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審決分類 審判 一部無効 ただし書き2号誤記又は誤訳の訂正  C09K
審判 一部無効 2項進歩性  C09K
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C09K
管理番号 1301801
審判番号 無効2011-800092  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-06-03 
確定日 2015-04-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4699758号発明「フッ素置換オレフィンを含有する組成物」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 特許第4699758号の請求項1ないし8に記載された発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
特許第4699758号は、2003年10月27日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2002年10月25日(US)米国)を国際出願日として出願(特願2004-547148号)されたものであり、平成23年3月11日に設定登録を受けた(請求項の数9。以下、その特許を「本件特許」といい、その明細書及び特許請求の範囲をまとめて「本件特許明細書」という。)。
そして、本件特許を無効とすることについて、ダイキン工業株式会社(以下「請求人」という。)から本件審判の請求がされた。
本件審判の手続の経緯は、以下のとおりである。
平成23年 6月 3日付け 審判請求書・甲第1?甲第6号証提出
同 年 6月29日付け 手続補正指令書(方式)
同 年 8月 1日付け 手続補正書(方式)(請求人)提出
同 年11月 7日付け 審判事件答弁書・訂正請求書・
乙第1?乙第11号証提出
同 年12月19日付け 弁駁書・甲第7?甲第10号証提出
平成24年 3月23日付け 通知書
同 年 6月19日付け 上申書(請求人)提出
同 年 6月19日付け 上申書(被請求人)・
乙第3号証(差替)提出
同 年 7月10日付け 口頭審理陳述要領書(請求人)提出
同 年 7月10日付け 口頭審理陳述要領書(被請求人)・
乙第12?乙第15号証提出
同 年 7月24日 口頭審理
同 年 8月 7日付け 上申書2(請求人)・
甲第11、甲第12号証提出
同 年 8月21日付け 上申書2(被請求人)・
乙第16?乙第19号証提出
同 年 8月23日付け 手続中止通知書
平成25年 1月31日付け 手続中止解除通知書
同 年 2月26日付け 審理終結通知
上記において、2回目以降の上申書を「上申書2」などとした。証拠方法等の一覧は、後記第4及び第5の項で示す。以下、書証は、その証拠番号により、甲第1号証を「甲1」、乙第1号証を「乙1」などという。

第2 訂正の適否

1 訂正の内容
平成23年11月7日付けでなされた訂正請求は、その請求書に添付した明細書のとおりに訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである。
訂正事項1
本件特許明細書の発明の詳細な説明の段落【0061】に
「b)HFC-1234zfおよびGMグッドレンチ油PAG油」
及び
「d)HFC-1234zfおよびMOPAR-56PAG油」
とあるのを、それぞれ
「b)HFC-1243zfおよびGMグッドレンチ油PAG油」
及び
「d)HFC-1243zfおよびMOPAR-56PAG油」
と訂正する。

2 訂正の適否についての検討
本件特許に係る出願は、特許法第184条の4第1項の「外国語特許出願」であるPCT/US2003/033874(国際公開第2004/037913号参照。上記国際出願を、以下「本件外国語特許出願」という。)が、同法第184条の3第1項の規定により特許出願とみなされたものである。そうすると、本件訂正請求については、特許法第184条の19の規定により、同法第134条第2項の適用に際しての「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面」は、準用する同法第126条第2項の「願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(同項ただし書第2号の場合にあつては、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(外国語書面出願に係る特許にあつては、外国語書面))」であり、ここにおいて「外国語書面出願」及び「外国語書面」とあるのは、それぞれ「第184条の4第1項の外国語特許出願」及び「第184条の4第1項の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面」(以下「基準明細書等」という。)となる。
本件特許は、本件外国語特許出願に基づくものであり、訂正事項1は、実施例3の「以下の油及び本発明の化合物の組合せ」中の「b)」及び「d)」の組合せに関する訂正である。そこで、基準明細書等の対応する記載をみると、
「b) HFC-1243zf and GM Goodwrench oil PAG oil」
及び
「d) HFC-1243zf and MOPAR-56 PAG oil」
であるから、本件特許明細書における「HFC-1234zf」は、本来「HFC-1243zf」と翻訳すべきものであったことが明らかである。
したがって、訂正事項1に係る訂正は、平成23年法律63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第134条の2第1項ただし書第2号に掲げる「誤記又は誤訳の訂正」を目的とするものである。
また、訂正事項1に係る訂正は、基準明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものといえ、同法第134条の2第5項において準用する同法第126条第3項の規定に適合する。
さらに、訂正事項1に係る訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張するものでも変更するものでもないことは明らかであるから、同法第134条の2第5項において準用する同法第126条第4項の規定に適合する。
よって、訂正事項1に係る訂正は許容されるものである。

3 訂正の適否についてのまとめ
よって、平成23年11月7日付けで請求された訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2の項で示したように、平成23年11月7日付けの訂正請求は適法なものであり(以下、訂正後の明細書及び特許請求の範囲をまとめて「本件明細書」という。特許請求の範囲は訂正されていない。)、本件特許の請求項1?9に係る発明は、本件明細書の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された以下のとおりのものである(以下、請求項1?8に係る発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」などといい、まとめて「本件発明」ということがある。)。
「【請求項1】化学式(II)


(式中、各々のRは独立にF,またはHであり、
R’は(CR_(2))_(n)Yであり、
YはCF_(3) であり、
nは0であり、かつ、
不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである)
の少なくとも1つの化合物と、ポリオールエステル及びポリアルキレングリコールから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む熱移動組成物。
【請求項2】前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも50%の量で存在する、請求項1記載の熱移動組成物。
【請求項3】前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも70%の量で存在する、請求項2記載の熱移動組成物。
【請求項4】前記潤滑剤が、前記熱移動組成物に対して重量で30%?50%の量で存在する、請求項1記載の熱移動組成物。
【請求項5】前記潤滑剤が、ポリアルキレングリコールを含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の熱移動組成物。
【請求項6】前記潤滑剤が、ポリオールエステルを含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の熱移動組成物。
【請求項7】前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)を含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の熱移動組成物。
【請求項8】前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の熱移動組成物。」
ここで、本件発明の理解のために、本件発明1?6において用いられる化学式(II)で定義される化合物(以下「本件化合物」という。)を、化合物名、冷媒番号及び化学構造式(審決注:エチレン結合の炭素原子の周りのF、H、CF_(3) 相互間及び炭素-炭素二重結合との間の結合角は、炭素原子のsp^(2) 混成軌道により、下に示すように約120°である。本件明細書の請求項1の化学式(II)の表示は、結合角を考慮したものではない。)により示すと、以下の5つである。
(Z)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン:R1234zeのZ-異性体


(E)-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン:R1234zeのE-異性体


2,3,3,3-テトラフルオロプロペン:R1234yf


(Z)-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン:R1225yeのZ-異性体


(E)-1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン:R1225yeのE-異性体


そして、本件発明7において化学式(II)の化合物が含むとされる「1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)」は、上記の1番目及び2番目の化合物を上記の二重結合に関する立体配置異性体を区別することなく指したものである。本件発明8において化学式(II)の化合物が含むとされる「2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)」は、上記の3番目の化合物である。なお、審判請求されていない請求項9に係る発明は「前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)を含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の熱移動組成物」であるが、ここに挙げられているのは、上記の4番目及び5番目の化合物を上記の二重結合に関する立体配置異性体を区別することなく指したものである。
本件発明7及び8においては、冷媒番号の表記を「HFO-1234ze」などと、ハイドロフルオロオレフィン(hydrofluoro-orefin)の頭文字「HFO」を付した表記としているが、4桁の数字により、千の位、百の位、十の位、一の位の順に、二重結合の数、炭素原子の数-1、水素原子の数+1、及びフッ素原子の数が表示されているため、「R1234ze」などと表記しても、意味は全く同じであるから、以下、本件明細書や当事者が提出した書面及び証拠方法の記載内容をそのまま摘示する場合を除き、「HFO-1234ze」を「R1234ze」、「HFO-1234yf」を「R1234yf」などと「R」を付した表記とする。また、Z-異性体とE-異性体を区別するときは、「R1234ze(Z)」、「R1234ze(E)」などと表記することにする(審決注:他のハイドロフルオロオレフィン、ハイドロフルオロカーボン、クロロフルオロカーボン、ハイドロクロロフルオロカーボン等についても、同様に、「HFO」、「HFC」、「CFC」、「HCFC」を付した表記を「R」を付した表記とする。)。
本件化合物を、以下に一覧で示す。

なお、Z-異性体とE-異性体を区別しないときには、上の5つの化合物は、順に、CHF=CHCF_(3)、同左、CH_(2)=CFCF_(3)、CHF=CFCF_(3)、同左のように簡略化して表示することもできる。
また、本件発明において潤滑剤として用いられる「ポリオールエステル」及び「ポリアルキレングリコール」は、本件明細書の段落【0029】に「ハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒と共に冷却機に用いられるポリオールエステル(POE)およびポリアルキレングリコール(PAG)など、一般的に用いられる冷却潤滑剤が、本発明の冷媒組成物と共に用いられてもよい」と記載されるものであるので、以下、「ポリオールエステル」を「POE」、「ポリアルキレングリコール」を「PAG」と略記することがある。

第4 請求人の主張する無効理由の概要及び請求人が提出した証拠方法等

1 請求人の主張する無効理由の概要
請求人は、請求の趣旨の欄を「特許第4699758号の特許請求の範囲の請求項1?8に記載された発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、概略以下の無効理由1及び2を主張した。
【無効理由1】
本件発明1?8は、本件優先日前に頒布された甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件発明1?8についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
【無効理由2】
本件発明1?8のうち、少なくとも「R1234yfとPOE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む熱移動組成物」については、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1?8についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである。

2 請求人が提出した証拠方法
以下の証拠方法が提出されている。
[審判請求書に添付]
甲1:特開平4-110388号公報
甲2:1990 International Compressor Engineering Conference At Purdue予稿集,(米),1990,p.733-740
甲3:日本冷凍空調学会論文集,Transactions of the Japan Society of Refrigerating and Air Cnnditioning Engineers,2001,18(3),p.203-216
甲4:日本冷凍協会論文集,Transaction of the Japanese Association of Refrigeration,1993,p.453-460
甲5:特開平5-85970号公報
甲6:日本冷凍協会編,「上級標準テキスト 冷凍空調技術」,初版,日本冷凍協会,昭和63年1月20日,p.121-123
[弁駁書に添付]
甲7:早川一也監修,「ヒートポンプの応用と経済性」,シーエムシー,1984年2月27日,p.126-127
甲8:特開平3-200895号公報
甲9:日本冷凍空調学会冷凍空調便覧改訂委員会編,「冷凍空調便覧 第I巻 基礎編」,新版第6版,日本冷凍空調学会,平成22年6月30日,p.99-103
甲10:ダイキン工業株式会社のカタログ「地球にやさしい 新代替物質 HFC-134a」,2004年8月,p.10
[上申書2に添付]
甲11:「JISK2211:2009 冷凍機油」,第1刷,日本規格協会,平成21年11月20日,p.1-2
甲12:「日本工業規格 冷凍機油 JISK2211-1992」,第1刷,日本規格協会,平成4年8月31日,p.11,19

第5 被請求人の主張の概要及び被請求人が提出した証拠方法

1 被請求人の主張の概要
被請求人は、「訂正を認める、本件審判の請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とする、との審決を求める。」とし、請求人が主張する無効理由のいずれにも理由がない旨の反論をしている。

2 被請求人が提出した証拠方法
以下の証拠方法が提出されている。
[審判事件答弁書に添付]
乙1:National Aeronautics and Space Administration Contract No. NAS 7-918,Technical Support Package on Nearly Azeotropic Mixtures to Replace Refrigerant 12,(米),1992年8月,p.i,1-39
乙2:特表平4-503064号公報
乙3:ASHRAE's 1989 CFC Technology Conference予稿集,(米),1989,p.39-46
乙4:ARI Standard 700-2006,Specifications for FLuorocarbon Refrigerants,前書き,p.1-15
乙5:2010年7月28日付けのハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッドのジョージ・ラッシュ博士の宣誓供述書(米国特許商標庁に提出した添付資料4)
乙6:特願平2-231618号(特開平4-110388号)の出願経過情報
乙7:2008年12月5日付けのハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッドのラジブ・シンの宣誓供述書(米国特許商標庁に提出した添付資料3)
乙8:特願平3-245934号(特開平5-85970号)の出願経過情報
乙9:「研究社新英和大辞典」,第5版第18刷,研究社,1989年,p.434,1354
乙10:2011年11月6日付けのハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッドのレイモンド H.トーマスの宣誓供述書
乙11:カーエアコン研究会編著,「カーエアコン」,第2版1刷,山海堂,2003年1月15日,p.124-125
[口頭審理陳述要領書に添付]
乙12:米国特許第6258292号明細書
乙13:PCRインコーポレーテッドの総合カタログ“Chemicals for Reseaech Scientists”,1992,p.142
乙14:ASHRAE's 1989 CFC Technology Conference予稿集,(米),1989,p.107-117
乙15:特許第2604638号公報
[上申書2に添付]
乙16:ANSI/AHRI Standard 540-2004,Performance Rating of Positive Displacement Refrigerant Compressors and Compressor Units,前書き,p.1-12
乙17:Tech・Topics,1993,1(2),p.1,2,5,6
乙18:Ralph C. Downing,“Fluorocarbon Refrigerants Handbook”,Prentice-Hall,1988,p.17-43
乙19:Purdue e-Pub R080,2004,p.1-8

第6 当審の判断
当審は、本件発明1ないし8に係る特許は、上記無効理由1によって無効とすべきものと判断する。
そして、無効理由2は理由がないと判断する。
その理由は、以下のとおりであるが、事案に鑑み、無効理由2、同1の順に示すことにする。

1 無効理由2について
無効理由2の概要は、本件発明1?8のうち、少なくとも「R1234yfとPOE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む熱移動組成物」については、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものではなく、本件発明1?8についての特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)はじめに
特許法第36条第6項は、「第三項第四号の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号に規定する要件(いわゆる、「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、「特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきもの」(知財高裁特別部平成17年(行ケ)第10042号判決)である。
以下、この観点に立って、検討する。

(2)本件発明の課題
本件明細書の段落【0001】の、【技術分野】の欄の
「【0001】本発明は、特に冷却システムを含む多くの用途に有用な組成物に関し、そのような組成物を利用する方法およびシステムに関する。好適な態様では、本発明は、本発明による少なくとも1つの多フッ素化オレフィンを含有する冷媒組成物に関する。」
との記載、同段落【0003】?【0012】の、【背景技術】の欄の
「【0003】フルオロカーボン系流体は、多くの商業的および工業的用途において広汎に使用されていることが知られている。例えば、フルオロカーボン系流体は、空調、ヒートポンプ、および冷却用途などのシステムにおける作用流体として、多くの場合で用いられている。蒸気圧縮サイクルは、冷却システムにおける冷却または加熱を達成するために、最も一般的に用いられる種類の方法の1つである。蒸気圧縮サイクルには、通常、比較的低圧での吸熱による冷媒の液体相から蒸気相への相変化と、続く比較的低圧かつ低温での除熱による蒸気相から液体相への相変化、比較的高圧への蒸気の圧縮、この比較的高圧かつ高温での除熱による蒸気の液体相への凝縮が含まれ、続いて減圧されてサイクルが再び開始される。
【0004】冷却の主な目的は、比較的低温で物体または他の流体から温度を除去することであり、ヒートポンプの主な目的は、環境より高い温度の熱を加えることである。
一定のフルオロカーボンは、長年の間、多くの用途において、冷媒など多くの熱交換流体に好適な成分であった。例えば、クロロフルオロメタン誘導体およびクロロフルオロエタン誘導体などのフルオロアルカンは、その化学的および物理的特性の特有の組合せによって、空調およびヒートポンプ用途を含む用途における冷媒として、広範に用いられている。蒸気圧縮システムにて一般的に利用されている冷媒の多くは、単一成分の流体、または共沸混合物である。
【0005】近年、地球の大気および気候に対する潜在的な損傷についての関心が高まっており、これに関しては、一定の塩素系化合物が特に問題であることが判明している。塩素含有組成物(クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCF)など)を空調および冷却システムにおける冷媒として用いることは、そのような化合物の多くがオゾン破壊性を伴うため不評を招いている。したがって、冷却およびヒートポンプ用途における代替品を提供する、新規なフルオロカーボンおよびハイドロフルオロカーボンの化合物および組成物に対する必要が増大している。例えば、塩素を含有する冷媒を、ハイドロフルオロカーボン(HFC)など、オゾン層を破壊しないであろう、塩素を含有しない冷媒化合物で置き換えることによって、塩素を含有する冷却システムを改造することが望ましい。
【0006】しかしながら、代用品となり得る任意の冷媒が、最も広範に用いられている流体の多くに存在する特性、特に、優れた熱移動特性、化学的安定性(審決注:参考に基準明細書等を参照するとchemical stability)、低毒性または無毒性、不燃性、および潤滑剤相溶性(審決注:同上lubricant compatibility)などの特性を備える必要もあることは、一般に重要であると考えられる。
【0007】出願人らは、多くの用途において潤滑剤の相溶性(審決注:同上lubricant compatibility)が特に重要であることを認めるに到った。より詳細には、冷却流体は、大抵の冷却システムで用いられる、圧縮ユニットにおいて利用される潤滑剤と相溶(審決注:同上compatible)であることが非常に望ましい。残念なことに、HFCを含む塩素を含有しない冷却流体の多くが、慣例的にCFCおよびHFCと共に用いられる種類の潤滑剤、例えば、鉱物油、アルキルベンゼン、またはポリ(アルファ-オレフィン)を含む潤滑剤に、比較的不溶(審決注:同上insoluble)および非混和(審決注:同上immiscible)のうちの少なくとも1つである。圧縮冷却、空調、およびヒートポンプのシステムのうちの少なくとも1つにおいて、冷却流体-潤滑剤の組合せを所望の効率レベルで作用させるためには、広い操作温度範囲に渡って潤滑剤が冷却流体に充分に可溶(審決注:同上soluble)である必要がある。そのような可溶性(審決注:同上solubility)によって潤滑剤の粘度が低下し、より容易にシステム中を流れることが可能である。そのような可溶性を欠く場合、潤滑剤は、冷却、空調、またはヒートポンプのシステムの蒸発器の螺旋管や、それらのシステムの他の部分にも滞留する傾向にあり、それによってシステム効率が低下する。
【0008】使用効率に関しては、冷媒の熱力学的性能すなわちエネルギー効率における損失による、電気エネルギー需要の増大から生じる化石燃料使用量の増大を通じて、環境への2次的な影響力が生じ得ることに留意することが重要である。
【0009】さらに、CFC冷媒の代用品は、CFC冷媒と共に現在用いられている従来の蒸気圧縮技術に対して大規模な技術変更を行わなくても、有効であることが望ましいと、一般に考えられている。
【0010】多くの用途において重要なもう1つの特性は可燃性である。すなわち、特に熱移動用途を含む多くの用途では、不燃性の組成物を用いることが重要または必須であると考えられている。したがって多くの場合には、そのような組成物において不燃性の化合物を用いることは有用である。本明細書で用いられる「不燃性」の語は、2002年版の米国試験材料協会(ASTM)規格E-681に従って判定されるように不燃性であると判定される、化合物または組成物を指す。この規格を引用によって本明細書に援用する。残念なことに、他の点では冷媒組成物に望ましく使用され得る多くのHFCが、不燃性ではない。例えば、フルオロアルカンであるジフルオロエタン(HFC-152a)およびフルオロアルケンである1,1,1-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)は、各々可燃性であるため、多くの用途において使用の実現性はない。
【0011】高分子量のフルオロアルケン、すなわち少なくとも5個の炭素原子を有するフッ素置換アルケンを、冷媒として用いることが提案されている。特許文献1すなわちスムットニー(Smutny)特許は、少なくとも幾つかの不飽和度を有する炭素数5?炭素数8のフッ素化化合物の製造に関する。スムットニー特許では、そのような高分子量のオレフィンは、冷媒、農薬、誘電性流体、熱移動流体、溶剤、および種々の化学反応における中間体として有用であることが判明したものとして同定されている・・・。
【0012】スムットニー特許に記載されているフッ素化オレフィンは、熱移動用途において幾らかのレベルの有効性を有し得るが、そのような化合物は一定の欠点も有し得ると考えられる。例えば、それらの化合物のうち幾つかは、基材、特にアクリル樹脂およびABS樹脂などの汎用プラスチックを冒す傾向があり得る。さらに、スムットニー特許に記載されている高分子量のオレフィン化合物は、スムットニー特許で言及されている農薬活性の結果として生じ得るそうした化合物の潜在的な毒性レベルのため、一定の用途には望ましくないこともあり得る。また、そのような化合物は、高すぎる沸点を有するために一定用途の冷媒としては有用でない場合がある。」
との記載、同段落【0014】?【0017】の、【発明が解決しようとする課題】及び【課題を解決するための手段】の欄の
「【0014】したがって出願人らは、上述の欠点のうち1つ以上を回避する、蒸気圧縮加熱および冷却のシステムおよび方法を含む多数の用途において有用であり得る組成物、詳細には、熱移動組成物、消火/鎮火組成物、発泡剤、溶剤組成物、および相溶化(compatabilizing )剤の必要を認めるに到った。
・・・・・
【0015】出願人らは、上述の必要および他の必要が、炭素数3?炭素数4の1つ以上のフルオロアルケン、好適には以下の化学式(I)の化合物を含有する組成物によって満たされることを見出した。
【0016】

XCF_(z)R_(3-z) (I)

ここでXは、炭素数2または炭素数3の、不飽和な、置換または非置換のアルキル基であり、各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、zは1?3である。
【0017】本発明によって、熱移動、フォーム発泡、溶媒和、並びにエアゾール生成用の方法およびシステムを含む、本発明の組成物を利用する方法およびシステムも提供される。」
との記載、及び同段落【0019】?【0023】の、【発明を実施するための最良の形態】の欄の
「【0019】上述のように、この組成物は、化学式(I)に従う1つの化合物または複数の化合物を含有する。好適な実施態様では、組成物は以下の化学式(II)の化合物を含有する。
【0020】


ここで、各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、R’は(CR_(2))_(n)Yであり、YはCRF_(2) であり、nは0または1である。非常に好適な実施態様では、YはCF_(3) であり、nは0であり、残るRのうち少なくとも1つはFである。
【0021】出願人らは、上述の化学式(I)および化学式(II)の化合物は一般に有効であり、本発明の冷媒組成物、発泡剤組成物、相溶化剤、および溶剤組成物において有用であると、一般に考える。しかしながら出願人らは、驚くべきことにかつ予想外に、上述の化学式に従う構造を有する化合物のうち一定のものが、他のそうした化合物と比較して非常に望ましい低いレベルの毒性を示すことを見出した。容易に認められ得るように、この発見は冷媒組成物の配合のみならず、上述の化学式を満たす比較的有毒な化合物を含有し得る任意のおよび全ての組成物の配合において、非常に大きな長所および利点となり得る。より詳細には、比較的低い毒性は化学式(II)の化合物、好適には、YはCF_(3) であり、不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである化合物に関連すると、出願人らは考える。また出願人らは、そのような化合物の全ての構造異性体、幾何異性体、および立体異性体は有効であり、低い毒性の利点を有すると考える。
【0022】非常に好適な実施態様、特に、上述の低い毒性の化合物を含有する実施態様では、nは0である。したがって一定の好適な実施態様では、本発明の組成物は、テトラフルオロプロペン(HFO-1234)、ペンタフルオロプロペン(HFO-1225)、およびそれらの組合せからなる群から選択される1つ以上の化合物を含有する。
【0023】本発明の化合物が、不飽和な末端炭素が1つ以下のフッ素置換基を有するテトラフルオロプロペンおよびペンタフルオロプロペン化合物、特に、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、および1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、およびそれらの各々の任意のまたは全ての立体異性体であることはさらに好適である。出願人らは、マウスおよびラットへの吸入曝露によって評価されるように、そうした化合物が有する急性毒性レベルが非常に低いことを発見した。他方、出願人らは、この組成物と共に用いるのに適した一定の化合物、すなわち末端の不飽和炭素上に1つより多いFを有する化合物、すなわち末端の不飽和炭素上に1つのHも有さない化合物が、比較的高い毒性と関連し得ることを発見した。例えば、出願人らは、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225zc)が、マウスおよびラットへの吸入曝露によって評価されるように、許容可能でない高い毒性を示すことを発見した。」
との記載からみて、本件発明の課題は、
熱移動組成物であって、
(i)従来技術の塩素を含有する冷媒(審決注:冷媒化合物又は冷媒組成物、後者は「熱移動組成物」に相当する。)におけるオゾン破壊性の欠点を回避し、
(ii)蒸気圧縮サイクルによる加熱及び冷却用途に必要な特性である熱移動特性、化学的安定性、低毒性又は無毒性、不燃性、及び潤滑剤相溶性などを備え、
(iii)従来技術の塩素を含有しない代替冷媒における欠点である潤滑剤に不溶又は非混和であること、可燃性、プラスチックを冒す傾向、毒性などのうちの1つ以上を回避する、
熱移動組成物を、提供することであると認められる。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件発明は、5つの本件化合物の少なくとも1つ又はそれらのうち特定のものと、POE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む、熱移動組成物であることを、特徴とするものである。
そして、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明がその態様として包含されるものであるところの、本件化合物の上位概念の化学式(I)の化合物を含有する熱移動組成物の発明について、上記(2)で摘示した記載を含め、化合物の特性と入手、熱移動組成物の組成、熱移動方法、化合物及び熱移動組成物の性能を試験した実施例及び比較例に関連して、以下の記載がある。

ア 化合物の特性と入手についての記載

(ア)本件明細書の段落【0019】?【0023】に、上記(2)で摘示したとおり、化合物の低い毒性の利点について、本件化合物はマウス及びラットへの吸入曝露によって評価される「急性毒性レベル」が「非常に低いことを発見した」と記載されている。

(イ)本件明細書の段落【0024】に、化合物の入手について、以下のように記載されている:
「【0024】本発明の好適な化合物、すなわちHFO-1225およびHFO-1234は既知の材料であり、ケミカル・アブストラクツ(Chemical Abstracts)のデータベースに記載されている。HFO-1225は、例えばシンテックス・ケミカル社(Syntex Chemical Co.)から商業的に入手可能である。さらに、フルオロアルケンの製造については特許文献に一般に記載されている。例えば、炭素数3の種々の飽和および不飽和なハロゲン含有化合物の触媒的な蒸気相フッ素化によるCF_(3)CH=CH_(2) などのフルオロプロペンの製造は、米国特許第2,889,379号明細書、第4,798,818号明細書、および第4,465,786号明細書に記載されている。これらの各々を引用によって本明細書に援用する。米国特許第5,532,419号明細書では、クロロハロフルオロカーボンまたはブロモハロフルオロカーボンおよびHFを用いてフルオロアルケンを製造するための、蒸気相触媒的プロセスが開示されている。これも引用によって本明細書に援用する。欧州特許第974,571号明細書では、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)を蒸気相で昇温下クロム系触媒と接触させる、または液相でKOH,NaOH,Ca(OH)_(2),またはMg(OH)_(2) のアルコール溶液と接触させることによる、1,1,1,3-テトラフルオロプロペンの調製が開示されている。これも引用によって本明細書に援用する。さらに、本発明に関する化合物を製造する方法は、同時に出願されている米国特許出願である、「フルオロプロペンの製造工程」と題された、代理人整理番号(H0003789(26267))を有する出願に関連して記載されており、この出願を引用によって本明細書に援用する。」

(ウ)本件明細書の段落【0025】?【0027】に、フルオロオレフィン(審決注:本件化合物の上位概念の化合物)の数学的モデルに基づくとして、組成物の地球温暖化係数及びオゾン破壊係数が小さいことについて、以下のように記載されている:
「【0025】本発明の組成物は、幾つかの重要な理由のため有利な特性を有すると思われる。例えば出願人は、少なくとも部分的には数学的モデルに基づき、本発明のフルオロオレフィンが大気圏の化学に対して有意な負の影響を有さず、オゾン破壊に対するその寄与は幾つかの他のハロゲン化された化学種と比較して無視することが可能である、と考える。このように本発明の好適な組成物は、オゾン破壊に対して有意に寄与しないという利点を有する。好適な組成物は、現在用いられているハイドロフルオロアルカンの多くと比較して、地球温暖化に対しても有意に寄与しない。
【0026】好適には、本発明の組成物の地球温暖化係数(Global Warming Potential)(GWP)は150以下であり、より好適には100以下であり、さらに好適には75以下である。本明細書で用いられる「GWP」は「オゾン破壊の科学評価、2002年、世界気象機関の地球オゾンの研究および観測プロジェクトの報告(The Scientific Assessment of Ozone Depletion, 2002, a report of the World Meteorological Association’s Global Ozone Research and Monitoring Project)」、これを引用によって本明細書に援用する、において定義されているように、二酸化炭素のGWPに対して100年の時間範囲を通じて計量される。
【0027】また、この組成物のオゾン破壊係数(Ozone Depletion Potential)(ODP)は好適には0.05以下であり、より好適には0.02以下であり、さらに好適には、ほぼ0である。本明細書で用いられる「ODP」は「オゾン破壊の科学評価、2002年、世界気象機関の地球オゾンの研究および観測プロジェクトの報告」、これを引用によって本明細書に援用する、で定義されている。」

(エ)上記のとおり、本件化合物の入手について文献名と供給業者名が記載されている。本件化合物の性質のうち、低い毒性の利点について、実験データの記載はないものの、マウス及びラットへの吸入曝露による急性毒性レベルが「非常に低い」と評価できることが記載されている。また、本件化合物を含む化学式(I)の化合物の性質のうち、オゾン破壊に対して有意に寄与しない利点について、数学的モデルに基づき説明できることが記載されている。

イ 熱移動組成物の組成についての記載

(ア)本件明細書の段落【0028】?【0029】に、以下のように記載されている:
「【0028】熱移動組成物:
本発明の組成物は広い範囲に渡る量で本発明の化合物を含有し得ることが想定されるが、一般には、本発明の冷媒組成物は、化学式(I)およびさらに好適には化学式(II)に従う化合物を組成物に対して重量で少なくとも約50%、さらに好適には少なくとも約70%、含有することが好適である。
【0029】本発明の組成物は、一定の機能を高める目的または一定の機能を組成物に与える目的で、または幾つかの場合には組成物の費用を減少させるために、他の成分を含有してもよい。例えば、本発明による冷媒組成物、特に蒸気圧縮システムで用いられる冷媒組成物は、一般に組成物の重量の約30%?約50%の量で潤滑剤を含有する。さらに、この組成物は、潤滑剤の相溶性(審決注:参考に基準明細書等を参照するとcompatibility)および可溶性(審決注:同上solubility)のうちの少なくとも1つを補助するために、プロパンなどの相溶化剤を含有してもよい。そのような相溶化剤には、プロパン、ブタン、およびペンタンが含まれ、好適には組成物の重量の約0.5%?約5%の量で存在する。米国特許第6,516,837号明細書に開示されているように、界面活性剤および可溶化剤の組合せも、この組成物に添加されて油の可溶性(審決注:同上solubility)を補助し得る。この開示を引用によって本明細書に援用する。ハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒と共に冷却機に用いられるポリオールエステル(POE)およびポリアルキレングリコール(PAG)など、一般的に用いられる冷却潤滑剤が、本発明の冷媒組成物と共に用いられてもよい。」

(イ)上記のとおり、本件発明において潤滑剤として用いられるPOE又はPAGについて、いずれも、ハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒と共に冷却機に用いられる、一般的に用いられる冷却潤滑剤であることが記載されている。

ウ 熱移動方法についての記載

(ア)本件明細書の段落【0035】?【0036】に、以下のように記載されている:
「【0035】熱移動方法:
好適な熱移動方法は、一般に、本発明の組成物を与えるステップと、組成物へまたは組成物から熱を移動させて組成物の相を変化させるステップとから成る。例えば、この方法では、流体または物品から熱を吸収することによって、好適には、冷却される物体または流体の付近で本発明の冷媒組成物を蒸発させてこの組成物を含有する蒸気を生成することによって、冷却するステップが与えられる。好適にはこの方法には、通常は圧縮機または同様の装置を用いて、比較的高圧で本発明の組成物の蒸気を生成する、冷媒蒸気を圧縮するステップがさらに含まれる。一般に、蒸気を圧縮するステップによって蒸気に熱が加えられ、それによって比較的高圧の蒸気の温度は上昇する。好適には、この方法には、この比較的高温高圧の蒸気から蒸発および圧縮ステップによって加えられた熱の少なくとも一部分を除去するステップが含まれる。除熱ステップには、好適には、蒸気が比較的高圧の状態にあり本発明の組成物を含有する比較的高圧の液体を生成する間に、高温高圧の蒸気を凝縮するステップが含まれる。この比較的高圧の液体は、好適には続いて公称では(nominally)等エンタルピー的に減圧されて、比較的低温低圧な液体が生成する。そのような実施態様では、冷却される物体または流体から移動される熱によって続いて気化されるのは、この温度が低下した冷媒の液体である。
【0036】本発明の別のプロセスの実施態様では、本発明の組成物は、加熱される液体または物体の付近で組成物を含有する冷媒を凝縮するステップを含む、熱を生成するための方法に用いられる。そのような方法は前述のように、多くの場合、上述の冷却サイクルの逆のサイクルである。」

(イ)上記のとおり、蒸気圧縮サイクルによる加熱及び冷却用途のシステムについて、説明がされている。このシステムは、特殊なものではなく、一般的なものである。

エ 本件化合物及び熱移動組成物の性能を試験した実施例及び比較例についての記載

(ア)本件明細書の段落【0053】?【0063】に、以下のように記載されている:
「【0053】以下の実施例は本発明を例示する目的で与えられており、本発明の範囲を限定しない。
実施例1:
動作係数(COP)は、一般に認められている冷媒性能の尺度であり、特に、冷媒の蒸発または凝縮を含む特定の加熱または冷却サイクルにおける冷媒の相対的な熱力学的効率を表すのに有用である。冷却工学では、この用語は、蒸気を圧縮する際に圧縮機によって加えられるエネルギーに対する実効の冷却の比を示す。冷媒の能力(capacity)は、冷媒が与える冷却または加熱の量を表し、与えられた体積流速の冷媒に対して圧縮機が熱量を供給する性能の尺度を与える。換言すれば、特定の圧縮機が与えられた場合、より能力の高い冷媒がより多くの冷却または加熱出力を伝える。特定の作業条件での冷媒のCOPを推定する一手段は、標準的な冷却サイクル分析手法を用いる冷媒の熱力学的特性に基づく(例えば、アール.シー.ダウニング(R. C. Downing)著、「フルオロカーボン冷却剤ハンドブック(FLUOROCARBON REFRIGERANTS HANDBOOK)」、プレンティス-ホール(Prentice-Hall)、1988年、第3章を参照)。
【0054】冷却/空調サイクルシステムは、圧縮機のインレットの温度が約10.0℃(約50°F)である公称の等エントロピー的圧縮の下で、凝縮器温度が約65.6℃(約150°F)および蒸発器温度が約-37.2℃(約-35°F)であるように与えられる。本発明の幾つかの組成物のCOPを、COPが1.00、能力値が1.00、および吐出温度(discharge temperature)が約79.4℃(175°F)であるHFC-134aを基準として、一定の範囲の凝縮器温度および蒸発器温度に渡って測定し、以下の表1に報告する。
【0055】

この実施例では、この組成物に用いられる一定の好適な化合物は、HFC-134aより優れたエネルギー効率を各々有する(1.00に対して1.02,1.04,および1.13)ことが示されており、この冷媒組成物を用いた圧縮機は、その結果として維持管理の問題の減少を導き得るため有用であるような吐出温度(約79.4℃(175°F)に対して、約70.0℃(158°F)、約73.9℃(165°F)、約68.3℃(155°F))を生じるであろう。
【0056】実施例2:
種々の冷却潤滑剤とHFO-1225yeおよびHFO-1234zeとの混和性(審決注:参考に基準明細書等を参照するとmiscibility)が試験されている。試験された潤滑剤は、鉱物油(炭素数3)、アルキルベンゼン(ゼロール(Zerol)150)、エステル油(モービル(Mobil)EAL22ccおよびソレスト(Solest)120)、ポリアルキレングリコール(PAG)油(グッドレンチ(Goodwrench)冷却油、134aシステム用)、およびポリ(アルファ-オレフィン)油(CP-6005-100)である。各々の冷媒/油の組合せにおいて、3つの組成物、すなわち、潤滑剤が5,20,および50重量パーセントであり、各々の残りが試験される本発明の化合物である組成物が試験されている。
【0057】潤滑剤組成物は、肉厚(heavy-walled)のガラスチューブ中に配置される。ガラスチューブは脱気され、本発明の冷媒組成物が添加され、その後でガラスチューブが密封される。続いてガラスチューブは空気浴環境の(air bath environmental)チャンバ内に置かれ、その温度が約-50℃?70℃に変化される。ほぼ10℃毎に、1つ以上の液体相が存在するか否か、ガラスチューブの内容物の目視での観察が行われる。1つより多い液体相が観察された場合、混合物は非混和性であると報告される。観察された液体相が1つのみの場合、混合物は混和性であると報告される。2つの液体相が観察されたが、液体相のうち1つは非常に小さな体積を占めている場合、混合物は部分的に混和性であると報告される。
【0058】ポリアルキレングリコール油およびエステル油の潤滑剤は、全温度範囲に渡り全ての試験比率で混和性(審決注:同上miscible)と判定されたが、ポリアルキレングリコール油とHFO-1225yeとの混合物は例外であり、この冷媒混合物は、-50℃?-30℃の温度範囲に渡って非混和性(審決注:同上immiscible)であり、-20℃?50℃の温度範囲に渡って部分的に混和性(審決注:同上partially miscible)であることが見出された。60°においては、冷媒に対して50重量%濃度のPAGでは、冷媒/PAG混合物は混和性(審決注:同上miscible)であった。70℃では、冷媒に対して5重量%?50重量%の潤滑剤は混和性(審決注:同上miscible)であった。
【0059】実施例3:
冷却および空調システムに用いられる金属との接触時の、本発明の冷媒化合物および組成物とPAG潤滑油との相溶性(審決注:同上compatibility)が、多くの冷却および空調用途で見出されるより充分に過酷な条件である350°Fで試験されている。
【0060】アルミニウム片、銅片、および鋼片が、肉厚のガラスチューブに加えられる。2グラムの油がガラスチューブに添加される。続いてガラスチューブは脱気されて、1グラムの冷媒が添加される。ガラスチューブは350°Fのオーブン中に1週間置かれ、目視で観察される。曝露期間が終わると、ガラスチューブが取り出される。
【0061】この処置は、以下の油および本発明の化合物の組合せに対してなされた。
a)HFC-1234zeおよびGMグッドレンチPAG油
b)HFC-1243zfおよびGMグッドレンチ油PAG油
c)HFC-1234zeおよびMOPAR-56PAG油
d)HFC-1243zfおよびMOPAR-56PAG油
e)HFC-1225yeおよびMOPAR-56PAG油
全ての場合で、ガラスチューブの内容物の外観の変化は最小である。このことは、本発明の冷媒化合物および組成物が、冷却および空調システムに見出されるアルミニウム、鋼、および銅との接触時、および、それらの種類のシステムにてそのような組成物に含まれるまたはそのような組成物と共に用いられる可能性のある種類の潤滑油との接触時に、安定(審決注:同上stable)であることを示している。
【0062】比較例:
アルミニウム片、銅片、および鋼片が、鉱物油およびCFC-12と共に肉厚のガラスチューブに加えられ、実施例3でのように、350°Fで1週間加熱される。曝露期間が終わるとガラスチューブが取り出され、目視で観察される。液体の内容物が黒く変色しているのが観察され、このことはガラスチューブの内容物が激しく分解している事を示している。
【0063】CFC-12および鉱物油の組合せは、これまで多くの冷媒システムおよび方法で選択されている。したがって、本発明の冷媒化合物および組成物は、広範に用いられている従来技術の冷媒-潤滑油の組合せよりも有意に優れた、一般的に用いられる多くの潤滑油に対する安定性(審決注:同上stability)を有する。」

(イ)a 上記のとおり、実施例1には冷媒性能の試験、実施例2には潤滑剤との混和性(miscibility)の試験、実施例3及び比較例には潤滑剤との相溶性(compatibility)又は安定性(stability)の試験が記載されている。

b 試験の内容は、以下のとおりである。
実施例1は、特定サイクル条件下でCOP及び能力(COP及び能力については下記の注を参照)を測定し、同条件下でのR134a(審決注:1,1,1,2-テトラフルオロエタン、化学構造式はCH_(2)FCF_(3))のCOP及び能力と比較した、比COP及び比能力を求めるものである。
実施例2は、それぞれ特定銘柄の鉱物油、アルキルベンゼン、エステル油(審決注:POEである。)、PAG油、ポリ(アルファ-オレフィン)油である潤滑剤との、潤滑剤5、20又は50重量%の混合物の、-50℃?70℃の温度範囲での混和性を目視観察するものである。
実施例3は、アルミニウム片、銅片及び鋼片と特定銘柄のPAG油2gと冷媒化合物1gとの混合物をガラスチューブに入れ、350°F(審決注:177℃)1週間後の外観を目視観察するものである。なお、比較例は、実施例3と同様の試験であるが鉱物油とR12(審決注:ジクロロジフルオロメタン、化学構造式はCCl_(2)F_(2))を用いるものである。
(注)
COPとは、上記(ア)の段落【0053】に「動作係数(COP)は、一般に認められている冷媒性能の尺度であり、特に、冷媒の蒸発または凝縮を含む特定の加熱または冷却サイクルにおける冷媒の相対的な熱力学的効率を表すのに有用である。・・・蒸気を圧縮する際に圧縮機によって加えられるエネルギーに対する実効の冷却の比を示す」と記載されるとおり、どれだけの圧縮仕事で、どれだけの冷凍能力が得られるかの、比率を示す。日本語では「成績係数」という。
能力とは、上記(ア)の段落【0053】に「能力(capacity)は、冷媒が与える冷却または加熱の量を表し、与えられた体積流速の冷媒に対して圧縮機が熱量を供給する性能の尺度を与える」と記載されるとおり、冷媒の単位量当たりの冷却又は加熱の能力である。

c 試験された冷媒化合物と試験結果は、以下のとおりである。
実施例1には、表1に、いずれも本件化合物に該当するR1225ye(2つの異性体が区別されていない。)、R1234ze(E)(審決注:表1のトランス形である。)、R1234ze(Z)(審決注:表1のシス形である。)及びR1234yfの比COPが、順に、1.02、1.04、1.13、0.98であり、比能力が、順に、0.76、0.70、0.36、1.10であることが記載されている。冷媒化合物により異なるが、R134aと比べて、COPは同程度以上、能力は1/3?1.1倍である。
実施例2には、本件化合物であるR1234ze(2つの異性体が区別されていない。)は、試験されたPAG及び試験されたPOEと全温度範囲にわたり全ての試験比率で混和性であること、また、本件化合物であるR1225ye(2つの異性体が区別されていない。)は、試験されたPOEとは全温度範囲にわたり全ての試験比率で混和性であるが、試験されたPAGとは、-50℃?-30℃で非混和性、-20?50℃で部分的に混和性、60℃ではPAG50重量%では混和性、70℃ではPAG5?50重量%で混和性であることが、記載されている。
実施例3には、本件化合物に該当するR1234ze(2つの異性体が区別されていない。)、本件化合物に該当するR1225ye(2つの異性体が区別されていない。)及び化学式(I)の化合物であるが本件化合物ではないR1243zf(審決注:3,3,3-トリフルオロプロペン、化学構造式は


)は、いずれも、試験されたPAGと金属片との混合物の外観変化が最小で、それらの金属との接触時に安定であることが記載されている。なお、比較例には、R12と鉱物油と金属片との混合物は液体が黒く変色しており激しく分解していることを示している、と記載されている。

d 上記a?cのとおり、実施例1には、冷媒性能の試験が、本件化合物に該当するR1225ye、R1234ze(E)、R1234ze(Z)及びR1234yfについて記載され、実施例2には、潤滑剤との混和性(miscibility)の試験が、本件化合物であるR1234ze及びR1225yeについて記載され、実施例3には、潤滑剤との相溶性(compatibility)又は安定性(stability)の試験が、本件化合物に該当するR1234ze及びR1225ye並びに化学式(I)の化合物であるが本件化合物ではないR1243zfについて記載されている。それらは、本件化合物の2つの異性体が区別されていないことがあったり、実施例2及び3のように本件化合物のうちのR1234yfに言及されないものであったり、実施例3のようにPOEに言及されないものではあるが、試験された範囲では、本件化合物と潤滑剤とを含む本件発明の熱移動組成物が、熱移動特性、潤滑剤との混和性、潤滑剤との混合物の化学的安定性に関し、蒸気圧縮サイクルによる加熱及び冷却用途に使用し得る程度の特性を備えていることが示されている。
参考のために、本件化合物の化学構造式の一覧を、再掲する。


(4)本件発明と発明の詳細な説明との対比及び出願時の技術常識

ア 無効理由2は、本件発明1?8のうち、少なくともR1234yfとPOE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む熱移動組成物について、サポート要件を満たさないというものである。そして、本件発明1?8は、いずれも、その態様として、熱移動組成物がR1234yfとPOE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む態様を包含する。そこで、以下、この態様について、本件発明1?8が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討する。

イ まず、本件明細書に、本件化合物、R1234ze、R1234yf又はR1225ye、並びにこれらとPOE又はPAG潤滑剤を含む熱移動組成物についての記載があるかを見ておく。
上記(2)及び(3)で摘示したとおり、本件明細書には、本件化合物の上位概念の化学式(I)の化合物を含有する組成物の発明が記載され、本件明細書の段落【0015】?【0023】には、その非常に好適な実施態様として、上記の本件化合物を含有する実施態様が記載されており、同段落【0029】には、熱移動組成物とするときに、POE又はPAGなど、一般的に用いられる潤滑剤を用いてよいことが記載されている。また、実施例2には、潤滑剤を5、20又は50重量%とした熱移動組成物が記載されている。
このように、本件明細書には、本件発明1?8についての一般的な記載又は本件発明1?8に拡張し得る記載がある。

ウ 次に、上記(2)で認定した本件発明の課題は、
熱移動組成物であって、
(i)従来技術の塩素を含有する冷媒(審決注:冷媒化合物又は冷媒組成物、後者は「熱移動組成物」に相当する。)におけるオゾン破壊性の欠点を回避し、
(ii)蒸気圧縮サイクルによる加熱及び冷却用途に必要な特性である熱移動特性、化学的安定性、低毒性又は無毒性、不燃性、及び潤滑剤相溶性などを備え、
(iii)従来技術の塩素を含有しない代替冷媒における欠点である潤滑剤に不溶又は非混和であること、可燃性、プラスチックを冒す傾向、毒性などのうちの1つ以上を回避する、
熱移動組成物を、提供することである。
このうち、(i)は、本件化合物は、R1234yfを含め、いずれも、その化学構造に炭素-炭素二重結合を有するものの塩素を含有しないものであるから、オゾン破壊性について、塩素を含有する従来技術の冷媒ほどには大きくないであろうことを、当業者は認識できる。また、(ii)は、熱移動組成物として使用し得る性質を備えることをいうもので、(ii)が満足されるものは、(iii)の従来技術の代替冷媒の欠点が回避されたものといえる。
そのため、以下、当業者が本件発明の課題を解決できると認識できるか否かの検討は、(ii)の、熱移動組成物として使用し得る性質を備えると認識できるか否かの観点で、行う。

エ 熱移動特性
本件明細書には、上記(3)エのとおり、実施例1の表1に、いずれも本件化合物に該当するR1225ye(2つの異性体が区別されていない。)、R1234ze(E)(トランス形)、R1234ze(Z)(シス形)及びR1234yfの比COPが、順に、1.02、1.04、1.13、0.98であり、比能力が、順に、0.76、0.70、0.36、1.10であることが記載されており、冷媒化合物により異なるが、R134aと比べて、COPは同程度以上、能力は1/3?1.1倍である。
したがって、本件発明の1?8の、熱移動組成物がR1234yfとPOE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む態様は、熱移動組成物として使用し得る熱移動特性を有することを、当業者は認識できる。

オ 化学的安定性
本件明細書には、本件化合物の化学的安定性に関する記載は、段落【0006】に冷媒の要求特性に関する記載があるのみである(審決注:潤滑剤と混合した熱移動組成物の化学的安定性については、後記クで潤滑剤相溶性に関連して検討する。)。
しかし、本件明細書には、本件化合物の上位概念の化学式(I)の化合物又はこれを含有する組成物の発明に関し、この審決では摘示はしていないが、発泡剤、フォーム及び発泡組成物及びフォーム発泡方法(段落【0030】?【0032】、【0037】?【0038】)、噴射剤組成物(段落【0033】)、洗浄方法(段落【0040】?【0045】)、可燃性低減方法(段落【0046】?【0047】)、鎮火方法(段落【0048】)、滅菌方法(段落【0049】?【0052】)の各用途に使用し得ることが記載されている。また、本件明細書には、本件化合物に化学的安定性の問題があることを示唆する記載はない。
これらの記載に接した当業者は、本件化合物が化学的に安定な化合物であると認識できる。
したがって、本件発明の1?8の、熱移動組成物がR1234yfとPOE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む態様は、本件化合物の化学的安定性に関しては、熱移動組成物として使用し得る化学的安定性を有することを、当業者は認識できる。

カ 低毒性又は無毒性
本件明細書には、上記(3)アのとおり、本件化合物の低い毒性の利点について、実験データの記載はないものの、マウス及びラットへの吸入曝露による急性毒性レベルが「非常に低い」と評価できることが記載されている。上記(3)アで摘示した段落【0023】には、本件化合物の上位概念の化学式(I)の化合物の1つである1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(R1225zc)(審決注:化学構造式は


)については、同じ試験で許容可能でない高い毒性を示すとの記載もされているが、上記オに示したように、本件化合物の上位概念の化学式(I)の化合物又はこれを含有する組成物は、広範な用途に使用し得ることも記載されている。また、本件明細書には、本件化合物に毒性の問題があることを示唆する記載はない。
これらの記載に接した当業者は、少なくとも本件化合物は、低毒性又は無毒性の化合物であると認識できる。
したがって、本件発明の1?8の、熱移動組成物がR1234yfとPOE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む態様は、本件化合物の低毒性又は無毒性に関しては、熱移動組成物として使用し得る低毒性又は無毒性を有することを、当業者は認識できる。
なお、乙5のラッシュ宣誓供述書には、毒性の試験の結果が、R1225zc(審決注:上述のもの)、R1234yf、R1234ze(E)、R1233zd(E)(審決注:1-クロロ-3,3,3-トリフルオロプロペン、本件化合物ではない。化学構造式は省略するが、R1234ze(E)の1位のFの代わりにClを有する化合物である。)について報告されている。ネズミの、4時間曝露、14日間観察における、致死濃度中央値LC_(50)(ppm)が、この順に、「2,000未満」、「400,000より高い」、「200,000より高い」、「120,000」であることが報告されている。

キ 不燃性
本件明細書には、本件化合物の不燃性に関する記載は、段落【0006】に冷媒の要求特性に関する記載があるのみである。そして、段落【0010】には、本件化合物の上位概念の化学式(I)の化合物の1つである1,1,1-トリフルオロプロペン(R1243zf)(審決注:1,1,1-トリフルオロ-2-プロペン又は3,3,3-トリフルオロプロペン、化学構造式は


)については、可燃性であるため多くの用途において使用の実現性はないとの記載もされているが、上記オに示したように、本件化合物の上位概念の化学式(I)の化合物又はこれを含有する組成物は、可燃性低減方法及び鎮火方法を含む広範な用途に使用し得ることも記載されている。また、本件明細書には、本件化合物に可燃性の問題があることを示唆する記載はない。
これらの記載に接した当業者は、少なくとも本件化合物は、不燃性の化合物であると認識できる。
したがって、本件発明の1?8の、熱移動組成物がR1234yfとPOE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む態様は、本件化合物の不燃性に関しては、熱移動組成物として使用し得る不燃性を有することを、当業者は認識できる。

ク 潤滑剤相溶性

(ア)本件明細書には、上記(2)で摘示したとおり、段落【0007】に「多くの用途において潤滑剤の相溶性が特に重要である」、「より詳細には、冷却流体は、大抵の冷却システムで用いられる、圧縮ユニットにおいて利用される潤滑剤と相溶であることが非常に望ましい」、「圧縮冷却、空調、およびヒートポンプのシステムのうちの少なくとも1つにおいて、冷却流体-潤滑剤の組合せを所望の効率レベルで作用させるためには、広い操作温度範囲に渡って潤滑剤が冷却流体に充分に可溶である必要がある。そのような可溶性によって潤滑剤の粘度が低下し、より容易にシステム中を流れることが可能である。そのような可溶性を欠く場合、潤滑剤は、冷却、空調、またはヒートポンプのシステムの蒸発器の螺旋管や、それらのシステムの他の部分にも滞留する傾向にあり、それによってシステム効率が低下する」と記載されている。
また、上記(3)エのとおり、実施例2には、潤滑剤との混和性の試験が記載され、潤滑剤濃度5、20及び50重量%、温度-50?70℃で、本件化合物であるR1234ze(2つの異性体が区別されていない。)及びR1225ye(2つの異性体が区別されていない。)が試験されている。
さらに、上記(3)エのとおり、実施例3には、潤滑剤との相溶性の試験であるとして、アルミニウム片、銅片及び鋼片と特定銘柄のPAG油2gと冷媒化合物1gとの混合物をガラスチューブに入れ、350°F(審決注:177℃)1週間後の外観を目視観察する試験が記載され、本件化合物に該当するR1234ze(2つの異性体が区別されていない。)、本件化合物に該当するR1225ye(2つの異性体が区別されていない。)及び本件化合物の上位概念の化学式(I)の化合物の1つであるR1243zf(審決注:3,3,3-トリフルオロプロペン、化学構造式は


)が試験されている。

(イ)これらの記載によれば、本件発明の課題を認定する際に参照した本件明細書の段落【0006】に冷媒の要求特性に関して「潤滑剤相溶性」と記載されているのは、冷媒化合物と潤滑剤との混和性(可溶性)、冷媒化合物と潤滑剤とを混合した熱移動組成物の化学的安定性の、両者を含む、潤滑剤との適合性(相性の良さ)を意味する概念であると認められる。このように解釈することは、基準明細書等において、「潤滑剤相溶性」は「lubricant compatibility」と記載されていることとも整合する。

(ウ)a まず、混和性については、上記(ア)のとおり、実施例2に実験データが記載されているのは、R1234zeとR1225yeである。
R1234zeとPOE又はPAGの混合物は試験の範囲で全て混和性であり、R1225yeとPOEの混合物も同様であるが、R1225yeとPAGとの混合物は混和性でない濃度及び温度の範囲があり、-20?50℃で部分的に混和性、60℃で潤滑剤50重量%で混和性、70℃で潤滑剤5?50重量%で混和性であるというものである。そして、熱移動システムの作動温度に応じて決まる、冷媒化合物と潤滑剤との混和性が要求される温度範囲において混和性であるならば、熱移動組成物として使用し得る混和性を有するといえるところ、R1225yeとPAGの混合物も、上記のように相応の混和性のある温度及び濃度の範囲を有しているから、熱移動システムの要求と合致する範囲において熱移動組成物として使用し得る混和性を有することを、当業者は認識できる。
R1234yfは実験データが記載されていないが、R1234yfの化学構造は、R1225yeとは=CFCF_(3) の部分構造で共通し、R1234zeとは炭素-炭素二重結合している2つの炭素原子の同一平面上にある残りの4つの結合の相手が2つのHとFとCF_(3) である点で共通し、このように化学構造が類似していることから、当業者は、その化学的性質についても、相応に類似すると考えるのが普通である。R1234yfが、R1234zeやR1225yeと異なり熱移動組成物として使用し得ないほど混和性が悪いと考える理由はない。
したがって、本件発明の1?8の、熱移動組成物がR1234yfとPOE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む態様は、本件化合物と潤滑剤との混和性に関しては、熱移動組成物として使用し得る混和性を有することを、当業者は認識できる。
なお、乙10のトーマス宣誓供述書には、混和性の試験の結果が、R1234yf、R1234ze(E)(審決注:トランス形であり、「t-」の表示がされている。)について報告されている。鉱油(C-3S、Nu-Cargon)、PAG(ND-8、出光興産)、POE(RL32-3MAG、CPI社)との潤滑剤5、20及び50重量%の混合物が、0℃、10℃及び20℃において混和であるか非混和であるかが示され、R1234yf、R1234ze(E)共に、鉱油との混合物は試験された全ての濃度及び温度の範囲で「非混和」であり、PAG又はPOEとの混合物は試験された全ての濃度及び温度の範囲で「混和」であることが報告されている。

b 次に、熱移動組成物の化学的安定性については、上記(ア)のとおり、実施例3に実験データが記載されているのは、R1234ze、R1225ye及び本件化合物ではないR1243zfであり、潤滑剤がPAGの場合である。
いずれも、アルミニウム片、銅片及び鋼片とガラスチューブ中で350°F(審決注:177℃)1週間接触後の外観変化が最小で、それらの金属との接触時に安定であるというものである。
R1234yfは実験データが記載されていないが、上記オに示したように本件化合物はいずれも化学的に安定な化合物と考えられることと、上記aで述べた化学構造の類似を考慮すれば、当業者は、R1234yfで試験しても、同様に安定との結果が得られると考えるのが普通である。R1234yfが、R1234zeやR1225yeやR1243zfと異なり熱移動組成物として使用し得ないほど熱移動組成物の金属との接触時の化学的安定性が悪いと考える理由はない。
また、潤滑剤がPOEの場合の実験データが記載されていないが、この場合に、熱移動組成物として使用し得ないほど熱移動組成物の金属との接触時の化学的安定性が悪いと考える理由はない。
したがって、本件発明1?8の、熱移動組成物がR1234yfとPOE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む態様は、本件化合物と潤滑剤との混合物の化学的安定性に関しては、熱移動組成物として使用し得る化学的安定性を有することを、当業者は認識できる。
なお、乙10のトーマス宣誓供述書には、安定性の試験の結果が、R1234yfについて報告されている。PAG(ND-8、出光興産)又はPOE(RL32-3MAG、CPI社)との混合物を、実施例3と同様の金属片とガラスチューブ中で同様の温度で2週間接触後に観察して、安定であったことが報告されている。

(エ)したがって、本件発明1?8の、熱移動組成物がR1234yfとPOE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む態様は、本件化合物の潤滑剤相溶性に関しては、熱移動組成物として使用し得る潤滑剤相溶性を有することを、当業者は認識できる。

ケ 上記イ?クのとおり、本件発明1?8の、熱移動組成物がR1234yfとPOE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む態様は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(5)請求人の主張について

ア 請求人は、概略以下の主張をしている。

(i)本件明細書の実施例には、R1234yfとPOE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む熱移動組成物を用いた試験結果は一切記載されていない。
この点、被請求人は、平成22年12月20日付け提出の意見書において、R1243zf及びR1261yfとの対比においてR1234yf、R1234ze(Z)及びR1225yeが予想外の安定性を有することを主張するとともに、PAG潤滑油の存在下での冷媒化合物の安定性は決して予測できるものではないと主張している。HFOの種類が異なると効果が予測できないという被請求人の主張に基づくとすれば、本件明細書の発明の詳細な説明からはR1234yfと潤滑油とを含む熱移動組成物の効果など予測できるはずがなく、R1234yfと潤滑油とを含む熱移動組成物の発明が本件明細書の発明の詳細な説明には記載されていないことは明らかである。そして、本件出願後にR1234yfと潤滑油とを含む熱移動組成物の実験結果を提示し(乙10)、発明の詳細な説明の記載内容を事後的に記載外で補足することによって、発明の詳細な説明の内容をR1234yfと潤滑油とを含む熱移動組成物の発明まで拡張又は一般化し、明細書のサポート要件に適合させることは到底認められない。(審判請求書、35?36頁(4-5)、弁駁書、11頁C)

(ii)本件特許の実施例1は、被請求人の表現を借りれば“実際の及び/又は正確なデータ”として明細書に記載があるものとして考えることすらできないものである。
実施例1が当業者にとって実現不可能であることを、甲10のR134aの蒸気圧縮サイクルのモリエル図(圧力・エンタルピ線図)を参照して説明する。
本件明細書の実施例1の段落【0054】には、「冷却/空調サイクルシステムは、圧縮機のインレットの温度が約10.0℃(約50°F)(1)である公称の等エントロピー的圧縮の下で、凝縮器温度が約65.6℃(約150°F)(3)および蒸発器温度が約-37.2℃(約-35°F)(4)であるように与えられる。本発明の幾つかの組成物のCOPを、COPが1.00、能力値が1.00、および吐出温度(discharge temperature)が約79.4℃(175°F)(2)’であるHFC-134aを基準として、一定の範囲の凝縮器温度および蒸発器温度に渡って測定し、以下の表1に報告する」(下線及び( )数字は請求人による。)(審決注:請求人は○数字で示しているが( )数字で示す。以下も同じ。)と記載されている。ここで、約10.0℃:(1)より等エントロピー圧縮の下で、凝縮器の温度約65.6℃:(3)になるよう圧縮した場合、本来であれば、基準冷媒であるR134aでの排出温度は:(2)(約127℃)となる。蒸気圧縮サイクル装置の実機の場合には各種のエネルギー損失があり、圧縮機の部分は等エントロピー線よりも寝てくるはずであるが、実施例1のR134aでの結果は、モリエル図における右下の角:(1)から右上の角:(2)’へ圧縮したことが示されておりこれは等エントロピー圧縮ではなく熱力学上もあり得ないサイクルであることは当業者にとって明白である。したがって、本件特許の実施例1は、実際の及び/又は正確なデータとして明細書に記載があるものとして考えることはできないものである。
したがって、R1234yfについての追加データの提出は認められるべきものではなく、本件明細書にはR1234yfについての何の情報もデータも記載されていなかったのであるから、R1234yfを含む本件特許の特許請求の範囲は、いわゆるサポート要件を満たすものではない。(弁駁書、12?16頁C)

(iii)被請求人は、本件明細書の実施例1に報告されている基準冷媒であるR134aの排出温度に誤りがあり、約79.4℃(175°F)ではなく、約127℃であったと主張している。また、報告されている排出温度(吐出温度)に誤差が含まれていても、このこと自体がサイクルを実現不可能にするものではないと主張している。
被請求人は、R134aの吐出温度の誤記のみを指摘しているが、本件明細書の表1に記載されている4種の冷媒を用いた場合の吐出温度も全て誤記であると考えられるところ、この点について被請求人は何ら陳述していない。また、約79.4℃が約127℃の誤記であり、これが「誤差」であると主張するが、約50℃近い温度の修正を「誤差」と称するのは明らかに不適切である。
また、実施例1の冷却/空調サイクルシステムは、インレット温度(吸入温度)が約10.0℃であり、蒸発器温度が約-37.2℃であり、これらの温度の差の絶対値(約47.2K)がいわゆるスーパーヒート(過熱度)と称されるところ、当業者であればスーパーヒートは3?8K程度(多くても10K程度)に設定することが通常であるため、実施例1の冷却/空調サイクルシステムは、通常では当業者にとって想定できない極めて特殊な運転条件である。
そのため、被請求人は、実施例1の結果にはR1234yfについての結果が含まれており、R1234yfの結果は、能力及びCOPの両者に付いて、広く使用されていた基地の冷媒であるR134aと互角なものであることを示すものであると主張しているが、上記のとおり運転条件が極めて特殊であるため、かかる条件下で得られた結果から各種冷媒の熱力学的特性を一般化することは妥当ではない。(上申書2、7頁(4))

イ 検討
以下に示すように、請求人の主張はいずれも採用できない。

(ア)(i)の主張について
R1234yfとPAG又はPOEとの相溶性についての実験結果が実施例2及び3に記載されていなくても、R1234yfとPAG又はPOEとが、熱移動組成物として使用し得る潤滑剤相溶性を有することを当業者が認識できることは、上記(4)クで検討したとおりである。
本件発明は、従来技術の熱移動組成物における潤滑剤相溶性を改善しようとするものではなく、上記(2)及び(4)ウで検討したとおり、蒸気圧縮サイクルによる加熱及び冷却用途に必要な特性である熱移動特性、化学的安定性、低毒性又は無毒性、不燃性、及び潤滑剤相溶性などを備えた熱移動組成物を提供すること、言い換えれば、熱移動組成物として使用し得る性質を備えた熱移動組成物を提供することを、課題とするものであるから、本件発明においては、潤滑剤相溶性は、熱移動組成物として使用し得るものであれば十分であり、格別に優れた相溶性を意図したものであるとはいえない。
そして、乙10は、R1234yfとPAG又はPOEとが、熱移動組成物として使用し得る潤滑剤相溶性(混和性及び化学的安定性)を有することが事実であることを単に確認するものである。

(イ)(ii)及び(iii)の主張について

a まず、吐出温度の点を検討する。
被請求人は、本件明細書の実施例1に記載された「吐出温度・・・が約79.4℃(175°F)であるHFC-134aを基準として」における「約79.4℃」が「約127℃」の誤記であることを認め、また、実施例1の表1に記載された本件化合物の吐出温度も同様に誤記を含んでいることを認めている。そして、被請求人は、実施例1には凝縮温度、蒸発温度、過熱度のサイクル運転の条件が特定されており、吐出温度はサイクルの条件を設定するために使用されるものではないので吐出温度に誤記が含まれていてもサイクルは実現不可能とはいえず、上記のR134aについての誤差もR134aについて知られていたモリエル図から当業者は正すことができるし、実施例1の表1に記載された比COP及び比能力の値は正しいと主張している。
そこで検討すると、実施例1では、凝縮器温度、蒸発器温度、圧縮機のインレットの温度が、それぞれ約65.6℃、約-37.2℃、約10℃と与えられており(審決注:蒸発器温度と圧縮機のインレットの温度の差である「過熱度」は約47.2Kになる。)、R134aと本件化合物のCOP及び能力をそれぞれ求めるためのサイクルの条件は、これらが与えれれば十分である。圧縮機の吐出温度が与えられていれば、当業者はこれを参考にすると考えられるが、表1に記載された吐出温度が現実的な温度でなかったとしても、比較のためのR134aについて示された吐出温度も現実的な温度でないのであるから(実験すれば直ちに判ることであるし、請求人が甲10で示した公知のR134aのモリエル図からも明らかである。)、当業者は、実施例1の吐出温度の記載につき、R134a及び表1の両方に錯誤がある可能性を考えることができる。
したがって、実施例1に記載されたR134a及び本件化合物についての吐出温度が、精査すれば錯誤があることが判明するようなものであるとしても、与えられたサイクル条件でCOP及び能力を求めることができ、比COP及び比能力を計算できるのであるから、表1に記載された比COP及び比能力が、実際の及び/又は正確なデータとして明細書に記載があるものとして考えることができない、とまではいえない。

b 次に、過熱度の点を検討する。
冷媒化合物の熱移動特性であるCOP及び能力を測定するためのサイクルの条件は、発明者が適当と考える条件を適宜選定するものと認められ、本件明細書の実施例1においては、対照のR134aと比較することを前提に、上記の凝縮器温度約65.6℃、蒸発器温度約-37.2℃、過熱度約47.2Kの条件が選定されていると認められる。
請求人は、この過熱度が多くても10K程度に設定されることが通常であって約47.2Kの過熱度は通常では当業者が想定できない極めて特殊な条件であることを理由に、実施例1の結果から熱力学特性を一般化できないと主張している。
しかし、請求人は、実施例1のサイクルの条件において過熱度が約47.2Kと大きいことが、熱力学特性(熱移動特性)の評価に当たり適当でないとする理由を、「通常でない」とするのみで、根拠を示して説明していない。そして、この程度の過熱度が冷凍機の運転条件として特殊なものであるともいえない(乙16に44.4℃及び58℃の過熱度が記載され、乙17に「30?70°Fの過熱度は正常」と記載され、乙18に65℃の過熱度が示されている。)。
したがって、実施例1のサイクルの条件の過熱度が約47.2Kであることを理由に、本件化合物を含む本件発明の熱移動組成物が、熱移動組成物として使用し得る熱移動特性を有するといえない、とすることはできない。

(6)無効理由2についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?8は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるとはいえないとすることはできないから、特許請求の範囲の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合し、本件発明1?8についての特許は、同条同項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
よって、本件発明1?8についての特許は、同法第123条第1項第4号に該当せず、無効理由2によっては、無効とすべきものではない。

2 無効理由1について
無効理由1の概要は、本件発明1?8は、本件優先日前に頒布された甲1ないし甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであって、本件発明1?8についての特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであるから、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである、というものである。

(1)甲1?甲5の記載
甲1?甲5は、いずれも本件優先日前に頒布された刊行物である。

ア 甲1(特開平4-110388号公報、発明の名称「熱伝達用流体」)には、以下の記載がある。
(1a)「1.分子式:C_(3)H_(m)F_(n)
(但し、m=1?5,n=1?5且つm+n=6)
で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱媒体。」(1頁、特許請求の範囲)
(1b)「産業上の利用分野
本発明は、冷凍機、ヒートポンプなどで使用される熱伝達用流体に関する。」(1頁左下欄9?11行)
(1c)「従来技術とその問題点
従来、ヒートポンプの熱媒体(冷媒)としては、クロロフルオロ炭化水素、フルオロ炭化水素、これらの共沸組成物ならびにその近辺の組成物が知られている。これらは、一般にフロンと称されており、現在R-11(トリクロロモノフルオロメタン)、R-22(モノクロロジフルオロメタン)、R-502(R-22+クロロペンタフルオロエタン)などが主に使用されている。
しかしながら、近年、大気中に放出された場合に、ある種のフロンが成層圏のオゾン層を破壊し、その結果、人類を含む地球上(審決注:「地球状」と記載されているが「地球上」の誤記と認める。)の生態系に重大な悪影響を及ぼすことが指摘されている。従って、オゾン層破壊の危険性の高いフロンについては、国際的な取決めにより、使用および生産が規制されるに至っている。規制の対象になっているフロンには、R-11とR-12とが含まれており、またR-22については、オゾン層破壊への影響が小さいため、現在規制の対象とはなっていないが、将来的には、より影響の少ない冷媒の出現が望まれている。冷凍・空調設備の普及に伴って、需要が毎年増大しつつあるフロンの使用および生産の規制は、居住環境をはじめとして、現在の社会機構全般に与える影響が極めて大きい。従って、オゾン層破壊問題を生じる危険性のない或いはその危険性の極めて小さい新たなヒートポンプ用の熱媒体(冷媒)の開発が緊急の課題となっている。」(1頁左下欄14行?2頁左上欄4行)
(1d)「問題点を解決するための手段
本発明者は、ヒートポンプ或いは熱機関に適した熱伝達用流体であって、且つ当然のことながら、大気中に放出された場合にもオゾン層に及ぼす影響が小さいか或いは影響のない新たな熱伝達用流体を得るべく種々研究を重ねてきた。その結果、特定の構造を有する有機化合物がその目的に適合する要件を具備していることを見出した。
すなわち、本発明は、下記の熱伝達用流体を提供するものである:
「分子式:C_(3)H_(m)F_(n)
(但し、m=1?5,n=1?5且つm+n=5)
で示され且つ分子中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱伝達用流体。」」(2頁左上欄5?末行)
(1e)「本発明で使用する代表的な化合物の主な物性は、
以下の通りである。
I.F_(3)C-CH=CH_(2)(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン)
沸点 -17.0℃
臨界温度 126℃
臨界圧力 41kg/cm^(2)
分子量 ・・・(審決注:省略する。「90.65」と記載されているのは誤記と認める。)
II.F_(3)C-CH=CHF(1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン)
沸点 -16.0℃
臨界温度 121℃
臨界圧力 39.1kg/cm^(2)
分子量 114.04
III.H_(3)C-CF=CF_(2)(審決注:「H3C」と記載されているが「H_(3)C」の誤記と認める。)(1,1,2-トリフルオロ-1-プロペン(審決注:「1,2,2-」と記載されているが「1,1,2-」の誤記と認める。)
沸点 -18.0℃
臨界温度 121℃
臨界圧力 40.9kg/cm^(2)
分子量 ・・・(審決注:省略する。「69.05」と記載されているのは誤記と認める。)
IV.H_(3)C-CF=CH_(2)(2-モノフルオロ-1-プロペン)
沸点 -24.0℃
臨界温度 123℃
臨界圧力 45.1kg/cm^(2)
分子量 60.07」(2頁右上欄1行?左下欄8行)
(1f)「本発明において熱伝達用流体として使用するC_(3)H_(m)F_(n) で示される化合物は、オゾン層に影響を与える塩素原子および臭素原子を全く含まないので、オゾン層の破壊問題を生じる危険性はない。」(2頁左下欄9?13行)
(1g)「また、一方では、C_(3)H_(m)F_(n) で示される化合物は、ヒートポンプ用熱媒体としての特性にも優れており、成績係数、冷凍能力、凝縮圧力、吐出温度などの性能において、バランスが取れている。さらに、この化合物の沸点は、現在広く使用されているR-12,R-22、R-114およびR-502のそれに近いため、これら公知の熱媒体の使用条件下、即ち蒸発温度-20から10℃および凝縮温度30から60℃での使用に適している。」(2頁左下欄14行?右下欄5行)
(1h)「また、本発明においては、C_(3)H_(m)F_(n) で示される化合物を少なくとも含み、R-22(CHClF_(2)),R-32(CH_(2)F_(2)),R-124(CF_(3)CHClF),R-125(CF_(3)CF_(2)H),R134a(CF_(3)CFH_(2)),R-142b(CH_(3)CClF_(2))、143a(CF_(3)CH_(3))およびR-152(CHF_(2)CH_(3))からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む混合物を熱伝達用流体として使用しても良い。この混合物を使用する場合には、低沸点の冷媒を混合することにより、更に冷凍能力を向上させたり、蒸発潜熱の大きな冷媒を混合することにより、成績係数を向上させたり、或いは冷凍機油との溶解性を改善したりすることができる。
本発明で使用するC_(3)H_(m)F_(n) で示される化合物或いはC_(3)H_(m)F_(n) で示される化合物とR-22,R-32,R-124,R-125,R-134a,R-142b,R-143aおよびR-152aの少なくとも一種との混合物は、ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている。」(2頁右下欄6行?3頁左上欄11行)
(1i)「発明の効果
本発明による熱伝達用流体によれば、下記の様な顕著な効果が達成される。
(1)従来からR-12,R-22或いはR-502を熱媒体として使用してきたヒートポンプと同等以上のサイクル性能が得られる。
(2)熱媒体としての優れた性能のゆえに、機器設計上も有利である。
(3)仮に本発明による熱伝達用流体が大気中に放出された場合にも、オゾン層破壊の危険性はない。」(3頁左上欄12行?右上欄4行)
(1j)「実施例1
熱媒体としてF_(3)C-CH=CH_(2)(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン)を使用する1馬力のヒートポンプにおいて、蒸発器における熱媒体の蒸発温度を-10℃,-5℃,5℃および10℃とし、凝縮器における凝縮温度を50℃とし、過熱度および過冷却度をそれぞれ5℃および3℃として、運転を行なった。
また、比較例として、R-12(比較例1)、R-22(比較例2)およびR-502(比較例3)を熱媒体として使用して、上記と同1条件下にヒートポンプの運転を行なった。
これらの結果から、成績係数(COP)および冷凍効果を次式により、求めた(第1図に示すモリエル線図参照)。
COP=(h_(1)-h_(4))/(h_(2)-h_(1))
冷凍効果=h_(1)-h_(4)
h_(1) ・・・蒸発器出口の作動流体のエンタルピー
h_(2) ・・・凝縮器入口の作動流体のエンタルピー
h_(4) ・・・蒸発器入口の作動流体のエンタルピー
本実施例ならびに比較例で使用した冷凍サイクルの回路図を第2図に示す。
COPおよび冷凍能力の算出結果を比較例1?3の結果と対比して第3図および第4図にそれぞれ示す。
なお、第3図に示す成績係数は、R-22を熱媒体とした場合の蒸発温度5℃における測定値(COP_(B))で、それぞれの熱媒体の測定値(COP_(A))を除したものである。特に、本発明による熱媒体の結果は、“○”で示してある。
また、第4図に示す冷凍能力は、R-22を熱媒体とした場合の蒸発温度5℃における測定値(能力_(B))で、それぞれの熱媒体の測定値(能力_(A))を除したものである。本発明による熱媒体の結果は、やはり“○”で示してある。
第3図から明らかな様に、本実施例による作動流体は、COPに関して、R-12およびR-22と同程度の良好な値を示している。さらに、第4図から明らかな様に、冷凍効果に関して、R-12よりも高めの値を示している。
また、蒸発温度5℃における凝縮圧力および圧縮機吐出温度の比較結果を第1表に示す。
第 1 表
凝縮圧力 吐出温度
(kg/cm^(2)・A) (℃)
実施例1 9 51
比較例1 12 59
比較例2 20 73
比較例3 22 -
本実施例による熱媒体の凝縮圧力および吐出温度は、R-12よりも低い値を示しており、機器設計上有利である。
以上の結果から、F_(3)C-CH=CH_(2) を熱媒体として使用する本発明においては、従来から広く使用されているR-12、R-22およびR-502を使用するヒートポンプと同等以上のサイクル性能が得られており、本発明は、機器設計上からも有利であることが、明らかである。」(3頁右上欄8行?4頁左上欄16行)
(1k)「実施例2
熱媒体としてF_(3)C-CH=CHF(1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン)を使用するとともに、蒸発器における熱媒体の蒸発温度を5℃とする以外は実施例1と同様にしてヒートポンプの運転を行なった。
成績係数および冷凍能力を下記第2表に示す。いずれの数値も、R-22を熱媒体とした場合の蒸発温度5℃における測定値(COP_(B) および冷凍能力_(B))により本発明熱媒体の測定値(COP_(A) および冷凍能力_(A))を除した数値で示してある。
第 2 表
実施例2 R-12 R-502
COP_(A)/C0P_(B) 1.01 1.02 0.92
能力_(A)/能力_(B) 0.43 0.61 1.03
」(4頁左上欄17行?右上欄13行)
(1L)「実施例3
熱媒体としてH_(3)C-CF=CF_(2)(1,1,2-トリフルオロ-1-プロペン(審決注:「1,2,2-」と記載されているが「1,1,2-」の誤記と認める。)を使用するとともに、蒸発器における熱媒体の蒸発温度を5℃とする以外は実施例1と同様にしてヒートポンプの運転を行なった。
成績係数および冷凍能力を下記第3表に示す。いずれの数値も、R-22を熱媒体とした場合の蒸発温度5℃における測定値(COP_(B) および冷凍能力_(B))により本発明熱媒体の測定値(COP_(A) および冷凍能力_(A))を除した数値で示してある。
第 3 表
実施例3 R-12 R-502
COP_(A)/C0P_(B) 1.00 1.02 0.92
能力_(A)/能力_(B) 0.44 0.61 1.03
」(4頁右上欄14行?左下欄10行)
(1m)「実施例4
熱媒体としてH_(3)C-CF=CH_(2)(審決注:「=Cク_(2)」と記載されているが「=CH_(2)」の誤記と認める。)(2-モノフルオロ-1-プロペン)を使用するとともに、蒸発器における熱媒体の蒸発温度を5℃とする以外は実施例1と同様にしてヒートポンプの運転を行なった。
成績係数および冷凍能力を下記第4表に示す。いずれの数値も、R-22を熱媒体とした場合の蒸発温度5℃における測定値(COP_(B) および冷凍能力_(B))により本発明熱媒体の測定値(COP_(A) および冷凍能力_(A))を除した数値で示してある。
第 4 表
実施例4 R-12 R-502
COP_(A)/C0P_(B) 1.03 1.02 0.92
能力_(A)/能力_(B) 0.53 0.61 1.03
」(4頁左下欄11行?右下欄7行)
(1n)「実施例5
熱媒体としてF_(3)C-CF=CH_(2) を使用する以外は実施例1と同様にして、ヒートポンプの運転を行なったところ、実施例1とほぼ同様の結果が得られた。」(4頁右下欄8?12行)
(1o)「第1図は、実施例において成績係数(COP)および冷凍効果求めるために使用したモリエル線図である。
第2図は、本実施例ならびに比較例で使用した冷凍サイクルの回路図である。
第3図は、実施例1および比較例1?3にょるCOPを示すグラフである。
第4図は、実施例1および比較例1?3による冷凍能力を示すグラフである。」(4頁右下欄14行?5頁左上欄4行)
(1p)「

」(6頁)
(1q)「

」(6頁)
(1r)「

」(7頁)
(1s)「

」(7頁)

イ 甲2(1990 International Compressor Engineering Conference At Purdue予稿集,1990年,p.733-740)には、以下の記載がある。訳文で示す。なお、「miscibility」は、請求人が提出した甲2の訳文では「相溶性」とされており日本語訳として差し支えないものであるが、本件明細書の用語に考慮して「混和性」と訳した。他にも訳文は必要に応じ改めて示した。
(2a)「HCF-134aを用いるツインスクリュー圧縮機の性能と適切な潤滑剤」(733頁、標題)
(2b)「要約
油冷ツインスクリュー圧縮機の性能は、使用する冷媒と潤滑剤の両方に影響を受ける。HFC-134aは、CFC-12に置き換え可能な代替冷媒として提案されてきた。熱量計に基づいた圧縮機性能試験を、CFC-12とHFC-134aの双方に対し行なった。これら2つの冷媒を用いた試験結果を、比較した。
実験室での試験を通じた潤滑剤の評価の現状を、論ずる。様々な種類の潤滑剤の混和性の研究に対し、特別な関心を払った。合成潤滑剤の使用は、HFC-134aについての要求を満たす、鉱物油を上回る性能利点を有することを示すものである。これらの性能利点は、CFC-12よりも好適なHFC-134aを用いるツインスクリュー圧縮機における効率改善に通ずるものでもあった。」(733頁9?22行)
(2c)「油の選択
HFC-134a(CH_(2)FCF_(3))は従来使用の鉱物油及び合成炭化水素に対して非常に不溶性且つ非混和性である。低分子量ポリアルキレングリコール及びある種のエステルがHFC-134aと良好な混和性を有することが発見された。最高粘度等級(100ISO超)は、混和性が乏しいものである。高い粘度等級は、圧縮期間中の封止と軸受潤滑用の冷媒の存在下での効率的な動作粘度の提供にとって望ましいものとなる。
広範な混和性研究が、様々な種の合成液体を用い様々な濃度の冷媒について行なわれてきた。実験用の油可溶性合成潤滑剤の一種EXP-0139は、R-22を用いたパラフィン性の油の混和性(参考文献4)に類似する混和性特性を呈することが発見されている(図1)。少量のこの種の潤滑剤、ただし低粘度のものを、HFC-134aの二相沸騰に関する熱伝達係数の計測期間中に用いた(参考文献5)。元々の圧縮機試験は、ISO150粘度等級のポリアルキレングリコールを用いたものであった(図2)。粘度を高め、低温での混和性を改善し、水の溶解性を低減する改質がなされてきた。その成果が、40℃(104°F)で180cstの粘度を有するEXP-0272であった。ロータリースクリュー圧縮機用途向けに、これを選択した(参考文献6)。
圧縮機内で検出される油濃度でのより高い温度でのEXP-0272の逆混和性は、圧縮機の効率的な封止と軸受潤滑用の良好な潤滑剤膜の提供にとって理想的であると考えられる(図3参照)。液体冷媒と潤滑剤を用いて観察された特性は、「非理想的」な溶液特性を示すものであった。溶液に関するこの用語は、2つの液体の非混和性を示すものであった。さらなる圧縮機試験の観察は、HFC-134aガスがより高温においてEXP-0272との不溶性もまた呈するとの兆候を裏付けるものであった。
EXP-0272は、ロータリースクリュー圧縮機内のHFC-134a向け潤滑剤としての唯一無二の特性を提供するものである。この潤滑剤は、ISO100超の様々な粘度等級における可溶性について試験され、前記と同様の仕方で機能することが見いだされている。より高い油濃度と温度におけるHFC-134a存在下での高粘度の機能が、効果的な油戻しを維持しつつ圧縮機における改善された効率の可能性を提供する。」(733頁35行?734頁19行)
(2d)「結論
スクリュー圧縮機の性能は、大半の用途では、CFC-12に比べ、HCFC-134aは、同一若しくはそれを上回るものである。
HFC-134a-潤滑剤の特性は、スクリュー圧縮機と冷却システムの性能を最適化する可能性をもたらす。
HFC-134a は、エコノマイザの作動に極めて適したものである。
HFC-134aスクリュー圧縮機は、概して、HCFC-22スクリュー圧縮機から、レシプロ圧縮機からと同様に市場占有率を得る機会を有する。」(736頁1?8行)
(2e)「

(審決注:標題の「miscibility」は「混和性」である。横軸は油の重量%である。縦軸は温度である。図中の「immiscible」は「非混和」(「miscible」は「混和」)、「clear」は「透明」、「hazed」は「混濁」である。以下の図2及び図3も同じ。)」(737頁、図1)
(2f)「

」(737頁、図2)
(2g)「

」(738頁、図3)

ウ 甲3(日本冷凍空調学会論文集,2001年,p.203-216)には、以下の記載がある。
(3a)「ハイドロフルオロカーボン(HFC)系およびその他の純粋冷媒に関する最新物性情報」(203頁、標題)
(3b)「1994年に,日本冷凍空調学会から「HFCs and HCFCs」と題する熱力学表第1巻^(1))を出版した.当時は1996年1月1日までにCFCの生産および消費を全廃すると約束したモントリオール議定書の要請もあり,代替フロンの物性値情報が切望されていた.・・・
・・・・・・・・・・・・・・・
本論文では,多くの実測値情報が蓄積されているR32,R125,R134a,R143a,そしてR152aの5種類のHFC系冷媒を中心に,その物性値情報に関してまとめる.・・・さらに,最新の材料適合性および潤滑油との相溶性を紹介する.・・・」(203頁左欄2行?右欄3行及び204頁右欄18?26行)
(3c)「4.1 潤滑油との相溶性
HFC系冷媒は分子中に塩素原子をもたないために潤滑油との相溶性が低下することが知られている.従来冷凍機油として広く使用されてきたナフテン系鉱油はHFC系冷媒と相溶性をもたない.相溶性の観点からHFC系冷媒に適合する潤滑油としては,ポリアルキレングリコール(PAG)油(審決注:「アリキレン」と記載されているが「アルキレン」の誤記と認める。),エステル(POEなど)系油,ポリエーテル油,フッ素系油,カーボネート油などの合成油が開発されている^(1-3)).一方,HFC系冷媒との相溶性はないが,潤滑性を重視して,あえてナフテン系鉱油などを用いることを推奨する報告もある^(4)).
冷媒と潤滑油の相溶性に関して溶液論等を駆使して理論的に取り扱うことが試みられているが^(5-11)),これらはいずれも実測値に基づいた半経験的な解析にとどまっている.したがって,HFC系冷媒とそれらに適合するように新たに開発された潤滑油との相溶性を明らかにするためには,HFC系冷媒と潤滑油の個々の組み合わせに対して相挙動を実測する実験的研究に拠らざるを得ないのが現状となっている.
本報で取上げた主要なHFC系冷媒,R32,R125,R134a,R143a,R152aについては,代表的な潤滑油との相溶性に関する一部のデータが冷媒および潤滑油メーカーなどから公表されている^(12-14,21)).その一例^(14))を表4.1.1に示した.ここでは,密封ガラス容器を用い,温度233-363K,油濃度20-80mass%の範囲で測定された5種のHFC系冷媒と4種の潤滑油との相溶性の概要がまとめられている.
HFC系冷媒/潤滑油系の相溶性に関連して,その蒸気圧の組成依存性および溶解度データが詳しく測定され,その実測値が公表されている混合系として,R32/エステル油^(15)),R32/POE^(16)),R134a/PAG^(17)),R134a/POE^(18)),R125/POE^(19))などが挙げられる.さらに,HFC系冷媒/潤滑油系の蒸気圧,密度,熱伝導率,粘性などに関する相関式を中心に調査した最近の報告例^(20))がある.」(207頁右欄下から5行?208頁右欄2行)
(3d)「

(審決注:潤滑油の欄は、上から順に、鉱油であるナフテン系油、合成油であるPAG油、同エステル油、同パーフルオロエーテル油である。「Miscible」は混和、「immiscible」は非混和である。)」(208頁、表4.1.1)
(3e)「4.2 材料適合性
HFC系冷媒を実際の冷凍機およびヒートポンプシステムで使用する際には,機器および装置に用いられる各種材料との適合性が問題となる.考慮すべき代表的な材料として,乾燥剤および高分子材料がある.とくに,高分子材料は多様であり,ゴムのようなエラストマー,各種プラスチック,およびモーター材料などとの適合性が重要となる.しかし,これらの実用上とくに不可欠となるデータは研究論文として公表される例は皆無に近い.したがって,HFC系冷媒の材料適合性は,ある温度および圧力の条件下で各種材料と共存させて相互の影響を直接,調べることが必要になる.ただし,HFC系冷媒とエラストマーおよびプラスチックなどの一般的な各種材料との適合性データについては,冷媒メーカーの技術資料等^(14,21-23))として入手できる.」(208頁右欄3?20行)

エ 甲4(日本冷凍協会論文集,1993年,p.453-460)には、以下の記載がある。表は英文であるが訳文で示す。
(4a)「HFC系の冷媒の実用化に向けての評価」(453頁、標題)
(4b)「冷蔵庫や空調機に使用されているCFC系冷媒の生産規制がモントリオール議定書によって承認された国際相互協定によって実施されている。オゾン層破壊を少なくするため、CFC系冷媒の代替としてHCFC-123、HCFC-22、HFC-134aがある。しかしながら、HCFC系冷媒であるHCFC-123、HCFC-22は、分子中に塩素を含んでいるためODP(オゾン破壊係数)は0ではなく、完全にはオゾン層破壊を防ぐことができない。本研究では、CFC系、HCFC系冷媒の将来的な代替候補で分子中に塩素をまったく含まずオゾン層を破壊しないHFC系冷媒としてHFC-125、HFC-143a、HFC-152a、HFC-32を選び熱力学特性、冷凍機油との相溶性、熱安定性、材料への攻撃性、冷媒性能について基礎データを取得し、実用化のための課題抽出を目的とした。」(453頁左欄2行?454頁左欄2行)
(4c)「表1 HFC系冷媒の熱力学特性^(1))
冷媒 分子式 沸点 臨界温度 臨界圧力
(℃) (℃) (kPa)
HFC-152a CH_(3)CHF_(2) -24.2 113.3 4520
HFC-143a CH_(3)CF_(3) -47.7 73.1 3811
HFC-125 CHF_(2)CF_(3) -48.6 66.3 3631
HFC-32 CH_(2)F_(2) -51.8 78.4 5830
HFC-134a CH_(2)FCF_(3) -26.2 101.15 4065
CFC-12 CCl_(2)F_(2) -29.8 111.80 4125
HCFC-22 CHClF_(2) -40.8 96.15 4988
(審決注:抜粋であり、分子量、オゾン破壊係数(ODP))、地球温暖化係数(GWP)は省略した。)」(454頁)
(4d)「3.1 冷凍機油と冷媒の相溶性
高温では冷凍機油は冷媒と比較的良く溶解するが、低温になると冷媒の種類によっては、冷凍機油と2層分離することがある。冷凍機油と冷媒が2層分離すると、圧縮機起動時に焼き付きを起こしたり、泡立ちによる潤滑不良、異常振動の原因となったりする。また、蒸発器の型式によっては、油戻りが悪くなるなど種々の問題がでてくるので、冷凍機油と冷媒の相溶性は重要視されている。そこで本研究では、CFC系、HCFC系冷媒の将来的な代替候補であるHFC系冷媒と各種冷凍機油の相溶性について試験をおこなった。
供試油は、市販のポリアルキレングリコール油(PAG)、エステル油、パーフルオロエーテル油(PFE)及び、一般にCFC-12、HCFC-22に使用されている鉱油(ナフテン系)の4種を選んだ。表2に、供試油の物理特性を示す。相溶性の評価は、冷媒と冷凍機油をシールドガラスチューブ(13φ×200mm)に充填し、温度を-70℃から臨界温度付近まで変化させる。このとき、シールドガラスチューブ内の冷媒と冷凍機油が2層分離すると白濁するので、この現象を目視確認し、そのときの温度を2層分離温度とする。冷媒と冷凍機油の混合比は20、50、80wt%と変化させた。
従来から使用されている鉱油は、これらのHFC系冷媒と2層分離してしまい、相溶性は認められなかった。図1?3にPAG油、PFE油、エステル油の相溶性試験結果を示す。図中の棒線の下限の温度以下で2層分離が起こる。また高温側は臨界温度付近までは2層分離は認められなかった。HFC-143aはPFEとだけ相溶性が認められた。HFC-32、HFC-152aはPAGとエステル油に溶解した。HFC-125、HFC-134aはどの合成油とも相溶性が認められた。」(454頁右欄2行?455頁左欄20行)
(4e)「表2 供試油の物理特性
鉱油 PAG PFE エステル油
(ナフテン系)
粘度[cSt] 40℃ 55.5 30.8 65 29.3
粘度[cSt]100℃ 5.9 6.3 15 5.0
流動点[℃] -40 -50 -75 <-50
密度[g/cm3]15℃ 0.922 1.019 1.889 0.979
PAG:ポリアルキレン-グリコール
PFE:パーフルオロ-エーテル
」(454頁)
(4f)「

(審決注:横軸は、左から順に「HFC-32」、「HFC-125」、「HFC-143a」、「HFC-134a」、「HFC-152a」である。縦軸は温度である。グラフの各棒はそれぞれ3本の棒からなり、左の白棒が冷凍機油20wt%、中央の黒棒が同50wt%、右の斜線入り棒が同80wt%である。以下の図2及び図3も同じ。)」(455頁、図1)
(4g)「

」(455頁、図2)
(4h)「

」(455頁、図3)
(4i)「3.2 熱安定性
フロン冷媒は単体では化学的に安定であり、CFC-12、HCFC-22共に、鉄触媒存在下で200℃に加熱した場合、1年間の分解率は1%以下である。しかし、冷媒と冷凍機油の混合物が金属触媒存在下で加熱されると、比較的低温で両者は徐々に反応しあう。反応の機構自体は明らかではないが油の着色、スラッジの生成に結びつく。実際の反応は単純なものではなく、冷凍サイクル内に存在する微量な酸素、水分も反応に関与するし、フロン自体の分解による塩酸の生成もある。生成した塩酸は2次的に炭化水素と
反応し、金属の腐食あるいは銅メッキ現象(Copper Plating:油中に溶出した銅がシリンダ、ピストン軸受部などに沈着する現象)の原因ともなる。このような冷媒と冷凍機油の反応の起き易さを評価する方法として熱安定性試験(シールドチューブ試験)が広く採用されている。^(3)) 熱安定性の評価は、供試冷媒(0.5g)、供試油(0.05g)、触媒金属(Fe、Al、Cu:2φ×50mm、供試前にエメリー紙320番研磨)をシールドガラスチューブに充填し、120℃で30日間加熱した後、冷媒の分解度を調べるため、冷媒ガスを純水約15gに吸収させ、水溶液中のフッ素イオンをイオンクロマトグラフで分析した。また、水分の影響も調べるため、水を0.2%添加したサンプルについても同様な試験を行った。・・・試験に使用した油は各冷媒と相溶性のあるものを選んだ。
・・・熱安定性試験結果を示す。供試したHFC系冷媒はCFC-12、HCFC-22と同程度のフッ素イオン生成量を示しており熱安定性の面では実用上、問題のないレベルと考えられる。しかし、金属による分解促進効果は各冷媒ごとに異っており、さらに詳細な研究が必要である。また、水分の影響は今回の試験では認められなかった。」(455頁左欄21行?456頁左欄16行)
(4j)「3.3 材料への攻撃性
材料への攻撃性は冷凍システムの信頼性評価にとって重要な要因である。それゆえに、一般に空調機や冷蔵庫に使用されている樹脂やゴム等の高分子材料への攻撃性について試験を行った。材料への攻撃性は材料を50℃の飽和液冷媒中に2週間浸漬し、その後の材料の重量変化率(膨潤率)及び、大気圧下で冷媒を蒸発させた後の材料の重量変化率(抽出率)で評価した。・・・
・・・試験結果を示す。各冷媒によって材料への攻撃性は異っているが、今回供試したエポキシ系ワニスはCFC-12、HCFC-22に比べてHFC系冷媒の中では比較的強い溶解性を示した。したがって今後、これらのHFC系冷媒の実用化を進めるにあたっては、エポキシ系ワニスの劣化に注意が必要と考えている。」(456頁左欄17行?右欄末行)
(4k)「本予備試験結果から、HFC-125、HFC-143a、HFC-32、HFC-152aのようなオゾン層を破壊しないHFC系冷媒をCFC、HCFC系の代替候補冷媒として検討を進める上でのいくつかの課題が明らかになった。
一般にCFC、HCFC系冷媒に使用されている鉱油はこれらのHFC系冷媒の潤滑油として使用することはできないが、供試油であるPAG、PFE、エステル油のような合成油は相溶性が認められ、潤滑油として期待される。熱安定性はCFC-12、HCFC-22と同程度であり、実用上問題のないレベルとみられる。材料への攻撃性は、エポキシ系ワニスを除く他の高分子材料とはよい適合性を示した。冷媒の性能は、COPが最も高いのはHFC-152aであるが、能力は低い。一方能力が最も高いのはHFC-32であるが、凝縮圧力吐出温度が他の冷媒と比べて高くなり、実用化に向けては対策が必要である。
さらに、冷媒としての可能性を評価するためには毒性や燃焼性についての安全性確認等の試験が必要である。一方、不燃化やシステム性能の面からHFC-32系混合冷媒等の適用についても検討が必要である。」(460頁左欄20行?右欄17行)

オ 甲5(特開平5-85970号公報、発明の名称「冷媒」)には、以下の記載がある。
(5a)「【請求項1】2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペンからなる冷媒。」(2頁、特許請求の範囲)
(5b)「【0002】【従来技術とその問題点】従来、作動流体乃至冷媒としては、クロロフルオロアルカン類、これらの共沸組成物並びにその近辺の組成の組成物が知られている。これらのうち、現在冷凍機用の作動流体としては、CFC11(トリクロロフルオロメタン)、CFC12(ジクロロジフルオロメタン)、CFC114(1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラフルオロエタン),HCFC22(クロロジフルオロメタン)などが主に使用されている。しかしながら、近年、大気中に放出された場合に、これらのクロロフルオロアルカンが、分解するまでに長時間を要するために成層圏まで上昇して、そこで分解生成した塩素ラジカルが成層圏のオゾン層を破壊し、その結果、人類を含む地球上の生態系に重大な悪影響を及ぼすことが指摘されている。従って、オゾン層破壊の可能性の高いこれらクロロフルオロアルカンについては、国際的な取り決めにより、使用及び生産が制限されるに至っている。現在制限の対象となっているクロロフルオロアルカンとしては、上記のR11、R12、R114などがある。
【0003】前記のクロロフルオロアルカンのうちHCFC22は、オゾン破壊係数(以下ODPという)が前記の規制対象化合物に比してかなり低いので(例えば、CFC11の約1/20)、規制の対象とはなっていないが、将来的にはODPがゼロの化合物により代替されることが望ましい。
【0004】空調・冷凍設備の普及に伴い、需要が毎年増大しているこれら冷媒の使用及び生産の制限は、居住環境をはじめとして、食料品の貯蔵・輸送などの点で、現在の社会機構全般に与える影響が大きいので、オゾン破壊問題を生じる危険性の無い或いはその危険性の極めて低い新たな冷媒の開発が緊急の課題となっている。
【0005】上記の様なクロロフルオロアルカンに代替し得る有望な化合物(以下代替候補化合物という)としては、水素原子を含むクロロフルオロアルカンまたはフルオロアルカン、例えば、HCFC21(ジクロロモノフルオロメタン)、HFC23(トリフルオロメタン)、HFC32(ジフルオロメタン)、HCFC124(モノクロロテトラフルオロメタン)、HFC125(ペンタフルオロエタン)、HCFC133a(モノクロロトリフルオロエタン)、HFC134a(テトラフルオロエタン)、HCFC142b(モノクロロジフルオロエタン)、HFC143a(トリフルオロエタン)などが挙げられる。
【0006】しかしながら、これらの代替候補化合物は、単独では、ODP、不燃性ならびにその他の冷媒として要求される各種性能を全て満足するものではない。従って、これらの2種以上を混合物として使用することも考えられる。しかしながら、混合物を冷媒として使用する場合には、単なる混合状態では、熱交換器内で蒸発或いは凝縮という相変化を生ずる際に、組成変化を伴うので、機器の運転上信頼性が保たれ難い。
【0007】また、共沸混合組成物として、CFC12/HFC152a=78.3/26.2重量%のもの(R500)、HCFC22/CFC115=48.8/51.2重量%のもの(R502)、CFC13/HFC23=59.9/40.1重量%のもの(R503)、HFC32/CFC115=48.2/51.8重量%のもの(R504)などが知られているが、これらの冷媒は塩素原子を含んでいるので、今後その使用が制限される方向にある。
【0008】【発明が解決しようとする課題】本発明は、ODPがゼロであり、冷媒としての性能に優れ、機器運転時に相変化に際しての組成変化を実質的に伴わない冷媒を提供することを主な目的とする。」
(5c)「【0011】本発明で使用する2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペンの主な物性は、以下の表1に示す通りである。
表 1
分子量 140
沸点(℃) 13
臨界温度(℃) 152
臨界圧力(kg/cm^(2)・a) 31.9
蒸発潜熱(kcal/kg:0℃) 36.9
オゾン分解能 0
【0012】本発明冷媒には、必要に応じ、安定剤を併用することが出来る。即ち、過酷な使用条件下により高度の安定性が要求される場合には、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、グリシドールなどのエポキシド類;ジメチルホスファイト、ジイソプロピルホスファイト、ジフェニルホスファイトなどのホスファイト類;トリラウリルトリチオフォスファイトなどのチオホスファイト類;トリフェノキシホスフィンサルファイド、トリメチルホスフィンサルファイドなどのホスフィンサルファイド類;ホウ酸、トリエチルボレート、トリフェニルボレート、フェニルボロン酸、ジフェニルボロン酸などのホウ素化合物;2,6-ジ-tert・ブチルパラクレゾールなどのフェノール類;ニトロメタン、ニトロエタンなどのニトロアルカン類;アクリル酸メチル、アクリル酸エチルなどのアクリル酸エステル類;その他ジオキサン、tert-ブタノール、ペンタエリスリトール、パライソプロペニルトルエン;などの安定剤を冷媒重量の0.01?5%程度添加することができる。
【0013】また、本発明の目的乃至効果を損なわない範囲で、本発明冷媒には他の化合物を混合することが出来る。この様な化合物としては、ジメチルエーテル、ペンタフルオロジメチルエーテルなどのエーテル類;パーフルオロエチルアミンなどのアミン類;LPGなどが例示される。」
(5d)「【0014】【発明の効果】本発明で使用する2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペンは、易分解性であり、オゾン層に影響を与える塩素原子を含まないので、ODPはゼロであり、オゾン層の破壊問題を生じる危険性はない。本発明による冷媒は、冷凍能力が高く、成績係数も比較的良好である。例えば、CFC11に比して、冷凍能力において約1.25倍であり、成績係数においては同等であるという総合的に優れた性能を発揮する。従って、ターボ用などの冷媒として現在使用されているCFC11に代替し得る。本発明による冷媒は、単一化合物からなるので、液管理、回収後の再利用などを有利に行ない得る。本発明による冷媒は、高分子化合物に対する溶解性が低いので、既存の冷凍機における材料変更などを行なうことなく、そのまま使用可能である。本発明による冷媒は、PAG(ポリアルキレングリコール)系油、ポリエステル系油などとの相溶性に優れている。本発明による冷媒は、熱安定性に比較的優れている。」
(5e)「【0016】実施例1
本発明による冷媒を使用する1馬力の冷凍機において、凝縮器における冷媒の蒸発温度を5℃とし、凝縮温度を40℃とし、圧縮機入り口の過熱温度を9℃とし、凝縮器出口の過冷却度を5℃として、運転を行なった。冷凍機油としては、ポリアルキレングリコールを使用した。表2に成績係数(COP)、冷凍能力[kcal/m^(3)]および圧縮機ガス吐出温度(℃)を示す。また、表2には、比較としてCFC11についての結果を併せて示す。
表 2
COP 冷凍能力 圧縮機ガス吐出
(kcal/m^(3)) 温度(℃)
本発明 7.1 157 40
(CFC11) 7.3 125 51
表2に示す結果から、CFC11に比して、本発明による冷媒が冷凍能力に特に優れ、且つ成績係数も同等であり、総合的にバランスの取れた特性を具備していることが明らかである。」

(2)甲1に記載された発明
甲1には、特許請求の範囲第1項に「分子式:C_(3)H_(m)F_(n)(但し、m=1?5,n=1?5且つm+n=6)で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱媒体」の発明が記載されている(摘示(1a))。該熱媒体は、「冷凍機、ヒートポンプなどで使用される熱伝達用流体」である(摘示(1b))。上記発明で使用する「代表的な化合物の主な物性」として以下のI?IVの化合物の沸点、臨界温度、臨界圧力が示されている(摘示(1e))。なお、IIの化合物は、Z-異性体とE-異性体があるが、甲1では区別されていない。
I.F_(3)C-CH=CH_(2)(3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン)
II.F_(3)C-CH=CHF(1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン)
III.H_(3)C-CF=CF_(2)(1,1,2-トリフルオロ-1-プロペン)
IV.H_(3)C-CF=CH_(2)(2-モノフルオロ-1-プロペン)
また、「本発明で使用するC_(3)H_(m)F_(n) で示される化合物・・・は、ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている」と記載されている(摘示(1h))。
更に、実施例1?5において、それぞれ上記I?IVの化合物及び
F_(3)C-CF=CH_(2)
(審決注:上記I?IVの化合物と同様に表記すると、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンである。「-1-」は省略しても疑義が生じないから、2,3,3,3-テトラフルオロプロペンと同じである。「-1-」を省略できるのは上記I?IVの化合物も同様であり、以下、適宜省略することがある。)
について、並びに比較例1?3において、それぞれR12、R22及びR502について、COP及び能力が測定され、R22のCOP及び能力と比較されている(摘示(1j)?(1s))。その測定条件は、「1馬力のヒートポンプにおいて、蒸発器における熱媒体の蒸発温度を・・・5℃・・・とし、凝縮器における凝縮温度を50℃とし、過熱度および過冷却度をそれぞれ5℃および3℃として、運転を行なった」である。実施例1及び比較例1?3では蒸発温度「5℃」だけでなく蒸発温度「-10℃,-5℃,5℃および10℃」で測定されて、結果が第3図及び第4図に示され、実施例2?4では上記のR22のCOP及び能力との比(以下「相対COP」及び「相対能力」という。)が、数値で示され、実施例5では「実施例1とほぼ同様の結果が得られた」と記載されている。実施例1における相対COP及び相対能力を、第3図及び第4図の蒸発温度5℃における○の位置の縦軸の目盛から読み取ると、それぞれ「約1.02」及び「約0.7」である。
これらを整理すると、以下のようになる。実施例1、2及び5は冷媒番号を付記した。

熱力学特性
化合物 分子式 沸点 臨界温度 臨界圧力
番号 (℃) (℃) (kg/cm^(2))
実施例1 I CH_(2)=CHCF_(3) -17.0 126 41
実施例2 II CHF=CHCF_(3) -16.0 121 39.1
実施例3 III CF_(2)=CFCH_(3) -18.0 121 40.9
実施例4 IV CH_(2)=CFCH_(3) -24.0 123 45.1
実施例5 CH_(2)=CFCF_(3) ( 記 載 な し )

相対COP及び相対能力(特定サイクル条件下でのR22の値との比)
冷媒番号 分子式 相対COP 相対能力
実施例1 R1243zf CH_(2)=CHCF_(3) 約1.02 約0.7
実施例2 R1234ze CHF=CHCF_(3) 1.01 0.43
実施例3 CF_(2)=CFCH_(3) 1.00 0.44
実施例4 CH_(2)=CFCH_(3) 1.03 0.53
実施例5 R1234ye CH_(2)=CFCF_(3) (実施例1とほぼ同様)
比較例1 R12 CCl_(2)F_(2) 1.02 0.61
比較例2 R22 CHClF_(2) 1.00 1.00
比較例3 R502 CHClF_(2) 及び 0.92 1.03
CHF_(2)CF_(3)

これらの記載を総合すると、甲1には、
「分子式:C_(3)H_(m)F_(n)(ただし、m=1?5,n=1?5かつm+n=6)で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱媒体であって、該有機化合物は3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、1,1,2-トリフルオロ-1-プロペン、2-モノフルオロ-1-プロペン及び2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンに代表されるものである熱媒体と、ヒートポンプ用の熱媒体に用いられる潤滑油とからなる、熱伝達用組成物」
の発明(以下「甲1発明A」という。)が記載されているということができる。
また、特許請求の範囲に記載された発明の実施例に係る発明として、実施例2に、
「分子式:C_(3)H_(m)F_(n)(ただし、m=1?5,n=1?5かつm+n=6)で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物に該当する、1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(R1234ze)からなる、熱媒体」
の発明(以下「甲1発明Z」という。)が記載されているということができる。
また、特許請求の範囲に記載された発明の実施例に係る発明として、実施例5に、
「分子式:C_(3)H_(m)F_(n)(ただし、m=1?5,n=1?5かつm+n=6)で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物に該当する、2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン(R1234ye)からなる、熱媒体」
の発明(以下「甲1発明Y」という。)が記載されているということができる。

(3)甲1発明Aとの対比・判断

ア 本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲1発明Aを対比する。
甲1発明Aにおいて「熱媒体」を代表するものである3,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン、1,1,2-トリフルオロ-1-プロペン、2-モノフルオロ-1-プロペン及び2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンは、いずれも、それぞれ実施例1?5においてCOP及び能力が測定されたものであるから、甲1発明Aは、その実質的な態様として、上記のいずれかの熱媒体を用いる態様を包含している。そして、上記熱媒体の2番目のものはR1234zeであり、その5番目のものはR1234yfであり、いずれも、本件発明1における化学式(II)の化合物の定義に該当する。
甲1発明Aの「ヒートポンプ用の熱媒体に用いられる潤滑油」は、本件発明1の「潤滑剤」に相当する。
甲1発明Aの「熱伝達用組成物」は、本件発明1の「熱移動組成物」に相当する(なお、このような熱移動のための組成物及びその熱移動を担う化合物に関しては、「冷媒」という用語が一般的であるため、以下「冷媒」、「冷媒組成物」、「冷媒化合物」などということがある。)。
そうすると、本件発明1と甲1発明Aは、
「化学式(II)


(式中、各々のRは独立にF,またはHであり、
R’は(CR_(2))_(n)Yであり、
YはCF_(3) であり、
nは0であり、かつ、
不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである)
の化合物である1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン又は2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンと、潤滑剤とを含む熱移動組成物」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点1:
本件発明1は、潤滑剤が「ポリオールエステル及びポリアルキレングリコールから選択される少なくとも1つの潤滑剤」と特定されているのに対し、甲1発明Aにおいては潤滑剤がそのように特定されたものではない点

(イ)相違点の検討

a まず、冷媒化合物に潤滑剤を併用した熱移動組成物とすることは、技術常識である。
甲1においても、「ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている」(摘示(1h))と、潤滑油を併用する態様が、当然の考慮の対象として記載されている。
甲2は、ツインスクリュー圧縮機でR12(CFC系冷媒)の代替冷媒としてR134a(HFC系冷媒)を用いることについて記載した論文であるが、「要約」及び「油の選択」の項目で、合成潤滑剤の低分子量PAG及びエステルはR134aと混和性で、従来使用の鉱物油及び合成炭化水素は非混和であることが記載され、冷媒化合物に潤滑剤を併用する態様が、当然の考慮の対象として記載されている。
CFC系冷媒の代替冷媒としてのHFC系冷媒(R32,R125,R134a,R143a及びR152a)について記載した論文である甲3及び甲4も、同様である。
甲3には、「4.1 潤滑油との相溶性」の項目で、ナフテン系鉱油、PAG油、エステル油及びPFE油との温度233-363K(審決注:-40?90℃)、油濃度20-80mass%で測定された混和性の情報が紹介され、混和性のある範囲が示されており(摘示(3c)(3d))、「4.2 材料適合性」の項目で、冷凍機及びヒートポンプシステムの機器及び装置に用いられるエラストマー及びプラスチックのような高分子材料との適合性データの情報が紹介されている(摘示(3e))。
甲4には、「3.1 冷凍機油と冷媒の相溶性」の項目で、PAG、PFE(パーフルオロエーテル)、エステル油及び鉱油との温度-70℃?臨界温度付近(審決注:摘示(4c)のとおり冷媒化合物ごとに66.3?113.3℃の範囲である。)、冷凍機油の混合比20、50、80wt%での溶解性が測定され、溶解性のある範囲が温度及び濃度ごとにグラフに示されており(摘示(4d)?(4h))、「3.2 熱安定性」の項目で、冷媒と冷凍機油の反応の起き易さを評価する方法として広く採用されている熱安定性試験(シールドチューブ試験)により、冷媒0.5gと冷凍機油0.05gと金属(鉄、アルミニウム、銅:直径2mm、長さ50mm)をシールドガラスチューブに充填し120℃で30日間加熱した後の冷媒の分解度が評価されており(摘示(4i))、「3.3 材料への攻撃性」の項目で、一般に空調機や冷蔵庫に使用されている樹脂やゴム等の高分子材料への攻撃性について、50℃、2週間浸漬した後の材料の膨潤率と抽出率が評価されている(摘示(4j))。そして、PAG、PFE、エステル油のような合成油は相溶性(審決注:溶解性、混和性と同じである。)が認められ、熱安定性はR12、R22と同程度で実用上問題のないレベルで、材料への攻撃性はエポキシ系ワニスを除く他の高分子材料と良い適合性を示したと結論されている(摘示(4k))。
甲5においても、冷媒化合物は2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペン(審決注:CH_(2)=C(CF_(3))_(2)、冷媒番号はR1336である。)であるが、「本発明による冷媒は、PAG(ポリアルキレングリコール)系油、ポリエステル系油などとの相溶性に優れている」(摘示(5d))と、潤滑油を併用する態様が、当然の考慮の対象として記載されている。

b 上記aの技術常識を踏まえると、当業者は、甲1に「ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている」と記載されているのは、甲1の特許請求の範囲に係る発明について、汎用の潤滑油のうちの適当なものを併用して、混和性や材料への浸蝕性などに問題がない冷媒組成物とすることができることを意味していると、理解する。

c そして、次には、汎用の潤滑剤の中から、どのような潤滑剤が適当であるのかが、検討の対象になる。
冷媒組成物のための汎用の潤滑剤は、本件発明1で用いるPOEやPAG以外のものも知られているが、検討にあたっては、まず、(i)最も一般的なものを少数選ぶか、(ii)最も見込みのありそうなものを少数選んで、検討し、適当と判断されなかった場合に、(iii)検討の対象を広げていくのが、通常の手法であると認められる。
この(i)の観点からすると、甲3及び甲4は、CFC系冷媒の代替冷媒としてのHFC系冷媒(R32,R125,R134a,R143a及びR152a)について、潤滑剤は鉱油、PAG、エステル油(甲3には、「エステル(POEなど)系油」との記載がある。)及びPFEの4種を検討しており、この4種を検討の対象とすることは、合理的であるといえる。(ii)の観点では、甲3及び甲4においてHFC系冷媒と混和性がなく見込みがないとされている鉱油を除いたPAG、エステル油及びPFEの3種を検討の対象とするか、又は、甲5において、2-トリフルオロメチル-3,3,3-トリフルオロプロペン(審決注:CH_(2)=C(CF_(3))_(2)、冷媒番号はR1336)はPAGやポリエステル系油(審決注:潤滑剤のポリエステル系油とは、POEのことである。)との相溶性に優れているとされており、このR1336は、甲1発明Aの代表的な冷媒化合物とはヒドロフルオロオレフィンである点で共通するものであるから、このPAGとPOEを検討の対象とすることが考えられる。なお、甲2は、見込みがありそうな潤滑剤の選択について、甲3及び甲4と同様に、PAG及びPOEを示唆するものである。
いずれにしても、これら4種?2種の潤滑剤を検討の対象とし、甲3及び甲4で冷媒化合物と潤滑剤との組成物について検討されている混和性、金属や高分子材料と接触させたときの挙動などを検討し、混和性や材料への浸蝕性などに問題がないか否かを確認することは、当業者が通常行う程度のことであり、何ら困難性はない。

d 上記a?cによれば、甲1発明Aにおいて、潤滑剤としてPOE又はPAGを用いることとして、相違点1に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果について
本件発明1の効果は、本件明細書の記載からみて、上記1(2)で認定した本件発明の課題に対応して、
熱移動組成物であって、
(i)従来技術の塩素を含有する冷媒(審決注:冷媒化合物又は冷媒組成物、後者は「熱移動組成物」に相当する。)におけるオゾン破壊性の欠点を回避し、
(ii)蒸気圧縮サイクルによる加熱及び冷却用途に必要な特性である熱移動特性、化学的安定性、低毒性又は無毒性、不燃性、及び潤滑剤相溶性などを備え、
(iii)従来技術の塩素を含有しない代替冷媒における欠点である潤滑剤に不溶又は非混和であること、可燃性、プラスチックを冒す傾向、毒性などのうちの1つ以上を回避する、
熱移動組成物を、提供したことであると認められる。
しかし、(i)は、冷媒化合物の性質に基づく効果であり、(ii)と(iii)は、冷媒化合物の性質に基づく効果であるか、適当な潤滑剤との組成物にしたことに基づく効果であるところ、冷媒化合物は本件発明1と甲1発明Aとの一致点であるし、甲1には「ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている」と記載され(摘示(1h))、汎用の潤滑油の中に問題のない適当なものがあることが示唆されており、更に甲3?甲5加えて甲2によればPOEやPAGは有力な選択肢であると当業者が認識できるから、このような効果は、甲1発明Aにおいて潤滑油としてPOE又はPAGを用いる場合に、当然に奏される効果であるか、当業者が予測し得る効果であり、格別の効果であるとはいえない。

(エ)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明2について
本件発明2は、本件発明1において、「前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも50%の量で存在する」ことを特定したものである。
しかし、冷媒化合物と潤滑剤を含む冷媒組成物において、潤滑剤の量は所望の潤滑性能が得られる量であるところ、甲3及び甲4に記載されるように、冷媒化合物と潤滑剤からなる冷媒組成物についての潤滑剤との相溶性の試験が、潤滑剤の濃度20?80重量%においてされることからすると、潤滑剤の濃度を20?80重量%の範囲又は20重量%以下の有効最小量?80重量%の範囲とするのは、当業者の想定の範囲である。その場合の冷媒化合物の濃度は、80重量%超?20重量%になる。
そうすると、本件発明2の「前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物」は、冷媒化合物に相当するものであるから、これの量を「重量で少なくとも50%の量」と更に特定することも、当業者の想定の範囲のことであり、当業者が容易に想到できる。
したがって、本件発明2は、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ウ 本件発明3について
本件発明3は、本件発明2において、「前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも70%の量で存在する」ことを特定したものである。
しかし、上記イで検討したように、冷媒組成物についての潤滑剤との相溶性の試験が潤滑剤の濃度20?80重量%(冷媒化合物の濃度80?20重量%)においてされるのが普通のことであることからすると、冷媒化合物に相当する化学式(II)の化合物の濃度をこのように更に特定することも、当業者の想定の範囲のことであり、当業者が容易に想到できる。
したがって、本件発明3は、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

エ 本件発明4について
本件発明4は、本件発明1において、「前記潤滑剤が、前記熱移動組成物に対して重量で30%?50%の量で存在する」ことを特定したものである。
しかし、上記イで検討したように、冷媒組成物についての潤滑剤との相溶性の試験が潤滑剤の濃度20?80重量%においてされるのが通常のことであることからすると、潤滑剤の濃度をこのように更に特定することも、当業者の想定の範囲のことであり、当業者が容易に想到できる。
したがって、本件発明4は、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

オ 本件発明5について
本件発明5は、本件発明1?4において、「前記潤滑剤が、ポリアルキレングリコールを含む」ことを特定したものである。
しかし、上記アで検討したように、甲1発明Aにおいて潤滑剤としてPOE又はPAGを用いることは、当業者が容易に想到し得ることであり、この判断は、潤滑剤としてPOEを用いることと、潤滑剤としてPAGを用いることの、いずれもが、想到容易であることを示したものである。
また、本件発明2?4は当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記イ?エに示したとおりである。
したがって、本件発明5は、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

カ 本件発明6について
本件発明6は、本件発明1?4において、「前記潤滑剤が、ポリオールエステルを含む」ことを特定したものである。
しかし、上記アで検討したように、甲1発明Aにおいて潤滑剤としてPOE又はPAGを用いることは、当業者が容易に想到し得ることであり、この判断は、潤滑剤としてPOEを用いることと、潤滑剤としてPAGを用いることの、いずれもが、想到容易であることを示したものである。
また、本件発明2?4は当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記イ?エに示したとおりである。
したがって、本件発明6は、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

キ 本件発明7について
本件発明7は、本件発明1?6において、「前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)を含む」ことを特定したものである。
しかし、この特定の点は、上記アで検討したとおり、本件発明1と甲1発明Aとの一致点である。
また、本件発明2?6は当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記イ?カに示したとおりである。
したがって、本件発明7は、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

ク 本件発明8について
本件発明8は、本件発明1?6において、「前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む」ことを特定したものである。
しかし、この特定の点は、上記アで検討したとおり、本件発明1と甲1発明Aとの一致点である。
また、本件発明2?6は当業者が容易に発明をすることができたものであることは、上記イ?カに示したとおりである。
したがって、本件発明8は、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)甲1発明Zとの対比・判断
甲1発明Zは、本件発明8と対比する引用発明としては、甲1発明A及び甲1発明Yほどには適していないので、以下、本件発明1?7についての判断を示す。

ア 本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲1発明Zを対比する。
上記(3)ア(ア)で示したとおり、熱移動のための組成物及びその熱移動を担う化合物に関しては、「冷媒」という用語が一般的であり、「冷媒化合物」と「冷媒組成物」を併せて「冷媒」ということにすると、甲1発明Zの「1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン」は「冷媒化合物」であり、本件発明1の「熱移動組成物」は「冷媒組成物」であり、本件発明と甲1発明Zは、
「化学式(II)


(式中、各々のRは独立にF,またはHであり、
R’は(CR_(2))_(n)Yであり、
YはCF_(3) であり、
nは0であり、かつ、
不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである)
の化合物である1,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを用いる冷媒」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点2:
本件発明1は、冷媒が、「熱移動組成物」であって、上記冷媒化合物に加えて「ポリオールエステル及びポリアルキレングリコールから選択される少なくとも1つの潤滑剤を含む」と特定されているのに対し、甲1発明Zにおいてはそのように特定されたものではない点

(イ)相違点の検討
上記(3)ア(イ)で検討したのと同様であり、冷媒化合物に潤滑剤を併用した熱移動組成物とすることは、技術常識であって、甲1?甲5に記載された技術常識を踏まえると、甲1発明Zにおいて、潤滑剤としてPOE又はPAGを用いることとして、相違点2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果について
上記(3)ア(ウ)で検討したのと同様であり、本件発明1の効果は、格別の効果であるとはいえない。

(エ)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明2?7について
上記(3)イ?キで検討したのと同様であり、本件発明2?7は、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(5)甲1発明Yとの対比・判断
甲1発明Yは、本件発明7と対比する引用発明としては、甲1発明A及び甲1発明Zほどには適していないので、以下、本件発明1?6及び8についての判断を示す。

ア 本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲1発明Yを対比する。
上記(3)ア(ア)で示したとおり、熱移動のための組成物及びその熱移動を担う化合物に関しては、「冷媒」という用語が一般的であり、「冷媒化合物」と「冷媒組成物」を併せて「冷媒」ということにすると、甲1発明Yの「2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペン」は「冷媒化合物」であり、本件発明1の「熱移動組成物」は「冷媒組成物」であり、本件発明と甲1発明Yは、
「化学式(II)


(式中、各々のRは独立にF,またはHであり、
R’は(CR_(2))_(n)Yであり、
YはCF_(3) であり、
nは0であり、かつ、
不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである)
の化合物である2,3,3,3-テトラフルオロ-1-プロペンを用いる冷媒」
である点で一致し、以下の点で相違する。
相違点3:
本件発明1は、冷媒が、「熱移動組成物」であって、上記冷媒化合物に加えて「ポリオールエステル及びポリアルキレングリコールから選択される少なくとも1つの潤滑剤を含む」と特定されているのに対し、甲1発明Yにおいてはそのように特定されたものではない点

(イ)相違点の検討
上記(3)ア(イ)で検討したのと同様であり、冷媒化合物に潤滑剤を併用した熱移動組成物とすることは、技術常識であって、甲1?甲5に記載された技術常識を踏まえると、甲1発明Yにおいて、潤滑剤としてPOE又はPAGを用いることとして、相違点3に係る本件発明1の構成を備えたものとすることは、当業者が容易に想到し得ることである。

(ウ)効果について
上記(3)ア(ウ)で検討したのと同様であり、本件発明1の効果は、格別の効果であるとはいえない。

(エ)まとめ
したがって、本件発明1は、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

イ 本件発明2?6及び8について
上記(3)イ?カ、クで検討したのと同様であり、本件発明2?6及び8は、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(6)被請求人の主張について

ア 被請求人は、概略以下の主張をしている。

(i)甲1には、化学式C_(3)H_(m)F_(n) に含まれる化合物のうち、いかなる下位の種類の化合物が好ましいかは記載されておらず、化学式(II)で示される化合物については記載も示唆もされていない。

(ii)甲1の実施例に示されている結果はむしろ当業者を本件発明から遠ざけるものである。甲1のR1234ze及びR1234yfは「代表的な」化合物として表されているに過ぎず、甲1の開示によって好ましいものと考えられるものではない。
a 本件発明の範囲外であるR1243zfに導く。
b R1234yfについては単に「実施例1とほぼ同様の結果が得られた」と記載されているのみなので疑念を抱かざるを得ない。
c 甲1には可燃性等の性質においてR1234yfとR1234zeがR1243zfよりも優れたものであることが記載されていない。

(iii)甲1には、「潤滑剤との相溶性に問題がない」と記載されているに過ぎず、潤滑剤について何ら検討されておらず、特定の潤滑剤(POE及びPAGから選択される少なくとも1つの潤滑剤)に関するいかなる情報も指針もない。しかも、甲1の「相溶性」の概念は混和性及び/又は溶解性とは異なる。
a 甲1は、フッ素化オレフィンを他の成分と混合して冷凍機油(潤滑油)との溶解性を改善できることが記載されていること、図2には混和/溶解しない冷媒と潤滑剤とを使用する場合に必要となる油分離器が含まれていることからすると、分子式C_(3)H_(m)F_(n) の化合物が潤滑剤と混和しない及び/又は溶解しないことを示唆する。
b 甲1発明には、入手可能な種々の潤滑剤から、POE又はPAGを選択すること、これらを化学式(II)で定義されるフッ素化プロペンと組み合わせることが記載も示唆もされていない。

(iv)甲5における「相溶性」は混和性とは別個の性質である。

(v)いかなる先行技術文献にも、化学式(II)の化合物とPOE及びPAGから選択される潤滑剤との組合せが、答弁書に記載した非常に望ましく且つ本質的に異なる特性の全ての組合せをもたらし、熱移動用途において有用且つ有利なものであることは示唆されていない。このことは全く予想外であり、また、予測不可能なことである。

イ 検討
以下に示すように、被請求人の主張はいずれも採用できない。

(ア)(i)の主張について
甲1には、甲1の特許請求の範囲に係る「分子式:C_(3)H_(m)F_(n)(但し、m=1?5、n=1?5且つm+n=6)で示され且つ分子構造中に二重結合を1個有する有機化合物からなる熱媒体」の発明の実施例として、実施例1?5が記載されており、COP及び能力が測定されており、その実施例2は1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1234ze)であり、その実施例5は2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(R1225ye)である。
このように、甲1には、本件化合物に該当するR1234zeとR1234yfについて具体的に記載されているといえるから、被請求人の主張は、失当である。

(イ)(ii)の主張について
甲1の実施例1は3,3,3-トリフルオロプロペン(R1243zf)である。実施例1?5の相対COP及び相対能力を比較すると、相対COPはほぼ同程度であり、相対能力は実施例1は約0.7で、実施例2(R1234ze)、同3、同4が順に0.43、0.44、0.53であるのと比べると大きいが、実施例5(R1234yf)は「実施例1とほぼ同様」なのであるから、当業者が実施例1のR1243zfのみに導かれるということはない。実施例5のR1234yfにも導かれるし、実施例2のR1234zeも能力が多少小さくても熱移動サイクルに使用できない程に小さいのではないから、これにも導かれる。
また、甲1の実施例5には「実施例1とほぼ同様の結果が得られた」と記載されており、これが事実に反するとする根拠はなく、当業者がこの記載に疑念を抱くとはいえない。
そして、甲1に可燃性等の性質が記載されていないからといって、当業者が甲1の実施例1?5に記載された冷媒化合物を検討の対象にしないということはない。

(ウ)(iii)の主張について
当業者は、甲1に「ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性(例えば、潤滑油との相溶性、材料に対する非浸蝕性など)に関しても、問題はないことが確認されている」と記載されているのは、甲1の特許請求の範囲に係る発明について、汎用の潤滑剤のうちの適当なものを使用して、混和性や材料への浸蝕性などに問題がない冷媒組成物とすることができることを意味していると理解すること、その結果、当業者が汎用のPAGやPOEを検討の対象として問題がないか否かを確認することに困難性がないことは、上記(3)ア(イ)で検討したとおりである。ここで、甲1の「相溶性」は、上記(3)ア(イ)で検討した甲3及び甲4に記載されるように、この技術分野における日本語の一般的な用法に従うと、混和性を意味することは明らかである。
また、甲1に「本発明においては、C_(3)H_(m)F_(n) で示される化合物を少なくとも含み、・・・R-22(CHClF_(2))・・・及びR-152(CHF_(2)CH_(3))からなる群から選ばれた少なくとも一種を含む混合物を熱伝達用流体として使用しても良い」(摘示(1h))と記載されているのは、R-22等を任意付加成分として良いことを意味しているに過ぎない。続く段落の記載も「本発明で使用するC_(3)H_(m)F_(n) で示される化合物或いはC_(3)H_(m)F_(n) で示される化合物とR-22・・・およびR-152aの少なくとも一種との混合物は・・・問題はないことが確認されている」と、この理解と整合する。
また、甲1の第2図に油分離器が記載されているが、冷媒化合物のCOP及び能力を測定するのに用いた冷凍サイクルの回路図に油分離器が含まれていることと、試験された冷媒化合物が潤滑剤と混和するか否かは、無関係である。

(エ)(iv)の主張について
甲5における「相溶性」も、上記(ウ)で検討した甲1の「相溶性」と同様、混和性の意味である。
なお、甲5には、「本発明による冷媒は、PAG(ポリアルキレングリコール)系油、ポリエステル系油などとの相溶性に優れている。本発明による冷媒は、熱安定性に比較的優れている」(摘示(5d))と記載されており、ここで、「相溶性」は、上記のとおり混和性、「熱安定性」は、甲4で冷媒化合物と潤滑剤との混合物について試験されている熱安定性、すなわち金属と高温で長期間接触させたときの挙動に関するものであると考えられる。それぞれ、本件明細書の実施例2及び実施例3で試験している内容に対応するものである。

(オ)(v)の主張について
答弁書に記載した非常に望ましく且つ本質的に異なる特性の全ての組合せとは、
「(1)優れた熱移動性能;(2)相溶性、すなわち化学的安定性;(3)低毒性ないし許容できる毒性:(4)低い可燃性ないし許容できる可燃性;(5)許容でき実効性のある冷媒/潤滑剤の混和性;(6)低いないし許容できる地球温暖化係数(Global Warming Potential;GWP);および(7)0に近いオゾン層破壊係数(Ozone Depletion Potential;ODP)が含まれる。」
とされるものである。
しかし、「(1)優れた熱移動性能」については、本件明細書に実験データの記載があり、「(6)低いないし許容できる地球温暖化係数」及び「(7)0に近いオゾン層破壊係数」は、本件化合物の化学構造から当然に理解又は予測し得る特性であるとしても、その余の特性については、上記1のサポート要件の検討に当たって見たとおり、本件明細書に全てが明示的に記載されたものではない。
例えば、上記1(4)クで検討した「潤滑剤相溶性」は上記「(2)相溶性、すなわち化学的安定性」と「(5)許容でき実効性のある冷媒/潤滑剤の混和性」に相当するが、実施例2のR1234zeとR1225yeの混和性試験と、実施例3のR1234zeとR1225yeと本件化合物ではないR1234zfの化学的安定性試験の結果から、R1234yfが、これらとは異なり、熱移動組成物として使用し得ないほど混和性が悪いとか、熱移動組成物として使用し得ないほど化学的安定性が悪いと考える理由がないから、熱移動組成物として使用し得る潤滑剤相溶性(混和性と化学的安定性の両者を含む潤滑剤との適合性)を有すると当業者が認識できる、という程度のことである。
上記1(4)カで検討した「低毒性又は無毒性」は上記「(3)低毒性ないし許容できる毒性」に相当するが、本件明細書に実験データの裏付けがあるのではなく、本件明細書に本件化合物に毒性の問題があることを示唆する記載がないことから、熱移動組成物として使用し得る低毒性又は無毒性を有することを当業者は認識できる、という程度のことである。
上記1(4)キで検討した「不燃性」は上記「(4)低い可燃性ないし許容できる可燃性」に相当するが、本件明細書に実験データの裏付けがあるのではなく、本件明細書に本件化合物に可燃性の問題があることを示唆する記載がないことから、熱移動組成物として使用し得る不燃性を有することを当業者は認識できる、という程度のことである。
一方、甲1には、低毒性及び不燃性に関しては明示の記載はないものの、例えば甲4に「冷媒としての可能性を評価するためには毒性や燃焼性についての安全性確認等の試験が必要である」(摘示(4k))と記載されるように、毒性や燃焼性に問題がないことは、ヒートポンプ用の熱媒体に対して要求される一般的な特性であって、当業者にとって当然の検討事項であり、直ちに確認できる事項である。
そうすると、本件明細書に、上記のような潤滑剤の混和性や化学的安定性について本件化合物を網羅するものでない試験データが示され、低毒性や不燃性について課題の提示と上記のような具体的でない記載又は消極的な記載があるからといって、本件発明が、上記一般的な特性に「問題はないことが確認されている」と甲1に記載される甲1発明A、甲1発明Z又は甲1発明Yと比べて、予測を超える効果を奏するものであるということはできない。

(カ)その他、被請求人は、乙1?乙4を提出してフッ素化オレフィンは望ましくないと考えられていたと主張し、乙12は鉱油の使用を教示しPAGの使用を阻害すると主張し、乙5ラッシュ宣誓供述書、乙7シン宣誓供述書、乙10トーマス宣誓供述書その他の多数の証拠を提出して、本件発明1?8は当業者が容易に発明をすることができたものではない旨主張するが、いずれも採用することはできない。

(7)無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし8は、甲1?甲5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
よって、本件発明1ないし8についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当するから、無効理由1によって無効とすべきものである。

第7 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1ないし8に係る特許は、無効理由1によって無効とすべきものである。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
フッ素置換オレフィンを含有する組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に冷却システムを含む多くの用途に有用な組成物に関し、そのような組成物を利用する方法およびシステムに関する。好適な態様では、本発明は、本発明による少なくとも1つの多フッ素化オレフィンを含有する冷媒組成物に関する。
【0002】
本出願は、2002年10月25日に各々出願された米国特許仮出願第60/421,263号および第60/421,435号に関連する出願であり、それらに対する優先権を主張し、その各々を引用によって本明細書に援用する。また本出願は、同時に出願されている米国特許出願である、「フッ素化アルケン冷媒組成物(Fluorinated Alkene Refrigerant Composition)」と題されたレイモンド・トーマス(Raymond Thomas)による代理人整理番号H0004412(26269)の出願および「フルオロプロペンの製造工程(Process For Producing fluoropropenes)」と題されたシェ・スン・タン(Hsueh Sung Tung)他による代理人整理番号H0003789(26267)の出願の各々に関連する出願であり、その各々を引用によって援用する。
【背景技術】
【0003】
フルオロカーボン系流体は、多くの商業的および工業的用途において広汎に使用されていることが知られている。例えば、フルオロカーボン系流体は、空調、ヒートポンプ、および冷却用途などのシステムにおける作用流体として、多くの場合で用いられている。蒸気圧縮サイクルは、冷却システムにおける冷却または加熱を達成するために、最も一般的に用いられる種類の方法の1つである。蒸気圧縮サイクルには、通常、比較的低圧での吸熱による冷媒の液体相から蒸気相への相変化と、続く比較的低圧かつ低温での除熱による蒸気相から液体相への相変化、比較的高圧への蒸気の圧縮、この比較的高圧かつ高温での除熱による蒸気の液体相への凝縮が含まれ、続いて減圧されてサイクルが再び開始される。
【0004】
冷却の主な目的は、比較的低温で物体または他の流体から温度を除去することであり、ヒートポンプの主な目的は、環境より高い温度の熱を加えることである。
一定のフルオロカーボンは、長年の間、多くの用途において、冷媒など多くの熱交換流体に好適な成分であった。例えば、クロロフルオロメタン誘導体およびクロロフルオロエタン誘導体などのフルオロアルカンは、その化学的および物理的特性の特有の組合せによって、空調およびヒートポンプ用途を含む用途における冷媒として、広範に用いられている。蒸気圧縮システムにて一般的に利用されている冷媒の多くは、単一成分の流体、または共沸混合物である。
【0005】
近年、地球の大気および気候に対する潜在的な損傷についての関心が高まっており、これに関しては、一定の塩素系化合物が特に問題であることが判明している。塩素含有組成物(クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCF)など)を空調および冷却システムにおける冷媒として用いることは、そのような化合物の多くがオゾン破壊性を伴うため不評を招いている。したがって、冷却およびヒートポンプ用途における代替品を提供する、新規なフルオロカーボンおよびハイドロフルオロカーボンの化合物および組成物に対する必要が増大している。例えば、塩素を含有する冷媒を、ハイドロフルオロカーボン(HFC)など、オゾン層を破壊しないであろう、塩素を含有しない冷媒化合物で置き換えることによって、塩素を含有する冷却システムを改造することが望ましい。
【0006】
しかしながら、代用品となり得る任意の冷媒が、最も広範に用いられている流体の多くに存在する特性、特に、優れた熱移動特性、化学的安定性、低毒性または無毒性、不燃性、および潤滑剤相溶性などの特性を備える必要もあることは、一般に重要であると考えられる。
【0007】
出願人らは、多くの用途において潤滑剤の相溶性が特に重要であることを認めるに到った。より詳細には、冷却流体は、大抵の冷却システムで用いられる、圧縮ユニットにおいて利用される潤滑剤と相溶であることが非常に望ましい。残念なことに、HFCを含む塩素を含有しない冷却流体の多くが、慣例的にCFCおよびHFCと共に用いられる種類の潤滑剤、例えば、鉱物油、アルキルベンゼン、またはポリ(アルファ-オレフィン)を含む潤滑剤に、比較的不溶および非混和のうちの少なくとも1つである。圧縮冷却、空調、およびヒートポンプのシステムのうちの少なくとも1つにおいて、冷却流体-潤滑剤の組合せを所望の効率レベルで作用させるためには、広い操作温度範囲に渡って潤滑剤が冷却流体に充分に可溶である必要がある。そのような可溶性によって潤滑剤の粘度が低下し、より容易にシステム中を流れることが可能である。そのような可溶性を欠く場合、潤滑剤は、冷却、空調、またはヒートポンプのシステムの蒸発器の螺旋管や、それらのシステムの他の部分にも滞留する傾向にあり、それによってシステム効率が低下する。
【0008】
使用効率に関しては、冷媒の熱力学的性能すなわちエネルギー効率における損失による、電気エネルギー需要の増大から生じる化石燃料使用量の増大を通じて、環境への2次的な影響力が生じ得ることに留意することが重要である。
【0009】
さらに、CFC冷媒の代用品は、CFC冷媒と共に現在用いられている従来の蒸気圧縮技術に対して大規模な技術変更を行わなくても、有効であることが望ましいと、一般に考えられている。
【0010】
多くの用途において重要なもう1つの特性は可燃性である。すなわち、特に熱移動用途を含む多くの用途では、不燃性の組成物を用いることが重要または必須であると考えられている。したがって多くの場合には、そのような組成物において不燃性の化合物を用いることは有用である。本明細書で用いられる「不燃性」の語は、2002年版の米国試験材料協会(ASTM)規格E-681に従って判定されるように不燃性であると判定される、化合物または組成物を指す。この規格を引用によって本明細書に援用する。残念なことに、他の点では冷媒組成物に望ましく使用され得る多くのHFCが、不燃性ではない。例えば、フルオロアルカンであるジフルオロエタン(HFC-152a)およびフルオロアルケンである1,1,1-トリフルオロプロペン(HFO-1243zf)は、各々可燃性であるため、多くの用途において使用の実現性はない。
【0011】
高分子量のフルオロアルケン、すなわち少なくとも5個の炭素原子を有するフッ素置換アルケンを、冷媒として用いることが提案されている。特許文献1すなわちスムットニー(Smutny)特許は、少なくとも幾つかの不飽和度を有する炭素数5?炭素数8のフッ素化化合物の製造に関する。スムットニー特許では、そのような高分子量のオレフィンは、冷媒、農薬、誘電性流体、熱移動流体、溶剤、および種々の化学反応における中間体として有用であることが判明したものとして同定されている(第1段、第11行?第22行を参照)。
【0012】
スムットニー特許に記載されているフッ素化オレフィンは、熱移動用途において幾らかのレベルの有効性を有し得るが、そのような化合物は一定の欠点も有し得ると考えられる。例えば、それらの化合物のうち幾つかは、基材、特にアクリル樹脂およびABS樹脂などの汎用プラスチックを冒す傾向があり得る。さらに、スムットニー特許に記載されている高分子量のオレフィン化合物は、スムットニー特許で言及されている農薬活性の結果として生じ得るそうした化合物の潜在的な毒性レベルのため、一定の用途には望ましくないこともあり得る。また、そのような化合物は、高すぎる沸点を有するために一定用途の冷媒としては有用でない場合がある。
【0013】
ブロモフルオロメタンおよびブロモクロロフルオロメタンの誘導体、特にブロモトリフルオロメタン(ハロン1301)およびブロモクロロジフルオロメタン(ハロン1211)は、飛行機のキャビンおよびコンピュータ室などの仕切られた領域における消火剤として広範に用いられている。しかしながら、その高いオゾン破壊性のため、種々のハロンの使用は段階的に削減されている。さらに、ハロンは人間が存在する領域で用いられる場合が多いので、適切な代用品も鎮火または消火に必要な濃度で人間に対して安全である必要がある。
【特許文献1】米国特許第4,788,352号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって出願人らは、上述の欠点のうち1つ以上を回避する、蒸気圧縮加熱および冷却のシステムおよび方法を含む多数の用途において有用であり得る組成物、詳細には、熱移動組成物、消火/鎮火組成物、発泡剤、溶剤組成物、および相溶化(compatabilizing)剤の必要を認めるに到った。
【課題を解決するための手段】
【0015】
出願人らは、上述の必要および他の必要が、炭素数3?炭素数4の1つ以上のフルオロアルケン、好適には以下の化学式(I)の化合物を含有する組成物によって満たされることを見出した。
【0016】
【化1】

ここでXは、炭素数2または炭素数3の、不飽和な、置換または非置換のアルキル基であり、各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、zは1?3である。
【0017】
本発明によって、熱移動、フォーム発泡、溶媒和、並びにエアゾール生成用の方法およびシステムを含む、本発明の組成物を利用する方法およびシステムも提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
組成物:
本発明は、3?4個の炭素原子および少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を有する少なくとも1つのフルオロアルケンを含有する組成物に関する。本明細書では簡便のため、本発明のフルオロアルケン化合物が少なくとも1個の水素を含む場合には、それらの化合物をハイドロフルオロオレフィン、すなわち「HFO」と称する時がある。ここで言及されているHFOは2つの炭素-炭素二重結合を有し得ることが想定されるが、現在のところ、そのような化合物は好適であると思われない。
【0019】
上述のように、この組成物は、化学式(I)に従う1つの化合物または複数の化合物を含有する。好適な実施態様では、組成物は以下の化学式(II)の化合物を含有する。
【0020】
【化2】

ここで、各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、R’は(CR_(2))_(n)Yであり、YはCRF_(2)であり、nは0または1である。非常に好適な実施態様では、YはCF_(3)であり、nは0であり、残るRのうち少なくとも1つはFである。
【0021】
出願人らは、上述の化学式(I)および化学式(II)の化合物は一般に有効であり、本発明の冷媒組成物、発泡剤組成物、相溶化剤、および溶剤組成物において有用であると、一般に考える。しかしながら出願人らは、驚くべきことにかつ予想外に、上述の化学式に従う構造を有する化合物のうち一定のものが、他のそうした化合物と比較して非常に望ましい低いレベルの毒性を示すことを見出した。容易に認められ得るように、この発見は冷媒組成物の配合のみならず、上述の化学式を満たす比較的有毒な化合物を含有し得る任意のおよび全ての組成物の配合において、非常に大きな長所および利点となり得る。より詳細には、比較的低い毒性は化学式(II)の化合物、好適には、YはCF_(3)であり、不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである化合物に関連すると、出願人らは考える。また出願人らは、そのような化合物の全ての構造異性体、幾何異性体、および立体異性体は有効であり、低い毒性の利点を有すると考える。
【0022】
非常に好適な実施態様、特に、上述の低い毒性の化合物を含有する実施態様では、nは0である。したがって一定の好適な実施態様では、本発明の組成物は、テトラフルオロプロペン(HFO-1234)、ペンタフルオロプロペン(HFO-1225)、およびそれらの組合せからなる群から選択される1つ以上の化合物を含有する。
【0023】
本発明の化合物が、不飽和な末端炭素が1つ以下のフッ素置換基を有するテトラフルオロプロペンおよびペンタフルオロプロペン化合物、特に、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)、および1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)、およびそれらの各々の任意のまたは全ての立体異性体であることはさらに好適である。出願人らは、マウスおよびラットへの吸入曝露によって評価されるように、そうした化合物が有する急性毒性レベルが非常に低いことを発見した。他方、出願人らは、この組成物と共に用いるのに適した一定の化合物、すなわち末端の不飽和炭素上に1つより多いFを有する化合物、すなわち末端の不飽和炭素上に1つのHも有さない化合物が、比較的高い毒性と関連し得ることを発見した。例えば、出願人らは、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225zc)が、マウスおよびラットへの吸入曝露によって評価されるように、許容可能でない高い毒性を示すことを発見した。
【0024】
本発明の好適な化合物、すなわちHFO-1225およびHFO-1234は既知の材料であり、ケミカル・アブストラクツ(Chemical Abstracts)のデータベースに記載されている。HFO-1225は、例えばシンテックス・ケミカル社(Syntex Chemical Co.)から商業的に入手可能である。さらに、フルオロアルケンの製造については特許文献に一般に記載されている。例えば、炭素数3の種々の飽和および不飽和なハロゲン含有化合物の触媒的な蒸気相フッ素化によるCF_(3)CH=CH_(2)などのフルオロプロペンの製造は、米国特許第2,889,379号明細書、第4,798,818号明細書、および第4,465,786号明細書に記載されている。これらの各々を引用によって本明細書に援用する。米国特許第5,532,419号明細書では、クロロハロフルオロカーボンまたはブロモハロフルオロカーボンおよびHFを用いてフルオロアルケンを製造するための、蒸気相触媒的プロセスが開示されている。これも引用によって本明細書に援用する。欧州特許第974,571号明細書では、1,1,1,3,3-ペンタフルオロプロパン(HFC-245fa)を蒸気相で昇温下クロム系触媒と接触させる、または液相でKOH,NaOH,Ca(OH)_(2),またはMg(OH)_(2)のアルコール溶液と接触させることによる、1,1,1,3-テトラフルオロプロペンの調製が開示されている。これも引用によって本明細書に援用する。さらに、本発明に関する化合物を製造する方法は、同時に出願されている米国特許出願である、「フルオロプロペンの製造工程」と題された、代理人整理番号(H0003789(26267))を有する出願に関連して記載されており、この出願を引用によって本明細書に援用する。
【0025】
本発明の組成物は、幾つかの重要な理由のため有利な特性を有すると思われる。例えば出願人は、少なくとも部分的には数学的モデルに基づき、本発明のフルオロオレフィンが大気圏の化学に対して有意な負の影響を有さず、オゾン破壊に対するその寄与は幾つかの他のハロゲン化された化学種と比較して無視することが可能である、と考える。このように本発明の好適な組成物は、オゾン破壊に対して有意に寄与しないという利点を有する。好適な組成物は、現在用いられているハイドロフルオロアルカンの多くと比較して、地球温暖化に対しても有意に寄与しない。
【0026】
好適には、本発明の組成物の地球温暖化係数(Global Warming Potential)(GWP)は150以下であり、より好適には100以下であり、さらに好適には75以下である。本明細書で用いられる「GWP」は「オゾン破壊の科学評価、2002年、世界気象機関の地球オゾンの研究および観測プロジェクトの報告(The Scientific Assessment of Ozone Depletion,2002,a report of the World Meteorological Association’s Global Ozone Research and Monitoring Project)」、これを引用によって本明細書に援用する、において定義されているように、二酸化炭素のGWPに対して100年の時間範囲を通じて計量される。
【0027】
また、この組成物のオゾン破壊係数(Ozone Depletion Potential)(ODP)は好適には0.05以下であり、より好適には0.02以下であり、さらに好適には、ほぼ0である。本明細書で用いられる「ODP」は「オゾン破壊の科学評価、2002年、世界気象機関の地球オゾンの研究および観測プロジェクトの報告」、これを引用によって本明細書に援用する、で定義されている。
【0028】
熱移動組成物:
本発明の組成物は広い範囲に渡る量で本発明の化合物を含有し得ることが想定されるが、一般には、本発明の冷媒組成物は、化学式(I)およびさらに好適には化学式(II)に従う化合物を組成物に対して重量で少なくとも約50%、さらに好適には少なくとも約70%、含有することが好適である。
【0029】
本発明の組成物は、一定の機能を高める目的または一定の機能を組成物に与える目的で、または幾つかの場合には組成物の費用を減少させるために、他の成分を含有してもよい。例えば、本発明による冷媒組成物、特に蒸気圧縮システムで用いられる冷媒組成物は、一般に組成物の重量の約30%?約50%の量で潤滑剤を含有する。さらに、この組成物は、潤滑剤の相溶性および可溶性のうちの少なくとも1つを補助するために、プロパンなどの相溶化剤を含有してもよい。そのような相溶化剤には、プロパン、ブタン、およびペンタンが含まれ、好適には組成物の重量の約0.5%?約5%の量で存在する。米国特許第6,516,837号明細書に開示されているように、界面活性剤および可溶化剤の組合せも、この組成物に添加されて油の可溶性を補助し得る。この開示を引用によって本明細書に援用する。ハイドロフルオロカーボン(HFC)冷媒と共に冷却機に用いられるポリオールエステル(POE)およびポリアルキレングリコール(PAG)など、一般的に用いられる冷却潤滑剤が、本発明の冷媒組成物と共に用いられてもよい。
【0030】
発泡剤、フォーム、および発泡組成物:
発泡剤も1つ以上のこの組成物を構成し得る。上述のように、本発明の組成物は広い範囲に渡る量で本発明の化合物を含有し得る。しかしながら一般には、本発明による発泡剤として用いるために好適な組成物においては、化学式(I)およびさらに好適には化学式(II)に従う化合物が、組成物に対して重量で少なくとも約5%、さらに好適には重量で少なくとも約15%、存在することが好適である。
【0031】
他の実施態様では、本発明によって、発泡組成物、および好適には、本発明の組成物を用いて調製される、ポリウレタン、ポリイソシアヌレート、および押出成型熱可塑性フォーム組成物が与えられる。そうしたフォームの実施態様では、本発明の組成物の1つ以上が、発泡組成物中に発泡剤またはその一部として含まれるが、好適にはこの発泡組成物には、当業者には公知であるように、適切な条件下で反応および発泡のうちの少なくとも1つを行いフォームすなわちセル状の構造を形成することが可能である、1つ以上の追加の成分が含有される。また本発明は、本発明の組成物を含有する発泡剤を含むポリマーフォーム配合から調製されるフォーム、好適には独立(closed)セルフォームに関する。さらに別の実施態様では、本発明によってポリスチレンおよびポリエチレン(PE)、好適には低密度PEなどの熱可塑性フォームを含む発泡組成物が与えられる。
【0032】
一定の好適な実施態様では、分散剤、セル安定化剤、界面活性剤、および他の添加剤も本発明の発泡剤組成物中に組み込まれ得る。界面活性剤は任意だが好適には添加され、セル安定化剤として働く。幾つかの代表的な材料は、DC-193,B-8404,およびL-5340という名称で販売されており、これらは一般的には米国特許第2,834,748号明細書、第2,917,480号明細書、および第2,846,458号明細書に開示されているように、ポリシロキサン-ポリオキシアルキレン・ブロック共重合体である。これらの各々を引用によって本明細書に援用する。発泡剤混合物用の他の随意の添加材には、トリ(2-クロロエチル)ホスフェート、トリ(2-クロロプロピル)ホスフェート、トリ(2,3-ジブロモプロピル)ホスフェート、トリ(1,3-ジクロロプロピル)ホスフェート、ジアンモニウムホスフェート、種々のハロゲン化芳香族化合物、酸化アンチモン、アルミニウム三水和物、ポリ塩化ビニルなどの燃焼遅延剤が含まれ得る。
【0033】
噴射剤(propellant)組成物:
別の態様では、本発明によって、好適には噴霧可能な組成物である噴射剤組成物など、本発明の組成物を含むまたは本発明の組成物から本質的になる噴射剤組成物が与えられる。本発明の噴射剤組成物は、好適には、噴霧される材料と、本発明による組成物を含む噴射剤、本発明による組成物から本質的になる噴射剤、または本発明による組成物からなる噴射剤とを含む。不活性原料、溶剤、および他の材料も、噴霧可能な混合物に存在し得る。好適には、噴霧可能な組成物はエアゾールである。適切な噴霧される材料には、以下に限定されないが、脱臭剤、香料、ヘアスプレー、清浄剤、および研磨剤などの化粧品材料や、抗喘息薬剤および抗口臭薬剤などの医薬材料も含まれる。
【0034】
方法およびシステム:
本発明の組成物は、冷却、空調、およびヒートポンプシステムにおいて用いられる冷媒など、熱を移動させるための方法およびシステムにおける熱移動流体を含む、多数の方法およびシステムに関して有用である。またこの組成物は、エアゾールを生成するシステムおよび方法における使用にも有利であり、好適にはそのようなシステムおよび方法におけるエアゾール噴射剤を含むか、またはエアゾール噴射剤からなる。フォームを形成する方法と消火および鎮火する方法ともまた、本発明の一定の態様に含まれる。また本発明では、そのような方法およびシステムにおいてこの組成物が溶剤組成物として用いられる一定の態様にて、物品から残留物を除去する方法も提供される。
【0035】
熱移動方法:
好適な熱移動方法は、一般に、本発明の組成物を与えるステップと、組成物へまたは組成物から熱を移動させて組成物の相を変化させるステップとから成る。例えば、この方法では、流体または物品から熱を吸収することによって、好適には、冷却される物体または流体の付近で本発明の冷媒組成物を蒸発させてこの組成物を含有する蒸気を生成することによって、冷却するステップが与えられる。好適にはこの方法には、通常は圧縮機または同様の装置を用いて、比較的高圧で本発明の組成物の蒸気を生成する、冷媒蒸気を圧縮するステップがさらに含まれる。一般に、蒸気を圧縮するステップによって蒸気に熱が加えられ、それによって比較的高圧の蒸気の温度は上昇する。好適には、この方法には、この比較的高温高圧の蒸気から蒸発および圧縮ステップによって加えられた熱の少なくとも一部分を除去するステップが含まれる。除熱ステップには、好適には、蒸気が比較的高圧の状態にあり本発明の組成物を含有する比較的高圧の液体を生成する間に、高温高圧の蒸気を凝縮するステップが含まれる。この比較的高圧の液体は、好適には続いて公称では(nominally)等エンタルピー的に減圧されて、比較的低温低圧な液体が生成する。そのような実施態様では、冷却される物体または流体から移動される熱によって続いて気化されるのは、この温度が低下した冷媒の液体である。
【0036】
本発明の別のプロセスの実施態様では、本発明の組成物は、加熱される液体または物体の付近で組成物を含有する冷媒を凝縮するステップを含む、熱を生成するための方法に用いられる。そのような方法は前述のように、多くの場合、上述の冷却サイクルの逆のサイクルである。
【0037】
フォーム発泡方法:
本発明の一実施態様は、フォーム、好適にはポリウレタンおよびポリイソシアヌレートのフォームを形成する方法に関する。この方法は一般に、当業者には公知であるように、本発明の発泡剤組成物を与えるステップと、発泡剤組成物を発泡組成物に(直接的または間接的に)添加するステップと、フォームすなわちセル状の構造を形成するのに有効な条件の下で発泡組成物を反応させるステップとを含む。「ポリウレタンの化学および技術(Polyurethanes Chemistry and Technology)」(ソーンダーズ(Saunders)およびフリッシュ(Frisch)著、ニューヨーク州ニューヨーク、ジョン・ワイリー・アンド・サンズ(John Wiley and Sons)、1962年、第1巻および第2巻)に記載されている方法など、当業者に公知である方法はいずれも本発明のフォームの実施態様での使用に用いられまたは適合され得る。一般に、そのような好適な方法は、イソシアネートと、ポリオールまたはポリオール混合物と、本発明の組成物のうち1つ以上を含有する発泡剤または発泡剤混合物と、触媒、界面活性剤、および随意で、燃焼遅延剤、着色料、または他の添加剤などの他の材料とを組合わせることによって、ポリウレタンまたはポリイソシアヌレートのフォームを調製するステップを含む。
【0038】
多くの用途においては、ポリウレタンまたはポリイソシアヌレートのフォーム用の成分を予めブレンドされた配合で与えることが簡便である。最も典型的には、フォームの配合は2つの成分に予めブレンドされる。イソシアネートと、随意で一定の界面活性剤および発泡剤とが、一般的に「A」成分と称される第1の成分を構成する。ポリオールまたはポリオール混合物、界面活性剤、触媒、発泡剤、燃焼遅延剤、および他のイソシアネート反応性成分は、一般的に「B」成分と称される第2の成分を構成する。したがって、このA並びにBの成分を小規模の調製においては手混合でおよび好適には機械混合の手法で1つに合わせることによって、ブロック、スラブ、ラミネート、現場注入型パネル(pour-in-place panel)および他の部材、吹付けフォーム、フロス(froth)などを形成するためのポリウレタンまたはポリイソシアヌレートのフォームが容易に調製される。随意で、燃焼遅延剤、着色料、発泡助剤、および他のポリオールなど他の原料を、混合ヘッドすなわち反応部に第3の流分として添加することが可能である。しかしながら最も好適には、上述のようにそれらは全て1つのB成分の中に組み込まれる。
【0039】
本発明の組成物を用いて熱可塑性フォームを製造することも可能である。例えば、硬質フォームを製造する従来技術の手法において、従来技術のポリスチレンおよびポリエチレン配合がこの組成物と組合せられ得る。
【0040】
洗浄方法:
また本発明では、本発明の組成物を物品に適用することによって、製品、部品、構成要素、基板、または任意の他の物品、またはそれらの部分から汚染物質を除去する方法が提供される。簡便のため本明細書では、「物品」の語は、そのような製品、部品、構成要素、基板などの全てを指して用いられ、さらに、それらの任意の表面または部分を指すことが意図されている。さらに「汚染物質」の語は、物品の上に存在する任意の所望されていない材料または物質を、たとえそうした物質が物品上に意図的に配置された場合であっても、指すことが意図されている。例えば半導体デバイスの製造においては、基板上にフォトレジスト材料を堆積してエッチング作業用のマスクを形成し、続いてその基板からそのフォトレジスト材料を除去することが一般的である。本明細書で用いられる「汚染物質」の語は、そうしたフォトレジスト材料を含みかつ包含することが意図されている。
【0041】
本発明の好適な方法は、この組成物を物品に適用するステップを含むが、蒸気脱脂および溶剤洗浄方法は、特に、複雑な部品の用途および除去するのが困難な汚損用途など、一定の用途において特に好適である。好適な蒸気脱脂および溶剤洗浄方法は、好適には室温で、沸騰する溶剤の蒸気に物品を曝露するステップから成る。物体の上で凝縮する蒸気には、比較的清浄な蒸留された溶剤を与えて油脂または他の汚染物質を洗浄除去するという利点が存在する。このように、そうしたプロセスには、この溶剤組成物を物体から最終的に蒸発させると、物体を単に液体の溶剤中で洗浄する場合と比べ、比較的少量の残留物しか残留しないという追加の利点が存在する。
【0042】
除去が困難な汚染物質が物品に含まれる用途においては、本発明の溶剤組成物の温度を雰囲気温度より高く、すなわち、そうした用途において溶剤の洗浄作用を有意に改良するのに有効な任意の他の温度まで上昇させるステップを、この方法が伴うことが好適である。そのようなプロセスは、物品、特に金属部品および金属部品集合体の洗浄を、効率的かつ迅速に行う必要がある大規模な製造ラインにおいても、一般に好適である。
【0043】
好適な実施態様では、本発明の洗浄方法は、昇温下で、およびさらに好適には溶剤のほぼ沸点で、洗浄される物品を液体の溶剤に浸漬するステップを含む。そのような作業では、このステップは好適には目標の汚染物質の有意な量を、さらに好適にはその大部分を、物品から除去する。好適にはこのステップに、先の浸漬するステップにおける液体の溶剤の温度より低い温度、好適にはほぼ雰囲気温度すなわち室温で、物品を溶剤、好適には蒸留されたばかりの溶剤に浸漬するステップが続く。また好適な方法は、好適には、最初に言及された浸漬するステップに伴う高温の/沸騰する溶剤から生じる溶剤蒸気に物品を曝露することによって、この溶剤組成物の比較的高温の蒸気と物品を続いて接触させるステップも含む。これによって、好適には、物品の上で溶剤蒸気が凝縮する結果が得られる。一定の好適な実施態様では、最終のすすぎ洗いの前に、蒸留された溶剤が物品に噴霧され得る。
【0044】
多数の種類および形態の蒸気脱脂装置が、この方法と共に用いることに適合し得ると想定される。そうした装置およびその作業の一例は、シャーリカー(Sherliker)らによる米国特許第3,085,918号明細書に開示されており、この出願を引用によって本明細書に援用する。シャーリカーらに開示されている装置には、溶剤組成物を収容する沸騰溜め(boiling sump)、蒸留された溶剤を収容する洗浄溜め(clean sump)、水分離器、および他の補助装置が含まれる。
【0045】
この洗浄方法には、汚染されている物品を、雰囲気温度すなわち室温条件の下で本発明の流体組成物に浸漬するか、または溶剤を染み込ませた布または同様の物体を用いてそのような条件の下で清拭する、低温洗浄するステップも含まれる。
【0046】
可燃性低減方法:
一定の他の好適な実施態様において、本発明では流体の可燃性を低減する方法が提供され、この方法には、そのような流体に対して本発明の化合物または組成物を添加するステップが含まれる。可燃性である任意の広い範囲の流体の可燃性が、本発明によって低減され得る。例えば、エチレンオキサイド並びに、HFC-152a、1,1,1-トリフルオロエタン(HFC-143a)、ジフルオロメタン(HFC-32)、プロパン、ヘキサン、オクタンなどを含む可燃性ハイドロフルオロカーボンおよびハイドロカーボンなどの流体の可燃性は、本発明によって低減可能である。本発明の目的において、可燃性流体は、ASTM E-681など任意の標準的な従来の試験方法により評価される空気中で燃焼範囲を示す、任意の流体であり得る。
【0047】
任意の適切な量のこの化合物または組成物は、本発明によって添加されて流体の可燃性を低減し得る。当業者には認められるであろうように、添加量は、少なくとも部分的には、対象の流体の可燃性の程度およびその可燃性を低減する所望の程度によるであろう。一定の好適な実施態様では、得られる流体を実質的に不燃性にするのに有効な量の化合物または組成物が、可燃性の流体に添加される。
【0048】
鎮火方法:
さらに本発明では鎮火する方法が提供され、この方法には、本発明の化合物または組成物を含有する流体と炎を接触させるステップが含まれる。この組成物と炎を接触させるために、任意の適切な方法が用いられ得る。例えば本発明の組成物は、炎に噴霧、注入などされてよく、または炎の少なくとも一部分が組成物中に浸漬されてもよい。本明細書の教示に照らして、当業者は、種々の従来技術の鎮火装置および方法を本発明における使用に容易に適合させることが可能であろう。
【0049】
滅菌方法:
特に医療分野で用いられる、多くの物品、装置、および材料は、患者および病院職員の健康および安全など、健康および安全の理由から使用に先立ち滅菌される必要がある。本発明では、滅菌される物品、装置、または材料を本発明の化合物または組成物と接触させるステップを含む、滅菌方法が提供される。そのような方法は、高温または低温の滅菌方法のいずれでもあり得る。一定の実施態様では、高温滅菌には、滅菌される物品、装置、または材料を、好適には実質的に密封されたチャンバ内で、約121.1℃?132.2℃(約250°F?約270°F)の温度で本発明の化合物または組成物を含有する高温の流体に曝露するステップが含まれる。通常は、このプロセスを約2時間未満で完了することが可能である。しかしながら、プラスチック材料および電気部品など幾つかの物品では、このような高温に耐えることが可能でなく、低温滅菌が必要とされる。
【0050】
本発明の低温滅菌には、約37.8℃?93.3℃(約100?約200°F)の温度で本発明の化合物または組成物を用いることが含まれる。本発明の化合物は、例えば、エチレンオキサイド(EO)、ホルムアルデヒド、過酸化水素、二酸化塩素、およびオゾンを含む、他の一般的な化学滅菌剤と組合わされて、本発明の滅菌組成物を形成し得る。
【0051】
好適には、本発明の低温滅菌は実質的に密閉された、好適には気密された、チャンバ内で実施される、少なくとも2段階のプロセスである。第1のステップ(滅菌ステップ)では、洗浄されガス透過性バッグに包装された物品がチャンバ内に配置される。続いて、減圧することおよび場合によっては空気を水蒸気で置換することによって、チャンバから空気が排出される。一定の実施態様では、水蒸気をチャンバ内に注入して、好適には約30%?約70%の範囲に相対湿度を到達させることが好適である。このような湿度によって、所望の相対湿度が到達された後にチャンバ内に導入される滅菌剤の滅菌有効性が最大化され得る。滅菌剤が包装を透過して物品の間隙に届くのに充分な時間の後、滅菌剤および水蒸気がチャンバから排出される。
【0052】
このプロセスの好適な第2のステップ(曝気ステップ)では、物品が曝気されて滅菌剤の残留物が除去される。そのような残留物を除去することは、滅菌剤が有毒な場合には特に重要であるが、実質的に無毒な本発明の化合物が用いられる場合には随意である。典型的な曝気プロセスには、空気洗浄(air wash)、連続曝気(continuous aeration)、および2つの組合せが含まれる。空気洗浄は、バッチ・プロセスであり、通常は、チャンバを比較的短い時間、例えば12分間、脱気するステップと、続いて大気圧またはそれより高い圧力の空気をチャンバ内に導入するステップとを含む。所望通りに滅菌剤が除去されるまで、このサイクルは任意の回数繰り返される。連続曝気は、典型的には、アウトレットをわずかに減圧することにより、チャンバの1つの側にあるインレットを通じて空気を導入するステップと、続いてチャンバの他の側のアウトレットを通じてその空気を吸引するステップとを含む。多くの場合、2つのアプローチは組合わされる。例えば、一般的なアプローチには、空気洗浄を実施するステップと、続いて曝気サイクルを実施するステップとが含まれる。
【実施例】
【0053】
以下の実施例は本発明を例示する目的で与えられており、本発明の範囲を限定しない。
実施例1:
動作係数(COP)は、一般に認められている冷媒性能の尺度であり、特に、冷媒の蒸発または凝縮を含む特定の加熱または冷却サイクルにおける冷媒の相対的な熱力学的効率を表すのに有用である。冷却工学では、この用語は、蒸気を圧縮する際に圧縮機によって加えられるエネルギーに対する実効の冷却の比を示す。冷媒の能力(capacity)は、冷媒が与える冷却または加熱の量を表し、与えられた体積流速の冷媒に対して圧縮機が熱量を供給する性能の尺度を与える。換言すれば、特定の圧縮機が与えられた場合、より能力の高い冷媒がより多くの冷却または加熱出力を伝える。特定の作業条件での冷媒のCOPを推定する一手段は、標準的な冷却サイクル分析手法を用いる冷媒の熱力学的特性に基づく(例えば、アール.シー.ダウニング(R.C.Downing)著、「フルオロカーボン冷却剤ハンドブック(FLUOROCARBON REFRIGERANTS HANDBOOK)」、プレンティス-ホール(Prentice-Hall)、1988年、第3章を参照)。
【0054】
冷却/空調サイクルシステムは、圧縮機のインレットの温度が約10.0℃(約50°F)である公称の等エントロピー的圧縮の下で、凝縮器温度が約65.6℃(約150°F)および蒸発器温度が約-37.2℃(約-35°F)であるように与えられる。本発明の幾つかの組成物のCOPを、COPが1.00、能力値が1.00、および吐出温度(discharge temperature)が約79.4℃(175°F)であるHFC-134aを基準として、一定の範囲の凝縮器温度および蒸発器温度に渡って測定し、以下の表1に報告する。
【0055】
【表1】

この実施例では、この組成物に用いられる一定の好適な化合物は、HFC-134aより優れたエネルギー効率を各々有する(1.00に対して1.02,1.04,および1.13)ことが示されており、この冷媒組成物を用いた圧縮機は、その結果として維持管理の問題の減少を導き得るため有用であるような吐出温度(約79.4℃(175°F)に対して、約70.0℃(158°F)、約73.9℃(165°F)、約68.3℃(155°F))を生じるであろう。
【0056】
実施例2:
種々の冷却潤滑剤とHFO-1225yeおよびHFO-1234zeとの混和性が試験されている。試験された潤滑剤は、鉱物油(炭素数3)、アルキルベンゼン(ゼロール(Zerol)150)、エステル油(モービル(Mobil)EAL22ccおよびソレスト(Solest)120)、ポリアルキレングリコール(PAG)油(グッドレンチ(Goodwrench)冷却油、134aシステム用)、およびポリ(アルファ-オレフィン)油(CP-6005-100)である。各々の冷媒/油の組合せにおいて、3つの組成物、すなわち、潤滑剤が5,20,および50重量パーセントであり、各々の残りが試験される本発明の化合物である組成物が試験されている。
【0057】
潤滑剤組成物は、肉厚(heavy-walled)のガラスチューブ中に配置される。ガラスチューブは脱気され、本発明の冷媒組成物が添加され、その後でガラスチューブが密封される。続いてガラスチューブは空気浴環境の(air bath environmental)チャンバ内に置かれ、その温度が約-50℃?70℃に変化される。ほぼ10℃毎に、1つ以上の液体相が存在するか否か、ガラスチューブの内容物の目視での観察が行われる。1つより多い液体相が観察された場合、混合物は非混和性であると報告される。観察された液体相が1つのみの場合、混合物は混和性であると報告される。2つの液体相が観察されたが、液体相のうち1つは非常に小さな体積を占めている場合、混合物は部分的に混和性であると報告される。
【0058】
ポリアルキレングリコール油およびエステル油の潤滑剤は、全温度範囲に渡り全ての試験比率で混和性と判定されたが、ポリアルキレングリコール油とHFO-1225yeとの混合物は例外であり、この冷媒混合物は、-50℃?-30℃の温度範囲に渡って非混和性であり、-20℃?50℃の温度範囲に渡って部分的に混和性であることが見出された。60℃においては、冷媒に対して50重量%濃度のPAGでは、冷媒/PAG混合物は混和性であった。70℃では、冷媒に対して5重量%?50重量%の潤滑剤は混和性であった。
【0059】
実施例3:
冷却および空調システムに用いられる金属との接触時の、本発明の冷媒化合物および組成物とPAG潤滑油との相溶性が、多くの冷却および空調用途で見出されるより充分に過酷な条件である350°Fで試験されている。
【0060】
アルミニウム片、銅片、および鋼片が、肉厚のガラスチューブに加えられる。2グラムの油がガラスチューブに添加される。続いてガラスチューブは脱気されて、1グラムの冷媒が添加される。ガラスチューブは350°Fのオーブン中に1週間置かれ、目視で観察される。曝露期間が終わると、ガラスチューブが取り出される。
【0061】
この処置は、以下の油および本発明の化合物の組合せに対してなされた。
a)HFC-1234zeおよびGMグッドレンチPAG油
b)HFC-1243zfおよびGMグッドレンチ油PAG油
c)HFC-1234zeおよびMOPAR-56PAG油
d)HFC-1243zfおよびMOPAR-56PAG油
e)HFC-1225yeおよびMOPAR-56PAG油
全ての場合で、ガラスチューブの内容物の外観の変化は最小である。このことは、本発明の冷媒化合物および組成物が、冷却および空調システムに見出されるアルミニウム、鋼、および銅との接触時、および、それらの種類のシステムにてそのような組成物に含まれるまたはそのような組成物と共に用いられる可能性のある種類の潤滑油との接触時に、安定であることを示している。
【0062】
比較例:
アルミニウム片、銅片、および鋼片が、鉱物油およびCFC-12と共に肉厚のガラスチューブに加えられ、実施例3でのように、350°Fで1週間加熱される。曝露期間が終わるとガラスチューブが取り出され、目視で観察される。液体の内容物が黒く変色しているのが観察され、このことはガラスチューブの内容物が激しく分解している事を示している。
【0063】
CFC-12および鉱物油の組合せは、これまで多くの冷媒システムおよび方法で選択されている。したがって、本発明の冷媒化合物および組成物は、広範に用いられている従来技術の冷媒-潤滑油の組合せよりも有意に優れた、一般的に用いられる多くの潤滑油に対する安定性を有する。
本発明は以下の態様を含む。
[1] (a)Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、Rは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化3】

の少なくとも1つのフルオロアルケン、を含有する熱移動組成物であって、
約150以下の地球温暖化係数(GWP)を有する、熱移動組成物。
[2] 前記少なくとも1つのフルオロアルケンは、
各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、
R’は(CR_(2))_(n)Yであり、
YはCRF_(2)であり、かつ、
nは0または1である、化学式(II)
【化4】

の化合物である、1に記載の熱移動組成物。
[3] YはCF_(3)である2に記載の熱移動組成物。
[4] 前記不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはFでない3に記載の熱移動組成物。
[5] 前記不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHである4に記載の熱移動組成物。
[6] nは0である2に記載の熱移動組成物。
[7] YはCF_(3)でありかつnは0である2に記載の熱移動組成物。
[8] 前記少なくとも1つのフルオロアルケンは少なくとも1つのテトラフルオロプロペン(HFO-1234)を含む1に記載の熱移動組成物。
[9] 前記少なくとも1つのフルオロアルケンは少なくとも1つのペンタフルオロプロペン(HFO-1225)をさらに含む8に記載の熱移動組成物。
[10] 前記少なくとも1つのフルオロアルケンは少なくとも1つのペンタフルオロプロペン(HFO-1225)をさらに含む1に記載の熱移動組成物。
[11] 前記少なくとも1つのテトラフルオロプロペン(HFO-1234)は、前記不飽和な末端炭素が1つ以下のF置換基を有する少なくとも1つの化合物を含む、8に記載の熱移動組成物。
[12] 前記少なくとも1つのテトラフルオロプロペン(HFO-1234)は、前記不飽和な末端炭素が1つ以下のF置換基を有する化合物から本質的になる、11に記載の熱移動組成物。
[13] 前記少なくとも1つのペンタフルオロプロペン(HFO-1225)は、前記不飽和な末端炭素が1つ以下のF置換基を有する少なくとも1つの化合物を含む、10に記載の熱移動組成物。
[14] 前記少なくとも1つのペンタフルオロプロペン(HFO-1225)は、前記不飽和な末端炭素が1つ以下のF置換基を有する化合物から本質的になる、13に記載の熱移動組成物。
[15] Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化5】

のフルオロアルケンに、相変化を起こすステップから成る、流体もしくは物体へまたは流体もしくは物体から熱を移動させる方法。
[16] 前記フルオロアルケンは1つ以下のF置換基を有する不飽和な末端炭素を含む15に記載の方法。
[17] zは3である16に記載の方法。
[18] 前記不飽和な末端炭素上の置換基の少なくとも1つはFでない17に記載の方法。
[19] 前記不飽和な末端炭素上の置換基の少なくとも1つはHである18に記載の方法。
[20] Xは炭素数2のアルキル基である16に記載の方法。
[21] YはCF_(3)でありかつXは炭素数2のアルキル基である16に記載の方法。
[22] ポリオールと、
発泡剤であって、Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、Rは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化6】

の少なくとも1つのフルオロアルケンを含有する、発泡剤、とを含む、発泡組成物。
[23] 前記発泡剤は約150以下の地球温暖化係数(GWP)を有する22に記載の発泡組成物。
[24] 前記発泡剤は約0.05以下のオゾン破壊係数(ODP)を有する22に記載の発泡組成物。
[25] 前記フルオロアルケンは1つ以下のF置換基を有する不飽和な末端炭素を含む22に記載の発泡組成物。
[26] 前記フルオロアルケンは不飽和な末端炭素を含み、前記不飽和な末端炭素上の置換基の少なくとも1つはHである、22に記載の発泡組成物。
[27] Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化7】

の少なくとも1つのフルオロアルケンを含有する発泡剤を含むポリマーフォーム配合を含む、独立セルフォーム。
[28] ポリオールと、
発泡剤であって、Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化8】

の少なくとも1つのフルオロアルケンを含有する、発泡剤、とを含む、フォーム予備混合組成物。
[29] Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化9】

の少なくとも1つのフルオロアルケンを含有する発泡剤を、発泡組成物に添加するステップから成る、フォームを形成する方法。
[30] 前記フルオロアルケンは1つ以下のF置換基を有する不飽和な末端炭素を含む29に記載の方法。
[31] Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、Rは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化10】

の少なくとも1つのフルオロアルケンを含有する洗浄組成物であって、
前記熱移動組成物は約150以下の地球温暖化係数(GWP)を有する、洗浄組成物。
[32] 前記GWPは約100以下である31に記載の洗浄組成物。
[33] 約0.05以下のオゾン破壊係数(ODP)を有する31に記載の洗浄組成物。
[34] 前記フルオロアルケンは1つ以下のF置換基を有する不飽和な末端炭素を含む31に記載の洗浄組成物。
[35] 前記フルオロアルケンは不飽和な末端炭素を含み、前記不飽和な末端炭素上の置換基の少なくとも1つはHである31に記載の洗浄組成物。
[36] 物品から汚染物質を洗浄する方法であって、
Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化11】

の少なくとも1つのフルオロアルケンを含有する組成物と前記物品を接触させるステップから成る、方法。
[37] 前記フルオロアルケンは1つ以下のF置換基を有する不飽和な末端炭素を含む36に記載の方法。
[38] Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、Rは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化12】

の少なくとも1つのフルオロアルケン、を含有する鎮火組成物であり、
約150以下の地球温暖化係数(GWP)を有する、鎮火組成物。
[39] 前記GWPは約100以下である38に記載の鎮火組成物。
[40] 約0.05以下のオゾン破壊係数(ODP)を有する38に記載の鎮火組成物。
[41] 前記フルオロアルケンは1つ以下のF置換基を有する不飽和な末端炭素を含む38に記載の鎮火組成物。
[42] 前記フルオロアルケンは不飽和な末端炭素を含み、前記不飽和な末端炭素上の置換基の少なくとも1つはHである38に記載の鎮火組成物。
[43] Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、Rは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化13】

の少なくとも1つのフルオロアルケンを、炎の少なくとも一部分に対してまたは炎の燃料源に対して適用するステップから成る、鎮火する方法。
[44] 前記フルオロアルケンは1つ以下のF置換基を有する不飽和な末端炭素を含む43に記載の方法。
[45] 熱移動流体および潤滑剤の相溶性を改良する相溶化(compatibalizing)組成物であって、
Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、Rは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化14】

の少なくとも1つのフルオロアルケンを含有し、
約150以下の地球温暖化係数(GWP)を有する、相溶化組成物。
[46] 前記GWPは約100以下である45に記載の相溶化組成物。
[47] 約0.05以下のオゾン破壊係数(ODP)を有する45に記載の相溶化組成物。
[48] 前記フルオロアルケンは1つ以下のF置換基を有する不飽和な末端炭素を含む45に記載の相溶化組成物。
[49] 前記フルオロアルケンは不飽和な末端炭素を含み、前記不飽和な末端炭素上の置換基の少なくとも1つはHである45に記載の相溶化組成物。
[50] 物品を滅菌する方法であって、
Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、Rは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化15】

の少なくとも1つのフルオロアルケンを含有する組成物と前記物品を接触させるステップから成る、方法。
[51] 前記フルオロアルケンは1つ以下のF置換基を有する不飽和な末端炭素を含む50に記載の方法。
[52] 可燃性組成物の可燃性を低減する方法であって、
Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、Rは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化16】

の少なくとも1つのフルオロアルケンを、前記可燃性組成物の前記可燃性を実質的に低減するのに有効な量で前記可燃性組成物に添加するステップから成る、方法。
[53] 前記フルオロアルケンは1つ以下のF置換基を有する不飽和な末端炭素を含む52に記載の方法。
[54] (a)Xは炭素数2または炭素数3の不飽和な置換または非置換のアルキル基であり、各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、かつzは1?3である、化学式(I)
【化17】

の少なくとも1つのフルオロアルケンと、
(b) 潤滑剤、相溶化剤、界面活性剤、可溶化剤、分散剤、セル安定化剤、化粧品、研磨剤、薬剤、洗浄剤、燃焼遅延剤、着色料、化学滅菌剤、安定剤、ポリオール、ポリオール予備混合成分、およびそれらの2つ以上の組合せからなる群から選択される少なくとも1つの補助剤、とを含有する、組成物。
[55] 約150以下の地球温暖化係数(GWP)を有する54に記載の組成物。
[56] 前記少なくとも1つのフルオロアルケンは、
各々のRは独立にCl,F,Br,I,またはHであり、
R’は(CR_(2))_(n)Yであり、
YはCRF_(2)であり、かつ、
nは0または1である、化学式(II)
【化18】

の化合物である55に記載の組成物。
[57] YはCF_(3)である56に記載の組成物。
[58] 不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはFでない56に記載の組成物。
[59] 不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHである56に記載の組成物。
[60] 前記補助剤は少なくとも1つの潤滑剤を含有する54に記載の組成物を含む熱移動組成物。
[61] 前記補助剤は少なくとも1つの相溶化剤を含有する54に記載の組成物を含む熱移動組成物。
[62] 化学式(I)の前記化合物は重量で少なくとも約50%の量で存在し、前記潤滑剤は重量で少なくとも約30%の量で存在する、61に記載の熱移動組成物。
[63] 前記補助剤は少なくとも1つのセル安定化剤を含有する54に記載の組成物を含む発泡剤。
[64] 化学式(I)の前記化合物が重量で約30%?約50%の量で存在する54に記載の組成物を含む発泡剤。
[65] 前記補助剤は少なくとも1つの化学滅菌剤を含有する54に記載の組成物を含む滅菌組成物。
[66] 実質的に急性毒性を有さない54に記載の組成物。
[67] 化学式(I)の前記化合物は、前記フルオロアルケンが1つ以下のF置換基を有する不飽和な末端炭素を含む1つ以上の化合物から本質的になる、低い急性毒性を有する54に記載の組成物。
[68] 化学式(I)の前記化合物は、前記フルオロアルケンが不飽和な末端炭素を含み前記不飽和な末端炭素上の置換基の少なくとも1つはHである1つ以上の化合物から本質的になる、低い急性毒性を有する54に記載の組成物。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(II)
【化1】

(式中、各々のRは独立にF,またはHであり、
R’は(CR_(2))_(n)Yであり、
YはCF_(3)であり、
nは0であり、かつ、
不飽和な末端炭素上のRの少なくとも1つはHであり、残るRのうち少なくとも1つはFである)
の少なくとも1つの化合物と、ポリオールエステル及びポリアルキレングリコールから選択される少なくとも1つの潤滑剤とを含む熱移動組成物。
【請求項2】
前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも50%の量で存在する、請求項1記載の熱移動組成物。
【請求項3】
前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、前記熱移動組成物に対して重量で少なくとも70%の量で存在する、請求項2記載の熱移動組成物。
【請求項4】
前記潤滑剤が、前記熱移動組成物に対して重量で30%?50%の量で存在する、請求項1記載の熱移動組成物。
【請求項5】
前記潤滑剤が、ポリアルキレングリコールを含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の熱移動組成物。
【請求項6】
前記潤滑剤が、ポリオールエステルを含む、請求項1?4のいずれか1項に記載の熱移動組成物。
【請求項7】
前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234ze)を含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の熱移動組成物。
【請求項8】
前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(HFO-1234yf)を含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の熱移動組成物。
【請求項9】
前記化学式(II)の少なくとも1つの化合物が、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(HFO-1225ye)を含む、請求項1?6のいずれか1項に記載の熱移動組成物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-02-26 
結審通知日 2013-03-04 
審決日 2013-03-19 
出願番号 特願2004-547148(P2004-547148)
審決分類 P 1 123・ 852- ZA (C09K)
P 1 123・ 537- ZA (C09K)
P 1 123・ 121- ZA (C09K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 小石 真弓  
特許庁審判長 中田 とし子
特許庁審判官 橋本 栄和
小出 直也
登録日 2011-03-11 
登録番号 特許第4699758号(P4699758)
発明の名称 フッ素置換オレフィンを含有する組成物  
代理人 牧野 利秋  
代理人 小野 新次郎  
代理人 特許業務法人三枝国際特許事務所  
代理人 小野 新次郎  
代理人 沖本 一暁  
代理人 松田 豊治  
代理人 松田 豊治  
代理人 沖本 一暁  
代理人 牧野 利秋  
代理人 末吉 剛  
代理人 末吉 剛  
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