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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G01B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G01B
管理番号 1301068
審判番号 不服2014-9048  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-05-15 
確定日 2015-05-21 
事件の表示 特願2011-273985「三次元計測装置」拒絶査定不服審判事件〔平成25年 6月24日出願公開,特開2013-124938〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本件出願は,平成23年12月15日の特許出願であって,その手続の経緯は,概略,以下のとおりである。
平成25年11月12日:拒絶理由通知(同年同月19日発送)
平成26年 1月 7日:意見書
平成26年 1月 7日:手続補正書
平成26年 3月 5日:拒絶査定(同年同月11日送達)
平成26年 5月15日:手続補正書(以下「本件補正」という。)
平成26年 5月15日:審判請求
平成26年 6月 6日:前置報告
平成26年 7月17日:(前置報告に対して)上申書

第2 補正却下の決定
[結論]
本件補正を却下する。

[理由]
1 補正の内容
(1) 本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。
「 所定の光を発する第1光源,及び,当該第1光源からの光を縞状の光強度分布を有する第1光パターンに変換する第1格子を有し,当該第1光パターンを第1位置から被計測物に対し照射可能な第1照射手段と,
前記第1格子の移送又は切替を制御し,前記第1照射手段から照射する前記第1光パターンの位相を複数通りに変化させる第1格子制御手段と,
所定の光を発する第2光源,及び,当該第2光源からの光を縞状の光強度分布を有する第2光パターンに変換する第2格子を有し,当該第2光パターンを前記第1位置とは異なる第2位置から被計測物に対し照射可能な第2照射手段と,
前記第2格子の移送又は切替を制御し,前記第2照射手段から照射する前記第2光パターンの位相を複数通りに変化させる第2格子制御手段と,
前記第1光パターン又は第2光パターンの照射された前記被計測物からの反射光を撮像可能な撮像手段と,
複数通りに位相変化させた前記第1光パターン又は第2光パターンの照射に基づき取得した複数通りの画像データを基に位相シフト法により三次元計測を行う画像処理手段とを備え,
前記位相の異なる複数通りの第1光パターンを照射して行われる複数回の撮像処理のうちの1回分である第1撮像処理,又は,前記位相の異なる複数通りの第2光パターンを照射して行われる複数回の撮像処理のうちの1回分である第2撮像処理のうちの一方の撮像処理を実行し,
前記一方の撮像処理の終了と同時に,当該一方の撮像処理に係る前記第1格子又は前記第2格子の移送又は切替処理を開始し,
当該一方の撮像処理に係る前記第1格子又は前記第2格子の移送又は切替処理の完了を待つことなく,前記両撮像処理のうちの他方の撮像処理を実行し,
当該他方の撮像処理の終了と同時に,前記一方の撮像処理に係る前記第1格子又は前記第2格子の移送又は切替処理の完了を待つことなく,前記他方の撮像処理に係る前記第1格子又は前記第2格子の移送又は切替処理を開始可能とし,
前記第1撮像処理又は前記第2撮像処理に要する時間よりも,前記第1格子又は前記第2格子の移送又は切替処理に要する時間の方が長いことを特徴とする三次元計測装置。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,以下のとおりである。なお,下線は,当審判体が付したものである(以下同様)。
「 所定の光を発する第1光源,及び,当該第1光源からの光を縞状の光強度分布を有する第1光パターンに変換する第1格子を有し,当該第1光パターンを第1位置から被計測物に対し照射可能な第1照射手段と,
前記第1格子の移送又は切替を制御し,前記第1照射手段から照射する前記第1光パターンの位相を複数通りに変化させる第1格子制御手段と,
所定の光を発する第2光源,及び,当該第2光源からの光を縞状の光強度分布を有する第2光パターンに変換する第2格子を有し,当該第2光パターンを前記第1位置とは異なる第2位置から被計測物に対し照射可能な第2照射手段と,
前記第2格子の移送又は切替を制御し,前記第2照射手段から照射する前記第2光パターンの位相を複数通りに変化させる第2格子制御手段と,
前記第1光パターン又は第2光パターンの照射された前記被計測物からの反射光を撮像可能な撮像手段と,
複数通りに位相変化させた前記第1光パターン又は第2光パターンの照射に基づき取得した複数通りの画像データを基に位相シフト法により三次元計測を行う画像処理手段とを備え,
前記位相の異なる複数通りの第1光パターンを照射して行われる複数回の撮像処理のうちの1回分である第1撮像処理,又は,前記位相の異なる複数通りの第2光パターンを照射して行われる複数回の撮像処理のうちの1回分である第2撮像処理のうちの一方の撮像処理を実行可能であり,
前記第1撮像処理の終了と同時に,当該第1撮像処理に係る前記第1格子の移送又は切替処理を開始し,
当該第1撮像処理に係る前記第1格子の移送又は切替処理の完了を待つことなく,前記第2撮像処理を実行し,
当該第2撮像処理の終了と同時に,前記第1撮像処理に係る前記第1格子の移送又は切替処理の完了を待つことなく,前記第2撮像処理に係る前記第2格子の移送又は切替処理を開始し,
前記第1撮像処理に係る前記第1格子の移送又は切替処理の完了と同時に次回の第1撮像処理を実行可能とし,
前記第1撮像処理又は前記第2撮像処理に要する時間よりも,前記第1格子又は前記第2格子の移送又は切替処理に要する時間の方が長いことを特徴とする三次元計測装置。」

2 補正の目的
本件補正は,本件補正前の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)の第1撮像処理の実行に関して,「前記第1撮像処理に係る前記第1格子の移送又は切替処理の完了と同時に次回の第1撮像処理を実行可能とし」という記載を加えて,(次回の)第1撮像処理が実行可能となるタイミングを限定したものと解することができるから,本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする補正を含むものである。
そこで,本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本件補正後発明」という。)が,特許出願の際に独立して特許を受けることができるものであるかについて,以下,検討する。

3 独立特許要件違反
(1) 引用例1に記載の事項
本件出願の出願前に頒布された刊行物である特開2010-276607号公報(公開日:平成22年12月9日,出願番号:特願2010-120663号,出願日:平成22年5月26日,発明の名称:「3次元形状測定装置および測定方法」,出願人:「コー・ヤング・テクノロジー・インコーポレーテッド」,以下「引用例1」という。)には,図面とともに,以下の事項が記載されている。

ア 「【技術分野】
【0001】
本発明は,3次元形状測定装置および測定方法に関し,より詳細には,測定時間を短縮させることのできる3次元形状測定装置および測定方法に関する。」

イ 「【背景技術】
【0002】
一般的に,3次元形状測定装置は,撮影された画像を用いて測定対象物の3次元形状を測定する装置を示す。このような3次元形状測定装置は,前記測定対象物に向かって光を照射する投影部,前記測定対象物で反射された光を通じて前記画像を撮影するカメラ部,および前記投影部と前記カメラ部とを制御して前記画像を演算処理して前記3次元形状を測定する制御部を含んでもよい。
【0003】
このような3次元形状測定装置は,測定対象物の撮影された画像を演算処理して3次元形状を測定するため,測定対象物の3次元形状に対する測定時間の短縮により作業の迅速性および効率性を向上させ,これによる測定費用を節減しうる重要な要素となる。
【0004】
従来の3次元形状測定装置において,以下のような例は前述した測定時間を増加させる要因になり得る。
【0005】
第1に,撮影および格子移送方式によって測定時間が増加する。
【0006】
図1は,従来の3次元形状測定装置を用いた3次元形状測定方法を示した図である。
【図1】

【0007】
図1を参照すると,投影部を2個使う場合,従来は第1投影部を通じて格子を移送しながら複数の画像を撮影した後,第2投影部を通じて格子を移送しながら複数の画像を撮影する方式で測定を行った。
【0008】
しかし,カメラ撮像後,格子移送が行われる構造によって撮像時間と格子移送時間とが別に必要であるため,全体の測定時間が増加し,投影部の個数が増加するほど測定時間がさらに増加するという問題が発生する。」

ウ 「【0012】
第3に,測定時間の短縮のためにカメラの撮像時間および格子素子の移送時間を減少させることには限界がある。
【0013】
速い速度で基板を検査するためには,カメラの撮像時間または,格子素子の移送時間を減少させなければならないが,カメラの撮像時間を減少させると,十分な反射格子画像が受信できなくなり正確な検査をすることが難しくなる。また,格子素子の移送時間を減少させることも非常に制限的なものであるため,実質的に検査時間を短縮しにくいという問題がある。」

エ 「【発明が解決しようとする課題】
【0017】
そこで,本発明は,前記問題に鑑みてなされたものであり,本発明の目的とするところは,3次元形状の測定時間を短縮させることが可能な3次元形状測定装置を提供することにある。」

オ 「【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の一実施形態に係る3次元形状測定装置は,光源および格子素子を含み,前記格子素子をn回移送させながら移送ごとに測定対象物に格子パターン照明を投影するm個の投影部と,前記測定対象物で反射される格子パターン画像を撮影する結像部と,前記m個の投影部のうち,いずれか一つの投影部を用いて前記格子パターン画像を撮影する間に,少なくとも一つの他の投影部の格子素子が移送されるように制御する制御部と,を含む(ここで,nおよびmは2以上の自然数である。)。
【0022】
前記mが2である場合,前記制御部は,一番目の投影部を用いて前記格子パターン画像を1回撮影する間に2番目の投影部の前記格子素子を2π/nだけ移送させ,続いて前記2番目の投影部を用いて前記格子パターン画像を1回撮影する間に前記一番目の投影部の前記格子素子を2π/nだけ移送させてもよい。
【0023】
前記mが3以上である場合,前記制御部は,一番目の投影部からm番目の投影部までをそれぞれ一回ずつ用いて前記格子パターン画像をm回撮影すると同時に,前記m回の撮影期間中,撮影に用いられていない投影部の前記格子素子を非撮影期間に2π/nだけ移送させてもよい。前記制御部は,前記投影部のそれぞれが前記格子パターン照明を投影する前の少なくとも2回の撮影期間の前に,前記格子素子を移送させるように制御してもよい。
【0024】
前記制御部は,前記m個の投影部のうち,いずれか一つの投影部を用いて前記格子パターン画像を撮影した後,直ぐに続いて行われる他の投影部を用いた撮影期間に,前記いずれか一つの投影部の格子素子を移送させるように制御してもよい。」

カ 「【0053】
図2は,本発明の一実施形態に係る3次元形状測定装置を概略的に示した図面である。
【図2】

【0054】
図2を参照すると,本発明の一実施形態に係る3次元形状測定装置100は,m個の投影部110,結像部120,および制御部130を含む。ここで,mは2以上の自然数である。
【0055】
m個の投影部110は,それぞれワークステージ140に固定された測定対象物150に格子パターン照明を投影させる。複数の投影部110は,測定対象物150の法線に対して一定の角度に傾いた格子パターン照明を照射するように配置してもよい。例えば,3次元形状測定装置100は,2個,3個,4個または,6個の投影部110を含んでもよく,複数の投影部110は,測定対象物150の法線に対して対称的に配置されてもよい。
【0056】
それぞれの投影部110は,光源111および格子素子112を含む。また,それぞれの投影部110は,投影レンズ部113をさらに含んでもよい。光源111は,測定対象物150に向かって光を照射する。格子素子112は,光源111で照射された光を格子パターンによる格子パターン照明に変換させる。格子素子112は,位相遷移された格子パターン照明を発生させるためにアクチュエータなどの格子移送器具(図示せず)を用いて2π/nだけn回移送される。ここで,nは2以上の自然数である。投影レンズ部113は,格子素子112によって生成された格子パターン照明を測定対象物150に投影させる。投影レンズ部113は,例えば,複数のレンズの組み合せであってもよく,格子素子112を通じて形成された格子パターン照明をフォーカシングして測定対象物150に投影させる。したがって,それぞれの投影部110は,格子素子112をn回移送させながら移送ごとに測定対象物150に格子パターン照明を投影する。
【0057】
結像部120は,測定対象物150に投影された格子パターン照明によって測定対象物150で反射される格子パターン画像を撮影する。3次元形状測定装置100がm個の投影部110を含み,各投影部110でn回の撮影を実行しなければならないことから,結像部120は,n×m回の撮影を実行することとなる。結像部120は,格子パターン画像の撮影のために,カメラ121および結像レンズ部122を含んでもよい。カメラ121は,CCDまたはCMOSカメラを用いてもよい。よって,測定対象物150で反射された格子パターン画像は,結像レンズ部122を経てカメラ121によって撮影される。
【0058】
制御部130は,3次元形状測定装置100に含まれる構成要素の動作を全体的に制御する。制御部130は,格子素子112をn回移送させて移送ごとに測定対象物150に格子パターン照明を投影するように投影部110を制御する。また,制御部130は,測定対象物150で反射される格子パターン画像を撮影するように結像部120を制御する。
【0059】
特に,3次元形状測定装置100の全体的な測定時間を減少させるために,制御部130は,m個の投影部110のうち,いずれか一つの投影部110を用いて格子パターン画像を撮影する間に,少なくとも一つの他の投影部110の格子素子112が移送されるように制御する。望ましくは,制御部130は,m個の投影部110のうち,いずれか一つの投影部110を用いて格子パターン画像を撮影した後,直ぐに続いて行われる他の投影部110を用いた撮影期間に,前記いずれか一つの投影部110の格子素子112を2π/nだけ移送させてもよい。」

キ 「【0060】
図3は,2個の投影部を含む3次元形状測定装置の駆動方法を示した図である。
【図3】

【0061】
図2および図3を参照すると,本発明の一実施形態に係る3次元形状測定装置100は,2個の投影部110,すなわち,第1投影部110aおよび第2投影部110bを含む。
【0062】
制御部130は,一番目の投影部すなわち,第1投影部110aを用いて格子パターン画像1を1回撮影する期間に,2番目の投影部すなわち,第2投影部110bの格子素子112を2π/nの位相に対応する距離だけに移送させる。その後,制御部130は,第2投影部110bを用いて格子パターン画像2を1回撮影する期間に,第1投影部110aの格子素子112を2π/nの位相に対応する距離だけ移送させる。すなわち,制御部130は,第1投影部110aを用いて格子パターン画像1を撮影した後,直ぐに続いて行われる第2投影部110bを用いた撮影期間に第1投影部110aの格子素子112を移送させる。続いて,制御部130は,第1投影部110aおよび第2投影部110bを通じて前記のような過程を数回繰り返し,格子パターン画像3から格子パターン画像8までの撮影を実行するように制御する。
【0063】
以後,制御部130は,第1投影部110aを用いて撮影された格子パターン画像1,3,5,および7を合成して第1位相情報を獲得し,第2投影部110bを用いて撮影された格子パターン画像2,4,6,および8を合成して第2位相情報を獲得した後,前記第1位相情報および第2位相情報を用いて測定対象物150の3次元形状を測定する。」

ク 「【0067】
図4は,本発明の他の実施形態に係る3次元形状測定装置の駆動方法を示した図である。
【図4】

【0068】
図4を参照すると,3次元形状測定装置は,3個の投影部すなわち,第1投影部,第2投影部,および第3投影部を含んでもよい。例えば,測定対象物を中心にして120度ずつ離されて配置されてもよい。
【0069】
3個の投影部のうち,一番目の投影部すなわち,第1投影部を用いて格子パターン画像1を撮影する期間に,残りの投影部のいずれか一つ,例えば,第3投影部の格子素子を2π/nの位相に対応する距離だけ移送させる。その後,2番目の投影部すなわち,第2投影部を用いて格子パターン画像2を撮影する期間に,残りの投影部のいずれか一つ,例えば,第1投影部の格子素子を2π/nの位相に対応する距離だけ移送させる。その後,第3投影部を用いて格子パターン画像3を撮影する期間に,残りの投影部のいずれか一つ,例えば,第2投影部の格子素子を2π/nの位相に対応する距離だけ移送させる。その後,第1投影部,第2投影部,および第3投影部を用いて前記のような過程を数度繰り返して,格子パターン画像4から格子パターン画像12までの撮影を実行する。
【0070】
一方,画像撮影時間の短縮によって格子素子の移送時間が相対的に長くなることがある。例えば,画像撮像時間が約5msであり,格子素子の移送時間が約7msである場合,格子素子の移送時間が画像撮像時間に比べて約2ms程度長くなる。このような場合,格子素子の移送が1回の画像撮影期間内に行われることが不可能であるため,格子素子の移送は2回の画像撮影期間に行われるようになる。よって,それぞれの投影部は,格子パターン照明を投影する前の少なくとも2回の画像撮像期間の前に,格子素子を移送させることが望ましい。例えば,第1投影部は,格子パターン画像4を撮影する前の格子パターン画像2と格子パターン画像3とを撮影する2回の画像撮影期間に格子素子を移送することが望ましい。従って,それぞれの投影部は,格子パターン画像を撮影した後,直ぐに格子素子を移送することが望ましい。
【0071】
格子パターン画像1から格子パターン画像12までの撮影が完了した後,第1投影部を用いて撮影された格子パターン画像1,4,7,10を合成して第1位相情報を獲得し,第2投影部を用いて撮影した格子パターン画像2,5,8,11を合成して第2位相情報を獲得し,第3投影部を用いて撮影された格子パターン画像3,6,9,12を合成して第3位相情報を獲得した後,前記第1位相情報,第2位相情報,および第3位相情報を用いて測定対象物の3次元形状を測定する。
【0072】
図4では,各投影部を通じて4度の撮影を実行する4-バケット方式を例にあげて説明したが,この他にも3-バケットなどの多様なバケット方式についても前述した駆動方式を適用してもよい。また,図4に示された駆動方式は,4個以上の投影部を含む3次元形状測定装置にも適用してもよい。」

(2) 引用発明
これら記載内容からみて,引用例1には,図2及び図3に対応する発明として,以下の発明が記載されている(以下「引用発明」という。また,引用発明の認定に際して参考にした引用例1の記載箇所を,段落番号で付記する。)。

「 【0054】3次元形状測定装置100は,m個の投影部110,結像部120,および制御部130を含み,
【0055】複数の投影部110は,測定対象物150の法線に対して対称的に配置され,【0056】それぞれの投影部110は,光源111および格子素子112を含み,光源111は,測定対象物150に向かって光を照射し,格子素子112は,光源111で照射された光を格子パターンによる格子パターン照明に変換させ,
【0056】格子素子112は,位相遷移された格子パターン照明を発生させるためにアクチュエータなどの格子移送器具を用いて2π/nだけn回移送され,
【0057】結像部120は,測定対象物150に投影された格子パターン照明によって測定対象物150で反射される格子パターン画像を撮影し,
【0058】制御部130は,格子素子112をn回移送させて移送ごとに測定対象物150に格子パターン照明を投影するように投影部110を制御し,制御部130は,測定対象物150で反射される格子パターン画像を撮影するように結像部120を制御し,【0059】制御部130は,3次元形状測定装置100の全体的な測定時間を減少させるために,m個の投影部110のうち,いずれか一つの投影部110を用いて格子パターン画像を撮影する間に,少なくとも一つの他の投影部110の格子素子112が移送されるように制御し,
ここで,m=2,n=4であり,
【0062】制御部130は,一番目の投影部すなわち,第1投影部110aを用いて格子パターン画像1を1回撮影する期間に,2番目の投影部すなわち,第2投影部110bの格子素子112を2π/4の位相に対応する距離だけ移送させ,その後,制御部130は,第2投影部110bを用いて格子パターン画像2を1回撮影する期間に,第1投影部110aの格子素子112を2π/4の位相に対応する距離だけ移送させ,続いて,制御部130は,第1投影部110aおよび第2投影部110bを通じて前記のような過程を数回繰り返し,格子パターン画像3から格子パターン画像8までの撮影を実行するように制御し,
【0063】制御部130は,第1投影部110aを用いて撮影された格子パターン画像1,3,5,および7を合成して第1位相情報を獲得し,第2投影部110bを用いて撮影された格子パターン画像2,4,6,および8を合成して第2位相情報を獲得した後,前記第1位相情報および第2位相情報を用いて測定対象物150の3次元形状を測定する,
【0017】3次元形状の測定時間を短縮させることが可能な,
3次元形状測定装置。」

(3) 対比
本件補正後発明と引用発明を対比すると,以下のとおりである。
ア 第1照射手段
引用発明の「それぞれの投影部110は,光源111および格子素子112を含み,光源111は,測定対象物150に向かって光を照射し,格子素子112は,光源111で照射された光を格子パターンによる格子パターン照明に変換させ」る。ここで,m=2である。
そうしてみると,引用発明の一番目の投影部,すなわち,第1投影部110aの「光源111」は,本件補正後発明の「所定の光を発する第1光源」に相当する。また,引用発明の第1投影部110aの「格子素子112」と本件補正後発明の「第1格子」は,「当該第1光源からの光を」「第1光パターンに変換する第1格子」の点で一致する。
さらにまた,引用発明の「複数の投影部110は,測定対象物150の法線に対して対称的に配置され」るから,引用発明の第1投影部110aの位置は,「第1位置」である。
したがって,引用発明の「第1投影部110a」と本件補正後発明の「第1照射手段」は,「所定の光を発する第1光源,及び,当該第1光源からの光を」「第1光パターンに変換する第1格子を有し,当該第1光パターンを第1位置から被計測物に対し照射可能な第1照射手段」の点で一致する。

イ 第1格子制御手段
引用発明の「制御部130は,格子素子112をn回移送させて移送ごとに測定対象物150に格子パターン照明を投影するように投影部110を制御し」,投影部110の「格子素子112は,位相遷移された格子パターン照明を発生させるためにアクチュエータなどの格子移送器具を用いて2π/nだけn回移送され」る。ここで,n=4であり,「m」及び「第1投影部110a」は,前記アで述べたとおりである。
したがって,引用発明の,制御部130によって制御される第1投影部110aの「格子移送器具」は,本件補正後発明の「前記第1格子の移送又は切替を制御し,前記第1照射手段から照射する前記第1光パターンの位相を複数通りに変化させる第1格子制御手段」に相当する。

ウ 第2照射手段
前記アと同様に対比すると,引用発明の「第2投影部110b」と本件補正後発明の「第2照射手段」は,「所定の光を発する第2光源,及び,当該第2光源からの光を」「第2光パターンに変換する第2格子を有し,当該第2光パターンを前記第1位置とは異なる第2位置から被計測物に対し照射可能な第2照射手段」の点で一致する。

エ 第2格子制御手段
前記イと同様に対比すると,引用発明の制御部130によって制御される第2投影部110bの「格子移送器具」は,本件補正後発明の「前記第2格子の移送又は切替を制御し,前記第2照射手段から照射する前記第2光パターンの位相を複数通りに変化させる第2格子制御手段」に相当する。

オ 撮像手段
引用発明の「結像部120は,測定対象物150に投影された格子パターン照明によって測定対象物150で反射される格子パターン画像を撮影し」ている。
したがって,引用発明の「結像部120」は,本件補正後発明の「前記第1光パターン又は第2光パターンの照射された前記被計測物からの反射光を撮像可能な撮像手段」に相当する。

カ 画像処理手段
引用発明の「制御部130は,第1投影部110aを用いて撮影された格子パターン画像1,3,5,および7を合成して第1位相情報を獲得し,第2投影部110bを用いて撮影された格子パターン画像2,4,6,および8を合成して第2位相情報を獲得した後,前記第1位相情報および第2位相情報を用いて測定対象物150の3次元形状を測定する」。
したがって,引用発明の「制御部130」と本件補正後発明の「画像処理手段」は,「複数通りに位相変化させた前記第1光パターン又は第2光パターンの照射に基づき取得した複数通りの画像データを基に」「三次元計測を行う画像処理手段」の点で一致する。

キ 三次元計測装置
以上の対比結果を踏まえると,引用発明の「3次元形状測定装置」は本件補正後発明の「三次元計測装置」に相当する。
また,引用発明の「制御部130は,格子素子112をn回移送させて移送ごとに測定対象物150に格子パターン照明を投影するように投影部110を制御し,制御部130は,測定対象物150で反射される格子パターン画像を撮影するように結像部120を制御し」ている。
したがって,引用発明の「3次元形状測定装置」は,本件補正後発明の「前記位相の異なる複数通りの第1光パターンを照射して行われる複数回の撮像処理のうちの1回分である第1撮像処理,又は,前記位相の異なる複数通りの第2光パターンを照射して行われる複数回の撮像処理のうちの1回分である第2撮像処理のうちの一方の撮像処理を実行可能であり」の要件を満たす。

(4) 一致点及び相違点
ア 一致点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点で一致する。
「 所定の光を発する第1光源,及び,当該第1光源からの光を第1光パターンに変換する第1格子を有し,当該第1光パターンを第1位置から被計測物に対し照射可能な第1照射手段と,
前記第1格子の移送又は切替を制御し,前記第1照射手段から照射する前記第1光パターンの位相を複数通りに変化させる第1格子制御手段と,
所定の光を発する第2光源,及び,当該第2光源からの光を第2光パターンに変換する第2格子を有し,当該第2光パターンを前記第1位置とは異なる第2位置から被計測物に対し照射可能な第2照射手段と,
前記第2格子の移送又は切替を制御し,前記第2照射手段から照射する前記第2光パターンの位相を複数通りに変化させる第2格子制御手段と,
前記第1光パターン又は第2光パターンの照射された前記被計測物からの反射光を撮像可能な撮像手段と,
複数通りに位相変化させた前記第1光パターン又は第2光パターンの照射に基づき取得した複数通りの画像データを基に三次元計測を行う画像処理手段とを備え,
前記位相の異なる複数通りの第1光パターンを照射して行われる複数回の撮像処理のうちの1回分である第1撮像処理,又は,前記位相の異なる複数通りの第2光パターンを照射して行われる複数回の撮像処理のうちの1回分である第2撮像処理のうちの一方の撮像処理を実行可能である,
三次元計測装置。」

イ 相違点
本件補正後発明と引用発明は,以下の点で相違する。
(相違点1)
本件補正後発明の第1格子は,第1光源からの光を「縞状の光強度分布を有する」第1光パターンに変換する第1格子であるのに対し,引用発明の第1投影部11aの格子素子112は,一応,これが明らかでない点。

(相違点2)
第2格子について,相違点1と同様の点。

(相違点3)
本件補正後発明の画像処理手段は,複数通りに位相変化させた前記第1光パターン又は第2光パターンの照射に基づき取得した複数通りの画像データを基に「位相シフト法により」三次元計測を行う画像処理手段であるのに対し,引用発明の制御部130は,一応,これが明らかではない点。

(相違点4)
本件補正後発明の三次元計測装置は,「前記第1撮像処理の終了と同時に,当該第1撮像処理に係る前記第1格子の移送又は切替処理を開始し,当該第1撮像処理に係る前記第1格子の移送又は切替処理の完了を待つことなく,前記第2撮像処理を実行し,当該第2撮像処理の終了と同時に,前記第1撮像処理に係る前記第1格子の移送又は切替処理の完了を待つことなく,前記第2撮像処理に係る前記第2格子の移送又は切替処理を開始し,前記第1撮像処理に係る前記第1格子の移送又は切替処理の完了と同時に次回の第1撮像処理を実行可能とし,前記第1撮像処理又は前記第2撮像処理に要する時間よりも,前記第1格子又は前記第2格子の移送又は切替処理に要する時間の方が長い」という構成を具備するのに対して,引用発明の3次元形状測定装置は,これと異なる構成を具備する点。

(5) 判断
相違点についての判断は以下のとおりである。
ア 相違点1?3について
引用発明の「制御部130は,第1投影部110aを用いて撮影された格子パターン画像1,3,5,および7を合成して第1位相情報を獲得し,第2投影部110bを用いて撮影された格子パターン画像2,4,6,および8を合成して第2位相情報を獲得した後,前記第1位相情報および第2位相情報を用いて測定対象物150の3次元形状を測定する」。このような構成に接した当業者ならば,引用発明の測定原理は位相シフト法によるものであり,また,引用発明の格子パターンは縞状の光強度分布を有するものと理解する。
相違点1?3は,引用例1に明示されていないだけであり,事実上の相違点ではない。少なくとも,相違点1?3は,引用発明に接した当業者が技術常識に従って採用する構成にすぎない。

イ 相違点4について
引用例1の記載内容,特に,図3からみて,引用発明において,画像撮影時間は,格子移送時間と等しい(あるいは,格子移送時間より短くない)と考えられる。しかしながら,引用例1の段落【0070】には,m=3,n=4の場合において,「一方,画像撮影時間の短縮によって格子素子の移送時間が相対的に長くなることがある。例えば,画像撮像時間が約5msであり,格子素子の移送時間が約7msである場合,格子素子の移送時間が画像撮像時間に比べて約2ms程度長くなる。」と記載されているので,この場合について検討すると,以下のとおりである。
すなわち,m=3,n=4である図4の場合において,例えば,画像撮像時間及び移送時間がともに7msならば,画像1の撮像開始時点を基準にして84ms経過時点で画像12の撮影が終了する。また,図4の場合において,単に画像撮影時間を5msに短縮しただけならば,画像12の撮影終了が2ms早まる(時間が約2%短縮する)だけであるが,段落【0070】には,「このような場合,格子素子の移送が1回の画像撮影期間内に行われることが不可能であるため,格子素子の移送は2回の画像撮影期間に行われるようになる。よって,それぞれの投影部は,格子パターン照明を投影する前の少なくとも2回の画像撮像期間の前に,格子素子を移送させることが望ましい。例えば,第1投影部は,格子パターン画像4を撮影する前の格子パターン画像2と格子パターン画像3とを撮影する2回の画像撮影期間に格子素子を移送することが望ましい。従って,それぞれの投影部は,格子パターン画像を撮影した後,直ぐに格子素子を移送することが望ましい。」という知見も記載されている。
したがって,引用例1の段落【0070】の記載に接した当業者ならば,画像撮像時間を5msに短縮すると,画像1の撮像開始時点を基準にして,(A)5ms経過時点で画像1の撮影が終了するので第1投影部の格子移送及び画像2の撮影を開始でき,(B)10ms経過時点で画像2の撮影が終了するので第2投影部の格子移送及び画像3の撮影を開始でき,(C)15ms経過時点で画像3の撮影が終了するので第3投影部の格子移送を開始でき,また,第1投影部の格子移送は12ms経過時点で終了しているので,画像4の撮影も開始でき,以下同様に,(D)60ms経過時点で画像12の撮影が終了することとなり,約3割の時間短縮が達成されることが理解できる。
ここで,カメラの撮像時間を短縮させるか否かは,速い検査と正確な検査の兼ね合いの問題であり,m=3の場合においてのみ採用される事項ではない(引用例1の段落【0013】から理解できる事項である。)。
そうしてみると,段落【0070】の記載に接した当業者ならば,m=3の場合のみならずm=2の場合(引用発明)においても,画像撮像時間を5msに短縮すると,(a)5ms経過時点で画像1の撮影が終了するので第1投影部の格子移送及び画像2の撮影を開始でき,(b)10ms経過時点で画像2の撮影が終了するので第2投影部の格子移送を開始でき,また,12ms経過時点で第1投影部の格子移送が終了するので画像3の撮影を開始でき,(c)17ms経過時点で画像3の撮影が終了するので第1投影部の格子移送を開始でき,また,ちょうど第2投影部の格子移送も終了するので画像4の撮影を開始でき,以下同様に,(d)46ms経過時点で画像8の撮影が終了することとなり,例えば,画像撮像時間が7msの場合(56ms)に比して,約2割の時間短縮が達成されることが理解できる。

以上のとおりであるから,引用発明の「制御部130は,一番目の投影部すなわち,第1投影部110aを用いて格子パターン画像1を1回撮影する期間に,2番目の投影部すなわち,第2投影部110bの格子素子112を2π/4の位相に対応する距離だけ移送させ,その後,制御部130は,第2投影部110bを用いて格子パターン画像2を1回撮影する期間に,第1投影部110aの格子素子112を2π/4の位相に対応する距離だけ移送させ,続いて,制御部130は,第1投影部110aおよび第2投影部110bを通じて前記のような過程を数回繰り返し,格子パターン画像3から格子パターン画像8までの撮影を実行するように制御し」の構成に替えて,上記(a)?(d)のような時間短縮により画像8の撮影終了までの時間を短くし,一層「3次元形状の測定時間を短縮させることが可能な3次元形状測定装置」とすること(すなわち,引用発明において相違点4に係る構成を採用すること)は,引用例1の記載自体が示唆する事項であり,また,速い検査を望む当業者が採用する構成である。

また,本件補正後発明が奏する効果は,引用発明及び引用例1の記載から予測できる範囲内のものであり,顕著なものであるとはいえない。

(6) 請求人の主張について
ア 請求人は,「引用文献1の[0070]段落の実施例は,3つの投影部を具備することを大前提としており,「2つの照射手段」を有することを必須要件としている本願発明1とは全く異なるものである」と主張する。
しかしながら,引用例1には,図2とともに,「m個の投影部」及び「n回の移送」をする発明が開示され,図3においてm=2,n=4の具体例が開示され,図4及び段落【0070】においてm=3,n=4の具体例が開示されているのであるから,引用例1の記載に接した当業者ならば,投影部(照射手段)の数の違いをもって「全く異なるもの」と解することはなく,むしろ,引用例1の記載に接した当業者ならば,単なる投影部の数の違いと認識する。

イ 請求人は,「本願発明1の「前記第1格子又は前記第2格子の移送又は切替処理に要する時間」に相当するのは,引用文献1の[0070]段落の記載では,「第1投影部」の格子素子の移送時間である「7ms」であり,本願発明1の「前記第1撮像処理又は前記第2撮像処理に要する時間」,つまり,他方の撮像処理に要する時間に相当するのは,引用文献1の[0070]段落の記載では,「画像2撮影の画像撮像時間(=5ms)」+「画像3撮影の画像撮像時間(=5ms)」であるところの「10ms」である筈です。「前記第1撮像処理又は前記第2撮像処理に要する時間」,つまり,他方の撮像処理に要する時間に相当する時間というのは,「第1投影部」の格子素子の移送時間である「7ms」よりも十分に長いと捉えるのがむしろ自然であります。」と主張する。
しかしながら,請求人の主張は,引用例1の段落【0070】に記載された態様と本件補正後発明の相違を主張するものであり,引用発明において前記(5)のとおり容易推考してなる発明には当てはまらない。

ウ 請求人は,「たとえ1つの文献内であっても,そもそもの前提条件が全くもって異なる以上,強引に組み合わせを試みたところで,本願発明1とは異なる構成となり,得られる結果も異なったものとなることは明らかであります。すなわち,前提条件が異なること自体が阻害要因となる筈であり,上記のような強引な組み合わせは,いわゆる後知恵であると思料します。」と主張する。
確かに,引用例1の図3の態様について「画像撮影時間の短縮」に言及する記載はないから,引用発明は,正確な検査のために,カメラの撮像時間を必要なだけ,例えば,5msから7msに増加させたものと解される。また,引用例1の段落【0070】の記載のうち,「このような場合,格子素子の移送が1回の画像撮影期間内に行われることが不可能であるため,格子素子の移送は2回の画像撮影期間に行われるようになる。よって,それぞれの投影部は,格子パターン照明を投影する前の少なくとも2回の画像撮像期間の前に,格子素子を移送させることが望ましい。例えば,第1投影部は,格子パターン画像4を撮影する前の格子パターン画像2と格子パターン画像3とを撮影する2回の画像撮影期間に格子素子を移送することが望ましい。」との構成は,m=2の場合には成立しない構成である。
しかしながら,引用例1には,「速い速度で基板を検査するためには,カメラの撮像時間または,格子素子の移送時間を減少させなければならないが,カメラの撮像時間を減少させると,十分な反射格子画像が受信できなくなり正確な検査をすることが難しくなる。」(段落【0013】),「画像撮影時間の短縮によって格子素子の移送時間が相対的に長くなることがある。例えば,画像撮像時間が約5msであり,格子素子の移送時間が約7msである場合,格子素子の移送時間が画像撮像時間に比べて約2ms程度長くなる。」(段落【0070】),「それぞれの投影部は,格子パターン画像を撮影した後,直ぐに格子素子を移送することが望ましい。」(段落【0070】)という事項も開示されている。これら引用例1の記載に接した当業者ならば,画像撮像時間を5ms,格子素子の移送時間を7msとした態様も成立しうる(正確な検査という観点では劣るとしても,許容範囲内である)と理解する。速い検査を優先させるか,正確な検査を優先させるかは,単なる当業者のニーズの差にすぎないから,請求人が主張する事項は,阻害要因ではない。また,引用例1において,m=2の場合の態様において画像撮影時間の短縮に関する言及が存在しないのは,m=2の場合には画像撮影時間の短縮が不可能であるからではなく,m=3の場合に比して望ましさの程度が少なかったからにすぎない。

エ 請求人は,「本願発明1によれば,引用文献1との対比において,格別の作用効果が奏されるものであります。すなわち,引用文献1では,「第1照射手段の格子の移送等と,第2照射手段の格子の移送等とを交互に行う構成の下,例えば所定の計測対象範囲につき,2つの光パターンの下で撮像する回数を合計8回(各光パターンにつき4回ずつ),1回の撮像にかかる時間をそれぞれ[2msec],1回の格子の移送にかかる時間をそれぞれ[20msec]と仮定した場合には,本願の[図5]に示すように,所定の計測対象範囲に係る全ての処理が終了するまでに,〔第1格子の移送時間[20ms]+第2格子の移送時間[20ms]〕×4回=合計[160msec]といった比較的長い計測時間を要することとなる」(本願[0014]段落)のに対し,本願発明1によれば,同条件の下,「所定の計測対象範囲に係る全ての処理を終了するまでに必要な時間は,第1光パターン照射時の撮像時間[2ms]+〔第2光パターン照射時の撮像時間[2ms]+第2格子の移送時間[20ms]〕×4回=合計[90msec]となります。つまり,第1格子及び第2格子の移送等を交互に行う上記引用文献1の構成に比べて,[70msec(約44%)]の短縮が可能となる。」(本願[0026]段落)といった具合に,遙かに顕著に時間短縮ができるのであります。」と主張する。
しかしながら,請求人の主張は,引用発明と本件補正後発明との効果の差を主張するものであり,引用発明において前記(5)のとおり容易推考してなる発明には当てはまらない。

(7) 小括
本件補正後発明は,引用例1に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許出願の際に独立して特許を受けることができないものである。

4 補正却下の決定についてのまとめ
本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するので,同法159条1項の規定において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。

第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は上記のとおり却下されたので,本件出願の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本願発明)は,前記「第2」1(1)に記載のとおりのものである。

2 原査定の拒絶の理由
原査定の拒絶の理由は,概略,この出願の請求項1に係る発明は,その出願前に日本国内又は外国において,頒布された引用例1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない,というものである。

3 引用例1に記載の事項及び引用発明
引用例1に記載の事項及び引用発明は,前記「第2」3(1)及び(2)に記載したとおりである。

4 対比及び判断
本願発明は,本件補正後発明において,「前記第1撮像処理に係る前記第1格子の移送又は切替処理の完了と同時に次回の第1撮像処理を実行可能とし」との要件を除くとともに,撮像処理等について,「第1」及び「第2」とあるのを「一方」及び「他方」として一般化したものである。
そうすると,本願発明の構成を全て含み,さらに他の限定を付したものに相当する本件補正後発明が,前記「第2」3(3)ないし(7)で述べたとおり,引用例1に記載された発明に基づいて容易に発明できたものであることを考慮すると,本願発明も,同様に,引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明できたものである。
また,本願発明が奏する効果は,引用発明及び引用例1の記載から予測できる範囲内のものであり,顕著なものであるとはいえない。

第4 まとめ
以上のとおり,本願発明は,引用例1に記載された発明に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。
したがって,他の請求項に係る発明について審理するまでもなく,本願は拒絶すべきものである。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-19 
結審通知日 2015-03-24 
審決日 2015-04-06 
出願番号 特願2011-273985(P2011-273985)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (G01B)
P 1 8・ 121- Z (G01B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 梶田 真也  
特許庁審判長 新川 圭二
特許庁審判官 武田 知晋
樋口 信宏
発明の名称 三次元計測装置  
代理人 川口 光男  

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