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審決分類 審判 査定不服 4号2号請求項の限定的減縮 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 G09G
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G09G
管理番号 1300393
審判番号 不服2014-10015  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-29 
確定日 2015-05-07 
事件の表示 特願2007-246688「電気光学装置および電子機器」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月 9日出願公開、特開2009- 75508〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この審判事件に関する出願(以下、「本願」という。)は、平成19年9月25日にされた特許出願であって、その手続の経緯の概略は、以下のとおりである。
平成24年 5月28日:拒絶理由通知(同年6月5日発送)
平成24年 8月 2日:意見書
平成24年 8月 2日:手続補正書(以下、「補正1」という。)
平成25年 6月26日:拒絶理由通知(同年7月2日発送)
平成25年 8月29日:意見書
平成25年 8月29日:手続補正書(以下、「補正2」という。)
平成26年 2月28日:補正却下
平成26年 2月28日:拒絶査定(同年3月4日送達)
平成26年 5月29日:手続補正書(以下、「本件補正」という。)
平成26年 5月29日:審判請求

第2 補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。
[理由]
1 補正の内容
本件補正は、本件補正前、すなわち補正1の特許請求の範囲の請求項1を次のように補正することを含む。なお、下線は請求人が付したものであり、補正箇所を示す。
(本件補正前)
「 光の透過率を変更可能な画素を複数備えた表示部と、
第1フィールドにおいて、第1表示用データに基づいて前記画素の光の透過率を制御し、第1フィールドに続く第2フィールドにおいて、第2表示用データに基づいて前記画素の光の透過率を制御し、前記第2フィールドに続く第3フィールドにおいて、第3表示用データに基づいて前記画素の光の透過率を制御する駆動部と、
前記画素に、前記第1フィールドにおいて第1色光を照射し、前記第2フィールドにおいて前記第1色光とは異なる色の第2色光を照射し、前記第3フィールドにおいて前記第1色光及び前記第2色光と異なる色の第3色光を照射する照射部と、
前記駆動部に、第1データに基づく前記第1表示用データを供給し、第2データに基づく前記第2表示用データを供給し、第3データに基づく前記第3表示用データを供給する表示用データ供給部とを備え、
前記表示用データ供給部は、前記第1データが前記画素の光の透過率を最小値するデータであり、前記第2データが前記画素の光の透過率を前記最小値よりも大きい値とするデータである場合、前記第1表示用データにより制御される前記画素の光の透過率が、前記最小値より大きく、且つ、前記大きい値より小さくなるように前記第1表示用データを変換する変換部を備えることを特徴とする電気光学装置。」

(本件補正後)
「 光の透過率を変更可能な画素を複数備えた表示部と、
第1フィールドにおいて、第1表示用データに基づいて前記画素の光の透過率を制御し、第1フィールドに続く第2フィールドにおいて、第2表示用データに基づいて前記画素の光の透過率を制御し、前記第2フィールドに続く第3フィールドにおいて、第3表示用データに基づいて前記画素の光の透過率を制御する駆動部と、
前記画素に、前記第1フィールドにおいて第1色光を照射し、前記第2フィールドにおいて前記第1色光とは異なる色の第2色光を照射し、前記第3フィールドにおいて前記第1色光及び前記第2色光と異なる色の第3色光を照射する照射部と、
前記駆動部に、第1データに基づく前記第1表示用データを供給し、第2データに基づく前記第2表示用データを供給し、第3データに基づく前記第3表示用データを供給する表示用データ供給部とを備え、
前記表示用データ供給部は、前記第1データが前記画素の光の透過率を最小値するデータであり、前記第2データが前記画素の光の透過率を前記最小値よりも大きい値とするデータである場合、前記第1表示用データにより制御される前記画素の光の透過率が、前記最小値より大きく、且つ、前記大きい値より小さくなるように前記第1表示用データを変換し、前記第1データと前記第2データとが前記画素の光の透過率を所定の値にするデータであり、前記第3データが前記画素の光の透過率を前記所定の値よりも小さい値にするデータである場合、前記第1表示用データにより制御される前記画素の光の透過率よりも小さくなるように前記第2表示用データを変換する変換部を備えることを特徴とする電気光学装置。」

2 補正の適否(補正の目的要件)について
本件補正のうち、請求項1についての補正は、「変換部」に関して、補正前の請求項1に記載された「前記第1データが前記画素の光の透過率を最小値するデータであり、前記第2データが前記画素の光の透過率を前記最小値よりも大きい値とするデータである場合、前記第1表示用データにより制御される前記画素の光の透過率が、前記最小値より大きく、且つ、前記大きい値より小さくなるように前記第1表示用データを変換する」という発明特定事項とは別に、「前記第1データと前記第2データとが前記画素の光の透過率を所定の値にするデータであり、前記第3データが前記画素の光の透過率を前記所定の値よりも小さい値にするデータである場合、前記第1表示用データにより制御される前記画素の光の透過率よりも小さくなるように前記第2表示用データを変換する」という発明特定事項を追加するものであるところ、当該追加された発明特定事項は、補正前の請求項1に記載された発明特定事項を限定するものではなく、補正前の請求項1に記載された発明特定事項とは別個の作用を有する発明特定事項を付加するものであるから、請求項1についての補正は、限定的減縮であるとはいえない。(「特許・実用新案審査基準」第III部第III節4.3.2(2)のなお書きを参照。)
また、請求項1において、上記の発明特定事項を追加することが、誤記の訂正であるとも、また、明りょうでない記載の釈明であるともいうことはできない。
したがって、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

3 補正の適否(特許法第29条第2項による独立特許要件)について
(1)本件補正発明
本件補正によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される発明のうち、その請求項1に係る発明は、上記「第2 1 (本件前正後)」に記載したとおりである。(以下、「本件補正発明」という。)

(2)引用例記載の事項・引用発明
ア 引用例1
原査定の拒絶の理由に引用され、本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である特開2006-227458号公報(発明の名称:フィールドシーケンシャル液晶表示装置、出願人:セイコーインスツル株式会社、公開日:平成18年8月31日、以下、「引用例1」という。)には、次の事項(a)ないし(d)が図面とともに記載されている。なお、下線は、当審が付与した。
(a)
「【0014】
本発明の液晶表示装置は、ツイストネマティック液晶層を備え、ねじれピッチpと前記ツイストネマティック液晶層の厚みとなる間隙dとの間に、p/d<20の関係を有する液晶表示素子を、各温度に対するリセット電圧と表示データの書き込み電圧に対する、液晶表示素子の応答速度を記憶したデータテーブルを使用して、フィールドシーケンシャル方式を用い液晶表示素子を駆動する。このような液晶表示装置を搭載した携帯型情報端末によれば、冬場の屋外に相当する0℃以下の温度環境下で使用しても、色再現性の低下と3原色表示時の輝度低下を両立して改善できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のフィールドシーケンシャル液晶表示装置は、各色に対応する画像データを液晶表示素子に書き込み、各色の画像データ書込みに同期させて各色を発光するバックライトを用いてその色の画像データに応じた画像を表示している。ここで、液晶表示素子はツイストネマティック液晶層を備え、ツイストネマティック液晶層の液晶分子のねじれピッチpとツイストネマティック液晶層の厚みdとの間にp/d<20の関係を有している。そして、表示データの書き込みに先立って液晶分子を基板面に対して立たせるリセット電圧を印加し、その後、データテーブルから参照したリセット電圧と表示データの書き込み電圧によりデータ表示を行なうとともに、データテーブルには、各温度に対応するリセット電圧と表示データの書き込み電圧と、これらに対する液晶表示素子の応答速度が記憶されている。」
(b)
「【0020】
本実施例の液晶表示装置の構成を図1に模式的に示す。図示するように、TFTアレイ基板8にはプレーナ型のTFTスイッチ7を作成し、図では省略するが、TFTアレイを形成することで、TFTスイッチ7によるアレイ状の画素電極6を形成している。また、図では省略するが、TFT画素スイッチは走査用のゲート電極とデータ書き込み用のソース電極も形成されいわゆるアクティブマトリックス駆動できる構成になっている。TFTアレイ基板8に対向して、対向電極2が形成された対向基板1を設けている。」
(c)
「【0032】
図7は色変換演算のフローを示す模式図である。入力された、RGBの画像データは色変換マトリックス演算により補正係数a、b、c、d、e、f、g、h、iにより新たな画像データR'、G'、B'に変換される。補正係数a、b、c、d、e、f、g、h、は入力された、RGBの画像データと温度による応答速度を記憶したデータテーブルとフィールド期間により算出される。
【0033】
図8と図9により色変換演算のフローの例を模式的に説明する。図8は-20℃における通常の駆動を用いたフィールドシーケンシャルで緑単色を表示した場合の駆動電圧と液晶の透過率応答を表すタイミングチャートである。赤・青・緑のフィールド時間内にリセットと画像データの書き込みを行う方式を取っている。緑単色の表示はリセット後に書き込む電圧で、白を1で規格化している。Rデータは0、Gデータは1、Bデータは0となり、液晶に印加される。その透過率応答はRでは黒状態、Gではゆっくり透過率が上昇するが、十分明るくなる前にBのリセットで黒になってしまう。実際の液晶の応答は電圧変化時からの遅延があるので、フィールドの切り替えタイミングから少し遅れる。結局Gの輝度は暗くなる。
【0034】
一方、本発明の方法を使用した、-20℃における通常の駆動を用いたフィールドシーケンシャルで緑単色を表示した場合の駆動電圧と液晶の透過率応答を表すタイミングチャートを図9に示す。演算前の画像データは、Rデータは0、Gデータは1、Bデータは0である。演算に使用する補正係数はa=0、B=0.3、c=0、d=0、e=1、f=0、G=0、h=0、i=0である。Bを0.3にするのは、Gの前のフィールドであるRフィールドからGフィールドのための応答を助走するための電圧データである。助走によるR本来のデータと異なるが、実際の液晶透過率応答はRフィールド内で透過することは出来ないので問題とならない。Rデータは0.3、Gデータは1、Bデータは0となり、液晶に印加される。その透過率応答は、Rでは助走されるが応答の遅れにより黒状態、GではRの助走の効果で速やかに明るくなり飽和状態に近い透過率となる。そのため、十分明るくなる。結局、画像データに同期し、バックライトの赤、緑、青の3色の発光タイミングを透過率が最大で発光させれば、より明るくなる。」
(d)
図8,9には、Rフィールド、Gフィールド、Bフィールドの順番のフィールドシーケンシャルの駆動電圧と液晶の透過率応答を表すタイミングチャートが図示されている。

(ア)
前記(a)の記載から、
「各色に対応する画像データを液晶表示素子に書き込み、各色の画像データ書込みに同期させて各色を発光するバックライトを用いてその色の画像データに応じた画像を表示するフィールドシーケンシャル液晶表示装置」であるとの技術事項が読み取れる。
(イ)
前記(b)の記載から、
「TFTスイッチ7によるアレイ状の画素電極6を形成し、また、TFT画素スイッチは走査用のゲート電極とデータ書き込み用のソース電極も形成されいわゆるアクティブマトリックス駆動できる構成になって」いるとの技術事項が読み取れる。
(ウ)
前記(a)及び(d)より、
「Rフィールド、Gフィールド、Bフィールドの順番のフィールドシーケンシャル方式を用いて駆動され」るとの技術事項が読み取れる。
(エ)
前記(c)の記載から、
「フィールドシーケンシャルで緑単色を表示した場合、Rデータは0、Gデータは1、Bデータは0である演算前の画像データは、Rデータは0.3、Gデータは1、Bデータは0となり、液晶に印加され、透過率応答は、GではRの助走の効果で速やかに明るくなり飽和状態に近い透過率となる」との技術事項が読み取れる。

以上の技術事項をまとめると、引用例1には次の発明が記載されているものと認められる。
「各色に対応する画像データを液晶表示素子に書き込み、各色の画像データ書込みに同期させて各色を発光するバックライトを用いてその色の画像データに応じた画像を表示するフィールドシーケンシャル液晶表示装置であって、
TFTスイッチ7によるアレイ状の画素電極6を形成し、また、TFT画素スイッチは走査用のゲート電極とデータ書き込み用のソース電極も形成されいわゆるアクティブマトリックス駆動できる構成になっており、
Rフィールド、Gフィールド、Bフィールドの順番のフィールドシーケンシャル方式を用いて駆動され、
フィールドシーケンシャルで緑単色を表示した場合、Rデータは0、Gデータは1、Bデータは0である演算前の画像データは、Rデータは0.3、Gデータは1、Bデータは0となり、液晶に印加され、透過率応答は、GではRの助走の効果で速やかに明るくなり飽和状態に近い透過率となる、
フィールドシーケンシャル液晶表示装置。」(以下、「引用発明」という。)

イ 引用例2
本願出願前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である「Kazuo SEKIYA et al,“LP-4: Late-News Poster: Overdrive for Compensating Color-Shift on Field Sequential Color TFT-LCDs”,SID'04 DIGEST,2004年5月25日,pp.408-411」(以下「引用例2」という。)には、次の事項(a)及び(b)が図面とともに記載されている。なお、摘記箇所に続いて当審訳を記載する。また、当審訳に付与されている下線は、当審が付与したものである。
(a)
「ABSTRACT
This paper points out that field sequential color method causes color-shift artifact on TFT-LCDs in its nature, and that overdrive scheme can work for the purpose of eliminating the artifact. 」(第408頁左欄「ABSTRACT 」)
「要約
本論文は、フィールドシーケンスカラー方法は、TFT液晶ディスプレーのカラーシフトのアーチファクトを事実上生じるものであること、また、そのオーバードライブスキームは、アーチファクトをなくす目的で働くことを指摘している。」
(b)
「Figure 2 shows a measurement on optical transmittance of pixels displaying whitish yellow (R=G=200/255,B=20/255, all values in linear scale of 8bits) without overdriving. The graph contains a response for 3 frames, i.e., 9 fields. The measured values are direct read of the current of a photo diode. ・・・ In figure 2, RGB field boundaries and the corresponding LED lighting timings are also shown. ・・・ Evidently the peak of R is lower than the peak of G and the luminance produced with this response is different between R and G, while the intended R and G luminance are same ? the resulted color is shifted to green from the targeted chromaticity.」(第410頁左欄第8行?第26行)
「図2は、オーバードライブしないで白っぽい黄色(R=G=200/255、B=20/255、全ての値は、8ビットのリニアスケールである。)を表示する画素の光透過率の測定を示している。グラフは3つのフレームの応答、すなわち、9つのフィールドを含んでいる。 測定値は、フォトダイオードの電流を直読したものである。・・・図2には、RGBフィールドの境界と、それと対応するLED発光タイミングも示されている。・・・RとGの輝度が同じであると意図されたが、明らかにRのピークがGのピークより低く、それによって生じた輝度はRとGの間で異なっている。- 結果として生じる色は、目標の色度から緑にシフトされる。」

(ア)
前記(a)及び(b)の記載から、引用例2には、「フィールドシーケンスカラー方法は、TFT液晶ディスプレーのカラーシフトのアーチファクトを事実上生じるものであり、白っぽい黄色(R=G=200/255、B=20/255、全ての値は、8ビットのリニアスケールである。)を表示する場合、RとGの輝度が同じであると意図されたが、明らかにRのピークがGのピークより低く、それによって生じた輝度はRとGの間で異なり、 結果として生じる色は、目標の色度から緑にシフトされる。」との技術事項が記載されているといえる。

(3)対比
本件補正発明と引用発明とを、主たる構成要件毎に順次対比する。

引用発明の「液晶表示装置」は、電圧を掛けることで光透過率を変化する「液晶」を用いた装置であるから、本件補正発明の「電気光学装置」に相当するといえる。

引用発明における「各色に対応する画像データを液晶表示素子に書き込み、各色の画像データ書込みに同期させて各色を発光するバックライトを用いてその色の画像データに応じた画像を表示するフィールドシーケンシャル液晶表示装置」は、「アクティブマトリックス駆動できる構成」の「液晶表示装置」であり、マトリックス状の複数の画素を有する液晶表示部を有することは明らかであるから、引用発明の「画像データに応じた画像を表示するフィールドシーケンシャル液晶表示装置」は、本件補正発明の「光の透過率を変更可能な画素を複数備えた表示部」を備えているということができる。

引用発明は、「Rフィールド、Gフィールド、Bフィールドの順番のフィールドシーケンシャル方式を用いて駆動され」ることから、引用発明の「Rフィールド」、「Gフィールド」、及び「Bフィールド」は、本件補正発明の「第1フィールド」、「第1フィールドに続く第2フィールド」、及び「前記第2フィールドに続く第3フィールド」にそれぞれ相当する。

引用発明は、「各色に対応する画像データを液晶表示素子に書き込み」を行うものであって、液晶表示素子に書き込まれる各色に対応する画像データは、本件補正発明の「第1表示用データ」、「第2表示用データ」、「第3表示用データ」に相当するから、引用発明の「フィールドシーケンシャル液晶表示装置」は、本件補正発明の「第1フィールドにおいて、第1表示用データに基づいて前記画素の光の透過率を制御し、第1フィールドに続く第2フィールドにおいて、第2表示用データに基づいて前記画素の光の透過率を制御し、前記第2フィールドに続く第3フィールドにおいて、第3表示用データに基づいて前記画素の光の透過率を制御する駆動部」を備えているということができる。また、引用発明における「各色の画像データ書込みに同期させて各色を発光するバックライト」は、「Rフィールド、Gフィールド、Bフィールドの順番」に同期させてR、G、Bのバックライトを発光するものであるから、本件補正発明の「前記画素に、前記第1フィールドにおいて第1色光を照射し、前記第2フィールドにおいて前記第1色光とは異なる色の第2色光を照射し、前記第3フィールドにおいて前記第1色光及び前記第2色光と異なる色の第3色光を照射する照射部」に相当する。

引用発明の「フィールドシーケンシャルで緑単色を表示した場合、Rデータは0、Gデータは1、Bデータは0である演算前の画像データは、Rデータは0.3、Gデータは1、Bデータは0となり、液晶に印加され」ることにおいて、「演算前の画像データ」である「Rデータ」、「Gデータ」、及び「Bデータ」は、本件補正発明の「第1データ」、「第2データ」、及び「第3データ」にそれぞれ相当し、「演算」された後の液晶表示素子に書き込まれる画像データである「Rデータ」、「Gデータ」、及び「Bデータ」は、本件補正発明の「第1データに基づく前記第1表示用データ」、「第2データに基づく前記第2表示用データ」、及び「第3データに基づく前記第3表示用データ」にそれぞれ相当するから、引用発明の「フィールドシーケンシャル液晶表示装置」は、本件補正発明の「前記駆動部に、第1データに基づく前記第1表示用データを供給し、第2データに基づく前記第2表示用データを供給し、第3データに基づく前記第3表示用データを供給する表示用データ供給部」を備えているということができる。
また、引用発明において、「演算前の画像データ」が、「Rデータは0、Gデータは1、Bデータは0」である場合、つまり、「フィールドシーケンシャルで緑単色を表示した場合」は、Rデータ(第1データ)が0(最小値)であり、Gデータ(第2データ)が1(最小値よりも大きい値)を意味するから、本件補正発明の「前記第1データが前記画素の光の透過率を最小値するデータであり、前記第2データが前記画素の光の透過率を前記最小値よりも大きい値とするデータである場合」に相当する。
そして、引用発明において、「演算」された後、「Rデータは0.3、Gデータは1、Bデータは0となり、液晶に印加され、透過率応答は、GではRの助走の効果で速やかに明るくなり飽和状態に近い透過率となる」ことは、演算前のRデータ(第1データ)である0が、演算により、液晶表示素子に書き込まれるRデータ(第1表示用データ)として0.3に変換されることを意味するものである。
ここで、0.3は、最小値である0よりも大きく、且つ、最小値よりも大きい値とするGデータ(第2データ)の1より小さい値であるから、引用発明は、本件補正発明の「前記第1表示用データにより制御される前記画素の光の透過率が、前記最小値より大きく、且つ、前記大きい値より小さくなるように前記第1表示用データを変換」する「変換部」を備えているということができる。

してみると、両者の一致点及び相違点は、以下のとおりである。
(一致点)
「光の透過率を変更可能な画素を複数備えた表示部と、
第1フィールドにおいて、第1表示用データに基づいて前記画素の光の透過率を制御し、第1フィールドに続く第2フィールドにおいて、第2表示用データに基づいて前記画素の光の透過率を制御し、前記第2フィールドに続く第3フィールドにおいて、第3表示用データに基づいて前記画素の光の透過率を制御する駆動部と、
前記画素に、前記第1フィールドにおいて第1色光を照射し、前記第2フィールドにおいて前記第1色光とは異なる色の第2色光を照射し、前記第3フィールドにおいて前記第1色光及び前記第2色光と異なる色の第3色光を照射する照射部と、
前記駆動部に、第1データに基づく前記第1表示用データを供給し、第2データに基づく前記第2表示用データを供給し、第3データに基づく前記第3表示用データを供給する表示用データ供給部とを備え、
前記表示用データ供給部は、前記第1データが前記画素の光の透過率を最小値するデータであり、前記第2データが前記画素の光の透過率を前記最小値よりも大きい値とするデータである場合、前記第1表示用データにより制御される前記画素の光の透過率が、前記最小値より大きく、且つ、前記大きい値より小さくなるように前記第1表示用データを変換する変換部を備えることを特徴とする電気光学装置。」

(相違点)
本件補正発明は、「前記第1データと前記第2データとが前記画素の光の透過率を所定の値にするデータであり、前記第3データが前記画素の光の透過率を前記所定の値よりも小さい値にするデータである場合、前記第1表示用データにより制御される前記画素の光の透過率よりも小さくなるように前記第2表示用データを変換する」のに対し、引用発明は、そのような変換をしていない点で相違している。

(4)判断
上記相違点について検討する。
引用例2に、「フィールドシーケンスカラー方法は、TFT液晶ディスプレーのカラーシフトのアーチファクトを事実上生じるものであり、白っぽい黄色(R=G=200/255、B=20/255、全ての値は、8ビットのリニアスケールである。)を表示する場合、RとGの輝度が同じであると意図されたが、明らかにRのピークがGのピークより低く、それによって生じた輝度はRとGの間で異なり、 結果として生じる色は、目標の色度から緑にシフトされている。」との技術事項が記載されている。(上記(2)イ(ア)参照。)
ここで、フィールドシーケンスカラー方法で、TFT液晶ディスプレーで白っぽい黄色(R=G=200/255、B=20/255)を表示する場合とは、「R=G=200/255」が、本件補正発明の「前記第1データ(R)と前記第2データ(G)とが前記画素の光の透過率を所定の値(200/255)にするデータ」に相当し、「B=20/255」が、本件補正発明の「前記第3データ(B)が前記画素の光の透過率を前記所定の値よりも小さい値(20/255)にするデータ」に相当するから、本件補正発明における「前記第1データと前記第2データとが前記画素の光の透過率を所定の値にするデータであり、前記第3データが前記画素の光の透過率を前記所定の値よりも小さい値にするデータである場合」に相当する。
そして、引用例2に、白っぽい黄色を表示する場合に、「RとGの輝度が同じであると意図されたが、明らかにRのピークがGのピークより低く、それによって生じた輝度はRとGの間で異なり、 結果として生じる色は、目標の色度から緑にシフトされる」ということが記載されていることから、目標の色度が緑色にシフトしてしまうのを防ぐため、相対的にG(緑色)のデータ(「第2の表示データ」)を、R(赤色)のデータ(「第1の表示データ」)よりも小さくし、結果として目標の色度となるように調整する程度のことは、当業者の通常の創作能力の発揮の域を出るものではない。

引用発明は、フィールドシーケンシャル液晶表示装置において緑単色を表示した場合の発明であるが、フィールドシーケンシャル液晶表示装置としては、緑単色だけでなく、白っぽい黄色を表示することは十分に想定されることであり、引用例2に記載された、フィールドシーケンスカラー方法で、TFT液晶ディスプレーで白っぽい黄色を表示する場合の技術事項に接した当業者にとって、引用発明のフィールドシーケンシャル液晶表示装置で白っぽい黄色を表示する場合に、同じであると意図されたRデータ及びGデータを、相対的にGデータ(「第2の表示データ」)を、Rのデータ(「第1の表示データ」)よりも小さくするよう演算し、本件補正発明のように「前記第1データと前記第2データとが前記画素の光の透過率を所定の値にするデータであり、前記第3データが前記画素の光の透過率を前記所定の値よりも小さい値にするデータである場合、前記第1表示用データにより制御される前記画素の光の透過率よりも小さくなるように前記第2表示用データを変換」することは、当業者が容易に想到し得ることである。
そして、本件補正発明の作用効果も、引用発明及び引用例2に記載された技術事項から当業者が予測可能なものであって格別のものではない。

(5)まとめ
以上のとおり、本件補正発明は、引用発明及び引用例2に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

4 補正の適否(特許法第36条第2項による独立特許要件)について
請求項2に記載された発明特定事項、すなわち、「前記第2データが前記画素の光の透過率を最大値とするデータである場合、前記第1表示用データが、前記第1表示用データにより制御される前記画素の光の透過率が前記最小値より大きく、且つ、前記最大値よりも小さくなるようにすること」と、引用する請求項1において本件補正により追加された発明特定事項、すなわち、「前記第1データと前記第2データとが前記画素の光の透過率を所定の値にするデータであり、前記第3データが前記画素の光の透過率を前記所定の値よりも小さい値にするデータである場合、前記第1表示用データにより制御される前記画素の光の透過率よりも小さくなるように前記第2表示用データを変換する」こととの関係について検討する。
ここで、請求項2に記載された発明特定事項のとおり、「前記第2データが前記画素の光の透過率を最大値とするデータである場合」を、本件補正により追加された発明特定事項に当てはめてみると、「第1データ」と「第2データ」とがいずれも「画素の光の透過率を最大値とするデータ」である、すなわち、「所定の値」が「最大値」であり、かつ、「第3データ」について「最大値」よりも「小さい値」であったとき、「第1表示用データ」について「最小値よりも大きく」「最大値よりも小さくなるようにする」とともに、「第2表示用データ」について「前記第1表示用データにより制御される前記画素の光の透過率よりも小さくなるように」することとなる。このとき「最小値よりも大き」な「第1表示用データ」よりも小さくなるように変換される「第2表示用データ」は、「最小値」とするものを含むことになるが、変換前に「最大値」であったものを表示データとしては「最小値」に変換することは、表示上は意図しないものとなってしまうと考えられ、不合理であるから、補正後の請求項2に係る発明は明確でない。
また、請求項2を直接又は間接的に引用する場合の請求項3?5に係る発明についても同様である。
したがって、本件補正の特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていないため、本件補正の請求項2?5に係る発明は、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5 補正の適否についてのまとめ
上記「2」のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第5項の各号に掲げるいずれの事項を目的とするものにも該当せず、同法第17条の2第5項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。また、本件補正が限定的減縮を目的とするものといえたとしても、補正後の請求項1?5に係る発明は、上記「3」、「4」のとおり、特許出願の際独立して特許を受けることができず、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するものであるから、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下されるべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし5に係る発明は、補正1によって補正された特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定されるとおりのものと認められるところ、その請求項1に係る発明は、上記「第2 1 (本件補正前)」に記載したとおりである。(以下、「本願発明」という。)

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は、概略、特許請求の範囲に記載の各発明は、いずれも出願前に国内又は外国において頒布された刊行物である引用例1に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができず、また、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない、というものである。

3 引用例記載の事項・引用発明
原査定の拒絶の理由に引用された引用例1に記載の事項及び引用発明は、前記「第2 3(2)ア」に記載したとおりである。

4 対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した本件補正発明から、変換部について「前記第1データと前記第2データとが前記画素の光の透過率を所定の値にするデータであり、前記第3データが前記画素の光の透過率を前記所定の値よりも小さい値にするデータである場合、前記第1表示用データにより制御される前記画素の光の透過率よりも小さくなるように前記第2表示用データを変換する」との特定を省いたものであり、本件補正発明と引用発明との上記相違点に関する構成が省かれたものである。
そうすると、本願発明と引用発明との対比において、相違点はない。

5 むすび
以上のとおり、本願発明は引用発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、他の請求項に係る発明について審理するまでもなく、本願は拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-04 
結審通知日 2015-03-10 
審決日 2015-03-23 
出願番号 特願2007-246688(P2007-246688)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (G09G)
P 1 8・ 121- Z (G09G)
P 1 8・ 113- Z (G09G)
P 1 8・ 572- Z (G09G)
P 1 8・ 575- Z (G09G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小川 浩史  
特許庁審判長 酒井 伸芳
特許庁審判官 中塚 直樹
森 竜介
発明の名称 電気光学装置および電子機器  
代理人 渡辺 和昭  
代理人 上柳 雅誉  

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