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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01N
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない。 G01N
管理番号 1300290
審判番号 不服2013-25465  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-25 
確定日 2015-04-30 
事件の表示 特願2009-230818「円盤型分析チップおよびそれを用いた測定システム」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 4月21日出願公開、特開2011- 80769〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成21年10月2日の特許出願であって、平成25年7月1日付けで拒絶理由が通知された後、同年8月13日付けで意見書と手続補正書の提出がなされたが、同年9月26日付けで拒絶査定がなされ、これに対し、同年12月25日に拒絶査定不服審判の請求がなされたものである。

第2 本願発明
本願の請求項1ないし6に係る発明は、平成25年8月13日付け手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定されるものであるところ、請求項1の「前記サンプル導入槽と前記反応槽とを接続する第1の流路」における「前記サンプル導入槽」は、「前記サンプル槽」の誤記であることは明らかであるから、その請求項1は以下のとおりのものと認定した。(以下、「本願発明」という。)
「【請求項1】
円盤型分析チップを遠心装置上に配置し、前記遠心装置の回転により生じる遠心力を利用して円盤型分析チップ上のサンプルを移動させ、試薬と反応させた後に測定を行う測定システムに用いられる円盤型分析チップであって、
前記円盤型分析チップの表面に、
サンプル槽、
該サンプル槽に対して円盤型分析チップの外周部方向に設けられた反応槽、
該反応槽に対して円盤型チップの外周部方向に設けられた測定槽、
前記サンプル槽と前記反応槽とを接続する第1の流路、
前記反応槽と前記測定槽とを接続する第2の流路、
前記反応槽よりも円盤型分析チップの中心側に設けられた反応槽排気口、
前記測定槽よりも円盤型分析チップの中心側に設けられた測定槽排気口、
前記反応槽と前記反応槽排気口とを接続する第1の排気管、および、
前記測定槽と前記測定槽排気口とを接続する第2の排気管を備え、
前記第1の流路の断面積が前記第2の流路の断面積よりも大きいことを特徴とする、円盤型分析チップ。」

第3 理由1(特許法第29条の2規定違反について)
1 先願明細書等の記載事項
原査定の拒絶の理由に引用された、本願の出願日前に特許出願され、本願の出願後に公開された特願2009-180039号(特開2011-33477号参照)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面には、次の事項が記載されている。
ア「【請求項1】
複数のセルと前記セル間を繋ぐ移送流路とを有し、所定のセルに検体及び試薬をそれぞれ分注して、回転体の回転から得られる遠心力によって前記検体及び前記試薬を前記移送流路に流通させて反応させる反応プレートにおいて、
前記セルに収容された流体にかかる遠心力に応じて、該遠心力方向に対して垂直方向の前記移送流路の断面積を変化させて該断面積の大小に応じて増減するラプラス力を調整し、該調整された前記ラプラス力が、前記遠心力に比して大きい場合に前記流体を流動し、前記遠心力に比して小さい場合に前記流体の流動を停止することを特徴とする反応プレート。・・・
【請求項6】
複数のセルと前記セル間を繋ぐ移送流路とを有し、遠心力方向に対して垂直方向の該移送流路の断面積を変化させて形成した反応プレートと、
前記反応プレートを保持する回転体と、
前記回転体の回転によって前記検体、前記試薬または反応液の前記移送流路の流通を制御する回転制御手段と、
を備えたことを特徴とする自動分析装置。」(特許請求の範囲)

イ 「【0002】
従来、血液や体液等の検体を自動的に分析する装置として、検体および試薬を反応容器に分注し、検体と試薬とを反応させた後、この検体と試薬との反応液の吸光度を測定して自動的に検体を分析する分析装置が知られている。また、回転体上に配置され、セル間が流路で連結されている反応プレートの分注セルに検体及び試薬又は検体と試薬との混合液を分注して、回転体を回転させることによって生じる遠心力を利用して検体と試薬との反応液を送液制御する送液装置および送液方法が開示されている(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2007-330857号公報」

ウ 「【0018】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1にかかる自動分析装置1の構成を示す模式図である。図1に示すように、自動分析装置1は、検体および試薬を反応プレート20にそれぞれ分注し、分注した反応プレート20内で生じる反応を光学的に測定する測定機構10と、測定機構10を含む自動分析装置1全体の制御を行うとともに測定機構10における測定結果の分析を行う制御機構30とを備える。自動分析装置1は、これらの二つの機構が連携することによって複数の検体の生化学的、免疫学的あるいは遺伝学的な分析を自動的に行う。
【0019】
測定機構10は、大別して回転体11、測光部12、試薬分注部13、14、検体移送部17、検体分注部18を備える。また、制御機構30は、制御部31、回転制御部32、分注制御部33、入力部34、分析部35、記憶部36および出力部37を備える。測定機構10および制御機構30が備えるこれらの各部は、制御部31に電気的に接続されている。
【0020】
回転体11は、図示しない駆動機構が駆動することによって、回転体11の中心を通る鉛直線を回転軸として回動自在である。回転体11の上方と下方には、図示しない開閉自在な蓋と温度調節機構とを設けるのが好ましい。
【0021】
測光部12は、所定の測光位置に搬送された反応プレート20内の試料を透過した光を受光して強度測定を行う。この測光部12による測定結果は、制御部31に出力され、分析部35において分析される。また、反応プレート20内の反応液が発光する微弱な光を測光する光電子増倍管を有してもよい。なお、反応液から発生する蛍光を測定する場合、測光部12は、励起光を照射するための光源を設ければよい。」

エ 「【0030】
つぎに、本実施の形態1にかかる反応プレート20について、図2を参照して詳細に説明する。図2は、反応プレート20を上方から見た模式図であり、分注セル21,22,24及び反応セル23,25が形成されている。また、このセル間は移送流路21a,22a,23a,24aで連結され、移送流路の径は、移送流路21a,22aに比して移送流路23a,24aの径は小さくなっている。そのため、移送流路21a,22aは、分注セル21,22に分注された試薬と検体とが回転体11の回転によってかかる遠心力で同時に反応セル23に移送され、移送流路23a,24aは、上述した回転速度では移送されず、回転速度を一段階上げた場合に試薬及び反応液が反応セル25送液されるように設定されている。なお、遠心力方向と異なる角度の移送流路を設けるため、当該移送流路にかかる力と角度とを考慮して径を設定する必要がある。
【0031】
また、移送流路21a,22a,23a,24aの断面積の各径は、ラプラス力によって移送流路の流通が停止され、遠心力の付加によって流路間を流通するよう設定される。」

オ 「【0034】
分析処理は、回転体11の径に対して長手方向が平行に配置される反応プレート20において、先ず分注セル21に第1試薬、分注セル22に検体、分注セル24に第2試薬が分注される(図2(a))。その後、回転制御部32が回転体11を回転させることによって生じた遠心力により第1試薬と検体が移送流路21a,22aを流通して反応セル23に流れ込む(図2(b))。なお、反応プレート20にかかる遠心力は、矢印Xで示す図2鉛直下方向である。
【0035】
つぎに、回転制御部32によって回転体11の回転速度が上げられ、第1試薬と検体とが反応した第1反応液は、反応セル23から移送流路23aを流通して反応セル25へ流れ込む。ここで、分注セル24に分注されている第2試薬も移送流路24aを流通して反応セル25に流れ込むために、第2試薬と反応液とが混合して反応する。この第2反応液は、反応セル25に収容され測光部12が光学的測定を行う(図2(c))。」

カ 「【0037】
ここで、試薬または検体を分注する分注孔221と、移送流路22aを流通し、反応セル23に流れ込んだ流体の吸引等を行なうことが可能な開放孔231とを有し、開放孔231を閉鎖して反応セル内部の圧力調整を行なうことも可能である。
【0038】
続いて、反応プレート20の各セルと各移送流路との形状について、図4,5を用いて説明する。図4は、図2のA-A線断面図を示し、図5は、図2のB-B線断面図を示している。
【0039】
図4において、図3でも示したように、分注セル22の分注孔221から分注される検体または試薬は、外的要因等で振動が起こった場合でも移送流路22aの径によってラプラス力が働き、反応セル23への流出が防止される。同様に、図5においても、分注セル24と反応セル25が移送流路24aによって連結され、流体が有するラプラス力によって移送流路24aへの流出が防止される。また、試薬または検体を分注する分注孔241と、移送流路24aを流通し、反応セル25に流れ込んだ流体の吸引等を行なうことが可能な開放孔251とを有する。ここで、移送流路22a,24aは、断面積(流路幅)が異なっており、流体が移送流路内を流通できる遠心力を異にすることで回転体11の回転速度によって送液を段階的に行うことを可能としている。」

キ 「【0047】
なお、実施の形態1にかかる反応プレートにおいて、送液を行う順序は、反応の順序通りに試薬が混合されるのであれば、第2、第3試薬を最初に所定の反応セルに流出させるようにしても良い。また、遠心力をかけて送液する場合に、液の飛散や外圧によるラプラス力の変化の可能性があれば分注孔および開放孔を蓋等で封鎖しても良い。さらに、分析の効率を向上させるために、回転体11上に複数枚の反応プレート20を設置して分析しても良い。」

2 先願明細書等に記載されている発明について
ア 上記1のキによれば、先願明細書に記載された自動分析装置に用いられる「反応プレート」は、図1の回転体11上に複数枚が設置されて分析に利用されるものである。

イ また、上記1のウ、エ及びオの記載から、先願明細書に記載された自動分析装置に用いられる「反応プレート」における分析処理は、先ずその「分注セル22」に検体、すなわちサンプルが、「分注セル21」に第1試薬が、「分注セル24」に第2試薬が分注されたのち、回転体11が図示されない駆動機構と回転制御部32により回転されて生じた遠心力により、第1試薬とサンプルが移送流路21a,22aを流通して反応セル23に流れ込み、そこで第1反応が行われ、その後、回転制御部32によって回転体11の回転速度が上げられ、第1試薬と検体とが反応した第1反応液が、反応セル23から移送流路23aを流通して反応セル25へ流れ込み、さらに分注セル24に分注されている第2試薬も移送流路24aを流通して反応セル25に流れ込み、その結果、第2試薬と、第1試薬と検体とが反応した第1反応液とが混合して反応し、このように反応した第2反応液が反応セル25に収容されたまま測光部12が光学的測定を行うのであるから、この「反応セル25」は測定が行われる測定セルといい得るものである(上記1のウ、エ、オ参照)。

ウ そして、上記1のアに「前記セルに収容された流体にかかる遠心力に応じて、該遠心力方向に対して垂直方向の前記移送流路の断面積を変化させて該断面積の大小に応じて増減するラプラス力を調整し、該調整された前記ラプラス力が、前記遠心力に比して大きい場合に前記流体を流動し、前記遠心力に比して小さい場合に前記流体の流動を停止することを特徴とする反応プレート。」と記載され、上記1のエに「また、このセル間は移送流路21a,22a,23a,24aで連結され、移送流路の径は、移送流路21a,22aに比して移送流路23a,24aの径は小さくなっている。そのため、移送流路21a,22aは、分注セル21,22に分注された試薬と検体とが回転体11の回転によってかかる遠心力で同時に反応セル23に移送され、移送流路23a,24aは、上述した回転速度では移送されず、回転速度を一段階上げた場合に試薬及び反応液が反応セル25送液されるように設定されている。」と記載されているように、移送流路22aの断面積が移送流路24aの断面積より大きいことが記載されている。

エ さらに、反応プレート20についての上記1のオに記載された図2(a)?2(c)とともに上記1のカに記載された図4、5から、反応セル23は、第1試薬が分注される分注セル21とサンプル(検体)が分注される分注セル22とにそれぞれ連絡する移送通路21a、22aとの接続口及び次の反応セル25に連絡する移送通路23aとの接続口並びにその上面に設けられた開放孔231を除いて周囲を囲まれた液体収容空間であること、また、次の段階の反応セル25は、反応セル23に連絡する移送通路23a及び第2試薬が分注される分注セル24に連絡する移送通路24aのそれぞれの接続口並びにその上面に設けられた開放孔251を除いて周囲を囲まれた液体収容空間であることが理解できる。
分注セル21,22に分注された第1試薬とサンプルとが回転体11の回転によって遠心力で同時に反応セル23に移送される際、移送流路23aには移送されてきた液が移送されず、移送流路23aは移送されてきた第1試薬とサンプルとにより液封されて、他に反応セル23に存在していた空気を抜くための構成はない以上、移送されてくる第1試薬とサンプルとをさらに受け入れるために反応セル23に存在していた空気は該開放孔231から排気されること、すなわち開放孔231が反応セル23の「排気口」として機能していると認められる。
反応セル25における開放孔251についても、一段階上げた回転速度により第2試薬及び第1反応液が反応セル25に送液される際に、反応セル25に存在していた空気を抜くための構成が他にない以上、開放孔251も同様に、反応セル25の「排気口」として機能していると認められる。

オ これらの点を勘案して、本願発明の記載ぶりに倣い、先願明細書等に記載された発明を記載すると、次のとおりである。

「複数の分析プレートを遠心装置の回転体上に配置し、前記回転体の回転により生じる遠心力を利用して分析プレート上のサンプルを移動させ、試薬と反応させた後に測定を行う測定システムに用いられる分析プレートであって、
前記分析プレートの表面に、
検体が分注される分注セル(22)、
該検体が分注される分注セル(22)に対して分析プレートが配置される回転体の外周部方向に設けられた第1の試薬と検体との反応が行われる第1反応セル(23)、
該第1反応セル(23)に対して分析プレートが配置される回転体の外周部方向に設けられた、第2試薬と、第1試薬と検体とが反応した第1反応液とが混合して反応するとともに測定がされる第2の反応セル兼測定セル(25)、
前記分注セル(22)と前記第1反応セルとを接続する第1の流路(22a)、
前記第1の反応セルと前記第2の反応セル兼測定セルとを接続する第2の流路(23a)、
前記第1の反応セルの上面に設けられた排気口として機能する開放孔(231)、
前記第2の反応セル兼測定セルの上面に設けられた排気口として機能する開放孔(251)を備え、
前記第1の流路の断面積が前記第2の流路の断面積よりも大きい、分析プレート。」(以下、「先願発明」という。)

3 本願発明と先願発明との対比
先願発明の「分析プレート」と本願発明の「円盤型分析チップ」は、遠心装置上に配置し、遠心装置の回転により生じる遠心力を利用してサンプルを移動させ、試薬と反応させた後に測定を行う測定装置に用いられる分析チップである点で共通し、先願発明の「検体が分注される分注セル(22)」、「第1の反応セル(23)」および「第2の反応セル兼測定セル(25)」は、それぞれ、本願発明の「サンプル槽」、「反応槽」および「測定槽」に相当する。
また、先願発明の「前記分注セル(22)と前記第1反応セルとを接続する第1の流路(22a)」、「前記第1の反応セルと前記第2の反応セル兼測定セルとを接続する第2の流路(23a)」は、それぞれ、本願発明の「前記サンプル槽と前記反応槽とを接続する第1の流路」、「前記反応槽と前記測定槽とを接続する第2の流路」に相当する。
そして、先願発明の「前記第1の反応セルの上面に設けられた排気口として機能する開放孔(231)」、「前記第2の反応セル兼測定セルの上面に設けられた排気口として機能する開放孔(251)」と本願発明の「前記反応槽よりも円盤型分析チップの中心側に設けられた反応槽排気口」、「前記測定槽よりも円盤型分析チップの中心側に設けられた測定槽排気口」とは、それぞれ、「反応槽排気口」、「測定槽排気口」である点で共通するものである。
さらに、先願発明と本願発明は共に、「前記第1の流路の断面積が前記第2の流路の断面積よりも大きい」ものである点で一致する。
してみると、本願発明と先願発明とは、次の点で一致し、次の点で一応相違する。

<一致点>
「分析チップを遠心装置上に配置し、前記遠心装置の回転により生じる遠心力を利用して分析チップ上のサンプルを移動させ、試薬と反応させた後に測定を行う測定システムに用いられる分析チップであって、
分析チップの表面に、
サンプル槽、
該サンプル槽に対して分析チップの遠心装置の外周部方向に設けられた反応槽、
該反応槽に対して分析チップの遠心装置の外周部方向に設けられた測定槽、
前記サンプル槽と前記反応槽とを接続する第1の流路、
前記反応槽と前記測定槽とを接続する第2の流路、
反応槽排気口、
測定槽排気口を備え、
前記第1の流路の断面積が前記第2の流路の断面積よりも大きい分析チップ。」

<相違点1>
「分析チップ」に関して、本願発明では「円盤型分析チップ」であるのに対して、先願発明は、「分析プレート」である点

<相違点2>
本願発明は、反応槽排気口が「前記反応槽よりも円盤型分析チップの中心側に設けられ」、「前記反応槽と前記反応槽排気口とを接続する第1の排気管」を備えるとともに、測定槽排気口が、「前記測定槽よりも円盤型分析チップの中心側に設けられ」、「前記測定槽と前記測定槽排気口とを接続する第2の排気管」を備えているものであるのに対して、先願発明は「第1反応セルの上面に設けられた開放孔」と「第2反応セル兼測定セルの上面に設けられた開放孔」を備えるものである点

4 相違点についての検討
(1)相違点1について
上記1のキによれば、先願明細書に記載された自動分析装置に用いられる「反応プレート」は、図1の回転体11上に複数枚が設置されて分析に利用されるものである。
そして、上記先願明細書に引用されている特許文献1(後記第4において引用する刊行物1(特開2007-330857号公報)に「【0017】・・・回転基体12は円板状の回転基体本体16とこの回転基体本体16に設けられた収容孔16aに取り外し可能に収容されている複数のチャンバチップ17とにより構成されている。」及び「【0043】図11は回転基体12の構造に関する代案を示す。この代案では、回転基体本体16を例えば図3で示すような3層構造とし、回転基体本体16自体に注入チャンバ21、分岐チャンバ22、分岐後チャンバ23A,23B、誘導流路24、及び分岐後流路25A,25Bを設けている。」と記載されているように、遠心装置の回転体に分析プレートを複数配置するにあたって、回転基体本体に配置する構成と回転体に複数の分析プレートを一体に配置するようにすることは、ともに従来周知の形態であるといえるから、上記相違点1は、複数の分析プレートを遠心分離器の回転体に配置する際に当業者が適宜選択し得る程度の周知技術の転換であるといえ、その転換により新たな効果を奏するものでもない。
してみると、上記相違点1は、先願発明の分析プレートを複数回転体に配置する際の具体化手段における微差であるといえる。

(2)相違点2について
ア 複数の液体収容槽(チャンバー)がそれらを連結する複数の通路を備えて回転体に配置されている液体移送処理構造体であって、回転体の回転により生じる遠心力を利用してサンプル等の液体を移動させ試薬と反応させるものにおいて、液体収容槽に該槽よりも液体移送処理構造体が配置される回転体の回転中心側に設けられた該槽の排気口を、該槽と前記槽排気口とを接続する排気管を介在させて設けることは、原査定の理由においても例示したつぎの周知例1及び2に記載されているように、従来周知の技術である。

周知例1:特開2008-61649号公報(特に、請求項1,段落【0028】?【0031】、図1及び図13等参照。周知例1には、廃棄チャンバー15及び17には、それぞれ、流体の流入時に排気できる排気口29が備えられ、かかる排気口29は、回転体100の中心側に配置されているものが記載されている。なお、周知例1において、図1の「排気口29」と廃棄チャンバー15、17との間に排気管を介在させることについての明記はないが、排気口29は、廃棄チャンバー内の排気を行うものである以上、「排気口29」と廃棄チャンバー15、17との間には「排気管」が存在するものと理解できる。)
周知例2:特開2009-136220号公報(特に、段落【0027】、【0035】?【0040】、図1,4等参照。周知例2には、廃液収容部112と廃液収容部よりも回転テーブル21の中心側に排気口113が配置されており、排気口113と廃液収容部112とが流路で連結されているものが記載されている。)。

イ そうすると、液体の移送や収容に伴って周囲を囲まれた液体収容空間である反応槽および測定槽から内部に存在する空気を排気するための手段として、先願発明のように、「第1反応セルの上面に設けられた開放孔」と「第2反応セル兼測定セルの上面に設けられた開放孔」に代えて、反応槽および測定槽に該槽よりも分析チップの配置される回転体の中心側に設けられた反応槽排気口および測定槽排気口を、反応槽と前記反応槽排気口および測定槽と前記測定槽排気口とを、それぞれ、接続する第1の排気管および第2の排気管を介在させて設けるようにすることは、周知技術の付加であって、新たな効果を奏するものではない。
してみると、上記相違点2は、液体の移送や収容に伴って周囲を囲まれた液体収容空間であるセルから内部に存在する空気を排気するための具体化手段における微差である。

(3)上記(1)及び(2)で検討したとおり、本願発明と先願発明との相違点1及び2は、いずれも周知手段の転換または付加であって、新たな効果を奏するものではなく、具体化手段における微差に相当するから、本願発明と先願発明とは、実質的に同一の発明である。

5 小括
以上検討したとおり、本願発明と先願発明とは、実質的に同一の発明であるところ、本願発明の発明者と先願発明の発明者とが同一であるとは認められず、また、本願出願時において、本願出願人と上記先願の出願人とは同一でもないから、本願発明は特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。

第4 理由2(特許法第29条第2項違反について)
1 引用刊行物の記載事項
(1)刊行物1(特開2007-330857号公報)
原査定の拒絶の理由において引用され、本願の出願前に頒布された刊行物である刊行物1には、次の事項が図面と共に記載されている。(下線は、当審により付加した。)
ア 「【0002】
近年、診療所や家庭でのPOCT(Point of care test:その場診断)用途の健康診断チップとして使用される種々のバイオセンサが開発されている。これらのバイオセンサの多くは、マイクロタス(μ-TAS:Micro Total Analysis System)と呼ばれる微小流路構造を持つカード型のデバイスである。特許文献1にはこの種のバイオセンサ等において微小流体を定量的に送液する技術として、向心力ないしは遠心力を利用した送液装置が開示されている。以下、図15を参照して特許文献1の送液装置を説明する。
【0003】
図15の送液装置は回転可能な基板1を備え、この基板1には注入口2、チャンバ3A,3B,3C、注入口2とチャンバ3Aを接続する複数の計量キャピラリ4、注入口2とオーバーフローチャンバ5を接続するオーバーフローキャピラリ6、及び注入口2とチャンバ3A?3Bからの空気抜き用のチャンネル7が設けられている。注入口2から注入された液体試料等の液体は、毛細管現象により計量キャピラリ4とオーバーフローキャピラリ6に流入し、計量キャピラリ4と1段目のチャンバ3Aの接合部、及びオーバーフローキャピラリ6とオーバーフローチャンバ5の接合部に達する。基板1を第1の回転速度で回転させると、余剰の液体がオーバーフローチャンバ5へ導入され、計量キャピラリ4の液体量が定量される。次に、第1の回転速度よりも大きい第2の回転速度で基板1を回転させると、計量キャピラリ4中の液体がチャンバ3Aへ流入し、さらにチャンバ3B,3Cへ流入する。
【0004】
この特許文献1に開示された構成では、基板2が回転しない状態での毛細管現象を利用して計量キャピラリ4へ液体を誘導しているので、注入口2への液体の導入と共に浸透誘導が起こる。そのため、液体を定量するにはオーバーフローキャピラリ6とオーバーフローチャンバ5が必要で構造が複雑化し、チャンバ等の配置面積も大きくなる。また、特許文献1に開示された構成では、例えば定量、分岐、及び送液順序の制御の組み合わせのような複雑な送液制御を実現することが困難である。」

イ 「【0006】
前記従来の問題に鑑み、構造が簡易で流路やチャンバ等の配置面積が小さく、かつ複雑な送液制御を実現可能な送液装置及び送液方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、回転中心を有する回転可能な回転基体と、前記回転基体に設けられ、注入口を除いて空間的に閉じられた注入チャンバと、前記回転基体の前記注入チャンバよりも前記回転中心から離れた位置に設けられ、空気口を除いて空間的に閉じられ、向心方向の第1の壁面と、この第1の壁面と対向する遠心方向の第2の壁面と、この第2の壁面から前記第1の壁面へ向けて延びる少なくとも1つの障壁とを備え、前記障壁は容積が規定された初期分岐室を含む複数の分岐室を画定し、隣接する前記分岐室は前記障壁の先端と前記第1の壁面との間の隙間を介して互いに連通している分岐チャンバと、前記回転基体の前記分岐チャンバよりも前記回転中心から離れた位置に設けられ、空気口を除いて空間的に閉じられた分岐後チャンバと、前記回転基体に形成され、前記注入チャンバと前記分岐チャンバとを接続し、前記注入チャンバと接続する第1の端部は毛細管力により前記注入チャンバ内の液体を保持し、かつ前記第1の壁面で前記分岐チャンバに開口する第2の端部は前記初期分岐室と対向する誘導流路と、前記回転基体に形成され、前記分岐チャンバと前記分岐後チャンバとを接続し、前記分岐チャンバと接続する端部は毛細管力により前記分岐チャンバ内の液体を保持する分岐後流路と、前記回転中心まわりに前記回転基体を回転させる回転駆動部とを備える、送液装置を提供する。前記初期分岐室の容積は前記注入チャンバの容積よりも小さいことが好ましい。」

ウ 「【0016】
(第1実施形態)
図1から図3は、本発明の第1実施形態に係る送液装置11を示す。
【0017】
この送液装置11は、回転基体12、この回転基体12が固定された回転軸13、及び回転軸13を回転駆動するモータ14、及びモータ14の駆動回路15を備える。回転軸13はその軸線である回転中心Cが鉛直方向に延びる姿勢で配置されている。回転基体12はモータ14によって回転駆動されて平面視で時計方向R1及び反時計方向R2に回転可能である。本実施形態では、回転基体12は円板状の回転基体本体16と、この回転基体本体16に設けられた収容孔16aに取り外し可能に収容されている複数のチャンバチップ17とにより構成されている。
【0018】
図2及び図3を参照してチャンバチップ17について説明する。以下の説明において、回転中心Cに対する位置や向きは、チャンバチップ17を回転基体本体16に取り付けた状態を基準とする。チャンバチップ17には、注入チャンバ21、分岐チャンバ22、及び一対の分岐後チャンバ23A,23Bが設けられている。これらのチャンバ21,22,23A,23Bのうち、注入チャンバ21が平面視で最も回転中心C側に配置されている。分岐チャンバ22は、平面視で注入チャンバ21よりも回転中心Cから離れた位置に設けられている。換言すれば、分岐チャンバ22は注入チャンバ21よりも回転軸13の径方向r(図1参照)の外側に位置している。また、分岐後チャンバ23A,23Bは、平面視で分岐チャンバ22よりも回転中心Cから離れた位置に設けられている。換言すれば、分岐後チャンバ23A,23Bは分岐チャンバ22よりも回転軸13の径方向rの外側に位置している。注入チャンバ21と分岐チャンバ22は、回転軸13の径方向rに延びる誘導流路24によって接続されている。また、分岐チャンバ22と分岐後チャンバ23A,23Bはそれぞれ回転軸13の半径方向rに延びる別個の分岐後流路25A,25Bによって互いに接続されている。後に詳述するように、注入チャンバ21に注入された液体は、分岐チャンバ22内で分岐し、分岐した液体はそれぞれチャンバ23A,23Bに流入する。液体は回転基体12の回転によって生じる遠心力により流路及びチャンバを移動する。
【0019】
注入チャンバ21はチャンバチップ17の内部に形成され、空間的に閉じられている。本実施形態では、注入チャンバ21は略直方体状の空間であり、平面視では矩形状である。チャンバチップ17には、注入チャンバ21の頂壁からチャンバチップ17の上面に貫通し、注入チャンバ21の内部をチャンバチップ17の外部と連通させる注入口26が形成されている。注入チャンバ21の遠心方向の壁面、すなわち径方向rの外側に位置する壁面21aには誘導流路24の入口端部24aが開口している。注入口26は誘導流路24の入口端部24aよりも回転中心Cに近い位置に形成されている。
【0020】
分岐チャンバ22はチャンバチップ17の内部に形成され、空間的に閉じられている。本実施形態では、分岐チャンバ22は全体として略直方体状の空間であり、平面視では回転軸13の径方向rと直交する方向に細長い矩形状である。チャンバチップ17には、分岐チャンバ22の頂壁からチャンバチップ17の上面に貫通し、分岐チャンバ22の内部をチャンバチップ17の外部と連通させる空気口27が形成されている。空気口27は分岐チャンバ22内に液体が流入する際に、分岐チャンバ22内の空気をチャンバチップ17の外部に排出する機能を有する。分岐チャンバ22の向心方向の壁面、すなわち径方向rの内側に位置する壁面(第1の壁面)22aには、誘導流路24の出口端部24bが開口している。」

エ 「【0024】
分岐後チャンバ23A,23Bはチャンバチップ17の内部に形成され、空間的に閉じられている。本実施では全体としては扁平な円柱状の空間であり、平面視では概ね円形である。チャンバチップ17には、分岐後チャンバ23A,23Bの頂壁からチャンバチップ17の上面に貫通し、分岐後チャンバ23A,23Bの内部をチャンバチップ17の外部と連通させる空気口31A,31Bが形成されている。空気口31A,31Bは分岐後チャンバ23A,23Bに液体が流入する際に、分岐後チャンバ23A,23B内の空気をチャンバチップ17の外部に排出する機能を有する。分岐後チャンバ23A,23Bの向心方向の壁面には、分岐後流路25A,25Bの出口端部25bが開口している。
【0025】
誘導流路24を通って注入チャンバ21から分岐チャンバ22に液体が確実に送液されるためには、誘導流路24は微細な流路である必要がある。同様に、分岐後流路25A,25Bを通って分岐チャンバ22から分岐後チャンバ23A,23Bへ液体が確実に送液されるためには、分岐後流路25A,25Bは微細な流路である必要がある。具体的には、誘導流路24及び分岐後流路25A,25Bの体積は、注入チャンバ21、分岐チャンバ22、及び分岐後チャンバ23A,23Bの容積と同等又はそれよりも小さいことが好ましい。また、誘導流路24及び分岐後流路25A,25Bの幅と深さは、注入チャンバ21、分岐チャンバ22、及び分岐後チャンバ23A,23Bの幅と深さよりも小さいことが好ましい。好ましくは、誘導流路24及び分岐後流路25A,25Bの断面積は1μm^(2)以上4mm^(2)以下であり、好適には25μm^(2)以上100000μm^(2)以下であり、より好適には10000μm^(2)である。誘導流路24の断面積が分岐後流路25A,25Bの断面積より大きい方が分岐時に分岐チャンバに溶液を留める効果が大きい。」

オ 「【0037】
図6から図10はチャンバチップ17の代案を示す。これらの流体チップ17は、空気口31を除いて閉じた空間である単一の分岐後チャンバ23を備えている。分岐チャンバ22の各分岐室29A,29Bは、分岐後流路25A,25Bによりこの共通の分岐後チャンバ23に接続されている。また、これらの流体チップ17には平面視で分岐後チャンバ23よりも回転軸13の径方向rの外側に後段チャンバ(追加のチャンバ)41を備えている。後段チャンバ41は流体チップ17の外部と連通する空気口42を除いて空間的に閉じられている。また、後段チャンバ41は平面視では回転軸13の径方向rと直交する方向に細長い矩形状である。さらに、これらの流体チャンバ17には回転軸13の径方向rに延びる後段側流路43が形成されており、この後段側流路43によって分岐後チャンバ23と後段チャンバ41が互いに接続されている。分岐後チャンバ23に接続した後段側流路43の一方の端部は疎水性を有しており毛細管力により分岐後チャンバ23内の液体を保持できるようになっている。また、これらのチャンバチップ17では所望の送液順序を実現するために、誘導流路24、分岐後流路25A,25Bの入口端部24a,25bの回転軸13からの距離や分岐室29A,29Bの幅もしくは深さの設定により、誘導流路24、分岐後流路25A,25Bの入口端部24a,25bにおいて液体32に作用する遠心力やこれらの入口端部24a,25bに液体32を保持する毛細管力を調整している。
【0038】
図6に示すチャンバチップ17では、注入チャンバ21と分岐室29A,29Bの容量をそれぞれ15μL、10μL、及び5μLに設定している。また、図6のチャンバチップ17では、2つの分岐後流路25A,25Bの入口端部25aの回転軸からの距離を等しく設定している。第1の回転速度(例えば813rpm)で注入チャンバ21から分岐チャンバ22の分岐室29Aへ液体32が流入し、さらに分岐室29Aから分岐室29Bへの液体32のオーバーフローが起こる。オーバーフロー完了時には、分岐室29A,29Bにそれぞれ10μLと5μLの液体32が収容される。第2の回転速度(例えば979rpm)まで回転速度が上昇すると、分岐室29A内の10μLの液体32が分岐後流路25Aを通って分岐後チャンバ23に流入する。さらに、第3の回転速度(例えば1068rpm)まで回転速度が上昇すると、分岐後チャンバ23内の10μLの液体32が後段側流路43を通って後段チャンバ41に流入する。第4の回転速度(例えば1312rpm)まで回転速度が上昇すると、分岐室29B内の5μLの液体32が分岐後流路25Bを通って分岐後チャンバ23に流入する。さらに、第5の回転速度(例えば1502rpm)まで回転速度が上昇すると、分岐後チャンバ23内の5μLの液体32が後段側流路43を通って後段チャンバ41に流入する。この送液動作により、10μLの溶液と5μLの溶液を、この順番で分岐後チャンバ23に対して注入し排出できる。これらの送液動作には、チャンバの定量送液のみならず、逐次反応の作用を持たせることができる。つまり、分岐後チャンバ23に反応溶液を送り込み、反応後に廃液し、その後に別の反応溶液を分岐後チャンバ23に送り込むことができる。このような送液動作は複数の化学反応をチップ上で実行する際に特に重要である。また、分岐後チャンバ23に反応溶液を送り込み、浄用の溶液を分岐後チャンバ23に送り込むことができる。これらの操作は反応後に廃液し、その後に洗、抗原-抗体反応等の免疫反応をチップ上で行う際には特に重要である。」

カ 「【0043】
図11は回転基体12の構造に関する代案を示す。この代案では、回転基体本体16を例えば図3で示すような3層構造とし、回転基体本体16自体に注入チャンバ21、分岐チャンバ22、分岐後チャンバ23A,23B、誘導流路24、及び分岐後流路25A,25Bを設けている。」


キ 「【0044】
(第2実施形態)
図12に示す本発明の第2実施形態は、チャンバチップ17を血清中に含まれる抗原の一種であるCRP(C-reactive protein)の濃度を電気化学的に測定するバイオセンサとして構成した例である。」

ク 図6


ケ 図11


コ 図15



コ 刊行物1に記載された発明
(ア)上記カの記載と図11を合わせ見れば、図11には、円盤状の回転基体本体16自体に注入チャンバ21、分岐チャンバ22、分岐後チャンバ23A,23B、誘導流路24、及び分岐後流路25A,25Bが、複数設けられていることが見て取れる。
(イ)また、上記アにおいて、従来から、マイクロタスと呼ばれるカード型のデバイスで微小流路構造を有し遠心力を利用して複数のチャンバに送液をおこなう送液装置がバイオセンサとして利用されるものであることが示唆されており、また、上記キにおいて、そのようなカード型デバイスであるチャンバチップ17をバイオセンサとして構成した例も教示されていることからすれば、刊行物1に記載の「チャンバチップ」は、分析チップと言い得るものである。
また、「チャンバチップ」の「注入チャンバ」に注入され、後続の「各チャンバ」へ送液される液体はサンプルであることは当然の事項であるから、「注入チャンバ」は「サンプルチャンバ」といえる。
(ウ)そして、上記オにおいて「分岐後チャンバ23に反応溶液を送り込み、反応後に廃液し、その後に別の反応溶液を分岐後チャンバに送り込むことができる。」などと記載されていることから、「分岐後チャンバ」は、分析に利用可能な反応を行うことのできるチャンバであるから、「反応チャンバ」といえる。
(エ)そして、上記ウ、オには、チャンバチップが多段階の回転速度によって、複数段階の送液を行うものであることが記載されていることから、チャンバチップが収容されている回転基体を回転駆動するモータ、該モータの駆動回路を必要とするものであることは明らかであるし、そのような測定システムの構成図が図1や図11に記載されているから、刊行物1の「チャンバチップ」は、回転基体本体の回転により生じる遠心力を利用してチャンバチップ上の液体を移動させて反応させた後に測定を行う測定システムに用いられるチャンバチップであるといえる。
そこで、これらの記載及び図6を参照して、本願発明の記載に倣い整理すると、上記刊行物1には、次の発明が記載されているものと認められる。

「回転基体本体上に複数個収容されるチャンバチップであり、前記回転基体本体の回転により生じる遠心力を利用してチャンバチップ上の液体を移動させて反応させた後に測定を行う測定システムに用いられるチャンバチップであって、
前記チャンバチップに、
注入口を除いて空間的に閉じられた注入チャンバ、
該注入チャンバに対してチャンバチップが収容される回転基体本体の回転中心より外周側に設けられ、空気口を除いて空間的に閉じられた、複数の分岐室を有する分岐チャンバ、
該分岐チャンバに対してチャンバチップが収容される回転基体本体の回転中心より外周側に設けられ、空気口を除いて空間的に閉じられた分岐後チャンバ、
該分岐後チャンバに対してチャンバチップが収容される回転基体本体の回転中心より外周側に設けられ、空気口を除いて空間的に閉じられた後段チャンバ、
前記注入チャンバと前記分岐チャンバとを接続する誘導流路、
前記分岐チャンバと前記分岐後チャンバとを接続する分岐後流路、
前記分岐後チャンバと前記後段チャンバとを接続する後段側流路、
前記分岐チャンバに設けられた空気口、
前記分岐後チャンバに設けられた空気口、および
前記後段チャンバに設けられた空気口を備え、
前記分岐後流路と前記後段側流路が、前記分岐後チャンバに前記分岐チャンバの分岐室の一つから分岐後流路を通って液体が流入する際の回転速度よりも、前記後段チャンバに前記分岐後チャンバから前記後段側流路を通って液体が流入する際の回転速度が大きくなるように調整されているチャンバチップ。」(以下、この発明を「刊行物1発明」という。)

(2)刊行物2(特開2004-239904号公報)
同じく原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に頒布された刊行物2には、次の事項が図面と共に記載されている。
ア 「【0001】
本発明は、好ましくは血液サンプルをその適用部位から少なくとも1つの分析部位へフロー輸送するためのミクロ流体用経路構造を有する基体を含む、特に単回用簡易検査による血液分析のための分析用検査要素に関する。また本発明は、血液サンプルが、該分析用検査要素中の経路構造を介してその適用部位から少なくとも1つの分析部位へと運搬される、血液分析を実施するための対応する方法に関する。」

イ 「【0018】
自動フロー輸送は、全体的または部分的に毛管形態を有する前記経路構造によって達成される。該経路構造が表面加工、例えばプラズマ処理や被膜によって改変された障壁部分を有していると、フロー輸送を制御する際に都合が良い。別の好都合な実施形態では、該経路構造は該フロー輸送を制御するためのバルブ要素を、特に親水性または疎水性の経路部分の形で有する。しかし基本的には、該経路構造内のフロー輸送を、前記基体に作用する外部制御手段によって、特に圧力または遠心力を局所的に加えることによって外部から制御することも可能である。」

ウ 「【0020】
図中に概略を示した適用例に基づいて、本発明を以下により詳しく説明する。図1は簡易検査において血液サンプル中のHb値およびHbA1c値を測定するための分析検査要素を表す。
【0021】
図中の検査要素10は、分析しようとするごく微量の(μL)血液サンプル16を、適用領域18からHbおよびHbA1cのための測定もしくは分析部位20,22へフロー輸送する目的で作成された経路構造14を含有する、細長い支持体または基体12を含む。
【0022】
前記基体12は、プラスチックから射出成形部位として、または何層かのアルミ箔から作成される複合部位として成形することができる。該基体12は単回用検査用の消耗品またはいわゆる使い捨て用品として設計される。
【0023】
前記経路構造14は、前記基体内にて直接成形するか、またはエンボス加工やスタンピングなどの特殊な加工方法によって成形することができる。また少なくともその一部分は、血液の毛管作用性自動フロー輸送に適した毛管形態を有する。
【0024】
前記適用領域18を開始点とする前記経路構造14は、希釈経路24、アリコートまたはサンプル経路26およびそれぞれ分析部位20,22へと通じる2つの分析経路28,30を有する。
【0025】
前記血液サンプル16を、接合部32を介して前記希釈経路24と前記サンプル経路26に供給することにより、該血液サンプルを2つの並行する流れに分けることができる。これらの経路の断面積が適切に設計されているため、該希釈経路24における流速は該サンプル経路26における流速よりも何倍も速い。
【0026】
前記希釈経路24は、分離チャンバー34内に、これを通過する一部の血液サンプル16の細胞成分を保持するための分離手段36を収容している。かかる分離手段36は、例えば該分離チャンバー34内に配置されたグラスファイバーフリースであってもよい。
【0027】
前記希釈経路24および前記サンプル経路26は、溶解剤38を含有する混合または溶解チャンバー40内にその内容物を排出する。その出口側はフロー分割器として機能する分岐点41を介して分析経路28,30へと通じている。
【0028】
放出されたヘモグロビンを酸化するため、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウムなどの酸化剤42を含有する酸化チャンバー44が前記第1分析経路28中に配置されている。その下流に配置された前記分析部位20は、Hbの光度測定用キュベットとして設計されている。
【0029】
前記第2分析経路30は、グリコヘモグロビンの免疫濁度測定に使用される。このため、該経路はHbA1c抗体48が供給されている第1反応チャンバー46と、それに続いて、過剰なHbA1c抗体に対する凝集剤52を含有する第2反応チャンバー50とを有する。前記第2分析部位22はこれらの反応チャンバーの下流に配置されており、これもやはり濁度の光度測定用キュベットとして設計されている。」

2 本願発明と刊行物1発明との対比
(1)刊行物1発明の「チャンバ」は「液体の収容空間」であって、本願発明の「槽」に相当するものといえることは技術常識から明らかである。
また、刊行物1発明の「分岐チャンバに設けられた空気口」、「分岐後チャンバに設けられた空気口」、「後段チャンバに設けられた空気口」は、回転基体の回転による遠心力により上流側のチャンバから移送されてくる液体を各チャンバに収容するために、チャンバ内に存在していた空気を追い出すための排気口としてそれぞれ機能するものであることも明らかといえる。
以上を前提として、本願発明と刊行物1発明を対比するに、
(ア)刊行物1発明の「回転基体本体上に複数個収容されるチャンバチップであり、前記回転基体本体の回転により生じる遠心力を利用してチャンバチップ上の液体を移動させて反応させた後に測定を行う測定システムに用いられるチャンバチップ」と本願発明の「円盤型分析チップを遠心装置上に配置し、前記遠心装置の回転により生じる遠心力を利用して円盤型分析チップ上のサンプルを移動させ、試薬と反応させた後に測定を行う測定システムに用いられる円盤型分析チップ」とは、共に「遠心装置上に配置し、前記遠心装置の回転により生じる遠心力を利用して分析チップ上の液体を移動させて反応させた後に測定を行う測定システムに用いられる分析チップ」である点で共通する。
(イ)刊行物1発明の「注入口を除いて空間的に閉じられた注入チャンバ」と本願発明の「サンプル槽」とは、「液体が注入される槽」である点で共通し、刊行物1発明の「該注入チャンバに対してチャンバチップが収容される回転基体本体の回転中心より外周側に設けられ、空気口を除いて空間的に閉じられた、複数の分岐室を有する分岐チャンバ」と本願発明の「サンプル槽」とは、「反応が行われる槽の前段の槽」である点で共通するものといえる。
そして、刊行物1発明の「該分岐チャンバに対してチャンバチップが収容される回転基体本体の回転中心より外周側に設けられ、空気口を除いて空間的に閉じられた分岐後チャンバ」は、分岐チャンバを介して注入チャンバと連通するものであるが、注入チャンバよりも回転基体本体の回転中心より外周側に設けられているものであり、そこで反応が行われるものであることから、本願発明の「該サンプル槽に対して円盤型分析チップの外周部方向に設けられた反応槽」と、「液体が注入される槽に対して遠心装置の回転中心より外周側に設けられた反応槽」である点で共通するものといえる。
また、刊行物1発明の「該分岐後チャンバに対してチャンバチップが収容される回転基体本体の回転中心より外周側に設けられ、空気口を除いて空間的に閉じられた後段チャンバ」と本願発明の「該反応槽に対して円盤型チップの外周部方向に設けられた測定槽」とは、それぞれ、「反応槽に対して遠心装置の回転中心より外周側に設けられた後段槽」である点で共通するものといえる。
(ウ)刊行物1発明の「前記分岐チャンバと前記分岐後チャンバとを接続する分岐後流路」と本願発明の「前記サンプル槽と前記反応槽とを接続する第1の流路」とは、「反応槽の前段槽と反応槽とを接続する第1の流路」である点で共通し、刊行物1発明の「前記分岐後チャンバと前記後段チャンバとを接続する後段側流路」と本願発明の「前記反応槽と前記測定槽とを接続する第2の流路」は、「反応槽と後段槽とを接続する第2の流路」である点で共通するものといえる。
(エ)刊行物1発明の「前記分岐後チャンバに設けられた空気口」と本願発明の「前記反応槽よりも円盤型分析チップの中心側に設けられた反応槽排気口」及び「前記反応槽と前記反応槽排気口とを接続する第1の排気管」とは、「反応槽の排気を行う手段」である点で、また、刊行物1発明の「前記後段チャンバに設けられた空気口」と本願発明の「前記測定槽よりも円盤型分析チップの中心側に設けられた測定槽排気口」及び「前記測定槽と前記測定槽排気口とを接続する第2の排気管」とは、「反応槽の後段槽の排気を行う手段」である点で共通する。
(オ)刊行物1発明の「前記分岐後流路と前記後段側流路が、前記分岐後チャンバに前記分岐チャンバの分岐室の一つから分岐後流路を通って液体が流入する際の回転速度よりも、前記後段チャンバに前記分岐後チャンバから前記後段側流路を通って液体が流入する際の回転速度が大きくなるように調整されている」ことと本願発明の「前記第1の流路の断面積が前記第2の流路の断面積よりも大きいこと」とは、共に、「第1の流路と第2の流路」が、「反応槽に反応槽の前段槽から第1の流路を通って液体が流入する際の回転速度よりも、前記後段槽に反応槽から第2の流路を通って液体が流入する際の回転速度が大きくなるように調整されている」点で共通するものである。

(2)してみると、本願発明と刊行物1発明は、つぎの一致点において一致し、次の相違点において相違する。

<一致点>
「遠心装置上に配置し、前記遠心装置の回転により生じる遠心力を利用して分析チップ上の液体を移動させて反応させた後に測定を行う測定システムに用いられる分析チップであって、
前記分析チップに、
液体が注入される反応槽の前段槽、
該前段槽に対して遠心装置の回転中心の外周側に設けられた反応槽、
該反応槽に対して遠心装置の回転中心の外注側に設けられた後段槽、
前記反応槽の前段槽と前記反応槽とを接続する第1の流路、
前記反応槽と前記後段槽とを接続する第2の流路、
前記反応槽の排気を行う手段、および
前記後段槽の排気を行う手段とを備え
反応槽に反応槽の前段槽から第1の流路を通って液体が流入する際の回転速度よりも、前記後段槽に反応槽から第2の流路を通って液体が流入する回転速度が大きくなるように調整されている遠心装置上に配置される分析チップ」である点。

<相違点1>
本願発明が「円盤型分析チップを遠心装置上に配置し、前記遠心装置の回転により生じる遠心力を利用して円盤型分析チップ上のサンプルを移動させ、試薬と反応させた後に測定を行う測定システムに用いられる円盤型分析チップ」であるのに対して、刊行物1発明は「回転基体本体上に複数個収容されるチャンバチップであり、前記回転基体本体の回転により生じる遠心力を利用してチャンバチップ上の液体を移動させて反応させた後に測定を行う測定システムに用いられるチャンバチップ」である点

<相違点2>
本願発明は、「サンプル槽」と「反応槽」とが直接「第1の流路」で接続されているのに対し、刊行物1発明は「注入チャンバ」と「分岐後チャンバ」の間に「誘導流路」と「複数の分岐室を有する分岐チャンバ」が介在し、「前記分岐チャンバ」と「分岐後チャンバ」とが「分岐後流路」により接続されている点

<相違点3>
「液体が注入される反応槽の前段槽」及び「該反応槽に対して遠心装置の回転中心の外周側に設けられた後段槽」が、それぞれ、本願発明では、「サンプル槽」及び「測定槽」であるのに対して、刊行物1発明では「注入チャンバ」及び「後段チャンバ」であるものの、「注入チャンバ」が「サンプル槽」であるとは特定されておらず、また、「後段チャンバ」が「測定槽」であるとは特定されていない点

<相違点4>
「反応槽の排気を行う手段」及び「後段槽の排気を行う手段」に関して、本願発明では、「前記反応槽よりも円盤型分析チップの中心側に設けられた反応槽排気口、前記測定槽よりも円盤型分析チップの中心側に設けられた測定槽排気口、前記反応槽と前記反応槽排気口とを接続する第1の排気管、および、前記測定槽と前記測定槽排気口とを接続する第2の排気管を備え」ているのに対し、刊行物1発明では、「分岐後チャンバに設けられた空気口」及び「後段チャンバに設けられた空気口」を備えるものではあるものの、それらの排気口はそれらのチャンバよりチャンバチップが収容される回転基体本体の回転中心側に設けられ、それぞれのチャンバと排気口を連通する排気管を備えるものではない点

<相違点5>
第1の流路及び第2の流路に関して、本願発明が「第1の流路」の「断面積」が「第2の流路」の「断面積よりも大きい」ことが特定されているのに対し、刊行物1発明では、本願発明の「第1の流路」に対応する「分岐後流路」と本願発明の「第2の流路」に対応する「後段側流路」が、それぞれ、前記分岐後チャンバに前記分岐チャンバの分岐室の一つから分岐後流路を通って液体が流入する際の回転速度よりも、前記後段チャンバに前記分岐後チャンバから前記後段側流路を通って液体が流入する際の回転速度が大きくなるように調整されているものではあるものの、「分岐後流路」の断面積と「後段側流路」の断面積の関係が特定されていない点

3 相違点の検討
(1)相違点1について
刊行物1には、上記1(1)ウに「【0017】・・・回転基体12は円板状の回転基体本体16とこの回転基体本体16に設けられた収容孔16aに取り外し可能に収容されている複数のチャンバチップ17とにより構成されている。」と記載され、また、上記1(1)カに「【0043】図11は回転基体12の構造に関する代案を示す。この代案では、回転基体本体16を例えば図3で示すような3層構造とし、回転基体本体16自体に注入チャンバ21、分岐チャンバ22、分岐後チャンバ23A,23B、誘導流路24、及び分岐後流路25A,25Bを設けている。」と記載されているように、遠心装置の回転体に分析プレートを複数配置するにあたって、回転基体本体に配置する構成と回転体に複数の分析プレートを一体に配置する構成は、ともに従来周知の形態であるといえるから、上記相違点1は、複数の分析プレートを遠心分離器の回転体に配置する際に当業者が適宜選択し得る程度の周知技術の転換であるといえ、その転換により新たな効果を奏するものでもないことは、上記第3においても説示したとおりである。

(2)相違点2及び3について
刊行物1発明において「注入チャンバ」と「分岐後チャンバ」との間に「複数の分岐室を有する分岐チャンバ」を介在させる技術的意義は、上記1(1)のオに記載されているように、「注入チャンバに注入された液体を分岐後チャンバに流入させる際に、定量送液と逐次反応を実行することにある」のであるから、一般的な分析手法であるサンプルと試薬の一段階反応の分析を行うにあたっては、このような複数の分岐室を有し、サンプルを複数の分岐室に分割して収容し、後続の反応室へ異なるタイミングで移送できる分岐チャンバを注入チャンバと反応を行う分岐後チャンバとの間に介在させる必要がないことは、当業者にとって自明な技術事項であるといえる。
してみると、刊行物1発明において、「注入チャンバ」と「分岐後チャンバ」との間に介在させている「複数の分岐室を有する分岐チャンバ」を省略し、「注入チャンバ」と「分岐後チャンバ」とを「分岐後流路」で接続するようにすることは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の設計的事項である。
また、複数のチャンバとそれらを接続する経路(流路)構造を有する基体を含む分析用検査要素であって、サンプルを注入し、遠心力を加えて外部から該流路内の液体の移送を制御するものにおいて、サンプルと試薬を反応させる反応チャンバの下流に流路を介して測定槽として機能する液体収容空間である「測定用キュベット」を設置することは、刊行物2に記載されているように(上記1(2)のア?ウ参照)、分析チップの技術分野において本願出願前に公知の事項であるから、刊行物1発明において、反応槽へ送る液体を注入する前段槽である注入槽をサンプル槽として使用し、また、反応槽の下流に存在する後段チャンバを測定槽として使用することは、当業者が必要に応じて適宜なし得ることであるともいえる。
してみると、相違点2及び3は、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度のことである。

(3)相違点4について
上記1(1)コ(ア)においても説示したように、刊行物1の上記1(1)アの記載及び図15を合わせ見れば、図15において、「チャンバ3A?3Bからの空気抜き用のチャンネル7」が、前記チャンバ3A?3Cよりも回転可能な基板の中心側の方向へと延びるチャンネルとして図示されていることが理解できるように、刊行物1には、液体が遠心力により送液されてきても、槽からの排気を回転体の回転により生じる遠心力の向かう方向とは逆の該回転体の中心側へと延びる排気チャンネル(排気管路)を通して排気する、すなわち排気がなされる排気口が結果的に遠心力の向かう方向とは逆方向に該槽の液面から離れた場所に設けられるようにする点が記載されている。
そして、上記第3の4(2)で既に検討したように、複数の液体収容槽(チャンバー)がそれらを連結する複数の通路を備えて回転体に配置されている液体移送処理構造体であって、回転体の回転により生じる遠心力を利用してサンプル等の液体を移動させ試薬と反応させるものにおいて、液体収容槽に該槽よりも液体移送処理構造体が配置される回転体の回転中心側に設けられた該槽の排気口を、該槽と前記槽排気口とを接続する排気管を介在させて設けることは、上記周知例1及び2に記載されているように、本願出願前の周知技術であるといえる。
してみると、刊行物1発明における「分岐後チャンバ」及び「後段チャンバ」が備える「排気口」に代えて、刊行物1の上記記載や周知技術を採用して、相違点4に係る本願発明のように構成することは、当業者が必要に応じて適宜なし得る程度の設計的事項である。

(4)相違点5について
上記1(1)エには、「誘導流路24の断面積が分岐後流路25A,25Bの断面積より大きい方が分岐時に分岐チャンバに溶液を留める効果が大きい。」と記載されている。
当該記載は、刊行物1の図2に記載の分析チャンバに関する記載であって、刊行物1発明として認定している図6に記載の分析チャンバに関する記載ではないものの、当該記載に接した当業者であれば、刊行物1発明の「前記分岐後流路と前記後段側流路が、前記分岐後チャンバに前記分岐チャンバの分岐室の一つから分岐後流路を通って液体が流入する際の回転速度よりも、前記後段チャンバに前記分岐後チャンバから前記後段側流路を通って液体が流入する際の回転速度が大きくなるように調整」するためには、図2に記載の分析チャンバと同様に、「分岐後流路の断面積を後段側流路の断面積よりも大きく」すれば良いことは、当該記載から容易に理解できることであるから、上記相違点5は、当業者が容易に想到し得る程度のことである。

そして、本願発明の効果は、刊行物1及び2並びに周知技術から当業者が予測し得る程度のものであって格別のものとは認められない。

4 小括
以上のとおりであるから、本願発明は、本願出願前に頒布された上記刊行物1及び2に記載された発明並びに周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

第5 まとめ
本願発明は、上記第3において検討したとおり、特許法第29条の2の規定により、また、上記第4において検討したとおり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、その余の請求項に係る発明について論及するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-02-24 
結審通知日 2015-03-03 
審決日 2015-03-16 
出願番号 特願2009-230818(P2009-230818)
審決分類 P 1 8・ 161- Z (G01N)
P 1 8・ 121- Z (G01N)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 ▲高▼見 重雄  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 三崎 仁
渡戸 正義
発明の名称 円盤型分析チップおよびそれを用いた測定システム  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  

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