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審決分類 |
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F01N |
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管理番号 | 1299989 |
審判番号 | 不服2014-1816 |
総通号数 | 186 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-06-26 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-01-31 |
確定日 | 2015-04-23 |
事件の表示 | 特願2009-542238「リーンバーンIC内燃機関を備えた装置、及びそのための排気システム」拒絶査定不服審判事件〔平成20年 6月26日国際公開、WO2008/075111、平成22年 4月30日国内公表、特表2010-513788〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1 手続の経緯 本願は、2007年12月21日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2006年12月21日、アメリカ合衆国)を国際出願日とする出願であって、平成21年6月22日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、平成21年8月19日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲、図面及び要約書の翻訳文が提出され、平成22年12月16日に手続補正書が提出され、平成24年5月16日付けで拒絶理由が通知され、同年8月20日に意見書及び手続補正書が提出され、同年11月29日付けで最後の拒絶理由が通知され、平成25年4月30日に意見書及び誤訳訂正書が提出されたが、同年9月26日付けで平成25年4月30日付け誤訳訂正書でした補正が却下され、同日付けで拒絶査定がされ、平成26年1月31日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に明細書及び特許請求の範囲を補正する誤訳訂正書が提出されたものである。 2 本件補正について (1)平成26年1月31日付けの誤訳訂正書による手続補正(以下、単に「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関しては、本件補正により補正される前の(すなわち、平成24年8月20日付けの手続補正書により補正された)特許請求の範囲の以下のアに示す請求項1ないし5を、イに示す請求項1ないし4に補正するものである。 ア 本件補正前の請求項1ないし5 「【請求項1】 リーンバーン内燃機関からの排気ガスを処理する装置であって、 (i)リーンバーン内燃機関と、 (ii)前記機関から流出する排気ガスを処理する排気システムと、及び (iii)通常のリーン走行運転中に、断続的にエンリッチされた排気ガス組成物を供給し、前記NACに吸着された硫黄を除去する、排気ガスをエンリッチ化する手段とを備えてなるものであり、 (ii)前記排気システムが、 排気ガス中のNOをNO_(2)に酸化し、排気ガス中の粒子物質をNO_(2)に酸化する酸化触媒と、 (a)NOx吸着触媒(NAC)を備えてなる第一基材モノリスと、 (b)フィルタ基材を備えてなる触媒化煤フィルタ(CSF)と、及び (c)(a)前記NOx吸着触媒(NAC)の下流に配置された、硫化水素除去及び/又は変換化合物とを備えてなるものであり、 前記硫化水素除去及び/又は変換化合物が、リッチ条件下で排気ガス中の硫化水素を除去及び/又は変換するものであり、前記前記NOx吸着触媒(NAC)吸着された硫黄を除去するものである、処理装置。 【請求項2】 前記第一基材モノリスが、その入口端部と出口端部との間に延在する長さを有し、 前記NACが、上流端部における前記第一基材モノリスの前記入口端部と、下流端部における前記入口端部から計測した時の前記第一基材モノリスに沿った距離の半分以上の地点とによって規定された、実質的に均一な長さの第一領域に配置されてなり、 前記硫化水素除去及び/又は変換化合物が、上流端部における前記入口端部から計測した時の前記第一基材モノリス長さに沿った距離の半分以上の地点と、下流端部における前記第一基材モノリスの前記出口端部とによって規定された、実質的に均一な長さの第二領域に配置されてなる、請求項1に記載の処理装置。 【請求項3】 前記硫化水素除去及び/又は変換化合物が、NiO、CaO、Fe_(2)O_(3)、及びBaOからなる群から選択されてなるものである、請求項1又は2に記載の処理装置。 【請求項4】 リーンバーン内燃機関からの排気ガスの処理装置の排気システムにおけるNOx吸着触媒(NAC)を脱硫する方法であって、 前記処理装置が請求項1?3の何れか一項に記載されたものであり、 (i)十分な時間と温度において、硫酸化されたNOx吸着触媒(NAC)をエンリッチされた排気ガスに接触させ、吸着された硫黄含有種を脱着し、これにより硫化水素を生成し、及び (ii)硫化水素を含有する排気ガスを、リッチ条件下で、硫化水素除去及び/又は変換化合物に接触させることを含んでなり、 前記硫化水素除去及び/又は変換化合物が、前記NOx吸着触媒(NAC)の下流に配置されてなる、脱硫方法。 【請求項5】 上記工程(i)の間に、硫化水素除去及び/又は変換化合物を、リーンな排気ガスに断続的に接触させることにより、二酸化硫黄を前記化合物から放出させることをさらに備えてなる、請求項4に記載の方法。」 イ 本件補正後の請求項1ないし4 「【請求項1】 リーンバーン内燃機関からの排気ガスを処理する装置であって、 (i)リーンバーン内燃機関と、 (ii)前記機関から流出する排気ガスを処理する排気システムと、 ここに、当該排気システムは、 排気ガス中のNOをNO_(2)に酸化し、酸化したNO_(2)により排気ガス中の粒子物質を酸化する酸化触媒と、 (a)NOx吸着触媒(NAC)を備えてなる第一基材モノリスと、 ここに、当該第一基材モノリスは、その入口端部と出口端部との間に延在する長さを有し、 前記NACが、前記第一基材モノリスの前記入口端部を上流端部とし、前記入口端部から計測した時の前記第一基材モノリスに沿った距離の半分以上の地点を下流端部とした、実質的に均一な長さの第一領域に配置されてなり、 硫化水素除去及び/又は変換化合物が前記NACの下流に配置され、前記硫化水素除去及び/又は変換化合物は、前記入口端部から計測した時の前記第一基材モノリス長さに沿った距離の半分以上の地点を上流端部とし、前記第一基材モノリスの前記出口端部を下流端部とした、実質的に均一な長さの第二領域に配置されてなり、 (b)フィルタ基材を備えてなる触媒化煤フィルタ(CSF)と、 を備えてなるものであり、 (iii)通常のリーン走行運転中に、断続的にエンリッチされた排気ガス組成物を供給し、前記NACに吸着された硫黄を除去する、排気ガスをエンリッチ化する手段と、 を備えてなるものであり、 前記硫化水素除去及び/又は変換化合物が、リッチ条件下で排気ガス中の硫化水素を除去及び/又は変換するものであり、前記NACに吸着された硫黄を除去するものである、 処理装置。 【請求項2】 前記硫化水素除去及び/又は変換化合物が、NiO、CaO、Fe_(2)O_(3)、及びBaOからなる群から選択されてなるものである、請求項1に記載の処理装置。 【請求項3】 リーンバーン内燃機関からの排気ガスの処理装置の排気システムにおけるNOx吸着触媒(NAC)を脱硫する方法であって、 前記処理装置が請求項1?2の何れか一項に記載されたものであり、 (i)十分な時間と温度において、硫酸化されたNOx吸着触媒(NAC)をエンリッチされた排気ガスに接触させ、吸着された硫黄含有種を脱着し、これにより硫化水素を生成し、及び (ii)硫化水素を含有する排気ガスを、リッチ条件下で、硫化水素除去及び/又は変換化合物に接触させることを含んでなり、 前記硫化水素除去及び/又は変換化合物が、前記NOx吸着触媒(NAC)の下流に配置されてなる、脱硫方法。 【請求項4】 上記工程(i)の間に、硫化水素除去及び/又は変換化合物を、リーンな排気ガスに断続的に接触させることにより、二酸化硫黄を前記化合物から放出させることをさらに備えてなる、請求項3に記載の方法。」 (なお、下線は、請求人が付したものである。) (2)本件補正の目的について 特許請求の範囲についての本件補正は、「排気ガス中の粒子物質をNO_(2)に酸化する」という記載を、「酸化したNO_(2)により排気ガス中の粒子物質を酸化する」と誤訳訂正するとともに、本件補正前の請求項1を引用する請求項2を本件補正後の請求項1とし、本件補正前の請求項1又は2を引用する請求項3を本件補正後の請求項2とし、本件補正前の請求項1?3の何れか1項を引用する請求項4を本件補正後の請求項3とし、本件補正前の請求項4を引用する請求項5を本件補正後の請求項4とするとともに、本件補正前の請求項1を削除したものであるから、特許法第17条の2第5項第1号に規定する請求項の削除及び同法同条同項第3号に規定する誤記の訂正を目的とするものと認められる。 3 本願発明 本願の特許請求の範囲の請求項1ないし4に係る発明は、平成26年1月31日に提出された誤訳訂正書により補正された明細書及び特許請求の範囲並びに平成21年8月19日に翻訳文が提出された図面の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は上記2(1)イの請求項1のとおりである。 4 引用文献 4-1 引用文献1 (1)引用文献1の記載 本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2003-201831号公報(以下、「引用文献1」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために、当審で付したものである。) ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】それぞれ1つ又は複数の気筒からなる複数の気筒群と、 それぞれ前記複数の気筒群に対応して配置され、対応する気筒群が排出する排気を流入し、前記対応する気筒群の排気の空燃比がリーンのときNOxをトラップし、前記対応する気筒群の排気の空燃比がリッチのときトラップしたNOxを還元浄化する複数のNOxトラップ触媒と、 前記複数のNOxトラップ触媒が排出する全ての排気を流入し、流入する排気中のPMをトラップする単一のPMトラップと、 前記複数の気筒群毎に排気の空燃比を制御可能な空燃比制御装置と、 前記複数のNOxトラップ触媒のうち少なくとも1つの再生時期を判断する再生時期判断手段と、 前記再生時期と判断されたときに、前記空燃比制御装置により、前記PMトラップに流入する排気の空燃比がリーンになるよう、前記複数の気筒群のうちの1つだけ排気の空燃比をリッチにし、その他の排気の空燃比をリーンにする再生制御手段と、 を備えることを特徴とする内燃機関の排気浄化装置。 【請求項2】前記再生制御手段は、前記複数の気筒群のうち1つだけ排気の空燃比をリッチにし、その他の排気の空燃比をリーンにする際、排気の空燃比をリッチにした気筒群の排気の温度を制御して、前記PMトラップ入口の排気温度を前記PMトラップの再生が可能な温度にすることを特徴とする請求項1記載の内燃機関の排気浄化装置。 【請求項3】前記複数のNOxトラップ触媒に対応し、その上流側排気通路に配置され、流入する排気成分を酸化する酸化触媒を備えることを特徴とする請求項2記載の内燃機関の排気浄化装置。 【請求項4】前記PMトラップは、酸化機能を有することを特徴とする請求項2又は請求項3記載の内燃機関の排気浄化装置。 【請求項5】前記空燃比制御装置は、主噴射の後に少量の燃料を噴射するポスト噴射の可能な燃料噴射装置を備え、 前記再生制御手段は、前記複数の気筒群のうち1つだけ排気の空燃比をリッチにし、その他の排気の空燃比をリーンにするため、リッチにする気筒群でポスト噴射を行うことを特徴とする請求項1?請求項4のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。 【請求項6】前記空燃比制御装置は、主噴射の後に少量の燃料を噴射するポスト噴射の可能な燃料噴射装置と、吸気量を制御可能な吸気絞り弁と、吸気通路への排気還流量を制御可能なEGR弁とを備え、 前記再生制御手段は、前記複数の気筒群のうち1つだけ排気の空燃比をリッチにし、その他の排気の空燃比をリーンにするため、運転状態に応じて、低負荷のとき、吸気絞り弁開度の減少、及び、EGR弁開度の増大のうち、少なくとも一方を行うと共に、リッチにする気筒群でポスト噴射を行い、高負荷のとき、リッチにする気筒群でポスト噴射を行うのみとすることを特徴とする請求項1?請求項4のいずれか1つに記載の内燃機関の排気浄化装置。 【請求項7】前記再生制御手段は、前記ポスト噴射の噴射量、噴射期間、噴射開始時期のうち少なくとも1つを運転状態に応じて設定することを特徴とする請求項5又は請求項6記載の内燃機関の排気浄化装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】ないし【請求項7】) イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、内燃機関の排気浄化装置(排気浄化用の後処理システム)に関し、特にその再生技術に関する。」(段落【0001】) ウ 「【0002】 【従来の技術】従来の内燃機関の排気浄化装置として、特開平9-53442号公報に記載の装置がある。この装置では、ディーゼルエンジンから排出されるNOx(窒素酸化物)と排気微粒子であるPM(Particulate Matter)の浄化処理のため、排気通路に、PMをトラップするPMトラップを配置し、更にその下流側に、流入する排気の空燃比がリーンのときNOxをトラップし、流入する排気の空燃比がリッチになって排気中のO2(酸素)濃度が低下すると排気中の還元成分であるHC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)によりトラップしたNOxを還元浄化するNOxトラップ触媒を配置している。 【0003】そして、定期的に、NOxトラップ触媒からトラップしたNOxを放出させてNOxトラップ能力を回復させる操作(NOxトラップ触媒の再生操作)と、PMトラップにトラップされたPMを燃焼除去して圧損を低減させる操作(PMトラップの再生操作)とを行うようにしている。従来のNOxトラップ触媒の再生操作は、数十秒から数分程度の間隔で、短時間、ディーゼルエンジンの通常の燃料噴射に加えて排気行程に燃料噴射を行い、排気空燃比を理論空燃比よりリッチ側(13程度)にし、燃料の未燃成分を排気通路に排出することで実現している。つまり排気空燃比をリッチにして排気中のO2濃度を急激に低下させ、HC、CO成分を増加させてNOxトラップ触媒を再生する。 【0004】PMトラップの再生操作は、数十分から数時間の間隔で、数分程度、NOxトラップ触媒の再生と同様、通常の燃料噴射に加えて排気行程に燃料噴射を行うが、排気温度を上昇させてPMトラップの再生を促進するためであり、排気空燃比は20程度のリーンに維持されている。そして、PMトラップの再生操作中にNOxトラップ触媒の再生操作のタイミングになった場合には、PMトラップの再生操作の間に、NOxトラップ触媒の再生のための排気空燃比のリッチ化が行われる。」(段落【0002】ないし【0004】) エ 「【0010】 【発明の実施の形態】以下に本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。先ず本発明の第1実施形態を説明するが、これに先立って、実施形態レベルで、背景技術について説明する。従来の自動車用ガソリン機関のように酸化成分と還元成分とがほぼ等しく含まれている排気を浄化するためには、触媒として、三元触媒が広く用いられている。これは、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Rh(ロジウム)等の貴金属成分及びCe(セリア)成分をはじめとする各種成分を担持した活性アルミナを主成分とする触媒であり、排気中の有害成分であるHC、CO及びNOxを高い効率で浄化できる。 【0011】一方、近年、燃費の向上、CO2(二酸化炭素)の排出量の削減といった観点から、理論空燃比より高い空燃比でも運転するいわゆるリーンバーンエンジンが注目されている。この種のエンジンの希薄燃焼時の排気は、理論空燃比近傍で運転される従来のエンジンの排気に比較して、酸素含有率が高く、上記の三元触媒では、NOxの浄化が不十分となる。そこで、リーンバーンエンジンにおける希薄燃焼時の排気中のNOxを高効率で除去できる新たな触媒が望まれていた。 【0012】その1つとして、流入する排気の空燃比がリーンであるときにNOxをトラップし、流入する排気の空燃比がリッチになるとNOxを還元浄化するNOxトラップ触媒を用いることが提案されている。一方、NOxトラップ触媒ではNOxは除去できても、PMは除去できないので、PMを放出する内燃機関、例えばディーゼルエンジンにおいては、排気中のPMをトラップするPMトラップを設ける必要がある。 【0013】このような背景の下、特開平9-53442号公報では、既に述べたように、排気通路にPMトラップ(DPF;Diesel Particulate Filter )を配置し、更にその下流側に、NOxトラップ触媒(NOx吸収剤)を配置しており、定期的に、NOxトラップ触媒の再生操作と、PMトラップの再生操作とを、別々に行うようにしている。 【0014】また、特許2727906号公報や特許2722987号公報では、ウォールフローハニカムタイプのPMトラップ(DPF)の壁面にNOxトラップ触媒(NOx吸収剤)を担持させ、NOxトラップ触媒の再生開始条件であると判定されたときに、吸気絞り弁を閉じて還元剤供給装置から燃料をPMトラップ入口の排気中に供給し、供給された燃料がNOxトラップ触媒の触媒作用によって燃焼して排気中の酸素が消費されることで、排気空燃比をリッチ化し、これによってNOxトラップ触媒を再生する。 【0015】次いで、NOxトラップ触媒の再生が終了したと判定されると、還元剤供給装置からの燃料供給を継続し、吸気絞りを解除して多量の空気を供給することで、PMトラップにトラップされているPMを着火燃焼させ、PMトラップを再生する。更に、特許2727906号公報では、PMトラップの再生が終了したら、吸気絞り弁を再度閉じて還元剤供給装置から燃料を供給し、高温かつリッチな排気条件にして、NOxトラップ触媒からSOx(硫黄酸化物)を放出させ、SOx被毒解消を行う。 【0016】したがって、特許2727906号公報や特許2722987号公報でも、各々の再生操作(NOxトラップ触媒の再生操作、PMトラップの再生操作、SOx被毒解消操作)は作用が独立しており、NOxトラップ触媒の再生中は排気がリッチであるためPMトラップは再生できず、PMトラップの再生中は排気がリーンであるためNOxトラップ触媒は再生できず、当然SOx被毒解消操作中にもPMトラップは再生できない。これらは、単に各々の再生操作を順番に行うものである。 【0017】以上のように、従来の技術としては、NOxトラップ触媒の再生操作とPMトラップの再生操作とを別々に行うもの(特開平9-53442号公報)と、順番に行うもの(特許2727906号公報や特許2722987号公報)とがあるが、別々又は順番に行われることにより(同時ではないので)、トータルの再生時間が長くなるばかりか、エネルギー効率が悪くて燃費悪化が大であるという欠点がある。 【0018】そこで、本実施形態では、NOxトラップ触媒及びPMトラップの再生を、夫々独立することなく一度の操作で行えるようにして、トータルの再生時間を短縮し、エネルギー効率の向上による燃費の向上を図り得るようにする。図1は本発明の第1実施形態を示す内燃機関の排気浄化装置(排気浄化用の後処理システム)の構成図である。」(段落【0010】ないし【0018】) オ 「【0019】図1において、1は内燃機関(ここではディーゼルエンジンとし、以下単にエンジンと称する)の本体、2は吸気通路、3は排気通路である。本実施形態のエンジン1は、#1?#4の4つの気筒を有し、着火順序が#1-#3-#4-#2の4気筒直列配置のエンジンとする。また、本実施形態のエンジン1は、特にその排気系を、#2と#3気筒からなる気筒群Aと、#1と#4気筒からなる気筒群Bとにグループ分けしている。 【0020】ここで、気筒群を、#2と#3気筒からなる気筒群Aと、#1と#4気筒からなる気筒群Bとに分割した理由は、排気行程の干渉によって排気効率が低下し、結果として空気の充填率が低下するのを抑制するように配慮して、着火順序が連続しない気筒同士を組み合わせるようにしたためである。したがって、レイアウトを重視するならば、気筒群Aを#1、#2に、気筒群Bを#3、#4に分割しても構わない。 【0021】この他、着火順序が#1-#5-#3-#6-#2-#4の6気筒直列のエンジンで排気干渉抑制を考慮する場合は、気筒群Aを#1、#2、#3に、気筒群Bを#4、#5、#6に分割するのが望ましい。図1において、エンジン1の排気ポート(図示せず)に接続される排気通路3の上流部分は、気筒群Aの排気ポートに接続される排気管3aと、気筒群Bの排気ポートに接続される排気管3bとにより構成される。 【0022】排気管3aの下流には、第1の酸化触媒21aと、流入する排気の空燃比がリーンであるときにNOxをトラップし、流入する排気の空燃比がリッチのときにトラップしたNOxを還元浄化する第1のNOxトラップ触媒22aとを内部に介装する第1のケーシング20aが、そして、排気管3bの下流には、第2の酸化触媒21bと、第2のNOxトラップ触媒22bとを内部に介装する第2のケーシング20bが、夫々接続される。 【0023】また、ケーシング20aとケーシング20bの排気出口部は、夫々の気筒群の排気を1つに合流させる排気管3cに接続され、排気管3cの出口部は過給機の排気タービン3dの上流に接続される。そして、その下流に、排気中のPM(Particulate Matter)をトラップするPMトラップとしてのDPF(Diesel Particulate Filter )23aを内部に介装するケーシング23が直列に配置される。DPF23aにはその表面上に酸化触媒を担持させることで、酸化機能を持たせてある。 【0024】酸化触媒21a、21bとしては、例えば活性アルミナをベースにPdやPt等の貴金属を担持したものや、貴金属(特にPt)をイオン交換したゼオライト、又はこれら両材料を組み合せたものが利用できる。また、DPF23aは、従来より公知のウォールフローハニカムタイプのものや、筒の部分に多数の孔を設けた有底円筒状の芯部材にセラミックファイバーを幾層にも巻き回したものが利用できる。」(段落【0019】ないし【0024】) カ 「【0066】排気空燃比のリッチ化によってNOxトラップ触媒を再生するのに要する時間は、触媒の容量や再生インターバル(NOxトラップ量)によっても異なるが、近年のエンジンでは、おおよそ時間比率で1?2%程度は必要である。DPFを再生するのに要する時間も、DPFの容量や再生インターバル(PM堆積量)によって異なるが、近年のエンジンでは触媒担持のDPFで、450℃以上の温度での運転頻度が2?4%程度は必要である。」(段落【0066】) キ 「【0074】また、本実施形態によれば、複数のNOxトラップ触媒22a、22bに対応し、その上流側排気通路に配置され、流入する排気成分を酸化する酸化触媒21a、21bを備えることで、酸化触媒21a、21bの酸化熱を利用できるため、すなわち、排気空燃比のリッチ化のため、エンジンから未燃のまま排出されるHC、COを増加させたときに、O2との触媒反応によって燃焼してさらに温度が上昇するため、排気の空燃比をリッチにした気筒群の排気の温度を制御する際に、この排気温度を低く抑えることができ、これにより再生に費やすエネルギー消費を低下させて、燃費悪化への影響を最小限にすることができる。そして理論混合比よりもリッチな状態でエンジンを燃焼させたのと同じ、O2をほとんど含まず、還元剤としての未燃成分を多く含んだ状態で、高温の排気がNOxトラップ触媒22a(又は22b)に流入する結果、NOxトラップ触媒22a(又は22b)の再生も促進される。」(段落【0074】) (2)引用文献1の記載から分かること 上記(1)アないしキ及び図面の記載から、以下の事項が分かる。 サ 上記(1)アないしキ及び図面の記載から、引用文献1には、空燃比がリーンの運転を行う内燃機関(リーンバーンエンジン)の排気浄化装置(排気浄化用の後処理システム)が記載されていることが分かる。 シ 上記(1)オ及び図面の記載から、引用文献1に記載された排気浄化装置は、酸化触媒21a,21bと、NOxトラップ触媒22a,22bと、表面上に酸化触媒を担持するDPF23aとを備えてなることが分かる。 ス 上記(1)オ及び図面の記載から、引用文献1に記載された排気浄化装置において、DPF23aとして、ウォールフローハニカムタイプのもの等が用いられることが分かる。 セ 上記(1)ア及びエないしキ並びに図面の記載から、引用文献1に記載された排気浄化装置において、空燃比がリーンの運転中に、排気空燃比をリッチ化する運転を短時間行ってNOxトラップ触媒を再生することが分かる。 ソ 上記(1)エ(特に段落【0015】及び【0016】を参照。)の記載から、従来から、高温かつリッチな排気条件にして、NOxトラップ触媒からSOx(硫黄酸化物)を放出させ、SOx被毒解消を行う運転がされていることが分かる。 タ 上記(1)キの記載から、引用文献1に記載された排気浄化装置において、排気空燃比をリッチ化させたときには、酸化触媒22a、22bの酸化熱を利用して、未燃HC、COが、O_(2)との触媒反応によって燃焼してさらに温度が上昇し、高温の排気がNOxトラップ触媒22a(又は22b)に流入することが分かる。このとき、高温かつリッチな排気条件となっていることから、上記ソとあわせてみると、NOxトラップ触媒からSOxの放出も起こっていると考えることが自然である。 (3)引用発明 上記(1)及び(2)並びに図面を参酌すると、引用文献1には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されているといえる。 「リーン空燃比運転を行う内燃機関からの排気を処理する装置であって、 リーン空燃比運転を行う内燃機関と、 前記内燃機関の排気を処理する後処理システムと、 ここに、当該後処理システムは、 流入する排気成分を酸化する酸化触媒と、 NOxトラップ触媒と、 酸化触媒を担持するDPF(Diesel Particulate Filter )と、 を備えてなるものであり、 リーン空燃比運転中に、排気空燃比をリッチ化する運転を短時間行って、排気空燃比をリッチ化する手段と、 を備えてなるものである、 排気を処理する装置。」 また、上記(2)ソから、引用文献1には、次の技術(以下、「引用文献1記載の技術」という。)も記載されている。 「リーンバーンエンジンを、高温かつリッチな排気条件にして、NOxトラップ触媒からSOx(硫黄酸化物)を放出させ、SOx被毒解消を行う技術。」 4-2 引用文献2 (1)引用文献2の記載 本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2002-21538号公報(以下、「引用文献2」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために、当審で付したものである。) ア 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 機関の排気経路に設けられてNOx吸蔵剤としてアルカリ金属が含有されたNOx触媒と、 排気の流れに対して上記NOx触媒の後段に設けられた三元触媒と、 上記NOx触媒から飛散するアルカリ金属を捕捉するように上記NOx触媒と上記三元触媒との間に設けられたアルカリ金属捕捉手段とを備えたことを特徴とする排気浄化用触媒装置。 【請求項2】 上記アルカリ金属捕捉手段は、H_(2)Sを捕捉するH_(2)S捕捉剤が含有されていることを特徴とする請求項1に記載の排気浄化用触媒装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】及び【請求項2】) イ 「【0001】 【発明の属する技術分野】本発明は、排気浄化用触媒装置に関し、特にNOx吸蔵触媒の後段に三元触媒を設けた排気浄化用触媒装置に関する。」(段落【0001】) ウ 「【0002】 【関連する背景技術】リーンバーンエンジンや筒内噴射式エンジンなどの希薄燃焼式エンジンは、燃費特性や排ガス特性の向上のため、所定運転域では理論空燃比よりも燃料希薄側のリーン空燃比で運転される。リーン空燃比運転が行われる間は、排ガス中の窒素酸化物(NOx)を三元触媒によって十分に浄化できないことから、酸化雰囲気において排ガス中のNOxを吸蔵する吸蔵触媒を装備し、この触媒に吸蔵されたNOxを還元雰囲気で窒素(N_(2))に還元させることにより、大気へのNOx排出量を低減させる技術が知られている。 【0003】この種の吸蔵型リーンNOx触媒(以下、単にNOx触媒という)において、例えば特開平10-317946号公報に記載のように、カリウム(K)などのアルカリ金属をNOx吸蔵剤として添加してNOx吸蔵性能を向上するようにしたものがある。」(段落【0002】及び【0003】) エ 「【0011】NOx触媒にはNOxのみならず、排ガス中に含まれる硫黄成分の酸化物(SOx)も吸蔵され、このSOxはNOx触媒が高温且つ還元性雰囲気に晒されたときにSO_(2)として放出されるが、この際に異臭の原因となる硫化水素(H_(2)S)が生成される。生成されたH_(2)Sは排ガスと共に下流側に流れてアルカリ金属捕捉手段を通過し、その際にアルカリ金属捕捉手段のH_(2)S捕捉剤に捕捉されて大気中への排出が抑制される。 【0012】H_(2)S捕捉剤としては、例えば、酸化ニッケル、銅、コバルト、マンガン、鉄、亜鉛などを単独、或いは複数組み合わせて適用でき、これらの材料は、還元雰囲気においてH_(2)Sを吸蔵し、吸蔵したH_(2)Sを酸化雰囲気で臭気の少ないSO_(2)などに転化して放出する。」(段落【0011】及び【0012】) オ 「【0013】 【発明の実施の形態】以下、本発明を具体化した排気浄化用触媒装置の一実施例を説明する。図1は本実施形態の排気浄化用触媒装置を示す全体構成図であり、排気浄化用触媒装置はエンジン1の排気経路2に設けられている。まず、エンジン1の概略を説明すると、このエンジン1は、燃焼室内に直接燃料を噴射する筒内噴射型のガソリンエンジンとして構成され、吸気行程のみならず圧縮行程でも燃料噴射を可能としている。吸気行程噴射では、燃料を均一燃焼させて空燃比をストイキやリッチ側に制御し(例えば、ストイキにフィードバックするS-F/Bモードなど)、圧縮行程噴射では、点火プラグの周辺にストイキ近傍の点火可能な混合気を形成した層状燃焼を行って、全体空燃比をリーン側に制御している(圧縮リーンモード)。 【0014】エンジン1の排気側には排気マニホールド3を介して排気経路2が接続され、この排気経路2上の比較的エンジン1に近接した位置には前段触媒4(三元触媒)が設けられている。また、排気経路2の前段触媒4より下流側には床下触媒5が設けられ、この床下触媒5は、上流側のNOx触媒5a、下流側の三元触媒5b、および両触媒5a,5bの間に設けられたアルカリ金属捕捉手段としてのカリウムトラッパ5cから構成されている。 【0015】前段触媒4、および床下触媒5の三元触媒5bは一般的な構成であり、例えばアルミナ(Al_(2)O_(3))やコージライトなどを担体とし、この担体上に白金(Pt)などの活性金属が担持されて構成され、上記したS-F/Bモード時に、排ガス中のHC,COおよびNOxを浄化する機能を有するものである。また、床下触媒5のNOx触媒5aは、担体としてメタル担体を使用している以外は一般的な構成であり、メタル担体は、例えばクロム(Cr)20%、アルミニウム(Al)5%を含有するステンレス製の波板と平板とを重ねた状態で巻回して製作されている。そして、このメタル担体上に、カリウム(K)、バリウム(Ba)、ナトリウム(Na)などの吸蔵剤、白金などの活性金属がそれぞれ担持されて構成され、上記した圧縮リーンモードによる酸化雰囲気においてNOxを吸蔵させ、主としてS-F/BモードなどのようにCOの存在する還元雰囲気において、NOxを一旦放出した後に窒素などに還元させる。 【0016】一方、カリウムトラッパ5cは、アルミナやコージライトを担体とし、この担体上に、後述のようにカリウムを捕捉するためのリン(P)、およびH_(2)Sの放出を抑制するためのH_(2)S捕捉剤としての酸化ニッケル(NiO)などが担持されて構成されている。次に、以上のように構成された排気浄化用触媒装置による作用を説明する。 【0017】エンジン1からの排ガスは排気経路2に案内されて前段触媒4を経て床下触媒5に到達し、NOx触媒5a、カリウムトラッパ5c、三元触媒5bの順に通過した後に外部に排出される。例えば圧縮リーンモードでは、酸化雰囲気下において排ガス中のNOxがNOx触媒5aに吸蔵され、また、S-F/Bモードなどでは、排ガス中のHC,COおよびNOxが前段触媒4および三元触媒5bにより浄化されると共に、このとき還元雰囲気下においてNOx触媒5aに吸蔵されたNOxが放出還元される。 【0018】上記のようにNOx触媒5aにはカリウムなどの吸蔵剤が添加されて、良好なNOx吸蔵性能を付与されると共に、カリウム浸透の虞がないメタル担体を使用しているため、浸透により触媒層のカリウムが消失したときのNOx吸蔵性能の低下が未然に防止される。その結果、NOx触媒へのNOx吸蔵および放出還元が十分に奏されて、排ガス中のNOxが確実に浄化される。」(段落【0013】ないし【0018】) カ 「【0022】一方、NOx触媒5aにはNOxのみならず、排ガス中に含まれる硫黄成分の酸化物SOxも硫酸バリウムBaSO_(4)などの硫酸塩X-SO_(4)として吸蔵される。下記の反応式に示すように、この硫酸塩X-SO_(4)は、NOx触媒5aが高温且つ還元雰囲気に晒されたときにSO_(2)となり、この際に硫化水素(H_(2)S)が生成される。 【0023】BaSO_(4)+CO→BaCO_(3)+SO_(2) SO_(2)+H_(2)→H_(2)S+O_(2) NOx触媒5aに硫酸塩が付着しているとそのNOx浄化効率が低下するので、硫酸塩の除去を企図して、一般には、NOx触媒温度を上昇させると共に混合気をリッチ化する所謂強制Sパージが周期的に実施されるが、この際に異臭を放つH_(2)Sが生成される。また、車両の登坂路走行時や加速運転時のような高負荷域では、エンジン1がリッチ空燃比で運転されるとともにNOx触媒温度が上昇するので、硫酸塩からSO_(2)が脱離し放出され、これに伴ってH_(2)Sが生成される(自然Sパージ)。 【0024】本実施形態では、このように生成されたH_(2)Sが排ガスと共に下流側に流れてカリウムトラッパ5cを通過する。このときカリウムトラッパ5cに担持された酸化ニッケルは、図4および下記の反応式に示すように、NOx触媒5aから放出されたH_(2)Sを硫化ニッケルに転化させるように作用してH_(2)Sを吸蔵する。吸蔵されたH_(2)Sは、その後の圧縮リーンモードによる酸化雰囲気において酸素と反応し、臭気の少ないSO_(2)に転化され放出される。従って、H_(2)Sの大気中への排出が抑制されて、H_(2)Sによる異臭の発生を未然に防止することができる。 【0025】H_(2)S+NiO→NiS+O_(2) NiS+3/2*O_(2)→NiO+SO_(2) 更に、酸化ニッケルを利用したH_(2)Sの抑制技術としては、NOx触媒5aの下流側の三元触媒5bに酸化ニッケルなどを添加する手法があるが、この場合には添加した酸化ニッケルなどにより三元触媒5bの性能低下を引き起こすことが確認されている。図5は金属材料の添加による三元触媒5bの浄化率の低下状態を示しているが、無添加の場合に比較して酸化ニッケルを添加した場合にはHCの浄化率が低下することがわかる。これに対して本実施形態では、三元触媒5bに酸化ニッケルを無添加のため浄化性能を低下させる虞は一切なく、且つ、カリウムトラッパ5cはカリウムの捕捉機能を奏するだけで元々浄化性能は要求されないことから、カリウムトラッパ5cに酸化ニッケルを添加しても弊害は何ら発生しない。 【0026】なお、以上のようにカリウムトラッパ5cに担持された酸化ニッケルは、NOx触媒5aから放出されたH_(2)Sと反応して吸蔵する作用を奏する。従って、同様の作用を奏する材料であれば酸化ニッケルに限ることはない。図6はSパージ時のH_(2)S放出量を示しているが、無添加の場合に比較して、カリウムトラッパ5cに酸化ニッケルを添加した場合にはH_(2)S放出量を大幅に低減でき、銅(Cu)を添加した場合にはH_(2)S放出量を更に低減してほとんど0にできることがわかる。図5に示したように三元触媒に銅を添加するとHC浄化性能を著しく低下させるが、本実施形態のようにカリウムトラッパ5cに添加する場合には、その弊害は一切生じない。つまり、カリウムトラッパ5cに担持する材料としては、酸化ニッケルの他に銅が好ましく、その他にも、例えばコバルト(Co)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)などを単独、或いは複数組み合わせて適用することが望ましい。」(段落【0022】ないし【0026】) キ 「【0027】以上で実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこの実施形態に限るものではない。例えば、上記実施形態では、筒内噴射型ガソリンエンジン1の排気経路2に設けた排気浄化用触媒装置として具体化したが、エンジンの種別はこれに限定されず、例えばディーゼルエンジン用の排気浄化用触媒装置、或いは通常の吸気管内に燃料噴射する吸気管型リーンバーンエンジン用の排気浄化用触媒装置としてもよい。 【0028】また、上記実施形態では、NOx触媒5aの担体としてカリウムの蒸発・飛散量が比較的多いメタル担体を使用したが、コージライトなどのセラミック担体を使用した場合であっても、特にカリウム担持量が多い場合には蒸発・飛散量も増加するため、カリウムトラッパ5cによるカリウム捕捉は必要となる。つまり、NOx触媒5aの担体の種類はメタル担体に限定されることはなく、これに代えてセラミック担体として構成してもよい。また、同様にカリウムトラッパ5cおよび三元触媒5bの担体の種類も上記実施形態に限定されることはなく、セラミック担体に代えてメタル担体を使用してもよい。 【0029】さらに、上記実施形態では、カリウムトラッパ5cに本来のカリウム捕捉機能に加えてH_(2)Sの抑制機能を付与したが、H_(2)Sの抑制機能は必ずしも備える必要はない。従って、H_(2)Sの抑制機能を奏するための酸化ニッケルなどを無添加として、カリウム捕捉機能のみを備えたカリウムトラッパとして構成してもよい。一方、上記実施形態では、カリウムトラッパ5cを上流側のNOx触媒5aおよび下流側の三元触媒5bに対して別体として構成したが、何れかの触媒に対して一体化してもよい。例えばカリウムトラッパ5cを三元触媒5bと一体化する場合には、図7に示すように、共通の担体の上流側部分にリンなどを担持させてカリウムトラッパ5cとして機能させ、担体の下流部分に白金Ptなどの活性金属を担持させて三元触媒5bとして機能させればよい。」(段落【0027】ないし【0029】) (2)引用文献2の記載から分かること 上記(1)アないしキ及び図面の記載から、以下の事項が分かる。 サ 上記(1)アないしキ及び図面の記載から、引用文献2には、空燃比をリーン側に制御するエンジン1の排気を浄化する装置が記載されていることが分かる。 シ 上記(1)オ(特に段落【0014】)及び図面の記載から、引用文献2に記載された装置において、床下触媒5は、上流側のNOx触媒5aと、NOx触媒5aの下流側に設けられH_(2)S捕捉剤が担持されたカリウムトラッパ5cと、カリウムトラッパ5cの下流側に設けられた三元触媒5bから構成されていることが分かる。 ス 上記(1)キ(特に段落【0028】)の記載から、NOx触媒5aの担体としては、メタル担体又はセラミック担体を使用できることが分かる。 セ 上記(1)キ(特に段落【0028】)の記載から、カリウムトラッパ5cの担体としては、セラミック担体又はメタル担体を使用できることが分かる。 ソ 上記(1)キ(特に段落【0029】)の記載から、実施形態におけるカリウムトラッパ5c(すなわち、H_(2)S捕捉剤が含有されているカリウムトラッパ5c)を、上流側のNOx触媒5a又は下流側の三元触媒5bに対して一体化してもよいことが分かる。 タ 上記(1)キ(特に段落【0029】)の記載から、一体化を行うためには、例えば共通の担体の上流部分にある物質を担持させ、下流部分に他の物質を担持させる方法があることが分かる。 チ 上記(1)エ(特に段落【0011】)及びカの記載から、NOx触媒にはNOxのみならず、排ガス中に含まれる硫黄成分の酸化物(SOx)も吸蔵され、このSOxはNOx触媒が高温且つ還元性雰囲気に晒されたとき(すなわち、エンジン1がリッチ空燃比で運転されるとき)にH_(2)Sとして放出されることが分かる。 ツ 上記(1)エ(特に段落【0012】)及びカの記載から、H_(2)S捕捉剤の機能・作用は、還元雰囲気(すなわち、エンジン1がリッチ空燃比で運転されるとき)において、NOx触媒から放出されたH_(2)Sを吸蔵し(すなわち、排気ガス中の硫化水素を除去し)、吸蔵したH_(2)Sを酸化雰囲気においてSO_(2)などに転化して放出するものであることが分かる。 テ 上記(1)カ(特に段落【0023】)の記載から、引用文献2に記載された装置においては、NOx触媒温度を上昇させると共に混合気をリッチ化させる所謂強制Sパージが周期的に実施されることが分かる。 (3)引用文献2記載の技術 上記(1)、(2)及び図面の記載から、引用文献2には、次の技術(以下、「引用文献2記載の技術」という。)が記載されているといえる。 「空燃比をリーン側に制御するエンジン1の排気を浄化する技術であって、 NOx触媒5aを備えてなる担体と、 H_(2)S捕捉剤が担持されたカリウムトラッパ5cを備えてなり、NOx触媒5aの下流側に設けられる担体と、 を備えてなるものであり、 通常のリーン空燃比運転中に、周期的に強制Sパージを実施する手段を備えてなるものであり、 前記H_(2)S捕捉剤が、リッチ空燃比運転時に排気ガス中の硫化水素を吸蔵するものであり、前記NOx触媒から放出されたH_(2)Sを吸蔵するものであり、 H_(2)S捕捉剤が含有されているカリウムトラッパ5cを、上流側のNOx触媒5aに対して一体化し、 一体化を行うに当たって、共通の担体の上流側部分にある物質を担持させ、下流側部分に他の物質を担持させる技術。」 5 対比 本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「リーン空燃比運転を行う内燃機関」は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「リーンバーン内燃機関」に相当し、以下同様に、「排気」は「排気ガス」に、「内燃機関の排気」は「機関から流出する排気ガス」に、「後処理システム」は「排気システム」に、「リーン空燃比運転中」は「通常のリーン走行運転中」に「排気を処理する装置」は「処理装置」に、それぞれ相当する。 また、引用発明における「流入する排気成分を酸化する酸化触媒」は、「流入する排気成分を酸化する酸化触媒」という限りにおいて、本願発明における「排気ガス中のNOをNO_(2)に酸化し、酸化したNO_(2)により排気ガス中の粒子物質を酸化する酸化触媒」に相当する。 また、引用発明における「NOxトラップ触媒22a,22b」は、本願発明における「NOx吸着触媒(NAC)」及び「NAC」に相当する。 また、NOxトラップ触媒が基材モノリス上に設けられることは技術常識であるから、引用発明における「NOxトラップ触媒22a,22b」は、本願発明における「NOx吸着触媒(NAC)を備えてなる第一基材モノリス」にも相当する。 また、引用発明における「酸化触媒を担持するDPF(Diesel Particulate Filter)」は、フィルタ基材と触媒を備えたフィルタであるから、本願発明における「フィルタ基材を備えてなる触媒化煤フィルタ(CSF)」に相当する。 また、引用発明における「排気空燃比をリッチ化する運転を短時間行って」は、リッチ化された排気を断続的に供給することであるから、本願発明における「断続的にエンリッチされた排気ガス組成物を供給し」に相当する。 したがって両者は、 「リーンバーン内燃機関からの排気ガスを処理する装置であって、 リーンバーン内燃機関と、 前記機関から流出する排気ガスを処理する排気システムと、 ここに、当該排気システムは、 流入する排気成分を酸化する酸化触媒と、 NOx吸着触媒と、 フィルタ基材を備えてなる触媒化煤フィルタと、 を備えてなるものであり、 通常のリーン走行運転中に、断続的にエンリッチされた排気ガス組成物を供給し、排気ガスをエンリッチ化する手段と、 を備えてなるものである、 処理装置。」 という点で一致し、次の点で相違する。 <相違点> (1)本願発明においては、「排気ガス中のNOをNO_(2)に酸化し、酸化したNO_(2)により排気ガス中の粒子物質を酸化する酸化触媒」を備えるのに対し、引用発明においては、「流入する排気成分を酸化する酸化触媒」を有する点(以下、「相違点1」という。)。 (2)本願発明においては、「NOx吸着触媒(NAC)を備えてなる第一基材モノリスと、ここに、当該第一基材モノリスは、その入口端部と出口端部との間に延在する長さを有し、前記NACが、前記第一基材モノリスの前記入口端部を上流端部とし、前記入口端部から計測した時の前記第一基材モノリスに沿った距離の半分以上の地点を下流端部とした、実質的に均一な長さの第一領域に配置されてなり、硫化水素除去及び/又は変換化合物が前記NACの下流に配置され、前記硫化水素除去及び/又は変換化合物は、前記入口端部から計測した時の前記第一基材モノリス長さに沿った距離の半分以上の地点を上流端部とし、前記第一基材モノリスの前記出口端部を下流端部とした、実質的に均一な長さの第二領域に配置されてなり」、「通常のリーン走行運転中に、断続的にエンリッチされた排気ガス組成物を供給し、前記NACに吸着された硫黄を除去する、排気ガスをエンリッチ化する手段と、を備えてなるものであり、前記硫化水素除去及び/又は変換化合物が、リッチ条件下で排気ガス中の硫化水素を除去及び/又は変換するものであり、前記NACに吸着された硫黄を除去するものである」のに対し、引用発明においては、本願発明における「NOx吸着触媒(NAC)を備えてなる第一基材モノリス」及び「NAC」に相当する「NOxトラップ触媒」を有し、本願発明における「通常のリーン走行運転中に、断続的にエンリッチされた排気ガス組成物を供給し」に相当する「リーン空燃比運転中に、排気空燃比をリッチ化する運転を短時間行って」という事項を備えてなるものであるが、本願発明のようには特定されていない点(以下、「相違点2」という。)。 6 判断 上記相違点について検討する。 (1)相違点1について リーンバーン内燃機関からの排ガスを処理する装置において、NOx吸蔵触媒の上流に酸化触媒を設け、該酸化触媒において排気ガス中のNOをNO_(2)に酸化し、酸化したNO_(2)により排気ガス中の粒子物質を酸化するようにする技術は、本願の優先日前に周知の技術(以下、「周知技術1」という。例えば、特開2002-295243号公報[例えば、段落【0002】の記載を参照。]、特開2003-56329号公報[例えば、【特許請求の範囲】の請求項1ないし請求項16、段落【0004】ないし【0012】及び【0023】及び図面の記載を参照。]、特開2002-364338号公報[例えば、【特許請求の範囲】の段落【0004】等の記載を参照。]等を参照。)である。 してみれば、リーンバーン内燃機関からの排ガスを処理する装置において、NOx吸蔵触媒の上流に酸化触媒を設けた引用発明において、酸化触媒を周知技術1のような機能を有するものとすることにより、相違点1に係る本願発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得たことである。 (なお、本願発明における「酸化したNO_(2)により排気ガス中の粒子物質を酸化する」という事項が酸化触媒において起こるとすると、酸化触媒において酸化したNO_(2)が酸化触媒において粒子物質により再び還元されてしまうことになるため記載が不明確となり、また、新規事項の追加となるおそれもあるため、「酸化したNO_(2)により排気ガス中の粒子物質を酸化する」という事項は、酸化触媒とは異なる場所で起こると解した。) (2)相違点2について 上記のように、引用文献1には、従来技術として、「リーンバーンエンジンを、高温かつリッチな排気条件にして、NOxトラップ触媒からSOx(硫黄酸化物)を放出させ、SOx被毒解消を行う技術。」(引用文献1記載の技術)が記載されている。 そして、このように、NOxトラップ触媒からSOx(硫黄酸化物)を放出させ、SOx被毒解消を行う際には、有毒な硫化水素(H_(2)S)が発生するということは、従来周知の課題(以下、「周知の課題」という。例えば、引用文献2[例えば、上記4-2(1)オの段落【0014】ないし【0016】及び第1図を参照。]及び特開2005-211899号公報[例えば、段落【0015】ないし【0018】を参照。]を参照。)であり、それを防止するために、NOxトラップ触媒の下流に硫化水素(H_(2)S)を捕捉する物質(以下、「硫化水素捕捉物質」という。本願発明における「硫化水素除去及び/又は変換化合物」に相当する。)を配置することも周知技術(以下、「周知技術2」という。例えば、引用文献2[例えば上記4-2(1)エの段落【0011】及び【0012】、同カの【0024】及び図面を参照。]、特開2005-120958号公報[例えば、特許請求の範囲の請求項1ないし4を参照。]、特開2005-211899号公報[例えば、段落【0014】ないし【0018】及び図面を参照。]及び特開平11-350945号公報[例えば、特許請求の範囲の請求項18及び段落【0097】を参照。])である。 また、NOx吸着触媒と硫化水素捕捉物質を一体化する技術も、周知技術(以下、「周知技術3」という。例えば、引用文献2[例えば、上記4-2(1)キの段落【0029】を参照。]及び特開平10-317946号公報[例えば、特許請求の範囲の請求項1及び段落【0007】ないし【0010】及び図面を参照。]を参照。)である。 引用発明においても上記周知の課題は内在しており(上記4-1(2)ソ及びタを参照。)、引用文献2には、上記周知の課題並びに引用文献2記載の技術、周知技術2及び周知技術3が記載されているから、引用発明において、周知の課題を踏まえ、引用文献2記載の技術、周知技術2及び周知技術3を適用して、共通の担体である基材モノリス上にNOx吸着触媒と硫化水素捕捉物質を設けることとし、その際、NOx吸着触媒や硫化水素捕捉物質の長さは適宜設計的に決めるべき事項であるから、排出量が比較的多いNOxに対応するNOx吸着触媒の長さを半分以上とし、排出量が比較的少ない硫化水素に対応する硫化水素捕捉物質の長さを半分以下とすることにより、相違点2に係る本願発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得たことである。 (3)効果について そして、本願発明は、全体としてみても、引用発明、引用文献1記載の技術、引用文献2記載の技術及び周知技術1ないし3から予測される以上の格別顕著な効果を奏するものではない。 7 むすび 以上のとおり、本願発明は、引用発明、引用文献1記載の技術、引用文献2記載の技術及び周知技術1ないし3に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2014-11-19 |
結審通知日 | 2014-11-25 |
審決日 | 2014-12-08 |
出願番号 | 特願2009-542238(P2009-542238) |
審決分類 |
P
1
8・
121-
Z
(F01N)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 菅野 裕之、山田 由希子 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
金澤 俊郎 藤原 直欣 |
発明の名称 | リーンバーンIC内燃機関を備えた装置、及びそのための排気システム |
代理人 | 小林 義教 |
代理人 | 園田 吉隆 |