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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 F02D
管理番号 1299990
審判番号 不服2014-1927  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-03 
確定日 2015-04-23 
事件の表示 特願2011-519206「ガソリン熱エンジンの排ガス循環回路の制御方法、及び対応する再循環システム」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 1月28日国際公開、WO2010/010246、平成23年11月24日国内公表、特表2011-528767〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 1 手続の経緯
本願は、2009年7月17日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2008年7月22日、フランス共和国)を国際出願日とする出願であって、平成23年1月21日に特許法第184条の5第1項に規定する国内書面が提出され、同年3月18日に同法第184条の4第1項に規定する明細書、請求の範囲及び要約書並びに図面の翻訳文が提出され、平成25年2月27日付けで拒絶理由が通知され、同年6月5日に意見書及び手続補正書が提出されたが、同年9月24日付けで拒絶査定がされ、平成26年2月3日に拒絶査定に対する審判請求がされると同時に手続補正書が提出されて特許請求の範囲について補正がされ、平成26年3月20日に手続補正書(方式)が提出されて審判請求書の請求の理由について補正がされたものである。

2 本件補正
平成26年2月3日付けの手続補正書による手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲に関して、本件補正により補正される前の(すなわち、平成25年6月5日付けの手続補正書により補正された)請求項1における「精度の高い閾値を基準とするセンサにより、前記流量制御バルブの上流側の圧力と下流側の圧力の差圧として操作パラメータを検出し、かつ最小差圧に対応する閾値と、前記パラメータを比較し、この比較に基づいて、少なくとも前記一方のラインの流量を制御し、前記流量制御バルブの両側の圧力の差圧を増加させる工程を有し、前記最小差圧は、前記センサにより正確に測定された前記操作パラメータの値であって、前記高精度の閾値に相当しており、前記流量制御バルブの両側の圧力の差圧は、前記センサにより正確に測定された前記操作パラメータの値であって、前記高精度の閾値以上の値まで増加させる」との記載を、「高精度のセンサにより、前記流量制御バルブの上流側の圧力と下流側の圧力の差圧を操作パラメータとして検出し、かつ最小差圧に対応する閾値と、前記パラメータを比較し、この比較に基づいて、少なくとも前記一方のラインの流量を制御し、前記流量制御バルブの両側の圧力の差圧を増加させる工程を有し、前記最小差圧は、前記センサにより測定された前記操作パラメータの値であって、高精度の測定差圧に基づく閾値に相当しており、前記流量制御バルブの両側の圧力の差圧を、前記センサにより測定された前記操作パラメータの値であって、前記高精度の測定差圧に基づく閾値以上の値まで増加させる」(下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)と補正するとともに、本件補正により補正される前の請求項7における「流量制御バルブの上流側圧力と下流側圧力間の差圧の代表値である操作パラメータがエンジン速度である」との記載を、「流量制御バルブの上流側圧力と下流側圧力間の差圧からなる操作パラメータがエンジン速度制御に用いられる」(下線は、補正箇所を示すために請求人が付したものである。)と補正するものであって、特許法第17条の2第5項第4号に規定される明りょうでない記載の釈明を目的として、適法になされたものである。

3 本願発明
本願の特許請求の範囲の請求項1ないし10に係る発明は、平成26年2月3日に提出された手続補正書により補正された特許請求の範囲並びに平成23年3月18日に提出された明細書及び図面の翻訳文の記載からみて、その特許請求の範囲の請求項1ないし10に記載された事項により特定されるとおりのものであるところ、その請求項1に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりである。

「 【請求項1】
それらの間に再循環回路が位置する導入ラインと排出ラインに接続された少なくとも1個の燃焼室を備える内燃ガソリンエンジンの、流量制御バルブを備える排ガス再循環回路の制御方法であり、かつ流量値の関数を使用して、前記流量制御バルブを操作する方法において、
高精度のセンサにより、前記流量制御バルブの上流側の圧力と下流側の圧力の差圧を操作パラメータとして検出し、かつ
最小差圧に対応する閾値と、前記パラメータを比較し、この比較に基づいて、少なくとも前記一方のラインの流量を制御し、前記流量制御バルブの両側の圧力の差圧を増加させる工程を有し、
前記最小差圧は、前記センサにより測定された前記操作パラメータの値であって、高精度の測定差圧に基づく閾値に相当しており、
前記流量制御バルブの両側の圧力の差圧を、前記センサにより測定された前記操作パラメータの値であって、前記高精度の測定差圧に基づく閾値以上の値まで増加させる
ことを特徴とする排ガス再循環回路の制御方法。」

4 引用文献
(1)引用文献の記載
本願の優先日前に頒布され、原査定の拒絶の理由に引用された刊行物である特開2001-280202号公報(以下、「引用文献」という。)には、例えば、以下の記載がある。(なお、下線は、理解の一助のために、当審で付したものである。)

ア 「【要約】
【課題】 排気ガス再循環装置に関し、EGRバルブの前後差圧とEGRバルブ開度とからEGR流量を精度良く推定できるようにして、EGR(排気ガス再循環)を高精度で制御できるようにする。
【解決手段】 目標空気過剰率(目標λ)を設定し、検出されたEGRバルブの前後差圧に基づいて内燃機関の筒内のEGR量を導出し、導出したEGR量を用いて筒内の実空気過剰率(実λ)を推定して、目標EGR量設定手段45により目標空気過剰率と実空気過剰率とに基づいて目標EGR量を設定して、EGRバルブ開度制御手段46が設定された目標EGR量に基づいてEGRバルブ25を駆動するようにして、実空気過剰率の推定時に、差圧算出手段47により算出されたEGに基づいてRバルブ25の前後差圧が所定値以下のときには、差圧増加手段49がEGRバルブ25の前後差圧を増加させるようにする。」(【要約】)

イ 「【特許請求の範囲】
【請求項1】 内燃機関の排気通路と吸気通路とを連通して該排気通路内の排気ガスを該吸気通路内に還流させるEGR通路と、
該EGR通路に設けられ該吸気通路内に還流する排気ガスの量を調整するEGRバルブとを有する排気ガス再循環装置において、
該内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段と、
該運転状態検出手段により検出された運転状態に対応する該内燃機関の筒内の目標空気過剰率を設定する目標空気過剰率設定手段と、
該EGRバルブの前後差圧を算出する差圧算出手段と、
該差圧算出手段により検出された該前後差圧に基づいて該内燃機関の筒内のEGR量を導出するEGR量導出手段と、
該EGR量導出手段により導出されたEGR量を用いて該筒内の実空気過剰率を推定する実空気過剰率推定手段と、
該目標空気過剰率設定手段により設定された目標空気過剰率と該実空気過剰率推定手段により推定された実空気過剰率とに基づいて目標EGR量を設定する目標EGR量設定手段と、
該目標EGR量設定手段により設定された目標EGR量に基づいて該EGRバルブを駆動させるEGRバルブ開度制御手段とをそなえ、
該差圧算出手段により算出された該EGRバルブの前後差圧が所定値以下のとき、該EGRバルブの前後差圧を増加させる差圧増加手段が設けられていることを特徴とする、排気ガス再循環装置。」(【特許請求の範囲】の【請求項1】)

ウ 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ディーゼルエンジンに用いて好適の、排気ガス再循環装置に関する。」(段落【0001】)

エ 「【0006】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上述のように実λを算出する場合、吸入空気量,燃料噴射量,EGR量を求めることが必要になる。このうち、吸入空気量はエアフローセンサやブースト圧センサにより把握でき、燃料噴射量はインジェクタの駆動指令値として把握できる。そして、EGR量についてはEGR流量を推定することにより求められる。
【0007】EGR流量は、図3に示すように、差圧とEGRバルブ開度とに関係がある。したがって、差圧とEGRバルブ開度とを検出すれば、EGR流量を推定することができる。しかしながら、EGR要求の高い低負荷域においては、図3に領域Aで示すように、EGRバルブの前後差圧が例えば数mmHg程度と非常に小さく、しかも、大量EGRを要求されていることから)からEGRバルブ開度は全開に近い状態にある。このため、EGRバルブ開度の変化に対してはEGR流量の変化は鈍感であるが、EGRバルブの前後差圧の変化に対してはEGR流量の変化は敏感である。したがって、EGRバルブの前後差圧の僅かな誤差が推定するEGR流量を大きく狂わせてしまい、EGR量を適正に把握することができず、EGRを高精度で制御することが困難であった。
【0008】なお、特開平6-336966号公報には、排気通路と吸気絞り弁下流の吸気通路との差圧が目標値になるようにEGRバルブ開度をフィードバック制御する技術が開示されているが、この技術は単純に差圧を目標値とするものであり筒内空気過剰率λに着目したものではない。本発明は、上述の課題に鑑み創案されたもので、EGR要求の高い低負荷域においてもEGR量を精度良く把握できるようにして、EGR(排気ガス再循環)を高精度で制御することができるようにした、排気ガス再循環装置を提供することを目的とする。」(段落【0006】ないし【0008】)

オ 「【0009】
【課題を解決するための手段】このため、請求項1記載の本発明の排気ガス再循環装置では、EGRバルブの開度を調整することにより、EGR通路を通じて内燃機関の排気通路内の排気ガスを吸気通路内に還流させるが、このとき、目標空気過剰率設定手段が運転状態検出手段により検出された運転状態に対応する筒内の目標空気過剰率を設定する。この一方、EGR量導出手段が差圧算出手段により検出されたEGRバルブの前後差圧に基づいて内燃機関の筒内のEGR量を導出し、実空気過剰率推定手段がEGR量導出手段により導出されたEGR量と内燃機関の筒内への燃料噴射量,新気吸入量とから筒内の実空気過剰率を推定する。そして、目標EGR量設定手段が目標空気過剰率設定手段により設定された目標空気過剰率と実空気過剰率推定手段により推定された実空気過剰率とに基づいて目標EGR量を設定して、EGRバルブ開度制御手段が目標EGR量設定手段により設定された目標EGR量に基づいてEGRバルブを駆動する。特に、実空気過剰率の推定時に、差圧増加手段が、差圧算出手段により算出されたEGRバルブの前後差圧が所定値以下のときには、EGRバルブの前後差圧を増加させる。」(段落【0009】)

カ 「【0010】
【発明の実施の形態】以下、図面により、本発明の実施の形態について説明すると、図1?図4は本発明の一実施形態としての排気ガス再循環装置に関して示すものである。まず、本排気ガス再循環装置をそなえるエンジン(内燃機関)について説明すると、図1に示すように、このエンジン1は直噴式のディーゼルエンジンであり、シリンダ2の上部には、高圧噴射ノズル3が噴射口を燃焼室4内に臨むように配設されており、高圧噴射ノズル3から燃焼室4内に直接噴射するようになっている。
【0011】吸気通路11には、上流端にエアクリーナ(図示略)が装備され、さらに、上流側から、ターボチャージャ(過給機)30のコンプレッサ部,インタクーラ13,吸気絞り弁14,サージタンク15,吸気弁16が介装されている。排気通路21には、上流側から、排気弁22,ターボチャージャ30のタービン部,ディーゼル用酸化触媒(図示略)等が介装されている。
【0012】また、排気通路21と吸気通路11との間には排気を還流する排気再循環装置(EGR)23が設けられている。このEGR23は、排気通路21の上流部(例えば排気マニホルド)から吸気通路11の下流部(ここでは、吸気絞り弁14とサージタンク15との間の部分)にわたって設けられたEGR通路(排気再循環用通路)24と、このEGR通路24の開度を制御するEGRバルブ25とから構成されている。
【0013】この実施形態では、EGRバルブ25は、バキュームポンプ26からの負圧によって開放する負圧式に構成されている。EGRバルブ25の開度調整は、バキュームポンプ26からの配管の途中に介装されたEGRソレノイド27を開度調整(例えばデューティ制御による開度調整)することでEGRバルブ24の負圧状態を制御することにより行なうようになっている。
【0014】このEGRソレノイド27,高圧噴射ノズル3及び吸気絞り弁14は、制御手段としてのECU(エンジンコントロールユニット)40によって制御されるようになっている。つまり、ECU40には、クランク角センサ61により検出されるエンジン回転速度(回転数)Neと、アクセルポジションセンサ(APS)62により検出されるアクセル開度(APS)、ブーストセンサ63により検出されるブースト圧(吸気管内圧力)Pbと、ブースト温度センサ64により検出されるブースト温度(吸気管内温度)Tbと、開度検出手段としてのEGRポジションセンサ(EPS)65により検出されるEGRバルブ開度(実EPS)と圧力センサ66により検出されるEGRバルブ25の上流圧Pegrと、が入力されるようになっており、EGRソレノイド26及び高圧噴射ノズル3はこれらの検出情報に基づいて制御される。なお、クランク角センサ61及びアクセルポジションセンサ(APS)62は内燃機関の運転状態を検出する運転状態検出手段に相当する。
【0015】ECU40内のEGRソレノイド27及び吸気絞り弁14を制御する機能について説明すると、図2に示すように、ECU40には、筒内の目標空気過剰率(目標筒内空気過剰率、以下、目標λともいう)を設定する目標空気過剰率設定手段41と、EGR質量(EGR量)Grcngを導出(算出)するEGR量導出手段42Aと、実空気過剰率(実筒内空気過剰率、以下、実λともいう)を推定する実空気過剰率推定手段42と、EGRバルブ開度の基本位置を設定するEGRバルブ基本位置設定手段43と、目標λと実λとの差(実λ-目標λ)をPI演算するPI演算手段44と、EGRバルブの目標位置を設定するEGRバルブ目標位置設定手段(目標EGR量設定手段)45と、この目標位置に基づいてEGRバルブ25に指令信号を出力するEGRバルブ指令手段(EGRバルブ開度制御手段)46と、EGRバルブ25の前後差圧DEPを算出する差圧算出手段47と、差圧算出手段47により算出されたEGRバルブ25の前後差圧DEPが所定値以下のときに、吸気絞り弁14を通じて増加させる差圧増加制御手段48とをそなえている。
【0016】なお、EGR量導出手段42Aには、EGR流量推定手段42A´が備えられ、このEGR流量推定手段42A´で推定されたEGR流量Vegrに基づいてEGR質量Grcngを算出するようになっている。このEGR流量推定手段42A´には、EGRポジションセンサ(EPS)65により検出されるEGRバルブ開度(実EPS)の検出データ(EGRバルブポジションサンプリングデータ)をEGR流量の推定に先立ち処理するEGRバルブ位置データ処理手段42Bがそなえられている。さらに、吸気絞り弁14と差圧増加制御手段48とから差圧増加手段49が構成される。」(段落【0010】ないし【0016】)

キ 「【0020】実空気過剰率推定手段42では、シリンダ吸入空気量(筒内吸入空気量)Gaと筒内への燃料噴射量Qとから、次式(1)により実空気過剰率(実λ)を算出する。
実λ=Ga/Q/理論空燃比 ・・・(1)
ここで、燃料噴射量Qは例えば高圧噴射ノズル3からの燃料噴射量の目標値として与えることができ、シリンダ吸入空気量Gaは、シリンダへの全吸気量Geから、EGRで導入されるEGR質量Grcngを減算することにより算出することができる(Ga=Ge-Grcng)。
【0021】このうち、シリンダへの全吸気量Geは、次式(2)のようにエンジン回転数Neとブースト圧Pbとブースト温度Tbとから算出することができる。なお、次式(2)において、Vhはエンジン行程容積、ηvは体積効率、γbはブースト圧Pbと大気圧Paとブースト温度Tbとから求められる比重量である。
Ge∝〔Ne×Vh×ηv×γb(Pb,Pa,Tb)〕・・・(2)
また、EGR質量Grcngは、EGR流量推定手段42Aで算出されるが、EGR流量推定手段42Aでは、実EPSとEGRバルブ25の前後差圧DEPとから算出できるEGRバルブ通過流量Vegrと、燃料噴射量Qとエンジン温度(一般にはエンジンの冷却水温度)Twとから算出できるEGRガス密度ρegrとの積として算出されるEGR質量値Grを、次式(3)のように、排ガス中の新気質量割合Raで補正してEGR質量Grcngを得ることができる。
【0022】
Grcng=Gr*(1-Ra) ・・・(3)
ただし、Gr=Vegr*ρegr
ここで、EGRバルブ通過流量(EGR流量)Vegrは、EGR流量推定手段42A´により推定される。つまり、EGR流量推定手段42A´では、EPS65により検出された実EPSのサンプリングデータをEGRバルブ位置データ処理手段42Bにより平均化処理した値と、差圧算出手段47により算出されるEGRバルブ25の前後差圧DEPとから、図3に示すような対応関係の三次元マップによってEGR流量を推定できる。
【0023】なお、差圧算出手段47では、ブーストセンサ63により検出されるブースト圧(吸気管内圧力)Pbと圧力センサ66により検出されるEGRバルブ25の上流圧Pegrとの差(=Pegr-Pb)を算出する。このとき、算出に用いるブースト圧Pb及びEGRバルブ25の上流圧Pegrについても、EGRバルブ位置のサンプリングデータ処理と同様に、その対象気筒の吸気行程において得られたデータを平均化したものを用いるようにする。
【0024】また、EGRガス密度ρegrは燃料噴射量Qとエンジン温度(一般にはエンジンの冷却水温度)Twとから算出できる。一方、EGRバルブ基本位置設定手段43では、エンジン回転数Neと筒内への燃料噴射量(エンジン負荷に相当する量)Qとから、予め用意された基本EGRバルブ位置設定マップによって、EGRバルブ基本位置を設定する。
【0025】また、PI演算手段44では、目標空気過剰率設定手段41で設定された目標λと、実空気過剰率推定手段42で推定された実λとの偏差(=目標λ-実λ)を、PI演算処理する。EGRバルブ目標位置設定手段45では、EGRバルブ基本位置設定手段43で設定されたEGRバルブ基本位置とPI演算手段44でPI演算処理された値とを加算して、EGRバルブ目標位置EPStを設定する。」(段落【0020】ないし【0025】)

ク 「【0026】EGRバルブ指令手段46では、EGRバルブ目標位置設定手段45により設定されたEGRバルブ目標位置EPStと現在のEGRバルブ位置ESPとに基づいてEGRバルブ25に指令信号(=EPSt-ESP)を出力する。差圧増加制御手段48では、差圧算出手段47により算出されたEGRバルブ25の前後差圧DEPを所定値と比較して、前後差圧DEPが所定値以下のときに、吸気絞り弁14を絞ってEGRバルブ25の前後差圧を増加させる。これは、EGR流量を適正に把握できるようにして、EGRを高精度で制御できるようにするためである。
【0027】つまり、本装置では、前述のように、EGR流量(EGRバルブ通過流量)VegrをEPS65により検出される実EPS(EGRバルブ25の開度)と差圧算出手段47により算出されるEGRバルブ25の前後差圧DEPとから図3に示すような対応関係のマップによって推定して求めている。なお、図3において、ΔPi(即ち、ΔP_(1)?ΔP_(11))はEGR前後差圧を示し、ΔP_(1),ΔP_(2),ΔP_(2)・・・・ΔP_(11)の順に(iの値が大きくなるほど)EGRの前後差圧が大きい。また、隣接する前後差圧間の圧力差については、ΔP_(1)とΔP_(2)との間の差,ΔP_(2)とΔP_(3)との間の差,ΔP_(3)とΔP_(4)との間の差はいずれも5mmHgであり、ΔP_(4)とΔP_(5)との間の差,ΔP_(5)とΔP_(6)との間の差,ΔP_(6)とΔP_(7)との間の差はいずれも10mmHgであり、ΔP_(7)以降は隣接する前後差圧間の圧力差が次第に大きくなっている。
【0028】しかしながら、EGR要求の高い低負荷域においては、図3に領域Aで示すように、EGRバルブの前後差圧が例えば数mmHg程度と非常に小さく、しかも、大量EGRを要求されていることから、EGRバルブ開度は全開に近い状態にあるため、EGRバルブの前後差圧の変化に対してEGR流量の変化は敏感となり、EGRバルブの前後差圧の僅かな誤差が推定するEGR流量を大きく狂わせてしまう。
【0029】そこで、この場合、吸気絞り弁14を絞ってEGRバルブ25の前後差圧を増加させることによりEGRバルブの前後差圧の変化に対してEGR流量の変化は敏感とならない領域を用いて、EGRバルブの前後差圧に誤差が生じても、推定するEGR流量が大きく狂わないようにして、EGR流量を適正に把握することができるようにしているのである。なお、吸気絞り弁14は本来エンジンの運転状態に応じた状態に制御されるが、差圧増加制御手段48では、エンジンの運転状態に応じた吸気絞り弁14の目標開度を絞り側に補正することで、差圧増加を行なうようにしている。
【0030】本発明の一実施形態としての排気ガス再循環装置は、上述のように構成されているので、目標空気過剰率設定手段41がエンジンの運転状態に応じて目標λを設定し、実空気過剰率推定手段42が実λを推定すると、PI演算手段44がこれらの目標λと実λとの差分をPI演算する。一方、EGRバルブ基本位置設定手段43がEGRバルブ基本位置を設定すると、EGRバルブ目標位置設定手段45が、設定したEGRバルブ基本位置と上記のPI演算処理値とを加算して、EGRバルブの目標位置を設定して、EGRバルブ指令手段46が目標位置と実際のEGRバルブの位置とに基づいてEGRバルブ25に指令信号を出力する。
【0031】実λの推定時に、EGR量を求めるためにEGR流量(EGRバルブ通過流量)Vegrが用いられ、EGR流量を求める際に、EGRバルブ位置データ処理手段42Bで処理されたEGRバルブ開度(EGRバルブ位置)及び差圧算出手段47により算出されたEGRバルブ25の前後差圧DEPが用いられる。このとき、EGRバルブ位置データ処理手段42Bでは、EGR流量を推定しようとする気筒の燃焼行程(爆発行程)の直前の吸気行程において得られたサンプリングデータを平均化処理して、この値がEGR流量推定に用いられるようになっているので、当該気筒に実際にEGRの吸気が行なわれる時(吸気行程中)のEGRバルブ位置データが、適切に用いられることになる。
【0032】したがって、EGR量を精度よく推定することができ、実λの正確な推定値が得られるようになり、EGR(排気ガス再循環)を高精度で制御できるようになるのである。さらに、EGR要求の高い低負荷域においては、図3に領域Aで示すように、EGRバルブの前後差圧が例えば数mmHg程度と非常に小さく、しかも、大量EGRを要求されていることからEGRバルブ開度は全開に近い状態にあるため、このままでは、EGRバルブの前後差圧の僅かな誤差が推定するEGR流量を大きく狂わせてしまうが、本装置には差圧増加手段49が設けられているので、このような不具合が回避される効果がある。
【0033】つまり、EGRバルブの前後差圧が所定圧以下の場合には、吸気絞り弁14を絞ってEGRバルブ25の前後差圧を増加させているため、図3に示すように、EGRバルブ25の前後差圧がより高圧なライン上に従ってEGR流量を推定することになる。そして、例えば目標EGR流量が図3に目標EGR流量と示すレベルにあれば、通常、この近傍に実際のEGR流量が存在するが、EGRバルブ25の前後差圧を増加させることによって、図3中に矢印(右側の●から左側の●に向かう矢印)で示すように、EGRバルブ25の開度を比較的小さくしながらEGR流量を確保することができる。
【0034】このように、EGRバルブ25の前後差圧が比較的大きく、EGRバルブ25の開度があまり大きくない領域では、EGRバルブの前後差圧の誤差に対してEGR流量の変化は少なくなるので、EGRバルブの前後差圧の算出値に多少の誤差があっても、EGR流量の推定値への影響は少なく、EGR量を適正に把握することができるのである。」(段落【0026】ないし【0034】)

ケ 「【0035】これにより、筒内空気過剰率λをパラメータとしたEGRバルブのフィードバック制御を精度良く行なうことができ、EGR制御を適正に行なうことができるようになる。なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々変形して適用することができる。
【0036】例えば、上述の実施形態では、EGR流量の推定に、推定対象の気筒の吸気行程において得られたサンプリングデータを単純平均化処理したものを用いているが、平均化は適当な加重平均としてもよく、また、吸気行程において得られたサンプリングデータの代表値を1つだけ用いてEGR流量を推定しても、EGR流量の推定精度をある程度向上させることができる。
【0037】また、上述の実施形態では、差圧増加手段49に吸気絞り弁14を利用しているが、VGターボをそなえたエンジンならば、VGターボの可変ベーンを絞ることで差圧増加を行なうようにすることができる。さらに、上述の実施形態では、差圧増加手段49に吸気絞り弁14を利用しているが、VGターボをそなえたエンジンならば、VGターボの可変ベーンを絞ることで差圧増加を行なうようにすることができる。
【0038】また、EGRバルブの前後差圧に代えて、EGRバルブの上流圧を用いてEGR流量を推定することも考えられる。さらに、上述の実施形態はターボ過給機を備えたディーゼルエンジンに本発明を適用したものであるが、自然吸気のディーゼルエンジンや希薄燃焼方式のガソリンエンジン等にも好適である。更に、エンジン制御システムの具体的構成や制御手順等についても、本発明の主旨を逸脱しない範囲で変更することが可能である。」(段落【0035】ないし【0038】)

コ 「【0039】
【発明の効果】以上詳述したように、請求項1記載の本発明の排気ガス再循環装置によれば、実空気過剰率の推定にあたって、差圧増加手段が、差圧算出手段により算出されたEGRバルブの前後差圧が所定値以下のときには、EGRバルブの前後差圧を増加させるため、EGR量の導出を精度良く行なえるようになり、実空気過剰率の推定精度も向上し、EGRの制御をより精度良く行なえるようになる。」(段落【0039】)

(2)引用文献の記載から分かること
上記(1)アないしコ及び図面の記載から、以下の事項が分かる。

サ 上記(1)アないしコ及び図面の記載から、引用文献には、EGR(排気ガス再循環)を高精度で制御することができるようにした排気ガス再循環装置及びその制御方法が記載されていることが分かる。

シ 上記(1)ケ(段落【0038】)の記載から、引用文献に記載された排気ガス再循環装置及びその制御方法は、ガソリンエンジンにも好適であることが分かる。

ス 上記(1)イ、カ及び図2の記載から、引用文献に記載された排気ガス再循環装置の制御方法は、EGR通路(排気ガス再循環用通路)24が位置する吸気通路11の下流部と排気通路21の上流部に接続された少なくとも1個の燃焼室4を備えるエンジン(内燃機関)において、EGRバルブ25を備えるEGR通路(排気ガス再循環用通路)24の制御方法に関するものであることが分かる。

セ 上記(1)オないしク及び図1の記載から、引用文献に記載された排気ガス再循環装置の制御方法においては、EGR流量の関数を使用して、EGRバルブ25を制御することが分かる。

ソ 上記(1)ア、オ、キ及びク並びに図1ないし4の記載から、引用文献に記載された排気ガス再循環装置の制御方法は、EGRバルブ25の前後差圧が所定値(段落【0028】の記載によれば、例えば数mmHg程度)以下のときには、吸気絞り弁14を絞ってEGRバルブ25の前後差圧を増加させることにより、EGR流量を精度良く把握し、EGRを高精度で制御するものであることが分かる。

(3)引用文献記載の発明
上記(1)及び(2)並びに図面を参酌すると、引用文献には次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認める。

「それらの間に排気ガス再循環用通路が位置する吸気通路11と排気通路21に接続された少なくとも1個の燃焼室4を備えるガソリンエンジンを含む内燃機関の、EGRバルブ25を備える排気ガス再循環用通路の制御方法であり、かつEGR流量の関数を使用して、前記EGRバルブ25を操作する方法において、
ブーストセンサ63及び圧力センサ66により、前記EGRバルブ25の前後差圧DEPを操作パラメータとして検出し、かつ
所定値と、前記パラメータを比較し、この比較に基づいて、吸気絞り弁14を絞って、前記EGRバルブ25の前後差圧を増加させる工程を有し、
前記所定値は、前記ブーストセンサ63及び圧力センサ66により測定された前記操作パラメータの値であって、EGRを高精度で制御できる値に相当しており、
前記EGRバルブ25の前後差圧DEPを、前記ブーストセンサ63及び圧力センサ66により測定された前記操作パラメータの値であって、前記EGRを高精度で制御できる値以上の値まで増加させる
排気ガス再循環用通路の制御方法。」

5 対比
本願発明と引用発明とを対比すると、引用発明における「排気ガス再循環用通路」は、は、その機能、構成又は技術的意義からみて、本願発明における「排ガス再循環回路」に相当し、以下同様に、「吸気通路11」は「導入ライン」に、「排気通路21」は「排出ライン」に、「燃焼室4」は「燃焼室」に、「ガソリンエンジンを含む内燃機関」は「内燃ガソリンエンジン」に、「EGRバルブ25」は「流量制御バルブ」に、「EGR流量」は「流量値」に、「(EGRバルブ25の)前後差圧DEP」は「(流量制御バルブの)上流側の圧力と下流側の圧力の差圧」に、「所定値」は「最小差圧に対応する閾値」及び「最小差圧」に、それぞれ相当する。
また、引用発明における「吸気絞り弁を絞って」は、その技術的意義からみて、本願発明における「少なくとも前記一方のラインの流量を制御し」に相当し、同様に、引用発明における「EGRバルブ25の前後差圧を増加させる」は、本願発明における「流量制御バルブの両側の圧力の差圧を増加させる」に相当する。
また、引用発明における「ブーストセンサ63及び圧力センサ66」は、「センサ」という限りにおいて、本願発明における「高精度のセンサ」に相当する。
また、引用発明における「EGRを高精度で制御できる値」は、「EGRを高精度で制御できる値」という限りにおいて、本願発明における「高精度の測定差圧に基づく閾値」に相当する。

したがって両者は、
「それらの間に再循環回路が位置する導入ラインと排出ラインに接続された少なくとも1個の燃焼室を備える内燃ガソリンエンジンの、流量制御バルブを備える排ガス再循環回路の制御方法であり、かつ流量値の関数を使用して、前記流量制御バルブを操作する方法において、
センサにより、前記流量制御バルブの上流側の圧力と下流側の圧力の差圧を操作パラメータとして検出し、かつ
最小差圧に対応する閾値と、前記パラメータを比較し、この比較に基づいて、少なくとも前記一方のラインの流量を制御し、前記流量制御バルブの両側の圧力の差圧を増加させる工程を有し、
前記最小差圧は、前記センサにより測定された前記操作パラメータの値であって、EGRを高精度で制御できる値に相当しており、
前記流量制御バルブの両側の圧力の差圧を、前記センサにより測定された前記操作パラメータの値であって、前記EGRを高精度で制御できる値以上の値まで増加させる
排ガス再循環回路の制御方法。」
である点で一致し、次の点で相違又は一応相違する。

<相違点>
(1)センサとして、本願発明においては「高精度のセンサ」を使用するのに対し、引用発明においては、「ブーストセンサ及び圧力センサ」を使用する点(以下、「相違点1」という。)。

(2)「EGRを高精度で制御できる値」に関して、本願発明においては「高精度の測定差圧に基づく閾値」を使用するのに対して、引用発明においては「EGRを高精度で制御できる値」を使用する点(以下、「相違点2」という。)。

6 判断
上記相違点について検討する。
(1)相違点1について
本願の明細書において、本願発明における「高精度のセンサ」について具体的な構成等の説明は記載されていない。
請求人が補正の根拠とした段落【0006】、【0007】、【0009】、【0010】、【0033】及び【0038】には、以下のように記載されている。
「この目的を達成するために、本発明は、それらの間に再循環回路が位置する導入ラインと排出ラインに接続された少なくとも1個の燃焼室を備える内燃ガソリンエンジンの、流量制御バルブを備える排ガス再循環回路の制御方法であって、流量値の関数を使用して、流量制御バルブを操作する方法において、前記流量制御バルブの上流側の圧力と下流側の圧力の差圧の操作パラメータを検出し、かつ最小差圧に対応する閾値と、前記パラメータを比較し、この比較に基づいて、少なくとも前記一方のラインの流量を制御し、差圧を増加させることを特徴とする排ガス再循環回路の制御方法を提供する。」(段落【0006】)
「換言すると、前記パラメータ及び閾値を比較して、流量制御バルブの両側の差圧が最小値未満である場合に、少なくとも1つのラインの圧力を制御して、前記差圧を上昇させる。」(段落【0007】)
「エンジン操作のためにバルブを横切る流量を決定する必要性を満たすため、そして特に十分正確な流量予測を確保するために最小差圧は決定されるが、これは自動車工業で通常使用される圧力及び/又は流量センサは、高速では十分な正確性を有するが、低速では感度が十分でなく、従って正確性が低下するからである。」(段落【0009】)
「再循環回路の流量制御バルブの両側間の差圧を十分に高くして当該再循環回路の操作をより簡単にするように、特に流量測定をより正確に行うために、1本のラインの流量を制御する。」(段落【0010】)
「この代替態様で意図するのは、前記流量制御バルブ13の上流側圧力及び下流側圧力との差圧の代表的な値である操作パラメータを決定することである。本方法では、このパラメータを最小差圧に対応する閾値と比較し、差圧を増加させるために、前記追加バルブ25に作用する工程を備える。より詳細には、該追加バルブに与えられる指示は、前記流量制御バルブ13の下流側の圧力を減少させることを意図している。更に、導入ラインの圧力、つまり流量制御バルブ13の下流側の圧力を増加させるために前記バタフライバルブ7のコントロールを行い、これによりコントロールの指示により生じるエンジンでの圧力変化を補償することも意図している。」(段落【0033】)
「バルブの開度を決定するために使用されるパラメータは、常に前記流量制御バルブ13の上流側圧力と下流側圧力の差圧である。」(段落【0038】)
これらの記載を見ても、請求人の主張する「高精度のセンサ」がどのようなものであるか必ずしも明確ではないが、上記段落【0009】の記載からすれば、「自動車工業で通常使用される圧力及び/又は流量センサ」を使用しているとも考えられ、また、本願の明細書、特許請求の範囲及び図面を総合すると、該「高精度のセンサ」は、流量制御バルブ13の上流側圧力と下流側圧力の差圧が小さいときには精度が低下するが、流量制御バルブ13の上流側圧力と下流側圧力の差圧が閾値よりも大きいときには十分な精度を有するセンサであるといえる。
ところで、本願の明細書の「背景技術」の欄には、
「制御は、一般に、再循環回路の流量制御バルブの上流側と下流側の圧力差の測定値を使用して行われる。しかし負荷が小さいと、この圧力差が小さくなり、精度の高い圧力センサが必要になり、高コストになる。」(段落【0004】。下線は当審で付した。)
と記載され、それに続く「発明が解決しようとする課題」の欄には、
「本発明は、簡単かつ安価な手法で、内燃ガソリンエンジン用の排ガス再循環回路内で、流量制御を高信頼性で行うことができる方法を提供することを目的とする。」(段落【0005】。下線は当審で付した。)
と記載されていることから、本願発明は、高コストの「精度の高い圧力センサ」を必要とせずに、流量制御を高信頼性で行うことを目的としていると解される。
したがって、本願発明における「高精度のセンサ」は、高コストではない程度の「高精度のセンサ」であるともいえる。
一方、引用発明におけるブーストセンサ及び圧力センサは、EGRバルブの前後差圧が例えば数mmHg程度と非常に小さいときにEGRバルブの前後差圧の僅かな誤差が推定するEGR流量を大きく狂わせてしまう(段落【0007】及び【0028】を参照。)ものであるが、「前後差圧DEPが所定値以下のときに、吸気絞り弁14を絞ってEGRバルブ25の前後差圧を増加させる。これは、EGR流量を適正に把握できるようにして、EGRを高精度で制御できるようにするためである。」(段落【0026】)というものであるから、EGRバルブ25の前後差圧を増加させたときには、EGRを高精度で制御できるものである。
よって、本願発明における「高精度のセンサ」と引用発明における「ブーストセンサ及び圧力センサ」は、ともに、流量制御バルブ(EGRバルブ)の上流側圧力と下流側圧力の差圧が所定値よりも大きいときにはEGRを高精度で制御できるものであるから、実質的に同様のものと認められる。
したがって、前記相違点1は、実質的な相違点ではないか、仮に実質的な相違点であったとしても、制御に用いるセンサを必要な精度のものとすることは、当業者が当然考慮する事であるから、前記相違点1に係る本願発明の発明特定事項は、当業者が容易に想到できたことである。

(2)相違点2について
本願発明において、「高精度の測定差圧に基づく閾値」としたことについて、請求人が補正の根拠とする上記段落【0006】及び【0007】には、具体的な説明は記載されていない。
本願の明細書の記載によれば、本願発明は、エンジンの負荷が小さいときには圧力差が小さくなり、精度の高い圧力センサが必要になり、高コストになるという課題があり(段落【0004】を参照。)、簡単かつ安価な手法で、内燃ガソリンエンジン用の排ガス再循環回路内で、流量制御を高信頼性で行うことができる方法を提供することを目的とし(段落【0005】を参照。)、流量制御バルブの上流側の圧力と下流側の圧力の差圧の操作パラメータを検出し、かつ最小差圧に対応する閾値と、パラメータを比較し、この比較に基づいて、少なくとも前記一方のラインの流量を制御し、差圧を増加させることを特徴とする排ガス再循環回路の制御方法(段落【0006】)であって、換言すると、流量制御バルブの両側の差圧が最小値未満である場合に、少なくとも1つのラインの圧力を制御して、差圧を上昇させる(段落【0007】)ものであり、上記「最小差圧に対応する閾値」及び「最小値」が本願発明における「閾値」に該当する。
ここで、「最小差圧」がどのような値を取るかについて、本願の明細書には具体的な数値の記載はないが、段落【0009】における「十分正確な流量予測を確保するために最小差圧は決定される」という記載から、再循環回路の流量制御バルブの流量を十分に正確に予測できるという値であることが分かる。
一方、引用発明においては、「EGR流量を適正に把握できるようにして、EGRを高精度で制御できるようにするため」、「前後差圧DEPが所定値以下のときに、吸気絞り弁14を絞ってEGRバルブの前後差圧を増加させ」(段落【0026】)、その結果、「したがって、EGR量を精度よく推定することができ、実λの正確な推定値が得られるようになり、EGR(排気ガス再循環)を高精度で制御できるようになるのである。」(段落【0032】)というものであるから、該所定値は、「EGR流量を適正に把握でき」、「EGR量を精度よく推定することができる」という値であるといえる。
してみると、本願発明における「閾値」と、引用発明における「所定値」は、どちらも、再循環回路(EGR)の流量を十分に正確に予測できるという値であるから、両者は、実質的に同程度の値であるといえる。
仮に、本願発明における「高精度の測定差圧に基づく閾値」が、引用発明における「所定値」とは異なる値であったとしても、閾値として最適な値を設定することは、当業者が通常行うことであり、格別なこととはいえない。
よって、相違点2は、実質的な相違点ではないか、実質的な相違点であるとしても、相違点2に係る本願発明の発明特定事項は、当業者が容易に想到できたことである。

(3)まとめ
上記(1)(2)を踏まえて総合的にみれば、引用発明に基いて、本願発明の発明特定事項に想到することは、当業者が容易になし得たことである。

そして、本願発明を全体としてみても、本願発明の奏する効果は、引用発明から当業者が予測できた以上の格別に顕著な効果ではない。

7 まとめ
以上のとおり、本願発明は、引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

8 むすび
上記7のとおり、本願発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないので、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-11-19 
結審通知日 2014-11-25 
審決日 2014-12-08 
出願番号 特願2011-519206(P2011-519206)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (F02D)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 恭司  
特許庁審判長 中村 達之
特許庁審判官 金澤 俊郎
藤原 直欣
発明の名称 ガソリン熱エンジンの排ガス循環回路の制御方法、及び対応する再循環システム  
代理人 中馬 典嗣  
代理人 竹沢 荘一  

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