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審決分類 |
審判 全部無効 2項進歩性 B29C 審判 全部無効 1項3号刊行物記載 B29C |
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管理番号 | 1301805 |
審判番号 | 無効2014-800108 |
総通号数 | 188 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-08-28 |
種別 | 無効の審決 |
審判請求日 | 2014-06-24 |
確定日 | 2015-04-13 |
訂正明細書 | 有 |
事件の表示 | 上記当事者間の特許第5291689号発明「管ライニング材反転方法」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 |
結論 | 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 |
理由 |
第1 請求 特許第5291689号(設定登録時の請求項の数は1)の請求項1に係る発明についての特許を無効とする,審判費用は被請求人の負担とする旨の審決を求める。 第2 主な手続の経緯等 被請求人は,発明の名称を「管ライニング材反転方法」とする特許第5291689号の請求項1に係る特許(以下,「本件特許」という。)の特許権者である。 本件特許は,平成17年12月1日に出願された特許出願2005-347430号(先の出願に基づく優先権主張 平成16年12月28日、以下,「原出願」という。)の一部を新たに特許出願した特願2010-249261号に係るものであり,平成25年6月14日に設定登録されたものである。 請求人は,平成26年6月24日,本件特許について特許無効審判を請求し,これに対して被請求人は,平成26年9月11日に訂正請求書及び答弁書を提出し,請求人は,平成26年11月4日に弁駁書を提出した。 審判長は,平成26年11月20日付けで両当事者に対し口頭審理における審理事項を通知し(審理事項通知書),これに対して,請求人及び被請求人は,同年12月19日に口頭審理陳述要領書を提出した。 平成27年1月14日,請求人代理人,被請求人代理人の出頭のもと,第1回口頭審理が行われた。 第3 本件訂正の可否 1 被請求人の訂正の趣旨 特許第5291689号の明細書,特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正明細書,特許請求の範囲のとおり訂正することを求める。 2 本件訂正の要旨 (1) 被請求人の求めた訂正は,以下のとおりである。 特許請求の範囲の請求項1を以下のとおり訂正する。 ・ 訂正前(設定登録時) 「 管ライニング材を管路内に反転挿入する管ライニング材反転方法であって, 管ライニング材が巻回される回転体を内部に有し,管ライニング材が通過する開口部が形成された管ライニング材を収納する収納容器の開口部を開放し, 該開放した開口部を介して管ライニング材を前記収納容器の回転体に巻き取って管ライニング材を収納容器に収納し, 前記収納容器の開口部に導管を接続し,前記収納容器に収納された管ライニング材を前記開口部並びに該開口部に接続された導管を介して反転ノズルに導き, 前記反転ノズルを介して管ライニング材を反転させることを特徴とする管ライニング材反転方法。」 ・ 訂正後 「 管ライニング材を管路内に反転挿入する管ライニング材反転方法であって, 管ライニング材が巻回される回転体を内部に有し,管ライニング材が通過する開口部が形成された管ライニング材を収納する収納容器の開口部を開放し, 該開放した開口部を介して管ライニング材を前記収納容器の回転体に巻き取って管ライニング材を収納容器に収納し, 前記収納容器の開口部に導管を接続し,前記収納容器に収納された管ライニング材の一端を前記開口部並びに該開口部に接続された導管を介して反転ノズルに導いて該反転ノズルに取り付けるとともに,管ライニング材の一端を反転ノズルに取り付けた状態で収納容器を作業現場に移動させ, 前記反転ノズルを介して管ライニング材を反転させることを特徴とする管ライニング材反転方法。」 (2) 本件訂正の可否についての判断 ア 本件訂正の内容 本件訂正は,請求項1に「前記収納容器の開口部に導管を接続し,前記収納容器に収納された管ライニング材を前記開口部並びに該開口部に接続された導管を介して反転ノズルに導き,」とあるのを,「前記収納容器の開口部に導管を接続し,前記収納容器に収納された管ライニング材の一端を前記開口部並びに該開口部に接続された導管を介して反転ノズルに導いて該反転ノズルに取り付けるとともに,管ライニング材の一端を反転ノズルに取り付けた状態で収納容器を作業現場に移動させ,」に訂正するものである。 イ 訂正の目的 この訂正は,訂正前の請求項1記載の管ライニング材反転方法の特許発明では,収納容器に収納された管ライニング材を反転ノズルに導くことを特定していたが,管ライニング材の一端が反転ノズルに導かれて反転ノズルに取り付けられること,及び,管ライニング材の反転ノズルへの取り付け作業が作業現場で行われるか,あるいはその前に行われるものかどうかを特定していなかったものを,訂正後の請求項1記載の管ライニング材反転方法の特許発明では,管ライニング材の一端が反転ノズルに導かれて反転ノズルに取り付けられること,及び,管ライニング材の一端を反転ノズルに取り付けた状態で収納容器を作業現場に移動させることで,管ライニング材の反転ノズルへの取り付けが作業現場に向かう前の段階で行われることを明らかにしたものである。 そうすると,本件訂正は,特許請求の範囲の請求項1における発明を特定するために必要な技術的事項(以下、「発明特定事項」という。)をさらに限定するものであるから,特許法第134条の2第1項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものといえる。 ウ 新規事項の有無 本件訂正は,本件特許明細書の段落【0023】の記載から,本件特許明細書の記載の範囲内においてなされたものであることも明らかである。 エ 実質的拡張、変更の有無 本件訂正は,上記イのとおり,訂正前の特許請求の範囲の請求項1における発明特定事項をさらに限定するものであり,本件訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張するものではなく,又,変更するものでもない。 オ 請求人の主張について 請求人は,本件訂正は,訂正前の特許請求の範囲,明細書及び図面に何ら記載のない技術的課題について,それを解決するべく特許請求の範囲に記載のない新たな構成を付加し,さらに当該付加によって訂正前の特許請求の範囲,明細書及び図面に何ら記載のない新たな作用効果を奏すると言うものであって,特許法第134条の2第9項において準用する同法第126条第6項における「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するもの」に該当する旨主張する(平成26年11月4日付け審判事件弁駁書3,4頁)。 当該主張について検討すると,本件訂正は,上記イ,エのとおり訂正前の発明特定事項をすべて含んだ上での特許請求の範囲の減縮であって,実質的に特許請求の範囲の拡張し,又は変更するものでないことは明らかであって,請求人の主張は採用できない。なお,請求人のいう新たな効果については,本件訂正により訂正された明細書又は特許請求の範囲に記載される事項ではないから,訂正の可否についての判断の根拠となるものではない。 (3) 小括 以上のとおり,本件訂正は,特許法134条の2第1項ただし書き1号に掲げる事項を目的とするものであり,しかも同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に違反するものでもない。 よって,本件訂正を認める。 第4 本件発明の要旨 上記第3のとおり本件訂正は認容されるから,審決が判断の対象とすべき特許に係る発明は本件訂正後のものである。そして,その要旨は,本件訂正明細書及び図面(以下,図面の記載を合わせて「本件特許明細書等」という。)並びに特許請求の範囲の記載からみて,その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものである。(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。) 「 管ライニング材を管路内に反転挿入する管ライニング材反転方法であって, 管ライニング材が巻回される回転体を内部に有し,管ライニング材が通過する開口部が形成された管ライニング材を収納する収納容器の開口部を開放し, 該開放した開口部を介して管ライニング材を前記収納容器の回転体に巻き取って管ライニング材を収納容器に収納し, 前記収納容器の開口部に導管を接続し,前記収納容器に収納された管ライニング材の一端を前記開口部並びに該開口部に接続された導管を介して反転ノズルに導いて該反転ノズルに取り付けるとともに,管ライニング材の一端を反転ノズルに取り付けた状態で収納容器を作業現場に移動させ, 前記反転ノズルを介して管ライニング材を反転させることを特徴とする管ライニング材反転方法。」 第5 当事者の主張 1 無効理由に係る請求人の主張 本件発明には下記(1)?(4)のとおりの無効理由1?4があるから,本件発明についての特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とすべきものである(第1回口頭審理調書及び主張の全趣旨)。 また,証拠方法として書証を申出,下記(5)のとおりの文書(甲1?3)を提出する。 (1) 無効理由1 本件発明は,甲1に記載された発明であるから,特許法29条1項第3号に該当し,特許を受けることができない。 (2) 無効理由2 本件発明は,甲1を主たる引用文献,甲2を従たる引用文献とすることに基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。 (3) 無効理由3 本件発明は,甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。 (4) 無効理由4 本件発明は,甲1を主たる引用文献,甲3を従たる引用文献とすることに基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。 (5) 証拠方法 甲1: 実願昭59-27523号(実開昭60-138737号)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム 甲2: 特開昭57-47085号公報 甲3: 特開2004-188818号公報 2 被請求人の主張 本件審判の請求は成り立たない,審判費用は請求人の負担とする旨の審決を求める。請求人の主張の無効理由1?4は,いずれも理由がない。 第6 当合議体の判断 当合議体は,本件特許について,以下述べるように,無効理由1ないし4はいずれも理由がなく,よって本件特許の請求項1に係る発明についての特許を無効とすることはできないと解する。 1 本件発明について 本件発明の要旨は,上記第4で認定のとおりである。 2 証拠について (1) 甲1の記載 本件特許に係る原出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である甲1には,次の記載がある。なお,下線については,当審において付与した。 ア 「圧力容器内に,内面に接着剤を塗布した筒状の内張り材を収納し,該内張り材を流体圧力で裏返しながら管路内に挿通し,裏返された内張り材を,前記接着剤を介して管路内面に接着する内張り工法において使用する,管路の内張り装置において,前記圧力容器の前面下部に内張り材吐出口を設けると共に,該吐出口の下方から前方に伸びるレールを設けた内張り装置本体と,前記レール上に前後に摺動自在に載置された,その先端部に内張り材を環状に固定する内張り材固定金具を有し,後端部には揺動型のシャッターを有し,後端には前記圧力容器の内張り材吐出口に着脱自在に取付けられる接続金具を有する内張り材取付け金具と,該内張り材取付け金具に対して着脱自在に結合可能であって,内張り材内に挿通される内張り材よりも充分に細い加温用ホースの一端を結合することのできるホース取付け金具を有する鏡板と,内張りされる管路の他端に取付けられ,内張り材内の流体を排出する排出金具を有する蓋板を取付けた先端金具とよりなることを特徴とする,管路の内張り装置」(実用新案登録請求の範囲) イ 「すなわち,接着剤を調製してから工事開始までの間は,接着剤を常温下又は冷却下に置いて硬化反応を抑制し,内張り材を管路に挿通した後,管路に内張りされた内張り材内を加温して,接着剤の硬化反応を促進させ,急速に硬化させるのである。 このための方法として,出願人等が先に出願した,特願昭55-19569号に示された発明の方法がある。この発明の方法は,内張り材の端に該内張り材よりも充分に細く,且つ多数の小孔を穿設した加温用ホースを接続し,内張り材が管路内に挿通された状態において,前記加温用ホースが内張り材内に挿通されるようになし,然る後に加温用ホース内に加圧水蒸気を送入し,該加圧水蒸気を前記加温用ホースの小孔から内張り材内に漏出させて,該加圧水蒸気により内張り材を介して接着剤を加温し,急速に反応硬化せしめるものである。 本考案はこの方法を実施するための機能を有する新規な管路の内張り装置を提供することを目的とするものである。」(明細書4頁8行?5頁8行) ウ 「図面は,本考案の内張り装置の一実施例を示すものである。第1図及び第2図において,1はトラックであって,該トラック1上には内張り装置本体2が搭載されている。該内張り装置本体2において,3は圧力容器であって,該圧力容器3内には,第3図に示すように,内張り材を巻回するリール4が回転自在に軸支されている。 圧力容器3の前下部には,後述する内張り材取付け金具を結合する内張り材吐出口5が形成されており,該内張り材吐出口5の上方には内張り材導入口6が形成されている。該内張り材導入口6は,常時は蓋7で密閉されており,内張り材を導入するときには該蓋7を開き,内張り材導入口6を開放することができるようになっている。また蓋7は,内張り材導入口6から取外したときには,ウエイトバランサー8により,容易に上方に吊上げられるようになっている。 前記リール4は,圧力容器3外において,チェーン9を介して減速機10に接続されており,該減速機10は無段変速機付きモーター11及び,クラッチ12を介して直流モーター13に接続されている。直流モーター13はトラック1のバッテリーにより駆動されるようになっており,無段変速機付きモーター11は,外部電源により駆動されるようになっている。 また前記圧力容器3内面上部には,スノーフォン14及び撹拌用ファン15が取付けられており,スノーフォン14は前記トラック1に搭載された炭酸ガスボンベ16に接続され,圧力容器内に粉末状のドライアイスを噴射するようになっている。該スノーフォン14及び撹拌用ファン15は,前記トラック1のバッテリーにより駆動されるようになっている。 17は,内張り材内面に接着剤を塗布する絞り装置であって,前記内張り材導入口6の前方に設けられている。該絞り装置17は,一対の回転ローラー18,19を有し,該回転ローラー18,19により接着剤を封入した内張り材を絞って,内張り材内に接着剤を均一に塗布しつつ圧力容器3内に導入し,リール4に巻回するようになっている。 20は,内張り材の裏返し速度調整装置であって,圧力容器3に対して回動自在に設けられ,先端のローラー21がリール4に巻回された内張り材の最外面に接触して,内張り材の裏返し速度を測定し,それを無段変速機付きモーター11にフィードバックしてリール4の回転速度を調節し,常に一定の速度で内張り材の裏返しが進行するように調整するようになっている。 また22は,内張り材の裏返しの有無の検出装置であって,内張り材の進行の有無を検出し,何等かの原因で内張り材の裏返しが停止したような場合には,それを無段変速機付きモーター11にフィードバックして,リール4の回転を停止するようになっている。 23は,内張り装置本体2を載置したフレーム24の前部に,前方に突出して設けられたレールである。25は内張り材取付け金具であって,前記レール23上に前後に摺動自在に載置されている。該内張り材取付け金具25は,その先端部に内張り材を環状に固定する内張り材固定金具26を有し,後端部には揺動自在のシャッター27を取付け,後端には,前記圧力容器の内張り材吐出口5に着脱自在に取付けられる接続金具28を有している。 また29及び30は,圧力容器3及び内張り材取付け金具25に圧力流体を送入する圧力流体送入口である。 第4図における31は,前記内張り材取付け金具25の接続金具28の後端を閉塞する鏡板であって,接続金具28に着脱自在に取付けることができるようになっている。該鏡板31には,ホース取付け金具32と,空気送入口33とが設けられている。 内張り材固定金具26の先端には,曲管34を介して誘導管35が取付けられ,さらにその先端は,曲管36を介して管路37の端末に接続されている。38は,前記管路37の他端側に曲管39を介して接続された先端金具であって,蓋40で閉塞され,且つ該蓋40には流体排出金具41が取付けられている。流体排出金具41は中空の針であって,蓋40に貫通するようになっており,且つ該流体排出金具41の基部は蒸気処理装置に接続されている。」(明細書6頁10行?10頁13行) エ 「而して,圧力容器3内に内張り材を収納する際には,内張り材42内に接着剤を封入し,この内張り材42をその先端から回転ローラー18,19間に送入し,回転ローラー18,19で絞つて接着剤を内張り材42内に均一に塗布し,内張り材導入口6を経て圧力容器3内に導入し,リール4に巻回する。内張り材42の先端には,ほゞ等長の加温用ホース43を接続しておく。該加温用ホース43には多数の小孔が穿設されており,内部に送入された加圧水蒸気を漏出することができるようになっている。 裏返し速度調整装置20は,ローラー21をリール4に巻回された内張り材42の最外面に接触させて,内張り材42の進行速度を測定し,無段変速機付きモーター11にフィードバックしてリール4の回転速度を調節し,内張り材42を一定の速度で導入することにより,内張り材42内への接着剤の塗布量を均一にする。 内張り材42を圧力容器3に収納した後,内張り工事までの間に接着剤が早期硬化を起すのを防止するため,スノーフォン14から液化炭酸ガスを,粉末状のドライアイスとして内張り材42の表面に噴霧し,内張り材42を介して接着剤を冷却する。 また,内張り材42を圧力容器3に導入する場所と内張り工事を行う場所とが異なる場合には,トラック1で内張り材42を収納した圧力容器3を運搬する必要があるが,その際には,直流モーター13でリール4をゆっくりと回転させながら運搬することにより,接着剤が内張り材42内で低い部分に滞溜して,局部的に早期硬化を起すことを防止することが可能である。またこの運搬の際にも,スノーフォン14から粉末状ドライアイスを噴霧し,撹拌用ファン15で圧力容器3内の空気を撹拌することにより,保冷しつつ運搬するのが好ましい。 工事現場に着いたならば,一旦リール4の回転を停止し,内張り材42の端末を内張り材吐出口5から引出し,シャッター27を開いて内張り材取付け金具25内を通し,内張り材固定金具26に環状に取付ける。接続金具28と内張り材吐出口5とを結合し,更に内張り材固定金具26の先端を,曲管34,誘導管35及び曲管36を介して,管路37に接続する。また管路37の他端には,曲管39を介して先端金具38を取付けておく。先端金具38の流体排出金具41は取外しておく。 次に,圧力流体送入口29から圧力流体(例えば圧縮空気)を送入し,内張り材42を流体圧力により裏返しながら無段変速機付きモーター11でリール4を駆動し,内張り材42を裏返しながら,該内張り材42の裏返し部分44を,管路37内を他端に向って前進せしめ,管路内に挿通して内張りするのである。」(明細書10頁14行?13頁7行) オ 「4.図面の簡単な説明 第1図は,本考案の内張り装置をトラックに搭載した状態の,一実施例を示す側面図であり,第2図は,その平面図である。第3図は,本考案の内張り装置の,主要部の中央縦断面図である。第4図は,本考案の内張り装置における,接着剤を加温する状態における,主要部の中央縦断面図である。 2……内張り装置本体 3……圧力容器 4……リール 5……内張り材吐出口 6……内張り材導入口 23……レール 25……内張り材取付け金具 26……内張り材固定金具 27……シャッター 28……接続金具 31……鏡板 32……ホース取付け金具 37……管路 38……先端金具 40……蓋 41……流体排出金具 42……内張り材 43……加温用ホース」(明細書15頁18行?16頁15行) 」(図1?4) (2) 甲2の記載 本件特許に係る原出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である甲2には,次の記載がある。 ア 「1.柔軟な筒状の内張り材の一端から反応硬化型接着剤を注入し,その内張り材をニップローラを通してその内面への接着剤の塗布量を調整しつつ内張り材をその長さ方向に移動させ,その接着剤を塗布した内張り材を順次内部を冷却雰囲気に維持した保冷容器中に導入し,内張り材をその全長に亘ってその内面に前記接着剤を塗布して前記保冷容器内に収容し,然る後内張り材の一端を前記保冷容器から引き出して環状に固定し,該環状固定部分の内張り材の外側から流体圧力を作用させつつ,そこに形成される内張り材の折り返し部分において,内張り材を内側が外側になるように反転させ,前記折り返し部分を管路の一端から他端まで進行させ,反転した内張り材を前記流体圧力により前記接着剤を介して管路の内面に圧着させ,接着剤を硬化させて内張り材と管路とを接着することを特徴とする管路の内張り方法 2.内張り材を予め冷却雰囲気に維持した第一の保冷容器中に収容して冷却しておき,その内張り材を該保冷容器から順次引き出して内面に接着剤を塗布し,ニップローラを通した後順次第二の保冷容器に導入することを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の管路の内張り方法 4.保冷容器から引き出した内張り材を圧力容器を貫通させて該圧力容器の先端に環状に固定し,圧力容器内に圧力流体を送入することによって内張り材の環状固定部分の後部に流体圧力を作用させることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の管路の内張り方法 6.流体圧力により内張り材を反転させ,その折り返し部分を管路内を進行せしめることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の管路の内張り方法 9.内張り材を管路の全長に亘って反転させ挿通した後,内張り材内に流体圧力を作用させて内張り材を管路内面に圧着しつつ内張り材を加温し,接着剤を硬化させることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の管路の内張り方法」(特許請求の範囲の請求項1,2,4,6,9) イ 「本発明はかかる事情を考慮し,反転挿通作業に入るまで,内張り材を冷却雰囲気中に保管し,接着剤のポットライフを長くすることにより,常温下におけるポットライフの短い接着剤を使用しても接着剤を調合した後の時間的な余裕をもたせると共に,内張り材を管路内に返転挿通した後常温又は加温下において接着剤を速やかに硬化させ,接着剤の硬化時間をも含めた全体の施工時間の短縮を図ることを目的とするものである。」(3頁左上欄16行?右上欄4行) ウ 「次に第2図は,保冷容器2内に収容された内張り材13を用いて該内張り材13を反転しつつ管路に挿通し内張りする工程の一例を示したものである。18は圧力容器であってその先端には柔軟な誘導管19が接続され,さらにその誘導管19の先端は作業孔20内に進入し,管路21の端末に接続されている。又圧力容器18の後端には扁平に析畳んだ内張り材13が通過し得るスリット22が形成され,さらに圧力容器18の側壁には圧力流体送入口23が設けられている。 而して保冷容器2中に収容され冷却雰囲気中に置かれた内張り材13は,先ずその一端がガイドローラ12に誘導されつつ内張り材取出し口10から引き出され,スリット22から圧力容器18中に挿入され,圧力容器18を貫通し,さらに誘導管19内を通り,誘導管19の先端に環状に固定される。この状態で圧力流体送入口23から圧縮空気等の圧力流体を送入すると,その圧力は誘導管19内を通り内張り材13の前記環状固定部分の後部をその外側から加圧する。これにより内張り材13は内側が外側となるように反転しつつ,その折り返し部分24が管路21の中をその一端から他端に向って進行し,反転した内張り材13は,その内面に塗布されていた接着剤14が外面に移り,その接着剤14を介して管路21の内面に圧着されるのである。このようにして内張り材13の反転を続け,内張り材13をその全長に亘って反転し,管路21の全長に亘って挿通して圧着するものである。 こののち内張り材13内の流体圧力を維持したまゝで放置しておけば,管路の温度は常温であるから常温における接着剤の挙動に従って硬化し,内張り材13と管路21とは強固に接着されるのである。又常温下における接着剤14の硬化速度が充分に速いものではない場合には,管路21に圧着された内張り材13内に加熱雰囲気を形成し,接着剤の硬化を促進することもできる。内張り材13内に加熱雰囲気を形成する場合,内張り材13内に直接熱風や加圧水蒸気を送入してもよいのであるが,長い管路の全長に亘って大きな温度のむらがないようにほゞ均一に加温するためには,次のような方法が適している。すなわち,内張り材13にその全長に亘ってその外周に多数のピンホールを形成したホースを挿通し,そのホース内に加圧水蒸気を送入してその加圧水蒸気をホースのピンホールを通してホースと内張り材13との間へ漏出させ,内張り材13内に加熱雰囲気を形成するのである。この方法によれば内張り材内の全体に亘ってほゞ均一に加温され,しかも必要以上に過熱されることもなく適度に加温されるため,接着剤は速やかに且つ強固に硬化し,内張り材が熱劣化を起すようなこともない。内張り材13内にホースを挿通するに当っては,内張り材13を反転しながら管路21に挿通する際に,内張り材13の自由端にホースを接続し,内張り材13の反転の進行に伴ってホースを反転した内張り材内に引込むことにより,ホースを挿通するための特別の工程を要せず,所期の目的を達成することができる。 本発明によれば,接着剤14を塗布した内張り材13を,冷却雰囲気中に収容するので,接着剤14は冷却され,ポットライフが長くなり,作業中に接着剤の硬化が始つたり粘度が変化したりする恐れがなく,安全に作業をすすめることができる。特に夏期などにおいては特にその効果を発揮する。」(3頁右下欄9行?4頁左下欄13行) エ 「しかしながら本発明によれば,保冷容器2内の温度を充分に低くすることにより,接着剤のポットライフを24時間又はさらに長くすることも可能であるから,例えば工場等において集中的に内張り材13内に接着剤14を塗布したものを準備し,それを保冷容器2で冷却しながら作業現場へ運搬し,内張りに供するといったことも可能である。又このように工場等で接着剤の塗布作業を行うのであれば,その接着剤自体を冷却しながら調合及び塗布作業をすることが可能であるから,常温下における硬化時間の相当短い接着剤を使用することも可能となり,内張り作業現場における全体の作業時間を大巾に短縮することができるのである。」(5頁左上欄7行?20行) オ 「 」(図1?3) (3) 甲3の記載 本件特許に係る原出願の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である甲3には,次の記載がある。 ア 「【請求項1】 未硬化の熱硬化性樹脂を含浸して成る管ライニング材の一端を折り返して反転ノズルに気密的に取り付け,同管ライニング材の他端を気密的に閉止してこれに温水ホースを取り付け,これらの管ライニング材と温水ホースを密閉容器内に収納し,密閉容器内に水圧を作用させて管ライニング材を管路内に反転挿入した後,該管ライニング材を前記密閉容器から切り離し,管ライニング材の切り離し部を閉止ノズルで気密的に閉止し,管ライニング材の内部に引き込まれて前記閉止ノズルを気密的に通過する前記温水ホースから温水を管ライニング材の内部に吐出するとともに,管ライニング材の内部の温水を排出する作業を繰り返して管ライニング材の内部に温水を循環させることによって,管ライニング材の全体を加熱して該管ライニング材に含浸された熱硬化性樹脂を硬化させることを特徴とする管路修復工法。 【請求項3】 前記密閉容器を着脱可能な温水ホース収納容器と管ライニング材収納容器とで構成したことを特徴とする請求項1又は2記載の管路修復工法。」(特許請求の範囲の請求項1,3) イ 「従って,請求項3記載の発明によれば,温水ホース収納容器を施工現場に配置し,工場で製造された管ライニング材を管ライニング材収納容器に収納して施工現場まで搬送することができるため,搬送するのは管ライニング材収納容器のみで済み,コンパクトな搬送が可能となって搬送コストを下げることができる。」(段落【0014】) ウ 「図1?図5は本発明に係る管路修復工法をその工程順に示す断面図である。 図1に示すように,地上には各々独立に構成された円筒状の温水ホース収納容器1と矩形ボックス状の管ライニング材収納容器2が設置されており,両者は着脱可能に連結されている。即ち,温水ホース収納容器1の開口ノズル部1aと管ライニング材収納容器2の開口ノズル部2aとが相対向し,両者は連結チューブ3によって連結され,連結チューブ3はこれの両端に設けられたカップリングジョイント4によってワンタッチで固定され,これによって温水ホース収納容器1と管ライニング材収納容器2が着脱可能,且つ,気密的に連結される。 ところで,前記温水ホース収納容器1内には,可撓性の温水ホース5が巻回された状態で収納されており,該温水ホース5の一端にはロープ6が連結されている。 他方,前記管ライニング材収納容器2内には,可撓性の管ライニング材7が多層に折り畳まれた状態で収納されており,該管ライニング材7の一端(エンド端)は気密的に閉止されて前記温水ホース5の先端に連結されている。ここで,管ライニング材7は,未硬化の熱硬化性樹脂を含浸したポリエステル,ビニロン,アクリル等の管状不織布の外表面をポリウレタン,ポリエチレン等の気密性の高いプラスチックフィルムで被覆して構成されており,管状不織布に含浸される未硬化の熱硬化性樹脂としては不飽和ポリエステル樹脂,ビニールエステル樹脂,エポキシ樹脂等が用いられる。 又,管ライニング材収納容器2の開口ノズル2bにはガイドチューブ8の一端が連結されており,該ガイドチューブ8の他端には反転ノズル9がカップリングジョイント10によってワンタッチで着脱可能に取り付けられている。そして,この反転ノズル9には,前記管ライニング材収納容器2内に収納された前記管ライニング材7の先端が外側に折り返されて気密的に取り付けられている。即ち,管ライニング材収納容器2内に折り畳まれた状態で収納された管ライニング材7は,その先端がガイドローラ11によってガイドされてガイドチューブ8を通って外部へ引き出され,該先端部は前述のように外側に折り返されて反転ノズル9の外周に気密的に取り付けられている。」(段落【0016】?【0020】) エ 「更に,本発明工法では,密閉容器を着脱可能な温水ホース収納容器1と管ライニング材収納容器2とで構成したため,温水ホース収納容器1を施工現場に配置し,工場で製造された管ライニング材7を管ライニング材収納容器2に収納して施工現場まで搬送することができ,搬送するのは管ライニング材収納容器2のみで済む。この結果,コンパクトな搬送が可能となって搬送コストを下げることができる。」(段落【0035】) オ 「【図1】 」(図1) (4) 甲1に記載された発明 甲1には,上記2(1)アの装置の実施例である上記2(1)ウ?カの装置を利用した内張り工法が記載されている。そして,上記2(1)ウには「内張り材42と圧力容器3に導入する場所と内張り工事を行う場所とが異なる場合には,・・・工事現場に着いたならば,一旦リールの回転を停止し,」と記載されているから,圧力容器と内張り工事を行う場所が異なる場合に,その間の圧力容器の移動中にリールを回転させているものが記載されているといえるから,次のとおりの発明(以下,「甲1発明」という。)が記載されていると認めることができる。 「内張り材導入口と前面下部に内張り材吐出口を備えており,内部に内張り材を巻回するリールが回転自在に軸支されている圧力容器と,圧力容器の吐出口下方から前方に伸びるレールと,レール上に前後に摺動自在に載置され,先端部に内張り材を環状に固定する内張り材固定金具,後端部に揺動型のシャッターを備えた内張り材吐出口に着脱自在に取付けられる接続金具を有する内張り材取付け金具と,内張材取付け金具に対して着脱自在に結合可能で内張り材内に挿通される内張り材よりも充分に細い加温用ホースの一端を結合することのできるホース取付け金具を有する鏡板と,内張りされる管路の他端に取付けられ,内張り材内の流体を排出する排出金具を有する蓋板を取付けた先端金具とよりなる内張り装置を利用する内張り工法であって,内張り材を圧力容器に導入する場所から内張り工事を行う場所(工事現場)への圧力容器の移動中にはリールを回転させるものであり,圧力容器内に,内面に接着剤を塗布した筒状の内張り材を収納し,該内張り材を流体圧力で裏返しながら管路内に挿通し,裏返された内張り材を,前記接着剤を介して管路内面に接着する内張り工法」 3 無効理由2?4について 事案にかんがみて,無効理由2?4についてまず検討する。 (1) 本件発明と甲1発明を対比する。 甲1発明の「圧力容器内に,内面に接着剤を塗布した筒状の内張り材を収納し,該内張り材を流体圧力で裏返しながら管路内に挿通し,裏返された内張り材を,前記接着剤を介して管路内面に接着する内張り工法」は,本件発明における「管ライニング材の管路内に反転挿入する管ライニング材反転方法」に相当することは明らかである。 そして,甲1発明の「リール」,「圧力容器」,「内張り材」,「接続金具を有する内張り材取付け金具」,「内張り材固定金具」は,それぞれ,本件発明における「回転体」,「収納容器」,「管ライニング材」,「導管」,「反転ノズル」に相当する。 また,甲1発明の「内張り材導入口」及び「内張り材吐出口」は,いずれも本件発明の「収納容器の開口部」に相当することは明らかである。 加えて,甲1の「内張り材42の端末を内張り材吐出口5から引出し,シャッター27を開いて内張り材取付け金具25内を通し,内張り材固定金具26に環状に取付ける。・・・ 次に,圧力流体送入口29から圧力流体(例えば圧縮空気)を送入し,内張り材42を流体圧力により裏返しながら無段変速機付きモーター11でリール4を駆動し,内張り材42を裏返しながら,該内張り材42の裏返し部分44を,管路37内を他端に向って前進せしめ,管路内に挿通して内張りする」(摘示2(1)ウ)の記載から,甲1発明においても,圧力容器(収納容器)の内張り材吐出口(収納容器の開口部)に内張り材固定金具(導管)を接続し,圧力容器に収納されている内張り材(管ライニング材)の一端を内張材吐出口及び内張り材固定金具を介して内張り材固定金具(反転ノズル)に取り付けるとともに,内張り材固定金具を介して内張り材を反転させるものが記載されているといえる。 さらに,本件特許明細書等の段落【0023】の記載において,管ライニング材の収納容器への取付けが,作業現場で行われるか作業現場に向かう前の段階で行われるかで区別しているものであることから,本件発明における「作業現場」とは,管ライニング材の反転作業を行う場所,すなわち実際の管の補修工事が行われる場所を意味し,甲1発明の「工事現場」に相当するといえる。 そうすると,両者は, 「管ライニング材を管路内に反転挿入する管ライニング材反転方法であって, 管ライニング材が巻回される回転体を内部に有し,管ライニング材が通過する開口部が形成された管ライニング材を収納する収納容器の開口部を開放し, 該開放した開口部を介して管ライニング材を前記収納容器の回転体に巻き取って管ライニング材を収納容器に収納し, 前記収納容器の開口部に導管を接続し,前記収納容器に収納された管ライニング材の一端を前記開口部並びに該開口部に接続された導管を介して反転ノズルに導いて該反転ノズルに取り付け, 前記反転ノズルを介して管ライニング材を反転させる管ライニング材反転方法。」 の点で一致し,以下の点で相違している。 相違点 収納容器(圧力容器)を作業現場(工事現場)に移動させるに際し,本件発明は「管ライニング材の一端を反転ノズルに取り付けた状態」で移動させると特定するのに対して,甲1発明は,「リールを回転」させながら移動させると特定する点。 (2) 相違点についての検討 甲1発明において,工事現場(作業現場)への移動時にリールを回転させているのは、上記2(1)エの記載から,接着剤が内張り材内で低い部分に滞留して,局部的に早期硬化を起こすことを防止するためである。 甲1発明は,たしかに,内張り材(管ライニング材)を内張り材固定金具(反転ノズル)に環状に固定する構成を有しているが,内張り材(管ライニング材)を内張り材固定金具(反転ノズル)に取り付ける作業は,工事現場(作業現場)に着いてからしか行えない。なぜなら,甲1発明において,収納容器を作業現場に移動させるに際して、「リールを回転」させながら移動させることに代えて,内張り材を内張り材固定金具に取り付けた状態で移動させようとすると,上述の接着剤が内張り材内で低い部分に滞留して,局部的に早期硬化を起こしてしまうこととなるからである。 してみれば、収納容器を作業現場に移動させるに際して、甲1発明の「リールを回転」させながら移動させることに代えて,内張り材を内張り材固定金具に取り付けた状態で移動させようとすることには阻害要因があるといえる。 そして,以上述べたことは,いわゆる副引例である甲2,3に記載されている技術事項の内容にかかわらずいえることである。 よって、当業者といえども、甲1発明において、納容器(圧力容器)を作業現場(工事現場)に移動させるに際し,「管ライニング材の一端を反転ノズルに取り付けた状態」で移動させることを想到するのは容易ということはできない。 (3) まとめ したがって,本件発明は,甲1を主たる引用文献とすることに基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。請求人の主張に係る無効理由2?4には,理由がない。 4 無効理由1について (1) 本件発明と甲1発明を対比すると,両発明の一致点及び相違点は上記3(1)に記載のとおりである。 (2) 前記相違点は,上記3(1)及び(2)の記載のとおり,実質的な相違ということができるので,本件発明は,甲1に記載された発明ということはできない。請求人の主張に係る無効理由1には,理由がない。 第7 むすび 以上のとおり,請求人の主張する無効理由1?4はいずれも理由がないので,請求項1に係る発明についての特許を無効とすることはできない。 審判に関する費用については,特許法169条2項で準用する民事訴訟法61条の規定により,請求人が負担すべきものである。 よって,結論のとおり審決する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】 管ライニング材反転方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、管ライニング材反転方法、更に詳細には、老朽化した既設管の内面にライニングを施して該既設管を修復する管ライニング材を反転させるための管ライニング材反転方法に関するものである。 【背景技術】 【0002】 地中に埋設された下水管、ガス管、通信ケーブル管、電力ケーブル管等の既設管が老朽化した場合、この既設管を地中から掘出することなく、その内面にライニングを施して既設管を補修する管ライニング工法が提案され、既に実用に供されている。 【0003】 上記管ライニング工法の1つとして、外表面がプラスチックフィルムで気密的に被覆された管状樹脂吸着材に未硬化の液状硬化性樹脂を含浸せしめて成る管ライニング材を用いて施工されるものが知られており、この工法においては、ライニング反転装置を用いて管ライニング材を流体圧によって管路内に反転挿入した後、該管ライニング材を流体圧によって膨張させて管路の内面に押圧した状態で、管ライニング材に含浸された硬化性樹脂を硬化させている。 【0004】 通常、管ライニング材は、平坦状にして折りたたんだ状態で密閉容器に収納され、この密閉容器に収納された管ライニング材の一端を外側に折り曲げてこれを密閉容器に接続された反転ノズルの開口端外周に取り付け、密閉容器内に流体圧を作用させて反転させながら管路内に挿入させている(特許文献1)。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0005】 【特許文献1】特開2003-165158号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0006】 しかしながら、従来のライニング材反転装置では、反転前の管ライニング材は折りたたんで収納容器に収納していたために、反転時に引き出す抵抗が大きく、大きな反転圧力が必要になるという欠点があった。 【0007】 また、管ライニング材は折りたたんで収納されているので、引き出し時、引き出し量に応じて折りたたまれた上部の管ライニング材が上下に変動し、引き出しが円滑に行われないという問題があった。 【0008】 本発明は、このような問題点を解決するもので、管ライニング材の反転時、管ライニング材の引き出し抵抗が少なく管ライニング材を円滑に反転させることが可能な管ライニング材反転方法を提供することを課題とする。 【課題を解決するための手段】 【0010】 また、本発明は、 管ライニング材を管路内に反転挿入する管ライニング材反転方法であって、 管ライニング材が巻回される回転体を内部に有し、管ライニング材が通過する開口部が形成された管ライニング材を収納する収納容器の開口部を開放し、 該開放した開口部を介して管ライニング材を前記収納容器の回転体に巻き取って管ライニング材を収納容器に収納し、 前記収納容器の開口部に導管を接続し、前記収納容器に収納された管ライニング材を前記開口部並びに該開口部に接続された導管を介して反転ノズルに導き、 前記反転ノズルを介して管ライニング材を反転させることを特徴とする。 【発明の効果】 【0011】 本発明では、管ライニング材が巻回される回転体を内部に有し、管ライニング材の引き出し時に管ライニング材が通過する開口部が形成された管ライニング材を収納する収納容器を設け、管ライニング材を収納容器内の回転体に巻き取るときは該開口部を開放するようにしているので、管ライニング材を、管ライニング材が引き出されるとき通過する開口部を介して収納容器内に導くことができる。 【図面の簡単な説明】 【0012】 【図1】本発明に係るライニング材反転装置をトラックに載せた状態で示した斜視図である。 【図2】ライニング材反転装置の正面図である。 【図3】ライニング材反転装置の側面図である。 【図4】ロール状に巻き取られた管ライニング材を示す斜視図である。 【図5】管ライニング材を収納容器に収納する過程を示した説明図である。 【図6】管ライニング材を反転して既設管に挿入する状態を示した説明図である。 【図7】管ライニング材を並置して巻き取る状態を示した側面図である。 【図8】管ライニング材の横断面図である。 【図9】(A)は管ライニング材の端部にホースを連結した例を示す側面図、(B)はその上面図である。 【図10】管ライニング材の既設管への反転挿入が完了した状態を示す説明図である。 【発明を実施するための形態】 【0013】 以下に本発明の実施例を添付図面に基づいて説明する。 【実施例】 【0014】 図1から図3には、ライニング材反転装置の構成が図示されており、符号10で示すものは、管ライニング材を収納する密閉構造の収納容器であり、通常、図1に示したように、支持板11、12を介してトラックの荷台に取り付けられて、作業現場に移動される。支持板12には、支持板を補強するための水平に延びるリブ構造12a、12bが設けられている。支持板11にも、同様なリブ構造11a、11bが設けられる(図3)。また、収納容器10の4隅には、上下調節機構13、14、15(残りの1は、見ることができないので不図示)が設けられており、それより、収納容器10を水平に保持できるようになっている。 【0015】 収納容器10には、複数のガイドローラー42を有する導管41を介して反転ノズル40が着脱可能に取り付けられる。反転ノズル40は、円柱状のノズル部40aと、ノズル部40aに対して気密に取り付けられる円錐部40bからなり、この円錐部40bには導管41の一端が同様に気密に取り付けられ、また導管41の反転ノズルと反対側端部には、フランジ41aが固定される。フランジ41aと、収納容器10の側方に延びる側管16に取り付けたフランジ16aは、複数のボルトとナットなどの固定手段を介して互いに気密に連結できるようになっており、それにより反転ノズル40が導管41を介して密閉構造を保って収納容器10に取り付けられる。 【0016】 また、収納容器10の両側部には、スプールやリールなどの回転体(以下リールとして説明する)22を回転自在に軸承する軸受け部25、26が取り付けられている。リール22は、管ライニング材1をロール状に巻き取るために使用され、図3、図4に示したように、軸受け部25、26にそれぞれ回転自在に軸承される小径軸22b、22dとその間の大径軸22cを有し、大径軸22cの一端には、スポーク23aを備えたリング板23が固定されており、また、他端には、スポーク24aを備えたリング板24が、軸方向に摺動自在に取り付けられる。 【0017】 このリール22の小径軸22bには、連結孔22aが穿孔されており、この連結孔22aに直流の電動モータ21の軸21aが連結される。電動モータ21は、モータ駆動部20に収納されており、電動モータ21が駆動されると、リール22は、図4で見て時計方向に回転し、それにより管ライニング材1はリール22にロール状に巻き取られる。なお、このとき、リング板24は、大径軸22cに沿って移動され、管ライニング材1の巻き取り幅に合ったところにその位置が調節され、管ライニング材の巻き取りを確実にする。 【0018】 また、リール22に巻き取られている管ライニング材1が、後述するように、収納容器から引き出されて反転される場合には、リール22に作用するトルクによりリール22が逆回転し、電動モータ21を回転させて発電機として動作させ、管ライニング材の引き出しに制動をかけることができる。 【0019】 また、収納容器10には、上記管ライニング材1を反転させるための流体圧(圧縮空気)を収納容器に送り込むためのダクト33、34が左右に取り付けられ、また、収納容器10の下方部には、開閉可能な作業用ドア30が気密に取り付けられており、作業者は、このドアを取っ手31を引くことにより開放して収納容器10の内部を点検することができる。 【0020】 また、リールに巻き取られる管ライニング材1は、公知の管ライニング材であり、図8に示すように、外表面がプラスチックフィルム1bで気密的に被覆された管状樹脂吸着材1cに未硬化の液状硬化性樹脂を含浸せしめて構成される。尚、プラスチックフィルム1bとしてはポリエチレン、塩化ビニル、ビニロン、ポリウレタン、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン-ナイロン共重合体等のフィルムが用いられ、管状樹脂吸着材1cとしてはポリエステル、ナイロン、アクリル、ビニロン等の不織布が用いられる。又、管状樹脂吸着材1cに含浸される未硬化の液状硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が用いられる。 【0021】 このような構成において、反転装置は、通常トラックに積み込まれており、収納容器10に管ライニング材を収納する場合は、導管41のフランジ41aと収納容器10の側管16のフランジ16aの固定を外し、導管41とそれに接続された反転ノズル40をクレーン(不図示)を用いて収納容器10から除去する。そして、図5(A)に示したように、開口部から管ライニング材1の一端をリール22に固定し、電動モータ21を直流電源45により駆動する。リール22は時計方向に回転し、管ライニング材1は扁平な状態になってリール22にロール状に巻き取られる。管ライニング材1がリング板23、24とほぼ同じ径になるまで巻き取られると、電動モータ21の駆動を停止する。 【0022】 その後、図5(B)に示したように、導管41と反転ノズル40が、フランジ41aと16aを固定することにより、収納容器10に取り付けられる。そして、管ライニング材1の一端1aは、反転ノズル40の開口部近くに導びかれ、図示のように外側に折り返されて、反転ノズル40の開口端外周にバンド48によって気密に取り付けられる。 【0023】 このような管ライニング材1の収納容器10への収納並びに管ライニング材1の反転ノズル40への取り付けは、作業現場で、あるいは作業現場に向かう前の段階で行うことができる。 【0024】 このような反転装置を用いて、下水道や通信ケーブル管等の既設管を更生する場合には、図6に示したように、反転装置が、マンホール50の近くに移動され、トラックにのせたまま反転ノズル40がマンホール50に垂直方向に臨まされる位置に配置される。 【0025】 その状態で、圧縮空気源43が駆動されて、バルブ44を介して圧縮空気がダクト33(34)を介して収納容器10内に供給される。収納容器10は、導管41、反転ノズル40まで密閉状態となっており気密状態が保たれているので、圧縮空気は、反転ノズル40の開口端に折り返して取り付けられた管ライニング材1の折り返し部にも作用し、それにより管ライニング材1は反転してマンホール50内に移動される。 【0026】 この流体圧(圧縮空気圧)の作用により、管ライニング材1はリール22から巻き戻されて収納容器10から引き出され、反転ノズル40により反転されてマンホール50内に挿入されていく。このとき、管ライニング材の引き出しによりリール22が逆回転することにより、このリール22に連結されている電動モータ21の軸21aが回転されるので、電動モータ21は発電機として動作し、リール22の逆回転、すなわち、管ライニング材1の引き出しに制動がかかるようになる。電動モータで発電した電気エネルギーは、例えば抵抗などの負荷49で消費するようにする。また、電動モータで発電した電気エネルギーを電源45に戻すようにして回生制動をかけるようにしてもよい。この場合、必要なら、電動モータを抵抗を介して電源に接続し、電動モータの巻き取り方向への回転力を減少させ、管ライニング材の引出し力の損失を防止するようにする。 【0027】 なお、管ライニング材1の引き出し速度が大きいほど、制動力が大きくなるので、管ライニング材1は、ほぼ一定の速度で引き出されるが、図6に示したように、回転速度センサ46によりリング板23(24)の回転速度を測定し、回転速度に応じてアクチュエータ47によりバルブ44の絞り量を変化させ、収納容器10に導入される圧縮空気量を調節しその圧力を調節するようにしてもよい。これにより、例えば回転速度が所定値よりも大きくなったときには、バルブ44を絞ることにより圧縮空気量を少なくして、回転速度を低下させることもできる。また、収納容器10には、気圧計36が取り付けられているので、この気圧計の気圧に応じてバルブ44の絞り量を調節し圧縮空気圧を調節することもできる。 【0028】 上述のように、収納容器10内に圧縮空気が供給されると、管ライニング材1は反転しながらマンホール50を下降し、屈曲管51によりその方向を水平にされて既設管52内に順次挿入される。そして、既設管52に反転挿入された管ライニング材1は、温水あるいは蒸気などで加温され、それにより管ライニング材1に含浸された熱硬化性樹脂が熱によって硬化するため、既設管52の内面は、硬化した管ライニング材1によってライニングされて修復される。 【0029】 なお、管ライニング材1は、修復すべき既設管の管径に応じて巻き取り幅が、図4に示したようにリールの幅一杯の大きさになるのではなく、管径が小さい場合には、狭い幅になる。そこで、図7に示したように、リールに2つ並置する形で管ライニング材を巻き取るようにしてもよい。 【0030】 この図7の構成では、リング板23、24と同じ構成のリング板28を設け、リング板24と28の間に、管ライニング材1’を、巻き径がほぼリング板の径になるまで巻き取り、その後、左隣に移動させてリング板23に寄せて巻き取る。引き出すときは、左側の管ライニング材1’から引き出され、その全てが引き出されると、右側に巻き取られている管ライニング材1’が引き出される。このような構成により、収納容器10内に収納する管ライニング材の量を増加させることができる。 【0031】 図9には、他の実施例が図示されている。図8に示した管ライニング材1の反転ノズルと反対側端部は、気密に封止されていて、この管ライニング材1の反対側端部1dには、連結具60、61を介して温水、蒸気などの熱媒を供給するホース62が連結される。ホース62は、電動モータ21によりリール22の大径軸22cに巻き取られ、管ライニング材1は、ホース62が巻き取られた後、リール22の大径軸22cに巻き取られる。 【0032】 この実施例では、管ライニング材1の反転挿入時、管ライニング材1のすべてがリール22から巻き戻されて、管ライニング材1の端部1dがリール22から離脱しても、その端部1dにホース62が連結されているため、今度はホース62が巻き戻され、それによりリール22が逆回転することにより電動モータ21がなお発電機として動作して、管ライニング材1の引き出しに制動をかけることができる。 【0033】 図10は、管ライニング材1の既設管52への反転挿入が完了した状態を示しており、管ライニング材1の端部1dが既設管52の最終端部に至るまで、ホース62の巻き戻しが継続するので、管ライニング材の引出しを、その反転挿入が完了するまで安定化させることができる。このために、ホース62は、図10に示したように、管ライニング材1の端部1dが既設管52の最終端部に達したとき、なお、ホース62がリール22に巻き取られた状態で残っているような長さに設計される。 【0034】 管ライニング材1の既設管52への反転挿入が完了すると、ホース62のリール側端部から、温水あるいは蒸気が供給され、それにより反転挿入された管ライニング材内の熱硬化性樹脂が加熱されて硬化し、既設管52の補修が完了する。なお、管ライニング材1の硬化は、ホース62の先端、つまり管ライニング材1の端部1dから温水あるいは蒸気を供給することにより行われるか、あるいは、ホース62に複数の噴射口を設け、この噴射口から温水又は蒸気をミスト状態として噴出させるか、あるいは噴射口から温水をシャワリングさせることにより行われる。 【符号の説明】 【0035】 1、1’ 管ライニング材 10 収納容器 21 電動モータ 22 リール 40 反転ノズル 45 電動モータ (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 管ライニング材を管路内に反転挿入する管ライニング材反転方法であって、 管ライニング材が巻回される回転体を内部に有し、管ライニング材が通過する開口部が形成された管ライニング材を収納する収納容器の開口部を開放し、 該開放した開口部を介して管ライニング材を前記収納容器の回転体に巻き取って管ライニング材を収納容器に収納し、 前記収納容器の開口部に導管を接続し、前記収納容器に収納された管ライニング材の一端を前記開口部並びに該開口部に接続された導管を介して反転ノズルに導いて該反転ノズルに取り付けるとともに、管ライニング材の一端を反転ノズルに取り付けた状態で収納容器を作業現場に移動させ、 前記反転ノズルを介して管ライニング材を反転させることを特徴とする管ライニング材反転方法。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
審理終結日 | 2015-02-09 |
結審通知日 | 2015-02-12 |
審決日 | 2015-03-02 |
出願番号 | 特願2010-249261(P2010-249261) |
審決分類 |
P
1
113・
121-
YAA
(B29C)
P 1 113・ 113- YAA (B29C) |
最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 川端 康之 |
特許庁審判長 |
須藤 康洋 |
特許庁審判官 |
田口 昌浩 大島 祥吾 |
登録日 | 2013-06-14 |
登録番号 | 特許第5291689号(P5291689) |
発明の名称 | 管ライニング材反転方法 |
代理人 | 早川 裕司 |
代理人 | 早川 裕司 |
代理人 | 村雨 圭介 |
代理人 | 竹安 英雄 |
代理人 | 加藤 卓 |
代理人 | 加藤 卓 |
代理人 | 村雨 圭介 |