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審決分類 審判 訂正 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正 訂正する C08G
審判 訂正 ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 訂正する C08G
管理番号 1300811
審判番号 訂正2015-390018  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2015-02-12 
確定日 2015-04-03 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第5257541号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第5257541号の明細書、特許請求の範囲、及び図面を、本件審判請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲及び訂正図面のとおり一群の請求項ごとに訂正することを認める。 
理由 第1.手続の経緯
本件特許第5257541号は、平成24年10月11日(国内優先権主張 平成23年11月29日)を出願日とする出願であって、平成25年5月2日に設定登録され、平成27年2月12日に本件訂正審判の請求がなされたものである。

第2.請求の趣旨
本件訂正審判の請求の趣旨は、特許第5257541号の明細書、特許請求の範囲、及び図面を本件審判請求書に添付された訂正明細書、訂正特許請求の範囲及び訂正図面のとおり一群の請求項ごとに訂正することを認める、との審決を求めるものである。

第3.本件訂正の内容
本件訂正の内容は、次のとおりである。

(1)訂正事項1
本件図面の図4における符号114の引き出し線の引き出し位置を、訂正図面の図4のとおり訂正する。
(2)訂正事項2
本件図面の図5を削除する。
(3)訂正事項3
本件明細書の段落【0014】に記載の、「【図5】本発明の実施の形態におけるロータを模式的に示す断面図である。」を「【図5】(削除)」と訂正する。
(4)訂正事項4
本件明細書の段落【0016】に記載の、「図5は、ロータの構成を示す断面図である」を削除する。
(5)訂正事項5
本件明細書の段落【0023】に記載の、「図5に示すように、」を削除する。
(6)訂正事項6
本件明細書の段落【0023】に記載の、「エンドプレート114は、カシメ部160によりシャフト170に固定される。このような態様に限定されず、」を削除する。
(7)訂正事項7
本件特許請求の範囲、請求項1に記載の「無機充填材(C)を50質量%以上93質量%以下と、を含み、」という記載を、「無機充填材(C)を50質量%以上91質量%以下と、を含み、」と訂正し、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし13からなる一群の請求項ごとに訂正する。
(8)訂正事項8
本件明細書の段落【0012】の、「無機充填材(C)を50質量%以上93質量%以下と、を含み、」という記載を、「無機充填材(C)を50質量%以上91質量%以下と、を含み、」と訂正する。
(9)訂正事項9
本件明細書の段落【0039】の、「無機充填材(C)の量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。」という記載を、「無機充填材(C)の量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。」と訂正する。

第4.当審の判断
以下、上記訂正事項1ないし9について検討する。
(1)訂正の目的(誤記又は誤訳の訂正・明瞭でない記載の釈明)の適否について
a.訂正事項1について
本件図面の図4は、本件明細書の段落【0016】に、「図4は、本発明の実施の形態におけるロータの一部の断面図である。」と記載されるように、ロータの一部の断面を示すものである。
本件図面の図4に示される「符号114」の引き出し線の引き出し位置の部材に関し、段落【0017】には、「また、ローターコア110の軸方向の端部にはエンドプレート114が設けられている。なお、エンドプレート114には、カシメ部160及び充填部140の開口部との干渉を避けるための溝部116が設けられてもよい。」と記載されるように、「符号114」で示される部材は、「エンドプレート114」であり、該「エンドプレート114」は、ローターコア110の軸方向の端部に設けられること、さらに、「エンドプレート114」には、カシメ部160及び充填部140の開口部との干渉を避けるための溝部116が設けられてもよいことが示されている。
しかしながら、本件図面の図4に示される「符号114」の引き出し線の引き出し位置の部材はローターコア110を構成する、複数の電磁鋼板のうちの端部の一枚を示すものであるから、上記段落【0017】の「エンドプレート114」に関する説明の内容と比較しても、ローターコアの軸方向の端部に設けられた部材ではなく、また、符号116で示される溝部が設けられた部材でもないので一致しない。
そうすると、本件図面の図4は、符号114の引き出し線の引き出し位置を誤って記載したものであることは明らかであり、図4に示される符号114の引き出し線の引き出し位置を、ローターコア110の軸方向の端部に設けられ、カシメ部160及び充填部140の開口部との干渉を避けるための溝部116が設けられた部材の位置とする訂正図面の図4は、本件図面の図4の誤記を訂正するものである。
したがって、訂正事項1は、誤記の訂正を目的とするものである。

b.訂正事項2について
本件図面の図5は、本件明細書の段落【0016】に「図5は、ロータの構成を示す断面図である」と記載されているように、ロータの構成を示すものである。
ここで、本件明細書の段落【0023】には、「図5に示すように、エンドプレート114は、シャフト170に固定され、ローターコア110を軸方向に挟持する。」とあり、図5には、「エンドプレート114」によって、ロータ-コア110を軸方向に挟持する構成が示されるように記載されている。
しかしながら、本件図面の図5は、ロータの構成の一つであるローターコア110を構成している「複数の電磁鋼板」のうちの端部の一枚に、符号114の引き出し線を付するものであり、また、ローターコア110を挟持する部材を図示していないものである。
そうすると、本件図面の図5は、ロータの構成の一つであるローターコアを構成している「複数の電磁鋼板」のうちの端部の一枚に、「エンドプレート」を示すべき符号114に対する引き出し線を誤って示し、また、ローターコア110を挟持する部材として記載されるべき「エンドプレート」自体を図示していない明らかな誤りを有するものといえる。
したがって、本件図面の図5を削除する訂正事項2は、本件図面の誤記の訂正を目的とするものである。

c.訂正事項3について
本件明細書の段落【0014】に記載の、「【図5】本発明の実施の形態におけるロータを模式的に示す断面図である。」を「【図5】(削除)」と訂正することは、図5の削除に伴い、図面の説明を訂正するものであるから、訂正事項3は、本件明細書の誤記を訂正することを目的とするものである。

d.訂正事項4について
本件明細書の段落【0016】には、「図1は、本発明の実施の形態におけるロータの上面図である。図3は、本発明の実施の形態におけるロータの一部の拡大図である。図4は、本発明の実施の形態におけるロータの一部の断面図である。図5は、ロータの構成を示す断面図である本実施の形態のロータ100は、ローターコア110、磁石120、及び固定部材130を備える。」と記載されている。
この記載から、「図5は、ロータの構成を示す断面図である」を削除することは、図5の削除に伴うものである。
また、本件明細書の段落【0016】に記載されている、ロータ100に関するローターコア110,磁石120,固定部材130の構成は、図1,図3,図4に示されており、図5の削除に伴う変更以外に、段落【0016】に示された内容を変更するものはない。
したがって、訂正事項3は、本件明細書の誤記を訂正することを目的とするものである。

e.訂正事項5について
訂正事項5は、本件明細書の段落【0023】の、「図5に示すように、エンドプレート114は、シャフト170に固定され、ロータ-コア110を軸方向に挟持する。」を、訂正明細書の段落【0023】の「エンドプレート114は、シャフト170に固定され、ロータ-コア110を軸方向に挟持する。」と訂正するものである。
ここで削除される「図5に示すように、」は、「エンドプレート114は、シャフト170に固定され、ロータ-コア110を軸方向に挟持する。」ことの例としての構成が図5に示されていることを示すものであるが、上記「b.訂正事項2について」で検討したように、本件図面の図5は、「エンドプレート」自体を図示していない明らかな誤りを有するものであり、「図5に示すように、」との記載を削除する訂正事項5は、本件明細書の誤記を訂正することを目的とするものである。

f.訂正事項6について
本件明細書の段落【0023】には、「エンドプレート114は、カシメ部160によりシャフト170に固定される。」と記載されているが、「カシメ部160」が「エンドプレート114」を「シャフト170に固定」するものであることは本件明細書及び図面の他の箇所には記載されていない。
そして、本件明細書の段落【0017】の「複数の電磁鋼板は、互いに、カシメ部160で結合している。」との記載や、本件図面の図4に符号160で示されている構成を参照すると、「カシメ部160」は複数の電磁鋼板を互いに結合するものであって、「エンドプレート114は、カシメ部160によりシャフト170に固定される。」との記載が誤りであることは明らかなものといえる。
したがって、本件明細書の段落【0023】に記載の、「エンドプレート114は、カシメ部160によりシャフト170に固定される。このような態様に限定されず、」を削除する訂正事項6は、本件明細書の誤記を訂正することを目的とするものである。

g.訂正事項7について
本件明細書には、本発明に係る熱硬化性樹脂(A)、硬化剤(B)、及び無機充填材(C)のそれぞれの含有量について以下のように記載している。

・「本発明に係る熱硬化性樹脂(A)の含有量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、特に限定されないが、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは7質量%以上20質量%以下である。」(段落【0027】)

・「本発明に係る固定用樹脂組成物に対する硬化剤(B)の含有量の合計値の下限値については、特に限定されるものではないが、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、3質量%以上であることが好ましく、3.5質量%以上であることがより好ましい。配合割合の下限値が上記範囲内であると、良好な硬化性を得ることができる。また、本発明に係る固定用樹脂組成物に対する硬化剤(B)の含有量の合計値の上限値についても、特に限定されるものではないが、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、35質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。」(段落【0034】)

・「無機充填材(C)の含有量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは65質量%以上であり、特に好ましくは75質量%以上である。下限値が上記範囲内であると、得られる固定用樹脂組成物の硬化に伴う吸湿量の増加や、強度の低下が低減できる。また、無機充填材(C)の量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。上限値が上記範囲内であると、得られる固定用樹脂組成物は良好な流動性を有するとともに、良好な成形性を備える。したがって、ロータの製造安定性が高まり、歩留まり及び耐久性のバランスに優れたロータが得られる。」(段落【0039】)

したがって、熱硬化性樹脂(A)の含有量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、「特に限定されないが、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは7質量%以上20質量%以下である。」と示されている。
また、硬化剤(B)の含有量は、含有量の合計値の下限値について、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、「特に限定されるものではないが」「3質量%以上であることが好ましく、3.5質量%以上であることがより好ましい。」、含有量の合計値の上限値について、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、「特に限定されるものではないが」「35質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。」と示されている。
そして、無機充填材(C)の含有量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、「好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。」と示されている。

本件明細書の記載としては、熱硬化性樹脂(A)及び硬化剤(B)の含有量について、段落【0027】【0034】それぞれにおいて、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、「特に限定されない」旨の記載があり、段落【0039】における無機充填材(C)の含有量が、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、「好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。」と示されていても、熱硬化性樹脂(A)及び硬化剤(B)の含有量が特に限定されていなければ、明瞭でないというものではない。
しかしながら、熱硬化性樹脂(A),硬化剤(B),及び無機充填材(C)の含有量につき、本件明細書に示された好適範囲に基づき規定する、特許請求の範囲、請求項1の、「ロータを構成する前記固定部材に用いる前記固定用樹脂組成物であって、150℃におけるICI粘度が3poise以下であるエポキシ樹脂(A)を5質量%以上40質量%以下と、150℃におけるICI粘度が2poise以下である硬化剤(B)を3質量%以上35質量%以下と、無機充填材(C)を50質量%以上93質量%以下と、を含み、」との事項は、無機充填材(C)を93質量%とした場合、エポキシ樹脂(A)を5質量%、硬化剤(B)を3質量%としても、合計値が101質量%となり、組成成分の合計質量%値が100質量%を越えることはないことを踏まえれば、明瞭でないものである。
したがって、本件特許請求の範囲、請求項1に記載の「無機充填材(C)を50質量%以上93質量%以下と、を含み、」という記載を、「無機充填材(C)を50質量%以上91質量%以下と、を含み、」と訂正することにより、無機充填材(C)を91質量%としても、合計値を100質量%とすることができるから、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし13からなる一群の請求項ごとに訂正する訂正事項7は、無機充填材(C)の含有量に関し、本件明細書に示された好適範囲に基づき、熱硬化性樹脂(A)及び硬化剤(B)の含有量との関係において、無機充填材(C)の含有量の範囲を50質量%以上91質量%以下とする訂正であって、明瞭でない記載による不備を解消するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

h.訂正事項8について
本件明細書の段落【0012】は、請求項1の記載をそのまま引用して記載するものであり、本件明細書の段落【0012】の、「無機充填材(C)を50質量%以上93質量%以下と、を含み、」という記載を、「無機充填材(C)を50質量%以上91質量%以下と、を含み、」と訂正することは、明瞭でない記載の釈明を目的とする請求項1の訂正に伴い、同様の記載となるよう段落【0012】の記載を訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

i.訂正事項9について
上記g.で検討したように、本件明細書の記載としては、段落【0039】における無機充填材(C)の含有量が、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、「好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。」と示されていても、熱硬化性樹脂(A)及び硬化剤(B)の含有量が特に限定されていなければ、明瞭でないというものではない。
しかし、熱硬化性樹脂(A),硬化剤(B),及び無機充填材(C)の含有量について、本件明細書に示された好適範囲に基づいて、特許請求の範囲、請求項1に記載された熱硬化性樹脂(A)及び硬化剤(B)の含有量との関係において、本件明細書の段落【0039】に示される、無機充填材(C)の含有量について明瞭でないものとなっている。
本件明細書の段落【0039】の、「無機充填材(C)の量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。」という記載を、「無機充填材(C)の量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。」と訂正することは、無機充填材(C)の含有量に関し、熱硬化性樹脂(A)及び硬化剤(B)の含有量との関係において、組成成分の合計質量%値が100を越えてしまうものを除くため、「好ましくは93質量%以下であり、より好ましくは91質量%以下であり、」との記載を、「好ましくは91質量%以下であり、」と訂正するものであり、本件明細書に示された、好ましいとされる範囲を、「91質量%以下」に限定し、明瞭でない記載による不備を解消するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

以上より、訂正事項1ないし6は、特許法第126条第1項ただし書第2号に規定する誤記又は誤訳の訂正のうち、誤記の訂正を目的とするものである。
また、訂正事項7ないし9は、同条第1項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。

(2)新規事項の追加について
訂正事項1は、本件図面の図4の符号114の引き出し線の引き出し位置を、本件明細書の記載に適合させるものであって、新たな事項を追加するものではない。
訂正事項2ないし6は、本件明細書の記載及び図面の誤記を削除するものであって、実質的に新たな事項を追加するものでもない。
したがって、誤記の訂正を目的とする訂正事項1ないし6は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

訂正事項7ないし9は、本件明細書に示された固定用樹脂組成物を構成するエポキシ樹脂(A),硬化剤(B),無機充填材(C)それぞれの好適範囲の関係に基づき、「無機充填材(C)」の範囲を訂正するものであって、実質的に新たな事項を追加するものでもない。
したがって、明瞭でない記載の釈明を目的とする訂正事項7ないし9は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。

以上より、訂正事項1ないし9は、特許法第126条第5項に規定する要件に適合するものである。

(3)特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更について
訂正事項1ないし6は、「エンドプレート」に関する本件発明の実施態様に係るものであり、他方、本件請求項1ないし13に係る発明は、「エンドプレート」に関する構成を何ら特定しているものではないから、訂正事項1ないし6は、本件請求項1ないし3に係る発明を実質上拡張し、又は変更するものではない。
また、訂正事項7ないし9は、本件明細書に示された好適範囲に基づき、特許請求の範囲における、無機充填材(C)に関する「50質量%以上93質量%以下」の範囲を「50質量%以上91質量%以下」の範囲に減縮するものであり、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

したがって、訂正事項1ないし9は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第126条第6項に規定する要件に適合するものである。

(4)独立特許要件について
本件訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができないとすべき理由を発見しない。

したがって、誤記の訂正を目的とする訂正事項1ないし6は、特許法第126条第7項に規定する要件に適合するものである。

第5.むすび
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第126条第1項ただし書第2号及び第3号に掲げる事項を目的とし、また、同条第5項ないし第7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
固定用樹脂組成物、ロータ、自動車、及びロータの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロータに用いる固定用樹脂組成物、ロータ、自動車、及びロータの製造方法に関する。
【0002】
本願は、2011年11月29日に日本に出願された特願2011-260440号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0003】
近年、ロータの技術分野においては、ローターコアに設けられた穴部に永久磁石を挿入し、穴部と永久磁石との間に液状樹脂を充填することにより、永久磁石をローターコアに固定する技術が用いられている。この技術分野においては、通常、液状樹脂として、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂等が用いられている。このような技術としては、例えば、特許文献1に記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、モータを封止するために用いる、モータ封止用エポキシ樹脂および、これを硬化してなる成形品が記載されている。この成形品においては、作業環境性、生産性、耐熱性、熱伝導性、耐溶剤性、高湿耐水性および低い線膨張係数が得られると記載されている。このため、特許文献2に記載の成形品は、モータのハウジングに用いられると考えられる。
【0005】
また、特許文献3に記載のロータは、永久磁石を収容する第1穴部の側面に、第1穴部と連通しかつロータの回転方向に沿う第2穴部が形成された構造を有する。この第2穴部に樹脂が充填されること又はバネが配置されることにより、ロータの回転方向において永久磁石が第1穴部の側壁から受ける応力が緩和される。これにより、永久磁石の割れを防止できると記載されている。
【0006】
また、ローターコアの穴部と磁石との間に液状樹脂を充填する手法として、先入れ手法と塗りつけ手法の2つが存在する。先入れ手法は、次の工程を有する。まず、ローターコアの穴部に液状樹脂をディスペンサにより充填する。この後、液状樹脂が充填された穴部に磁石を挿入する。先入れ手法は特許文献4及び5に記載されている。一方、塗りつけ手法は、次の工程を有する。まず、磁石に液状樹脂をハケで塗布する。液状樹脂が塗布された磁石を、ローターコアの穴部に挿入する。塗りつけ手法は特許文献6に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-236020号公報
【特許文献2】特開2009-13213号公報
【特許文献3】特開2002-359942号公報
【特許文献4】特開2005-304247号公報
【特許文献5】特開平11-98735号公報
【特許文献6】特開2003-199303号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の液状樹脂を充填する技術を、ローターコアの穴部と当該穴部に予め挿入された磁石との間隙に樹脂を注入する注入方法に適用することは、困難である。
【0009】
また、特許文献2に記載のエポキシ樹脂は、モータ全体を覆うことを目的としている。このため、特許文献2に記載の樹脂を、永久磁石を固定する目的で用いることは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明者らが、検討した結果、インサート成形を採用することにより、ローターコアの穴部と当該穴部に予め挿入された磁石との間隙に樹脂を充填できることを見出した。
【0011】
しかしながら、ローターコアの穴部と磁石との間隙が狭い場合、間隙に溶融した樹脂が充填されない虞がある。そこで、本発明者らは、間隙への充填特性を高めるために、固形樹脂の溶融粘度に改善の余地があると考えた。
【0012】
本発明によれば、複数の板部材が積層した積層体を有しており、回転シャフトに固設され、前記回転シャフトの周縁部に沿って配置されている複数の穴部が前記積層体に設けられている、ローターコアと、前記穴部に挿入された磁石と、前記穴部と前記磁石との離間部に充填されている、固定用樹脂組成物を硬化してなる固定部材と、を備える、ロータを構成する前記固定部材に用いる前記固定用樹脂組成物であって、150℃におけるICI粘度が3poise以下であるエポキシ樹脂(A)を5質量%以上40質量%以下と、150℃におけるICI粘度が2poise以下である硬化剤(B)を3質量%以上35質量%以下と、無機充填材(C)を50質量%以上91質量%以下と、を含み、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、注入時間20秒の条件で、幅3mm、厚さ80μmの断面形状を有する流路に前記固定用樹脂組成物を注入した際のスリット流動長が75mm以上300mm以下である、固定用樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、充填特性に優れた固形の固定用樹脂組成物及びそれを用いたロータが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
上述した目的、およびその他の目的、特徴および利点は、以下に述べる好適な実施の形態、およびそれに付随する以下の図面によってさらに明らかになる。
【図1】本発明の実施の形態におけるロータを模式的に示す上面図である。
【図2】本発明の実施の形態におけるインサート成形用金型を模式的に示す上面図である。
【図3】本発明の実施の形態におけるロータの一部を模式的に示す拡大図である。
【図4】本発明の実施の形態におけるロータの一部を模式的に示す断面図である。
【図5】(削除)
【図6】本発明の実施の形態におけるロータの変形例を示す断面図である。
【図7】変形例におけるロータを模式的に示す上面図である。
【図8】変形例におけるロータを模式的に示す上面図である。
【図9】変形例におけるロータを模式的に示す上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態におけるロータの上面図である。図3は、本発明の実施の形態におけるロータの一部の拡大図である。図4は、本発明の実施の形態におけるロータの一部の断面図である。本実施の形態のロータ100は、ロータ-コア110、磁石120、及び固定部材130を備える。ロータ-コア110は、複数の板部材(電磁鋼板)が積層した積層体を有する。ロータ-コア110は、回転シャフト(シャフト170)に固設されている。また、ロータ-コア110において、回転シャフトの周縁部に沿って配置されている複数の穴部150が当該積層体に設けられている。磁石120は、穴部150に挿入される。固定部材130は、穴部150と磁石120との離間部に充填された、固定用樹脂組成物を硬化してなる。
【0017】
ローターコア110は、薄板状の磁性体である電磁鋼板(鋼板112)を複数積層することにより構成される。ローターコア110は、シャフト170を挿入するための貫通孔が設けられている。このローターコア110は、例えば、筒状とすることができる。ロータ-コア110の上面視における形状は、特に限定されないが、例えば、円形、多角形などでもよい。また、複数の電磁鋼板は、互いに、カシメ部160で結合している。また、電磁鋼板は、例えば、鉄や鉄合金等で構成される。また、ロータ-コア110の軸方向の端部にはエンドプレート114が設けられている。なお、エンドプレート114には、カシメ部160及び充填部140の開口部との干渉を避けるための溝部116が設けられてもよい。
【0018】
複数の穴部150(又は複数の穴部から構成された穴部群)は、回転シャフトの軸心を中心として、点対称となるようにローターコア110に配置されている。穴部150の個数は、特に限定されないが、例えば、2^(n)又は3^(n)個(nは、自然数であって、例えば、2?5とする)。それぞれの穴部150中には、磁石120が挿入されている。穴部150は、磁石120の形状に沿うように構成されていればよく、例えば、磁石120の角部周りに、マージン(間隙部)を有してもよい。
【0019】
穴部150の配置レイアウトは、図1に示す態様に限定されず、たとえば、図7?9に示す各種の配置レイアウトを採用してもよい。2個又は3個の穴部150で一組の穴部群が、回転シャフトの周縁部に沿って配置されてもよい。図1に示すように、各穴部群は、互いに離間しており、かつVの字状に配置された2個の穴部により構成されてもよい。また、図9に示すように、穴部群は、穴部154a,154bと、これらの穴部154a,154bの間に形成された穴部156により構成されていてもよい。また、図8に示すように、Vの字状に配置された穴部は連通して1つの穴部152を構成してもよい。なお、図7に示すように、複数の穴部150は、穴部150がシャフトの面直方向に対して直交する位置に、互いに離間するように配置されてもよい。
【0020】
また、磁石120は、穴部150内部に固定されていればよい。たとえば、図3及び図4に示すように、磁石120は、穴部150の側壁のうち、ローターコア110の外周円側に位置する側壁151に固定されてもよい。すなわち、磁石120の側壁121が、穴部150の側壁151に接してもよい。言い換えると、穴部150の側壁151以外の側壁と磁石120との離間部(充填部140)に、本発明に係る固定用樹脂組成物が充填されてもよい。この固定用樹脂組成物が硬化して、固定部材130が形成されている。固定部材130は、穴部150の角部と磁石120との間に設けられていてもよい。ここで、磁石120としては、例えば、ネオジム磁石等の永久磁石を用いることができる。
【0021】
図3および図4において、側壁153とは、穴部150の側壁のうちローターコア110の内周円側に位置するものを指す。また、側壁123とは、磁石120の側壁のうち穴部150の側壁153と対向するものを指す。
【0022】
本実施の形態では、図3又は図4に示すように、ローターコア110において、穴部150と磁石120との径方向の間隙の間隔幅D1は、穴部150の側壁153から磁石120の側壁123までの距離と定義される。上記間隙が存在する場合、間隔幅D1は、20μm以上、500μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは50μm以上、300μm以下である。この間隔幅D1を上記範囲内とすることにより、ロータに良好な機械的強度を付与することができる。
【0023】
発明者らが検討した結果、幅狭領域では、樹脂の未充填が発生しやすいことが判明している。
これに対して、充填特性に優れる本発明の固定用樹脂組成物を用いることにより、幅狭領域において、樹脂の未充填が発生することを抑制することができる。これにより、穴部150と磁石120との間隙に固定部材130が良好に充填されるので、ロータ100の剛性を向上させることができる。したがって、回転時のロータから発生する騒音を低減させることが可能となる。
エンドプレート114は、シャフト170に固定され、ロータ-コア110を軸方向に挟持する。図6に示すように、エンドプレート118a,118bは、シャフト170に溶接などにより固定されていてもよい。また、穴部150内において、磁石120の外周縁側の側壁上に固定部材130が形成されていなくてもよいが、図6に示すように、磁石120の外周縁側及び内周縁側の両側壁上に固定部材130が形成されていてもよい。
以下、本発明のロータ100を構成する固定用樹脂組成物の各成分について説明する。この固定用樹脂組成物は、ロータの形成及びロータを備える車両の形成に使用される。すなわち、固定用樹脂組成物は、電磁鋼板で構成されたローターコア内に形成された穴部に配置された磁石を固定するために用いられるものである。
(固定用樹脂組成物)
本発明に係る固形の固定用樹脂組成物は、エポキシ樹脂を含む熱硬化性樹脂(A)と、硬化剤(B)と、無機充填材(C)と、を含む。この固定用樹脂組成物は、エポキシ樹脂の150℃におけるICI粘度が3poise以下であることにより特定される。また、この固定用樹脂組成物は、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、注入時間20秒の条件で、幅3mm、厚さ80μmの断面形状を有する流路に固定用樹脂組成物を注入した際のスリット流動長が75mm以上である。なお、この際におけるスリット流動長は、75mm以上300mm以下であることが好ましく、80mm以上300mm以下であることがより好ましい。
[熱硬化性樹脂(A)]
まず、熱硬化性樹脂(A)について説明する。
【0024】
熱硬化性樹脂(A)としては、特に制限されるものではないが、エポキシ樹脂(A1)、オキセタン樹脂、(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、マレイミド樹脂等が用いられる。中でも、硬化性と保存性、硬化物の耐熱性、耐湿性、耐薬品性に優れるエポキシ樹脂(A1)が好適に用いられる。
【0025】
本発明に係る熱硬化性樹脂(A)は、エポキシ樹脂(A1)を含む。このエポキシ樹脂(A1)としては、一分子中にエポキシ基を2個以上有するものが挙げられる。
エポキシ樹脂の分子量や構造は、特に限定されないが、固定用樹脂組成物の粘度を低下させるものであることが好ましい。エポキシ樹脂(A1)は、150℃におけるICI粘度の上限値が、3poise以下であり、好ましくは1.5poise以下である。下限値は特に限定されないが好ましくは0poise以上であり、より好ましくは0.01poise以上である。これにより、固定用樹脂組成物の充填特性を向上させることが可能となり、穴部と磁石との間隙が狭い場合であっても鋼板と磁石との接着面積を充分に確保することができるので、高い機械的強度を付与することが可能となる。
【0026】
また、エポキシ樹脂(A1)としては、例えば、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、メトキシナフタレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂等のフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールノボラックエポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、テトラメチルビスフェノール型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスナフトール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジヒドロアントラセンジオール型エポキシ樹脂、及びトリフェニルメタン型エポキシ樹脂が挙げられる。
この中でも、エポキシ樹脂(A1)は、ビフェニル型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂等の結晶性を有するエポキシ樹脂のほか、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂であることが好ましい。これらは単独でも2種以上混合して使用しても良い。
【0027】
本発明に係る熱硬化性樹脂(A)の含有量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、特に限定されないが、好ましくは5質量%以上40質量%以下、より好ましくは7質量%以上20質量%以下である。
【0028】
本発明に係るエポキシ樹脂(A1)を含む好ましい態様において該エポキシ樹脂の含有量の下限値は、特に限定されないが、熱硬化性樹脂(A)100質量%に対して、好ましくは70質量%以上100質量%以下、より好ましくは80質量%以上100質量%以下である。
[硬化剤(B)]
次に、硬化剤(B)について説明する。硬化剤(B)は、熱硬化性樹脂(A)に含まれるエポキシ樹脂(A1)を三次元架橋させるために用いられるものである。硬化剤(B)は、特に限定されないが、固定用樹脂組成物の粘度を低下させるものであることが好ましい。硬化剤(B)は、例えば、150℃におけるICI粘度の上限値が、好ましくは2poise以下であり、より好ましくは1.8poise以下であり、さらに好ましくは1.7poise以下である。下限値は特に限定されないが好ましくは0poise以上であり、より好ましくは0.01poise以上である。
また、硬化剤(B)は、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル樹脂、ヒドロキシベンズアルデヒドとホルムアルデヒドとフェノールの反応生成物を主とするフェノール樹脂、およびトリフェニルメタン型フェノール化合物とノボラック型フェノール化合物との共重合体等のフェノール樹脂とすることができる。これらは、1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。このようなフェノール樹脂系硬化剤により、耐燃性、耐湿性、電気特性、硬化性、保存安定性等のバランスが良好となる。特に、硬化性の点から、たとえばフェノール樹脂系硬化剤の水酸基当量は、90g/eq以上、250g/eq以下とすることができる。
【0029】
さらに、併用できる硬化剤としては、例えば重付加型の硬化剤、触媒型の硬化剤、縮合型の硬化剤等を挙げることができる。
【0030】
重付加型の硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、メタキシレンジアミン(MXDA)などの脂肪族ポリアミン、ジアミノジフェニルメタン(DDM)、m-フェニレンジアミン(MPDA)、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)などの芳香族ポリアミンのほか、ジシアンジアミド(DICY)、有機酸ジヒドララジドなどを含むポリアミン化合物;ヘキサヒドロ無水フタル酸(HHPA)、メチルテトラヒドロ無水フタル酸(MTHPA)などの脂環族酸無水物、無水トリメリット酸(TMA)、無水ピロメリット酸(PMDA)、ベンゾフェノンテトラカルボン酸(BTDA)などの芳香族酸無水物などを含む酸無水物;ノボラック型フェノール樹脂、フェノールポリマーなどのポリフェノール化合物;ポリサルファイド、チオエステル、チオエーテルなどのポリメルカプタン化合物;イソシアネートプレポリマー、ブロック化イソシアネートなどのイソシアネート化合物;カルボン酸含有ポリエステル樹脂などの有機酸類などが挙げられる。
【0031】
触媒型の硬化剤としては、例えば、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、2,4,6-トリスジメチルアミノメチルフェノール(DMP-30)などの3級アミン化合物;2-メチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール(EMI24)などのイミダゾール化合物;BF3錯体などのルイス酸などが挙げられる。
【0032】
縮合型の硬化剤としては、例えば、レゾール樹脂のようなメチロール基を有するフェノール樹脂;メチロール基含有尿素樹脂のような尿素樹脂;メチロール基含有メラミン樹脂のようなメラミン樹脂などが挙げられる。
【0033】
このような他の硬化剤を併用する場合において、フェノール樹脂系硬化剤の含有量の下限値としては、全硬化剤(B)に対して、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることが特に好ましい。配合割合が上記範囲内であると、耐燃性を保持しつつ、良好な流動性を発現させることができる。また、フェノール樹脂系硬化剤の含有量の上限値としては、特に限定されないが、全硬化剤(B)に対して、100質量%以下であることが好ましい。
【0034】
本発明に係る固定用樹脂組成物に対する硬化剤(B)の含有量の合計値の下限値については、特に限定されるものではないが、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、3質量%以上であることが好ましく、3.5質量%以上であることがより好ましい。配合割合の下限値が上記範囲内であると、良好な硬化性を得ることができる。また、本発明に係る固定用樹脂組成物に対する硬化剤(B)の含有量の合計値の上限値についても、特に限定されるものではないが、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、35質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0035】
なお、硬化剤(B)としてのフェノール樹脂と、エポキシ樹脂とは、全熱硬化性樹脂(A)中のエポキシ基数(EP)と、全フェノール樹脂中のフェノール性水酸基数(OH)との当量比(EP)/(OH)が、0.8以上、1.3以下となるように配合することが好ましい。当量比が上記範囲内であると、得られる固定用樹脂組成物を成形する際、十分な硬化特性を得ることができる。
[無機充填材(C)]
本発明に係る固定用樹脂組成物に用いられる無機充填材(C)としては、固定用樹脂組成物の技術分野で一般的に用いられる無機充填材を使用することができる。例えば、溶融破砕シリカ及び溶融球状シリカ等の溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、クレイ、マイカ、ロックウール、ウォラストナイト、ガラスパウダー、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスファイバー、炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化アルミ、カーボンブラック、グラファイト、二酸化チタン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム、セルロース、アラミド、木材、フェノール樹脂成形材料やエポキシ樹脂成形材料の硬化物を粉砕した粉砕粉等が挙げられる。この中でも、好ましくは、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ等のシリカであり、より好ましくは溶融球状シリカを使用することができる。また、この中でも、炭酸カルシウムがコストの面で好ましい。無機充填材(C)としては、一種で使用しても良いし、または二種以上を併用してもよい。
【0036】
無機充填材(C)の平均粒径D_(50)は、好ましくは0.01μm以上、75μm以下であり、より好ましくは0.05μm以上、50μm以下である。無機充填材(C)の平均粒径を上記範囲内にすることにより、穴部と磁石との離間部(充填部)への充填性が向上する。また、無機充填材(C)の平均粒径の上限値を75μm以下とすることにより、さらに充填性が向上する。
【0037】
平均粒径D_(50)は、レーザー回折型測定装置RODOS SR型(SYMPATEC HEROS&RODOS)での体積換算平均粒径とした。
【0038】
また、本発明に係る固定用樹脂組成物においては、無機充填材(C)は、平均粒径D_(50)が異なる2以上の球状シリカを含むことができる。これにより、流動性及び充填性の向上とバリ抑制の両立が可能となる。
【0039】
無機充填材(C)の含有量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは60質量%以上であり、さらに好ましくは65質量%以上であり、特に好ましくは75質量%以上である。下限値が上記範囲内であると、得られる固定用樹脂組成物の硬化に伴う吸湿量の増加や、強度の低下が低減できる。また、無機充填材(C)の量は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは91質量%以下であり、さらに好ましくは90質量%以下である。上限値が上記範囲内であると、得られる固定用樹脂組成物は良好な流動性を有するとともに、良好な成形性を備える。したがって、ロータの製造安定性が高まり、歩留まり及び耐久性のバランスに優れたロータが得られる。
【0040】
また、本発明者らが検討した結果、無機充填材(C)の含有量を50質量%以上とすることにより、固定部材と電磁鋼板と線膨張率の差を小さくし、温度変化に応じて電磁鋼板が変形し、ロータの回転特性が低下することを抑制することができることが判明した。これにより、耐久性の中でも、とくに回転特性の持続性に優れたロータが実現される。
【0041】
また、無機充填材(C)として、溶融破砕シリカ、溶融球状シリカ、結晶シリカ等のシリカを用いる場合、シリカの含有量が、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。下限値が上記範囲内であると、流動性と熱膨張率のバランスが良好となる。
【0042】
また、無機充填材(C)と、後述するような水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物や、硼酸亜鉛、モリブデン酸亜鉛、三酸化アンチモン等の無機系難燃剤とを併用する場合には、これらの無機系難燃剤と上記無機充填材の合計量は、上記無機充填材(C)の含有量の範囲内とすることが望ましい。
【0043】
なお、後述する本願実施例では、無機充填材と水酸化アルミニウム等の無機系難燃剤との合算が、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して80質量%以上となっている。しかしながら、本発明においては、流動性および線膨張係数をロータに使用される部材に合わせて適宜調整するために、無機充填材の含有量を低減し、また樹脂材料の含有量を増加してもよい。
[その他の成分]
本発明に係る固定用樹脂組成物は、硬化促進剤(D)を含んでもよい。硬化促進剤(D)は、エポキシ樹脂のエポキシ基とフェノール樹脂系硬化剤(B)の水酸基との反応を促進するものであればよく、一般に使用される硬化促進剤(D)を用いることができる。
【0044】
硬化促進剤(D)の具体例としては、有機ホスフィン、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等のリン原子含有化合物;1,8-ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、イミダゾールなどのアミジン系化合物、ベンジルジメチルアミンなどの3級アミンや前記化合物の4級オニウム塩であるアミジニウム塩、アンモニウム塩などに代表される窒素原子含有化合物が挙げられる。これらのうち、硬化性の観点からはリン原子含有化合物が好ましく、流動性と硬化性のバランスの観点からは、テトラ置換ホスホニウム化合物、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物等の潜伏性を有する硬化促進剤がより好ましい。流動性という点を考慮するとテトラ置換ホスホニウム化合物が特に好ましく、また耐半田性の観点では、ホスホベタイン化合物、ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物が特に好ましく、また潜伏的硬化性という点を考慮すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が特に好ましい。また、連続成形性の観点では、テトラ置換ホスホニウム化合物が好ましい。また、コスト面を考えると、有機ホスフィン、窒素原子含有化合物も好適に用いられる。
【0045】
本発明に係る固定用樹脂組成物で用いることができる有機ホスフィンとしては、例えばエチルホスフィン、フェニルホスフィン等の第1ホスフィン;ジメチルホスフィン、ジフェニルホスフィン等の第2ホスフィン;トリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の第3ホスフィンが挙げられる。
【0046】
本発明に係る固定用樹脂組成物で用いることができるテトラ置換ホスホニウム化合物としては、例えば下記一般式(1)で表される化合物等が挙げられる。
【0047】
【化1】

一般式(1)において、Pはリン原子を表し、R1、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して芳香族基又はアルキル基を表し、Aはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸のアニオンを表し、AHはヒドロキシル基、カルボキシル基、チオール基から選ばれる官能基のいずれかを芳香環に少なくとも1つ有する芳香族有機酸を表し、x及びyは1?3の整数であり、zは0?3の整数であり、かつx=yである。
【0048】
一般式(1)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られるが、これに限定されるものではない。まず、テトラ置換ホスホニウムハライドと芳香族有機酸と塩基を有機溶剤に混ぜ均一に混合し、その溶液系内に芳香族有機酸アニオンを発生させる。次いで、水を加えると、一般式(1)で表される化合物を沈殿させることができる。一般式(1)で表される化合物において、合成時の収得率と硬化促進効果のバランスに優れるという観点では、リン原子に結合するR1、R2、R3及びR4がフェニル基であり、かつAHはヒドロキシル基を芳香環に有する化合物、すなわちフェノール化合物であり、かつAは該フェノール化合物のアニオンであるのが好ましい。なお、フェノール化合物とは、単環のフェノール、クレゾール、カテコール、レゾルシンや縮合多環式のナフトール、ジヒドロキシナフタレン、複数の芳香環を備える(多環式の)ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール、フェニルフェノール、フェノールノボラックなどを概念に含むものであり、中でも水酸基を2個有するフェノール化合物が好ましく用いられる。
【0049】
本発明に係る固定用樹脂組成物で用いることができるホスホベタイン化合物としては、例えば下記一般式(2)で表される化合物等が挙げられる。
【0050】
【化2】

一般式(2)において、X1は炭素数1?3のアルキル基を表し、Y1はヒドロキシル基を表し、aは0?5の整数であり、bは0?4の整数である。
【0051】
一般式(2)で表される化合物は、例えば以下のようにして得られる。まず、第三ホスフィンであるトリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩とを接触させ、トリ芳香族置換ホスフィンとジアゾニウム塩が有するジアゾニウム基とを置換させる工程を経て得られる。しかしこれに限定されるものではない。
【0052】
本発明に係る固定用樹脂組成物で用いることができるホスフィン化合物とキノン化合物との付加物としては、例えば下記一般式(3)で表される化合物等が挙げられる。
【0053】
【化3】

一般式(3)において、Pはリン原子を表し、R5、R6及びR7は、互いに独立して、炭素数1?12のアルキル基又は炭素数6?12のアリール基を表し、R8、R9及びR10は、互いに独立して、水素原子又は炭素数1?12の炭化水素基を表し、R8とR9は互いに結合して環を形成していてもよい。
【0054】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるホスフィン化合物としては、例えばトリフェニルホスフィン、トリス(アルキルフェニル)ホスフィン、トリス(アルコキシフェニル)ホスフィン、トリナフチルホスフィン、トリス(ベンジル)ホスフィン等の芳香環に無置換又はアルキル基、アルコキシル基等の置換基が存在するものが好ましく、アルキル基、アルコキシル基等の置換基としては1?6の炭素数を有するものが挙げられる。入手しやすさの観点からはトリフェニルホスフィンが好ましい。
【0055】
またホスフィン化合物とキノン化合物との付加物に用いるキノン化合物としては、o-ベンゾキノン、p-ベンゾキノン、アントラキノン類が挙げられ、中でもp-ベンゾキノンが保存安定性の点から好ましい。
【0056】
ホスフィン化合物とキノン化合物との付加物の製造方法としては、有機第三ホスフィンとベンゾキノン類の両者が溶解することができる溶媒中で接触、混合させることにより付加物を得ることができる。溶媒としてはアセトンやメチルエチルケトン等のケトン類で付加物への溶解性が低いものがよい。しかしこれに限定されるものではない。
【0057】
一般式(3)で表される化合物において、リン原子に結合するR5、R6及びR7がフェニル基であり、かつR8、R9及びR10が水素原子である化合物、すなわち1,4-ベンゾキノンとトリフェニルホスフィンを付加させた化合物が固定用樹脂組成物の硬化物の熱時弾性率を低下させる点で好ましい。
【0058】
本発明に係る固定用樹脂組成物で用いることができるホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物としては、例えば下記式(4)で表される化合物等が挙げられる。
【0059】
【化4】

一般式(4)において、Pはリン原子を表し、Siは珪素原子を表す。R11、R12、R13及びR14は、互いに独立して、芳香環又は複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基を表し、X2は、基Y2及びY3と結合する有機基である。X3は、基Y4及びY5と結合する有機基である。Y2及びY3は、プロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y2及びY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。Y4及びY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基を表し、同一分子内の基Y4及びY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。X2、及びX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、Y2、Y3、Y4、及びY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。Z1は芳香環又は複素環を有する有機基、あるいは脂肪族基である。
【0060】
一般式(4)において、R11、R12、R13及びR14としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ナフチル基、ヒドロキシナフチル基、ベンジル基、メチル基、エチル基、n-ブチル基、n-オクチル基及びシクロヘキシル基等が挙げられ、これらの中でも、フェニル基、メチルフェニル基、メトキシフェニル基、ヒドロキシフェニル基、ヒドロキシナフチル基等の置換基を有する芳香族基もしくは無置換の芳香族基がより好ましい。
【0061】
また、一般式(4)において、X2は、Y2及びY3と結合する有機基である。同様に、X3は、基Y4及びY5と結合する有機基である。Y2及びY3はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y2及びY3が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。同様にY4及びY5はプロトン供与性基がプロトンを放出してなる基であり、同一分子内の基Y4及びY5が珪素原子と結合してキレート構造を形成するものである。基X2及びX3は互いに同一であっても異なっていてもよく、基Y2、Y3、Y4、及びY5は互いに同一であっても異なっていてもよい。このような一般式(4)中の-Y2-X2-Y3-、及び-Y4-X3-Y5-で表される基は、プロトン供与体が、プロトンを2個放出してなる基で構成されるものである。プロトン供与体としては、好ましくは分子内にカルボキシル基または水酸基を少なくとも2個有する有機酸が好ましく、さらに芳香環を構成する炭素上にカルボキシル基または水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物が好ましく、さらには芳香環を構成する隣接する炭素上に水酸基を少なくとも2個有する芳香族化合物がより好ましい。例えば、カテコール、ピロガロール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン、2,2’-ビフェノール、1,1’-ビ-2-ナフトール、サリチル酸、1-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、3-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、クロラニル酸、タンニン酸、2-ヒドロキシベンジルアルコール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,2-プロパンジオール及びグリセリン等が挙げられる。これらの中でも、原料入手の容易さと硬化促進効果のバランスという観点では、カテコール、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレンがより好ましい。
【0062】
また、一般式(4)中のZ1は、芳香環又は複素環を有する有機基又は脂肪族基を表し、これらの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基及びオクチル基等の脂肪族炭化水素基や、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基及びビフェニル基等の芳香族炭化水素基、グリシジルオキシプロピル基、メルカプトプロピル基、アミノプロピル基及びビニル基等の反応性置換基などが挙げられるが、これらの中でも、メチル基、エチル基、フェニル基、ナフチル基及びビフェニル基が熱安定性の面から、より好ましい。
【0063】
ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物の製造方法としては、メタノールを入れたフラスコに、フェニルトリメトキシシラン等のシラン化合物、2,3-ジヒドロキシナフタレン等のプロトン供与体を加えて溶かし、次に室温攪拌下ナトリウムメトキシド-メタノール溶液を滴下する。さらにそこへ予め用意したテトラフェニルホスホニウムブロマイド等のテトラ置換ホスホニウムハライドをメタノールに溶かした溶液を室温攪拌下滴下すると結晶が析出する。析出した結晶を濾過、水洗、真空乾燥すると、ホスホニウム化合物とシラン化合物との付加物が得られる。しかし、これに限定されるものではない。
【0064】
本発明に係る固定用樹脂組成物に用いることができる硬化促進剤(D)の含有量の下限値は、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、0.1質量%以上であることが好ましい。硬化促進剤(D)の含有量の下限値が、上記範囲内であると、充分な硬化性を得ることができる。また、硬化促進剤(D)の含有量の上限値は、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは3%以下、より好ましくは1質量%以下である。硬化促進剤(D)の含有量の上限値が上記範囲内であると、充分な流動性を得ることができる。
【0065】
本発明の固定用樹脂組成物には、さらに芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(E)(以下、単に「化合物(E)」と称することもある)が含まれていてもよい。芳香環を構成する2個以上の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物(E)は、これを用いることにより、エポキシ樹脂(A1)とフェノール樹脂系硬化剤(B)との架橋反応を促進させる硬化促進剤(D)として、潜伏性を有しないリン原子含有硬化促進剤を用いた場合であっても、固定用樹脂組成物の溶融混練中での反応を抑えることができ、安定して固定用樹脂組成物を得ることができる。また、化合物(E)は、固定用樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させる効果も有するものである。化合物(E)としては、下記一般式(5)で表される単環式化合物、又は下記一般式(6)で表される多環式化合物等を用いることができ、これらの化合物は水酸基以外の置換基を有していてもよい。
【0066】
【化5】

一般式(5)において、R15及びR19のいずれか一方が水酸基であり、一方が水酸基の場合、他方は水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基であり、R16、R17及びR18は、水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基である。
【0067】
【化6】

一般式(6)において、R20及びR26のいずれか一方が水酸基であり、一方が水酸基の場合、他方は水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基であり、R21、R22、R23、R24及びR25は、水素原子、水酸基又は水酸基以外の置換基である。
【0068】
一般式(5)で表される単環式化合物の具体例としては、例えば、カテコール、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル又はこれらの誘導体が挙げられる。また、一般式(6)で表される多環式化合物の具体例としては、例えば、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン及びこれらの誘導体が挙げられる。これらのうち、流動性と硬化性の制御のしやすさから、芳香環を構成する2個の隣接する炭素原子にそれぞれ水酸基が結合した化合物が好ましい。また、混練工程での揮発を考慮した場合、母核は低揮発性で秤量安定性の高いナフタレン環である化合物とすることがより好ましい。この場合、化合物(E)を、具体的には、例えば、1,2-ジヒドロキシナフタレン、2,3-ジヒドロキシナフタレン及びその誘導体等のナフタレン環を有する化合物とすることができる。これらの化合物(E)は1種類を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0069】
化合物(E)の含有量の下限値は、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.03質量%以上、特に好ましくは0.05質量%以上である。化合物(E)の含有量の下限値が上記範囲内であると、固定用樹脂組成物の充分な低粘度化と流動性向上効果を得ることができる。また、化合物(E)の含有量の上限値は、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、2質量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.8質量%以下、特に好ましくは0.5質量%以下である。化合物(E)の含有量の上限値が上記範囲内であると、固定用樹脂組成物の硬化性の低下や硬化物の物性の低下を引き起こす恐れが少ない。
【0070】
本発明に係る固定用樹脂組成物においては、エポキシ樹脂(A1)と無機充填材(C)との密着性を向上させるため、シランカップリング剤等のカップリング剤(F)を添加することができる。カップリング剤(F)としては、エポキシ樹脂(A1)と無機充填材(C)との間で反応し、エポキシ樹脂(A1)と無機充填材(C)の界面強度を向上させるものであればよく、特に限定されるものではないが、例えばエポキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、メルカプトシラン等が挙げられる。また、カップリング剤(F)は、前述の化合物(E)と併用することで、固定用樹脂組成物の溶融粘度を下げ、流動性を向上させるという化合物(E)の効果を高めることもできるものである。
【0071】
エポキシシランとしては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、β-(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等が挙げられる。また、アミノシランとしては、例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-フェニルγ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニルγ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-β(アミノエチル)γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-6-(アミノヘキシル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(3-(トリメトキシシリルプロピル)-1,3-ベンゼンジメタナン等が挙げられる。また、ウレイドシランとしては、例えば、γ-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等が挙げられる。アミノシランの1級アミノ部位をケトン又はアルデヒドを反応させて保護した潜在性アミノシランカップリング剤として用いてもよい。また、アミノシランとしては、2級アミノ基を有してもよい。また、メルカプトシランとしては、例えば、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシランのほか、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィドのような熱分解することによってメルカプトシランカップリング剤と同様の機能を発現するシランカップリング剤など、が挙げられる。またこれらのシランカップリング剤は予め加水分解反応させたものを配合してもよい。これらのシランカップリング剤は1種類を単独で用いても2種類以上を併用してもよい。
【0072】
連続成形性という観点では、メルカプトシランが好ましく、流動性の観点では、アミノシランが好ましく、密着性という観点ではエポキシシランが好ましい。
【0073】
本発明に係る固定用樹脂組成物に用いることができるシランカップリング剤等のカップリング剤(F)の含有量の下限値としては、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、0.01質量%以上が好ましく、より好ましくは0.05質量%以上、特に好ましくは0.1質量%以上である。シランカップリング剤等のカップリング剤(F)の含有量の下限値が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂(A1)と無機充填材(C)との界面強度が低下することがなく、良好な耐振動性を得ることができる。また、シランカップリング剤等のカップリング剤(F)の含有量の上限値としては、全固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、1質量%以下が好ましく、より好ましくは0.8質量%以下、特に好ましくは0.6質量%以下である。シランカップリング剤等のカップリング剤(F)の含有量の上限値が上記範囲内であれば、エポキシ樹脂(A1)と無機充填材(C)との界面強度が低下することがなく、良好な耐振動性を得ることができる。また、シランカップリング剤等のカップリング剤(F)の含有量が上記範囲内であれば、固定用樹脂組成物の硬化物の吸水性が増大することがなく、良好な防錆性を得ることができる。
【0074】
本発明に係る固定用樹脂組成物においては、難燃性を向上させるために無機難燃剤(G)を添加することができる。なかでも燃焼時に脱水、吸熱することによって燃焼反応を阻害する金属水酸化物、又は複合金属水酸化物が、燃焼時間を短縮することができる点で好ましい。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ジルコニアを挙げることができる。複合金属水酸化物としては、2種以上の金属元素を含むハイドロタルサイト化合物であって、少なくとも一つの金属元素がマグネシウムであり、かつ、その他の金属元素がカルシウム、アルミニウム、スズ、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、又は亜鉛から選ばれる金属元素であればよく、そのような複合金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム・亜鉛固溶体が市販品で入手が容易である。なかでも、連続成形性の観点からは水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム・亜鉛固溶体が好ましい。無機難燃剤(G)は、単独で用いても、2種以上用いてもよい。また、連続成形性への影響を低減する目的から、シランカップリング剤などの珪素化合物やワックスなどの脂肪族系化合物などで表面処理を行って用いてもよい。
【0075】
本発明に係る無機難燃剤(G)の含有量は、本発明に係る固定用樹脂組成物の合計値00質量%に対して、好ましくは1質量%以上、20質量%以下であり、より好ましくは3質量%以上、10質量%以下である。
【0076】
本発明に係る固定用樹脂組成物においては、イオン性不純物の濃度の上限値は、固定用樹脂組成物に対して、好ましくは500ppm以下であり、より好ましくは300ppm以下であり、さらに好ましくは200ppm以下である。イオン性不純物の濃度の下限値は、特に限定されないが、例えば、本発明に係る固定用樹脂組成物に対して、0ppb以上であり、より好ましくは10ppb以上であり、より好ましくは100ppb以上である。これにより、本発明に係る固定用樹脂組成物の硬化物を固定部材に用いた際、高温、多湿下で処理しても高い防錆性を保持することができる。
【0077】
本発明に係るイオン性不純物としては、特に限定されるものではないが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ハロゲンイオン等、より具体的にはナトリウムイオン、塩素イオン等が挙げられる。ナトリウムイオンの濃度の上限値は、本発明に係る固定用樹脂組成物に対して、好ましくは100ppm以下であり、より好ましくは70ppm以下であり、さらに好ましくは50ppm以下である。また、塩素イオンの濃度の上限値は、本発明に係る固定用樹脂組成物に対して、好ましくは100ppm以下であり、より好ましくは50ppm以下であり、さらに好ましくは30ppm以下である。上記の範囲とすることにより、電磁鋼板や磁石の腐食を抑制することができる。
【0078】
本実施の形態においては、例えば、純度の高いエポキシ樹脂を使用することにより、イオン性不純物を低減することができる。以上により、耐久性に優れたロータが得られる。
【0079】
イオン性不純物の濃度は、下記のようにして求めることができる。まず、本発明に係る固定用樹脂組成物を175℃180秒で成形硬化後、粉砕機で粉砕し硬化物の粉末を得る。得られた硬化物粉末を純水中で120℃、24時間処理し、純水中にイオンを抽出した後、ICP-MS(誘導結合プラズマイオン源質量分析装置)を用い測定できる。
【0080】
本発明に係る固定用樹脂組成物においては、アルミナの含有量の上限値は、固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは7質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下である。アルミナの含有量の下限値は、特に限定されないが、例えば、本発明に係る固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは0質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.1質量%以上である。アルミナの含有量を上記上限値以下とすることにより、本発明に係る固定用樹脂組成物の流動性を向上させること、および軽量化を図ることができる。なお、本実施の形態において、0質量%は検出限界の値を許容する。
【0081】
本発明に係る固定用樹脂組成物では、前述した成分以外に、ハイドロタルサイト類またはマグネシウム、アルミニウム、ビスマス、チタン、ジルコニウムから選ばれる元素の含水酸化物等のイオン捕捉剤;カーボンブラック、ベンガラ、酸化チタン等の着色剤;カルナバワックス等の天然ワックス;ポリエチレンワックス等の合成ワックス;ステアリン酸やステアリン酸亜鉛等の高級脂肪酸及びその金属塩類若しくはパラフィン等の離型剤;ポリブタジエン化合物、アクリロニトリルブタジエン共重合化合物、シリコーンオイル、シリコーンゴム等のシリコーン化合物等の低応力剤を適宜配合してもよい。
【0082】
本発明に係る着色剤の含有量は、本発明に係る固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上、1質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上、0.8質量%以下である。着色剤の含有量を上記範囲内とすることにより、色が付いた不純物を除去する工程が不要となり、作業性が向上する。したがって、歩留まりに優れたロータが実現される。
【0083】
本発明に係る離型剤の含有量は、本発明に係る固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、下限値は、特に限定されないが、例えば好ましくは0.01質量%以上でありより好ましくは0.05質量%以上であり、一方、上限値は、例えば好ましくは1質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、さらに好ましくは0.2質量%以下であり、特に好ましくは0.1質量%以下である。通常、半導体チップをトランスファー形成する際には、固定部材が金型から離間する離型性を確保するために、離型剤を一定量添加することが知られている。しかしながら、離型剤の添加量が高すぎると、固定部材と電磁鋼板との密着性が低下するおそれがある。このため、本発明においては、離型剤の含有量は少ない方が好ましく、とくに0.2質量%以下が好ましい。これにより、固定部材と電磁鋼板との密着性を高めることができるので、耐久性に優れたロータが実現される。
【0084】
本発明に係る低応力剤の含有量は、本発明に係る固定用樹脂組成物の合計値100質量%に対して、好ましくは0.01質量%以上、3質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上、2質量%以下である。
【0085】
本発明の固定用樹脂組成物を以上に説明したような構成とすることにより、固定用樹脂組成物の充填特性を向上させることが可能となる。そして、穴部と磁石との間隙が狭い場合であっても鋼板と磁石との接着面積を充分に確保することができる。その結果、ロータに高い機械的強度を付与することが可能となる。また、オートマチックトランスミッションフルード(ATF)に浸漬しても、浸漬前後の重量変化率、体積変化率を小さく抑えることができるので、自動車用途に用いられるロータとして極めて好適な特性を有するものである。
【0086】
本発明に係る固定用樹脂組成物において、金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、注入時間20秒、硬化時間90秒の条件で、幅3mm、厚さ80μmの断面形状を有する流路に固定用樹脂組成物を注入した際のスリット流動長は、下限値が好ましくは75mm以上であり、より好ましくは80mm以上であり、さらに好ましくは85mm以上であり、一方、上限値が好ましくは300mm以下である。厚さ80μmのスリット長を下限値以上とすることにより、幅狭領域における間隙への充填特性を高めることができる。また、厚さ80μmのスリット長を上限値以下とすることにより、ロータにバリが大量に付着し、ロータを回転させた際にバリが取れて、バリがロータの回転を阻害することを抑制することが可能となる。
【0087】
また、本実施の形態においては、例えば、充填材の粒径を細かくする、エポキシ樹脂及び/又は硬化剤の軟化点を下げる、硬化促進剤の量を減らすなどにより、上記スリット流動長を増加することができる。
【0088】
本発明に係る固定用樹脂組成物の、高化式粘度測定装置を用いて測定温度175℃、荷重10kgで測定した際の高化式粘度は、下限値が特に限定されないが好ましくは3Pa・s以上であり、より好ましくは5Pa・s以上であり、さらに好ましくは6Pa・s以上であり、一方、上限値が特に限定されないが50Pa・s以下であり、より好ましくは30Pa・s以下であり、さらに好ましくは15Pa・s以下である。上記下限値以上であれば、成形時の巻き込みなどによるボイドの発生を抑制することができる。上記上限値以下であれば、良好な充填性を得ることができる。これにより、製造安定性に優れたロータが実現される。
【0089】
また、本実施の形態においては、例えば、エポキシ樹脂、硬化剤の軟化点を下げる、潜伏性の硬化促進剤を用いる、充填材として溶融球状シリカを用いるなどにより、上記高化式粘度を低減することができる。
【0090】
本発明に係る固定用樹脂組成物の175℃におけるゲルタイムが、10秒以上50秒以下であることが好ましく、15秒以上、45秒以下であることがより好ましい。上記下限値以上であれば、充填性を向上させることができる。上記上限値以下であれば、成形サイクルを早くすることができる。
【0091】
また、本実施の形態においては、例えば、硬化促進剤の量を増やすことにより、上記ゲルタイムを低減することができる。これにより、製造安定性に優れたロータが実現される。
【0092】
本発明に係る固定用樹脂組成物のスパイラルフローが、50cm以上であることが好ましく、60cm以上であることがより好ましく、80cm以上であることがさらに好ましい。上記下限値以上であれば、充填性、特に垂直方向への充填性を向上させることができる。上記スパイラルフローの上限値としては、とくに限定されないが250cm以下が好ましく、220cm以下がより好ましい。これにより、製造安定性に優れたロータが実現される。
【0093】
また、本実施の形態においては、例えば、充填材として溶融球状シリカを用いる、エポキシ樹脂、硬化剤の軟化点を下げる、硬化促進剤の量を減らすなどにより、上記スパイラルフローを増加することができる。
【0094】
本発明に係る固定用樹脂組成物の、キュラストメーターを用いて測定温度175℃で硬化トルクを経時的に測定した際の、測定開始60秒後の硬化トルク値をT_(60)、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値をT_(max)としたとき、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値に対する測定開始60秒後の硬化トルク値の比T_(60)/T_(max)(%)が、40%以上であることが好ましく、45%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。上記硬化トルク値の比の上限値としては、とくに限定されないが100%以下が好ましく、95%以下がより好ましい。上記下限値以上であれば、生産性向上が期待できる。
【0095】
また、本実施の形態においては、例えば、硬化促進剤の量を増やすことにより、上記硬化トルク値の比を増加することができる。これにより、製造安定性に優れたロータが実現される。
【0096】
本発明に係る固定用樹脂組成物は、まず、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒間という硬化条件で、かつ、JIS K7162に準じて得られたダンベル形状の前記固定用樹脂組成物の硬化物を作製する。前記ダンベル形状の前記固定用樹脂組成物の硬化物を、さらに175℃、4時間という条件で硬化させて試験片として作製する。前記試験片に対して、温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行い、破断エネルギーが得られる。なお、JIS K7162に記載のダンベル形状と同様の形状が、ISO527-2に記載されている。
以下、温度25℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーを、破断エネルギーa、とする。また、温度150℃、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った際に得られる破断エネルギーを、破断エネルギーbとする。さらに、破断エネルギーaの測定条件における破断強度を、破断強度a、破断エネルギーbの測定条件における破断強度を、破断強度bとする。
破断エネルギーとは、引張試験時における垂直応力(stress)と垂直歪み(strein)との関係を、グラフ化した曲線(応力-歪曲線)を作成し、算出した。
具体的には、歪みを変数とし、引張試験の開始点から破断点までの応力の積分値を算出するものである。この破断エネルギーが大きい程、得られるローターコアは、硬さおよび粘り強さを備え、耐久性に優れたものとなる。なお、単位は、×10^(-4)J/mm^(3)である。本発明に係る固定用樹脂組成物の硬化物(固定部材)における破断エネルギーaは、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上であることが好ましい。かかる範囲の破断エネルギーaを有していることによって、硬さおよび粘り強さを備えた耐久性に優れたローターコアが得られる。また、破断エネルギーaは、1.9×10^(-4)J/mm^(3)以上であることがより好ましい。破断エネルギーaが、この範囲にあることによって、高温下、長時間にわたって高速回転させる環境下において、十分な耐久性を示すローターコアを実現できる。なお、上限値については特に制限されるものではないが、15.0×10^(-4)J/mm^(3)程度であれば十分である。
なお、破断エネルギーbは、1.2×10^(-4)J/mm^(3)以上であることが好ましい。破断エネルギーaと比較して高温で測定している破断エネルギーbが、上記範囲内である場合、温度変化にも強く、かつ硬さと粘り強さを備えた耐久性に優れたロータを得ることができる。また、破断エネルギーbは、1.5×10^(-4)J/mm^(3)以上であることがより好ましい。破断エネルギーbが、この範囲にあることによって、高速回転時における耐久性が、より一層向上する。破断エネルギーbについても、破断エネルギーaと同様に、上限値については特に制限されるものではないが、8.0×10^(-4)J/mm^(3)程度であれば十分である。破断エネルギーaおよびbを向上させるためには、以下の手法が有効である。
まず、本発明に係るエポキシ樹脂およびその硬化剤の組み合わせを用いることにより、樹脂成分の強度および粘り強さを向上することができる。これに加え、無機充填材の表面をシランカップリング剤により改質し、樹脂と無機充填材の界面接着強度を向上させることがより好ましい。また、無機充填材の粒径分布を調整することにより、樹脂硬化体内部に発生したマイクロクラックが進展し難い構造とすることがさらに好ましい。
本実施形態に係るロータは、本発明に係る固定用樹脂組成物の硬化物(固定部材)の破断強度aを50MPa以上の範囲に制御することによって、さらに耐久性を向上させることが可能である。具体的には、破断強度aがこの範囲にあることによって、高速回転時における耐久性が、より一層向上する。なお、破断強度aは、60MPa以上であると好ましい。上限値については特に制限されるものではないが、200MPa程度であれば十分である。
本発明に係る固定用樹脂組成物の硬化物の破断強度bについても、破断強度aと同様に、破断強度bを15MPa以上の範囲に制御することによって、高速回転時における耐久性が、より一層向上する。なお、破断強度bは、20MPa以上であることが好ましい。上限値については特に制限されるものではないが、100MPa程度であれば十分である。破断強度aおよびbについて上記特定の範囲に設定することによって、耐久性に優れたロータを提供することが可能である。特に、ロータの高速回転使用時における永久磁石の位置安定性に優れたロータを提供することが可能である。
【0097】
本発明に係る固定用樹脂組成物は、成形機を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒間の条件で、上記固定用樹脂組成物を注入成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの上記固定用樹脂組成物の成形体を作製する。上記成形体を、さらに175℃、4時間という条件で硬化させて硬化物として作製する。その後、その硬化物をATF中に150℃で1000時間浸漬する。ATF浸漬前の上記硬化物の重量をX1とし、ATF浸漬後の上記硬化物の重量をX2としたとき、(X2-X1)/X1×100で重量変化率[%]が算出される。
ここで、ATFは、一般的に使用されているものであれば特に限定されるものではなく、基油に各種添加剤が配合されている。ここで基油は、鉱油系基油、合成油系基油、またはこれらの混合物が一般的である。添加剤成分としては、粘度調整剤、摩擦調整剤等が挙げられる。
本実施形態では、重量変化率測定用のATFとして、例えば、マチックフルードD(日産自動車社製)、オートフルードタイプT-IV(トヨタ自動車社製)、ATF DW-1(本田技研工業社製)などを用いることができる。
【0098】
本発明に係る固定用樹脂組成物は、その硬化物(固定部材)をATF中に150℃で1000時間浸漬したときの重量変化率が、0.5%以下であることが好ましい。より好ましくは0.2%以下である。ATF浸漬前後の重量変化率が上記上限値以下であることにより、固定部材が高温で長時間にわたって潤滑油と接触しても、固定部材が潤滑油によって大きく膨潤してしまうのを抑制することができる。
また、本発明に係る固定用樹脂組成物は、その硬化物をATF中に150℃で1000時間浸漬したときの重量変化率が、-0.05%以上であることが好ましい。より好ましくは-0.03%以上である。ATF浸漬前後の重量変化率が上記下限値以上であることにより、固定部材が高温で長時間にわたって潤滑油と接触しても、潤滑油中に固定部材の一部が流出するのを抑制することができる。さらに、ATF浸漬前後の重量変化率が上記下限値以上であることにより、潤滑油の特性が低下するのを抑制することができる。
したがって、ATF浸漬前後の重量変化率が上記範囲内であることにより、高温で長時間にわたって高速回転させる環境下でも、固定部材の寸法を一定に維持できる。その結果、長期間にわたり磁石の位置を一定に維持することができるため、長期信頼性に優れたロータを得ることができる。
また、本発明に係る固定用樹脂組成物は、その硬化物をATF中に150℃で2000時間浸漬したとき、ATF浸漬後の上記硬化物の重量をX3としたとき、(X3-X1)/X1×100で算出される重量変化率[%]が、好ましくは-0.1%以上、0.6%以下である。より好ましくは-0.07%以上、0.5%以下である。上記条件で測定した重量変化率が上記範囲内であると、高温で長時間にわたって高速回転させる環境下でも、長期信頼性により一層優れたロータを得ることができる。
また、本発明に係る固定用樹脂組成物は、その硬化物をATF中に150℃で1000時間浸漬したとき、ATF浸漬前の上記硬化物の体積をY1とし、ATF浸漬後の上記硬化物の体積をY2としたとき、(Y2-Y1)/Y1×100で算出される体積変化率[%]が、好ましくは-0.2%以上、1.5%以下である。より好ましくは-0.1%以上、1%以下である。上記条件で測定した体積変化率が上記範囲内であると、高温で長時間にわたって高速回転させる環境下でも、長期信頼性により一層優れたロータを得ることができる。
本発明に係る固定用樹脂組成物は、例えば、ミキサー等を用いて常温で均一に混合し、その後、必要に応じて、加熱ロール、ニーダー又は押出機等の混練機を用いて溶融混練し、続いて必要に応じて冷却、粉砕することにより、所望の分散度や流動性等に調整することができる。
本発明に係る固定用樹脂組成物の製造方法は、特に制限は無いが、次のように行うことができる。
まず、熱硬化性樹脂(A)、フェノール樹脂系硬化剤(B)及び無機充填材(C)、ならびに好ましくはその他の添加剤等を、所定量配合し、固定用樹脂組成物を得る。次いで、配合したものを、たとえばミキサー、ジェットミル、ボールミル等を用いて常温で均一に粉砕、混合した後、加熱ロール、ニーダー又は押出機等の混練機を用いて90?120℃程度まで加温しながら溶融し混練を行う。次いで、混練後の固定用樹脂組成物を冷却、粉砕し、顆粒又は粉末状の固形の固定用樹脂組成物を得ることができる。本発明に係る固定用樹脂組成物の粉末又は顆粒の粒度は、例えば5mm以下が好ましい。5mm以下とすることにより、打錠時に充填不良をおこし、タブレットの質量のバラツキが大きくなることを抑制することができる。
さらに、得られた固定用樹脂組成物の粉末又は顆粒を打錠成型することによりタブレットを得ることができる。打錠成型に用いる装置としては、単発式、又は多連ロータリー式の打錠機を用いることができる。タブレットの形状は特に限定はないが、円柱状が好ましい。打錠機のオス型、メス型及び環境の温度に特に制限はないが、35℃以下が好ましい。35℃を超えると固定用樹脂組成物が反応により粘度上昇し、流動性が損なわれる恐れがある。打錠圧力は400×10^(4)以上3000×10^(4)以下Paの範囲が好ましい。打錠圧力を上記上限値以下とすることにより、タブレット打錠直後に破壊が生じることを抑制できる。一方、打錠圧力を上記下限値以上とすることにより、十分な凝集力が得られないために、輸送中にタブレットの破壊が生じることを抑制することができる。打錠機のオス型、メス型の金型の材質、表面処理に特に限定はなく、公知の材質のものを使用することができ、表面処理の例としては、たとえば放電加工、離型剤のコーティング、メッキ処理、研磨などを挙げることができる。
また、本発明に係る固定部材のガラス転移温度(Tg)が、130℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましい。上記下限値以上であれば、信頼性向上が期待できる。上記ガラス転移温度(Tg)の上限値としては、とくに限定されないが200℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましい。これにより、耐久性に優れたロータが実現される。
また、本実施の形態においては、例えば、エポキシ樹脂、硬化剤の軟化点を上げることにより、上記ガラス転移温度(Tg)を増加することができる。
本発明に係る固定部材の150℃における曲げ強度が、70MPa以上であることが好ましく、100MPa以上であることがより好ましい。上記下限値以上であれば、クラックなどが発生しにくく信頼性向上が期待できる。上記曲げ強度の上限値としては、とくに限定されないが300MPa以下が好ましく、250MPa以下がより好ましい。これにより、耐久性に優れたロータが実現される。
また、本実施の形態においては、例えば、充填材の表面にカップリング剤を処理することにより、上記曲げ強度を増加することができる。
本発明に係る固定部材の150℃における曲げ弾性率の上限値が、1.6×10^(4)MPa以下であることが好ましく、1.3×10^(4)MPa以下であることがより好ましい。上記上限値以下であれば、応力緩和による信頼性向上が期待できる。上記曲げ弾性率の下限値としては、とくに限定されないが5000MPa以上が好ましく、7000MPa以上がより好ましい。これにより、耐久性に優れたロータが実現される。
また、本実施の形態においては、例えば、低応力剤の添加量を増やす、充填材の配合量を減らすなどにより、上記曲げ弾性率を低減することができる。
本発明に係る固定部材の、25℃以上ガラス転移温度(Tg)以下の領域における線膨張係数(α1)が、10ppm/℃以上、25ppm/℃以下であることが好ましく、15ppm/℃以上、20ppm/℃以下であることがより好ましい。上記範囲内であれば、電磁鋼板との熱膨張差が小さくかつマグネットの抜け落ちが防止できる。これにより、耐久性に優れたロータが実現される。
また、本実施の形態においては、例えば、充填材の配合量を増やすことにより、上記線膨張係数(α1)を低減することができる。
【0099】
本発明に係る固定部材の、25℃以上ガラス転移温度(Tg)以下の領域における線膨張係数(α2)が、10ppm/℃以上、100ppm/℃以下であることが好ましく、20ppm/℃以上、80ppm/℃以下であることがより好ましい。上記範囲内であれば、電磁鋼板との熱膨張差が小さくかつマグネットの抜け落ちが防止できる。これにより、耐久性に優れたロータが実現される。
また、本実施の形態においては、例えば、充填材の配合量を増やすことにより、上記線膨張係数(α2)を低減することができる。
(ロータの製造方法)
本実施の形態に係るロータ100の製造方法は、回転シャフト(シャフト170)が貫通する貫通孔の周縁部に沿って配置されている複数の穴部150が設けられている、ローターコア110を準備する工程と、穴部150に磁石120を挿入する工程と、穴部150と磁石120との離間部に固定用樹脂組成物を充填する工程と、樹脂組成物を硬化して、固定部材130を得る工程と、ローターコア110の前記貫通孔にシャフト170を挿入するとともに、ローターコアにシャフト170を固設する工程と、を有する。
本実施の形態では、固定用樹脂組成物を充填する手法として、インサート成形を用いることが好ましい。以下、詳述する。
【0100】
まず、インサート成型装置について説明する。
図2は、インサート成形に用いるインサート成形装置の上型200の断面図である。
固定部材130の形成方法の一例としては、タブレット状の固定用樹脂組成物を用い、インサート成形を行う方法を用いることができる。このインサート成形には、インサート成形装置を用いる。この成形装置は、タブレット状の固定用樹脂組成物が供給されるポット210と溶融状態の固定用樹脂組成物を移動させる流路220とを有する上型200と、下型と、これらの上型及び下型を加熱する加熱手段と、溶融状態の固定用樹脂組成物を押し出す押出機構と、を備える。インサート成形装置は、例えば、ローターコアなどを搬送する搬送機能を備えてもよい。
本実施の形態において、上型200及び下型は、ローターコア110の上面及び下面(すなわち、ローターコア110を構成する電磁鋼板の一面)と密着することが好ましく、例えば、板状であることが好ましい。本実施の形態の上型200及び下型は、ローターコア110の全体を覆わない、例えば、側面の一部を覆わない点で、半導体装置の製造方法に用いる通常のトランスファー形成の金型とは異なる。トランスファー形成の金型は、上型及び下型で構成されるキャビティ内に半導体チップ全体が配置されるように構成される。また、ポット210は、2つの別々の流路220を有してもよく、Y字状の流路220を有してもよい。これにより、1つのポット210から、2つの穴部に、本発明に係る固定用樹脂組成物を充填できる。なお、1つのポットは、1つの穴部に固定用樹脂組成物を充填する1個の流路を有してもよいが、3以上の穴部に固定用樹脂組成物を充填する3個の流路を有してもよい。ただし、複数の流路は互いに独立してもよいが、連続していてもよい。
続いて、本実施の形態に係るインサート成形について説明する。
まず、ローターコアをオーブン又は熱盤上などで予熱後、不図示の成形装置の下型に固定する。続いて、ローターコアの穴部中に、磁石を挿入する。続いて、下型を上昇させ、ローターコアの上面に上型200を押しつける。これにより、上型200と下型とで、ローターコア110の上面及び下面を挟み込む。このとき、上型200中の流路220の先端部が、穴部と磁石との離間部上に配置される。また、ローターコアは、成形装置の下型と上型200からの熱伝導により加熱されることとなる。成形装置の下型及び上型200は、ローターコアが固定用樹脂組成物の成形、硬化に適した温度となるよう、例えば、150℃?200℃程度に温調されている。この状態でタブレット状の固定用樹脂組成物を上型200のポット210内に供給する。上型200のポット210内に供給されたタブレット状の固定用樹脂組成物は、ポット210内で加熱され溶融状態となる。
続いて、プランジャ(押出機構)により、溶融状態の固定用樹脂組成物をポット210から押し出す。そして、固定用樹脂組成物は、流路220を移動して、穴部と磁石との離間部に充填される。この間、ローターコアは金型(下型と上型200)からの熱伝導により加熱され、それにより充填された固定用樹脂組成物を硬化させて、固定部材を形成する。このとき、温度条件としては、例えば、150℃?200℃とすることができる。また、硬化時間としては、例えば、30秒?180秒とすることができる。これにより、穴部150の内部に挿入された磁石120が固定部材130により固定される。この後、ローターコアの上面から上型200を離間する。次いで、ローターコア110の貫通孔にシャフト170を挿入するとともに、ローターコアにシャフト170を固設する。
以上により、本実施の形態のロータが得られる。
ここで、本実施の形態のインサート成形方法は、脱型する必要がない点で、半導体装置の製造に用いるトランスファー成形方法と異なる。
インサート成形方法では、ローターコア110の上面と上型200とが密着された状態で、上型200の流路を通って、ロータ-コア110の穴部に樹脂が充填される。このため、ローターコア110の上面と上型200との間に樹脂が多量に充填されず、上型200と上面との着脱が容易となる。
一方、トランスファー成形方法では、半導体チップと金型との間のキャビティに樹脂が充填されるので、成形品から金型をうまく脱型する必要がある。このため、半導体チップを封止する樹脂には、金型と成形品との離型性が特に要求されることになる。
本実施の形態のロータ100は、ハイブリッド車、燃料電池車および電気自動車等の電動車両、列車ならびに船舶、等の、乗り物に搭載することができる。
【実施例】
【0101】
以下、本発明を、実施例を参照して詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。特に記載しない限り、以下に記載の「部」は「質量部」、「%」は「質量%」を示す。
【0102】
各実施例及び各比較例で用いた原料成分を下記に示した。
【0103】
(熱硬化性樹脂(A))
エポキシ樹脂1:ビフェニル型エポキシ(三菱化学製、YX4000K、150℃のICI粘度:0.11poise)
エポキシ樹脂2:テトラメチルビスフェノールF型エポキシ樹脂(新日鉄化学製、YSLV-80XY、150℃のICI粘度:0.03poise)
エポキシ樹脂3:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC製、EPICLON N-665、150℃のICI粘度:3.06poise)
エポキシ樹脂4:フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ(日本化薬製、NC-2000、150℃のICI粘度:1.20poise)
エポキシ樹脂5:ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ(日本化薬製、NC3000、150℃のICI粘度:0.85poise)
エポキシ樹脂6:トリフェニルメタン型エポキシ樹脂(日本化薬製、E-1032H-60、150℃のICI粘度:1.30poise)
エポキシ樹脂7:オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(DIC製、EPICLON N-670、150℃のICI粘度:4.28poise)
なお、150℃における溶融粘度(ICI粘度)は、コーンプレート型粘度計CV-1S(東亜工業株式会社製)で測定した。
【0104】
(硬化剤(B))
フェノール樹脂系硬化剤1:ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト製、PR-HF-3、150℃のICI粘度:1.08poise)
フェノール樹脂系硬化剤2:フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(明和化成製、MEH-7800-4S、150℃のICI粘度:0.73poise)
フェノール樹脂系硬化剤3:ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂(明和化成製、MEH-7851SS、150℃のICI粘度:0.68poise)
フェノール樹脂系硬化剤4:2-ヒドロキシベンズアルデヒドとホルムアルデヒドとフェノールの反応生成物を主とするフェノール樹脂(エア・ウォーター製、HE910-20、150℃のICI粘度:1.5poise)
フェノール樹脂系硬化剤5:ノボラック型フェノール樹脂(住友ベークライト製、PR-51714、150℃のICI粘度:1.64poise)
(無機充填材(C))
球状シリカ1(電気化学工業製、FB-950、平均粒径D_(50)23μm)
球状シリカ2(電気化学工業製、FB-35、平均粒径D_(50)10μm)
球状シリカ3(アドマテックス製、SO-25R、平均粒径D_(50)0.5μm)
アルミナ(電気化学工業製、DAW-45、平均粒径D_(50)43μm)
(硬化促進剤(D))
硬化促進剤1:トリフェニルホスフィン
硬化促進剤2:下記式(7)で表される硬化促進剤
【0105】
【化7】

硬化促進剤3:下記式(8)で表される硬化促進剤
【0106】
【化8】

硬化促進剤4:下記式(9)で表される硬化促進剤
【0107】
【化9】

硬化促進剤5:下記式(10)で表される硬化促進剤
【0108】
【化10】

(カップリング剤(F))
カップリング剤1:フェニルアミノプロピルトリメトキシシラン(東レ・ダウコーニング(株)製、CF4083)
カップリング剤2:γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製、KBM-403)
(無機難燃剤(G))
水酸化アルミニウム(住友化学製、CL-303)
(その他の添加剤)
イオン捕捉剤:ハイドロタルサイト(協和化学工業製、商品名DHT-4H)
着色剤:カーボンブラック(三菱化学製、MA600)
離型剤:モンタン酸エステルワックス(ヘキスト製、ヘキストワックスE)
低応力剤1:シリコーンレジン(信越化学工業(株)製、KMP-594)
低応力剤2:シリコーンオイル(東レダウコーニング(株)製、TZ-8120)
(実施例)
実施例および比較例について、表1および表2に示す配合量に従って各成分を配合したものを、ミキサーを用いて常温で混合し、粉末状中間体を得た。得られた粉末状中間体を自動供給装置(ホッパー)に装填して、80℃?100℃の加熱ロールへ定量供給し、溶融混練を行った。その後冷却し、次いで粉砕して、固定用樹脂組成物を得た。成型装置を用いて、得られた固定用樹脂組成物を打錠成型することによりタブレットを得た。
【0109】
一方、図2に示す上型200を備えるインサート成形装置を用いて、下記要領でロータを作製した。まず、ローターコアを成形装置の下型に固定し、続いて、ローターコアの穴部中に、ネオジム磁石を挿入した後、下型を上昇させてローターコアの上面に上型200を押しつけた。続いて、タブレット状の固定用樹脂組成物を上型200のポット210に供給した。次いで、プランジャにより、溶融状態の固定用樹脂組成物をポット210から押し出し、固定用樹脂組成物を穴部とネオジム磁石との離間部に充填した。次いで、充填された固定用樹脂組成物を加熱硬化させて固定部材を形成し、ロータを得た。この時の成形条件は、ローターコア温度:160℃、硬化時間:120秒とした。
【0110】
得られた固定用樹脂組成物及びロータについて、下記に示す測定及び評価を行った。その結果を表1および表2に示す。実施例のロータは強度に優れていた。
【0111】
(評価項目)
スパイラルフロー:低圧トランスファー成形機(コータキ精機(株)製、KTS-15)をインサート成形に転用して、ANSI/ASTM D 3123-72に準じたスパイラルフロー測定用金型に、175℃、注入圧力6.9MPa、保圧時間120秒の条件で固定用樹脂組成物を注入し、流動長を測定した。スパイラルフローは、流動性のパラメータであり、数値が大きい方が、流動性が良好である。表1、2中におけるスパイラルフローの単位はcmである。
【0112】
ゲルタイム:175℃に制御された熱板上に、固定用樹脂組成物を載せ、スパチュラで約1回/sec.のストロークで練る。固定用樹脂組成物が熱により溶解してから硬化するまでの時間を測定し、ゲルタイムとした。表1、2中におけるゲルタイムの単位は秒である。
【0113】
高化式粘度:約2.5gの固定用樹脂組成物を、タブレット状(直径11mm、高さ約15mm)としたのち、高化式粘度測定装置(島津製作所(株)製、CFT-500D)を用いて測定温度175℃、荷重10kgの条件で、直径0.5mm、長さ1.0mmのノズル(ダイス)を使用して測定した。表1、2中における高化式粘度の単位はPa・sである。
【0114】
キュラストトルク比:キュラストメーター((株)オリエンテック製、JSRキュラストメーターIVPS型)を用いて、測定温度175℃で固定用樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定した際の、測定開始60秒後の硬化トルク値をT_(60)、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値をT_(max)とする。測定開始300秒後までの最大硬化トルク値に対する測定開始60秒後の硬化トルク値の比T_(60)/T_(max)(%)を、キュラストトルク比として求めた。キュラストメーターにおけるトルクは熱剛性のパラメータである。このため、キュラストトルク比が大きい程、硬化性が良好となる。
【0115】
スリット流動長:金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、注入時間20秒、硬化時間90秒の条件で、先端が開放された特定厚みの溝(スリット)を放射状に設けた金型に、固定用樹脂組成物を注入成形し、幅3mm、厚さ80μmのスリットに流れ出た樹脂の長さをノギスで測定した。単位はmm。
【0116】
ロータ成形性:電磁鋼板に見立てた金型(穴部の幅が30mm、厚みが4mm、深さが75mm)にマグネットに見立てた金属片(幅28mm、厚み3.8mm、長さ74mm)を挿入したものを成形機にセットした後、金型が170℃に達したところで固定用樹脂組成物を注入成形し、硬化時間120秒後に金型を成形機から取り出した。成形品の外観を肉眼で観察しボイドなどの異常がないか確認し、ボイドなどの異常がなかったものを○、ボイドなどの異常があったものを×とした。
【0117】
ガラス転移温度:低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS-30)をインサート成形に転用して、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間2分の条件で、固定用樹脂組成物を注入成形し、4mm×4mm×15mmの試験片を得た。得られた試験片を、175℃、4時間で後硬化した後、熱機械分析装置(セイコー電子工業(株)製、TMA100)を用いて、測定温度範囲0℃から320℃までの温度域において昇温速度5℃/分で測定した時のチャートより、ガラス転移温度以下の領域での線膨張係数(α1)とゴム状相当領域の線膨張係数(α2)とを決定する。このとき、α1及びα2の延長線の交点をガラス転移温度とした。表1、2中において、ガラス転移温度の単位は℃、線膨張係数(α1、α2)の単位はppm/℃である。
【0118】
耐燃性:低圧トランスファー成形機(コータキ精機株式会社製、KTS-30)をインサート成形に転用して、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、注入時間15秒、硬化時間120秒の条件で、固定用樹脂組成物を注入成形して127mm×12.7mm×3.2mm厚の耐燃試験片を作製した。それら試験片を用いて、UL94垂直法の規格に則り耐燃試験を行い、耐燃性を判断した。耐燃ランク等を示した。本発明では難燃性が必須条件ではないため、難燃性は適宜調整すればよい。
【0119】
破断エネルギーaおよびb:JIS K7162に準じてダンベル型に成形したロータ固定用樹脂組成物の硬化物(以下、試験片と示す)を、25℃あるいは150℃で、負荷速度1.0mm/minという条件で引張試験を行った。この引張試験において、テンシロンには、オリエンテック社製テンシロンUCT-30T型を、歪みゲージには、共和電業社製・タイプKFG-2-120-D16-11L1M2Rを用いた。
【0120】
引張試験時における垂直応力(stress)と垂直歪み(strein)との関係を、グラフ化した曲線(応力-歪曲線)を作成した。次に、歪みを変数とし、引張試験の開始点から破断点までの応力の積分値を、算出した。なお、単位は、×10^(-4)J/mm^(3)とした。
【0121】
耐オイル性:成形機(コータキ精機株式会社製、KTS-30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件で、固定用樹脂組成物を注入成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの成形品(硬化物)を得た。得られた成形品を、後硬化として175℃、4時間加熱処理したものを試験片とし、曲げ強度及び曲げ弾性率をJIS K 6911に準じて、25℃雰囲気下で測定した。次に、この試験片を耐圧容器に入れ、耐圧容器にATFオイル(ニッサンマチックフルード D)を充填させた状態で150℃の温度で1000時間浸漬した後、上記と同様の方法にて曲げ強度及び曲げ弾性率を測定した。ATFオイル浸漬前の初期値に対し、変化率が10%以内のものを○、10%を上回るものを×とした。
ATF浸漬試験(1000時間):成形機(コータキ精機株式会社製、KTS-30)を用いて、金型温度175℃、注入圧力9.8MPa、硬化時間120秒の条件で、固定用樹脂組成物を注入成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの成形品(硬化物)を得た。得られた成形品を、後硬化として175℃、4時間加熱処理したものを試験片とし、ATF浸漬前の重量X1、体積Y1を測定した。次に、その試験片を耐圧容器に入れ、ATFを充填させた状態で150℃、1000時間浸漬した。それから、耐圧容器から試験片を取り出し、表面に付着したATFを拭き取った後、ATF浸漬後の重量X2、体積Y2を測定し、次式よりATF浸漬前後の重量変化率および体積変化率をそれぞれ算出した。
ATF浸漬前後の重量変化率[%]=(X2-X1)/X1×100
ATF浸漬前後の体積変化率[%]=(Y2-Y1)/Y1×100
なお、ATFとしては、マチックフルードD(日産自動車社製、オートフルードタイプT-IV(トヨタ自動車社製)、ATF DW-1(本田技研工業社製)をそれぞれ用いた。ATF浸漬試験(2000時間):ATFへの浸漬時間を2000時間に変える以外は、上記ATF浸漬試験(1000時間)と同様にして、ATF浸漬前後の重量変化率および体積変化率をそれぞれ算出した。
無機充填材の脱離:上記ATF浸漬試験後に、ATFオイルを濾過し、濾紙上の無機充填材の有無を顕微鏡で確認した。
【0122】
【表1】

【0123】
【表2】

【0124】
【表3】

実施列1?6から、充填特性、機械的特性、耐オイル性に優れ、ATF浸漬試験においても良好な特性を発現できる固定用樹脂組成物が得られることが分かった。
【0125】
また、エポキシ樹脂のICI粘度が3を超える比較例1?2では、80μmスリット流動長がいずれも75未満であった。このように、比較例1?2では、十分な充填特性を有する固定用樹脂組成物を得ることができなかった。
【0126】
なお、当然ながら、上述した実施の形態および複数の変形例は、その内容が相反しない範囲で組み合わせることができる。また、上述した実施の形態および変形例では、各部の構造などを具体的に説明したが、その構造などは本願発明を満足する範囲で各種に変更することができる。
【符号の説明】
【0127】
100 ロータ
110 ローターコア
112 鋼板
114 エンドプレート
116 溝部
118a、118b エンドプレート
120 磁石
121 側壁
123 側壁
130 固定部材
140 充填部
150 穴部
151 側壁
152 穴部
153 側壁
154a、154b 穴部
156 穴部
160 カシメ部
170 シャフト
200 上型
210 ポッド
220 流路
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板部材が積層した積層体を有しており、回転シャフトに固設され、前記回転シャフトの周縁部に沿って配置されている複数の穴部が前記積層体に設けられている、ローターコアと、
前記穴部に挿入された磁石と、
前記穴部と前記磁石との離間部に充填されている、固定用樹脂組成物を硬化してなる固定部材と、
を備える、ロータを構成する前記固定部材に用いる前記固定用樹脂組成物であって、
150℃におけるICI粘度が3poise以下であるエポキシ樹脂(A)を5質量%以上40質量%以下と、
150℃におけるICI粘度が2poise以下である硬化剤(B)を3質量%以上35質量%以下と、
無機充填材(C)を50質量%以上91質量%以下と、を含み、
金型温度175℃、成形圧力6.9MPa、注入時間20秒の条件で、幅3mm、厚さ80μmの断面形状を有する流路に前記固定用樹脂組成物を注入した際のスリット流動長が75mm以上300mm以下である、固形の固定用樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の固定用樹脂組成物において、
前記エポキシ樹脂が、ビフェニル型エポキシ樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、ビスナフトール型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ジヒドロアントラセンジオール型エポキシ樹脂、及びトリフェニルメタン型エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含む、固定用樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の固定用樹脂組成物において、
前記硬化剤(B)が、ノボラック型フェノール樹脂、フェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、ビフェニレン骨格を有するフェノールアラルキル樹脂、フェニレン骨格を有するナフトールアラルキル基、及びヒドロキシベンズアルデヒドとホルムアルデヒドとフェノールの反応生成物を主とするフェノール樹脂からなる群から選択される少なくとも一種を含む、固定用樹脂組成物。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
前記エポキシ樹脂が、結晶性エポキシ樹脂である、固定用樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
高化式粘度測定装置を用いて、測定温度175℃、荷重10kgで測定した際の、前記固定用樹脂組成物の高化式粘度が、3Pa・s以上50Pa・s以下である、固定用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
前記固定用樹脂組成物の175℃におけるゲルタイムが、10秒以上、50秒以下である、固定用樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
前記固定用樹脂組成物のスパイラルフローが、50cm以上である、固定用樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
キュラストメーターを用いて、測定温度175℃で前記固定用樹脂組成物の硬化トルクを経時的に測定した際の、測定開始60秒後の硬化トルク値をT_(60)、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値をT_(max)としたとき、測定開始300秒後までの最大硬化トルク値に対する測定開始60秒後の硬化トルク値の比T_(60)/T_(max)(%)が、40%以上である、固定用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
粉末状、顆粒状、又はタブレット状である、固定用樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか1項に記載の固定用樹脂組成物において、
上面視において、前記ロータの径方向における前記穴部と前記磁石との離間部の間隔が、20μm以上、500μm以下である前記ロータを構成する前記固定部材に用いる、固定用樹脂組成物。
【請求項11】
複数の板部材が積層した積層体を有しており、回転シャフトに固設され、前記回転シャフトの周縁部に沿って配置されている複数の穴部が前記積層体に設けられている、ローターコアと、
前記穴部に挿入された磁石と、
前記穴部と前記磁石との離間部に充填されている、固定用樹脂組成物を硬化してなる固定部材と、
を備えるロータであって、
前記ロータを構成する前記固定部材に用いる前記固定用樹脂組成物が、請求項1から10のいずれか1項に記載の固定用樹脂組成物であることを特徴とするロータ。
【請求項12】
請求項11に記載のロータを備える、自動車。
【請求項13】
請求項1から10のいずれか1項に記載の固定用樹脂組成物を用いて行われるロータの製造方法であって、
複数の板部材が積層した積層体を有しており、回転シャフトが貫通する貫通孔の周縁部に沿って配置されている複数の穴部が前記積層体に設けられている、ローターコアを準備する工程と、
前記穴部に磁石を挿入する工程と、
前記穴部と前記磁石との離間部に、前記固定用樹脂組成物を充填する工程と、
前記ローターコアの前記貫通孔に前記回転シャフトを挿入するとともに、前記ローターコアに前記回転シャフトを固設する工程と、を備えるロータの製造方法。
【図面】









 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2015-03-26 
出願番号 特願2012-225637(P2012-225637)
審決分類 P 1 41・ 852- Y (C08G)
P 1 41・ 853- Y (C08G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 仁科 雅弘  
特許庁審判長 堀川 一郎
特許庁審判官 関口 哲生
矢島 伸一
登録日 2013-05-02 
登録番号 特許第5257541号(P5257541)
発明の名称 固定用樹脂組成物、ロータ、自動車、及びロータの製造方法  
代理人 速水 進治  
代理人 速水 進治  

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