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審決分類 審判 査定不服 特36条4項詳細な説明の記載不備 特許、登録しない。 C07C
審判 査定不服 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 特許、登録しない。 C07C
管理番号 1301196
審判番号 不服2013-12617  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-07-02 
確定日 2015-05-20 
事件の表示 特願2008-509506「カルボキシルエステラーゼにより加水分解可能なアルファアミノ酸エステル-薬剤複合体」拒絶査定不服審判事件〔平成18年11月9日国際公開、WO2006/117567、平成20年11月27日国内公表、特表2008-542196〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
この出願は、2006年5月4日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2005年5月5日(GB)英国及び2005年5月13日(US)米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年12月22日付けの拒絶理由通知に対して、平成24年6月26日に意見書及び手続補正書が提出され、その後、平成25年2月27日付けで拒絶査定がされ、これに対して、同年7月2日に審判請求がされるとともに同日付けで手続補正書が提出され、同年10月7日付けで審尋がされ、これに対して回答がされなかったものである。
なお、平成25年7月2日に、特願2013-139093号が分割出願されている。

第2 特許請求の範囲の記載及び本願発明
平成25年7月2日付けの手続補正は、請求項3?20を削除すると共に、請求項1及び2における脱字の「)」を補う適法な補正である。この出願の特許請求の範囲の記載は、この手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1及び2に記載された以下のとおりである(以下、請求項1に係る発明又は請求項1の特許を受けようとする発明を「本願発明1」という。請求項2についても同様に「本願発明2」という。)。
「【請求項1】アルファアミノ酸エステルと標的細胞内酵素又は受容体の活性のモジュレーターとの共有結合型複合体であって、
前記アルファアミノ酸エステルが、阻害剤と標的酵素又は受容体との間の結合界面から離れた位置で前記モジュレーターに複合しており、
前記アルファアミノ酸エステルが、前記モジュレーターと、式(IA)の基:


(式中、
R_(1) は、式-(C=O)OR_(9) のエステル基(ここで、R_(9) は、(i)R_(7)R_(8)CH-(ここで、R_(7) は、(C_(1)?C_(3))アルキル-(Z^(1))_(a)-(C_(1)?C_(3))アルキル-又は(C_(2)?C_(3))アルケニル-(Z^(1))_(a)-(C_(1)?C_(3))アルキル-(ここで、aは0又は1であり、Z^(1) は、-O-、-S-又は-NH-である)であり、R_(8) は、水素又は(C_(1)?C_(3))アルキル-であるか、或いはR_(7) 及びR_(8) は、それらが連結している炭素と一緒に、C_(3)?C_(7) シクロアルキル環を形成する))であり、
R_(2) は、ベンジル、フェニル、シクロヘキシルメチル、ピリジン-3-イルメチル、tert-ブトキシメチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、1-ベンジルチオ-1-メチルエチル、1-メチルチオ-1-メチルエチル、1-メルカプト-1-メチルエチル、又はフェニルエチルであり、
Yは、結合手であり、
Lは、式-(Alk^(1))_(m)(Alk^(2))_(p)-の二価の基であり、ここで、
(i)mが1であり、pが0若しくは1であるか、又は(ii)pが1であり、mが0若しくは1であり、
Alk^(1) 及びAlk^(2) は独立して、二価のC_(3)?C_(7) シクロアルキル基、又は直鎖若しくは分岐鎖のC_(1)?C_(6) アルキレン、C_(2)?C_(6) アルケニレン、若しくはC_(2)?C_(6) アルキニレン基であって、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)又はアミノ(-NR^(A)-)結合(ここで、R^(A) は、水素又はC_(1)?C_(3) アルキルである)を任意に含むか又はこれらの基が末端をなしていてもよい基を表し、
Xは、結合手、又は-C(=O)-であり、
zは、0又は1である)
で表されるように複合している共有結合型複合体。
【請求項2】アルファアミノ酸エステルと標的細胞内酵素又は受容体の活性のモジュレーターとの共有結合型複合体であって、
前記アルファアミノ酸エステルが、複合したモジュレーターと対応する酸とが標的酵素又は受容体に結合する形式が複合していないモジュレーターのものと同じであるように前記モジュレーターに複合しており、
前記アルファアミノ酸エステルが、前記モジュレーターと、式(IA)の基:


(式中、
R_(1) は、式-(C=O)OR_(9) のエステル基(ここで、R_(9) は、(i)R_(7)R_(8)CH-(ここで、R_(7) は、(C_(1)?C_(3))アルキル-(Z^(1))_(a)-(C_(1)?C_(3))アルキル-又は(C_(2)?C_(3))アルケニル-(Z^(1))_(a)-(C_(1)?C_(3))アルキル-(ここで、aは0又は1であり、Z^(1) は、-O-、-S-又は-NH-である)であり、R_(8) は、水素又は(C_(1)?C_(3))アルキル-であるか、或いはR_(7) 及びR_(8) は、それらが連結している炭素と一緒に、C_(3)?C_(7) シクロアルキル環を形成する))であり、
R_(2) は、ベンジル、フェニル、シクロヘキシルメチル、ピリジン-3-イルメチル、tert-ブトキシメチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、1-ベンジルチオ-1-メチルエチル、1-メチルチオ-1-メチルエチル、1-メルカプト-1-メチルエチル、又はフェニルエチルであり、
Yは、結合手であり、
Lは、式-(Alk^(1))_(m)(Alk^(2))_(p)-の二価の基であり、ここで、
(i)mが1であり、pが0若しくは1であるか、又は(ii)pが1であり、mが0若しくは1であり、
Alk^(1) 及びAlk^(2) は独立して、二価のC_(3)?C_(7) シクロアルキル基、又は直鎖若しくは分岐鎖のC_(1)?C_(6) アルキレン、C_(2)?C_(6) アルケニレン、若しくはC_(2)?C_(6) アルキニレン基であって、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)又はアミノ(-NR^(A)-)結合(ここで、R^(A) は、水素又はC_(1)?C_(3) アルキルである)を任意に含むか又はこれらの基が末端をなしていてもよい基を表し、
Xは、結合手、又は-C(=O)-であり、
zは、0又は1である)
で表されるように複合している共有結合型複合体。」

第3 原査定の理由
原査定の理由である平成23年12月22日付けの拒絶理由通知における拒絶の理由は、その理由7及び理由8である。
その理由7は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、請求項1、2、5?14に係る発明に関連して「発明の詳細な説明には、実施例1-5に記載された特定のモジュレーターと特定のアルファアミノ酸エステルとの共有係合型複合体が薬理試験の結果と共に記載されているのみであり、その他の骨格構造を有するモジュレーターとの共有結合型複合体は具体的に例示されていない」、「本願発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、発明の詳細な説明に記載された特定のモジュレーターとの共有結合型複合体の薬理試験の結果のみをもって、すべてのモジュレーターとの共有結合型複合体が同様の効果を奏するものであると推認できない」、「発明の詳細な説明は、当業者が請求項1、2、5-14に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない」と説示した理由を含む。本願発明1及び2は、拒絶理由で言及された請求項1及び2に係る発明に対応し、共有結合型複合体の複合の様式がこの出願の明細書(以下「本願明細書」という。補正はされていない。)の段落【0020】?【0023】に記載された式(IA)、(IB)、(IC)のうちの式(IA)に限定されたものである。そして、拒絶査定では、本願発明1及び2に関連した発明の詳細な説明の不備が、拒絶査定の理由とされている。
その理由8は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないというものであり、請求項1、2、5?14に係る発明に関連して「発明の詳細な説明には、実施例1-5に記載された特定のモジュレーターと特定のアルファアミノ酸エステルとの共有係合型複合体が薬理試験の結果と共に記載されているのみであり、その他の骨格構造を有するモジュレーターとの共有結合型複合体は具体的に例示されていない」、「本願発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、発明の詳細な説明に記載された特定のモジュレーターとの共有結合型複合体の薬理試験の結果のみをもって、すべてのモジュレーターとの共有結合型複合体が同様の効果を奏するものであると推認できない」、「出願時の技術常識に照らしても、請求項1、2、5-14に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとは認められない」と説示した理由を含む。本願発明1及び2は、拒絶理由で言及された請求項1及び2に係る発明に対応し、上記のとおり限定されたものである。そして、拒絶査定では、本願発明1及び2に関連した特許請求の範囲の不備が、拒絶査定の理由とされている。

第4 当審の判断
この出願は、原査定の理由のとおり、請求項1及び2の特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえず、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていないものである。
また、この出願は、原査定の理由のとおり、発明の詳細な説明の記載が、当業者が発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではなく、特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものである。
その理由は、以下のとおりである。

1 理由8について

(1)本願発明1及び2の課題について
本願発明1及び2の課題は、本願明細書の段落【0001】に
「本発明は、細胞内酵素又は受容体の活性を修飾する化合物の活性を、該モジュレーターへのアルファアミノ酸エステルモチーフの共有結合型複合(covalent conjugation)により増加又は延長する全般的な方法に関する。本発明は、アルファアミノ酸エステルモチーフが共有結合型で複合したモジュレーター、及び親の複合していないモジュレーターに比べてより優れた特性を有するこのような複合体の同定方法に関する。本発明は、さらに、アミノ酸複合体が単球-マクロファージ系列の細胞内部で選択的に蓄積することを可能にする、アミノ酸エステルモチーフを含有するモジュレーターの使用にも関する」
と記載され、本願明細書の段落【0003】?【0004】に
「細胞内酵素又は受容体の所定のモジュレーターの細胞内濃度を増加させるための利用可能な方法が所望されるであろう。このことは、効力の増加をもたらし、かつ細胞内部でのモジュレーターの滞在を延長することにより薬理動態学的及び薬力学的特性の改善をもたらすであろう。より安定した曝露及び投与頻度の減少が達成されるであろう。薬剤が、治療的作用を担う特定の標的細胞に標的され得るならば、全身曝露を低減し、よって副作用を低減して、さらなる利点を得ることができるであろう。・・・本発明は、そのような方法を提供し、該方法が基づく構造的本質を組み込んだ改良されたモジュレーターについて記載する」
と記載されていることからみて、モジュレーター(細胞内酵素又は受容体の活性を修飾する化合物であり、薬剤として働く化合物である。)へのアルファアミノ酸エステルモチーフの共有結合型複合により、その細胞内濃度が増加し、効力が増加し、細胞内部でのモジュレーターの滞在が延長されるように、その活性が増加又は延長された、アルファアミノ酸エステルとモジュレーターとの共有結合型複合体を提供することであると認められる。

(2)特許請求の範囲の記載について
請求項1及び2に記載された発明は、上記第2の請求項1及び2に記載のとおりの、アルファアミノ酸エステルとモジュレーターとの共有結合型複合体に関するものである。

(3)発明の詳細な説明の記載について

ア 標的細胞内酵素又は受容体の活性のモジュレーターについての記載
「アルファアミノ酸エステルと標的細胞内酵素又は受容体の活性のモジュレーターとの共有結合型複合体」(以下「共有結合型複合体」という。)における、構成部分又は原料としての「標的細胞内酵素又は受容体の活性のモジュレーター」(以下「モジュレーター」又は「モジュレーター化合物」という。)については、本願明細書の段落【0002】及び【0056】?【0061】に、以下のように記載されている。
「【0002】・・・多くの細胞内酵素及び受容体は、それらの活性部位に結合することによりそれらの活性を修飾する医薬的に有用な薬剤の標的である。その例を、以下の表1に示す。標的酵素及び受容体に到達するために、モジュレーター化合物は、もちろん、血漿/細胞外流体から細胞膜を横切らなければならない。一般的に、電荷が中性のモジュレーターは、荷電されたものよりも容易に細胞膜を横切る。そして、動的平衡が設定され、それによりモジュレーターは血漿と細胞内部との間で平衡になる。」
「【0056】細胞内酵素及び受容体のモジュレーター
本発明の原理は、広い範囲の疾患に関連する広い範囲の細胞内標的のモジュレーターに適用可能である。上記のように、既知のモジュレーターのそれらの標的への結合形式は、モジュレーター自体が知られるようになれば、すぐに既知である。さらに、X線結晶解析及びNMRのような最新技術は、構造-活性の関係を特徴付ける従来の薬品化学の方法と同様に、このような結合トポロジー及び幾何的配置を明らかにすることができる。このような知見を用いて、所定のモジュレーターの構造において、モジュレーターの酵素又は受容体への結合を破壊することなく、どこにカルボキシルエステラーゼエステルモチーフを連結させることができるかを、構造データを用いて同定することが直接的である。例えば、表1は、発表された結晶構造データがあるいくつかの細胞内酵素又は受容体標的を列挙する。
【0057】【表1-1】

【0058】【表1-2】

【0059】【表1-3】

【0060】説明の目的で、標的へのその結合形式が知られている上記の細胞内標的のうちの5つの既知の阻害剤・・・活性部位の模式図を、その代表的な阻害剤とともに示す。・・・カルボキシルエステラーゼエステルモチーフの連結に適する位置・・・を図に示す。
・・・・(図は省略)・・・・・
【0063】表1に同定するその他の例についても同様のアプローチを用いることができる。」

イ 共有結合型複合体におけるアルファアミノ酸エステルの複合の様式についての記載
本願明細書の段落【0019】?【0023】に、以下のように記載されている。
「【0019】・・・アルファアミノ酸エステルは、アミノ酸エステルのアミノ基又はアミノ酸エステルのアルファ炭素(例えばその側鎖を介して)を介してモジュレーターに複合できる。リンカー基は、カルボキシルエステラーゼエステルモチーフとモジュレーターとの間に存在できる。例えば、アルファアミノ酸エステルは、以下の式(IA)、(IB)又は(IC)の基のようにモジュレーターに複合できる:
【0020】

【0021】式中・・・(以下省略)・・・」

ウ 所定の構造又は性質を有する共有結合型複合体の構造及び製造工程についての記載
共有結合型複合体が「前記アルファアミノ酸エステルが、阻害剤と標的酵素又は受容体との間の結合界面から離れた位置で前記モジュレーターに複合しており」との構造又は「前記アルファアミノ酸エステルが、複合したモジュレーターと対応する酸とが標的酵素又は受容体に結合する形式が複合していないモジュレーターのものと同じであるように前記モジュレーターに複合しており」との性質を有することの意味、上記構造又は性質を有するようにするためにどのように共有結合型複合体の構造を決めて共有結合型複合体を製造するかについて、本願明細書の段落【0011】、【0063】?【0070】に、以下のように記載されている。
「【0011】・・・加水分解された複合体の標的への結合形式が複合していないモジュレーターと同じであるという要件は、結合形式の重大な乱れがなく、言い換えると、結合形式が複合していないモジュレーターのものと本質的に同じであることを要求していると解釈される。この要件が満たされる場合、親のモジュレーターの主要な結合特性が維持され、修飾された及び未修飾のモジュレーターが全体的に共通の一連の結合特性を有する。「同じ結合形式」及び「離れた連結」との観点は、類似している。なぜなら、上記のように、「同じ結合形式」の要件を達成する一般的な様式は、カルボキシルエステラーゼモチーフが、阻害剤と標的酵素又は受容体との間の結合界面から離れた、モジュレーター分子内の点で連結することであるからである。しかし、これらの要件は、複合体及び/又はその対応する酸が、親のモジュレーターと同じインビトロ又はインビボ修飾効力を有さなければならないことを意味しないことに注意すべきである。しかし、一般的に、エステラーゼにより加水分解されたカルボン酸は、インビトロの酵素結合アッセイ又は受容体結合アッセイにおいて、該アッセイにおける親のモジュレーターの効力の1/10以上の効力を有することが好ましく、エステルは、細胞での活性のアッセイにおいて、同じアッセイにおける親のモジュレーターのものと少なくとも同程度に高い効力を有することが好ましい。」
「【0063】・・・標的細胞内酵素又は受容体の活性のモジュレーターの細胞での効力及び/又は細胞内滞留時間を増加させるための本発明の方法は、いくつかの工程を含むことができる。
工程1:標的酵素又は受容体について同じ結合形式を共有する1つ又は複数のモジュレーター分子上の、モジュレーターと標的酵素又は受容体との間の結合界面から離れた位置を決定する。
【0064】通常、このような位置は、標的酵素又は受容体に結合した既知のモジュレーター(又は構造が近いそのアナログ)と酵素又は受容体とのX線共結晶構造(又はnmrによる構造)から、構造の検分により同定される。或いは、標的酵素又は受容体の活性部位にドッキングしたモジュレーターと酵素又は受容体とのX線結晶構造を、コンピュータグラフィック法により模型にし、この模型を検分する。結合界面から離れた位置でのモジュレーターの構造的修飾が、モジュレーターの酵素又は受容体の活性部位への結合を大きく妨げることはありそうにないらしい。適切な位置は、共結晶構造又は溶媒の方に方向付けられるドッキングした模型から、通常、明らかになる。
【0065】工程2:アルファアミノ酸エステル基、又は一連の異なるアルファアミノ酸エステル基の工程1で同定された1つ又は複数の位置での連結により、モジュレーターを共有結合型で修飾する。
アルファアミノ酸エステル基(すなわち、潜在的なカルボキシルエステラーゼモチーフ)の連結は、モジュレーター上に存在する共有結合している官能基を介するか、又はこの目的のために特別に導入された適切な官能基を介して行い得る。カルボキシルエステラーゼモチーフは、スペーサ又はリンカー要素により主要な分子の塊から空間を空けて配置して、モチーフを溶媒中深くに位置させ、それによりモチーフがモジュレーターの結合形式にいずれの小さい影響を与えることをさらに低減させ、及び/又はモジュレーターの主要な分子の塊に起因するであろう立体的妨げを低減することにより、モチーフがカルボキシルエステラーゼに接近できることを確実にする。
【0066】工程2を行うことにより、1つの候補モジュレーター、又はより一般的には小さいライブラリーとしての候補モジュレーターが製造され、該モジュレーターはそれぞれ、工程1で同定された1つ又は複数の連結位置での種々のアミノ酸エステル基の導入により、その親の阻害剤に比べて共有結合型で修飾されている。
【0067】工程3:工程2で作製したアルファアミノ酸複合モジュレーターを、標的酵素又は受容体に対するそれらの活性を決定するために試験する。
薬品化学では通常であるが、工程1及び2を行うことにより作製した親のモジュレーターのカルボキシルエステラーゼモチーフバージョンは、モジュレーター活性の期待される維持が実際に維持されているか、並びにどの程度及びどの効力プロフィールで維持されているかを決定するのに適切なアッセイにおいて試験されることが好ましい。細胞内にモジュレーター活性を蓄積させるという本発明の根底にある目的によると、適切なアッセイは、修飾されたモジュレーターの細胞での活性の程度及び効力プロフィールを評価する細胞系統でのアッセイを通常は含む。工程3で用いることができるその他のアッセイは、修飾されたモジュレーター及びその推定のカルボキシルエステラーゼ加水分解産物の固有の活性を決定するインビトロ酵素アッセイ又は受容体修飾アッセイ;カルボキシルエステラーゼによる修飾されたモジュレーターの対応するカルボン酸への変換の速度を決定するアッセイ;及び細胞内のカルボキシルエステラーゼ加水分解産物(カルボン酸)の蓄積の速度及び/又はレベルを決定するアッセイを含む。このようなアッセイにおいて、単球及び非単球細胞の両方、及び/又は単離された一連のカルボキシルエステラーゼを、細胞選択性を示す化合物を同定するために用いることができる。
【0068】必要であれば又は所望により、工程3は、親のモジュレーターの異なる組の候補アルファアミノ酸エステル複合バージョンを用いて繰り返すことができる。
【0069】工程4:工程3で得られたデータから、細胞内部での酵素又は受容体活性の修飾を引き起こし、細胞内部で対応するカルボン酸に変換されかつ蓄積され、かつ細胞での効力が増加又は延長される、試験した親のモジュレーターのアルファアミノ酸エステル複合バージョンの1つ又は複数を選択する。
【0070】上記の工程1?4は、本発明の原理の実行のための一般的なアルゴリズムを表す。」

エ モジュレーター化合物へのアルファアミノ酸エステルの連結位置の具体例の記載
本願明細書の段落【0060】?【0062】、【0071】?【0076】及び図2に、以下の記載がある。
「【0060】説明の目的で、標的へのその結合形式が知られている上記の細胞内標的のうちの5つの既知の阻害剤に言及する。これらの例は、このような構造データをどのようにして用いてカルボキシルエステラーゼエステルモチーフの連結のための適切な位置を決定できるかを説明する。活性部位の模式図を、その代表的な阻害剤とともに示す。一般的に、モジュレーターと標的との間の結合界面から離れた位置、よって酵素結合界面から溶媒の方へ離れる方向に向ける位置が、カルボキシルエステラーゼエステルモチーフの連結に適する位置であり、これらを図に示す。
【0061】

【0062】


「【0071】実施例A
・・・・・・・・・・・・・・・
【0073】・・・トリメトレキセート(2,4-ジアミノ-5-メチル-6-[(3,4,5-トリメトキシア
ニリノ)メチル]キナゾリン)(2 G=CH)・・・及び(2 G=N)のようなアナログ・・・は・・・癌細胞の抵抗性を回避し、抗感染剤として用いるために開発されている。
【0074】

・・・・・・・・・・・・・・・
【0076】上記の一般的なアルゴリズムの工程1
活性部位にドッキングしたトリメトレキセートを有するDHFR(2 G=CH)のnmrの構造は発表されており(Polshakov,V.I.ら,Protein Sci. 1999,8,467?481)、本発明に従ってカルボキシルエステラーゼモチーフを付け加えるのに最も適する位置が、以下に示すようにフェニル環であったことが明らかである。トリメトレキセートの既知の構造的に近いアナログ、例えば(2 G=N)においてもこの点での連結が適するであろうことが推断された。図2は、DHFRにドッキングした(2 G=N)を示し、連結に適する点が芳香環の4位であることを示す。なぜなら、この点が酵素の活性部位から離れた点であるからである。」
「【図2】



オ 化合物の製造実施例の記載
化合物の製造実施例については、本願明細書の段落【0125】?【0250】の実施例1?5に記載され、そのうちの段落【0125】?【0151】の実施例1は以下のように記載されている。
「【0125】実施例1
この実施例は、既知のHDAC((ヒストン脱アセチル化酵素)阻害剤であるスベロイルアニリドヒドロキサム酸(化合物7)(本明細書において、「SAHA」という)の、その結合形式を妨げない、標的との結合界面から離れた点でのアミノ酸エステルモチーフの連結による修飾について記載する。
【0126】化合物7:スベロイルアニリドヒドロキサム酸(SAHA)


【0127】SAHAは、BioCat GmbH,Heidelberg,Germanyから購入した。
【0128】樹脂化学のための標準的洗浄手順
・・・・・・・・・・・・・・・
【0129】樹脂試験開裂
・・・・・・・・・・・・・・・
【0130】スベリン酸誘導体化ヒドロキシルアミン2-クロロトリチル樹脂の製造
段階1-2-クロロトリチル-O-NH_(2) 樹脂への固定化
・・・・・・・・・・・・・・・
【0132】段階2-けん化
・・・・・・・・・・・・・・・
【0134】SAHA誘導体の製造
SAHAに基づく化合物は、以下に概説する方法により製造した。
化合物(8)、(9)及び(10)は、次のスキームに記載する方法により製造した。

【0135】段階1?5は、R=シクロペンチルについて例示する。
段階1-(S)-(3-ニトロ-ベンジルアミノ)-フェニル-酢酸 シクロペンチルエステルの合成
・・・・・・・・・・・・・・・
【0136】3-ニトロベンジルブロミド(46mmol)をDMF(180ml)に溶解し、炭酸カリウム(92mmol)、次いで(S)-フェニルグリシンエステル(10.6g,46mmol)を加え・・・エステルを得て、段階2において直ちに用いた。
【0137】段階2-(S)-[tert-ブトキシカルボニル-(3-ニトロ-ベンジル)-アミノ]-フェニル-酢酸シクロペンチルエステルの合成
・・・・・・・・・・・・・・・
【0138】段階1の生成物(40.9mmol)をTHF(250ml)に溶解した後に、炭酸カリウム(61.4mmol)及び水(150ml)を加えた。ジ-tert-ブチル-ジカーボネート (163mmol)を加え・・・単離して、段階3において直ちに用いた。
【0139】段階3-(S)-[(3-アミノ-ベンジル)-tert-ブトキシカルボニル-アミノ]-フェニル-酢酸 シクロペンチルエステルの合成
・・・・・・・・・・・・・・・
【0140】段階2の生成物(11.5mmol)をEtOAc(150ml)に溶解した後に、Pd/C(10%湿潤)触媒(0.8g)を加え・・・水素化し・・・固体を得た。
【0141】段階4-樹脂結合
・・・・・・・・・・・・・・・
【0142】スベリン酸で誘導体化したヒドロキシルアミン2-クロロトリチル樹脂(1.0g,ローディング0.83mmol/g)を、DMF(15ml)中で膨潤させ、PyBOP(1.36g,2.61mmol)、続いてDIPEA(1.5ml,8.7mmol)を加えた。段階3の生成物(2.61mmol)をDCM(15ml)中に溶解し、反応混合物に加え・・・樹脂をろ過し・・・洗浄し・・・乾燥させた。
【0143】段階5-(S)-[3-(7-ヒドロキシカルバモイル-ヘプタノイルアミノ)-ベンジルアミノ]-フェニル-酢酸 シクロペンチルエステル化合物(8)の合成

【0144】段階4の生成物(ローディング0.83mmol)を、2%TFA/DCM(10ml)中で20分間、穏やかに振とうし・・・粗生成物を分取HPLCにより精製した。
【0145】化合物8についての分析データ
LCMS純度 100%, m/z 496 [M^(+)+H]^(+), ^(1)H NMR (400MHz, MeOD), δ: 1.30-1.70 (16H, m), 2.00 (2H, t), 2.30 (2H, t), 4.05 (2H, dd), 5.00 (1H, m), 5.15 (1H, m), 7.05 (1H, m), 7.30 (2H, m), 7.40 (5H, m), 7.75 (1H, m).
化合物(10)についての分析データ
LCMS純度 97%, m/z 484 [M^(+)+H]^(+), ^(1)H NMR (400 MHz, MeOD), δ: 1.30 (13H, m), 1.45-1.65 (4H, m), 1.93-2.05 (2H, m), 2.20-2.40 (2H, m), 3.99 (2H, q), 4.65-4.95 (1H, m) 7.05 (1H, d), 7.25-7.33 (2 H, m), 7.35-7.50 (5H, m), 7.75 (1H, s).
【0146】段階6-けん化
・・・・・・・・・・・・・・・
【0147】R=Etである段階5の生成物(1.4g,ローディング0.83mmol)を、THF(8.6ml)及びMeOH(8.6ml)に懸濁し、1.4M水酸化ナトリウム溶液(5.98mmol)を加え・・・振とうし、樹脂をろ過し・・・洗浄し・・・乾燥させた。
【0148】段階7-(S)-[3-(7-ヒドロキシカルバモイル-ヘプタノイルアミノ)-ベンジルアミノ]-フェニル-酢酸(9)の合成

【0149】段階6の生成物(1.44g,ローディング0.83mmol)を、2%TFA/DCM(10ml)中で・・・振とうした。樹脂をろ過し・・・粗生成物を分取HPLCにより精製して、化合物(9)を得た。LCMS純度 100%, m/z 428 [M^(+)+H]^(+), ^(1)H NMR (400MHz, MeOD), δ: 1.20-1.35 (4H, m), 1.50-1.65 (4H, m), 2.00 (2H, m), 2.30 (2H, m), 4.00 (2H, dd), 4.90 (1H, m), 7.05 (1H, m), 7.25-7.50 (7H, m), 7.70 (1H, m).
【0150】化合物(24)を、化合物(8)の合成について記載したのと同じ方法に従って製造した。
([(R)-[4-7-ヒドロキシカルバモイル-ヘプタノイルアミノ)-フェニル]-フェニル-メチル]-アミノ)酢酸 シクロペンチルエステル(24)

LCMS純度 95%, m/z 496 [M^(+)+H]^(+), ^(1)H NMR (400 MHz, DMSO), δ: 1.30-1.50 (6H, m), 1.50-1.70 (8H, m), 1.80 (2H, m), 2.10 (2H, t), 2.45 (2H, t), 4.1 (2H, dd), 5.25 (1H, m), 5.35 (1H, m), 7.45 (2H, d), 7.60 (5H, m), 7.80 (2H, d), 10.00-10.10 (2H, br s), 10.50 (1H, s).」
段落【0152】?【0250】の実施例2?5についても、詳細に、製造方法と同定データが記載されている。実施例2?5の、冒頭部分と、段落【0271】?【0278】において生理活性データが示される化合物を摘記すると、次のとおりである。
「【0152】実施例2
この実施例は、既知のオーロラキナーゼA(「オーロラA」)阻害剤であるN-[4-(7-メトキシ-6-メトキシ-キノリン-4-イルオキシ)-フェニル]-ベンズアミド(化合物(11))の、その結合形式を妨げない点でのアミノ酸エステルモチーフの連結による修飾について記載する。
【0153】化合物(11):N-[4-(7-メトキシ-6-メトキシ-キノリン-4-イルオキシ)-フェニル]-ベンズアミド


・・・・・・・・・・・・・・・
【0163】段階5-((S)-2-アミノ-4-[4-(4-ベンゾイルアミノ-フェノキシ)-6-メトキシ-キノリン-7-イルオキシ]-酪酸 シクロペンチルエステル)(12)の合成

・・・・・・・・・・・・・・・
【0167】段階7-(S)-4-[4-(4-ベンゾイルアミノ-フェノキシ)-6-メトキシ-キノリン-7-イルオキシ]-2-tert-ブチルカルボニルアミノ-酪酸(13)の合成

・・・・・・・・・・・・・・・
【0172】段階5--(S)-2-アミノ-4-[4-(4-ベンゾイルアミノ-フェノキシ)-6-メトキシ-キノリン-7-イルオキシ]-酪酸 tert-ブチルエステル(14)の合成

・・・・・・・・・・・・・・・
【0175】段階1-(S)-4-[4-(4-ベンゾイルアミノ-フェノキシ)-6-メトキシ-キノリン-7-イルオキシ]-2-シクロヘキシルアミノ-酪酸 シクロペンチルエステル(25)の合成


「【0177】実施例3
この実施例は、既知のp38キナーゼ阻害剤である6-アミノ-5-(2,4-ジフルオロ-ベンゾイル)-1-(2,6-ジフルオロ-フェニル)-1H-ピリジン-2-オン(化合物3258)の、その結合形式を妨げない点でのアミノ酸エステルモチーフの連結による修飾について記載する。
化合物(15):6-アミノ-5-(2,4-ジフルオロ-ベンゾイル)-1-(2,6-ジフルオロ-フェニル)-1H-ピリジン-2-オン


・・・・・・・・・・・・・・・
【0181】段階2-シクロペンチル (S)-2-アミノ-4-[4-[6-アミノ-5-(2,4-ジフルオロベンゾイル)-2-オキソ-2H-ピリジン-1-イル]-3,5-ジフルオロフェノキシ]ブタノエート トリフルオロ酢酸塩(16)の合成

・・・・・・・・・・・・・・・
【0183】段階3-(S)-2-アミノ-4-[4-[6-アミノ-5-(2,4-ジフルオロベンゾイル)-2-オキソ-2H-ピリジン-1-イル]-3,5-ジフルオロフェノキシ]ブタン酸(17)の合成

・・・・・・・・・・・・・・・
【0185】化合物(18)は、以下のスキームに記載する方法により製造した。
・・・・・・・・・・・・・・・
【0188】段階2-(S)-2-アミノ-4-[4-[6-アミノ-5-(2,4-ジフルオロ-ベンゾイル)-2-オキソ-2H-ピリジン-1-イル]-3,5-ジフルオロ-フェノキシ]-酪酸 tert-ブチルエステルの合成


「【0190】実施例4
この実施例は、既知のDHFR阻害剤である5-メチル-6-((3,4,5-トリメトキシフェニルアミノ)メチル)ピリド[2,3-d]ピリミジン-2,4-ジアミン(化合物(2 G=N)の、その結合形式を妨げない点でのアミノ酸エステルモチーフの連結による修飾について記載する。
化合物(2 G=N):5-メチル-6-((3,4,5-トリメトキシフェニルアミノ)メチル)ピリド[2,3-d]ピリミジン-2,4-ジアミン

・・・・・・・・・・・・・・・
【0197】段階3-(S)-2-[4-[(2,4-ジアミノ-5-メチル-ピリド[2,3-d]ピリミジン-6-イルメチル)-アミノ]-ベンゾイルアミノ]-4-メチル-ペンタン酸 シクロペンチル エステル(6)の合成

・・・・・・・・・・・・・・・
【0199】段階4-(S)-2-(4-((2,4-ジアミノ-5-メチルピリド[2,3-d]ピリミジン-6-イル)メチルアミノ)ベンズアミド)-4-メチルペンタン酸(19)の合成

・・・・・・・・・・・・・・・
【0206】段階3-(S)-2-[4-[(2,4-ジアミノ-5-メチル-ピリド[2,3-d]ピリミジン-6-イルメチル)-アミノ]-ベンジルアミノ]-4-メチル-ペンタン酸 シクロペンチル エステル(5)の合成


「【0228】実施例5
この実施例は、既知のPI3キナーゼ阻害剤であるN-[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2-イル]-アセトアミド(化合物(20))の、その結合形式を妨げない点でのアミノ酸エステルモチーフの連結による修飾について記載する。
化合物(20):N-[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2-イル]-アセトアミド


【0240】段階6-(S)-2-アミノ-4-[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2-イルカルバモイル]-酪酸 シクロペンチルエステル(21)の合成

・・・・・・・・・・・・・・・
【0244】段階8-(S)-2-アミノ-4-[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2-イルカルバモイル]-酪酸 (22)の合成


・・・・・・・・・・・・・・・
【0249】段階6-(S)-2-アミノ-4-[5-(4-クロロ-3-メタンスルホニル-フェニル)-4-メチル-チアゾール-2-イルカルバモイル]-酪酸 tert-ブチル エステル(23)の合成



カ 生理活性データについての記載
生理活性データについては、本願明細書の段落【0271】?【0278】に、以下のように記載されている。
「【0271】生物学的結果
上記の実施例1?5に記載する化合物を、上記の酵素阻害、細胞増殖及びエステル開裂アッセイにおいて調べ、結果を表3及び4に示す。
【0272】効力
【表3】

【0273】上記の結果は、次のことを示す。
(i) アミノ酸エステル修飾された化合物(化合物8及び10)、及びエステルモチーフの開裂により得ることができる酸(化合物9)は、酵素アッセイにおいて、未修飾のHDAC阻害剤(SAHA-化合物7)についての値に匹敵するIC50 を有し、このことは、アルファアミノ酸エステルモチーフが、SAHAに、その結合形式を妨げない点で連結することを示す。
(ii) エステル(化合物8及び10)及び酸(化合物9)は未修飾の阻害剤(SAHA-化合物7)に匹敵する活性を有するが、未修飾の阻害剤(化合物7)に比べてエステラーゼ開裂可能なシクロペンチルエステル(化合物8)の細胞での効力が著しく増加したが、エステラーゼ安定t-ブチルエステル(化合物10)の場合は細胞での効力が実質的に減少し、このことは、後者が細胞内に細胞での効力を増加させる酸を蓄積しないことを示す。
(iii) 細胞増殖アッセイにおいて化合物8の活性が、未修飾の対応物である化合物7(又は加水分解できないエステル誘導体である化合物10)よりも大きいことは、エステルが細胞内で親の酸である化合物9に加水分解され、そこでこれが蓄積して、より大きい阻害効果を奏することを示す。
【0274】【表4】

【0275】上記の結果は、次のことを示す。
(i) 化合物12におけるエステルモチーフの開裂により得ることができるアルファアミノ酸修飾された阻害剤である化合物13は、酵素アッセイにおいて、未修飾のオーロラキナーゼ阻害剤(化合物11)のものに匹敵するIC50 値を有し、このことは、アルファアミノ酸エステルモチーフを、オーロラキナーゼAの結合を妨げない点で連結させることができることを示す。
(ii) 酸(化合物13)は未修飾の阻害剤(化合物11)に匹敵する酵素活性を有し、エステル(化合物12)はより弱い阻害剤であるが、化合物12の細胞での効力は、未修飾の阻害剤(化合物11)に比べて著しく増加している。より開裂されにくいt-ブチルエステル(化合物14)は、開裂可能なシクロペンチルエステル(化合物12)に匹敵する酵素活性を有するが、細胞アッセイにおいては20倍程度少ない活性である。
(iii) 細胞増殖アッセイにおいて化合物12の活性が、未修飾の対応物(化合物11)及びより開裂されにくいt-ブチルエステル(化合物14)よりも大きいことは、シクロペンチルエステルが細胞内で親の酸に加水分解され、そこでこれが蓄積してより大きい阻害効果を奏することを示す。
【0276】【表5】

【0277】上記の結果は、次のことを示す。
(i) アルファアミノ酸修飾された阻害剤である化合物16、及び化合物16のエステルモチーフの開裂により得ることができる酸化合物17は、酵素アッセイにおいて、未修飾のP38 MAPキナーゼ阻害剤(化合物15)についての値に匹敵するIC50 値を有し、このことは、アルファアミノ酸エステルモチーフを、P38 MAPキナーゼへの結合を妨げない点で連結させることができることを示す。
(ii) 酸である化合物17は、酵素に対して、未修飾の阻害剤(化合物15)及びt-ブチルエステル(化合物18)に匹敵する活性を有する。しかし、シクロペンチルエステル(化合物16)が全血に存在する単球細胞の内部でTNF産生を阻害する能力は、未修飾の阻害剤(化合物15)及びより開裂されにくいt-ブチルエステル(化合物18)に比べて著しく増加する。
(iii) 全血アッセイにおいて化合物16の活性が、未修飾の対応物である化合物15及びより開裂されにくいt-ブチルエステル化合物18よりも大きいことは、シクロペンチルエステルが細胞内で親の酸に加水分解され、そこでこれが蓄積して、より大きい阻害効果を奏することを示す。
【0278】【表6】

【0279】上記の結果は、次のことを示す。
(i) 化合物6におけるエステルモチーフの開裂により得ることができるアルファアミノ酸修飾された阻害剤である化合物19は、酵素アッセイにおいて、未修飾のDHFR阻害剤(化合物2(G=N))のものに匹敵するIC50 値を有し、このことは、アルファアミノ酸エステルモチーフを、DHFRへの結合を妨げない点で連結させることができることを示す。
(ii) 酸(化合物19)は、未修飾の阻害剤(化合物2(G=N))に匹敵する酵素阻害活性を有するが、エステル(化合物6)は、未修飾の阻害剤(化合物2(G=N))に比べて、細胞増殖の阻害において著しくより効力が高い。
(iii) 細胞増殖アッセイにおいて化合物6の活性が、未修飾の対応物(化合物2(G=N))よりも大きいことは、シクロペンチルエステルが細胞内で親の酸に加水分解され、そこでこれが蓄積してより大きい阻害効果を奏することを示す。
【0280】【表7】

【0281】上記の結果は、次のことを示す。
(i) アルファアミノ酸エステル修飾された阻害剤である化合物21、及び化合物21のエステルモチーフの開裂により得ることができる酸である化合物22は、酵素アッセイにおいて、未修飾のPI 3-キナーゼ阻害剤(化合物20)についての値の10の係数以内のIC50 値を有し、このことは、アルファアミノ酸エステルモチーフを、PI 3-キナーゼへの適度な結合を維持する点で連結させることができることを示す。
(ii) 酸である化合物22は、未修飾の阻害剤(化合物20)及びエステル(化合物21)に匹敵する活性を有するが、エステルが全血に存在する単球細胞中でTNF産生を阻害する効力は、未修飾の阻害剤(化合物20)及びより開裂されにくいt-ブチルエステル(化合物23)に比べて著しく増加する。
(iii) 全血アッセイにおいて化合物21の活性が、未修飾の対応物である化合物20及びより開裂されにくいt-ブチルエステル化合物23よりも大きいことは、シクロペンチルエステルが細胞内で親の酸に加水分解され、そこでこれが蓄積して、より大きい阻害効果を奏することを示す。
【0282】選択性
【表8】

【0283】上記の結果は、次のことを示す。
i) 未修飾の化合物(化合物7)は、単球細胞系統と非単球細胞系統との間の選択性を示さないが、このことは、化合物24のように適切なエステルモチーフを連結させることにより達成できる。
ii) この選択性は、単球細胞系統によるエステルの酸への開裂の改善と関連する。
iii) 改善された細胞での活性は、酸が産生される細胞系統でのみ見られ、このことは、細胞での効力の改善が、酸の蓄積によることを示す。
【0284】【表9】

(審決注:表中に「化合物(10)」と記載されているが、「化合物(10)」は実施例1の修飾された化合物(t-ブチルエステル)である(段落【0272】参照)から、「化合物(11)」の誤記と認める。)
【0285】上記の結果は、次のことを示す。
i) 未修飾の化合物(化合物(10)は、単球細胞系統と非単球細胞系統との間の選択性を示さないが、このことは、化合物25のように適切なエステルモチーフを連結させることにより達成できる。
ii) この選択性は、単球細胞系統によるエステルの酸への開裂の改善と関連する。
iii) 改善された細胞での活性は、酸が産生される細胞系統でのみ見られ、このことは、細胞での効力の改善が、酸の蓄積によることを示す。
【0286】【表10】

【0287】上記の結果は、次のことを示す。
(i) 未修飾の化合物(化合物2G=N)は、単球細胞系統と非単球細胞系統との間の選択性を示さないが、このことは、化合物5のように適切なエステルモチーフを連結させることにより達成できる。
(ii) この選択性は、単球細胞系統によるエステルの酸への開裂の改善と関連する。
(iii) 改善された細胞での活性は、酸が産生される細胞系統でのみ見られ、このことは、細胞での効力の改善が、酸の蓄積によることを示す。」

キ 化学物質発明について、化学物質は、医薬用途の化合物を含め、一般に、物質の化学構造だけからその性質を予測することは困難であり、その化合物の想定される用途において期待される性質を有していることを、明細書に特定の試験のデータ又はそれと同視できる程度の記載をして、化合物としての有用性を裏付ける必要があるところ、本願明細書に記載されている有用性を裏付けるデータは、上記カに示した、本願明細書の「効力」の項の5つに分割された表3(【表3】?【表7】)及び「選択性」の項の3つに分割された表4(【表8】?【表10】)に記載された、実施例1?5に記載された幾つかの化合物だけである。
そうすると、発明の詳細な説明に、共有結合型複合体について、記載されているといえるのは、上記表3及び表4に記載された実施例1?5に記載された化合物のうち、各実施例の冒頭に記載された未修飾のモジュレーター化合物である化合物(7)、化合物(11)、化合物(15)、化合物(2 G=N)及び化合物(20)を除き、並びに各実施例に記載された共有結合型複合体のアルファアミノ酸エステル部分が開裂されて(加水分解されて)対応する酸になった化合物である化合物(9)、化合物(13)、化合物(17)、化合物(19)及び化合物(22)を除いた、実施例1で製造された
「化合物(8)、化合物(10)又は化合物(24)」
の発明、実施例2で製造された
「化合物(12)、化合物(14)又は化合物(25)」
の発明、実施例3で製造された
「化合物(16)又は化合物(18)」
の発明、実施例4で製造された
「化合物(6)又は化合物(5)」
の発明、実施例5で製造された
「化合物(21)又は化合物(23)」
の発明であるといえる。

(4)発明の詳細な説明に記載された発明と特許請求の範囲に記載された発明との対比・判断

ア 請求項1又は2に記載された共有結合型複合体は、アルファアミノ酸エステルとモジュレーターとの複合が
「式(IA)の基:


(式中、
R_(1) は、式-(C=O)OR_(9) のエステル基(ここで、R_(9) は、(i)R_(7)R_(8)CH-(ここで、R_(7) は、(C_(1)?C_(3))アルキル-(Z^(1))_(a)-(C_(1)?C_(3))アルキル-又は(C_(2)?C_(3))アルケニル-(Z^(1))_(a)-(C_(1)?C_(3))アルキル-(ここで、aは0又は1であり、Z^(1) は、-O-、-S-又は-NH-である)であり、R_(8) は、水素又は(C_(1)?C_(3))アルキル-であるか、或いはR_(7) 及びR_(8) は、それらが連結している炭素と一緒に、C_(3)?C_(7) シクロアルキル環を形成する))であり、
R_(2) は、ベンジル、フェニル、シクロヘキシルメチル、ピリジン-3-イルメチル、tert-ブトキシメチル、イソ-ブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、1-ベンジルチオ-1-メチルエチル、1-メチルチオ-1-メチルエチル、1-メルカプト-1-メチルエチル、又はフェニルエチルであり、
Yは、結合手であり、
Lは、式-(Alk^(1))_(m)(Alk^(2))_(p)-の二価の基であり、ここで、
(i)mが1であり、pが0若しくは1であるか、又は(ii)pが1であり、mが0若しくは1であり、
Alk^(1) 及びAlk^(2) は独立して、二価のC_(3)?C_(7) シクロアルキル基、又は直鎖若しくは分岐鎖のC_(1)?C_(6) アルキレン、C_(2)?C_(6) アルケニレン、若しくはC_(2)?C_(6) アルキニレン基であって、エーテル(-O-)、チオエーテル(-S-)又はアミノ(-NR^(A)-)結合(ここで、R^(A) は、水素又はC_(1)?C_(3) アルキルである)を任意に含むか又はこれらの基が末端をなしていてもよい基を表し、
Xは、結合手、又は-C(=O)-であり、
zは、0又は1である)
で表されるように複合している」
と特定されたものである。
上記(3)キで検討した発明の詳細な説明に記載された発明のうちで、化合物の複合の様式が、請求項1及び2の「式(IA)」の特定事項を満たすものは、実施例1の化合物(8)、化合物(24)、実施例4の化合物(5)だけである(実施例2、3、5の化合物は、何れも化合物の複合の様式が上記(3)イで示した明細書の段落【0020】に示された式(IB)であり、アルファアミノ酸エステルのいわゆる側鎖からモジュレーターが複合された構造であり上記特定事項の「式(IA)」を満たさない。実施例1の化合物(10)はt-ブチルエステルなので上記特定事項の「R_(9)」を満たさない。実施例4の化合物(6)はアルファアミノ酸エステルのアミノ基からモジュレーターが複合された構造であるが上記特定事項の「L」を有していない。)。

イ 上記(3)キで検討した発明の詳細な説明に記載された発明のうちで、請求項1の「アルファアミノ酸エステルが、阻害剤と標的酵素又は受容体との間の結合界面から離れた位置で前記モジュレーターに複合しており」の要件を満たすと推認できるのは、上記(3)エに示した本願明細書の段落【0061】?【0062】の模式図、段落【0076】及び図2の記載に従うと、実施例1?4の化合物である(実施例5の化合物は実施例5の記載と段落【0061】の記載が整合しない。)。

ウ 上記(3)キで検討した発明の詳細な説明に記載された発明のうちで、請求項2の「アルファアミノ酸エステルが、複合したモジュレーターと対応する酸とが標的酵素又は受容体に結合する形式が複合していないモジュレーターのものと同じであるように前記モジュレーターに複合しており」の要件は、「複合したモジュレーター」、「対応する酸」、「複合していないモジュレーター」の三者が、標的酵素又は受容体に結合する形式が同じ、ということである。上記(3)ウに示した本願明細書の段落【0011】には、「一般的に、エステラーゼにより加水分解されたカルボン酸は、インビトロの酵素結合アッセイ又は受容体結合アッセイにおいて、該アッセイにおける親のモジュレーターの効力の1/10以上の効力を有することが好ましく、エステルは、細胞での活性のアッセイにおいて、同じアッセイにおける親のモジュレーターのものと少なくとも同程度に高い効力を有することが好ましい」と記載されている。
上記(3)カに示した本願明細書の段落【0271】?【0278】の表3及び表4で生理活性データを検討すると、上記アの「式(IA)」の要件を満たす化合物では、
実施例1の化合物(8)は、エステルの細胞増殖阻害活性(以下「細胞での活性」という。)は高く(IC_(50) で未修飾モジュレーター化合物400(単位はnM、以下も同じ)に対して50)、エステルのインビトロの酵素阻害活性(以下「インビトロの効力」という。)は同程度で(IC_(50) で未修飾モジュレーター化合物100に対して100)、加水分解されたカルボン酸(化合物(9)である。)のインビトロの効力は高い(IC_(50) で未修飾モジュレーター化合物100に対して70)。
実施例1の化合物(24)は、エステルの細胞での活性は高く(同じく400に対して60)、エステルのインビトロの効力は不明で(データなし)、加水分解されたカルボン酸(化合物(9)である。)のインビトロの効力は高い(同じく100に対して70)。
実施例4の化合物(5)は、エステルの細胞での活性は高く(同じく2200に対して310)、エステルのインビトロの効力は不明で(データなし)、加水分解されたカルボン酸(化合物(19)である。)のインビトロの効力は同程度である(同じく10に対して10)。
なお、上記アの「式(IA)」の特定事項を満たさない、その余の化合物は、
実施例1の化合物(10)は、エステルの細胞での活性は低く(同じく400に対して1300)、エステルのインビトロの効力はやや低く(同じく100に対して130)、加水分解されたカルボン酸(化合物(9)である。)のインビトロの効力は高い(同じく100に対して70)。
実施例2の化合物(12)、化合物(14)、化合物(25)は、エステルの細胞での活性は前二者は高く三番目は低く(同じく430に対して順に3.5、75、1900)、エステルのインビトロの効力は前二者は劣り三番目は不明で(同じく350に対して順に2300、3000、データなし)、加水分解されたカルボン酸(化合物(13)である。)のインビトロの効力はやや劣る(同じく350に対して500)。
実施例3の化合物(16)及び化合物(18)は、エステルの血中TNFα産生阻害活性(以下「血液での活性」という。)は前者は高く後者は劣り(同じく300に対して20及び750)、エステルのインビトロの効力は高く(同じく50に対して25及び40)、加水分解されたカルボン酸(化合物(17)である。)のインビトロの効力は高い(同じく50に対して30)。
実施例4の化合物(6)は、エステルの細胞での活性は優れ(同じく2200に対して23)、エステルのインビトロの効力は低く(同じく10に対して1700)、加水分解されたカルボン酸(化合物(19)である。)のインビトロの効力は同程度である(同じく10に対して10)。
実施例5の化合物(21)、化合物(23)は、エステルの血液での活性は高く(同じく8500に対して400及び5200)、エステルのインビトロの効力は低く(同じく500に対して2700及び7100)、加水分解されたカルボン酸(化合物(22)である。)のインビトロの効力は劣る(同じく500に対して3600)。

エ 上記(3)及び(4)ア?ウによれば、発明の詳細な説明に記載された発明であって、請求項1又は2に係る発明を具体化したものに相当するといえる「化合物(8)」、「化合物(24)」及び「化合物(5)」の発明については、上記(1)に示した本願発明1及び2の課題を解決できるものであるといえるが、請求項1及び2には、これを遙かに超える範囲の化合物が記載されている。
請求項1に係る発明については、標的細胞内酵素又は受容体は特定されず、その標的の活性のモジュレーターも特定されないところ、そのような任意のモジュレーターについて、アルファアミノ酸エステルが式(IA)の様式で複合し、かつ請求項1の「アルファアミノ酸エステルが、阻害剤と標的酵素又は受容体との間の結合界面から離れた位置で前記モジュレーターに複合しており」の要件を満たすものには、上記の「化合物(8)」、「化合物(24)」及び「化合物(5)」以外に、どのようなものがあるのか不明であるし、その要件を満たせば、その活性が増加又は延長されたアルファアミノ酸エステルとモジュレーターとの共有結合型複合体を提供するという本願発明1の課題を解決できるものであるとも、いえない。例えば式(IA)のR_(9) は-CH(CH_(3))_(2) や-CH(CH_(3))(C_(2)H_(5)) であることができるが、実施例1の化合物(10)はt-ブチルエステルであってR_(9) が-C(CH_(3))_(3) である点以外は請求項1の発明特定事項を満足する化合物であるのにエステルの細胞での活性が低く、活性が増加又は延長された共有結合型複合体を提供するという本願発明1の課題を解決できないものであるところ、このR_(9) の-C(CH_(3))_(3) を-CH(CH_(3))_(2) や-CH(CH_(3))(C_(2)H_(5)) に変えた化合物が本願発明1の課題を解決できることは、発明の詳細な説明に記載されていないし、解決できると考えることができる技術常識も存在しない。また、化合物(8)と化合物(10)は、共有結合型複合体の化学構造の大部分が同じで、そのエステル部分がシクロペンチルエステルであるか、t-ブチルエステルであるかの違いしかない化合物であるのに、細胞での活性が大きく異なる。
そうすると、複合されるモジュレーターについて何ら特定されておらず、式(IA)自体も膨大な選択肢を含んでおり、これら全ての場合に本願発明1の課題が解決できるとはいえない。また、結晶構造データがある細胞内酵素又は受容体標的の名称と出典と標的疾患を記載した表1を提示し、概念的に工程1?工程4を示して工程1で「モジュレーター分子上の、モジュレーターと標的酵素又は受容体との間の結合界面から離れた位置を決定する」と記載しただけでは、請求項1に係る発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。
請求項2に係る発明についても、同様に、複合されるモジュレーターについて何ら特定されておらず、式(IA)自体も膨大な選択肢を含んでおり、請求項2の「アルファアミノ酸エステルが、複合したモジュレーターと対応する酸とが標的酵素又は受容体に結合する形式が複合していないモジュレーターのものと同じであるように前記モジュレーターに複合しており」の要件を満たすものには、上記の「化合物(8)」、「化合物(24)」及び「化合物(5)」以外に、どのようなものがあるのか、単に結晶構造データがある細胞内酵素又は受容体標的の名称と出典と標的疾患を記載した表1を提示し、概念的に工程1?工程4を示しただけでは、何ら明らかでないから、請求項2に係る発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえない。

(5)したがって、この出願は、特許請求の範囲の請求項1及び2の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。

2 理由7について

(1)発明の詳細な説明の記載について
上記1(3)に示したとおりである。

(2)検討
上記1において理由8について述べたとおり、発明の詳細な説明には、「化合物(8)」、「化合物(24)」、「化合物(5)」の発明が記載されているということができるとしても、請求項1及び2には、それを遙かに超える範囲の化合物が記載されている。
そのような多くの化合物について、上記1に示したとおり、発明の詳細な説明に記載された発明であるとはいえず、そのような発明の詳細な説明に記載されていない化合物については、請求項1の「アルファアミノ酸エステルが、阻害剤と標的酵素又は受容体との間の結合界面から離れた位置で前記モジュレーターに複合しており」の要件、又は請求項2の「アルファアミノ酸エステルが、複合したモジュレーターと対応する酸とが標的酵素又は受容体に結合する形式が複合していないモジュレーターのものと同じであるように前記モジュレーターに複合しており」の要件を、満たすように、請求項1又は2に係る発明の化合物を、製造し、使用するためには、実際に個々のモジュレーターについて、試行錯誤を繰り返して上記「結合界面から離れた位置」を割り出したり、合成した化合物の性質を調べて「標的酵素又は受容体に結合する形式」が「同じ」であるかを調べたりする必要がある。発明の詳細な説明の記載は、結晶構造データがある細胞内酵素又は受容体標的の名称と出典と標的疾患を記載した表1を提示し、概念的に工程1?工程4を示しているが、それでは不十分であって、当業者に過度の負担を強いるものであるから、発明の詳細な説明は、当業者が請求項1又は2に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるとはいえない。

(3)したがって、この出願は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。

第5 むすび
したがって、この出願は、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしておらず、また、発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に適合するものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、その余について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。
よって結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-12-15 
結審通知日 2014-12-16 
審決日 2015-01-05 
出願番号 特願2008-509506(P2008-509506)
審決分類 P 1 8・ 537- Z (C07C)
P 1 8・ 536- Z (C07C)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 上村 直子  
特許庁審判長 井上 雅博
特許庁審判官 柴田 昌弘
中田 とし子
発明の名称 カルボキシルエステラーゼにより加水分解可能なアルファアミノ酸エステル-薬剤複合体  
代理人 甲斐 伸二  
代理人 冨田 雅己  
代理人 野河 信太郎  
代理人 金子 裕輔  
代理人 稲本 潔  

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