッジワイヤースクリーン装置。」

第4.当審の対比・判断
1.本件特許発明1について
イ号製品が本件特許発明1の構成要件AないしCを充足するか否かについて、構成要件Aをイ号製品の構成aに、構成要件Bを構成bに、のごとく順次対応させて、検討する。

(1)構成要件Aについて
イ号製品の「断面形状が楔形の金属線材からなるウェッジワイヤーを多数並列して、前記ウェッジワイヤー間に所定寸法のスリットが設けられ、前記ウェッジワイヤーの全面が親水性塗料でコーティングされているウェッジワイヤースクリーン装置」が、本件特許発明1の「断面形状が楔形の金属線材からなるウェッジワイヤーを多数並列して、前記ウェッジワイヤー間に所定寸法のスリットが設けられ、前記ウェッジワイヤーの全面が親水性塗料でコーティングされているウェッジワイヤースクリーン装置」に相当することは明らかである。
そうすると、イ号製品の構成aは、本件特許発明1の構成と一致するから、構成要件Aを充足する。

(2)構成要件Bについて
イ号製品の「親水性塗料」は、本件特許発明1の「親水性塗料」に相当する。
そうすると、イ号製品の構成bは、本件特許発明1の構成と一致するから、構成要件Bを充足する。

(3)構成要件B1について
本件特許発明1の「珪酸ナトリウム」に関連して、特許明細書に以下の記載がある。

「【0006】
本発明の課題は、上記問題点を解決し、ウェッジワイヤーのスリットの目幅が、0.2mm(200μm)以下であっても、スクリーン表面を流れる原液や廃水の表面張力によってスリットが塞がれることがなく、固液分離性能を低下させることのないウェッジワイヤースクリーン装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、断面形状が楔形の金属線材からなるウェッジワイヤーを多数並列して、前記ウェッジワイヤー間に所定寸法のスリットが設けられ、前記ウェッジワイヤーの全面が親水性塗料でコーティングされているウェッジワイヤースクリーン装置であって、前記親水性塗料が、珪酸ナトリウム、酸化アルミニウム、酸化チタンのすべてと水を主成分とする無機質塗料であることを特徴とする。」

「【0010】
上記構成を有する本発明よれば、ウェッジワイヤースクリーン表面を流れる原液や廃水の液膜層が、前記ウェッジワイヤーにコーティングされている前記親水性塗料の親水作用によって剥離されるので、前記液膜層の表面張力が弱められ、前記ウェッジワイヤー間のスリットが前記液膜層によって塞がれるのを効果的に防止して、前記スリットを液体が容易に通過し分離される。したがって、前記ウェッジワイヤースクリーンのスリットの目幅が100μm?300μmの幅狭であっても、原液又は廃水の液分が前記スリットを容易に通過して分離され、従来のウェッジワイヤースクリーンでは困難とされていた固形粒子が微細な原液又は廃水の固液分離が可能となった。」

「【0016】
親水性塗料5は、珪酸ナトリウム、酸化アルミニウム、酸化チタンのすべてと水を主成分とする無機質塗料で、190℃?220℃の焼付け塗装により各ウェッジワイヤー2の全面にコーティングされていて、コーティングの被膜厚みは5μm?20μmが好適である。
【0017】
・・・。ウェッジワイヤースクリーン1の表面を流れる原液10に含まれる粒子の大きい固形物(汚物)11はウェッジワイヤースクリーン1の表面に沿って流れ落ちて排出され、原液10中の液分(水)12と微小粒子の固形物はスリットSを通過して分離排出される。このとき、ウェッジワイヤー2の表面にコーティングされている親水性塗料5の親水作用によって、ウェッジワイヤースクリーン1の表面に形成される原液10の液層膜が剥離され、剥離点13によってその表面張力が弱められる。したがって、前記液層膜の表面張力によってスリットSが塞がれるのを防止でき、原液10中の液分(水)12がスムーズにスリットSを通過して分離される。」

すなわち、本件特許発明1は、ウェッジワイヤーの全面に「珪酸ナトリウム、酸化アルミニウム、酸化チタンのすべてと水を主成分とする無機質塗料」である親水性塗料をコーティングし、親水性塗料の親水作用によって、ウェッジワイヤー間のスリットが塞がれるのを防止するものである。
「珪酸ナトリウム」は、「無機質塗料」に含まれているものの、その機能、技術的意義については、特許明細書に記載されていない。

イ号製品の「珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、二酸化珪素」は、「無機質塗料」に含まれているものの、それぞれの配合比が明らかでなく、主たる成分も不明である。さらに、「珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、二酸化珪素」の機能、技術的意義も明らかでない。

請求人は、本件特許発明1の「珪酸ナトリウム」とイ号製品の「珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、二酸化珪素」とは、ともに形成される皮膜は「二酸化珪素のキケロゲル」であり、実質的に差違はない旨、主張するが、具体的根拠を欠き、採用できない。

そうすると、イ号製品の構成b1は、本件特許発明1の構成と一致するとは言えず、構成要件B1を充足しない。

(4)構成要件B2について
イ号製品の「酸化アルミニウム」は、本件特許発明1の「酸化アルミニウム」に相当する。
そうすると、イ号製品の構成b2は、本件特許発明1の構成と一致するから、構成要件B2を充足する。

(5)構成要件B3について
イ号製品の「酸化亜鉛」と、本件特許発明1の「酸化チタン」とは、異なる物質であるから、均等を検討する。

均等が認められるためには、以下の全ての要件を満たす必要がある。
ア.本質的部分でない
イ.置換可能性
ウ.置換容易性
エ.自由技術の除外
オ.出願等の経緯の参酌

ア.の本質的部分かについて検討する。
本件特許発明1の「酸化チタン」は、「無機質塗料」に含まれるものであるが、上記(3)で「珪酸ナトリウム」について検討したことと同様に、「酸化チタン」の機能、技術的意義については、特許明細書に記載されていない。
請求人は、本件特許発明1の本質的部分は、珪酸ナトリウムの成分によって形成される二酸化珪素のキケロゲルのコーティングである旨、主張するが、特許明細書の裏付け等、具体的根拠を欠き、採用できない。
そのため、本件特許発明1の「酸化チタン」は、本件特許発明1で特定するとおり、「酸化チタン」であると解さざるを得ず、本質的部分でないとすることはできない。

イ.の置換可能性、ウ.の置換容易性について検討する。
本件特許発明1の「酸化チタン」の機能、技術的意義については、特許明細書に記載されていない。
イ号製品の「酸化亜鉛」の機能、技術的意義についても明らかでない。
請求人は、甲第3ないし5号証をもとに、本件特許発明1の「酸化チタン」、イ号製品の「酸化亜鉛」は、ともに「光触媒」として知られ、使用後のウェッジワイヤスクリーン装置を洗浄して天日乾燥させるような場合には同様の作用効果を発揮するから、置換可能性、置換容易性がある旨、主張する。
しかし、本件特許発明1の「酸化チタン」、イ号製品の「酸化亜鉛」が、ともに「光触媒」としての機能、技術的意義を有するものか否か、本件特許発明1、イ号製品の「ウェッジワイヤスクリーン装置」が使用後に洗浄して天日乾燥させるのか否かは、明らかでなく、請求人の主張は、採用できない。
そのため、本件特許発明1の「酸化チタン」は、本件特許発明1で特定するとおり、「酸化チタン」であると解さざるを得ず、置換可能性、置換容易性を満たすとすることはできない。

オ.の出願等の経緯の参酌について検討する。
本件出願時の特許請求の範囲は、以下のとおりである。
「【請求項1】
断面形状が楔形の金属線材からなるウェッジワイヤーを多数並列して、前記ウェッジワイヤー間に所定寸法のスリットが設けられているウェッジワイヤースクリーン装置であって、
前記ウェッジワイヤーの表面が親水性塗料でコーティングされていることを特徴とするウェッジワイヤースクリーン装置。
【請求項2】
前記親水性塗料が、珪酸ナトリウム、酸化アルミ、酸化チタンと水を主成分とする無機質塗料である請求項1記載のウェッジワイヤースクリーン装置。
・・・」

審査官が通知した拒絶理由における本件出願時の請求項2についての指摘は、以下のとおりである。
「そして、請求項2に記載の「前記親水性塗料が、珪酸ナトリウム、酸化アルミ、酸化チタンと水を主成分とする無機質塗料である」については、「親水性塗料」の成分として、「珪酸ナトリウム、酸化アルミ、酸化チタン」のすべてが含まれているのか、少なくとも1つが含まれているのか、当該記載からでは判然としないので、「前記親水性塗料が、珪酸ナトリウムおよび酸化アルミおよび酸化チタンと水を主成分とする無機質塗料である」や「前記親水性塗料が、珪酸ナトリウム、酸化アルミ、酸化チタンのすべてと水を主成分とする無機質塗料である」、または「前記親水性塗料が、珪酸ナトリウム、酸化アルミ、酸化チタンの少なくとも1つと水を主成分とする無機質塗料である」といって記載を用いて補正されたい。
・・・
<拒絶の理由を発見しない請求項>
請求項2に係る発明については、現時点では、拒絶の理由を発見しない。拒絶の理由が新たに発見された場合には拒絶の理由が通知される。」

請求人は、かかる拒絶理由に対し、拒絶の理由を発見しないとされた請求項2に係る発明に補正するとともに、「親水性塗料」の成分は「すべて」なのか「少なくとも1つ」なのか明確にすべき旨の示唆を受け、補正の際に「すべて」を選択した。
その結果、特許査定がされた。

かかる出願等の経緯によれば、請求人は、「親水性塗料」の成分として「酸化チタン」を含む「すべて」を選択したのであるから、「酸化チタン」を含まなくとも良いとすることはできない。
請求人は、「少なくとも1つ」であっても、審査官は特許性があると判断したのであるから、出願等の経緯に照らし問題ない旨、主張する。
しかし、特許性の判断と、出願等の経緯とは、別問題であって、請求人は、自らの意思で、「酸化チタン」を含む「すべて」を選択したのである。
請求人の主張は、採用できない。

以上、本件は、均等が認められるための要件のうち、ア、イ、ウ、オを満たさないから、エについて判断するまでもなく、イ号製品の「酸化亜鉛」と、本件特許発明1の「酸化チタン」とを、均等とすることはできない。
そうすると、イ号製品の構成b3は、本件特許発明1の構成と一致するとも、均等であるとも言えず、構成要件B3を充足しない。

(6)構成要件B4について
イ号製品の「すべてと水を主成分とする無機質塗料であること」は本件特許発明1の「すべてと水を主成分とする無機質塗料であること」に相当する。
そうすると、イ号製品の構成b5は、本件特許発明1の構成と一致するから、構成要件B4を充足する。

(7)構成要件Cについて
イ号製品の「ウェッジワイヤースクリーン装置」は、本件特許発明1の「ウェッジワイヤースクリーン装置」に相当する。
そうすると、イ号製品の構成cは、本件特許発明1の構成と一致するから、構成要件Cを充足する。

(8)イ号製品の構成b4について
イ号製品の「無機質塗料」は、リン酸アルミニウムを含んでおり、本件特許発明1には対応する構成がない。
一般に、組成物は化学物質を追加することで、化学反応を起こし、変質する可能性がある。
イ号製品が、本件特許発明1の技術的範囲に属するとするためには、イ号製品がリン酸アルミニウムを含むとしても、他の化学物質に影響がない必要がある。
しかし、この点は明らかでない。

(9)まとめ
イ号製品の構成a、b、b2、b5、cは、いずれも本件特許発明の構成要件A、B、B2、B4、Cを充足する。
イ号製品の構成b1、b3は、本件特許発明の構成要件B1、B3を充足しない。
また、イ号製品の構成b4による影響が明らかでない。

第6.むすび
以上によれば、イ号製品は、本件特許発明1の技術的範囲に属しない。
よって、結論のとおり判定する。
 
判定日 2015-02-25 
出願番号 特願2010-110029(P2010-110029)
審決分類 P 1 2・ - ZB (B01D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 増田 健司  
特許庁審判長 渡邊 豊英
特許庁審判官 千葉 成就
栗林 敏彦
登録日 2012-07-06 
登録番号 特許第5031866号(P5031866)
発明の名称 ウェッジワイヤースクリーン装置  
代理人 特許業務法人あーく特許事務所  

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