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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61M
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61M
管理番号 1298963
審判番号 不服2014-5347  
総通号数 185 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-05-29 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-20 
確定日 2015-03-17 
事件の表示 特願2011-221524号「腎神経ブロッキング方法及び装置」拒絶査定不服審判事件〔平成24年 2月23日出願公開、特開2012-35096号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は平成16年11月17日(パリ条約による優先権主張 外国庁受理2004年7月28日 (US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2007-523531号の出願の一部を、平成23年10月6日に特許法第44条第1項の規定による新たな特許出願としたものであって、平成25年1月30日付けで拒絶の理由が通知され、その指定期間内である平成25年5月1日に意見書及び手続補正書が提出されたが、平成25年10月15日付けで拒絶査定がなされ、これに対し平成26年3月20日に拒絶査定不服審判の請求がなされるとともに、同時に特許請求の範囲についての手続補正がなされたものである。

第2 平成26年3月20日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成26年3月20日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1.補正後の本願発明
本件補正により、特許請求の範囲の請求項1は、
「ヒトの患者の腎臓の少なくとも部分的な腎神経ブロッキングを行うように構成された装置であって、
神経ブロッキング剤を、手術なしに、前記腎臓の動脈周囲スペースに送達できるように構成され、前記神経ブロッキング剤はその作用期間にわたって腎神経の活性をブロッキングすることを特徴とする装置。」と補正された(下線は補正箇所を示すものである。)。

2.補正の目的及び新規事項の追加の有無
本件補正は、補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「装置」について、「神経ブロッキング剤を前記動脈周囲スペースに送達するように構成され」との限定事項を、「神経ブロッキング剤を、手術なしに、前記腎臓の動脈周囲スペースに送達できるように構成され」と更に限定して補正し、「前記神経ブロッキング剤の作用期間にわたって腎神経をブロッキングする」との限定事項を、「前記神経ブロッキング剤はその作用期間にわたって腎神経の活性をブロッキングする」と更に限定して補正するものであり、かつ、補正前の請求項1に記載された発明と補正後の請求項1に記載された発明とは、その産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は、新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の請求項1に記載された発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

3-1.引用文献の記載事項
(1)引用文献1
原査定の拒絶の理由に引用した、本願の優先日前に頒布された刊行物である、米国特許出願公開第2003/0216792号明細書(以下、「引用文献1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。

(ア)「This invention relates to methods and apparatus for treatment of congestive heart failure, chronic renal failure and hypertension by nerve stimulation. In particular, the invention relates to the improvement of these conditions of patients by blocking signals to the renal (kidney) nerve. (本発明は、神経刺激による、鬱血性心不全、慢性腎不全および高血圧症治療のための方法および装置に関する。特に、本発明は、腎(腎臓)神経の信号を遮断することによって、患者のこれらの症状の改善に関する。)」(段落[0002]。()内は当審における訳文。以下、同様。)

(イ)「FIG. 4 illustrates the drug infusion blocking embodiment with an implanted drug pump.(図4は、移植された薬剤ポンプを備えた薬物投与による阻止の形態を図示するものである。)」(段落[0070]。)

(ウ)「A method and apparatus has been developed to regulate sympathetic nerve activity to the kidney to improve a patient's renal function and overall condition, and ultimately to arrest or reverse the vicious cycle of CHF disease.(方法および装置は、患者の腎機能および全身状態を改善し、最終的には、CHF(鬱血性心不全)の悪循環を阻止又は逆戻りさせるために、腎臓への交感神経活性を調整するため開発された。)」(段落[0084]。)

(エ)「FIG.4 shows the use of a drug infusion pump 401 to block or partially block stimulation of the kidney 208 by infiltrating tissue proximal to the renal nerve 205 with a nerve-blocking drug. Pump 401 can be an implanted drug pump. The pump is equipped with a reservoir 403 and an access port (not shown) to refill the reservoir with the drug by puncturing the skin of the patient and the port septum with an infusion needle. The pump is connected to the infusion catheter 402 that is surgically implanted in the proximity of the renal nerve 205. The drug used in this embodiment can be a common local anesthetic such as Novocain. If it is desired to block the nerve for a long time after a single bolus drug infusion, a nerve toxin such as botox (botulism toxin) can be used as a nerve-blocking drug. Other suitable nerve desensitizing agents may comprise, for example, tetrodotoxin or other inhibitor of excitable tissues.(図4は、神経遮断薬を腎神経205の近位の組織に浸透させることで腎臓208の刺激を遮断若しくは部分的に刺激を遮断するための薬剤浸透ポンプ401の使用状態を示している。ポンプ401は、患者に埋設された薬剤ポンプとすることができる。ポンプ401は、リザーバー403と図示しないアクセスポートとを備え、アクセスポートは、患者の皮膚とポートセプタムとを注射針で穿孔することで薬剤をリザーバーに充填するものである。ポンプは注入カテーテル402に接続され、そのカテーテルは、外科的に腎神経205に近接して埋設される。この実施形態で使用される薬剤は、ノボカインのような一般的局所麻酔薬とすることができる。もし、薬剤の単一ボーラス注入後に長時間の神経遮断を希望するなら、ボトックス(ボツリヌス毒素)のような神経毒を神経遮断薬として使用することができる。他の好適な神経減感剤、例えば、テトロドトキシンや他の興奮性組織の阻害剤を含有させてもよい。)」(段落[0095]。)

(オ)上記(エ)の記載から、引用発明の神経遮断薬は、神経毒として例示される神経遮断薬であるため、その作用期間にわたって腎神経の活性を遮断するものであることは明らかである。

上記(ア)?(オ)、及び、Figure.4の図示内容から、引用文献1には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

「患者の腎神経遮断を行うように構成されたカテーテルとリザーバーとポンプであって、
神経遮断薬を、腎神経近位の組織に浸透できるように構成され、前記神経遮断薬はその作用期間にわたって腎神経の活性を遮断するカテーテルとリザーバーとポンプ。」

3-2.対比
そこで、本願補正発明と引用発明とを対比すると、その機能・構造からみて、後者の「カテーテルとリザーバーとポンプ」は、前者の「装置」に相当する。
また、後者の「患者」は、前者の「ヒトの患者」に相当し、「神経遮断薬」は「神経ブロッキング剤」に相当する。
さらに、後者の「腎神経遮断を行うこと」及び「腎神経の活性を遮断する」は、それぞれ、前者の「腎臓の少なくとも部分的な腎神経ブロッキングを行うこと」及び「腎神経の活性をブロッキングする」に相当することは明らかである。
引用発明の腎神経遮断は、上記(ア)?(エ)の記載事項及びFigure.4 から、腎臓の交感神経を遮断することであることは医学常識から明らかであり、腎臓の交感神経が腎動脈周囲に位置することも解剖学の常識であるから、後者の「腎神経近位の組織に浸透できるように」は前者の「腎臓の動脈周囲スペースに送達できるように」に相当する。

したがって、両者は次の点で一致する。

(一致点)
「ヒトの患者の腎臓の少なくとも部分的な腎神経ブロッキングを行うように構成された装置であって、
神経ブロッキング剤を、前記腎臓の動脈周囲スペースに送達できるように構成され、前記神経ブロッキング剤はその作用期間にわたって腎神経の活性をブロッキングすることを特徴とする装置。」

そして、両者は次の点で相違する。
(相違点)
本願補正発明は、神経ブロッキング剤を、腎臓の動脈周囲スペースに送達できるように構成され」という構成において、「手術なしに」という限定があるのに対し、引用発明はそのような限定がされていない点。

3-3.相違点の判断
以下、上記相違点について検討する。
ア 引用発明は、上記(エ)の記載から、カテーテルは、外科的に腎神経205に近接して埋設されるものであるから、その設置後については、神経への薬剤の浸透はその都度手術する事なくリザーバーからポンプによりカテーテルを経由して浸透され、また、リザーバ-への薬剤の補充も、リザーバーのアクセスポートに、患者の皮膚とポートセプタムとを注射針で穿孔することで薬剤をリザーバーに充填できるのであり、神経遮断薬を、手術なしに、腎臓の動脈周囲スペースに送達できるものといえる。
してみると、引用発明も、本願補正発明と同様に「神経ブロッキング剤を、手術なしに、前記腎臓の動脈周囲スペースに送達できるように構成され」という構成を有するものである。
したがって、本願補正発明と引用発明とは実質的に同一であるから、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し独立して特許を受けることができない。

イ 審判請求人は、審判請求書において、上記「神経ブロッキング剤を、手術なしに、前記腎臓の動脈周囲スペースに送達できるように構成され」と言う分節の趣旨は、「手術なしに」装置を上記の状態にすることができるように構成され、という意味もある旨主張し、明細書の段落【0033】の「カテーテル106は、手術なしにCTガイダンスの下で動脈周囲スペースの中に導入することができる。」との記載を根拠に、「カテーテル106を包含する上位概念である「装置」が、「手術なしに」上記の状態にすることができるように構成されていることを示す記載である旨主張するので、この点を更に検討することとする。

本願の発明の詳細な説明の段落【0027】?【0034】を参酌すれば、「装置」を構成するカテーテル、リザーバー、ポンプのうち、手術なしに患者に埋設される構成は、カテーテルしか開示されておらず、むしろ、ポンプやリザーバーはその皮下に埋設することから、手術なしに埋設するものではない。してみると、上記請求人の主張する「手術なしに」装置を上記の状態にすることができるように構成されという点は、そのカテーテルを手術なしに、患者の体内に導入することと解される。
そこで、引用発明を検討すると、上記(エ)の記載から、引用発明のカテーテルの患者への埋設は、外科的に行われるものであるから、手術なしに埋設するものではないが、一般にカテーテルは経皮的に体内の所望の場所に案内され、その先端を患部に到達させるものであることは医学の分野においては自明であり、また、本件発明や引用発明のような腎臓大動脈近傍は腹腔内でありカテーテルを所望の場所に設置することに格別困難がなく、さらに、本願補正発明の装置が、手術なしに腎臓の動脈周囲スペースに送達できるようにされる構成と、引用発明の装置とでその構成に格段の差異は認められないから、引用発明のカテーテルを、手術なしに腎臓の動脈周囲スペースに送達できるようにする程度のことは、当業者であれば容易に想到し得ることにすぎない。
そして、その効果も、引用発明に記載された事項から当業者が予測し得た程度のものであって、格別のものは認められない。
したがって、上記相違点の構成を請求人が主張するような構成であると解したとしても、本願補正発明は、引用発明に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

ウ 以上のように、本願補正発明と引用発明とは実質的に同一であるから、本願補正発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し独立して特許を受けることができない。
また、仮に、上記相違点に係る本願補正発明の「手術なしに」という限定部分の構成が、請求人が主張するようなものであったとしても、当該相違点に係る本願補正発明の構成は、当業者が容易に想到し得ることにすぎず、本願補正発明は、引用発明に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができない。

3-4.むすび
以上のとおりであるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明
本件補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1に係る発明は、拒絶査定時の特許請求の範囲の請求項1(平成25年5月1日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1)に記載された、次のとおりのものである(以下、「本願発明」という。)。

「ヒトの患者の腎臓の少なくとも部分的な腎神経ブロッキングを行うように構成された装置であって、
神経ブロッキング剤を前記動脈周囲スペースに送達するように構成され、前記神経ブロッキング剤の作用期間にわたって腎神経をブロッキングすることを特徴とする装置。」

第4 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された引用文献1の記載事項及び引用発明は、上記第2 3-1に記載したとおりである。

第5 対比・判断
そこで、本願発明と引用発明とを対比すると、両者の相当関係は、上記第2 3-2に記載したとおりであり、引用発明は本願発明の構成を全て備えており、両者に相違点はない。
したがって、本願発明と引用発明とは同一であるから、本願発明は引用文献1に記載された発明である。

第6 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用文献1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができない。
そして、本願の請求項1に係る発明が特許を受けることができないものである以上、本願の請求項2?7に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-10-08 
結審通知日 2014-10-14 
審決日 2014-10-28 
出願番号 特願2011-221524(P2011-221524)
審決分類 P 1 8・ 113- Z (A61M)
P 1 8・ 121- Z (A61M)
P 1 8・ 575- Z (A61M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 佐藤 高弘田中 玲子  
特許庁審判長 高木 彰
特許庁審判官 松下 聡
山口 直
発明の名称 腎神経ブロッキング方法及び装置  
代理人 名越 秀夫  
代理人 生田 哲郎  

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