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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) A61B |
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管理番号 | 1298586 |
審判番号 | 不服2013-10523 |
総通号数 | 185 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-05-29 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2013-06-05 |
確定日 | 2015-03-11 |
事件の表示 | 特願2009-525148「哺乳類の身体に関する情報を取得する方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 2月28日国際公開,WO2008/023314,平成22年 1月21日国内公表,特表2010-501240〕について,次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は,成り立たない。 |
理由 |
第1 手続の経緯 本願は,平成19年8月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 平成18年8月22日,欧州特許庁)を国際出願日とする出願であって,平成24年7月4日付けで拒絶理由が通知され,平成25年1月9日付けで意見書及び手続補正書が提出され,同年2月1日付けで拒絶査定されたのに対し,同年6月5日に拒絶査定不服の審判請求がなされるとともに,それと同時に手続補正書が提出され,そして,当審において平成26年6月26日付けで拒絶理由を通知し,これに対し,同年9月2日付けで意見書及び手続補正書が請求人より提出されたものである。 第2 本願発明 本願の請求項1?20に係る発明は,平成26年9月2日付け手続補正書で補正された特許請求の範囲の請求項1?20に記載された事項により特定されたとおりのものであり,その請求項1に係る発明は,次のとおりである。 「【請求項1】 (i)哺乳類の身体の選択位置の温度T_(1)を測定するための周波数ν_(1)で動作する無線周波数監視コイルを有する磁気共鳴撮像装置であり、ν_(1)は^(1)H核のラーモア周波数であって120MHzと130MHzとの間に含まれる、磁気共鳴撮像装置、 (ii)少なくとも2つのチャネルを有する無線周波数集束コイルであり、前記哺乳類の身体の前記選択位置に集束されたエネルギーを届け、前記選択位置の温度T_(1)を上昇させるため、前記無線周波数監視コイルの動作周波数ν_(1)から少なくとも50kHz、最大で25000kHz離れた周波数ν_(2)で動作する無線周波数集束コイル、及び (iii)前記哺乳類の身体の平常温度T_(b)より高い所定の温度T_(p)を達成して維持するよう、前記無線周波数集束コイルによって届けられる前記エネルギーを前記温度T_(1)の関数として変調する手段、 を有し、 前記無線周波数集束コイルは、前記少なくとも2つのチャネルの各々に関して、前記選択位置にエネルギーを供給する無線周波数放射手段と、位置に依存する位相情報及び位置に依存する振幅情報を含んだ磁気共鳴信号を受信する無線周波数受信手段とを有する、 無線周波数ユニット。」(以下,「本願発明」という。) 第3 当審の拒絶理由 当審において平成26年6月26日付けで通知した拒絶理由の概要は,「本願の請求項1?20の記載は,特許法36条第6項第2号及び特許法36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず,本願の請求項1?20に対する発明の詳細な説明の記載は,特許法36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず,そして,本願請求項1?20に係る発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないことから,本願は拒絶されるべきものである。」というものであり,特に,その請求項1に係る発明(上記本願発明の補正前の発明)について,本願の優先日前に頒布された特表2004-530518号公報(以下,「引用例1」という。)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないというものである。 第4 引用例1の記載事項 (1)引用例1には,次の事項が記載されている。なお,下線は引用発明の認定に使用した箇所に当審が付与したものである。 (1-ア)【特許請求の範囲】 「【請求項1】 基本磁場磁石(23)と、傾斜磁場コイル(24)と、高周波送信・受信ユニット(25)と、磁気共鳴測定を実施するために傾斜磁場コイル(24)および高周波送信・受信ユニット(25)を制御する制御ユニット(26)とを備えた磁気共鳴装置において、 高周波送信・受信ユニット(25)は検査空間(27)の周りにアレイ状に配置された複数のアンテナ(1)を有し、各アンテナ(1)には専用の送信チャネル(2)および専用の受信チャネル(3)が存在し、 制御ユニット(26)は、制御ユニット(26)が各アンテナ(1)ごとにアンテナ(1)によって受信された磁気共鳴信号の振幅および位相を求め、ハイパーサーミア治療のために検査空間(27)内に集束された高周波電磁場を発生させるために、予め定め得る位相および振幅の高周波放射の放出のためにアンテナ(1)を互いに独立に制御することができるように構成されていることを特徴とする磁気共鳴装置。 【請求項2】 各送信チャネル(2)は電力増幅器(9)および変調器(7)を有することを特徴とする請求項1記載の磁気共鳴装置。」 「【請求項4】 制御ユニット(26)は、集束された高周波電磁場を当てられた身体範囲(16)の温度を求めるための磁気共鳴測定を行なうための高周波送信ユニット(25)および傾斜磁場コイル(24)を制御するために、制御ユニット(26)がハイパーサーミア治療中に集束された高周波電磁場の発生を予め定め得る時点で短時間だけ中断するように構成されていることを特徴とする請求項1乃至3の1つに記載の磁気共鳴装置。」 (1-イ)「【0006】 ハイパーサーミア治療中における組織温度の検出のための改善された技術によれば、磁気共鳴測定の使用も考慮される。この場合に行なわれた試みでは、ハイパーサーミア治療と同時に進行する磁気共鳴検査を介して温度が測定される。このためにハイパーサーミア・アプリケータが磁気共鳴装置の検査空間へ挿入され、加熱と同時に磁気共鳴測定が行なわれる。関心身体範囲から得られた磁気共鳴信号のT1-T2シフトから組織の温度を導き出すことができる。 【0007】 しかしながら、温度測定のためのこの新しい試みを適用する場合の問題点は、温度測定の精度である。この精度は今日ではほとんど十分ではない。なぜならば、磁気共鳴装置の送信・受信ユニットと患者との間にハイパーサーミア・アプリケータが配置されているので、磁気共鳴エコーの受信信号が非常に弱くしか磁気共鳴装置の高周波送信・受信ユニットによって受信されないからである。さらに、磁気共鳴信号はハイパーサーミア・アプリケータと患者との間に配置された水クッションによって弱められる。この種の温度測定の精度不足の他の原因は磁気共鳴装置の高周波の送信周波数の選択にある。この磁気共鳴周波数は、磁気共鳴システムとハイパーサーミアシステムとの結合を粗にして両システムの障害となる相互影響を避けるために、ハイパーサーミア・アプリケータの高周波数に対して十分な間隔を維持しなければならない。」 (1-ウ)「【0017】 本磁気共鳴装置は十分高い磁気共鳴周波数の発生のために構成され、この磁気共鳴周波数は基本磁場磁石の磁場強さにおいて高周波電磁場の一義的な集束を可能にする。他方では、基本磁場磁石の磁場強さは、付属の磁気共鳴周波数においてなおも被検査組織における温度の一義的な表示が達成されるように選ばれる。基本磁場磁石の磁場強さについては、例えば3Tの磁場強さが適しているので、123.2MHzの磁気共鳴周波数が発生させられなければならない。」 (1-エ)「【0032】 加熱シーケンスが短時間中断される時間インターバルにおいて、関心身体範囲における組織の温度が磁気共鳴測定の結果から導き出される。」 (1-オ)「【0034】 この場合に、磁気共鳴測定が行なわれる周波数は、少なくともほぼ、ハイパーサーミア治療が行なわれる周波数に相当する。これは、個々の各共鳴棒が制御されなければならない位相および振幅を正しく決定することを可能にする。」 してみれば,上記引用例1の記載事項を総合すると,引用例1には,以下の発明が記載されていると認められる。 「基本磁場磁石と,傾斜磁場コイルと,高周波送信・受信ユニットと,磁気共鳴測定を実施するために傾斜磁場コイルおよび高周波送信・受信ユニットを制御する制御ユニットとを備えた磁気共鳴装置において, 高周波送信・受信ユニットは検査空間の周りにアレイ状に配置された複数のアンテナを有し,各アンテナには専用の送信チャネルおよび専用の受信チャネルが存在し, 制御ユニットは,制御ユニットが各アンテナごとにアンテナによって受信された磁気共鳴信号の振幅および位相を求め,ハイパーサーミア治療のために検査空間内に集束された高周波電磁場を発生させるために,予め定め得る位相および振幅の高周波放射の放出のためにアンテナを互いに独立に制御することができるように構成されている磁気共鳴装置であって, 各送信チャネルは電力増幅器および変調器を有し, 制御ユニットは,集束された高周波電磁場を当てられた身体範囲の温度を求めるための磁気共鳴測定を行なうための高周波送信ユニットおよび傾斜磁場コイルを制御するために,制御ユニットがハイパーサーミア治療中に集束された高周波電磁場の発生を予め定め得る時点で短時間だけ中断するように構成されており, 3Tの磁場強さのもと123.2MHzの磁気共鳴周波数が発生させられる,磁気共鳴装置。」(以下「引用発明」という。) 第5 対比 本願発明と引用発明とを対比すると,以下のとおりである。 (1)引用発明の「3Tの磁場強さのもと」「発生する」「123.2MHzの磁気共鳴周波数」は^(1)H核のラーモア周波数(本願発明における「ν_(1)」)に他ならず,引用発明の「アンテナ」と本願発明の「無線周波数コイル」とは無線周波数送受信素子の点で共通し,引用発明の「集束された高周波電磁場を当てられた身体範囲の温度を求める」ことは本願発明の「哺乳類の身体の選択位置の温度T_(1)を測定する」ことに相当する。 してみれば,引用発明の「基本磁場磁石と,傾斜磁場コイルと,高周波送信・受信ユニットと,磁気共鳴測定を実施するために傾斜磁場コイルおよび高周波送信・受信ユニットを制御する制御ユニットとを備えた磁気共鳴装置において,高周波送信・受信ユニットは検査空間の周りにアレイ状に配置された複数のアンテナを有し,各アンテナには専用の送信チャネルおよび専用の受信チャネルが存在し」「制御ユニットは、集束された高周波電磁場を当てられた身体範囲の温度を求めるための磁気共鳴測定を行なうための高周波送信ユニットおよび傾斜磁場コイルを制御する」「3Tの磁場強さのもと123.2MHzの磁気共鳴周波数が発生させられる,磁気共鳴装置」と,本願発明の「(i)哺乳類の身体の選択位置の温度T_(1)を測定するための周波数ν_(1)で動作する無線周波数監視コイルを有する磁気共鳴撮像装置であり、ν_(1)は^(1)H核のラーモア周波数であって120MHzと130MHzとの間に含まれる、磁気共鳴撮像装置」とは,「哺乳類の身体の選択位置の温度T_(1)を測定するための周波数ν_(1)で動作する無線周波数送受信素子を有する磁気共鳴撮像装置であり,ν_(1)は^(1)H核のラーモア周波数であって120MHzと130MHzとの間に含まれる,磁気共鳴撮像装置」の点で共通する。 (2)引用発明の「ハイパーサーミア治療のために検査空間内に集束された高周波電磁場を発生させる」ことは,本願発明の「前記選択位置の温度T_(1)を上昇させるため」「前記哺乳類の身体の前記選択位置に集束されたエネルギーを届け」ることに相当し,その際の引用発明の動作周波数を「ν_(2)」と表記できるものである。また,上記(1)で指摘したとおり,引用発明の「アンテナ」と本願発明の「無線周波数コイル」とは無線周波数送受信素子の点で共通し,引用発明の「アンテナ」は複数あることから,「少なくとも2つのチャネルを有する無線周波数送受信素子」といえる。そして,引用発明の「制御ユニットが各アンテナごとにアンテナによって受信された磁気共鳴信号の振幅および位相を求め」ることは,本願発明の「位置に依存する位相情報及び位置に依存する振幅情報を含んだ磁気共鳴信号を受信する無線周波数受信手段」を有することに,引用発明の「アンテナを互いに独立に制御」し「予め定め得る位相および振幅の高周波放射の放出」することは,本願発明の「選択位置にエネルギーを供給する無線周波数放射手段」を有することに相当する。 してみれば,引用発明の「高周波送信・受信ユニットは検査空間の周りにアレイ状に配置された複数のアンテナを有し,各アンテナには専用の送信チャネルおよび専用の受信チャネルが存在し,制御ユニットは,制御ユニットが各アンテナごとにアンテナによって受信された磁気共鳴信号の振幅および位相を求め,ハイパーサーミア治療のために検査空間内に集束された高周波電磁場を発生させるために,予め定め得る位相および振幅の高周波放射の放出のためにアンテナを互いに独立に制御することができるように構成されている」ことと,本願発明の「(ii)少なくとも2つのチャネルを有する無線周波数集束コイルであり、前記哺乳類の身体の前記選択位置に集束されたエネルギーを届け、前記選択位置の温度T_(1)を上昇させるため、前記無線周波数監視コイルの動作周波数ν_(1)から少なくとも50kHz、最大で25000kHz離れた周波数ν_(2)で動作する無線周波数集束コイル」を有し「前記無線周波数集束コイルは、前記少なくとも2つのチャネルの各々に関して、前記選択位置にエネルギーを供給する無線周波数放射手段と、位置に依存する位相情報及び位置に依存する振幅情報を含んだ磁気共鳴信号を受信する無線周波数受信手段とを有する」こととは,「少なくとも2つのチャネルを有する無線周波数送受信素子であり,前記哺乳類の身体の前記選択位置に集束されたエネルギーを届け,前記選択位置の温度T_(1)を上昇させるため,周波数ν_(2)で動作する無線周波数送受信素子」を有し「前記無線周波数送受信素子は,前記少なくとも2つのチャネルの各々に関して,前記選択位置にエネルギーを供給する無線周波数放射手段と,位置に依存する位相情報及び位置に依存する振幅情報を含んだ磁気共鳴信号を受信する無線周波数受信手段とを有する」点で共通する。 (3)引用発明の「各送信チャネル」は,「ハイパーサーミア治療のために検査空間内に集束された高周波電磁場を発生させる」ためのものでもあるから,本願発明のように「哺乳類の身体の平常温度T_(b)より高い所定の温度T_(p)を達成して維持するよう」「前記エネルギー」が「前記無線周波数送受信素子によって届けられる」ようになっているものであり,その際,エネルギーの供給がハイパーサーミア治療箇所の測定温度の関数として表現される(治療箇所の温度が,達成しようとする温度に向けて加熱中の場合は,治療箇所の加熱ができる程度のエネルギーとなり,達成しようとする温度に到達した場合には,その温度を維持する程度のエネルギーとなる)ことは自明のことである。 してみれば,引用発明の「各送信チャネル」が「有し」ている「変調器」と,本願発明の「(iii)前記哺乳類の身体の平常温度T_(b)より高い所定の温度T_(p)を達成して維持するよう、前記無線周波数集束コイルによって届けられる前記エネルギーを前記温度T_(1)の関数として変調する手段」とは,「前記哺乳類の身体の平常温度T_(b)より高い所定の温度T_(p)を達成して維持するよう,前記無線周波数送受信素子によって届けられる前記エネルギーを前記温度T_(1)の関数として変調する手段」である点で共通する。 (4)引用発明の「磁気共鳴装置」は,上記(1)?(3)の検討に鑑みて,本願発明1の「無線周波数ユニット」に相当するものである。 してみれば,本願発明と引用発明とは, (一致点) 「(i)哺乳類の身体の選択位置の温度T_(1)を測定するための周波数ν_(1)で動作する無線周波数送受信素子を有する磁気共鳴撮像装置であり,ν_(1)は^(1)H核のラーモア周波数であって120MHzと130MHzとの間に含まれる,磁気共鳴撮像装置, (ii)少なくとも2つのチャネルを有する無線周波数送受信素子であり,前記哺乳類の身体の前記選択位置に集束されたエネルギーを届け,前記選択位置の温度T_(1)を上昇させるため,周波数ν_(2)で動作する無線周波数送受信素子,及び (iii)前記哺乳類の身体の平常温度T_(b)より高い所定の温度T_(p)を達成して維持するよう,前記無線周波数送受信素子によって届けられる前記エネルギーを前記温度T_(1)の関数として変調する手段, を有し, 前記無線周波数送受信素子は,前記少なくとも2つのチャネルの各々に関して,前記選択位置にエネルギーを供給する無線周波数放射手段と,位置に依存する位相情報及び位置に依存する振幅情報を含んだ磁気共鳴信号を受信する無線周波数受信手段とを有する, 無線周波数ユニット。」 の点で一致し,以下の点で相違する。 (相違点) 無線周波数送受信素子について,本願発明では,選択位置の温度を測定するためのものと選択位置にエネルギーを届けるものとに分け,前者を「無線周波数監視コイル」,後者を「無線周波数集束コイル」とし,後者の周波数ν_(2)を前者の周波数ν_(1)から「少なくとも50kHz、最大で25000kHz離れた」ものとしているのに対し, 引用発明では,無線周波数送受信素子を「コイル」の形態として,選択位置の温度を測定するためのものと選択位置にエネルギーを届けるものとに分けておらず,さらに,選択位置の温度を測定するためのものと選択位置にエネルギーを届けるものに用いるそれぞれの周波数ν_(2),ν_(1)についてν_(2)をν_(1)から「少なくとも50kHz、最大で25000kHz離れた」ものとは特定されていない点。 第6 当審の判断 (1)相違点について 引用発明は「制御ユニットがハイパーサーミア治療中に集束された高周波電磁場の発生を予め定め得る時点で短時間だけ中断するように構成されて」いるものであり,そのため摘記(1-エ)記載のように「加熱シーケンスが短時間中断される時間インターバルにおいて、関心身体範囲における組織の温度が磁気共鳴測定の結果から導き出される。」ものである。一方,ハイパーサーミア治療とは治療対象の組織を所要の温度に加熱維持するもので,治療中の対象組織の温度は常に把握されていることが望ましいものであり,摘記(1-イ)に「ハイパーサーミア治療中における組織温度の検出のための改善された技術によれば、磁気共鳴測定の使用も考慮される。この場合に行なわれた試みでは、ハイパーサーミア治療と同時に進行する磁気共鳴検査を介して温度が測定される。このためにハイパーサーミア・アプリケータが磁気共鳴装置の検査空間へ挿入され、加熱と同時に磁気共鳴測定が行なわれる。」(下線は当審で付与した)と記載されているように,治療対象組織の加熱と温度測定を同時に行う要求があることは本出願前周知のことである。 引用発明は,温度測定とハイパーサーミア治療とを同時に行う場合の弊害の解決を目的として,温度測定をハイパーサーミア治療の中断時に行うこととしたものであるところ,上記のとおりハイパーサーミア治療中の温度測定を行うことについて記載されていることからみて,引用例1の記載に接した当業者は,引用発明の課題の解決を重視する場合には,同時の測定を行わない手法を採用し,ハイパーサーミア治療と同時に温度測定を行うリアルタイム性を重視する場合には,摘記(1-イ)に記載されている手法を採用すればよいことを理解するものというべきである。 してみると,引用発明において,ハイパーサーミア治療と同時に温度測定を行うリアルタイム性を重視して,摘記(1-イ)に記載されているように,選択位置の温度を測定することと選択位置にエネルギーを届けることとを別々の「無線周波数送受信素子」で行えば,選択位置の加熱と温度測定を同時に行えるものであり,アンテナにはコイル形態のものも含まれることを考慮すると,引用発明の「アンテナ」を,本願発明のように温度を測定するための「無線周波数監視コイル」とエネルギーを供給するものと「無線周波数集束コイル」に分けることは当業者が容易になし得たことといえる。その際,摘記(1-イ)に記載されている「磁気共鳴周波数は、磁気共鳴システムとハイパーサーミアシステムとの結合を粗にして両システムの障害となる相互影響を避けるために、ハイパーサーミア・アプリケータの高周波数に対して十分な間隔を維持しなければならない」ことに鑑みて両者の周波数をある程度離すように,また,摘記(1-オ)の記載に鑑みて両者の周波数を離しすぎないようにするために,両者の周波数についてν_(2)をν_(1)から「少なくとも50kHz、最大で25000kHz離れた」ものに設定することは,当業者にとって格別の困難性はない。そして,本願発明の効果は,引用例1の記載されている事項から当業者が予期し得る範囲内のものであって格別なものとはいえない。 (2)請求人の主張について 請求人は,平成26年6月26日付けの当審の引用例1に記載された発明に基づく特許法29条2項違反の拒絶理由に対して,同年9月2日付け意見書で, 「すなわち、引用例1は、MR温度測定とRF加熱とに共通の高周波送信・受信ユニットを使用して、加熱シーケンスを中断してMR温度測定を行うようすること(以下、“相違点1”)を、その特徴として教示しています。さらに、引用例1は、MR温度測定の周波数とRF加熱の周波数について特定していないのではなく、それらの間に十分な間隔を維持しなければならないことを問題として、それらを少なくともほぼ相当させること(以下、“相違点2”)を、その特徴として教示しています。 引用例1に記載された発明において、上記相違点1、2に係る構成を変更するとすれば、それは引用例1に記載された発明の目的に反する方向に変更することになります。引用例1の教示を受けた当業者が、それ自体の教示に反して、上記相違点1、2に係る構成を変更することはありません。」と主張している。 当該主張は,引用例1の上記摘記(1-イ)の記載は,上記引用発明に対しての背景技術を説明した箇所に相当しており,引用発明がこのような背景技術の課題を解決するために発明されたものであるから,引用発明を背景技術のようにすることは目的に反する方向に変更することである旨の主張といえるが,引用例1に接した当業者が引用発明を変更するに当たり,その変更する技術が背景技術として記載されているからといって,その技術を引用発明に取り入れることはできないとはいえない。引用発明を変更するに当たって,目的に応じて背景技術は変更の一つの選択肢として考慮されるものであり,治療対象組織の選択位置の加熱と温度測定を同時に行うという要求があれば,その要求を既に満たしている背景技術を参酌して,引用発明を変更してみようとすることに何ら困難性はないことであり,「発明の目的に反する方向に変更する」ほどの阻害要因はないものといえる。 (3)まとめ したがって,本願発明は,引用発明及び引用例1に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものである。 第7 むすび 以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第2項の規定により,特許を受けることができないから,その余の請求項に係る発明について言及するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-10-07 |
結審通知日 | 2014-10-14 |
審決日 | 2014-10-30 |
出願番号 | 特願2009-525148(P2009-525148) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
WZ
(A61B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 竹内 あや乃、伊藤 幸仙 |
特許庁審判長 |
尾崎 淳史 |
特許庁審判官 |
三崎 仁 渡戸 正義 |
発明の名称 | 哺乳類の身体に関する情報を取得する方法及び装置 |
代理人 | 伊東 忠彦 |
代理人 | 大貫 進介 |
代理人 | 伊東 忠重 |