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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 F02M
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02M
管理番号 1299770
審判番号 不服2014-4338  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-03-05 
確定日 2015-04-07 
事件の表示 特願2011-118402「燃料噴射装置」拒絶査定不服審判事件〔平成23年11月 4日出願公開、特開2011-220342〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は、2006年(平成18年)3月2日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年3月3日、ドイツ連邦共和国、2005年5月2日、ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする特願2007-557510号の一部を平成23年5月26日に新たな特許出願としたものであって、平成23年5月26日に上申書が提出され、平成24年10月25日付けで拒絶の理由が通知され、これに対して平成25年5月2日に意見書が提出されるとともに、明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出されたが、平成25年10月31日付けで拒絶査定がされ、これに対して平成26年3月5日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に、明細書及び特許請求の範囲について補正する手続補正書が提出され、さらに、平成26年7月29日に上申書が提出されたものである。


第2 平成26年3月5日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年3月5日付けの手続補正を却下する。

[理由]
〔1〕本件補正の内容
平成26年3月5日付けの手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年5月2日に提出された手続補正書における特許請求の範囲の請求項1ないし39に記載された)下記の(A)に示す請求項1ないし39を、下記の(B)に示す請求項1ないし10と補正するものである。
(A)本件補正前の特許請求の範囲の請求項1ないし39
「 【請求項1】
内燃機関の燃料噴射設備用の燃料噴射装置であって、少なくとも1つの燃料噴射弁(1)と、シリンダヘッド(17)における燃料噴射弁(1)用の受容孔(9)と、接続管片(6)を備えた燃料分配管路(4)とが設けられていて、該接続管片(6)に燃料噴射弁(1)が部分的に重なり合って挿入されている形式のものにおいて、
結合体(18)が設けられていて、この結合体(18)が、該結合体(18)内に燃料噴射弁(1)を保持するように、配置されており、燃料噴射弁(1)が、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)の、燃料噴射弁(1)に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して接触することなく、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)内に挿入されており、結合体(18)が1つの保持カラー(21)又は複数の保持カラーセグメントを有していて、該保持カラー(21)又は保持カラーセグメントが、燃料噴射弁(1)のハウジング肩部(20)に下から係合しており、結合体(18)の保持カラー(21)又は保持カラーセグメントが、ハウジング肩部(20)に向かって丸く面取りされて形成されており、これに対して燃料噴射弁(1)におけるハウジング肩部(20)が円錐形に延びていて、これにより、シリンダヘッド(17)と燃料分配管路(4)との間の半径方向における誤差を補償するために、燃料噴射弁(1)の旋回運動が可能であることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
結合体(18)が燃料分配管路(4)の接続管片(6)に直接取り付けられている、請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
接続管片(6)が下流側端部に、部分的にリング状に延びていて張り出したカラー(15)を有しており、該カラー(15)が結合体(18)において開口(23)に係合している、請求項1又は2記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
接続管片(6)における結合体(18)の結合が摩擦力結合式、形状結合式及び/又は素材結合式である、請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
燃料分配管路(4)が結合手段(25)を用いてシリンダヘッド(17)に固定されている、請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
結合手段(25)の領域にそれぞれ少なくとも1つの緩衝プレート(26)が設けられている、請求項5記載の燃料噴射装置。
【請求項7】
緩衝プレート(26)が接触部で燃料分配管路(4)に直接接触して配置され、かつ/又は接触部でシリンダヘッド(17)に直接接触して配置されている、請求項6記載の燃料噴射装置。
【請求項8】
保持体(10)が燃料噴射弁(1)の肩部(12)と接続管片(6)の端面(14)との間において緊締もしくは緊縮されている、請求項1から7までのいずれか1項記載の燃料噴射装置。
【請求項9】
保持体(10)が部分リング形状のベースエレメント(11)を有していて、該ベースエレメント(11)から屈曲されて、軸方向可撓性の保持湾曲部(13)が延びている、請求項8記載の燃料噴射装置。
【請求項10】
保持湾曲部(13)が接続管片(6)の端面(14)に接触している、請求項9記載の燃料噴射装置。
【請求項11】
保持体(10)が打抜き曲げ部材として形成されている、請求項8から10までのいずれか1記載の燃料噴射装置。
【請求項12】
保持体(10)が周方向で見て開放した領域を有しており、該領域が、結合体(18)の切欠き(19)と同様に、燃料噴射弁(1)の接続コネクタ(8)によって貫通されている、請求項8から11までのいずれか1記載の燃料噴射装置。
【請求項13】
内燃機関の燃料噴射設備用の燃料噴射装置であって、少なくとも1つの燃料噴射弁(1)と、シリンダヘッド(17)における燃料噴射弁(1)用の受容孔(9)と、接続管片(6)を備えた燃料分配管路(4)とが設けられていて、該接続管片(6)に燃料噴射弁(1)が部分的に重なり合って挿入されている形式のものにおいて、
結合体(18)が設けられていて、この結合体(18)が、該結合体(18)内に燃料噴射弁(1)を保持するように、配置されており、燃料噴射弁(1)が、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)の、燃料噴射弁(1)に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して接触することなく、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)内に挿入されており、結合体(18)が1つの保持カラー(21)又は複数の保持カラーセグメントを有していて、該保持カラー(21)又は保持カラーセグメントが、燃料噴射弁(1)のハウジング肩部(20)に下から係合しており、結合体(18)の保持カラー(21)又は保持カラーセグメントとハウジング肩部(20)との間に、支持リング(50)が挿入されていることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項14】
支持リング(50)がハウジング肩部(20)に向かって丸く面取りされて形成されており、これに対して燃料噴射弁(1)におけるハウジング肩部(20)が円錐形に延びている、請求項13記載の燃料噴射装置。
【請求項15】
内燃機関の燃料噴射設備用の燃料噴射装置であって、少なくとも1つの燃料噴射弁(1)と、シリンダヘッド(17)における燃料噴射弁(1)用の受容孔(9)と、接続管片(6)を備えた燃料分配管路(4)とが設けられていて、該接続管片(6)に燃料噴射弁(1)が部分的に重なり合って挿入されている形式のものにおいて、
結合体(18)が設けられていて、この結合体(18)が、該結合体(18)内に燃料噴射弁(1)を保持するように、配置されており、燃料噴射弁(1)が、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)の、燃料噴射弁(1)に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して接触することなく、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)内に挿入されており、結合体(18)が管状に形成されており、接続管片(6)が下流側端部に、部分的にリング状に延びていて張り出したカラー(15)を有しており、該カラー(15)が結合体(18)を固定するように該結合体(18)に対応していて、管状の結合体(18)が燃料噴射弁(1)のハウジング肩部(20)に下から係合していることを特徴とする燃料噴射装置。
・・・(中略)・・・
【請求項35】
内燃機関の燃料噴射設備用の燃料噴射装置であって、少なくとも1つの燃料噴射弁(1)と、シリンダヘッド(17)における燃料噴射弁(1)用の受容孔(9)と、接続管片(6)を備えた燃料分配管路(4)とが設けられていて、該接続管片(6)に燃料噴射弁(1)が部分的に重なり合って挿入されている形式のものにおいて、
結合体(18)が設けられていて、この結合体(18)が、該結合体(18)内に燃料噴射弁(1)を保持するように、配置されており、燃料噴射弁(1)が、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)の、燃料噴射弁(1)に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して接触することなく、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)内に挿入されており、結合体(18)がリング状に形成されていて、軸方向ねじ(29)を介して燃料分配管路(4)と結合されており、結合体(18)は、該結合体(18)が燃料分配管路(4)から間隔をおいて位置するように、燃料噴射弁(1)に取り付けられていることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項36】
内燃機関の燃料噴射設備用の燃料噴射装置であって、少なくとも1つの燃料噴射弁(1)と、シリンダヘッド(17)における燃料噴射弁(1)用の受容孔(9)と、接続管片(6)を備えた燃料分配管路(4)とが設けられていて、該接続管片(6)に燃料噴射弁(1)が部分的に重なり合って挿入されている形式のものにおいて、
結合体(18)が設けられていて、この結合体(18)が、該結合体(18)内に燃料噴射弁(1)を保持するように、配置されており、燃料噴射弁(1)が、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)の、燃料噴射弁(1)に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して接触することなく、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)内に挿入されており、結合体(18)がスリットを備えたスナップリング(59)であり、該スナップリング(59)が接続管片(6)内に進入していて、燃料噴射弁(1)を取り囲んでおり、スナップリング(59)が、接続管片(6)に設けられた溝(60)に不動に係止されていることを特徴とする燃料噴射装置。
・・・(中略)・・・
【請求項38】
内燃機関の燃料噴射設備用の燃料噴射装置であって、少なくとも1つの燃料噴射弁(1)と、シリンダヘッド(17)における燃料噴射弁(1)用の受容孔(9)と、接続管片(6)を備えた燃料分配管路(4)とが設けられていて、該接続管片(6)に燃料噴射弁(1)が部分的に重なり合って挿入されている形式のものにおいて、
結合体(18)が設けられていて、この結合体(18)が、該結合体(18)内に燃料噴射弁(1)を保持するように、配置されており、燃料噴射弁(1)が、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)の、燃料噴射弁(1)に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して接触することなく、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)内に挿入されており、燃料噴射弁(1)が、該燃料噴射弁(1)に設けられた溝に挿入されたワイヤリング(56)を有しており、結合体(18)が固定ナット(38)の形で形成されていて、ワイヤリング(56)に係合していることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項39】
接続管片(6)に雄ねじ山(39)が設けられていて、該雄ねじ山(39)に固定ナット(38)又は結合体(18)自体が螺合可能である、請求項38記載の燃料噴射装置。」

(B)本件補正後の特許請求の範囲の請求項1ないし10
「 【請求項1】
内燃機関の燃料噴射設備用の燃料噴射装置であって、少なくとも1つの燃料噴射弁(1)と、シリンダヘッド(17)における燃料噴射弁(1)用の受容孔(9)と、接続管片(6)を備えた燃料分配管路(4)とが設けられていて、該接続管片(6)に燃料噴射弁(1)が部分的に重なり合って挿入されている形式のものにおいて、
燃料噴射弁(1)はその下流側端部で、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)内に組み込まれていて、該受容孔(9)の壁に対してシールリング(2)を用いてシールされており、
燃料噴射弁(1)はその供給側端部(3)に、燃料分配管路(4)に通じる差込み結合部を有しており、該差込み結合部は、燃料分配管路(4)の接続管片(6)と、燃料噴射弁(1)の供給管片(7)との間においてシール部材(5)によってシールされており、
結合体(18)が設けられていて、この結合体(18)が、該結合体(18)内に燃料噴射弁(1)を保持するように、配置されており、燃料噴射弁(1)が、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)の、燃料噴射弁(1)に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して接触することなく、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)内に挿入されており、結合体(18)が1つの保持カラー(21)又は複数の保持カラーセグメントを有していて、該保持カラー(21)又は保持カラーセグメントが、燃料噴射弁(1)のハウジング肩部(20)に下から係合しており、結合体(18)の保持カラー(21)又は保持カラーセグメントが、ハウジング肩部(20)に向かって丸く面取りされて形成されており、これに対して燃料噴射弁(1)におけるハウジング肩部(20)が円錐形に延びていて、これにより、シリンダヘッド(17)と燃料分配管路(4)との間の半径方向における誤差を補償するために、燃料噴射弁(1)の旋回運動が可能であり、
燃料分配管路(4)が結合手段(25)を用いてシリンダヘッド(17)に固定されており、結合手段(25)の領域にそれぞれ2つの緩衝プレート(26)が設けられていて、一方の緩衝プレート(26)が結合手段(25)と燃料分配管路(4)との間に配置され、かつ他方の緩衝プレート(26)が燃料分配管路(4)とシリンダヘッド(17)との間に配置されていることを特徴とする燃料噴射装置。
【請求項2】
結合体(18)が燃料分配管路(4)の接続管片(6)に直接取り付けられている、請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項3】
接続管片(6)が下流側端部に、部分的にリング状に延びていて張り出したカラー(15)を有しており、該カラー(15)が結合体(18)において開口(23)に係合している、請求項1又は2記載の燃料噴射装置。
【請求項4】
接続管片(6)における結合体(18)の結合が摩擦力結合式、形状結合式及び/又は素材結合式である、請求項1記載の燃料噴射装置。
【請求項5】
保持体(10)が燃料噴射弁(1)の肩部(12)と接続管片(6)の端面(14)との間において緊締もしくは緊縮されている、請求項1から4までのいずれか1項記載の燃料噴射装置。
【請求項6】
保持体(10)が部分リング形状のベースエレメント(11)を有していて、該ベースエレメント(11)から屈曲されて、軸方向可撓性の保持湾曲部(13)が延びている、請求項5記載の燃料噴射装置。
【請求項7】
保持湾曲部(13)が接続管片(6)の端面(14)に接触している、請求項6記載の燃料噴射装置。
【請求項8】
保持体(10)が打抜き曲げ部材として形成されている、請求項5から7までのいずれか1記載の燃料噴射装置。
【請求項9】
保持体(10)が周方向で見て開放した領域を有しており、該領域が、結合体(18)
の切欠き(19)と同様に、燃料噴射弁(1)の接続コネクタ(8)によって貫通されて
いる、請求項5から8までのいずれか1記載の燃料噴射装置。
【請求項10】
内燃機関の燃料噴射設備用の燃料噴射装置であって、少なくとも1つの燃料噴射弁(1)と、シリンダヘッド(17)における燃料噴射弁(1)用の受容孔(9)と、接続管片(6)を備えた燃料分配管路(4)とが設けられていて、該接続管片(6)に燃料噴射弁(1)が部分的に重なり合って挿入されている形式のものにおいて、
燃料噴射弁(1)はその下流側端部で、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)内に組み込まれていて、該受容孔(9)の壁に対してシールリング(2)を用いてシールされており、
燃料噴射弁(1)はその供給側端部(3)に、燃料分配管路(4)に通じる差込み結合部を有しており、該差込み結合部は、燃料分配管路(4)の接続管片(6)と、燃料噴射弁(1)の供給管片(7)との間においてシール部材(5)によってシールされており、
結合体(18)が設けられていて、この結合体(18)が、該結合体(18)内に燃料噴射弁(1)を保持するように、配置されており、燃料噴射弁(1)が、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)の、燃料噴射弁(1)に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して接触することなく、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)内に挿入されており、結合体(18)が1つの保持カラー(21)又は複数の保持カラーセグメントを有していて、該保持カラー(21)又は保持カラーセグメントが、燃料噴射弁(1)のハウジング肩部(20)に下から係合しており、結合体(18)の保持カラー(21)又は保持カラーセグメントとハウジング肩部(20)との間に、支持リング(50)が挿入されていて、該支持リング(50)がハウジング肩部(20)に向かって丸く面取りされて形成されており、これに対して燃料噴射弁(1)におけるハウジング肩部(20)が円錐形に延びていて、これにより、シリンダヘッド(17)と燃料分配管路(4)との間の半径方向における誤差を補償するために、燃料噴射弁(1)の旋回運動が可能であり、 燃料分配管路(4)が結合手段(25)を用いてシリンダヘッド(17)に固定されており、結合手段(25)の領域にそれぞれ2つの緩衝プレート(26)が設けられていて、一方の緩衝プレート(26)が結合手段(25)と燃料分配管路(4)との間に配置され、かつ他方の緩衝プレート(26)が燃料分配管路(4)とシリンダヘッド(17)との間に配置されていることを特徴とする燃料噴射装置。」
(なお、下線は、請求人が補正箇所を明示するために付したものである。)

〔2〕本件補正の目的要件について
本件補正は、本件補正前の請求項1を削除し、本件補正前の請求項1を引用する請求項5をさらに引用する請求項6を新たな請求項1とすると共に、本件補正前の請求項1を引用する請求項5をさらに引用する請求項6に係る発明における「燃料噴射弁(1)」という発明特定事項について、「燃料噴射弁(1)はその下流側端部で、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)内に組み込まれていて、該受容孔(9)の壁に対してシールリング(2)を用いてシールされており」という事項及び「燃料噴射弁(1)はその供給側端部(3)に、燃料分配管路(4)に通じる差込み結合部を有しており、該差込み結合部は、燃料分配管路(4)の接続管片(6)と、燃料噴射弁(1)の供給管片(7)との間においてシール部材(5)によってシールされており」という事項を付加し、さらに、「結合手段(25)の領域にそれぞれ少なくとも1つの緩衝プレート(26)が設けられている」という発明特定事項について、「結合手段(25)の領域にそれぞれ2つの緩衝プレート(26)が設けられていて、一方の緩衝プレート(26)が結合手段(25)と燃料分配管路(4)との間に配置され、かつ他方の緩衝プレート(26)が燃料分配管路(4)とシリンダヘッド(17)との間に配置されている」に限定する補正を含むものである。
よって、特許請求の範囲の請求項1についての本件補正は、本件補正前の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項5をさらに引用する請求項6に係る発明の発明特定事項を限定したものであって、本件補正後の請求項1に記載された発明と、本件補正前の請求項1を引用する請求項5をさらに引用する請求項6に記載された発明とは、産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるから、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「改正前の特許法」という。)第17条の2第4項第2号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

そこで、本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下、「本願補正発明」という。)が特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるか(改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について、以下に検討する。

〔3〕本願補正発明の独立特許要件について
1.本願補正発明
本願補正発明は、平成26年3月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである(上記〔1〕(B)に示す請求項1を参照。)。
ここで、平成26年3月5日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項2(上記〔1〕(B)に示す請求項2を参照。)において「結合体(18)が燃料分配管路(4)の接続管片(6)に直接取り付けられている、請求項1記載の燃料噴射装置。」と記載されていることから、本願補正発明においては、結合体(18)、燃料分配管路(4)及び接続管片(6)の有機的結合関係について、結合体(18)が燃料分配管路(4)の接続管片(6)に直接取り付けられているものに限定されないもの(すなわち、本件出願の明細書の段落【0008】に記載されているような「燃料噴射弁が燃料分配管路に結合体を介して直接結合されている」ものであって、同明細書の段落【0022】に記載があるように「燃料噴射弁」が「結合体18内に懸架されている」ものに限定されないもの)と解して、本願補正発明の独立特許要件の判断を行う。

2.引用刊行物
(1)刊行物1
ア 刊行物1の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特開2000-9000号公報(以下、「刊行物1」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
a)「【請求項1】インジェクタの先端部が、エンジン本体内の燃焼室に開口する取付け穴にシール部材を介して弾性支持され、後端部が、上記エンジン本体に取付けられ上記インジェクタに燃料供給するデリバリパイプを介して上記エンジン本体に弾性支持されたことを特徴とするインジェクタの取付け構造。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

b)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、筒内噴射式内燃機間、特にガソリン筒内噴射式内燃機関に用いるインジェクタの取り付け構造に関する。」(段落【0001】)

c)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来のインジェクタの取付け構造では、インジェクタがインジェクタ取り付け穴の段部等に直接金属接触したり、インジェクタ取り付け面103にシール部材105を介し密に圧接されている。このため、これら各当接部位はインジェクタの駆動音をエンジン本体側に拡散伝達し易くなるため、従来のインジェクタの取付け構造を用いた場合、エンジン騒音を高めるという問題が生じる。
【0006】本発明の目的は、インジェクタ駆動音のエンジン本体側への伝達を遮断し、エンジンの静粛性を向上できるインジェクタの取付け構造を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】上述の目的を達成するために、請求項1の発明は、エンジン本体に同エンジン本体内の燃焼室に開口する取付け穴を設け、上記取付け穴にインジェクタの先端部がシール部材を介して弾性支持され、上記インジェクタに燃料供給するデリバリパイプが上記エンジン本体に取付けられ、上記デリバリパイプを介して上記インジェクタの後端部がエンジン本体に弾性支持されていることを特徴とする。このため、インジェクタの先端部及び後端部がエンジン本体に弾性支持されているので、両者間が金属接触等により密に接触する部位を低減でき、インジェクタの駆動音がエンジン本体側へ伝達することを防止し、エンジン騒音を低減できる。更に、インジェクタが先端部で受ける筒内圧による押圧力はデリバリパイプよりエンジン本体に受け止められ、インジェクタを確実にエンジン本体に取付け支持でき、しかも、シール部がインジェクタの先端部と取付け穴との間のシール性を確実に維持できる。
【0008】好ましくは、取付け穴は直状部を有し、上記インジェクタの先端部が上記直状部にシール部材を介して弾性支持されることが良い。この場合、インジェクタの先端部がその軸線方向にずれが生じたとしてもシール部材が取付け穴の直状部との間のシール性を確実に安定して維持できる。」(段落【0005】ないし【0008】)

d)「【0009】
【発明の実施の形態】図1及び図3には本発明の一実施形態例としてのインジェクタの取付け構造を示した。ここで図3はインジェクタの取付け構造を装備する筒内噴射型多気筒エンジン(以後単にエンジンと記す)Eを上方からみた平面図であり、図2はエンジンE内の一つのインジェクタ1の取付け部分を示す要部断面図である。図2、図3に示すように、エンジンEの本体はヘッドカバー2を上部にボルト止めしたシリンダヘッド3とその下方のシリンダブロック4及び図示しないクランクケースやクランクカバーをこの順に重ねて一体化して構成される。
【0010】シリンダブロック4はその長手方向に4つのシリンダSを配備し、各シリンダS内には頂面に凹部を有するピストン5が摺動自在に嵌装され、各シリンダSの上部には燃焼室Cが形成される。このシリンダブロック4の下部にはピストン5の往復動を回転運動に変換する図示しないクランクシャフトやコンロッド等が収容されている。なお、このエンジンEの各気筒の構成はほぼ同一であるので、図3において同一部材には同一符号を付し、重複説明を略す。
【0011】シリンダヘッド3はその長手方向に順次設けられる各シリンダSとの対向部位にシリンダ対向下壁面11が形成される。この下壁面11は各シリンダSの軸線Lを連結してなるシリンダヘッド3の長手方向中心線L1(図3参照)を挾んで一側(図3で上側)に一対の吸気ポート6が他側(図3で下側)に一対の排気ポート7がそれぞれ配備される。更に、シリンダ対向下壁面11のほぼ中央位置には点火プラグ12が装着され、シリンダ対向下壁面11の周縁側端部で一対の吸気ポート6の間には燃料噴射用のインジェクタ1が配備される。
【0012】シリンダヘッド3の側方壁面にはシリンダヘッド3の長手方向に長い燃料供給用のデリバリパイプ14が配備される。このデリバリパイプ14は燃料を流通させるパイプ状の管状主部141を備え、この管状主部より2つのアーム部142を延出形成している。図2に示すように、シリンダヘッド3の側方壁面にはデリバリパイプ14の取付け面13が2か所に形成され、これらの両取付け面13にはデリバリパイプの2つのアーム部142がインシュレータ15を介しボルトBで締付固定される。なお、インシュレータ15は振動吸収性を示す肉厚の弾性を有した樹脂、たとえばPP樹脂等で成形され、これによりアーム部142と取付け面13との金属接触を低減させている。
【0013】このデリバリパイプ14の環状主部141の一端には燃料ポンプP側より高圧化された燃料が供給される高圧パイプ24が接続され、他端にはインジェクタ1からオーバーフローした燃料を高圧調整弁V側に導く戻り管25が接続される。なお高圧調整弁Vを通過した燃料は不図示の燃料タンクへ戻される。
【0014】デリバリパイプ14の管状主部141には2つのアーム部142の外に、4つのインジェクタ取付部143が一体形成される。各インジェクタ取付部143は各気筒のインジェクタ1との対向位置に対向配備され、各インジェクタ側に燃料を導入するよう略筒状に突き出し形成される。このインジェクタ取付部143は、図1に示すように、その内側に嵌合穴hを、外側に外螺子部nをそれぞれ形成される。嵌合穴hは管状主部141内の燃料路rと連通する。次に、デリバリパイプ14に連結される第1気筒のインジェクタ1の説明を図1に沿って説明する。なお、その他の気筒のインジェクタも同様の取付け構造を採ることよりここでは重複説明を略す。
【0015】ここで、第1気筒のシリンダ対向下壁面11の端部で一対の吸気ポート6の間には燃焼室に向けて開口する取付け穴16が形成される。この取付け穴16は、図1に示すように、燃焼室C側に形成される小径の直状部161とシリンダヘッド外側の外側開口部162とこれら直状部161と外側開口部162を結ぶ段部163とで形成され、ここにインジェクタ1が嵌される。インジェクタ1は、デリバリパイプ14の嵌合穴hに嵌合される後端部としての管状連結部17と、管状連結部17の基端側に設けられインジェクタ取付部143の先端に当接可能なフランジ状の環状突部18と、環状突部18より下方に延出する小径部19と、小径部19の下端に膨出形成される拡径部20と、この拡径部20の下方に延出形成され先端に図示しない噴口を有する先端部としてのノズル部21とを有する。ノズル部21は噴口を開閉する図示しない針弁を備え、この針弁は拡径部20内の図示しない電磁ソレノイドの駆動に応じて噴口を開閉するように構成される。
【0016】インジェクタ取付部143の嵌合穴hに嵌合される管状連結部17の先端には環状溝171が形成され、この溝171に弾性体から成るシールリングeが外嵌される。このシールリングeは嵌合穴hと管状連結部17との間をシールするように形成される。デリバリパイプ14側の外螺子部nを形成されたインジェクタ取付部143と、インジェクタ1側の環状突部18を形成された管状連結部17とは固着部材であるねじ部材22により互いが一体結合される。
【0017】ここでねじ部材22は略短筒状を成し、インジェクタ取付部143に形成された外螺子部nに螺合する内螺子部mを形成され、この内螺子部mの一端側には、これより延出して管状連結部17に形成された環状突部18を係止する環状係止部221を一体形成されている。このねじ部材22はこれが外螺子部nに締め込まれると、環状突部18がインジェクタ取付部143の先端部に圧接され、相対変位の無い状態で結合され、これによってインジェクタ1とデリバリパイプとが一体結合され、管状主部141内の燃料をインジェクタ1のノズル部21側に導入できる。
【0018】デリバリパイプ14にねじ部材22により一体結合されたインジェクタ1は取付け穴16に嵌挿され、デリバリパイプ14のアーム部142およびインシュレータ15を介しシリンダヘッド3にボルト止めされ、確実に支持される。この支持状態において、インジェクタ1の拡径部20は外側開口部162に同心的に遊嵌され、ノズル部21は直状部161に同心的に遊嵌され、これによりインジェクタは取付け穴16に対して非接触状態を保持する。ここで、ノズル部21はその長手方向での中間位置に環状外溝211を形成され、この環状外溝211にシール部材としての環状シール部材23がずれなく外嵌される。この環状シール部材23は弾性体でリング状に成形され、ここでは耐熱性が高い弾性体の樹脂、例えばPTFE(フッ素樹脂系)やフッ素ゴム等で成形される。
【0019】このように環状シール部材23を外嵌するノズル部21はそれ自体は直状部161に非接触状態を保持し、しかも、環状シール部材23によりノズル部21と直状部161とのすき間を確実にシールする。上述の環状シール部材23はノズル部21の環状外溝211にずれなく外嵌されていたが、これに代えて、図4に示すように、直状部161の中間部に環状内溝dを形成し、そこに予め環状シール部材23’を嵌め込み、その上で環状シール部材23’にノズル部21を嵌挿するように構成しても良い。この場合の環状シール部材23’も弾性体であることが望ましく、例えば、内径を微小変位可能なばね鋼から成るリング状部材を用いてもよい。
【0020】ここで、図1乃至図3に示したインジェクタの取付け構造を用いたエンジンにおけるインジェクタ1の取付けを説明する。まず、エンジン本体側の上部に位置するシリンダヘッド3の側方壁面には同シリンダヘッドの長手方向に長い燃料供給用のデリバリパイプ14が対設され、その2つのアーム部142がシリンダヘッド3各取付け面13にそれぞれボルトにより止めされる。次いで、側方壁面の4つの取付け穴16に対し、ねじ部材22および環状シール部材23を組み付け済のインジェクタ1を仮付けする。
【0021】この場合、各インジェクタ1の管状連結部17がデリバリパイプ14側のインジェクタ取付部143の嵌合穴hに嵌挿される。その後、デリバリパイプ14側の2つのアーム部142がインシュレータ15を介しシリンダヘッド3にボルト止めされ、次いで、インジェクタ1側のねじ部材22がデリバリパイプ14側の外螺子部nに確実に締め込まれ、インジェクタとデリバリパイプとを一体結合する。この後、シリンダヘッド3に固着されたデリバリパイプ14の一端には燃料ポンプP側に連通する高圧パイプ24が、他端には高圧調整弁V側に連通する戻り管25が接続されることとなる。
【0022】以上のように、図1乃至図3のインジェクタの取付け構造によれば、アーム部142がシリンダヘッド3に、ノズル部21が環状シール部材23を介し直状部161に支持され、その他の部位をシリンダヘッド3に対し非接触(フローティング状態)に保持できる。このためインジェクタ1の駆動音のシリンダヘッド3側への伝達を遮断でき、エンジン騒音を確実に低減できる。特にここでは、アーム部142がインシュレータ1を介してシリンダヘッド3にボルト止めされ、ノズル部21が環状シール部材23を介し直状部に支持されるため、燃焼ガスの漏れを防止した上で、インジェクタ1とシリンダヘッド3が金属接触する部位をより確実に低減でき、インジェクタ1の駆動音をより確実に遮断してエンジン騒音を十分低減できる。
【0023】更に、インジェクタ1が受ける筒内圧による押圧力はアーム部142よりボルトBを介しシリンダヘッド3に受け止められ、インジェクタ1を確実にシリンダヘッド3に取付け支持できる。しかも、たとえノズル部21がその軸線方向にずれが生じても環状シール部材23が直状部161との間のシール性を確実に維持できる。更に、ここでは固着部材であるねじ部材22を締め込むことでインジェクタ取付部143と管状連結部17とを容易に一体結合できる。」(段落【0009】ないし【0023】)

e)「【0026】
【発明の効果】請求項1の発明によれば、インジェクタはその後端部をエンジン本体にデリバリパイプを介し弾性支持され、先端部を取付け穴にシール部材を介し弾性支持され、その際、シール部材が先端部と取付け穴の隙間をシールすると共にインジェクタのその他の部位がエンジン本体に対し非接触に保持される。このため、インジェクタの先端部及び後端部がエンジン本体に弾性支持されているので、両者間が金属接触等により密に接触する部位を低減でき、インジェクタの駆動音がエンジン本体側へ伝達することを防止し、エンジン騒音を低減し、静粛性を向上できる。更に、インジェクタが先端部で受ける筒内圧による押圧力はデリバリパイプよりエンジン本体に受け止められ、インジェクタを確実にエンジン本体に取付け支持でき、しかも、シール部材がインジェクタの先端部と取付け穴との間のシール性を確実に維持できる。」(段落【0026】)

イ 刊行物1の記載事項及び図面の記載から分かること
a)上記アb)及びd)(特に、段落【0001】、【0011】、【0014】及び【0015】)並びに図1ないし3の記載によれば、筒内燃料噴射式内燃機関において、4つのインジェクタ1と、シリンダヘッド3におけるインジェクタ1用の取付け穴16と、インジェクタ取付部143を一体形成したデリバリパイプ14とが設けられており、これらによって燃料噴射設備用の燃料噴射装置が構成されていることが分かる。

b)上記アd)(特に、段落【0014】、【0016】及び【0017】)及び図1の記載によれば、インジェクタ取付部143の内側に形成された嵌合穴hに、インジェクタ1の管状連結部17が嵌合されていることが分かる。

c)上記アa)、c)及びd)(特に、【請求項1】、並びに、段落【0007】、【0008】、【0015】、【0018】及び【0019】)並びに図1の記載によれば、インジェクタ1が、その先端部であるノズル部21で、シリンダヘッド3の取付け穴16内に嵌挿されていて、該取付け穴16の壁に対して環状シール部材23を用いてシールされていることが分かる。

d)上記アa)、c)及びd)(特に、【請求項1】、並びに、段落【0007】、【0015】及び【0016】)並びに図1の記載によれば、インジェクタ1はその後端部に、デリバリパイプ14に通じる管状連結部17を有しており、該管状連結部17とデリバリパイプ14のインジェクタ取付部143の内側に形成された嵌合穴hとの間をシールリングeによってシールされていることが分かる。

e)上記アd)(特に、段落【0018】、【0019】及び【0022】)及び図1の記載によれば、インジェクタ1が、シリンダヘッド3の取付け穴16の、インジェクタ1に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して非接触状態を保持して、シリンダヘッド3の取付け穴16内に嵌挿されていることが分かる。

f)上記アd)(特に、段落【0012】)並びに図1ないし3の記載によれば、デリバリパイプ14がボルトBを用いてシリンダヘッド3に固定されており、ボルトBの領域にそれぞれ振動吸収性を示すインシュレータ15が設けられていて、インシュレータ15がデリバリパイプ14とシリンダヘッド3との間に配置されていることが分かる。

ウ 引用発明
上記ア及び上記イを総合して、本願補正発明の表現にならって整理すると、刊行物1には、次の事項からなる発明(以下「引用発明」という。)が記載されていると認める。
「筒内燃料噴射式内燃機関の燃料噴射設備用の燃料噴射装置であって、4つのインジェクタ1と、シリンダヘッド3におけるインジェクタ1用の取付け穴16と、インジェクタ取付部143を一体形成したデリバリパイプ14とが設けられていて、該インジェクタ取付部143の内側に形成された嵌合穴hにインジェクタ1の管状連結部17が嵌合されている形式のものにおいて、
インジェクタ1はその先端部であるノズル部21で、シリンダヘッド3の取付け穴16内に嵌挿されていて、該取付け穴16の壁に対して環状シール部材23を用いてシールされており、
インジェクタ1はその後端部に、デリバリパイプ14に通じる管状連結部17を有しており、該管状連結部17とデリバリパイプ14のインジェクタ取付部143の内側に形成された嵌合穴hとの間をシールリングeによってシールされており、
インジェクタ1が、シリンダヘッド3の取付け穴16の、インジェクタ1に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して非接触状態を保持して、シリンダヘッド3の取付け穴16内に嵌挿されており、
デリバリパイプ14がボルトBを用いてシリンダヘッド3に固定されており、ボルトBの領域にそれぞれ振動吸収性を示すインシュレータ15が設けられていて、振動吸収性を示すインシュレータ15がデリバリパイプ14とシリンダヘッド3との間に配置されている筒内燃料噴射式内燃機関の燃料噴射設備用の燃料噴射装置。」

(2)刊行物2
ア 刊行物2の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本件出願の優先日前に頒布された刊行物である特表2005-500473号公報(以下、「刊行物2」という。)には、図面とともに次の事項が記載されている。
a)「【請求項1】
燃料噴射弁(6)を内燃機関のシリンダヘッド(7)内に支承するための補償エレメントであって、その際補償エレメント(1)は中間リング(2)の形で構成されており、かつ燃料噴射弁(6)の弁ケーシング(14)とシリンダヘッド(7)の受容孔(11)の壁面(12)との間に配置されている形式のものにおいて、補償エレメント(1)が中間リング(2)にウェブ(3)を有しており、これらのウェブは弁ケーシング(14)に沿って延びており、かつこれらのウェブに支持セグメント(4)が固定されており、これらの支持セグメントは弁ケーシング(14)を取り囲んでおり、これによって弁ケーシング(14)が受容孔(11)の壁面(12)から隔てられていることを特徴とする、燃料噴射弁のための補償エレメント。
【請求項2】
中間リング(2)がプラスティックから射出成形されていることを特徴とする、請求項1記載の補償エレメント。
【請求項3】
ウェブ(3)が中間リング(2)に鋳着あるいは中間リングと一体に構成されていることを特徴とする、請求項1又は2記載の補償エレメント。
【請求項4】
中間リング(2)が4分の1円形の横断面を有していることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載の補償エレメント。
【請求項5】
中間リング(2)が、4分の1円形の隆起部をもって燃料噴射弁(6)の肩(16)に、かつ平らな面をもってシリンダヘッド(7)の受容孔(11)の肩(17)に接触していることを特徴とする、請求項4記載の補償エレメント。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項5】)

b)「【0004】
発明の利点
主請求項の構成要件を備えた燃料噴射弁のための本発明による補償エレメントはこれに対し、次のような利点を有している。すなわち、中間リングがウェブを備えていて、これらのウェブは燃料噴射弁の弁ケーシングに対して平行に延びており、かつそれ自体部分円形形の支持セグメントと結合されており、これらの支持セグメントは燃料噴射弁を取り囲んでおり、かつこれによって、燃料噴射弁上に作用する力により内燃機関の受容孔の壁面から隔てることに配慮する。
【0005】
補償エレメントはこの場合、個々の構造部分の製作公差並びに、燃料噴射弁の運転の際の加熱に帰せられる公差を配慮し、かつこれにより傾き及び誤位置を予防する。
【0006】
従属請求項に記載した手段によって、主請求項に記載した補償エレメントの有利な展開及び改善が可能である。
【0007】
有利なのは特に、中間リングが4分の1円形の横断面を有していて、燃料噴射弁と受容孔の壁面との間に配置されており、燃料噴射弁がフレキシブルに受容孔内でバランスされることができることである。」(段落【0004】ないし【0007】)

c)「【0012】
図1Aは本発明により構成された補償エレメント1の第1実施例の概略的な図を示し、これは特に燃料噴射弁を混合気圧縮火花点火式の内燃機関のシリンダヘッドの受容孔内で補償するのに適している。
【0013】
補償エレメント1は中間リング2の形で構成されており、これはこの第1実施例では4分の1円に相応する横断面を有している。中間リング2は組み立てられた状態では、図1Aにおいて示されていない内燃機関のシリンダヘッドの受容孔の肩に接触する。中間リング2にはウェブ3が構成されており、これらのウェブは有利にはプラスティックから射出された中間リング2に鋳着されているか、あるいは一体に製作されていることができる。
【0014】
その数が好ましい実施例では2であるウェブ3には支持セグメント4が設けられており、これらの支持セグメントは補償エレメント1が組み立てられた状態では燃料噴射弁を取り囲み、かつ燃料噴射弁をシリンダヘッドの受容孔の壁面12から隔てることに配慮する。支持セグメント4の数は好ましい実施例では4である。支持セグメント4はこの場合、4分の1円の形に構成されており、要するに一緒に1つの、燃料噴射弁を取り囲む円を形成し、この円は等間隔でスリットを付けられている。その都度2つの支持セグメント4はこの場合それぞれ1つのウェブ3に結合されている。
【0015】
補償エレメント1を組み立てるためには、補償エレメントは組み立てるべき燃料噴射弁上に差しはめられ、かつこれと一緒に、図2Aに詳細に示すように、シリンダヘッド7の受容孔内に組み立てられる。
【0016】
図1Bは、部分的な断面図で、本発明により構成された補償エレメント1の第2実施例を示す。図1Aに示した実施例と合致する構造部分は同一の符号を付けられている。
【0017】
本発明による補償エレメント1の第2実施例はやはり中間リング2を有しており、これにウェブ3が構成されている。この実施例では、4つのウェブ3が存在しており、これらのウェブのうち、その都度2つの互いに向き合っているウェブ3は保持ウェブ3aとして、かつスリットを付けられたウェブ3bとして構成されている。
【0018】
保持ウェブ3aはこの場合図1Aに示したウェブ3に対して延長せしめられており、かつ保持カラー5を備えており、これらの保持カラーは例えば、燃料噴射弁の肩上にクリップ止めすることによって、補償エレメント1を燃料噴射弁に固定するために、使用することができる。保持カラー5はこの場合部分円形に構成されていて、保持ウェブ3aの幅に相応する幅を有することができる。補償エレメント1をより良好に固定するために、保持カラー5は半径方向で幅を広げることもできる。
【0019】
スリットを付けられたウェブ3bは支持セグメントを安定化するために構成されていて、かつ次のように構成されている。すなわち、これらのウェブが中間リング2に向いた側でスリットを付けられておらず、かつ支持セグメント4に面した側でスリットを付けられている。これによって、4分の円形の支持セグメント4のそれぞれは一方の端部をもって、保持ウェブ3aの1つに、かつその他方の端部をもってスリットを付けられたウェブ3bの1つに固定される。これによって、支持セグメント4はより良好に支持され、かつ補償エレメント1の形状を得る。このこと自体は簡単な組み立てを可能にする。それは補償エレメント1は組み立ての際の曲げあるいはひずみに対して敏感でないからである。
【0020】
本発明による補償エレメント1の取り付け位置及び機能は図2A及び2Bに詳細に示されており、かつ以下の記載で詳細に説明する。
【0021】
4分の1円に相応する横断面を有している図1A及び1Bに示した中間リング2は、図1AにおいてICで示され、図1Cにおいて拡大されて示されている区分のように、角張った横断面を有することもできる。中間リング2の高さhはこの場合可変であり、燃料噴射弁及びシリンダヘッドの受容孔の構造的な条件に相応して選ぶことができる。
【0022】
図2A及び図2Bは部分的な断面図で、図1Aによる補償エレメント1を示し、これは燃料噴射弁6と共に、内燃機関のシリンダヘッド7の受容孔11内に組み立てられている。
【0023】
この場合図2Aは、補償エレメント1及び燃料噴射弁6がシリンダヘッド7の受容孔11の壁面12から一様に隔てられており、若しくは補償エレメント1及び燃料噴射弁6より成る全構造部分が受容孔11内で定心されている取り付け状態を示す。図2Bは、例えば燃料噴射弁6が図示していない燃料供給導管に接続された後の状態を示し、これによって、燃料噴射弁6は変位せしめられていて、かつもはやシリンダヘッド7の受容孔11内に定心されていない。
【0024】
個々に、上述の取り付け状態に立ち入る前に、本発明による補償エレメント1を組み立てるために適した燃料噴射システムの重要な部分について簡単に説明しておく。
【0025】
燃料噴射弁6はこの場合、直接に噴射する燃料噴射弁6の形で構成されており、内燃機関のシリンダヘッド7内に取り付けられている。燃料噴射弁6は供給側の端部8に、詳細に図示していない燃料供給導管への差し込み接続部を有しており、これは例えばシールによって燃料供給導管と供給短管9との間でシールしておくことができる。燃料供給導管6は、燃料噴射弁6を操作するための電気的な接点接続のための、電気的な接続部10を有している。燃料噴射弁6は更に弁ケーシング14の下流側でこれから突出しているノズル体13を有している。ノズル体13にはシール15が配置されており、これは、シリンダヘッド7を内燃機関の燃焼室に対してシールするのに役立つ。
【0026】
燃料噴射弁6は、その弁ケーシング14に肩16を有しており、これは例えば45°の角度で傾斜している。普通は、この肩16は少なくとも同じように傾斜したシリンダヘッド7の受容孔11の肩17に接触している。燃料噴射弁6と受容孔11との間の公差補償はこの場合単に極めて不満足にしか可能でない。
【0027】
この実施例では肩17は、本発明による補償エレメント1と結合して、直角に構成されており、したがって、補償エレメント1の中間リング2はその平らな面で肩17上に接触し、かつ部分円形に湾曲せしめられた面で燃料噴射弁6を支える。
【0028】
組み立てのために、補償エレメント1はシリンダヘッド7の肩17上に置かれ、若しくは弁ケーシング14上に差しはめられ、これによって、燃料噴射弁6と受容孔11との間の前もっての肩接続が、補償エレメント1の中間リング2の直径に相応する距離上で、開かれる。図2Aは、燃料噴射弁6を図示していない燃料供給導管に接続する前の相応する取り付け状態を示す。
【0029】
中間リング2の位置は、中間リングに、条件に相応する最適の位置を占めることを可能にする。この結果、補償エレメント1が燃料噴射弁6と共に、燃料噴射弁6若しくは受容孔11の縦軸線18に対して傾倒していることもできる。燃料噴射弁6の弁ケーシング14に対して平行に延びるウェブ3にフレキシブルに固定された支持セグメント4と一緒に、このことは所望の公差補償を可能にし、この公差補償は、半径方向の応力が形成され、か
つ後に続いて、例えば燃料噴射弁の内部で構造部分が傾くことによって燃料噴射弁6の誤機能が生じることを、阻止する。
【0030】
図1A又は図1Bによる本発明による補償エレメント1はこの場合複数の機能を果たす。一面では、燃料噴射弁6がシリンダヘッド7の受容孔11の壁面12から隔てられることによって、燃料噴射弁6の定心が達成され、この定心は燃料噴射弁6の、例えば燃料噴射弁6のノズル体13の範囲における過度に強い傾きに反対作用をし、かつこれにより、ノズル体13上に差しはめられた、シリンダヘッド7を詳細に図示していない内燃機関の燃焼室に対してシールするシールリング15のシール作用に寄与する。
【0031】
更に、補償エレメント1によって個々の構造部分の、燃料噴射弁6における非対称をもたらす製作公差を補償することができ、その際高価な構造部分の後加工を必要とすることはない。
【0032】
温度に基づく公差、例えば内燃機関の運転の間の燃料噴射弁6及びシリンダヘッド7の加熱によって生じる公差も、補償エレメント1によって補償することができる。この種の公差は、例えば燃料噴射弁6と図示していない燃料分配導管との間の差し込み接続部の負荷及び応力をもたらすことがある。
【0033】
燃料噴射弁6に対する補償エレメント1のはめ合わせは遊びはめ合わせか差し込みはめ合わせによって行うことができる。補償エレメント1に、支配している条件によって最適の位置を占めることを可能にする遊びはめ合わせは、特に図1Aによる補償エレメント1の実施例のために適しているのに対し、差し込みはめ合わせは図1Bによる補償エレメント1において特に簡単に実現可能でる。それは、保持ウェブ3aの保持カラー5は補償エレメント1をを燃料噴射弁6に保持し、かつこれにより、燃料噴射弁6を受容孔11の壁面12に対して隔てることのほかに、補償エレメント1の取り付け及び取り外しの際の補償エレメント1の紛失を効果的に防止するからである。
【0034】
燃料噴射弁6が、図2Bにおいて示されているように、例えば図示していない燃料分配導管の接続によって、受容孔11内で傾くときには、このことは、補償エレメント1及び受容孔11の幾何形状によって制限されている所定の公差値の範囲内で行われる。燃料噴射弁6はその場合もはや受容孔11内で定心せしめられておらず、例えば±0.2mmの最大値だけ変位せしめられており、かつ又は付加的に傾いているが、燃料噴射弁6及び例えばシールリング15のような別のコンポーネントの機能は影響を受けない。それは燃料噴射弁6は依然として真っ直ぐであり、かつ弁ケーシング14及びノズル体13は軸方向力によって曲げられないからである。シールリング15の可とう性が充分である場合には、依然としてシリンダヘッド7の燃焼室に対する満足し得るシールを行うことができる。燃料噴射弁6の縦軸線18はしたがって図2Aにおいて占めている位置に対してわずかに傾斜しているが、このことはしかしながら個々の構造部分の機能に影響を及ぼさない。
【0035】
図2A及び2Bにおいて示されていない支持セグメント4はこの場合常に、燃料噴射弁6を受容孔11の壁面12から最適に隔てているのに対し、補償エレメント1の中間リング2は燃料噴射弁6の供給側の端部8で行われる運動並びに加熱によって惹起される公差を可能にする。
【0036】
本発明は、図示の実施例に限定されるものではなく、かつ例えば異なって形成された中間リング2及びより多いあるいはより少ない支持セグメント4若しくはウェブ3を備えた補償エレメント1のためにも適している。同様に、本発明は燃料噴射弁6の任意の構造、例えば自己点火式の内燃機関の燃焼室内に噴射するための燃料噴射弁6に対しても適用可能である。」(段落【0012】ないし【0036】)

イ 刊行物2の記載事項及び図面の記載から分かること
a)上記アa)、b)及びc)(特に、【請求項1】並びに段落【0004】、【0014】、【0023】及び【0030】)並びに図2A及び2Bの記載によれば、燃料分配管路に接続される燃料噴射弁6が、シリンダヘッド7の受容孔11内に挿入される構造を有するものが開示されていることが分かる。

b)上記アa)、b)及びc)(特に、【請求項1】並びに段落【0004】、【0014】、【0027】、【0028】及び【0033】)並びに図1A、1B、2A及び2Bの記載によれば、燃料噴射弁6がシリンダヘッド7の受容孔11内に挿入される構造において、補償エレメント1が設けられていて、この補償エレメント1が、該補償エレメント1内に燃料噴射弁6を保持するように配置されていることが分かる。

c)上記アa)、b)及びc)(特に、【請求項1】並びに段落【0004】、【0007】、【0013】ないし【0015】及び【0026】ないし【0028】)並びに図1A、1B、2A及び2Bの記載によれば、燃料噴射弁6がシリンダヘッド7の受容孔11内に挿入される構造において、補償エレメント1が1つの中間リング2を有していて、該中間リング2が燃料噴射弁6の弁ケーシング14の肩16に下から係合していることが分かる。

d)上記アa)、b)及びc)(特に、【請求項1】、【請求項4】及び【請求項5】並びに段落【0004】、【0013】、【0021】及び【0027】)並びに図1A、1B、2A及び2Bの記載によれば、補償エレメント1の中間リング2が、弁ケーシング14の肩16に向かって4分の1円に相応する横断面を有して形成されていることが分かる。

e)上記アc)(特に、段落【0026】)並びに図1A、1B、2A及び2Bの記載によれば、 燃料噴射弁6における弁ケーシング14の肩16が所定の角度(例えば、45°の角度)で傾斜して延びており、これより燃料噴射弁6における弁ケーシング14の肩16が円錐形に延びていることが分かる。

f)上記アc)(特に、段落【0024】ないし【0035】)並びに図1A、1B、2A及び2Bの記載によれば、補償エレメント1により、燃料噴射弁6における非対称をもたらす製作公差又は温度に基づく公差を補償するために、燃料噴射弁6の傾倒が可能であることが分かる。

ウ 刊行物2に記載された技術
上記ア及び上記イを総合すると、刊行物2には、次の事項からなる技術(以下、「刊行物2に記載された技術」という。)が記載されていると認める。
「燃料分配導管に接続される燃料噴射弁6が、シリンダヘッド7の受容孔11内に挿入される構造を有するものにおいて、
補償エレメント1が設けられていて、この補償エレメント1が、該補償エレメント1内に燃料噴射弁6を保持するように、配置されており、補償エレメント1が1つの中間リング2を有していて、該中間リング2が燃料噴射弁6の弁ケーシング14の肩16に下から係合しており、補償エレメント1の中間リング2が、弁ケーシング14の肩16に向かって4分の1円に相応する横断面を有して形成されており、これに対して燃料噴射弁6における弁ケーシング14の肩16が円錐形に延びていて、これにより、燃料噴射弁6における非対称をもたらす製作公差又は温度に基づく公差を補償するために、燃料噴射弁6の傾倒が可能であるようにした技術。」

3.対比
本願補正発明(以下、「前者」ともいう。)と引用発明(以下、「後者」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。

・後者における「内燃機関の燃料噴射設備用の燃料噴射装置」は、前者における「内燃機関の燃料噴射設備用の燃料噴射装置」又は「燃料噴射装置」に相当し、以下同様に、「4つ」は「少なくとも1つ」に、「インジェクタ1」は「燃料噴射弁(1)」に、「シリンダヘッド3」は「シリンダヘッド(17)」に、「取付け穴16」は「受容孔(9)」に、「インジェクタ取付部143」は「接続管片(6)」に、「一体形成した」は「備えた」に、「デリバリパイプ14」は「燃料分配管路(4)」に、「該インジェクタ取付部143の内側に形成された嵌合穴hにインジェクタ1の管状連結部17が嵌合されている」は「該接続管片(6)に燃料噴射弁(1)が部分的に重なり合って挿入されている」に、「その先端部であるノズル部21」は「その下流側端部」に、「嵌挿されて」は「組み込まれて」に、「環状シール部材23」は「シールリング(2)」に、「後端部」は「供給側端部(3)」に、「管状連結部17」は「差込み結合部」に、「非接触状態を保持して」は「接触することなく」に、「ボルトB」は「結合手段(25)」に、「振動吸収性を示すインシュレータ15」は「緩衝プレート(26)」に、それぞれ相当する。

・後者における「該管状連結部17とデリバリパイプ14のインジェクタ取付部143の内側に形成された嵌合穴hとの間をシールリングeによってシールされており」は、前者における「該差込み結合部は、燃料分配管路(4)の接続管片(6)と、燃料噴射弁(1)の供給管片(7)との間においてシール部材(5)によってシールされており」に相当する。

・後者における「インジェクタ1が、シリンダヘッド3の取付け穴16の、インジェクタ1に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して非接触状態を保持して、シリンダヘッド3の取付け穴16内に嵌挿されており」は、前者における「燃料噴射弁(1)が、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)の、燃料噴射弁(1)に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して接触することなく、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)内に挿入されており」に相当する。

・後者における「ボルトBの領域にそれぞれ振動吸収性を示すインシュレータ15が設けられていて、振動吸収性を示すインシュレータ15がデリバリパイプ14とシリンダヘッド3との間に配置されている」は、前者における「結合手段(25)の領域にそれぞれ2つの緩衝プレート(26)が設けられていて、一方の緩衝プレート(26)が結合手段(25)と燃料分配管路(4)との間に配置され、かつ他方の緩衝プレート(26)が燃料分配管路(4)とシリンダヘッド(17)との間に配置されている」に、「結合手段の領域にそれぞれ緩衝プレートが設けられていて、緩衝プレートが燃料分配管路とシリンダヘッドとの間に配置されている」という限りにおいて、相当する。

したがって、両者は、
「内燃機関の燃料噴射設備用の燃料噴射装置であって、少なくとも1つの燃料噴射弁と、シリンダヘッドにおける燃料噴射弁用の受容孔と、接続管片を備えた燃料分配管路とが設けられていて、該接続管片に燃料噴射弁が部分的に重なり合って挿入されている形式のものにおいて、
燃料噴射弁はその下流側端部で、シリンダヘッドの受容孔内に組み込まれていて、該受容孔の壁に対してシールリングを用いてシールされており、
燃料噴射弁はその供給側端部に、燃料分配管路に通じる差込み結合部を有しており、該差込み結合部は、燃料分配管路の接続管片と、燃料噴射弁の供給管片との間においてシール部材によってシールされており、
燃料噴射弁が、シリンダヘッドの受容孔の、燃料噴射弁に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して接触することなく、シリンダヘッドの受容孔内に挿入されており、
燃料分配管路が結合手段を用いてシリンダヘッドに固定されており、結合手段の領域にそれぞれ緩衝プレートが設けられていて、緩衝プレートが燃料分配管路とシリンダヘッドとの間に配置されている燃料噴射装置。」
の点で一致し、以下の点で相違している。

[相違点1]
本願補正発明においては、「結合体(18)が設けられていて、この結合体(18)が、該結合体(18)内に燃料噴射弁(1)を保持するように、配置されており」、「結合体(18)が1つの保持カラー(21)又は複数の保持カラーセグメントを有していて、該保持カラー(21)又は保持カラーセグメントが、燃料噴射弁(1)のハウジング肩部(20)に下から係合しており、結合体(18)の保持カラー(21)又は保持カラーセグメントが、ハウジング肩部(20)に向かって丸く面取りされて形成されており、これに対して燃料噴射弁(1)におけるハウジング肩部(20)が円錐形に延びていて、これにより、シリンダヘッド(17)と燃料分配管路(4)との間の半径方向における誤差を補償するために、燃料噴射弁(1)の旋回運動が可能」であるのに対して、引用発明においては、そのような構成を有しているのか否か不明である点(以下、「相違点1」という。)。

[相違点2]
結合手段の領域にそれぞれ緩衝プレートが設けられていて、緩衝プレートが燃料分配管路とシリンダヘッドとの間に配置されていることに関し、本願補正発明においては、「結合手段(25)の領域にそれぞれ2つの緩衝プレート(26)が設けられていて、一方の緩衝プレート(26)が結合手段(25)と燃料分配管路(4)との間に配置され、かつ他方の緩衝プレート(26)が燃料分配管路(4)とシリンダヘッド(17)との間に配置されている」のに対して、引用発明においては、「ボルトBの領域にそれぞれ振動吸収性を示すインシュレータ15が設けられていて、振動吸収性を示すインシュレータ15がデリバリパイプ14とシリンダヘッド3との間に配置されている」点(以下、「相違点2」という。)。

4.判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
引用発明、刊行物2に記載された技術及び本願補正発明は、何れも、内燃機関の燃料噴射装置の技術分野に属するものであり、また、燃料分配管路に接続される燃料噴射弁が、シリンダヘッドの受容孔内に挿入される構造を有する基本的構成において共通している。
そこで、本願補正発明と刊行物2に記載された技術(以下、「後者2」ともいう。)とを、その機能、構造又は技術的意義を考慮して対比する。
・後者2における「燃料分配導管」は前者における「燃料分配管路(4)」に相当し、以下同様に、「燃料噴射弁6」は「燃料噴射弁(1)」に、「シリンダヘッド7」は「シリンダヘッド(17)」に、「受容孔11」は「受容孔(9)」に、「補償エレメント1」は「結合体(18)」に、「中間リング2」は「保持カラー(21)」に、「弁ケーシング14の肩16」は「ハウジング肩部(20)」に、「4分の1円に相応する横断面を有して」は「丸く面取りされて」に、「燃料噴射弁6の傾倒」は「燃料噴射弁(1)の旋回運動」に、それぞれ相当する。
・後者2における「燃料噴射弁6における非対称をもたらす製作公差又は温度に基づく公差」については、燃料噴射弁6がシリンダヘッド7と燃料分配導管との間に配置されるものであること、刊行物2の段落【0029】において、「中間リング2の位置は、中間リングに、条件に相応する最適の位置を占めることを可能にする。この結果、補償エレメント1が燃料噴射弁6と共に、燃料噴射弁6若しくは受容孔11の縦軸線18に対して傾倒していることもできる。燃料噴射弁6の弁ケーシング14に対して平行に延びるウェブ3にフレキシブルに固定された支持セグメント4と一緒に、このことは所望の公差補償を可能にし、この公差補償は、半径方向の応力が形成され、かつ後に続いて、例えば燃料噴射弁の内部で構造部分が傾くことによって燃料噴射弁6の誤機能が生じることを、阻止する。」(下線は、当審において付したものである。)との記載があること、及び、図2Aに示された燃料噴射弁6に対して、図2Bに示された燃料噴射弁6は横方向、すなわち半径方向に移動していることを合わせて考慮すると、前者の「シリンダヘッド7と燃料分配導管との間の半径方向における誤差」に相当する。
そうすると、刊行物2に記載された技術は、本願補正発明の用語で表現すると、次のとおりの技術ということができる。
「燃料分配管路に接続される燃料噴射弁が、シリンダヘッドの受容孔内に挿入される構造を有するものにおいて、
結合体が設けられていて、この結合体が、該結合体内に燃料噴射弁を保持するように、配置されており、結合体が1つの保持カラーを有していて、該保持カラーが、燃料噴射弁のハウジング肩部に下から係合しており、結合体の保持カラーが、ハウジング肩部に向かって丸く面取りされて形成されており、これに対して燃料噴射弁におけるハウジング肩部が円錐形に延びていて、これにより、シリンダヘッドと燃料分配管路との間の半径方向における誤差を補償するために、燃料噴射弁の旋回運動が可能であるようにした技術。」

そして、刊行物2に記載された技術は、燃料分配管路に接続される燃料噴射弁が、シリンダヘッドの受容孔内に挿入される構造を有するものにおいて、シリンダヘッドと燃料分配管路との間の半径方向における誤差を補償するものであるところ、同じく燃料分配管路に接続される燃料噴射弁が、シリンダヘッドの受容孔内に挿入される構造を有する引用発明においても、燃料噴射弁における非対称をもたらす製作公差又は温度に基づく公差、すなわち、シリンダヘッドと燃料分配管路との間の半径方向における誤差の補償をすることは内在する課題であるから、引用発明において、刊行物2に記載された技術を適用し、相違点1に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
ここで、引用発明において、刊行物2に記載された技術を適用すると、燃料噴射弁(インジェクタ1)の差込み結合部(管状連結部17)は、燃料分配管路(デリバリパイプ14)の接続管片(インジェクタ取付部143)に対して燃料噴射弁の旋回運動(傾倒)が可能なように接続されることは当然になされることであり、また、燃料噴射弁とシリンダヘッドの受容孔との間に、刊行物2に記載された技術による中間リング2が介在することになるとしても、燃料噴射弁は、シリンダヘッドの受容孔の、燃料噴射弁に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して接触していないことに変わりはない。

[相違点2について]
複数の部材をボルト等の結合手段を用いて固定する際に、一方の部材と他方の部材との間で振動が伝わるのを低減するために、結合手段の領域に2つの緩衝プレートを設け、一方の緩衝プレートを結合手段と一方の部材との間に配置し、かつ他方の緩衝プレートを一方の部材と他方の部材との間に配置することは、本件出願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。必要であれば、特開平8-28384号公報(特に、段落【0020】ないし【0023】)を参照。)である。
そうすると、引用発明においても、ボルトB(結合手段)の領域に振動吸収性を示すインシュレータ15(緩衝プレート)が設けられていて、振動吸収性を示すインシュレータ15がデリバリパイプ14(燃料分配管路)とシリンダヘッド3(シリンダヘッド)との間に配置されているところ、更なる振動の伝播の低減を図るため、引用発明において、周知技術1を適用し、相違点2に係る本願補正発明の特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。

[本願補正発明において、結合体(18)、燃料分配管路(4)及び接続管片(6)の有機的結合関係について、結合体(18)が燃料分配管路(4)の接続管片(6)に直接取り付けられているものに限定されないものという解釈とは、別の解釈をした場合]
仮に、本願補正発明において、結合体(18)、燃料分配管路(4)及び接続管片(6)の有機的結合関係について、結合体(18)が燃料分配管路(4)の接続管片(6)に直接取り付けられているもの(すなわち、本件出願の明細書の段落【0008】に記載されているような「燃料噴射弁が燃料分配管路に結合体を介して直接結合されている」ものであって、同明細書の段落【0022】に記載があるように「燃料噴射弁」が「結合体18内に懸架されている」もの)と解釈した場合、引用発明においては、結合体(18)が燃料分配管路(4)の接続管片(6)に直接取り付けられていない点で両者はさらに相違する(以下、「相違点3」という。)こととなる。
しかしながら、結合体を燃料分配管路の接続管片に直接取り付けることは、本件出願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術2」という。必要であれば、特開2002-39034号公報(特に、段落【0008】及び【0022】ないし【0032】、並びに、図1)及び特開昭55-117067号公報(特に、2ページ右上欄7行ないし2ページ右下欄3行、)を参照。)であり、この周知技術2は、燃料噴射弁を燃料分配管に対して強固に取り付けて、燃料漏れを防止することが可能であるところ、引用発明においても、燃料噴射弁を燃料分配管に対して強固に取り付けて、燃料漏れを防止することは当然に考慮されることであるから、引用発明において、周知技術2を適用し、相違点3に係る本願補正発明の発明特定事項とすることは、当業者が容易になし得たことである。
なお、引用発明において、刊行物2に記載された技術及び周知技術2を適用することで、燃料噴射弁を懸架する結合体までも、シリンダヘッドの受容孔の、燃料噴射弁に対して軸方向に延びていないすべての面もしくは壁に対して接触していないものとすることが可能である。

そして、本願補正発明は、全体としてみても、引用発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術1から、又は、引用発明、刊行物2に記載された技術、周知技術1及び周知技術2から予測される以上の格別な効果を奏するものではない。
したがって、本願補正発明は、引用発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術1に基づいて、又は、引用発明、刊行物2に記載された技術、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

〔4〕むすび
以上のとおり、本件補正は、改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、[補正の却下の決定の結論]のとおり決定する。


第3 本願発明について
1.本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本件出願の請求項1を引用する請求項5をさらに引用する請求項6に係る発明(以下、同項記載の発明を「本願発明」という。)は、平成25年5月2日に提出された手続補正書における特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(「第2[理由]〔1〕(A)」を参照。)

2.刊行物
原査定の拒絶の理由に引用された刊行物1及びその記載事項、並びに、引用発明は、前記「第2[理由]〔3〕2.(1)」に記載したとおりであり、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物2及びその記載事項、並びに、刊行物2に記載された技術は、前記「第2[理由]〔3〕2.(2)」に記載したとおりでる。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2[理由]〔3〕」で検討した本願補正発明において、「燃料噴射弁(1)はその下流側端部で、シリンダヘッド(17)の受容孔(9)内に組み込まれていて、該受容孔(9)の壁に対してシールリング(2)を用いてシールされており」という発明特定事項及び「燃料噴射弁(1)はその供給側端部(3)に、燃料分配管路(4)に通じる差込み結合部を有しており、該差込み結合部は、燃料分配管路(4)の接続管片(6)と、燃料噴射弁(1)の供給管片(7)との間においてシール部材(5)によってシールされており」という発明特定事項を削除し、さらに、「結合手段(25)の領域にそれぞれ2つの緩衝プレート(26)が設けられていて、一方の緩衝プレート(26)が結合手段(25)と燃料分配管路(4)との間に配置され、かつ他方の緩衝プレート(26)が燃料分配管路(4)とシリンダヘッド(17)との間に配置されている」という発明特定事項を、「結合手段(25)の領域にそれぞれ少なくとも1つの緩衝プレート(26)が設けられている」という発明特定事項に上位概念化したものに相当する。
そして、本願補正発明が、上記「第2[理由]〔3〕」に記載したとおり、引用発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術1に基づいて、又は、引用発明、刊行物2に記載された技術、周知技術1及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるところ、本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における、「ボルトBの領域にそれぞれ振動吸収性を示すインシュレータ15が設けられていて」という事項は、本願発明における、「結合手段(25)の領域にそれぞれ少なくとも1つの緩衝プレート(26)が設けられている」という発明特定事項に相当することになり、両者は実質的に、上記「第2[理由]〔3〕3.」で示した相違点1の点でのみ相違する、又は、相違点1及び相違点3で相違するのであるから、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された技術に基づいて、又は、引用発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4.むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び刊行物2に記載された技術に基づいて、又は、引用発明、刊行物2に記載された技術及び周知技術2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-06 
結審通知日 2014-11-10 
審決日 2014-11-25 
出願番号 特願2011-118402(P2011-118402)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (F02M)
P 1 8・ 121- Z (F02M)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 中村 一雄  
特許庁審判長 伊藤 元人
特許庁審判官 槙原 進
金澤 俊郎
発明の名称 燃料噴射装置  
代理人 久野 琢也  
代理人 アインゼル・フェリックス=ラインハルト  

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