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審決分類 審判 全部無効 1項2号公然実施  A47G
審判 全部無効 2項進歩性  A47G
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A47G
管理番号 1301293
審判番号 無効2013-800085  
総通号数 187 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-07-31 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-05-15 
確定日 2015-05-25 
事件の表示 上記当事者間の特許第4487279号「絵文字形成皿」の特許無効審判事件についてされた平成25年12月 2日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成26年(行ケ)第10012号平成26年 9月24日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許4487279号に係る出願は、平成15年4月7日に特許出願され、平成22年4月9日にその特許の設定登録がなされたものである。
これに対して、平成25年5月15日に、本件特許の請求項1及び請求項2に係る発明の特許に対して、特許の無効の審判が請求され、平成25年12月2日、上記請求は成り立たないとする審決がなされたところ、知的財産高等裁判所は、平成26年9月24日に審決取消の判決(平成26年(行ケ)10012号)を言渡し、同判決は確定した。

第2 本件特許発明
本件特許第4487279号の請求項1及び請求項2に係る発明(以下「本件特許発明1」、「本件特許発明2」という。)は、特許請求の範囲の請求項1及び請求項2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
食事用の皿であって、皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成することを特徴とする絵文字形成皿。
【請求項2】
前記凹凸部以外の皿上面の前記凸部と同じ高さの部位に丘陵帯を設けることを特徴とする請求項1に記載の絵文字形成皿。

第3 請求人の主張と証拠方法
1 請求人の主張
請求人は,特許第4487279号を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求め、無効審判請求書、口頭審理(口頭審理陳述要領書及び第1回口頭審理調書を含む)において、次に示す無効理由1ないし3を主張するとともに、証拠方法として、下記2に示した証拠を提出している。

(1)無効理由1
本件特許発明1及び本件特許発明2は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証から甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1及び本件特許発明2についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(2)無効理由2
本件特許発明1及び本件特許発明2は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第8号証から甲第17号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1及び本件特許発明2についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

(3)無効理由3
本件特許発明1及び本件特許発明2は、甲第8号証から甲第17号証により、本件特許出願前に公然実施された発明であるから、特許法第29条第1項第2号に該当し特許を受けることができないものであるから、本件特許発明1及び本件特許発明2についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

2 証拠方法
甲第1号証:九谷彩磁器、1994年発行、表紙,第29,30,21,22頁の写し
甲第2号証:総合カタログNo.7 KUTANICOLLECTION、1994年発行、表紙,第94,95頁の写し
甲第3号証:請求人会社代表者の稲垣揚平が、平成25年3月3日に甲第1号証、甲第2号証の皿A?皿Cについて液体が変化する様子を実験的に証明するために作成したと主張する文書。
甲第4号証:現代日本の陶芸第十二巻 用のデザイン、昭和58年7月15日発行、表紙,第29,111頁,奥付の写し
甲第5号証:備前焼大鑑 古備前から現代まで、昭和55年9月25日発行、表紙,作品126,138,139の掲載頁,奥付の写し
甲第6号証:中国の陶磁 第三巻 三彩、1995年9月19日発行、表紙,作品24,25,87,88の掲載頁,奥付の写し
甲第7号証:現代日本の陶芸第四巻 現代陶芸の旗手、昭和57年11月10日発行、表紙,第78頁,奥付の写し
甲第8号証:鍋島、2005年2月19日発行、表紙,第166,167,172,173,174,175頁,奥付の写し
甲第9号証:歴代柿右衛門、2002年12月15日発行、表紙,第17頁,奥付の写し
甲第10号証:中国の陶磁 第十巻 明末清初の民窯、1997年9月18日発行、表紙,作品49?51の掲載頁の写し
甲第11号証:九谷名品図録、平成12年3月31日発行、表紙,第71頁,奥付の写し
甲第12号証:将軍と鍋島・柿右衛門、平成19年9月15日発行、表紙,第116,117頁,奥付の写し
甲第13号証:中国の陶磁 第十一巻 清の官窯、1996年11月25日発行、表紙,作品53,54,55,56の掲載頁,奥付の写し
甲第14号証:中国の陶磁 第五巻 白磁、1998年9月17日発行、表紙,作品55,56の掲載頁,奥付の写し
甲第15号証:中国の陶磁 第十二巻 日本出土の中国陶磁、1995年9月19日発行、表紙,作品第53,54の掲載頁,奥付の写し
甲第16号証:耀州窯瓷、2004年3月5日発行、表紙,第18,19,32,33,34,35頁,奥付の写し
甲第17号証:現代日本の陶芸第七巻 伝統と創造の意匠I、昭和59年3月15日発行、表紙,第111頁,奥付の写し
甲第18号証:請求人会社代表者の稲垣揚平が平成25年10月頃に、甲第5号証の皿Eに、液体を注いだ状態を想像して作成したもの。
甲第19号証:請求人会社代表者の稲垣揚平が、平成25年10月頃に甲第10号証の作品51に、液体を注いだ状態を想像して作成したもの。
甲第20号証:請求人会社代表者の稲垣揚平が、平成24年7月頃に「ひらくる桜小皿」に実際に液体を注いで作成したもの。
甲第21号証:請求人会社代表者の稲垣揚平が、平成25年10月頃に甲第11号証の作品69に液体を注いだ状態を想像して作成したもの。
甲第22号証:請求人会社代表者の稲垣揚平が、平成25年10月頃に甲第10号証の作品49に液体を注いだ状態を想像して作成したもの。
甲第23号証:請求人会社代表者の稲垣揚平が、平成25年10月頃に甲第8号証の作品202に液体を注いだ状態を想像して作成したもの。

第4 被請求人の主張の概要
被請求人は、請求人の上記主張に対して、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として以下の乙第1号証乃至乙第11号証を提出するとともに、答弁書、口頭審理(口頭審理陳述要領書及び第1回口頭審理調書を含む)における主張を整理すると、請求人の主張する前記無効理由に対して概略以下のとおり反論している。

1 被請求人の反論
(1)無効理由1
本件特許発明1及び本件特許発明2は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第1号証から甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明することができたものではない。

(2)無効理由2
本件特許発明1及び本件特許発明2は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第8号証から甲第17号証に記載された発明ではない。

(3)無効理由3
本件特許発明1及び本件特許発明2は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第8号証から甲第17号証により、公然実施された発明ではない。

2 証拠方法
乙第1号証:醤油絵皿カタログ(JAPANブランド2010以降の参考チラシ及びその訳文)
乙第2号証:醤油絵皿の取り組み(瀬戸地域ブランド戦略セミナー資料)
乙第3号証:提訴通告書(特許権侵害の警告としての背景説明資料)
乙第4号証:特許権侵害調査(相似ではない変形の証明:2月21日)
乙第5号証:模倣品の変移実証結果(8段階注ぎ足し:4月5日)
乙第6号証:東京発明展2006奨励賞受賞(変身醤油皿の特許関係者評価)
乙第7号証:パテントSフェア2007(?NHK放映?新聞評価)
乙第8号証:中小企業総合展2008(醤油アートを民放放映)
乙第9号証:トヨタ・あなたが選ぶUDグッズ3位(アンケート評価)
乙第10号証:JAPANブランド・ローマ(テストマーケティング評価)
乙第11号証:最近の活動(特許技術による社会への参画・貢献)

第5 当審の判断
1 無効理由1について
(1)本件特許発明1について
ア 引用発明
(ア) 甲第1号証の第30頁右下には、5客の扇形の皿の写真が掲載されるとともに、「窯1-255 5,7号向付揃 染付つる草(径17cm・木箱入)」と記載されている(請求人のいう「皿A」に対応するもの。)。当該写真の皿は、外縁は扇形状であり、底面を有し、その底面外縁からせり上がる側面を有していることが看取できる。また、「向付揃」との記載から、食事用の皿であることは明らかである。
してみると、甲第1号証には、「食事用の皿であって、底面と底面外縁からせり上がる側面を有する皿」(以下、「引用発明」という。)が記載されている。

(イ) 請求人は甲第3号証として、請求人会社代表者 稲垣揚平が、平成25年3月3日に甲第1号証及び甲第2号証の「皿A」ないし「皿C」について、液体を注ぎ、滞留した液体調味料表面の形状が変化する様子を実験的に証明するために作成したと主張する文書を提出し、この甲第3号証を根拠に甲第1号証の「皿A」、「皿B」、及び甲第2号証の「皿C」の構成を認定しようとしている(審判請求書第4頁23行?第5頁7行、第1回口頭審理調書)。
(審決注:「皿A」は、上記(ア)の「皿A」をいい、「皿B」は、甲第1号証の第21頁右上に掲載された写真中の、(1)から(6)(括弧数字は、丸付き数字)の番号の付された複数種の食器のうち(6)の番号が付された食器であって、「窯1-158 3号小鉢揃 染付花紋(径9cm・木箱入)」との説明が付された食器をいい、「皿C」は、甲第2号証の第95頁中段右に掲載された、正方形状の箱内に4つの皿が収納された容器の写真中の右下部の黄色の皿であって、「No7-549 松花堂揃・雅(箱付き24cm・化粧箱入)」との説明が付された皿をいう。)

(ウ) しかしながら、甲第1号証及び甲第2号証には、「皿A」ないし「皿C」が撮影された写真が各1枚ずつ掲載されるだけであり、その写真についても、甲1号証には、「皿A」について、「窯1-255 5.7号 向付揃 染付つる草(径17cm・木箱入)」との記載と写真、「皿B」について、「窯1-158 3号小鉢 揃 染付花紋(径9cm・木箱入)」との記載と写真、甲2号証には、「皿C」について、「No7-549 松花堂揃・雅(箱付き24cm・化粧箱入)」との記載と写真が掲載されるが、甲第3号証には各皿の上面から撮影した写真が掲載されているだけであり、これらから、甲第1号証及び甲第2号証の「皿A」ないし「皿C」と甲第3号証の「皿A」ないし「皿C」とが同一のものであるとは直ちに認定できない。また、他に甲第1号証及び甲第2号証の「皿A」ないし「皿C」と甲第3号証の「皿A」ないし「皿C」とが同一のものであるとする証拠もない。
仮に、甲第1号証及び甲第2号証の「皿A」ないし「皿C」と甲第3号証の「皿A」ないし「皿C」が同一の皿であったとしても、甲第1号証には、「皿A」について、「窯1-255 5.7号 向付揃 染付つる草(径17cm・木箱入)」との記載と写真、「皿B」について、「窯1-158 3号小鉢 揃 染付花紋(径9cm・木箱入)」との記載と写真、甲2号証には、「皿C」について、「No7-549 松花堂 揃・雅(箱付き24cm・化粧箱入)」と記載とされているだけであるから、甲第1号証及び甲第2号証に接した当業者が、甲第3号証の実験及び実験結果を想起して請求人が審判請求書第4頁23行?第5頁7行で主張するような発明が記載されていると理解することは後述(イ(ア)、(ウ)、(エ))するように困難といわざるを得ない。よって請求人の主張は理由がない。
したがって、甲第1号証から認定できる「皿A」の構成は、せいぜい上記「引用発明」の構成にすぎない。

イ 対比・判断
(ア) そこで、本件特許発明1と引用発明とを対比する。
本件特許発明1の「皿の上面」は、本件特許発明の明細書の「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成した」(段落【0004】)、「・・液体調味料が皿に注がれると共に凹部に流動することにより、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成することが出来る。」(段落【0005】)、「請求項2記載の発明に係る絵文字形成皿は、前記凹凸部以外の皿上面の前記凸部と同じ高さの部位に丘陵帯を設けたものである。」(段落【0006】)「図1に示すように、(実施の形態)の皿は、皿1に注いだ液体調味料6の流動と停滞により、液体調味料6または皿1の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿1の上面に凹凸部2を設けて構成する。」(段落【0013】)、「次に、前記丘陵帯3は、液体調味料6が停滞しないで、自由に使える所謂取り皿の機能を備える上に、液体調味料6が徐々に深く停滞する前記凹部に隣接する。」(段落【0033】)との記載、及び【図1】ないし【図3】に鑑みれば、液体調味料が注がれる凹凸部や、取り皿の機能を備える丘陵帯含むと解されるから、本件特許発明1の「皿の上面」とは液体調味料が注がれる凹凸部及び料理が載置される部分をいうものと認められる。そして、【図1】ないし【図3】を参照すると、符号2が付された上記凹凸部と符号3が付された丘陵帯とは別に、周縁には符号4が付されており、また、周縁4が、本件特許発明1の皿の上面に含まれることの記載も示唆もないから、皿の周縁4は、本件特許発明1の皿の上面に含まれないと解すべきである。してみると、引用発明の底面が、本件特許発明1の上面に相当するものである。
ところで、本件特許発明1の「絵柄または文字」とは、その用語の意味のとおり、絵のがら、模様、構図または文字を意味するものである(「絵柄」の意味については、「広辞苑 第六版」参照。)。そして、本件特許発明1の「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し」とは、「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、『絵のがら、模様、構図や文字を形成するように』、皿の上面に凹凸部を設けて構成する」ものであり、このことは、本件特許の明細書の【課題を解決するための手段】、【発明の実施の形態】、【発明の効果】の記載内容とも合致するものである。
これに対し、引用発明は、底面外縁からせり上がる側面を有し、また食事用の皿であるものの、甲第1号証の「向付揃」との記載に鑑みると、料理を載せる皿であることはうかがえるが直ちに液体調味料を注ぐための皿とは認められない。仮に、引用発明が料理用の皿であることから液体調味料を注ぐことは想定できたとしても、その場合においても、液体調味料の皿の底面形状または皿の側面によって形成される内側形状に沿った液面形状が形成されることが想定されるにすぎない。そして、そのような底面形状に沿った液体調味料の液面形状は、皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵のがら、模様、構図や文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成して形成された絵のがら、模様、構図または文字ではないから、本願特許発明1でいう「絵柄または文字」に相当するものとはいえず、また、引用発明の皿の側面は上記のとおり皿の上面ではないから、皿の側面によって形成される内側形状に沿った液体調味料の液面形状は、皿の上面の凹凸によって形成された液体調味料の液面形状ではない。
したがって、引用発明は、本件特許発明1の「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成され、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」に相当する構成を有していない。
以上から両者は、「食事用の皿」という点で一致するものの、次の点で相違する。

(相違点)
本件特許発明1が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成され、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する絵文字形成皿」であるのに対し、引用発明は、「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成され」ておらず、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する絵文字形成皿」のような構成を有しない点。

なお、請求人は、審判請求書第4頁23?27行において、甲第3号証を根拠に、「皿A」が、液体調味料を多く注ぐにしたがって、滞留した液体調味料の形状が、グローブのような形状から扇形の形状に変化するという構成を有する旨主張しているので、念のため、甲第1号証の「皿A」と甲第3号証の「皿A」とが同一の皿であった場合についても検討する。
甲第3号証には、「皿A」が液体調味料の停滞により、その表面形状が中央部から徐々に広がる形状に変化し、「皿A」が液体調味料で一杯になった最終的な5段階では外縁の形状である扇形状に変化していることが把握できる。
しかしながら、「皿A」に液体調味料が満たされる前の液面形状は、皿の底面の形状に沿って形成された液面形状にすぎず、「皿A」の底面の液面形状は、皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵のがら、模様、構図や文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成して形成された絵のがら、模様、構図または文字でない。また、「皿A」が液体調味料で一杯になった時の扇形の液面形状は、「皿A」の側面によって形成された形状であって皿の上面の凹凸部に基づいて形成されたものではない。
そうすると、「皿A」は、甲第3号証を考慮したとしても「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成した」皿とはいえないことから、甲第3号証の実験結果の有無は、上記一致点・相違点の認定を左右しない。

(イ) 上記相違点について検討するにあたり、まず、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された他の皿について検討する。

(ウ) 甲第1号証には、第21頁右上に、(1)から(6)(括弧数字は、丸付き数字)の番号の付された複数種の食器の写真が掲載され、(6)の番号が付された食器について、「窯1-158 3号小鉢揃 染付花紋(径9cm・木箱入)」との説明が記載され、当該写真から、その食器は、上縁は五角形で、三角形の平面をその底辺が上下交互に配置されるように並べられた形状の側面を有する構成が看取できる。
上記写真及び記載から、甲第1号証には、「小鉢であって、上縁は五角形で、三角形の平面をその底辺が上下交互に配置されるように並べられた形状の側面を有する小鉢。」(以下、「皿B発明」という。)が認められるにすぎず、「皿B発明」が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成され、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」との構成を有しているとまで特定できない。
請求人は、上述した甲第3号証を根拠に甲第1号証の「皿B」の構成を認定しようとしているが、上記ア(ウ)で検討したとおり、甲第1号証の「皿B」と甲第3号証の「皿B」とが同一であると認定すべき根拠はなく当該主張は理由がない。
なお、念のため、仮に甲1号証の「皿B」と甲第3号証の「皿B」とが同一の皿であった場合についても検討する。
そもそも「皿B」は「小鉢」であるのだから、甲第3号証に示されるように、「皿B」に液体調味料をなみなみと注ぐこと自体が不自然であるが、「皿B」を液体調味料を注ぐことも可能な皿と仮定して甲第3号証を参照すると、「皿B」は液体調味料の停滞により、その表面形状は、点の段階から始まり、その途中で略五角形、略十角形を経て、「皿B」が液体調味料で一杯になった最終的な5段階では外縁の形状である略五角形状に変化していることが把握できる。
しかしながら、小鉢という皿は中央の略平らな部分である上面に料理等を盛り付ける皿であることから、上記の五角形ないし十角形という形状は、「皿B」の内側面の形状を表しているにすぎず、皿の上面の凹凸部に基づいて形成される形状ではない。
そうすると、「皿B」は、甲第3号証を考慮したとしても「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し」た皿とはいえないことから、甲第3号証の実験結果の有無は、上記「皿B発明」の認定を左右しない。
したがって、甲第1号証から認定できる「皿B発明」の構成は、せいぜい上記の当審が認定した「皿B発明」の構成であって、「皿B」に液体調味料を注いだとしても、「皿B」の内側面形状に沿った液面が形成されるにすぎず、その形状は本件特許発明1の「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成して形成された絵柄または文字」に相当するものといえないから、「皿B」は「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するものとは認められず、ましてや、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとは認められない。
したがって、「皿B発明」は上記相違点に係る本件特許発明1の構成を有しない。
また、甲第1号証には、本件特許発明1の課題について記載も示唆もない。

(エ) 甲第2号証には、第95頁中段右に、正方形状の箱内に4つの皿が収納された容器の写真が掲載されるとともに、「No7-549 松花堂揃・雅(箱付き24cm・化粧箱入)」と記載されている。その写真の右下部の黄色の小鉢は、底面略円形であるが、内周側面は波うち状の側面を有し、その開口部上縁も波うち形状になっていることが看取できる。
してみると、甲第2号証には、「皿であって、底面略円形であるが、内周側面が略多角形であり、外縁部の高さは一定でなく波うち形状になっている皿。」(以下、「皿C発明」という。)が認められるにすぎず、「皿C発明」が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成され、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」との構成を有しているとまで特定できない。
請求人は、上述した甲第3号証を根拠に、甲第2号証の「皿C」の構成を認定しようとしているが、上記ア(ウ)で検討したとおり、甲第2号証の「皿C」と甲第3号証の「皿C」とが同一であると認定すべき根拠はなくであるから、当該主張は理由がない。
なお、念のため、仮に甲2号証の「皿C」と甲第3号証の「皿C」とが同一の皿であった場合についても検討する。
そもそも「皿C」は松花堂揃の器で、甲第3号証に示されるように、「皿C」に液体調味料をなみなみと注ぐこと自体が不自然であるが、「皿C」を液体調味料を注ぐことも可能な皿と仮定して甲第3号証を参照すると、「皿C」は液体調味料の停滞により、その液面形状は、皿中央部の円形の段階から始まり、皿の周辺部の放射状の波形の凹凸に沿って広がって変化していることが把握できる。
しかしながら、[皿C」のような器は中央の略平らな部分である上面に料理等を盛り付ける皿であることが通常であるから、上記「皿C」の皿の周辺部の放射状の波形凹凸は皿の上面であるとは認められず、皿の周辺部の放射状の波形の凹凸は「皿C」の内側面の形状を表しているにすぎず、上記液面の形状の変化は皿の上面の凹凸部に基づいて形成される形状ではない。仮に上記「皿C」の周辺部の放射状の波形凹凸が、皿の上面であったとしても、その液面形状は、「皿C」上面の形状に沿って形成された液面形状にすぎず、皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵のがら、模様、構図や文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成して形成された絵のがら、模様、構図または文字でない。
そうすると、「皿C」は、甲第3号証を考慮したとしても「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し」た皿とはいえないことから、甲第3号証の実験結果の有無は、上記「皿C発明」の認定を左右しない。
したがって、甲第2号証から認定できる「皿C発明」の構成は、せいぜい上記の当審が認定した「皿C発明」の構成であって、「皿C」に液体調味料を注いだとしても、「皿C」の内側面形状に沿った液面が形成されるにすぎず、その形状は本件特許発明1の「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成して形成された絵柄または文字」に相当するものといえないから、「皿C」は「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するものとは認められず、ましてや、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとは認められない。
したがって、「皿C発明」は上記相違点に係る本件特許発明1の構成を有しない。
また、甲第2号証には、本件特許発明1の課題について記載も示唆もない。

(オ) 甲第4号証には、第111頁の上部に、円形の皿の写真が掲載されるとともに「14-[灰釉青海波文大飾皿]高14×径59cm・昭和57(1982)年」と記載されている。該写真の皿は、略円形であり、皿の上面全面に曲線状の溝の模様が形成されていることが看取できる。以上のことから、甲第4号証には、「上面全面に曲線状の溝の模様が形成された円形の皿。」(以下、「皿D発明」という)が記載されている。
請求人は、「皿D」について、皿Dに液体調味料を注ぐに従って、皿の中央部の溝から順に、液体調味料が滞留して模様を形成し、その範囲が徐々に広がり、さらに液体調味料が注がれると、滞留した液体調味料の周縁部では、溝に沿って液体調味料が曲線状に滞留して模様を形成するが、皿の中央部では、液体調味料が溝の高さを超えて、模様が消失するという構成を有する旨主張している(審判請求書第5頁第12?18行)。
しかしながら、「皿D」が食事用の皿であるか否かは甲第4号証からは不明であるから、そもそも「皿D」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされているとはいえないから、「皿D」が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「皿D」に液体調味料を注ぎ溝に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、その液面は、皿の上面の形状に従った液面が形成されるにすぎず、「皿D」が、「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するものとは認められず、ましてや、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
したがって、「皿D発明」は上記相違点に係る本件特許発明1の構成を有しない。
また、甲第4号証には、本件特許発明1の課題について記載も示唆もない。

(カ) 甲第5号証には、頁は特定できないが、ほぼ長方形の皿の写真が掲載されるとともに、「126 備前額形平鉢 高6.3cm 左右31.4cm」と記載され、同頁には、
「126 備前額平鉢
何んの用途に造られたのかわからないが、寺社等などにかけられている扁額の形をした平鉢である。・・見込み中央には「生殿」の二字を深々と彫り込んでいる。・・」と記載されている。
該写真から、その皿は、略長方形で外縁に側壁状の縁が設けられ、皿の上面に文字が形成されていることが看取できる。
以上のことから、甲第5号証には、「略長方形で外縁に側壁状の縁が設けら、上面に文字が彫られた皿」(以下、「皿E発明」という)が記載されている。
請求人は、「皿E」について、「皿E」に液体調味料を注ぐに従って、皿上面の溝に液体調味料が滞留して徐々に文字が形成され、形成される文字は、滞留する液体調味料の量によって太さが変化し、徐々に力強い書体へと変化し、さらに液体調味料が模様を形成し、その範囲が徐々に広がり、さらに液体調味料が注がれると、皿の中央部では、液体調味料が溝の高さを超えて文字が消失し、滞留する液体調味料が長方形の形状となるという構成を有する旨主張している(審判請求書第5頁第25?32行、平成25年10月10日付け口頭審理陳述要領書第2頁第26?29行、甲第18号証。)。
しかしながら、「皿E」が食事用の皿であるか否かは甲第5号証からは不明であるから、そもそも「皿E」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされているとはいえないから、「皿E」が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「皿E」に液体調味料を注ぎ溝に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、その溝は、皿の上面に文字を表現するために彫ったものと認められ、その溝に液体を流して文字を形成するためのものとは認められず、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎないから、「皿E」が、「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するものとは認められず、ましてや、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
請求人が、甲第18号証として、請求人会社代表者 稲垣揚平が、平成25年10月頃に甲第5号証の「皿E」に、液体を注いだ状態を想像して作成したとする、5段階5枚にわたり、段階的に液体の量を増やした状態が示されている文書を提出しているが、甲5号証の刊行物から甲18号証をどのように作成したのかその作成方法も不明であるし、上述のように「皿E」の溝は、皿の上面に文字を表現するために彫ったものと認められ、その溝に液体を流して文字を形成するためのものとは認められないから、甲第18号証の記載内容は上記判断を左右するものではない。
したがって、「皿E発明」は上記相違点に係る本件特許発明1の構成を有しない。
また、甲第5号証には、本件特許発明1の課題について記載も示唆もない。

(キ) 甲第6号証には、頁は特定できないが、六葉形状の盤の写真が掲載されるとともに、同写真下部には、
「25 三彩貼花文六葉形盤 初唐?盛唐 径40.6cm 東京国立博物館
銅製の同形器を模した盤。曲線で構成された六葉形の盤を支える獣足(挿46)も銀盤のそれを写している。・・」と記載されている。
該写真から、その盤は、六葉形状で中央に、凹凸を有する模様が突設された構成が看取できる。
以上のことから、甲第6号証には、「盤の中央に、凹凸を有する模様が突設された六葉形状の盤」(以下、「皿F発明」という。)が記載されている。
請求人は、「皿F」について、「皿F」に液体調味料を注ぐに従って、皿上面に設けられた丘陵部の周囲に液体調味料が滞留して、丘陵部の形状(花の形状)が浮かび上がり、さらに、この丘陵部に設けられた細かい凹凸に液体調味料が入り込むと、丘陵部の模様が浮かび上がるという構成を有する旨主張している(審判請求書第6頁第5?10行)。
しかしながら、「皿F」が食事用の皿であるか否かは甲第6号証からは不明であるから、そもそも「皿F」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされているとはいえないから、「皿F」が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「皿F」に液体調味料を注ぎ模様の周囲や模様の凹凸に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、その溝は、皿の上面に模様を表現するためのものと認められ、液体を流して模様を形成するためのものとは認められず、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎず、「皿F」が、「絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成を有するとも、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
したがって、「皿F発明」は上記相違点に係る本件特許発明1の構成を有しない。
また、甲第6号証には、本件特許発明1の課題について記載も示唆もない。

(ク) 甲第7号証には、「辻 清明-78」頁の右中段に、略三角形状の皿の写真が掲載されるとともに、「5-[信楽三角板皿]高9.5×32cm・昭和45(1970)年)」と記載されている。
該写真から、略三角形状の皿の上面に、3つの略長方形状の凹部が形成され、そのうち2つの凹部の中にさらに楕円形状の凹部が形成された構成が看取できる。
以上のことから、甲第7号証には、「上面に、3つの略長方形状の凹部が形成され、そのうち2つの凹部の中にさらに楕円形状の凹部が形成された略三角形状の皿」(以下、「皿G発明」という。)が記載されている。
請求人は、「皿G」について、「皿G」に液体調味料を注ぐに従って、略楕円形状の窪みに液体調味料が滞留して、略楕円形を形成し、さらに液体調味料を注ぐと略長方形を形成するという構成を有する旨主張している(審判請求書第6頁第16?19行)。
しかしながら、「皿G」が食事用の皿であるか否かは甲第7号証からは不明であるから、そもそも「皿G」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされているとはいえないから、「皿G」が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「皿G」に液体調味料を注ぎその凹部形状に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、その凹部形成の目的も不明であり、液体を流して絵柄を形成するためのものとは認められず、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎず、「皿G」が、「絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成を有するとも、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
したがって、「皿G発明」は上記相違点に係る本件特許発明1の構成を有しない。
また、甲第7号証には、本件特許発明1の課題について記載も示唆もない。

(ケ) 上記(イ)ないし(ク)の検討事項を踏まえ、上記(ア)の相違点について検討する。
本件特許発明1は、上記相違点に係る本件特許発明1の構成により、明細書記載の効果を奏するものであるが、甲第1号証には上記相違点に係る本件特許発明1の構成が記載されていないのみならず、本件特許発明1の課題等についての記載も示唆もない。
また、引用発明は、向付であり、その底面に料理を盛りつけることが通常の使用方法であるから、料理を盛りつけた上で液体調味料を注いだとしても、その液面が変形する様子は使用者からは確認できず、本件特許発明の効果を奏するとも認められない。
さらに、食事用の皿において、上記相違点に係る本件特許発明1の構成が周知慣用の技術であるともいえない。
したがって、上記相違点に係る本件特許発明1の構成が「引用発明」から容易に想到し得るとはいえない。
次に、「皿B発明」ないし「皿G発明」について検討すると、上記(ウ)ないし(ク)で検討したとおり、そのいずれも、上記相違点に係る本件特許発明1の構成である、「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成され、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」構成を有していない。してみると、引用発明に「皿B発明」ないし「皿G発明」のいずれを適用しても、上記相違点に係る本件特許発明1の構成を想到することができるとはいえない。
さらに、「皿B発明」ないし「皿G発明」は、上記相違点に係る本件特許発明1の構成である、「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成され、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」構成を有していないし、甲第1号証ないし甲第7号証のいずれにも、上記相違点に係る本件特許発明1の構成が記載されていないのみならず、本件特許発明1の課題等についての記載も示唆もなく、また、本件特許発明1の奏する効果を奏するものでもない。
さらに、上記相違点に係る本件特許発明1の構成が周知慣用の技術であるともいえないから、上記相違点に係る本件特許発明1の構成が、「皿B発明」ないし「皿G発明」のいずれかからも容易に想到し得るとはいえない。

ウ 小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1の「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成され、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」構成は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載されたいずれの発明も有しておらず、また、これらの発明から容易に想到し得たということもできない。
そして、本件特許発明1は、本件特許明細書に記載のとおりの効果を奏するものである。
したがって、本件特許発明1は甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は本件特許発明1の発明特定事項をその構成の一部としたものであるから、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明2は甲第1号証?甲第7号証に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に該当しない。

(3)無効理由1についての小括
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由1及び提出した証拠方法によっては、本件特許発明1及び本件特許発明2についての特許を無効とすることはできない。

2 無効理由2について
(1)本件特許発明1について
ア 引用発明
(ア) 審判請求人は、無効理由2において、本件特許発明1及び本件特許発明2は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第8号証から甲第17号証に記載された発明であると主張し、甲第8号証から甲第17号証を提出している(第1回口頭審理調書)。
しかしながら、本件特許に係る出願の出願日は、平成15年4月7日であるのに対し、甲第8号証、甲第12号証、甲第16号証の発行日は、それぞれ、2005年(平成17年)2月19日、平成19年9月15日、2004年(平成16年)3月22日であり、甲第8号証、甲第12号証、甲第16号証は本件特許出願前に頒布された刊行物ではない。
したがって、甲第9号証、甲第10号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第14号証、甲第15号証、甲第17号証に記載された発明ついて、以下検討する。

(イ) 甲第9号証には、第17頁の上部に、絵皿の写真が掲載されるとともに、同頁右下に「2 十代柿右衛門 色絵 龍鳳凰文輪花皿 径27.6cm 江戸末期「酒柿」在銘[佐賀県立九州陶磁文化館蔵]」と記載されている。当該写真から、皿の周縁は7つの凸部を有した形状で皿上面には絵柄が描かれていることが看取できるが、皿上面に凹凸を有するものとまでは看取できない。
以上のことから、甲第9号証には、「上面に絵柄が描かれた、周縁が7つの凸部を有した形状の皿」(以下、「甲9発明」という。)が記載されている。

請求人は、「甲9発明」に関し、審判請求書第6頁第26?34行において、甲第9号証に記載された皿は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された「皿A」ないし「皿C」同様に形状が変化するものである旨主張する。
しかしながら、上記1(1)ア(ウ)及びイ(ア)、(ウ)、(エ)で検討したとおり「皿A」ないし「皿C」が、本件特許発明1が有する「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するものではない。そして、「甲9発明」が食事用の皿であるか否かは甲第9号証からは不明であるから、「甲9発明」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされているとはいえないから、「甲9発明」が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「甲9発明」に液体調味料を注ぎ皿の上面形状に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎず、「甲9発明」が、「絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するとも、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
よって、上記請求人の主張は理由がない。

(ウ) 甲第10号証には、頁は特定できないが、葉形状の皿の写真が掲載されるとともに、「49 青花樹下人物文葉形皿 古染付 17世紀前期 長径19.2cm 東京国立博物館」と記載されている。当該写真から、皿は、上面には絵柄が描かれ、皿の中央部が凹状にされた葉形の形状であることが看取できるものの、皿上面にその他の凹凸を有するものとまでは看取できない。
以上のことから、甲第10号証には、「上面に絵柄が描かれた、皿の中央部が凹状にされた葉形の形状の皿」(以下、「甲10-1発明」という。)が記載されている。

また、甲第10号証の「甲10-1発明」の写真掲載の隣の頁には、「50」の番号が付された馬形の皿の写真が掲載されるとともに、前頁に「50 青花馬形皿 古染付 17世紀前期 長径17.0cm 財団法人美術工芸振興佐藤基金」と記載されている(「芸」は旧字体)。当該写真から、皿は、上面には絵柄が描かれ、皿の中央部が凹状にされた馬形の形状であることが看取できるものの、皿上面にその他の凹凸を有するものとまでは看取できない。
以上のことから、甲第10号証には、「上面に絵柄が描かれた、皿の中央部が凹状にされた馬形の形状の皿」(以下、「甲10-2発明」という。)が記載されている。

さらに、甲第10号証の「甲10-2発明」の写真の下方には、「51」の番号が付された魚形の皿の写真が掲載されるとともに、前頁に「51 青花魚形皿 古染付 17世紀前期 長径18.5cm 財団法人美術工芸振興佐藤基金」と記載されている(「芸」は旧字体)。当該写真から、皿は、上面には絵柄が描かれ、皿の中央部が凹状にされた魚形の形状であることが看取できるものの、皿上面にその他の凹凸を有するものとまでは看取できない。
以上のことから、甲第10号証には、「上面に絵柄が描かれた、皿の中央部が凹状にされた魚形の形状の皿」(以下、「甲10-3発明」という。)が記載されている。

請求人は、「甲10-1発明」ないし「甲10-3発明」に関し、審判請求書第6頁第26?34行において、甲第10号証の写真49ないし51に掲載された皿は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された「皿A」ないし「皿C」同様に形状が変化するものである旨主張する。
しかしながら、上述のとおり「皿A」ないし「皿C」は、本件特許発明1が有する「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するものではない。そして、「甲10-1発明」ないし「甲10-3発明」が食事用の皿であるか否かは甲第10号証からは不明であるから、「甲10-1発明」ないし「甲10-3発明」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされているとはいえないから、「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「甲10-1発明」ないし「甲10-3発明」に液体調味料を注ぎ皿の上面形状に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎず、「甲10-1発明」ないし「甲10-3発明」が、「絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するとも、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
よって、上記請求人の主張は理由がない。

(エ) 甲第11号証には、第71頁中段左に、葉形の皿の写真が掲載されるとともに、同頁中段右に「69 色絵桔梗花文木葉形向付 吉田屋窯 五客」と記載され、また、説明文として「木の葉を形取った型物であるが、その変形の形に合わせ、桔梗の花を巧みに意匠した向付である。・・」と記載されている。当該写真から、皿は、上面には絵柄が描かれ、皿の中央部が凹状にされた木の葉の形状であることが看取できるものの、皿上面にその他の凹凸を有するものとまでは看取できない。
また、「向付」との記載から食事用の皿であると認められる。
以上のことから、甲第11号証には、「食事用の皿であって、上面に絵柄が描かれた、皿の中央部が凹状にされた木の葉の形状の皿」(以下、「甲11発明」という。)が記載されている。

請求人は、「甲11発明」に関し、審判請求書第6頁第26?34行において、甲第11号証の「69 色絵桔梗花文木葉形向付」と掲載された皿は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された「皿A」ないし「皿C」同様に形状が変化するものである旨主張する。
しかしながら、上述のとおり「皿A」ないし「皿C」は、本件特許発明1が有する「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するものではない。甲11発明は食事用の皿と認められるが、「甲11発明」については「向付」との記載があるから、直ちに「甲11発明」に液体調味料を注ぐことは想定されないし、仮に、「甲11発明」に液体調味料を注ぎ皿の上面形状に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎず、「甲11発明」が、「絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するとも、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

(オ) 甲第13号証には、頁は特定できないが、「53」の番号が付された、上面の中央に凹部を有する円形の盤の写真が掲載されるとともに、「53 白磁双魚文盤 康煕-雍正 径24.7cm バウアーコレクション」と記載されている。当該写真から、盤の上面の中央の凹部に、2匹の魚の模様が突設されていることが看取できる。
以上のことから、甲第13号証には、「上面に凹部が設けられ、凹部内に2匹の魚の模様が突設された円形の盤」(以下、「甲13-1発明」という。)が記載されている。

また、甲第13号証の「甲13-1発明」の写真掲載の隣の頁の上段には、「55」の番号が付された円形の緑色の盤の写真が掲載されるとともに、「55 緑釉輪花盤 雍正(在銘) 径17.5cm バウアーコレクション」と記載されている。当該写真から、盤の周囲には放射状凹部の模様が形成され、中央部は平坦な構成を有することが看取できる。
以上のことから、甲第13号証には、「周囲には放射状凹部の模様が形成され、中央部は平坦な構成の円形の盤」(以下、「甲13-2発明」という。)が記載されている。

請求人は、「甲13-1発明」に関し、審判請求書第7頁第1?10行において、甲第13号証の「53 白磁双魚文盤」と掲載された皿は、甲第6号証の「皿F」と同様に形状または模様が浮き上がるものである旨主張する。
しかしながら、上記1(1)イ(キ)で検討したとおり、「皿F」が、本件特許発明1が有する「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するものではない。そして、「甲13-1発明」が食事用の皿であるか否かは甲第13号証からは不明であるから、「甲13-1発明」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされているとはいえないから、「甲13-1発明」が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「甲13-1発明」に液体調味料を注ぐと、皿の上面形状に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、「甲13-1発明」の突設した2匹の魚の模様は、皿の上面に魚の模様を表現するためのものであって、皿に液体調味料を流して模様を形成するためのものとは認められないから、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎず、「甲13-1発明」が、「絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するとも、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。

また、請求人は、「甲13-2発明」に関し、審判請求書第6頁第26?34行において、甲第13号証の「55 緑釉輪花盤 雍正」と掲載された皿は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された「皿A」ないし「皿C」同様に形状が変化するものである旨主張する。
しかしながら、上述のとおり「皿A」ないし「皿C」は、本件特許発明1が有する「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するものではない。そして、「甲13-2発明」が食事用の皿であるか否かは甲第13号証からは不明であるから、「甲13-2発明」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされているとはいえないから、「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「甲13-2発明」に液体調味料を注ぐと、皿の上面形状に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎず、「甲13-2発明」が、「絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するとも、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
よって、上記請求人の主張は理由がない。

(カ) 甲第14号証には、頁は特定できないが、「55」の番号が付されたほぼ円形の盤の写真が掲載されるとともに、「55 白磁印花花喰鳥文稜花盤 定窯 12世紀前半 径21.7cm 大阪市立東洋陶磁美術館
八稜花形の盤。見込みには、同じ八稜花形の輪郭の中に2羽の花喰鳥が表され、内側面には花と蝶が交互に配される。細かい型押しの模様や複雑な器形は、量産品というよりは、やはり特別な製品なのだろう。・・」と記載されている。当該写真から、盤は、上面には凹凸の模様が形成されていることが看取できる。
以上のことから、甲第14号証には、「上面に模様が型押しされた八稜花形の輪郭を有する盤」(以下、「甲14-1発明」という。)が記載されている。

また、甲第14号証の「甲14-1発明」の写真掲載の隣の頁には、「56」の番号が付された円形の盤の写真が掲載されるとともに、「56 白磁印花蓮池鴛鴦文盤 定窯 12世紀後半-13世紀初期 径14.2cm シカゴ美術館
型押し製品が量産された時期の作品としては、出来のよい良品。写生風に表された蓮池鴛鴦文には細部にくずれが見られない。・・」と記載されている。当該写真から、盤は、上面には凹凸の模様が形成されていることが看取できる。
以上のことから、甲第14号証には、「上面に模様が型押しされた円形の盤」(以下、「甲14-2発明」という。)が記載されている。

請求人は、「甲14-1発明」及び「甲14-2発明」に関し、審判請求書第7頁第1?10行において、甲第14号証の「55 白磁印花花喰鳥文稜花盤」と掲載された皿及び「56 白磁印花蓮池鴛鴦文盤」と掲載された皿は、いずれも甲第6号証の「皿F」と同様に形状または模様が浮き上がるものである旨主張する。
しかしながら、上述のとおり、「皿F」が、本件特許発明1が有する「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するものではない。そして、「甲14-1発明」及び「甲14-2発明」が食事用の皿であるか否かは甲第14号証からは不明であるから、「甲14-1発明」及び「甲14-2発明」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされているとはいえないから、「甲14-1発明」及び「甲14-2発明」が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「甲14-1発明」及び「甲14-2発明」に液体調味料を注ぎ皿の上面形状に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、その模様は、皿の上面に模様を表現するためのものと認められ、液体を流して模様を形成するためのものとは認められず、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎず、「甲14-1発明」及び「甲14-2発明」が、「絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するとも、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
よって、上記請求人の主張は理由がない。

(キ) 甲第15号証には、頁は特定できないが、薄緑色の円形の盤の写真が掲載されるとともに、「53 青磁双魚文盤 龍泉窯 南宋?元 京都市下京区常葉町出土 径22.5cm
京都市埋蔵文化財調査センター
・・見込みに一対の魚紋を貼り付けた盤は、龍泉窯において量産され、盛んに輸出された。・・」と記載されている。当該写真から、盤の上面に一対の魚紋が突設された構成が看取できる。
以上のことから、甲第15号証には、「盤の上面に一対の魚紋が突設された円形の盤」(以下、「甲15発明」という。)が記載されている。

請求人は、「甲15発明」に関し、審判請求書第7頁第1?10行において、甲第15号証の「青磁双魚文盤」の皿は、甲第6号証の「皿F」と同様に形状または模様が浮き上がるものである旨主張する。
しかしながら、上述のとおり、「皿F」が、本件特許発明1が有する「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するものではない。そして、「甲15発明」が食事用の皿であるか否かは甲第15号証からは不明であるから、「甲15発明」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされているとはいえないから、「甲15発明」が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「甲15発明」に液体調味料を注ぎ皿の上面形状に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、その模様は、皿の上面に魚の模様を表現するためのものと認められ、液体を流して模様を形成するためのものとは認められず、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎず、「甲15発明」が、「絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するとも、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
よって、上記請求人の主張は理由がない。

(ク) 甲第17号証には、第111頁上段に、円形の皿の写真が掲載されるとともに、「8-[竹灰釉大根花文大皿]高8×径52.3cm・昭和57(1982)年」と記載されている。当該写真から、皿は、上面中央部に凹部が形成され、凹部に植物の模様が突設されている構成が看取できる。
以上のことから、甲第17号証には、「上面中央部に凹部が形成され、凹部に植物の模様が突設されている円形の皿」(以下、「甲17-1発明」という。)が記載されている。
また、第111頁下段右には、円形の皿の写真が掲載されるとともに、「9-[青磁自在紋大皿]高8×径43.8cm・昭和53(1978)年」と記載されている。当該写真から、皿は、上面中央部に凹部が形成され、凹部中央に模様が突設されている構成が看取できる。
以上のことから、甲第17号証には、「上面中央部に凹部が形成され、凹部に模様が突設されている円形の皿」(以下、「甲17-2発明」という。)が記載されている。

請求人は、「甲17-1発明」及び「甲17-2発明」に関し、審判請求書第7頁第1?10行において、甲第17号証の「8-[竹灰釉大根花文大皿]」及び「9-[青磁自在紋大皿]」と掲載された皿は、いずれも甲第6号証の「皿F」と同様に形状または模様が浮き上がるものである旨主張する。
しかしながら、上述のとおり、「皿F」が、本件特許発明1が有する「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するものではない。そして、「甲17-1発明」及び「甲17-2発明」が食事用の皿であるか否かは甲第17号証からは不明であるから、「甲17-1発明」及び「甲17-2発明」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされているとはいえないから、「甲17-1発明」及び「甲17-2発明」が、「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「甲17-1発明」及び「甲17-2発明」に液体調味料を注ぐと、皿の上面形状に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、それらの模様は、皿の上面に模様を表現するためのものと認められるから、液体を流して模様を形成するためのものとは認められず、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎず、「甲17-1発明」及び「甲17-2発明」が、「絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するとも、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

イ 対比・判断
(ア) 以下、本件特許発明1と、上記ア(イ)ないし(ク)で認定した甲9発明、甲10-1ないし甲10-3発明、甲11発明、甲13-1及び甲13-2発明、甲14-1及び甲14-2発明、甲15発明、甲17-1及び甲17-2発明とをそれぞれ対比する。

(イ) 本件特許発明1と甲9発明とを対比すると、両者は「皿」である点で一致するものの、少なくとも、本件特許発明1が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」構成を有するのに対し、甲9発明は、当該構成を有しない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は甲第9号証に記載された発明ではない。

(ウ) 本件特許発明1と甲10-1発明ないし甲10-3発明とをそれぞれ対比すると、両者は「皿」である点で一致するものの、少なくとも、本件特許発明1が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」構成を有するのに対し、甲10-1発明ないし甲10-3発明は、いずれも当該構成を有しない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は甲第10号証に記載された発明ではない。

(エ) 本件特許発明1と甲11発明とを対比すると、両者は「食事用の皿」である点で一致するものの、少なくとも、本件特許発明1が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」構成を有するのに対し、甲11発明は、当該構成を有しない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は甲第11号証に記載された発明ではない。

(オ) 本件特許発明1と甲13-1発明及び甲13-2発明とをそれぞれ対比すると、両者は「皿」である点で一致するものの、少なくとも、本件特許発明1が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」構成を有するのに対し、甲13-1発明及び甲13-2発明は、いずれも当該構成を有しない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は甲第13号証に記載された発明ではない。

(カ) 本件特許発明1と甲14-1発明及び甲14-2とをそれぞれ対比すると、両者は「皿」である点で一致するものの、少なくとも、本件特許発明1が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」構成を有するのに対し、甲14-1発明及び甲14-2は、いずれも当該構成を有しない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は甲第14号証に記載された発明ではない。

(キ) 本件特許発明1と甲15発明とを対比すると、両者は「皿」である点で一致するものの、少なくとも、本件特許発明1が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」構成を有するのに対し、甲15発明は、当該構成を有しない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は甲第15号証に記載された発明ではない。

(ク) 本件特許発明1と甲17-1発明及び甲17-2発明とをそれぞれ対比すると、両者は「皿」である点で一致するものの、少なくとも、本件特許発明1が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」構成を有するのに対し、甲17-1発明及び甲17-2発明は、いずれも当該構成を有しない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は甲第17号証に記載された発明ではない。

ウ 結論
以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲第9号証、甲第10号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第14号証、甲第15号証、甲第17号証に記載された発明ではない。

(2)本件特許発明2について
本件特許発明2は本件特許発明1の発明特定事項をその構成の一部としたものであるから、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明2は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第9号証、甲第10号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第14号証、甲第15号証、甲第17号証に記載された発明ではない。

(3)無効理由2についての小括
以上のとおりであるから、本件特許発明1及び本件特許発明2は、本件特許出願前に頒布された刊行物である甲第9号証、甲第10号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第14号証、甲第15号証、甲第17号証に記載された発明ではない。また、甲第8号証、甲第12号証及び甲第16号証は、本件特許出願前に頒布された刊行物ではないから、請求人の主張はその前提において誤りである。
したがって、請求人の主張する無効理由2及び提出した証拠方法によっては本件特許発明1及び本件特許発明2についての特許を無効とすることはできない。

3 無効理由3について
(1)本件特許発明1について
ア 引用発明
(ア) 本件事案の内容に鑑み、甲第8号証から甲第17号証に掲載された発明が本件特許出願前に公然実施されたか否かの検討前に、本件特許発明1が、上記刊行物に記載された発明か否か検討する。
ここで、本件特許発明1は、甲第9号証、甲第10号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第14号証、甲第15号証、甲第17号証にそれぞれ記載された発明でないことは、上記2で検討したとおりである。
そこで、甲第8号証、甲第12号証、甲第16号証にそれぞれ記載された発明について、さらに検討する。

(イ) 甲第8号証には、175頁上段に、木葉形状の皿の上面の写真と底面の写真とが掲載され、「202 青磁木葉変形皿」と記載されている。当該写真から、皿の中央部が凹状にされ、全体が木の葉の形状に形成された構成が看取できる。
以上のことから、甲第8号証には、「皿の中央部が凹状にされた木の葉の形状の皿」(以下「甲8-1発明」という。)が記載されている。

また、甲第8号証には、175頁下段に、花形状の皿の上面の写真と底面の写真とが掲載され、「203 青磁花形皿」と記載されている。当該写真から、皿の中央部が凹状にされ、全体が花の形状に形成された構成が看取できる。
以上のことから、甲第8号証には、「皿の中央部が凹状にされた花の形状の皿」(以下「甲8-2発明」という。)が記載されている。

請求人は、「甲8-1発明」及び「甲8-2発明」発明に関し、審判請求書第6頁第26?34行において、甲第8号証の「202 青磁木葉変形皿」及び「203 青磁花形皿」と掲載された皿は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された「皿A」ないし「皿C」同様に形状が変化するものである旨主張する。
しかしながら、上述のとおり「皿A」ないし「皿C」が、本件特許発明1が有する「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するものではない。そして、「甲8-1発明」及び「甲8-2発明」が食事用の皿であるか否かは甲第8号証からは不明であるから、「甲8-1発明」及び「甲8-2発明」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされているとはいえないから、「甲8-1発明」及び「甲8-2発明」が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「甲8-1発明」及び「甲8-2発明」に液体調味料を注ぎ皿の上面形状に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎず、「甲8-1発明」及び「甲8-2発明」が、「絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するとも、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
よって、上記請求人の主張は理由がない。

(ウ) 甲第12号証には、第117頁に、花形状の皿の写真が掲載されるとともに、「42 青磁染付鮎文三足皿
肥前・有田窯 1670?80年代 口径15.9 高3.7 底径9.3
佐賀県立九州陶磁文化館所蔵 柴田夫妻コレクション」と記載されている。当該写真から、皿の中央部平面部から花形状にせり上がった周辺部が形成された構成が看取できる。
以上のことから、甲第12号証には、「皿の中央部平面部から花形状にせり上がった周辺部が形成された花形状の皿」(以下「甲12発明」という。)が記載されている。

請求人は、「甲12発明」に関し、審判請求書第6頁第26?34行において、甲第12号証の「42 青磁染付鮎文三足皿」と掲載された皿は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された「皿A」ないし「皿C」同様に形状が変化するものである旨主張する。
しかしながら、上述のとおり「皿A」ないし「皿C」が、本件特許発明1が有する「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するものではない。そして、「甲12発明」が食事用の皿であるか否かは甲第12号証からは不明であるから、「甲12発明」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされて鋳るとはいえないから、「甲12発明」が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「甲12発明」に液体調味料を注ぎ皿の上面形状に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎず、「甲12発明」が、「絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するとも、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
よって、上記請求人の主張は理由がない。

(エ) 甲第16号証には、第32頁上段に、八角形の盤の写真が掲載されるとともに、「56 青瓷印花 蓮花文八角盤 北宋時代 高:21cm 口径11.0cm」と記載されている。当該写真から、皿は、上面に模様が突設され周囲に側壁を有する構成が看取できる。
以上のことから、甲第16号証には、「上面に模様が突設され周囲に側壁を有する八角形の盤」(以下、「甲16-1発明」という。)が記載されている。

また、第33頁上段には、円形の碗の写真が掲載されるとともに、「58 青瓷刻花 水波魚文碗 北宋時代 高:4.8cm 口径11.9cm」と記載されている。当該写真から、碗は、碗状で上面に魚と波の模様が刻印された構成が看取できる。
以上のことから、甲第16号証には、「円形の碗状で、上面に魚と波の模様が刻印された碗」(以下、「甲16-2発明」という。)が記載されている。

さらに、第35頁中段には、円形の碗の写真が掲載されるとともに、「63 青瓷印花 宝相華文碗・陶笵 北宋時代(碗・笵) 高:9.3cm 口径15.0cm」と記載されている。当該写真から、碗は、碗状で上面と底面に模様が刻印された構成が看取できる。
以上のことから、甲第16号証には、「円形の碗状で、上面と底面に模様が刻印された碗」(以下、「甲16-3発明」という。)が記載されている。

請求人は、「甲16-1発明」ないし「甲16-3発明」に関し、審判請求書第7頁第1?10行において、甲第16号証の「蓮花文八角盤」、「水波魚文碗」及び「宝相華文碗・陶笵」と掲載された皿は、いずれも甲第6号証の「皿F」と同様に形状または模様が浮き上がるものである旨主張する。
しかしながら、上述のとおり、「皿F」が、本件特許発明1が有する「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するものではない。そして、「甲16-1発明」ないし「甲16-3発明」が食事用の皿であるか否かは甲第16号証からは不明であるから、「甲16-1発明」ないし「甲16-3発明」に液体調味料を注ぐことが記載も示唆もされているとはいえないから、「甲16-1発明」ないし「甲16-3発明」が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」及び「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する構成」を有するとはいえない。
仮に、上記「甲16-1発明」ないし「甲16-3発明」に液体調味料を注ぎ皿の上面形状に従った液体調味料の液面形状が生ずるとしても、「甲16-1発明」ないし「甲16-3発明」の模様は、皿の上面に模様を表現するためのものと認められ、液体を流して模様を形成するためのものとは認められず、その液面は皿の上面形状に従った液面が形成されることにすぎず、「甲16-1発明」ないし「甲16-3発明」が、「絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設ける構成」を有するとも、また、「絵柄または文字が、液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、凹凸部を立体的に形状変更して形成する」ものとも認められない。
よって、上記請求人の主張は採用できない。

イ 対比・判断
(ア) 以下、本件特許発明1と、上記ア(イ)ないし(エ)で認定した甲8-1発明及び甲8-2発明、甲12発明、甲16-1ないし甲16-3発明とをそれぞれ対比する。

(イ) 本件特許発明1と甲8-1発明及び甲8-2発明とをそれぞれ対比すると、両者は「皿」である点で一致するものの、少なくとも、本件特許発明1が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」構成を有するのに対し、甲8-1発明及び甲8-2発明は、いずれも当該構成を有しない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は甲第8号証に記載された発明ではない。

(ウ) 本件特許発明1と甲12発明とを対比すると、両者は「皿」である点で一致するものの、少なくとも、本件特許発明1が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」構成を有するのに対し、甲12発明は、当該構成を有しない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は甲第12号証に記載された発明ではない。

(エ) 本件特許発明1と甲16-1発明ないし甲16-3発明とをそれぞれ対比すると、両者は「皿」である点で一致するものの、少なくとも、本件特許発明1が「皿に注いだ液体調味料の流動と停滞により、液体調味料または皿の一部が、絵柄または文字を形成するように、皿の上面に凹凸部を設けて構成し、前記絵柄または文字が、前記液体調味料を多く注ぐに従って変形するように、前記凹凸部を立体的に形状変更して形成する」構成を有するのに対し、甲16-1発明ないし甲16-3発明は、いずれも当該構成を有しない点で相違する。
したがって、本件特許発明1は甲第16号証に記載された発明ではない。

ウ 小括
本件特許発明1が、甲第9号証、甲第10号証、甲第11号証、甲第13号証、甲第14号証、甲第15号証、甲第17号証にそれぞれ記載された発明ではないことは、上記2で検討したとおりである。
また、上記イで検討したとおり、本件特許発明1は、甲第8号証、甲第12号証及び甲第16号証にそれぞれ記載された発明ではない。
したがって、本件特許発明1は、甲第8号証ないし甲第17号証に記載された発明ではないから、甲第8号証ないし甲第17号証に記載された発明が、本件特許出願前に公然実施されたか否か検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲第8号証ないし甲第17号証により、本件特許出願前に公然実施された発明ということはできない。

(2)本件特許発明2についての判断
本件特許発明2は本件特許発明1の発明特定事項をその構成の一部としたものであるから、上記(1)と同様の理由により、本件特許発明2は、甲第8号証から甲第17号証により、本件特許出願前に公然実施された発明ということはできない。

(3)無効理由3についての小括
以上のとおりであるから、請求人の主張する無効理由3及び提出した証拠方法によっては本件特許発明1及び本件特許発明2についての特許を無効とすることはできない。

第7 結び
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては本件特許発明1及び本件特許発明2についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-03-27 
結審通知日 2015-03-31 
審決日 2015-04-13 
出願番号 特願2003-133764(P2003-133764)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (A47G)
P 1 113・ 113- Y (A47G)
P 1 113・ 112- Y (A47G)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 平田 慎二  
特許庁審判長 山口 直
特許庁審判官 関谷 一夫
高木 彰
登録日 2010-04-09 
登録番号 特許第4487279号(P4487279)
発明の名称 絵文字形成皿  
代理人 横井 敏弘  

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