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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 H01L
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 H01L
管理番号 1300490
審判番号 不服2014-3781  
総通号数 186 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-06-26 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-02-28 
確定日 2015-05-07 
事件の表示 特願2009-182931「サブストレート型太陽電池用の複合膜及びその製造方法」拒絶査定不服審判事件〔平成22年 4月15日出願公開、特開2010- 87479〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、特許法第41条に基づく優先権主張を伴う平成21年8月6日(優先日:平成20年8月8日、出願番号:特願2008-205867号及び優先日:平成20年9月2日、出願番号:特願2008-224508号)の出願であって、平成25年9月30日に手続補正がなされたが、同年12月2日付けで拒絶査定がなされた。
これに対し、平成26年2月28日に拒絶査定に対する審判請求がなされ、同時に手続補正がなされたものである。
その後、平成27年1月26日に上申書が提出され、同年2月16日に当合議体により面接がなされた。

第2 平成26年2月28日付けの手続補正についての補正の却下の決定
[補正の却下の決定の結論]
平成26年2月28日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正後の請求項1に記載された発明
平成26年2月28日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)により、本願の特許請求の範囲の請求項1は、特許請求の範囲の減縮を目的として、以下のように補正された。
「基材上に導電性反射膜が形成され、前記導電性反射膜上に透明導電膜が形成された2層からなる複合膜において、
前記導電性反射膜が金属ナノ粒子として銀ナノ粒子を含む導電性反射膜用組成物を焼成後の厚さが0.05?2.0μmになるように湿式塗工法を用いて塗布し、温度20?120℃で乾燥した後、130?400℃の温度で焼成することにより形成され、
前記透明導電膜が導電性酸化物微粒子を含む透明導電膜用組成物を焼成後の厚さが0.01?0.5μmになるように湿式塗工法を用いて塗布し、温度20?120℃で乾燥した後、130?400℃の温度で焼成することにより形成され、
前記導電性反射膜の前記透明導電膜側の接触面に出現する気孔の平均直径が100nm以下、前記気孔が位置する平均深さが100nm以下、前記気孔の数密度が30個/μm^(2)以下であることを特徴とするサブストレート型太陽電池用の複合膜。」

そこで、本件補正後の上記請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか否かについて、以下に検討する。

2.引用文献
原査定の拒絶の理由に引用され、本願の優先日前に頒布された刊行物である、特開平10-326903号公報(以下「引用文献1」という。)には、以下の事項が記載されている。
(1)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、太陽電池、光センサーまたは表示素子等に適用され、複数種類の微粒子とバインダーとを混合させた混合液を基体上に塗布することにより成膜される微粒子塗布膜に関する。」
(2)「【0022】図1は、本発明の一実施形態にかかる微粒子塗布膜が適用された薄膜太陽電池の概略断面を示す図である。この薄膜太陽電池は、ガラス基体1、微粒子塗布膜2、透明導電膜3、非晶質半導体層4であるp層5、i層6、n層7、裏面電極8および金属薄膜裏面電極9が積層されて構成されている。
【0023】微粒子塗布膜2は、複数種類(図1では2種類)の微粒子A,BとバインダーCとを混合させた混合液をガラス基体1上に塗布されて形成されたものである。バインダーCの形成分子成分の1つにはシリコンのアルコキシドを原料とするSiO_(2)(酸化ケイ素)が用いられ、複数種類の微粒子のうち1種類の微粒子AにバインダーCの形成分子成分と同じ原料であるSiO_(2)が用いられている。このように、微粒子AにSiO_(2)を用いることにより、低コストでかつ比較的低温での薄膜形成が可能となる。ここで、バインダーの組成構成を表1に示す。
【0024】
【表1】(省略)
また、微粒子塗布膜2では、他の微粒子BにTiO_(2)(酸化チタン)が用いられている。なお、他の微粒子BにはTiO_(2)の代わりに、Al_(2)O_(3)(酸化アルミニウム)、ZrO_(2)(酸化ジルコニウム)、ITO(酸化インジウム錫)、SnO_(2)(酸化錫)またはMgF_(2)(フッ化マグネシウム)等のうちのいずれか1つあるいは複数種類が用いられてもよい。上記他の微粒子Bを用いることにより、透光性の高い微粒子塗布膜2を得ることができる。」
(3)「【0027】次に、微粒子塗布膜2の作製方法について説明する。ここでは、まず、微粒子A,Bを分散媒中に分散させて微粒子分散液を作製する。この場合、2種類の微粒子A,Bをそれぞれの分散液中に分散させ作製した後、それぞれの分散液を混合してもよいし、1つの分散液中に2種類の微粒子A,Bを分散させてもよい。
【0028】ここで、分散に必要な溶媒としては、水、アルコール類またはエタノール類等の有機溶媒を使用する。微粒子A,Bを分散液中に分散させる方法としては、ボールミル、ビーズミル、超音波振動またはスターラー等を用いる。
【0029】また、分散液中で微粒子A,Bが凝集して2次粒子の粒径が大きくなったり、巨大化して沈殿したりするのを防ぐために、カップリング剤を使用してもよい。カップリング剤としては、シラン系、チタン系、アルミニウム系、ジルコニウム系またはマグネシウム系等を用いることができる。あるいは、界面活性剤等を使用してもよい。
【0030】次に、このようにして作製したSiO_(2)の微粒子分散液(微粒子の平均粒径20nm、固形分10質量%、分散媒エチルアルコール)、およびTiO_(2)の微粒子分散液(微粒子の平均粒径15nm、固形分10質量%、分散媒エチルアルコール)とバインダーCとを混合させる。
【0031】混合液中のそれぞれの微粒子分散液とバインダーCとの質量比は、SiO_(2)の微粒子分散液:TiO_(2)の微粒子分散液:バインダーC=1:1:2である。すなわち、混合液中の2種類の微粒子A,Bの合計質量とバインダーCの質量との比は、微粒子分散液中の固形分:バインダーC=1:1の割合で一定とされている。なお、微粒子A,Bの合計質量とバインダーCの質量との比としては、1:1?10:1程度の割合であることがより望ましい。なぜなら、微粒子分散液中の固形分の質量比が1:1より小さいと、塗布膜表面の凹凸が形成されにくく、10:1より大きいとガラス基体1に混合液が密着しにくくなるからである。
【0032】なお、2種類の微粒子A,BとバインダーCとを混合させる場合、微粒子A,Bに対してそれぞれの分散液を作製して混合させる代わりに、2種類の微粒子A,Bを直接バインダーC中に分散させるという方法でもよい。混合させた後は、スターラー等を使用して撹拌すると微粒子A,Bが混合液全体に均一に分散する。」
(4)「【0041】次に、図1に示した微粒子塗布膜2が適用された薄膜太陽電池の作製手順を説明する。ガラス基体1上に、凹凸を有する微粒子塗布膜2を作製し、次いで、例えば、スパッタリング法により透明導電膜3を形成する。上記スパッタリング法に代えて蒸着法やCVD法を用いてもよい。また、透明導電膜3の原料としては、ITO、SnO_(2)またはZnO(酸化亜鉛)等を用いることができる。
【0042】その後、プラズマCVD装置等で非晶質半導体層4のp層5、i層6、n層7を形成する。この場合、p層5は150nm、i層6は500nm、n層7は350nmの膜厚に形成する。各層の形成条件の一例を表2に示す。
【0043】
【表2】(省略)
次いで、裏面電極8としてスパッタリング法によりZnOを膜厚約50nm、金属薄膜裏面電極9としてAg(銀)を膜厚約500nmで製膜した。」
(5)「【0050】また、上記薄膜太陽電池に適用された微粒子塗布膜2の形成位置は上記に限らず、例えば図4に示すように、非晶質半導体層4と裏面電極8との間に形成してもよい。この構成においても上記薄膜太陽電池と同様の光拡散効果を得ることができる。なお、図中、10は保護層である。」
(6)「【0052】また、バインダーには、その形成分子成分の1つにTiO_(2)、Al_(2)O_(3)、ZrO_(2)、ITO、SnO_(2)またはMgF_(2)等が用いられてもよい。」
(7)【図1】

(8)【図4】

(9)図4からは、光がガラス基体1と反対方向から入射していることが見てとれるから、図4に記載された太陽電池がサブストレート型であることがわかる。

これらの記載事項を含む引用文献1全体の記載及び当業者の技術常識を総合すれば、引用文献1には、以下の発明が記載されている。
「ガラス基体(1)上に、裏面電極(8)としてスパッタリング法によりZnOを膜厚約50nm製膜し、その上に微粒子としてITO(酸化インジウム錫)を含み凹凸を有する微粒子塗布膜(2)を湿式塗布工法を用いて作製した、
サブストレート型太陽電池用の膜構造。」(以下「引用発明」という。)

3.対比
補正発明と引用発明を対比する。
(1)引用発明の「ガラス基体」は補正発明の「基材」に相当する。引用発明がサブストレート型太陽電池用の膜構造であることから、引用発明の「微粒子塗布膜」が導電性を有することは明らかである。また、該微粒子塗布膜は光拡散効果を得るためのもの(上記摘記事項(5)参照)であるから、透明であることを排除しない(上記摘記事項(2)参照)。
これらのことから、引用発明の、ガラス基体上の「裏面電極」及びその上の「微粒子塗布膜」と補正発明の「前記導電性反射膜上に透明導電膜が形成された2層からなる複合膜」は、ともに「導電性膜上に透明導電膜が形成された2層からなる複合膜」である点で共通する。
(2)引用発明の「微粒子としてITO(酸化インジウム錫)を含」む構成は補正発明の「透明導電膜が導電性酸化物微粒子を含む」構成に相当するから、引用発明の「微粒子塗布膜」と補正発明の「透明導電膜」は、ともに「透明導電膜が導電性酸化物微粒子を含む透明導電膜用組成物を湿式塗工法を用いて塗布することにより形成され」る点で共通する。
(3)引用発明の「サブストレート型太陽電池用の膜構造」は補正発明の「サブストレート型太陽電池用の複合膜」に相当する。

してみると、両者は、
「基材上に導電性膜が形成され、前記導電性膜上に透明導電膜が形成された2層からなる複合膜において、
前記透明導電膜が導電性酸化物微粒子を含む透明導電膜用組成物を湿式塗工法を用いて塗布することにより形成された、
サブストレート型太陽電池用の複合膜。」
の点で一致し、次の各点で相違している。

(相違点1)
導電性膜が、補正発明では「金属ナノ粒子として銀ナノ粒子を含む導電性反射膜用組成物を焼成後の厚さが0.05?2.0μmになるように湿式塗工法を用いて塗布し、温度20?120℃で乾燥した後、130?400℃の温度で焼成することにより形成され」た反射膜であるのに対して、引用発明では「スパッタリング法によりZnOを膜厚約50nm製膜し」た「裏面電極」である点。
(相違点2)
透明導電膜が、補正発明では「透明導電膜用組成物を焼成後の厚さが0.01?0.5μmになるように塗布し、温度20?120℃で乾燥した後、130?400℃の温度で焼成することにより形成され」るのに対して、引用発明ではその焼成後の厚さ、乾燥温度及び焼成温度が不明な点。
(相違点3)
補正発明では「導電性反射膜の前記透明導電膜側の接触面に出現する気孔の平均直径が100nm以下、前記気孔が位置する平均深さが100nm以下、前記気孔の数密度が30個/μm^(2)以下である」のに対して、引用発明がそのような構成を有するかどうか不明な点。

4.判断
上記各相違点について検討する。
(相違点1について)
サブストレート型太陽電池において、効率の向上のために裏面電極を反射膜とすることも、光の散乱や閉じ込め効果を高めるために銀ナノ粒子を含ませ、その表面にテクスチャ構造を形成する目的で、導電性反射膜用組成物を湿式塗工法を用いて形成することも、ともに、周知技術(原査定の拒絶の理由に引用された、国際公開第2008/047641号参照)である。
引用発明の裏面電極を上記の目的で、そのような反射膜で構成することに、格別の阻害要因はない。
実際、導電性反射膜上に透明導電膜が形成された2層からなる複合膜を有する太陽電池の両層をともに湿式塗工法を用いて形成することは、普通に行われている(原査定時に周知技術として示された特開2003-179241号公報参照)。
また、上記相違点1に係る焼成後の厚さ、乾燥温度、及び焼成温度も、湿式塗工法における従来の技術に比べて格別のものではない。
してみると、引用発明に上記相違点1に係る構成を採用することは当業者が容易になしうることである。
(相違点2について)
上記相違点2に係る焼成後の厚さ、乾燥温度、及び焼成温度も、湿式塗工法における従来の技術に比べて格別のものではない。
そして、引用発明に上記相違点2に係る焼成後の厚さ、乾燥温度、及び焼成温度を適用することに、格別の阻害要因はない。
してみると、引用発明に上記相違点2に係る構成を採用することは当業者が容易になしうることである。
(相違点3について)
導電性反射膜の透明導電膜側の接触面に出現する気孔は、反射膜の反射率を考慮すれば、その大きさ(平均直径)及び数(数密度)が小さいほど良く、当該気孔がなるべく表面から離れて存在した方が良いのは、当業者にとって自明である。そして、上記相違点3に係るそれらの値が、湿式塗工法を用いた従来の技術に比べて格別のものであることを示す証拠はない。
してみると、引用発明に上記相違点3に係る構成を採用することは当業者が容易になしうることである。

そして、補正発明全体の効果も、引用発明及び周知技術から当業者が予測し得る範囲のものであって格別なものではない。

したがって、補正発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

5.むすび
以上のとおり、本件補正は、特許法第17条の2第6項において準用する同法第126条第7項の規定に違反するので、同法第159条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。
よって、上記[補正の却下の決定の結論]のとおり、決定する。

第3 本願発明について
1.本願発明
平成26年2月28日付けの手続補正は上記のとおり却下されたので、本願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明は、平成25年9月30日付けの手続補正で補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「基材上に導電性反射膜が形成され、前記導電性反射膜上に透明導電膜が形成された2層からなる複合膜において、
前記導電性反射膜が金属ナノ粒子として銀ナノ粒子を含む導電性反射膜用組成物を湿式塗工法を用いて塗布することにより形成され、
前記透明導電膜が導電性酸化物微粒子を含む透明導電膜用組成物を湿式塗工法を用いて塗布することにより形成され、
前記導電性反射膜の前記透明導電膜側の接触面に出現する気孔の平均直径が100nm以下、前記気孔が位置する平均深さが100nm以下、前記気孔の数密度が30個/μm^(2)以下であることを特徴とするサブストレート型太陽電池用の複合膜。」(以下「本願発明」という。)

2.引用刊行物
引用文献1、その記載事項及び引用発明は、前記「第2」の「2.」に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記「第2」で検討した補正発明の、少なくとも「導電性反射膜用組成物を焼成後の厚さが0.05?2.0μmになるように」という事項を省いたものである。
そうすると、本願発明の特定事項を全て含み、さらに他の特定事項を付加したものに相当する補正発明が、前記「第2」の「4.」に記載したとおり、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も、同様の理由により、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものである。

第4 むすび
以上のとおり、本願発明は、引用発明及び周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、本願は拒絶されるべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-05 
結審通知日 2015-03-10 
審決日 2015-03-26 
出願番号 特願2009-182931(P2009-182931)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (H01L)
P 1 8・ 121- Z (H01L)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 小濱 健太  
特許庁審判長 神 悦彦
特許庁審判官 土屋 知久
山口 剛
発明の名称 サブストレート型太陽電池用の複合膜及びその製造方法  
代理人 須田 正義  

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