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審決分類 審判 訂正 (特120条の4,3項)(平成8年1月1日以降) 訂正する C01G
審判 訂正 ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 訂正する C01G
審判 訂正 4項(134条6項)独立特許用件 訂正する C01G
管理番号 1301809
審判番号 訂正2015-390020  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 訂正の審決 
審判請求日 2015-02-27 
確定日 2015-05-12 
訂正明細書 有 
事件の表示 特許第3578757号に関する訂正審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 特許第3578757号に係る明細書及び特許請求の範囲を、本件審判請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを認める。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第3578757号(以下、「本件特許」という。)は、平成14年7月4日(優先権主張 平成13年7月4日)を国際出願日として出願された特許出願の請求項1?14に係る発明(以下、請求項の項番にしたがって、「本件特許発明1」などという。)について、平成16年7月23日にその特許権の設定の登録がなされ、平成27年2月27日に本件訂正審判の請求がなされたものである。

第2 審判請求の趣旨及び訂正の内容
本件審判請求の趣旨は、本件特許の明細書、特許請求の範囲を本件審判請求書に添付した訂正明細書、訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを認める、との審決を求めるものである。
そして、本件特許の訂正の内容は、次のとおりである(以下、「本件訂正」という。)。

1 本件訂正
本件特許の請求項1において
「Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をBaTiO_(3)に対して5mol%未満(0mol%を含む)含むチタン酸バリウムであって、BET比表面積x(単位:m^(2)/g)と、リートベルト法で算出した結晶格子のc軸長(単位:nm)とa軸長(単位:nm)の比yが、下記一般式を満たすチタン酸バリウム。
y=c軸長/a軸長
y≧1.011-8.8×10^(-6)×x^(3) (ただし、4.1≦x≦9.7)」
とあるのを、本件訂正により
「Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をBaTiO_(3)に対して5mol%未満(0mol%を含む)含むチタン酸バリウムであって、BET比表面積x(単位:m^(2)/g)と、リートベルト法で算出した結晶格子のc軸長(単位:nm)とa軸長(単位:nm)の比yが、下記一般式を満たすチタン酸バリウム;
y=c軸長/a軸長
y≧1.011-8.8×10^(-6)×x^(3) (ただし、4.1≦x≦9.7)
ただし、前記yが
y≦-0.000171x+1.010891 (式1)
(式中、 xは4.1?5.2)、及び
y≦-0.000556x+1.012889 (式2)
(式中、xは5.2?7.0)
の範囲を満たす固相法を用いて製造されたチタン酸バリウムと
前記yが
y≦1.010 (式3)
(ただし、前記比表面積は4.1?7.35の範囲内)、
y≦-0.000515x +1.013789 (式4)
(式中、xは7.35?9.29)、及び
y≦1.009 (式5)
(ただし、前記比表面積は9.29?9.57の範囲内)
の範囲を満たすアルコキシド法を用いて製造されたチタン酸バリウムとを除く。」
と訂正するものである(下線部が訂正部分である。)。また、以下では、訂正部分の前半の「固相法を用いて製造されたチタン酸バリウム」に関する部分を「訂正a」といい、後半部分の「アルコキシド法を用いて製造されたチタン酸バリウム」に関する部分を「訂正b」という。

第3 当審の判断
1 訂正の目的及び新規事項の追加の有無
本件訂正は、訂正前の本件特許発明1における「BET比表面積x(単位:m^(2)/g)と、リートベルト法で算出した結晶格子のc軸長(単位:nm)とa軸長(単位:nm)の比yが、下記一般式を満たすチタン酸バリウム。
y=c軸長/a軸長
y≧1.011-8.8×10^(-6)×x^(3) (ただし、4.1≦x≦9.7)」
から、訂正a及び訂正bで示される範囲のチタン酸バリウムを除く、いわゆる「除くクレーム」とする訂正にあたる。そして、訂正前の本件特許発明1の発明特定事項を変更することなく、その一部を除いたものであるから、本件特許発明1に新たな技術的特徴を導入するものでないことは明らかである。
また、本件訂正による訂正は、訂正前の本件特許発明1の発明特定事項を限定することにより特許請求の範囲を減縮するものある。
したがって、本件訂正は、願書に添付した明細書及び特許請求の範囲に記載した事項の範囲内においてするものであり(特許法第126条第5項)、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである(同条第1項ただし書第1号)。

2 独立特許要件
そして、本件訂正による訂正は、上記のとおり、新たな技術的特徴を導入することなく、特許請求の範囲を減縮するものであるので、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことは明らかである(同条第6項)。そこで、訂正後における特許請求の範囲に記載されている事項により特定される発明が、特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(同条第7項)について検討する。
訂正後の特許請求の範囲の記載は次のとおりである。
「【請求項1】
Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をBaTiO_(3)に対して5mol%未満(0mol%を含む)含むチタン酸バリウムであって、BET比表面積x(単位:m^(2)/g)と、リートベルト法で算出した結晶格子のc軸長(単位:nm)とa軸長(単位:nm)の比yが、下記一般式を満たすチタン酸バリウム;
y=c軸長/a軸長
y≧1.011-8.8×10^(-6)×x^(3) (ただし、4.1≦x≦9.7)
ただし、前記yが
y≦-0.000171x+1.010891 (式1)
(式中、 xは4.1?5.2)、及び
y≦-0.000556x+1.012889 (式2)
(式中、xは5.2?7.0)
の範囲を満たす固相法を用いて製造されたチタン酸バリウムと
前記yが
y≦1.010 (式3)
(ただし、前記比表面積は4.1?7.35の範囲内)、
y≦-0.000515x +1.013789 (式4)
(式中、xは7.35?9.29)、及び
y≦1.009 (式5)
(ただし、前記比表面積は9.29?9.57の範囲内)
の範囲を満たすアルコキシド法を用いて製造されたチタン酸バリウムとを除く。
【請求項2】
チタン酸バリウムが粉体である請求項1記載のチタン酸バリウム。
【請求項3】
塩基性化合物の存在するアルカリ性溶液中で、酸化チタンゾルとバリウム化合物を反応させるチタン酸バリウムの製造方法において、反応液中の炭酸基のCO_(2)換算の濃度500質量ppm以下で反応させる工程と、反応後、塩基性化合物を気体として除去する工程と、焼成する工程とを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項4】
酸化チタンゾルがチタン化合物を酸性下で加水分解して得たものである請求項3記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項5】
酸化チタンゾルがブルーカイト型結晶を含有するものである請求項3または4に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項6】
塩基性化合物が、焼成温度以下で、かつ、大気圧下または減圧下で、蒸発、昇華、及び/または熱分解により気体となる物質である請求項3乃至5のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項7】
塩基性化合物が有機塩基である請求項6に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項8】
アルカリ性溶液がpH11以上である請求項3乃至7のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項9】
塩基性化合物を気体として除去する工程が、室温?焼成温度の温度範囲で、大気圧下または減圧下で行われる請求項3乃至8のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項10】
塩基性化合物を気体として除去する工程が焼成工程に含まれる請求項3乃至8のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項11】
焼成工程が300?1200℃で行われる請求項3乃至10のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項12】
酸化チタンゾルとバリウム化合物との反応系に、Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素との化合物が存在する請求項3乃至11のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項13】
請求項1または2に記載のチタン酸バリウムを用いた誘電体磁器。
【請求項14】
請求項13に記載の誘電体磁器を用いたコンデンサ。」

2-1 先願発明
本件特許の優先日前の特許出願であって、その優先日後に出願公開がされた次の特許出願(以下、「先願1」及び「先願2」という。)の願書に最初に添付された特許請求の範囲、明細書又は図面(以下、「当初明細書等」という。)の記載内容を検討する。
・先願1:特願2001-68424号(特開2002-265278号公報)
・先願2:特願2000-244885号(特開2002-60219号公報)

(1)先願1について
先願1の当初明細書等には、次の事項が記載されている。
(ア)「【0007】そこで、この発明の目的は、固相反応法を適用しながら、微粒なチタン酸バリウム粉末を製造することが可能なチタン酸バリウム粉末の製造方法を提供しようとすることである。」
(イ)「【0054】
【実験例2】出発原料として、比表面積が30m^(2) /gの酸化チタン粉末を用い、これをエチルアルコールに分散させた。次に、得られた酸化チタンスラリーに、バリウムアルコキシドを、チタン1.0モルに対して、それぞれ、0.0モル(添加なし)、0.0005モル、0.001モル、0.02モル、0.1モルおよび0.2モルとなる添加量をもって添加し、湿式混合した。
【0055】このようにして得られた酸化チタンスラリーを用いて、実験例1の場合と同様の操作を実施して、試料となるチタン酸バリウム粉末を得た。
【0056】得られたチタン酸バリウム粉末のC/A軸比および比表面積が図3に示されている。
(ウ)「図3



記載事項(ア)によれば、先願1の当初明細書等には、固相反応を適用して製造されるチタン酸バリウムに関する発明が記載されている。そして、実験例2で製造されたチタン酸バリウムの比表面積とC/A軸比について同(ウ)を参照すると、比表面積に対し最も高いC/A軸比を示すデータとして、Baが0.02モルの場合に次の数値を読み取ることができる。

そして、xy座標平面上でデータ(i)と(ii)、及び(ii)と(iii)を結ぶ直線を線(I)及び線(II)として計算すれば、それぞれのxの数値範囲内で次の式となる。


したがって、先願1の当初明細書等に記載された固相法を用いて製造されたチタン酸バリウムは、次の範囲で本件特許発明1と重複するおそれがある。
「 y≦-0.000171x +1.010891 (式1)
(式中、 xは4.1?5.2)、及び
y≦-0.000556x+1.012889 (式2)
(式中、xは5.2?7.0)」

(2)先願2について
先願2の当初明細書等には、次の事項が記載されている。
(カ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】0.20?1.20モル/lの水酸化バリウム水溶液と、0.088?1.235モル/lのチタンアルコキシドのアルコール溶液と、を準備する工程と、
前記水酸化バリウム溶液と、前記チタンアルコキシドのアルコール溶液とを、Ba/Tiモル比が1.00?1.20となるよう調合して、他のアルカリ元素を混入させることなく混合溶液を得る工程と、
前記混合溶液を60?100℃で反応させる工程と、を備えることを特徴とする、微粒チタン酸バリウム粉末の製造方法。」
(キ)「【0037】
【実施例】(実施例1)まず、水酸化バリウム水溶液として、水酸化バリウム8水和物を90℃に加温した純水に添加して攪拌し完全に溶解させた混合溶液を準備し、チタンアルコキシドのアルコール水溶液として、イソプロポキシチタンをイソプロピルアルコールに溶解させた混合溶液を準備した。
【0038】次いで、水酸化バリウム水溶液を溶液槽3に投入し、チタンアルコキシドのアルコール水溶液をTi溶液槽4に投入し、これらを表1に示したBaモル量、Tiモル量、Ba/Tiモル比となるように調合し、上述の実施形態で説明した方法によって、熱処理前の試料A?Kの微粒チタン酸バリウム粉末を得た。なお、反応条件は、熟成槽8は80℃に保ち、熟成時間は1時間とした。
・・・・・
【0041】次いで、熱処理前の試料A?Kの微粒チタン酸バリウム粉末を加熱炉を用いて850,900,950,1000℃で2時間熱処理し、強誘電体である正方晶性の大きい、試料1?44の微粒チタン酸バリウム粉末を得た。
【0042】そこで、試料1?44の微粒チタン酸バリウム粉末の比表面積、平均粒径、c/a軸比を求め、これを表2にまとめた。」
(ク)「【表2】



(ケ)「【0045】(実施例2)・・・。
・・・
【0050】そこで、試料37?50のカルシウム変性微粒チタン酸バリウム粉末の比表面積、平均粒径、c/a軸比を求め、これを表4にまとめた。」
(コ)「【表4】



(サ)「【0053】(実施例3)・・・
【0054】次いで、上述のモル濃度範囲外の水酸化バリウム水溶液、あるいは上述のモル濃度範囲外のチタンアルコキシド溶液を準備し、これを調合した混合溶液を60?100℃で反応させて、熱処理前の微粒チタン酸バリウム粉末を作製し、これを加熱炉を用いて850℃で熱処理して、表5に示した比表面積,平均粒径,c/a軸比からなる、比較例である試料61,62の微粒チタン酸バリウム粉末を得た。」
(シ)「【表5】



記載事項(カ)によれば、先願2の当初明細書等に記載されたチタン酸バリウムは、水酸化バリウム水溶液とチタンアルコキシドのアルコール水溶液とを反応させて製造しているので、先願2には、アルコキシド法により製造したチタン酸バリウムに関する発明が記載されている。そして、実施例において製造されたチタン酸バリウムの比表面積とc/a軸比をまとめた同(ク)(コ)(シ)のデータを参照すると、先願2に記載されたチタン酸バリウムは、比表面積に対し最も高いc/a軸比を示すデータとして、次の数値を読み取ることができる。


そして、先願1と同様に、xy座標平面上でデータ(i)と(ii)、(ii)と(iii)及び(iii)と(iv)を結ぶ直線を、それぞれ線(I)、線(II)及び線(III)として計算すれば、それぞれのxの数値範囲内で次の式となる。


したがって、先願2の当初明細書等に記載されたアルコキシド法を用いて製造されたチタン酸バリウムは、次の範囲で本件特許発明1と重複するおそれがある。
「 y≦1.010 (式3)
(ただし、前記比表面積は4.1?7.35の範囲内)、
y≦-0.000515x+1.013789 (式4)
(式中、xは7.35 ?9.29)、及び
y≦1.009 (式5)
(ただし、前記比表面積は9.29?9.57の範囲内)」

2-2 判断
上記した先願1記載のチタン酸バリウムと重複するおそれがある範囲(2-1(1))は、本件訂正により除外される部分のうちの訂正aに対応し、同じく先願2記載のチタン酸バリウムと重複するおそれがある範囲(2-1(2))は、訂正bに対応するものである。
このため、訂正後の本件特許発明1及び本件特許発明1を引用する本件特許発明2?14は、本件訂正により先願1及び2に記載されたチタン酸バリウムの発明と同一発明となるおそれがある部分が除かれたので、特許法第29条の2の規定に該当しないことは明らかである。
本件においては、他に、訂正後の本件特許発明1ないし14が特許出願の際独立して特許を受けることができないとする理由を見出すことはできない。
したがって、訂正後の本件特許発明1?14は、特許法第126条第7項の規定に適合するものである。

第5 むすび
以上のとおり、本件訂正審判の請求は、特許法第126条第1項ただし書き第1号に掲げる事項を目的とし、かつ、同条第5項ないし第7項の規定に適合するものである。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
チタン酸バリウムおよびその製造方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電材料、積層セラミックコンデンサ、圧電材料等に用いられるチタン酸バリウムおよびその製造方法に関し、詳しくは、微細でありかつ正方晶化率の高いチタン酸バリウムおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウムは誘電材料、積層セラミックコンデンサ、圧電材料等の機能材料として広く用いられている。電子部品の小型化、軽量化が進んでいることから、より粒径が小さく、かつ、誘電率が高い等の電気的特性の優れるチタン酸バリウムを得る方法の開発が望まれている。
【0003】
正方晶化率が高いチタン酸バリウムは、誘電率が高いことが知られているが、十分に粒径を小さくすることができず、また、粒径の小さいチタン酸バリウムは、正方晶化率を高くできず、十分に誘電率を高くできなかった。
【0004】
チタン酸バリウム等のチタン含有複合酸化物粒子を製造する方法としては、酸化物や炭酸塩を原料とし、それらの粉末をボールミル等で混合した後、約800℃以上の高温で反応させて製造する固相法や、まず蓚酸複合塩を調製し、これを熱分解してチタン含有複合酸化物粒子を得る蓚酸塩法、金属アルコキシドを原料とし、それらを加水分解して前駆体を得るアルコキシド法、原料を水溶媒中で高温高圧として反応させて前駆体を得る水熱合成法等がある。また、チタン化合物の加水分解生成物と水溶性バリウム塩とを強アルカリ水溶液中で反応させる方法(特許1841875号公報)、酸化チタンゾルとバリウム化合物をアルカリ水溶液中で反応させる方法(国際公開WO00/35811号公報)等がある。
【0005】
しかしながら、固相法は製造コストが低いものの、生成したチタン含有複合酸化物粒子は粒径が大きく、誘電材料、圧電材料等の機能材料には適さない。粉砕を行うことで微粒子化すると粉砕の影響により歪みが生じ、正方晶化率の高い、すなわち誘電率の高いチタン酸バリウムとはならない。
【0006】
蓚酸塩法は固相法よりも小さな粒子が得られるものの、蓚酸に由来する炭酸基が残る。そのため電気的特性に優れたチタン酸バリウムが得られない。
【0007】
アルコキシド法と水熱合成法では、微細な粒径のチタン酸バリウムが得られるが内部に取り込まれた水に起因する水酸基の残留が多い。そのため電気的特性に優れたチタン酸バリウムが得られない。またアルコキシド法は炭酸基が残留する。
【0008】
水熱合成法は高温高圧条件下で行うため、専用設備が必要となり、コストが高くなるという問題がある。
【0009】
特許1841875号公報および国際公開WO00/35811号公報の方法は、アルカリとして水酸化カリウムまたは水酸化ナトリウムを用いているため、反応後それらのアルカリを除去する工程が必要である。その工程でバリウムの溶解と水酸基の取り込みが起こるため正方晶化率の高いチタン酸バリウムが得られない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、電子機器の小型化を可能とする小型のコンデンサに必要な薄膜の誘電体磁器を形成可能な、粒径が小さく、不要な不純物が少なく、電気的特性の優れたチタン酸バリウム及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前述の課題を鋭意検討した結果、塩基性化合物の存在するアルカリ性溶液中で、酸化チタンゾルとバリウム化合物を反応させ、反応後、塩基性化合物を気体として除去し、焼成することにより、従来の製造方法では得ることができなかったBET比表面積が大きく、正方晶化率の高いチタン酸バリウムを得られることを見いだし、発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、
(1)Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をBaTiO_(3)に対して約5mol%未満(0mol%を含む)含むチタン酸バリウムにおいて、BET比表面積x(単位:m^(2)/g)と、リートベルト法で算出した結晶格子のc軸長(単位:nm)とa軸長(単位:nm)の比yが、下記一般式を満たすチタン酸バリウム。
y=c軸長/a軸長
y≧1.011-8.8×10^(-6)×x^(3) (ただし、4.1≦x≦9.7)
(2)チタン酸バリウムが粉末状である前項1記載のチタン酸バリウム。
(3)塩基性化合物の存在するアルカリ性溶液中で、酸化チタンゾルとバリウム化合物を反応させるチタン酸バリウムの製造方法において、反応液中の炭酸基のCO_(2)換算の濃度約500質量ppm以下で反応させる工程と、反応後、塩基性化合物を気体として除去する工程と、焼成する工程とを含むことを特徴とする前項1または2に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
(4)酸化チタンゾルがチタン化合物を酸性下で加水分解して得たものである前項3記載のチタン酸バリウムの製造方法。
(5)酸化チタンゾルがブルーカイト型結晶を含有するものである前項3または4に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
(6)塩基性化合物が、焼成温度以下で、かつ、大気圧下または減圧下で、蒸発、昇華、及び/または熱分解により気体となる物質である前項3乃至5のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
(7)塩基性化合物が有機塩基である前項6に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
(8)アルカリ性溶液がpH約11以上である前項3乃至7のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
(9)塩基性化合物を気体として除去する工程が、室温?焼成温度の温度範囲で、大気圧下または減圧下で行われる前項3乃至8のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
(10)塩基性化合物を気体として除去する工程が、焼成工程に含まれる前項3乃至8のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
(11)焼成工程が、約300?約1200℃で行われる前項3乃至10のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
(12)酸化チタンゾルとバリウム化合物との反応系に、Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素との化合物を含む前項3乃至11のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
(13)前項1または2に記載のチタン酸バリウムを用いた誘電体磁器。
(14)前項13に記載の誘電体磁器を用いたコンデンサ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
【0014】
本発明のチタン酸バリウムは、BET比表面積x(単位:m^(2)/g)とリートベルト法で算出した結晶格子のc軸長(単位:nm)とa軸長(単位:nm)の比yが下記一般式を満たす特徴を有する。
y=c軸長/a軸長
y≧1.011-8.8×10^(-6)×x^(3) (ただし、4.1≦x≦9.7)
ここで本発明のチタン酸バリウムとは、一般式ABO_(3)で表されるペロブスカイト型化合物であり、AをBaが、BをTiが共に占めたBaTiO_(3)をいう。ただしSn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をBaTiO_(3)に対して約5mol%未満含んでも良い。
【0015】
c軸長(cと略す)及びa軸長(aと略す)の比c/a、すなわち前式yが大きいほど正方晶化率が大きくなるため誘電率が大きくなる。
【0016】
このようなチタン酸バリウムは、粒径が小さく、かつ、誘電率が高く電気的特性の優れたものであり、これから得られる誘電体磁器等の誘電材料を用いることにより積層セラミックコンデンサ等の小型の電子部品が得られ、さらにこれらを電子機器に用いることにより、電子機器の小型化、軽量化が可能となる。
【0017】
一般に電子機器の小型化のためには、BET比表面積が約0.1m^(2)/gより小さいと粒径が大きすぎ有効ではなく、約0.1m^(2)/gよりBET比表面積が大きく約9.7m^(2)/gより小さい範囲ではc/a比をy、BET比表面積をx(単位:m^(2)/g)としたときに、y≧1.011-8.8×10^(-6)×x^(3)を満たすと有効となる。また、BET比表面積が約9.7m^(2)/gより大きくてもc/a比が約1.003より大きいときは加熱処理することにより目的とするy≧1.011-8.8×10^(-6)×x^(3)の関係を満たす粉末が得られるため有効である。
【0018】
次に本発明の製造方法について説明する。
【0019】
本発明で用いられる酸化チタンゾルは、特に制限はないが、ブルーカイト型結晶を含有する酸化チタンを含有するものが望ましい。ブルーカイト型結晶を含有するものであればブルーカイト型の酸化チタン単独、またはルチル型やアナターゼ型の酸化チタンを含んでもよい。ルチル型やアナターゼ型の酸化チタンを含む場合、酸化チタン中のブルーカイト型酸化チタンの割合は特に制限はないが、通常、約1?100質量%であり、好ましくは約10?100質量%、より好ましくは約50?100質量%である。これは、溶媒中において酸化チタン粒子が分散性に優れたものとするためには、不定形よりも結晶性であることが単粒化しやすいことから好ましく、特にブルーカイト型酸化チタンが分散性に優れているためである。この理由は明らかではないが、ブルーカイト型がルチル型、アナターゼ型よりもゼータ電位が高いことと関係していると考えられる。
【0020】
ブルーカイト型結晶を含有する酸化チタン粒子の製造方法は、アナターゼ型酸化チタン粒子を熱処理してブルーカイト型結晶を含む酸化チタン粒子を得る製造方法や、四塩化チタン、三塩化チタン、チタンアルコキシド、硫酸チタン等のチタン化合物の溶液を中和したり、加水分解したりすることによって、酸化チタン粒子が分散した酸化チタンゾルとして得る液相での製造方法等がある。
【0021】
ブルーカイト型結晶を含有する酸化チタン粒子を原料として、チタン含有複合酸化物粒子を製造する方法としては、その粒子の粒径が小さく分散性に優れていることから、チタン塩を酸性溶液中で加水分解して酸化チタンゾルとして得る方法が好ましい。すなわち、約75?約100℃の熱水に四塩化チタンを加え、約75℃以上であって溶液の沸点以下の温度で、塩素イオン濃度をコントロールしながら四塩化チタンを加水分解して、酸化チタンゾルとしてブルーカイト型結晶を含有する酸化チタン粒子を得る方法(特開平11-043327号公報)や、約75?約100℃の熱水に四塩化チタンを加え、硝酸イオン、燐酸イオンのいずれか一方または双方の存在下に、約75℃以上であって溶液の沸点以下の温度で、塩素イオン、硝酸イオンおよび燐酸イオンの合計の濃度をコントロールしながら四塩化チタンを加水分解して、酸化チタンゾルとしてブルーカイト型結晶を含有する酸化チタン粒子を得る方法(国際公開WO99/58451号公報)が好ましい。
【0022】
こうして得られたブルーカイト型結晶を含有する酸化チタン粒子の大きさは、1次粒子径が通常約5?約50nmである。これは、約50nmを越えると、これを原料として製造したチタン含有複合酸化物粒子の粒径が大きくなり、誘電材料、圧電材料等の機能材料には適さないものとなる。約5nm未満では、酸化チタン粒子を製造する工程での取り扱いが困難である。
【0023】
本発明の製造方法において、チタン塩を酸性溶液中で加水分解して得られた酸化チタンゾルを用いる場合は、得られたゾル中の酸化チタン粒子の結晶型には制限はなく、ブルーカイト型に限定されるものではない。
【0024】
四塩化チタンや硫酸チタン等のチタン塩を酸性溶液中で加水分解すると、中性やアルカリ性の溶液中で行うよりも反応速度が抑制されるので粒径が単粒化し、分散性に優れた酸化チタンゾルが得られる。また、塩素イオン、硫酸イオン等の陰イオンが、生成した酸化チタン粒子の内部に取り込まれにくいので、チタン含有複合酸化物粒子を製造した際にその粒子への陰イオンの混入を低減することができる。
【0025】
一方、中性やアルカリ性の溶液中で加水分解すると、反応速度が大きくなり、初期に多くの核発生が起こる。そのため、粒径は小さいが分散性が悪い酸化チタンゾルとなり、粒子が鬘状に凝集してしまう。このような酸化チタンゾルを原料として、チタン含有複合酸化物粒子を製造した場合、得られた粒子は粒径が小さくても、分散性が悪いものとなる。また、陰イオンが酸化チタン粒子の内部に混入しやすくなり、その後の工程でこれらの陰イオンを除去することが難しくなる。
【0026】
チタン塩を酸性溶液中で加水分解し酸化チタンゾルを得る方法は、溶液が酸性に保持される方法であれば特に制限はないが、四塩化チタンを原料とし、還流冷却器を取り付けた反応器内で加水分解し、その際発生する塩素の逸出を抑制し、溶液を酸性に保持する方法(特開平11-43327号公報)が好ましい。
【0027】
また、原料のチタン塩の酸性溶液中の濃度は約0.01?約5mol/Lであることが好ましい。これは、濃度が約5mol/Lを越えると、加水分解の反応速度が大きくなり、粒径が大きく分散性の悪い酸化チタンゾルが得られるためであり、約0.01mol/L未満では、得られる酸化チタン濃度が少なくなり生産性が悪くなるためである。
【0028】
本発明の製造方法で用いられるバリウム化合物は、水溶性であることが好ましく、通常、水酸化物、硝酸塩、酢酸塩、塩化物等である。また、これらは1種類単独で用いてもよく、2種以上の化合物を任意の比率で混合して用いてもよい。具体的には、例えば、水酸化バリウム、塩化バリウム、硝酸バリウム、酢酸バリウム等が用いられる。
【0029】
本発明のチタン酸バリウムは、ブルーカイト型結晶を含有する酸化チタン粒子とバリウム化合物を反応させる方法、またはチタン塩を酸性溶液中で加水分解して得られた酸化チタンゾルとバリウム化合物を反応させる方法で製造することができる。
【0030】
反応の条件として塩基性化合物の存在するアルカリ性溶液中で反応させることが望ましい。溶液のpHは、好ましくは約11以上であり、より好ましくは約13以上であり、特に好ましくは約14以上である。pHを約14以上とすることで、より粒径の小さなチタン含有複合酸化物粒子を製造することができる。反応溶液は、例えば、有機塩基化合物を添加してpH約11以上のアルカリ性を保つのが望ましい。
【0031】
添加する塩基性化合物としては特に制限はないが、焼成温度以下で、かつ、大気圧下または減圧下で、蒸発、昇華、及び/または熱分解により気体となる物質が好ましく、例えば、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)、コリン等を好ましく用いることができる。水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物を添加すると、得られたチタン含有複合酸化物粒子中にアルカリ金属が残存してしまい、成形し、焼結し、誘電材料、圧電材料等の機能材料とした際にその特性が劣る可能性があるので、水酸化テトラメチルアンモニウム等の前記塩基性化合物を添加することが好ましい。
【0032】
さらに、反応溶液中の炭酸基(炭酸種としてCO_(2)、H_(2)CO_(3)、HCO_(3)^(-)、及びCO_(3)^(2-)を含む)の濃度を制御することにより、c/aの大きいチタン酸バリウムを安定に製造することが出来る。
【0033】
反応溶液中の炭酸基の濃度(CO_(2)換算値。以下、特に断りの無い限り同様である。)は、好ましくは約500質量ppm以下でありより好ましくは約1?約200質量ppmであり、特に好ましくは約1?約100質量ppmである。炭酸基の濃度がこの範囲外ではc/aの大きいチタン酸バリウムが得られないことがある。
【0034】
また、反応溶液においては、酸化チタン粒子または酸化チタンゾルの濃度が、約0.1?約5mol/Lであり、バリウムを含む金属塩の濃度が金属酸化物に換算して、約0.1?約5mol/Lになるように調製されることが好ましい。さらに、Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素との化合物を、反応後のチタン酸バリウム中にこれらの元素が、BaTiO_(3)に対して約5mol%未満含まれるように添加しても良い。これらの元素は、例えばコンデンサを製造する場合、その温度特性などの特性が希望する特性となるように、種類や添加量を調整すればよい。
【0035】
このように調製されたアルカリ溶液を、撹拌しながら常圧において、通常、約40℃?溶液の沸点温度、好ましくは約80℃?溶液の沸点温度に加熱保持し、反応させる。反応時間は通常、約1時間以上であり、好ましくは約4時間以上である。
【0036】
一般的にはここで、反応終了後のスラリーを電気透析、イオン交換、水洗、酸洗浄、浸透膜、などを用いる方法で不純物イオンを除去することが行なわれるが、不純物イオンと同時にチタン酸バリウムに含まれるバリウムもイオン化し一部溶解するため、所望の組成比への制御性が悪く、また結晶に欠陥が生じるためc/a比が小さくなる。塩基性化合物等の不純物の除去工程としては、このような方法を用いず、後述する方法を用いることが望ましい。
【0037】
反応終了後のスラリーを、焼成する事により本発明の粒子を得ることができる。焼成では、チタン含有複合酸化物粒子の結晶性を向上させるとともに、不純物として残存している塩素イオン、硫酸イオン、燐酸イオン等の陰イオンや、水酸化テトラメチルアンモニウム等の塩基性化合物等を、蒸発、昇華、及び/または熱分解により気体として除去することができ、通常、約300?約1200℃で行われる。焼成雰囲気は特に制限はなく、通常、大気中で行われる。
【0038】
焼成前に、取り扱い等の必要に応じて、固液分離を行っても良い。固液分離としては、例えば、沈降、濃縮、濾過、及び/または乾燥等の工程が含まれる。沈降、濃縮、濾過工程では、沈降速度を変える、あるいは濾過速度を変えるために、凝集剤や分散剤を用いても良い。乾燥工程は、液成分を蒸発または昇華する工程であり、例えば、減圧乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥等の方法が用いられる。
【0039】
さらに、室温?焼成温度の温度範囲で、大気圧下または減圧下であらかじめ塩基性化合物等を気体として除去してから焼成を行なっても良い。
【0040】
このようにして製造されるチタン酸バリウムは、BET比表面積x(単位:m^(2)/g)とリートベルト法で算出した結晶格子のc軸長(単位:nm)とa軸長(単位:nm)の比yが下記一般式を満たす電気的特性に優れたものである。
【0041】
y=c軸長/a軸長
y≧1.011-8.8×10^(-6)×x^(3) (ただし、4.1≦x≦9.7)
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例および比較例をあげて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0043】
実施例1:
四塩化チタン(住友シチックス製:純度99.9%)濃度が0.25mol/Lの水溶液を還流冷却器つきの反応器に投入し、塩素イオンの逸出を抑制し、酸性に保ちながら沸点付近まで加熱した。その温度で60分間保持して四塩化チタンを加水分解し、酸化チタンゾル得た。得られた酸化チタンゾルの一部を110℃で乾燥し理学電機(株)製X線回折装置(RAD-B ローターフレックス)で結晶型を調べた結果ブルーカイト型酸化チタンであることがわかった。
【0044】
水酸化バリウム八水和物(バライト工業製)126gと水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)20質量%水溶液(セイケム昭和製)に炭酸ガスを吹き込み炭酸基濃度60質量ppm(CO_(2)換算値。以下、特に断りのない限り同様である。)とした水溶液456gを加えpHを14とし、還流冷却器付きの反応器で95℃に加熱した。前記ゾルを沈降濃縮して得た酸化チタン濃度15質量%のゾル213gを反応器に7g/分の速度で滴下した。
【0045】
液温を110℃まで上昇し攪拌を続けながら4時間保持して反応を行い得られたスラリーを50℃まで放冷した後、濾過を行った。濾過残渣を300℃で5時間乾燥し微粒子粉体を得た。反応に用いた酸化チタン量と水酸化バリウム量から算出される理論収量に対する実収量の割合は99.8%であった。この粉体を結晶化するため大気雰囲気下において880℃で2時間保持した。このときの昇温速度は毎分20℃とした。
【0046】
この粉体のX線回折を理学電機(株)製X線回折装置(RAD-B ローターフレックス)で調べた結果、得られた粉体はペロブスカイト型のBaTiO_(3)であることがわかった。X線回折強度からリートベルト解析によりc/a比を求めたところ1.0104であった。BET法で求めた比表面積Sは7.1m^(2)/gであり、この比表面積の時に前記式より算出されたc/a比1.0079より大きいことがわかった。試料に含まれる炭酸基の量を赤外分光分析法により定量した。炭酸基が全て炭酸バリウムであるとすると約1質量%に相当する量であった。同時に格子内に水酸基が存在すると3500cm^(-1)付近に急峻な吸収ピークが現れる事が知られているが本試料では現れなかった。
【0047】
参考例1:
実施例1と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO_(3)を得た。ただし、600℃で2時間保持することで結晶化した。実施例1と同様にして調べたところ比表面積は25m^(2)/g、c/a比は1.0032であった。
【0048】
実施例3:
実施例1と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO_(3)を得た。ただし、950℃で2時間保持することで結晶化した。実施例1と同様にして調べたところ比表面積は4.1m^(2)/g、c/aの比は1.0106であった。前記式より算出されたc/a比1.0104より大きいことがわかった。
【0049】
参考例2:
実施例1と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO_(3)を得た。ただし、1200℃で2時間保持することで結晶化した。実施例1と同様にして調べたところ比表面積は0.5m^(2)/g、c/a比は1.0110であった。前記式より算出されたc/a比1.0110と同等であることがわかった。
【0050】
実施例5:
TMAH添加量を減らしpHを11とした以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。理論収量に対する実収量の割合は98%であった。880℃で2時間保持することにより結晶化させた試料に関して実施例1と同様に調べたところ比表面積は7.3m^(2)/g、c/a比は1.0102であった。前記式より算出されたc/a比1.0076より大きいことがわかった。
【0051】
実施例6:
TMAH水溶液の代わりに炭酸基濃度75質量ppmのコリン水溶液を用いた以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。理論収量に対する実収量の割合は99.9%であった。880℃で2時間保持することにより結晶化させた試料に関して実施例1と同様に調べたところ比表面積は7m^(2)/g、c/a比は1.0103であった。前記式より算出されたc/a比1.0080より大きいことがわかった。
【0052】
実施例7:
実施例1で合成したブルーカイト型酸化チタンゾルの代わりに市販のアナターゼ型酸化チタンゾル(石原産業製STS-02)を用いた以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。理論収量に対する実収量の割合は99.8%であった。880℃で2時間保持することにより結晶化させた試料に関して実施例1と同様に調べたところ比表面積は7.7m^(2)/g、c/a比は1.0071であった。前記式より算出されたc/a比1.0070より大きいことがわかった。
【0053】
実施例8:
炭酸基含有量60質量ppmのTMAHの代わりに炭酸基含有量110質量ppmのTMAHを用いた以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。理論収量に対する実収量の割合は99.8%であった。880℃で2時間保持することにより結晶化させた試料に関して実施例1と同様に調べたところ比表面積は7.3m^(2)/g、c/a比は1.0099であった。前記式より算出されたc/a比1.0076より大きいことがわかった。
【0054】
実施例9:
炭酸基含有量60質量ppmのTMAHの代わりに炭酸基含有量215質量ppmのTMAHを用いた以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。理論収量に対する実収量の割合は99.7%であった。880℃で2時間保持することにより結晶化させた試料に関して実施例1と同様に調べたところ比表面積は7.5m^(2)/g、c/a比は1.0092であった。前記式より算出されたc/a比1.0073より大きいことがわかった。
【0055】
実施例10:
炭酸基含有量60質量ppmのTMAHの代わりに炭酸基含有量490質量ppmのTMAHを用いた以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。理論収量に対する実収量の割合は99.4%であった。880℃で2時間保持することにより結晶化させた試料に関して実施例1と同様に調べたところ比表面積は8.1m^(2)/g、c/a比は1.0065であった。前記式より算出されたc/a比1.0063より大きいことがわかった。
【0056】
実施例11:
実施例1で合成したブルーカイト型酸化チタンゾルの代わりに市販のアナターゼ型酸化チタンゾル(石原産業製ST-02)を用いた以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。理論収量に対する実収量の割合は99.8%であった。880℃で2時間保持することにより結晶化させた試料に関して実施例1と同様に調べたところ比表面積は7.7m^(2)/g、c/a比は1.0071であった。前記式より算出されたc/a比1.0070より大きいことがわかった。
【0057】
比較例1:
蓚酸水溶液を攪拌しながら80℃に加熱しそこにBaCl_(2)とTiCl_(4)の混合水溶液を滴下し蓚酸チタニルバリウムを得た。得られた試料から塩素を除去するため水洗を行なった後、これを950℃で熱分解することによりBaTiO_(3)を得た。実施例1と同様に調べたところ比表面積は4m^(2)/g、c/a比は1.0088であった。前記式より算出されたc/a比1.0104より小さいことがわかった。この試料に含まれる炭酸基の量を赤外分光分析装置で定量したところ炭酸バリウムに換算すると8質量%存在することがわかった。不純物として働く炭酸基が大量に生成するため正方晶化率が高くならない。すなわち誘電材料としての誘電特性に劣ることが推測される。
【0058】
比較例2:
実施例1で合成したブルーカイト型酸化チタンゾル667gと水酸化バリウム八水和物592g(Ba/Tiモル比1.5)とイオン交換水を1Lとを3Lのオートクレーブに入れた後、150℃で1時間保持することで飽和蒸気圧下で水熱処理を行った。得られた試料中に含まれる過剰なバリウムを水洗後、800℃で2時間保持することにより結晶化させた。実施例1と同様に調べたところ比表面積は6.9m^(2)/g、c/a比は1.0033であった。前記式より算出されたc/a比1.0081より小さいことがわかった。この試料を赤外分光分析装置で評価したところ3500cm^(-1)付近に格子内水酸基の急峻な吸収がみられた。水熱合成法では格子内に水酸基を持ち込むために正方晶化率が低くなると推測される。
【0059】
比較例3:
実施例1と同様にしてペロブスカイト型のBaTiO_(3)微粒子粉体を得た。この粉体を300℃で2時間保持することで結晶化した。実施例1と同様にして調べたところ比表面積は45m^(2)/g、c/a比は1.0000であった。
【0060】
比較例4:
TMAHを添加しないこと以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。このときのpHは10.2であった。理論収量に対する実収量の割合は86%であった。pHが低くなると収率が下がり実用的でないことがわかった。
【0061】
比較例5:
TMAHの代わりにKOHを用いた以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。理論収量に対する実収量の割合は99.9%であった。濾過した試料を水洗しK濃度を100ppmとした。この試料を800℃で2時間保持することにより結晶化させた試料に関して実施例1と同様に調べたところ比表面積は9m^(2)/g、c/a比は1.0030であった。前記式より算出されたc/a比1.0046より小さいことがわかった。この試料を赤外分光分析装置で評価したところ3500cm^(-1)付近に格子内水酸基の急峻な吸収がみられた。またBa/Tiモル比が洗浄前より0.007小さくなったことからKと同時にBaが溶出することが示唆された。
【0062】
比較例6:
炭酸基濃度60質量ppmのTMAHの代わりに炭酸基濃度1000質量ppmのTMAHを用いた以外は実施例1と同様の操作でチタン酸バリウムを合成した。理論収量に対する実収量の割合は99.4%であった。880℃で2時間保持することにより結晶化させた試料に関して実施例1と同様に調べたところ比表面積は8.3m^(2)/g、c/a比は1.0058であった。前記式より算出されたc/a比1.0060より小さいことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
BET比表面積x(単位:m^(2)/g)と、リートベルト法で算出した結晶格子のc軸長(単位:nm)とa軸長(単位:nm)の比yとすると、
y=c軸長/a軸長
y≧1.011-8.8×10^(-6)×x^(3) (ただし、4.1≦x≦9.7)
を満たすチタン酸バリウムは、粒径が小さく、かつ、誘電率が高く電気的特性の優れたものであり、これから得られる誘電体磁器等の誘電材料を用いることにより積層セラミックコンデンサ等の小型の電子部品が得られ、さらにこれらを電子機器に用いることにより、電子機器の小型化、軽量化が可能となる。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素をBaTiO_(3)に対して5mol%未満(0mol%を含む)含むチタン酸バリウムであって、BET比表面積x(単位:m^(2)/g)と、リートベルト法で算出した結晶格子のc軸長(単位:nm)とa軸長(単位:nm)の比yが、下記一般式を満たすチタン酸バリウム;
y=c軸長/a軸長
y≧1.011-8.8×10^(-6)×x^(3) (ただし、4.1≦x≦9.7)
ただし、前記yが
y≦-0.000171x+1.010891 (式1)
(式中、xは4.1?5.2)、及び
y≦-0.000556x+1.012889 (式2)
(式中、xは5.2?7.0)
の範囲を満たす固相法を用いて製造されたチタン酸バリウムと
前記yが
y≦1.010 (式3)
(ただし、前記比表面積は4.1?7.35の範囲内)、
y≦-0.000515x+1.013789 (式4)
(式中、xは7.35?9.29)、及び
y≦1.009 (式5)
(ただし、前記比表面積は9.29?9.57の範囲内)
の範囲を満たすアルコキシド法を用いて製造されたチタン酸バリウムとを除く。
【請求項2】
チタン酸バリウムが粉体である請求項1記載のチタン酸バリウム。
【請求項3】
塩基性化合物の存在するアルカリ性溶液中で、酸化チタンゾルとバリウム化合物を反応させるチタン酸バリウムの製造方法において、反応液中の炭酸基のCO_(2)換算の濃度500質量ppm以下で反応させる工程と、反応後、塩基性化合物を気体として除去する工程と、焼成する工程とを含むことを特徴とする請求項1または2に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項4】
酸化チタンゾルがチタン化合物を酸性下で加水分解して得たものである請求項3記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項5】
酸化チタンゾルがブルーカイト型結晶を含有するものである請求項3または4に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項6】
塩基性化合物が、焼成温度以下で、かつ、大気圧下または減圧下で、蒸発、昇華、及び/または熱分解により気体となる物質である請求項3乃至5のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項7】
塩基性化合物が有機塩基である請求項6に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項8】
アルカリ性溶液がpH11以上である請求項3乃至7のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項9】
塩基性化合物を気体として除去する工程が、室温?焼成温度の温度範囲で、大気圧下または減圧下で行われる請求項3乃至8のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項10】
塩基性化合物を気体として除去する工程が焼成工程に含まれる請求項3乃至8のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項11】
焼成工程が300?1200℃で行われる請求項3乃至10のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項12】
酸化チタンゾルとバリウム化合物との反応系に、Sn,Zr,Ca,Sr,Pb,La,Ce,Mg,Bi,Ni,Al,Si,Zn,B,Nb,W,Mn,Fe,Cu,及びDyからなる群より選ばれた少なくとも一種の元素との化合物が存在する請求項3乃至11のいずれか1項に記載のチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項13】
請求項1または2に記載のチタン酸バリウムを用いた誘電体磁器。
【請求項14】
請求項13に記載の誘電体磁器を用いたコンデンサ。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審決日 2015-04-30 
出願番号 特願2003-510394(P2003-510394)
審決分類 P 1 41・ 841- Y (C01G)
P 1 41・ 851- Y (C01G)
P 1 41・ 856- Y (C01G)
最終処分 成立  
前審関与審査官 廣野 知子  
特許庁審判長 河原 英雄
特許庁審判官 大橋 賢一
真々田 忠博
登録日 2004-07-23 
登録番号 特許第3578757号(P3578757)
発明の名称 チタン酸バリウムおよびその製造方法  
代理人 永坂 友康  
代理人 古賀 哲次  
代理人 古賀 哲次  
代理人 河野上 正晴  
代理人 石田 敬  
代理人 石田 敬  
代理人 高橋 正俊  
代理人 青木 篤  
代理人 永坂 友康  
代理人 高橋 正俊  
代理人 河野上 正晴  
代理人 青木 篤  

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