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審決分類 審判 全部無効 特許請求の範囲の実質的変更  D06F
審判 全部無効 3項(134条5項)特許請求の範囲の実質的拡張  D06F
審判 全部無効 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮  D06F
審判 全部無効 2項進歩性  D06F
審判 全部無効 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  D06F
審判 全部無効 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明  D06F
管理番号 1298835
審判番号 無効2013-800227  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-12-13 
確定日 2015-03-16 
事件の表示 上記当事者間の特許第5009412号発明「物干しピンチ」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5009412号発明の特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第5009412号に係る出願は,平成22年12月16日に特許出願され,平成24年6月8日にその発明について特許の設定登録(請求項の数1)がなされたものである。

以後の本件に係る手続の概要は以下のとおりである。
1.平成25年12月13日 本件無効審判の請求
2.平成26年 3月14日 審判事件答弁書の提出
3.平成26年 3月14日 訂正請求
4.平成26年 3月19日 上申書(被請求人)の提出
5.平成26年 5月 7日 手続補正書(被請求人)の提出
6.平成26年 6月27日 審判事件弁駁書の提出
7.平成26年 7月25日 審理事項の通知
8.平成26年 8月29日 口頭審理陳述要領書(被請求人)の提出
9.平成26年 9月 9日 口頭審理陳述要領書(請求人)の提出
10. 平成26年 9月26日 口頭審理
11. 平成26年10月17日 審決の予告

第2 当事者の主張
1.請求人
請求人は,審判請求書において,「特許第5009412号の特許を無効とする。審判費用は被請求人の負担とする。との審決を求める。」ことを請求の趣旨とし,甲第1?5号証を提出して,次の無効理由を主張する。
また,審判事件弁駁書において,訂正請求による訂正は認められない旨を主張するとともに,仮に訂正請求による訂正が認められたとしても,訂正後の特許は,無効理由を解消しておらず無効であると主張する。

(1)無効理由の概要
ア 無効理由1(補正による新規事項追加違反)
訂正前の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)の特定事項のうち,「垂直時には前記凹溝部内部に収納し」は,願書に最初に添付した明細書又は図面には記載されていないから,特許法第17条の2第3項に違反してなされたものであり,特許法第123条第1項第1号に該当し,無効とすべきものである。

イ 無効理由2(発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載要件違反)
本件発明の特定事項のうち,「吊り具体の両アーム部の内側奥部を真円凹形状に形成し」,「開口部の内側部を逆円内凸形状に形成し」,「レバー及びギヤ部の構成及び作用効果」,「弾機の作用効果」及び「ハの字状に対向するレバーを,摘み部側に偏心して両アーム部の前記凹溝部の下端部に設けた支軸に各枢着して設け」の各記載は,当業者が実施できる程度の明確,且つ,十分に記載されていないから,特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号,第2号の規定に違反してなされたものであり,特許法第123条第1項第4号に該当し,無効とすべきである。

ウ 無効理由3(甲第1?3号証による進歩性喪失事由)
本件発明は,甲第1号証に記載された発明に,甲第2,3号証のものを適用することによって,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本件発明は,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,本件発明は,特許法第123条第1項第2号に該当し,無効とすべきものである。

<証拠方法>
審判請求書に添付して,次の証拠が提出されている。
甲第1号証:実願昭54-58894号(実開昭55-159090号)のマイクロフィルム
甲第2号証:特開2005-52611号公報
甲第3号証:実願平2-47468号(実開平4-7085号)のマイクロフィルム
甲第4号証:特開平2-168994号公報
甲第5号証:実願昭47-83997号(実開昭49-43233号)のマイクロフィルム

(2)訂正請求について
下記第3-1の訂正事項2,4,5及び6に係る訂正は,明瞭でない記載の釈明に該当するものではなく,また,他の要件にも該当せず,特許請求の範囲の明らかな拡張,変更であるから,特許法第134条の2第1項ただし書きの訂正要件を満たしているものはなく,当該訂正は認められない。

2.被請求人
被請求人は,訂正請求をした上で,審判事件答弁書及び口頭審理陳述要領書において,「本件審判請求は成り立たない,審判費用は審判請求人の負担とする,との審決を求める。」ことを答弁の趣旨とし,次のように反論する。

(1)訂正請求について
ア 訂正の内容
本件審判の手続において被請求人がした平成26年3月14日付けの訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)は,特許第5009412号に係る明細書及び特許請求の範囲(以下「本件特許明細書」という。)を訂正請求書に添付した訂正明細書及び特許請求の範囲とおり訂正しようとするものであり,その訂正の内容は,次のとおりである(下線は訂正箇所。) 。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に
「これにつづく開口部の内側部」とあるのを,
「この内側奥部につづく開口部の内側部」
と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1に
「外側上部に壁部を残して深い凹溝部」とあるのを,
「外側上部に壁部を残して凹溝部」
と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1に
「弾機を介して」とあるのを,
「前記支軸と凹溝部間弾機を介して」
と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1に
「垂直ないし水平に開閉作動」とあるのを,
「垂直方向ないし水平方向に往復作動」
と訂正する。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項1に
「前記凹溝部内部に収納し」とあるのを,
「前記凹溝部まで収納し得るようにし」
と訂正する。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項1に
「水平時には互にレバーの内端部間に洗濯物を挟み込む状態にし」とあるのを,
「水平時には対向位置で互にレバーの内端部間に洗濯物を挟み込むようにし」
と訂正する。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項1に
「ギヤ部を設け」とあるのを,
「ギヤ部を設けて洗濯物の挟み込みの補助をし」
と訂正する。

(8)訂正事項8
明細書中段落番号【0008】に
「これにつづく開口部の内側部」とあるのを,
「この内側奥部につづく開口部の内側部」
と訂正する。

(9)訂正事項9
明細書中段落番号【0008】に
「外側上部に壁部を残して深い凹溝部」とあるのを,
「外側上部に壁部を残して凹溝部」
と訂正する。

(10)訂正事項10
明細書中段落番号【0008】に
「弾機を介して」とあるのを,
「前記支軸と凹溝部間弾機を介して」
と訂正する。

(11)訂正事項11
明細書中段落番号【0008】に
「垂直ないし水平に開閉作動」とあるのを,
「垂直方向ないし水平方向に往復作動」
と訂正する。

(12)訂正事項12
明細書中段落番号【0008】に
「前記凹溝部に収納し」とあるのを,
「前記凹溝部まで収納し得るようにし」
と訂正する。

(13)訂正事項13
明細書中段落番号【0008】に
「水平時には互にレバーの内端部間に洗濯物を挟み込む状態にし」とあるのを,
「水平時には対向位置で互にレバーの内端部間に洗濯物を挟み込むようにし」
と訂正する。

(14)訂正事項14
明細書中段落番号【0008】に
「ギア部を設け」とあるのを,
「ギヤ部を設けて洗濯物の挟み込みの補助をし」
と訂正する。

(15)訂正事項15
明細書中段落番号【0009】に
「開口部の内側部が逆円内凸形状に成りかつ両レバーの」とあるのを,
「開口部につづく内側部が逆円内凸形状に成り、左右両レバーの」
と訂正する。

(16)訂正事項16
明細書中段落番号【0009】に
「作用するようになっても、比較的厚い洗濯物が挿入されても十分広いスペースを有して支持される」とあるのを,
「作用するようになるから、比較的厚い洗濯物が挿入されても十分広いスペースを保って挟持する」
と訂正する。

(17)訂正事項17
明細書中段落番号【0010】に
「水平角度は開閉作動が」とあるのを,
「傾斜角度は弾機を介しての開閉作動が」
と訂正する。

(18)訂正事項18
明細書中段落番号【0010】に
「洗濯物を挟み込む」とあるのを,
「洗濯物を確実に挟み込む」
と訂正する。

(19)訂正事項19
明細書中段落番号【0013】に
「レバーは両弾機の弾発力に」とあるのを,
「両レバーは弾機の弾発力に」
と訂正する。

(20)訂正事項20
明細書中段落番号【0014】に
「広く開けるため」とあるのを,
「広く開くため」
と訂正する。

(21)訂正事項21
明細書中段落番号【0014】に
「このとき支持部は両アーム部の深い凹溝部の内部に収納するようになる。」とあるのを,「このときレバーの支持部は両アーム部の凹溝部の内部に収納するに至る。」
と訂正する。

(22)訂正事項22
明細書中段落番号【0017】に
「収納する深さに成る。」とあるのを,
「収納し得る深さになる。」
と訂正する。

(23)訂正事項23
明細書中段落番号【0018】,【0019】,【0020】に
「両アーム部2,2の深い凹溝部」とあるのを,
「両アーム部2,2の凹溝部」
と訂正する。

(24)訂正事項24
明細書中段落番号【0019】に
「支持部9,9の内端部12,12は不使用時にはハの字状に互いに接している。」とあるのを,
「前記支持部9,9の内端部12,12は不使用時にはハの字状に互いに接している状態にある。」
と訂正する。

(25)訂正事項25
明細書中段落番号【0021】に
「その下端部には静止時に噛み合うギヤ部」とあるのを,
「その下端部には厚手の洗濯物の下側部分に接して摩擦するギヤ部」
と訂正する。

イ 訂正事項についての趣旨及び根拠について
被請求人は,第3の1の訂正事項1?25について,明瞭でない記載を釈明するものであり,実質上特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないとして,以下の主張を行っている。

(ア)訂正事項1,8について
本願の願書に添付した図面(以下「本件図面」という。また,添付した図面の図1?図7を,それぞれ「本件図1」?「本件図7」という。)中,符合3は両アーム部2,2の内側奥部を示し,この内側奥部は真円形状に成り,符合4は前記内側奥部3につづく開口部を示し,符合4’,4’は逆円内凸形状になる内側部を示していることは明らかである(本件図1,2,5参照)。

(イ)訂正事項2と9について
「凹溝部5,5」については,本件図5で明らかなとおり,所定の深さを有する形態になるものであるから,単純に「凹溝部」と文章表現した。両アーム部2,2間の開口部4の内側部4’,4’には,「外側上部に壁部6,6を残して深い凹溝部5,5を形成し」から,凹溝部を形容する「深い」を削除する趣旨は,本件図5から判断できるとおり,凹溝部の形態の説明としては無用な表現と考えたからであり,その根拠は本件図5に係る断面図にある。即ち,この部分にはレバー7,7の支持部9,9が出入りし,洗濯物の厚さによってはレバーの支持部が垂直に立ち収納状態に至るものであるが,凹溝部の深浅はレバーの機能とは関係のないことである。

(ウ)訂正事項3と10について
「弾機11,11」については,その介装する取付け部材との関係を明らかにするため,弾機はレバー7,7の「支軸8,8と凹溝部5,5」との間に介装するものであることを明記した(本件図5参照。)。両アーム部の凹溝部の下端部に設けた支軸に枢着した両レバーに介装する弾機11,11の取付位置関係を正確に説明することにあり,その根拠は本件図5及び図6にある。なお,「凹溝部間弾機」とあるは,「凹溝部間に弾機」の誤記である。

(エ)訂正事項4と11について
レバー7,7が垂直ないし水平に運動する状態の正確な文章表現として,それぞれの方向への往復作動と文章表現した。垂直ないし水平に開閉作動するとは,両レバー支持部の内端部間に挟む洗濯物を想定した表現ですが,洗濯物の挟み込みを想定しない構造自体の作用の説明にあっては,レバー支持部の運動は垂直ないし水平方向に往復作動すると表現するのが正確であると考えた。その根拠は本件図5の断面図にある。

(オ)訂正事項5と12について
レバー7,7の往復作動中の垂直方向時には,「凹溝部5,5」に収納されるような状態になることを正確に文章表現した。洗濯物を挟み込むためには左右のレバーが最大限に,弾機11,11に抗しながら開いて凹溝部に収納されるようになることを,表現したのであり,その根拠は本件図5にある。

(カ)訂正事項6について
レバー7,7の往復作動中の水平方向時には,相互に対向位置にあることから,前記レバーの内端部間に洗濯物が挟み込まれる状態を正確に文章表現した。対向位置とは,左右両レバーが緩いハの字状のほぼ水平時にあるときには,対向する位置状態にあることを意味している。

(キ)訂正事項7と14について
レバーの支持部9,9の内端面部の下端部にギヤ部を設ける意味を強調するために,レバーの内端部間に挟み込まれる状態の洗濯物に対し,相互にギヤ部によって挟み込み作用を補助する役割をしていることを強調した。両レバー支持部の内端部下端にギヤ部を設けることによって,洗濯物の挟み込みの補助作用ができることを表現したのであり,その根拠は本件図1,2,7にある。

(ク)訂正事項13について
「(オ)訂正事項6について」に加えて,両レバーの内端部による洗濯物への挟み込み作用の位置表現を変えただけであり,その根拠は例えば本件図7にある。対向位置とは,左右両レバーが緩いハの字状のほぼ水平時にあるときには,対向する位置状態にあることを意味する。

(ケ)訂正事項15について
吊り具体のアーム部2によって形成される内側奥部3が真円凹形状に成るのに対し,それに至りつづく開口部4の内側部4’,4’は逆の円内凸形状に成ることを明確に文章表現した。吊り具体のアーム部2,2によって形成される内側奥部3の形状とこの内側奥部にまで至りつづく開口部4の内側部4’,4’の形状について,本件図1,2,5で表現されている構成態様を文字によって表現したものであり,その根拠は前記図面にある。

(コ)訂正事項16について
当該箇所の説明を,より明確な文章表現とした。本件発明の作用による効果として,比較的厚手の洗濯物でも十分挟持できる構造であることを強調しているのであり,その根拠は例えば本件図7にある。

(サ)訂正事項17について
最初,「左右レバーの相対する水平角度は開閉作動が常に円滑に」と記載していた。
しかし,これだけの記載では,なぜそのようになるのかについての構成の説明がないことから,これを補足するために,左右レバーの水平及び傾斜の角度調整は,各レバーに内在する弾機を介して行われるものであることを訂正の趣旨とし,本件図5,7をその根拠とする。

(シ)訂正事項18について
当該箇所の説明を,より明確な文章表現とした。洗濯物への挟み込み効果を十分発揮する構造であることを強調しているのであり,その根拠は例えば本件図7にある。

(ス)訂正事項19,20について
当該箇所の説明を,より明確な文章表現とした。

(セ)訂正事項21について
当該箇所の説明を,より明確な文章表現とした。洗濯物の挿入挟持によって,両レバーの支持部が,それぞれ両アーム部の凹溝部内に水平から垂直方向への作動によって収納される状態になることを,より正確に説明することにあり,本件図5にその根拠がある。

(ソ)訂正事項22について
当該箇所の説明を,より明確な文章表現とした。両レバーの支持部が垂直方向に作動したときの凹溝部5,5との関係を,より正確に説明することにあり,本件図5にその根拠がある。

(タ)訂正事項23について
当該箇所の説明を,より明確な文章表現とした。両レバーの支持部が垂直方向に作動したときを想定し,凹溝部5,5の存在を,より正確に説明することにあり,本件図5にその根拠がある。

(チ)訂正事項24について
当該箇所の説明を,より明確な文章表現とした。

(ツ)訂正事項25について
当該箇所の説明を,より明確な文章表現とした。厚手の洗濯物にギヤ部が接して起こす摩擦という自然現象を確認して説明しているのであり,本件図7にその根拠がある。

(2)無効理由についての反論
ア 無効理由1(補正による新規事項追加違反)について
「(レバーの)垂直時には前記凹溝部内部に収納し」とのレバー7,7の作用状態については本件図5において明記されている。また,両レバー7,7の支持部9,9は,本件図7の使用状態図からも明らかなとおり,比較的厚手の洗濯物を両レバー間に挿入して挟持する際に,両レバーの支持部は垂直に立ち上がってアーム部に形成されている深い凹溝部の内部に収納されようとする状態になる。即ち,両レバーの支持部を垂直方向に起立せしめるための特別な手段などは不要であり,これを洗濯物の挿入と挟持とによって確実に行うことになる。
このように,厚手の洗濯物を掛け止めは,弾機の作用による左右両レバーへの弾発力に抗して挿入されてなされ,両レバーは垂直方向と水平方向との間を任意に往復作動し,アーム部内側の凹溝部内部に洗濯物の厚みによってその収納角度はさまざまであるが,レバー支持部が自在に収納し得る状態になるからこそ,本件発明は使用効率の非常に良い製品となっている。
したがって,レバーの支持部のアーム部内側の凹溝部への収納とは,いろいろな種類の洗濯物の挿入時と挟持時における一時的な取付け状態を的確に表現する意味で使われているのであり,必ずしも静止状態に留まる意味で使用しているものではないから,拡張変更には当たらない。
請求人は,本件発明の明細書の記載において,洗濯物を挟んで静止状態になると両レバーは水平状態となるといっていると主張するが,手拭やタオルのような一枚薄物の吊るしの場合とバスタオルなどのような厚物や折畳み物の吊るしの場合とでは,両レバーの往復作動による位置状態は全く違う。
また,本件発明にあっては,本件図5において明記しているように,両アーム部の開口部4に臨設する内側部に凹溝部を形成している目的は,使用時における各レバーの作動が開口部における水平状態から最大限の垂直方向(90°)にまで可能であることを示すためであるから,対象物によってはレバーが垂直状態に収納されるように見える現象もある。したがって,この状態をレバーが,アーム部内側の凹溝部内に静止状態のまま収納が維持されるものと解している請求人の認識は誤りである。
以上のとおり,本件発明は,特許法17条の2第3項に違反してなされたものではないから,同法123条1項1号に該当するものではない。

イ 無効理由2(発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載要件違反)について
請求人は,明細書における本件発明の構成の説明は,本件図面とその符号とを参照しながら読めば,構成態様のいかんは容易に理解することができるとし,以下の主張を行っている。

(ア)発明の詳細な説明及び特許請求の範囲の記載において,「吊り具体の両アーム部の内側奥部を真円凹形状に形成し」とあるは,本件図面を参照すれば,「アーム部2,2を設けた吊り具体1の両アーム部の内側奥部3を真円凹形状に形成する」というものであることを,何人も容易に理解することができる。
「真円」と「凹形状」との形状の表現については,本件図1,2,5に係る本件物品の正面図を見れば一目瞭然に理解することができる。

(イ)「開口部の内側部を逆円内凸形状に形成し」と記載している点は,本件図面を参照すれば容易に理解できる。開口部4の内側部4’,4’の形状は,真円形状ではなく開口部の内側における左右内側部が互いに凸形状に形成されている形態を見て表現しているのであり,意味は明らかである。両アーム部の開口部における円形状が「逆円」とは,「真円」が外側方向に円形状を開拡するのに対し,開口部において逆に内側方向に窄める形状になっている反対の意味の形状を志向していることを表現しているから,そのとおりに理解することができる。

(ウ)発明の詳細な説明における段落【0014】,【0021】,【0008】などの記載について,吊り具体1のアーム部2,2の内側奥部3まで洗濯物を引き上げて挟持状態を維持するのはアーム部の内端部12,12であり,また互いに水平に近い状態で洗濯物の一部を左右方向から挟持するのはアーム部の内端部である。

(エ)甲第1号証に係る文献についても,発条体の構成部分だけを取り上げるならば,これによってレバーを下方へ付勢して洗濯物の保持力として作用するとしても,その洗濯物を挟持する吊り具体の左右に開口するアーム部の構成は,本件発明におけるようなアーム部の内側奥部の真円凹形状とアーム部の開口部の内側における逆円内凸形状との組合せからなるものとは全く異なるから,比較的大形の洗濯物の長時間保持に対して耐えることは不可能な構成である。
したがって,当該物品において所期の目的を達成するためには甲第1号証のような技術では到底不可能であるから,技術的思想の異同は,当該物品の構成の全体を考慮して総合的に論ずるべきである。

(オ)本件発明にあっては,レバーの摘み部による自由な操作によって,その支持部の開閉がなされるとともにアーム部の内側奥部への洗濯物の挿入案内と吊り下げ維持とを確実に行うことができるようになった。したがって,これをもって本件発明についての説明記載を不明瞭であるとは決して言えない。

(カ)以上のとおり,本件発明は,特許法第36条第4項第1号及び第6項第1号,第2号の規定に違反してなされたものでないから,特許法123条1項4号に該当するものではない。

ウ 無効理由3(甲第1?3号証による進歩性喪失事由)について
(ア)甲第1号証に係る吊り具本体の左右両側部間の開口部は極めて狭巾に成り,挟持する洗濯物とは,布巾やタオルのような薄物1枚を予想しているものであり,本件発明における厚物や折り畳み物の吊るし掛止めを想定して両アーム部の内側奥部を真円凹形状に形成しかつ開口部の内側部を逆内凸形状に形成したり,両アーム部間の開口部の内側部にあっては外側上部に壁部を残して深い凹溝部を形成しているものでは全くない。

(イ)甲第2号証に係るワンハンドグリップは両腕木の内側奥部を半割状の円弧により凹形状を形成し,この両腕木を開口部から更に外方側へ延設し,広い空間を形成した点が記載されているが,この構造も比較的薄い洗濯物の吊り下げを想定しているもので,本件発明におけるような厚物の吊り下げは不可能な構成である。

(ウ)さらに,甲第3号証に係る差込みピンチの全体の構造は,図面からは不明確であるところ,本件発明におけるような厚物吊り下げのための両アーム部の内側奥部を真円形状に形成しかつ開口部の内側部を逆内凸形状に形成しているものではないから,本件発明の構成が達成する効果の発揮は認められない。

(エ)甲際3号証に係るピンチとの対比において,本件発明の弾機を介して垂直ないし水平に開閉作動し得るようにしたレバーは,甲第1号証と甲第3号証の構成と同一であると主張するが,それは弾機による作用を考慮しているのだろうが,それぞれに設置されている弾機の作用は本件発明におけるレバー7,7の作用とそのレバーが取付く左右のアーム部2,2間に構成されている内側奥部との関係と相侯って,吊り下げる厚手の洗濯物に対して十分作用していることを考慮すべきである。
したがって,本件発明の構成は各甲号証の技術の設計変更と言えるものではないので,本件発明に係る機構が果たす作用及び効果は前記引用技術から予測可能なものでは全くない。

(オ)甲第3号証に係るピンチについて,甲第3号証の図1に見られる接触面7,7(審判事件答弁書第8ページ第7行に「接触面3,3」とあるのは,甲第3号証の全体からみて,明らかに「接触面7,7」の誤記と認められる。)とは,アーム2,2の上側部に設けられているので,このアームは本体中間部のストッパー4(審判事件答弁書第8ページ第8行に「スイッパー4,4」とあるのは,甲第3号証の全体からみて,明らかに「ストッパー4,4」の誤記と認められる。)に接するようになっているものであるのに対し,本件発明における両レバーの支持部の内端面部の下端部におけるギヤ部13,13とは,配置も作用も全く異なるものである。
しかも,この両ギヤ部は,両アーム部の内側奥部に洗濯物が持ち上げられた後に,その下方部の中間一部に対して左右両側部から食い込むように挟持する効果を発揮するものであるから,甲第3号証に見られるものとはまったく別異の構成と作用,効果を有するものである。

(カ)以上のとおり,本件発明は,特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものでないから,特許法123条1項2号に該当するものではない。

第3 訂正の適否についての当審における判断
訂正事項1?25のうち,訂正事項2,4,5及び6について,請求人は,明瞭でない記載の釈明に該当するものではなく,また,他の要件にも該当せず,特許請求の範囲の明らかな拡張,変更である旨主張するので,その点について検討する。

(1)訂正事項2について
訂正事項2は,「凹溝部」について,「深い」と特定されていたものを削除するものである。「深い」との形容を削除するものであるから,特許請求の範囲を拡張する訂正であることは,文言の上において推認できる。
この点について,被請求人は,「凹溝部5,5」については,本件図5で明らかなとおり,所定の深さを有する形態になるものであるから,単純に「凹溝部」と文章表現したものであり,本件図5から判断できるとおり,凹溝部の形態の説明としては無用な表現と考えたとし,明瞭でない記載の釈明であると主張する。
しかしながら,「深い凹溝部」は「深い」と形容された「凹溝部」であり,そして,被請求人が主張するように,単なる「凹溝部」という記載から,当該凹溝部が所定の深さを有するものであることが特定できたとしても,「深い」という用語が,「1 表面から底までの距離が長い。浅くない。2 外から内までの距離が遠い。奥まっている。等々」(株式会社岩波書店 広辞苑第六版より)というように,特定の形状や態様を形容する意味のある言葉であるから,単なる「凹溝部」と,「深い」「凹溝部」とは,直ちに同一の凹溝部を特定しているとは言うことができない。そして,その意味でも,「深い」という用語による特定が無用であるということはできない。
したがって、訂正事項2における「深い」を削除する訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的としたものではない。また,当該訂正は,特許請求の範囲を拡張するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正にも該当せず,誤記の訂正を目的とするものでもない。

(2)訂正事項4について
訂正事項4は,レバーについて,「垂直ないし水平に開閉作動」であったものを「垂直方向ないし水平方向に往復作動」とするものである。この訂正によりレバーの作動が「開閉」作動であることの特定を削除し,「開閉」の概念を「往復」という上位の概念に拡張する訂正又は「開閉」という概念を「往復」という別の概念に変更する訂正であるから,特許請求の範囲を拡張又は変更する訂正であるといえる。
この点について,被請求人は,レバー7,7が垂直ないし水平に運動する状態の正確な文章表現として,それぞれの方向への往復作動と文章表現したものであり,垂直ないし水平に開閉作動するとは,両レバー支持部の内端部間に挟む洗濯物を想定した表現で,洗濯物の挟み込みを想定しない構造自体の作用の説明にあっては,レバー支持部の運動は垂直ないし水平方向に往復作動すると表現するのが正確であるとし,その根拠は本件図5の断面図にあると主張している。
しかしながら,レバーについて,「垂直ないし水平に開閉作動」し得ることは,表現自体が不明瞭な記載であるとはいえないし,また,当該表現が洗濯物を想定した表現であったとしても,当該表現を,洗濯物の挟み込みを想定しない構造自体の作用の説明としなけらばならない理由もないから,被請求人の主張は,訂正事項4が明瞭でない記載の釈明を目的とするものであることの根拠になっていない。
したがって、訂正事項2におけるレバーについて,「垂直ないし水平に開閉作動」し得るようにしたものを「垂直方向ないし水平方向に往復作動」とする訂正は、明瞭でない記載の釈明を目的としたものではない。また,特許請求の範囲を拡張又は変更するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正にも該当せず,誤訳の訂正を目的とするものでもない。

(3)訂正事項5について
訂正事項5は,レバーを「前記凹溝部内部に収納し」とあるのを,「前記凹溝部まで収納し得るようにし」と訂正するものであり,当該訂正により,レバーを収納する位置が,凹溝部内部であったことを,凹溝部までとする変更を行い,収納する位置が凹溝内部かどうか不明にするものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更する訂正であることは,明らかである。
被請求人は,レバー7,7の往復作動中の垂直方向時には,「凹溝部5,5」に収納されるような状態になることを正確に文章表現したもので,洗濯物を挟み込むためには左右のレバーが最大限に,弾機11,11に抗しながら開いて凹溝部に収納されるようになることを,表現したとし,明瞭でない記載を釈明するものであると主張しているが,レバーを「前記凹溝部内部に収納し」得るという表現に不明瞭とするところはない。
したがって、訂正事項5におけるレバーを「前記凹溝部内部に収納し」とあるのを,「前記凹溝部まで収納し得るようにし」と訂正することは,明瞭でない記載の釈明を目的としたものではない。また,実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とした訂正にも該当せず,誤記の訂正を目的とするものでもない。

(4)訂正事項6について
訂正事項6は,「水平時には互にレバーの内端部間に洗濯物を挟み込む状態にし」ていたことを,「水平時には対向位置で互にレバーの内端部間に洗濯物を挟み込むようにし」とすることにより,「レバー」が「対向位置」で「内端部間」に「洗濯物を挟み込むもの」であることを特定するものである。
当該訂正は,レバーが水平時に洗濯物を挟み込む状態になっている時に,当該レバーが「対向位置」となっていることを限定するものであるから特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり,かつ,当該訂正は実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもない。

(4)小括
上記のとおりであるから、本件訂正のうちの訂正事項2,4及び5に係る訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書第1号ないし第3号に掲げる事項を目的とするいずれの訂正にも該当せず,特許法第134条の2第1項ただし書に規定する要件に適合せず,また,特許法第134条の2第9項の規定によって準用する特許法第126条第6項の規定に違反するので,本件訂正請求は認められない。
よって、訂正事項2,4及び5を含む本件訂正請求は、認められない。

第4 本件特許発明
平成26年3月14日付け訂正請求は上記のとおり認められないから,本件発明は,本件特許明細書の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される,次のとおりのものである。

「左右対称の一体に成り所定の巾厚さを有するアーム部を設けた吊り具体の両アーム部の内側奥部を真円凹形状に形成し、これにつづく開口部の内側部を逆円内凸形状に形成し、前記両アーム部間の開口部の内側部には、外側上部に壁部を残して深い凹溝部を形成し、この凹溝部の下端部間には支持部と摘み部を設けてハの字状に対向するレバーを、摘み部側に偏心して両アーム部の前記凹溝部の下端部に設けた支軸に各枢着して設け、弾機を介して垂直ないし水平に開閉作動し得るようにした前記レバーを、垂直時には前記凹溝部内部に収納し、水平時には互にレバーの内端部間に洗濯物を挟み込む状態にし、前記レバーの支持部の内端面部の下端部にはギヤ部を設け、前記吊り具体の中央部には掛止突部を設けて成ることを特徴とする物干しピンチ。」

第5 無効理由に対する当審の判断
上記第3のとおり,本件訂正請求は認められず,以下,請求人の主張する無効理由3(甲第1?3号証による進歩性喪失事由)について検討する。

1.甲第1ないし3号証の記載事項
1-1.甲第1号証(実願昭54-58894号(実開昭55-159090号)のマイクロフィルム

(1a)「本考案による吊具の用途はいろいろ考えられるが,例えば洗たく物を干す際に用いる洗たく挟みの代用もできる。」(明細書第1ページ第15?17行)

(1b)「第3図に示すのは本体に2個の爪を回転自在に取付て挟み口を構成する吊り具である。
本体11に爪22と23を対称の位置に取付て,ばね33,34の一端を本体11に支持し,もう一端を爪22,23にそのばね力が,それぞれR方向およびL1方向に作用する如く成す。また第3図の状態より爪22はR方向へ,爪23はL1方向に回転しないよう本体と爪の接合面X1,X2により制限される如く成す。以上のように構成することにより1個爪の吊具よりも挟み口の開口部の開口スキマを約2倍も大きくできるので厚い品物を挟む事が可能となる。」(明細書第2ページ下から第6行?第3ページ第5行。下線は当審で付与。以下同様。)

(1c)「本吊具は本体の一端を他の支持物体に支持された状態,例えばロープやレールのような物を取付けて使用する。第2図に於ける吊具を本体1の穴1dにロープを通して本体を支持する。」(明細書第3ページ第9?12行)

(1d)「本考案による吊具の保持作用は,次の2つの特徴を有する。その第1は風や重力によって品物が下方向の外力を受けた場合,爪2に作用するばね力も必要であるが,むしろ品物を外そうとする外力を保持する力に利用する方法である。」(明細書第4ページ第2?6行)

(1e)「第4図の(イ)は挟み部の形状を単に平面と平面の組合せにした場合であるが,前述の如く本吊具は下向に作用する外力に対しては挟み部に作用するばね力が小さくできる機構を有するものであるが,横方向に作用する外力に対してはばね力が小さければ小さい程品物は外れ易いのは当然である。)(明細書第5ページ第3?9行)

(1f)第3図(下記参照)には,上記記載事項1bも併せてみると,左右対称の一体に形成された本体11の内側を楕円形状を略半割状とした形状に形成し,本体11の開口部の内側部には,外側上部に壁を有する窪み部が形成され,この窪み部の下端部間にハの字状に対向する爪22,23を窪み部の下端に設けた軸に軸支した吊具が図示されている。また,本体11を支持するためにロープを通す穴が本体の中央上部に設けられていることが見て取れる。

(第3図)



上記記載事項(1a)?(1e),図示内容(1f)及び図面を総合すると、甲第1号証には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「左右対称の一体に形成された本体に,爪を対称位置に取付た洗濯物吊具であって,洗濯物吊具の本体の内側を楕円形状の略半割状とした形状に形成し,本体の開口部の内側部には,外側上部に壁を有する窪み部が形成され,前記窪み部の下端部間にハの字状に対向する爪を前記窪み部の下端に設けた軸に軸支して,本体に爪を対称の位置に取付て,ばねの一端を本体に支持し,もう一端を爪にそのばね力が,作用する如く成し,爪の挟み部の形状を単に平面と平面の組合せとし,品物が下方向の外力を受けた場合,品物を外そうとする外力を保持する力に利用し,本体の中央上部にロープを通して本体を支持する穴を有する洗濯物吊具。」

1-2.甲第2号証:特開2005-52611号公報
(2a)「本体の下部両端にピンと弾性体によって取り付けられたフックの先端が互いに合わさる中心間隙を被吊り下げ物の挟み込み箇所とし、被吊り下げ物の重量と弾性体との相互作用により生じる圧力で被吊り下げ物の落下を防止するワンハンドクリップ。」(【請求項1】)

(2b)「本体(1)の下部両端に、半円形状フック(2)の上部先端が調度合わさる位置で留まるように回転ピン(3)と補助バネ(4)で固定した半円形状フック(2)を取り付け、その中心間隙に下方から被吊り下げ物を挟み込み補助バネ(4)の作用によって装着した時、そこに装着物自体の重量が加わり補助バネ(4)との相互作用によって生じた圧力でより強く挟む力が発生する。」(【0002】)

(2c)図1,図3には,半円形状フック(2)の反対側である,本体(1)の内側奥部が円弧形状に形成されていることが図示されている。

1-3.甲第3号証:実願平2-47468号(実開平4-7085号)のマイクロフィルム

(3a)「本体(1)内に組み込まれた,ピンチの両アーム(2)は,その接触面(7)と各々の支点(6)からハの字形を形成している。」(実用新案登録請求の範囲請求項1)

(3b)「この考案は,主に洗濯用ピンチであるが,・・・」(明細書第1ページ下から5行目)

(3c)「物は自重で落下しようとするが,アームの凸凹面に食い込んでアームをさげようとする。しかしアームは支点(6)により内側に回ろうとして互いに押し合う動きとなり物をしっかり挟むことになる。」(明細書第2ページ第16?20行)

(3d)第1図,第2図によると,アーム(2)の接触面(7)に,凸凹面をした形状が設けれていることが図示されている。また,アーム(2)を溝部内に支点(6)で軸支された態様が図示されている。

2.無効理由3について
(1)甲1発明との対比
本件発明と甲1発明とを対比すると,その作用,機能,構成からみて,
後者の「本体」,「爪」,「洗濯物吊具」,「軸」,「ばね」及び「挟み部」は,それぞれ前者の「吊り具体」,「レバー」,「物干しピンチ」,「支軸」,「弾機」及び「支持部」に相当する。
また,後者の「本体」は,所定の厚さを有することは明らかであり,「本体の内側を楕円形状の略半割状とした形状に形成し」ているから,前者の「所定の巾厚さを有するアーム部を設けた吊り具体」といえる。
後者の「爪を対称位置に取付た」ことは,前者の「レバー」が「ハの字状に対向する」ことに相当する。
後者の「洗濯物吊具の本体の内側を楕円形状の略半割状とした形状に形成し」ていることと,前者の「吊り具体の両アーム部の内側奥部を真円凹形状に形成し、これにつづく開口部の内側部を逆円内凸形状に形成し」ていることとは,「吊り具体の両アーム部の内側を曲線形状に形成し」ている限りにおいて,一致している。
後者の「本体の開口部の内側部には,外側上部に壁を有する窪み部が形成され」ていることと,前者の「両アーム部間の開口部の内側部には、外側上部に壁部を残して深い凹溝部を形成し」ていることとは,「両アーム部間の開口部の内側部には、外側上部に壁部を残して窪み部を形成し」ている限りにおいて,一致している。
また,後者の「窪み部の下端部間にハの字状に対向する爪を前記窪み部の下端に設けた軸に軸支して」いることと,前者の「凹溝部の下端部間には支持部と摘み部を設けてハの字状に対向するレバーを、摘み部側に偏心して両アーム部の前記凹溝部の下端部に設けた支軸に各枢着して設け」ることとは,「窪み部の下端部間にはハの字状に対向するレバーを、両アーム部の前記窪み部の下端部に設けた支軸に各枢着して設け」る限りにおいて,一致している。
後者の「本体に爪を対称の位置に取付て,ばねの一端を本体に支持し,もう一端を爪にそのばね力が,作用する如く成し」た「爪」と,前者の「弾機を介して垂直ないし水平に開閉作動し得るようにした前記レバー」とは,「弾機を介して垂直方向ないし水平方向に開閉作動し得るようにした前記レバー」という限りにおいて,一致している。
後者の「爪の挟み部の形状を単に平面と平面の組合せとし」たことと,前者の「前記レバーの支持部の内端面部の下端部にはギヤ部を設け」ていることとは,「前記レバーの支持部に内端面部を有する」限りにおいて,一致している。
後者は,「品物が下方向の外力を受けた場合,品物を外そうとする外力を保持する力に利用」していて,第3図(上記参照)の爪22の実線の位置からみて,前者の「水平時には互にレバーの内端部間に洗濯物を挟み込む状態に」しているといえる。
後者の「本体の中央上部にロープを通して本体を支持する穴を有する」ことは,前者の「吊り具体の中央部には掛止突部を設けて成る」ことに相当する。

(2)一致点
そうすると,本件発明と甲1発明とは,次の点で一致する。

「左右対称の一体に成り所定の巾厚さを有するアーム部を設けた吊り具体の両アーム部の内側を曲線形状に形成し,両アーム部間の開口部の内側部には、外側上部に壁部を残して窪み部を形成し,窪み部の下端部間にはハの字状に対向するレバーを,両アーム部の前記窪み部の下端部に設けた支軸に各枢着して設け,弾機を介して垂直方向ないし水平方向に開閉作動し得るようにした前記レバーを,水平時には互にレバーの内端部間に洗濯物を挟み込む状態にし,吊り具体の中央部には掛止部を設けて成る,物干しピンチ。」

(3)相違点
一方で,両者は,次の点で相違する。

相違点1:両アーム部の内側の曲線形状について,本件発明は、内側奥部を真円凹形状に形成し,これにつづく開口部の内側部を逆円内凸形状に形成しているのに対して、甲1発明は、楕円形状を略半割状とした形状としている点。

相違点2:窪み部について、本件発明は、外側上部に壁部を残して深い凹溝部を形成し、この凹溝部の下端部間に、支持部と摘み部を設けてハの字状に対向するレバーを、摘み部側に偏心して両アーム部の前記凹溝部の下端部に設けた支軸に各枢着して設けているのに対して、甲1発明は、そのようになっていない点。

相違点3:本件発明は、レバーが垂直時には凹溝部内部に収納されているのに対して、甲1発明は、そのようになっていない点。

相違点4:レバーの支持部の内端面部について,本件発明は,その下端部にギヤ部を設けているのに対して、甲1発明は、平面である点。

相違点5:吊り具体の中央部の掛止部について,本件発明は,掛止突部を設けて成るのに対して,甲1発明は,そのようになっていない点。

(4)各相違点についての検討
そこで,以下相違点について検討する。

<相違点1について>
最初に,本件発明の特定事項である「真円凹形状」及び「逆円内凸形状」との用語が一般的な用語でないので,当該用語が特定する形状について,検討する。
本件発明で特定される「真円凹形状」について,明細書には,「この吊り具体の両アーム部2,2の内側奥部3は真円凹形状に成り」(【0016】)と記載されており,その形状は,本件図2(下記参照)のアーム部(2)が図示する円弧形状を意味するものと理解できる。
また,本件発明で特定される「逆円内凸形状」についても,明細書には,「この内側奥部につづく下側方の開口部4の内側部4’,4’は逆円内凸形状に成る。」(【0016】)と記載されており,その形状は,本件図2(下記参照)の引き出し線「4’」が指し示すアーム部(2)の部分の形状と理解できる。

(本件図2)


そして,本件発明は相違点1に係る構成を採用することにより,「【発明の効果】
【0009】
第1に、吊り具体の両アーム部によって形成される内側奥部は真円凹形状に成るから、両アーム部の開口部の内側部が逆円内凸形状に成りかつ両レバーの支持部の内端部による加圧抑止力が作用するようになっても、比較的厚い洗濯物が挿入されても十分広いスペースを有して支持されるようになる。」としている。また,同様な主張は,上記第2当事者の主張 2.被請求人 イ無効理由2(エ)やウ無効理由3において行っている。
しかしながら,上記一致点を有する物干しピンチにおいて,どの程度の厚みの洗濯物を挿入し得るかは,対向するレバーの間隔や吊り具体の両アーム部の内側奥部の凹形状の大きさによって定まるものであり,アーム部の形状を内側奥部を真円凹形状に形成し,これにつづく開口部の内側部を逆円内凸形状に形成することにより上記効果が得られるとは認めることはできない。むしろ,アーム部の一部が逆円内凸形状となることにより,洗濯物の挿入する部位が狭くなるのであるから,厚みのある洗濯物が挿入しづらくなるといえる。すなわち,アームの形状による格別な効果は認められない。
そうすると,アーム部の形状として,内側の曲線形状をどのような形状に形成するかということは,アームの設計に際して単にアーム部の内側の形状として取り得る曲線を採用する設計的事項である。
そして,当該曲線として,真円形状,だ円形状,2次曲線,3次曲線,双曲線及びそれらの近似曲線並びにその組み合わせなど種々の曲線が考えられるところ,甲1発明において,本体(アーム)の内側の形状の曲線として,内側奥部を真円凹形状に形成し,これにつづく開口部の内側部を逆円内凸形状に形成する曲線を採用することは当業者が適宜になし得たことであり,このことによる格別な効果についても,上記に述べたように認められない。

<相違点2について>
一般に,回動する部材の支持態様として,凹溝部内に回動保持する態様は,本願出願前周知の事項であり,甲第3号証にも,洗濯用ピンチアーム(2)において,アーム(2)を凹溝部下端部間に支点(6)で軸支することが記載されている(上記記載事項(3d))。
そうすると,甲1発明の回動する爪部を支持するに際して,上記甲第3号証に記載の事項や本願出願前周知の事項を適用して,窪み部について、凹溝部を形成し、この凹溝部の下端部間に、レバーを、両アーム部の前記凹溝部の下端部に設けた支軸に各枢着して設けることは,当業者が容易になし得たことである。
そして,甲1発明の爪が,本件発明のレバーの支持部と摘み部を有することは明らかであって,さらに,爪の大きさや,爪を開いた時の所望の開口部の大きさ等に応じて,設ける凹溝部を深い凹溝部とすることや,爪を摘み部側へ偏心して軸支するという軸の設ける位置は,当業者が適宜なし得た設計的事項である。

<相違点3について>
相違点2において,検討したとおり,凹溝部の深さを深い凹溝部とすることは当業者が適宜なし得た設計的事項であるから,その程度として,爪(レバー)が垂直時には凹溝部内部に収納される程度とすることも当業者が適宜なし得たことであり,このことによる格別な効果も認められない。

<相違点4について>
本件発明のレバー支持部の下端部のギヤ部は,所謂歯車のように一方の回転を噛み合う他方の歯車に伝達するようなものではなく,「レバー支持部の下端部のギヤ部が、自重で垂れ下がろうとする洗濯物に噛み込むように抑止するから、比較的大きな厚物の洗濯物でも余裕をもって確実に掛け止められるようになる。」(【0014】)と記載されるように,洗濯物に噛み込む滑り止めの類と理解できる。
そして,甲第3号証にも「物は自重で落下しようとするが,アームの凸凹面に食い込んでアームをさげようとする。しかしアームは支点(6)により内側に回ろうとして互いに押し合う動きとなり物をしっかり挟むことになる。」(上記記載事項(3C))と記載されていて,洗濯物と接触する部位に凸凹面を設けて洗濯物にアーム部を噛み込ませて滑り止めの類とすることが記載されている。また,一般に,洗濯ばさみ等において,洗濯物と接触する部位に凸凹面を設けることも本願出願前周知の事項である。
そうすると,甲1発明の洗濯物と接触する部位である爪の挟み部の形状を平面と平面の組合せから,下端部を含めて洗濯物に噛み込む滑り止めの類のギヤ部とすることは当業者が容易になし得たことであり,このことによる格別な効果も認められない。

<相違点5について>
吊り具体の掛止部を設ける位置は当業者が適宜なし得た事項であり,本体の一部を突部として当該部位を係止部とすることも,当業者が適宜なし得たことであり,このことによる格別な効果も認められない。

(5)本件発明による効果について
さらに,本件発明による効果も,甲1発明,甲第2,3号証に記載の事項及び周知の事項から,当業者が予測し得た程度のものであって,格別なものとはいえない。

(6)結論
したがって,本件発明は,甲1発明,甲第2,3号証に記載の事項及び周知の事項から,当業者が容易に発明をすることができたものである。

第5 まとめ
以上のとおり,本件発明は,甲1発明,甲第2,3号証に記載の事項及び周知の事項から,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり,特許法第123条第1項第2号に該当し,他の無効理由を検討するまでもなく,本件発明は,無効とすべきものである。
審判に関する費用については,特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により,請求人が負担すべきものとする。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-21 
結審通知日 2015-01-23 
審決日 2015-02-03 
出願番号 特願2010-280328(P2010-280328)
審決分類 P 1 113・ 853- ZB (D06F)
P 1 113・ 854- ZB (D06F)
P 1 113・ 855- ZB (D06F)
P 1 113・ 851- ZB (D06F)
P 1 113・ 852- ZB (D06F)
P 1 113・ 121- ZB (D06F)
最終処分 成立  
前審関与審査官 早房 長隆  
特許庁審判長 森林 克郎
特許庁審判官 山崎 勝司
佐々木 正章
登録日 2012-06-08 
登録番号 特許第5009412号(P5009412)
発明の名称 物干しピンチ  
代理人 牛木 理一  
代理人 伊藤 哲夫  
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