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審決分類 審判 全部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  E05B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  E05B
審判 全部無効 特29条の2  E05B
審判 全部無効 2項進歩性  E05B
管理番号 1301803
審判番号 無効2011-800253  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2011-12-08 
確定日 2015-04-21 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3559501号発明「パソコン等の器具の盗難防止用連結具」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3559501号の経緯は以下のとおりである。
平成12年 5月12日 出願
平成16年 5月28日 特許の設定登録
平成23年 1月12日 判定
平成23年12月 8日(差出日) 本件審判請求
平成24年 3月 8日 答弁書及び訂正請求書(被請求人)
平成24年 4月23日 弁駁書(請求人)
平成24年 5月 8日 補正許否の決定(弁駁書による請求理由の補正
を許可する)
平成24年 6月 8日 答弁書(第2回)(被請求人)
平成24年 6月29日 審理事項通知書
平成24年 8月21日 口頭審理陳述要領書(請求人)、及び口頭審理
陳述要領書(被請求人)
平成24年 9月 5日 口頭審理
平成24年10月10日 上申書(請求人)
平成24年10月19日 上申書(被請求人)
平成24年11月12日 上申書(請求人)
平成24年11月26日 審理終結通知


第2 訂正の適否について
1.訂正請求の内容
平成24年3月8日付け訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正」という。)は、特許第3559501号の特許明細書(以下、「特許明細書」という。)を、訂正請求書に添付した訂正明細書(以下、「訂正明細書」という。)のとおりに訂正することを求めるものであって、その訂正の内容は次のとおりである。

(1)訂正事項1
請求項1に「差込片(24)の突出設方向」とあるのを、「差込片(24)の突出方向」と訂正する。
(2)訂正事項2
請求項1に「差込片(24)と重なり、」とあるのを、「差込片(24)を挟んで重なり、」と訂正する。
(3)訂正事項3
請求項1に「突設された回止め片(44)」とあるのを「スライド板(42)の先端に突設された一対の回止め片(44)(44)」と訂正する。
(4)訂正事項4
請求項2に「スライド板(42)と、」とあるのを、「コ字状のスライド板(42)と、」と訂正する。
(5)訂正事項5
請求項2に「差込片(24)と重なり、」とあるのを、「差込片(24)を挟んで重なり、」と訂正する。
(6)訂正事項6
請求項2に「突設された回止め片(44)」とあるのを「スライド板(42)の先端に突設された一対の回止め片(44)(44)」と訂正する。
(7)訂正事項7
請求項5に「係止部(28)(48)は、」とあるのを、「スライド板(42)はコ字状であって、主プレート(20)がスライド可能に嵌まる凹部空間(59)を形成し、係止部(28)(48)は、」と訂正する。
(8)訂正事項8
明細書段落【0018】に「その儘。」とあるのを「その儘、」と訂正する。

2.訂正の適否についての判断
次に訂正の適否を検討する。

(1)訂正事項1について
請求項1に関する訂正事項1について、訂正前の「差込片(24)の突出設方向」という表現は、審査段階における平成16年3月15日付けの手続補正により、請求項1等に複数あった「差込片(24)の突設方向」を、出願当初の明細書の段落【0006】等にあった「差込片(24)の突出方向」に変更する補正を行った際に、訂正事項1の箇所のみを「差込片(24)の突出設方向」と補正してしまったものであり、この「差込片(24)の突出設方向」が「差込片(24)の突出方向」の誤記であることは、明らかである。
したがって、訂正事項1は、特許法第134条の2第1項但し書き第2号の誤記の訂正を目的とするものに該当し、また、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲においてなされたものである。

(2)訂正事項2,3について
請求項1に関する訂正事項2,3は、訂正前の回止め片について、スライド板(42)の先端に突設された一対の回止め片(44)(44)である限定(訂正事項3)と、当該一対の回止め片(44)(44)が差込片(24)を挟んで重なる旨の限定(訂正事項2)を付したものであるところ、これらは、特許法第134条の2第1項但し書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許明細書の段落【0014】の記載「補助プレート(40)は、図2、図3(b)及び図5(a)(b)に示すように、コ字状に折り曲げられ、間に主プレート(20)が嵌まる凹部空間を形成しているスライド板(42)と」、同じく段落【0015】の記載「回止め片(44)(44)は、主プレート(20)の差込片(24)と同一垂直面内にあって、重なり可能に形成されており」、同じく段落【0015】の記載「回止め片(44)(44)を、図示の如くスライド板(42)の上下両側に形成し」、及び、図4(b)、図5(b)、図8には、回止め片(44)(44)が、差込片(24)を上下から挟んで重なっている状態が描かれていることから、一対の回止め片(44)(44)が、ベース板(22)を挟んで両側に重なっていることは明らかである。
段落【0010】の記載「該ベース板(22)の先端に突設された差込片(24)と、」によれば、差込片(24)はベース板(22)の先端に突設されているから、回止め片(44)(44)は差込片(24)を挟んで重なることは、明らかである。
段落【0015】の記載「回止め片(44)(44)を、図示の如くスライド板(42)の上下両側に形成し」により、回止め片(44)(44)が、コ字状の補助プレート(40)の上下のスライド板(42)の各々先端に形成され、対になっていることは明らかである。さらに、同じく段落【0015】「一方の回止め片(44)の外表面から他方の回止め片(44)の外表面までの距離をスリット(82)の長さよりも僅かに短くし、」の記載から、回止め片が一対であることは、明細書の開示事項である。また、図2、図5(a)(b)には、上下の各スライド板(42)には、先端に1本の回止め片(44)が突出した状況が描かれている。
したがって、訂正事項2,3の技術事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載した範囲においてなされたものである。

(3)訂正事項4について
請求項2に関する訂正事項4は、訂正前の「主プレート(20)に対して、前記主プレート(20)の差込片(24)の突出方向に沿ってスライド可能に係合したスライド板(42)」について、「コ字状」であることを限定するものであり、これは、特許法第134条の2第1項但し書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許明細書の段落【0014】には「補助プレート(40)は、図2,図3(b)及び図5(a)(b)に示すように、コ字状に折り曲げられ、間に主プレート(20)が嵌まる凹部空間を形成しているスライド板(42)」と記載され、また、図2,図5(a)(b),図6,図7,図8に示す補助プレート(40)の形状がコ字状に描かれている。
したがって、訂正事項4の技術事項は、願書に添付した明細書又は図面に記載した範囲においてなされたものである。

(4)訂正事項5,6について
請求項2に関する訂正事項5,6は、請求項1に関する訂正事項2,3と同じ限定であり、上記(2)で検討したのと同じく、訂正事項5,6は、特許法第134条の2第1項但し書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、その技術内容は、願書に添付した明細書又は図面に記載した範囲においてなされたものである。

(5)訂正事項7について
請求項5に係る訂正事項7は、訂正前の「スライド板(42)」について、「スライド板(42)はコ字状であって、主プレート(20)がスライド可能に嵌まる凹部空間(59)を形成」する旨の限定を付すものであり、これは、特許法第134条の2第1項但し書き第1号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、特許明細書の段落【0014】には「補助プレート(40)は、図2,図3(b)及び図5(a)(b)に示すように、コ字状に折り曲げられ、間に主プレート(20)が嵌まる凹部空間を形成しているスライド板(42)」と記載されており、訂正事項7は、願書に添付した明細書又は図面に記載した範囲においてなされたものである。

(6)訂正事項8
特許明細書の段落【0018】の「この状態で、抜止め片(26)をスリット(82)に位置合わせし、その儘。抜止め片(26)及び差込片(24)をスリット(82)に挿入する。」(願書に最初に添付された明細書の段落【0018】でも同じ記載である。)において、「その儘。」は、文章の関連から意味をなすには、「その儘、」の誤記であることは自明であるから、訂正事項8は、特許法第134条の2第1項但し書き第2号の誤記の訂正に該当し、また、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した範囲においてなされたものである。

(7)また、訂正事項1?8は、いずれも、実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものではない。
なお、訂正事項1?8は、請求項1,2,5に関係するが、そのうち、請求項1,2についての訂正事項1?6は、請求項2を引用する請求項3,請求項1?3のいずれかを引用する請求項4にも影響を与えるものであるから、請求項3,4も、実質的に訂正が請求されている。そして、請求項1?5は、本件無効審判が対象とする請求項であるから、訂正後の請求項1?5について、独立特許要件の判断は要せず、無効理由の存否の問題として以下「第7」で検討する。

3.訂正の適否についてのまとめ
したがって、訂正事項1?8は、特許法第134条の2第1項ただし書きに適合し、かつ、同条第5項において準用する同法第126条第3?5項の規定に適合するから、本件訂正を認める。


第3 本件発明
本件訂正は認められるので、訂正後の請求項1?5は、訂正明細書の特許請求の範囲の請求項1?5に記載された次のとおりものである。
また、以下では、訂正後の請求項1,2,5に係る発明を、順に「訂正後発明1」「訂正後発明2」「訂正後発明3」ともいう。

「【請求項1】 パソコン(80)等の器具の本体ケーシング(84)に開設された盗難防止用のスリット(82)に挿入される盗難防止用連結具であって、
主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され、
主プレート(20)は、ベース板(22)と、該ベース板(22)の先端に突設した差込片(24)と、該差込片(24)の先端に側方へ向けて突設された抜止め片(26)とを具え、
補助プレート(40)は、主プレート(20)に対して、前記主プレート(20)の差込片(24)の突出方向に沿ってスライド可能に係合したスライド板(42)と、該スライド板(42)を差込片(24)の突出方向にスライドさせたときに、差込片(24)を挟んで重なり、逆向きにスライドさせたときに、差込片(24)との重なりが外れるようにスライド板(42)の先端に突設された一対の回止め片(44)(44)とを具え、
主プレート(20)と補助プレート(40)には、補助プレート(40)を前進スライドさせ、差込片(24)と回止め片(44)とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部(28)(48)が形成されていることを特徴とするパソコン等の器具の盗難防止用連結具。
【請求項2】 パソコン(80)等の器具の本体ケーシング(84)に開設された盗難防止用のスリット(82)に挿入され、固定構造物(88)への連結用ケーブル(72)とパソコン(80)等の器具とを繋ぐ盗難防止用ケーブルの連結具であって、
主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され、
主プレート(20)は、ベース板(22)と、該ベース板(22)の先端に突設した差込片(24)と、該差込片(24)の先端に側方へ向けて突設された抜止め片(26)とを具え、
補助プレート(40)は、主プレート(20)に対して、前記主プレート(20)の差込片(24)の突出方向に沿ってスライド可能に係合したコ字状のスライド板(42)と、該スライド板(42)を差込片(24)の突出方向にスライドさせたときに、差込片(24)を挟んで重なり、逆向きにスライドさせたときに、差込片(24)との重なりが外れるようにスライド板(42)の先端に突設された一対の回止め片(44)(44)とを具え、
主プレート(20)と補助プレート(40)には、補助プレート(40)を前進スライドさせ、差込片(24)と回止め片(44)とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部(28)(48)が形成されており、
該係止部(28)(48)にケーブル(72)を取り付け、又は錠(70)を用いてケーブル(72)を連結することを特徴とするパソコン等の器具の盗難防止用連結具。
【請求項3】 補助プレート(40)のスライド板(42)は、コ字状に形成され、凹部空間(59)に主プレート(20)がスライド可能に嵌められ、主プレート(20)のベース板(22)は、前記スライド板(42)よりも、幅広く形成されている請求項2に記載のパソコン等の器具の盗難防止用連結具。
【請求項4】 主プレート(20)又は補助プレート(40)の一方には、プレート(20)(40)のスライド方向に対して直角に側方に向けて開口(32)する切り込み(30)が開設されており、他方のプレートには、前記切り込み(30)のスライド移行路に対向した領域に切り込み(50)が開設されており、該切り込み(50)は、主プレート(20)を補助プレート(40)に対して前進スライドさせたときに前記切り込み(30)の開口(32)と一致する開口(52)を有し、主プレート(20)を補助プレート(40)に対して後退スライドさせたときに、切り込み(30)の開口(32)を閉じる爪(54)が形成されている請求項1乃至請求項3の何れかに記載のパソコン等の器具の盗難防止用連結具。
【請求項5】 スライド板(42)はコ字状であって、主プレート(20)がスライド可能に嵌まる凹部空間(59)を形成し、係止部(28)(48)は、差込片(24)と回止め片(44)とを重ねた状態のときに一致して貫通するようにベース板(22)とスライド板(42)に開設された孔(36)(56)であり、該孔(36)(56)に錠(70)又はケーブル(72)を通すことによって、主プレート(20)と補助プレート(40)との相対的なスライドを妨げて固定される請求項1乃至請求項4の何れかに記載のパソコン等の器具の盗難防止用連結具。」


第4 当事者の主張
1.請求人の主張
請求人は、審判請求書において、以下の無効理由を主張した。
なお、本件特許の出願を「本件特許出願」、その発明を「本件特許発明」という。ま、た本件特許明細書における特許請求の範囲の請求項1、2及び5に係る発明を、順に「本件発明1」「本件発明2」「本件発明3」ともいう。

(1)無効理由1:拡大先願(特許法第184条の13第29条の2)違反
「本件発明1」「本件発明2」「本件発明3」は、
本件特許出願前の2000年3月22日に出願された米国特許出願(09/532,382号、以下「米国特許出願1」という。甲第2号証)及び2000年4月5日に出願された米国特許出願(09/543,610号、以下「米国特許出願2」という。甲第3号証)に基づく優先権を主張して2000年10月17日に出願された国際出願(PCT/US00/28708、甲第1号証)であって、本件特許出願後に国際公開されたもの(国際公開第01/71132号、甲第5号証)の国際出願日における明細書及び図面と米国特許出願1の明細書及び図面の両方に記載された発明と同一であり、
本件発明1ないし3の発明者と甲第1号証に係る国際出願に係る発明の発明者とが同一の者ではなく、また本件特許出願の時に、その出願人と甲第1号証に係る国際出願の出願人とが同一の者でもないので、
本件発明1ないし3は、特許法第184条の13で読み替えられた同法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであり、
証拠方法として、甲第1?7号証を提出する。

(2)無効理由2:進歩性欠如(特許法第29条第2項)
本件発明1ないし3は、甲第8号証(特表平10-513516号公報)に記載された発明と、周知・慣用技術(部材同士のスライドと分離不能とを両立させた構造)又は甲第9号証(特表平10-508917号公報)に記載された発明に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、その特許は同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきであり、
証拠方法として、甲第8,9号証を提出する。

(3)無効理由3:サポート要件(特許法第36条第6項第1号)違反
本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の「スライド可能に係合」なる構成及び「分離不能に保持」なる構成は、いずれも機能的な表現がなされているところ、本件特許の明細書・図面及び出願時の技術常識を考慮しても、請求項1及び2に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件特許の請求項1及び2、並びにこれを引用する請求項3ないし5の記載は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(4)無効理由4:明確性要件(特許法第36条第6項第2号)違反
本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の「スライド可能に係合」なる構成及び「分離不能に保持」なる構成は、いずれも機能的な表現がなされているところ、本件特許の明細書・図面及び出願時の技術常識を考慮しても、請求項1及び2に係る発明の範囲すなわち外延が不明確であり、本件特許の請求項1及び2、並びにこれを引用する請求項3ないし5の記載は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

(5)無効理由5:実施可能性要件(特許法第36条第4項)違反
本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び2に記載の「スライド可能に係合」なる構成及び「分離不能に保持」なる構成は、いずれも機能的な表現がなされているところ、本件特許の明細書・図面及び出願時の技術常識を考慮しても、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1及び2に係る発明の実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえず、本件特許の請求項1及び2、並びにこれを引用する請求項3ないし5の記載は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、本件特許の請求項1ないし5に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。

その後、請求人は、訂正請求後の弁駁書において、
訂正後発明1ないし3に係る特許は依然として拡大先願違反(特許法第184条の3第29条の2)の無効理由1及び進歩性欠如(特許法第29条第2項)の無効理由2を解消しておらず、
また、訂正後の請求項1ないし5の記載は依然としてサポート要件違反(特許法第36条第6項第1号)の無効理由3、明確性要件違反(特許法第36条第6項第2号)の無効理由4及び実施可能要件違反(特許法第36条第4項)の無効理由5を解消していない旨を主張した。
その際、請求人は、無効理由2について、審判請求時において示した甲第8号証に記載された発明を主引例とした論理付けに加えて、甲第11号証に記載された発明を主引例とした論理付けを新たに主張した。
また、証拠方法として、甲第10号証(本件特許出願の拒絶理由通知書の写し)、上記甲第11号証とともに、無効理由2の主張における周知・慣用技術(部材同士のスライドと分離不能とを両立させた構造)を立証するために甲第12?14号証を提出した。

さらに、請求人は、口頭審理陳述要領書で、特許権侵害訴訟の調書を甲第15,16号証として提出するとともに、L字状の構成部品をL字プレートということを立証するために、甲第17?19号証、セキュリティロックの技術分野においてピンの本数を2本とすることは、周知・慣用技術であることを立証するために、甲第20号証をそれぞれ提出した。

また、平成24年11月12日付けの上申書において、甲第21号証を提出した。

(証拠方法)
甲第1号証:国際出願(PCT/US00/28708)及び明細書の翻訳文
甲第2号証:米国特許出願(09/532,382号)優先権証明書及び明細書の翻訳文
甲第3号証:米国特許出願(09/543,610)優先権証明書及び明細書の翻訳文
甲第4号証:米国仮出願(60/128,988号)及び翻訳文
甲第5号証:国際公開第01/71132号パンフレット及び明細書の翻訳文
甲第6号証:特表2003-528379号公報
甲第7号証:本件特許出願(特願2000-139328号)の願書
甲第8号証:特表平10-513516号公報
甲第9号証:特表平10-508917号公報
甲第10号証:本件特許出願(特願2000-139328)の拒絶理由通知書
甲第11号証:米国特許第6,038,891号明細書及び翻訳文
甲第12号証:実開平7-20111号公報
甲第13号証:特開平8-104321号公報
甲第14号証:実公昭11?3836号公報
甲第15号証:大阪地方裁判所平成23年(ワ)第10341号特許権侵害差止等請求事件の第6回弁論準備手続調書
甲第16号証:上記事件の第2回口頭弁論調書
甲第17号証:特開平8-155871号公報
甲第18号証:特開平7-268965号公報
甲第19号証:特開平5?279949号公報
甲第20号証:特開平9-177402号公報
甲第21号証:大阪地方裁判所平成23年(ワ)第10341号特許権侵害差止等請求事件の判決正本の写し


2.被請求人の主張
被請求人は、訂正請求書を提出するとともに、2回の答弁書、口頭審理陳述要領書において、訂正後発明1,2,3について、無効理由1、2のいずれにも該当せず、また、訂正後の請求項1?5の記載について、無効理由3?5のいずれも理由がない旨を主張し、
証拠方法として、乙第1?9号証を提出した。

(証拠方法)
乙第1号証:判定2010-600066の判定
(立証趣旨 請求項1の構成要件の中「スリット(82)への挿入方向に 沿って」の文言は、直線移動に限定して理解するべきでないと判断さ れたことを立証する。)
乙第2号証:国際公開WO96/24736号パンフレット及びその一部 翻訳文
(立証趣旨 8頁16ないし18行には、ロック心棒(240)から突設す るロックピン(265)の数は1本に限定している記載があることを立証 する。)
乙第3号証:特開平11-148262号公報
(立証趣旨 本件特許の審査で引用された引用文献1であることを立証 する。)
乙第4号証:別役万愛 編、「MECHANISM」、株式会社技報堂、 昭和30年11月30日発行、第522頁及び第523頁
(立証趣旨 ハンマーの直線運動による上下動加工は、回転搖動するハ ンマーに置換してほぼ同じ上下動加工を実施できることは、機構学上 の周知技術であることを立証する。)
乙第5号証:特開平10-85033号公報
乙第6号証:特開平7-319586号公報
乙第7号証:特開平10-40664号公報
乙第8号証:特開平7-60418号公報
(立証趣旨 2つの部材の相対的な回転運動は、一般的に「スライド」 と呼ばれることを立証する。)
乙第9号証:動作比較図
(主プレートと補助プレートの相対的なスライド可能な係合が、直線的 スライドであっても、円弧移動であっても、実質的に同一であること を立証する。)


第5 甲各号証の記載事項
請求人の提出した甲各号証には、以下の事項や発明が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1)甲第1?6号証
甲第1?6号証は、無効理由1(拡大先願)の先願明細書に記載された発明を認定するためのものであるところ、
本件の場合、先願は、外国語国際出願(「甲第1号証」。なお、以下では単に「甲1」ということがある。他の甲号証や乙号証についても同様。)であり、優先権主張がされている。パリ条約第4条C(4)の規定により、二重の優先権主張となる基礎出願(甲4,甲3)に後願排除効はないとみるべきだから、後願排除効があるのは、甲1のうち、甲2の基礎出願(1回目の優先基礎である)の部分である。また、国際出願の場合、特許法第29条の2の規定は、特許法第184条の13の規定により読み替えられるものであり、外国語の国際出願の場合、後願排除効をもつ明細書等は、国際公開された明細書等(甲5。基本的に国際出願日の明細書等である甲1と同じ内容)である(なお、国内移行のための翻訳文(甲6の国内公表)ではないと考えられる)。
したがって、本件の場合、甲1(甲5の国際公開と同内容である)と甲2の両方に記載された部分が、後願排除効をもつ、ということになる。具体的にいえば、甲1のFIG1?6に係る部分である。
そこで、甲1のうち甲2(優先基礎出願)にも記載された発明を認定する。
甲1のFIG1?6に関連する記載事項によれば、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
なお、認定は、甲1の第4頁第17行?第5頁第28行(なお、頁数は、下部中央に付されたもの。請求人が提出した甲1号証の翻訳文でいえば第4頁第1行?第5頁第9行。ただし、FIG7に関する記載を除く。)を中心に認定し、他の箇所から認定した部分は、括弧書きで根拠箇所を示した。また、日本語訳は請求人提出の翻訳文に沿ったものを採用した。

「ラップトップ・コンピュータもしくはPDA等の携帯式機器12、あるいはデスクトップ・コンピュータ・システムのコンポーネント、あるいは他にいずれか静置したい機器にケーブル11を固定するための「盗難防止用」(全体の記載から認定)装置10であって、
相補的形状(complementary shapes。翻訳文第2頁20行の発明の概要や請求項1)、例えばL字状(FIG1)の第1部材(外側部材)13およびそれに結合される相補的形状、例えばL字状(FIG1)の第2部材(内側部材)14を含み、
第1および第2部材13,15は相互に結合され、その結合は、第1部材内13に形成されたスロットまたは溝21、および第2部材14に結合されスロットまたは溝内に摺動自在に配置されるリベット22により達成され、それによって、第1部材13と第2部材14の間の相対運動を可能としており、
第1部材13では、実質的にT字形のロック部材15が第1部材13の底辺16から突出し、
第2部材14では、実質的に真直な1本の(甲1の原文。原文の特許請求の範囲も全て1本)ピン17が第2部材14の底辺18から突出し、「第2部材14は、第1部材13に対して、第1部材13のロック部材15の突出方向に沿って摺動可能に係合しており、第2部材14をロック部材15の突出方向に摺動させたときに、ロック部材15と重なり、逆向きに摺動させたときに、ロック部材15との重なりが外れるように、前記ピン17がなされており」(図面や使用方法の記載等から認定)、
第1および第2部材13,15とも、部材内に形成された孔20(孔20a、20b、20cおよび20d)を含み、
使用に際しては、静置したい機器の外側壁41に形成されたスロット40内にロック部材15が挿入され、
装置10が約90度回転されると、ロック部材15は実質的にT字形であるため、ロック部材15は、この回転状態では、スロット40から取り外すことができず、
さらに、「第2部材14を第1部材13に対して摺動させることにより」(図面や使用方法の記載等から認定)、ピン17をロック部材15に沿ってスロット40内に延ばすことができ、ピン17がスロット40内にある状態では、装置10を90度回転させることができず、ロック部材15をスロット40から取り外すことができないロック状態となり、
また、第2部材14を第1部材13に対して摺動させることによって、ピン17がスロット40内に挿入され、「ピン17とロック部材15とを重ねた状態で」(図面や使用方法の記載等から認定)、第2部材14と第1部材13の孔20(孔20a、20b、20cおよび20d)同士が整合し、ケーブル11を整合した孔20に挿通することができ、そのケーブル11を机、椅子、キャビネット等、何らかの静止した器具もしくは大型の器具に、あるいは壁に連結されたリングにすらロックもしくは固定することができる、
静置したい機器にケーブル11を固定するための盗難防止用装置10。」

なお、甲1のFIG1は、次のとおり。


(2)甲第8号証:特表平10-513516号公報
甲8には、次の発明(以下、「甲8発明」という。)が記載されているものと認められる。なお、図7の実施態様を中心に認定した。括弧書きは、認定の根拠箇所である。

「携帯コンピュータ5の壁10に形成されたスロット15を通して壁10と係合自在であり、携帯コンピュータ5の盗難を防止するためのロックインターフェース55であって(図7、図1およびそれらの発明の詳細な説明、請求項1、第8頁の「発明の背景」)、
プレート状の固定心棒200と略プレート状のロック心棒240を含み(主として図7とその説明。以下、同様)、
固定心棒200は、本体部205を有し、本体部205は、孔210、2つの係合部材215,220、首部225、および頭部230を含み、係合部材215,220は、固定心棒200の垂直2側にそれぞれ形成されており、
ロック心棒240は、本体部245を有し、本体部245は、孔250、2つの係合部材255,260、および1本のロックピン265を含み、ロック心棒240の湾曲部が係合部材255,260を形成しており、
操作時に、使用者は、固定心棒200の頭部230を壁10のスロット15と整合させて、頭部230をスロット15へ挿入し、ついで、固定心棒200を回転させて(図7のものは、図4と同様とみることができるため。)、頭部230とスロット15を不整合にすることにより、頭部230と壁10の内面20とが係合し、それによりロックインターフェース55のコンピュータ5からの除去を阻止し、続いて、ロック心棒240のロックピン265をスロット15へ挿入して、固定心棒200の頭部230とスロット15との再整合を阻止し、このとき、固定心棒200の係合部材215,220が、それぞれロック心棒240の係合部材260,255上を摺動することにより、ロック心棒240と固定心棒200とが係合し、さらに、ケーブル35およびロック40を有するロック機構30(図1及びその発明の詳細な説明)を、固定心棒200の孔210とロック心棒240の孔250に挿入して、固定心棒200とロック心棒240との係合を維持し、かつコンピュータ5の定着物への係止に使用する、
携帯コンピュータ5の盗難を防止するためのロックインターフェース55。」

なお、甲8の図7は次のとおり。


(3)甲第9号証:特表平10-508917号公報
甲9には、次の技術(以下、「甲9の技術」という。)が記載されているものと認められる。なお、第13頁第6行?第16頁第16行の第1の実施態様を中心に認定し、他の箇所から認定した部分は、括弧書きで根拠箇所を示した。

「長い平行の側片74と短い平行の側片75からなるほぼ矩形の溝72が設けられた外壁70を有する持ち運び可能なパーソナルコンピュータのような備品に連結し盗難を阻止する(第15頁第8?15行、請求項1,第9頁第17行)ための安全装置10の取り付け機構12であって、
内部円筒状空洞38、一対の開口16,開口41,立上がり開口42を有するハウジング36と、
ハウジング36の円筒状空洞38の内部に嵌まる円筒状部分48、操作プレート(立上りプレート)50、ハウジング36の開口41を通って外側に延びて末端に交差部材54を設けたシャフト52,円筒状部分48の周囲の約25%に延びて設けられた溝66、円筒状部分48を通る横断開口68を有するスピンドル46と、
ハウジング36の円筒状内部空洞の内部に受け入れられるようになっている当接プレート58、ハウジング36の開口を通って外側に延びるようになっている一対のピン60を備えた当接機構56と、
当接プレート58とスピンドル46とをそれぞれ後方に付勢し交差部材54をハウジング36に向って付勢するばね62とを、
有しており、
取り付け機構12が組立てられた時、交差部材54とシャフト52とは、シャフトのいずれかの側の一対のピン60と共に開口41を通りハウジング36を越えて外側に延びるものであり、
スピンドル46とハウジング36との関係については、
ハウジング36の開口42に係合されたピン44は、スピンドル46の溝66と係合し、取り付け機構12はピン44を取外すことなしには分解できないようになっており、
操作プレート50によりスピンドル46が回転されて、スピンドル46の円筒状部分48を通る横断開口68が、交差部材54がピン60とは整列しなくなった時(図4、図9)、ハウジング36の開口16と整列し、
スピンドル46が溝66の中でピン44によって可能となるように90°回転されることにより、交差部材54はピン60と整列され(図3)、開口68は開口16とは整列されなくなり、
ケーブル18は、交差部材54がピン60と整列しなくなった時、すなわち取付け機構12が備品の部材に取付けられた時、整列された開口16,68を通って挿入することが可能となり、ケーブル18が整列した開口16と68を通過することにより、スピンドル46の回転が効果的に阻止されるものであり、
また、外壁70の溝72に対して取付け機構12を挿入して取り付けることに関しては、
挿入する前に、スピンドル46は回転されそれにより交差部材54がピン60と整列されるようにし(図3,図7)、
次に、交差部材54は、交差部材54が完全に壁70の内側となるまで溝を通って挿入され(図8、図10A)、
交差部材54が溝72を完全に通って挿入されると、スピンドル46が操作プレート50によって回転されて、交差部材54が当接機構56のピン60に対し90°不整列とされ、交差部材54が溝72周辺の外壁70内面に係合して、取付け機構12が外壁70の溝72に取り付けられ(図9、図10B)、この時に、前記のとおり、ハウジング36の側壁の開口16がスピンドルの開口68に整列するようになり、ハウジング36を完全に通過する通路が得られ、ケーブル18は容易に開口16,68を通すことができ、このケーブル18の存在はスピンドル46がもとの位置に回転されて交差部材54を溝72から取外すのを阻止する、
取り付け機構12において、
円筒状のスピンドル46の外周面に約90°に渡って形成した溝66に、円筒状のハウジング36の内部に突出するように固定したピン44を係合させて、スピンドル46とハウジング36の間の相対的に回転可能な角度を約90°に規制する技術。」

なお、甲9の技術における取り付け機構12(連結具)は、交差部材54を有するスピンドル46が、ピン60を有する当接機構56に関係なく、独自に回転可能なものであり、しかも、ピン60が交差部材54に対してスライド移動するものでもないから、甲8発明や,後述の甲11発明とは、連結機構が全く異なるものである。

甲9の図4は次のとおり。


(4)甲第10号証:本件特許出願(特願2000-139328)の拒絶理由通知書
記載事項の摘示は省略する。

(5)甲第11号証:米国特許第6,038,891号明細書及び翻訳文
甲11には、次の発明(以下、「甲11記載の発明」という。)が記載されているものと認められる。
なお、第3実施形態(FIG9、FIG11)について、請求項15の表現を主に使用して認定した。また、日本語訳は請求人提出の翻訳文に沿ったものを採用した。請求項15以外の箇所から認定した部分は、括弧書きで翻訳文の根拠箇所を示した。

「携帯コンピュータ、デスクトップコンピュータ等(翻訳文第11頁第1行)の盗難にあう機器13に連結するための器具であって、
機器13の外殻17にセキュリティスロット(15または19)を含んでなり、
前記器具は、挿入プレート1とサドル3とを備え、
挿入プレート1は、
第1の平面を形成し中子取付け端を有するタブ2と、
末端及び中子取付け先端を有し、前記中子取付け先端は、前記第1の平面に取り付けられ前記中子取付け端から突出し、前記中子取付け先端に最も近い前記中子取付け端にスロット進入押さえを形成した中子7と、
前記中子7の前記末端に取り付けられ、かつ前記セキュリティスロットの寸法に相補的な周囲形状を有し、ロック解除状態のときに前記セキュリティスロットへ挿入され前記スロットから引き出され、ロック状態のときに外殻17の内側面へ係合させるように適合されたロック部材15(なお、請求項15の当該箇所に係る請求人提出の翻訳は、やや不正確であると考え、修文したものを使用した。)と、
を備え、
前記サドル3は、前記タブ2に合わさる大きさであり、
前記サドル3は、
それぞれが合わせ面及びピン取付け端を有する2つのフラップ30,30と、
前記2つのフラップ30,30を結合し、前記2つのフラップ30,30とで実質的にU字形を形成するように適合されたブリッジ部と、
前記第1の平面と平行な第2の平面に結合され、フラップ30,30の前記ピン取付け端からそれぞれ突出し、ロック状態のときに、前記ロック部材15に隣接して前記セキュリティスロットに挿入されるように適合された2つのピン34,34(FIG9B)と、
を備え(なお、以下では、請求人のいうとおり、2つのフラップ30,30とブリッジ部とを合わせたものを、便宜上「サドル本体」という。)、
器具の組み立て状態では、サドル3は挿入プレート1上を無理なくスライドするもので(翻訳文第14頁第11行?12行)、
器具を機器13に取り付けるときは、
前記ロック部材15が前記セキュリティスロットへ挿入され、かつ、挿入プレート1が回動することで(FIG11)、前記ロック解除状態から、前記ロック部材15が外殻17の内側の表面に係合するロック状態へ、前記ロック部材15が移行し、
前記サドル3が、前記タブ2に対抗する側である前記フラップ30,30の前記合わせ面に係合する前記タブ2を覆って合わさり、かつ、ピン34,34がロック部材15に隣接して挟み込むように、前記ピン34,34が前記セキュリティスロットへ挿入されることにより(FIG11)、前記ロック部材15の前記ロック解除状態への移行を妨げ、
前記タブ2と前記サドル3は、前記サドル3の前記タブ2への合わさりを維持する取付け機構11、14を含み、前記取付け機構11、14は、前記タブ2及び前記フラップ30,30が開口を形成する部分を含み、これら2つの開口をあわせるとケーブル又は南京錠のアーム(対象物)を挿入することができ、連結又はロック状態からの器具の取り外しや解除を実質的に不可能にする(翻訳文第11頁第21?24行、第11頁第35行?第12頁第1行、第12頁第34行?第13頁第3行、第13頁第27行?第14頁第15行、第14頁第27行?第15頁第2行)ものであり、
盗難にあう機器13に連結した当該器具にケーブル21を挿入するか、又は当該器具に南京錠23のアームを挿入しさらに当該アームにケーブル21を挿入して、ケーブル21を不動のポール25に取り付ける(FIG7,翻訳文第13頁第5?19行)、
携帯コンピュータ、デスクトップコンピュータ等の盗難にあう機器13に連結するための器具。」

なお、上記の下線部分「前記サドル3が、前記タブ2に対抗する側である前記フラップ30,30の前記合わせ面に係合する前記タブ2を覆って合わさり」について、甲11の 英文は、「wherein association of said saddle over said tab engages said mating surfaces of said flaps to opposite sides of said tab」(第9欄第10?12行)であり、請求人の翻訳をもう少し噛みくだけば、「前記サドルが前記タブを覆って合わさる(associate:組み合わさる、連携する)ことで、前記フラップの前記合わせ面32,32を前記タブの対向面(合わせ面5,5)に合わせる(engage:嵌合させる) 」というような意味である(FIG9A?Cも参照)と解される。

甲11のFIG9は、次のとおり。


(6)甲第12号証:実開平7-20111号公報
甲12には、
薄型化粧品ケースに係るものであって、
上面に化粧品1を入れる収納凹部2を有する薄型本体3と、該薄型本体3とスライド式に係合して該薄型本体3の上面を覆う蓋体4とからなり(【0005】)、
蓋体4が流通時などに外力によって抜け落ちるのを防ぐために、薄型本体3の溝部5内に係止凹部31を形成し、該係止凹部31と対応する蓋体4の嵌着片43に係止凸部44を設けて抜け落ち防止を計るという「抜け落ち防止機能」を、薄型化粧品ケースの前後に設けて、閉止位置と開口位置の両方で、定位置に止まる(【0011】【0012】)ようにした技術が記載されている。

図1,2は次のとおり。


(7)甲第13号証:特開平8-104321号公報
甲13には、
携帯用の錠剤収納容器などにおいて、収納物(錠剤)の出し入れと収納を簡便かつ合理的に行なえるように(【0001】?【0004】)、半開状態と全開状態を容易に形成できる容器に関するものであって、
本体2と、該本体2の一方に出し入れ可能に取付けた引出ケース3とからなり(【0007】)、
本体2の下側本体2bの開口側端部内面の対向位置には、一対の係合突起10,10が上向きに突設され(【0010】)、
引出ケース3の側壁11の中間部外面には、略半円弧状の係合面を備えた凸部14が突設され、該凸部14は前記係合突起10と係合可能にされていて、引出ケース3を半開可能にされ(【0011】【0012】)、
また、引出ケース3を強く押し引きすることで、前記突起10の係合面を摺り抜け、それらの係合を解除可能にし、側壁11の後端部には前記凸部14よりも外側に突出した係止突起15が設けられ、該突起15は引出ケース3の全開操作時に係合突起10と係合可能にされていて、それらの係合を介し引出ケース3の全開状態を保持可能にしている(【0012】)という技術が記載されている。

図9(半開状態),図11(全開状態)は次のとおり。


(8)甲第14号証:実公昭11?3836号公報
甲14には、
巻煙草、妻楊枝などの懐中容器に関するものであって、
外函1中に内函2を挿入し、内函2側壁に回動する蓋体5を設け、外函1が摺動する方向に延びた長孔9を外函1に形成し、内函2に設けた内函操縦用の摘子10を長孔9に係合したもので、
長孔9の範囲内で摘子10を操作して、内函2または外函1を摺動させ、外函1に設けた切欠11,12に対して、蓋体5の脚6,7を嵌入させ又は脱出させることにより、蓋体5の開閉操作を行うようにした技術が記載されている。

第1図は次のとおり。


(9)甲第15号証:大阪地方裁判所平成23年(ワ)第10341号特許権侵害差止等請求事件の第6回弁論準備手続調書
記載事項の摘示は省略する。

(10)甲第16号証:上記事件の第2回口頭弁論調書
記載事項の摘示は省略する。

(11)甲第17号証:特開平8-155871号公報
甲第17号証には、ターレット型ロボットハンドが記載され、当該ロボットハンドにおけるL字状の構成部品を「L字プレート19」と称している(段落【0025】、図4)。

(12)甲第18号証:特開平7-268965号公報
甲第18号証には、ユニット建物の接合構造が記載され、当該接合構造におけるL字状の連結部材を「L字プレート5」と称している。(段落【0003】、図8)。

(13)甲第19号証:特開平5?279949号公報
甲第19号証には、糸切れ検知装置が記載され、当該検知装置におけるL字状の構成部品を「L字プレート11」と称している(段落【0015】、図1、図4)。

(14)甲第20号証:特開平9-177402号公報
甲第20号証の図3、図5等には、ノート型電子機器等の盗難を防止するセキュリティロックにおいて、回転軸(16)の延在方向と直交する方向に延在する第1ストッパ部材(17)と、上記回転軸(16)を挟んで点対称に上記シリンダ(14)の他端に植設され、かつ、上記回転軸(16)と平行に延在する第2ストッパ部材(18)(18)とからなり、 第1ストッパ部材(17)の延在方向と第2ストッパ部材(18)(18)を結ぶ直線方向とを略直交した状態とすると、 上記第1ストッパ部材(17)は小孔(11)とクロスする形となり、かつ、第2ストッパ部材(18)(18)は各小孔(10)(11)の内壁により小孔(10)(11)内での回転移動が禁止され、この結果、ロック手段(12)の本体(1)からの抜けが阻止されることが記載されており、
これによれば、甲第20号証には、甲1や甲8におけるロックピンに相当する第2ストッパ部材(18)(18)が2個あることが記載されているものと認められる。

(15)甲第21号証:大阪地方裁判所平成23年(ワ)第10341号特許権侵害差止等請求事件の判決正本の写し
記載事項の摘示は省略する。


第6 乙各号証の記載事項
被請求人が提出した乙号証には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審で付した。

(1)乙第1号証:判定2010-600066の判定
記載事項の摘示は省略する。

(2)乙第2号証:国際公開WO96/24736号パンフレット及びその一部翻訳文
乙第2号証は、国際特許出願PCT/US96/01683の国際公開公報(WO96/24736)であって、これを基礎として国内段階に移行した外国語特許出願の翻訳文が甲第8号証(公表公報)である。
乙第2号証の第8頁16ないし18行に、ロックピンの個数について、"Body portion 245 includes an aperture 250, two engagement members (engagement member 255 and engagement member 260), and a locking pin 265." と記載されており、この部分を訳すと、被請求人が提出した翻訳文のとおり、「本体部(245)は孔(250)、2つの係合部材(係合部材(255)と係合部材(260))、及び1個のロックピン(265)を含む。」となる。

(3)乙第3号証:特開平11-148262号公報
(立証趣旨 本件特許の審査で引用された引用文献1であることを立証す る。)
記載事項の摘示は省略する。

(4)乙第4号証:「MECHANISM」、第522頁及び第523頁
乙第4号証には、機械ハンマの項において、図4のばねハンマは、直線運動させる機構であり、図6の跳ね槌は、槓桿条の槌をカム輪で作動させるものであり、支軸を中心としたハンマの回転運動を利用して略直線的運動を実現する機構が示されている。

(5)乙第5号証:特開平10-85033号公報
乙第5号証の【0021】には、化粧品用ケースにおいて、「ケーキ・ファンデーションを収容した中皿を保持する容部支持板4及びその外部容器66の一角をピン68で回転自在に連結して、上記容部支持板4をピン68を中心として回転スライド式に出し入れするように構成したものである。」との記載がある。なお、下線は当審で付した(乙第6?8号証も同様。)

(6)乙第6号証:特開平7-319586号公報
乙第6号証の【0017】には、本体1上で水平方向に回転自在な回転台11を備えたラップトップ型情報処理装置において、「回転台11は上面から見ると図2(a)に示すように半円の形をしており、本体1側に形成された半円状の凹部に沿ってスライドしながら回転する。」との記載がある。

(7)乙第7号証:特開平10-40664号公報
乙第7号証【0012】【0014】には、例えば磁気テープビデオカセットの音声及び映像等の、記録の可及び不可のいずれの状態であるかの判別を行うための誤消去防止プラグ構造に関するものにおいて、「前記誤消去防止プラグが前記回転支持軸の回りに回転スライドすることにより前記開口部を開閉して記録可と不可の状態を切換えることができる。」「誤消去防止プラグ20の下部には、円弧方向に90°回転スライドさせるための回転支持軸23が形成されていると共に、回転スライド時に誤消去防止プラグ20が上方に飛び出すのを防止するためのスライドガイド22(抜け止め用凸部)が形成されている。また、誤消去防止プラグ20の上部には、誤消去防止プラグ20を指で90°回転スライドさせるための回転つまみ凸部21(操作用凸部)が形成されている。」との記載がある。

(8)乙第8号証:特開平7-60418号公報
乙第8号証【0012】【0016】には、連続鋳造により溶鋼をタンディッシュからモールド内に注入する連続鋳造用の浸漬ノズルにおいて、「たとえば外筒3に固定した把手(図示せず)等を用いて手動により上下方向および円周方向にスライドさせることが可能である。」「内筒2に対して外筒3を円周方向に90°スライドして回転させ、内筒2の下段吐出孔5と外筒3の上段吐出孔6とを合致させて、ここから溶鋼の鋳込みを継続するものである。」との記載がある。

(9)乙第9号証:動作比較図
これは、被請求人が動作比較を説明するために提出した説明図である。
記載事項の摘示は省略する。


第7 当審の判断
1.無効理由1(拡大先願)について
(1)対比・判断
ア.訂正後発明1について
訂正後発明1と甲1発明とを対比すると、
甲1発明の
「ラップトップ・コンピュータもしくはPDA等の携帯式機器12、あるいはデスクトップ・コンピュータ・システムのコンポーネント、あるいは他にいずれか静置したい機器」
「盗難防止用装置10」
「静置したい機器の外側壁41」
「スロット40」は、
それぞれ、訂正後発明1の
「パソコン(80)等の器具」
「盗難防止用連結具」
「本体ケーシング(84)」
「盗難防止用のスリット(82)」
に実質的に相当する。
甲1発明の「相補的形状、例えばL字状の第1部材(外側部材)13」「相補的形状、例えばL字状の第2部材(内側部材)14」と、訂正後発明1の「主プレート(20)」「補助プレート(40)」とは、その機能からみて、それぞれ「主部材」「補助部材」の点で共通する。
また、甲1発明の「相補的形状、例えばL字状の第1部材(外側部材)13」「相補的形状、例えばL字状の第2部材(内側部材)14」は、それぞれ、訂正後発明1の「ベース板(22)」「スライド板(42)」に相当するものを含んでいるといえる。
甲1発明の、第1部材13に設けられた「実質的にT字形のロック部材15」は、訂正後発明1の「該ベース板(22)の先端に突設した差込片(24)と、該差込片(24)の先端に側方へ向けて突設された抜止め片(26)」に相当する。
甲1発明の、第2部材14に設けられた「実質的に真直な1本のピン17」と、訂正後発明1の補助プレート(40)に設けられた「一対の回止め片(44)(44)」とは、その機能からみて、「回止め片」の点で共通する。
甲1発明の「ピン17とロック部材15とを重ねた状態で、第2部材14と第1部材13の孔20(孔20a、20b、20cおよび20d)同士が整合し、ケーブル11を整合した孔20に挿通することができ」は、
訂正後発明1の「差込片(24)と回止め片(44)とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部(28)(48)が形成されている」に相当する。
甲1発明の「第1および第2部材13,15は相互に結合され、その結合は、第1部材内13に形成されたスロットまたは溝21、および第2部材14に結合されスロットまたは溝内に摺動自在に配置されるリベット22により達成され、それによって、第1部材13と第2部材14の間の相対運動を可能としており」と、
訂正後発明1の「主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され」は、 「主部材と補助部材とを、スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両部材は分離不能に保持され」の点で共通する。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「パソコン等の器具の本体ケーシングに開設された盗難防止用のスリットに挿入される盗難防止用連結具であって、
主部材と補助部材とを、スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両部材は分離不能に保持され、
主部材は、ベース板と、該ベース板の先端に突設した差込片と、該差込片の先端に側方へ向けて突設された抜止め片とを具え、
補助部材は、主部材に対して、前記主部材の差込片の突出方向に沿ってスライド可能に係合したスライド板と、該スライド板を差込片の突出方向にスライドさせたときに、差込片に重なり、逆向きにスライドさせたときに、差込片との重なりが外れるようにスライド板の先端に突設された回止め片とを具え、
主部材と補助部材には、補助部材を前進スライドさせ、差込片と回止め片とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部が形成されている、
パソコン等の器具の盗難防止用連結具。」

[相違点i]
訂正後発明1は、主部材と補助部材の形状がプレートであって、補助部材に設けられた回止め片が、差込片を挟んで重なる一対の回止め片であるのに対して、
甲1発明は、主部材と補助部材の形状が相補的形状、例えばL字状であり、補助部材に設けられた回止め片(ピン17)が1本だけである点。

そこで、相違点iについて検討する。

まず、回止め片について検討する。
請求人は、請求書において、器具等の構造物の設計において、構造体の単純化・簡素化、部品及び構造体の個数・寸法変更、周知形状への変形・加工等は必要に応じて適宜用いられる周知・慣用技術であり技術常識である旨を主張する。
しかし、その周知・慣用技術は、本件特許に係る技術分野である「パソコン等の器具の本体ケーシングに開設された盗難防止用のスリットに挿入され、スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能な主部材と補助部材とからなる盗難防止用連結具」におけるものではなく、一般的なものにとどまり、しかも具体的な技術事項を認定することもできない。そして、仮に請求人の主張する周知・慣用技術が認定できたとしても、補助部材に設けられた1本の回止め片(ピン17)を、差込片を挟んで重なる一対の回止め片に変更することが、周知・慣用技術を単に適用しただけの構成上の微差ということはできない。

また、請求人が、口頭審理陳述要領書で主張するように、パソコン等の器具の本体ケーシングに開設された盗難防止用のスリットに挿入され、スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能な主部材と補助部材とからなる盗難防止用連結具において、補助部材に設けられた一対の回止め片が、主部材の差込片を挟んで重なるように構成する技術は、本件特許明細書の従来技術(図9。特許文献では特開平11-148262号公報。乙3)、甲8,甲9,甲11、甲20にみるように、本件特許の出願前に公知であったといえる。
また、当該技術が、仮に周知・慣用技術であったとしても、甲1には、回止め片(ピン17)が1本であることが、実施例(図1?6)だけでなく、発明の概要(翻訳文第2頁)や、請求の範囲(翻訳文はない)の独立請求項においても、特定されており、1本の回止め片(ピン17)を用いる技術であると理解されるから、回止め片(ピン17)を2本にする余地は甲1発明にない。
さらに、その余地が仮にあったとしても、補助部材に設けられた一対の回止め片が、主部材の差込片を挟んで重なるように構成するためには、主部材と補助部材の形状が、甲1発明におけるL字状のままでは不可能であるから、例えば本件特許明細書の実施例や訂正後発明2,3のようなコ字状に変更をしなければならない。ここで、甲1には、主部材(第1部材)と補助部材(第2部材)は相補的形状(complementary shapes。完成するために一方が欠けているところを他方が補うような形状)を有することが、発明の概要(翻訳文第2頁)や、請求の範囲(翻訳文はない)の独立請求項においても、記載されているだけなので、甲1(甲2にも記載されている事項に限る)の図1?6以外の箇所では、甲1発明のようなL字状に限定されていないともいえる。しかし、主部材(第1部材)を単純なプレートにして、補助部材(第2部材)をコ字状に変更することや、主部材(第1部材)を甲1発明のL字状にしたままで、補助部材(第2部材)の形状を複雑に変更することは、設計上の微差の程度を大きく超える、大幅な設計変更であり、実質同一とはいえない。

また、訂正後発明1の効果についてみると、被請求人の主張のとおり、一対の回止め片が差込片を挟んで重なるので、連結具はパソコンのスリットへの一層確実な装着ができ、しかも、差込片を曲げようとする両側からの外力を支持できるという作用効果が期待でき、これは、甲1発明における差込片の片側に1本の回止め片が重なるだけという構成にはない作用効果である。

なお、請求人は、訂正後発明1の効果が発揮されるのは、一対の回り止め片が差込片を挟んで重なること自体ではなく、参考図1(第1回答弁書)の距離s(差込片、2つの回止め片をあわせた長さ)をスリットの長さtに近づけたために、位置移動がスリットで規制されるためであるとして、参考図1の下図(甲1発明)は、甲1のFIG6と異なる寸法関係にあるが、1本の回止め片であっても、(甲1発明でピン、ロック部材の厚み寸法を適切に設定して)「s」をスリット長さtに近づければ、訂正後発明1と同等の作用効果が発揮されると主張する。
しかし、甲1のFIG6は、ロック部材15幅(長辺の長さ)とスロット長さtは、後者が小さく描かれており、実際は、もっと大きい隙間(距離sとスリット長さtの差)があるはずであり、また、ロック部材15の形状がT字状である以上、それに見合うスロット長さtが確保されなければならないため(ロック部材15は、T字状をなし、訂正後発明1の差込片24と抜け止め片26に相当する部分からなるが、甲1において、抜け止め片26に相当する部分が、スロット40に挿入されるためには、スロット40の長さは、抜け止め片の長さを超える必要がある。なお、参考図1の下図のロック部材は、差込片24に相当する部分を図示したにとどまる。)、1本のピンでは、参考図1下図の距離sをスリットの長さtに近づけるにしても、相当の差(t-s)が残るから、請求人の主張を採用することができない。

したがって、主部材と補助部材の形状に関して、甲1発明のL字状がプレートと呼べるものであるかどうかについて検討するまでもなく(ただ、多数の特許公報(例えば、甲17?甲19を参照。)で、L字状板、L字形板、L字状プレートなどの表現がみられ、L字状の部材でもプレートと呼ぶことがあることを付言しておく。)、相違点iが実質的にないとすることはできない。

(まとめ)
よって、訂正後発明1は、甲1発明と同一であるとはいえない。

イ.訂正後発明2について
訂正後発明2と甲1発明を対比すると、
上記ア.で対比した事項での相当関係等があるのに加えて、
さらに、甲1発明の「そのケーブル11を机、椅子、キャビネット等、何らかの静止した器具もしくは大型の器具に、あるいは壁に連結されたリングにすらロックもしくは固定することができる、静置したい機器にケーブル11を固定するための盗難防止用装置10」は、訂正後発明2の「固定構造物(88)への連結用ケーブル(72)とパソコン(80)等の器具とを繋ぐ盗難防止用ケーブルの連結具」に相当するといえる。

そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「パソコン等の器具の本体ケーシングに開設された盗難防止用のスリットに挿入され、固定構造物への連結用ケーブルとパソコン等の器具とを繋ぐ盗難防止用ケーブルの連結具であって、
主部材と補助部材とを、スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両部材は分離不能に保持され、
主部材は、ベース板と、該ベース板の先端に突設した差込片と、該差込片の先端に側方へ向けて突設された抜止め片とを具え、
補助部材は、主部材に対して、前記主部材の差込片の突出方向に沿ってスライド可能に係合したスライド板と、該スライド板を差込片の突出方向にスライドさせたときに、差込片に重なり、逆向きにスライドさせたときに、差込片との重なりが外れるようにスライド板の先端に突設された回止め片とを具え、
主部材と補助部材には、補助部材を前進スライドさせ、差込片と回止め片とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部が形成されており、
該係止部にケーブルを取り付け、又は錠を用いてケーブルを連結する、
パソコン等の器具の盗難防止用連結具。」

[相違点ii]
訂正後発明2は、主部材と補助部材の形状がプレートであり、しかも補助部材のスライド板がコ字状であり、また、差込片を挟んで重なる一対の回止め片であるのに対して、
甲1発明は、主部材と補助部材の形状が相補的形状、例えばL字状であり、補助部材のスライド板もL字状であり、また、回止め片が1本だけである点。

そこで、相違点iiについて検討すると、「ア.訂正後発明1について」で示した理由と基本的に同じ理由により、相違点iiが実質的にないとはいえない。
したがって、訂正後発明2は、甲1発明と同一であるとはいえない。

ウ.訂正後発明3(請求項5)について
訂正後発明3と甲1発明を対比すると、上記ア.で対比した事項での相当関係等が認められる。
請求項5は、請求項1?4のいずれかを引用する形式であり、訂正後発明3(請求項5)は、訂正後発明1,訂正後発明2、訂正後の請求項3に係る発明、訂正後の請求項4に係る発明のいずれかの構成を含むものである。
ここで、請求項3,4は無効理由1(拡大先願)の対象ではないこともあり、訂正後発明3のうち、訂正後の請求項3に係る発明及び訂正後の請求項4に係る発明を含む部分は、甲1発明と同一でないことは明らかである。
そこで、訂正後発明3のうち、訂正後発明1,訂正後発明2を含む部分について、相違点を明らかにして検討すれば足りる。
そうすると、訂正後発明3のうち、訂正後発明1,訂正後発明2を含む部分は、訂正後発明1,訂正後発明2について示した相違点i,相違点iiに加えて、あるいは関連して、次の点で相違する。

[相違点iii]
訂正後発明3は、補助部材のスライド板は、コ字状であって、主部材がスライド可能に嵌まる凹部空間を形成しているのに対して、
甲1発明は、補助部材のスライド板は、L字状であって、主部材がスライド可能に嵌まる凹部空間を形成していない点。

そこで、相違点iiiについて検討すると、「ア.訂正後発明1について」で示した理由と基本的に同じ理由により、相違点iiiが実質的にないとはいえない。
また、相違点i,相違点iiが実質的に認められることも、上記したとおりである。
したがって、訂正後発明3は、甲1発明と同一であるとはいえない。

(2)無効理由1についてのまとめ
よって、訂正後発明1?3(順に、訂正後の請求項1,2,5に係る発明)は、甲1発明と同一であるとはいえないので、その特許は、特許法第184条の13で読み替えられた同法第29条の2の規定に違反してなされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当しない。


2.無効理由2(進歩性)(その1)について
(1)対比・判断
ア.訂正後発明1について
訂正後発明1と甲8発明とを対比すると、
甲8発明の「携帯コンピュータ5」「壁10」「スロット15」「携帯コンピュータ5の盗難を防止するためのロックインターフェース55」は、
それぞれ、訂正後発明1の「パソコン(80)等の器具」「本体ケーシング(84)」「盗難防止用のスリット(82)」「盗難防止用連結具」に実質的に相当する。
甲8発明の「プレート状の固定心棒200」「略プレート状のロック心棒240」は、それら機能からみて、それぞれ、訂正後発明1の「主プレート(20)」「補助プレート(40)」に相当する。
甲8発明の固定心棒200における「本体部205」「首部225」「頭部230」は、それぞれ、訂正後発明1の主プレート(20)における「ベース板(22)」「該ベース板(22)の先端に突設した差込片(24)」「該差込片(24)の先端に側方へ向けて突設された抜止め片(26)」に相当する。
甲8発明のロック心棒240における「1本のロックピン265」と、訂正後発明1の補助プレート(40)における「一対の回止め片(44)(44)」とは、「回止め片」で共通する。
甲8発明の「固定心棒200の係合部材215,220が、それぞれロック心棒240の係合部材260,255上を摺動することにより、ロック心棒240と固定心棒200とが係合し」と、訂正後発明1の「主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され」とは、「主プレートと補助プレートを有し」の点で共通する。
甲8発明のロック心棒240における「本体部245」は、訂正後発明1の補助プレート(40)における「スライド板(42)」に相当する。
そして、甲8発明の固定心棒200とロック心棒240とのスライドの関係と、訂正後発明1の「補助プレート(40)は、主プレート(20)に対して、前記主プレート(20)の差込片(24)の突出方向に沿ってスライド可能に係合したスライド板(42)」を具えることは、「補助プレートは、主プレートに対して、前記主プレートの差込片の突出方向に沿ってスライド可能に係合し得るスライド板」を具える点で共通する。
甲8発明の「固定心棒200の係合部材215,220が、それぞれロック心棒240の係合部材260,255上を摺動することにより、・・・ケーブル35およびロック40を有するロック機構を、固定心棒200の孔210とロック心棒240の孔250に挿入して」は、実質的に、訂正後発明1の「主プレート(20)と補助プレート(40)には、補助プレート(40)を前進スライドさせ、差込片(24)と回止め片(44)とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部(28)(48)が形成されている」ことを意味する。

そうすると、両発明の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「パソコン等の器具の本体ケーシングに開設された盗難防止用のスリットに挿入される盗難防止用連結具であって、
主プレートと補助プレートを有し、
主プレートは、ベース板と、該ベース板の先端に突設した差込片と、該差込片の先端に側方へ向けて突設された抜止め片とを具え、
補助プレートは、主プレートに対して、前記主プレートの差込片の突出方向に沿ってスライド可能に係合し得るスライド板と、該スライド板を差込片の突出方向にスライドさせたときに、差込片に重なり、逆向きにスライドさせたときに、差込片との重なりが外れるようにスライド板の先端に突設された回止め片とを具え、
主プレートと補助プレートには、補助プレートを前進スライドさせ、差込片と回止め片とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部が形成されている、
パソコン等の器具の盗難防止用連結具。」

[相違点1]
訂正後発明1は、補助部材に設けられた回止め片が、差込片を挟んで重なる一対の回止め片であるのに対して、甲8発明は、1本のロックピン265(回止め片)を有するに過ぎない点。

[相違点2]
訂正後発明1は、主プレートと補助プレートとを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持されており、補助プレート(40)のスライド板(42)は、主プレート(20)に対して、主プレート(20)の差込片(24)の突出方向に沿ってスライド可能に係合しているのに対して、
甲8発明は、主プレートと補助プレートとは、スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し得る(補助プレートのスライド板は、主プレートに対して、主プレートの差込片の突出方向に沿ってスライド可能に係合し得る)ものであるが、両プレートは分離不能に保持されているものではない点。

次に、これら相違点について検討する。

(相違点1について)
被請求人は、第2回答弁書で、
「第8号証は、国際特許出願PCT/US96/01683(国際公開番号WO96/24736)(乙第2号証)を基礎として国内段階に移行した外国語特許出願であるから、甲第8号証の出願がロックピンの個数を限定しているか否かは、最終的には、国際出願の原語に戻って判断するべきである(特許協力条約第46条)。国際出願を原語で公開した国際公開公報(乙第2号証)8頁16ないし18行には、ロックピンの個数について、次のように記載している。"Body portion 245 includes an aperture 250, two engagement members (engagement member 255 and engagement member 260), and a locking pin 265." この部分を正確に訳すると「訳:本体部(245)は孔(250)、2つの係合部材(係合部材(255)と係合部材(260))、及び1個のロックピン(265)を含む。」となる。甲第8号証に接した当業者は、甲第8号証発明はピンを1本に限定していると理解する筈である。
しかも、周知・慣用技術は構造の簡素化に向けられるから、わざわざ係合部材を孔(250)の位置までのばして、個数を2個に増やすことは、あり得ない。むしろ、部品点数の減少という自明の課題の存在が決定的な阻害事由となる。」(第2回答弁書7頁)、
「甲第8号証の構成から、構成要件Dが規定している一対の回止め片(44)が、差込片(24)を挟んで突設しているスライド板(42)の構成を案出するには、請求人が主張する2段階の上記仮定(1)、(2)を必要とする(当審注:上記(1)、(2)は、答弁書では、いわゆる丸囲み数字の1、2である。また、仮定(1)は、係合部材(255)または係合部材(260)を孔(250)側に延長させること、仮定(2)は、係合部材(255)または係合部材(260)の下端にロックピン(265)を追加することである。)。それは当業者にとって、構成要件Dのスライド板(42)が容易には想到できないことを意味している。しかも本体部(245)から突設したロックピン(265)と対向する位置に、ロックピンを更に突設するには、係合部材(255)または(260)をロック心棒の中央まで延ばさねばならず、そうすると係合部材の先端は孔(250)を塞ぐため、それは出来ないという二律背反に陥り、阻害要因がある。請求人の主張は本件特許発明を知った上で、初めて言うことが出来たものであり、まさに後知恵である。」(第2回答弁書7?8頁)と主張する。

また、請求人は、弁駁書で、
「これらの相違点は下記のとおり甲第1号証発明1に対し周知・慣用技術を適用(付加、削除、転換等)して導き出されるものであり微差である。器具等の構造物の設計において、構造体の単純化・簡素化、部品及び構造体の個数・寸法変更、周知形状への変形・加工等は必要に応じて適宜用いられる周知・慣用技術であり技術常識である。甲第1号証には、ピン(17)の個数を限定する記載はなく、ピン(17)が1個に限る旨の記載もない。
そうすると、甲第1号証の図1等の構成において、周知・慣用技術である個数変更により、ピン(17)が突出した第2部材(14)の個数を2個とすれば、一対のピン(17)が差込片(ロック部材(15)と繋った真直部)を挟んで重なる構成が導き出される。」(弁駁書8?9頁)と主張し、
また、口頭審理陳述要領書で、「訂正後発明1は、主プレート(20)と補助プレート(40)の2部材がスライド可能に係合し、T字状部(抜止め片(26)及び差込片(24))とピン(回止め片(44))とが重なりあってロック状態になるという構成が主な構成であるところ、この構成に該当する構成は甲第8号証の図7に記載されている。さらに、甲第8号証の図8及び図9には、ピンの個数を2個にした連結具が記載されている。
一方、ピンの個数を2個にすることは、個数変更という周知・慣用技術である。また、ピンの個数を2個にすることは、甲第8号証の図8及び図9に加えて、本件特許の出願前に公開された、乙第3号証(図3、図4)、甲第9号証(図3、図4、図9)、甲第11号証(図9B、図9C)、甲第20号証(図3、図5)に記載されたセキュリティロックに採用されてており、この点においても周知・慣用技術である。
すなわち、甲第8号証には訂正後発明1の主な構成が記載されており、ピンの個数を2個とすることは周知・慣用技術であるので、甲第8号証の図7の構成からピンの個数を2個にした構成は、当業者が適宜設計変更して容易に導き出せることである。
ところで、被請求人は、第2回答弁書の7頁の16行目ないし18行目において、周知・慣用技術は、構造の簡素化に向けられるから、わざわざ係合部材を孔(250)の位置までのばして、個数を2個に増やすことはあり得ず、むしろ、部品点数の減少という自明の課題の存在が決定的な阻害事由となると主張している。
しかしながら、前述のとおり、周知・慣用技術は、構造の簡素化に限るものではなく、構造の各種変形、品質向上、付加価値の追加等にも向けられることは自明である。」(口頭審理陳述要領書13頁)とも主張する。

そこで検討すると、
請求人が主張するように、パソコン等の器具の本体ケーシングに開設された盗難防止用のスリットに挿入され、スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能な主部材と補助部材とからなる盗難防止用連結具において、補助部材に設けられた一対の回止め片が、主部材の差込片を挟んで重なるように構成する技術は、本件特許明細書の従来技術(図9。特許文献では特開平11-148262号公報。乙3)、甲8(図8?図10),甲9,甲11、甲20にみるように、本件特許出願の前に周知であったといえる。
また、甲8発明は、ロックピンが1本であるが、甲8の他の記載をみても、ロックピンを1本にすることに特別な技術的意義があるとは記載されておらず、また、図8?図10に示される他の態様では、2本のロックピンを使用しており、甲8には、2本のロックピンを使用することを回避すべきとする記載はない。
そうすると、上記周知技術に接した当業者であれば、甲8発明において、固定心棒200の首部225を挟んで重なるように、ロック心棒240のロックピン265をもう1本追加することは、容易に発想し得ることである。
その際、ロック心棒240の構成も変更する必要があるが、ロック心棒240の両側にある係合部材260,255を延長して、本体部245に対応する本体部をもう一つ形成し、形成した本体部の下端に追加のロックピンを設けるとともに孔250に相当する孔をもう一つ形成することは、当業者が、その通常の創作能力を発揮すれば、容易になし得る程度のことである。
具体的には、例えば、延長された係合部材260,255同士を、つなげることにより、筒状部材を扁平にしたようなロック心棒240を形成する態様や、一枚の板の曲げ加工によるのであれば、係合部材260,255のうち、係合部材260だけを延長して、その延長部分にロックピンと孔を設け、折り曲げたときに、延長した係合部材260が係合部材255に接する(なお、接することは必須ではなく、必要な大きさの孔を確保できれば、隙間を開けてもよいだろう。)ように形成する態様が考えられる。

(相違点2について)
訂正後発明1の連結具は、「主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され」るものであるので、常時、主プレートと補助プレートとをスライド可能に係合しておくものと認められる。したがって、例えば、主プレート(20)と補助プレート(40)が、通常は分離しており、本体ケーシング(84)のスリット(82)への取付操作の途中段階になって初めてスライド可能に係合するような連結具は、訂正後発明1に含まれないと解される。
一方、甲8発明の連結具は、固定心棒200とロック心棒240が、対になって使われるものであるが、甲8には、図7の連結具に関して、「常時、主プレートと補助プレートとをスライド可能に係合しておくという発想」(つまり、あらかじめ補助プレートを主プレートに係合させたままスリットへの取付作業すなわちロック作業を行うという発想)は、明記されていない。
すなわち、甲8では、図7について記載されているのは、「操作時に、使用者は頭部230をスロット15と整合させて頭部230をスロット15へ挿入する。頭部230とスロット15との不整合により頭部230と壁10の内面20とが係合し、それによりロックインターフェース55のコンピュータ5からの除去を阻止する。ロックピン265のスロット15への続く挿入が頭部230とスロット15の再整合を阻止する。係合部材220の係合部材255上、および係合部材215の係合部材260上の慴動によりロック心棒240と固定心棒200とが係合する。」(第14頁第20?26行)というものであり、このうち「ロックピン265のスロット15への続く挿入が頭部230とスロット15の再整合を阻止する。」とは、取付操作の途中段階で、ロック心棒240(補助プレート )のロックピン265がスロット15に挿入されるということであって、取付操作の途中段階で、固定心棒200(主プレート)に対してロック心棒240(補助プレート)が初めて係合される(組み合わされる)とは、限らないし、逆に、取付操作の最初の段階から、両者が係合されている(組み合わされている)と認定することもできない。
つまり、請求人が主張するように、「甲第8号証には、どの時点でロック心棒(240)と固定心棒(200)とを係合させるかについては、何ら限定がされていない。」(口頭審理陳述要領書第11頁)のであるが、それは、また、「常時、主プレートと補助プレートとをスライド可能に係合しておくという発想」(つまり、あらかじめロック心棒(240)を固定心棒(200)に係合させたままロック作業を行うという発想)についても、甲8に記載も示唆もないことを示している。

次に、請求人は、、訂正後発明1は甲8に記載された発明と周知・慣用技術または甲9に記載された発明とに基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと主張するので、これを検討する。

(i)周知技術の適用について
周知・慣用技術の適用について、請求人は、
「(本件特許の)構成要件Bの「分離不能に保持」は、部品の紛失防止を図るためである。
盗難防止用の連結具に限らず、分離を目的としていない別個独立の部品で構成された器具等において、取り扱い性の向上、分解防止、紛失防止等は、自明な課題である。そして、この課題解決のために、部品同士を結合し「分離不能に保持」することは、器具等の構成を考える場合の通常の設計手法であり、周知・慣用技術である。
甲第8号証の図7において、「固定心棒(200)」と「ロック心棒(240)」は、互いに分離した別個独立の部品である。一方、構成B1のとおりスロット(15)への挿入時には、両部品は「スライド可能に係合」し、両部品は一体となって使用される。この場合、スロット(15)へ挿入しない不使用時にも両部品が一体になっていれば、すなわち両部品が「分離不能に保持」されていれば、使用時に両部品を係合させる手間が省けて取り扱いが容易になるとともに、一方の部分の紛失防止も図れることは容易に予測できることである。また、甲第8号証には、「固定心棒(200)」と「ロック心棒(240)」とを「分離不能に保持」することの阻害要因は見当たらない。
すなわち、甲第8号証発明1において、本件発明1の構成要件Bの後段部の「且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され、」に該当する「固定心棒(200)と「ロック心棒(240)とを分離不能に保持」することを適用することは、自明な課題を解決するために周知・慣用技術を適用することに過ぎず、当業者が容易に想到できたことである。」(審判請求書49頁)、
「しかしながら、スライドと分離不能とを両立させた「2機能を発揮する連結構造」は、身の回りの日用品においても見受けられる。例えば、ハサミ、ペンチ・ニッパー等の工具、開閉式のケース・容器、引出式の小物入れが挙げられる。これらは、部材同士のスライドを可能にしつつ、部材同士が「分離不能に保持」された「2機能を発揮する連結構造」を備えている。すなわち、誰もが接する身の回りの日用品においても前記各種例が見受けられるように、スライドと分離不能とを両立させた構造は、盗難防止用の連結具に限らず、器具等の構成を考える際の周知・慣用技術であり、部材同士がスライドする構成を考える際の周知・慣用技術であるともいえる。このことをより明らかにするために、下記のとおり、周知・慣用技術を示す証拠を追加する。」(弁駁書37頁)、
「しかしながら、甲第12号証ないし甲第14号証と訂正後各発明のパソコン等の器具の盗難防止用連結具とは、2部材がスライド可能に係合し使用時に2部材をスライドさせる構造を備えた器具という点で共通し、スライドと分離不能とを両立させた構造を備えた器具という点でも共通する。
また、甲第12号証ないし甲第14号証は、誰もが接する身の回りの日用品に関する周知・慣用技術が記載されており、これらは、盗難防止用の連結具に限らず器具等の設計をする者が把握している技術であるといえ、構造物全般についての周知・慣用技術であるともいえ、部材同士がスライドする構成を考える際の周知・慣用技術であるともいえる。
したがって、甲第12号証ないし甲第14号証の構成は、盗難防止用連結具についても置換可能な構成ということができる。」(口頭審理陳述要領書21?22頁)、
「また、甲8発明及び甲11発明は、取付作業の初期段階で両プレートを係合させることが必要ではなくても、結局は検証写真5のように両プレートを係合させることが不可欠です。この点においても、甲8発明及び甲11発明に触れた当業者は、両プレートが分離不能に保持されていれば、両プレートを係合させる作業は不要になり、取り扱い性が向上することは容易に理解できます。
さらに、甲8発明及び甲11発明に係る連結具は、パソコン等の器具と常に一体不可分の器具ではなく、使用時に、取付け対象のパソコン等の設置位置まで持ち運んで取付け作業を行うものです。このため、甲8発明及び甲11発明において、両プレートが一体の状態で分離不能に保持されていれば、持ち運び及びこれに続く取付作業が容易になり、取り扱い性が向上することは、当業者は容易に理解できます。」(口頭審理陳述要領書33頁)
と主張する。

これに対して、被請求人は、「請求人は、主プレート(20)と補助プレート(40)とのスライドと分離不能とを両立させた2機能を発揮する連結構造が周知・慣用技術であるとして、甲第12号証、甲第13号証、甲第14号証を追加している(37頁(2)項)。ところが請求人が提出した甲第12号証は化粧品ケース、甲第13号証は錠剤入れ、甲第14号証4は巻煙草、妻楊枝入れの例であって、これらは盗難防止用連結具の技術分野とは大きく異なり、それらを盗難防止用連結具へ適用することを示唆する記載は甲第11号証にはない。・・・(中略)・・・よって、訂正後発明1の構成要件Bの後段部及び構成要件Hの構成は、当業者が周知・慣用技術を単に適用しただけでは、容易に想到できないことは明らかである。」(第2回答弁書13頁)と主張している。

そこで、検討するに、請求人の主張する周知技術は、例えば、化粧品ケース等で、ケース本体に蓋をスライド係合可能にしたものであって、分離不能にしたものは、蓋をケース本体にスライド係合する手間が省け(係合作業の省略による取り扱い性向上)、また、紛失防止にもつながるというものである。
請求人の提示する例示文献は、化粧品ケース、錠剤や巻たばこ等を入れる容器などの日用品であるところ、技術事項を一応、上位概念として把握すると、2つの部材をスライド係合して用いる物であって、相対的に所定のスライドをさせて所定の機能を発揮させる物(甲12では、蓋体を閉めた状態から所定量スライドさせると、本体の化粧品収納凹部が現れる。)において、スライド操作により所定量のスライドを超えてスライドが進んでしまい、係合が外れて分離してしまうことがあり、この分離を防止するために「抜け止め」(外れ止め)を設ける技術を有する日用品である。(以下、この日用品の技術を、「スライド可能に係合かつ分離不能に構成された2つの部材を有する日用品の技術」という。)。
当該「スライド可能に係合かつ分離不能に構成された2つの部材を有する日用品の技術」は、抜け止めがないときに、一旦、係合が外れても、再度、係合すれば問題はないが、それでは再係合する手間がかかるので、その物本来の機能を保持しつつ、抜け止め(外れ止め)機能を設けておくと、便利であるという意義をもつことが理解される。
ここで、甲8発明も、2つの部材をスライド係合して用いる物であって、相対的に所定のスライドをさせて所定の機能を発揮させる物(主プレートが所定のスライドをすることにより、ロックされた連結具をもたらす)の点で、「スライド可能に係合かつ分離不能に構成された2つの部材を有する日用品の技術」と共通する点はあるとはいえる。
しかし、請求人が例示する技術における化粧品ケース、錠剤や巻たばこ等を入れる容器などの日用品は、甲8発明の盗難防止用連結具(パソコン等の器具の本体ケーシングに開設された盗難防止用のスリットに挿入され、スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能な主部材と補助部材とからなる盗難防止用連結具)とは、明らかに技術分野を異にするものであるので、化粧品ケース、錠剤や巻たばこ等を入れる容器などの日用品の技術が、誰もが日常的に接する物品に係るものであったとしても、それだけでは、当業者が、その技術を甲8発明の盗難防止用連結具に適用する動機付けはないというべきである。
しかも、仮に請求人の主張する日用品の技術をそのまま甲8発明の盗難防止用連結具に適用するとしても、本件で対象とされる盗難防止用連結具(パソコン等の器具の本体ケーシングに開設された盗難防止用のスリットに挿入され、スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能な主部材と補助部材とからなる盗難防止用連結具)は、実際上、片手では掴めるが、両手でスロット(スリット)に取り付ける操作が困難である程度の小型である(本件訂正明細書の【0003】)ところ、甲8発明に対し、周知技術とされる「スライド可能に係合かつ分離不能に構成された2つの部材を有する日用品の技術」を適用した場合、取り付け作業に際して主プレートと補助プレートとを係合する操作を省略できることは好ましいものの、甲8発明の盗難防止用連結具をスロット(スリット)に取り付ける作業における取り扱い性(とりわけ、主プレートを突出させた状態で盗難防止用連結具を片手で円滑に掴んで作業ができること)が確保されるとは必ずしも限らない(当業者といえども、試作するなどしてみないと、実際の取り扱い性はわからないものである)。そうすると、当業者は、取り扱い性の確保が保証される見通しをもてない状況で、周知技術とされる「スライド可能に係合かつ分離不能に構成された2つの部材を有する日用品の技術」をそのまま甲8発明の盗難防止用連結具に適用してみようとは考えないというべきである。
したがって、当業者であれば、甲8発明において、周知技術とされる「スライド可能に係合かつ分離不能に構成された2つの部材を有する日用品の技術」を適用して、相違点2の構成(常時、主プレートと補助プレートとをスライド可能に係合し、かつ、スライドと分離不能を有する技術を適用して分離不能にすること)とすることを容易に発想し得ないものである。
なお、請求人は、審理事項通知書において参考文献として示された、実開昭51-155294号公報(以下「参考文献1」という)、実開昭58-25462号公報(以下「参考文献2」という)について、口頭審理陳述要領書で「参考文献1の第1図の構造及び参考文献2の構造は、甲12号証ないし甲14号証と同様に、直線方向のスライドと分離不能とを両立させた周知・慣用技術として捉えることができます。」と主張しているが、これら技術は、扉の掛け金具に関するもので、やはり甲8発明の盗難防止用連結具とは明らかに技術分野を異にするものであり、当該技術を甲8発明に適用して相違点2の構成を得ることは、容易想到でない。

(ii)甲9の係合構造の適用について
また、請求人は、甲8発明に甲9の係合構造を適用することにより相違点2の構成とすることは容易である旨を主張しているので、これについても検討する。
請求人の主張の要点は、「分離を目的としていない別個独立の部品で構成された器具等において、取り扱い性の向上、分解防止、紛失防止等は、自明な課題である」として、「パソコン等の器具の本体ケーシングに開設された盗難防止用のスリットに挿入され、スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能な主部材と補助部材とからなる盗難防止用連結具」の一種である甲9の技術(ピン(44)と細長の溝(66)とでスライド可能にする係合構造)を甲8発明に容易に適用できるということである。
しかし、甲9における取り付け機構12(連結具)は、交差部材54を有するスピンドル46が、ピン60を有する当接機構56に関係なく、独自に回転可能なものであり、しかも、ピン60が交差部材54に対してスライド移動するものでもないから、甲8発明や,後述の甲11発明とは、連結機構が全く異なるものである。
また、甲9の技術として認定されるのは、「取り付け機構12において、円筒状のスピンドル46の外周面に約90°に渡って形成した溝66に、円筒状のハウジング36の内部に突出するように固定したピン44を係合させて、スピンドル46とハウジング36の間の相対的に回転可能な角度を約90°に規制する技術」であるが、甲8発明には、円筒状のスピンドルや円筒状のハウジングに相当する部品はない。
こうしたことから、甲8発明に対して甲9の技術を具体的にどのように適用すれば、相違点2の構成が得られるかを、当業者は理解することができない。
したがって、甲9の技術に着目することでは、当業者が相違点2の構成に容易に到達することはできない。

(iii)よって、甲8発明において、周知技術とされる「スライド可能に係合かつ分離不能に構成された2つの部材を有する日用品の技術」又は甲9の技術を適用して相違点2に係る訂正後発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることではない。

(効果について)
訂正後発明1の効果について確認しておく。
訂正後発明1の「主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され」のうち、「且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され」は、審査段階における平成16年3月15日付け手続補正により追加されたものであるところ、
そのときの意見書での説明は、『主プレート(20)と補助プレート(40)との係合関係をより明確化するために、「相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持される」旨規定しました。この補正は、当初明細書【0021】や図2等に基づくものであり、新規事項の追加ではありません。』『本発明の盗難防止用連結具(10)は、主プレート(20)と補助プレート(40)がスリット(82)の挿入方向に沿って相対的にスライド可能であり、且つ、主プレート(20)と補助プレート(40)が分離不能であるため、スリット(82)に片手で挿入して取り付けでき、作業性が良好という利点があります。』というものであり、
「主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され」の意義は、明細書に明記された「部品の紛失防止」の効果だけでなく、片手での取付作業における作業性が良好である効果も期待できると説明されている。
そして、後者の効果は、明細書には明記がないものの、当業者であれば理解できることである。
したがって、訂正後発明1は、相違点2に係る構成を有することにより、特有の効果を期待することができるものである。
また、訂正後発明1の、補助部材に設けられた回止め片が、差込片を挟んで重なる一対の回止め片である点の効果については、上記「1.無効理由1(拡大先願)について」の「(1)」「ア.訂正後発明1について」において示したとおりである。

(まとめ)
よって、訂正後発明1は、甲8に記載された発明及び周知技術または甲9に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.訂正後発明2について
訂正後発明2と甲8発明を対比すると、
上記ア.で対比した事項での相当関係等があるのに加えて、
さらに、甲8発明の「ケーブル35およびロック40を有するロック機構30を、固定心棒200の孔210とロック心棒240の孔250に挿入して、固定心棒200とロック心棒240との係合を維持し、かつコンピュータ5の定着物への係止に使用する、携帯コンピュータ5の盗難を防止するためのロックインターフェース55」は、訂正後発明2の「固定構造物(88)への連結用ケーブル(72)とパソコン(80)等の器具とを繋ぐ盗難防止用ケーブルの連結具」に相当する。
そうすると、両者の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「パソコン等の器具の本体ケーシングに開設された盗難防止用のスリットに挿入され、固定構造物への連結用ケーブルとパソコン等の器具とを繋ぐ盗難防止用ケーブルの連結具であって、
主プレートと補助プレートを有し、
主プレートは、ベース板と、該ベース板の先端に突設した差込片と、該差込片の先端に側方へ向けて突設された抜止め片とを具え、
補助プレートは、主プレートに対して、前記主プレートの差込片の突出方向に沿ってスライド可能に係合し得るスライド板と、該スライド板を差込片の突出方向にスライドさせたときに、差込片に重なり、逆向きにスライドさせたときに、差込片との重なりが外れるようにスライド板の先端に突設された回止め片とを具え、
主プレートと補助プレートには、補助プレートを前進スライドさせ、差込片と回止め片)とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部が形成されており、
該係止部にケーブルを取り付け、又は錠を用いてケーブルを連結する、
パソコン等の器具の盗難防止用連結具。」

[相違点3]
訂正後発明2は、補助プレート(40)は、主プレート(20)に対して、前記主プレート(20)の差込片(24)の突出方向に沿ってスライド可能に係合したコ字状のスライド板(42)と、該スライド板(42)を差込片(24)の突出方向にスライドさせたときに、差込片(24)を挟んで重なり、逆向きにスライドさせたときに、差込片(24)との重なりが外れるようにスライド板(42)の先端に突設された一対の回止め片(44)(44)とを具えるのに対して、
甲8発明は、ロック心棒240(補助プレート)のスライド板は、1本のロックピン265(回止め片)を有するに過ぎず、また、スライド板の形状は、訂正後発明2でいうような作用を有する一対の回止め片を設けることが可能であるような「コ字状」とはいえない点。

[相違点4]
訂正後発明2は、主プレートと補助プレートとを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持されているのに対して、
甲8発明は、主プレートと補助プレートとは、スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し得る(補助プレート のスライド板は、主プレートに対して、前記主プレートの差込片の突出方向に沿ってスライド可能に係合し得る)ものであるが、両プレートは分離不能に保持されているものではない点。

そこで、相違点3、4について検討する。

(相違点3について)
「ア.訂正後発明1について」で検討したとおり、甲8発明において、固定心棒200の首部225を挟んで重なるように、ロック心棒240のロックピン265をもう1本追加することは、容易に発想し得ることである。
その際、ロック心棒240の構成も変更する必要があり、ロック心棒240の両側にある係合部材260,255を延長して、本体部245に対応する本体部をもう一つ形成し、形成した本体部の下端に追加のロックピンを設けるとともに孔250に相当する孔をもう一つ形成することになる(これ自体は、当業者が、その通常の創作能力を発揮すれば、容易になし得る程度のことである。)。
しかし、具体的には、延長された係合部材260,255同士を、つなげることにより、筒状部材を扁平にしたようなロック心棒240を形成する態様や、一枚の板の曲げ加工によるのであれば、係合部材260,255のうち、係合部材260だけを延長して、その延長部分に孔を設け、折り曲げたときに、延長した係合部材260が係合部材255に接する(なお、接することは必須ではなく、必要な大きさの孔を確保できれば、隙間を開けてもよいだろう。)ように形成する態様が考えられるに過ぎず、これらの態様では、コ字状のロック心棒240(スライド板)が形成されるものとはいえない。
したがって、甲8発明において、相違点3に係る訂正後発明2の構成を採用することは、容易とはいえない。

(相違点4について)
相違点4は、「ア.訂正後発明1について」で相違点2に関して検討したのと同様の理由により(なお相違点4は相違点2と基本的に同じである。)、甲8発明において、周知技術とされる「スライド可能に係合かつ分離不能に構成された2つの部材を有する日用品の技術」または甲9に記載された技術を適用して、相違点4に係る訂正後発明2の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(まとめ)
よって、訂正後発明2は、甲8に記載された発明及び周知技術または甲9に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ.訂正後発明3について
訂正後発明3(訂正後の請求項5に係る発明)と甲8発明を対比すると、上記ア.で対比した事項での相当関係等が認められる。
また、上記「1.無効理由1(拡大先願)について」の「(1)」「ウ.訂正後発明3(請求項5)について」で述べたように、
訂正後発明3は、訂正後発明1,訂正後発明2、訂正後の請求項3に係る発明、訂正後の請求項4に係る発明のいずれかの構成を含むことを前提としたものであるところ、
請求項3,4は無効理由2(進歩性欠如)の対象ではないこともあり、訂正後発明3のうち、訂正後の請求項3に係る発明及び訂正後の請求項4に係る発明を含む部分は、甲8発明から容易といえないことは明らかである。
そこで、訂正後発明3のうち、訂正後発明1,訂正後発明2を含む部分について、相違点を明らかにして検討すれば足りる。
そうすると、訂正後発明3のうち、訂正後発明1,訂正後発明2を含む部分は、訂正後発明1,訂正後発明2について示した相違点1?4に加えて、あるいは相違点1?4に関連して、次の点で相違する。

[相違点5]
訂正後発明3は、補助プレートのスライド板は、コ字状であって、主プレートがスライド可能に嵌まる凹部空間を形成しているのに対して、
甲8発明は、ロック心棒240(補助プレート)は、図7をみても明らかなように、本体部245とその両側の係合部材255,260とからなり、固定心棒200(主プレート)がスライド可能に嵌まる凹部空間を形成しているといえるが、全体形状(断面形状)がコ字状といえるか明らかでない点。

そこで、相違点について検討する。

相違点5に係る訂正後発明3は、補助プレートのスライド板がコ字状である特定を含んでおり、これは上記「イ.訂正後発明2について」で検討した相違点3にみられる特定と同様なものである。
そうすると、上記「イ.訂正後発明2について」の相違点3でした判断と同様の理由により、甲8発明において相違点5の構成を採用することは、容易とはいえない。
また、相違点2?4の構成に到達することが容易でないことは、前述したとおりである。

(まとめ)
よって、訂正後発明3(訂正後の請求項5に係る発明)は、甲8に記載された発明及び周知技術または甲9に記載された技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)無効理由2(進歩性)(その1)についてのまとめ
よって、訂正後発明1?3(順に、訂正後の請求項1,2,5に係る発明)は、いずれも、甲8に記載された発明及び周知技術または甲9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないので、その特許は、特許法第184条の13で読み替えられた同法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当しない。


3.無効理由2(進歩性)(その2)について
(1)対比・判断
ア.訂正後発明1について
訂正後発明1と甲11発明とを対比すると、
甲11発明の「携帯コンピュータ、デスクトップコンピュータ等の盗難にあう機器13」「盗難にあう機器13に連結するための器具」「機器13の外殻17」「セキュリティスロット」は、
それぞれ、訂正後発明1の「パソコン(80)等の器具」「盗難防止用連結具」「器具の本体ケーシング(84)」「スリット(82)」に相当する。
甲11発明の「挿入プレート1」「サドル3」は、その基本機能からみて、それぞれ、訂正後発明1の「主プレート(20)」「補助プレート(40)」に相当する。なお、ここで、「サドル3」のサドル本体は、2つのフラップ30,30とブリッジ部とからなり、断面U字状であるところ、訂正後発明1の「補助プレート(40)」は、本件特許の図2をみる限りコ字状であるものの、これもプレートと表現されていることを参酌すると、甲11発明の「サドル3」もプレートの範疇に入ると理解することが妥当である。
甲11発明の挿入プレート1(主プレート)における、「タブ2」「中子7」「ロック部材15」は、それぞれ、訂正後発明1の主プレート(20)における「ベース板(22)」「差込片(24)」「抜止め片(26)」に相当する。
甲11発明のサドル3(補助プレート)における、「サドル本体(2つのフラップ30,30とブリッジ部とからなる)」「2つのピン34,34」は、それぞれ、訂正後発明1の「スライド板(42)」「一対の回止め片(44)(44)」に相当する。
また、甲11発明の「前記タブ2と前記サドル3は、前記サドル3の前記タブ2への合わさりを維持する取付け機構11、14を含み、前記取付け機構11、14は、前記タブ2及び前記フラップ30,30が開口を形成する部分を含み、2つの開口14をあわせるとケーブル又は南京錠のアーム(対象物)を挿入することができ」における「取付け機構11、14」は、訂正後発明1の「主プレート(20)と補助プレート(40)には、補助プレート(40)を前進スライドさせ、差込片(24)と回止め片(44)とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部(28)(48)が形成されている」における「係止部(28)(48)」に相当する。

そうすると、両発明の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「パソコン等の器具の本体ケーシングに開設された盗難防止用のスリットに挿入される盗難防止用連結具であって、
主プレートと補助プレートを有し、
主プレートは、ベース板と、該ベース板の先端に突設した差込片と、該差込片の先端に側方へ向けて突設された抜止め片とを具え、
補助プレートは、主プレートに対して、前記主プレートの差込片の突出方向に沿ってスライド可能であるスライド板と、該スライド板を差込片の突出方向にスライドさせたときに、差込片を挟んで重なり、逆向きにスライドさせたときに、差込片との重なりが外れるようにスライド板の先端に突設された一対の回止め片とを具え、
主プレートと補助プレートには、補助プレートを前進スライドさせ、差込片と回止め片とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部が形成されている、
パソコン等の器具の盗難防止用連結具。」

[相違点a]
訂正後発明1は、主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持されており、補助プレート(40)のスライド板(42)は、主プレート(20)に対して、主プレート(20)の差込片(24)の突出方向に沿ってスライド可能に係合しているのに対して、
甲11発明は、サドル3(補助プレート)は、タブ2(挿入プレート1(主プレート)のベース板)に合わさる大きさであり、器具の組み立て状態では、サドル3は挿入プレート1上を無理なくスライドするものであり、サドル3が、タブ2に対抗する側であるフラップ30,30の合わせ面に係合する(engage)タブ2を覆って合わさり、かつ、ピン34,34がロック部材15に隣接して挟み込むように、ピン34,34がセキュリティスロットへ挿入される点。

そこで、上記相違点aについて検討する。

上記相違点aは、上記「2.無効理由2(進歩性)(その1)について」の「(1)」「ア.訂正後発明1について」で示した、訂正後発明1と甲8発明との「相違点2」と基本的に同じであるが、甲8発明と甲11発明には、構成上の差があるから、その点を踏まえて以下に検討を加える。

(i)甲11発明について
まず、甲11発明では、サドル3(補助プレート)は、タブ2(挿入プレート1(主プレート)のベース板)に合わさる大きさであり、器具の組み立て状態では、サドル3は挿入プレート1上を無理なくスライドするものであり、サドル3が、タブ2に対抗する側であるフラップ30,30の合わせ面に係合する(engage)タブ2を覆って合わさり、かつ、ピン34,34がロック部材15に隣接して挟み込むように、ピン34,34がセキュリティスロットへ挿入されるものである。
ここで、甲11発明では、挿入プレート1に対してサドル3が合わさる際に、サドル3のピン34,34がロック部材15に隣接して挟み込むようにピン34,34がセキュリティスロットへ挿入されることを、サドル3のフラップ30、30が案内する機能を果たしていることは明らかであり、また、訂正後発明1の「スライド可能に係合し」は、スライド可能に案内することも含む表現と解されるから、甲11発明は、「挿入プレート1(主プレート)とサドル3(補助プレート)とは、スリットへの挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し得る」ものであり、かつ、「補助プレートは、主プレートに対して、前記主プレートの差込片の突出方向に沿ってスライド可能に係合し得るスライド板」を有するものといえる。
請求人は、甲11について、口頭審理陳述要領書15?19頁で次のように主張している。
「 ア 検証写真1は、被請求人が販売している訂正後各発明等の実施品と同じ連結具から2本のピンを抜き取り、2部材を分離させたものである。この構成は甲第11号証の図9A、図9B及び図9Cに記載された連結具と基本構成は同じである。このため、検証写真1の連結具を甲第11号証発明の実施例とする。
・・・(中略)・・・
キ 検証写真2の状態から検証写真6のロック状態までの一連の工程は、挿入プレート(1)及びサドル(3)の両方を片手で掴んだ状態で行うことができる。」
「甲第11号証には、ロック部材(15)の挿入については、「操作の際、ロック部材15は、ロック解除状態では、セキュリティスロットへ挿入される。」(甲11:5欄51行目ないし53行目、甲11翻訳文:13頁下から1行目ないし14頁1行)の記載があるのみであり、サドル(3)のスライドについては、「サドル3は、挿入プレート1上を無理なくスライドする。」(甲11:6欄3行目ないし43行目、甲第11翻訳文:14頁12行)の記載があるのみである。
すなわち、甲第11号証には、どの時点で挿入プレート(1)とサドル(3)とを係合させるかについては、何ら限定がされていない。」
「これに対し、甲第11号証発明では、甲第11号証の図9Cのように、コ字状のサドル(3)の側部に挿入プレート(1)の端部が露出し、本件訂正明細書等の図9の従来例とは構成が異なっている。このため、検証写真2のように、挿入プレート(1)とサドル(3)とを係合させ、挿入プレート(1)の先端のロック部材(T字状部)を十分前に出した状態で、連結具を片手で掴むことができる。
したがって、甲第11号証発明では、検証写真2の状態から検証写真6のロック状態までの一連の工程は、挿入プレート(1)及びサドル(3)の両方を片手で掴んだまま行うことができ、取付作業の初期段階から最終段階に至るまでの間、挿入プレート(1)とサドル(3)はスライド可能な係合関係が維持される。
すなわち、甲第11号証発明においても、訂正後各発明と同様に、本件訂正明細書等の図9の従来例では実現困難である片手で簡単に取り付けできるという効果が得られる。」
「甲第11号証の図9Cには、挿入プレート(1)とサドル(3)とが「スライド可能に係合し」た状態が明確に図示されている。
・・・(中略)・・・
すなわち、甲第11号証発明においても、取付作業の初期段階から最終段階に至るまでの間、挿入プレート(1)とサドル(3)とをスライド可能な係合関係に維持することは容易に実現可能であり、この点においても、被請求人の主張は失当である。」

そこで、検討すると、
まず、請求人が検証写真1で示す連結具(被請求人が販売する実施品)は、本件特許明細書の実施例のものとほぼ同じものであって、本件特許明細書の【0018】に、「連結具(10)を装着するには、まず、図6に示すように、補助プレート(40)をずらして下げ、主プレート(20)を補助プレート(40)の先端から突出させる。なお、図4に示すように、ベース板(22)をスライド板(42)よりも幅広く形成しておくと、主プレート(20)を突出させて、使用者の親指と人差し指で連結具(10)の両側を掴めば、主プレート(20)と補助プレート(40)の両方の板(22)(42)に指が当たるから、主プレート(20)を補助プレート(40)から突出した状態で保持できる。」とあるように、ベース板(22)をスライド板(42)よりも幅広く形成して片手で掴み易くしたものである。
これに対して、甲11のFIG.9Cに示される、挿入プレート1(主プレート)とサドル3(補助プレート)が合わさった状態をみる限り、両者の側面は、面一になっており、挿入プレート1がサドル3よりも幅広いものではない。
甲11発明のFIG.9に示される連結具を忠実に具現化した試作品であるのなら、検証の意味があるが、甲11発明にはない構成を有し、主プレートを補助プレートから突出した状態で片手で保持できるように工夫したものから、甲11発明の作用を実証しようとすることは無理がある。
したがって、甲11発明とは異なる構成を有する検証写真を用いて、甲11発明に関して、「検証写真2の状態から検証写真6のロック状態までの一連の工程は、挿入プレート(1)及びサドル(3)の両方を片手で掴んだ状態で行うことができる」とする請求人の主張を採用することができない。

次に、請求人は、「甲第11号証には、どの時点で挿入プレート(1)とサドル(3)とを係合させるかについては、何ら限定がされていない。」(口頭審理陳述要領書16頁)と主張する。
しかし、甲11の特許請求の範囲の請求項12?14には、盗難にあう機器に器具を連結する方法に関するものが記載されている。そのうち、請求項12の翻訳文は以下のとおりである。なお、下線は当審で付した。
「【請求項12】
盗難にあう機器に器具を連結する方法であって、機器の外殻にセキュリティスロットを備えており、前記器具は、セキュリティスロットロック部材を有する少なくとも一つの挿入プレートと、前記挿入プレートに相補的な2つのフラップ及び前記フラップを結合し、前記フラップとU字形を形成するするブリッジとを備えたサドルとを備え、前記プレートと前記フラップは開口を有し、前記方法は、
前記ロック部材をセキュリティスロットに挿入し、
前記ロック部材を、前記ロック部材が前記外殻の内側面に係合するロック状態に移行させ、
前記U字形のサドルを前記挿入プレートへ股がらせて、各フラップの内側面を前記プレートの向かい側に並列させ、それによって前記器具を前記機器へ取り付ける方法。」

この方法は、まず、挿入プレート(主プレート)のロック部材をセキュリティスロットに挿入し、次に、前記ロック部材を、前記ロック部材が前記外殻の内側面に係合するロック状態に移行させ、最後に、U字形のサドル(補助プレート)を前記挿入プレートへ股がらせて、サドルの各フラップの内側面を前記プレートの向かい側に並列させる(原文では、straddling said U-shaped saddle over said insert plate so that an inside surface of each flap juxtaposes an opposite side of said plate to therby secure said device to said equipment.)、というものである。
この記載によれば、U字形のサドル(補助プレート)と挿入プレート(主プレート)は、連結作業前は分離しており、連結作業中に係合されるものであることは、明らかである。
そうしてみると、甲11では、挿入プレート1(主プレート)とサドル3(補助プレート)とは、常時は分離しており、係合した関係にないものであり、スロットへの取付作業の途中で初めて、挿入プレート1に対してサドル3が合わさっていくものであることは、明記されているが、常時、主プレートと補助プレートとをスライド可能に係合しておく点については、明記も示唆もないということができる。

(ii)周知技術の適用について
甲11発明への周知技術の適用については、上記「2.無効理由2(進歩性)(その1)について」の「(1)」「ア.訂正後発明1について」「(相違点2について)」「(i)周知技術の適用について」で示したのと同様の理由により、甲11発明において、周知技術とされる「スライド可能に係合かつ分離不能に構成された2つの部材を有する日用品の技術」を適用して、相違点aに係る訂正後発明1の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。

(iii)甲9の係合構造の適用について
また、甲11発明に対する甲9の係合構造の適用については、やはり、上記「2.無効理由2(進歩性)(その1)について」の「(1)」「ア.訂正後発明1について」「(相違点2について)」「(ii)甲9の係合構造の適用について」で示したのと同様の理由により、甲9の技術に着目することで当業者が相違点aの構成に容易に到達することはできない。

(効果について)
訂正後発明1は、上記「2.無効理由2(進歩性)(その1)について」の「(1)」「ア.訂正後発明1について」「(効果について)」で示したのと同様に、相違点aに係る構成を有することにより、特有の効果を期待することができるものである。

(まとめ)
よって、訂正後発明1は、甲11に記載された発明及び周知技術または甲9に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ.訂正後発明2について
訂正後発明2と甲11発明とを対比すると、
上記ア.で対比した事項での相当関係等があるのに加えて、
さらに、甲11発明の「盗難にあう機器13に連結した当該器具にケーブル21を挿入するか、又は当該器具に南京錠23のアームを挿入しさらに当該アームにケーブル21を挿入して、ケーブル21を不動のポール25に取り付ける」という器具は、
訂正後発明2の「パソコン(80)等の器具の本体ケーシング(84)に開設された盗難防止用のスリット(82)に挿入され、固定構造物(88)への連結用ケーブル(72)とパソコン(80)等の器具とを繋ぐ盗難防止用ケーブルの連結具」かつ「該係止部(28)(48)にケーブル(72)を取り付け、又は錠(70)を用いてケーブル(72)を連結する」ものに相当するといえる。
また、甲11発明の2つのフラップ30,30とブリッジ部とからなる「サドル本体」は、全体の形状(断面形状)からみて、訂正後発明2の「コ字状のスライド板(42)」に相当するといえる。

したがって、両発明の一致点、相違点は次のとおりと認められる。

[一致点]
「パソコン等の器具の本体ケーシングに開設された盗難防止用のスリットに挿入され、固定構造物への連結用ケーブルとパソコン等の器具とを繋ぐ盗難防止用ケーブルの連結具であって、
主プレートと補助プレートとを有し、
主プレートは、ベース板と、該ベース板の先端に突設した差込片と、該差込片の先端に側方へ向けて突設された抜止め片とを具え、
補助プレートは、主プレートに対して、前記主プレートの差込片の突出方向に沿ってスライド可能であるコ字状のスライド板と、該スライド板を差込片の突出方向にスライドさせたときに、差込片を挟んで重なり、逆向きにスライドさせたときに、差込片との重なりが外れるようにスライド板の先端に突設された一対の回止め片とを具え、
主プレートと補助プレートには、補助プレートを前進スライドさせ、差込片と回止め片とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部が形成されており、
該係止部にケーブルを取り付け、又は錠を用いてケーブルを連結する、
パソコン等の器具の盗難防止用連結具。」

[相違点b]
上記ア.で示した相違点aと実質的に同じ相違点が認められる。ここでは相違点bという。

そこで、相違点bについて検討すると、「ア.訂正後発明1について」で示した理由と同じ理由により、甲11発明において、周知技術とされる「スライド可能に係合かつ分離不能に構成された2つの部材を有する日用品の技術」または甲9に記載された技術を適用して、相違点bに係る訂正後発明2の構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
したがって、訂正後発明2は、甲11に記載された発明及び周知技術または甲9に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ.訂正後発明3について
訂正後発明3(訂正後の請求項5に係る発明)と甲11発明とを対比すると、上記ア.で対比した事項での相当関係等が認められる。
また、甲11発明のサドル3の全体形状(断面形状)は、FIG9Bをみてもわかるよう に、訂正後発明3と同様に、コ字状であって、挿入プレート(主プレート)がスライド可能に嵌まる凹部空間を形成しているものと認められる。
そして、上記「2.無効理由2(進歩性)(その1)について」の「(1)」「ウ.訂正後発明3について」で述べたように、
訂正後発明3は、訂正後発明1,訂正後発明2、訂正後の請求項3に係る発明、訂正後の請求項4に係る発明のいずれかの構成を含むものであるところ、
請求項3,4は無効理由2(進歩性欠如)の対象ではないこともあり、訂正後発明3のうち、訂正後の請求項3に係る発明及び訂正後の請求項4に係る発明を含む部分は、甲11発明から容易といえないことは明らかである。
そこで、訂正後発明3のうち、訂正後発明1,訂正後発明2を含む部分について、相違点を明らかにして検討すれば足りる。
そうすると、訂正後発明3のうち、訂正後発明1,訂正後発明2を含む部分は、訂正後発明1,訂正後発明2について示した上記相違点a,bが実質的にあるだけである。
そして、相違点a,bについては、「ア.訂正後発明1について」「イ.訂正後発明2について」で検討したとおり、甲11発明において、周知技術とされる「スライド可能に係合かつ分離不能に構成された2つの部材を有する日用品の技術」または甲9に記載された技術を適用して、相違点a,bに係る構成を採用することは、当業者が容易に想到し得ることとはいえない。
したがって、訂正後発明3は、甲11に記載された発明及び周知技術または甲9に記載された技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)無効理由2(進歩性)(その2)についてのまとめ
よって、訂正後発明1?3(順に、訂正後の請求項1,2,5に係る発明)は、いずれも、甲11に記載された発明及び周知技術または甲9に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないので、その特許は、特許法第184条の13で読み替えられた同法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当しない。


4.無効理由3?5(記載要件)について

(1)無効理由3(サポート要件)について
まず、サポート要件判断の考え方について以下に整理しておく。
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合するかの判断は、請求項に係る発明と、発明の詳細な説明に発明として記載したものとを対比・検討することにより行い、両者の実質的な対応関係について検討する。ここで、実質的な対応関係についての検討は、請求項に係る発明が、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであるか否かを調べることにより行われるものである。

そこで、この観点から、本件の場合を検討する。
本件の訂正明細書に記載された発明の課題は、【0002】?【0004】の記載によれば、
従来の連結具は、端に掛止部(91)が形成された掛金具(92)と、該掛金具(92)に対し着脱可能に嵌まり合う扁平な卵形のカバー(93)からなり、掛金具(92)とカバー(93)は別個の独立した部品であったために、掛金具(92)の掛止部(91)をスリット(82)に挿入した後、掛金具(92))から手を離すと、掛金具(92)がスリット(82)に吊り下がったり、スリット(82)から脱落することがあり、カバー(93)を装着できないので、掛金具(92)を片手で押さえたままで、他方の手でカバー(93)を挿入する必要があり、作業性が悪い問題があったことに対応して、片手で簡単に取付けできるノート型パソコン等の器具の盗難防止用のケーブル連結具を提供することであると認められる。
この発明の課題に対して、本件訂正明細書及び図面(以下、あわせて「本件訂正明細書等」という。)には、具体的な構成として、図2?図8の実施例が示され、それは、主プレート(20)と補助プレート(40)とをスライド可能に係合して構成される連結具(10)であって、主プレート(20)のベース板(22)は、補助プレート(40)とスライド可能に係合するための一対の長孔(38)(38)がスリット(82)への挿入方向と平行な向きに開設されており、長孔(38)(38)には、補助プレート(40)のピン孔(58)(58)に嵌められたスプリングピン(60)(60)がスライド可能に嵌まっており(【0010】)、連結具(10)を装着するには、まず、補助プレート(40)をずらして下げ、主プレート(20)を補助プレート(40)の先端から突出させ、主プレート(20)の抜止め片(26)及び差込片(24)をスリット(82)に挿入し、スリット(82)に差込片(24)まで挿入した後、連結具(10)を左右何れかに90度捻り(【0018】)、次に、補助プレート(40)を主プレート(20)に対して本体ケーシング(84)側に押し込み、スライドさせることによって、差込片(24)と回止め片(44)が重なり、連結具(10)の回転が阻止される(【0019】)、というものである。
さらに、本件訂正明細書には、実施例の記載に加えて、「【0022】上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。」との記載がある。

次に、請求項に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるかどうかについて検討すると、
出願時の技術常識に照らし、また、本件訂正明細書の記載事項を参酌すれば、訂正後発明1の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化することができるというべきである。
また、訂正後発明2、訂正後の請求項3に係る発明、訂正後の請求項4に係る発明、訂正後発明3(請求項5)についても同様である。

(まとめ)
よって、訂正後の請求項1?5に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものであるので、その特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たさないものに対してなされたものではないから、特許法第123条第1項第4号に該当しない。

(2)無効理由4(明確性要件)について
まず、発明の明確性要件を判断するに当たっての考え方について以下に整理しておく。
発明が明確に把握されるためには、発明の範囲が明確であること、すなわち、ある具体的な物や方法が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されていることが必要であり、その前提として、発明を特定するための事項の記載が明確である必要がある。
そして、出願人は、発明を特定するための事項として、作用・機能・性質又は特性による表現形式を用いることができる。
しかし、機能・特性等による表現を含む請求項においては、発明の範囲が明確であっても、出願時の技術常識を考慮すると、機能・特性等によって規定された事項が技術的に十分に特定されていないことが明らかであり、明細書及び図面の記載を考慮しても、請求項の記載に基づいて、的確に新規性進歩性等の特許要件の判断ができない場合がある。このような場合には、一の請求項から発明が明確に把握されることが必要であるという特許請求の範囲の機能を担保しているといえないから、第36条第6項第2号違反となる。

そこで、この観点から、本件の場合について検討する。
訂正後発明1には、「主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され」との規定があり、機能的な表現が含まれている。
ここで、「スリット(82)への挿入方向に沿ってスライド可能に係合」については、当業者が、出願時の技術常識や技術水準に照らし、さらに、本件訂正明細書等の記載を参酌すれば、その意味は明確であり、また、「分離不能に保持」の意味も明確であるといえる。
そうすると、「主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され」という機能的な表現は、ある具体的な物が請求項に係る発明の範囲に入るか否かを理解できるように記載されていることの前提となる、発明を特定するための事項として、明確である。
したがって、訂正後発明1について、発明の範囲は明確である。
また、訂正後発明2、訂正後の請求項3に係る発明、訂正後の請求項4に係る発明、訂正後発明3(請求項5)についても同様である。

(まとめ)
よって、訂正後の請求項1?5に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確であるので、その特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たさないものに対してなされたものではないから、特許法第123条第1項第4号に該当しない。

(3)無効理由5(実施可能要件)について
まず、実施可能要件を判断するに当たっての考え方を以下に整理しておく。
その発明の属する技術分野において研究開発(文献解析、実験、分析、製造等を含む)のための通常の技術的手段を用い、通常の創作能力を発揮できる者(当業者)が、明細書及び図面に記載した事項と出願時の技術常識とに基づき、請求項に係る発明を実施することができる程度に、発明の詳細な説明を記載しなければならない。
したがって、明細書及び図面に記載された発明の実施についての教示と出願時の技術常識とに基づいて、当業者が発明を実施しようとした場合に、どのように実施するかが理解できないとき(例えば、どのように実施するかを発見するために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるとき)には、当業者が実施することができる程度に発明の詳細な説明が記載されていないこととなる。
また、発明の詳細な説明には、第36条第4項の要件に従い、請求項に係る発明をどのように実施するかを示す「発明の実施の形態」のうち特許出願人が最良と思うものを少なくとも一つ記載することが必要である。そして、物の発明について実施をすることができるためには、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであるから、「発明の実施の形態」も、これらが可能となるように記載する必要がある。
「発明の実施の形態」の記載は、当業者が発明を実施できるように発明を説明するために必要である場合は、実施例を用いて行う(特許法施行規則第24条様式第29参照)ものとされる。実施例とは、発明の実施の形態を具体的に示したもの(例えば物の発明の場合は、どのように作り、どのような構造を有し、どのように使用するか等を具体的に示したもの)である。
物の発明を特定するための事項として、物の構造等の具体的な手段を用いるのではなく、その物が有する機能・特性等を用いる場合は、当業者が明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識に基づいて当該機能・特性等を有する具体的な手段を理解できるときを除き、具体的な手段を記載する。
また、発明の詳細な説明において、「請求項に係る発明」についてその実施の形態を少なくとも一つ記載することが必要であるが、請求項に係る発明に含まれるすべての下位概念又はすべての選択肢について実施の形態を示す必要はない。
しかし、請求項に係る発明に含まれる他の具体例が想定され、当業者がその実施をすることは、明細書及び図面の記載並びに出願時の技術常識をもってしてもできないとする十分な理由がある場合は、請求項に係る発明は当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されていないといえる。

そこで、この観点から、本件の場合について検討する。
訂正後発明1の連結具を当業者が実施するに当たっては、本件訂正明細書に記載された事項に加えて、出願時の技術常識や技術水準を参考にすることができるので、当業者が訂正後発明1の連結具を実施しようとした場合、どのように実施するかを発見するために、当業者に期待しうる程度を超える試行錯誤や複雑高度な実験等を行う必要があるとはいえない。
したがって、訂正後発明1について、実施可能要件は満たしているというべきである。
また、訂正後発明2、訂正後の請求項3に係る発明、訂正後の請求項4に係る発明、訂正後発明3(請求項5)についても同様である。

(まとめ)
よって、発明の詳細な説明の記載は、訂正後の請求項1?5に係る発明について、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるので、その特許は、特許法第36条第4項に規定する要件を満たさないものに対してなされたものではないから、特許法第123条第1項第4号に該当しない。

(4)なお、請求人は、平成24年11月12日付け上申書で、本件無効審判と並行して係属していた特許権侵害訴訟(大阪地方裁判所平成23年(ワ)第10341号特許権侵害差止等請求事件)の判決において、被告(本件無効審判の請求人)の各製品が本件各特許発明の技術的範囲に属さないとされ、その判示内容は、本件無効審判における無効理由3(サポ一卜要件違反)、無効理由4(明確性要件違反)及び無効理由5(実施可能要件違反)の存在を支持するものである旨を主張している。
しかし、同判決では、被告製品が本件特許発明の技術的範囲に属するか否かの判断がされている(判断できなかったというものではない)ことから、訂正後の請求項1?5に係る発明が、無効理由3?5に係る記載要件を満たしていないとまではいえない。

(5)無効理由3?5についてのまとめ
以上のとおり、訂正後の請求項1?5に係る発明の特許は、特許法第36条第6項第1号、同項第2号、同条第4項に規定する要件を満たさないものに対してなされたものではないから、特許法第123条第1項第4号に該当しない。

5.当審の判断のまとめ
以上の判断をまとめると次のとおり。

(1)無効理由1については、訂正後発明1?3(順に、訂正後の請求項1,2,5に係る発明)は、甲1発明と同一であるとはいえないので、その特許は、特許法第184条の13で読み替えられた同法第29条の2の規定に違反してなされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当しない。

(2)無効理由2(その1)については、訂正後発明1?3は、甲8に記載された発明及び周知技術または甲9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないので、その特許は、特許法第184条の13で読み替えられた同法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当しない。

(3)無効理由2(その2)については、訂正後発明1?3は、甲11に記載された発明及び周知技術または甲9に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないので、その特許は、特許法第184条の13で読み替えられた同法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、特許法第123条第1項第2号に該当しない。

(4)無効理由3?5については、訂正後の請求項1?5に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第4号に該当しない。


第8 むすび
したがって、訂正後の請求項1,2,5に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第2号、同項第4号のいずれにも該当せず、無効とすべきものでなく、また、訂正後の請求項3,4に係る発明の特許は、特許法第123条第1項第4号に該当せず、無効とすべきものでない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
パソコン等の器具の盗難防止用連結具
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】 パソコン(80)等の器具の本体ケーシング(84)に開設された盗難防止用のスリット(82)に挿入される盗難防止用連結具であって、
主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され、
主プレート(20)は、ベース板(22)と、該ベース板(22)の先端に突設した差込片(24)と、該差込片(24)の先端に側方へ向けて突設された抜止め片(26)とを具え、
補助プレート(40)は、主プレート(20)に対して、前記主プレート(20)の差込片(24)の突出方向に沿ってスライド可能に係合したスライド板(42)と、該スライド板(42)を差込片(24)の突出方向にスライドさせたときに、差込片(24)を挟んで重なり、逆向きにスライドさせたときに、差込片(24)との重なりが外れるようにスライド板(42)の先端に突設された一対の回止め片(44)(44)とを具え、
主プレート(20)と補助プレート(40)には、補助プレート(40)を前進スライドさせ、差込片(24)と回止め片(44)とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部(28)(48)が形成されていることを特徴とするパソコン等の器具の盗難防止用連結具。
【請求項2】 パソコン(80)等の器具の本体ケーシング(84)に開設された盗難防止用のスリット(82)に挿入され、固定構造物(88)への連結用ケーブル(72)とパソコン(80)等の器具とを繋ぐ盗難防止用ケーブルの連結具であって、
主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され、
主プレート(20)は、ベース板(22)と、該ベース板(22)の先端に突設した差込片(24)と、該差込片(24)の先端に側方へ向けて突設された抜止め片(26)とを具え、
補助プレート(40)は、主プレート(20)に対して、前記主プレート(20)の差込片(24)の突出方向に沿ってスライド可能に係合したコ字状のスライド板(42)と、該スライド板(42)を差込片(24)の突出方向にスライドさせたときに、差込片(24)を挟んで重なり、逆向きにスライドさせたときに、差込片(24)との重なりが外れるようにスライド板(42)の先端に突設された一対の回止め片(44)(44)とを具え、
主プレート(20)と補助プレート(40)には、補助プレート(40)を前進スライドさせ、差込片(24)と回止め片(44)とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部(28)(48)が形成されており、
該係止部(28)(48)にケーブル(72)を取り付け、又は錠(70)を用いてケーブル(72)を連結することを特徴とするパソコン等の器具の盗難防止用連結具。
【請求項3】 補助プレート(40)のスライド板(42)は、コ字状に形成され、凹部空間(59)に主プレート(20)がスライド可能に嵌められ、主プレート(20)のベース板(22)は、前記スライド板(42)よりも、幅広く形成されている請求項2に記載のパソコン等の器具の盗難防止用連結具。
【請求項4】 主プレート(20)又は補助プレート(40)の一方には、プレート(20)(40)のスライド方向に対して直角に側方に向けて開口(32)する切り込み(30)が開設されており、他方のプレートには、前記切り込み(30)のスライド移行路に対向した領域に切り込み(50)が開設されており、該切り込み(50)は、主プレート(20)を補助プレート(40)に対して前進スライドさせたときに前記切り込み(30)の開口(32)と一致する開口(52)を有し、主プレート(20)を補助プレート(40)に対して後退スライドさせたときに、切り込み(30)の開口(32)を閉じる爪(54)が形成されている請求項1乃至請求項3の何れかに記載のパソコン等の器具の盗難防止用連結具。
【請求項5】 スライド板(42)はコ字状であって、主プレート(20)がスライド可能に嵌まる凹部空間(59)を形成し、係止部(28)(48)は、差込片(24)と回止め片(44)とを重ねた状態のときに一致して貫通するようにベース板(22)とスライド板(42)に開設された孔(36)(56)であり、該孔(36)(56)に錠(70)又はケーブル(72)を通すことによって、主プレート(20)と補助プレート(40)との相対的なスライドを妨げて固定される請求項1乃至請求項4の何れかに記載のパソコン等の器具の盗難防止用連結具。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ノート型パソコン等の器具を盗難から護るためのケーブルを連結する連結具に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ノート型パソコンの店頭や陳列台などからの盗難を防止するために、ノート型パソコン(80)の本体ケーシング(84)には、矩形のスリット(82)が開設されている。このスリット(82)に、ケーブル(72)が連結可能な連結具(10)を挿入し、ケーブル(72)を柱などの固定構造物に掛けておくことにより、パソコン(80)の持ち出しを防止できる(図1参照)。
その種連結具(90)として、特開平11-148262号公報には、図9に示すように、先端に掛止部(91)が形成された掛金具(92)と、該掛金具(92)に対し着脱可能に嵌まり合う扁平な卵形のカバー(93)からなる連結具(90)を開示している。上記連結具(90)は、パソコン側のスリット(82)に掛金具側の掛止部(91)を挿入して掛金具(92)を90度捻った後、掛止部(91)の回止めとして、掛金具(92)を覆うようにカバー(93)に突設している規制片(94)(94)をスリット(82)に挿入するものである。
カバー(93)と掛金具(92)を貫通して開設されたコード連通孔(95)(95)にワイヤを掛け回すことによってカバー(93)と掛金具(92)とは一体化され、掛止部(91)をスリット(82)から抜くことはできないため、このワイヤの端部を固定構造物に繋ぐことによって、パソコン(80)の持ち出しは防止される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、掛金具(92)の掛止部(91)をスリット(82)に挿入した後、掛金具(92)から手を離すと、掛金具(92)がスリット(82)に吊り下がったり、スリット(82)から脱落することがあり、カバー(93)を装着できない。このため、掛金具(92)を片手で押さえたままで、他方の手でカバー(93)を挿入する必要があった。しかしながら、掛金具(92)、カバー(93)は共に小型であり、また、スリット(82)は、図1に示すように、ノート型パソコン(80)の下面に近い側部に形成されているから、両手で連結具(90)を取り付ける操作は困難であり、作業性が悪い問題があった。
【0004】
また、上記連結具(90)では、ノート型パソコン(80)の盗難は防止できるが、付属するマウスやその他の外部接続機器の盗難を防止できないため、別途これらの盗難防止について策を講じなければならなかった。
【0005】
本発明の目的は、片手で簡単に取付けできるノート型パソコン等の器具の盗難防止用のケーブル連結具を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明のノート型パソコン等の器具の盗難防止用連結具(10)は、パソコン(80)等の器具の本体ケーシング(84)に開設された盗難防止用のスリット(82)に挿入される盗難防止用連結具であって、
主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され、
主プレート(20)は、ベース板(22)と、該ベース板(22)の先端に突設した差込片(24)と、該差込片(24)の先端に側方へ向けて突設された抜止め片(26)とを具え、
補助プレート(40)は、主プレート(20)に対して、前記主プレート(20)の差込片(24)の突出方向に沿ってスライド可能に係合したスライド板(42)と、該スライド板(42)を差込片(24)の突出方向にスライドさせたときに、差込片(24)と重なり、逆向きにスライドさせたときに、差込片(24)との重なりが外れるように突設された回止め片(44)とを具え、
主プレート(20)と補助プレート(40)には、補助プレート(40)を前進スライドさせ、差込片(24)と回止め片(44)とを重ねた状態で、互いに対応一致する位置に係止部(28)(48)を形成したものである。
また、本発明のノート型パソコン等の器具の盗難防止用連結具(10)は、パソコン(80)等の器具の本体ケーシング(84)に開設された盗難防止用のスリット(82)に挿入され、これを固定構造物(88)に連結されたケーブル(72)に繋ぐものであって、
主プレート(20)と補助プレート(40)とを、スリット(82)への挿入方向に沿って相対的にスライド可能に係合し且つ両プレート(20)(40)は分離不能に保持され、
主プレート(20)は、ベース板(22)と、該ベース板(22)の先端に形成された差込片(24)と、該差込片(24)の先端に差込片(24)の両側方に向けて突設された抜止め片(26)とを具え、
補助プレート(40)は、主プレート(20)に対して、前記主プレート(20)の差込片(24)の突出方向に沿ってスライド可能に係合したスライド板(42)と、該スライド板(42)の先端に突出し、スライド板(42)を差込片(24)の突出方向にスライドさせると、差込片(24)と重なり、逆向きにスライドさせると、差込片(24)との重なりが外れる回止め片(44)とを具え、
主プレート(20)と補助プレート(40)には、補助プレート(40)を前進スライドさせ、差込片(24)と回止め片(44)とを重ねたときに、互いに一致する位置に係止部(28)(48)が形成されており、
該係止部(28)(48)にケーブル(72)を取り付け、又は錠(70)を用いてケーブル(72)を連結し、主プレート(20)と補助プレート(40)とをスライドしないように固定するものである。
【0007】
【作用及び効果】
本発明の主プレート(20)と補助プレート(40)は、スライド可能に係合して構成されているから、片手で連結具(10)を掴んで、主プレート(20)の抜止め片(26)をスリット(82)に挿入して90度回転させ、そのまま、補助プレート(40)の回止め片(44)を差込片(24)と重なるようにスリット(82)に押し込むだけで、連結具(10)をスリット(82)に取付けでき、作業性が良好である。
連結具(10)をスリット(82)に取り付けた後、係止部(28)(48)に錠(70)などを通し、主プレート(20)と補助プレート(40)が相対的にスライドしないように固定すると共に、ケーブル(72)等を連結すればよい。
【0008】
抜止め片(26)がスリット(82)の内側に当接しているので、主プレート(20)がスリット(82)から抜け落ちることはなく、また、差込片(24)と回止め片(44)が重なった状態でスリット(82)に挿入されているので、連結具(10)は回転せず、連結具(10)をスリット(82)から取り外すことはできない。
【0009】
【発明の実施の形態】
図1は、本発明の連結具(10)を用いて、ノート型パソコン(80)と固定構造物(88)とをケーブル(72)によって連結した状態を示す説明図、図2は、本発明の連結具(10)の分解斜視図、図3及び図4は、連結具(10)の平面図、図5は、図4の断面図、図6乃至図8は、連結具(10)をパソコン(80)のスリット(82)に装着する手順を示している。
ノート型パソコン(80)の本体ケーシング(84)に開設されているスリット(82)は、長辺が約7mm、短辺が約3mm、ケーシング(84)の厚さは約3mmであり、後述する連結具(10)の先端の抜止め片(26)、差込片(24)及び回止め片(44)は、夫々スリット(82)の形状に合わせた大きさに形成される。なお、本発明の連結具(10)は、パソコン(80)とケーブル(72)との連結のみに用いられるのではなく、上記と同様のスリット(82)を開設することによって、ビデオやラジオ、携帯電話、ナビゲーション機器等の器具の盗難防止に利用することもできる。
【0010】
図2乃至図5に示すように、本発明の連結具(10)は、主プレート(20)と補助プレート(40)とをスライド可能に係合して構成される。
主プレート(20)は、金属材料や樹脂材料から形成され、図3(a)に示すように、ベース板(22)と、該ベース板(22)の先端に突設された差込片(24)と、差込片(24)の先端に両側方へ向けて突出した抜止め片(26)とを具える。
ベース板(22)は、矩形の板体であって、後述する補助プレート(40)とスライド可能に係合するための一対の長孔(38)(38)がスリット(82)への挿入方向と平行な向きに開設されている。長孔(38)(38)は、本体ケーシング(84)の厚さとほぼ同じ長さを有しており、後述するとおり、補助プレート(40)のピン孔(58)(58)に嵌められたスプリングピン(60)(60)がスライド可能に嵌まっている。
また、ベース板(22)には、補助プレート(40)を主プレート(20)に対して固定するための係止用孔(36)が開設されている。
【0011】
ベース板(22)の側部には、さらに、マウスや周辺機器のコード(86)を通して固定するための切り込み(30)が、挿入方向に対し略直角に開設されている。切り込み(30)は、主プレート(20)と補助プレート(40)とのスライド長さを最大幅とし、深さは、固定されるマウス等のコード(86)の太さや本数に応じて適宜設定される。
【0012】
ベース板(22)の先端に突設される差込片(24)は、本体ケーシング(84)のスリット(82)内で回転させることができる太さであり、長さはケーシング(84)の厚さよりも僅かに長く形成される。なお、差込片(24)の形状は、角柱形状、円柱形状、楕円柱形状などにすることができる。
【0013】
差込片(24)の先端に形成される抜止め片(26)は、スリット(82)に挿入可能な大きさであって、スリット(82)に対して挿入した後、90度回転させると、抜止め片(26)が本体ケーシング(84)の内面に当接して抜け落ちない長さに形成される。例えば、抜止め片(26)の長辺が、少なくともスリット(82)の短辺よりも長く、スリット(82)の長辺よりも短くなるように形成される。抜止め片(26)は、図4に示すように、差込片(24)の両側に突出する形状(T字型)としてもよいし、一方にのみ突出する形状(L字型)にしてもよい。また、断面は、角柱形状、円柱形状、楕円柱形状などにすることができる。
【0014】
補助プレート(40)は、図2、図3(b)及び図5(a)(b)に示すように、コ字状に折り曲げられ、間に主プレート(20)が嵌まる凹部空間を形成しているスライド板(42)と、スライド板(42)の上下先端から夫々突設された回止め片(44)とから構成される。
スライド板(42)の凹部空間(59)には、前記主プレート(20)のベース板(22)がスライド可能に嵌められており、凹部空間(59)の深さは、主プレート(20)を凹部空間(59)中に最も後退させたときに、ベース板(22)の先端がスライド板(42)の先端と揃う深さよりも少し深く形成されている。
スライド板(42)には、主プレート(20)の長孔(38)(38)との対応位置に夫々ピン孔(58)(58)(58)(58)が開設されており、対向するピン孔(58)(58)には、長孔(38)(38)を貫通してスプリングピン(60)が嵌められている。ピン孔(58)は、スライド板(42)の先端と主プレート(20)のベース板(22)が揃っているとき、つまり、主プレート(20)が後退した状態で、長孔(38)(38)の先端と向かい合う位置に開設される。
【0015】
スライド板(42)の先端に突設された回止め片(44)(44)は、主プレート(20)の差込片(24)と同一垂直面内にあって、重なり可能に形成されており、突出長さは、差込片(24)とほぼ同じに長さに形成されている。回止め片(44)(44)は、差込片(24)と重ねた状態では、スリット(82)内で回転しないように形成する。なお、連結具(10)をスリット(82)に装着したときの安定度を高めるためには、一方の回止め片(44)の外表面から他方の回止め片(44)の外表面までの距離をスリット(82)の長さよりも僅かに短くし、また、回止め片(44)(44)の幅をスリット(82)の幅よりも僅かに薄くすることが望ましい。
回止め片(44)(44)を、図示の如くスライド板(42)の上下両側に形成し、又は、一方のみに形成することもできる。
【0016】
さらに、スライド板(42)には、前記主プレート(20)の切り込み(30)のスライド移行路と対向する位置に切り込み(50)が開設されている。切り込み(50)は、スライド板(42)の先端側が側方へ開口(52)しており、スライド板(42)の屈曲側から先端側に向けて爪(54)が突設されている。該爪(54)は、主プレート(20)の長孔(38)の先端側と補助プレート(40)のピン孔(58)(58)のスプリングピン(60)とが当接したときに、主プレート(20)の切り込み(30)の開口(32)を塞ぐ長さに形成されている。
【0017】
上記構成の盗難防止用連結具(10)をノート型パソコン(80)に装着する方法について説明する。
連結具(10)の装着前に、予め、パソコン(80)を繋ぐケーブル(72)を柱や机の脚などの固定構造物(88)に連結しておく。連結方法は、ケーブル(72)の一端にループ(74)を形成しておき、ケーブル(72)を固定構造物にかけて、該ループ(74)にケーブル(72)を通す方法を例示できる。ケーブル(72)として、金属製のワイヤケーブルや、これを樹脂被覆したケーブルを例示できる。なお、ケーブル(72)の他端には、ケーブル(72)を錠(70)に接続するためのリング(76)を形成しておく。
【0018】
連結具(10)を装着するには、まず、図6に示すように、補助プレート(40)をずらして下げ、主プレート(20)を補助プレート(40)の先端から突出させる。なお、図4に示すように、ベース板(22)をスライド板(42)よりも幅広く形成しておくと、主プレート(20)を突出させて、使用者の親指と人差し指で連結具(10)の両側を掴めば、主プレート(20)と補助プレート(40)の両方の板(22)(42)に指が当たるから、主プレート(20)を補助プレート(40)から突出した状態で保持できる。
この状態で、抜止め片(26)をスリット(82)に位置合わせし、その儘、抜止め片(26)及び差込片(24)をスリット(82)に挿入する。スリット(82)に差込片(24)まで挿入した後、連結具(10)を左右何れかに90度捻る(図7矢印参照)。
なお、スリット(82)が図7に示すように、横向きに開設されている場合には、切り込み(30)にマウス等のコード(86)を挿入する際に、切り込み(30)(50)の開口(32)(52)が上に向くように連結具(10)を回転させ、コード(86)を主プレート(20)の切り込み(30)に挿入する。スリット(82)が縦方向に開設されている場合には、何れの方向に回転させてもよい。
【0019】
次に、図8に示すように、補助プレート(40)を主プレート(20)に対して本体ケーシング(84)側に押し込み、回止め片(44)をスリット(82)に差し込んで、係止孔(36)(56)どうしを位置合わせする。補助プレート(40)をスライドさせることによって、差込片(24)と回止め片(44)が重なり、連結具(10)の回転が阻止される。また、抜止め片(26)が本体ケーシングの内壁に当たるので、連結具(10)の引き抜き方向に移動させることもできなくなる。
さらに、切り込み(30)は、補助プレート(40)の爪(54)によって閉じられるから、コード(86)の取り外しもできなくなる。
【0020】
位置合わせを行なった後、係止孔(36)(56)に南京錠などの錠(70)を通し、且つ図1に示すように、該錠(70)にケーブル(72)のリング(76)を通すことによって、主プレート(20)と補助プレート(40)がスライドしないように固定され、連結具(10)がパソコン(80)に装着され、パソコン(80)と固定構造物(88)がケーブル(72)を介して連結される。なお、係止孔(36)(56)にケーブル(72)を通し、ケーブル(72)が抜け落ちないように錠(70)でケーブル(72)を固定するようにしてもよい。
【0021】
上記連結具(10)によれば、連結具(10)のスリット(82)への差込みを片手で行なうことができるから、作業性にすぐれ、また、主プレート(20)と補助プレート(40)は、離脱不能であるから、一方の部品を紛失することもない。
【0022】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】
本発明の連結具を用いてパソコンをケーブルで固定構造物に固定した状態を示す説明図である。
【図2】
本発明の連結具の分解斜視図である。
【図3】
(a)は、主プレートの平面図、(b)は、補助プレートの平面図である。
【図4】
(a)及び(b)は、主プレートに対して補助プレートをスライドさせた状態を示す平面図である。
【図5】
(a)は、図4(a)の線A-Aに沿う矢視断面図、(b)は、図4(b)の線B-Bに沿う矢視断面図である。
【図6】
連結具のスリットへの装着工程を示す斜視図である。
【図7】
連結具のスリットへの装着工程を示す斜視図である。
【図8】
連結具のスリットへの装着工程を示す斜視図である。
【図9】
従来の連結具の装着工程を示す斜視図である。
【符号の説明】
(10) 連結具
(20) 主プレート
(24) 差込片
(26) 抜止め片
(40) 補助プレート
(44) 回止め片
(82) スリット
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2012-11-26 
結審通知日 2012-11-29 
審決日 2012-12-17 
出願番号 特願2000-139328(P2000-139328)
審決分類 P 1 113・ 537- YA (E05B)
P 1 113・ 121- YA (E05B)
P 1 113・ 16- YA (E05B)
P 1 113・ 536- YA (E05B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 辻野 安人  
特許庁審判長 木村 史郎
特許庁審判官 立澤 正樹
住田 秀弘
登録日 2004-05-28 
登録番号 特許第3559501号(P3559501)
発明の名称 パソコン等の器具の盗難防止用連結具  
代理人 丸山 敏之  
代理人 長塚 俊也  
代理人 西岡 伸泰  
代理人 西岡 伸泰  
代理人 宮野 孝雄  
代理人 森 寿夫  
代理人 長塚 俊也  
代理人 久徳 高寛  
代理人 久徳 高寛  
代理人 木村 厚  
代理人 丸山 敏之  
代理人 森 廣三郎  
代理人 宮野 孝雄  
代理人 池岡 瑞枝  
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