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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  H05B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05B
審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H05B
管理番号 1301799
審判番号 無効2010-800083  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-04-28 
確定日 2015-04-09 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4357781号「有機LED用燐光性ドーパントとしての式L2MXの錯体」の特許無効審判事件についてされた平成23年3月23日付け審決に対し、東京高等裁判所において審決取消の判決(平成23年(行ケ)第10234号平成24年11月7日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
1.本件特許第4357781号(請求項の数13)に係る特許出願(特願2001-541304)は、平成12年11月29日(パリ条約による優先権主張 1999年12月1日 アメリカ合衆国)を国際出願日とするものであって、平成13年6月7日に国際公開(WO2001/041512)され、平成15年5月7日に国内公表(特表2003-515897)され、平成21年6月30日に特許をすべき旨の査定がされ、同年8月14日にその特許権の設定の登録がされたものである。

2.本件無効審判事件における手続の経緯は次のとおりである。
(1)本件特許(全請求項)について、請求人は平成22年4月28日に本件無効審判を請求し、その審判請求書の副本は被請求人に送達された。
(2)被請求人は同年9月17日に審判事件答弁書及び訂正請求書を提出した。
(3)請求人は同年11月1日に審判事件弁駁書を提出した。
(4)平成23年2月1日に請求人代理人及び被請求人代理人の出頭のもと第1回口頭審理が開催された。
この口頭審理に資するため、審判長は平成22年11月29日付けで両当事者に対し各無効理由に係る暫定的な見解とともに、求釈明事項をあらかじめ通知し、請求人は平成23年1月7日付け上申書及び同年1月21日付け口頭審理陳述要領書を提出し、また被請求人は同年1月7日付け上申書及び同年1月21日付け口頭審理陳述要領書を提出した。
(5)第1回口頭審理終了後、書面審理とされ、請求人は同年2月9日及び11日に上申書を提出し、また被請求人は同年2月9日に上申書を提出した。
(6)同年3月7日付けで審理が終結され、請求人及び被請求人にその旨通知された。
(7)同年3月23日付けで訂正を認め、請求項1?13に係る発明についての特許を無効とする旨の審決があり、当該審決の謄本が請求人及び被請求人に送達された。
(8)被請求人は、同年7月26日に知的財産高等裁判所に当該審決に対する訴えを提起したところ(平成23年(行ケ)第10234号)、平成24年10月10日に口頭弁論が終結し、同年11月7日に当該審決を取り消す旨の判決が言い渡された。
(9)同年11月21日に当該判決が確定したことから、本件無効審判事件はさらに審理に付されることとなった。
(10)平成25年3月13日付けで審理が終結され、請求人及び被請求人にその旨通知された。

第2.訂正請求について
被請求人は平成22年9月17日に訂正請求書を提出しているところ、その訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)について検討する。

1.訂正の内容
本件訂正は、本件特許明細書を訂正請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正することを求めるものであり、具体的には、下記訂正事項1及び2からなるものである。

訂正事項1
本件訂正前の「請求項1」の記載を下記のとおり訂正する。
「アノード、カソード及び発光層を含む有機発光デバイスであって、前記発光層は前記アノードと前記カソードの間に配置され、かつ前記発光層が式L_(2)MXの式で表される燐光有機金属化合物を含む、有機発光デバイス(前記式中、L及びXは異なった二座配位子であり;Mはイリジウムであり;前記X配位子はO-O配位子又はN-O配位子のいずれかであり;Lはsp^(2)混成炭素及び窒素原子によりMに配位されたモノアニオン性二座配位子である)(但し、L_(2)MX中、Xがヘキサフルオロアセチルアセトネート又はジフェニルアセチルアセトネートである有機発光デバイスを除く)。」

訂正事項2
本件訂正前の「請求項7」の記載を下記のとおり訂正する。
「X配位子が、アセチルアセトネート、サリチリデン、ピコリネート、及び8-ヒドロキシキノリネートからなる群から選択される、請求項1?6のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。」

2.検討
本件無効審判は平成22年4月28日に請求されたものであるから、本件訂正について、特許法等の一部を改正する法律(平成23年法律第63号)附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、本「第2」項において、単に「特許法」という。)第134条の2第1項ただし書並びに同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するか否かについて検討する。

(1)特許法第134条の2第1項ただし書について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1につき、「但し、L_(2)MX中、Xがヘキサフルオロアセチルアセトネート又はジフェニルアセチルアセトネートである有機発光デバイスを除く」という事項を加入するものであるが、この訂正により、「発光層がL_(2)MXの式で表される燐光有機金属化合物を含む、有機発光デバイス」のうち、「Xがヘキサフルオロアセチルアセトネート又はジフェニルアセチルアセトネートである」ものは含まれないことになるから、請求項1に係る発明は明らかに減縮されたものとなる。
また、訂正事項2は、本件訂正前の請求項7における並列的選択肢のうちの一つである「ヘキサフルオロアセチルアセトネート」を単に削除したものであるから、請求項7に係る発明は減縮されたものとなる。
したがって、訂正事項1及び2に係る訂正は、いずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえ、特許法第134条の2第1項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものである。

(2)特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項について
訂正事項1に係る「L_(2)MX中、Xがヘキサフルオロアセチルアセトネート又はジフェニルアセチルアセトネートである有機発光デバイスを除く」を加入する訂正によって、「発光層がL_(2)MXの式で表される燐光有機金属化合物を含む、有機発光デバイス」から「Xがヘキサフルオロアセチルアセトネート又はジフェニルアセチルアセトネートである」ものは除かれているものと解することができ、このような訂正は、「訂正前の明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項」との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。
また、訂正事項2についても「X配位子」に係る並列的選択肢から「ヘキサフルオロアセチルアセトネート」を単に除外したものであるから、訂正事項1と同様に何ら新たな技術的事項を導入するものではない。
したがって、訂正事項1及び2に係る訂正は、いずれも訂正前の明細書又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものであり、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第3項に規定する要件を満たすものである。

(3)特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項について
上記(1)及び(2)で述べたとおり、訂正事項1及び2は、本件訂正前の請求項1又は7に係る発明について、その発明を減縮し、かつ、何ら新たな技術的事項を導入するものではないから、いずれも実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことは明らかである。
してみると、訂正事項1及び2に係る訂正は、特許法第134条の2第5項で準用する同法第126条第4項に規定する要件を満たすものである。

(4)その他の請求項について
請求項2?6及び8?13は、訂正事項1又は2によって直接的には訂正されていないが、請求項2?6はいずれも請求項1を直接又は間接的に引用して記載した請求項であり、また請求項8?13は、いずれも請求項1又は7を直接又は間接的に引用して記載した請求項であるから、請求項2?6及び8?13は訂正事項1及び2により実質的には訂正されているものといえる。
そこで、請求項2?6及び8?13の各記載事項につき検討すると、いずれも請求項1又は7の訂正に係る事項のすべてを引用していることは明らかであるから、請求項2?6及び8?13についても、実質的に請求項1又は7に係る訂正と同様の訂正をしたものといえる。
そして、上記(1)?(3)で述べたとおり、訂正事項1及び2に係る請求項1及び請求項7についての訂正はいずれも特許法第134条の2第1項ただし書並びに同条第5項で準用する同法第126条第3項及び第4項の規定に適合するものであるから、請求項2?6及び8?13に係る訂正も同様にこれらの規定に適合するものといえる。

3.訂正に関するまとめ
以上のとおり、訂正事項1及び2に係る訂正はいずれも適法であるから、本件訂正を認める。

なお、請求人は、審判事件弁駁書の6〔1〕(1)及び(3)に記載した訂正事項の違法性(特許法第126条第3項)に関する主張を、平成23年1月7日付け上申書の6〔1〕及び口頭審理陳述要領書の5〔1〕で撤回しており(第1回口頭審理調書)、訂正請求自体に争いはない。

第3.本件特許に係る発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正は認められることとなったので、本件特許の請求項1?13に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1?13」ということがある。)は、訂正請求書に添付された訂正明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1?13にそれぞれ記載される事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】 アノード、カソード及び発光層を含む有機発光デバイスであって、前記発光層は前記アノードと前記カソードの間に配置され、かつ前記発光層が式L_(2)MXの式で表される燐光有機金属化合物を含む、有機発光デバイス(前記式中、L及びXは異なった二座配位子であり;Mはイリジウムであり;前記X配位子はO-O配位子又はN-O配位子のいずれかであり;Lはsp^(2)混成炭素及び窒素原子によりMに配位されたモノアニオン性二座配位子である)(但し、L_(2)MX中、Xがヘキサフルオロアセチルアセトネート又はジフェニルアセチルアセトネートである有機発光デバイスを除く)。
【請求項2】 前記X配位子がO‐O配位子である、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項3】 前記X配位子がN‐O配位子である、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項4】 前記発光層が、ホスト及びドーパントを含み、前記ドーパントが前記燐光有機金属化合物を含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。
【請求項5】 前記ホストが以下の:

及び

(式中、芳香族環を通って引いた線分の記号は、前記環中のどの炭素の所でも、場合により、アルキル又はアリールにより置換されていてもよいことを意味する。)
からなる群から選択される、請求項4に記載の有機発光デバイス。
【請求項6】 L配位子が、2‐(1‐ナフチル)ベンゾオキサゾール、2‐フェニルベンゾオキサゾール、2‐フェニルベンゾチアゾール、7,8‐ベンゾキノリン、フェニルピリジン、ベンゾチエニルピリジン、3‐メトキシ‐2‐フェニルピリジン、チエニルピリジン、及びトリルピリジンからなる群から選択される、請求項1?5のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。
【請求項7】 X配位子が、アセチルアセトネート、サリチリデン、ピコリネート、及び8ヒドロキシキノリネートからなる群から選択される、請求項1?6のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。
【請求項8】 L配位子が、フェニルイミン、ビニルピリジン、アリールキノリン、ピリジルナフタレン、ピリジルピロール、ピリジルイミダゾール、及びフェニルインドールからなる群から選択されて置換又は非置換の配位子である、請求項1?5及び7のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。
【請求項9】 L配位子が、置換又は非置換のアリールキノリンを含む、請求項8に記載の有機発光デバイス。
【請求項10】 X配位子がアセチルアセトネートを含む、請求項7に記載の有機発光デバイス。
【請求項11】 L配位子が、以下の構造:

を有する非置換のアリールキノリンである、請求項9に記載の有機発光デバイス。
【請求項12】 L配位子が、以下の構造:

を含む置換アリールキノリンである、請求項9に記載の有機発光デバイス。
【請求項13】請求項1?12のいずれか一項に記載された有機発光デバイスが組み込まれた表示装置。

第4.請求人の主張
1.請求人は、「特許第4357781号の請求項1?13に係る発明についての特許を無効にする。審判費用は、被請求人の負担とする。」との審決を求めるところ、請求人の主張する特許を無効とする理由は、審判請求書の記載及び第1回口頭審理における請求人の陳述のとおり、次の点にある。

(1)無効理由1
本件特許の請求項1?7、10及び13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証?甲第17号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。よって、本件特許は、特許法第123条第1項第2号の規定に該当し、無効にすべきものである。

(2)無効理由2
本件特許の請求項1?13は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。よって、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

(3)無効理由4
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない。よって本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。
なお、正確に言えば、請求人は、「本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない。」と主張しているが、本件特許に係る特許出願は平成12年11月29日にされたものとみなされる(特許法第184条の3第1項)ものであるところ、本件特許に係る特許出願には、特許法等の一部を改正する法律(平成14年法律第24号)附則第2条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第36条第4項及び同法第123条第1項が適用されるので、無効理由4については上記のとおり読み替えることとする。

2.請求人は、審判請求書の七〔7〕及び〔9〕にそれぞれ記載した無効理由3(特許法第36条第6項第2号)及び無効理由5(特許法第39条第2項)並びに審判事件弁駁書の6〔1〕(2)及び(3)に記載した新たな無効理由(特許法第36条第6項第1号及び第2号)に関する主張を、平成23年1月7日付け上申書の6〔3〕及び〔4〕並びに口頭審理陳述要領書の5〔1〕で撤回している(第1回口頭審理調書)。

≪証拠方法≫
○審判請求書に添付
甲第1号証:Appl. Phys. Lett., Vol.75, No.1, 5 JULY 1999, pp.4-6(全訳添付)
甲第2号証:BOOK OF ABSTRACTS, 217th ACS National Meeting, INOR292, 21-25 MARCH 1999(全訳添付)
甲第3号証:Inorg. Chem., Vol.30, No.8, 1991, pp.1685-1687(全訳添付)
甲第4号証:J. Organometal. Chem., Vol.517, 1996, pp.191-200(全訳添付)
甲第5号証:Synthetic Metals, Vol.94, 1998, pp.245-248(全訳添付)
甲第6号証:Nature, Vol.395, 10 September 1998, pp.151-154(全訳添付)
甲第7号証:J. Am. Chem. Soc., Vol.107, 1985, pp.1431-1432(全訳添付)
甲第8号証:Inorg. Chem., Vol.33, No.3, 1994, pp.545-550(全訳添付)
甲第9号証:High-Energy Processes in Organometallic Chemistry, American Chemical Society, 1987, pp.155-168 "Chapter 10"(全訳添付)
甲第10号証:Inorg. Chem., Vol.38, No.10, Published on Web 04/24/1999, pp.2250-2258(全訳添付)
甲第11号証:Inorg. Chem., Vol.34, No.3, 1995, pp.541-545(全訳添付)
甲第12号証:CHEMICAL ABSTRACTS, Vol.125, No.20, 1996, p.1285 左欄"125:264443r"(全訳添付)
甲第13号証:「モリソン ボイド 有機化学(中)第6版」東京化学同人, 1994年, 647頁
甲第14号証:「有機化学 化学入門コース4」岩波書店, 1998年, 17頁
甲第15号証:Inorg. Chem., Vol.27, No.20, 1988, pp.3464-3471(全訳添付)
甲第16号証:「錯体化学の基礎 -ウェルナー錯体と有機金属錯体-」講談社, 1989年, 10頁
甲第17号証:「化学大辞典」東京化学同人, 1989年, 30頁左欄“アセチルアセトナト錯体”及び“アセチルアセトン”並びに635頁右欄“グリシナト錯体”
甲第18号証:特許第4358168号公報
○弁駁書に添付
参考資料1:「岩波 理化学辞典 第5版」岩波書店, 1998年, 399頁右欄“蛍光”
参考資料2:Appl. Phys. Lett., Vol.74, No.3, 18 JANUARY 1999, pp.442-444(全訳添付)
○口頭審理陳述要領書に添付
参考資料3:J. Chem. Soc., Dalton Trans., 1998, pp.2615-2623(抄訳添付)
参考資料4:CAS検索結果, Registry Number:84536-11-8及び711597-79-4(日付:17 January 2011)
○平成23年2月9日付け上申書に添付
参考資料5:「MARUZEN カーク・オスマー化学大辞典」丸善, 昭和63年, 1025頁“配位化合物”
参考資料6:「コットン/ウィルキンソン/ガウス 基礎無機化学 原書第3版」培風館, 1998年, 166-167頁
参考資料7:「岩波 理化学辞典 第5版」岩波書店, 1998年, 1031頁右欄?1032頁左欄“配位子”

なお、被請求人は、第1回口頭審理において甲第1号証?甲第18号証及び参考資料1?4の成立を認めている。

第5.被請求人の主張
被請求人は、「本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする」との審決を求めるとともに下記証拠方法により、請求人が主張する特許を無効とする理由に対して反論をしている。

≪証拠方法≫
○答弁書に添付
乙第1号証:Appl. Phys. Lett., Vol.77, No.6, 7 AUGUST 2000, pp.904-906(抄訳添付)
乙第2号証:J. Appl. Phys., Vol.90, No.10, 15 NOVEMBER 2001, pp.5048-5051(抄訳添付)
乙第3号証:Adv. Mater., Vol.8, No.7, 1996, pp.576-580(全訳添付)
乙第4号証:特許庁編 特許・実用新案審査基準 第I部 第1章 明細書及び特許請求の範囲の記載要件, 2頁“2.2.1(3)”及び19?20頁“3.2.1(6)”
乙第5号証:COMPREHENSIVE ORGANOMETALLIC CHEMISTRY III, Vol.12, 2007, pp.101-194(抄訳添付)
○平成23年1月7日付け上申書に添付
参考資料1:米国特許商標庁に提出されたMark E.Thompson, Ph.D.の宣誓供述書(20 JULY 2010作成)(全訳添付)
参考資料2:Org. Lett., Vol.7, No.23, 2005, pp.5131-5134(抄訳添付)
参考資料3:Adv. Mater., Vol.16, No.22, 2004, pp.2003-2007(抄訳添付)
参考資料4:Adv. Mater., Vol.17, No.3, 2005, pp.349-353(抄訳添付)
参考資料5:特開2003-253256号公報
○口頭審理陳述要領書に添付
乙第6号証:Vadim Adamovichによる実験成績証明書(01/13/2010作成)(全訳添付)
乙第7号証:J. Am. Chem. Soc., Vol.123, No.18, 2001, pp.4304-4312(抄訳添付)
○平成23年2月9日付け上申書に添付
乙第8号証:Compendium of Chemical Terminology, SECOND EDITION, IUPAC RECOMMENDATIONS, Blackwell Science Ltd, 1997, p.68 左欄"chelation"(全訳添付)
乙第9号証:Academic Press Dictionary of Science and Technology, ACADEMIC PRESS,INC., 1992, p.254 左欄"bidentate ligand"(全訳添付)

なお、請求人は、第1回口頭審理において、乙第1号証?乙第7号証及び参考資料1?5の成立を認めている。

第6.当審の判断
事案にかんがみ、無効理由2及び4を先に判断する。

1.無効理由2について
無効理由2は、「本件特許の請求項1?13は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない」ので、「本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである」というものである。(審判請求書の七〔3〕(2))

より詳細には次のとおりである。(請求人が提出した口頭審理陳述要領書の5〔3〕(1))
<無効理由2-1>
下記(a)?(c)のデバイスの構造に係る事項につき、本件特許発明1?13には規定されておらず、発明の詳細な説明の記載からみて、各請求項に記載された事項の範囲まで、拡張・一般化できない
(a)デバイスの層構造
(b)ホスト材料の有無・種別
(c)ブロッキング層の有無・種別

<無効理由2-2>
下記(d)?(f)の燐光有機金属化合物に係る事項につき、本件特許発明1?13には具体的に規定されておらず、発明の詳細な説明の記載からみて、各請求項に記載された事項の範囲まで拡張・一般化できない。
(d)L_(2)MX錯体のL配位子の種別
(e)L_(2)MX錯体のX配位子の種別
(f)L_(2)MX錯体におけるL配位子とX配位子の組合せ

(1)特許法第36条第6項第1号に規定する要件
特許法第36条第6項第1号には、特許請求の範囲の記載は、「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」でなければならない旨が規定されている。
そして、請求人も審判事件弁駁書の6〔3〕で引用している知財高裁平成17年(行ケ)第10042号判決によれば、特許請求の範囲の記載が、同号の規定に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」とされている。

(2)本件発明の課題について
ア.本件特許発明は、その特許請求の範囲の記載によれば、いずれもアノード、カソード及び発光層を含み、式L_(2)MX(式中、L及びXは、異なった特定の二座配位子であり、Mは、イリジウムである。)で表される燐光有機金属化合物を発光層に含む有機発光デバイス又はこれが組み込まれた表示装置であるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明をみると、そこには、本件特許発明が、式L_(2)MX(式中、L及びXは異なった二座配位子であり、Mは金属、特にイリジウムである。)の有機金属化合物、それらの合成及びあるホスト中のドーパントとして、有機発光装置の発光層を形成するために使用することに関するものである旨が記載されている(段落0001)。その上で、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、燐光では全ての励起子が発光に関与できるため、原理的に蛍光よりも高い効率で発光が得られることから、燐光の利用に成功することは有機EL装置の前途を約束するものである(段落0024、0025)との記載がある一方、多くの有機材料は一重項励起子からの蛍光を示すが、三重項による効果的室温燐光を出すことができるものは、ほんの僅かなものしか確認されていない(段落0006、0007)旨が記載されている。
したがって、本件特許明細書は、本件特許発明をするに当たり、理論上、燐光を発する有機金属化合物を発光材料として発光層に使用することにより、有機発光デバイスの発光効率を改善することができるにもかかわらず、極めて多数にわたる有機金属化合物のうち当該発光材料として発光層に使用できるものが、ごく限られた特定のものしか知られておらず、しかも、これらのうちIr(ppy)_(3)が8%というEL効率を示していたほかは、いずれもごく低いEL効率を達成するにとどまっていたという本件出願日当時の技術水準(甲第1号証、甲第5号証及び甲第6号証等参照。)を前提としているものと認められる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、上記技術水準を前提として、本件特許発明に使用される燐光を発する有機金属化合物について具体的かつ詳細に記載されている(段落0008、0038、0039、0046?0050、0052?0076、0079、0080、0104?0106及び0114)ところ、それらは、いずれも本件出願日前に電気エネルギー(電圧)を印加した場合に燐光を発する有機金属化合物として知られていたもの(甲第1号証に記載のイリジウム錯体であるIr(ppy)_(3)、甲第5号証に記載の特定のオスミウム(II)錯体及び甲第6号証に記載の特定のポルフィリン白金(II)(PtOEP))とは異なるものである。他方で、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、燐光の発光機序に関連して甲第1号証に言及している(段落0005、0019)ものの、甲第1号証に記載の発明によるEL効率(8%)や、これと同等以上のEL効率を発揮することの意義等について具体的な記載は何ら見当たらない。
したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明について、本件出願日当時に知られていた有機金属化合物とは異なるものを発光層に使用した有機発光デバイスに関するものとして説明しているものと認められ、本件出願日前に達成されていたものと比較してより高いEL効率を発揮するものとして説明するものとは認められない。

イ.上記したとおり、本件出願日当時における技術水準は、理論上、燐光を発する有機金属化合物を発光材料として発光層に使用することにより、有機発光デバイスの発光効率を改善することができるにもかかわらず、極めて多数にわたる有機金属化合物のうち当該発光材料として発光層に使用できるものがごく限られた特定のものしか知られていないというものであり、これらの有機金属化合物のうちの1例を除いてごく低いEL効率を示すにとどまっていた以上、当該1例(Ir(ppy)_(3))が8%というEL効率を示していたとしても、有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発する新たな有機金属化合物を得ることは、本件出願日当時において、それ自体、解決すべき技術的課題として成立し得るものであったと認められる。
そして、本件特許明細書には、本件発明の課題が必ずしも明確に記載されていないが、本件特許明細書は、上記技術水準を前提として、本件特許発明について、本件出願日当時に知られていた有機金属化合物とは異なるものを発光層に使用した有機発光デバイスに関するものとして説明しているものであるから、本件発明の課題は、「有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発する新たな有機金属化合物を得ること」であると認められる。

(3)特許法第36条第6項第1号の規定の充足性について
ア.前記したとおり、本件発明の課題は、「有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発する新たな有機金属化合物を得ること」であると認められる。そこで、以下では、このことを前提として、本件特許発明として特許請求の範囲に記載された発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否かを検討する。

イ.本件特許発明1?3の特許請求の範囲の記載には、式L_(2)MXで表される有機イリジウム錯体(Mは、イリジウム)が記載されているところ、そこでは、L及びXが異なった二座配位子であること、L配位子がsp^(2)混成炭素及び窒素原子によりM(イリジウム)に配置されたモノアニオン性二座配位子であること及びX配位子が、特定の2種類を除くO-O配位子又はN-O配位子のいずれかであることが特定されている。また、本件特許発明6、8、9、11及び12の特許請求の範囲では、L配位子が具体的に化合物名又は構造式によって特定されており、本件特許発明7及び10の特許請求の範囲では、X配位子が具体的に化合物名で特定されている。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明をみると、そこには、L配位子及びX配位子が上記の特許請求の範囲に記載のものが具体的に特定されており(段落0048、0049、図39)、さらに、これらの各配位子を組み合わせて得た16種類の式L_(2)MXで表される有機イリジウム錯体の製造方法が記載されている(段落0052?0076)ほか、特許請求の範囲から除かれた特定の2種類のX配位子の発光が不十分である旨が記載されている(段落0114)。
また、本件特許発明4及び5は、本件特許発明1?3のいずれかの発光層がホスト及び上記有機イリジウム錯体を含むドーパントを含むものであって、当該ホストとなる物質(CBPを含む。)が構造式によって特定されているものである。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明をみると、そこには、上記イリジウム錯体が発光層として働くホスト層中のドーパントとして働くことができる旨の記載があり、上記ホストとなる物質の構造式も記載されている(段落0008、0039、0046、0047)。
したがって、本件特許発明1?12を構成する有機イリジウム錯体(有機金属化合物)を含む化合物は、いずれも、本件特許明細書の発明の詳細な説明に具体的な記載があるといえる。

ウ.次に、本件特許発明は、いずれもアノード、カソード及び発光層を含み、式L_(2)MXで表される燐光有機イリジウム錯体を発光層に含む有機発光デバイス又はこれが組み込まれた表示装置である。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記16種類の式L_(2)MXで表される有機イリジウム錯体の発光スペクトル及びNMRスペクトルが示されており(図8?15、17?22、25?36)、このような発光が燐光であることがその寿命という根拠とともに記載されている(段落0079)ほか、式L_(2)MXで表される有機イリジウム錯体であれば発光がイリジウムとL配位子との間のMLCT遷移に基づくものであるか、又はその遷移と配位子間の遷移との混合に基づくものである旨が記載されている(段落0080)。当業者は、これらの遷移状態からの発光を燐光であると理解するから、上記記載から、式L_(2)MXで表される有機イリジウム錯体が燐光を発するものと理解できる。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、重金属原子の存在で生じるスピン軌道結合による摂動が起きると燐光が生じやすくなる旨(段落0006)が記載されているところ、イリジウムが重原子であることは、当業者に自明であるほか、蛍光を発するL配位子を組み合わせることで、イリジウム金属の強いスピン軌道結合を利用して効果的に燐光を発光させることができることが具体的な実施例とともに記載されている(段落0104?0106)。したがって、当業者は、これらの記載から、特にL配位子を有する有機イリジウム錯体を用いて効果的に燐光を発生させる作用機序を理解することができる。
さらに、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、これらの有機イリジウム錯体のうち、L配位子が2-フェニルベンゾチアゾールで、X配位子がアセチルアセトネートであるもの(BTIr)を発光層のドーパントとして使用し、CBPを発光層のホストとして使用したアノード及びカソードを含む有機発光デバイスに電気エネルギー(電圧)を印加した場合に、12%のEL効率を示す旨の実施例の記載がある(段落0010、0011、0041、0042、0091?0098)ほか、本件特許発明1?12の有機発光デバイスが組み込まれた表示装置等の具体例が記載されている(段落0117)。
したがって、当業者は、以上の本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、そこに記載の発明が電気エネルギー(電圧)を印加した場合に燐光を発するものであって、アノード、カソード及び発光層を含み、式L_(2)MXで表される有機イリジウム錯体を発光層に含む燐光有機発光デバイス又はこれが組み込まれた表示装置という本件特許発明が、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているものと理解することができる。

エ.以上に加えて、本件発明の課題は、前記アで述べたとおり、「有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発する新たな有機金属化合物を得ること」であるところ、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、前記イで述べたとおり、本件出願日前に燐光を発することが知られていなかった特定の有機イリジウム錯体が、その製造方法及び本件特許発明の他の構成とともに具体的に記載されているばかりか、前記ウで述べたとおり、当該有機イリジウム錯体を有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発することが、その作用機序とともに具体的に記載されているといえるから、本件発明の課題の解決が図られることを当業者は本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から認識できたものといえる。
したがって、本件特許発明として特許請求の範囲に記載された発明は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が本件発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであって、本件特許発明の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号にいう「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものである」ということができる。

オ.なお、本件特許発明1?13では「デバイスの層構造」及び「ブロッキング層」について特定しておらず、また、本件特許発明1?3、6?13では「ホスト材料」について特定しておらず、さらに、本件特許発明5では「CBP以外のホスト材料」を特定しているとしても、これらの構成は「アノード、カソード及び発光層を含む有機発光デバイス」として本件出願時において周知のものであり、このことは、甲第1号証、甲第5号証及び甲第6号証等の記載からも明らかである。すなわち、これらの構成は、発光材料との関係で適宜採用することのできる、単なる設計事項に属するものといえる。
そうすると、本件発明の課題が「有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発する新たな有機金属化合物を得ること」であることにかんがみれば、本件特許発明1?13において、「デバイスの層構造」、「ブロッキング層」及び「ホスト材料」について特定されていないか、または、「CBP以外のホスト材料」が特定されているとしても、当業者が本件出願時の技術常識に照らし当該課題を解決できると認識できる範囲内のものであるといえ、したがって、本件特許発明1?13が明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないということはできない。

(4)無効理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件特許明細書の特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を充足するものと認められるので、無効理由2(無効理由2-1及び2-2)に基づいて請求項1?13に係る発明についての特許を無効にすることはできない。

なお、本件特許発明が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を充足していないことを理由として無効にできないことは、本件無効審判事件についての先の審決の取消を請求した知財高裁平成23年(行ケ)第10234号事件の確定判決における裁判所の事実認定及び法律判断の内容からみて明らかである。(行政事件訴訟法第33条第1項)

2.無効理由4について
無効理由4は、前記したとおり、「本件特許明細書の発明の詳細な説明は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしていない」ので、「本件特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである」というものである。(審判請求書の七〔3〕(4))

より詳細には次のとおりである。(請求人が提出した口頭審理陳述要領書の5〔4〕)
<無効理由4-1>
本件特許明細書の発明の詳細な説明に具体的に記載されているものは、「アノード/ホール輸送層/発光層(ホスト・ドーパント)/ブロッキング層/電子輸送層/カソード」なる層構造のもののみであり、各輸送層がないもの又はブロッキング層がないものが記載されておらず、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

<無効理由4-2>
「L_(2)MX錯体」につき、本件特許明細書の発明の詳細な説明に具体的に記載されているものは、「BTIr」のみであり、他のものにつき記載されておらず、当業者が本件特許発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

(1)特許法第36条第4項に規定する要件
特許法第36条第4項には、発明の詳細な説明は、「その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に、記載しなければならない」旨が規定されている。

(2)特許法第36条第4項の規定の充足性について
ア.請求人が、特許法第36条第4項の規定する要件を満たしていないとする理由は、
「本件特許の請求項1の有機発光デバイスの層構造は、「アノード」「カソード」「アノードとカソードの間に配置された発光層」のみが規定されている。
本件特許の請求項4には、さらに「ホスト」及び「ドーパント」が規定されている。
本件請求項1?13は「ブロッキング層」を規定していない。
しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された有機発光デバイスの層構造は、ITO\30nm NPD\30nm CBP:BTIr\20nm BCP\20nm Alq_(3)\100nm Mg-Agのみである。
「アノード」、「カソード」及び「アノードとカソードの間に配置された発光層」のみの構造や、「アノード」、「カソード」、「アノードとカソードの間に配置された発光層」、「ホスト」及び「ドーパント」のみの構造は記載されていない。
また、発明の詳細な説明には「ブロッキング層」を有しない構造も記載されていない。」(無効理由4-1関連:審判請求書の七〔8〕(1))及び
「本件請求項1では「Lはsp^(2)混成炭素及び窒素原子によりMに配位されたモノアニオン性二座配位子である」と規定し、「X配位子がO-O配位子又はN-O配位子のいずれか」と規定している。
しかし、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された有機発光デバイスに適用したL_(2)MX錯体はBTIr(L配位子:2-フェニルベンゾチアゾール、X配位子:アセチルアセトネート)のみである。
BTIr以外のL_(2)MX錯体については、発明の詳細な説明において、有機発光デバイスに適用していない。」(無効理由4-2関連:審判請求書の七〔8〕(2))
というものである。

イ.ここで、上記した無効理由4に関する請求人の主張は、発明の詳細な説明において具体的に記載された唯一の実施例は、「アノード/ホール輸送層/発光層(ホスト・ドーパント)/ブロッキング層/電子輸送層/カソード」なる層構造のものであって、発光層に含まれるL_(2)MX錯体(ドーパント)は「BTIr」のものしかない(段落0095?0103及び段落0071)にもかかわらず、本件特許発明1?13においては、デバイスの層構成として「ホール輸送層」、「電子輸送層」及び「ブロッキング層」を有することを特定せず、[BTIr」以外の「L_(2)MX錯体」も発光層に含む有機発光デバイスを特定するものであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1?13を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではないことを主張しているものと解される。
しかし、物の発明において、請求項で特定する範囲全体にわたって実施例が必要とされるわけではないから、実施例が1つしかないことのみに依拠して特許法第36条第4項の規定を充足しないという結論を導くことはできない。また、本件特許発明1?13が、実施例以外のものについて実施することができないとする具体的な理由も見当たらない。

ウ.特許法第36条第4項の規定に関し、知財高裁平成22年(行ケ)第10247号判決では、
「特許制度は、発明を公開する代償として、一定の期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから、明細書には、当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。法36条4項が上記のとおり規定する趣旨は、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には、発明が公開されていないことに帰し、発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして、本件のような物の発明における発明の実施とは、その物を生産、使用等をすることをいうから(特許法2条3項1号)、物の発明については、その物を製造する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。」
と説示している。
したがって、この観点から、本件特許発明の有機発光デバイス又はこれが組み込まれた表示装置という物の発明について、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者がその物を製造することができるか否かについて検討する。
まず、前記1(3)イ及びウで指摘したように、本件特許発明1?12を構成する有機イリジウム錯体(有機金属化合物)を含む化合物は、いずれも本件特許明細書の発明の詳細な説明に具体的な記載があり、また、電気エネルギー(電圧)を印加した場合に燐光を発するものであって、アノード、カソード及び発光層を含み、式L_(2)MXで表される有機イリジウム錯体を発光層に含む燐光有機発光デバイス又はこれが組み込まれた表示装置という本件特許発明が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載されているものと当業者が明確かつ十分に理解することができる。(このことは、本件特許発明1?13が発明の詳細な説明に記載したものであるということを是認する上記無効理由2の判断に従うものである。)
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、式L_(2)MXで表される有機イリジウム錯体の合成方法について、塩化物架橋二量体L_(2)M(μ-Cl)_(2)ML_(2)を使用する方法が開示され(段落0040、0077、0078)、この方法により16種類の式L_(2)MXで表される有機イリジウム錯体が具体的に記載され(段落0054?0057、0059?0075)、これらの16種類の有機イリジウム錯体は、NMRスペクトル、発光スペクトル、X線回折で、同定されている(図8?15、17?23、25?36参照)。
この塩化物架橋二量体を使用する合成方法に関し、請求人は、口頭審理陳述要領書の5〔3〕(2-3)(C)において、
「甲第4号証(訳文p.1下から11-7行)には、「クロロ架橋オルトメタル化化合物である・・・[(L)_(2)Ir(μ-Cl)]_(2)(LH=2-フェニルピリジン)をα-アミノカルボン酸塩と反応させることにより、N,Oキレート錯体である・・・(L)_(2)Ir-NH_(2)C(H)(R)CO_(2)を得る。」と記載されている。
甲第4号証の[(L)_(2)Ir(μ-Cl)]_(2)はL_(2)M(μ-Cl)_(2)ML_(2)に該当する。また甲第4号証の(L)_(2)Ir-NH_(2)C(H)(R)CO_(2)はL_(2)MXに該当する。よってL_(2)M(μ-Cl)_(2)ML_(2)からL_(2)MXを合成する方法は甲第4号証に記載されている、または甲第4号証から当業者が容易に想到できる。」
と述べているとおり、当該方法は本件出願時において当業者に既に知られた方法であったことにかんがみれば、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から、式L_(2)MXで表される有機イリジウム錯体を製造することができないとする理由は存しないものといえる。
さらに、有機発光デバイスについても、構成する各層構造を含めてその製造方法を具体的に記載し(段落0095、0098?0102)、得られた有機発光デバイスに電圧を印加して発光することを実際に確認している(段落0010、0011、0041、0042、0096、0097)。
そうすると、本件特許発明1?13について、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者が製造することができないということはできない。

エ.請求人は、審判事件弁駁書の6〔4〕において、
「本件明細書の発明の詳細な説明の実施例で用いたL_(2)MXで示される燐光有機金属イリジウム化合物はビス(2-フェニルベンゾチアゾール)イリジウムアセチルアセトナートのみであり、本件請求項1-13には他の具体例が想定される。上記化合物以外はPL特性のみであり、本件特許の出願時の技術常識をもってしても高いEL特性を有する有機発光デバイスを得ることができるか否かを判断できない。」及び
「本件明細書の発明の詳細な説明ではL_(2)MX錯体が発光する理由が何ら記載されていない。L配位子、X配位子が有する置換基によってL_(2)MX錯体は発光しない場合がある。よって実際に合成されたL_(2)MX錯体以外のL_(2)MX錯体が発光するか否かは判断できない。」
と主張しているが、本件特許発明1?13は、前記無効理由2で判断したとおり、発明の詳細な説明に記載したものといえ、また、上記したとおり、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づき当業者が製造することができると判断できるものであるから、実施可能なものであるといえる。(なお、前記1(2)イで示したとおり、本件発明の課題は「有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発する新たな有機金属化合物を得ること」にあるものであって、「“高い”EL特性を有する有機発光デバイスを得る」ことにはないから、「“高い”EL特性を有する有機発光デバイスを得る」ことについての実施可能性を要求する必要はないものと認められる。)
そして、請求人は、実際に「高いEL特性を有する有機発光デバイス」が得られないことや「L配位子、X配位子が有する置換基によってL_(2)MX錯体は発光しない場合」について、具体的に指摘しているわけではないことから、請求人のこの主張は採用できない。
また、請求人が、審判事件弁駁書の6〔4〕において、
「発光色の調整についても、調整ができるX配位子はピコリネート(N-O配位子)、8-ヒドロキシキノレート(N-O配位子)のみで、acac(O-O配位子)、サリチルアニリド(N-O配位子)は調整ができない。本件請求項1?13には他の具体例が想定される。よってピコリネート(N-O配位子)、8-ヒドロキシキノレート(N-O配位子)以外のX配位子が発光色を調整できるか否かは判断できない。」
と述べている点についても、本件発明の課題が、前記1(2)イで示したとおり、「有機発光デバイスの発光層に使用した場合に燐光を発する新たな有機金属化合物を得ること」であるから、「発光色の調整」に関する点について、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載することは、そもそも求められていないものといえる。
その上、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、
「LとXを適切に選択することにより、L_(3)Mに対する錯体L_(2)MXの色の調節を行うことができる。例えば、Ir(ppy)_(3)及び(ppy)_(2)Ir(acac)の両方共510nmのλmaxを有する強い緑色発光を与える。しかし、X配位子がアセチルアセトンからではなく、ピコリン酸から形成されている場合、約15nmの小さな青色移行が存在する。」(本件特許明細書段落0014;段落0044もほぼ同旨)
と記載されているが、このことは、X配位子としてのアセチルアセトネートをピコリン酸(ピコリネート)に変更することで、発光色を変えられる(青色移行)ことを示したものと解される。同様のことが本件特許明細書段落0111?0112にも記載され、併せて、「これら三つの錯体の全てにおいて、我々は発光がMLCT及び相互L遷移から主に生じ、ピコリン酸配位子は金属軌道のエネルギーを変え、それによりMLCT帯に影響を与えるものと予想している。」(段落0112)という説明を加えている。さらに本件明細書段落0113には、X配位子をアセチルアセトネートから8-ヒドロキシキノレート(Q)に変更すると発光色を変えられる(赤色移行)ことが示されている。
なお、請求人は、「調整ができるX配位子はピコリネート(N-O配位子)、8-ヒドロキシキノレート(N-O配位子)のみで、acac(O-O配位子)、サリチルアニリド(N-O配位子)は調整ができない」と主張しているが、本件特許明細書の段落0014、0044、0111?0113における記載の趣旨は、「L_(2)IrX錯体におけるX配位子の変更又はL配位子の変更による色の調整」にあるものと解されるから、請求人の「IrL_(3)系からL_(2)IrX錯体への変更による色の調整」の観点からの主張は意味をなさないものである。
そして、請求人が審判事件弁駁書の6〔2-1〕(3)(i)にて、
「甲第1号証(p.6左欄18-20行)によると、Ir(ppy)_(3)の発光色は510nmである。そしてX配位子がN-O配位子である甲第4号証(p.192右欄32-35行)によると、その発光色は約515nmであり、5nmの発光色の移行が生じている。よってX配位子によって発光色を調整することは甲第1号証及び甲第4号証の記載から当業者が容易に予測可能である。
また2つのフェニルピリジン(L配位子)が配位しているイリジウム錯体において、当該イリジウムに配位している残りの一つの配位子が変化することにより、発光色の移行が生じるという効果は当業者の予測の範囲内である(例えば甲第10号証Table 5では[Ir(ppy)_(2)(hpbpy)]^(+)や[Ir(ppy)_(2)(c1pbpy)]^(+)のluminescence λmaxが異なっている。甲第11号証Table 1では[Ir(ppy)_(2)(dpt-NH_(2))]^(+)と[Ir(ppy)_(2)(bpy)]^(+)のluminecence λmaxが異なっている)。したがって、被請求人が主張する、式L_(2)MXの錯体における発光色の調整は、上記の効果を、式L_(2)MXの錯体に置き換えて、効果として主張しているに過ぎない。
さらにイリジウムに配位する配位子(L配位子)を修飾または変更すると、発光特性が変化するという効果は当業者の予測の範囲内である(例えば甲第3号証Table IでIr(ppy)_(3)、Ir(4-Me-ppy)_(3)等のλemが異なっている、甲第8号証Figure 5でIr(ppy)_(3)、Ir(thpy)_(3)の発光スペクトルが異なっている)。よってL配位子を修飾または変更することにより発光色を調整することは当業者が容易に予測可能である。」
と述べていることからみても、X配位子やL配位子の変更による発光色の調整は、本件出願時の技術常識に照らして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載から当業者が実施することができるものといえる。

オ.なお、審判長が、平成22年11月29日付け通知書のII.4(3)において、
「本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載につき検討すると、訂正後の本件特許に係る各請求項に記載された事項で特定される発明を当業者が技術的常識に照らして実施することができないとする事由が存するものとはいえない。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、少なくとも請求項に記載された事項を具備する場合に係る具体例が記載され、当該具体例のものが発光量子収率12%の発光デバイスとして機能したことも記載されている(【0010】など)。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、訂正後の本件特許に係る各請求項に記載された事項で特定される特許を受けようとする発明を当業者が技術的常識に照らして実施することができる程度に明確かつ十分に記載されていないとすることができない。」
と、無効理由4に基づいては本件特許を無効とすることはできない旨の暫定的な見解を示したが、請求人は、その後提出した平成23年1月7日付け上申書及び口頭審理陳述要領書において、上記合議体の暫定的見解に一切反論をせず、また、審判長が、同通知書において、請求人に対し、
「発明の効果の発現の有無にかかわらず、本件特許明細書の発明の詳細な説明が、本件訂正発明を技術的常識に照らして実施できるように記載されていないとする理由につき、必要に応じて挙証の上、具体的に説明されたい。」
と釈明を求めたにもかかわらず、請求人は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項に規定する要件を充足していない理由について何も説明をしていない。
このような状況からみて、請求人は、実質的に合議体の無効理由4に関する暫定的見解を受け入れ、無効理由4に基づいては本件特許を無効とすることができないことを実質的に認めているものと解される。

(3)無効理由4についてのまとめ
以上のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を充足するものと認められるので、無効理由4(無効理由4-1及び4-2)に基づいて請求項1?13に係る発明についての特許を無効にすることはできない。

3.無効理由1について
無効理由1は、「本件特許の請求項1?7、10及び13に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証?甲第17号証に記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない」ので、「本件特許は、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである」というものである。(審判請求書の七〔3〕(1))

より詳細には次のとおりである。(請求人が提出した口頭審理陳述要領書の5〔2〕)
<無効理由1-1>
本件特許発明1、2、4?7、10及び13は、甲第1号証に係る発明をを主たる引用発明とし、甲第5号証等に記載された事項を補助事実として甲第2号証に記載された事項を組み合わせて、当業者が容易に発明することができたものである。

<無効理由1-2>
本件特許発明1、3?6及び13は、甲第1号証に係る発明を主たる引用発明とし、甲第5号証等に記載された事項を補助事実として甲第4号証に記載された事項を組み合わせて、当業者が容易に発明することができたものである。

(1)刊行物に記載された事項
ア.甲第1号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第1号証には次の事項が記載されている。なお、甲第1号証は英語で記載されているところ、その日本語訳については請求人の提出した訳文を採用する。
【1a】「電気燐光に基づく高効率緑色有機発光デバイス」(タイトル)
【1b】「ホスト材料4,4'-N,N'-ジカルバゾール-ビフェニルにドープした緑色電気燐光材料のfac-トリス-(2-フェニルピリジン)イリジウム[Ir(ppy)_(3)]を用いた有機発光デバイスの特性について述べる。これらのデバイスのピーク外部量子効率及びピークパワー効率はそれぞれ8.0%(28cd/A)、31 lm/W示す。100cd/m^(2)で4.3Vの動作電圧を印加すると、外部量子効率は7.5%(26cd/A)、パワー効率は19 lm/Wとなる。この特性は、ホスト内の一重項及び三重項励起状態の双方がIr(ppy)_(3)に効率的に移動することで説明され、結果として内部効率が向上する。更に、Ir(ppy)_(3)の燐光減衰時間が短い(<1μs)ため、高駆動電流時における燐光体の飽和状態が緩和され、100000cd/m^(2)にてピーク輝度を得る。」(4頁本文1-9行、訳文1頁本文1行?2頁2行)
【1c】「近年における、白金ポルフィリンからの高効率赤色電気燐光の実証は有機発光デバイス(OLED)特性のブレークスルーを予兆していた。蛍光とは異なり、燐光は一重項及び三重項励起状態の双方を用いるので、100%の最大内部効率を達成する可能性を含んでいる。しかし、基準輝度100cd/m^(2)に対し、初期研究段階のポリフィリンの外部量子効率は2.2%である。この外部量子効率は実質的には低電流時の量子効率(5.6%)より低い。100cd/m^(2)での効率は同程度の彩度を持つ赤色蛍光色素に匹敵するレベルであるが、その燐光体は長い減衰時間によって妨げられ、発光サイトの飽和や高駆動電流下での効率の低下が起きる。その結果、燐光が本来持つ能力、つまり適度に高いパワー効率で10%程度の外部量子効率を実現することができない。」(4頁左欄1?17行、訳文2頁3?13行)
【1d】「今回、我々は緑色電気燐光材料であるfac-トリス-(2-フェニルピリジン)イリジウム[Ir(ppy)_(3)]を用いたOLEDについて述べる。三重項の短い寿命と適度なフォトルミネセンス効率という双方の要因の併発によって、Ir(ppy)_(3)系のOLEDの量子効率のピークを8.0%(28 cd/A)、パワー効率のピークを31 lm/Wとすることができる。」(4頁左欄下から13?8行、訳文2頁14?18行)
【1e】「蛍光はスピン対称性を保つ有機分子の輻射緩和に限定して起きる。このプロセスは非常に急速(およそ1ns)であり、典型的に一重項励起状態と基底状態間の遷移を起こす。反対に燐光は、対称性が保たれない「禁制」遷移、例えば三重項励起状態と一重項基底状態間の遷移により生じている。電気励起状態下では励起子は両方の対称状態で作られる。つまり、全ての励起子からルミネセンスを得ることで、純蛍光デバイスの場合に得られる効率よりも著しく高い効率が得られる可能性が出てくる。」(4頁左欄下から4行?右欄7行、訳文2頁21?27行)
【1f】「図1にエネルギー準位の提案図とOLEDに用いるいくつかの材料の分子構造式を示す。透明な導電性インジウムスズ酸化物をプレコートした清浄されたガラス基板上に、有機層が高真空熱蒸着(10^(-6)Torr)によって成膜される。厚さ400Åの4,4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニル(α-NPD)層はCBP中のIr(ppy)_(3)で構成されている発光層へ正孔を輸送する役割を持つ。電子輸送材料のトリス-(8-ヒドロキシキノリン)アルミニウム(Alq_(3))で作られた厚さ200Åの層はIr(ppy)_(3):CBP層に電子を輸送し、陰極でのIr(ppy)_(3)発光吸収を減らす働きをしている。直径1mmの開口をもつシャドウマスクを用いて、厚さ500ÅのAgキャップを備えた25:1 Mg:Agの厚さ1000Åの層から成る陰極を画定した。先にも述べられている通り、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(バソキュプロイン又はBCP)の薄膜バリア層(60Å)をCBPとAlq_(3)間に挟むことが、発光領域内に励起子を閉じ込めること、即ち、高効率保持に対して必要であることがわかっている。

図1:電気燐光デバイスのエネルギー準位提案図。最高被占分子軌道(HOMO)エネルギー及び最低空分子軌道(LUMO)エネルギーを示す(参考文献10を参照)。Ir(ppy)_(3)のHOMOレベル及びLUMOレベルはわかっていない。挿入図(a)はIr(ppy)_(3)、(b)はCBP、(c)はBCPの化学構造式をそれぞれ示す。」(4頁右欄下から3行?5頁左欄17行及びFIG.1、訳文3頁7?21行及び5頁下から10?6行)
【1g】「図2はいくつかのIr(ppy)_(3)系OLEDの外部量子効率を示している。ドーピングを施した構造では電流の増加に伴い、量子効率はゆっくり減少する。Alq_(3):PtOEP系の結果と同様に、ドーピングされたデバイスはIr(ppy)_(3):CBPの質量比が約6%?8%の時、最大効率(約8%)に達する。つまり、Ir(ppy)_(3):CBPのエネルギー移動経路はPtOEP:Alq_(3)と同様な経路、即ち、三重項の短距離のデクスター遷移を経由するホストからの経路だと思われる。Ir(ppy)_(3)の濃度が低い場合は、発光体はしばしば励起したAlq_(3)分子のデクスター遷移の半径から離れた場所に位置し、高濃度では凝集体の消光が増加する。なお双極子-双極子フォルスター遷移は三重項遷移に対して禁制であり、PtOEP:Alq_(3)系では、直接の電荷トラップは重要とみなされていない。
ドーピングを施したデバイスに加え、発光領域がIr(ppy)_(3)の均質な膜で構成されているヘテロ構造も作製した。純粋なIr(ppy)_(3)の効率の(約0.8%程度までの)低下が過渡減衰にみられ、寿命がたったの100ns程となり、単一指数関数挙動からかなり外れてしまう。BCPバリア層を設けない6%Ir(ppy)_(3):CBPデバイスとBCPバリア層を設けた6%Ir(ppy)_(3):Alq_(3)デバイスを共に示す。ここでは電流の増加に伴い極めて低い量子効率が上昇する様子が観察された。この挙動は、Alq_(3)へ励起子が移動すると、発光領域または陰極に隣接する領域のいずれかの非輻射性サイトが飽和することを示している。

図2:Ir(ppy)_(3):CBP発光層を用いたOLEDの外部量子効率。ピーク効率は質量比が6%のIr(ppy)_(3):CBPに対して観察される。100%Ir(ppy)_(3)デバイスは図1に示したデバイスと若干異なる構造を持つ。厚さ300ÅのIr(ppy)_(3)層を有しBCPブロッキング層を設けない。また、BCP層を設けず成長させた6%のIr(ppy)_(3):CBPデバイスの効率を示す。」(5頁左欄下から13行?右欄14行及びFIG.2、訳文3頁下から9行?4頁12行及び5頁下から5行?6頁1行)
【1h】「図4では、効率の最も高いデバイスにおけるIr(ppy)_(3)の発光スペクトルとCommission Internationale de L'Eclairage(CIE)座標を示している。ピーク波長はλ=510nm、半値全幅は70nmである。

図4:6%のIr(ppy)_(3):CBPのエレクトロルミネセンススペクトル。挿入図:CBP中のIr(ppy)_(3)と、蛍光緑色エミッタであるAlq_(3)及びポリ(p-フェニレンビニレン)(PPV)とをCommission Internationale de L'Eclairage(CIE)色度座標にて比較して示す。」(6頁左欄16?20行及びFIG.4、訳文4頁27?29行及び6頁5?8行)
【1i】「燐光特有の優れた性能を考慮すると、新規燐光体は綿密に調査する価値がある。」(6頁左欄下から6?5行、訳文5頁4?5行)
【1j】「これまで調査を行った燐光性化合物のうち、純粋な有機材料では、室温で強い燐光を示すためのスピン軌道カップリングが不十分である。純粋な有機燐光体の可能性を排除すべきではないが、最も有望な化合物は芳香族配位子を有する遷移金属錯体である可能性がある。遷移金属は一重項状態と三重項状態を混在させているので、項間交差を高め三重項励起状態の寿命を短くする。本研究で示したように、高性能デバイスには、適度なフォトルミネッセンス効率と約1μsの寿命で十分である。」(6頁右欄12?22行、訳文5頁15?21行)

イ.甲第2号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第2号証には次の事項が記載されている。なお、甲第2号証は英語で記載されているところ、その日本語訳については請求人の提出した訳文を採用する。
【2a】「発光性のロジウム及びイリジウムのモノ及びバイメタル1,3-ジケトン錯体」(タイトル)
【2b】「モノ及びバイメタルのロジウム(III)及びイリジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体系が調製され、特徴づけられている。そのすべての誘導体は媒体内で発光し、配位子内(IL)または金属配位子電荷移動(MLCT)遷移に特徴的な可視(λmax=480-650nm)発光スペクトルが見られる。IL及びMLCT発光は1,3-ジケトン配位子と関連する遷移を含む。これらの錯体の発光特性に対する金属(ロジウム/イリジウム)または置換基(R)の影響について議論する。」(本文1?11行、訳文の本文1?7行)
【2c】「



ウ.甲第3号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第3号証には次の事項が記載されている。なお、甲第3号証は英語で記載されているところ、その日本語訳については請求人の提出した訳文を採用する。
【3a】「新合成方法による一連の強い光還元剤の調製:置換2-フェニルピリジンを含むfacトリスオルトメタル化イリジウム(III)錯体」(タイトル)
【3b】「これまで、光物理学や光化学において、Pt(II)、Ir(III)、Ru(II)、Pd(II)およびRh(III)などのd^(6)およびd^(8)金属イオンのオルトメタル化錯体に関心が寄せられていることから、このような化学種を高い収率で調製するための合成方法が開発されてきた。しかし現在まで、2-フェニルピリジン(Hppy)のような配位子を含むトリスオルトメタル化錯体の場合にはよくあることだが、2つ以上の金属炭素結合を含むd^(6)金属錯体を単離させることは特に困難であった。そこで我々は、(Hppy)および置換2-フェニルピリジン(R-Hppy)配位子を含むfacトリスオルトメタル化Ir(III)錯体を、高い収率で合成する新たな方法を報告する。……。ここに報告する方法によれば、Ir(III)の出発材料としてIr(acac)_(3)(acac=2,4-ペンタンジオネート)を用いて、概して40%-75%の収率でfacトリスオルトメタル化錯体を得られる。」(1685頁右欄本文1行?1686頁左欄17行、訳文1頁本文1-18行)
【3c】「一般的な反応として、Ir(acac)_(3)(50mg)およびHppy(0.09mL)を脱気したグリセロール(5mL)に溶解し、溶液を窒素下にて10時間、還流状態に加熱した。冷却後、1MのHCl(30mL)を添加し、沈澱した生成物をガラスフィルターフリット上に収集した。この生成物を高温のジクロロメタンに溶解し、混合物を濾過した。その後、濾液に対しシリカゲルカラムを用いてフラッシュクロマトグラフィーを行い、暗色の不純物を除去した。クロマトグラフィー後の溶液にメタノールを添加した後、ジクロロメタンが蒸発するよう沸騰するまで加熱したところ、黄色の粉末の生成物が凝集して沈澱し、収率は45%であった。^(1)H NMR分析、吸収分析、発光分析、および質量分析により、生成物の正体はfac-Ir(ppy)_(3)であることが確認された。
表1にまとめた一連の置換フェニル錯体のfac-Ir(R-ppy)_(3)錯体の調製においてもこの方法を応用することができた。
表1.facトリスオルトメタル化Ir(III)錯体の発光データおよびサイクリックボルタンメトリによるデータ

^(a) 脱気したアセトニトリル中における室温での発光寿命。^(b) エタノール/メタノールガラス(体積1:1)中における77Kでの発光スペクトルの最短波長特性。^(c) サイクリックボルタモグラムによる[Ir(R-ppy)_(3)]^(+)/Ir(R-ppy)_(3)の半波電位、V vs SCE(内部基準E_(1/2)(Fc^(+/0))=0.41 V vs SCE)。」(1686頁左欄18-33行及びTable 1、訳文1頁19行?2頁2行及び3頁下から4行?4頁4行)
【3d】「

図1.Ir(acac)_(3)と2-フェニルピリジンの反応による、facトリスオルトメタル化Ir(III)錯体合成におけるIr-C結合のトランス効果の模式図」(1686頁右欄上Figure 1、訳文4頁5?7行)
【3e】「さらに、Ir-C結合のトランス配向効果により、Ir-C結合のトランスに位置するIr-O結合が選択的に不安定化する。不安定化した場所においてIr-N'結合が形成されると、入ってくる2-フェニルピリジンの初期結合が形成されるため、Ir-CおよびIr-N'結合の立体化学的な位置は、互いにシスであるIr-CとIr-C'、およびIr-NとIr-N'が、それぞれ互いにトランスになると予想される(図1)。」(1686頁右欄10?17行、訳文2頁17?22行)
なお、被請求人は、下線部について次の翻訳文を提示しているが(審判事件答弁書の7.2.2(2)ウ(20頁1-5行))、こちらが正しい翻訳であると解される。
「入ってくる2-フェニルピリジンの最初の結合が、その不安定化された部位でのIr-N'結合の形成から生じるので、予期される結果は、互いにシスであるIr-C結合、Ir-C'結合及びIr-N結合、Ir-N'結合と、Ir-C結合及びIr-N'結合とが互いにトランスの立体化学配置となるだろう(図1)。」
【3f】「fac-Ir(R-ppy)_(3)錯体(表1)のそれぞれの発光寿命は、室温における窒素飽和アセトニトリル中にて約2-3μ秒である。すべてのfac-Ir(R-ppy)_(3)錯体に、寿命および発光エネルギーの類似が見られることから、これらはIr(ppy)_(3)のようにそれぞれMLCT励起状態を経て発光することがわかる。」(1687頁左欄10?15行、訳文3頁9?13行)
【3g】「今後、我々は、これらfacトリスオルトメタル化Ir(III)錯体の励起状態における電子移動反応の特徴を探る。その研究により、facトリスオルトメタル化Ir(III)錯体の励起状態における還元力を十分に特徴づけることを目的とする。」(1687頁左欄23?26行、訳文3頁下から13?10行)

エ.甲第4号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第4号証には次の事項が記載されている。なお、甲第4号証は英語で記載されているところ、その日本語訳については請求人の提出した訳文を採用する。
【4a】「クロロ架橋オルトメタル化化合物である[(L)Pd(μ-Cl)]_(2)(HL=2-ベンジルピリジン、2-フェニルピリジン、アゾベンゼン)および[(L)_(2)Ir(μ-Cl)]_(2)(LH=2-フェニルピリジン)をα-アミノカルボン酸塩と反応させることにより、N,Oキレート錯体である(L)Pd-NH_(2)C(H)(R)CO_(2)および(L)_(2)Ir-NH_(2)C(H)(R)CO_(2)を得る。」(191頁Abstractの1?3行、訳文下から11?7行)
【4b】「α-アミノ酸およびその誘導体の有機金属錯体に関する研究を継続する中で、オルトメタル化錯体[(L)Pd(μ-Cl)]_(2)(LH=2-ベンジルピリジン、2-フェニルピリジン、アゾベンゼン)および[L_(2)Ir(μ-Cl)]_(2)(LH=2-フェニルピリジン)から調製したN,O-α-アミノアシダト化合物の合成および評価についてここに報告する。後者の蛍光イリジウム(III)錯体は強力な光還元剤である。」(191頁左欄下から8行?右欄2行、訳文2頁10?16行)
【4c】「クロロ架橋パラジウム(II)錯体およびクロロ架橋イリジウム(III)錯体をメタノール中のglyOH、L-alaOH、D-valOH、D-leuOH、L-pheOHおよびL-proOHのナトリウム塩と反応させることにより、化合物1-21を得た。
……

」(191頁右欄11行?192頁左欄18行、訳文2頁下から2行?3頁下から4行)
【4d】「遊離体である[(2-ピリジルフェニル-C^(1)N)_(2)Ir(μ-Cl)]_(2)のUV-vis吸収および錯体16-22のUV-vis吸収は非常に類似している。350-450nmにおける強い金属-配位子電荷移動帯が特徴的である。
錯体16-22は、室温においてでさえ、紫外光に曝された状態でDMSO溶液またはCH_(2)Cl_(2)溶液中で約515nmに強力な蛍光発光を示し、錯体18-21は日光に曝された状態で強力な蛍光発光を示す(実験部参照)。この蛍光発光はペプチドのマーキングに有用となりうる。」(192頁右欄28?36行、訳文5頁14?21行)
【4e】「3.実験
……。UV-vis:Kontron UVIKON 810およびUNICON 21。蛍光発光:Perkin-Elmer FS 3000。発光は吸収極大まで照射を行うことにより測定した。」(193頁右欄1?10行、訳文6頁12?19行)

オ.甲第5号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第5号証には次の事項が記載されている。なお、甲第5号証は英語で記載されているところ、その日本語訳については請求人の提出した訳文を採用する。
【5a】「遷移金属錯体の三重項金属-配位子電荷移動励起状態からのエレクトロルミネセンス」(タイトル)
【5b】「ある種のオスミウム(II)錯体、Os(CN)_(2)(PPh_(3))_(2)X(X=ビピリジン誘導体又はアントロリン誘導体)の三重項金属-配位子電荷移動(MLCT)励起状態からの発光は、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)マトリクスに混入させることによって向上する。インジウム-錫酸化物(ITO)で覆ったガラス/Os錯体:PVK/2-(4-ビフェニル)-5-(4-tert-ブチル-フェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)/Alという構造を有するセルを用いることにより、8Vを超える直流バイアス電圧で、安定した均一な赤色のエレクトロルミネセンスが観測される。」(245頁「Abstract」、訳文1頁「要約」)
【5c】「一般に、光化学において一重項及び三重項励起状態はどちらもスピン選択の統計に基づくものの、有機分子からのエレクトロルミネセンス(EL)は一重項励起状態によると考えられている。これは、大多数の有機分子は三重項励起状態からの発光量子収率が低く、EL発光に寄与しないためである。しかし、強い三重項状態発光(0.5を超えうる量子収率)を示す有機金属錯体もあり、このことは、こうした三重項励起状態材料を用いることによって高効率ELデバイスを設計する可能性を生み出している。既に知られている通り、遷移金属錯体(Ru、Os、Ir等)は中心金属と配位子の間に強い相互作用があるため、長い励起状態寿命及び励起波長に依存性のない量子収率により三重項状態の特性を示す金属-配位子電荷移動(MLCT)励起状態を示す。それらは熱的、化学的、光化学的に強力で、安定化を助け、デバイス寿命を伸ばす。スピン統計を考慮すると、(ELのように)不対ペアの組み合わせにより励起子を形成するには、二つの電荷キャリアのスピン半整数を合わせる4つの方法が考えられる。そのうち3つの方法では、合成スピンが1、すなわち三重項状態となり、一つの方法でのみスピン数0の一重項状態となる。それゆえ、一重項及び三重項状態の両方が同じ光ルミネセンス効率を有するなら三重項励起状態からのEL収率は三倍になることが予想される。本稿では遷移金属錯体の三重項MLCT励起状態からのELの初観察結果について報告する。」(245頁左欄2行?右欄4行「1.Introduction」、訳文1頁下から8行?2頁11行「1.序論」)
【5d】「報告されている文献の方法に従ってPPh_(3)をOsO_(2)(CN)_(2)Xと光化学反応をさせて、Os(CN)_(2)(PPh_(3))X(図1に記載の構造)を用意した。ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK.M_(n):1.0×10^(5)gmol^(-1))と2-(4-ビフェニル)-5-(4-tert-ブチル-フェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)をアルドリッチ社より購入しそのまま使用した。」(245頁右欄7?12行「2.1.Materials」、訳文2頁14?19行「2.1.材料」)
【5e】「Os(II)錯体がドープされたポリマー試料の吸収スペクトルを、島津製作所製UV-3100分光光度計を用いて記録した。発光スペクトルは、SPEX1900蛍光分光光度計を用いて記録した。」(245頁右欄下から7?4行、訳文2頁21?23行)
【5f】「使用したELセルと材料の分子構造を図1に示す。ELセルは、インジウム-錫酸化物(ITO)で覆ったガラス基板(30-50Ω□^(-1))、ITOで覆ったガラス基板上にクロロホルム溶液を用いてスピンコートで形成した膜厚の薄い(代表的には70nm)Os錯体/PVK(PVK層中に10wt.%のOs錯体)の発光層、PBDの膜厚の薄い(約12nm)電子輸送層、スピンコートで形成され、ドープされたポリマー膜上に高真空下(6.67×10^(-4)Pa未満)で形成したアルミニウム陰極、で構成されている。ELデバイスの電極面積は2×2mm^(2)とした。
EL発光をSPEX1900蛍光分光光度計で測定した。ルミネセンスはHandy model ST-86LA輝度計で測定した。測定は全て大気中、常温で行った。

図1.ELデバイスとOs(II)錯体の分子構造」(246頁左欄14?28行「2.3.The EL device fabrication」及びFig.1、訳文3頁3?13行「2.3.ELデバイスの作製」及び6頁8行)
【5g】「本研究で用いたOs(II)錯体は室温において高いルミネセンス量子収率(例えば、化合物4の脱酸素クロロホルム溶液中における発光量子収率は0.33)を示す。……
Os(II)錯体3の673nmでのルミネセンススペクトルも、三重項MLCT励起状態の典型的な特性を示している。……。錯体1?4の(MLCTに起因する)最大可視吸収は430-450nmの範囲において変動し、配位子の活性低下に依存性のある最大発光は600-670nmの範囲において変動したことが分かった。Os(II)錯体の電子構造と発光特性は、配位子の構造を変えることで制御することができる。……。Os(II)錯体のこれらの特性は、分子設計において、単に配位子を変えるだけで発光色を変化させ電荷注入及び輸送を向上させる可能性を提示している。」(246頁左欄下から2行?247頁左欄11行、訳文3頁15行?4頁4行)
【5h】「多くの研究者が発表するように、良好な形成特性で成膜するために注目されている手法としては、ポリマーマトリクス中で金属錯体を固定化する方法がある。錯体とポリマーマトリクス間の相互作用の理解が、有用なデバイスを作製するうえで重要な点である。図3に、固体膜中並びにポリスチレン(PST)及びPVKにドープされた状態の純Os(II)錯体3のフォトルミネセンス(PL)スペクトルを示す。固体状態のOs(II)錯体3は700nmにピークを有する比較的弱い発光を示しており、溶液中のものに比べると約30nm赤色側にシフトしている。固体状態では、Os(II)錯体に何らかの自己消光及び/又は凝集が起きていることは明らかである。」(247頁左欄15?27行、訳文4頁7?15行)
【5i】「単層デバイス(Os(II)錯体:PVKのみのデバイス)では駆動電圧8Vで、二層デバイス(発光層とAl電極の間に12nmのPBD層を挿入している)では10Vで、EL発光が観察された。単層デバイスと二層デバイスの発光強度の注入電流への依存度(L-I)を図4に示す。代表的な有機ELデバイスでは、発光強度は両デバイスとも注入電流とともに直線的に増加する。しかしながら、比量子効率(L-I曲線における傾き)はデバイスごとで異なる。二層デバイスの量子効率は単層デバイスより6倍以上大きい。この増加は電子注入の有効障壁が低くなったことに帰因すると思われる。このセルにおいて、PVKは高い正孔ドリフト移動度を有するため、正孔がITOからPVK層に注入される。……。単層デバイスにおいては、正孔は主として発光層に注入され、EL効率を低くする。PBDは電子輸送層において非常によく用いられる化合物である。したがって、Al/PBD/Os錯体:PVK/ITOという構造の二層デバイスでは、電子輸送層を用いることで電子注入性を高めることができ、EL効率を向上させる。この構造のEL効率はやや低い(0.1%未満)ものの、セル構造の最適化を行うことで強度は向上する。さらには、ドープした錯体の構造とその濃度によりPVK層の電荷輸送性が決定するので、EL効率の向上のためにはドーパント錯体とその濃度を適切に選ばなければならない。
二層デバイスのELスペクトル(図5)はOs(II)錯体/PVK膜のPLスペクトルとほぼ一致しており、このことから発光がOs(II)錯体のMLCT状態に起因することは確かである。錯体のビピリジン又はフェナントロリン配位子のΠ軌道は最低エネルギー空状態(LUMO)であるため容易に還元するはずであり、Al陰極から注入された電子の捕獲サイトになりやすい。反対に、錯体中のOs(II)イオンのd軌道は最高エネルギー充填状態(HOMO)であるため酸化サイトとなりやすい。このため、捕獲された正孔がITOから注入される。捕獲された電子及び正孔が錯体中で再結合し、最低三重項MLCT励起状態からのEL発光に至る。」(247頁左欄下から3行?248頁左欄16行、訳文4頁下から2行?5頁27行)
【5j】「初めに、一連のOs(II)錯体のPL特性と電子構造について調査した。発光層としてOs(II)錯体/PVKを用いたELデバイスを用意した。ITO/Os錯体:PVK/Al及びITO/Os錯体:PVK/PBD/Alセルを用いることにより、Os(II)錯体の三重項MLCT状態からのEL発光を観測した。我々の研究結果は、このような高い三重項状態のPL効率を有する材料を有機ELデバイスの発光層として用いることができることを示しており、そうすることによって材料の幅を広げEL効率を高める新たな手法を提示している。」(248頁左欄下から6行?右欄4行「4.Conclusions」、訳文5頁下から6行?6頁2行「4.結論」)

カ.甲第6号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第6号証には次の事項が記載されている。なお、甲第6号証は英語で記載されているところ、その日本語訳については請求人の提出した訳文を採用する。
【6a】「有機エレクトロルミネッセンス素子からの高効率燐光発光」(タイトル)
【6b】「有機発光素子のエレクトロルミネッセンス効率は蛍光色素導入により改善する事ができる。ホストから色素へのエネルギー移動は励起子経由で起こる。しかし1重項スピン状態だけが蛍光発光を誘起している。これらは全励起状態の中で1重項発光は小さな割合(約25%)にすぎない(残りは3重項状態)。しかしながら、燐光色素は、1重項状態と3重項状態の両方から生じて発光効率を改善する手段を提供している。ここでは、我々は、燐光色素2,3,7,8,12,13,17,18-オクタエチル-21H,23H-ポルフィン白金(II)(PtOEP)をドープしたホスト材料の中で、1重項状態と3重項状態の両方からの高効率な(90%以上の)エネルギー移動を報告している。我々のドープしたEL素子はピーク外部量子効率4%とピーク内部量子効率23%を持つ飽和した赤色発光を生じている。燐光色素を用いて達成可能な発光効率により、有機材料に対する新規の応用を導き出す事ができる。」(151頁左欄本文1?16行、訳文1頁本文1?12行)
【6c】「赤色発光の燐光色素として比較的よく研究されているのはPtOEPである。ポルフィン錯体は酸素検出に有用な長寿命3重項状態を持つ事で知られている。ポルフィン環の中に白金を加える事でスピン軌道結合を増加させて燐光の寿命を減らす。3重項状態は更に1重項特性を得る。」(151頁右欄9?14行、訳文2頁15?18行)
【6d】「PtOEPの性能を考慮すれば、青色や緑色のスペクトル領域で発光する他の燐光色素もまたディスプレイ用途に向けての魅力的な研究分野を与えてくれる。」(153頁右欄本文下から4?1行、訳文5頁7?9行)

キ.甲第7号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第7号証には次の事項が記載されている。なお、甲第7号証は英語で記載されているところ、その日本語訳については請求人の提出した訳文を採用する。
【7a】「fac-Ir(ppy)_(3)の吸収スペクトルと発光スペクトルを図1に示す。77Kでエタノール/メタノールガラス(4:1v/v)において発光寿命は5.0μsと観測された。トルエンまたはアセトニトリルにおける氷結-膨張-解凍の繰り返し後、常温条件のもとでは2.0μsもの発光寿命が得られたが、通常のCH_(2)Cl_(2)においては発光寿命がわずか100nsであった。この錯体は脱酸素CHCl_(3)、CCl_(4)においてと同じように脱酸素CH_(2)Cl_(2)において光活性を有することがわかり、励起状態の光化学消光はCH_(2)Cl_(2)で観測された短寿命に少なくとも一部関与していることが確認できた。通常のトルエン溶液では光活性が示されず、注意深く脱酸素化された条件のもとで発光量子収率は0.4±0.1と観測された。このことは、通常のトルエン溶液では放射寿命が約5μsであることを示し、放射減衰速度への温度と溶媒による影響がわずかである場合、77Kエタノール/メタノールガラスにおいて観測された5μsの寿命は77Kにおけるほぼ一貫した発光収率を示唆する。この放射減衰速度は発光励起状態のMLCTに帰属することを示す。

図1 トリス(2-フェニルピリジン-C^(2),N')イリジウム(III)の吸収スペクトルと発光スペクトル。トルエンにおける295K(-)での吸収、エタノール/メタノールガラス(容量で4/1)における77K(- - -)での発光、トルエンにおける295Kでの発光(- - - -)。」(1431頁左欄下から2行?右欄下から9行及びFigure 1、訳文2頁下から14行?最下行及び4頁8-11行)

ク.甲第8号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第8号証には次の事項が記載されている。なお、甲第8号証は英語で記載されているところ、その日本語訳については請求人の提出した訳文を採用する。
【8a】「facialトリスシクロメタル化錯体である、fac-[Rh(ppy)_(3)](ppyH=2-フェニルピリジン)、fac-[Ir(ppy)_(3)]、およびfac-[Ir(thpy)_(3)](thpyH=2-(2-チエニル)ピリジン)の一般的な方法による合成について述べる。これらの錯体の立体配座を、^(1)H NMRスペクトルを基に考察する。fac-[Ir(thpy)_(3)]については、室温での結晶構造を示す:化学式C_(27)H_(18)N_(3)S_(3)Ir、立法晶系、空間群Pa3、Z=8、a=16.872(4)Å、V=4803(3)Å。その励起状態特性を、異なる媒体における吸収・発光・狭線化発光分析法により調べる。ポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)に含まれたfac-[Rh(ppy)_(3)]およびfac-[Ir(thpy)_(3)]の最低励起状態は、それぞれ、21500および18340cm^(-1)の配位子中心^(3)π-π^(*)遷移に対応する。一方、fac-[Ir(ppy)_(3)]では、金属配位子間電荷移動(^(3)MLCT)最低励起状態が見られる。電荷移動特性が^(3)π-π^(*)最低励起状態に混在していることの証拠は、発光減衰時間の短さにより得られる。」(545頁本文1-10行、訳文1頁本文1-16行)
【8b】「PMMA中の錯体の発光スペクトルを図5に示す。室温ではfac-[Rh(ppy)_(3)]ははっきりしたバンドを示す。21400および20100cm^(-1)におけるそれぞれ第1および第2の最大値は、おおよそ同じくらいに強い。9Kでは、その構造はより顕著に現れ、第1の最大値は他の最大値よりも明らかに強くなり、21530cm^(-1)にまでわずかにエネルギーシフトしている。
室温におけるfac-[Ir(ppy)_(3)]の発光スペクトルは広く、左右に非対称のバンドで構成され、強度は19600cm^(-1)で最大値をとる。9Kにまで温度を下げると22000cm^(-1)に新たなバンドが現れる。一方、広いバンドの形状やエネルギーは温度の低下による影響をほとんど受けない。
fac-[Ir(thpy)_(3)]のはっきりした発光バンドは、ppy-サンプルと比べて約3000cm^(-1)ほど赤色シフトし、18340cm^(-1)における第1の最大値は、室温においても9Kにおいても、ほとんどの強度が見られる。このバンドは、温度の変化による影響を最も受けにくい。低温では、構造のより良い解析ができるが、バンドエネルギーやバンドの形状には変化が見られなかった。

図5.T=9K(?)および室温(…)におけるポリ(メチルメタクリレート)(PMMA)中のfac-[Rh(ppy)_(3)]、fac-[Ir(ppy)_(3)]、およびfac-[Ir(thpy)_(3)]の発光スペクトル。」(547頁右欄16-35行及び548頁左欄Figure 5、訳文6頁2-16行及び11頁2-4行)
【8c】「吸収スペクトルは似ているものの、3つの錯体の発光バンドの形状やエネルギーは全く異なる。これは、それらの最低励起状態が違った性質のものであることを示している。fac-[Ir(thpy)_(3)]のはっきりした形のある発光バンドは、[Ir(thpy)_(2)bpy]^(+)および[Ir(thpy)_(2)en]^(+)の発光バンドと類似したスペクトル位置で発生し、似た形状をしている。[Ir(thpy)_(2)bpy]^(+)および[Ir(thpy)_(2)en]^(+)の発光バンドは、thpy-配位子上の^(3)π-π^(*)遷移に起因している。同様に、fac-[Ir(thpy)_(3)]の最低励起状態は、thpy^(-)上の^(3)π-π^(*)遷移のために起こると我々は考える。同様の論拠をfac-[Ir(ppy)_(3)]の発光スペクトルバンドの帰属にも用いることができる。19600cm^(-1)に最大値を持つ主要な広いバンドはCH_(2)Cl_(2)溶液中の[Ir(ppy)_(2)en]^(+)の最大値とよく一致し、これはIr→ppy^(-) ^(3)MLCT遷移とみなせる。従って、室温でのPMMA中のfac-[Ir(ppy)_(3)]の最低励起状態はppy^(-)への^(3)MLCT励起のためであると言える。低温スペクトルでは22000cm^(-1)でいくらか狭い別のバンドが発生したことにより、低温においては2つの異なった発光状態が存在することがわかる。同じ現象が[Ir(ppy)_(2)bpy]^(+)および[Ir(ppy)_(2)en]^(+)でも観察され、互いに近接する2つの励起状態、実際には1つは^(3)π-π^(*)、1つは^(3)MLCTによって説明された。後者のエネルギーは周囲の粘度への依存性が前者より高い。温度低下によって、媒体の剛性が増加し、^(3)MLCTはエネルギーバンドを上げる。これに好適に続いて、rigidochromicバンドがシフトする。ある段階で^(3)MLCT状態は^(3)π-π^(*)状態と交差し、その後10Kにて発光状態となる。ガラス中での広く不均一な場所に分布しているため、交差点のどちらの側にも錯体がある。その結果、2種類の発光の重ね合わせが観察される。このため我々は、22000cm^(-1)のバンドは、対応する^(3)MLCT発光に近い^(3)π-π^(*)(ppy^(-))発光と同定できる。
低温での発光バンド形状やバンドエネルギーに基づき、fac-[Rh(ppy)_(3)]の最低励起状態は、ppy^(-)上の^(3)π-π^(*)励起と同定する可能性が高い。室温にて強度分布は異なり、弱く広い^(3)MLCTバンドからの寄与を考慮から外すことはできない。fac-[Rh(ppy)_(3)]およびfac-[Ir(thpy)_(3)]の最低励起状態の^(3)π-π^(*)励起への帰属は狭線化発光スペクトルにより立証される。サイトセレクティブ励起により大幅に狭まるのはπ-π^(*)遷移のみであり、一方、^(3)MLCT遷移の場合、励起プロセスの選択性は減少する。狭線化発光スペクトルの振動サイドバンドパターンは、配位子の種類ごとに大変特徴的である。混合配位子錯体においては、この事実により活性配位子、すなわち、どの配位子に励起があるかを確認できる。また、電荷移動特性と^(3)π-π^(*)状態との混在は、サイドバンドパターンにおける金属-配位子振動の観察結果に反映される。fac-[Ir(ppy)_(3)]中にドープされたfac-[Ir(thpy)_(3)]の狭化発光スペクトルでは、これらの金属-配位子サイドバンドが容易に観察される。^(3)π-π^(*)状態と近傍のMLCT状態とがかなり混在している証拠は、発光寿命によっても得られる。fac-[Ir(ppy)_(3)]では、ほぼ単一の発光量子収量が77Kで推定されており、類似のビスシクロメタル化錯体の研究により、これらの系の低温での高い量子収率が確認されている。従って、寿命は本質的に放射性であり、^(3)π-π^(*)およびMLCT状態の混在が、発光寿命の低下に直接的に反映される。fac-[Ir(ppy)_(3)]中にドープされたfac-[Ir(thpy)_(3)]の10Kでの寿命は22μs、すなわち[Ir(thpy)_(2)bpy]^(+)および[Ir(thpy)_(2)en]^(+)と同じような値である。fac-[Ir(ppy)_(3)]中に2つの状態が強く混在していることは前述の通りである。PMMA中のfac-[Rh(ppy)_(3)]の77Kでの45μsである寿命は、これまで報告されているRh^(3+)錯体の^(3)π-π^(*)遷移に関しては最も短い放射寿命である。[Rh(ppy)_(2)bpy]^(+)の同温度での寿命は170μsである。^(1)MLCTおよび^(3)π-π^(*)状態の混在の度合いはそれらのエネルギー分離に依存するため、このことにより金属に結合する炭素原子の数が増加するにつれMLCT遷移のエネルギーが低下するという原則の確証を得ることができる。しかしながら、この原則を混合配位子錯体に適用すると、個々の配位子におけるドナー-アクセプター特性の組み合わせや、一重項-三重項分裂を考慮しなければならない。たとえば、配位結合する炭素をたった2つしか持たない[Ir(thpy)_(2)bpy]^(+)では、室温のCH_(2)Cl_(2)溶液中にてIr→bpy^(3)MLCT最低励起状態を示す一方、配位結合する炭素を3つ持つfac-[Ir(thpy)_(3)]はこの条件にて^(3)π-π^(*)発光を示す。
fac-[Rh(ppy)_(3)]に比べ、fac-[Ir(thpy)_(3)]中の第1の^(3)π-π^(*)励起状態が約3000cm^(-1)低下することは、2つの要因による。第1に、fac-[Ir(thpy)_(3)]の^(1)π-π^(*)吸収バンドもまた約2000cm^(-1)低下していることを我々は指摘する(図4)。もう一つの違いはfac-[Ir(thpy)_(3)]中のπ-π^(*)励起の一重項-三重項分裂がより大きいことに起因しているはずである。この分裂は励起したπ-π^(*)立体構造における電子交換積分により決まる。fac-[Ir(thpy)_(3)]およびfac-[Rh(ppy)_(3)]の挙動は、[Ir(ppy)_(2)bpy]^(+)および[Ir(thpy)_(2)bpy]^(+)の挙動とそれぞれよく似ていることが観察された。」(549頁右欄12行?550頁右欄6行、訳文8頁2行?9頁下から14行)

ケ.甲第9号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第9号証には次の事項が記載されている。なお、甲第9号証は英語で記載されているところ、その日本語訳については請求人の提出した訳文を採用する。
【9a】「Ir(2-フェニルピリジン-C^(2),N^(1))_(3) 遷移金属錯体に関して、eclの研究の多くはRu(bipy)_(3)^(2+)およびその誘導体を用いて行われてきた。最近、キング、スペラン、およびワッツが、Ru(bipy)_(3)^(2+)に対応する有機金属であると考えうるIr(ppy)_(3)(ppy=2-フェニルピリジン-C^(2),N^(1))の発光特性について報告した。

MLCT型でもあるイリジウム錯体の最低励起状態(=2.5eV)は、効率的に発光する。量子収量は、室温で、酸素を除去されたトルエンにおいて約0.4であった。その錯体は、SCEに対してE_(1/2)=+0.7Vで酸化することができる。還元については報告されなかったが、E_(1/2)=-1.9Vで起こると推定することができる。この電位はPt(ppy)_(2)の還元に関して得られた。この場合、還元は、オルトメタル化ppy^(-)配位子にて起こるともみなされた。
還元および酸化のための電位差(ΔE=2.6V)により、消滅反応において励起Ir錯体を生成するのに十分なエネルギーが供給される。4Vの交流電圧および10Hzにて、我々はアセトニトリル中のIr(ppy)_(3)の弱いeclを観測した。以下の反応順序により、この結果を説明することがある:
Ir(ppy)_(3)-e^(-)→Ir(ppy)_(3)^(+) 陽極
Ir(ppy)_(3)+e^(-)→Ir(ppy)_(3)^(-) 陰極
Ir(ppy)_(3)^(+)+Ir(ppy)_(3)^(-)→Ir(ppy)_(3)^(*)+Ir(ppy)_(3) 消滅
Ir(ppy)_(3)^(*)→Ir(ppy)_(3)+hν発光
Ru(bipy)_(3)^(2+)の効率的なeclと比較して、Ir錯体の低いecl強度は、かなり驚くべきことである。」(160頁5行?最下行、訳文6頁21行?7頁15行)

コ.甲第10号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第10号証には次の事項が記載されている。なお、甲第10号証は英語で記載されているところ、その日本語訳については請求人の提出した訳文を採用する。
【10a】「新たな機能化されたポリピリジン配位子である、4'-(4-クロロフェニル)-6'-フェニル-2,2'-ビピリジン(clpbpy)、4'-(4-トリル)-6'-フェニル-2,2'-ビピリジン(tpbpy)、及び4'-(4-カルボキシフェニル)-6'-フェニル-2,2'-ビピリジン(cpbpy)と、周知のものである4'-(4-ヒドロキシフェニル)-6'-フェニル-2,2'-ビピリジン(hpbpy)及び4'-(4-トリル)-2,2':6',2"-テルピリジン(ttpy)は、新しい一連のイリジウム(III)シクロメタル化化合物[Ir(ppy)_(2)(HL-X)][PF6](ppyは2-フェニルピリジンのモノアニオン;HL-X=hpbpy(1)、clpbpy(2)、tpbpy(3)、cpbpy(4)及びttpy(5))を作製するために用いられてきた。これらの種はIRと^(1)H NMRによってキャラクタリゼーションが行われ、4の結晶構造も示され議論されている。これらの金属錯体はすべて、主にIr-(C^(-))σ-結合に由来する軌道を中心とした酸化プロセスと、配位子中心還元プロセスとを示す。これらの錯体はすべて、剛性マトリクス中では77K、液体溶液中では298Kにおいて、^(3)MLCT準位からの発光を示す。酸化還元及び吸収特性は、自由に回転する4'-フェニル環の遠隔置換基の影響はほとんど受けていないが、一方では、置換基が変わると、発光特性は微調整されていることが分かる。結果から分かるのは、錯体5を除外すれば、この一連の錯体は弱結合極限における無放射減衰の「エネルギーギャップ則」に従っていることである。興味深いことに、室温でのln k_(nr)と発光エネルギーの間の直線関係の傾斜は、他の金属を含有する他の発光性ポリピリジン錯体について報告されているものより著しく緩やかである。発光量子収率が高く、ポリピリジン配位子骨格に機能性があることから、報告する錯体は、光活性で酸化還元活性の多成分超分子系を構築するのに有用な要素であると考えられるだろう。」(2250頁本文1-16行、訳文1頁本文1行?2頁8行)
【10b】「

」(2251頁右欄上Scheme 1)
【10c】「積分、J値、及び等核デカップリング実験に基づいて、3組の信号を試験的にHL-X配位子(I)の芳香環A、B、Dのプロトンに割り当てた。錯体5のNMRのデータからはまた、錯体5は、1-4と同じ一連の同型構造に属しており、三座のttpy配位子が、キレート型における二つの窒素ドナーのみを介して結合している可能性があるということを確認した。
最終的な構造帰属は、錯体4の回折法での研究に依拠していた(下記参照)。この研究によって二つの結論を導き出すことができた。一つは、本実験の条件ではHL-X配位子のフェニル環(C-環)のメタル化反応は起こらなかったことだ。もう一つは、これらモノマー錯体中のメタル化ppy配位子では、Ir-C結合の相互シソイド配置、つまり、二量体の前駆体の顕著な構造的特徴が保たれていた。

」(2253頁右欄6行?下から25行、訳文10頁下から10行?11頁1行)
【10d】「発光特性
イリジウム(III)シクロメタル化化合物に関しては、MLCT及びSBLCT発光がともに報告されている。この2種類の発光を区別するのは、実験的見地から容易ではない。主な違いは、通常、基底状態に対し、SBLCT励起状態がMLCT状態に比べてより歪んでいることに関係していると考えられる。そのため、298Kの液体溶液から77Kの剛性マトリクスに移る際、SBLCTエミッターは、純粋なMLCTエミッターより大きい半値幅を有し、且つより大きなブルーシフトを有する発光スペクトルを呈する。1-5では、典型的なシフトは2400cm^(-1)(典型的なMLCTエミッターである[Ir(ppy)_(2)(dpt-NH_(2))]^(+)が示す2200cm^(-1)に非常に近い)であり、室温での発光スペクトルの半値幅は1700cm^(-1)付近(通常1500-2000cm^(-1)である、ルテニウム(II)及びオスミウム(II)ポリピリジン錯体のMLCT発光スペクトルの半値幅に近い)である。この証拠に基づくと、新しい錯体の発光は三重項MLCT準位に左右されていると考えられる。いずれにしてもこれらの準位は、酸化還元結果で示唆されているように、SBLCTの一部の特性を有する。
5以外を考えると、発光エネルギーは77Kと298Kの両方において、4<2<3<1の順に増加する。これは、4'-フェニル環上の遠隔置換基の受容能力、アクセプターカルボキシル及び塩化物基からドナーメチル及びヒドロキシル置換基に向かって減っているとされている、によって説明することができる。良好なアクセプター置換基の存在により、配位子の配位bpyサブユニットが減少しやすくなり、そのため、MLCT状態が低エネルギーに移動する。1-4に関して、励起状態エネルギーが低減するにつれ77Kでの発光寿命が短くなることは注目に値する。特に、錯体のln(1/τ)と77K発光極大(発光状態のエネルギーに概略等しい)との間には直線関係(図5)がある。還元すれば、1/τが無放射減衰の速度定数であるk_(nr)と等しいと仮定すると、一連の錯体1-4はエネルギーギャップ則に従う。この則は、ルテニウム(II)、オスミウム(II)、及びレニウム(I)MLCTエミッターで既に実証済であるが、イリジウム(III)発光団では、違う結果が出るはずはないが未だ立証されていない。エネルギーギャップ則の本質としては、無放射減衰を進める促進モードはそれぞれの発光団で同一であることと、遷移のフランク・コンドン因子は状態間のエネルギーギャップにのみ依存すること、である。5以外の、ここで検討した全ての錯体がその則に従うということは、失活動力学が考慮される限り、5の励起状態が1-4とは違うということを示唆している。これは、1-4のHL-Xの6'-フェニル環が5のピリジン環に置き換わることにより、発光MLCT準位が摂動を受け、(i)基底状態と励起状態との間の電子カップリング、(ii)促進モードの振動エネルギー、または(iii)基底状態に対する励起状態の歪み、のいずれかの変化をもたらすことを意味している。MLCT領域において1-4とは異なる5の吸収スペクトルによって、摂動の存在も示唆される(上記参照)。励起状態ダイナミクスは、励起状態のエネルギー準位に特段の影響がない場合であっても影響を受けるだろうと提言されている。そのため、酸化還元と吸収データ(の一部)とがそれぞれ同じくらい影響を受けないのは当然のことであろう。
……
ここで検討した錯体のk_(nr)の励起状態エネルギーへの依存が他のMLCTエミッターに比べて弱いのは、失活プロセスに伴う振動電子状態の波動関数に明らかな違いがあることを示唆しているそのような違いは、例えば、それに伴う振動電子状態における様々な支配受容モード及び/又は様々な非調和特性によって生じうる。……

図3
室温でのアセトニトリル液体溶液中の錯体1の吸収スペクトル。挿入図は、(a)77KでのMeOH/EtOH4:1(v/v)混合物中(b)室温でのアセトニトリル中、の同じ化合物の修正されていない発光スペクトルを示す。修正された発光極大は表5に示されている。
表5
吸収及び発光特性。特に断りのない限り、データは室温でのアセトニトリル脱酸素溶液中のものである。

^(a) MeOH/EtOH4:1(v/v)中。^(b) 298Kでの放射減衰の速度定数。k_(r)=Φ/τで計算。^(c) 298Kでの無放射減衰の速度定数。k_(nr)=1/τ-k_(r)で計算。

図4
室温でのアセトニトリル液体溶液中における錯体5の吸収スペクトル。挿入図は、(a)77KでのMeOH/EtOH4:1(v/v)混合物中(b)室温でのアセトニトリル中、での同じ化合物の修正されていない発光スペクトルを示す。修正された発光極大は表5に示されている。」(2255頁右欄下から7行?2258頁右欄1行、2256頁右欄Figure 3、2257頁Table 5及び同頁左欄Figure 4、訳文15頁7-21行及び18頁9-23行)

サ.甲第11号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第11号証には次の事項が記載されている。なお、甲第11号証は英語で記載されているところ、その日本語訳については請求人の提出した訳文を採用する。
【11a】「二つの新規シクロメタル化Rh(III)及びIr(III)錯体を合成し、それらの吸収スペクトル、発光特性(剛性マトリックスにおいては77K、流体溶液においては室温)、及び電気化学的挙動を調べ、他の類似するRh(III)及びIr(III)シクロメタル化種と比較した。新規化合物は[Rh(ppy)_(2)(dtp-NH_(2))](PF_(6))(1)及び[Ir(ppy)_(2)(dtp-NH_(2))](PF_(6))(2)(ppy=フェニルピリジンアニオン、dpt-NH_(2)=4-アミノ-3,5-ビス(2-ピリジル)-4H-1,2,4-トリアゾール)である。これら化合物の吸収スペクトルは紫外領域における強い配位子中心帯(10^(4)-10^(5)M^(-1)cm^(-1)の範囲にあるε_(max))及び可視領域におけるやや強い金属-配位子電荷移動帯(10^(3)-10^(4)M^(-1)cm^(-1)の範囲にあるε_(max))で占められている。2では+1.23V(vsSCE)で可逆酸化が起こり、それは金属中心dπ軌道からの電子除去によるものである一方、1ではより正に大きい電位(E_(peak)=+1.51V(vsSCE))で不可逆酸化が観測され、それは金属-配位子(C^(-))σ結合軌道からの電子除去によるものである。どちらの錯体も剛性マトリクスにおいて77Kで発光する(1,λ_(max)=458nm,τ=160μs、2,λ_(max)=475nm,τ=5.8μs)が、Ir化合物のみが流体溶液において室温で発光する(λ_(max)=560nm、τ=870ns、Φ=0.246)。Rh種は発光が金属摂動三重項ppy中心励起状態に由来する一方、Ir化合物の発光は三重項MLCT準位による。得られた結果は、ビス(ピリジル)トリアゾール誘導体架橋に基づき、Ir(III)及びRh(III)シクロメタル化構成要素を含む光活性及び酸化還元活性多核化合物生成への一歩である。」(541頁本文1-16行、訳文1頁本文1行?2頁4行)
【11b】「ここで我々は、3,5-ビス-(2-ピリジル)-1,2,4-トリアゾール部分をポリピリジン配位子として有する二つの新規Ir(III)及びRh(III)シクロメタル化種の合成、吸収スペクトル、発光特性、及び電気化学的挙動を報告する。研究した錯体は[Rh(ppy)_(2)(dtp-NH_(2))]^(+)及び[Ir(ppy)_(2)(dtp-NH_(2))]^(+)(ppy=2-フェニルピリジンアニオン、dpt-NH_(2)=4-アミノ-3,5-ビス(2-ピリジル)-4H-1,2,4-トリアゾール、これらの配位子の構造式については図1を参照)である。

図1.配位子の構造式。」(541頁右欄4-11行及びFigure 1、訳文2頁下から12-5行及び13頁1行)
【11c】「アセトニトリル流体溶液中のそれら錯体の吸収スペクトル(図2及び図3)によると、300nm以下で強い吸収があり(10^(4)-10^(5)M^(-1)cm^(-1)の範囲にあるε)、より長波長でやや強い吸収がある(10^(3)-10^(4)M^(-1)cm^(-1)の範囲にあるε)。イリジウム化合物の吸収スペクトルは可視領域まで長く延びているが、ロジウム種は実際には、400nm以上では無吸収である。
Rh及びIr種は共にMeOH/EtOH(4:1(v/v))剛性マトリクス中77Kで発光する。図2及び図3の挿入図に示されたそれらの発光スペクトルは構造化され(Rh化合物の構造がより顕著)、励起波長にともなって変化せず、約1300cm^(-1)の振動構造を示す。発光寿命はいずれの場合も完全単一指数であり、1が160μs、2が5.8μsである。[Ir(ppy)_(2)(dtp-NH_(2))]^(+)のみがアセトニトリル(AN)流体溶液中で量子収率0.246(脱気AN)の室温発光を示している。その発光スペクトルは構造化されておらず、励起波長には依存せず,低温発光に対しては赤方偏移している。[Ir(ppy)_(2)(dtp-NH_(2))]^(+)は単一指数減衰を示し、脱気AN中で寿命は870nsになる。
……。これら新規錯体の吸収スペクトル、発光特性、及び酸化還元挙動についてのデータを表1にまとめた。表1では配位子と参照化合物の選択データも一緒に載せている。

図3.[Ir(ppy)_(2)(dtp-NH_(2))]^(+)の吸収スペクトル及び発光スペクトル(挿入図)。実線,アセトニトリル溶液において298K;破線,MeOH/EtOH(v/v)=4:1剛性マトリクスにおいて77K。
表1.新規錯体1及び2の吸収データ、発光、及び電気化学特性、及びいくつかの参照化合物に関する選択データ。

^(a) 特に断りのない限り、アセトニトリル脱気溶液中とする。^(b) MeOH/EtOH(v/v)=4:1剛性マトリクス中。^(c) 不可逆波。報告値は走査速度50mV/sでのE_(peak)である。^(d) 参考文献16からのデータ。^(e) 参考文献2aからのデータ。^(f) 参考文献17及び18からのデータ。^(g) ジクロロメタンにおけるデータ。^(h) 222K。^(i) DMF(vsNHE)。^(j) 参考文献3及び19からのデータ。^(k) MeOH中。^(l) DMF中(vsFc^(+/0))、219K。」(542頁右欄9行?543頁左欄3行、同頁Figure 3及びTable 1、訳文5頁5行?6頁5行及び13頁5行?最下行)
【11d】「[Ir(ppy)_(2)(dpt-NH_(2))]^(+)(2)の発光に関する限り、スペクトルの形状、77Kと室温での寿命、及びエネルギーは、^(3)MLCT発光によるものであることが示される。実際、Ir-ppy化合物における正規のppy中心の発光は「Ir(ppy)_(2)(CO)Cl]の発光であり、77Kにおいて28μsの寿命を持ち、445nmで起こる発光である。一方、^(3)MLCT発光体は典型的に短寿命であり、マトリクス依存性が強い(その発光は77Kから室温の流体溶液の変化において赤色シフトしている)。また、スペクトルの構造化された形状により、SBLCT発光は起こりそうもない(SBLCTはかなり歪められた状態であり、とても広範囲に発光する)。さらに、すでに上で述べたように、2の酸化過程の可逆性は2におけるHOMOの純粋な金属中心の特性をはっきりと示す。発光CT準位がppy配位子を伴うか、dpt-NH_(2)配位子を伴うかと結論づけることは、とても厄介な問題である。電気化学の研究は、ポリピリジン錯体における発光の帰属に関してとても有用であるが、この場合は無用である。その理由は以下による:ポリピリジンとシクロメタル化する配位子との金属-配位子結合における異なる共有原子価と、配位子の異なる供与性によるt_(2g)金属軌道において起こりうる分裂とにより、シクロメタル化化合物においてπ^(*)LUMO軌道(第1の還元過程により確認される)は最低エネルギーMLCT準位に関与するπ^(*)軌道とは異なるものとなりうるからである。
2の発光の帰属に関する最初の試みにおいて、我々は自身で得た結果と[Ir(ppy)_(2)(bpy)]^(+)の発光特性とを比較した。この種の77Kにおける発光(λ_(max)?530nm;主な寿命=5.2μs)は2つの密接して位置する非平衡MLCT状態から生じるものであるが、そのうち低い方はbpy配位子を伴い、高い方はppy配位子を伴う。過渡吸収分光法によってはっきりと示されたように、流体アセトニトリル溶液においてはIr→bpyCT発光のみが観察された(λ_(max)=606nm;τ=0.34μs)。[Ir(ppy)_(2)(dpt-NH_(2))]^(+)において、bpyのdpt-NH_(2)との交換は、ポリピリジン配位子を伴うCT準位のエネルギーを著しく上昇させ(dpt-NH_(2)を減少することはbpyよりはるかに難しい)、ppyを伴うCT準位のエネルギーは恐らくわずかに減少している。残念ながら、これらの考察はppyかdpt-NH_(2)のどちらかを伴うCT発光と一致していて、その発光が何によるものか考える際には役立たない。より有益な考察は、シクロメタル化配位子を伴うMLCT励起状態が、剛性マトリックスから流体溶液の変化におけるポリピリジン配位子を伴うMLCT準位に関するエネルギーにおいてはそれほど安定しないであろうという実験的観察となるであろう。これにより、2の室温発光はIr→dpt-NH_(2)CT準位によって生じる可能性が最も高いということが示唆される。77KにおけるMLCT発光にどの配位子が関与しているか、はっきりとした結論を出すことは不可能である。
このセクションの終わりにおいて、現在の結果と、類似する化合物である[Ir(ppy)_(2)TAP]^(+)、[Rh(ppy)_(2)TAP]^(+)、[Rh(ppy)_(2)HAT]^(+)に関して報告された結果を比較することは有用である。特に、発光特性におけるSBLCT励起状態の関与がないことを検討することは価値がある。このような性質は恐らくdpt-NH_(2)の電子供与性によるものであり、それはbpyの電子供与性と似ていて、HAT又はTAP配位子の電子供与性よりはるかに優れている。結果として、Rh(III)及びIr(III)のdπ軌道はエネルギーが高められていて(電気化学のセクションも参照)、そのシクロメタル化するアニオン性配位子のσ軌道との混合は実質的に減少する。このことは最終的にSBLCT準位を高める。」(545頁左欄22行?右欄35行、訳文10頁17行?12頁2行)

シ.甲第12号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第12号証には次の事項が記載されている。なお、甲第12号証は英語で記載されているところ、その日本語訳については請求人の提出した訳文を採用する。
【12a】「Adv. Mater. (Weinheim, Ger.) 1996, 8(7), 576-580 (Eng).」(1285頁左欄「125:264443r」の5行)
【12b】「ポリマーに固定したIr錯体[Ir(ppy)_(2)(dtp-NH_(2))](PF_(6))(ppy=フェニルピリジンアニオン、dpt-NH_(2)=4-アミノ-3,5-ジ-2-ピリジル-4H-1,2,4-トリアゾール)を調製し、その酸素センサとしての利用に関してフォトルミネッセンス特性およびエレクトロルミネッセンス特性を調査した。マクロモノマーであるポリ(エチレングリコール)Etエーテルメタクリレートをポリマー化し(アモルファスのpPEGMAを生成し)、マトリックスとして用いた。pPEGMAの動的弾性率および内部摩擦を測定した。窒素で飽和した環境と酸素で飽和した環境とをサイクルさせた際の発光出力の応答挙動を示した。この系の劣化は3ヶ月以上経ってもみられなかった。」(1285頁左欄「125:264443r」の5-14行、訳文の本文1-9行)

ス.甲第13号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第13号証には次の事項が記載されている。
【13a】「ベンゼン分子の結合軌道を考慮するとベンゼン分子の姿がより詳細にわかる.
各炭素原子はそれぞれ3個の原子と結合しているので,(§8・2のエチレンの場合と同様に)sp^(2)軌道を使っている.」(647頁7-9行)

セ.甲第14号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第14号証には次の事項が記載されている。
【14a】「ベンゼン sp^(2)混成 正六角形構造(平面構造)」(17頁5行)

ソ.甲第15号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第15号証には次の事項が記載されている。なお、甲第15号証は英語で記載されているところ、その日本語訳については請求人の提出した訳文を採用する。
【15a】「この研究の目的はppy配位子に官能基を導入することにより[Ir(ppy)_(2)Cl]_(2)や[Ir(ppy)_(2)bpy]^(+)等のオルトメタル化錯体のすでに高い光還元電位の上昇を検討することであった。この目的のために用いられる二個のオルトメタル化配位子は3-メチル-2-フェニルピリジン(mppy)および2-(p-トリル)ピリジン(ptpy)であった(図1参照)。これらの配位子はフェニル環(ptpy)又はピリジル環(mppy)に電子密度を供与する活性化メチル基を有する。

図1 オルトメタル化配位子およびキレート配位子:(a)NC=2-(p-トリル)ピリジン(ptpy);(b)NC=3-メチル-2-フェニルピリジン(mppy);(c)NN=2,2'-ビピリジン(bpy)。」(3465頁左欄下から3行?右欄5行及び同頁左欄Figure 1、訳文3頁6-12行及び16頁17-19行)
【15b】「B.イリジウム単量体。1.吸収特性および発光特性。ジクロロメタン中の[Ir(ptpy)_(2)bpy]^(+)および[Ir(mppy)_(2)bpy]^(+)(図7)の吸収極大を表Iにまとめる。吸収プロファイルは10^(-4)?10^(-6)Mの濃度でベールの法則に従っている。常温及び低温(77K、ガラス)における[Ir(ptpy)_(2)bpy]^(+)および[Ir(mppy)_(2)bpy]^(+)(図7)の発光極大を表IIにまとめる。両メチル置換単量体の発光スペクトルは無置換のppy単量体と同様であり、常温条件下で595nmに中心のある幅広いプロファイルを示し、77K条件下で527nnmおよび550nm付近に極大を有するはっきりしたプロファイルを示す。アセトニトリル中の[Ir(ptpy)_(2)bpy]^(+)および[Ir(mppy)_(2)bpy]^(+)の凍結-膨張-融解されたサンプルの室温ルミネセンス寿命は[Ir(ptpy)_(2)bpy]^(+)が248nsであり、[Ir(mppy)_(2)bpy]^(+)が200nsであった。EtOH-MeOH(4:1v/v)中の77Kガラスの寿命はそれぞれ一桁長く、4.93μs、4.38μsであった(表II)。
表II ppy、ptpyおよびmppyのIr(III)二量体およびIr(III)単量体の発光データおよび寿命データ

^(a) 溶媒 純ジクロロメタン ^(b) 溶媒 純トルエン ^(c) 溶媒 純メタノール ^(d) 溶媒 アセトニトリル ^(e) EtOH-MeOH-DCM(4:1:1v/v)ガラス中 ^(f) EtOH-MeOH(4:1v/v)ガラス中。

図7 Ir(III)単量体錯体(a)[Ir(ptpy)_(2)bpy]^(+)および(b)[Ir(mppy)_(2)bpy]^(+)の吸収測定および発光測定:(?)室温のCH_(2)Cl_(2)における吸収および発光;(…)77KのEtOH-MeOH(4:1v/v)における発光。」(3468頁左欄下から4行?右欄12行、3466頁右欄Table II及び3468頁左欄Figure 7、訳文7頁4-17行、17頁2-6行及び17頁下から3行?18頁1行)

タ.甲第16号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第16号証には次の事項が記載されている。
【16a】「A.配位子の命名法
(1)陰イオンの配位子は語尾にOをつける(……).
……
NH_(2)CH_(2)COO^(-) グリシナト glycinato
……
グリシナトではNとOが,……配位結合する.1つの配位子中に2個以上の配位原子がある配位子をキレート(ハサミの意)という.また二座配位子,三座配位子などという.」(10頁2行?最下行)

チ.甲第17号証
本件特許の出願日(優先日)前に日本国内又は外国において頒布されたことが明らかな甲第17号証には次の事項が記載されている。
【17a】「アセチルアセトナト錯体[acetylacetonato complex]アセチルアセトンCH_(3)COCH_(2)COCH_(3)のCH_(2)基からプロトンが1個解離した陰イオンはアセチルアセトナト配位子(略号acac)であって,図のように2個の酸素原子で配位して多くの金属イオンと平面六員キレート環錯体をつくる.これをアセチルアセトナト錯体,または2,4-ペンタンジオナト錯体(2,4-pentanedionato complex)という.

」(30頁左欄「アセチルアセトナト錯体」の1-9行)
【17b】「アセチルアセトン[acetylacetone]=2,4-ペンタンジオン(2,4-pentanedione).C_(5)H_(8)O_(2),分子量100.12.CH_(3)COCH_(2)COCH_(3).代表的な1,3-ジケトン.」(30頁左欄「アセチルアセトン」の1-3行)
【17c】「グリシナト錯体[glycinato complex]グリシナト配位子NH_(2)CH_(2)CO_(2)^(-)(略号gly)が配位した錯体を指す.…….glyが二座配位したキレート錯体には,……などがある.」(635頁「グリシナト錯体」の1-9行)

(2)甲第1号証に記載された発明
甲第1号証には、そのタイトル(摘示1a)からも明らかなとおり、「有機発光デバイス」が記載されており、また、「緑色電気燐光材料であるfac-トリス-(2-フェニルピリジン)イリジウム[Ir(ppy)_(3)]を用いたOLED」(摘示1d)と記載されていることから、Ir(ppy)_(3)は「燐光有機金属化合物」に相当する。
さらに、摘示1f(図1を含む)に記載された「透明な導電性インジウムスズ酸化物」(図1における「ITO」)が陽極、すなわち「アノード」であり、また、「25:1 Mg:Agの厚さ1000Åの層から成る陰極」(図1における「MgAg」)が「カソード」であることは自明のことであり、「CBP中のIr(ppy)_(3)で構成されている発光層」又は「Ir(ppy)_(3):CBP層」(図1における「Ir(ppy)_(3) in CBP」)が、「ホストであるCBPにドーピングされたIr(ppy)_(3)(ドーパント)からなる発光層」を意味するものであることも明らかである。そして、図1に記載されているとおり、「アノード」と「カソード」の間に「発光層」が配置されている。
そうすると、甲第1号証には、
「アノード、カソード及びCBPなどのホストとIr(ppy)_(3)なる燐光有機金属化合物のドーパントを含む発光層を含む有機発光デバイスであって、前記発光層は前記アノードと前記カソードの間に配置される、有機発光デバイス(前記式中、「ppy」は2-フェニルピリジンである)。」
に係る発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(3)無効理由1-1について
無効理由1-1は、前記したとおり、「本件特許発明1、2、4?7、10及び13は、甲第1号証に係る発明を主たる引用発明とし、甲第5号証等に記載された事項を補助事実として甲第2号証に記載された事項を組み合わせて、当業者が容易に発明することができたものである。」というものであるところ(請求人が提出した口頭審理陳述要領書の5〔2〕)、これは、本件特許発明1における式L_(2)MXの式で表される燐光有機金属化合物について、X配位子がO-O配位子の場合(すなわち本件特許発明2)をベースとした無効理由である。

ア.本件特許発明1及び2
(ア)対比
請求人は、本件特許発明1及び2について、「甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、甲第1号証?甲第3号証、甲第5号証?甲第14号証、甲第17号証から当業者が容易に発明をすることができたものである」と主張しているところ(平成23年1月7日付け上申書の6〔2〕(1-1)及び(1-2))、本件特許発明1又は2と甲1発明とを対比すると、両者は、「アノード、カソード及び発光層を含む有機発光デバイスであって、前記発光層は前記アノードと前記カソードの間に配置され、かつ前記発光層が燐光有機金属化合物を含む、有機発光デバイス。」の点で一致し、次の点で相違する。
なお、「2-フェニルピリジン(ppy)」配位子が、sp^(2)混成炭素及び窒素原子により金属(イリジウム)に配位するモノアニオン性二座配位子であることは甲第13号証や甲第14号証によるまでもなく自明のことであって、したがって本件特許発明1及び2でいうL配位子に相当するから、「Ir(ppy)_(3)」はL_(3)Mに相当する。

相違点1:
燐光有機金属化合物につき、本件特許発明1及び2では、「式L_(2)MXの式で表されるもの(前記式中、L及びXは異なった二座配位子であり;Mはイリジウムであり;前記X配位子はO-O配位子であり、Lはsp^(2)混成炭素及び窒素原子によりMに配位されたモノアニオン性二座配位子である(但し、ヘキサフルオロアセチルアセトネート又はジフェニルアセチルアセトネートを除く))」と特定されているのに対し、甲1発明では「L_(3)M(Mはイリジウムであり;Lはsp^(2)混成炭素及び窒素原子によりMに配位されたモノアニオン性二座配位子である)」である点。

(イ)相違点1に係る検討
a.甲第2号証について
甲第2号証は、「217th ACS National Meeting」で発表するための要約(ABSTRACT)であって、その記載内容は簡略化されたものであり、詳細な内容に欠けるものである。そのため、この甲第2号証には、「モノ及びバイメタルのロジウム(III)及びイリジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体系が調製され、特徴づけられている。」(摘示2b)とは記載されているものの、具体的に化学構造が記載されているのは、次のロジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体(以下、「ロジウム二核錯体」という。)のみであって(摘示2c)、しかもそのような錯体(ロジウム二核錯体を含む。)をどのようにして調製したのかなどは甲第2号証の記載からは明らかではない。

ここで、甲第2号証に記載されたロジウム二核錯体の1,3-ジケトン配位子は、「1,4-ビス(1,3-ジオキソ-3-(4-R-フェニル)-プロピル)-ベンゼン」(請求人が提出した参考資料4の記載に従えば、「μ-1,1'-(1,4-フェニレン)ビス(3-(4-R-フェニル)-1,3-プロパンジオナト)配位子」)であって、甲第2号証には「1,3-ジケトン配位子」としてこの配位子しか記載されていない。
そして、甲第2号証には、特に「これらの錯体の発光特性に対する金属(ロジウム/イリジウム)又は置換基(R)の影響について議論する。」と記載されているところ、「種々の配位子の影響」ではなく、「置換基(R)の影響」と記載されていることからすると、甲第2号証に記載された「1,3-ジケトン配位子」は、置換基(R)を有する「1,4-ビス(1,3-ジオキソ-3-(4-R-フェニル)-プロピル)-ベンゼン」以外のものを想定することは困難である。
したがって、甲第2号証における「モノ及びバイメタルのロジウム(III)及びイリジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体系」の一種として請求人が取り上げている「モノメタルのイリジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体」において、「1,3-ジケトン配位子」がどのようなものかは、甲第2号証の記載からはまったく不明であって、そうすると、甲第2号証には、必ずしも「モノメタルのイリジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体」が、その利用が可能なように記載されているということはできない。
また、甲第2号証における「モノ及びバイメタルのロジウム(III)及びイリジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体系」は、「1,3-ジケトン配位子」として上記した「1,4-ビス(1,3-ジオキソ-3-(4-R-フェニル)-プロピル)-ベンゼン」という特殊な構造を有する配位子のみを提示したうえで、「そのすべての誘導体は媒体内で発光し、配位子内(IL)または金属配位子電荷移動(MLCT)遷移に特徴的な可視(λmax=480-650nm)発光スペクトルが見られる。」という特別な性質を有することを報告するものであるから、その「1,3-ジケトン配位子」として一般的なものを含めたあらゆるものが採用可能であると認識することはできない。そうすると、甲第17号証に「代表的な1,3-ジケトンはアセチルアセトン、アセチルアセトナト錯体」であることが記載されているとしても、甲第2号証には「1,3-ジケトン配位子」として一般的なアセチルアセトンが記載されているということはできないし、そもそも上記したとおり「モノメタルのイリジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体」自体が記載されているということもできないのであるから、「モノ及びバイメタルのロジウム(III)及びイリジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体」として「Ir(ppy)_(2)(acac)」が甲第2号証に記載されている、又は記載されているに等しいということはできない。
そうすると、甲第2号証には、甲第17号証を参酌しても、「式L_(2)MXの式で表される燐光有機金属化合物(前記式中、L及びXは異なった二座配位子であり;Mはイリジウムであり;前記X配位子はO-O配位子であり、Lはsp^(2)混成炭素及び窒素原子によりMに配位されたモノアニオン性二座配位子である(但し、ヘキサフルオロアセチルアセトネート又はジフェニルアセチルアセトネートを除く))」が記載されているということはできない。

そして、甲第2号証には、「式L_(2)MXの式で表される燐光有機金属化合物(前記式中、L及びXは異なった二座配位子であり;Mはイリジウムであり;前記X配位子はO-O配位子であり、Lはsp^(2)混成炭素及び窒素原子によりMに配位されたモノアニオン性二座配位子である(但し、ヘキサフルオロアセチルアセトネート又はジフェニルアセチルアセトネートを除く))」が記載されているということができないのであるから、その発光特性(ELにより燐光発光すること)についても記載されていないことは当然であるが、さらに以下の点を付記する。
甲第2号証には、調製された「モノ及びバイメタルのロジウム(III)及びイリジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体系」について、「そのすべての誘導体は媒体内で発光し、配位子内(IL)または金属配位子電荷移動(MLCT)遷移に特徴的な可視(λmax=480-650nm)発光スペクトルが見られる。IL及びMLCT発光は1,3-ジケトン配位子と関連する遷移を含む。」(摘示2b)と記載されているが、ここでいう「発光」は原文では「luminescent」であるから、エレクトロルミネセンス(EL)かフォトルミネセンス(PL)か不明であるし、燐光発光するものであることも明らかではない。
すなわち、甲第2号証に記載されているのは、あくまでもそこで調製されたとされる「一連のモノ及びバイメタルのロジウム(III)及びイリジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体」が、すべて固体媒体内で発光性であり(All of the derivatives are luminescent in rigid media)、配位子内(IL)又は金属配位子電荷移動(MLCT)遷移のどちらかに特徴的な可視(λmax=480-650nm)発光スペクトルを示す((All of the derivatives) display visible emission spectra characteristic of either intraligand (IL) or metal-to-ligand charge transfer (MLCT) transitions.)こと、並びに、IL及びMLCT発光のどちらも1,3-ジケトン配位子と関連する遷移を含む(Both the IL and MLCT emission involve transitions associated with the 1,3-diketone ligand.)ことが漠然と記載されているだけであり、具体的にどのような錯体が、どのような条件及び作用で発光したのか、また、その可視発光スペクトルは配位子内(IL)遷移によるものなのか、金属配位子電荷移動(MLCT)遷移によるものなのか、さらには、発光が燐光なのか蛍光なのか、など何も明らかにされていない。
そうすると、甲第2号証には、式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物がELにより燐光発光することも、MLCT遷移帯を有することも記載されていないし、またそのことを何ら示唆するものでもない。

b.甲第3号証について
甲第3号証には、「2-フェニルピリジン(Hppy)のような配位子を含むトリスオルトメタル化錯体の場合にはよくあることだが、2つ以上の金属炭素結合を含むd^(6)金属錯体を単離させることは特に困難であった」ことを前提として、「Ir(III)の出発材料としてIr(acac)_(3)(acac=2,4-ペンタンジオネート)を用い」ることにより、「(Hppy)および置換2-フェニルピリジン(R-Hppy)配位子を含むfacトリスオルトメタル化Ir(III)錯体を、高い収率で合成する」方法が記載されている(摘示3c)。ここで合成されたfacトリスオルトメタル化Ir(III)錯体は、表1に記載されているとおり(摘示3c)、fac-Ir(ppy)_(3)である。
ここで、甲第3号証の図1(摘示3d)には、Ir(acac)_(3) + 3Hppy → Ir(ppy)_(3)の反応経路図が記載されているところ、その途中に

すなわち「Ir(ppy)_(2)(acac)」を経ることが記載されている。しかし、甲第3号証には「Ir(ppy)_(2)(acac)」を実際に合成し、単離したことは一切記載されていないことからすると、この図1はその表題にもあるようにあくまでもIr-C結合のトランス効果を説明するための模式図であって、「Ir(ppy)_(2)(acac)」は仮想的なものと解される。そうすると、甲第3号証には、「Ir(ppy)_(2)(acac)」についてその利用が可能な程度に記載されているということはできない。
そして、甲第3号証には、「Ir(ppy)_(3)」がMLCT励起状態を経て発光することが記載されており(摘示3f)、この発光が燐光であるとしても、「Ir(ppy)_(2)(acac)」がMLCT励起状態を経て燐光発光することは記載されていないし、示唆もされていない。
なお、甲第4号証に、「クロロ架橋オルトメタル化化合物である……[(L)_(2)Ir(μ-Cl)]_(2)(LH=2-フェニルピリジン)をα-アミノカルボン酸塩と反応させることにより、N,Oキレート錯体である……(L)_(2)Ir-NH_(2)C(H)(R)CO_(2)を得る。」(摘示4a)というように、L_(2)IrX型錯体の製造方法が記載されているとしても、甲第2号証及び甲第3号証には「Ir(ppy)_(2)(acac)」の有用性については記載されておらず、燐光有機金属化合物としての「Ir(ppy)_(2)(acac)」に何ら着目していないのであるから、甲第4号証の上記記載をもって「Ir(ppy)_(2)(acac)」の製造方法が当業者に自明であるということはできない。
そうすると、甲第3号証には「Ir(ppy)_(2)(acac)」が記載されているとはいえず、したがって、甲第3号証の記載を踏まえても、甲第2号証に「Ir(ppy)_(2)(acac)」が記載されている、又は同錯体が記載されているに等しいと解することはできない。

c.甲第5号証について
甲第5号証には、要約すると、「ある種のオスミウム(II)錯体、Os(CN)_(2)(PPh_(3))_(2)X(X=ビピリジン誘導体又はアントロリン誘導体)の三重項金属-配位子電荷移動(MLCT)励起状態からの発光は、ポリ(N-ビニルカルバゾール)(PVK)マトリクスに混入させることによって向上する。インジウム-錫酸化物(ITO)で覆ったガラス/Os錯体:PVK/2-(4-ビフェニル)-5-(4-tert-ブチル-フェニル)-1,3,4-オキサジアゾール(PBD)/Alという構造を有するセルを用いることにより、8Vを超える直流バイアス電圧で、安定した均一な赤色のエレクトロルミネセンスが観測される。」(摘示5b)(なお、「アントロリン誘導体」は図1(摘示5f)に記載された分子構造からみて、「フェナントロリン誘導体」の誤記と認められる。)と記載されている。すなわち、特定のオスミウム(II)錯体のELデバイスによる燐光発光について記載されている。
一方、「既に知られている通り、遷移金属錯体(Ru、Os、Ir等)は中心金属と配位子の間に強い相互作用があるため、長い励起状態寿命及び励起波長に依存性のない量子収率により三重項状態の特性を示す金属-配位子電荷移動(MLCT)励起状態を示す。それらは熱的、化学的、光化学的に強力で、安定化を助け、デバイス寿命を伸ばす。」(摘示5c)と記載されている(スピン-軌道相互作用による一重項-三重項遷移(重原子効果)のことと解される。)が、参照文献も示されておらず、遷移金属としてIrを使用する場合どのような配位子との間で強い相互作用がもたらされるのか、その具体的な内容は不明である。そして、「本稿では遷移金属錯体の三重項MLCT励起状態からのELの初観察結果について報告する。」(摘示5c)と記載されているように、特定のオスミウム(II)錯体(なおL配位子及びX配位子に該当するものは存在しない。)を用いることにより、「遷移金属錯体の三重項MLCT励起状態からのEL」が初めて観察されたこと(the first observation)を報告するものであるから(なお、甲第5号証は1998年に発行されたものであり、Ir(ppy)_(3)燐光性錯体について報告する甲第1号証(1999年7月発行)より前に発行されたものである。)、甲第5号証は式L_(2)MXの式で表されるイリジウム錯体についての「三重項MLCT励起状態からのEL」により燐光発光することについて何らの知見をも与えるものではない。

d.小括
以上のことから、甲第2号証及び甲第3号証には、甲第17号証を参酌しても、式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物が記載されているとはいえないし、ましてや、式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物がOLEDにおいて三重項MLCT励起状態からの燐光発光することは、甲第2号証及び甲第3号証に記載も示唆もない。
そして、甲第5号証に、「遷移金属錯体(Ru、Os、Ir等)は中心金属と配位子の間に強い相互作用があるため、長い励起状態寿命及び励起波長に依存性のない量子収率により三重項状態の特性を示す金属-配位子電荷移動(MLCT)励起状態を示す」(摘示5c)ことが記載されているとしても、その式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物(M=Ir)への適用性は甲第5号証からは明らかではなく、そもそも前記したとおり式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物自体が公知であったとはいえないのであるから、甲第5号証に記載された事項を参酌しても、上記相違点1に係る技術的事項を当業者が想起することはないものと認められる。

(ウ)請求人の主張について
a.甲第2号証について
請求人は、甲第2号証に記載された「バイメタルのロジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体」(すなわちロジウム二核錯体)の2つのロジウムの一方又は両方をイリジウムに置き換えた場合は、1つのイリジウムに注目すると、次の構造の部分(ただし、RhはIrでも可)自体が1,3-ジケトン配位子に該当する旨主張している(審判事件弁駁書の6〔2-1〕(2-1))。

しかしながら、甲第2号証にはロジウム二核錯体が記載されているとしても(なお、その製造方法は不明であることに注意すべきである。)、その2つのロジウムの一方又は両方をイリジウムに置き換えた錯体まで記載されているということは必ずしも妥当ではないし、仮にそのような錯体が記載されているとしても、そもそも、本件特許発明1及び2における式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物は明らかにM(すなわちイリジウム(III))が1個しか存在しない有機金属化合物であることを特定しているのであって、上記構造部分(その構造中に別のイリジウム又はロジウムの錯体構造を有することになる。)をもって1つのX配位子(O-O配位子)に該当すると捉えることには無理がある。
したがって、甲第2号証において、上記錯体構造を含む部分を本件特許発明1及び2におけるX配位子(O-O配位子)とみなし、式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物が記載されているということはできない。

また、請求人は、「甲第2号証によると、モノメタルのイリジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体はMLCT遷移に特徴的な可視発光スペクトルを示す。」(審判請求書の七〔5〕(2)1及び審判事件弁駁書の6〔2-1〕(2-1))と主張しているが、甲第2号証を精査しても、図示された特定のロジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体、すなわちロジウム二核錯体が記載されているのみであって(ただし、このロジウム二核錯体自体どのようにして調製するのかは明らかではない。)、前述のとおり、甲第2号証においてどのような「モノメタルのイリジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体」を調製したのかさえ不明であり、さらに、「モノメタルのイリジウム(III)のビス(2-フェニルピリジン)(1,3-ジケトン)錯体」であれば、必ずMLCT遷移に特徴的な可視発光スペクトルを示すことが記載されているものとも解されない。

b.甲第10号証?甲第12号証について
請求人は、「甲第10号証、甲第11号証は、Ir(ppy)_(3)と配位子ppyが共通するIr錯体が三重項MLCTから発光することを示し、甲第12号証は甲第11号証に記載のIr錯体のフォトルミネッセンスとエレクトロルミネッセンス特性を調査している。これらの記載、事実を考慮すると、Ir(ppy)_(3)のように既知のIr錯体であって、配位子ppyが共通し、同様な発光特性を有するものをELデバイスに適用するのは、当業者であれば適宜なし得たことである。」(審判請求書の七〔5〕(2)1)と主張しているが、甲第10号証?甲第12号証に記載の錯体は、O-O配位子であるべきX配位子を有していないことから(X配位子に該当するものはいずれもN-N配位子というべきものである(摘示10c、11a)。)、式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物(XはO-O配位子)がELデバイスにおいて燐光発光することに関し何らの示唆をも与えるものではない。
なお、甲第10号証には、「これらの錯体はすべて、……、^(3)MLCT準位からの発光を示す」(摘示10a)ことが記載されているが、「剛性マトリックス中では77K」(摘示10a)においての発光であり、また、甲第11号証にも、「Rh及びIr種は共にMeOH/EtOH(4:1(v/v))剛性マトリクス中77Kで発光する。」(摘示11c)及び「[Ir(ppy)_(2)(dpt-NH_(2))]^(+)(2)の発光に関する限り、スペクトルの形状、77Kと室温での寿命、及びエネルギーは、^(3)MLCT発光によるものであることが示される。」(摘示11d)と記載されているように、いずれも77Kという低温における発光であって、剛性マトリックスでは室温での^(3)MLCT発光は想定できない。そして、そもそも吸収スペクトルとセットで記載されていることから(摘示10dの図、図4及び表5並びに摘示11cの図3及び表1)、フォトルミネセンス(PL)と解される。(甲第12号証(及びそのもとになった文献(摘示12a参照)である乙第3号証)を参酌しても、甲第11号証に記載された錯体のPL特性については記載があるとしても、EL特性については不明である。)
そうすると、甲第10号証?甲第12号証に、Ir(ppy)_(3)と配位子ppyが共通するイリジウム錯体が三重項MLCTから発光することが記載されているとしても、その発光はELではなくPLであり、しかも剛性マトリックスでの発光は77Kという低温によるものであるから、Ir(ppy)_(3)と配位子ppyが共通するということのみに依拠して、Ir(ppy)_(2)(acac)(すなわち本件特許発明1及び2における式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物)がELデバイスにおいて三重項MLCT励起状態を有し燐光発光する有機金属化合物であるとは必ずしもいえず、しかも、そもそもIr(ppy)_(2)(acac)自体公知化合物ということはできないのであるから、式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物を甲第1号証における燐光性有機金属化合物であるIr(ppy)_(3)の代わりにELデバイスに適用することについて、当業者が適宜なし得るものということはできない。

(エ)本件特許発明1及び2についてのまとめ
したがって、甲第3号証及び甲第7号証?甲第9号証から、甲1発明におけるIr(ppy)_(3)が三重項MLCT励起状態を示し、燐光発光することが既に知られていたとしても、そもそも、燐光発光するL_(2)MXの式で表される有機金属化合物自体が甲第2号証及び甲第3号証に記載も示唆もされていないのであり、また、甲第10号証?甲第12号証を参酌しても、当該L_(2)MXの式で表される有機金属化合物がELデバイスにおいて三重項励起状態からの燐光発光をするものと認識できないのであるから、請求人が主張するとおり、甲第1号証、甲第5号証及び甲第6号証に、「ELデバイスに発光効率の優れた錯体を適用することが望まれている」ことが示されているとしても、また、「MLCT遷移帯を有する遷移金属錯体であればELデバイスの発光層に使用した場合三重項励起状態となる蓋然性があり、もってEL発光を示す発光層を形成するであろうということが当業界で少なくとも公知である」としても、甲第1号証に記載されたIr(ppy)_(3)錯体(L_(3)Mに該当する)をL_(2)MXの式で表される燐光有機金属化合物に置き換えて本件特許発明1とすることは、当業者が容易になし得たものということはできない。

そうすると、本件特許発明1及び2は、当業者が甲第1号証?甲第3号証、甲第5号証?甲第14号証及び甲第17号証にそれぞれ記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

イ.本件特許発明4及び5について
請求人は、本件特許発明4及び5について、「甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、甲第1号証?甲第3号証、甲第5号証?甲第14号証、甲第17号証から当業者が容易に発明をすることができたものである」と主張しているところ(平成23年1月7日付け上申書の6〔2〕(1-3)?(1-4))、上記したとおり、本件特許発明1及び2は進歩性を有するので、請求項1若しくは2を直接又は間接的に引用し、本件特許発明1又は2のすべての特徴を含む本件特許発明4及び5も当然進歩性を有するものである。
したがって、本件特許発明4及び5は、当業者が甲第1号証?甲第3号証、甲第5号証?甲第14号証及び甲第17号証にそれぞれ記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

ウ.本件特許発明6、7、10及び13について
請求人は、本件特許発明6、7、10及び13について、「甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、甲第1号証?甲第3号証、甲第5号証?甲第15号証、甲第17号証から当業者が容易に発明をすることができたものである」と主張しているところ(平成23年1月7日付け上申書の6〔2〕(1-5)?(1-8))、上記したとおり、本件特許発明1及び2は進歩性を有するので、請求項1若しくは2を直接又は間接的に引用し、本件特許発明1又は2のすべての特徴を含む本件特許発明6、7、10及び13も当然進歩性を有するものである。
したがって、本件特許発明6、7、10及び13は、当業者が甲第1号証?甲第3号証、甲第5号証?甲第15号証及び甲第17号証にそれぞれ記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

(4)無効理由1-2について
無効理由1-2は、前記したとおり、「本件特許発明1、3?6及び13は、甲第1号証に係る発明を主たる引用発明とし、甲第5号証等に記載された事項を補助事実として甲第4号証に記載された事項を組み合わせて、当業者が容易に発明することができたものである。」というものであるところ(請求人が提出した口頭審理陳述要領書の5〔2〕)、これは、本件特許発明1における式L_(2)MXの式で表される燐光有機金属化合物について、X配位子がN-O配位子の場合(すなわち本件特許発明3)をベースとした無効理由である。

ア.本件特許発明1及び3
(ア)対比
請求人は、本件特許発明1及び3について、「甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、甲第1号証、甲第4号証?甲第14号証、甲第16号証、甲第17号証から当業者が容易に発明をすることができたものである」と主張しているところ(平成23年1月7日付け上申書の6〔2〕(2-1)及び(2-2))、本件特許発明1又は3と甲1発明とを対比すると、両者は上記(3)ア(ア)で述べたとおりの一致点を有し、次の点で相違する。(なお、先に述べたとおり、「2-フェニルピリジン(ppy)」配位子は本件特許発明1及び3でいうL配位子に相当するから、「Ir(ppy)_(3)」はL_(3)Mに相当する。)

相違点2:
燐光有機金属化合物につき、本件特許発明1及び3では、「式L_(2)MXの式で表されるもの(前記式中、L及びXは異なった二座配位子であり;Mはイリジウムであり;前記X配位子はN-O配位子であり;Lはsp^(2)混成炭素及び窒素原子によりMに配位されたモノアニオン性二座配位子である)」と特定されているのに対し、甲1発明では「L_(3)M(Mはイリジウムであり;Lはsp^(2)混成炭素及び窒素原子によりMに配位されたモノアニオン性二座配位子である)」である点

(イ)相違点2に係る検討
a.甲第4号証
甲第4号証には、次のイリジウムのN,O-α-アミノアシダト化合物16?21が記載されている。ここで、N,O-α-アミノアシダト配位子は、甲第16号証及び甲第17号証の記載によるまでもなく本件特許発明1及び3におけるX配位子(N-O配位子)に該当することから、式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物が記載されているといえる。

しかし、甲第4号証には、「遊離体である[(2-ピリジルフェニル-C^(1)N)_(2)Ir(μ-Cl)]_(2)のUV-vis吸収および錯体16-22のUV-vis吸収は非常に類似している。350?450nmにおける強い金属-配位子電荷移動帯が特徴的である.」(摘示4d)と記載され、MLCT帯についての記載があるが、これはUV-vis吸収、すなわち、吸収スペクトルに関するものであり、また、「錯体16-22は、室温においてでさえ、紫外光に曝された状態でDMSO溶液またはCH_(2)Cl_(2)溶液中で約515nmに強力な蛍光発光を示し、錯体18-21は日光に曝された状態で強力な蛍光発光を示す」(摘示4d)と記載されているとおり、紫外光又は日光に曝された状態での蛍光発光であるから、これはフォトルミネセンス(PL)に関する特性を示すものである。なお、実験手法としても「蛍光発光:Perkin-Elmer FS 3000。発光は吸収極大まで照射を行うことにより測定した。」(摘示4e)と記載されているとおり、光照射後の蛍光発光、すなわちPLによる測定である。さらに、用途としても「光還元剤」(摘示4b)及び「ペプチドのマーキング」(摘示4d)が記載されているのみであって、ELデバイスについての記載がないことにもかんがみれば、甲第4号証において、化合物16?21がエレクトロルミネセンス(EL)により発光することは記載されていない。
また、発光についても、「蛍光発光」(fluorescence)であるから、「燐光発光」(phosphorescence)は示されていない。fluorescenceがルミネッセンス(燐光を含む発光)と同義に用いられることがあるとしても(請求人提出の参考資料1)、発光寿命について何も記載していないから、甲第4号証における「蛍光発光」が「燐光発光」であるということはできない。
そうすると、甲第4号証には、式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物がOLEDにおいて三重項MLCT励起状態からの燐光発光することは、記載も示唆もない。

b.甲第5号証について
前記(3)ア(イ)cで述べたとおり、甲第5号証は式L_(2)MXの式で表されるイリジウム錯体についての「三重項MLCT励起状態からのEL」により燐光発光することについて何らの知見をも与えるものではない。

c.小括
以上のことから、甲第4号証には、式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物がOLEDにおいて三重項MLCT励起状態からの燐光発光することは、記載も示唆もない。
そして、甲第5号証に記載された事項を参酌しても、上記相違点2に係る技術的事項を当業者が想起することはないものと認められる。

(ウ)請求人の主張について
a.甲第4号証について
請求人は、甲第4号証において、「錯体16?22は,室温においてでさえ、紫外光に曝された状態でDMSO溶液またはCH_(2)Cl_(2)溶液中で約515nmに強力な蛍光発光を示し」と記載された点について、請求人が提出した参考資料1に基づいて、「蛍光という用語は、厳密には蛍光発光とリン光発光で区別されるが、一般的にはルミネッセンス、すなわち発光と同義に用いられることが多」く、「甲第4号証は発光特性を詳細に調査した文献でないから、この「蛍光」はルミネッセンス、発光を意味する」として、甲第4号証の「蛍光」が厳密な意味での「蛍光」ではなく、燐光を含む「発光」を意味するものと認定した上で、甲第4号証には、錯体16?22が「350?450nmにおける強い金属-配位子電荷移動帯」すなわちMLCT帯を有することが記載されており(摘示4d)、甲第5号証には、MLCT励起状態は三重項特性、すなわち燐光を示すことが記載ないし示唆されているから、甲第4号証における約515nmの強力な蛍光発光は、燐光を示すものと主張しているが(審判事件弁駁書の6〔2-1〕(2-2)及び口頭審理陳述要領書の5〔2〕(1-4-3))、この主張には次のとおり理由がない。
すなわち、当該参考資料1は、「蛍光(fluorescence)はりん光と区別する」ことをまず説明し、「蛍光およびりん光を含めてルミネッセンスと同義に用いられることもある」と補足しているところ、「蛍光」を「発光と同義に用いられることが多い」と説明しているわけではない。そして、請求人が、「蛍光」が「一般的にはルミネッセンス、すなわち発光と同義に用いられることが多い」と主張するのは、甲第4号証に「蛍光発光」と記載されているのを「燐光発光」と認定するための前提として必要となるからであると解されるが、甲第4号証には「蛍光発光」を本来の意味での「蛍光発光」と解すると技術常識に反するなどの理由も見当たらず、請求人の解釈は極めて恣意的なものである。請求人は、「甲第4号証は発光特性を詳細に調査した文献でない」こともその理由にしているが、そのことは「蛍光」を単なる「発光」と解する根拠には到底なりえないし、逆に、甲第4号証には錯体16?21の燐光発光という発光特性について何も記載していないと判断される根拠となりうるものである。
そして、甲第4号証における発光はPLによるものであって、ELによる発光について一切記載されていないことから、他の甲各号証の記載に基づいても、甲第4号証にELデバイスにおける燐光発光について記載されているということはできない。

b.甲第10号証?甲第12号証について
請求人は、「甲第10号証、甲第11号証は、Ir(ppy)_(3)と配位子ppyが共通するIr錯体が三重項MLCTから発光することを示し、甲第12号証は甲第11号証に記載のIr錯体のフォトルミネッセンスとエレクトロルミネッセンス特性を調査している。これらの記載、事実を考慮すると、Ir(ppy)_(3)のように既知のIr錯体であって、配位子ppyが共通し、同様な発光特性を有するものをELデバイスに適用するのは、当業者であれば適宜なし得たことである。」(審判請求書の七〔5〕(2)1)と主張しているが、甲第10号証?甲第12号証に記載の錯体は、N-O配位子であるべきX配位子を有していないことから(X配位子に該当するものはいずれもN-N配位子というべきものである(摘示10c、11a)。)、式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物(XはN-O配位子)がELデバイスにおいて燐光発光することに関し何らの示唆をも与えるものではない。
なお、甲第10号証には、「これらの錯体はすべて、……、^(3)MLCT準位からの発光を示す」(摘示10a)ことが記載されているが、「剛性マトリックス中では77K」(摘示10a)においての発光であり、また、甲第11号証にも、「Rh及びIr種は共にMeOH/EtOH(4:1(v/v))剛性マトリクス中77Kで発光する。」(摘示11c)及び「[Ir(ppy)_(2)(dpt-NH_(2))]^(+)(2)の発光に関する限り、スペクトルの形状、77Kと室温での寿命、及びエネルギーは、^(3)MLCT発光によるものであることが示される。」(摘示11d)と記載されているように、いずれも77Kという低温における発光であって、剛性マトリックスでは室温での^(3)MLCT発光は想定できない。そして、そもそも吸収スペクトルとセットで記載されていることから(摘示10dの図、図4及び表5並びに摘示11cの図3及び表1)、フォトルミネセンス(PL)と解される。(甲第12号証(及びそのもとになった文献(摘示12a参照)である乙第3号証)を参酌しても、甲第11号証に記載された錯体のPL特性については記載があるとしても、EL特性については不明である。)
そうすると、甲第10号証?甲第12号証に、Ir(ppy)_(3)と配位子ppyが共通するイリジウム錯体が三重項MLCTから発光することが記載されているとしても、その発光はELではなくPLであり、しかも剛性マトリックスでの発光は77Kという低温によるものであるから、Ir(ppy)_(3)と配位子ppyが共通するということのみに依拠して、甲第4号証に記載された化合物16?21(すなわち本件特許発明1及び3における式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物)がELデバイスにおいてIr(ppy)_(3)と同様の三重項MLCT励起状態を有し燐光発光する燐光有機金属化合物であるとは必ずしもいえず、したがって、式L_(2)MXの式で表される有機金属化合物を甲第1号証における燐光性有機金属化合物であるIr(ppy)_(3)の代わりにELデバイスに適用することについて、当業者が適宜なし得るものということはできない。

c.フォトルミネセンス(PL)とエレクトロルミネセンス(EL)との関係について
請求人は、「フォトルミネセンス分野に用いられるイリジウム錯体をエレクトロルミネセンスのような有機発光デバイスに適用することは当業者にとって容易になし得ることである。」(審判事件弁駁書6〔2-1〕(1))と主張している。
しかしながら、請求人が指摘する甲第1号証の記載は、「三重項の短い寿命と適度なフォトルミネセンス効率という双方の要因の併発によって、Ir(ppy)_(3)系OLEDの量子効率のピークを8.0%(28cd/A)、パワー効率のピークを31lm/Wとすることができる。」(摘示1d)及び「本研究で示したように、高性能デバイスには、適度なフォトルミネッセンス効率と約1μsの寿命で十分である。」(摘示1j)というものであるが、甲第1号証にはこれら以外に「フォトルミネセンス」の用語は使用されていないため、これらの記載が何を意味しているのか正確には不明であるが(なお、「フォトルミネセンス効率」と記載されていることからみて、後記甲第5号証で使用している意味と同じであると認められる。)、甲第1号証全体の記載からみて、上記した摘示1d及び1jの記載が請求人の主張する「ELの量子効率はPL効率と関係する」ことを説明しているものとは解されない。すなわち、PLを示す錯体であればOLEDとして使用可能であることを示しているものとは認められない。
また、甲第5号証には、「我々の研究結果は、このような高い三重項状態のPL効率を有する材料を有機ELデバイスの発光層として用いることができることを示しており、そうすることによって材料の幅を広げEL効率を高める新たな手法を提示している。」(摘示5j)とは記載されているが、「スピン統計を考慮すると、(ELのように)不対ペアの組み合わせにより励起子を形成するには、二つの電荷キャリアのスピン半整数を合わせる4つの方法が考えられる。そのうち3つの方法では、合成スピンが1、すなわち三重項状態となり、一つの方法でのみスピン数0の一重項状態となる。それゆえ、一重項及び三重項状態の両方が同じ光ルミネセンス効率を有するなら三重項励起状態からのEL収率は三倍になることが予想される。」(摘示5c)と記載されているように、「PL効率」すなわち「フォト(光)ルミネセンス効率」とは、単に、励起状態(励起手段を問わない)からの発光量子効率を意味するものであることが明らかであり、したがって、PLを示す材料であればELデバイスの発光層に使用できることを記載ないし示唆しているものとは解されない。

(エ)本件特許発明1及び3についてのまとめ
したがって、甲第3号証及び甲第7号証?甲第9号証から、甲1発明におけるIr(ppy)_(3)が三重項MLCT励起状態を示し、燐光発光することが既に知られていたとしても、そもそも、燐光発光するL_(2)MXの式で表される有機金属化合物自体が甲第4号証に記載も示唆もされていないのであり、また、甲第10号証?甲第12号証を参酌しても、当該L_(2)MXが三重項励起状態からの燐光発光をするものと認識できないのであるから、請求人が主張するとおり、甲第1号証、甲第5号証及び甲第6号証に、「ELデバイスに発光効率の優れた錯体を適用することが望まれている」ことが示されているとしても、また、「MLCT遷移帯を有する遷移金属錯体であればELデバイスの発光層に使用した場合三重項励起状態となる蓋然性があり、もってEL発光を示す発光層を形成するであろうということが当業界で少なくとも公知である」としても、甲第1号証に記載されたIr(ppy)_(3)錯体(L_(3)Mに該当する)をL_(2)MXの式で表される燐光有機金属化合物に置き換えて本件特許発明1とすることは、当業者が容易になし得たものということはできない。

そうすると、本件特許発明1及び3は、当業者が甲第1号証、甲第4号証?甲第14号証、甲第16号証及び甲第17号証にそれぞれ記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

イ.本件特許発明4及び5について
請求人は、本件特許発明4及び5について、「甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、甲第1号証、甲第4号証?甲第14号証、甲第16号証、甲第17号証から当業者が容易に発明をすることができたものである」と主張しているところ(平成23年1月7日付け上申書の6〔2〕(2-3)及び(2-4))、上記したとおり、本件特許発明1及び3は進歩性を有するので、請求項1若しくは3を直接又は間接的に引用し、本件特許発明1又は3のすべての特徴を含む本件特許発明4及び5も当然進歩性を有するものである。
したがって、本件特許発明4及び5は、当業者が甲第1号証、甲第4号証?甲第14号証、甲第16号証及び甲第17号証にそれぞれ記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

ウ.本件特許発明6及び13について
請求人は、本件特許発明6及び13について、「甲第1号証に記載された発明を主たる引用発明とし、甲第1号証、甲第3号証?甲第17号証から当業者が容易に発明をすることができたものである」と主張しているところ(平成23年1月7日付け上申書の6〔2〕(2-5)及び(2-6))、上記したとおり、本件特許発明1及び3は進歩性を有するので、請求項1若しくは3を直接又は間接的に引用し、本件特許発明1又は3のすべての特徴を含む本件特許発明6及び13も当然進歩性を有するものである。
したがって、本件特許発明6及び13は、当業者が甲第1号証及び甲第3号証?甲第17号証にそれぞれ記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではない。

(5)無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件特許の請求項1?7、10及び13に係る発明は、当業者が、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲第1号証?甲第17号証に記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものではなく、特許法第29条第2項の規定に違反して特許されたものではないので、無効理由1に基づいて請求項1?7、10及び13に係る発明の特許を無効にすることはできない。

第7.むすび
以上のとおりであるから、平成22年9月17日付け訂正請求により訂正された請求項1ないし13に係る発明についての特許は、いずれも無効理由1、2又は4に基づき無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担とすべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
有機LED用燐光性ドーパントとしての式L2MXの錯体
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 アノード、カソード及び発光層を含む有機発光デバイスであって、前記発光層は前記アノードと前記カソードの間に配置され、かつ前記発光層が式L_(2)MXの式で表される燐光有機金属化合物を含む、有機発光デバイス(前記式中、L及びXは異なった二座配位子であり;Mはイリジウムであり;前記X配位子はO-O配位子又はN-O配位子のいずれかであり;Lはsp^(2)混成炭素及び窒素原子によりMに配位されたモノアニオン性二座配位子である)(但し、L_(2)MX中、Xがヘキサフルオロアセチルアセトネート又はジフェニルアセチルアセトネートである有機発光デバイスを除く)。
【請求項2】 前記X配位子がO‐O配位子である、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項3】 前記X配位子がN‐O配位子である、請求項1に記載の有機発光デバイス。
【請求項4】 前記発光層が、ホスト及びドーパントを含み、前記ドーパントが前記燐光有機金属化合物を含む、請求項1?3のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。
【請求項5】 前記ホストが以下の:
【化1】

(式中、芳香族環を通って引いた線分の記号は、前記環中のどの炭素の所でも、場合により、アルキル又はアリールにより置換されていてもよいことを意味する。)
からなる群から選択される、請求項4に記載の有機発光デバイス。
【請求項6】 L配位子が、2‐(1‐ナフチル)ベンゾオキサゾール、2‐フェニルベンゾオキサゾール、2‐フェニルベンゾチアゾール、7,8‐ベンゾキノリン、フェニルピリジン、ベンゾチエニルピリジン、3‐メトキシ‐2‐フェニルピリジン、チエニルピリジン、及びトリルピリジンからなる群から選択される、請求項1?5のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。
【請求項7】 X配位子が、アセチルアセトネート、サリチリデン、ピコリネート、及び8‐ヒドロキシキノリネートからなる群から選択される、請求項1?6のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。
【請求項8】 L配位子が、フェニルイミン、ビニルピリジン、アリールキノリン、ピリジルナフタレン、ピリジルピロール、ピリジルイミダゾール、及びフェニルインドールからなる群から選択されて置換又は非置換の配位子である、請求項1?5及び7のいずれか一項に記載の有機発光デバイス。
【請求項9】 L配位子が、置換又は非置換のアリールキノリンを含む、請求項8に記載の有機発光デバイス。
【請求項10】 X配位子がアセチルアセトネートを含む、請求項7に記載の有機発光デバイス。
【請求項11】 L配位子が、以下の構造:
【化2】

を有する非置換のアリールキノリンである、請求項9に記載の有機発光デバイス。
【請求項12】 L配位子が、以下の構造:
【化3】

を含む置換アリールキノリンである、請求項9に記載の有機発光デバイス。
【請求項13】 請求項1?12のいずれか一項に記載された有機発光デバイスが組み込まれた表示装置。
【発明の詳細な説明】
【0001】
I.(技術分野)
本発明は、式L_(2)MX(式中、L及びXは異なった二座配位子であり、Mは金属、特にイリジウムである)の有機金属化合物、それらの合成、及び或るホスト中のドーパントとして、有機発光装置の発光層を形成するために使用することに関する。
【0002】
II.(背景技術)
II.A.一般的背景
有機発光装置(OLED)は、幾つかの有機層から構成され、それら層の中の一つは、装置を通って電圧を印加することによりエレクトロルミネッセンスを生ずるようにすることができる有機材料から構成されている。C.W.タング(Tang)その他、Appl.Phys.Lett.,51,913,(1987)。或るOLEDは、LCD系天然色平面パネル表示装置に代わる実際的技術として用いるのに充分な輝度、色の範囲、及び作動寿命を有することが示されている〔S.R.ホレスト(Forrest)、P.E.バローズ(Burrows)、及びM.E.トンプソン(Thompson)、Laser Focus World,Feb.(1995)〕。そのような装置で用いられている有機薄膜の多くは可視スペクトル範囲で透明なので、それらは、赤(R)、緑(G)、及び青(B)を発光するOLEDを垂直に積み重ねた形態で配置し、簡単な製造方法、小さなR-G-Bピクセルサイズ、及び大きな充填率を与える完全に新規な型の表示ピクセルを実現させることができる。国際特許出願No.PCT/US95/15790。
【0003】
大きな解像力を持ち、独立にアドレスすることができる積層R-G-Bピクセルを実現するための重要な段階を示す透明OLED(TOLED)が、国際特許出願No.PCT/US97/02681に報告されており、この場合TOLEDは、スイッチを切った時、71%より大きな透明度を示し、装置のスイッチを入れた時、大きな効率(1%に近い量子効率)で上及び下の両方の装置表面から光を出す。そのTOLEDは、ホール注入電極として透明インジウム錫酸化物(ITO)を、電子注入のためにNg-Ag-ITO電極層を用いている。Ng-Ag-ITO層のITO側が、TOLEDの上に積層された第二の別の色の発光OLEDのためのホール注入接点として用いられている装置が開示されている。積層OLED(SOLED)の各層は、独立にアドレスすることができ、それ自身の特性色を発光する。この着色発光は、隣接して積層された透明の独立にアドレスすることができる有機層(単数又は複数)、透明接点、及びガラス基体を通って伝達され、赤色及び青色の発光層の相対的出力を変化させることにより生ずることができるどのような色でも装置が発光できるようにしている。
【0004】
PCT/US95/15790出願には、色調節可能な表示装置で外部から供給される電力で強度及び色の両方を独立に変化し、調節することができる集積SOLEDが開示されている。このように、PCT/US95/15790出願は、小型のピクセルサイズによって可能にされた大きな解像力を与える集積天然色ピクセルを達成する原理を例示している。更に、従来の方法と比較して、そのような装置を製造するために比較的低いコストの製造技術を用いることができる。
【0005】
II.B. 発光の背景
II.B.1.基礎
II.B.1.a.一重項及び三重項励起子
有機材料では分子励起状態又は励起子の崩壊により光が発生するので、それらの性質及び相互作用を理解することは、表示器、レーザー、及び他の照明用途におけるそれらの潜在的用途のため現在大きな関心が持たれている効果的発光装置の設計にとって重要である。例えば、励起子の対称性が基底状態のものと異なっていると、励起子の放射性緩和は不可能になり、ルミネッセンスは遅く非効率的になる。基底状態は通常励起子を含む電子スピンの交換では反対称なので、対称性励起子の崩壊は対称性を破る。そのような励起子は三重項として知られており、この用語はその状態の縮退を反映している。OLEDでの電気的励起により形成されたどの三つの三重項励起子でも、唯一つの対称状態(即ち、一重項)励起が生ずる。〔M.A.バルド(Baldo)、D.F.オ・ブリーン(O’Brien)、M.E.トンプソン(Thompson)、及びS.R.フォレスト(Forrest)、「電気燐光に基づく非常に高い効率の緑色有機発光装置」(Very high-efficiency green organic light-emitting devices based on electrophosphorescence)、Applied Physics Letters,75,4-6,(1999)〕。対称性不可過程からのルミネッセンスは、燐光として知られている。特徴として、燐光は遷移の確率が低いため、励起後数秒間まで持続することがある。これに対し蛍光は一重項励起の早い崩壊で始まる。この過程は同じ対称性の状態の間で起きるので、それは非常に効率的である。
【0006】
多くの有機材料は一重項励起子からの蛍光を示す。しかし、ほんの僅かなものだけしか三重項による効果的室温燐光を出すことができないことも確認されている。例えば、殆どの蛍光染料では、三重項状態に含まれているエネルギーは浪費される。しかし、三重項励起状態が摂動を起こすと、例えば、スピン軌道結合(典型的には、重金属原子の存在により起きる)により摂動を起こすと、効果的燐光が一層起き易くなる。この場合、三重項励起は或る一重項特性をとり、それは基底状態へ放射性崩壊する一層大きな確率を有する。実際、これらの性質を有する燐光染料は、大きな効率のエレクトロルミネッセンスを示している。
【0007】
三重項による効果的室温燐光を示すことが確認されている有機材料はほんの僅かしかない。これとは対照的に、多くの蛍光染料が知られており〔C.H.チェン(Chen)、J.シ(Shi)、及びC.W.タング(Tang)、「分子状有機エレクトロルミネッセンス材料における最近の発展」(Recent developments in molecular organic electroluminescent materials)、Macromolecular Symposia.,125,1-48,(1997);U.ブラックマン(Brackmann)、「ラムダクロム・レーザー染料」(Lambdachrome Laser Dyes)、ラムダ・フィジーク(Lambda Physik)、ゲッチンゲン、1997〕、溶液中の蛍光効率が100%に近くなることは異常なことではない(C.H.チェン、1997、上記参照)。蛍光は、大きな励起密度で燐光発光を減少する三重項・三重項消滅によって影響を受けない〔M.A.バルドその他、「有機エレクトロルミネッセンス装置からの高効率燐光発光」(High efficiency phosphorescent emission from organic electroluminescent devices)、Nature,395,151-154,(1998);M.A.バルド、M.E.トンプソン、及びS.R.フォレスト、「電気燐光装置での三重項・三重項消滅の解析モデル」(An analytic model of triplet-triplet annihilation in electrophosphorescent devices)、1999〕。従って、蛍光材料は多くのエレクトロルミネッセンス用途に適しており、特に受動マトリックス表示器に適している。
【0008】
II.B.1.b.本発明の基礎に関する概説
本発明は、式LL′L″M〔式中、L、L′、及びL″は異なった二座配位子であり、Mは八面体錯体を形成する40より大きな原子番号の金属であり、好ましくは周期表の遷移シリーズ(series)の第3系列遷移金属の金属である〕の錯体に関する。別法として、Mは第2系列遷移金属の金属、又は主グループ金属(main group metals)、例えばZr及びSbにすることができる。そのような有機金属錯体のあるものは、エレクトロルミネッセンスを示し、最低エネルギー配位子又はMLCT状態から来た発光を示す。そのようなエレクトロルミネッセンス化合物は、発光ダイオードのエミッタ層のホスト層中のドーパントとして用いることができる。本発明は、更に式LL′L″M(式中、L、L′及びL″は同じか又は異なり、L、L′、及びL″はモノアニオン性二座配位子であり、Mは八面体錯体を形成する金属であり、好ましくは遷移金属の第3系列の金属、一層好ましくはIr又はPtであり、それら配位子を配位する原子は、sp^(2)混成軌道(hybridized)炭素及びヘテロ原子からなる)の錯体に関する。本発明は、更にL_(2)MX〔式中、L及びXは異なった二座配位子であり、Lはsp^(2)混成軌道炭素及びヘテロ原子を有するLの原子によりMに配位しており、Mは八面体錯体を形成する金属、好ましくはイリジウム(Ir)である〕に関する。これらの化合物は、有機発光ダイオードのエミッタ層として働くホスト層中のドーパントとして働くことができる。
【0009】
本発明の化合物は、式L_(2)M(μ-Cl)_(2)ML_(2)(式中、Lは二座配位子であり、MはIrのような金属である)の塩化物架橋二量体と、二座配位子Xを導入する働きをする物質XHとの直接反応により製造することができる。XHは、例えば、アセチルアセトン、2-ピコリン酸、又はN-メチルサリチルアニリドにすることができ、Hは水素を表す。得られる生成物は式L_(2)MXを有し、この場合、Mの回りに二座配位子L、L、及びXの八面体配位を得ることができる。
【0010】
式L_(2)MXの得られた化合物は、有機発光装置の燐光発光体として用いることができる。例えば、L=(2-フェニルベンゾチアゾール)、X=アセチルアセトネート、及びM=Ir(BTIrとして省略する化合物)である場合の化合物は、OLED中のエミッタ層を形成するために4,4′-N,N′-ジカルバゾール-ビフェニル(CBP)中のドーパントとして(質量で12%のレベルで)用いた場合、12%の量子効率を示す。参考として、式CBPは、次の通りである:
【0011】

【0012】
L_(2)MXを製造するための合成法は、L自身が蛍光体であるが、得られるL_(2)MXが燐光体である場合に有利に用いることができる。この一つの特別な例は、L=クマリン-6の場合である。
【0013】
合成法は、或る希望の特性を有するLとXの対の結合を促進する。
【0014】
LとXを適切に選択することにより、L_(3)Mに対する錯体L_(2)MXの色の調節を行うことができる。例えば、Ir(ppy)_(3)及び(ppy)_(2)Ir(acac)の両方共510nmのλmaxを有する強い緑色発光を与える[ppyはフェニルピリジンを表す]。しかし、X配位子がアセチルアセトンからではなく、ピコリン酸から形成されている場合、約15nmの小さな青色移行が存在する。
【0015】
更に、Xは、発光品質の劣化を起こすことなく、キャリヤー(ホール又は電子)がX(又はL)にトラップされるように、L_(3)M錯体に対し、或るHOMOレベルを有するように選択することができる。このようにして、他のやり方では燐光体の有害な酸化又は還元を起こす原因になることがあるキャリヤー(ホール又は電子)が阻止されるであろう。遠くでトラップされるキャリヤーは分子間的に反対符合のキャリヤーと、又は隣接分子からのキャリヤーと容易に再結合するであろう。
【0016】
本発明及びその種々の態様を、下の実施例で一層詳細に論ずる。しかし、それらの態様は異なった機構によって作動させることもできる。本発明の種々の態様が作動する種々の機構を論ずるが、それらによって本発明の範囲が限定されるものではない。
【0017】
II.B.1.c.デキスター(Dexter)及びフェルスター(Foerster)機構
根底にあるエネルギー移動機構の理論を論ずる事は、本発明の異なった態様を理解するのに役に立つであろう。受容体分子へのエネルギーの移動については一般に二つの機構が論じられている。デキスター移動〔D.L.デキスター、「固体中の増感ルミネッセンスの理論」(A theory of sensitized luminescence in solids)、J.Chem.Phys.,21,836-850,(1953)〕の第一の機構では、励起は一つの分子から次の分子へ直接跳び移ることができる。これは、隣り合った分子の分子軌道の重複に依存する短距離過程である。それは供与体と受容体の対の対称性も保持する〔E.ウィグナー(Wigner)及びE.W.ウィトマー(Wittmer)、「量子力学による二原子分子スペクトルの構造」(Uber die Struktur der zweiatomigen Molekelspektren nach der Quantenmechanik)、Zeitshrift fur Physik,51,859-886,(1928);M.クレッシンゲル(Klessinger)及びJ.ミッチェル(Michl)、「有機分子の励起状態及び光化学」(Excited states and photochemistry of organic molecules)(VCH出版社、ニューヨーク、1995)。従って、式(1)のエネルギー移動はデキスター機構によっては不可能である。フェルスター移動の第二機構では〔T.フェルスター、「分子間エネルギー移動及び蛍光」(Zwischenmolekulare Energiewanderung and Fluoreszenz)、Annalen der Physik,2,55-75(1948);T.フェルスター、「有機化合物の蛍光」(Fluoreszenz organischer Verbindugen)(Vandenhoek and Ruprecht、ゲッチンゲン、1951)〕、式(1)のエネルギー移動は可能である。フェルスターの移動では、送信機及びアンテナと同様に、供与体及び受容体分子の双極子が結合し、エネルギーは移動することができる。双極子は供与体と受容体の両方の分子中で許容された遷移によって生ずる。このことは、典型的にはフェルスター機構を一重項状態の間の移動に限定させることになる。
【0018】
それにも拘わらず、重金属原子によって導入されるスピン軌道結合によるなどして、状態の或る摂動により燐光体が光を発することができる限り、それはフェルスター移動での供与体としての役割も果たすことができる。この過程の効率は燐光体のルミネッセンス効率により決定され〔F.ウィルキンソン(Wilkinson)、「光化学の進歩」(Advances in Photochemistry)、W.A.ノイズ(Noyes)、G.ハモンド(Hammond)、及びJ.N.ピッツ(Pitts)編集、John Wiley & Sons、ニューヨーク、1964、pp.241-268〕、即ち、もし非放射性崩壊よりも放射性遷移の方が一層起き易いならば、エネルギー移動は効果的に行われるであろう。そのような三重項・一重項移動は、フェルスターによって予測されており〔T.フェルスター、「電子励起の移動機構」(Transfer mechanisms of electronic exitation)、Discussions of the Faraday Society,27,7-17,(1959)〕、エルモラエフ(Ermolaev)及びスベシニコワ(Sveshnikova)によって確認されており〔V.L.エルモラエフ及びE.B.スベシニコワ、「三重項状態の芳香族分子からの誘導共鳴エネルギー移動」(Inductive-resonance transfer of energy from aromatic molecules in the triplet state)、Doklady Akademii Nauk SSSR,149,1295-1298,(1963)〕、彼らは77K又は90Kで固体媒体中の或る範囲の燐光供与体及び蛍光受容体を用いてエネルギー移動を検出した。長距離移動が観察されており、例えば、供与体としてトリフェニルアミン、受容体としてクリソイジンを用いて、相互作用範囲は52Åである。
【0019】
フェルスター移動のための残りの条件は、励起及び基底状態の分子対の間のエネルギーレベルが共鳴していると仮定して、吸収スペクトルが供与体の発光スペクトルと重なり合っていることである。本願の例1では、我々は緑燐光体facトリス(2-フェニルピリジン)イリジウム〔Ir(ppy)_(3);M.A.バルド(Baldo)、その他、Appl.Phys.Lett.,75,4-6,(1999)〕、及び赤色蛍光染料、[2-メチル-6-[2-(2,3,6,7-テトラヒドロ-1H,5H-ベンゾ[ij]キノリジン-9-イル)エテニル]-4H-ピラン-イリデン]プロパン-ジニトリル]〔「DCM2」;C.W.タング(Tang)、S.A.ファンスライケ(VanSlyke)、及びC.H.チェン(Chen)、「ドープした有機フイルムのエレクトロルミネッセンス」(Electroluminescence of doped organic films)、J.Appl.Phys.,65,3610-3616,(1989)〕を用いた。DCM2は緑で吸収し、局部的分極場によりそれはλ=570nmとλ=650nmの間の波長で発光する〔V.ブロビック(Bulovic)その他、「分極誘導スペクトル移動に基づく明るい飽和赤?黄橙色発光装置」(Bright,saturated,red-to-yellow organic light-emitting devices based on polarization-induced spectral shifts)、Chem.Phys.Lett.,287,455-460,(1998)〕。
【0020】
燐光性ホスト材料中に蛍光性ゲストをドーピングすることにより、三重項状態からフェルスターエネルギー移動を行わせることが可能になる。残念ながらそのような系は、全効率を劣化する競合エネルギー移動機構により影響を受ける。特にホスト及びゲストの密接な近接性が、ホストからゲスト三重項へのデキスター移動の可能性を増大する。励起子がゲスト三重項状態に近づくと、それら励起子は効果的に失われる。なぜなら、これら蛍光染料は極めて非効率的な燐光を示すのが典型的だからである。
【0021】
ホスト三重項の蛍光染料一重項への移動を最大にするため、燐光体の三重項状態へのデキスター移動を最大にすると同時に、蛍光染料の三重項状態への移動を最小にすることが望ましい。デキスター機構は隣り合った分子間のエネルギーを移動させるので、蛍光染料の濃度を減少すると、染料への三重項・三重項移動の確率が減少する。一方、一重項状態への長距離フェルスター移動は影響を受けない。これとは対照的に、燐光体の三重項状態への移動はホスト三重項を利用するのに必要であり、燐光体の濃度を増大することにより改善することができる。
【0022】
II.B.2.装置構造と発光との相関関係
有機光電子材料の層を用いることに基づく構造を有する装置は、一般に光学的発光を与える一般的機構に依存している。この機構は捕捉された電荷の発光性再結合に基づいているのが典型的である。特にOLEDは、装置のアノードとカソードを分離する少なくとも二つの薄い有機層を有する。これらの層の一つの材料は、特に材料のホールを輸送する能力に基づいて選択された「ホール輸送層」(HTL)であり、他方の層の材料は特に電子を輸送するその能力に従って選択された「電子輸送層」(ETL)である。そのような構造により、装置はダイオードとして見ることができ、アノードに印加された電位がカソードに印加された電位よりも高い時、順方向バイアスとなる。これらのバイアス条件下では、アノードはホール輸送層中へホール(正電荷キャリヤー)を注入し、一方カソードは電子輸送層に電子を注入する。これにより、ルミネッセンス媒体の、アノードに隣接した部分はホール注入及び輸送領域を形成し、一方ルミネッセンス媒体の、カソードに隣接した部分は電子注入及び輸送領域を形成する。注入されたホール及び電子は、夫々反対に帯電した電極の方へ移動する。同じ分子に電子及びホールが局在すると、フレンケル(Frenkel)励起子が形成される。この寿命の短い状態の再結合は、電子がその伝導電位から価電子帯へ落ちた時に可視化され、或る条件下では優先的に発光機構により緩和が起きる。典型的な薄層有機装置の作動機構のこの見解によれば、エレクトロルミネッセンス層は易動性電荷キャリヤー(電子及びホール)を各電極から受けるルミネッセンス領域を有する。
【0023】
上で述べたように、OLEDからの発光は、蛍光又は燐光によるのが典型的である。燐光の利用には問題がある。大きな電流密度では燐光効率は急速に低下することが認められている。長い燐光寿命は発光部位の飽和を起こし、三重項・三重項消滅も効率の低下を生ずることになる。蛍光と燐光との別の相違点は、伝導性ホストからルミネッセンスゲスト分子への三重項のエネルギー移動が一重項のものよりも遅いのが典型的であると言うことである。一重項のエネルギー移動を支配する長距離双極子・双極子結合(フェルスター移動)は、(理論的には)スピン対称性保存の原理により三重項に対しては禁止されている。従って、三重項の場合、エネルギー移動は隣り合った分子への励起子の拡散によって起きるのが典型的であり(デキスター移動)、供与体と受容体の励起波動関数のかなりの重複がエネルギー移動には必須である。別の問題は、三重項拡散距離が、約200Åの典型的な一重項拡散距離と比較して長い(例えば、>1400Å)のが典型的なことである。従って、燐光装置がそれらの可能性を実現できるものであるためには、装置構造は三重項特性に最適なものになっている必要がある。本発明では、外部量子効率を向上させるため長距離三重項拡散の性質を利用している。
【0024】
燐光の利用に成功することは、有機エレクトロルミネッセンス装置の膨大な前途を約束するものである。例えば、燐光の利点は、(一つには)燐光装置の三重項に基づく全ての励起子(EL中でのホールと電子との再結合により形成される)が、或るエレクトロルミネッセンス材料でエネルギー移動及びルミネッセンスに関与することができることである。これに対し一重項に基づく蛍光装置では、僅かな割合の励起子しか蛍光ルミネッセンスを与える結果にならない。
【0025】
別の方法は、蛍光過程の効率を向上させるため燐光過程を利用することである。蛍光は原理的には、対称励起状態の3倍大きな数により75%低い効率になる。
【0026】
II.C.材料の背景
II.C.1.基本的ヘテロ構造
典型的には、少なくとも一つの電子輸送層及び少なくとも一つのホール輸送層が存在するので、ヘテロ構造を形成する異なった材料の層が存在する。エレクトロルミネッセンス発光を生ずる材料は、電子輸送層又はホール輸送層として働く材料と同じ材料である。電子輸送層又はホール輸送層が発光層としても働くそのような装置は、単一ヘテロ構造を有するとして言及されている。別法として、エレクトロルミネッセンス材料は、ホール輸送層と電子輸送層との間の別の発光層中に存在していてもよく、それは二重ヘテロ構造と呼ばれている。その別の発光層はホスト中へドープした発光分子を含んでいてもよく、或は発光層は発光分子から本質的になっていてもよい。
【0027】
即ち、電荷キャリヤー層、即ち、ホール輸送層又は電子輸送層中の主たる成分として存在し、電荷キャリヤー材料及び発光材料の両方として機能を果たす発光材料の外に、電荷キャリヤー層中のドーパントとして比較的低い濃度で発光材料が存在していてもよい。ドーパントが存在する場合には、電荷キャリヤー層中の主たる材料はホスト化合物又は受容性化合物と呼ぶことができる。ホスト及びドーパントとして存在する材料は、ホストからドーパント材料へ高レベルのエネルギー遷移を与えるように選択する。更に、これらの材料はOLEDのための許容可能な電気的性質を生ずることができる必要がある。更に、そのようなホスト及びドーパント材料は、便利な製造技術を用いて、特に真空蒸着法を用いてOLED中に容易に配合することができる材料を用いてOLED中へ導入することができることが好ましい。
【0028】
II.C.2.励起子ブロッキング層
励起子の拡散を実質的に妨げ、それによって励起子を実質的に発光層内に留め、装置の効率を増大するため、OLCD装置内に励起子ブロッキング層(exciton blocking layer)を入れることができる。ブロッキング層の材料は、その最も低い空乏分子軌道(LUMO)及びその最も高い占有分子軌道(HOMO)との間のエネルギー差(禁止帯幅)を特徴とする。この禁止帯幅はブロッキング層を通る励起子の拡散を実質的に防ぐが、完成したエレクトロルミネッセンス装置のスイッチを入れた時の電圧で最小の効果しか持たない。従って、その禁止帯幅は発光層中で生じた励起子のエネルギーレベルよりも大きく、そのような励起子がブロッキング層中に存在することができないようにするのが好ましい。特に、ブロッキング層の禁止帯幅は、ホストの三重項状態と基底状態とのエネルギー差と少なくとも同じ位の大きさである。
【0029】
ホール伝導性ホストと電子輸送層との間にブロッキング層が存在する状態では、相対的重要性の順序で列挙する次の特性が求められる。
【0030】
1.ブロッキング層のLUMOとHOMOとの間のエネルギー差が、ホスト材料の三重項と基底状態一重項とのエネルギー差よりも大きい。
2.ホスト材料中の三重項はブロッキング層によりクエンチされない。
3.ブロッキング層のイオン化ポテンシャル(IP)は、ホストのイオン化ポテンシャルよりも大きい(ホールはホスト中に保持されることを意味する)。
4.ブロッキング層のLUMOのエネルギーレベルと、ホストのLUMOのエネルギーレベルとが、装置の全伝導度の変化が50%より少なくなるようにエネルギーが充分近接している。
5.ブロッキング層は、発光層から隣接層への励起子の移動を効果的に遮断するのに充分な層の厚さを有することを条件として、できるだけ薄くする。
【0031】
即ち、励起子及びホールを遮断するため、ブロッキング層のイオン化ポテンシャルはHTLのそれよりも大きくすべきであり、同時にブロッキング層の電子親和力は、電子を輸送し易くできるようにETLのそれとほぼ等しくなっているべきである。
[ホール輸送ホストを用いずに放射性(発光)分子を用いた場合には、ブロッキング層を選択するための上記規則は、「ホスト」と言う言葉を「発光分子」によって置き換えることにより修正する。]
【0032】
電子伝導性ホストとホール輸送層との間にブロッキング層を用いた補助的状態について、それらの特性を求める(重要性の順序で列挙した):
【0033】
1.ブロッキング層のLUMOとHOMOとの間のエネルギー差が、ホスト材料の三重項と基底状態一重項とのエネルギー差よりも大きい。
2.ホスト材料中の三重項はブロッキング層によりクエンチされない。
3.ブロッキング層のLUMOのエネルギーは、(電子輸送)ホストのLUMOのエネルギーよりも大きい。(電子がホストに保持されることを意味する)。
4.ブロッキング層のイオン化ポテンシャル及びホストのイオン化ポテンシャルは、ホールが障壁からホストへ容易に注入され、装置の全伝導度の変化が50%より小さくなるようなものである。
5.ブロッキング層は、発光層から隣接層への励起子の移動を効果的に遮断するのに充分な層の厚さを有することを条件として、できるだけ薄くする。
【0034】
[電子輸送ホストを用いずに放射性(発光)分子を用いた場合には、ブロッキング層を選択するための上記規則は、「ホスト」と言う言葉を「発光分子」によって置き換えることにより修正する。]
【0035】
II.D.色
色に関し、三つの主要な色、赤、緑及び青の一つに相当する選択されたスペクトル領域に近い所に中心を有する比較的狭い帯域でエレクトロルミネッセンス発光を与える材料を用いてOLEDを製造し、それらがOLED又はSOLED中の着色層として用いることができるようにすることが望ましい。そのような化合物は、真空蒸着法を用いて薄層として容易に蒸着することができ、真空蒸着有機材料から全て製造されるOLED中に容易にそれらを組み込むことができるようにすることも望ましい。
【0036】
1996年12月23日に出願された米国特許出願Serial No.08/774,333(認可された)は、飽和赤色発光を生ずる発光化合物含有OLEDに関する。
【0037】
III. (発明の開示)
一般的なレベルとして、本発明は、40より大きな原子番号を有する金属Mの錯体に関し、ここでMは三つの二座配位子を有する八面体錯体を形成する。金属には、Sbのような主グループ金属、「周期表の遷移シリーズの第2系列の遷移金属」、好ましくは「周期表の遷移シリーズの第3系列の遷移金属」、最も好ましくはIr及びPtが含まれる。有機金属錯体は、有機発光ダイオードのエミッタ層中に用いることができる。錯体はLL′L″M(式中、L、L′、及びL″は二座配位子を表し、Mは金属を表す)として描くことができる。全ての配位子が異なっている例を図40に示す。
【0038】
本発明は、更に金属物質Mとモノアニオン性二座配位子との有機金属錯体に関し、この場合Mには配位子のsp^(2)混成軌道炭素及びヘテロ原子が配位している。錯体は、L_(3)M(この場合各配位子L物質は同じである)、LL′L″M(この場合、各配位子物質L、L′、L″は異なっている)、又はL_(2)MX(この場合、Xはモノアニオン性二座配位子である)の形をしていてもよい。配位子Lは、Xよりも一層発光過程に関与するものと一般に予想されている。好ましくは、Mは第3系列の遷移金属であり、最も好ましくは、MはIr又はPtである。本発明は、L_(3)Mのメリジアナル(meridianal)異性体にも関し、この場合二つの配位子Lのヘテロ原子(例えば、窒素)はトランス型になっている。Mに配位子のsp^(2)混成軌道炭素及びヘテロ原子が配位した態様では、金属M、sp^(2)混成軌道炭素及びヘテロ原子を有する環は5又は6個の原子を有するのが好ましい。
【0039】
更に、本発明は、二座配位子LとMを有する遷移金属物質Mの錯体を、有機発光ダイオードのエミッタ層中に式L_(2)MXの化合物として使用することに関する。好ましい態様は、有機発光ダイオード中のエミッタ層として機能を果たすように構成されたホスト層中のドーパントとしての式L_(2)IrX(式中、L及びXは異なった二座配位子である)の化合物である。
【0040】
本発明は、発光装置の発光体としての機能を果たす有機金属分子の改良された合成にも関する。本発明の化合物は、次の反応:
L_(2)M(μ-Cl)_(2)ML_(2)+XH→L_(2)MX+HCl
〔式中、L_(2)M(μ-Cl)_(2)ML_(2)は、Lを二座配位子とし、MをIrのような金属とした塩化物架橋二量体であり;
XHは、架橋塩化物と反応し、二座配位子Xを導入する働きをするブレンステッド酸であり、この場合XHは、例えばアセチルアセトン、2-ピコリン酸、又はN-メチルサリチルアニリドにすることができる。〕
に従って製造することができる。この方法は、L_(2)M(μ-Cl)_(2)ML_(2)塩化物架橋二量体と、XH物質とを結合することを含んでいる。L_(2)MXは、Mの周りの二座配位子L、L、及びXのほぼ八面体の配置を有する。
【0041】
本発明は、更に有機発光装置中の燐光発光体として、式L_(2)MXの化合物を使用することに関する。例えば、L=(2-フェニルベンゾチアゾール)、X=アセチルアセトネート、及びM=Irである場合の化合物(BTIrとして省略する)を、OLED中のエミッタ層を形成するためにCBP中のドーパントとして(質量で12%のレベルで)用いた場合、12%の量子効率を示す。参考として、4,4′-N,N′-ジカルバゾール-ビフェニル(CBP)の式は、次の通りである:
【0042】

【0043】
本発明は、更に有機金属錯体L_(2)MXに関し、この場合L自身は蛍光体であるが、得られたL_(2)MXは燐光体である。この一つの特別な例は、L=クマリン-6の場合である。
【0044】
本発明は、更にL_(3)Mに対し、錯体L_(2)MXの色の調節を行うためにL及びXを適切に選択することにも関する。例えば、Ir(ppy)_(3)及び(ppy)_(2)Ir(acac)の両方共510nmのλmaxを有する強い緑色発光を与える[ppyはフェニルピリジンを表す]。しかし、X配位子がアセチルアセトンからではなく、ピコリン酸から形成されている場合、約15nmの小さな青色移行が存在する。
【0045】
更に、発光品質の劣化を起こすことなく、キャリヤー(ホール又は電子)がX(又はL)にトラップされるように、L_(3)M錯体に対し、或るHOMOレベルを有するようにXを選択することに関する。このようにして、他のやり方では燐光体の有害な酸化(又は還元)を起こす原因になることがあるキャリヤー(ホール又は電子)が阻止されるであろう。遠くでトラップされるキャリヤーは分子間的に反対符合のキャリヤーと、又は隣接分子からのキャリヤーと容易に再結合するであろう。
【0046】
V.(本発明の詳細な記述)
V.A.化学
本発明は、有機発光ダイオードのエミッタ層のホスト層内にドープすることができる式L_(2)MXの或る有機金属分子の合成及びその使用に関する。場合により、式L_(2)MXの分子は、増大した濃度で、又はそのままで、エミッタ層に用いることができる。本発明は、式L_(2)MX(式中、L及びXは、異なった二座配位子であり、Mは八面体錯体を形成する、好ましくは周期表の遷移元素の第三列から選択された金属で、最も好ましくはIr又はPtである)の分子を含有するエミッタ層を有し、然も、前記エミッタ層が或る波長λmaxで最大値を有する発光を生ずる有機発光装置に関する。
【0047】
V.A.1.ドーパント
ホスト相中にドープされる分子についての一般的化学式はL_(2)MX(式中、Mは八面体錯体を形成する遷移金属であり、Lは二座配位子であり、Xは異なった二座配位子である)である。
【0048】
Lの例は、2-(1-ナフチル)ベンゾオキサゾール、(2-フェニルベンゾオキサゾール)、(2-フェニルベンゾチアゾール)、(2-フェニルベンゾチアゾール)、(7,8-ベンゾキノリン)、クマリン、(チエニルピリジン)、フェニルピリジン、ベンゾチエニルピリジン、3-メトキシ-2-フェニルピリジン、チエニルピリジン、及びトリルピリジンである。
【0049】
Xの例は、アセチルアセトネート(acac)、ヘキサフルオロアセチルアセトネート、サリチリデン、ピコリネート、及び8-ヒドロキシキノリネートである。
【0050】
L及びXの更に別な例は図39に与えられており、L及びXの更に別な例は「総合配位化学」(Comprehensive Coordination Chemistry)(編集主任G.Wilkinson、Pergamon Press)第2巻、特にM.カリガリス(Calligaris)及びL.ランダチオ(Randaccio)による第20.1章(第715頁以降)及びR.S.バグ(Vagg)による第20.4章(第793頁以降)に見出すことができる。
【0051】
V.A.2.式L_(2)MXの分子の合成
V.A.2.a.反応方式
式L_(2)MXの化合物は、次の式に従って製造することができる:
L_(2)M(μ-Cl)_(2)ML_(2)+XH→L_(2)MX+HCl
〔式中、L_(2)M(μ-Cl)_(2)ML_(2)は、Lを二座配位子とした塩化物架橋二量体であり、MはIrのような金属であり;
XHは、架橋塩化物と反応し、二座配位子Xを導入する働きをするブレンステッド酸であり、この場合XHは、例えばアセチルアセトン、ヘキサフルオロアセチルアセトン、2-ピコリン酸、又はN-メチルサリチルアニリドにすることができる。〕
L_(2)MXは、Mの周りの二座配位子L、L、及びXのほぼ八面体の配置を有する。
【0052】
V.A.2.b.実施例
L_(2)Ir(μ-Cl)_(2)IrL_(2)錯体は、IrCl_(3)・nH_(2)O及び適当な配位子から文献の方法により製造した〔S.スプラウズ(Sprouse)、K.A.キング(King)、P.J.スペラン(Spellane)、R.J.ワッツ(Watts)、J.Am.Chem.Soc.,106,6647-6653,(1984);一般的参考文献:G.A.カールソンその他、Inorg.Chem.,32,4483,(1993);B.シュミット(Schmid)その他、Inorg.Chem.,33,9,(1993);F.グラシス(Garces)その他、Inorg.Chem.,27,3464,(1988);M.G.コロンボ(Colombo)その他、Inorg.Chem.,32,3088,(1993);A.マモ(Mamo)その他、Inorg.Chem.,36,5947,(1997);S.セロニ(Serroni)その他、J.Am.Chem.Soc.,116,9086,(1994);A.P.ワイルド(Wilde)その他、J.Phys.Chem.,95,629,(1991);J.H.ヴァン・ジーメン(van Diemen)その他、Inorg.Chem.,31,3518,(1992);M.G.コロンボその他、Inorg.Chem.,33,545,(1994)〕。
【0053】
Ir(3-MeOppy)_(3)。Ir(acac)_(3)(0.57g、1.17mM)及び3-メトキシ-2-フェニルピリジン(1.3g、7.02mM)を、30mlのグリセロール中で混合し、N_(2)中で24時間200℃に加熱した。得られた混合物を100mlの1MのHClへ添加した。沈澱物を濾過により収集し、溶離剤としてCH_(2)Cl_(2)を用いてカラムクロマトグラフィーにより精製し、明るい黄色固体として生成物を得た(0.35g、40%)。MS(EI):m/z(相対的強度)745(M^(-)、100)、561(30)、372(35)。発光スペクトルは図7に示してある。
【0054】
tpyIrsd。塩化物架橋二量体(tpyIrCl)_(2)(0.07g、0.06mM)、サリチリデン(0.022g、0.16mM)及びNa_(2)CO_(3)(0.02g、0.09mM)を、10mlの1,2-ジクロロエタン及び2mlのエタノール中で混合した。混合物を、TLCにより二量体が検出されなくなるまで、6時間N_(2)中で還流した。次に反応を冷却し、溶媒を蒸発させた。真空中で穏やかに加熱することにより、過剰のサリチリデンを除去した。残留固体をCH_(2)Cl_(2)中に再溶解し、不溶性無機物質を濾過により除去した。濾液を濃縮し、溶離剤としてCH_(2)Cl_(2)を用いてカラムクロマトグラフィーにかけ、明るい黄色固体として生成物を得た(0.07g、85%)。MS(EI):m/z(相対的強度)663(M^(+)、75)、529(100)、332(35)。発光スペクトルは図8に示してあり、プロトンNMRスペクトルは図9に示してある。
【0055】
thpyIrsd。塩化物架橋二量体(thpyIrCl)_(2)(0.21g、0.19mM)を、(thpyIrCl)_(2)と同じやり方で処理した。収率:0.21g、84%。MS(EI):m/z(相対的強度)647(M^(+)、100)、513(30)、486(15)、434(20)、324(25)。発光スペクトルは図10に示してあり、プロトンNMRスペクトルは図11に示してある。
【0056】
btIrsd。塩化物架橋二量体(btIrCl)_(2)(0.05g、0.039mM)を、(tpyIrCl)_(2)と同じやり方で処理した。収率:0.05g、86%。MS(EI):m/z(相対的強度)747(M^(+)、100)、613(100)、476(30)、374(25)、286(32)。発光スペクトルは図12に示してあり、プロトンNMRスペクトルは図13に示してある。
【0057】
Ir(bq)_(2)(acac)、BQIr。塩化物架橋二量体(Ir(bq)_(2)Cl)_(2)(0.091g、0.078mM)、アセチルアセトン(0.021g)、及び炭酸ナトリウム(0.083g)を、10mlの2-エトキシエタノール中で混合した。混合物を、TLCにより二量体が検出されなくなるまで、10時間N_(2)中で還流した。次に反応を冷却し、黄色の沈澱物を濾過した。生成物を、ジクロロメタンを用いてフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。生成物:明るい黄色固体(収率91%)。^(1)H NMR(360MHz、アセトン-d_(6))、ppm:8.93(d、2H)、8.47(d、2H)、7.78(m、4H)、7.25(d、2H)、7.15(d、2H)、6.87(d、2H)、6.21(d、2H)、5.70(s、1H)、1.63(s、6H)。MS、e/z:648(M+、80%)、549(100%)。発光スペクトルは図14に示してあり、プロトンNMRスペクトルは図15に示してある。
【0058】
Ir(bq)_(2)(Facac)、BQIrFA。塩化物架橋二量体(Ir(bq)_(2)Cl)_(2)(0.091g、0.078mM)、ヘキサフルオロアセチルアセトン(0.025g)、及び炭酸ナトリウム(0.083g)を、10mlの2-エトキシエタノール中で混合した。混合物を、TLCにより二量体が検出されなくなるまで、10時間N_(2)中で還流した。次に反応を冷却し、黄色の沈澱物を濾過した。生成物を、ジクロロメタンを用いてフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。生成物:黄色固体(収率69%)。^(1)H NMR(360MHz、アセトン-d_(6))、ppm:8.99(d、2H)、8.55(d、2H)、7.86(m、4H)、7.30(d、2H)、7.14(d、2H)、6.97(d、2H)、6.13(d、2H)、5.75(s、1H)。MS、e/z:684(M+、59%)、549(100%)。発光スペクトルは図16に示してある。
【0059】
Ir(thpy)_(2)(acac)、THPIr。塩化物架橋二量体(Ir(thpy)_(2)Cl)_(2)(0.082g、0.078mM)、アセチルアセトン(0.025g)、及び炭酸ナトリウム(0.083g)を、10mlの2-エトキシエタノール中で混合した。混合物を、TLCにより二量体が検出されなくなるまで、10時間N_(2)中で還流した。次に反応を冷却し、黄色の沈澱物を濾過した。生成物を、ジクロロメタンを用いてフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。生成物:黄橙色固体(収率80%)。^(1)H NMR(360MHz、アセトン-d_(6))、ppm:8.34(d、2H)、7.79(m、2H)、7.58(d、2H)、7.21(d、2H)、7.15(d、2H)、6.07(d、2H)、5.28(s、1H)、1.70(s、6H)。MS、e/z:612(M+、89%)、513(100%)。発光スペクトルは図17に示してあり(「THIr」として記してある)、プロトンNMRスペクトルは図18に示してある。
【0060】
Ir(ppy)_(2)(acac)、PPIr。塩化物架橋二量体(Ir(ppy)_(2)Cl)_(2)(0.080g、0.078mM)、アセチルアセトン(0.025g)、及び炭酸ナトリウム(0.083g)を、10mlの2-エトキシエタノール中で混合した。混合物を、TLCにより二量体が検出されなくなるまで、10時間N_(2)中で還流した。次に反応を冷却し、黄色の沈澱物を濾過した。生成物を、ジクロロメタンを用いてフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。生成物:黄色固体(収率87%)。^(1)H NMR(360MHz、アセトン-d_(6))、ppm:8.54(d、2H)、8.06(d、2H)、7.92(m、2H)、7.81(d、2H)、7.35(d、2H)、6.78(m、2H)、6.69(m、2H)、6.20(d、2H)、5.12(s、1H)、1.62(s、6H)。MS、e/z:600(M+、75%)、501(100%)。発光スペクトルは図19に示してあり、プロトンNMRスペクトルは図20に示してある。
【0061】
Ir(bthpy)_(2)(acac)、BTPIr。塩化物架橋二量体(Ir(bthpy)_(2)Cl)_(2)(0.103g、0.078mM)、アセチルアセトン(0.025g)、及び炭酸ナトリウム(0.083g)を、10mlの2-エトキシエタノール中で混合した。混合物を、TLCにより二量体が検出されなくなるまで、10時間N_(2)中で還流した。次に反応を冷却し、黄色の沈澱物を濾過した。生成物を、ジクロロメタンを用いてフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。生成物:黄色固体(収率49%)。MS、e/z:712(M+、66%)、613(100%)。発光スペクトルは図21に示してある。
【0062】
[Ir(ptpy)_(2)Cl]_(2):IrCl_(3)・xH_(2)O(1.506g、5.030mM)及び2-(p-トリル)ピリジン(3.509g、20.74mM)を2-エトキシエタノール(30ml)中に入れた溶液を、25時間還流した。黄緑色の混合物を室温へ冷却し、20mlの1.0MのHClを添加し、生成物を沈澱させた。混合物を濾過し、100mlの1.0MのHClで洗浄し、次に50mlのメタノールで洗浄し、次に乾燥した。黄色粉末として生成物が得られた(1.850g、65%)。
【0063】
[Ir(ppz)_(2)Cl]_(2):IrCl_(3)・xH_(2)O(0.904g、3.027mM)及び1-フェニルピラゾール(1.725g、11.96mM)を2-エトキシエタノール(30ml)中に入れた溶液を、21時間還流した。灰緑色の混合物を室温へ冷却し、20mlの1.0MのHClを添加し、生成物を沈澱させた。混合物を濾過し、100mlの1.0MのHClで洗浄し、次に50mlのメタノールで洗浄し、次に乾燥した。明灰色の粉末として生成物が得られた(1.133g、73%)。
【0064】
[Ir(C6)_(2)Cl]_(2):IrCl_(3)・xH_(2)O(0.075g、0.251mM)及びクマリンC6[3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチル)クマリン]〔アルドリッヒ(Aldrich)〕(0.350g、1.00mM)を2-エトキシエタノール(15ml)中に入れた溶液を、22時間還流した。暗赤色の混合物を室温へ冷却し、20mlの1.0MのHClを添加し、生成物を沈澱させた。混合物を濾過し、100mlの1.0MのHClで洗浄し、次に50mlのメタノールで洗浄した。生成物をメタノール中に溶解し、沈澱させた。固体を濾過し、濾液中に緑の発光が観察されなくなるまでメタノールで洗浄した。橙色の粉末として生成物が得られた(0.0657g、28%)。
【0065】
Ir(ptpy)_(2)acac(tpyIr):[Ir(ptpy)_(2)Cl]_(2)(1.705g、1.511mM)、2,4-ペンタンジオール(3.013g、30.08mM)、及び(1.802g、17.04mM)を1,2-ジクロロエタン(60ml)中に入れた溶液を、40時間還流した。黄緑色の混合物を室温へ冷却し、溶媒を減圧下で除去した。生成物を50mlのCH_(2)Cl_(2)中に取り、セライトを通して濾液した。減圧下で溶媒を除去し、橙色結晶の生成物を得た(1.696g、89%)。発光スペクトルを図22に示す。構造のX線回折研究の結果を図23に示す。tpy(トリルピリジル)基の窒素原子はトランス型になっていることが分かった。X線研究から、反射数は4663であり、R因子(R factor)は5.4%であった。
【0066】
Ir(C6)_(2)acac(C6Ir):[Ir(C6)_(2)Cl]_(2)をCDCl_(3)中に入れた溶液に2滴の2,4-ペンタンジオン及び過剰のNa_(2)CO_(3)を添加した。管を50℃で48時間加熱し、次にパスツールピペットの中の短いセライト充填物に通して濾過した。溶媒及び過剰の2,4-ペンタンジオンを減圧下で除去し、橙色固体として生成物を得た。C6の発光を図24に示し、C6Irの発光を図25に示す。
【0067】
Ir(ppz)_(2)ピコリネート(PZIrp):[Ir(ppz)_(2)Cl]_(2)(0.0545g、0.0530mM)、及びピコリン酸(0.0525g、0.426mM)をCH_(2)Cl_(2)(15ml)中に入れた溶液を、16時間還流した。明緑色の混合物を室温へ冷却し、溶媒を減圧下で除去した。得られた固体を10mlのメタノール中にとり、明緑色の固体を溶液から沈澱させた。上澄み液を傾瀉により除去し、固体をCH_(2)Cl_(2)中に溶解し、短いシリカ充填物を通して濾過した。減圧下で溶媒を除去し、明緑色結晶の生成物を得た(0.0075g、12%)。発光を図26に示す。
【0068】
2-(1-ナフチル)ベンゾオキサゾール、(BZO-Naph)。11.06g、101mMの2-アミノフェノールを、15.867g、92.2mMの1-ナフトエ酸と、ポリ燐酸の存在下で混合した。混合物を加熱し、N_(2)中で8時間240℃で撹拌した。混合物を100℃に冷却し、これに水を添加した。不溶性残留物を濾過により収集し、水で洗浄し、次に過剰の10%Na_(2)CO_(3)中で再びスラリーにした。アルカリ性スラリーを濾過し、生成物を水で完全に洗浄し、真空中で乾燥した。生成物を真空蒸留により精製した。BP 140℃/0.3mmHg。収量4.8g(21%)。
【0069】
テトラキス[2-(1-ナフチル)ベンゾオキサゾールC^(2),N](μ-ジクロロ)ジイリジウム、[(Ir_(2)(BZO-Naph)_(4)Cl)_(2)]。三塩化イリジウム水和物(0.388g)を、2-(1-ナフチル)ベンゾオキサゾール(1.2g、4.88mM)と一緒にした。混合物を2-エトキシエタノール(30ml)中に溶解し、次に24時間還流した。溶液を室温へ冷却し、得られた橙色固体生成物を遠心分離管中で収集した。二量体をメタノールで洗浄し、次にクロロホルムにより洗浄する遠心分離/再分散サイクルを4サイクル行なった。収量0.66g。
【0070】
ビス[2-(1-ナフチル)ベンゾオキサゾール]アセチルアセトネート、Ir(BZO-Naph)_(2)(acac)、(BONIr)。塩化物架橋二量体[Ir_(2)(BZO-Naph)_(4)Cl]_(2)(0.66g、0.46mM)、アセチルアセトン(0.185g)、及び炭酸ナトリウム(0.2g)を、20mlのジクロロエタン中で混合した。混合物を、N_(2)中で60時間還流した。次に反応を冷却し、橙/赤色の沈澱物を遠心分離管中で収集した。生成物を、水/メタノール(1:1)混合物で洗浄し、次にメタノールで洗浄する遠心分離/再分散サイクルを4サイクル行なった。橙/赤色固体生成物を昇華により生成した。SP 250℃/2×10^(-5)トール。収量0.57g(80%)。発光スペクトルは図27に示してあり、プロトンNMRスペクトルは図28に示してある。
【0071】
ビス(2-フェニルベンゾチアゾール)イリジウムアセチルアセトネート(BTIr):2.1mMの2-フェニルベンゾチアゾールイリジウム塩化物二量体(2.7g)を、120mlの2-エトキシエタノール中に入れた室温の溶液に、9.8mM(0.98g、1.0ml)の2,4-ペンタンジオンを添加した。約1gの炭酸ナトリウムを添加し、混合物を油浴中で数時間窒素中で加熱し、還流させた。反応混合物を室温へ冷却し、橙色沈澱物を真空濾過により除去した。濾液を濃縮し、メタノールを添加して更に生成物を沈澱させた。連続的濾過及び沈澱により75%の収率が得られた。発光スペクトルを図29に示し、プロトンNMRスペクトルを図30に示す。
【0072】
ビス(2-フェニルベンゾオキサゾール)イリジウムacac(BOIr):2.4mMの2-フェニルベンゾオキサゾールイリジウム塩化物二量体(3.0g)を、120mlの2-エトキシエタノール中に入れた室温の溶液に、9.8mM(0.98g、1.0ml)の2,4-ペンタンジオンを添加した。約1gの炭酸ナトリウムを添加し、混合物を油浴中で一晩(?16時間)窒素中で加熱し、還流させた。反応混合物を室温へ冷却し、黄色沈澱物を真空濾過により除去した。濾液を濃縮し、メタノールを添加して更に生成物を沈澱させた。連続的濾過及び沈澱により60%の収率が得られた。発光スペクトルを図31に示し、プロトンNMRスペクトルを図32に示す。
【0073】
ビス(2-フェニルベンゾチアゾール)イリジウム(8-ヒドロキシキノレート)(BTIrQ):0.14mMの2-フェニルベンゾチアゾールイリジウム塩化物二量体(0.19g)を、20mlの2-エトキシエタノール中に入れた室温の溶液に、4.7mM(0.68g)の8-ヒドロキシキノリンを添加した。約700mgの炭酸ナトリウムを添加し、混合物を油浴中で一晩(23時間)窒素中で加熱し、還流させた。反応混合物を室温へ冷却し、赤色沈澱物を真空濾過により除去した。濾液を濃縮し、メタノールを添加して更に生成物を沈澱させた。連続的濾過及び沈澱により57%の収率が得られた。発光スペクトルを図33に示し、プロトンNMRスペクトルを図34に示す。
【0074】
ビス(2-フェニルベンゾチアゾール)イリジウムピコリネート(BTIrP):0.80mMの2-フェニルベンゾチアゾールイリジウム塩化物二量体(1.0g)を、60mlのジクロロメタン中に入れた室温の溶液に、2.14mM(0.26g)のピコリン酸を添加した。混合物を油浴中で8.5時間窒素中で加熱し、還流させた。反応混合物を室温へ冷却し、黄色沈澱物を真空濾過により除去した。濾液を濃縮し、メタノールを添加して更に生成物を沈澱させた。連続的濾過及び沈澱により約900mgの不純生成物を生じた。発光スペクトルを図35に示す。
【0075】
ビス(2-フェニルベンゾオキサゾール)イリジウムピコリネート(BOIrP):0.14mMの2-フェニルベンゾオキサゾールイリジウム塩化物二量体(0.18g)を、20mlのジクロロメタン中に入れた室温の溶液に、0.52mM(0.064g)のピコリン酸を添加した。混合物を油浴中で一晩(17.5時間)窒素中で加熱し、還流させた。反応混合物を室温へ冷却し、黄色沈澱物を真空濾過により除去した。沈澱物をジクロロメタンに溶解し、ガラス瓶へ移し、溶媒を除去した。発光スペクトルを図36に示す。
【0076】
btIr錯体中の異なったL′についての比較発光スペクトルを図37に示す。
【0077】
V.A.2.c.従来法に勝る長所
この合成法は従来法に勝る或る長所を有する。式PtL_(3)の化合物は、分解せずに昇華させることはできない。式IrL_(3)の化合物を得ることには問題がある。或る配位子はIr(acac)_(3)ときれいに反応してトリス錯体を与えるが、しかし、我々が研究した配位子の半分以上は次の反応できれいに反応しない:
3L+Ir(acac)_(3)→L_(3)Ir+acacH
(式中、L=2-フェニルピリジン、ベンゾキノリン、2-チエニルピリジンである)収率は典型的には30%である。Ir錯体への好ましい経路は、次の反応により塩化物架橋二量体L_(2)M(μ-Cl)_(2)ML_(2)によるものにすることができる:
4L+IrCl_(3)・nH_(2)O→L_(2)M(μ-Cl)_(2)ML_(2)+4HCl
我々が研究したリガンドの10%未満は高い収率でIr二量体をきれいに与えることはできなかったが、二量体のトリス錯体IrL_(3)への転化により問題になる働きをうける配位子はほんの僅かしかない:
L_(2)M(μ-Cl)_(2)ML_(2)+2Ag^(-)+2L→L_(3)Ir+2AgCl
【0078】
燐光性錯体を製造する遥かに効果的な方法は、塩化物架橋二量体を用いて発光体を形成することであることを我々は発見した。二量体それ自身は、恐らく隣接金属(例えば、イリジウム)原子により強くクエンチされるため、強く発光することはない。塩化物配位子は次の化学変化によりキレート配位子により置換されて安定な八面体金属錯体を与えることができることが見出された:
L_(2)M(μ-Cl)_(2)ML_(2)+XH→L_(2)MX+HCl
【0079】
我々はM=イリジウムの場合の系について広範に研究した。得られたイリジウム錯体は強く発光し、殆どの場合1?3マイクロ秒(μsec)の寿命を持っている。そのような寿命は燐光であることを示している〔チャールス・キッテル(Charles Kittel)、「固体物理入門」(Introduction to Solid State Physics)参照〕。これらの材料中の遷移は金属配位子電荷移動(MLCT)である。
【0080】
下の詳細な説明では、数多くの異なった錯体の発光スペクトル及び寿命のデーターを分析しており、それら錯体は全てL_(2)MX(M=Ir)〔式中、Lはシクロ金属化(二座)配位子であり、Xは二座配位子である〕として特徴付けることができる。殆どどの場合でも、これら錯体の発光はIrとL配位子との間のMLCT遷移に基づくものであるか、又はその遷移と配位子間遷移との混合に基づくものである。特別な例を下に記述する。理論的及び分光学的研究により、錯体は金属の周りに八面体の配位を有する(例えば、L配位子の窒素複素環の場合、Ir八面体にトランス型配置が存在する)。
【0081】
特に図1には、L=2-フェニルピリジン、X=acac、ピコリネート(ピコリン酸から)、サリチルアニリド、又は8-ヒドロキシキノリネートの場合のL_(2)IrXについての構造が与えられている。
【0082】
V.A.2.d.フェイシャル(facial)異性体対メリジアナル異性体
L_(2)IrXを製造する合成経路の僅かな変化により、式L_(3)Irのメリジアナル異性体を形成することができる。前に開示したL_(3)Ir錯体は、全てキレート配位子のフェイシャル配置を有する。OLED中の燐光体としてのメリジアナルL_(3)Ir錯体の形成及び使用をここに開示する。二つの構造を図2に示す。
【0083】
フェイシャルL_(3)Ir異性体は、式1(下記)に記載したように、還流するグリセロール中でLとIr(acac)_(3)との反応により製造されている。L_(3)Ir錯体への好ましい経路は、式2+3(下記)による塩化物架橋二量体〔L_(2)Ir(μ-Cl)_(2)IrL_(2)〕によるものである。式3の生成物は、Ir(acac)_(3)から形成されたものと同じフェイシャル異性体である。後者の製造法の利点は、フェイシャル-L_(3)Irの収率が一層よいことである。もし塩基及びアセチルアセトネートの存在下で(Ag^(+)無し)第3配位子を二量体に付加するならば、メリジアナル異性体の良好な収率が得られる。メリジアナル異性体は、再結晶化、配位溶媒中での還流、又は昇華によってもフェイシャル異性体に転化しない。これらメリジアナル錯体の二つの例、mer-Irppy及びmer-Irbq(図3)が形成されているが、我々は安定なフェイシャル-L_(3)Irを与える配位子は同様にメリジアナル形態にすることができると考えている。
【0084】
(1) 3L+Ir(acac)_(3)→フェイシャル・L_(3)Ir+acacH
(式中、L=2-フェニルピリジン、ベンゾキノリン、2-チエニルピリジン)典型的には収率30%。
(2) 4L+IrCl_(3)・nH_(2)O→L_(2)Ir(μ-Cl)_(2)IrL_(2)+4HCl
典型的には90%より大きい収率。Lの例についての添付スペクトル参照。(1)で有効な全ての配位子についても充分成り立つ。
(3) L_(2)Ir(μ-Cl)_(2)IrL_(2)+2Ag^(+)+2L→2フェイシャル・L_(3)Ir+2AgCl
典型的には収率30%。(1)について充分有効な同じ配位子についてだけ充分成り立つ。
(4) L_(2)Ir(μ-Cl)_(2)IrL_(2)+XH+Na_(2)CO_(3)+L→メリジアナル・L_(3)Ir
典型的には80%より大きい収率。XH=アセチルアセトン。
【0085】
思いがけないことに、メリジアナル異性体の光物理性は、フェイシャル型のものとは異なっている。このことは下で論ずるスペクトルの詳細から知ることができるが、それらスペクトルは著しい赤色移行を示し、そのフェイシャル対応物に対しメリジアナル異性体では広くなっている。発光線は、あたかもフェイシャル・L_(3)Irの特性に赤色帯が付加されたかのように見える。メリジアナル異性体の構造は、例えば、Irの周りの配位子のN原子の配列に関して、L_(2)IrX錯体のものと同様である。特にL=ppy配位子である場合、L配位子の窒素はmer-Ir(ppy)_(3)及び(ppy)_(2)Ir(acac)の両方でトランス型になっている。更にmer-L_(3)Ir錯体のL配位子の一つは、L_(2)IrX錯体のX配位子と同じ配位を有する。この点を例示するため、図4の(ppy)_(2)Ir(acac)の次にmer-Ir(ppy)_(3)のモデルが示されている。mer-Ir(ppy)_(3)のppy配位子の一つは、(ppy)_(2)Ir(acac)のacac配位子と同じ幾何学状態でIr中心に配位している。
【0086】
L_(3)Ir分子のHOMO及びLUMOエネルギーは、異性体の選択により明らかに影響を受ける。これらのエネルギーは、これらの燐光体を用いて製造されるOLEDの電流電圧特性及び寿命をコントロールし、非常に重要である。
【0087】
図3に描いた二つの異性体のための合成は、次の通りである。
【0088】
メリジアナル異性体の合成:
mer-Irbq:91mg(0.078mM)の[Ir(bq)_(2)Cl]_(2)二量体、35.8mg(0.2mM)の7,8-ベンゾキノリン、0.02mgのアセチルアセトン(約0.2mM)、及び83mg(0.78mM)の炭酸ナトリウムを、12mlの2-エトキシエタノール(入手したまま用いた)中で不活性雰囲気中14時間沸騰した。冷却すると黄橙色沈澱物が形成され、濾過及びフラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル、CH_(2)Cl_(2))により分離した(収率72%)。^(1)H NMR(360MHz、ジクロロメタン-d_(2))、ppm:8.31(q、1H)、8.18(q、1H)、8.12(q、1H)、8.03(m、2H)、7.82(m、3H)、7.59(m、2H)、7.47(m、2H)、7.40(d、1H)、7.17(m、9H)、6.81(d、1H)、6.57(d、1H)。MS、e/z:727(100%、M+)。NMRスペクトルは図38に示してある。
【0089】
mer-Ir(tpy)_(3):IrCl_(3)・xH_(2)O(0.301g、1.01mM)、2-(p-トリル)ピリジン(1.027g、6.069mM)、2,4-ペンタンジオン(0.208g、2.08mM)、及びNa_(2)CO_(3)(0.350g、3.30mM)を2-エトキシエタノール(30ml)中に入れた溶液を、65時間還流した。黄緑色の混合物を室温へ冷却し、20mlの1.0MのHClを添加し、生成物を沈澱させた。混合物を濾過し、100mlの1.0MのHClで洗浄し、次に50mlのメタノールで洗浄し、次に乾燥し、固体をCH_(2)Cl_(2)中に溶解し、シリカの短い充填物に通して濾過した。溶媒を減圧除去し、黄橙色粉末として生成物を得た(0.265g、38%)。
【0090】
V.A.3.可能なホスト分子
本発明は、ホスト相中に上記ドーパントを使用することに関する。このホスト相はカルバゾール部分を有する分子からなっていてもよい。本発明の範囲内に入る分子は次のものの中に含まれる:
【0091】

【0092】
[線分は、環によって示されている利用可能な炭素原子(単数又は複数)の所での、アルキル又はアリール基による可能な置換を示す。]
【0093】
カルバゾール官能性を有する更に別の好ましい分子は4,4′-N,N′-ジカルバゾール-ビフェニル(CBP)であり、それは次の式を有する:
【0094】

【0095】
V.B.1.装置中の利用
使用するために選択される装置構造は、標準的真空蒸着されたものと非常に類似している。概観として、ホール輸送層(HTL)を、ITO(インジウム錫酸化物)被覆ガラス基体上に先ず蒸着する。12%の量子効率を与える装置の場合、HTLは30nm(300Å)のNPDからなる。そのNPDの上に、ホストマトリックス中へドープした有機金属の薄膜を蒸着してエミッタ層を形成する。例として、エミッタ層は12重量%のビス(2-フェニルベンゾチアゾール)イリジウムアセチルアセトネート(BTIrと呼ぶ)を含有するCBPであり、その層の厚さは30nm(300Å)であった。エミッタ層の上にブロッキング層を蒸着する。ブロッキング層はバトクプロイン(BCP)からなり、厚さは20nm(200Å)であった。ブロッキング層の上に電子輸送層を蒸着する。電子輸送層は、厚さ20nmのAlq_(3)からなっていた。電子輸送層の上にMg-Ag電極を蒸着することにより装置が完成する。これは100nmの厚さを有する。全ての蒸着は5×10^(-5)トールより低い真空度で行なった。装置は包装することなく、空気中で試験した。
【0096】
カソードとアノードの間に電圧を印加すると、ホールがITOからNPDへ注入され、NPD層により輸送され、一方電子はMgAgからAlqへ注入され、Alq及びBCPを通って輸送される。次にホールと電子はEMLへ注入され、キャリヤー再結合がCBPで起き、励起状態が形成され、BTIrへのエネルギー移動が起き、最終的にBTIr分子が励起され、放射崩壊する。
【0097】
図5に例示したように、この装置の量子効率は約0.01mA/cm^(2)の電流密度で12%である。
【0098】
関連する用語は次の所である:
ITOは、アノードとしての機能を果たすインジウム錫酸化物の透明伝導性相である。
ITOは、広帯域半導体をドープすることにより形成された縮退型半導体である。ITOのキャリヤー濃度は10^(19)/cm^(3)を越えている。
BCPは励起子をブロックし、電子を輸送する層である。
Alq_(3)は、電子注入層である。
他のホール輸送層材料を用いてもよい。例えば、TPDホール輸送層を用いることができる。
【0099】
BCPは電子輸送層及び励起子ブロッキング層としての機能を果たし、その層は約10nm(100Å)の厚さを有する。BCPは2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(バトクプロインとも呼ばれている)であり、次の式を有する:
【0100】

【0101】
電子注入/電子輸送層としての機能を果たすAlq_(3)は、次の式を有する:
【0102】

【0103】
一般に、ドーピング量は最適ドーピング量を達成するように変化させる。
【0104】
V.B.2.燐光性錯体への蛍光性配位子の配合
上で述べたように、蛍光材料は装置中の発光体として或る利点を有する。L_(2)MX(例えば、M=Ir)錯体を製造するのに用いられるL配位子が大きな蛍光量子効率を有するならば、配位子の三重項状態を出入りする系間移行を効率的に行わせるため、Ir金属の強いスピン軌道結合を用いることができる。この概念は、IrがL配位子を効果的な燐光中心にすると言うことにある。この方法を用いて、どのような蛍光染料を用いても、それから効果的な燐光分子を作ることができる(即ち、Lは蛍光を発するが、L_(2)MX(M=Ir)は燐光を発する)。
【0105】
一例として、L=クマリン及びX=acacである場合のL_(2)IrXを製造した。これをクマリン-6(C6Ir)として言及する。この錯体は強い橙色の発光を与えるのに対し、クマリン自身は緑色に発光する。クマリンとC6Irの両方のスペクトルが図に与えられている。
【0106】
他の蛍光染料も同様なスペクトルの移行を示すと予想されるであろう。色素レーザー及び他の用途のために開発された蛍光染料の数は極めて多いので、この方法は極めて広範な燐光材料をもたらすものと予想される。
【0107】
5又は6員環メタロサイクルを形成させるためには、金属(例えば、イリジウム)によりメタレート化することができるように、適当な官能基を有する蛍光染料を必要とする。今日まで我々が研究したL配位子は、全て配位子にsp^(2)混成軌道炭素及び複素環N原子を有し、従って、Irと反応させて5員環を形成することができる。
【0108】
V.B.3.X又はL配位子でのキャリヤートラップ
ホール又は電子を含めた潜在的な劣化反応がエミッタ層で起きることがある。得られる酸化又は還元は発光体を変え、性能を劣化する。
【0109】
燐光体ドープOLEDの最大効率を得るためには、望ましくない酸化又は還元反応を生ずるホール又は電子を制御することが重要である。これを行う一つの方法は、燐光性ドーパントの所でキャリヤー(ホール又は電子)をトラップすることである。燐光に関係する原子又は配位子から遠い位置にあるキャリヤーをトラップすることが有利である。このように遠くでトラップされるキャリヤーは、分子間的に反対キャリヤーと、又は隣接する分子からのキャリヤーと容易に再結合するであろう。
【0110】
ホールをトラップするように設計した燐光体の例を図6に示す。サリチルアニリド基のジアリールアミン基は、Ir錯体のものよりも200?300mV高いHOMOレベル(電気化学的測定に基づく)を有すると予想され、排他的にアミン基の所でホールがトラップされるようになる。ホールはアミンの所で容易にトラップされるが、この分子からの発光はMLCTから来て、Ir(フェニルピリジン)系からの配位子間遷移から来るであろう。この分子にトラップされた電子はピリジル配位子の一つの中にある場合が最も多いと思われる。分子間再結合は殆どIr(フェニルピリジン)系中での励起子の形成をもたらすであろう。トラップ部位は、ルミネッセンス過程では広範には含まれていないのが典型的なX配位子の上にあるので、トラップ部位の存在は錯体の発光エネルギーに大きな影響を与えることはないであろう。L_(2)Ir系に対し遠い所で電子キャリヤーがトラップされる関連分子を設計することができる。
【0111】
V.B.4.色の調節
IrL_(3)系で見られるように、発光色はL配位子により大きな影響を受ける。このことは、MLCT又は配位子間遷移を含めた発光と一致している。我々がトリス錯体(即ち、IrL_(3))及びL_(2)IrX錯体の両方を製造することができた場合の全てにおいて、発光スペクトルは非常に似ていた。例えば、Ir(ppy)_(3)及び(ppy)_(2)Ir(acac)〔アクロニム(acronym)=PPIr〕は、510nmのλmaxを有する強い緑色発光を与える。同様な傾向は、Ir(BQ)_(3)及びIr(thpy)_(3)を、それらのL_(2)Ir(acac)誘導体と比較した時にも見られ、即ち、或る場合には二つの錯体の間で発光の大きなずれはない。
【0112】
しかし、別の場合には、X配位子の選択が発光のエネルギー及び効率の両方に影響を与える。acac及びサリチルアニリドL_(2)IrX錯体は非常に類似したスペクトルを与える。今までの所我々が製造したピコリン酸誘導体は、同じ配位子のacac及びサリチルアニリド錯体に対し、それらの発光スペクトルで僅かな青色移行(15nm)を示している。このことはBTIr、BTIrsd、及びBTIrpicのスペクトルで見ることができる。これら三つの錯体の全てにおいて、我々は発光がMLCT及び相互L遷移から主に生じ、ピコリン酸配位子は金属軌道のエネルギーを変え、それによりMLCT帯に影響を与えるものと予想している。
【0113】
もし三重項レベルが「L_(2)Ir」骨組みよりもエネルギーが低く落ちたX配位子を用いるならば、そのX配位子からの発光を観察することができる。これは、BTIrQ錯体の場合である。この錯体では、発光強度は非常に弱く、650nmの所に中心がある。このことは全く思いがけないことである。なぜなら、BT配位子に基づく系の発光は全てほぼ550nmの所にあるからである。この場合の発光は殆ど完全にQ系遷移からのものである。重金属キノレート(例えば、IrQ_(3)又はPtQ_(2))についての蛍光スペクトルは650nmの所に中心がある。錯体自身は非常に低い効率、<0.01で発光する。L_(2)IrQ材料のエネルギー及び効率の両方は、「X」に基づく発光と一致している。もしX配位子又は「IrX」系からの発光が効率的であるならば、これは良好な赤色発光体になったであろう。ここに列挙した例の全てが強い「L」発光体であるが、これは「X」に基づく発光から形成されている良好な燐光体を除外するものではないことに注意することは重要である。
【0114】
X配位子の選択が悪くても、L_(2)IrX錯体からの発光をひどくクエンチすることがある。ヘキサフルオロ-acac及びジフェニル-acacの両方の錯体は、L_(2)IrX錯体のX配位子として用いた場合、非常に弱い発光を与えるか、又は発光を全く示さない。これらの配位子が発光をそのように強くクエンチする理由は完全には明らかになっていないが、これらの配位子の一つはacacよりも一層電子を引き付け、他のものは一層電子を与える。BQIrFAのスペクトルを図に与えてある。この錯体の発光スペクトルは、ヘキサフルオロacac配位子の遥かに強い電子吸引性から予測されるように、BQIrから僅かに移行している。BQIrFAからの発光強度は、BQIrよりも少なくとも2桁弱い。このひどいクエンチ問題のため、これらの配位子の錯体は研究しなかった。
【0115】
V.C.他の分子についての記述
ここに記載した装置ではCBPを用いた。本発明は、OLEDのホール輸送層として働かせるための、当業者に既知の他のホール輸送分子を用いても有効である。
【0116】
特に本発明は、カルバゾール官能基、又は同様なアリールアミン官能基を有する他の分子を用いても有効である。
【0117】
V.D.装置の使用
本発明のOLEDは、OLEDを有する実質的にどのような型の装置にでも用いることができ、例えば、大画面表示器、乗り物、コンピューター、テレビ、プリンター、大面積壁、劇場又はスタジアムのスクリーン、掲示板、又は標識に組み込まれるOLEDに用いることができる。
【0118】
ここに記載した本発明は、次の係属中の出願と共に用いてもよい:「高信頼性、高効率、集積可能有機発光装置及びその製造方法」(High Reliability,High Efficiency,Integratable Organic Light Emitting Devices and Methods of Producing Same)、米国特許出願Serial No.08/774,119(1996年12月23日出願);「多色発光ダイオードのための新規な材料」(Movel Materials for Multicolor Light Emitting Devices)、Serial No.08/850,264(1997年5月2日出願);「有機遊離ラジカルに基づく電子移動及び発光層」(Electron Transporting and Light Emitting Layers Based on Organic Free Raicals)、Serial No.08/774,120(1996年12月23日出願)(1998年9月22日、米国特許第5,811,833号として公告された);「多色表示装置」(Multicolor Display Devices)、Serial No.08/772,333(1996年12月23日出願);「赤色発光有機発光装置(OLED)」(Red-Emitting Organic Light Emitting Devices(OLED’s))、Serial No.08/774,087(1996年12月23日出願)(認可された);「積層有機発光装置のための駆動回路」(Driving Circuit For Stacked Organic Light Emitting Devices)、Serial No.08/792,050(1997年2月3日出願)(1998年5月26日、米国特許第5,757,139号として公告された);「高効率有機発光装置構造体」(High Efficiency Organic Light Emitting Device Structures)、Serial No.08/772,332(1996年12月23日出願)(1998年11月10日、米国特許第5,834,893号として公告された);「真空蒸着非重合体可撓性有機発光装置」(Vacuum Deposited,Non-Polymeric Flexible Organic Light Emitting Devices)、Serial No.08/789,319(1997年1月23日出願)(1998年12月1日、米国特許第5,844,363号として公告された);「メサピクセル構造を有する表示器」(Displays Having Mesa Pixel Configuration)、Serial No.08/794,595(1997年2月3日出願);「積層有機発光装置」(Stacked Organic Light Emitting Devices)、Serial No.08/792,046(1997年2月3日出願)(1999年6月29日、米国特許第5,917,280号として公告された);「高コントラスト透明有機発光装置」(High Contrast Transparent Organic Light Emitting Devices)、Serial No.08/792,046(1997年2月3日出願);「高コントラスト透明有機発光装置表示器」(High Contrast Transparent Organic Light Emitting Device Display)、Serial No.08/821,380(1997年3月20日出願);「ホスト材料として5-ヒドロキシ-キノキサリンの金属錯体を含有する有機発光装置」(Organic Light Emitting Devices Containing A Metal Complex of 5-Hydroxy-Quinoxaline as A Host Material)、Serial No.08/838,099(1997年4月15日出願)(1999年1月19日、米国特許第5,861,219号として公告された);「高輝度を有する発光装置」(Light Emitting Devices Having High Brightness)、Serial No.08/844,353(1997年4月18日出願);「有機半導体レーザー」(Organic Semiconductor Laser)、Serial No.08/859,468(1997年5月19日出願);「飽和天然色積層有機発光装置」(Saturated Full Color Stacked Organic Light Emitting Devices)、Serial No.08/858,994(1997年5月20日出願)(1999年8月3日、米国特許第5,932,895号として公告された);「伝導性層のプラズマ処理」(Plasma Treatment of Conductive Layers)、PCT/US97/10252(1997年6月12日出願);「多色発光ダイオードのための新規な材料」(Novel Materials for Multicolor Light Emitting Diodes)、Serial No.08/814,976(1997年3月11日出願);「多色発光ダイオードのための新規な材料」(Novel Materials for Multicolor Light Emitting Diodes)、Serial No.08/771,815(1996年12月23日出願);「有機多色表示装置を製造するための薄膜パターン化」(Patterning of Thin Films for the Fabrication of Organic Multi-color Displays)、PCT/US97/10289(1997年6月12日出願);及び「二重ヘテロ構造赤外及び垂直空洞表面発光有機レーザー」(Double Heterostructure Infrared and Vertical Cavity Surface Emitting Organic Lasers)、1998年5月8日出願、PCT/US98/09480;1998年3月23日公告、米国特許第5,874,803;1998年1月13日公告、米国特許第5,707,745;1997年12月30日公告、米国特許第5,703,436;及び1998年5月26日公告、米国特許第5,757,026。各係属中の出願は、参考のため全体的にここに入れてある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 PPIrについて予想される構造と共にL_(2)IrX錯体の予想される構造を示す図であり、これら錯体のために用いられるX配位子の四つの例も示されている。示した構造はacac誘導体のためのものであり、他のX型配位子についてはO-O配位子をN-O配位子で置き換える。
【図2】 L_(3)Mのフェイシャル及びメリジアナル異性体の比較を示す図である。
【図3】 ここに開示したmer異性体の分子式:mer-Ir(ppy)_(3)及びmer-Ir(bq)_(3)を示す図である。PPY(又はppy)は、フェニルピリジルを表し、BQ(又はbq)は7,8-ベンゾキノリンを表す。
【図4】 mer-Ir(ppy)_(3)及び(ppy)_(2)Ir(acac)のモデルを示す図である。
【図5】 図5において、図5AはCBP中に質量で12%の「BTIr」を入れた場合のエレクトロルミネッセンス装置のデーター(量子効率対電流密度)を示す図である。BTIrは、ビス(2-フェニルベンゾチアゾール)イリジウムアセチルアセトネートを表す。図5Bは、装置からの発光スペクトルを示す図である。
【図6】 ホールをトラップするための代表的分子の図である。
【図7】 Ir(3-MeOppy)_(3)の発光スペクトルを示す図である。
【図8】 tpyIrsdの発光スペクトルを示す図である。
【図9】 tpyIrsd(=typIrsd)のプロトンNMRスペクトルを示す図である。
【図10】 thpyIrsdの発光スペクトルを示す図である。
【図11】 thpyrIrsdのプロトンNMRスペクトルを示す図である。
【図12】 btIrsdの発光スペクトルを示す図である。
【図13】 btIrsdのプロトンNMRスペクトルを示す図である。
【図14】 BQIrの発光スペクトルを示す図である。
【図15】 BQIrのプロトンNMRスペクトルを示す図である。
【図16】 BQIrFAの発光スペクトルを示す図である。
【図17】 THIr(=thpy;THPIr)の発光スペクトルを示す図である。
【図18】 THPIrのプロトンNMRスペクトルを示す図である。
【図19】 PPIrの発光スペクトルを示す図である。
【図20】 PPIrのプロトンNMRスペクトルを示す図である。
【図21】 BTHPIr(=BTPIr)の発光スペクトルを示す図である。
【図22】 tpyIrの発光スペクトルを示す図である。
【図23】 窒素のトランス型配列を示すtpyIrの結晶構造を示す図である。
【図24】 C6の発光スペクトルを示す図である。
【図25】 C6Irの発光スペクトルを示す図である。
【図26】 PZIrPの発光スペクトルを示す図である。
【図27】 BONIrの発光スペクトルを示す図である。
【図28】 BONIrのプロトンNMRスペクトルを示す図である。
【図29】 BTIrの発光スペクトルを示す図である。
【図30】 BTIrのプロトンNMRスペクトルを示す図である。
【図31】 BOIrの発光スペクトルを示す図である。
【図32】 BOIrのプロトンNMRスペクトルを示す図である。
【図33】 BTIrQの発光スペクトルを示す図である。
【図34】 BTIrQのプロトンNMRスペクトルを示す図である。
【図35】 BTIrPの発光スペクトルを示す図である。
【図36】 BOIrPの発光スペクトルを示す図である。
【図37】 異なった配位子を有するbtIr型錯体の発光スペクトルを示す図である。
【図38】 mer-IrbqのプロトンNMRスペクトルを示す図である。
【図39】 L_(2)MX化合物のための他の適当なL及びX配位子を示す図である。
【図40】 LL′L″M化合物の例を示す図である。
【図面】









































 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-03-13 
結審通知日 2013-03-18 
審決日 2013-03-29 
出願番号 特願2001-541304(P2001-541304)
審決分類 P 1 113・ 536- YA (H05B)
P 1 113・ 537- YA (H05B)
P 1 113・ 121- YA (H05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 伸也  
特許庁審判長 松浦 新司
特許庁審判官 新居田 知生
磯貝 香苗
登録日 2009-08-14 
登録番号 特許第4357781号(P4357781)
発明の名称 有機LED用燐光性ドーパントとしての式L2MXの錯体  
代理人 梶並 彰一郎  
代理人 吉本 智史  
代理人 実広 信哉  
代理人 小林 純子  
代理人 小林 純子  
代理人 岩間 智女  
代理人 梶並 彰一郎  
代理人 片山 英二  
代理人 渡部 崇  
代理人 片山 英二  
代理人 実広 信哉  
代理人 北原 潤一  
代理人 渡部 崇  
代理人 黒川 恵  
代理人 小林 純子  
代理人 岩間 智女  
代理人 梶並 彰一郎  
代理人 渡部 崇  
代理人 岩間 智女  
代理人 加茂 裕邦  
代理人 片山 英二  
代理人 実広 信哉  
代理人 北原 潤一  
代理人 黒川 恵  
代理人 黒川 恵  
代理人 北原 潤一  

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