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審決分類 審判 全部無効 1項3号刊行物記載  B25B
審判 全部無効 2項進歩性  B25B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B25B
管理番号 1299604
審判番号 無効2014-800068  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-04-30 
確定日 2015-02-16 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5099440号発明「ねじ締め機」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯

平成20年 5月27日 本件特許出願
(特願2008-138430号)
平成24年10月 5日 特許権の設定登録
(特許第5099440号)
平成26年 4月30日 請求人株式会社マキタによる
本件無効審判請求
(無効2014-800068号)
平成26年 7月18日 被請求人日立工機株式会社による審判事件
答弁書(以下単に「答弁書」という。)提出
平成26年 7月18日 被請求人による訂正請求書提出
平成26年 9月 3日 請求人による弁駁書提出
平成26年10月 6日付け 審理事項通知
平成26年11月 6日 請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成26年11月 6日 被請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成26年11月10日付け 審理事項(2)通知
平成26年11月27日 請求人による口頭審理陳述要領書提出
平成26年11月27日 第1回口頭審理
平成26年12月 4日 請求人による上申書提出

なお、本審決において、記載箇所を行により特定する場合、行数は空行を含まない。また、特許法の条文を指摘する際に「特許法」という表記を省略することがある。

第2 平成26年7月18日付け訂正請求について
1 訂正事項
請求項1ないし6からなる一群の請求項、明細書及び図面についての平成26年7月18日付け訂正請求による訂正(以下「本件訂正」という。)は、以下のとおりである(下線は訂正部分を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の「正転方向・反転方向に回転駆動される」という記載を「正転方向と反転方向に回転駆動される」と訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1の「該前方位置において該先端工具装着部と係合して」という記載を「該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して」と訂正する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項1の「該先端工具装着部の正転を抑制すると共に反転を許容し」という記載を「該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし」と訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項1の「該後方位置において該先端工具装着部の正転・反転を許容する」という記載を「該後方位置において該先端工具装着部との回転方向の係合を解除して該先端工具装着部の正転と反転を可能とする」と訂正する。

(5)訂正事項5
明細書段落【0027】の「ソケット51がスプラインシャフト42に勘合して」という記載を「ソケット51がスプラインシャフト42に嵌合して」と訂正する。

(6)訂正事項6
図面の図7、図9及び図13記載の符号「62A」を「62B」に訂正する。

2 訂正請求についての当審の判断
これら訂正事項1ないし6について順に検討する。

(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の「正転方向・反転方向に」という用語を「正転方向と反転方向に」とするものであり、明瞭でない記載の釈明(特許法第134条の2第1項ただし書第3号)を目的とするものであり、願書に添付した明細書及び図面(以下単に「本件特許明細書等」ということがある。)に記載された事項の範囲内で行われたことは明らかであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、「共回防止機構」の係合方向を「回転方向に係合して」と限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮(特許法第134条の2第1項ただし書第1号)を目的とするものに該当する。
そして、前方位置における共回防止機構と先端工具装着部との係合については、本件特許明細書等の段落【0040】に、「ビット10に充分な反力が得られない場合は、図13に示されるように、ソケット51が後方位置へと移動しないため、被掛止部62Bが掛止爪52Aに掛止し、ソケット51と座部62とが一体回転する構成を採る。この場合に、座部62は、装着部61に対して反転可能なため、スプリングクラッチ機構6がソケット51の反転を妨げることはない。・・・(後略)」なる記載があり、対応する図13及び図11(b)(下に示す。)に示される「被掛止部62B」と「掛止爪52A」との位置関係から、「回転方向に係合して」いることは明らかであり、上記訂正事項2は本件特許明細書等に記載されたものということができる。
[本件特許明細書等の図13]

[本件特許明細書等の図11(b)]


よって、訂正事項2は本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(3)訂正事項3について
訂正事項3は、本件訂正前の「該前方位置において」「該先端工具装着部の正転を抑制すると共に反転を許容し」なる記載につき、正転を「抑制」するという作用が、単に駆動力を伝達しないことを意味するのか、正転を不能とすることを意味するのか明瞭ではなく、また、「許容」するという作用が、正転または反転方向の駆動を可能とするのか、あるいは、正転または反転方向の共回りを許容するのか明瞭でなかったところ、これを「該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし」として、共回防止機構が先端工具装着部の正転又は反転を可能または不能とすることを明記するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
そして、前方位置において共回防止機構が「該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能と」することについては、本件特許明細書等の段落【0033】には、「(前略)・・・内径が小さくなることにより第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aとスプリング部63との摩擦が増大し、座部62がスプリング部63を介して装着部61に対して正転することが不能になる。また逆に装着部61に対して座部62が反転方向に回転した場合は、スプリング部63の内径が拡開するため、座部62はスプリング部63で回転を妨げられることなく装着部61に対して反転することができる。」との記載があり、前方位置において共回防止機構が先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とすることが読み取れるから、上記訂正事項3は本件特許明細書等に記載されたものということができる。
したがって、訂正事項3は、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(4)訂正事項4について
まず、訂正事項4のうち、本件訂正前の「正転・反転を許容する」を「正転と反転を可能とする」に訂正する点については、上記訂正事項1及び訂正事項3における検討と同様である。
次に、訂正事項4のうち、本件訂正前の「該後方位置において」を「該後方位置において該先端工具装着部との回転方向の係合を解除して」として特定事項を加えた点については、後方位置において共回防止機構の係合が解除されることを限定するもので、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、後方位置において共回防止機構が「該先端工具装着部との回転方向の係合を解除」することについては、本件特許明細書等の段落【0036】に、「(前略)・・・ビット10を押しつけることにより、図7に示されるように、スプリングクラッチ機構6に対してソケット51が後方位置へと移動するため、被掛止部62Bが掛止爪52Aに掛止されることはない。」との記載があり、後方位置において共回防止機構が先端工具装着部との回転方向の係合を解除することが読み取れるから、上記訂正事項4は本件特許明細書等に記載されたものということができる。
したがって、訂正事項4は、特許請求の範囲の減縮及び明瞭でない記載の釈明を目的とするものに該当し、本件特許明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(5)訂正事項5について
訂正事項5は、明細書段落【0027】記載中の「勘合」という用語を「嵌合」という正しい表記に訂正しようとするものである。したがって、訂正事項5は、誤記の訂正(特許法第134条の2第1項ただし書第2号)を目的とするものに該当し、願書に最初に添付した明細書及び図面(以下単に「当初明細書等」ということがある。)に記載された事項の範囲内で行われたことは明らかである。
したがって、訂正事項5は、誤記の訂正を目的とするものに該当し、願書に最初に添付した明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(6)訂正事項6について
訂正事項6は、図面の図7、図9及び図13記載の符号「62A」を「62B」という表記に訂正しようとするものであり、誤記の訂正(特許法第134条の2第1項ただし書第2号)を目的とするものに該当する。
そして、当初明細書等の段落【0032】の「・・・被掛止部62Bは第二スプリング装着部62Aの後端に設けられたつば部の後面から突出して構成されており・・・」なる記載、当初明細書等の図11(b)に記載された符号「62B」を参酌して合理的に考えれば、訂正前の図面の図7、図9及び図13記載の符号「62A」は、本来「62B」と記載すべきものであったことは明らかであり、当初明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものということができる。
したがって、訂正事項6は、誤記の訂正を目的とするものに該当し、願書に最初に添付した明細書等に記載された事項の範囲内で行われたものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。

(7)小括
したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書き、及び、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、上記訂正を認める。
なお、請求人も、上記訂正を認めることについては異論を有していない(平成26年11月6日付け請求人口頭審理陳述要領書第3ページ第3?5行)。

第3 本件訂正発明
本件特許の特許請求の範囲は、上記のとおり訂正が認められるから、訂正後の本件特許の請求項1ないし6に係る発明(以下「本件訂正発明1」等ということがある。また、これらをまとめて単に「本件訂正発明」ということがある。)は、本件訂正により訂正した特許請求の範囲並びに本件訂正により訂正した明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された次のとおりのものと認める。

「【請求項1】
ハウジングと、
正転方向と反転方向に回転駆動される出力軸部を備える駆動部と、
回転駆動されてネジを締め付ける先端工具を装着可能であり、前方位置と後方位置との間で移動可能な先端工具装着部と、
該駆動部と該先端工具装着部との間に介在し少なくとも該後方位置において該駆動部から該先端工具装着部へ駆動力を伝達するクラッチ機構と、
該ハウジングに装着され、該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし、該後方位置において該先端工具装着部との回転方向の係合を解除して該先端工具装着部の正転と反転を可能とする共回防止機構と、を備えることを特徴とするねじ締め機。
【請求項2】
該共回防止機構は、該ハウジングに固定される装着部と、該先端工具装着部と係合可能な係合部とを含んで構成され、該係合部は該装着部に対して反転のみ可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のねじ締め機。
【請求項3】
該係合部は、該先端工具装着部と係合する座部と、該座部と該装着部との間に介在し該装着部に対する反転のみを該座部に許容する正転防止部と、を含んで構成されていることを特徴とする請求項2に記載のねじ締め機。
【請求項4】
該先端工具装着部には該座部と係合する掛止部が設けられ、
該座部には該掛止部に係合される被掛止部が設けられていることを特徴とする請求項3に記載のねじ締め機。
【請求項5】
該正転防止部はスプリングであり、該共回防止機構はスプリングクラッチ機構であることを特徴とする請求項3または請求項4のいずれかに記載のねじ締め機。
【請求項6】
該共回防止機構は、ワンウェイクラッチを含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のねじ締め機。」

第4 請求人の主張
1 要点
請求人の主張する請求の趣旨は、本件訂正発明1ないし6についての特許を無効とする、との審決を求めるものである。
また、その請求の理由は、審判請求書、弁駁書及び平成26年11月6日付け及び平成26年11月27日付け口頭審理陳述要領書等の記載内容からみて、要点は以下のとおりである。

(1)無効理由1
ア 本件訂正発明1は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきものである。
また、本件訂正発明1は、甲第1号証または甲第2号証に記載された発明と甲第3号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきものである。

イ 本件訂正発明2ないし4及び6は、甲第1号証に記載された発明と同一であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許法第123条第1項第2号により無効とすべきものである。

(2)無効理由2
本件訂正発明1は、本件明細書に記載された課題を解決するものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由3
本件訂正発明5は、明細書の発明の詳細な説明に記載したものではなく、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
また、そのため本件請求項5が引用する請求項2ないし4に係る本件訂正発明2ないし4は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

2 証拠方法
請求人が提出した証拠方法は、以下のとおりである。
甲第1号証 特開平8-267367号公報
甲第2号証 特開2006-116657号公報
甲第3号証 実願平4-24336号(実開平5-85559号)の
CD-ROM
以上の証拠方法のうち、甲第1号証は、審判請求書(以下単に「請求書」ということがある。)に添付され、甲第2号証及び甲第3号証は、平成26年9月3日付け弁駁書に添付されたものである。また、これらの証拠方法の成立について、当事者間に争いはない(口頭審理調書の「被請求人」欄2)。

3 主張の概要
請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)無効理由1について
[甲第1号証を主な証拠とする主張]
ア 甲第1号証に開示されている発明をまとめると、甲第1号証には、以下の構成のねじ締め装置1が開示されていると認められる。
1a ハウジング2と、
1b 正転方向・反転方向に回転駆動される出力軸部を備えるモータと、
1c 回転駆動されてネジを締め付けるビット15を装着可能であり、ねじ締め時トルク非伝達位置とねじ締め時トルク伝達位置との間で移動可能な出力軸部材7と、
1d モータと出力軸部材7との間に介在し少なくともねじ締め時トルク伝達位置においてモータから出力軸部材7へ駆動力を伝達するクラッチスプリング16および駆動軸部材5と、
1e ハウジング2に装着されたベアリングに支持され、ねじ締め時トルク非伝達位置において出力軸部材7と係合して出力軸部材7の正転を抑制すると共に、反転を許容するワンウェイクラッチ12およびスライダー23と、ねじ締め時トルク伝達位置において出力軸部材7の正転・反転を許容するクラッチスプリング12および駆動軸部材5と、ワンウェイクラッチ12およびスライダー23と、
1f を備えることを特徴とするねじ締め装置1。(請求書第14ページ下から9行?第15ページ第8行)

イ ワンウェイクラッチ12およびスライダー23の機能をまとめると、「前方位置において出力軸部材7と係合して出力軸部材7の正転を抑制すると共に反転を許容し、後方位置において出力軸部材7の反転を許容する」と認められる。また同様に、クラッチスプリング12および駆動軸部材5の機能をまとめると、「後方位置において出力軸部材7の正転を許容する」と認められる。
さらに、これらのワンウェイクラッチ12およびスライダー23と、クラッチスプリング12および駆動軸部材5は、ベアリングに回転可能に支持されてその機能が達成され、それらの機能を全てまとめると、「前方位置において出力軸部材7と係合して出力軸部材7の正転を抑制すると共に反転を許容し、後方位置において出力軸部材7の正転・反転を許容する」と認められる。すなわち、ワンウェイクラッチ12およびスライダー23と、クラッチスプリング12および駆動軸部材5、およびベアリングによって達成される機能は、本件訂正前の請求項1に記載されている共回防止機構の機能と同一である。
すなわち、本件訂正前の請求項1に係る発明の共回防止機構の機能と、甲第1号証記載の発明の「ワンウェイクラッチ12、スライダー23、クラッチスプリング12、駆動軸部材5、およびベアリング」によって達成される機能とは、実質的な差がない。(請求書第16ページ第5行?下から3行)

ウ 甲第1号証においては、下に示す図1に示されるように、出力軸部材7が圧縮ばね24によって前方に付勢され、ハウジング2に装着された図中の青色の部材(請求人はこれを「青色部材」と称する。なお、青色は請求人が付したものである。)と当接する。具体的には、出力軸部材7のフランジ状部分の前側の端面が、青色部材に当接する。

(甲第1号証の請求人が着色した図1)


この青色部材と出力軸部材7においては、圧縮ばね24に付勢されて出力軸部材7が青色部材に当接することで、出力軸部材7と青色部材の間には、回転方向の摩擦力が生じる。回転方向の摩擦力を上回る駆動力が作用する場合には出力軸部材7は回転が可能となり、一方で、上記駆動力が作用しない場合には出力軸部材7の回転が不能となる。換言すると、青色部材は、前方位置において出力軸部材7と回転方向に回転可能な状態で係合している。
出力軸部材7が青色部材に当接した状態では、駆動軸部材5の正転は、クラッチスプリング16によって出力軸部材7に伝達されない(甲第1号証段落【0016】参照)。すなわち、上記駆動力が作用せず、青色部材は摩擦力を利用することで出力軸部材7の回転(正転)を不能とする。したがって、出力軸部材7が前方位置に位置する時には、青色部材が、出力軸部材7と出力軸部材7が回転方向に回転可能な状態で係合して、出力軸部材7の正転が不能となる。
一方、駆動軸部材5の逆方向の回転は、出力軸部材7が青色部材に当接した状態で、ワンウェイクラッチ12の働きにより出力軸部材7に伝達され、ねじ緩め作業が行われる(同段落【0020】参照)。すなわち、出力軸部材7と青色部材の間の摩擦力を上回る駆動力が出力軸部材7に作用し、これにより出力軸部材7の回転(反転)を可能とする。したがって、出力軸部材7が前方位置に位置する時には、青色部材が、出力軸部材7と出力軸部材7が回転方向に回転可能な状態で係合して、出力軸部材7の反転が可能となる。
なお、出力軸部材7が押し込まれた後方位置においては、青色部材は、出力軸部材7との係合を解除することは明らかである。当該後方位置においては、クラッチスプリング16の働きにより駆動軸部材5の回転が出力軸部材7に伝達され(同段落【0017】参照)、ワンウェイクラッチ12の働きにより駆動軸部材5の回転が出力軸部材7に伝達される(同段落【0020】参照)。
以上のとおり、甲第1号証には、前方位置において出力軸部材7と出力軸部材7が回転方向に回転可能な状態で係合して出力軸部材7の正転を不能とすると共に反転を可能とし、後方位置において出力軸部材7との回転方向に回転可能な状態での係合を解除して出力軸部材7の正転と反転を可能とする青色部材が設けられている。(弁駁書第5ページ第1行?第6ページ末行)

エ 甲第1号証に開示された発明は、出力軸部材7が前方位置に位置する場合に、クラッチスプリング16によってモータのトルクが出力軸部材7に伝達されないことを意図して構成されている。そのため、出力軸部材7を積極的に正転させる力は作用せず、仮に、答弁書において被請求人が主張するような「クラッチスプリング16またはワンウェイクラッチ12と、出力軸部材7との間において、幾分かの摩擦が存在」したとしても、出力軸部材7は、圧縮ばね24に付勢されて青色部材との間には明確に意図された垂直抗力が生じており、当該垂直抗力に基づく摩擦力の方が、「幾分かの摩擦」によって出力軸部材7を正転しようとする力を上回るように構成される。すなわち、青色部材が出力軸部材7の正転を不能とすることが甲第1号証に開示された発明の本質である。
また、甲第1号証の段落【0020】には「一方逆転時(左回転、すなわち反時計方向回転時)はワンウェイクラッチ12の働きによりモータが回転すると、ただちに駆動軸部材5の回転力はスライダー23、案内軸21を介し出力軸部材7に伝達され、ねじ緩め作業が行われる。」と記載されている。このように、ワンウェイクラッチ12の働きにより出力軸部材7の反転を可能に構成することは、圧縮ばね24の付勢力により出力軸部材7と青色部材の間に当然生じ得る摩擦力の影響を考慮した上で構成されるものである。すなわち、出力軸部材7と青色部材の間に摩擦力が生じる状態において、出力軸部材7の反転を可能とするように出力軸部材7を駆動することが甲第1号証に開示された発明の本質であると認められる。
以上のとおり、圧縮ばね24の付勢力に起因して必然的に生じる摩擦力の存在に基づいた発明である甲第1号証に開示された発明においては、青色部材は、前方位置において出力軸部材7と回転方向に係合して出力軸部材7の正転を不能とすると共に反転を可能とするものであると認められる。(平成26年11月27日付け請求人口頭審理陳述要領書第4ページ下から6行?第5ページ下から4行)

オ 本件訂正発明1の構成要素1E’(該ハウジングに装着され、該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし、該後方位置において該先端工具装着部との回転方向の係合を解除して該先端工具装着部の正転と反転を可能とする共回防止機構と)のうち「回転方向に係合」とは、回転方向に回転可能な状態で係合する構成、回転方向に延在する面が係合する構成、回転方向に並んだ要素同士が係合する構成等、多義的に解釈され得る記載である。
そうすると、構成要素1E’のうち「回転方向に係合」は、甲第1号証の、青色部材が、出力軸部材7と出力軸部材7が回転方向に回転可能な状態で係合する構成に該当する。したがって、構成要素1E’は、甲第1号証の「ハウジング2に装着され、前方位置において出力軸部材7と回転方向に係合して出力軸部材7の正転を不能とすると共に反転を可能とし、後方位置において出力軸部材7との回転方向の係合を解除して出力軸部材7の正転と反転を可能とする青色部材」に該当する。
以上のとおり、甲第1号証には、本件訂正発明1の全ての構成要素が開示されており、本件訂正発明1と甲第1号証に開示された技術とは実質的に差異がなく、本件訂正発明1は発明の新規性を有しない。(弁駁書第12ページ第8行?下から7行)

カ 構成要素1E’のうち「回転方向に係合」は、甲第3号証の、係止部11aが、回転方向に並んだ係止部8aと係合する構成に該当する。
ここで、甲第1号証のねじ締め装置1と甲第3号証のスクリュドライバは、技術分野において共通し、すなわち技術分野の関連性が認められる。したがって、甲第3号証の技術を関連する技術分野である甲第1号証の技術に適用することの動機付けが存在し、これにより、構成要素1E’は、甲第1号証に甲第3号証を適用した構成である「ハウジング2に装着され、前方位置において出力軸部材7と回転方向に係合して出力軸部材7の正転を不能とすると共に反転を可能とし、後方位置において出力軸部材7との回転方向の係合を解除して出力軸部材7の正転と反転を可能とする青色部材」に該当する。
以上のとおり、本件訂正発明1の属する技術の分野における通常の知識を有する者は、甲第1号証記載の発明に甲第3号証記載の事項を適用することで、本件訂正発明1の全ての構成要素に想到することができ、本件訂正発明1は発明の進歩性を有しない。(弁駁書第14ページ第11行?下から2行)

[甲第2号証を主な証拠とする主張]
キ 甲第2号証記載のスピンドル117と軸受141においては、圧縮コイルバネ149に付勢されてスピンドル117が軸受141に当接することで、スピンドル117と軸受141の間には、回転方向の摩擦力が生じる。回転方向の摩擦力を上回る駆動力が作用する場合にはスピンドル117は回転が可能となり、一方で、上記駆動力が作用しない場合にはスピンドル117の回転が不能となる。換言すると、軸受141は、前方位置においてスピンドル117とスピンドル117が回転方向に回転可能な状態で係合している。
同様に、スピンドル側クラッチ部材135は、圧縮コイルバネ149に付勢されて、ストッパリング127に当接することで、スピンドル側クラッチ部材135とストッパリング127の間には、回転方向の摩擦力が生じる。回転方向の摩擦力を上回る駆動力が作用する場合にはスピンドル側クラッチ部材135は回転が可能となり、一方で、上記駆動力が作用しない場合にはスピンドル側クラッチ部材135の回転が不能となる。換言すると、ストッパリング127は、前方位置においてスピンドル側クラッチ部材135とスピンドル側クラッチ部材135が回転方向に回転可能な状態で係合している。
また、スピンドル側クラッチ部材135とストッパリング127は、テーパ面で当接しており、換言すると、ストッパリング127は、スピンドル側クラッチ部材135に形成された回転方向に延在する面(周方向の面)と係合している。(弁駁書第7ページ下から4行?第8ページ第14行)

ク まとめると、甲第2号証には、前方位置においてスピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135とスピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135が回転方向に回転可能な状態で係合してスピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135の正転を不能とすると共に反転を可能とし、後方位置においてスピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135との回転方向に回転可能な状態での係合を解除してスピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135の正転と反転を可能とする軸受141およびストッパリング127が設けられていることが記載されている。(弁駁書第10ページ第10?17行)

ケ 本件訂正発明1と甲第2号証に開示された技術を対比すると、
本件訂正発明1の構成要素1Aは、甲第2号証の「クラッチハウジング107」に該当し、以下同様に、
構成要素1B’は、「駆動モータ111」に該当し、
構成要素1Cは、「スピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135」に該当し、
構成要素1Dは、「駆動側クラッチ部材133およびクラッチカム137」に該当し、
構成要素1Fは、「スクリュードライバ101」に該当する。
また、構成要素1E’のうち「回転方向に係合」とは、回転方向に回転可能な状態で係合する構成、回転方向に延在する面が係合する構成、回転方向に並んだ要素同士が係合する構成等、多義的に解釈され得る記載である。
そうすると、構成要素1E’のうち「回転方向に係合」は、甲第2号証の、軸受141が、スピンドル117とスピンドル117が回転方向に回転可能な状態で係合する構成、またはストッパリング127が、スピンドル側クラッチ部材135とスピンドル側クラッチ部材135が回転方向に回転可能な状態で係合する構成、あるいは、ストッパリング127が、スピンドル側クラッチ部材135の回転方向に延在する面に係合する構成に該当する。
したがって、構成要素1E’は、甲第2号証の「前方位置においてスピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135と回転方向に係合してスピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135の正転を不能とすると共に反転を可能とし、後方位置においてスピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135との回転方向の係合を解除してスピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135の正転と反転を可能とする軸受141およびストッパリング127」に該当する。
以上のとおり、甲第2号証には、本件訂正発明1の全ての構成要素が開示されており、本件訂正発明1と甲第2号証に開示された技術とは実質的に差異がなく、本件訂正発明1は発明の新規性を有しない。(弁駁書第12ページ下から5行?第13ページ下から4行)

コ 甲第2号証に開示された発明は、スピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135が前方位置に位置する場合に、クラッチ機構131によって駆動モータ111の回転力がスピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135に伝達されないことを意図して構成されている。そのため、スピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135を積極的に正転させる力は作用しない。すなわち、軸受141およびストッパリング127が、スピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135の正転を不能とすることが甲第2号証に開示された発明の本質であると認められる。(平成26年11月27日付け請求人口頭審理陳述要領書第7ページ下から8行?末行)

サ クラッチ機構131の働きによりスピンドル117の反転を可能に構成することは、圧縮コイルバネ149の付勢力によりスピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135と軸受141およびストッパリング127の間に当然生じ得る摩擦力の影響を考慮した上で構成されるものである。すなわち、スピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135と軸受141およびストッパリング127の間に摩擦力が生じる状態において、スピンドル117の反転を可能とするようにスピンドル117を駆動することが甲第2号証に開示された発明の本質であると認められる。
以上のとおり、圧縮コイルバネ149による付勢力によって必然的に生じる摩擦力の存在に基づいた発明である甲第2号証に開示された発明においては、軸受141およびストッパリング127は、前方位置においてスピンドル117およびスピンドル側クラッチ部材135と回転方向に係合してスピンドル117の正転を不能とすると共に反転を可能とすることであると認められる。(平成26年11月27日付け請求人口頭審理陳述要領書第8ページ第8行?下から5行)

シ 甲第1号証において指摘した(弁駁書第14ページ第11行?下から2行)のと同様の理由により、甲第2号証に甲第3号証を適用することで、本件訂正発明1の全ての構成要素に想到することができ、本件訂正発明1は発明の進歩性を有しない。(弁駁書第14ページ末行?第16ページ第2行)

(2)無効理由2について
ア 本件特許明細書には、本件発明が解決しようとする課題として、特許明細書の段落【0003】および段落【0004】に2つの課題が記載されている。
すなわち、段落【0003】には「特許文献1の電動工具では、一般にクラッチ機構での摩擦の発生は先端工具を被加工材に押しつけることにより発生するが、クラッチ機構が切られた状態においても、わずかに摩擦が発生する場合があった。この場合に先端工具に僅かに動力が伝達されて共回りし、先端工具をねじに沿わす際に不都合が生じていた。これを防止するために、先端工具を保持する先端工具装着部とハウジングとの間にOリングが噛ませてあるが、このOリングは使用により劣化するため、長期に渡って工具を使用すると共回り防止の効果が得られなくなっていた。」と記載されている。
また、段落【0004】には「特に被加工材に施工したねじを外す際には、先端工具を被加工材に押しつけない状態で逆転させる場合があるが、この場合に先端工具が共回りすると先端工具を外すねじに合わせ難い場合があった。」と記載されている。
段落【0003】によれば、Oリングは使用により劣化することが記載されている。したがって、段落【0003】の記載から把握される本件訂正発明が解決する第1の課題は、Oリングを使用することなく共回りを防止することであると認められる。
また、段落【0004】によれば、ねじを外す際に先端工具を被加工材に押し付けない状態において、先端工具が共回りすると先端工具を外すねじに合わせ難いことが記載されている。したがって、段落【0004】の記載から把握される本件訂正発明が解決する第2の課題は、先端工具を逆転させる場合で先端工具を被加工材に押し付けない状態において、先端工具の共回りを防止することであると認められる。
一方、本件訂正発明1では、共回りの防止に関して、構成要素1E'において「該ハウジングに装着され、該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし、該後方位置において該先端工具装着部との回転方向の係合を解除して該先端工具装着部の正転と反転を可能とする共回防止機構と、」と特定されている。この構成要素1E'における記載は、共回防止機構の機能を単に特定するものであって、共回防止機構の具体的な構造については何ら特定されていない。
そうすると、共回防止機構の具体的な構造が特定されていない以上、本件訂正発明1は、Oリングを使用して共回りを防止するような共回防止機構も含む発明であると認められる。すなわち、本件訂正発明1は、Oリングを使用することなく共回りを防止する第1の課題を解決できない発明までをも含むものであり、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えていると認められる。
したがって、本件訂正発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
また、本件訂正発明1では、共回防止機構の機能として、構成要素1E'に おいて「該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし」と特定されている。すなわち、本件訂正発明1の共回防止機構は、ねじを外す際に先端工具を被加工材に押し付けない状態である先端工具装着部が前方位置に位置する場合において、先端工具装着部の反転を許容するものである。
しかしながら、前述の通り、段落【0004】に記載された本件訂正発明が解決する第2の課題は、ねじを外す際に先端工具を被加工材に押し付けない状態において、先端工具の共回りを防止することであり、本件訂正発明1の共回防止機構の機能は、当該第2の課題と矛盾する。換言すると、本件訂正発明1は、第2の課題を解決できないことが明らかであるため、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えていると認められる。
したがって、本件訂正発明1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。(請求書第20ページ第5行?第22ページ第3行、平成26年12月4日付け請求人上申書第5ページ第13行?第7ページ末行)

イ 本件訂正発明1の「先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし」との記載に関しては、「先端工具装着部と係合して」が「先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし、」全体に係るのか、あるいは「先端工具装着部の正転を不能とする」のみに係るのか不明確であり、「先端工具装着部と係合して」が「先端工具装着部の正転を不能とする」のみに係る場合には、本件訂正発明1は共回防止機構が先端工具装着部と係合することなく先端工具装着部の反転を可能とする構成が含まれることとなると思われる。
一方で、本件特許明細書には、段落【0040】において、「ビット10に充分な反力が得られない場合は、図13に示されるように、ソケット51が後方位置へと移動しないため、被掛止部62Bが掛止爪52Aに掛止し、ソケット51と座部62とが一体回転する構成を採る。この場合、座部62は、装着部61に対して反転可能なため、スプリングクラッチ機構6がソケット51の反転を妨げることはない。」と記載され、さらに段落【0041】において「上述のようにビット10に反力が得られない場合には被掛止部62Bが掛止爪52Aに掛止して先端工具装着部5と座部62とが一体回転する構成を採り、かつ座部62は装着部61に対して正転できないため、ソケット51がクラッチ部4と共回りすることが抑制される。」と記載されている。
上記のとおり、本件特許明細書には、共回防止機構が先端工具装着部と係合して先端工具装着部の正転を不能とし、共回防止機構が先端工具装着部と係合して先端工具装着部の反転を可能とすることが開示されている。しかしながら、共回防止機構が先端工具装着部と係合することなく先端工具装着部の反転を可能とする構成は開示されていない。
すなわち、本件訂正発明1の「先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし」との記載は、共回防止機構が先端工具装着部と係合することなく先端工具装着部の反転を可能とする構成を含むものであるが、そのような発明は本件特許明細書に記載したものではなく、本件訂正発明1は、特許法第36条第6項第1項の規定を満たしていない。(平成26年11月6日付け請求人口頭審理陳述要領書第3ページ下から4行?第4ページ末行、口頭審理調書の「請求人」欄3)

(3)無効理由3について
ア 本件特許明細書の段落【0032】及び【0033】の記載によれば、スプリングクラッチ機構6は、装着部61と、係合部を構成する座部62およびスプリング部63を有し、装着部61は、ハウジング2に対して回転不能に固定されている。一方、係合部を構成する座部62は、「装着部61に対して座部62が正転した際」(段落【0033】)との記載から、装着部61に対して座部62は正転可能であることが明らかである。そして、スプリングクラッチ機構6においては、装着部61に対して座部62がある程度正転した後に、「座部62がスプリング部63を介して装着部61に対して正転することが不能になる」(段落【0033】)と認められる。
すなわち、発明の詳細な説明に記載されたスプリングクラッチ機構6においては、装着部61に対して座部62が多少正転可能であり、それ以外のスプリングクラッチ機構については発明の詳細な説明には何ら記載されていない。
一方、特許請求の範囲の請求項5には「該正転防止部はスプリングであり、該共回防止機構はスプリングクラッチ機構であること」と記載され、換言すると、本件訂正発明5は、係合部が装着部に対して反転のみ可能に構成されたスプリングクラッチ機構である。
したがって、係合部が装着部に対して反転のみ可能に構成されたスプリングクラッチ機構が特定されている本件訂正発明5は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。(請求書第22ページ第15行?第24ページ第9行)

イ また、本件訂正発明2ないし4は、本件訂正発明5を含む発明であるが、前述アのとおり、本件訂正発明5が、発明の詳細な説明に記載されていないため、本件訂正発明5が引用する本件訂正発明2ないし4の技術的範囲が不明確となっている。そのため、本件訂正発明2ないし4は、特許法第36条第6項第2号の規定を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである(請求書第24ページ第10?21行)。

第5 被請求人の主張
1 要点及び証拠方法
これに対し、被請求人は、以下の理由、証拠方法に基づき、本件審判請求は成り立たないとの審決を求めている。

乙第1号証 弁理士会研修所編「基本テキスト 特許・実用新案の
明細書・図面の作成要領」、第4章 機械関係の明細書、
昭和62年12月25日、弁理士会発行、第34ページ
なお、上記証拠方法の成立について、当事者間に争いはない(口頭審理調書の「請求人」欄2)。

2 主張の概要
被請求人の主張の概要は、以下のとおりである。

(1)無効理由1に対する反論
ア 甲第1号証について、請求人は弁駁書において、青色部材なる部材の機能について主張している。しかし、この青色部材には参照番号すら付されていない。また、特に請求人が主張する、フランジ部材の回転を阻止するという技術的効果に関して、何らの説明もない。請求人の主張は根拠を欠くものである。
青色部材とは出力部材7の回転と軸方向の移動を許容するための軸受であり、これが平滑な材料で形成されていることは明らかである。つまり、出力部材7のフランジと軸受の端面が当接している状態でも、フランジ部材の回転を積極的に阻止することは考えられない。すなわち、フランジ部材は、青色部材に対して相対的に回転可能に当接する。したがって、青色部材とフランジ部材は、回転方向の係合を構成しない。そもそも、請求人の主張は、機械工学上不可避的な現象(どんな部材にも摩擦は発生する等)について根拠を置くものであり、発明の本質や技術的効果を前提としたときの技術的事項とはかけ離れた議論をしているに過ぎない。仮に、請求人の主張の通り、青色部材と出力部材との摩擦に技術的な根拠があるとしても、青色部材は、前方位置において出力部材に影響を及ぼし、正転も反転も阻止していることになり、これは本件特許発明と全く異なる構成である。(平成26年11月6日付け被請求人口頭審理陳述要領書第4ページ下から10行?第5ページ第7行)

イ 平成26年11月27日付け請求人口頭審理陳述要領書における、説明図の図1ないし図3cの例示については、「相対回転を阻止」するか否かは部材の形状により定まるものではなく、係合する部分の相対回転が阻止されるかどうかは、当接部分に作用する回転力と、当接部分に発生する反力つまり摩擦力との関係も考慮することによって定まる。したがって、当該口頭審理陳述要領書の上記説明図に示されるような形状に限定されるものではない。(口頭審理調書の「被請求人」欄3)

ウ 甲第3号証の11ページで、係止部8a,11aの「傾斜角度をほぼ0度にする」とはどのような構成になるのか不明である。単なる平面になるという意味であれば、金属部材の平滑な平面同士の接触となるため、係止部は存在しなくなると考えられる。そうすると前方位置での回転を阻止できない。このとき、係止部8aは、係止部11aに対して相対的に回転可能に当接する。したがって、係止部8a,11aは、回転方向の係合を構成しない。
特許明細書中から明らかなように、前方位置において係止部11aは、主軸6の正転も反転も阻止している。一方、本件特許発明には、前方位置において反転を阻止するような構成はない。(平成26年11月6日付け被請求人口頭審理陳述要領書第6ページ下から7行?第7ページ第2行)

(2)無効理由2に対する反論
ア 請求人が引用する本件特許明細書の段落【0003】と段落【0004】の一部の記載は、従来のねじ締め機においては共回りの防止が不十分であったという背景を、具体的に想定される場面を例に挙げ述べているに過ぎない。段落【0003】と段落【0004】で述べていることは、要するに、従来のねじ締め機ではOリングの劣化により共回りの防止が不十分となることがあったので、本発明ではより確実に共回りを防止したねじ締め機を提供することを目的とする、ということである。(答弁書第12ページ第4?10行)

イ 乙第1号証によれば、「係合」とは通常は「かかわり合うこと」を意味するものである。よって通常の意味をもって解釈すれば「回転方向に係合」とは「回転方向にかかわり合うこと」を意味するものである。(平成26年11月6日付け被請求人口頭審理陳述要領書第2ページ末行?第3ページ第5行)

(3)無効理由3に対する反論
ア 「正転した際」という記載は、正転をしようとする力が働いた直後にスプリング部63の反力によって座部61の動きが制止される状態を説明するために用いられる。すなわち、座部62の正転が起きないか、或いは正転しても実際上無視できる程度の微かな変位であり、実質的に座部62が反転のみ可能であることは、図面や特許明細書の記載から、発明が属する技術分野の通常の知識を有する者にとって明らかである。このような係合部の構成を装着部に対して、請求項2の如く「反転のみ可能」と記載することは、図面や明細書等の記載と何ら矛盾しない。(答弁書第13ページ第14?21行)

第6 無効理由についての当審の判断
1 各甲号証の記載内容
請求人が提出した証拠である甲第1ないし3号証には、以下の発明または事項が記載されている。なお、下線は理解の便のため、当審にて付したものである。

(1)甲第1号証
ア 甲第1号証に記載された事項
甲第1号証は、「ねじ締め装置及びクラッチ機構」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)特許請求の範囲
「【請求項1】 駆動装置からの動力を伝達する駆動軸部材と、ビットを保持し、軸方向に移動可能に支持された出力軸部材と、前記出力軸部材と前記駆動軸部材間とを互いに離隔させるよう作用する圧縮ばねと、前記出力軸部材に伝達される回転力を出力軸の所定移動量で遮断するねじ締め装置において、前記駆動軸部材と前記出力軸部材の同軸上に、各々の円筒面にまたがってクラッチスプリングがコイル状に配設されているとともに、前記出力軸部材及び前記駆動軸部材のどちらか一方に前記クラッチスプリングの一部を固定し、かつ他方の部材に前記クラッチスプリングの一部を前記出力軸の移動に応じて係止可能な手段を設けたことを特徴とするねじ締め装置。」

(イ)
「【0011】
【発明の実施の形態】
<第1実施例>以下、本発明の実施の形態を好ましい実施例によって説明する。図1は本発明のねじ締め装置の第1実施例を示す断面図である。ねじ締め装置1のハウジング2の先端にストッパスリーブ3がねじ込みで取り付けられている。ストッパスリーブ3を回転させることにより、ハウジング2との相対距離を調節でき、よって後述するようにねじ送り距離(深さ)が調節可能となる。ハウジング2内では図示省略のモータの出力軸に取り付けらけられたピニオン4が駆動軸部材5の外周に設けられたギヤ6と噛み合っている。
【0012】駆動軸部材5のギヤ6より、図中下方、すなわち出力軸部材7側の部分には環状のシュー8が設けられている。このシュー8はその内壁面8aがテーパー状に傾斜している。具体的には、この傾斜した内壁面8aは駆動軸部材5の中心軸と同軸の円錐の外周面の一部に一致する。角度θは上記中心軸に対する内壁面8aのテーパー状傾斜を示すものである。シュー8の内側には出力軸部材7側に伸長するスリーブ(円筒)S1があり、これら、駆動軸部材5、ギヤ6、シュー8、スリーブS1は一体の部材で作られている。スリーブS1は駆動軸円筒外面10と駆動軸円筒内面11により画定されている。駆動軸円筒内面11により画定された内部空間内にはローラ形ワンウェイクラッチ12が収納・固定されている。駆動軸円筒外面10の出力軸部材7側の端部近傍は先端にいく程、外径が小さくなるようなテーパー部T1を有している。」

(ウ)
「【0013】出力軸部材7の先端部14はビット15が着脱自在に取り付けられるよう構成されている。出力軸部材7は出力軸円筒外面19と、出力軸円筒内面20及びこれに連続する内面により画定される環状部分あるいはスリーブS3を有する。出力軸部材7の駆動軸部材5に面する部位(図中上方)の外周、すなわち出力軸円筒外面19には図2に示されるように後述するクラッチスプリング16の一端16bを常時係止するための軸方向に伸長する溝18が設けられている。出力軸円筒内面20には駆動軸部材5に面する側からビット15の方向に向って内径が小さくなる傾斜面、すなわちテーパー部T2が設けられ、その傾斜角はスリーブS1のテーパー部T1の傾斜角と一致している。
【0014】出力軸部材7のスリーブS3の内側には駆動軸部材5方向に伸長する案内軸21があり、案内軸21の外周にスプライン22が設けられている。ワンウェイクラッチ12の内周には中空円筒状のスライダー23が取り付けられている。スライダー23は案内軸21上のスプライン22に結合するための案内スプライン17を有し、かつ出力軸部材7から圧縮ばね24により駆動軸部材5側に(図中上方に)押圧付勢されている。クラッチスプリング16は全体がコイルスプリング状であり、これを構成するばね素線の断面は円形状である。」

(エ)
「【0015】クラッチスプリング16は密着巻きで、その素線巻き方向は左巻きで、駆動軸部材5の正転(右回転、すなわち時計方向回転)によって巻き込まれる方向(ばねがきつく巻き付く方向)にある。なお、図2に示すようにクラッチスプリング16の一端(図1及び図2では下方端部)16bは軸方向に伸長している。クラッチスプリング16の下方端部16bは出力軸部材7の溝18に挿入されて固定・係止されるとともにクラッチスプリング16の下方部分は出力軸円筒外面19に適当な締め代を持って取り付けられる。一方、クラッチスプリング16の図中上方部分は、駆動軸部材5の駆動軸円筒外面10とは隙間を持って配されるとともにその端部は図3に示すように一部外径を大きく成形される。なお、図2に示されるようにクラッチスプリング16の下方端部16bは軸方向に伸長しているが、上方端部16aは図3にも示すように軸方向に伸長する部分を有していない。クラッチスプリング16の上方端部16aは図3の平面図に示すように、外径が大きくなっている。」

(オ)
「【0016】以上のように構成された第1実施例のねじ締め装置1の動作を説明する。ビット15の先端にねじ25を取り付け、図示省略のモータを回転させる。モータからの出力はピニオン4からギヤ6に伝達され、駆動軸部材5が右回転する。この時点ではクラッチスプリング16は駆動軸円筒外面10とは隙間を有しているので、トルクは出力軸部材7には伝達されていない。この状態からねじ締め装置1の操作者が推力を加えて被締結材にねじ25を押し付けると、出力軸部材7は相対的に駆動軸部材5方向に圧縮ばね24に抗して移動し、図4の状態になる。この時点では、ストッパスリーブ3の先端3aは被締結材には接触していない。
【0017】このときクラッチスプリング16の上方端部16aはシュー8の内壁面8aに当接する。この当接により、クラッチスプリング16の上方端部16aはシュー8の内壁面8aとの摩擦で、駆動軸部材5とともに回転しようとし、またシュー8の内壁面8aのテーパー形状における角度θの分力により駆動軸円筒外面10に押し付けられ、シュー8の内壁面8aと駆動軸円筒外面10に挟まれる。よって、クラッチスプリング16の上方部分の内径がわずかに小さくなり、クラッチスプリング16の上方部分は駆動軸円筒外面10に巻き付き、駆動軸部材5とともに回転を開始し、よって出力軸部材7にトルクを伝達する。このように負荷伝達時には駆動軸部材5のテーパー部T1と出力軸部材7のテーパー部T2は同軸で重なり合っている。」
(カ)
「【0020】一方逆転時(左回転、すなわち反時計方向回転時)はワンウェイクラッチ12の働きによりモータが回転すると、ただちに駆動軸部材5の回転力はスライダー23、案内軸21を介し出力軸部材7に伝達され、ねじ緩め作業が行われる。このため、従来の爪クラッチを用いる場合、爪と爪を噛み合せるためねじ緩め作業のたびにストッパスリーブ3を上げて、ビット15の先端と締め付けたねじの頭を噛ませていたが、その必要がなく作業効率を上げることができる。クラッチスプリング16の素線の断面形状は角形、楕円形等であってもよいし、シュー8と接触する端部形状は外形を大きくしてあるが、特にその形状は駆動軸円筒外面10への押し付け力が小さくできるならばどのような形でもよい。スプラインの代わりにキー、ボールスプライン等であってもよい。」

(キ)図1
下に示す図1によれば、出力軸部材7の円筒部外周にスリーブ状の部材(図1の左下がりにハッチングされた部材)が外装され、その上端面が出力軸部材7のフランジ状の部材の端面と接していることが看て取れる。



(ク)図4
下の図4に示す状態では、駆動軸部材5と出力軸部材7とが互いに密着していることが看て取れる。


イ 甲第1号証記載の発明
上記摘記事項ア(オ)のクラッチスプリング16が駆動軸円筒外面10とは隙間を有し、ねじ締め時トルクが出力軸部材7には伝達されていない状態においては、出力軸部材7は請求人の表現(上記第4の3(1)ア)に倣って「ねじ締め時トルク非伝達位置」にあるということができる。
同様に上記ア(ク)にて示した図4及び関連する摘記事項ア(オ)の「ねじ締め装置1の操作者が推力を加えて被締結材にねじ25を押し付けると、出力軸部材7は相対的に駆動軸部材5方向に圧縮ばね24に抗して移動し、図4の状態となる」と出力軸部材7にトルクを伝達されることとなるので、出力軸部材7は請求人の表現(上記第4の3(1)ア)に倣って「ねじ締め時トルク伝達位置」にあるということができる。
次に、上記摘記事項ア(イ)の駆動軸内に収納された「ワンウェイクラッチ12」は、ハウジング2に収納されているものといえ、また、摘記事項ア(カ)に、「逆転時・・・はワンウェイクラッチ12の働きによりモータが回転すると、ただちに・・・の回転力はスライダー23、案内軸21を介し出力軸部材7に伝達され」とあることから、逆転時には、ねじ締め時トルク非伝達位置及びねじ締め時トルク伝達位置いずれにおいても、ワンウェイクラッチ12により、モータから該出力軸部材7へトルクが伝達されるものといえる。

そこで、上記摘記事項ア(ア)ないし(カ)及び認定事項ア(キ)及び(ク)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて本件訂正発明1に照らして整理すると、甲第1号証には以下の発明が記載されていると認める(以下「甲1発明」という。)。
「ハウジング2と、
正転方向と逆転方向に回転駆動される出力軸を備えるモータと、
回転駆動されてねじ25を締め付けるビット15が着脱自在であり、ねじ締め時トルク非伝達位置とねじ締め時トルク伝達位置との間で移動可能な出力軸部材7と、
該モータと該出力軸部材7との間に介在し該ねじ締め時トルク伝達位置において該モータから該出力軸部材7へトルクを伝達するクラッチスプリング16及び駆動軸部材5と、
該ハウジング2に装着され、逆転時には、該ねじ締め時トルク非伝達位置及び該ねじ締め時トルク伝達位置いずれにおいても、モータから該出力軸部材7へトルクを伝達するワンウェイクラッチ12と、
該出力軸部材7の円筒部外周に外装され、その上端面が該出力軸部材7のフランジ状の部材の端面と接するスリーブ状の部材と、を備えるねじ締め装置1。」

(2)甲第2号証
ア 甲第2号証に記載された事項
甲第2号証には、「締付け工具」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)
「【0015】
(第1の実施形態)
以下、本発明の第1の実施形態につき、図1?図16を参照しつつ詳細に説明する。本実施の形態は、作業工具の一例として電動スクリュドライバを用いて説明する。図1には電動スクリュドライバ101の全体構成が示されている。本実施の形態に係る電動スクリュドライバ101は、概括的に見て、本体部103、当該本体部103の先端領域(図示右側)にスピンドル117を介して着脱自在に取付けられたドライバビット119、本体部103におけるドライバビット119の反対側に連接されたハンドグリップ109を主体として構成される。本体部103は、本発明における「本体部」に対応し、スピンドル117は、本発明における「被動軸」に対応し、またドライバビット119は、本発明における「工具ビット」に対応する。なお本実施の形態では、説明の便宜上、ドライバビット119側を前側とし、ハンドグリップ109側を後側とする。
【0016】
本体部103は、駆動モータ111を収容するモータハウジング105と、駆動モータ111の回転出力をスピンドル117に伝達し、あるいは回転出力の伝達を遮断するクラッチ機構131を収容するクラッチハウジング107を主体にして構成される。駆動モータ111は、ハンドグリップ109に設けたトリガ121を引き操作することで通電駆動され、トリガ121の引き操作を解除することで停止し、また図示省略の正逆転切替スイッチ(回転方向切替部材)を切替操作することで回転方向が正転方向と逆転方向に切替可能とされる。この駆動モータ111は、本発明における「モータ」に対応する。
なお本実施の形態は、駆動モータ111の正転駆動によって被加工材W(図3参照)に対するネジSの締付け作業を遂行し、駆動モータ111の逆転駆動によってネジSの締付け解除作業を遂行する構成であり、以下の説明では、クラッチ機構131が駆動モータ111の正転方向の回転力によって駆動されるときの当該クラッチ機構131の回転を正転あるいは正転方向の回転といい、クラッチ機構131が駆動モータ111の逆転方向の回転力で駆動されるときの回転を逆転あるいは逆転方向の回転という。」

(イ)
「【0017】
クラッチ機構131の詳細な構成が図2に示される。クラッチ機構131は、駆動モータ111によって回転駆動される駆動側クラッチ部材133と、当該駆動側クラッチ部材133側に配置されるクラッチカム137と、スピンドル117に設けられたスピンドル側クラッチ部材135とを主体にして構成され、それらは全て同軸上に配置される。駆動側クラッチ部材133は、本発明における「駆動側クラッチ体」に対応し、スピンドル側クラッチ部材135は、本発明における「被動側クラッチ体」に対応し、クラッチカム137は、本発明における「補助クラッチ体」に対応する。
【0018】
駆動モータ111を正転駆動して電動スクリュドライバ101をネジSの締付け作業に使用する場合にあっては、クラッチ機構131は、概略的には、スピンドル117に保持されたドライバビット119がネジSを介して被加工材Wに押し付けられることで、スピンドル側クラッチ部材135のクラッチ歯135aがクラッチカム137のクラッチ歯137aおよび駆動側クラッチ部材133のクラッチ歯133aに噛み合い係合し、ドライバビット119の押し付けが解除されることで、弾性部材としての圧縮コイルバネ149の付勢力によって上記の噛み合い係合が解除される構成である。以下の説明では、ドライバビット119がネジSを介して被加工材Wに押し付けられ、スピンドル117に対して本体部103内に押し込む(後退動作する)方向の力が作用した状態を負荷状態または負荷時といい、スピンドル117に上記の力が作用していない状態を無負荷状態または無負荷時という。また駆動側クラッチ部材133のクラッチ歯133aを駆動側クラッチ歯133aといい、スピンドル側クラッチ部材135のクラッチ歯135aを被動側クラッチ歯135aといい、クラッチカム137のクラッチ歯137aを補助クラッチ歯137aという。さらにはクラッチ歯の噛み合い係合については、単に「噛み合い」あるいは「噛み合う」という。」

(ウ)
「【0019】
以下、クラッチ機構131の各部の詳細な構成につき説明する。スピンドル117は、軸受141を介してクラッチハウジング107に回転可能かつ軸方向に移動可能に支持されている。なおスピンドル117の前方への移動は、当該スピンドル117に設けたフランジ部117aが軸受141の軸方向一端面に当接することで規制されている。スピンドル側クラッチ部材135は、スピンドル117の軸方向後端部に嵌合され、噛み合い促進機構161を介して当該スピンドル117と一体となって回転するように取り付けられるとともに、スピンドル117の移動速度よりも速い速度で軸方向に移動される構成とされる。なお噛み合い促進機構161については後述する。
【0020】
駆動側クラッチ部材133は、支持軸143に圧入固定されており、外周面には駆動モータ111の出力軸113に設けたピニオンギア115と噛み合う駆動ギア134を有している。支持軸143は、一端がスピンドル117の後端部に形成された筒部163の筒孔内に挿入されるとともに軸受145を介して当該スピンドル117に対して軸方向に相対移動に支持され、・・・(中略)・・・
【0021】
・・・(中略)・・・そして駆動側クラッチ部材133とクラッチカム137は、スピンドル側クラッチ部材135に対して対向状に配置され、その対向面間、詳しくはクラッチカム137の前面側内周領域と、スピンドル側クラッチ部材135の後面側内周領域との間に圧縮コイルバネ149が介在されている。この圧縮コイルバネ149によって、駆動側クラッチ部材133およびクラッチカム137と、スピンドル側クラッチ部材135が、互いに離間する方向に付勢されるとともに、駆動側クラッチ部材133の後面133cがスラスト軸受147に押し付けられている。」

(エ)
「【0030】
スピンドル117の後端部側は、筒状に形成され、当該筒部163の後端外周にスピンドル側クラッチ部材135が軸方向に相対移動可能に嵌合されている。なおスピンドル側クラッチ部材135の前方向の移動は、当該スピンドル側クラッチ部材135のテーパ状の前面がクラッチハウジング107に設けたストッパリング127のテーパ面に当接することで規制される。スピンドル117の筒部163とスピンドル側クラッチ部材135の嵌合部において、スピンドル117の筒部163には、径方向に貫通する3個の貫通孔164が周方向に等間隔(120度間隔)で形成され、スピンドル側クラッチ部材135の内周面には、各貫通孔164に対応する位置にそれぞれスチールボール162と係合する係合凹部165が形成されている。・・・(後略)」

(オ)
「【0038】
次に、上記のように構成された電動スクリュドライバ101の作用を説明する。まず、駆動モータ111を正転駆動してネジSの締付け作業を行う場合について説明する。図3?図6は、ねじ締め作業に伴うクラッチ機構131の動作が順に示されている。また図7?図10はねじ締め作業に伴うクラッチ機構131の各部の動作が順に示されており、図3?図6に示された動作の順に対応している。更に図11?図13はクラッチ機構131における噛み合い促進機構161の動作を順に示している。
【0039】
図3はドライバビット119にネジSをセットし、このネジSを被加工材Wのねじ込み位置にあてがった状態であり、電動スクリュドライバ101は、締め込み方向に押し付けられていない無負荷状態を示している。この無負荷状態では、スピンドル側クラッチ部材135は、圧縮コイルバネ149の付勢力によって駆動側クラッチ部材133およびクラッチカム137から引き離され、被動側クラッチ歯135aが、駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aに噛み合っておらず、クラッチ機構131は、遮断された状態にある。
【0040】
この遮断状態では、噛み合い促進機構161のスチールボール162が支持軸143の小径部167に当接し、スピンドル117の筒部163の最も内周寄りに位置している(図11参照)。また補助クラッチ歯137aが駆動側クラッチ歯133aよりも角度α分だけ回転方向の前側に位置するとともに、駆動側クラッチ部材133のリード溝153内のスチールボール151が当該リード溝153の溝底153aの最深部に位置している(図7参照)。このため、スチールボール151は駆動側クラッチ部材133の後面133cから突出しておらず、当該駆動側クラッチ部材133の後面133cがスラスト軸受147に当接されている。そしてクラッチ機構131の遮断状態において、駆動モータ111の回転方向切替部材を正転側に切替えるとともに、トリガ121を引き操作して駆動モータ111を通電駆動すると、ピニオンギア115、駆動ギア134を介して駆動側クラッチ133およびクラッチカム137が正転方向に空転する。」

(カ)
「【0042】
この後退動作によって被動側クラッチ歯135aは、駆動側クラッチ部材133およびクラッチカム137側へと移動し、そして駆動側クラッチ歯133aよりも角度α分だけ正転方向の前側に位置している補助クラッチ歯137aに先に噛み合う。この噛み合いによってクラッチ機構131が連結され、回転力がスピンドル側クラッチ部材135を介してスピンドル117に伝達される(図4、図8および図13参照)。その結果、スピンドル117およびドライバビット119が正転方向に回転し、ネジSの締付け作業が開始される。このねじ締め作業に伴い、クラッチカム137にはスピンドル側クラッチ部材135を介して周方向に荷重が作用することになり、当該クラッチカム137は駆動側クラッチ部材133に対して回転が遅れる方向に移動する。これによって駆動側クラッチ歯133aと補助クラッチ歯137aとの位相差(角度α)がゼロとなり、被動側クラッチ歯135aが駆動側クラッチ歯133aに噛み合う(図9の(C)参照)。」

(キ)
「【0053】
次に、被加工材Wに締め込まれたネジSを緩めるための締付け解除作業について、主として図14?図16を参照しつつ説明する。・・・(中略)・・・この状態において・・・(中略)・・・このような相対的な摺動動作によって、図15に示すように、クラッチカム137は圧縮コイルバネ149の付勢力に抗して駆動側クラッチ部材133から離間する方向、すなわち、スピンドル側クラッチ部材135に接近する方向へと移動し、この移動によってクラッチカム137の補助クラッチ歯137aがスピンドル側クラッチ部材135の被動側クラッチ歯135aに噛み合う。
【0054】
このとき、駆動側クラッチ部材133とクラッチカム137の周方向の相対移動は、両突起171d,173dが互いに当接することで規制される。かくして、駆動側クラッチ部材133とクラッチカム137が逆転方向に互いに固定されて一体状に回転し、この回転力は補助クラッチ歯137aと被動側クラッチ歯135aとの噛み合いを介してスピンドル側クラッチ部材135に伝達され、スピンドル117を介してドライバビット119が逆転駆動される。」

(ク)
「【0055】
このように、本実施の形態によれば、駆動モータ111を逆転駆動することのみによってクラッチ機構131が直結状態となってドライバビット119を逆転方向に回転することができる。このため、ネジSの締付け解除作業を行う場合には、予め緩めようとするネジSの頭部にドライバビット119の先端をあてがった状態で、駆動モータ111を逆転方向に駆動することで、作業者による本体部103の押圧力を介在するまでもなく、当該駆動モータ111の逆転駆動力を駆動側クラッチ部材133から被動側クラッチ部材133,135へと伝達し、ネジSの締付け解除作業を容易に遂行することができる。すなわち、本実施の形態によれば、駆動モータ111の逆転駆動時には、作業者による本体部103の押圧力を介在することなく、つまりストッパスリーブ125の先端を被加工材Wに押し付けることなく、ドライバビット119を逆転方向に回転できるため、ストッパスリーブ125を本体部103に装着したままの状態で、ネジSの締付け解除作業を行うことが可能となり、作業性を向上できる。
この場合、ネジSの頭部にドライバビット119の先端をあてがった状態で本体部103に押圧力を加えれば、ドライバビット119、スピンドル117を介してスピンドル側クラッチ部材135が後退され、被動側クラッチ歯135aが駆動側クラッチ歯133aおよび補助クラッチ歯137aに対し深く噛み合うことになる。このため、安定した噛み合い状態でのネジSの締付け解除作業が可能となる。」

(ケ)図2
下に示す図2によれば、圧縮コイルバネ149の付勢力によって、スピンドル側クラッチ部材135が図2の右側に付勢され、さらにスピンドル117も右側に付勢されていることが理解できる。


イ 甲第2号証記載の発明
上記摘記事項ア(イ)に「ドライバビット119がネジSを介して被加工材Wに押し付けられ、スピンドル117に対して本体部103内に押し込む(後退動作する)方向の力が作用した状態を負荷状態または負荷時といい、スピンドル117に上記の力が作用していない状態を無負荷状態または無負荷時という。」とあるところ、スピンドル117が後退動作して負荷状態となる位置を「後退位置」ということができ、逆にスピンドル117に上記の力が作用せず(正転時)無負荷状態となる位置を「前進位置」ということができる。
次に、上記摘記事項ア(カ)から、クラッチ機構131は、駆動側クラッチ部材133及びスピンドル側クラッチ部材135を含み、少なくとも後退位置において駆動モータ111から該スピンドル117へ回転力を伝達するものといえる。また、上記摘記事項ア(ク)の記載を合理的に解釈すれば、クラッチ機構131は、逆転時には、前進位置及び後退位置いずれにおいても、駆動モータ111から該スピンドル117へ回転力を伝達するものといえる。
さらに、(i)上記摘記事項ア(エ)に「スピンドル側クラッチ部材135の前方向の移動は、当該スピンドル側クラッチ部材135のテーパ状の前面がクラッチハウジング107に設けたストッパリング127のテーパ面に当接することで規制される」とあり、(ii)また上記摘記事項ア(ウ)に「スピンドル117の前方への移動は、当該スピンドル117に設けたフランジ部117aが軸受141の軸方向一端面に当接することで規制されている」とあり、(iii)さらに上記認定事項(ケ)の圧縮コイルバネ149の機能をまとめれば、圧縮コイルバネ149の付勢力によって、スピンドル側クラッチ部材135のテーパ状の前面がストッパリング127のテーパ面に当接し、さらにスピンドル117に設けたフランジ部117aが軸受141の軸方向一端面に当接するということができる。

そこで、上記摘記事項ア(ア)ないし(ク)及び認定事項ア(ケ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて本件訂正発明1に照らして整理すると、甲第2号証には以下の発明が記載されていると認める(以下「甲2発明」という。)。
「クラッチハウジング107と、
正転方向と逆転方向に回転駆動される出力軸部を備える駆動モータ111と、
回転駆動されてネジSを締め付けるドライバビット119を着脱自在であり、前進位置と後退位置との間で移動可能なスピンドル117と、
該駆動モータ111と該スピンドル117との間に介在し、少なくとも該後退位置において該駆動モータ111から該スピンドル117へ回転力を伝達するとともに、逆転時には、前進位置及び後退位置いずれにおいても、該駆動モータ111から該スピンドル117へ回転力を伝達する駆動側クラッチ部材133及びスピンドル側クラッチ部材135を含むクラッチ機構131とを備え、
圧縮コイルバネ149の付勢力によって、スピンドル側クラッチ部材135のテーパ状の前面がストッパリング127のテーパ面に当接し、さらにスピンドル117に設けたフランジ部117aが軸受141の軸方向一端面に当接する、電動スクリュドライバ101。」

(3)甲第3号証
ア 甲第3号証に記載された事項
甲第3号証には、「スクリュドライバ」に関して、図面とともに以下の事項が記載されている。
(ア)実用新案登録請求の範囲
「【請求項1】駆動軸から動力伝達されたギヤと、軸方向に移動可能に支承されドライバビット等の先端工具を保持する主軸と、該主軸と前記ギヤの間に配設した圧縮バネ等をケーシング内に収納して成り、通常状態では前記圧縮バネにより前記主軸に形成した突当部が前記ケーシング内に形成した規制部に当接する位置まで前進することでギヤからの回転を遮断し、且つネジ締め開始時は、強制的に前記主軸を後退させることにより前記ギヤからの回転伝達を行なう噛み合いクラッチ部を、前記ギヤ及び主軸の対向面上に各々形成して成るスクリュドライバ等において、
前記ケーシングの規制部と、前記主軸の突当部の各々の当接面上に、第2のかみ合いクラッチ部を形成したことを特徴とするスクリュドライバ。」

(イ)
「 【0002】
【従来の技術】
従来技術の例を図5に示す。本例は、例えば特開昭63-267171、特公昭54-34960などに記載のように、噛み合いクラッチ部を有し、ねじの締付過程において動力の伝達、遮断を行なうスクリュドライバの一般的な構造を示すものである。
【0003】
従来構造によれば、駆動軸1から動力伝達されたギヤ2は、ギヤシャフト3に圧入等によって固定されている。従って電源スイッチを入れ、ギヤ2が回転を始めると、ギヤシャフト3も一体回転するが、ギヤシャフト3の外周部と主軸6の内径部との間で回転摩擦力が発生し、その回転摩擦力により主軸6にギヤ2の回転力が伝達されてしまい、わずかながら主軸6が共回りしてしまう欠点があった。更に、ギヤ2と主軸6の間に直接圧縮バネ5が配設されているため、圧縮バネ5の付勢力によりギヤ2と主軸6が連結状態となり、前述と同様に主軸6が共回りしてしまう欠点があった。
【0004】
即ち、主軸6が軸方向に後退移動し、ギヤ2に形成した第1クラッチ(A)と主軸6に形成した第1クラッチ(B)が噛み合って動力が伝達される前に、無負荷運転の状態で主軸6が回転しまうという欠点があった。
【0005】
従って、連続的にネジ締め及び緩め作業を行なう場合、電源スイッチを入れっ放しにし駆動軸1を回転状態のまま行なうので、ドライバビット12がネジ頭の溝にかん合しずらくなり、作業能率が著しく低下するという欠点があった。」

(ウ)
「 【0008】
【考案が解決しようとする問題点】
従来のスクリュドライバ構造では、噛み合いクラッチ部が係合する前に主軸にわずかながら動力が伝達してしまう為、電源スイッチを入れただけで主軸が回転してしまうという問題があった。」

(エ)
「 【0011】
【作用】
上記のように構成されたスクリュドライバは、主軸とケーシング規制部との当接面上に第2クラッチ部を形成し、無負荷時は圧縮バネにより第2クラッチ部は常に噛み合っている。負荷時は圧縮バネの付勢力に反して主軸が後退し、ギヤと主軸に形成した第1クラッチ部が噛み合い、ギヤの動力が主軸に伝達される。この状態において、前記第2クラッチ部は完全に切離されており、動力の伝達を遮断されている。」

(オ)
「 【0013】
本考案によルスクリュドライバは、図1に示すように、ギヤシャフト3に固定され端部に第1クラッチ(A)4を形成したギヤ2、該ギヤ2の対向面上に第1クラッチ(B)7を形成し、ギヤシャフト3の外周上に配設された主軸6、ギヤ2と主軸6の間に配設された圧縮バネ5、前述した部品を保護するケーシング9、ケーシング9の内部に圧入等により固定され、主軸6の回転支持を行なう含油メタル10、により構成されている。以上の構成において、本考案のポイントとなる主軸6と含油メタル10について述べると、まず主軸6は図3に示すように、含油メタル10との当接部、即ち突当部6aの端部に凸状で径方向に係止可能な係止部8aを有する第2クラッチ(A)8を形成している。同様に、含油メタル10は図4に示すように、主軸6との当接部即ち規制部10aの端部に凸状で径方向に係止可能な係止部(B)11aを有する第2クラッチ(B)11を形成している。第2クラッチ(A)8及び第2クラッチ(B)11は、本実施例では2枚爪形状であるが、1枚爪もしくは3枚爪以上でも、効果は同じである。何故なら従来技術の欠点で述べた主軸6が共回りしようとする回転力は非常に小さいものであり、その回転力によって、特に第2クラッチ爪が摩耗、破壊等の影響をほとんど受けるものではないからである。
【0014】
従って、係止部(A)8a及び係止部(B)11aの傾斜角度及び径方向の大きさは適宜決定すれば良い。」

(カ) 第1図
下の図1には、上記摘記事項(ア)、(エ)及び(オ)に記載されるスクリュドライバの全体構成が示されている。


イ 甲3事項
上記摘記事項(ア)ないし(オ)及び認定事項(カ)を、図面を参照しつつ技術常識を踏まえて整理すると、甲第3号証には以下の事項が記載されていると認める(以下「甲3事項」という。)。
「ケーシング9と、回転駆動される駆動軸1を備える駆動部と、
回転駆動されてネジを締め付けるドライバビット12を装着可能であり、前進位置と後退位置との間で移動可能な主軸6と、
該駆動部と該主軸6との間に介在し該後退位置において該駆動部から該主軸6へ動力を伝達する第1クラッチ(B)7と、
該ケーシング9に装着され、該前進位置において該主軸6と噛み合って該主軸6の回転を不能とし、該後退位置において該主軸6との回転方向の噛み合いを解除して該主軸6の回転を可能とする含油メタル10の第2クラッチ(B)11、を備えるスクリュドライバ。」

2 無効理由1について
(1)甲1発明との同一性(第29条第1項第3号)及び容易性(第29条第2項)について
以下、甲1発明と本件訂正発明1、及び甲1発明と本件訂正発明2ないし4及び6との同一性並びに本件訂正発明1の甲1発明からの想到容易性を、それぞれ検討する。

(1-1)本件訂正発明1と甲1発明との同一性について
ア 甲1発明
甲1発明は、上記1(1)イにて指摘したように、
「ハウジング2と、
正転方向と逆転方向に回転駆動される出力軸を備えるモータと、
回転駆動されてねじ25を締め付けるビット15が着脱自在であり、ねじ締め時トルク非伝達位置とねじ締め時トルク伝達位置との間で移動可能な出力軸部材7と、
該モータと該出力軸部材7との間に介在し該ねじ締め時トルク伝達位置において該モータから該出力軸部材7へトルクを伝達するクラッチスプリング16及び駆動軸部材5と、
該ハウジング2に装着され、逆転時には、該ねじ締め時トルク非伝達位置及び該ねじ締め時トルク伝達位置いずれにおいても、モータから該出力軸部材7へトルクを伝達するワンウェイクラッチ12と、
該出力軸部材7の円筒部外周に外装され、その上端面が該出力軸部材7のフランジ状の部材の端面と接するスリーブ状の部材と、を備えるねじ締め装置1。」というものである。

イ 対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比すると以下のとおりである。
甲1発明の「ハウジング2」が本件訂正発明1の「ハウジング」に相当することは、その機能に照らして明らかであり、以下同様にそれぞれの機能及び技術常識を踏まえれば、「逆転」は「反転」に、「出力軸」は「出力軸部」に、「モータ」は「駆動部」に、「ねじ25」は「ネジ」に、「ビット15」は「先端工具」に、「着脱自在」は「装着可能」に、「ねじ締め時トルク非伝達位置」は「前方位置」に、「ねじ締め時トルク伝達位置」は「後方位置」に、「出力軸部材7」は「先端工具装着部」に、「トルク」は「駆動力」に、「クラッチスプリング16及び駆動軸部材5」は「クラッチ機構」に、「ねじ締め装置1」は「ねじ締め機」に相当することも明らかである。
次に、甲1発明の
「該ハウジング2に装着され、逆転時には、該トルク非伝達位置及び該ねじ締め時トルク伝達位置いずれにおいても、該モータから該出力軸部材7へトルクを伝達するワンウェイクラッチ12」を備えることは、上記対比を踏まえ、
「該ハウジングに装着され、反転時には、該前方位置及び該後方位置いずれにおいても、該駆動部から該先端工具装着部へ駆動力を伝達するワンウェイクラッチ12」を備えること、と言い換えられるところ、これは、本件訂正発明1の
「該ハウジングに装着され、該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし、該後方位置において該先端工具装着部との回転方向の係合を解除して該先端工具装着部の正転と反転を可能とする共回防止機構」を備えることと、
「該ハウジングに装着され、該前方位置及び該後方位置いずれにおいても、少なくとも反転を可能とする機構」を備えるものである限りにおいて共通する。

したがって、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「ハウジングと、
正転方向と反転方向に回転駆動される出力軸部を備える駆動部と、
回転駆動されてネジを締め付ける先端工具を装着可能であり、前方位置と後方位置との間で移動可能な先端工具装着部と、
該駆動部と該先端工具装着部との間に介在し該後方位置において該駆動部から該先端工具装着部へ駆動力を伝達するクラッチ機構と、
該ハウジングに装着され該前方位置及び該後方位置いずれにおいても、少なくとも反転を可能とする機構と、を備えるねじ締め機。」

そして、本件訂正発明1と甲1発明とは、以下の点で、少なくとも形式的に相違する。
<相違点1>
該ハウジングに装着され該前方位置及び該後方位置いずれにおいても、少なくとも反転を可能とする機構を備えることに関連して、
本件訂正発明1は、該ハウジングに装着され、該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし、該後方位置において該先端工具装着部との回転方向の係合を解除して該先端工具装着部の正転と反転を可能とする共回防止機構を備えるのに対し、
甲1発明は、該ハウジングに装着され、反転時には、該前方位置(ねじ締め時トルク非伝達位置)及び該後方位置(ねじ締め時トルク伝達位置)いずれにおいても、駆動部(モータ)から該先端工具装着部(出力軸部材7)へトルクを伝達するワンウェイクラッチ12を備え、また、該出力軸部材7の円筒部外周に外装され、その上端面が該出力軸部材7のフランジ状の部材の端面と接するスリーブ状の部材を備えるものである点。

ウ 相違点についての判断
請求人は、本件訂正発明1が甲第1号証に記載された発明である旨主張している(上記第4の3(1)オ)ところ、上記相違点1が実質的な相違点か否か、検討する。
まず、甲1発明の「出力軸部材7の円筒部外周に外装され、その上端面が該出力軸部材7のフランジ状の部材の端面と接するスリーブ状の部材」(請求人が「青色部材」と称する部材。以下、便宜上本審決においても「青色部材」と呼ぶことがある。)については、出力軸部材7の円筒部外周に外装されているものの、明細書に何ら記載がなく、そもそも、フランジを有する出力軸部材7と共に連れ回るものである可能性も排除できない。
もっとも、技術常識を踏まえれば、該青色部材は、出力軸部材7及びそのフランジ状の部材の回転(ラジアル方向)及び軸方向(スラスト方向)の移動を許容するための軸受であると解するのが最も妥当と考えられ、両当事者の主張にも沿うので、以下その前提で検討する。
その場合、相違点1が実質的な相違点でないというためには、前方位置での青色部材と出力軸部材7のスリーブとの間において、(i)回転駆動力が作用しない場合には出力軸部材7の回転を不能とし、(ii)回転駆動力が作用する場合には出力軸部材7は回転が可能となることが少なくとも必要となる。
このうち(ii)回転駆動力が作用する場合には出力軸部材7は回転が可能となるという条件に関しては、「逆転時には、該ねじ締め時トルク非伝達位置及び該ねじ締め時トルク伝達位置いずれにおいても、モータから該出力軸部材7へトルクを伝達する」という甲1発明の機能からすれば、(請求人が主張するように)当然満たされるように摩擦力等が設定されているものと認められる。
次に、(i)回転駆動力が作用しない場合には出力軸部材7の回転を不能とするという条件について検討する。出力軸部材7の回転を不能とするためには、青色部材と出力軸部材7のスリーブ状の部材との摩擦力を相応の程度としておく必要があり、出力軸部材7の回転を不能とするという明示的な前提がなければ、そのように摩擦力を設定するよう設計・製造するとは考えにくい。すなわち、ある程度微弱な出力軸部材7に作用する回転力を阻止する摩擦力は通常存在しているにしても、通常の種々の条件の使用において「回転を不能とする」とすることを再現性よく実現するためには、設計・製造の段階で、「回転を不能とする」ということが明示的・意識的に目的とされていることが必要である。しかしながら、甲第1号証には、(i)回転駆動力が作用しない場合には出力軸部材7の回転を不能とするという目的に関し、何ら記載も示唆もされておらず、また青色部材についても何ら明細書に記載がないことは前述したとおりである。
そうすると、上記条件(i)は満たされないといわざるを得ず、相違点1の他の事項、すなわち「回転方向に係合」等について検討するまでもなく、相違点1は実質的な差異であると解するのが相当である。
したがって、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

(1-2)本件訂正発明2ないし4及び6と甲1発明との同一性について
本件訂正発明2ないし4及び6は、本件訂正発明1の特定事項をすべて備え、さらに、請求項2ないし4及び6に記載された事項を特定事項として加えるものである。そして、本件訂正発明1が甲第1号証に記載された発明であるといえない以上、本件訂正発明2ないし4及び6も、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。

(1-3)同一性(第29条第1項3号)判断のまとめ
したがって、本件訂正発明1ないし4及び6は、いずれも、甲第1号証に記載された発明であるということはできない。

(1-4)本件訂正発明1の甲1発明等からの容易性(第29条第2項)
ア 相違点1の想到容易性について
次に、本件訂正発明1の想到容易性(第29条第2項)の判断のために、相違点1につき更に検討する。
本件訂正発明1が甲1発明及び甲3事項から想到容易(第29条第2項)であるというためには、上記(1-1)ウにおいて指摘したのと同様、前方位置での青色部材と出力軸部材7のスリーブとの間において、(i)回転駆動力が作用しない場合には出力軸部材7の回転を不能とし、(ii)回転駆動力が作用する場合には出力軸部材7は回転が可能となる事項が想到容易であることが、少なくとも必要となる。
これにつき検討するに、まず(ii)回転駆動力が作用する場合には出力軸部材7は回転が可能となるという条件に関しては、甲1発明も実質的に備えていることは、上記(1-1)ウにて検討したとおりである。
次に(i)回転駆動力が作用しない場合には出力軸部材7の回転を不能とする条件につき検討する。上記(1-1)ウにて指摘したのと同様、出力軸部材7の回転を不能とするためには、青色部材と出力軸部材7のスリーブ状の部材との摩擦力を相応の程度としておく必要があり、出力軸部材7の「回転を不能とする」ということが明示的・意識的に目的とされていなければ、そのような摩擦力の設定を想到することは困難である。しかしながら、甲第1号証には、前方位置において(i)回転駆動力が作用しない場合には出力軸部材7の回転を不能とするということに関し、何ら記載も示唆もされておらず、また青色部材についても何ら明細書に記載がないことは前述したとおりである。

ここで、上記3(3)イにて指摘した甲3事項は、「ケーシング9と、回転駆動される駆動軸1を備える駆動部と、
回転駆動されてネジを締め付けるドライバビット12を装着可能であり、前進位置と後退位置との間で移動可能な主軸6と、
該駆動部と該主軸6との間に介在し該後退位置において該駆動部から該主軸6へ動力を伝達する第1クラッチ(B)7と、
該ケーシング9に装着され、該前進位置において該主軸6と噛み合って該主軸6の回転を不能とし、該後退位置において該主軸6との回転方向の噛み合いを解除して該主軸6の回転を可能とする含油メタル10の第2クラッチ(B)11、を備えるスクリュドライバ。」というものであるところ、請求人が主張するように(上記第4の3(1)カ)、甲3事項を同じねじ締め装置たる甲1発明に適用することを試みることまでは格別困難ではない。
しかしながら、甲3事項は、前方位置(前進位置)において、回転方向にかかわらず主軸の回転を不能とするものであり、上記条件(i)を満たし得ても逆に条件(ii)を満たさなくなり、言い換えれば、そもそも正転・反転で異なる扱いをするという技術思想を欠いているものであるから、たとえ、甲3事項を甲1発明に適用し得たとしても、上記条件(i)及び(ii)のいずれをも満たすように構成することは想到し難いものといわざるを得ない。
そうすると、相違点1の他の事項、すなわち「回転方向に係合」等について検討するまでもなく、甲1発明に甲3事項を適用しても、相違点1に係る本件訂正発明1の特定事項を想到することは困難ということになる。

イ まとめ
よって、本件訂正発明1は甲第1号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(2)甲2発明との同一性(第29条第1項第3号)及び容易性(第29条第2項)について
以下、甲2発明と本件訂正発明1との同一性及び本件訂正発明1の甲2発明からの想到容易性をそれぞれ検討する。

(2-1)本件訂正発明1と甲2発明との同一性について
ア 甲2発明
甲2発明は、上記1(2)イにて指摘したように、
「クラッチハウジング107と、
正転方向と逆転方向に回転駆動される出力軸部を備える駆動モータ111と、
回転駆動されてネジSを締め付けるドライバビット119を着脱自在であり、前進位置と後退位置との間で移動可能なスピンドル117と、
該駆動モータ111と該スピンドル117との間に介在し、少なくとも該後退位置において該駆動モータ111から該スピンドル117へ回転力を伝達するとともに、逆転時には、前進位置及び後退位置いずれにおいても、該駆動モータ111から該スピンドル117へ回転力を伝達する駆動側クラッチ部材133及びスピンドル側クラッチ部材135を含むクラッチ機構131とを備え、
圧縮コイルバネ149の付勢力によって、スピンドル側クラッチ部材135のテーパ状の前面がストッパリング127のテーパ面に当接し、さらにスピンドル117に設けたフランジ部117aが軸受141の軸方向一端面に当接する、電動スクリュドライバ101。」というものである。

イ 対比
本件訂正発明1と甲2発明とを対比すると以下のとおりである。
甲2発明の「クラッチハウジング107」が本件訂正発明1の「ハウジング」に相当することは、その機能に照らして明らかであり、以下同様にそれぞれの機能及び技術常識を踏まえれば、「逆転」は「反転」に、「駆動モータ111」は「駆動部」に、「ネジS」は「ネジ」に、「ドライバビット119」は「先端工具」に、「着脱自在」は「装着可能」に、「前進位置」は「前方位置」に、「後退位置」は「後方位置」に、「スピンドル117」は「先端工具装着部」に、「回転力」は「駆動力」に、「クラッチ機構131」は「クラッチ機構」に、「電動スクリュドライバ101」は「ねじ締め機」に相当することも明らかである。
次に、甲2発明の
「該駆動モータ111と該スピンドル117との間に介在し、少なくとも該後退位置において該駆動モータ111から該スピンドル117へ回転力を伝達するとともに、逆転時には、前進位置及び後退位置いずれにおいても、該駆動モータ111から該スピンドル117へ回転力を伝達する駆動側クラッチ部材133及びスピンドル側クラッチ部材135を含むクラッチ機構131」を備えることは、上記対比を踏まえ、
「該駆動部と該先端工具装着部との間に介在し、少なくとも該後方位置において該駆動部から該先端工具装着部へ駆動力を伝達するとともに、反転時には、前方位置及び後方位置いずれにおいても、該駆動部から該先端工具装着部へ回転力を伝達する駆動側クラッチ部材133及びスピンドル側クラッチ部材135を含むクラッチ機構」を備えること、と言い換えられるところ、これは、本件訂正発明1の
「該駆動部と該先端工具装着部との間に介在し少なくとも該後方位置において該駆動部から該先端工具装着部へ駆動力を伝達するクラッチ機構と、
該ハウジングに装着され、該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし、該後方位置において該先端工具装着部との回転方向の係合を解除して該先端工具装着部の正転と反転を可能とする共回防止機構と」を備えることと、
「該駆動部と該先端工具装着部との間に介在し、少なくとも該後方位置において該駆動部から該先端工具装着部へ駆動力を伝達するクラッチ機構を備えるとともに、前方位置及び後方位置いずれにおいても先端工具装着部の反転は可能である」ことである限りにおいて共通する。

したがって、本件訂正発明1と甲2発明とは、以下の点で一致しているということができる。
<一致点>
「ハウジングと、
正転方向と逆転方向に回転駆動される出力軸部を備える駆動部と、
回転駆動されてネジを締め付ける先端工具を装着可能であり、前方位置と後方位置との間で移動可能な先端工具装着部と、
該駆動部と該先端工具装着部との間に介在し、少なくとも該後方位置において該駆動部から該先端工具装着部へ駆動力を伝達するクラッチ機構を備えるとともに、前方位置及び後方位置いずれにおいても先端工具装着部の反転は可能である、ねじ締め機。」

そして、本件訂正発明1と甲2発明とは、以下の点で、少なくとも形式的に相違する。
<相違点2>
該駆動部と該先端工具装着部との間に介在し、少なくとも該後方位置において該駆動部から該先端工具装着部へ駆動力を伝達するクラッチ機構を備えるとともに、前方位置及び後方位置いずれにおいても先端工具装着部の反転は可能であることに関連して、
本件訂正発明1は、該駆動部と該先端工具装着部との間に介在し少なくとも該後方位置において該駆動部から該先端工具装着部へ駆動力を伝達するクラッチ機構と、該ハウジングに装着され、該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし、該後方位置において該先端工具装着部との回転方向の係合を解除して該先端工具装着部の正転と反転を可能とする共回防止機構を備えるのに対し、
甲2発明は、該駆動部(駆動モータ111)と該先端工具装着部(スピンドル117)との間に介在し、少なくとも該後方位置(後退位置)において該駆動部から該先端工具装着部へ駆動力を伝達するとともに、反転時には、前方位置(前進位置)及び後方位置いずれにおいても、該駆動部から該先端工具装着部へ回転力を伝達する駆動側クラッチ部材133及びスピンドル側クラッチ部材135を含むクラッチ機構(クラッチ機構131)を備え、圧縮コイルバネ149の付勢力によって、スピンドル側クラッチ部材135のテーパ状の前面がストッパリング127のテーパ面に当接し、さらにスピンドル117に設けたフランジ部117aが軸受141の軸方向一端面に当接するものである点。

ウ 相違点についての判断
請求人は、本件訂正発明1が甲第2号証に記載された発明である旨主張している(上記第4の3(1)ケ)ところ、上記相違点2が実質的な相違点か否か、検討する。
上記(1-1)ウにて指摘したことに準じて、相違点2が実質的な相違点でないというためには、
(i)回転駆動力が作用しない場合:前方位置での(a)スピンドル側クラッチ部材135のテーパ状の前面とストッパリング127のテーパ面との間、及び/または(b)スピンドル117に設けたフランジ部117aと軸受141の軸方向一端面との間において回転を不能とし、
(ii)回転駆動力が作用する場合:前方位置での上記(a)及び(b)において回転が可能となることが少なくとも必要となる。
このうち条件(ii)に関しては、「逆転時には、前進位置及び後退位置いずれにおいても、該駆動モータ111から該スピンドル117へ回転力を伝達する」という甲2発明の機能からすれば、(請求人が主張するように)当然満たされるように摩擦力等が設定されているものと認められる。
次に、条件(i)について検討する。スピンドル117の回転を不能とするためには、(a)スピンドル側クラッチ部材135のテーパ状の前面とストッパリング127のテーパ面との間、及び/または(b)スピンドル117に設けたフランジ部117aと軸受141の軸方向一端面との間の摩擦力を相応の程度としておく必要があり、スピンドル117の回転を不能とするという明示的な前提がなければ、そのように摩擦力を設定するよう設計・製造するとは考えにくい。すなわち、ある程度微弱なスピンドル117に作用する回転力を阻止する摩擦力は通常存在しているにしても、通常の種々の条件の使用において「回転を不能とする」とすることを再現性よく実現するためには、設計・製造の段階で、「回転を不能とする」ということが明示的・意識的に目的とされていることが必要である。しかしながら、甲第2号証には、回転駆動力が作用しない場合にはスピンドル117の回転を不能とするという目的に関し何ら記載されておらず、このような「回転を不能とする」ということを想起することは困難である。
そうすると、上記条件(i)は満たされないといわざるを得ず、相違点2の他の事項、すなわち「回転方向に係合」等について検討するまでもなく、相違点2は実質的な差異であると解するのが相当である。
したがって、本件訂正発明1は、甲第2号証に記載された発明であるということはできない。

(2-2)本件訂正発明1の甲2発明からの容易性(第29条第2項)
ア 相違点2の想到容易性について
次に、本件訂正発明1の想到容易性(第29条第2項)の判断のために、相違点2につき更に検討する。
本件訂正発明2が甲1発明及び甲3号事項から想到容易(第29条第2項)というためには、上記(2-1)ウにおいて指摘したのと同様、
(i)回転駆動力が作用しない場合:前方位置での(a)スピンドル側クラッチ部材135のテーパ状の前面とストッパリング127のテーパ面との間、及び/または(b)スピンドル117に設けたフランジ部117aと軸受141の軸方向一端面との間において回転を不能とし、
(ii)回転駆動力が作用する場合:前方位置での上記(a)及び(b)において回転が可能となる事項が想到容易であることが、少なくとも必要となる。
これにつき検討するに、まず(ii)回転駆動力が作用する場合には出力軸部材7は回転が可能となるという条件に関しては、甲2発明も実質的には備えていることは、上記(2-1)ウにて検討したとおりである。
次に、条件(i)について検討する。条件(i)を満たすためには上記(2-1)ウにて指摘したのと同様、(a)スピンドル側クラッチ部材135のテーパ状の前面とストッパリング127のテーパ面との間、及び/または(b)スピンドル117に設けたフランジ部117aと軸受141の軸方向一端面との間の摩擦力を相応の程度としておく必要があり、スピンドル117の「回転を不能とする」ということが明示的・意識的に目的とされていなければ、そのような摩擦力の設定を想到することは困難である。しかしながら、甲第2号証には、回転駆動力が作用しない場合にはスピンドル117の回転を不能とするという目的に関し何ら明細書に記載がないことは前述したとおりである。

ここで、上記3(3)イにて指摘した甲3事項の適用について検討するに、請求人が主張するように(上記第4の3(1)シ)、甲3事項を同じねじ締め装置たる甲2発明に適用することを試みることまでは格別困難ではない。
しかしながら、甲3事項は、前方位置(前進位置)において、回転方向にかかわらず主軸の回転を不能とするものであり、正転・反転で異なる扱いをするという技術思想を欠いているものであるから、たとえ、甲3事項を甲2発明に適用したとし得ても、上記条件(i)及び(ii)のいずれをも満たすように構成することは想到し難いものといわざるを得ないことは、上記(1-4)にて甲1発明について検討したことと同様である。
そうすると、相違点2の他の事項、すなわち「回転方向に係合」等について検討するまでもなく、甲3発明に甲3事項を適用しても、相違点3に係る本件訂正発明1の特定事項を想到することは困難ということになる。

イ まとめ
よって、本件訂正発明1は甲第2号証に記載された発明及び甲第3号証に記載された事項から当業者が容易に想到し得たものとすることはできない。

(3)小括
したがって、請求人の主張する無効理由1及び提出した証拠方法によっては、本件訂正発明1ないし4及び6に係る特許を無効にすることはできない。

3 無効理由2について
ア 無効理由2の整理
上記第4の3(2)にて概要を記した請求人の主張する無効理由2は、以下の3つの理由にまとめることができる。

(無効理由2-1)本件特許明細書の段落【0003】の記載から、本件訂正発明1が解決しようとする第1の課題は、Oリングを使用することなく共回りを防止することであると認められるが、本件訂正発明1は、共回防止機構の機能を単に特定するものであって、共回防止機構の具体的な構造については何ら特定されていない以上、Oリングを使用して共回りを防止するような共回防止機構も含む発明であると認められ、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。

(無効理由2-2)本件特許明細書の段落【0004】の記載から、本件訂正発明1が解決しようとする第2の課題は、先端工具を逆転させる場合に先端工具を被加工材に押し付けない状態において、先端工具の共回りを防止することであると認められるが、本件訂正発明1は、ねじを外す際に前方位置において、先端工具装着部の反転を可能とするものであるから、本件訂正発明1の共回防止機構の機能は第2の課題を解決できないことが明らかであり、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている。

(無効理由2-3)本件訂正発明1の「先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし」との事項に関しては、「先端工具装着部と係合して」が「先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし、」全体に係るのか、あるいは「先端工具装着部の正転を不能とする」のみに係るのか不明確であり、「先端工具装着部と係合して」が「先端工具装着部の正転を不能とする」のみに係る場合には、本件訂正発明1は共回防止機構が先端工具装着部と係合することなく先端工具装着部の反転を可能とする構成が含まれることとなり、発明の詳細な説明に記載したものではない。

イ 無効理由2-1及び無効理由2-2について
無効理由2-1及び無効理由2-2はいずれも、本件訂正発明1の「該ハウジングに装着され、該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし、該後方位置において該先端工具装着部との回転方向の係合を解除して該先端工具装着部の正転と反転を可能とする共回防止機構」なる特定(以下「特定事項A」という。)では、当業者が本件発明の詳細な説明に記載された課題を解決できると認識できる範囲のものとはいえない旨の主張である。
これにつき検討する。本件訂正発明1の上記特定事項Aに関しては、発明の詳細な記載を参酌するに、以下の関連する記載がある。

「【0031】
スプリングクラッチ機構6は、図9に示されるように、第一部である装着部61と、係合部を構成する座部62(第二部)及びスプリング部63(正転防止部)とから構成されている。装着部61は軸受け等に用いられるメタル素材から略筒状に構成されてソケット51を摺動可能に支持しており、図10に示されるように胴部61Aと、第一スプリング装着部61Bと、当接部61Cと、から主に構成されている。胴部61Aは、ハウジング2に圧入により固定されており、よって装着部61はハウジング2に対して回転不能に構成される。第一スプリング装着部61Bは、胴部61Aの後端側に配置されており、外形がスプリング部63を構成するスプリングの内径と略同じか僅かに大径に構成されている。また第一スプリング装着部61Bの胴部61Aとの境界位置には、周方向に一連の第一溝部61aが穿設されている。裁頭円錐部である当接部61Cは装着部61の最後端に位置しており、装着部61の最後端部分を裁頭円錐状に構成した際に画成されるテーパー面から構成されている。
【0032】
座部62は、図11(a)、図11(b)に示されるように略筒状に構成され、第二スプリング装着部62Aと被掛止部62Bとを主に備えている。図11(a)に示されるように、第二スプリング装着部62Aは座部62の最前端に配置されており、第一スプリング装着部61Bと同様に、外形がスプリング部63を構成するスプリングの内径と略同じか僅かに大径に構成されている。また第二スプリング装着部62Aの最前端部において、略筒状の内周部分には、斜面62Cにより凹形状部分が画成されており、この凹形状部分にテーパー面である当接部61Cが挿入されて当接部61Cと斜面62Cとが当接可能になる。図11(a)、(b)に示されるように、被掛止部62Bは第二スプリング装着部62Aの後端に設けられたつば部の後面から突出して構成されており、図11(b)に示されるように座部62の周方向等間隔に三対配置されている。また第二スプリング装着部62Aと被掛止部62Bが設けられるつば部との境界位置には、周方向に一連の第二溝部62aが穿設されている。
【0033】
図12に示されるように、スプリング部63は、鋼線を密に巻回して構成されており、その巻回方向が正転方向となるように構成されている。ここで正転方向とは、スプリング部63を第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aに嵌合した状態で第一スプリング装着部61Bから第二スプリング装着部62Aに向かう方向で正転する方向である。よって装着部61に対して座部62が正転した際に、第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aに嵌合したスプリング部63が正転方向に回転しその内径が小さくなる。内径が小さくなることにより第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aとスプリング部63との摩擦が増大し、座部62がスプリング部63を介して装着部61に対して正転することが不能になる。また逆に装着部61に対して座部62が反転方向に回転した場合は、スプリング部63の内径が拡開するため、座部62はスプリング部63で回転を妨げられることなく装着部61に対して反転することができる。
【0034】・・・(中略)・・・
【0036】
上記構成のねじ締め機1を使用してネジを施工する際には、ビット10を図示せぬネジの頭に合わせた状態で、ビット10を図示せぬネジに押し付け、トリガ21Aを引く。ビット10を押しつけることにより、図7に示されるように、スプリングクラッチ機構6に対してソケット51が後方位置へと移動するため、被掛止部62Bが掛止爪52Aに掛止されることはない。よってスプリングクラッチ機構6によりソケット51の回転が規制されることはなく、ソケット51は正転・反転することができる。またビット10を押し付けた反力により、ソケット51がクラッチドラム41側へと移動し、当接部51Aが第二クラッチプレート44に当接し、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に摩擦を発生させる。これによりクラッチドラム41とスプラインシャフト42とを共回り可能にし、モータ3からの正転方向の出力をソケット51及びビット10に伝達することができる。・・・(中略)・・・
【0037】
ネジの施工が終わり、ビット10をネジから放した状態では、バネ46の付勢力により、スプラインシャフト42及びソケット51は前方位置へと移動する。これにより当接部51Aと第二クラッチプレート44との当接が解消し、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦が小さくなり、モータ3からの出力がソケット51に伝達されることが抑制される。
【0038】
ネジを打ち間違えた際に図示せぬ被加工部材から図示せぬネジを外すときは、スイッチ21Dを反転側にして、モータ3を反転させる。この時に、図示せぬネジの頭が図示せぬ被加工部材から突出していれば、ビット10が図示せぬネジに当接した反力により先端工具装着部5が後方位置へと移動し、当接部51Aが第二クラッチプレート44に当接して第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦が発生し、ビット10に反転方向の駆動力が伝達されて好適に図示せぬネジを外すことができる。
【0039】
図示せぬネジの頭が図示せぬ被加工部材から突出していない場合(ネジが被加工部材に埋没している場合)はカバー54が邪魔になり、ビット10が図示せぬネジに当接したとしても充分な反力が得られず先端工具装着部5は前方位置に留まり、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に充分な摩擦が発生しない場合がある。この場合においては、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とを介してクラッチドラム41からスプラインシャフト42へと動力を伝達することができないが、反転方向の駆動力であるためワンウェイクラッチ45を介してクラッチドラム41からスプラインシャフト42へと動力を伝達することは可能になっている。
【0040】
ビット10に充分な反力が得られない場合は、図13に示されるように、ソケット51が後方位置へと移動しないため、被掛止部62Bが掛止爪52Aに掛止し、ソケット51と座部62とが一体回転する構成を採る。この場合に、座部62は、装着部61に対して反転可能なため、スプリングクラッチ機構6がソケット51の反転を妨げることはない。よってモータ3を反転させた際にビット10にネジによる反力が得られない場合であっても、好適に図示せぬネジを外すことができる。
【0041】
またビット10に反力が得られない状態、たとえばビット10に何も当接していない状態でトリガ21Aを引いた場合では、先端工具装着部5が前方位置にあるため第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に付勢力が働かず、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に過度の摩擦は発生しない。しかしこの状態においても第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とが僅かに当接する場合があるため、この場合に第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に摩擦力が発生してスプラインシャフト42や先端工具装着部5に回転力が伝達される。しかし上述のようにビット10に反力が得られない場合には被掛止部62Bが掛止爪52Aに掛止して先端工具装着部5と座部62とが一体回転する構成を採り、かつ座部62は装着部61に対して正転できないため、ソケット51がクラッチ部4と共回りすることが抑制される。」

すなわち、
発明の詳細な説明の段落【0031】?【0033】に「共回防止機構」の装着態様及び構造の詳細が記載され、
段落【0041】に「該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とする」機能の詳細が記載され、
段落【0040】に「該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の」「反転を可能と」する機能の詳細が記載され、
段落【0036】に「該後方位置において該先端工具装着部との回転方向の係合を解除して該先端工具装着部の正転と反転を可能とする」機能の詳細が記載されており、
本件発明の詳細な説明には、本件訂正発明1の「ハウジングに装着され、該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし、該後方位置において該先端工具装着部との回転方向の係合を解除して該先端工具装着部の正転と反転を可能とする共回防止機構」の実施例が具体的に詳細に記載されているのである。

さらに、請求人の主張する無効理由2-1につき、より子細に検討する。 本件訂正発明1が解決しようとする第1の課題につき、請求人は、Oリングを使用することなく共回りを防止することである旨主張する。しかし、本件特許明細書には、「特許文献1の電動工具では、一般にクラッチ機構での摩擦の発生は先端工具を被加工材に押しつけることにより発生するが、クラッチ機構が切られた状態においても、わずかに摩擦が発生する場合があった。この場合に先端工具に僅かに動力が伝達されて共回りし、先端工具をねじに沿わす際に不都合が生じていた。これを防止するために、先端工具を保持する先端工具装着部とハウジングとの間にOリングが噛ませてあるが、このOリングは使用により劣化するため、長期に渡って工具を使用すると共回り防止の効果が得られなくなっていた。」(段落【0003】、下線は当審にて付与した。)と記載されているのであって、本件訂正発明1が解決しようとする第1の課題は、請求人の主張するような、Oリングを使用することなく共回りを防止することというよりは、Oリングが劣化しても共回りを防止する効果が得られることと認められる。
そうであれば、本件訂正発明1がOリングを使用する態様であるか使用しない態様であるかにかかわらず、上記指摘したように発明の詳細な説明の段落【0031】?【0033】にOリングのみに依存せずとも共回りを防止し得る「共回防止機構」が詳細に開示されているのだから、本件訂正発明1に係る記載は、当業者がOリングが劣化しても共回りを防止効果が得られるという第1の課題を解決できると認識できる範囲のものというべきである。

次に、請求人の主張する無効理由2-2につき、より子細に検討するに、本件訂正発明1は、(ねじを外す際に)前方位置において、先端工具装着部の反転を可能とするものであり、他方、発明の詳細な説明には、「【0004】 特に被加工材に施工したねじを外す際には、先端工具を被加工材に押しつけない状態で逆転させる場合があるが、この場合に先端工具が共回りすると先端工具を外すねじに合わせ難い場合があった。・・・」との記載があることは、請求人の主張のとおりである。しかしながら、当該発明の詳細な説明が、請求人の主張するような、逆転させる場合に先端工具を被加工材に押し付けない状態において、先端工具の共回りを防止するという課題を表現したものとは必ずしもいえず、仮にそうであったとしても、当該説明は従来のねじ締め機においては共回りの防止が不十分であったという背景を、具体的に想定される場面を例に挙げ述べているに過ぎない。そして、発明の詳細な説明において説明のため具体的に例示された課題の場面を余すことなく完全に解決できなければ、それをもってサポート要件違反となるわけでもない。

これらを総合すると、本件訂正発明1の上記特定事項Aの部分は、特許法第36条第6項第1号が規定する「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」なる要件を満たすものというのが相当である。
よって、請求人の主張する無効理由2-1及び2-2には理由がない。

ウ 無効理由2-3について
本件訂正発明1に係る請求項1の「先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし」なる記載を、特許明細書を参酌しつつ技術常識を踏まえて解釈すれば、「先端工具装着部と係合して」が「先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし」全体に係ることは明らかである。そしてそのような「先端工具装着部と係合」する事項は、本件発明の詳細な説明の段落【0040】?【0041】(上記イ)に詳述されており、何らサポート要件違反となるようなものではない。
よって、請求人の主張する無効理由2-3には理由がない。

エ 小括
したがって、請求人の主張する無効理由2によっては、本件訂正発明1に係る特許を無効にすることはできない。

4 無効理由3について
請求人は、発明の詳細な説明に記載されたスプリングクラッチ機構6においては、装着部61に対して座部62が多少正転可能であるところ、本件訂正発明5に係る請求項5には「該正転防止部はスプリングであり、該共回防止機構はスプリングクラッチ機構であること」と記載され、本件訂正発明5は、係合部が装着部に対して反転のみ可能に構成されたスプリングクラッチ機構であるので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張する(上記第4の3(3)ア)。
しかし、正転をしようとする力が働いた直後に請求人が主張するような多少の正転が生じるとしても、実際上無視できる程度の微かな変位であり、実質的に座部62が反転のみ可能であることは、本件特許明細書等の記載から当業者にとって明らかであり、本件請求項5の記載が発明の詳細な説明に記載されたものではないということはできない。
請求人は、また、本件訂正発明2ないし4は、本件訂正発明5に引用される発明であるところ、本件訂正発明5が発明の詳細な説明に記載されていないため、本件訂正発明2ないし4の技術的範囲が不明確(第36条第6項第2号違反)であるとも主張する(上記第4の3(3)イ)。しかしながら、本件訂正発明5が第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないという主張に理由がない以上、本件訂正発明2ないし4が特許法第36条第6項第2号の規定を満たさないということはできず、請求人の主張には理由がない。
よって、請求人の主張する無効理由3によっては、本件訂正発明2ないし5に係る特許を無効にすることはできない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、請求人主張の理由及び証拠方法によっては、本件訂正発明1ないし6に係る特許を無効にすることはできない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
ねじ締め機
【技術分野】
【0001】
本発明はねじ締め機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天井や壁に石膏ボード等の板材をネジ止めにより施工しているが、このネジ止めを行う工具としてねじ締め機がある。このねじ締め機は、特許文献1に示されるように、モータとモータにより駆動されてネジを締める先端工具との間に駆動系(モータ側)と従動系(先端工具側)との間の摩擦による伝達を行うクラッチ機構を備えている。この特許文献1に示されるねじ締め機は、クラッチ機構が切られた状態では摩擦が発生せずに先端工具に動力が伝達されない。またクラッチ機構が動作した状態では、摩擦が発生して先端工具に動力が伝達される。
【特許文献1】特開平5-318331号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1の電動工具では、一般にクラッチ機構での摩擦の発生は先端工具を被加工材に押しつけることにより発生するが、クラッチ機構が切られた状態においても、わずかに摩擦が発生する場合があった。この場合に先端工具に僅かに動力が伝達されて共回りし、先端工具をねじに沿わす際に不都合が生じていた。これを防止するために、先端工具を保持する先端工具装着部とハウジングとの間にOリングが噛ませてあるが、このOリングは使用により劣化するため、長期に渡って工具を使用すると共回り防止の効果が得られなくなっていた。
【0004】
特に被加工材に施工したねじを外す際には、先端工具を被加工材に押しつけない状態で逆転させる場合があるが、この場合に先端工具が共回りすると先端工具を外すねじに合わせ難い場合があった。よって本発明は、より確実に共回りを防止したねじ締め機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために本発明は、ハウジングと、正転方向・反転方向に回転駆動される出力軸部を備える駆動部と、回転駆動されてネジを締め付ける先端工具を装着可能であり、前方位置と後方位置との間で移動可能な先端工具装着部と、該駆動部と該先端工具装着部との間に介在し少なくとも該後方位置において該駆動部から該先端工具装着部へ駆動力を伝達するクラッチ機構と、該ハウジングに装着され、該前方位置において該先端工具装着部と係合して該先端工具装着部の正転を抑制すると共に反転を許容し、該後方位置において該先端工具装着部の正転・反転を許容する共回防止機構と、を有したねじ締め機を提供する。
【0006】
このような構成によると、先端工具装着部が前方位置にある状態で、先端工具装着部と共回り防止機構とが係合する。共回り防止機構は反転のみ許容するため、先端工具装着部の正転方向への回転は抑制される。よって先端工具装着部が前方位置にある状態で先端工具の正転方向への共回りを確実に防止することができる。
【0007】
上記構成のねじ締め機において、該共回防止機構は、該ハウジングに固定される装着部と、該先端工具装着部と係合可能な係合部とを含んで構成され、該係合部は該装着部に対して反転のみ可能に構成されていることが好ましい。
【0008】
また該係合部は、該先端工具装着部と係合する座部と、該座部と該装着部との間に介在し該装着部に対する反転のみを該座部に許容する正転防止部と、を含んで構成されていることが好ましい。
【0009】
また該先端工具装着部には該座部と係合する掛止部が設けられ、該座部には該掛止部に係合される被掛止部が設けられていることが好ましい。
【0010】
これらの様な構成によると、ハウジングに対して係合部が反転のみ可能になる。よって係合部と係合した状態の先端工具装着部も反転のみ可能になる。
【0011】
また該正転防止部はスプリングであり、該共回防止機構はスプリングクラッチ機構であることが好ましい。
【0012】
また該共回防止機構は、ワンウェイクラッチを含んで構成されていてもよい。
【0013】
これらのようにスプリングクラッチ機構やワンウェイクラッチを用いることにより、好適に共回防止機構を構成することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のねじ締め機によれば、先端工具の共回りを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図1乃至図13に基づき説明する。図1に示されるねじ締め機1は、ハウジング2と、モータ3と、クラッチ部4と、先端工具装着部5とスプリングクラッチ機構6とから主に構成され、先端工具装着部5に先端工具であるビット10が装着されている。このねじ締め機1において、ビット10が取り付けられる位置を、前側とし、後述のハンドル21を後側として前後方向を規定する。
【0016】
ハウジング2は、ねじ締め機1の外殻を成しており、その後端部分に把持部となるハンドル21を有している。ハンドル21にはトリガ21Aとスイッチ21Dが設けられており、トリガ21Aによりモータ3の駆動制御を行い、スイッチ21Dによりモータ3の回転方向(正転・反転)の制御を行っている。またハンドル21には図示せぬ外部電源に接続される電源コード21Bが設けられている。
【0017】
モータ3はハウジング2内においてハンドル21の前側に設けられており、前後方向を軸方向とする出力軸部である回転軸部31を有している。回転軸部31は、ベアリング31Aでハウジング2に支持されており、その先端にピニオン32を有している。また回転軸部31の基端部分には同軸回転するファン33が固定されている。回転軸部31及び回転軸部31により回転駆動される部材において、ネジを締め込む方向の回転を正転と定義し、ネジを外す方向の回転を反転と定義する。
【0018】
クラッチ部4は、図2に示されるように、クラッチドラム41とスプラインシャフト42と、駆動部材である10枚の第一クラッチプレート43と、従動部材である10枚の第二クラッチプレート44とワンウェイクラッチ45とから主に構成されている。クラッチドラム41は、前側に略筒状に構成されて第一クラッチプレート43及び第二クラッチプレート44を収容する空間が形成された収容部41Dを備えており、この筒状の収容部41Dの軸方向を回転軸方向として、第一軸受となるベアリング47Aと軸受47Bとを介してハウジング2に回転可能に支承されている。図1及び図3に示されるように、クラッチドラム41において、収容部41Dの後端に位置する部分の外周にはピニオン32と噛合するギア41Aが設けられており、収容部41Dの内部には、図2及び図3に示されるように、軸方向に延びる複数の凸部41Bが周方向に渡って均等配置されている。収容部41Dの内部において、図1に示されるように凸部41Bの後端部分となる位置には、壁部41Cが規定されており、壁部41Cにワンウェイクラッチ45が装着されている。またクラッチドラム41において、ベアリング47Aにより支持され、ワンウェイクラッチ45の後側になる箇所には、図3に示されるように孔41aが形成され、孔41a内にはバネ46(図1、図2)が配置されている。
【0019】
スプラインシャフト42は、先端工具装着部5に同軸回転可能に固定されており、図1に示されるようにクラッチドラム41の筒部分の内部においてワンウェイクラッチ45により支持され、その端部がバネ46と当接して前側へと付勢されている。またスプラインシャフト42の表面において、クラッチドラム41内に曝される箇所には、図2および図4に示されるように、軸方向に延びる複数の凸部42Aが周方向に渡って均等配置されている。
【0020】
第一クラッチプレート43は、図5に示されるように、外周にクラッチドラム41の凸部41Bと噛合する凹部43aが形成され内部にスプラインシャフト42が貫通する孔43bが形成され、第二クラッチプレート44と接触する駆動部側接触面を備えて板状に構成されている。図1に示されるように、凹部43aと凸部41Bとが噛合するように第一クラッチプレート43がクラッチドラム41の内部に整列して装着された状態で、第一クラッチプレート43はクラッチドラム41に対して軸方向への移動は許容されるが周方向への回転は制限される。また10枚の第一クラッチプレート43のうち、最後端に位置する第一クラッチプレート43は壁部41Cに当接可能である。
【0021】
第二クラッチプレート44は、図6に示されるように、直径が凸部41Bと干渉しない程度の円板状で、第一クラッチプレート43と接触する従動部側接触面を備えて構成され、中央部分にスプラインシャフト42が貫通し凸部42Aと噛合する凹部44aが形成された孔44bが穿孔されている。凹部44aと凸部42Aとが噛合するように第二クラッチプレート44がスプラインシャフト42に装着された状態で、スプラインシャフト42に対して第二クラッチプレート44は、軸方向への移動は許容されるが周方向への回転は制限される。また10枚の第二クラッチプレート44のうち、最前端に位置する第二クラッチプレート44は、先端工具装着部5の後端部である後述の当接部51Aに当接可能である。
【0022】
第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とは、壁部41C位置から前側に向かって交互に並んで配置され第一クラッチを構成している。第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とはそれぞれ軸方向への移動が許容されているため、最も前側に位置する第二クラッチプレート44が先端工具装着部5の後端部に当接して後方へと付勢されることにより第一クラッチプレート43及び第二クラッチプレート44も後方側(伝達位置)へと移動し、隣り合う第一クラッチプレート43の駆動部側接触面と第二クラッチプレート44の従動部側接触面との間に摩擦が発生する。この発生した摩擦により、クラッチドラム41とスプラインシャフト42とが第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とを介して共回りして同軸に一体回転する。最も前側に位置する第二クラッチプレート44が後方へと付勢されない状態(遮断位置)では、隣り合う第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦は発生しないか発生しても僅かである為、クラッチドラム41とスプラインシャフト42との第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とを介しての一体回転は抑制される。またそれぞれ10枚の第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦力により動力の伝達を行っている為、それぞれ一枚当たりに掛かる摩擦力等の応力が低減され、クラッチ部4の高寿命化を図っている。尚、最も後端の第一クラッチプレート43は第一クラッチプレート43と共回りする壁部41Cに当接し、最も前端の第二クラッチプレート44は第二クラッチプレート44と共回りする当接部51Aと当接する為、最も後端の第一クラッチプレート43と壁部41Cとの間、及び最も前端の第二クラッチプレート44と先端工具装着部5との間に摩擦が発生することは無い。これにより、壁部41Cを備えるクラッチドラム41及び先端工具装着部5の耐久性を増している。
【0023】
尚、スプラインシャフト42は、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とが第一軸受であるベアリング47Aと後述のスプリングクラッチ機構6との間に位置するようにベアリング47Aと後述のスプリングクラッチ機構6とに間接的に支持されている。よって摩擦が発生した際にスプラインシャフト42に負担がかかったとしても、スプラインシャフト42の両端が支持されている為、ひびりやぶれの発生は抑制される。
【0024】
ワンウェイクラッチ45は、壁部41Cに装着されてスプラインシャフト42の後端部を支持しており、クラッチドラム41が反転した際に第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とは別系統でスプラインシャフト42に動力を伝達し、クラッチドラム41が正転した際にはスプラインシャフト42に動力伝達不能に構成されている。第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とにおいては、摩擦力が発生しない限り、クラッチドラム41からスプラインシャフト42に正転方向、反転方向の駆動力は伝達されない。しかしワンウェイクラッチ45は、反転方向においては常にクラッチドラム41からスプラインシャフト42へと駆動力を伝達している為、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に摩擦が発生しない場合においても先端工具装着部5を反転させることが可能になる。
【0025】
クラッチドラム41と先端工具装着部5とを比較すると、回転軸と直交する方向の径がスプラインシャフト42に駆動力を伝達する駆動側であるクラッチドラム41が大径に構成されている。よってハウジング2において、先端工具装着部5側を細くすることができ、より狭い箇所における図示せぬネジの施工を可能にしている。また第一クラッチプレート43と一体回転するクラッチドラム41の慣性質量を大きくすることができる為、伝達位置において第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に摩擦力が発生した際に、クラッチドラム41及びクラッチドラム41に接続されるモータ3の回転数の低下を抑制することができる。
【0026】
また図1に示されるように、クラッチドラム41の第一クラッチプレート43及び第二クラッチプレート44を収容する収容部41Dの開口部分には、第一シール部材48が配置されている。第一シール部材48は、収容部41Dと後述のソケット51との間の隙間を埋め、収容部41D内部を密閉した状態に保っている。ソケット51は後述のスプリングクラッチ機構6で回転可能に支持されている為、ソケット51周辺には回転抵抗を減らす為のグリスが充填されている。このグリスが収容部41D内に侵入して第一クラッチプレート43及び第二クラッチプレート44に付着すると摩擦係数が変化し、第一クラッチプレート43及び第二クラッチプレート44を介してクラッチドラム41からスプラインシャフト42に好適に駆動力を伝達することができなくなる。よって第一シール部材48を配して収容部41D内にグリスが入ることを防止することにより、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦係数の変化を防止し、安定した作業を行うことが可能になる。
【0027】
先端工具装着部5は、主にソケット51と掛止部52とから構成されている。ソケット51は、最前端にビット10が装着される装着孔51aが形成され、最後端でスプラインシャフト42に嵌合して接続されており、ハウジング2に設けられて第二軸受の役割を果たすスプリングクラッチ機構6で周方向に回転可能であると共に及び軸方向(前後方向)に移動可能に支持されている。ソケット51がスプラインシャフト42に嵌合して装着されていることにより、先端工具装着部5およびスプラインシャフト42に係る全長を短くすることができ、これによりねじ締め機1の全長を短くすることが可能になる。
【0028】
掛止部52は、図1、図7に示されるようにソケット51の最後端であってスプラインシャフト42(図1)との接続箇所近傍位置に配置され、掛止部52の後端面部分には最前側の第二クラッチプレート44(図1)と当接可能な当接部51Aが規定されている。先端工具装着部5が後方位置に移動することにより当接部51Aが第二クラッチプレート44に当接して第二クラッチプレート44を第一クラッチプレート43に押し付ける。掛止部52の前面部分には、図7及び図8に示されるように、周方向で等間隔に配列された三対の掛止爪52Aが設けられており、掛止爪52Aはスプリングクラッチ機構6が掛止可能に構成されている。
【0029】
また図1に示されるようにソケット51のスプリングクラッチ機構6前側位置にはソケット51周辺に充填されている図示せぬグリスの外部への流出を防止する第二シール部材53が設けられており、ソケット51及び第二シール部材53の周囲にはカバー54が設けられている。カバー54は着脱容易に構成されており、その先端部分からビット10の先端が僅かに露出するように構成されている。この状態において先端工具装着部5は前方位置に配置されている。
【0030】
先端工具装着部5は、先端に装着されたビット10が図示せぬネジに当接する反力によって前方位置から後方位置へと後退することにより、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に摩擦を発生させている。しかし図示せぬネジが締め込まれて図示せぬ被加工部材に埋没した状態ではそれ以上ネジを締める必要がない為、カバー54の先端部分が図示せぬ被加工部材と当接してビット10へのネジからの反力を打ち消し、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦を低減してビット10への動力の伝達を遮断している。
【0031】
スプリングクラッチ機構6は、図9に示されるように、第一部である装着部61と、係合部を構成する座部62(第二部)及びスプリング部63(正転防止部)とから構成されている。装着部61は軸受け等に用いられるメタル素材から略筒状に構成されてソケット51を摺動可能に支持しており、図10に示されるように胴部61Aと、第一スプリング装着部61Bと、当接部61Cと、から主に構成されている。胴部61Aは、ハウジング2に圧入により固定されており、よって装着部61はハウジング2に対して回転不能に構成される。第一スプリング装着部61Bは、胴部61Aの後端側に配置されており、外形がスプリング部63を構成するスプリングの内径と略同じか僅かに大径に構成されている。また第一スプリング装着部61Bの胴部61Aとの境界位置には、周方向に一連の第一溝部61aが穿設されている。裁頭円錐部である当接部61Cは装着部61の最後端に位置しており、装着部61の最後端部分を裁頭円錐状に構成した際に画成されるテーパー面から構成されている。
【0032】
座部62は、図11(a)、図11(b)に示されるように略筒状に構成され、第二スプリング装着部62Aと被掛止部62Bとを主に備えている。図11(a)に示されるように、第二スプリング装着部62Aは座部62の最前端に配置されており、第一スプリング装着部61Bと同様に、外形がスプリング部63を構成するスプリングの内径と略同じか僅かに大径に構成されている。また第二スプリング装着部62Aの最前端部において、略筒状の内周部分には、斜面62Cにより凹形状部分が画成されており、この凹形状部分にテーパー面である当接部61Cが挿入されて当接部61Cと斜面62Cとが当接可能になる。図11(a)、(b)に示されるように、被掛止部62Bは第二スプリング装着部62Aの後端に設けられたつば部の後面から突出して構成されており、図11(b)に示されるように座部62の周方向等間隔に三対配置されている。また第二スプリング装着部62Aと被掛止部62Bが設けられるつば部との境界位置には、周方向に一連の第二溝部62aが穿設されている。
【0033】
図12に示されるように、スプリング部63は、鋼線を密に巻回して構成されており、その巻回方向が正転方向となるように構成されている。ここで正転方向とは、スプリング部63を第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aに嵌合した状態で第一スプリング装着部61Bから第二スプリング装着部62Aに向かう方向で正転する方向である。よって装着部61に対して座部62が正転した際に、第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aに嵌合したスプリング部63が正転方向に回転しその内径が小さくなる。内径が小さくなることにより第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aとスプリング部63との摩擦が増大し、座部62がスプリング部63を介して装着部61に対して正転することが不能になる。また逆に装着部61に対して座部62が反転方向に回転した場合は、スプリング部63の内径が拡開するため、座部62はスプリング部63で回転を妨げられることなく装着部61に対して反転することができる。
【0034】
装着部61と座部62とにおいては、斜面62Cにより画成される凹形状部分に当接部61Cが挿入されることにより、相対的な軸ずれが生じ難くなる。装着部61と座部62とはスプリング部63のみで接続されているため軸ずれが生じやすいが、斜面62Cにより画成される凹形状部分に当接部61Cが挿入されることにより、斜面62Cと当接部61Cとの当接による調芯が行われ、装着部61と座部62とが同軸上で回転可能になる。よって従来のスプリングクラッチ機構に比べて、本件のスプリングクラッチ機構6は軸ずれが抑制されるため、より高速回転に対応することができる。尚、装着部61と座部62とはそれぞれメタル素材で構成されているため、斜面62Cと当接部61Cとが当接した際にも互いに好適に摺動することができ、それぞれ互いを支持する軸受けとして作用することができる。
【0035】
また第一スプリング装着部61Bと第二スプリング装着部62Aとのそれぞれには第一溝部61aと第二溝部62aとがそれぞれ形成されているため、第一スプリング装着部61Bと第二スプリング装着部62Aとに嵌合するスプリング部63の一端と他端とはそれぞれ第一溝部61aと第二溝部62aとの内部に配置される。このような構成によってスプリング部63が第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aから外れ難くなり、特に装着部61に対して座部62が反転してスプリング部63の内径が拡開した際に装着部61に対して座部62が高速回転したとしても、スプリング部63が第一スプリング装着部61B及び第二スプリング装着部62Aから外れることが抑制される。
【0036】
上記構成のねじ締め機1を使用してネジを施工する際には、ビット10を図示せぬネジの頭に合わせた状態で、ビット10を図示せぬネジに押し付け、トリガ21Aを引く。ビット10を押しつけることにより、図7に示されるように、スプリングクラッチ機構6に対してソケット51が後方位置へと移動するため、被掛止部62Bが掛止爪52Aに掛止されることはない。よってスプリングクラッチ機構6によりソケット51の回転が規制されることはなく、ソケット51は正転・反転することができる。またビット10を押し付けた反力により、ソケット51がクラッチドラム41側へと移動し、当接部51Aが第二クラッチプレート44に当接し、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に摩擦を発生させる。これによりクラッチドラム41とスプラインシャフト42とを共回り可能にし、モータ3からの正転方向の出力をソケット51及びビット10に伝達することができる。この時に、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦が徐々に大きくなる為、クラッチドラム41とスプラインシャフト42とが共回りし始める際に発生する衝撃を大幅に抑制し、騒音を低減することが可能となっている。またビット10への押し付け強さに応じて摩擦力が変化する為、使用者が押し付ける力を加減することにより、ビット10の回転を容易に制御することができる。
【0037】
ネジの施工が終わり、ビット10をネジから放した状態では、バネ46の付勢力により、スプラインシャフト42及びソケット51は前方位置へと移動する。これにより当接部51Aと第二クラッチプレート44との当接が解消し、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦が小さくなり、モータ3からの出力がソケット51に伝達されることが抑制される。
【0038】
ネジを打ち間違えた際に図示せぬ被加工部材から図示せぬネジを外すときは、スイッチ21Dを反転側にして、モータ3を反転させる。この時に、図示せぬネジの頭が図示せぬ被加工部材から突出していれば、ビット10が図示せぬネジに当接した反力により先端工具装着部5が後方位置へと移動し、当接部51Aが第二クラッチプレート44に当接して第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間の摩擦が発生し、ビット10に反転方向の駆動力が伝達されて好適に図示せぬネジを外すことができる。
【0039】
図示せぬネジの頭が図示せぬ被加工部材から突出していない場合(ネジが被加工部材に埋没している場合)はカバー54が邪魔になり、ビット10が図示せぬネジに当接したとしても充分な反力が得られず先端工具装着部5は前方位置に留まり、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に充分な摩擦が発生しない場合がある。この場合においては、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とを介してクラッチドラム41からスプラインシャフト42へと動力を伝達することができないが、反転方向の駆動力であるためワンウェイクラッチ45を介してクラッチドラム41からスプラインシャフト42へと動力を伝達することは可能になっている。
【0040】
ビット10に充分な反力が得られない場合は、図13に示されるように、ソケット51が後方位置へと移動しないため、被掛止部62Bが掛止爪52Aに掛止し、ソケット51と座部62とが一体回転する構成を採る。この場合に、座部62は、装着部61に対して反転可能なため、スプリングクラッチ機構6がソケット51の反転を妨げることはない。よってモータ3を反転させた際にビット10にネジによる反力が得られない場合であっても、好適に図示せぬネジを外すことができる。
【0041】
またビット10に反力が得られない状態、たとえばビット10に何も当接していない状態でトリガ21Aを引いた場合では、先端工具装着部5が前方位置にあるため第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に付勢力が働かず、第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に過度の摩擦は発生しない。しかしこの状態においても第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44とが僅かに当接する場合があるため、この場合に第一クラッチプレート43と第二クラッチプレート44との間に摩擦力が発生してスプラインシャフト42や先端工具装着部5に回転力が伝達される。しかし上述のようにビット10に反力が得られない場合には被掛止部62Bが掛止爪52Aに掛止して先端工具装着部5と座部62とが一体回転する構成を採り、かつ座部62は装着部61に対して正転できないため、ソケット51がクラッチ部4と共回りすることが抑制される。
【0042】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変形や改良が可能である。たとえば図14及び図15に示されるように、スプリング部163の後端を折り曲げて被係止爪52Aに掛止可能な被掛止部163Aとしてもよい。また図16に示されるように、スプリングクラッチ機構に変えて公知のワンウェイベアリング206を用いてもよい。ワンウェイベアリング206においては、外輪部261と内輪部262とスリーブ263とを備えている。外輪部261はハウジング2に固定され、内輪部262を正転のみ可能にしている。スリーブ263は内輪部262に固定されるとともに筒状に構成され、筒状内にソケット51を摺動可能に支持している。またスリーブ263の後端部分には、掛止爪52Aと掛止可能な被掛止部263Aが設けられており、ソケット51が後側へと移動した際には被掛止部263Aの掛止部52Aへの掛止が解かれる様に構成されている。これらのような構成によっても無負荷時においてソケット51の共回りを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施の形態に係るねじ締め機の断面図。
【図2】本発明の実施の形態に係るねじ締め機のクラッチドラムの分解斜視図。
【図3】本発明の実施の形態に係るねじ締め機のクラッチドラムの正面図。
【図4】本発明の実施の形態に係るねじ締め機のスプラインシャフトの断面図。
【図5】本発明の実施の形態に係るねじ締め機の第一クラッチプレートの正面図。
【図6】本発明の実施の形態に係るねじ締め機の第二クラッチプレートの正面図。
【図7】本発明の実施の形態に係るねじ締め機のスプリングクラッチ機構とソケット部分の断面図(負荷状態)。
【図8】図7のVIII-VIII線に沿った断面図。
【図9】本発明の実施の形態に係るねじ締め機のスプリングクラッチ機構の側面一部断面図。
【図10】本発明の実施の形態に係るねじ締め機のスプリングクラッチ機構の装着部の側面図。
【図11】本発明の実施の形態に係るねじ締め機のスプリングクラッチ機構の係合部の(a)側面一部断面図(b)底面図。
【図12】本発明の実施の形態に係るねじ締め機のスプリングクラッチ機構のスプリング部の側面図。
【図13】本発明の実施の形態に係るねじ締め機のスプリングクラッチ機構とソケット部分の断面図(無負荷状態)。
【図14】本発明の実施の形態の第一の変形例に係るねじ締め機のスプリング部の側面図。
【図15】本発明の実施の形態の第一の変形例に係るねじ締め機のスプリングクラッチ機構とソケット部分の断面図。
【図16】本発明の実施の形態の第二の変形例に係るねじ締め機のスプリングクラッチ機構とソケット部分の断面図。
【符号の説明】
【0044】
1・・ねじ締め機 2・・ハウジング 3・・モータ 4・・クラッチ部
5・・先端工具装着部 6・・スプリングクラッチ機構 10・・ビット
21・・ハンドル 21A・・トリガ 21B・・電源コード 21D・・スイッチ
31・・回転軸部 31A・・ベアリング 32・・ピニオン 33・・ファン
41・・クラッチドラム 41A・・ギア 41B・・凸部 41C・・壁部
41D・・収容部 41a・・孔 42・・スプラインシャフト 42A・・凸部
43・・第一クラッチプレート 43a・・凹部 43b・・孔
44・・第二クラッチプレート 44a・・凹部 44b・・孔
45・・ワンウェイクラッチ 46・・バネ 47A・・ベアリング 47B・・軸受
48・・第一シール部材 51・・ソケット 51A・・当接部 51a・・装着孔
52・・掛止部 52A・・掛止爪 53・・第二シール部材 54・・カバー
61・・装着部 61A・・胴部 61B・・第一スプリング装着部 61C・・当接部
61a・・第一溝部 62・・座部 62A・・第二スプリング装着部
62B・・被掛止部 62C・・斜面 62a・・第二溝部 63・・スプリング部
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハウジングと、
正転方向と反転方向に回転駆動される出力軸部を備える駆動部と、
回転駆動されてネジを締め付ける先端工具を装着可能であり、前方位置と後方位置との間で移動可能な先端工具装着部と、
該駆動部と該先端工具装着部との間に介在し少なくとも該後方位置において該駆動部から該先端工具装着部へ駆動力を伝達するクラッチ機構と、
該ハウジングに装着され、該前方位置において該先端工具装着部と回転方向に係合して該先端工具装着部の正転を不能とすると共に反転を可能とし、該後方位置において該先端工具装着部との回転方向の係合を解除して該先端工具装着部の正転と反転を可能とする共回防止機構と、を備えることを特徴とするねじ締め機。
【請求項2】
該共回防止機構は、該ハウジングに固定される装着部と、該先端工具装着部と係合可能な係合部とを含んで構成され、該係合部は該装着部に対して反転のみ可能に構成されていることを特徴とする請求項1に記載のねじ締め機。
【請求項3】
該係合部は、該先端工具装着部と係合する座部と、該座部と該装着部との間に介在し該装着部に対する反転のみを該座部に許容する正転防止部と、を含んで構成されていることを特徴とする請求項2に記載のねじ締め機。
【請求項4】
該先端工具装着部には該座部と係合する掛止部が設けられ、
該座部には該掛止部に係合される被掛止部が設けられていることを特徴とする請求項3に記載のねじ締め機。
【請求項5】
該正転防止部はスプリングであり、該共回防止機構はスプリングクラッチ機構であることを特徴とする請求項3または請求項4のいずれかに記載のねじ締め機。
【請求項6】
該共回防止機構は、ワンウェイクラッチを含んで構成されていることを特徴とする請求項1に記載のねじ締め機。
【図面】
















 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2014-12-11 
結審通知日 2014-12-15 
審決日 2015-01-06 
出願番号 特願2008-138430(P2008-138430)
審決分類 P 1 113・ 537- YAA (B25B)
P 1 113・ 113- YAA (B25B)
P 1 113・ 121- YAA (B25B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中野 裕之  
特許庁審判長 栗田 雅弘
特許庁審判官 長屋 陽二郎
刈間 宏信
登録日 2012-10-05 
登録番号 特許第5099440号(P5099440)
発明の名称 ねじ締め機  
代理人 市川 朗子  
代理人 城臺 顕  
代理人 玉田 尚志  
代理人 市川 朗子  
代理人 牛田 竜太  
代理人 牛田 竜太  
代理人 岩田 哲幸  
代理人 小泉 伸  
代理人 福本 鉄平  
代理人 城臺 顕  
代理人 小泉 伸  
代理人 福本 鉄平  
代理人 北澤 一浩  
代理人 北澤 一浩  
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