• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

この審決には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2013800116 審決 特許
無効2015800002 審決 特許
無効2014800196 審決 特許
無効2013800190 審決 特許
無効2013800206 審決 特許

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 特38条共同出願  A01K
管理番号 1300362
審判番号 無効2013-800117  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-07-03 
確定日 2015-05-07 
事件の表示 上記当事者間の特許第3957721号発明「魚類の養殖装置並びにその方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件の手続の経緯は以下のとおりである。

平成17年 4月20日 本件出願(特願2005-122335)
平成19年 5月18日 設定登録(特許第3957721号)
平成25年 7月 3日 本件無効審判請求(無効2013-800117)
8月21日 被請求人より審判事件答弁書
8月27日 補助参加申出書
9月27日(30日差し出し) 参加申請書・補正書
11月 7日 請求人より意見書
平成26年 1月 6日 参加許否の決定(参加の申請を許可する。)
1月28日 参加人より上申書
2月19日 請求人、被請求人に対して審尋
3月 4日 請求人より回答書
3月 6日(7日差し出し) 被請求人より回答書
4月 2日 参加人より証人尋問申立書・尋問事項書(証人:朝比奈・萩原・山本)
4月 9日 請求人より回答書
5月 1日(2日差し出し) 参加人より上申書
5月21日 併合審理通知書(無効2013-800116、無効2013-800117を併合)
5月30日 参加人より上申書
7月 3日 参加人より上申書、口頭審理陳述要領書
7月 9日 審理事項通知書
7月25日 請求人より口頭審理陳述要領書(無効2013-800116のものを使用。)
8月 1日 請求人より口頭審理陳述要領書(補充)
8月 2日 被請求人より口頭審理陳述要領書
8月 8日 証拠調べ、口頭審理
8月21日 参加人より上申書
8月28日 請求人より上申書
9月12日 請求人より上申書
9月12日 参加人より上申書
11月21日 無効2013-800116、無効2013-800117を分離


第2 当事者の主張
1.請求人の主張の概要
請求人は、特許第3957721号の請求項1?10に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、甲第1?6号証を提出して、次の無効理由を主張した。

[無効理由の概要]
無効理由(特許法第38条)
本件特許に係る各請求項に記載の発明(以下、本件特許発明という。)は、請求人を含む3名が共同して完成したものであるが、請求人は特許を受ける権利を譲渡していないにもかかわらず、請求人を除く2名によって出願され特許が付与されたものであるから、当該出願は特許法第38条に違反したものであって、その特許は同法第123条第1項2号に該当し、無効とすべきである。

[証拠方法]
甲第1号証:特許願(2005-122335)の写し
甲第2号証:登録原簿(特許第3584030)の写し
甲第3号証の1:特許第4142684号の特許時の書誌事項を示すIPDL検索の写し
甲第3号証の2:特許第4142684号の公開時の書誌事項を示すIPDL検索の写し
甲第4号証:証人呼出状及び尋問事項写し
甲第5号証:特定非営利活動法人鮪文化研究会の履歴事項全部証明書の写し
甲第6号証:特開2004-242620号公報(特願2003-38102号の公開公報)の写し

2.被請求人の主張の概要
これに対して、被請求人は、本件請求を棄却する、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、請求人の無効理由に対して以下のように反論した。

[無効理由に対する反論]
被請求人代表者を含む当時の出願人は、共同発明者が全員で特許出願をしなければならないということを知らず、発明者の欄に氏名を記載すればよいものと誤解していたに過ぎません。
従って、単なる誤解に基づく手続上のミスによるものですから、何卒ご容赦の上、無効の判断がなされないようお願い致します。(審判事件答弁書6(3)(4))

3.参加人の主張の概要
これに対して、参加人は、本件請求を棄却する、との審決を求め、丙第1?61号証を提出して、請求人の無効理由に対して以下のように反論した。

[無効理由に対する反論]
請求人は、発明者ではない。請求人は特許出願に際し、被請求人宛に権利放棄書を提出している。特許を受ける権利の譲渡・放棄について請求人は当初から黙示の承認をしていた。(第1回口頭審理及び証拠調べ調書)

[証拠方法]
丙第1号証:平成24年10月19日付 訴状の写し
丙第2号証:平成24年12月21日付 第1準備書面の写し
丙第3号証:平成25年2月7日付 第2準備書面の写し
丙第4号証:平成25年7月8日付 第3準備書面の写し
丙第5号証:平成25年2月20日付 証拠説明書の写し
丙第6号証:平成25年7月8日付 証拠説明書の写し
丙第7号証:平成19年6月25日付 特許権譲渡契約書の写し
丙第8号証:平成24年6月13日付 催告書の写し
丙第9号証:平成24年6月14日付 配達証明書の写し
丙第10号証:平成19年2月14日付 取締役会承認書の写し
丙第11号証:平成20年4月9日付 日経産業新聞の写し
丙第12号証:平成20年4月8日付 日本経済新聞の写し
丙第13号証:平成22年12月付 事業計画書の写し
丙第14号証:平成20年1月11日付 鑑定報告書の写し
丙第15号証:質問項目の写し
丙第16号証:平成25年1月29日付 報告書の写し
丙第17号証:平成19年2月19日付 読売新聞の写し
丙第18号証:平成24年11月26日付 答弁書の写し
丙第19号証:平成25年1月15日付 準備書面1の写し
丙第20号証:平成25年4月15日付 準備書面2の写し
丙第21号証:平成25年7月4日付 準備書面3の写し
丙第22号証:平成25年9月11日付 準備書面4の写し
丙第23号証:平成24年12月6日付 証拠説明書の写し
丙第24号証:平成25年4月18日付 証拠説明書2の写し
丙第25号証:平成25年5月29日付 証拠説明書3の写し
丙第26号証:平成25年9月11日付 証拠説明書4の写し
丙第27号証:平成19年2月14日付 第42回取締役会議議事録の写し
丙第28号証:平成19年6月8日付 第48回取締役会議議事録の写し
丙第29号証:平成24年11月8日付 現在事項全部証明書の写し
丙第30号証:平成17年?平成20年 給与所得の源泉徴収票(山本明人)の写し
丙第31号証:平成18年7月24日付 第23回取締役会議議事録の写し
丙第32号証:平成25年5月18日付 回答書の写し
丙第33号証:平成19年5月18日付 特許証の写し
丙第34号証:平成19年8月15日付 特許公報の写し
丙第35号証:平成16年8月6日付 特許第3584030号特許証の写し
丙第36号証:特許願(特願2002-266196)の写し
丙第37号証:WHA株式会社第8期決算書の写し
丙第38号証:平成25年7月3日付 審判請求書の写し
丙第39号証:平成25年8月5日付 請求書副本の送達通知(答弁指令)の写し
丙第40号証:平成25年7月3日付 審判請求書の写し
丙第41号証:平成25年8月5日付 答弁指令の写し
丙第42号証:株式会社ドリームウィルホームベージの写し
丙第43号証:NPO法人鮪文化研究会における朝比奈万太郎の名刺の写し
丙第44号証:WHA株式会社履歴事項全部証明書の写し
丙第45号証:特定非営利活動法人鮪文化研究会閉鎖事項全部証明書の写し
丙第46号証:平成24年(ワ)第999号譲渡代金請求事件の朝比奈万太郎の証人調書の写し
丙第47号証:平成24年(ワ)第999号譲渡代金請求事件の萩原弘之の本人調書の写し
丙第48号証:平成24年(ワ)第999号譲渡代金請求事件の山本明人の本人調書の写し
丙第49号証:マグロ養殖関係営業報告書の写し
丙第50号証:MGY.Newsの写し
丙第51号証:特許番号3584030号基本情報の写し
丙第52号証:特許番号3584030号出願情報の写し
丙第53号証:特許番号3584030号審判情報の写し
丙第54号証:特許番号3957721号基本情報の写し
丙第55号証:特許番号3957721号出願情報の写し
丙第56号証:特許番号3957721号審判情報の写し
丙第57号証:平成24年(ワ)第999号譲渡代金請求事件の陳述書の写し
丙第58号証:WHA有限会社平成17年7月16日第2回社員総会議事録及び写真の写し
丙第59号証:WHA株式会社特許使用許諾契約書の写し
丙第60号証:平成21年1月24日付譲渡証書(特許番号第4142684号)の写し
丙第61号証:平成24年(ワ)第999号譲渡代金請求事件の判決書の写し

第3 本件に係る発明
本件特許の請求項1?10に係る発明は特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定される以下のとおりのものと認める。(以下、「請求項1?10に係る発明」を「発明1?10」といい、発明1?10を総称して「本件特許発明」という。)。
「【請求項1】
内部に魚類を収容する水槽と、水槽より上部に設けられるタンクと、該水槽の一側部へ接続させた前記魚類が生息し得る水を前記タンクから導入する供給手段と、前記水槽の他側部に接続させて該水槽内の水を排出する連結手段と、前記水槽の適所に設けた魚の投入部および魚の取出部とを有する魚類の養殖装置にあって、前記水槽は、その内部を前記一側部から前記他側部にわたって一連となる空洞の筒状に形成して、前記一側部から前記他側部に至るまでを螺旋状となるように設けてあり、前記内部を前記供給手段と前記連結手段とによって前記水を定められた流速となるように充満させたことを特徴とする魚類の養殖装置において、前記水槽の下部に円筒状の下部貯水タンクを設け、前記下部貯水タンクの側面に開口部を設けて前記連結手段と連結して前記水の自重により前記流速で下部貯水タンク内の水平底面上を流すことで前記連結手段における魚の挟みこみを防止することを特徴とする魚類の養殖装置。
【請求項2】
内部に魚類を収容する水槽と、水槽より上部に設けられるタンクと、該水槽の一側部へ接続させた前記魚類が生息し得る水を前記タンクから導入する供給手段と、前記水槽の他側部に接続させて該水槽内の水を排出する連結手段と、前記水槽の適所に設けた魚の投入部および魚の取出部とを有する魚類の養殖装置にあって、前記水槽は、その内部を前記一側部から前記他側部にわたって一連となる空洞の筒状に形成して、前記内部を前記供給手段と前記連結手段とによって前記水を定められた流速となるように充満させたことを特徴
とする魚類の養殖装置において、前記水槽の下部に円筒状の下部貯水タンクを設け、前記下部貯水タンクの側面に開口部を設けて前記連結手段と連結して前記水の自重により前記流速で下部貯水タンク内の水平底面上を流すことで前記連結手段における魚の挟みこみを防止することを特徴とする魚類の養殖装置。
【請求項3】
水槽の適所に該水槽内の環境を検出する検出手段を一個または複数個配設させたことを特徴とする請求項1または2記載の魚類の養殖装置。
【請求項4】
前記下部貯水タンクは、その中心に配置されて上部に餌導入口が設けられて側面に餌放出口が設けられて下部貯水タンク内に餌を供給することのできる請求項1または2記載の魚類の養殖装置。
【請求項5】
前記下部貯水タンクは、その中心に内筒壁を設けることで魚の激突を防止することを特徴とする請求項1または2記載の魚類の養殖装置。
【請求項6】
前記下部貯水タンクは、その中心に回転駆動装置を設けることで旋回流速を調整させることを特徴とする請求項1または2記載の魚類の養殖装置。
【請求項7】
前記下部貯水タンクは、第二の入水穴を設けて流水速度の調整可能な水流を入水させることを特徴とする請求項1または2記載の魚類の養殖装置。
【請求項8】
前記下部貯水タンクは、その底面であって内壁に沿って発泡用開口部を設けて予め配管してガスを送出するよう構成することを特徴とする請求項1または2記載の魚類の養殖装置。
【請求項9】
前記ガスは濃縮酸素であることを特徴とする請求項8記載の魚類の養殖装置。
【請求項10】
内部に魚類を収容する水槽と、水槽より上部に設けられるタンクと、該水槽の一側部へ接続させた前記魚類が生息し得る水を前記タンクから導入する供給手段と、前記水槽の他側部に接続させて該水槽内の水を排出する連結手段と、前記水槽の適所に設けた魚の投入部および魚の取出部とを有する魚類の養殖装置にあって、前記水槽は、その内部を前記一側部から前記他側部にわたって一連となる空洞の筒状に形成して、前記一側部から前記他側部に至るまでを螺旋状となるように設けてあり、前記内部を前記供給手段と前記連結手段とによって前記水を定められた流速となるように充満させたことを特徴とする魚類の養殖装置を使用する魚類の養殖方法において、
前記水槽の下部に円筒状の下部貯水タンクを設け、前記下部貯水タンクの側面に開口部を設けて前記連結手段と連結して前記水の自重により前記流速で下部貯水タンク内の水平底面上を流すことで前記連結手段における魚の挟みこみを防止することを特徴とする魚類の養殖方法。」

第4 無効理由についての判断
特許法第38条は「特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。」と規定しているところ、まず、要件事実の特許を受ける権利が請求人を含む3名の共有に係るものであるかについて[第4-1 本件特許発明が請求人を含む3名が共同して完成したものであるかについて]で検討し、次に、抗弁事実として主張された、請求人は特許を受ける権利を、譲渡・放棄したかについて、[第4-2 権利放棄書について]、[第4-3 黙示の意思表示による譲渡・放棄について]の観点から、それぞれ検討する。

第4-1 本件特許発明が請求人を含む3名が共同して完成したものであるかについて

請求人は「本件特許発明は、請求人を含む3名が共同して完成したものである」旨主張するのに対して、参加人は「請求人は、発明者ではない。」旨主張しているので、本件特許発明が請求人を含む3名が共同して完成したものであるかについて検討する。

まず、本件特許の願書(甲1)、特許第3957721号公報(丙34)、及び本件特許証(丙33)には発明者が山本明人、萩原弘之、朝比奈万太郎であると記載されており、外形的には、本件特許発明は、山本明人、萩原弘之、朝比奈万太郎の3名が共同して完成したものとなされている。
それに対して、参加人は「鮪陸上養殖についてはその具体的方法は全て参加人が発案したものです。」、「営業活動の便宜から請求人を発明者として記載し、出願をした」(本人尋問「山本明人」証言等)と抗弁したが、下記「2.」に記載するように参加人の提出した証拠に基づいて抗弁内容が事実であるとの心証を形成することはできなかったので、参加人の抗弁は採用出来ない。
そして、本件特許の出願書類には、本件特許出願以来一貫して、「発明者 山本明人、萩原弘之、朝比奈万太郎」と記載され、長期にわたって維持されているものであり、それを否定するに足りる事実も立証されていない以上、本件特許発明は、山本明人、萩原弘之、朝比奈万太郎の共有に係るものであるとするのが適当である。

1.当事者の主張
各当事者の発明者に関しての主な主張を摘記すると以下のようなものである。

1-1.請求人の主張
ア.「請求人は、願書に記載されたとおり、本件特許発明の共同発明者である(甲第1号証)。」(審判請求書2?3頁7(4))
イ.「本願における場合には、養殖魚が壁面に接触することや、流水の排水付近における養殖魚の接触(挟み込み)等をストレスの一因と考えることは請求人が提起したものである。そして、そのために流水内に気泡を導入するごと、排水方向を横向きにすることなどの意見を出し合った結果、最終的に特許出願に記載した内容に仕上がったものである。
このように、本件特許発明についても、問題点の提起および具体的な構成を立案しており、本件発明の完成に大きく寄与しており、発明者の一人であることは明らかである。」(平成26年3月4日付請求人回答書2?5頁7(1)(ロ))
ウ.「第1に、出願前は第三者に開示することが出来ず、発明に関与した者以外に事情を知るものはいない。すなわち、請求人が発明者であることを立証出来るのは、請求人、被請求人代表者および参加人の三名のみである。
第2に、請求人は、発明ノートを記載していたが、既に廃棄したものと思われ、書証として提出出来るものを発見出来なかった。」(平成26年4月9日付請求人回答書2頁7(1)(ロ))
エ.「他件においては、水槽内に供給した水に対して旋回流を与え、その中で魚を養殖する趣旨の養殖方法を含めたが、これが拒絶されたことから、当該請求項を削除することにより、特許を受けることができた。しかし、旋回流を与えた水槽を使用する構成が優れていると請求人は判断していたため、本件においては、筒状の水槽を螺旋状としない形態を含めることとした(本件の請求項2参照)。この場合においても排水側における魚の挟み込み等があり得るため、同じ構成とすることができることから、併せて出願してもらうこととしたのである。
また、旋回流を付与した水槽での養殖方法に基づき、下部貯水タンクについて、旋回流を付与する構成を追加するように、請求人が要望したものである(本件の請求項6および7)。この旋回流を付与する構成については、請求人が、株式会社日本設計の高田氏に構想を説明し、具体的な図面の作成を依頼したものであり、当該依頼により作成された図面の一部が本件特許出願の際に使用されている(例えば図12?図16)。 さらには、上記構成の下部貯水タンクの壁面に養殖対象魚が衝突して損傷することを避けるため、泡を発生させる構成(本件の請求項8および9)についても、本件特許に含めるように、請求人が強く要請したものである。」(平成26年7月25日付請求人口頭審理陳述要領書7?8頁(2))

1-2.被請求人の主張
ア.「発明者を3名にすることは出願の時点で決まっていたと記憶しています(中略)
裁判の中で、山本氏が考えてきたと朝比奈氏が言っていたようですので、それが事実であれば、(朝比奈は)開発には参加していないことになりますが、私は、その詳細を知りません。」(平成26年8月2日付被請求人口頭審理陳述要領書2頁7(1)。なお、( )内は当審注。)

1-3.参加人の主張
ア.「(3)『発明者について』
i)鮪陸上養殖についてはその具体的方法は全て参加人が発案したものです。この点については静岡地方裁判所で行われた尋問において、請求人が特許の内容を全く説明出来ず、内容を理解していない事実が浮き彫りになったこと、『請求人が全て発案した』旨の発言を請求人や被請求人代表者萩原弘之が行っていること(丙第46号証、丙第47号証参照)から明らかです。
ii)当時請求人はアイエヌエー株式会社という印刷会社に東京営業所所長という肩書で勤務していました。鮪陸上養殖やそれに必要とされる機械について全く知識を持っていないものの、印刷業(本業)へプラス効果が生じることを期待して参加したものです。
請求人はアイエヌエー株式会社の東京営業所所長という立場で様々な企業と繋がりを持っていたため、被請求人が発行する私募債や株式について購入者を探すことが適任であり、営業のみを担当していました。
請求人が『発明者』という肩書を持ち、名刺に記載してこれを交付するようになったのは被請求人に対する出資を募る場合、出資者の関心や信頼を得やすいという参加人の発想によるものです。」(平成26年7月3日付参加人口頭審理陳述要領書3頁7○2で引用する2頁○1(3))
イ.「(1)請求人による発明
(一)口頭審理における誘導尋問
○1 請求人は平成26年3月4日付意見書(以下、「意見書」という。)及び平成26年7月25日付口頭審理陳述要領書(以下、「要領書」という。)において発明への関与の事実及びその程度を説明している。
しかし平成26年8月8日の口頭審問では、請求人の証言が全て請求人代理人の誘導尋問によって導き出されたものであり、請求人が発明内容を自発的に説明した部分は皆無であった。また代理人による誘導がなされた後も請求人は発明内容を説明出来ていない。
○2 平成26年3月4日付意見書では発明内容が詳細に記載されているが、それから20日後に静岡地方裁判所にて行われた請求人に対する証人尋問においても請求人は特許の内容を全く説明することが出来なかった(丙第46号証)。
こうした経緯を踏まえた場合、口頭審問手続に先だって発明内容を確認する程度の対応は行うのが通常と思われるが、上述のように惨憺たる内容であった。
(二)証言内容の変遷、不合理性
○1 請求人の証言内容は意見書、要領書の記載と明確に異なっている。
i )3584030号について
意見書や要領書では3584030号に関し、水槽をらせん状とした、水槽を筒状とした、下部貯水タンク設置の提案をした、マグロのストレスを減少させる方法を検討したと記載されている。
しかし口頭審問ではこれと矛盾する証言をしている。
即ち、本特許は長野特許事務所に出願を依頼し、出願後、濱田特許事務所に変更したという経緯があるが、請求人は「長野特許事務所と濱田特許事務所による出願内容はほぼ同じ。」としつつ、「長野特許事務所に出向いたことはなく、打ち合わせにも加わっていない。」旨、証言した。
出願時点で発明内容は確定しているため、請求人の上記証言を前提とした場合、3584030号の発明に請求人が関与することは不可能である。この点について請求人に尋ねてみたが、回答は得られないままであった。
ii)3957721号について
A)請求人は下部貯水タンクの発明をした、当該項目は当初、請求項4に記載したと説明している(最終的には3957721号第1項、第2項に反映されている)。しかし○1で述べたように3584030号での出願手続に請求人は関与していない。従って上記説明は真実に反している。
B)次に請求人は下部貯水タンクに関し、旋回流を発生させる構造を取り入れた、その点について日本設計の担当者と打ち合わせを行い、図面が作成されたと説明している。
しかし審問手続で確認したところ、請求人は日本設計担当者の氏名を明らかに出来ていない。また設計に全く関与していない人物(明電舎の高田)を誤って摘示している。
C)更に請求人は養殖魚の衝突を回避する目的で気泡が発生する構造を取り入れたと説明している。
しかし今回検討されたマグロ養殖では酸素が全く含まれていない地下海水の利用を前提としており、海水に酸素を送り込むことは必要条件であった。
D)このように請求人が関与したと指摘する発明はどれ一つとっても説得力を欠く内容になっている。」(平成26年8月21日付参加人上申書1頁(1))


2.参加人の抗弁についての判断
参加人の「鮪陸上養殖についてはその具体的方法は全て参加人が発案したものです。」、「営業活動の便宜から請求人を発明者として記載し、出願をした」(本人尋問「山本明人」証言等)との抗弁について検討する。

(1)「鮪陸上養殖についてはその具体的方法は全て参加人が発案したもの」か否かについて。
(a)参加人は、「鮪陸上養殖についてはその具体的方法は全て参加人が発案したもの」と主張して、
本人尋問で参加人代理人の「・・・こうした気泡の発生というものについて、朝比奈さんがアイデアを提案したということはありますか。」との尋問に対して、「全くありません。」と証言し、
同じく「朝比奈さんが説明したマグロが壁に接触することを避けるという目的はあったのですか。」との尋問に対して、「私は、そういう目的では使っておりませんでした。」と、
同じく「それで、朝比奈さんが説明したマグロが壁に接触することを避けるという目的はあったのですか。」との尋問に対して、「私は、そういう目的では使っておりませんでした。」と、
同じく「少なくとも特許の申請をする過程では、そもそも酸素を入れないといけないと、それが発想の大前提ですか。」との尋問に対して、「はい。」と、
同じく「また、今回の朝比奈さんから出された口頭審理陳述要領書を見ますと、螺旋状の水槽から魚が外に出ていく、要は下側に出て行くような感じで、1カ所に魚が集まってしまうのは不都合だということで、その下に水槽を置き、さらに水槽の水を回転させるというアイデアを朝比奈さん御自身が考えたと、そういう説明になっているのですが、それは正しいですか。」との尋問に対して、「全くそれはありません。」と、
同じく「この部分はどなたが考えたのでしょうか。」との尋問に対して、「浜田特許の大和田氏と私とで考えました。」と、
証言している。
(b)参加人の証言内容自体は一貫し、参加人の一連の主張とも整合したものであるが、請求人の証言とは相反する。
さらに、研究ノートや、利害関係のない第三者の証言等、「鮪陸上養殖についてはその具体的方法は全て参加人が発案したもの」であることを直接客観的に立証し得る証拠は提出されていない。
(c)そうすると、参加人の証拠方法から「鮪陸上養殖についてはその具体的方法は全て参加人が発案したもの」であるとする心証形成は出来ない。

(2)「営業活動の便宜から請求人を発明者として記載し、出願をした」か否かについて
(a)参加人は、「営業活動の便宜から請求人を発明者として記載し、出願をした」と主張して、
本人尋問で、特許第3584030号に関してであるが、
本人尋問で「例えば3584030については、朝比奈さんが発明者として名前が記載されていますけれども、これはどういう経緯だったか覚えていますか。」との尋問に対して、「東京で営業してもらうのに対して名前を書いた、そういう感じであります。」と、
「今の山本さんの動機、理由については朝比奈さんに伝えましたか。」との尋問に対して、「はい。伝えました。」と、
「その事実を、今の説明を伝えたのはいつごろだったのでしょうか。」との尋問に対して、「出願するちょっと前です。」
と証言している。
(b)さらに、本人尋問で、審判長の「・・・先ほど証言されましたことの繰り返しになってしまうかもわからないのですが、営業のために発明人とした旨を伝えられた、朝比奈さんのほうに、そういう証言をされましたね。」との尋問に対して、「はい。」と、
「そのときの返事は何ていう返事だったか・・・。」との尋問に対して、「ほーという感じでした。」と、
「一応、了解したという返事をされたわけですね。」との尋問に対して、「はい。」と、
証言している。(なお、請求人は、この件について聞いた覚えはないと証言した。)
(c)参加人の証言内容自体は一貫し、参加人の一連の主張とも整合性したものであるが、請求人の証言とは相反する。
さらに、同意書や、利害関係のない第三者の証言等、「営業活動の便宜から請求人を発明者として記載し、出願をした」ものであることを直接客観的に立証し得る証拠は提出されていない。
(d)そうすると、参加人の証拠方法から「営業活動の便宜から請求人を発明者として記載し、出願をしたもの」であるとする心証形成は出来ない。

(3)請求人の主張・証言に関して
請求人は、発明者に関して、内容が変遷し、曖昧とも思える主張や証言を行っているが、そのことを持って、本件特許出願書類に記載され、長期にわたって維持されている発明者の表示に抗弁する「鮪陸上養殖についてはその具体的方法は全て参加人が発案した」こと、「営業活動の便宜から請求人を発明者として記載し、出願をした」ということを、事実認定するまでには至らない。

(4)まとめ
参加人の証拠方法から抗弁内容が事実であるとの心証を形成することはできないので、それを基礎とする参加人の抗弁は、採用出来ない。


第4-2 権利放棄書について

参加人は「請求人は特許出願に際し、被請求人宛に権利放棄書を提出している。」と主張しているので、当該抗弁が成立するかについて検討する。
下記「2.」に記載するように参加人の提出した証拠に基づいて「請求人は特許出願に際し、被請求人宛に権利放棄書を提出している。」との心証を形成することはできなかったので、当該参加人の抗弁は採用出来ない。


1.当事者の主張
各当事者の権利放棄書に関しての主な主張を摘記すると以下のようなものである。

1-1.請求人の主張
ア.「発明の完成後、今日に至るまで、請求人が有していた特許を受ける権利を他の二名に譲渡したことはない。」(請求書第2?3頁(4))
イ.「請求人は、権利放棄書なる書類の存在を知らない。その種の名称が付された書類を見たこともない。」(平成26年3月4日付請求人回答書6頁(3)(イ))
ウ.「(3)権利放棄の関する書面について
(イ)参加人は、請求人が権利放棄の書面に署名・押印したと主張しているものの、本件口頭審理における本人尋問において、その表題、宛名、内容を記憶していない。
表題および内容を記憶していないにもかかわらず、当該書面が権利放棄に関する書面であったと明言するには根拠に欠けるといわざるを得ない。
(口)また、参加人は、書面作成および請求人の押印の時期についても覚えていないと証言している。被請求人に至ってはそのような書面は見当たらないと主張している。被請求人および参加人の主張を総合すると、表題および内容すら記憶していないが「権利放棄」に関する書類を作成し、請求人が署名・押印したが、その書面は誰も保管しておらず、あたかも正当に作成されたが保管がされていなかったに過ぎないと主張しているものと判断される。
しかしながら、前述のように、書面の作成時期、内容その他の詳細を何ら記憶していない書面が、あたかも作成されたかのように偽るものであり、主張の信憑性に欠けるものである。
・・・参加人が作成したと主張する「権利放棄」の書面は、実は、譲渡証書、または取締役会承認書と誤解しているのではないかということである。作成時期や記載内容を覚えていないのであるから、そのような誤りもあり得るということである。」(平成26年8月28日付請求人上申書3?5頁7(3)(イ)?(ニ))

1-2.被請求人の主張
ア.「(3)権利放棄書については、今回初めて聞きました。念のため、特許申請に関する書類が保管されている場所を探しましたが、そのようなものは見つかりませんでした。・・・
山本氏が言う東海大学の117号室は、鮪文化研究会が使用していた時期がありますので、そこへ朝比奈氏が来ることは考えられますが、その部屋で朝比奈氏に書類に印鑑を押して貰った記憶もなく、書類を渡した記憶もありません。」(平成26年3月6日付被請求人審尋の回答書3頁7(3))

1-3.参加人の主張
ア.「参加人は鮪文化研究所の所在地である東海大学海洋学部10号館117号室に出向き、請求人に対して権利放棄書への押印を要請し、そこで請求人の押印を貰った。当該書面は現在、被請求人が保管している。」(平成26年1月28日付参加人上申書4頁7(2)iv)○2)
イ.「○1 権利放棄書
権利放棄書を準備し、東海大学海洋学部10号館117号室において、請求人の署名・押印を求めたという証言は従前から一貫している。またその現場には他に関係者が多数いたこと、関係者の氏名を明示していること、印鑑の保管状況や請求人の態度について詳細な説明がされていることなど、実際に経験した者で無ければ説明出来ないほどの具体性、臨場感を有している。
他方、摘示された関係者の誰からも当該事実を否認する証拠は提出されていない。
○2 書類の作成
被請求人では取締役会議議事録を初めとして組織運営や組織の意思決定に必要とされる資料が全て整っている。被請求人と同レベルの会社と比較しても量・質において際立っているといえる。
また被請求人が特許を取得若しくは使用する場合、それに必要な契約書(専用実施権、譲渡)がその都度作成され、極めて適切な権利移転手続が行われている。
そしてこれら書類の作成の大半に参加人が関与している。
加えて参加人は自ら発明者(共同発明者秋山信彦)、被請求人が特許権者(共同権利者学校法人東海大学)という特許(特許番号4142708号)に関し、権利放棄書を作成したという経験がある。
こうした事情を考えれば参加人が権利放棄書を準備し、請求人の署名・押印を取得したということは自然なことといえる。」(平成26年8月21日付参加人上申書4?5頁(2)(一))


2.参加人の抗弁についての判断
参加人の「参加人は・・・請求人に対して権利放棄書への押印を要請し、そこで請求人の押印を貰った。当該書面は現在、被請求人が保管している。」旨主張しているので、権利放棄書が作成されたと言えるか否かについて検討する。

(a)参加人は、「参加人は鮪文化研究所の所在地である東海大学海洋学部10号館117号室に出向き、請求人に対して権利放棄書への押印を要請し、そこで請求人の押印を貰った。当該書面は現在、被請求人が保管している。」(平成26年1月28日付参加人上申書4頁7(2)iv)○2)の主張と共に、
(a1)参加人の本人尋問において、参加人代理人の「朝比奈さんから取りつけたかどうかで問題になっている書類ですけれども、これは、例えば文書の表題が『譲渡』『放棄』こうした表題、いずれかになっているか、もしくは別の表記になっているのか、そのあたりはいかがですか。」との尋問に対して、「ちょっとその辺のところはあいまいで覚えておりません。」と証言し、
同じく「この譲渡もしくは放棄に関する書類というものは、どういう経緯でつくろうと思ったわけですか。」との尋問に対して、「浜田法律事務所からの指示だったと思います。」と証言し、
同じく「・・・権利の放棄書があったとすると、そもそもこれは特許庁に提出する必要はないので、特許事務所のほうから、その作成を指示されるのは不自然じゃないかという指摘があるのですけれども、この点はどう記憶していますか。」との尋問に対して、「浜田特許事務所からそのような指示を受けたということは記憶はしております。」と証言し、
同じく「そうすると、あなたの記憶は、そこは変わらないということですね。」との尋問に対して、「はい。」と証言し、
(a2)「権利放棄、権利譲渡などの契約書についてその内容を正確に読み取ることは容易でない。参加人は被請求人の特許に関する資料を数多く作成していたこと、参加人・被請求人代表者が特許権者となった3584030号、3957721号に関しては被請求人に専用実施権が設定されるなどの複雑な経過を経て平成19年6月に譲渡されたという経緯を持つことを考慮すれば参加人が書面の表題や表現内容を正確に覚えていないとしても特段不思議では無い。
ただ参加人は請求人から同人の署名・押印を貰った事実を明確に記憶しており、(請求人の署名・押印が不要な)譲渡証書や取締役承認書でないことは明らかである」(平成26年9月12日付参加人上申書3頁7(3)で「無効2013-800116(特許第3584030号)に関する上申書と同様である。」と無効2013-800116の書面を利用)と主張している。
(b)上記証言内容は、請求人の証言と相反するものであり、主張内容についても争いがある。
(c)そして、参加人の主張について検討すると、権利放棄書に係る参加人の証言及び主張は、証言が宣誓を伴うものであったとしても、単に個人の記憶や見解をのべたと解されるものであって、証言が本人尋問によるものであること、本来記憶は曖昧のものであること、丙各号証等の証拠も権利放棄書の存在及び内容を直接的に証明し得るものでもないことを考え合わせると、参加人の証拠方法から「請求人は特許出願に際し、被請求人宛に権利放棄書を提出している。」との心証形成は出来ない。

まとめると、参加人の証拠方法から抗弁内容が事実であるとの心証を形成することはできないので、それを基礎とする参加人の抗弁は、採用出来ない。


第4-3 黙示の意思表示による譲渡・放棄について

参加人は「特許を受ける権利の譲渡・放棄について請求人は当初から黙示の承認をしていた。」と主張しているので、当該抗弁が成立するかについて検討する。
下記「3.」に記載するように、請求人は平成15年4月?少なくとも平成24年3月まで鮪文化研究会の理事であり、本件と同じく請求人が発明者となっている別件特許(特許第3584030号)の特許証(丙35)を用いて営業活動を行っており、自分は、発明者であるが、特許権者ではないという状況を認識し、それに伴い、本件特許についても同様であると認識し、長期にわたりそれを容認していたのであるから、請求人は特許を受ける権利の譲渡・放棄について当初から、若しくは遅くとも平成24年3月までには黙示の承認をしていたと解されるものである。
そうすると、参加人は黙示の承認によって、請求人は特許を受ける権利を、譲渡・放棄していたとするのが適当である。

1.当事者の主張
各当事者の黙示の意思表示に関しての主な主張を摘記すると以下のようなものである。

1-1.請求人の主張
請求人の主な主張を摘記すると、以下のようなものである。
ア.「発明の完成後、今日に至るまで、請求人が有していた特許を受ける権利を他の二名に譲渡したことはない。」(審判請求書2?3頁7(4))
イ.「本件特許に係る特許証を見たのは、登録後長期間を経過した後であり、その内容を十分に把握していなかった。」(平成26年7月25日付請求人口頭審理陳述要領書3?4頁7(1)(B))
ウ.「請求人は、特許権者と発明者の区別を十分に理解していたわけではなく、本件特許発明が完成した当時から、権利を譲渡・放棄するような意思を有していなかったことは明らかである。
それどころか、請求人は、本件特許に関連し、営業活動を積極的に行っており、自らが関与して完成させた特許発明の内容を説明し、出資を募っている。仮に、請求人が特許権を譲渡・放棄したとの黙示の承認をしていたとすれば、自らの権利に関係がなく、また、NPO法人とも無関係に、ただ単なる個人(参加人および萩原氏)の利益のためにのみ営業活動をしていたこととなり、極めて不合理である。
そして、権利が自身にも帰属し、参加人および萩原氏両名のみに帰属していないものと確信していた(少なくとも「仲間」で共有しているものと確信していた)からこそ、自らの貴重な人脈・信用を犠牲にしながら出資を募る行動を取っていたのであり、このような客観的な行動は、請求人本人も権利を有するものと認識していたことの有力な証左である。」(平成26年7月25日付請求人口頭審理陳述要領書12?13頁7(6))
エ.「請求人は、本件特許に係る特許証を発行時には確認しておらず、特許になったことのみの報告を受けただけである。従って、本件特許の特許証が発行された平成19年5月18日頃には、本件特許の特許権者の欄から請求人の氏名が除外されていることを知らなかったものである。
仮に、何かの機会に特許証を見る機会があったとしても、他件と同様の様式であることから、何ら不思議に思わなかったものである。」(平成26年7月25日付請求人口頭審理陳述要領書14?15頁7(8))
オ.「請求人が、本件特許に係る『特許証』を見たことがあったとしても、自身の氏名が掲載されていることをもって、その記載が『発明者』の欄のみであって『特許権者』の欄に記載されていないことまで十分に把握できなかったとしても不思議なことではない。」
(平成26年8月1日付請求人口頭審理陳述要領書(補充)2?3頁7(2))

1-2.被請求人の主張
被請求人の主な主張を摘記すると、以下のようなものである。
ア.「私は、出願に関する手続について、事情をよく把握しておりませんので、審判の結果は、審判官の判断に従うつもりです。特に、反論するような内容もありませんし、提出する書類もありません。」(平成26年8月2日付被請求人口頭審理陳述要領書3頁7(4))

1-3.参加人の主張
参加人の主な主張を摘記すると、以下のようなものである。
ア.「上述のように請求人が発明者という肩書を用いたのは営業活動に有益という参加人の発案によるものであり、請求人は特許権が自身に帰属する等とは全く考えていませんでした。従って参加人が浜田特許事務所からの指摘を受けて特許権譲渡・放棄書への署名・押印を請求人に求めた時も請求人から何の異議も出ませんでした。
以上のとおりであり、特許権の譲渡・放棄について請求人は当初から黙示の承認をしていたことは間違いありません。」(平成26年7月3日付参加人口頭審理陳述要領書3頁○2で引用する7(5))
イ.「○1 特許権取得
i)請求人は平成16年11月17日付で作成した報告書(丙第49号証)において3584030号の特許証(コピー)を中外鉱業株式会社に提示した事実、投資額について5億円と説明したところ、相手方から『そんな金額(低額)で良いのか。』という反応があった事実を記載している。
ii)請求人はこの当時、3584030号の特許考案者という肩書の入った名刺(丙第43号証)を持参し、営業を行っていた旨、静岡地方裁判所での尋問手続で証言している(丙第46号証9頁)。
○2 被請求人への譲渡
請求人は被請求人の役員を務めていた平成20年?平成21年頃、特許権が被請求人に譲渡された事実を把握していた旨、静岡地方裁判所での尋問手続で証言している(丙第46号証14頁)。
○3 特許権の帰属先
i)請求人は平成17年7月16日に行われた有限会社WHAの第2回社員総会に出席していた(甲第58号証)。同総会では被請求人と特許権者である被請求人代表者、参加者との間で使用許諾に関する合意がなされている。
ii)請求人は特許権成立後、自分が特許権者でないことを理解していた旨、静岡地方裁判所での尋問手続で証言している(丙第46号証10頁、18頁)。
iii)請求人は元々自分に権利がないことを認識していたこと、特許権の取得に費用を拠出した被請求人代表者に帰属するものと考えている旨、静岡地方裁判所での尋問手続で証言している(丙第46号証19頁)。
○4 発明者としての権利
請求人は特許に関し、発明者として何らかの権利を保有していた旨、主張している。ところが特許の年金支払状況について何の関心も持つておらず、3584030号に関しては権利を失効させている。
また権利を失効させた後、発明者としての地位を利用して無効審判申立を行っているが、それによってどのような利益が得られるのか分からず、申立の動機も変遷するなど真実を語っているとは到底考えられない内容である。
○5 纏め
以上の経緯から、請求人は発明者としての権利は放棄していたと評価することが適切である。」(平成26年8月21日付参加人上申書5?6頁7(2)(二))


2.関係する事情
2-1.主張の要約
ア.参加人の「請求人が発明者という肩書を用いたのは営業活動に有益という参加人の発案によるものであり、請求人は特許権が自身に帰属する等とは全く考えていませんでした。・・・請求人から何の異議も出ませんでした。・・・特許権の譲渡・放棄について請求人は当初から黙示の承認をしていたことは間違いありません。」、「請求人は元々自分に権利がないことを認識していたこと、特許権の取得に費用を拠出した被請求人代表者に帰属するものと考えている旨、静岡地方裁判所での尋問手続で証言している(丙第46号証19頁)。」、「無効審判申立を行っているが、それによってどのような利益が得られるのか分からず、申立の動機も変遷するなど真実を語っているとは到底考えられない内容である。」旨の主張に対して、
イ.請求人は、「特許権者と発明者の区別を十分に理解していたわけではなく、・・・権利を譲渡・放棄するような意思を有していなかったことは明らかである。」、「本件特許に係る特許証を見たのは、登録後長期間を経過した後であり、その内容を十分に把握していなかった。」、「権利が自身にも帰属し、参加人および萩原氏両名のみに帰属していないものと確信していた(少なくとも「仲間」で共有しているものと確信していた)からこそ、自らの貴重な人脈・信用を犠牲にしながら出資を募る行動を取っていたのであり、このような客観的な行動は、請求人本人も権利を有するものと認識していたことの有力な証左である。」、「本件特許に係る『特許証』を見たことがあったとしても、自身の氏名が掲載されていることをもって、その記載が『発明者』の欄のみであって『特許権者』の欄に記載されていないことまで十分に把握できなかったとしても不思議なことではない。」旨反論している。

2-2.争いのない事実
なお、以下の事項については、争いがない事実である。
(a)本件特許の願書(甲1)には、「【発明者】 山本明人、萩原弘之、朝比奈万太郎、【特許出願人】山本明人、萩原弘之」と記載されている。
(b)本件特許に係る特許第3957721号公報(丙34)には「【発明者】 山本明人、萩原弘之、朝比奈万太郎、【特許出願人】山本明人、萩原弘之」と記載されている。
(c)本件特許証(丙33)には「特許権者 山本明人、萩原弘之、 発明者 山本明人、萩原弘之、朝比奈万太郎」と記載されている。

2-3.請求人の本件特許との係わり
検討にあたり、請求人の本件特許と係わりを整理した。
請求人の主張、証言、当事者に争いのない事実、及び請求人が争っていない参加人の主張によると、請求人は、少なくとも以下の様に本件特許と係わっている。
(a)平成14年頃に、請求人は、参加人が計画した鮪の陸上養殖の事業について、参加人から直接話を聞いた。(平成26年3月4日付請求人回答書2頁7(1)(ロ))
(b)平成15年4月9日鮪文化研究会発足。請求人も理事となる。(平成26年1月28日付参加人上申書3頁7(2)i)○3)
(c)請求人は、本件特許が設定登録された後は、NPO法人のために、本件特許に基づく出資または私募債を募集する営業活動を行ってきた。
平成24年3月まで理事として円満に職務を全う。
平成24年4月1日に代表権喪失により理事を解任。(平成26年7月25日付請求人口頭審理陳述要領書12頁7(6)、15頁7(8)。)
なお、上記理事解任について思い込みによるものと訂正。(平成26年8月28日付請求人上申書7(1)○2○3)
(d)裏には特許証のコピーがあって、表には特許考案者という名前の名刺(丙43)をNPO法人から支給され、それを使って営業をしていた。(平成26年8月8日本人尋問の請求人代理人尋問に対する朝比奈証言)
(e)平成21年頃2回目の私募債で出資を集めた。(同上)
(f)平成25年7月3日 本件無効審判請求
(g)平成26年3月24日 平成24年(ワ)第999号譲渡代金請求事件で証人として証言。

2-4.本件無効審判申立の動機
参加人が、平成26年5月1日付参加人上申書2頁7.(1)で「46,・・・平成25年時点で自分に特許権がないことを理解しつつ、WHAを勝訴させる目的で虚偽の主張を行い、特許無効の審判を取得しようとした・・」と主張しているので、請求人の本件無効審判申立の動機についても、当事者の主張を整理した。

請求人の主張、証言、及び請求人が争っていない参加人の主張によると、請求人は、本件無効審判申立の動機に関して以下の説明している。
(a)平成24年(ワ)第999号譲渡代金請求事件の証人尋問において、「自分の名前が抜けていたことに対して,今回の無効の審判の申立てまで,何も言ってないわけですけれども,何で,今回,無効審判を申し立てることになったんですか。」との尋問に対して「WHAの社長である萩原氏が,彼も山本をかなりかわいがっていました。それは,僕よりは付き合いは長いと思うんです。その中で,今回退職をするときも,ちゃんと退職金も払い,営業的にはゼロ円なんですよ。出ていくばっかなんです。逆に,私募債という,今は株式に変えていますけども,そういった借金を負っても,退職金も払いの,恐らく自分の財産を投げ捨ててもやったことだと思うんです。結果的に,会社の社長でもあるので,余りそんなことは言えませんが,個人の私財を投げ打って,恐らく,皆さん,そういった退職金とか,次の人生のためのお金とか,車まで一緒に上げたということも聞きましたんで,そんなことをしてまでも,またこういう形で訴えるとは何事だと,人間的にそこが嫌になっちゃいまして,もめているんだったら,何とかできるものならば,してしまいたいなあと思っていたんです。」と、
「で,申立てに至ったということですよね。」との尋問に対して「はい,そうです。」と、
証言した。(平成26年5月1日付参加人上申書に添付された平成24年(ワ)第999号朝比奈万太郎の証人調書(丙46号証))
(b)「合議体における暫定的な見解は、専ら本件審理ではない譲渡代金請求訴訟(静岡地方裁判所平成24年(ワ)第999号、当事者・被請求人および参加人、以下・本件訴訟と称する)において、証人として出廷した請求人の証人調書中の記載および本件訴訟において提出された証拠のみに基づいている。
しかしながら、本件訴訟は、本件特許の有効・無効を争点とするものではなく、しかも、被請求人および参加人(以下、訴訟当事者と称す)が代金請求を争っているものであって、請求人は訴訟当事者ではなく単なる証人である。これは、すなわち、訴訟当事者は、本件訴訟では主張が対立するものであるが、本件審判については、両者の主張は対立せず、ともに本件特許が有効であることを主張するものである。従って、調書に記載されている証人尋問は、訴訟当事者双方の代理人が当該訴訟当事者の主張に有利な(本件特許が有効であることを立証するための)証言を得ることに終始したものであって、請求人が有利な証言(本件審判に関する請求人の主張を裏付ける証言)を引き出すための尋問は行われなかったものである。従って、調書に記載される内容は、被請求人側(被請求人およびこれを補助参加する参加人の側)にのみ有利となる一方的なものであるから、公平でなく、本件審理の証拠としては不適当である。」(平成26年7月3日付請求人口頭審理陳述要領書2頁7(1))
(c)「請求人は、本件特許に係る特許証を発行時には確認しておらず、特許になったことのみの報告を受けただけである。従って、本件特許の特許証が発行された平成19年5月18日頃には、本件特許の特許権者の欄から請求人の氏名が除外されていることを知らなかったものである。
仮に、何かの機会に特許証を見る機会があったとしても、他件と同様の様式であることから、何ら不思議に思わなかったものである。
さらに、仮に、そのような事実を認識していたとしても、請求人は、平成24年3月31日まではNPO法人の理事であったが、平成24年4月1日に代表権喪失により理事を解任されている(甲第5号証)。参加人が提出した書類からは、その約半年後である平成24年10月19日に参加人が被請求人に対し譲渡代金請求訴訟を提起していることになっている(別表参照)。
請求人がNPO法人の理事の職を解かれた理由は、参加人からの一方的な要求であり、理事を解任される具体的な理由は明らかではない。
従って、特許証発行(平成19年5月18日)から平成25年7月3日まで無効審判を請求しなかったとしても、平成24年3月まで、請求人は、NPO法人の理事として、円満に職務を全うしてきたのであり、その理事自らが特許権を消滅させるような行動をとらなかったとしても何ら不思議なことはない。
この点については、参加人が、平成19年6月25日に譲渡契約を締結しながら、WHAの取締役を退任した後の平成24年まで譲渡代金の請求訴訟を提起していないことと同じ事情と考える。
本件審判の請求は、平成24年になって、突然、NPO法人の理事を理由なく解任されたと思えば、その後には訴訟を提起していることを聞くこととなり、それまで理解していた状態とは異なっていることに気付いたことによるものである。
このような場合に、発明者が自身の権利を主張するために取り得る手段としては、無効審判よりほかにはない。例えば、仮に前記両名に名義が残っていたとすれば、両名に対して持分の移転を請求することも可能であったが、既に被請求人に名義は移っており、もはや持分の移転を請求することは不可能である。
なお、・・・改正法が適用される前に出願された特許については、特許法第38条に違反して特許出願された場合、持分移転の請求は特許法上の規定がなく、無効審判を請求するか、または特許権者から任意に持分の移転を受けるほかに、共同発明者の権利を保護することができなかったのである・・・。」(平成26年7月25日付請求人口頭審理陳述要領書14?16頁7(8))
なお、上記「理事を解任」の部分については、後に、「請求人は、平成24年4月以降にNPO法人の登記簿謄本(項第5号証)を見る機会があり、平成24年4月1日付けでNPO法人の理事欄から本人が抹消されていることを知り、しかも、抹消の時期以降、理事会が招集されたことがないことなどから、理事を解任されたと思い込んだものである。代表権喪失による理事の変更登記は、特定非営利活動促進法の一部を改正する法律に基づくもののようであるが、そのことを知らなかったためである。」「請求人は、平成24年の代表権喪失による理事の変更登記により、理事を解任されたと誤認し、さらに、訴訟を提起していることを聞くこととなり、それまで理解していた状態とは異なっていることに気付いたものである。」と訂正。(平成26年8月28日付請求人上申書)
(d)平成26年8月8日の本人尋問で、参加人代理人の「あえて前回、萩原さんは気の毒だというふうに、実際とあなたの記憶と違う発言をした理由を教えてください。」との尋問に対して「法廷でしたので、初めての経験でしたから、とにかく頭が真っ白になりまして何も考えられなかったというか、機関銃のように聞かれたので、どうでもいいと思ったので言ってしまいました。」と、
「あなたとしては、当時から萩原さんに対しての怒りというものは持っていたわけでしょう。尋問を行ったことし3月の段階では、萩原さんに対する怒りというのは持っていたのでしょう。」との尋問に対して「持っていました。」と、
「ところが、あえてそれを言わなかった理由を教えてください。」との尋問に対して「理由ですか。ちょっとわかりません。」と、
証言した。
(e)同じく本人尋問で、参加人代理人の「宣誓をして証人が自分の記憶と反する説明をすると刑事罰に問われる可能性があると裁判官から説明はありませんでしたか。」との尋問に対して「とにかく頭が真っ白になったので、わからなくなってしまっただけです。」と、
証言した。
(f)同じく本人尋問で、参加人代理人の「あなたとしては、NPO法人を解任させられたということが審判請求をする一つの大きな動機になったということですね。」との尋問に対して「はい。」と、
証言した。
(g)同じく本人尋問で、参加人代理人の「これは制度がかわって、理事長だけを代表者として残して、理事については代表権喪失という記載を入れるという制度が24年4月から始まったのですけれども、その制度は知らないですか。」との尋問に対して「知らないです。」と、
証言した。
(h)同じく本人尋問で、参加人代理人の「そうすると、あなたは十分な調査もしないまま無効審判の申し立てをしてしまったということでいいですか。
誰にも確認したりしなかったのでしょう。」との尋問に対して「していません。」と、
証言した。
(i)同じく本人尋問で、請求人代理人の「前回の証人のときに、あなたは証言で『萩原さんがかわいそうだから』という言い方をしました。その後、本当にそういうふうに??ここに書いてあるから言っているのだけれども、本当にそう思っているのかと私が聞いたところ、あなたは、『そういうようなことを思ったこともあるのだ』ということを言っていましたね。」との尋問に対して「はい。」と、「ですけれども、そのときに、かなり頭の中が真っ白になっていて、本当は自分が、かなり腹が立っているけれども、そのことをうまく説明できなかったのだと私には言ったと、それでいいですか。」との尋問に対して「はい。」と、
証言した。
(j)同じく本人尋問で、請求人代理人の「・・・あなたの名刺の裏には特許証のコピーがあって、表には特許考案者という名前を使っていたということですね。」との尋問に対して「はい。」と、
証言した。
(k)「和解等による解決不能について
無効審判を請求した場合、その当事者による話し合いによって解決することもあるが、本件審判においては、その可能性が皆無であると判断される。本件特許について、参加人は否定するが、請求人は、共同発明者の一人であると確信している。従って、本件特許が譲渡により対価を得ることができるのであれば、請求人に対しても発明の対価が支給されてもよいのではないかと請求人は考えていた。口頭審理においては、当事者が全員出席するのであるから、話し合いによって解決する方法が選択される余地もあった。請求人は、そのような解決方法を期待していた。
しかしながら、・・・本件口頭審理では、被請求人および参加人のいずれからも和解等の提案はなされなかった。その意味においては請求人の期待が外れたというほかない。請求人が本件特許および営業面に関し幾多の貢献を果たしたにもかかわらず、被請求人および参加人は、いずれも請求人に対し対価の一部を支払うことを考えていないのである。請求人は、特に金銭に困窮している訳ではないが、被請求人および参加人のみが譲渡代金を受領することについては違和感を覚えている。よって、本件特許が無効となり、本件特許の関係者が不公平とならないよう審決を求めるところである。」(平成26年8月28日付請求人上申書7(6))
(l)「(3)請求人の動機について
既に上申書等で説明したとおりであるので、再度、主張することは避けるが、請求人は虚偽の証言をする意図など全くなく、複雑な心境であったことから、説明の内容が一部のみとなり、理解されなかったものである。いずれにしても感情的な動機であるため、その感情が揺れ動くことも仕方がない。
なお、参加人は、当事者尋問において、本件発明は参加人が一人(または浜田事務所担当者と二人)で考えたものである旨を証言している。これをそのまま理解すれば、被請求人代表者個人も発明者ではなかったという意味となる。同じように、発明者の一人に掲げながら、被請求人代表者個人が出願人となり、権利譲渡代金を受ける立場にあることについても憤りを覚えざるを得ない。また、請求人は、本件特許に関し、発明者となっていながら、特許権そのものを得ることができていなかったことについて、自分自身に対しても自ら憤りを感じている部分もある。」(平成26年9月12日付請求人上申書7(3))


3.参加人の抗弁についての判断
参加人は「請求人が発明者という肩書を用いたのは営業活動に有益という参加人の発案によるものであり、請求人は特許権が自身に帰属する等とは全く考えていませんでした。・・・請求人から何の異議も出ませんでした。・・・特許権の譲渡・放棄について請求人は当初から黙示の承認をしていたことは間違いありません。」、「請求人は元々自分に権利がないことを認識していたこと、特許権の取得に費用を拠出した被請求人代表者に帰属するものと考えている旨、静岡地方裁判所での尋問手続で証言している(丙第46号証19頁)。」、「無効審判申立を行っているが、それによってどのような利益が得られるのか分からず、申立の動機も変遷するなど真実を語っているとは到底考えられない内容である。」旨主張しているので、黙示の意思表示によって請求人は特許を受ける権利を、譲渡・放棄したと言えるか否かについて検討する。

(1)請求人が、「特許権者」でないことを認識していたかについて
請求人は、本件特許について特許になったことの報告を受けて、特許が登録されたことを知っている。(平成26年8月1日付け請求人口頭審理陳述要領書3頁)
また、請求人は、平成15年4月?少なくとも平成24年3月まで鮪文化研究会の理事であり、本件特許に基づく出資または私募債を募集する営業活動を行っており、少なくとも本件と同じく請求人が発明者となっている別件特許(特許第3584030号)の特許証(丙35)を営業活動で使用し、その「特許権者 山本明人、萩原弘之」との記載に接している。
そうすると、請求人は、私募債を募集する営業活動中に、上記別件特許の特許権者は、山本明人、萩原弘之であり、自分は特許権者ではないという状況を、認識していたとするのが相当であり、それに伴い、本件特許についても同様であると認識していたとするのが相当である。

(2)請求人が、発明者としての権利を放棄しているか否かについて
請求人が、特許出願時に「詳細な書誌的事項については関与していない」としても、その後、平成15年4月?少なくとも平成24年3月まで鮪文化研究会の理事であり、別件特許(特許第3584030号)の特許証を用いて営業活動を行っている。
そうすると、上記(1)の如く、自分は、発明者であり、特許権者ではないという状況を、認識しつつ、長期にわたりそれを容認していたのであるから、請求人は特許を受ける権利の譲渡・放棄について当初から、若しくは遅くとも理事を解任された平成24年3月までには黙示の承認をしていたと解するのが相当である。
逆に、請求人は特許を受ける権利の譲渡・放棄について承認していないとすると、請求人は理事であって、本件特許の特許証を確認することは十分可能であったはずであり、別件特許の事情をすでに知っていることからすると、本件特許の事情についても関心を持つのが自然であり、特許証を確認して何らかの行動を起こすと考えるのが通常であるが、そのような行動も確認出来ない。

(3)なお、請求人は、「本件審判の請求は、平成24年になって、突然、NPO法人の理事を理由なく解任されたと思えば、その後には訴訟を提起していることを聞くこととなり、それまで理解していた状態とは異なっていることに気付いたことによるものである。
このような場合に、発明者が自身の権利を主張するために取り得る手段としては、無効審判よりほかにはない。」「無効審判を請求するか、または特許権者から任意に持分の移転を受けるほかに、共同発明者の権利を保護することができなかったのである」旨主張し、また、平成26年8月28日請求人上申書では「本件口頭審理では、被請求人および参加人のいずれからも和解等の提案はなされなかった。その意味においては請求人の期待が外れたというほかない。・・・被請求人および参加人のみが譲渡代金を受領することについては違和感を覚えている。よって、本件特許が無効となり、本件特許の関係者が不公平とならないよう審決を求めるところである。」とも主張しているが、請求人の発明者としての権利行使が、特許登録の6年後に、さらに、代金受領を請求するものではない無効審判の形でなされたことを考慮すると、発明者としての権利行使として本件無効審判の「ほかにはない。」ものであったとは考えられず、当該主張によって、上記(2)の判断を変更する必要は認められない。

(4)まとめ
黙示の意思表示によって請求人は特許を受ける権利を、譲渡・放棄したものと認められるので、参加人の抗弁は、採用されるべきものである。


第4-4 無効理由についての判断のまとめ
「特許を受ける権利が請求人を含む3名の共有に係る」ものであるという要件事実に関し、出願書類等に「発明者 山本明人、萩原弘之、朝比奈万太郎」と記載された推認事実があり、かつ、参加人山本明人のみが発明者であるとの事実は証明されない。
一方、「請求人は特許を受ける権利を、譲渡・放棄した」ことの抗弁事実に関し、推認事実「参加人は黙示の承認によって、請求人は特許を受ける権利を、譲渡・放棄していた」があり、請求人はそれを覆す証明をしていない。
したがって、請求人朝比奈万太郎は共同発明者であるが、特許を受ける権利を、譲渡・放棄したので、本件特許出願は特許法第38条に違反したものではない。
請求人朝比奈万太郎が共同発明者でないとおぼしき証拠等もあるが、仮にそうであるとしてもその場合には、なおさら、違法とはならず、結論に影響はしない。


第5 むすび
以上のとおり、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件特許発明の請求項1?10に係る特許を無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-10 
結審通知日 2015-03-13 
審決日 2015-03-24 
出願番号 特願2005-122335(P2005-122335)
審決分類 P 1 113・ 151- Y (A01K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大塚 裕一  
特許庁審判長 中川 真一
特許庁審判官 杉浦 淳
竹村 真一郎
登録日 2007-05-18 
登録番号 特許第3957721号(P3957721)
発明の名称 魚類の養殖装置並びにその方法  
代理人 小林 雄資  
代理人 井川 浩文  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ