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審決分類 審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C09C
管理番号 1301071
審判番号 不服2014-11417  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-06-17 
確定日 2015-05-21 
事件の表示 特願2007-264825「カーボンブラックおよびそれを含む機能性部材配合用ゴム組成物」拒絶査定不服審判事件〔平成21年 4月30日出願公開、特開2009- 91494〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯

本願は、平成19年10月10日の出願であって、手続の経緯は概略以下のとおりである。
平成24年 6月22日付け 拒絶理由通知
平成24年 7月30日 意見書・手続補正書
平成25年 4月24日付け 拒絶理由通知
平成25年 6月18日 意見書
平成26年 3月31日付け 拒絶査定
平成26年 6月17日 本件審判請求
平成26年 9月26日付け 拒絶理由通知
平成26年11月27日 意見書・手続補正書

第2 平成26年9月26日付け拒絶理由通知について

当審は、平成26年9月26日付けで拒絶理由を通知したが、その内容は次のとおりである。
『1.手続の経緯
本願は、平成19年10月10日の出願であって、平成24年6月22日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年7月30日に意見書及び手続補正書が提出され、さらに、平成25年4月24日付けで拒絶理由が通知され、その指定期間内である同年6月18日に意見書が提出されたが、平成26年3月31日付けで拒絶査定されたので、同年6月17日に拒絶査定不服審判が請求されたものである。

2.本願の請求項に記載された事項
平成24年7月30日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3には、以下の事項が記載されている。
「 【請求項1】
ジブチルフタレート吸収量(DBPA)が90cm^(3)/100gを超え110cm^(3)/100g未満、よう素吸着量(IA)が25g/kgを超え40g/kg未満という基本特性を有するカーボンブラックにおいて、
(A)窒素吸着比表面積(N_(2)SA)とIAとの比(N_(2)SA/IA)が0.80?1.00であり、
(B)遠心沈降分析によるDstモード径{Dst(nm)}が、下記(1)式
Dst(nm)≧(DBPA)-7.5(IA)+415・・・(1)
(但し、Dstは288以上)
を満足するものであり、
(C)比着色力が下記(2)式
比着色力(%)≦IA+15・・・(2)
(但し、比着色力は51%以下)
を満足するものであることを特徴とするカーボンブラック。
【請求項2】
非極性ゴム100重量部に対して、請求項1記載のカーボンブラックを80?200重量部を配合したことを特徴とする機能性部材配合用ゴム組成物。
【請求項3】
前記非極性ゴムがエチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)である請求項2記載の機能性部材配合用ゴム組成物。」
(以下、各請求項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明を、項番に従い、「本願発明1」ないし「本願発明3」といい、これらをまとめて「本願発明」ということがある。)

3.拒絶理由1
本願は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備であるから、特許法第36条第6項1号に適合しておらず、同項に規定する要件を満たしていない。

(3-1)前提
特許法第36条第6項には、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定され、同条同項第1号には、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定されている。
そして、特許請求の範囲の記載が、上記「第1号」に係る規定(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するものであるか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)から、以下当該観点に基づいて検討する。
(3-2)本願発明の課題
本願発明が解決しようとする課題は、本願明細書の発明の詳細な説明の記載(特に【0004】)からみて、「カーボンブラック配合量が多くなった場合であっても機能性ゴム部材のゴム配合要求特性である引張り強さやモジュラス値などの機械的特性を維持し、高位の耐へたり性を付与するともに、配合ゴム組成物の粘度上昇、加工性(押出特性)の低下をさせることなく、かつ高周波加硫時における加硫効率を改良することが可能な新規ソフト系カーボンブラックを提供すること」と認められる。
(3-3)発明の詳細な説明の記載内容と特許請求の範囲の記載内容の対比
本願発明の上記課題に係る機械的特性等は、カーボンブラック自体の特性というよりは、機能性部材配合用ゴム組成物の特性というべきものである。
そして、この機能性部材配合用ゴム組成物の特性は、カーボンブラックの特性のみならず、配合されるゴムの種類やカーボンブラックの配合割合、さらにはゴム以外の配合物(オイル等)の種類や配合割合に左右されることはいうまでもない。
これらの点を踏まえて、まず、本願の特許請求の範囲の記載をみると、本願発明1は、上記したゴムの種類、カーボンブラックの配合割合、他の配合物の種類や配合割合のすべてについて何ら特定するものではないし、本願発明2、3についても、これらのいずれかにつき特定されていないから、本願発明は、広範な配合物組成を許容するものであることが理解できる。
一方、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例及び比較例が記載されているので、最初にこれら具体例を仔細にみると、表2及び表3に記載されたカーボンブラック自体の特性の違いにより、表4及び表5に記載されたゴム特性の違いが生じることが理解できる。
そして、ゴム特性を示す当該表4及び表5には、本願発明の課題に関連する、機械的特性、耐へたり性、及び加工性の優劣を表す種々の指標の数値が具体的に列記されているものの、これらの数値をみても、実施例のものが、上記本願発明の課題に係る機械的特性、耐へたり性、及び加工性に優れていることを直ちに認めることはできない(例えば、実施例2、4の機械的特性や実施例4の加工性に関する指標の数値は、比較例や対照例の数値と比較して優れているとは看取できない。)。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明には、実施例及び比較例が記載されているものの、当業者であっても、これらの具体例から、上記した本願発明の課題が解決できることを認識することは困難であるといわざるを得ない。
加えて、これらの実施例はすべて、カーボンブラックの種類は異なるものの、段落【0020】の【表4】に記載されたように、特定の配合物組成(ゴムの種類、カーボンブラックの配合割合、パラフィン系プロセスオイルなどのその他の添加剤の種類と配合割合が同じである)を前提とするものであって、これ以外の配合物組成について、上記課題が解決できることを当業者が認識することもできない。
このように、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された具体例に照らしても、当業者が本願発明の課題を解決できると認識し得ないというべきである。
また、実施例以外の発明の詳細な説明を仔細にみても、本願発明のすべての場合につき、上記課題が解決できることを当業者が認識するに足りる記載は見当たらないし、上記のとおり、機能性部材配合用ゴム組成物の特性は、カーボンブラックの特性のみならず、配合されるゴムの種類やカーボンブラックの配合割合、さらにはゴム以外の配合物(オイル等)の種類や配合割合にも左右されることは技術常識であるから、このような技術常識に照らしてみても、本願発明全体につき、当業者が上記課題を解決できると認識することはできない。
したがって、本願発明は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できるものではないし、当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものでもないから、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するとはいえない。

4.拒絶理由2
本願は、発明の詳細な説明の記載について下記の点で、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

上記拒絶理由1において指摘したとおり、本願明細書には、実施例及び比較例が記載されているものの、表4及び表5に記載されたゴム特性に関する種々の指標をみても、実施例が比較例に対して良好なものであることを容易に看取することはできず、さらに、表2及び表3に記載されたカーボンブラック自体の種々の特性値が、当該ゴム特性にどのような影響を与えているのかについても容易に理解することはできない。
すなわち、表4及び表5に記載された、機械的特性、耐へたり性、及び加工性の優劣を表す種々の指標のすべてを良好なものとするために、何をどのように調整すればよいのか、当業者といえども本願明細書の記載から容易に理解することは困難であるといわざるを得ない。
したがって、本願の発明の詳細な説明は、当業者が本願発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。』

第3 平成26年11月27日付け手続補正について

上記拒絶理由通知に対してなされた、平成26年11月27日付けの手続補正書による補正は、以下に示すとおり、「1 補正前」の記載事項を「2 補正後」の内容とするものであるところ、当該補正は、明細書の段落【0004】、【0012】の軽微な誤記を訂正するものであって実質的なものではなく、特許請求の範囲についてなされたものでもない(以下、当該手続補正後の明細書を単に「本願明細書」という。)。

1 補正前

「 【0004】
配合ゴム組成物の粘度を低下させ、配合物の加工性(押出特性)を改良するためには、一般的にカーボンブラックの比表面積を下げるあるいはストラクチャーを下げることが有効な手段として考えられる。例えば、比表面積を特許文献2の範囲であるよう素吸着量を25g/kg以下に設定した場合、特許文献2に記載しているようにゴム加硫方法として高周波加硫時を採用した場合には、加硫時間が遅延してしまい好ましくない。
また、ストラクチャーについて例えば、特許文献2のストラクチャー範囲を110cm^(3)/100g未満に設定した場合、ゴムマトリックスへのカーボンブラックの分散性が低下し、結果的にゴム組成物の機械的特性、すなわち引張り強さやモジュラス値などの低下を招き好ましくない。
本発明の課題は、カーボンブラック配合量が多くなった場合であっても先願発明(特許文献2)の特徴、すなわち機能性ゴム部材のゴム配合要求特性である引張り強さやモジュラス値などの機械的特性を維持し、高位の耐へたり性を付与するともに、配合ゴム組成物の粘度上昇、加工性(押出特性)の低下をさせることなく、かつ高周波加硫時における加硫効率を改良することが可能な新規ソフト系カーボンブラックを提供することを目的としたものである。」
「 【0012】
本発明により、特許文献2のストラクチャー範囲を低く、表面積領域高く設定し、Dstモード径(カーボンアグリゲートの最多頻度値)を大きく、かつ比着色力値を従来よりも低位に制御することにより機械的特性(引っ張り強さ、引っ張り応力など)を維持するとともに、高位の耐へたり性(小さな圧縮永久歪み)を付与することのできるカーボンブラックを提供することができた。
本発明のカーボンブラックを配合をゴム組成物に配合することにより、その機械的特性(引張り応力)に対しの圧縮永久歪が低く、かつムーニー粘度に対する押出ダイスウエルが低く、高位の耐へたり性と加工性、押出特性の両立が可能となる。
また、本発明のカーボンブラックを配合し、高周波(UHF-Ultra High Frequency)加硫を採用した場合には圧縮永久歪に対する加硫時間も効果的に短縮できるという特異な性能をも付与することができる。」

2 補正後

「 【0004】
配合ゴム組成物の粘度を低下させ、配合物の加工性(押出特性)を改良するためには、一般的にカーボンブラックの比表面積を下げるかあるいはストラクチャーを下げることが有効な手段として考えられる。例えば、比表面積を特許文献2の範囲であるよう素吸着量25g/Kg以下に設定し、特許文献2に記載しているようにゴム加硫方法として高周波加硫を採用した場合には、加硫時間が遅延してしまい好ましくない。
また、ストラクチャーについて、例えば特許文献2のストラクチャー範囲を110cm^(3)/100g未満に設定した場合、ゴムマトリックスへのカーボンブラックの分散性が低下し、結果的にゴム組成物の機械的特性、すなわち引張り強さやモジュラス値などの低下を招き好ましくない。
本発明の課題は、カーボンブラック配合量が多くなった場合であっても先願発明(特許文献2)の特徴、すなわち機能性ゴム部材のゴム配合要求特性である引張り強さやモジュラス値などの機械的特性を維持し、高位の耐へたり性を付与するとともに、配合ゴム組成物の粘度上昇、加工性(押出特性)を低下させることなく、かつ高周波加硫における加硫効率を改良することが可能な新規ソフト系カーボンブラックを提供することを目的としたものである。」
「 【0012】
本発明により、特許文献2のストラクチャー範囲を低く、表面積領域を高く設定し、Dstモード径(カーボンアグリゲートの最多頻度値)を大きく、かつ比着色力値を従来よりも低位に制御することにより、機械的特性(引張り強さ、引張り応力など)を維持するとともに、高位の耐へたり性(小さな圧縮永久歪み)を付与することのできるカーボンブラックを提供することができた。
本発明のカーボンブラックをゴム組成物に配合することにより、その機械的特性(引張り応力)に対する圧縮永久歪が低くなり、かつムーニー粘度に対する押出ダイスウエルが低くなるので、高位の耐へたり性と加工性、押出特性の両立が可能となる。
また、本発明のカーボンブラックを配合し、高周波(UHF-Ultra High Frequency)加硫を採用した場合には、圧縮永久歪に対する加硫開始時間も効果的に短縮できるという特異な性能を付与することもできる。」

第4 当審の判断

上記拒絶理由通知に対して請求人から提出された、平成26年11月27日付けの意見書及び手続補正書を勘案しても、当審は、上記「第2 平成26年9月26日付け拒絶理由通知について」で示した「拒絶理由1」(明細書のサポート要件違反)が、依然として妥当する、と判断する。
以下、その判断理由につき詳述する。

1 特許法第36条第6項第1号の規定について

特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している(以下、「明細書のサポート要件」ともいう。)。
特許制度は、発明を公開させることを前提に、当該発明に特許を付与して、一定期間その発明を業として独占的、排他的に実施することを保障し、もって、発明を奨励し、産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして、ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は、本来、当該発明の技術内容を一般に開示するとともに、特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから、特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには、明細書の発明の詳細な説明に、当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。特許法第36条第6項第1号の規定する明細書のサポート要件が、特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは、発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると、公開されていない発明について独占的、排他的な権利が発生することになり、一般公衆からその自由利用の利益を奪い、ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ、上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。
そして、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであり、明細書のサポート要件の存在は、出願人(拒絶査定不服審判の請求人)が証明責任を負うと解するのが相当である(知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)。
以下、上記の観点に立って、本件について検討することとする。

2 特許請求の範囲の記載

平成24年7月30日付けの手続補正書により補正された特許請求の範囲の請求項1ないし3のうち、請求項1には、次の事項が記載されている。
「 【請求項1】
ジブチルフタレート吸収量(DBPA)が90cm^(3)/100gを超え110cm^(3)/100g未満、よう素吸着量(IA)が25g/kgを超え40g/kg未満という基本特性を有するカーボンブラックにおいて、
(A)窒素吸着比表面積(N_(2)SA)とIAとの比(N_(2)SA/IA)が0.80?1.00であり、
(B)遠心沈降分析によるDstモード径{Dst(nm)}が、下記(1)式
Dst(nm)≧(DBPA)-7.5(IA)+415・・・(1)
(但し、Dstは288以上)
を満足するものであり、
(C)比着色力が下記(2)式
比着色力(%)≦IA+15・・・(2)
(但し、比着色力は51%以下)
を満足するものであることを特徴とするカーボンブラック。」
(以下、当該請求項1に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明を「本願発明」という。)

3 発明の詳細な説明の記載

本願明細書の発明の詳細な説明には、次の事項が記載されている。

(1) 「【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばドアやトランク用のウェザーストリップ、ドアグラスラン、ウィンドシールドなどの自動車用ゴム部品、および各種の機能性ゴム部材に配合されるソフト系カーボンブラックとそれを含むゴム組成物に関し、より詳しくは配合ゴムの押出し加工性を低下させることなく、高位の耐へたり性(小さな圧縮永久歪み)を付与するとともに高周波加硫時における加硫効率を改良することが可能な新規なカーボンブラックおよびそれを含む機能性部材配合用ゴム組成物に関する。」

(2) 「【背景技術】
【0002】
カーボンブラックは、その主たる用途のゴム配合用としての特性である加工性と補強性で分類されており、ゴム配合時に比較的柔らかい組成物を与えるソフト系カーボンブラックでは、半補強性ファーネスブラック(Semi Reinforcing Furnace-SRF)、汎用ファーネスブラック(General Purpose Furnace-GPF)、良押出性ファーネスブラック(Fast Extruding Furnace-FEF)などに分類されている。
ソフト系カーボンブラックは、ゴム組成物用としては作業性が良い、発熱が低い、多量配合できるなどの、またプラスチック用としては底色が青いなどの特徴を有しており、この特性を生かしてタイヤカーカス用、チューブ用、シール材、ウェザーストリップ用などのゴム部材ならびにプラスチック用着色剤として利用されている。
しかしながら、ソフト系カーボンブラックは上記の特色・利点を有している一方で、多量配合した場合にカーボンブラックとプロセスオイルが凝集を起こし、ゴムマトリックス中に均一に分散しにくいという欠点がある。また、カーボンブラックを配合したスポンジ製品や低硬度ゴム製品などでは押出加工性が低下し、その作業性において問題があった。これらの欠陥を解決することを目的として、本発明者らは従来よりも粒子径が大きくかつストラクチャーを発達させたソフト系カーボンブラックを開発した(特許文献1)。このソフト系カーボンブラックは、よう素吸着量(IA)が15?25g/kg、ジブチルフタレート吸油量(DBPA)が100?150cm3/100gの特性を有するファーネスカーボンブラックにおいて、遠心沈降分析によるストークス相当径の最多頻度値(Dst:nm)が下記式
Dst(nm)≧(DBPA)-7.5(IA)+350
を満足するものであり、かつ着色力が下記式
比着色力(%)≦(IA)+25
を満足するものであった。
このソフト系カーボンブラックの開発により、ゴムおよびプラスチックへの分散性は大幅に改良され、またゴム配合時においても優れた反発弾性と補強性を付与するとともに押出加工性でも大きく特性を改善することが可能となった。このように特許文献1に開示されたソフト系カーボンブラックは従来にない優れた特性を有しており、そのほかにも圧縮永久歪が少ないことやゴム組成物の表面肌が平滑であるなどの特徴も同時に満足させることができる。しかし、特許文献1記載のカーボンブラックは上記の特色・利点を有しているが、通常のSRF級カーボンブラックよりもさらに粒子径が大きく、このためにゴムに配合し、加硫方法として高周波(UHF-Ultra High Frequency)加硫を採用した場合には、加硫時間が遅延するという欠点があった。
これを改良するために本出願人は特許文献2として、ジブチルフタレート吸収量(DBPA)が110?140ml/100g、よう素吸着量(IA)が25g/kgを超え35g/kg未満という基本特性を有するカーボンブラックにおいて、窒素吸着比表面積(N2SA)とIAとの比、N_(2)SA/IAが0.85?1.00であり、遠心沈降分析によるストークス相当径の最多頻度値(Dst)が下記(A)式より大きく、かつ着色力が下記(B)式より小さいことを特徴とするカーボンブラックを出願した。
Dst≧(DBPA)-7.5(IA)+405・・・(イ)
比着色力≦IA+20・・・(ロ)
しかしながら、特許文献2で開示された特性を有するソフト系カーボンブラックではよう素吸着量を高い側に設定し、ストラクチャーはほぼその範囲を維持した特性としたために、ゴムマトリックス成分に対して配合割合を高くしたとき、具体的には110重量部以上でより顕著に配合ゴム組成物の粘度が上昇し、このため練り作業時での加工性(押出特性)が低下するという欠点が見られた。
【0003】
【特許文献1】特開平2-011664号公報
【特許文献2】特開平6-145554号公報」

(3) 「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
配合ゴム組成物の粘度を低下させ、配合物の加工性(押出特性)を改良するためには、一般的にカーボンブラックの比表面積を下げるかあるいはストラクチャーを下げることが有効な手段として考えられる。例えば、比表面積を特許文献2の範囲であるよう素吸着量25g/Kg以下に設定し、特許文献2に記載しているようにゴム加硫方法として高周波加硫を採用した場合には、加硫時間が遅延してしまい好ましくない。
また、ストラクチャーについて、例えば特許文献2のストラクチャー範囲を110cm^(3)/100g未満に設定した場合、ゴムマトリックスへのカーボンブラックの分散性が低下し、結果的にゴム組成物の機械的特性、すなわち引張り強さやモジュラス値などの低下を招き好ましくない。
本発明の課題は、カーボンブラック配合量が多くなった場合であっても先願発明(特許文献2)の特徴、すなわち機能性ゴム部材のゴム配合要求特性である引張り強さやモジュラス値などの機械的特性を維持し、高位の耐へたり性を付与するとともに、配合ゴム組成物の粘度上昇、加工性(押出特性)を低下させることなく、かつ高周波加硫における加硫効率を改良することが可能な新規ソフト系カーボンブラックを提供することを目的としたものである。」

(4) 「【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題の解決に取り組み、ソフト系カーボンブラックの基本的特性に加えて、最小分散単位であるアグリゲート特性と、これに深く関連する比着色力を与えられた範囲に制御することにより目的とするゴム配合特性を満足させることを見い出した。
すなわち、本発明者らは、特許文献2のストラクチャー範囲を90cm^(3)/100gを超えて110cm^(3)/100g未満という低下した領域に設定するとともに、従来の特許文献1および2よりもDstモード径(カーボンブラックアグリゲートの最多頻度値)をさらに大きい側(定数項の数値を更に大きくする)に設定するとともに、比着色力値を大きくし、かつ比着色力値を従来よりも低位に制御することにより、配合ゴム組成物の粘度上昇、加工性(押出特性)の低下をさせることなく機械的特性(引張り強さ、モジュラス値など)を維持し、高位の耐へたり性(小さな圧縮永久歪み)を付与することのできるソフト系カーボンブラックを提供できることを見いだし、本発明を完成させた。
【0006】
本発明の第1は、ジブチルフタレート吸収量(DBPA)が90cm^(3)/100gを超え110cm^(3)/100g未満、よう素吸着量(IA)が25g/kgを超え40g/kg未満という基本特性を有するカーボンブラックにおいて、
(A)窒素吸着比表面積(N_(2)SA)とIAとの比(N_(2)SA/IA)が0.80?1.00であり、
(B)遠心沈降分析によるDstモード径{Dst(nm)}が、下記(1)式
Dst(nm)≧(DBPA)-7.5(IA)+415・・・(1)
(但し、Dstは288以上)
を満足するものであり、
(C)比着色力が下記(2)式
比着色力(%)≦IA+15・・・(2)
(但し、比着色力は51%以下)
を満足するものであることを特徴とするカーボンブラックに関する。
・・・(中略)・・・
【0007】
前記(A)、(B)、(C)の3つの特性は、従来では比表面積が大きくなる(粒子径が小さくなる)と発現される配合ゴム特性として粘度上昇、分散性低下、表面肌の荒れなどを引きおこすが、本発明ではそのようなことは全くなく、また圧縮永久歪み、押出し特性の点においてもこれらの特性を何等低下させることがない。
特に、本発明のカーボンブラックは、Dstモード径(Dst)と比着色力の関係は、前記特許文献1および2に対して同じDstモード径(Dst)対比で比着色力がさらに低位にあるという特異なカーボンブラックである。
さらに詳しくは、通常では、よう素吸着量が大きくなるにつれてDstモード径(Dst)は小さくなり、比着色力は大きくなるのが一般的であるが、本発明カーボンブラックでは前記特許文献2よりもよう素吸着量範囲が大きくなっているにも拘らず、前記特許文献2より比着色力は大きくなっていないという特性を有しており、これが本発明の効果に大きく貢献している。
【0008】
本発明は、ジブチルフタレート吸収量(DBPA)が90cm^(3)/100gを超え110cm^(3)/100g未満、よう素吸着量(IA)が25g/kgを超え40g/kg未満という基本特性を有するカーボンブラックでなければならず、これらの範囲外では、配合ゴム特性の機械的特性(引張強さ、モジュラス値)と加工性(粘度、押出加工性)との両立が困難となり、好ましくない。
【0009】
本発明における窒素吸着比表面積(N_(2)SA)とIAとの比(N_(2)SA/IA)は0.80?1.00であることが必要であり、0.80を下回った場合には配合ゴムの機械的特性(引張強さ、モジュラス値)の低下を招き、好ましくない。また、1.00を上まわった場合には、配合ゴムの耐へたり性を悪化(大きい圧縮永久歪)させるので好ましくない。
【0010】
本発明におれる前記ジブチルフタレート吸収量(DBPA)、よう素吸着量(IA)および窒素吸着比表面積(N_(2)SA)とIAとの比(N_(2)SA/IA)に関する条件限定は遠心沈降分析によるDstモード径{Dst(nm)}が、下記(1)式
Dst(nm)≧(DBPA)-7.5(IA)+415・・・(1)
(但し、Dstは288以上)
を満足し、かつ比着色力が下記(2)式
比着色力(%)≦IA+15・・・(2)
(但し、比着色力は51%以下)
を満足するものであり、これらの式を満足しない場合は、カーボンブラックがゴムマトリックス中に均一に分散しにくく、配合ゴム特性として局部的な粘度上昇や表面肌荒れなどを引き起こすことがあるので好ましくない。
【0011】
本発明のカーボンブラックは、非極性ゴム100重量部に対して、80?200重量部を配合することが好ましい。
本発明は、高部配合時に欠陥が発生する特許文献2の発明を改善するものであるが、カーボンブラックの配合量が80重量部を下回ると特許文献2記載のカーボンブラック配合物と本発明の配合ゴム組成物との特性の差が小さくなり、また、200重量部を上回るとゴム配合物の加工性・取り扱いが著しく困難となり、ゴム製品の成形が難しくなるので好ましくない。」

(5) 「【発明の効果】
本発明により、特許文献2のストラクチャー範囲を低く、表面積領域を高く設定し、Dstモード径(カーボンアグリゲートの最多頻度値)を大きく、かつ比着色力値を従来よりも低位に制御することにより、機械的特性(引張り強さ、引張り応力など)を維持するとともに、高位の耐へたり性(小さな圧縮永久歪み)を付与することのできるカーボンブラックを提供することができた。
本発明のカーボンブラックをゴム組成物に配合することにより、その機械的特性(引張り応力)に対する圧縮永久歪が低くなり、かつムーニー粘度に対する押出ダイスウエルが低くなるので、高位の耐へたり性と加工性、押出特性の両立が可能となる。
また、本発明のカーボンブラックを配合し、高周波(UHF-Ultra High Frequency)加硫を採用した場合には、圧縮永久歪に対する加硫開始時間も効果的に短縮できるという特異な性能を付与することもできる。」

(6) 「【実施例】
【0013】
以下に本発明の実施例を比較例と対比しながら詳しく説明するが、これにより本発明の範囲が限定されるものではない。
本実施例のカーボンブラックは、特許第1059132号(特許権者:旭カーボン株式会社)に記載した製造炉と同様の構成である図1のオイルファーネス炉(直径1000mm)の炉頭部中心軸方向から炉内に原料油噴霧ノズル4を挿入し、炉の接線方向に上下それぞれに設けられた第1空気孔(AとA′)、第2空気孔(BとB′)ならびに第3空気孔(CとC′)およびAとA′に補助原料導入装置5を設置し、各空気孔からの導入空気量、補助原料導入量ならびに原料油の導入量・温度をそれぞれ表2?表3に示す条件に調整することにより、表2?表3に示す物理化学特性を有するソフト系ファーネスカーボンブラックを製造した。原料油としては表1に示した性状のものを使用し、補助原料としてはC重油を使用した。なお、ストラクチャー(DBPA値など)については通常の調整剤(アルカリ金属化合物、たとえば水酸化カリウム)を適宜使用した。カーボンブラックの製造条件およびその物理化学特性は表2?3に示した通りである。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

注1)導入原料油に対するカリウムイオンとしての添加量
・・・(中略)・・・
【0016】
【表3】

注1)導入原料油に対するカリウムイオンとしての添加量
【0017】
なお製造例のRun No.1?6は本発明にかかるソフト系カーボンブラックであり、RunNo.7はRun No.6とほぼ同じ基本特性であるが、N_(2)SA/IA比が本発明範囲よりも大きく、本発明の必要条件である
Dst(nm)≧(DBPA)-7.5(IA)+415・・・(1)
(但し、Dstは288以上)

比着色力(%)≦IA+15・・・(2)
(但し、比着色力は51%以下)
の条件を満たさない例である。
Run No.8はIA値が大きい側に本発明の範囲を外れた例である。
また、Run No.9はDBPA吸収量が本発明の範囲を大きい側に外れた例である。
Run No.10は逆に本発明の範囲を小さい側に外れ、また本発明の必要条件である(1)式
Dst(nm)≧(DBPA)-7.5(IA)+415・・・(1)
(但し、Dstは288以上)
と(2)式
比着色力(%)≦IA+15
(但し、比着色力は51%以下)
の条件を満たさない例である。
Run No.11は、よう素吸着量が本発明の範囲より小さい側に外れた例である。
Run No.12は、DBPA吸収量が本発明の範囲より大きい側に外れ、また本発明の必要条件である(1)式
Dst≧(DBPA)-7.5(IA)+415・・・(1)
(但し、Dstは288以上)
と(2)式
比着色力≦IA+15・・・(2)
(但し、比着色力は51%以下)
の条件を満たさない例である。
Run No.13は出願人が市販しているSRF級のカーボンブラック(商品名:#50H)の特性を示したものである。
【0018】
本発明にかかるカーボンブラックの物理化学特性はつぎのようにして測定されたものである。
・・・(中略)・・・
【0019】
ゴム配合特性表2?3で示したカーボンブラックを表4に示した配合割合でゴムに配合し、150℃で30分間加硫して、各種ゴム特性を測定した。ゴム特性の結果を表5?6に示した。
【0020】
【表4】

注1) EPDM:エチレン-プロピレン-ジエン共重合体ゴムで、JSR株式会社製、
エチレン含有量54%、第三成分ENB9%
注2)M :2-メルカプトベンゾチアゾール、
〔大内新興化学工業(株)製、商品名ノクセラーM〕
注3)TT :テトラメチルチウラムジスルフィド
〔大内新興化学工業(株)製、商品名ノクセラーTT〕
注4)TRA :ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド
〔大内新興化学工業(株)製、商品名ノクセラーTRA〕
注5)BZ :ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛
〔大内新興化学工業(株)製、商品名ノクセラーBZ〕
【0021】
【表5】

注)前記5つの指数は、いずれも対照例の値を100としたときの指数である。
【0022】
【表6】

注)前記5つの指数は、いずれも対照例の値を100としたときの指数である。
【0023】
表5?6におけるゴム特性は、次のようにして測定した。
・・・(中略)・・・
【0024】
表2?3に示した物理化学特性を有する実施例および比較例のカーボンブラックをEPDMゴムに配合した表5?6のゴム特性表から、本発明カーボンブラックの効果について説明する。
Run No.8および11は、よう素吸着量から本発明の必要条件が外れた例であり、機械的特性(引張り応力)に対して圧縮永久歪が高くて好ましくない。また、ムーニー粘度に対する押出ダイスウエルが高く、加工性、押出特性ともに好ましくない。
Run No.7は、Run No.6とほぼ同じ基本特性であるが、N2SA/IA比が本発明の範囲よりも大きく、本発明の必要条件である(1)式の
Dst(nm)≧(DBPA)-7.5(IA)+415・・・(1)
(但し、Dstは288以上)
と(2)式の
比着色力(%)≦IA+15・・・(2)
(但し、比着色力は51%以下)
の条件を満たしておらず、機械的特性(引張り応力)に対して圧縮永久歪が高くて好ましくない。また、ムーニー粘度に対する押出ダイスウエルが高く、加工性、押出特性ともに好ましくない。
Run No.9はDBPA吸収量(DBPA)が本発明の必要条件が外れた例であり、機械的特性(引張り応力)に対して圧縮永久歪が高く好ましくない。また、ムーニー粘度に対する押出ダイスウエルが高く、加工性、押出特性ともに好ましくない。
Run No.10および12は、DBP吸収量が本発明の必要条件が外れていることに加え、本発明の必要条件である(1)式の
Dst(nm)≧(DBPA)-7.5(IA)+415・・・(1)
(但し、Dstは288以上)
と(2)式の
比着色力(%)≦IA+15・・・(2)
(但し、比着色力は51%以下)
の条件を満たさない例であり、機械的特性(引張り応力)に対して圧縮永久歪が高く好ましくない。
また、ムーニー粘度に対する押出ダイスウエルが高く、加工性、押出特性ともに好ましくない。
以上により、本発明の必要条件すなわち、ジブチルフタレート吸収量(DBPA)が90cm^(3)/100gを超え110cm^(3)/100g未満、よう素吸着量(IA)が25g/kgを超え40g/kg未満という基本特性を有するカーボンブラックにおいて、窒素吸着比表面積(N_(2)SA)とIAとの比、N_(2)SA/IAが0.80?1.00であり、遠心沈降分析によるストークス相当径の最多頻度値(Dst)が(1)式より大きく、かつ比着色力が(2)式より小さいことを特徴とするカーボンブラックを配合することで、
Dst(nm)≧(DBPA)-7.5(IA)+415・・・(1)
(但し、Dstは288以上)
比着色力(%)≦IA+15・・・(2)
(但し、比着色力は51%以下)
機械的特性(引張り応力)に対しの圧縮永久歪が低くかつムーニー粘度に対する押出ダイスウエルが低く、高位の耐へたり性と加工性、押出特性の両立が可能となる。
また、本発明の重要課題である高周波加硫時での加硫速度については、効果的に加硫時間が短縮できている。」

4 特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との対比・検討

(1) 明細書のサポート要件の充足性を検討するにあたっては、上記1の前提に従い、上記2の特許請求の範囲の記載と上記3の発明の詳細な説明の記載を対比しながら、発明の詳細な説明の記載により、出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲と、特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明の技術的範囲との対応関係を検討することになることから、はじめに、(i)本願発明の課題を把握した上で、(ii)発明の詳細な説明の記載により、出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲について考察した後、(iii)特許請求の範囲の記載との対比・検討を行うこととする。

(2) 本願発明の課題
本願発明の課題は、上記3(3)の【発明が解決しようとする課題】の記載からみて、「カーボンブラック配合量が多くなった場合であっても、機能性ゴム部材のゴム配合要求特性である引張り強さやモジュラス値などの機械的特性を維持し、高位の耐へたり性を付与するとともに、配合ゴム組成物の粘度上昇、加工性(押出特性)を低下させることなく、かつ高周波加硫における加硫効率を改良することが可能な新規ソフト系カーボンブラックを提供すること」にあると認められる。
そして、当該課題は、カーボンブラック自体の性質改善に係るものではなく、カーボンブラックが配合された機能性ゴム部材(機能性部材配合用ゴム組成物)の性能改善(「カーボンブラック配合量が多くなった場合であっても、機能性ゴム部材のゴム配合要求特性である引張り強さやモジュラス値などの機械的特性を維持し、高位の耐へたり性を付与するとともに、配合ゴム組成物の粘度上昇、加工性(押出特性)を低下させることなく、かつ高周波加硫における加硫効率を改良すること」)に係るものと解される。

(3) 発明の詳細な説明の記載により、出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲
ア 技術常識
本願発明の課題は、上記(2)のとおり、カーボンブラック自体の性質改善に係るものではなく、カーボンブラックが配合された機能性ゴム部材(機能性部材配合用ゴム組成物)の性能改善に係るものと解されるところ、このような機能性ゴム部材の性能(機械的特性や押出特性など)は、カーボンブラックの性質はもとより、配合されるゴムの種類やカーボンブラックの配合比率など、多様な因子に左右されることは、当該技術分野における技術常識というべき事項である。
すなわち、当該機能性ゴム部材の性能は、配合されるカーボンブラックの性質に応じて、一義的に定まるという単純なものではなく、配合されるゴムの種類(ゴム自体の性質)やカーボンブラックの配合比率、さらには、配合されるプロセス油や加硫促進剤などの配合剤によっても変化するのであるから、機能性ゴム部材の性能を、単純にカーボンブラックの性質と関係づけることは困難であるといわざるを得ない。
なお、上記技術常識の検討にあたっては、以下の参考文献を参照した。
<参考文献>
カーボンブラック協会編「カーボンブラック便覧」(昭和47年5月25日 2版発行)、株式会社図書出版社、特に、291頁の「2・1・3a」、292頁の「図2・29」、297頁の「2・2・2」、「表2・7」、「2・2・4」、299頁の「図2・44」、第306?315頁の「2・3・2」、「図2・57?図2・91」、第322?326頁の「2・4・4」、「図2・96」、「図2・97」、「表2・16」

イ 発明の詳細な説明の具体例(実施例)の記載、及び、当該記載により、出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲
上記3(6)の【実施例】をみると、表1及び表2、3にはそれぞれ、カーボンブラックの原料油及びカーボンブラックの製造条件が記載され、当該表2、3にはさらに、得られた種々のカーボンブラック(実施例1?6、比較例7?12、対照例)の物理化学特性(N_(2)SA、IA、N_(2)SA/IA、DBPA、比着色力、「IA+15」、Dstモード径、「(DBPA)-7.5×(IA)+415」)が記載されている。
また、表4には、上記種々のカーボンブラックを用いて実際に調製したゴム組成物の配合成分及び配合比率が記載され、表5、6には、当該ゴム組成物の性能(ムーニー粘度指数、引張強さ指数、200%モジュラス指数、押出ダイスウェル指数、圧縮永久歪指数、加硫開始時間)が記載されている。
しかしながら、上記実施例(あるいは比較例)において、ゴム組成物の性能までが確認されているのは、上記表4に示された、配合ゴム及びカーボンブラック配合比率の場合のみ、すなわち、配合ゴムが「EPDM」であり、カーボンブラック配合比率が「120重量部」である特定のゴム組成物の場合のみであって、それ以外のゴムやカーボンブラック配合比率(さらには、プロセスオイル等)にて調製されたゴム組成物については、どのような性能を有するのかを客観的に認識するに足りる具体例は見当たらない。
一方、本願発明の課題は、上記(2)にて確認したとおり、「カーボンブラック配合量が多くなった場合であっても、機能性ゴム部材のゴム配合要求特性である引張り強さやモジュラス値などの機械的特性を維持し、高位の耐へたり性を付与するとともに、配合ゴム組成物の粘度上昇、加工性(押出特性)を低下させることなく、かつ高周波加硫における加硫効率を改良すること」という、機能性ゴム部材(機能性部材配合用ゴム組成物)の性能改善にあることに加え、この技術分野には、上記アの技術常識、すなわち、機能性ゴム部材の性能(ムーニー粘度指数、引張強さ指数といった機械的特性や押出特性など)は、カーボンブラックの性質のみならず、配合されるゴムの種類やカーボンブラックの配合比率などに左右されるという技術常識が存在する。
そうすると、本願明細書の発明の詳細な説明に記載された上記具体例(実施例)に接した当業者が、上記本願発明の課題を解決できる(すなわち、機能性ゴム部材の性能を改善できる)と認識できる範囲は、上記技術常識に照らすと、あくまで、上記表4に示された特定のゴム組成物の範囲にとどまるというべきであって、その他のゴム組成物についてまで拡張ないし一般化できるとする根拠は認められない。

ウ 発明の詳細な説明の具体例(実施例)以外の記載、及び、当該記載により、出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲
本願明細書の発明の詳細な説明には、上記【実施例】以外に、【技術分野】(上記3(1)参照)、【背景技術】(上記3(2)参照)、【課題を解決するための手段】(上記3(4)参照)、及び【発明の効果】(上記3(5)参照)に関する記載が認められ、特に、【課題を解決するための手段】の欄には、本願発明に係るカーボンブラックの性質(IA、N_(2)SA/IA、DBPA、比着色力、Dstモード径といった物理化学特性に関する各種指標)が、機能性ゴム部材(機能性部材配合用ゴム組成物)の機械的特性や押出特性といった性能にどのような影響を及ぼすのかについても言及されている。
しかしながら、上記アの技術常識によると、カーボンブラックが配合された機能性ゴム部材の性能は、ゴムの種類やカーボンブラックの配合比率といった種々の因子に影響され、単純にカーボンブラックの性質と関係づけることは困難であることから、たとえ上記【課題を解決するための手段】に、本願発明に係るカーボンブラックの性質(各種指標)と機能性ゴム部材の性能とのおおよその傾向が示されているとしても、この傾向は、上記種々の因子に左右されるものと解するのが相当であるから、カーボンブラックの性質(各種指標)を特定することが、広範なゴムの種類や広範なカーボンブラックの配合比率(さらには広範なプロセスオイル等の配合成分)にわたって、機能性ゴム部材の性能が一義的に定まることを客観的に裏付ける根拠とはなり得ない。また、この傾向を踏まえても、上記実施例の表4に示された特定のゴム組成物について確認された性能から、その他のゴム組成物全般の性能を予測することは到底不可能であるといわざるを得ない。
このように、実施例以外の発明の詳細な説明の記載を仔細にみても、種々の因子に依存することなく、広範な機能性ゴム部材に対して、上記本願発明の課題が解決できると当業者が認識できる、と認めるに足りる根拠は見い出せない。

エ 小括
以上をまとめると、本願明細書の発明の詳細な説明の記載により、出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲は、上記実施例の表4に示された特定のゴム組成物に係る範囲(当該特定のゴム組成物への配合を予定されたカーボンブラック)に画定されるといえる。

(4) 対比・検討
ア 「特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明の技術的範囲」と、上記(3)にて検討した「発明の詳細な説明の記載により、出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲」とを対比する。
上記(3)のとおり、「発明の詳細な説明の記載により、出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲」は、上記実施例の表4に示された特定のゴム組成物に係る範囲(当該特定のゴム組成物への配合を予定されたカーボンブラック)に画定されるのに対して、本願発明は、上記2のとおり、単に、各種指標によってその性質を特定したカーボンブラックに係る発明であって、当該カーボンブラックを配合したゴム組成物の形態(ゴムの種類、カーボンブラックの配合比率など)についてまで特定するものではないから、「特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明の技術的範囲」は、上記実施例に係る特定のゴム組成物への配合を予定されたカーボンブラックに限らず、これ以外のゴム組成物への配合を予定されたカーボンブラックをも許容するものと解するのが相当である。
してみると、「特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明の技術的範囲」は、「発明の詳細な説明の記載により、出願時の技術常識に照らして当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲」を超えるものというほかなく、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号の規定に適合するとは認められない。

イ パラメータ発明の観点からみた明細書のサポート要件の検討
本願発明は、特性値を表す二つあるいはそれ以上の技術的な変数(パラメータ)を用いた一定の数式により示される範囲をもって特定したもの、すなわち、ジブチルフタレート吸収量(DBPA)、よう素吸着量(IA)、及び遠心沈降分析によるDstモード径{Dst(nm)}という三つのパラメータ、並びに、比着色力及びよう素吸着量(IA)という二つのパラメータを用いて、それぞれ、下記(1)式及び(2)式
Dst(nm)≧(DBPA)-7.5(IA)+415・・・(1)
(但し、Dstは288以上)
比着色力(%)≦IA+15・・・(2)
(但し、比着色力は51%以下)
で示される範囲をもって特定したカーボンブラックに係るものであり、いわゆるパラメータ発明に属するものであることから、パラメータ発明の観点からも本願明細書のサポート要件につき検討を加える。
ここで、パラメータ発明において、特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するためには、発明の詳細な説明は、その数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的意味が、特許出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できる程度に記載するか、又は、特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載することを要するものと解するのが相当である(上記知財高裁特別部判決平成17年(行ケ)第10042号参照)。
これを本件に当てはめると、本件における所望の効果(性能)とは、上記3(3)の【発明が解決しようとする課題】及び3(5)の【発明の効果】の記載などからみて、「機能性ゴム部材のゴム配合要求特性である引張り強さやモジュラス値などの機械的特性を維持し、高位の耐へたり性を付与するとともに、配合ゴム組成物の粘度上昇、加工性(押出特性)を低下させることなく、かつ高周波加硫における加硫効率を改良」し、「機械的特性(引張り応力)に対する圧縮永久歪が低くなり、かつムーニー粘度に対する押出ダイスウエルが低くなるので、高位の耐へたり性と加工性、押出特性の両立が可能となる」という、機能性ゴム部材(機能性部材配合用ゴム組成物)に係る効果(性能)と解され、また、本願発明に係るカーボンブラックは、上記アのとおり、実施例に係る特定のゴム組成物への配合が予定されたカーボンブラックに限らず、これ以外のゴム組成物への配合が予定されたカーボンブラックをも許容するものであることから、本願明細書の発明の詳細な説明が、上記した「特許出願時の技術常識を参酌して、当該数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載すること」という要件を満たすためには、本願発明の上記数式が示す範囲内のカーボンブラックであれば、いかなるゴム組成物に配合した場合であっても、上記機能性ゴム部材に係る所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載する必要があるということができる。
このような点を踏まえて、本願明細書の発明の詳細な説明を再度俯瞰すると、そこには、本願発明に係るカーボンブラックを採用することの有効性を示すための具体例(実施例)としては、上記表4に示された特定のゴム組成物につき、当該ゴム組成物の性能(機械的特性や押出特性)が良好であることを示す実施例(表5、6参照)が記載されているにすぎず、このような記載だけでは、本件出願時の技術常識を参酌して、本願発明の数式が示す範囲内であれば、所望の効果(性能)が得られると当業者において認識できる程度に、具体例を開示して記載しているとはいえない。加えて、当該数式が示す範囲と得られる効果(性能)との関係の技術的意味が、本件出願時において、具体例の開示がなくとも当業者に理解できるものであったことを認めるに足りる証拠も見当たらないから、パラメータ発明の観点からみても、本願の特許請求の範囲の記載が、明細書のサポート要件に適合するということはできない。

(5) 審判請求人の上記拒絶理由1に対する主張について
ア 審判請求人は、平成26年11月27日付けの意見書において、本願発明の技術分野の審査例(〔イ〕?〔ト〕)を挙げ、以下に示す(i)、(ii)のとおり主張する。
(i) 『以上の審査例から分かるように、当該技術分野では「ゴムの種類や配合割合について複数の実施例を示さなければ当業者が当該発明を容易に実施できない」という考えに基づく審査プラクティスは行われていない。このことは、当該技術分野の技術的特徴、及び長年に亘って蓄積された特許庁の審査プラクティスや当業者の技術常識からみて極めて妥当であると言えるが、改めてその理由を説明する。
タイヤ用などのカーボンブラックの製造には昭和初期から続く長い歴史があり、非常に古い技術であって膨大な技術蓄積がある。配合の対象となるゴム材料としては合成ゴムと天然ゴムがある。合成ゴムはモノマーの種類と組み合わせによって多種多様なものが存在するが(例えば、〔イ〕の段落0008、〔ト〕の段落0036参照)、汎用されている合成ゴムの場合、通常の使用において検討が必要な物性等は既に研究済みであり、カーボンブラックを配合したゴム組成物についても、特に新規な特性について検討する必要がある場合以外は、その検討手法も確立されている。したがって、ゴム組成物について〔イ〕?〔ヘ〕及び本願に記載された程度の評価内容が開示されていれば、当業者は課題が解決できることを十分に理解できる。また、ゴム材料を他の汎用のものに変えた場合の影響やカーボンブラックの配合割合などは当業者が慣用手段で適宜実験的に調べることができる程度の事項にすぎない。なお、本願明細書にはEPDM以外の使用可能なゴムの例示はないが、当業者ならば、従来技術の知見に基づいて前述した汎用されている合成ゴムや天然ゴムの中から適宜選択して使用することが可能であり、実施に当たり特に問題はない。その証拠に、〔ホ〕の場合も、使用可能なゴムの例示はないが特許されている。
また、カーボンブラックの配合割合は、前記した〔ト〕の段落0036の「ゴム100重量部に対してカーボンブラック30?150重量部が適当である」という記載からも分かるように、一般的に相当広い範囲から選択できるものである。本願発明の場合も、段落0011に記載したように、非極性ゴム100重量部に対して80?200重量部という広い範囲から選択することができる。
したがって、前記審査例のように、汎用されている1種乃至2種のゴム材料を選択し、一般的な配合割合の実施例を一つ示せば、当該技術分野の当業者にとっては技術情報として十分である。更に、これまでに審査例のような特許が多数認められているが、当業界の競業秩序の維持について大きな問題が生じたことはない。
即ち、従来行われている審査プラクティスは極めて適切なものであり、これを変える必要は全くないと言える。』
(ii) 『〔5〕判決について
前記拒絶理由の前提として引用された判決は「偏向フィルムの製造法」に係るものであり、本願発明とは技術分野が全く異なる。したがって、その判決内容は、一般論としては参考になるものの、各技術分野には、それぞれ特有の技術的特徴や技術常識などがあり、これらが36条の実際の適用に際して大きく影響するから、通常の場合、他の技術分野の個別的事例について判断する際の参考にはならない。
当該技術分野においても、上記審査例から分かるように、一貫した審査プラクティスが行われており、本願に係る36条の判断をするに当たり、敢えて一般論を持ち出すまでもないと思料する。』

イ しかしながら、上記(i)の主張は、その冒頭に「・・当業者が当該発明を容易に実施できない」と述べられているように、明細書のサポート要件についての反論ではなく、要するに、特許法第36条第4項第1号に規定される実施可能要件についての反論というべきものであって、当を得たものとはいえない。
また、過去の審査プラクティスの状況は、審査(審理)の予見性や衡平性の観点において確かに重要な事項ではあるが、本件の審理を拘束するものではない。そもそも、明細書のサポート要件の適否は、出願人(審判請求人)が証明責任を負うべきものであるから、本件が明細書のサポート要件に適合するものであることを、例えば、当業者であれば、本願明細書に記載された特定の実施例から、いかなるゴム及びカーボンブラック配合比率のゴム組成物であっても、本願発明の課題が解決できることを認識できるということを、これを裏付ける技術常識を挙証するなどして、拒絶理由に対する釈明をすべきところ、上記過去の審査プラクティスについての主張は、このような釈明とはかけ離れたものであって的を射たものとは到底いえない。
さらに、請求人は、引用判決につき、上記(ii)のように言及し、当該判決に係る事案の技術分野は、本件とは異なるものであるから参考にはならない旨主張するが、当該判決は、特許法第36条第6項第1号の立法趣旨を踏まえた法解釈に基づくものであって、明細書のサポート要件についての一般的な考え方を説示するものであるから(上記1参照)、本件についても当然に妥当するものである。
したがって、請求人のこれらの主張を採用することはできない。

第5 むすび

以上検討のとおり、本願の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定される明細書のサポート要件に適合しておらず、本願は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないから、同法第49条第4号に該当し、拒絶すべきものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-17 
結審通知日 2015-03-24 
審決日 2015-04-06 
出願番号 特願2007-264825(P2007-264825)
審決分類 P 1 8・ 537- WZ (C09C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 仁科 努  
特許庁審判長 山田 靖
特許庁審判官 日比野 隆治
橋本 栄和
発明の名称 カーボンブラックおよびそれを含む機能性部材配合用ゴム組成物  
代理人 岡本 利郎  
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