• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C07K
管理番号 1301813
審判番号 無効2012-800091  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2012-05-31 
確定日 2015-04-23 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第4773695号発明「マイクロ波利用のペプチド合成」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 特許第4773695号の請求項1、3ないし9に係る発明についての特許を無効とする。 特許第4773695号の請求項2、10、11に係る発明についての審判請求は、成り立たない。 審判費用は、その11分の3を請求人の負担とし、11分の8を被請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯

本件特許第4773695号に係る発明についての出願は、平成16年6月23日に特許出願(パリ条約による優先権主張 2003年6月23日 米国)され、平成23年7月1日に特許の設定登録がなされたものである(請求項の数11)。そして、請求人は、平成24年5月31日付で当該特許の請求項1?11に係る発明について、特許無効審判請求を行い、被請求人は、平成24年9月25日付で答弁書を提出するとともに訂正請求を行った。


第2.訂正請求について

1.訂正事項

被請求人は、平成24年9月24日付訂正請求書(平成24年10月5日付で補正)により、特許請求の範囲を訂正特許請求の範囲のとおり一群の請求項ごとに訂正することを求めた。

その内容は、訂正前の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明である、
「ペプチドの固相合成を促進する方法であって:
Na-9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)及びNa-t-ブトキシカルボニル(Boc)からなる群から選択された組成物で保護され、固相樹脂粒子に結合された第一アミノ酸のα-アミノ基を、マイクロ波透過性容器において該保護され結合されたアミノ酸を脱保護性溶液と混合し、該混合したアミノ酸及び溶液にマイクロ波を照射することにより、脱保護する工程;
第二アミノ酸及び活性化溶液を該同一容器に添加し、該第二アミノ酸を活性化させる工程;
該同一容器中の組成物にマイクロ波を照射しながら、該第二アミノ酸を該第一アミノ酸にカップリングさせる工程;及び
サイクルとサイクルとの間に該同一のマイクロ波透過性容器からペプチドを取り出すことなく、該同一の容器において複数のアミノ酸を連続的に脱保護し、活性化し、そしてカップリングしてペプチドを形成する工程、
を含む方法。」

について、

「複数のアミノ酸を連続的に脱保護し、活性化し、そしてカップリングしてペプチドを形成する工程」を、

「連続的に前記脱保護工程、活性化工程、およびカップリング工程を行い、複数のアミノ酸をカップリングしてペプチドを形成する工程」
に訂正するものである。

また、この訂正により、請求項1を直接的又は間接的に引用する請求項2?11についても、同様の訂正がなされることになる。


2.訂正事項についての判断

訂正前の請求項1の記載では、「複数のアミノ酸」に対して施す「脱保護」、「活性化」及び「カップリング」が、それ以前に記載される「脱保護する工程」、「活性化させる工程」及び「カップリングさせる工程」を指し示しているのかどうかが必ずしも明瞭でなく、「複数のアミノ酸」に対して施す「脱保護」、「活性化」及び「カップリング」におけるマイクロ波照射の有無が明確であったとはいえない。
したがって、「複数のアミノ酸を連続的に脱保護し、活性化し、そしてカップリングしてペプチドを形成する工程」とは、明瞭でない記載であり、上記の訂正は、当該3つの工程が「前記」したものであることを明確にするものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、特許法第134条の2第1項ただし書き第3号に該当するものである。
そして、「連続的に前記脱保護工程、活性化工程、およびカップリング工程を行い、複数のアミノ酸をカップリングしてペプチドを形成する工程」は、訂正前明細書に記載されているから(例えば段落【0063】、「実験」の項である段落【0078】?【0088】)、この訂正は新規事項を追加するものでなく、特許法第134条の2第9項で準用する第126条第5項の要件を満たし、また、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでもないから、特許法第134条の2第9項で準用する同第126条第6項の要件を満たすものである。


3.小括

以上のとおりであるから、本件訂正は、適法な訂正と認める。


第3.本件発明について

本件発明は、平成24年9月24日付訂正請求書(平成24年10月5日付で補正)で訂正された特許請求の範囲に記載された事項により特定されるものであって、その記載は、以下のとおりである。

「【請求項1】
ペプチドの固相合成を促進する方法であって:
Na-9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)及びNa-t-ブトキシカルボニル(Boc)からなる群から選択された組成物で保護され、固相樹脂粒子に結合された第一アミノ酸のα-アミノ基を、マイクロ波透過性容器において該保護され結合されたアミノ酸を脱保護性溶液と混合し、該混合したアミノ酸及び溶液にマイクロ波を照射することにより、脱保護する工程;
第二アミノ酸及び活性化溶液を該同一容器に添加し、該第二アミノ酸を活性化させる工程;
該同一容器中の組成物にマイクロ波を照射しながら、該第二アミノ酸を該第一アミノ酸にカップリングさせる工程;及び
サイクルとサイクルとの間に該同一のマイクロ波透過性容器からペプチドを取り出すことなく、該同一の容器において連続的に前記脱保護工程、活性化工程、およびカップリング工程を行い、複数のアミノ酸をカップリングしてペプチドを形成する工程、
を含む方法。
【請求項2】
脱保護工程、活性化工程、カップリング工程及び切断工程の任意の1つ以上の工程の間に容器を冷却して、マイクロ波エネルギーからの熱の蓄積により固相支持体又はペプチドが分解するのを防ぐ工程を含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項3】
3つ以上のアミノ酸に関して脱保護工程、活性化工程及びカップリング工程を連続して周期的に繰り返すことにより、所望のペプチドを合成することを含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項4】
複数の周期の間にペプチドを固相樹脂から又は容器から取り出すことなく、連続する脱保護工程、活性化工程、カップリング工程及び切断工程を単一反応器において実施することを含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項5】
更に、脱保護工程、活性化工程、カップリング工程及び切断工程の1つ以上の工程の間に、混合物を窒素気体により撹拌する工程を含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項6】
アミノ酸の側鎖を脱保護することを含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項7】
該アミノ酸の該側鎖を、t-ブチルをベースとする側鎖保護基を除去するのに適する組成物で脱保護することを含む、請求項6記載のペプチド合成方法。
【請求項8】
更に、カルボジイミド型のカップリング試薬を用いて、第二アミノ酸をin situで活性化させカップリングさせることを含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項9】
該同一容器内の組成物にマイクロ波を照射しながら第一アミノ酸に第二アミノ酸をカップリングさせる、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項10】
固相樹脂に結合されたペプチドを、該同一容器において切断性組成物と混合し、該組成物にマイクロ波を照射しながら、該結合ペプチドを該固相樹脂から切断する工程を含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項11】
更に、トリフルオロ酢酸から成り、保護基及びリンカーから生ずる反応性カルボニウムイオンを消失させるための複数の掃去剤を含有する切断性組成物を用いることを含む、請求項10記載のペプチド合成方法。」

請求項1?11に係る発明を、以下、それぞれ「本件発明1」?「本件発明11」等という。


第4.請求人の主張する無効理由

1.無効理由について

請求人の主張する無効理由は、以下の無効理由1?5、8、9である。
なお、平成25年1月22日の第1回口頭審理調書のとおり、請求人は、無効理由6及び7の主張を取り下げるとし、被請求人は、当該主張の取り下げに同意した。

無効理由1
本件発明1、3?9は、甲第1号証、甲第2号証または甲第3号証、及び甲第4号証(以下、この項において「前記証拠」という)に記載された発明に基づいて、本件発明2は、前記証拠及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、本件発明10は、前記証拠及び甲第10号証に記載された発明に基づいて、本件発明11は、前記証拠及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、これらの発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由2
本件発明1?10は、甲第1号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて、本件発明11は、甲第1号証、甲第7号証、及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、これらの発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由3
本件発明1、3?10は、甲第1号証及び甲第8号証(以下、この項において「前記証拠」という)に記載された発明に基づいて、本件発明2は、前記証拠及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、本件発明11は、前記証拠及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、これらの発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由4
本件発明1、3?10は、甲第1号証、甲第9号証及び甲第2号証(以下、この項において「前記証拠」という)に記載された発明に基づいて、本件発明2は、前記証拠及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、本件発明11は、前記証拠及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、これらの発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由5
本件発明1、3?10は、甲第1号証、甲第9号証及び甲第10号証(以下、この項において「前記証拠」という)に記載された発明に基づいて、本件発明2に係る発明は、前記証拠及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、本件発明11に係る発明は、前記証拠及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。
したがって、これらの発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるから、特許法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。

無効理由8
本件発明1に関して、平成22年8月5日に提出された手続補正書(甲第15号証)によりなされた補正は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではない。 したがって、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。

無効理由9
本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明1?11の課題が解決できることを確認した実験結果が示されておらず、これらの課題を解決できることが出願時の技術常識から推認可能であるともいえない。
したがって、本件発明1?11についての特許は、特許法第36条第4項第1号および同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。


2.証拠方法及び主な証拠方法の内容

請求人は、証拠方法として以下の甲第1?21号証を提出した。

甲第1号証:CHAN and WHITE, "Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach", Oxford University Press, 2000, Reprinted 2004,chapters 2 and 13

甲第2号証:ERDELYI M. et al., "Rapid Microwave-Assisted Solid Phase Peptide Synthesis", Synthesis, 2002 , No. 11, p.1592-1596

甲第3号証:YU H-M et al., "Enhanced Coupling Efficiency in Solid-Phase Peptide Synthesis by Microwave Irradiation", The Journal of Organic Chemistry, Vol. 57, No. 18, 1992, p. 4781-4784

甲第4号証:DAGA M. C. et al., "Rapid microwave- assisted deprotection of N-Cbz and N-Bn derivatives" Tetrahedron Letters, 2001, UNITED KINGDOM, Vol. 42, No. 31, p. 5191-5194

甲第5号証:米国特許第6,011,247号明細書

甲第6号証:SCHNORRENBERG G. et al., "FULLY AUTOMATIC SIMULTANEOUS MULTIPLE PEPTIDE SYNTHESIS IN MICROMOLAR SCALE - RAPID SYNTHESIS OF SERIES OF PEPTIDES FOR SCREENING IN BIOLOGICAL ASSAYS", Tetrahedron, 1989,Vol.45, No.24, p.7759-7764

甲第7号証:特表平11-504210号公報

甲第8号証:PIN and YUFEI, 化学通報, 2003, Vol. 66, w104

甲第9号証:VARANDA and MIRANDA, "Solid-phase peptide synthesis at elevated temperatures: a search for an optimized synthesis condition of unsulfated cholecystokinin-12", J. Peptide Res.,1997, Vol.50, p.102-108

甲第10号証:KAPPE O., "Speeding up solid-phase chemistry by microwave irradiation: A tool for high-throughput synthesis", American Laboratory, May 2001, p.13-19

甲第11号証:米国特許出願10/604,022の出願時明細書及びクレーム

甲第12号証:国際公開第2004/002617号

甲第13号証:Jonathan M. COLLINS et al., "Novel Method for Solid Phase Peptide Synthesis Using Microwave Energy", Presented at American Peptide Symposium, 22 July 2003,p.1-8

甲第14号証:本件特許の出願手続において出願人が平成23年3月7日付で特許庁に提出した意見書

甲第15号証:本件特許の出願手続において出願人が平成22年8月5日付で特許庁に提出した手続補正書

甲第16号証:本件特許公報(特許第4773695号公報)

甲第17号証:特表平11-506762号公報の第36?38頁

甲第18号証:本件の出願(特願2004-184604号)において願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面

甲第19号証:CHAN and WHITE, "Fmoc solid phase peptide synthesis: A Practical Approach", Oxford University Press, Oxford University Press, 2000,chapters 2 and 13

甲第20号証:P.H.Theng ,Master Thesis

甲第21号証:台湾の国立デジタル図書館の検索結果(National Digital Library of Theses and Dissertations in Taiwan)


第5.被請求人の主張

これに対して、被請求人は、証拠方法として以下の乙第1?7号証を提出し、本件審判請求は成り立たないと主張している。

乙第1号証:PARK S. et al., "An Efficient Approach for the Total Synthesis of Cyclotides by Microwave Assisted Fmoc-SPPS", Int J Pept Res Ther ,2010,Vol.16, p.167-176

乙第2号証:RIZZOLO F. et al., "Conventional and microwave-assisted SPPS approach: a comparative synthesis of PTHrP(1-34)NH2", J. Pept. Sci.,2011,Vol.17,p.708-714

乙第3号証:S. A. PALASEK et al., "Limiting racemization and aspartimide formation in microwave-enhanced Fmoc solid phase peptide synthesis", J. Pept. Sci.,2007,Vol.13, p.143-148

乙第4号証:M. MERGLER et al., "The Aspartimide Problem in Fmoc-based SPPS. Part I", J. Peptide Sci., 2003 ,Vol.9 , p.36-46

乙第5号証:James P. TAM et al.,"Cyclohexyl ester as a new protecting group for aspartyl peptides to minimize aspartimide formation in acidic and basic treatments", Tetrahedron Letters ,1979, No. 42, pp 4033-4036

乙第6号証:HOZ and LOUPY, "Microwaves in Organic Synthesis, Third, Completely Revised and Enlarged Edition, Volume 2", Wiley-VCH, Weinheim, Germany, 2012, chapter 20, pages 897-959

乙第7号証:CHAN and WHITE, "Fmoc Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach", Oxford University Press, 2000, Reprinted 2004,p.118,119,222


事案に鑑み、まず無効理由5について検討することとする。


第6.無効理由5について

1.本件発明1について

(1)甲第1号証について

甲第1号証は「Fmoc solid phase peptide synthesis」と題する文献の写しであって、その2頁目第18行には、「Oxford University Press 2000」と記載されているものの、同第21行に「Reprinted 2004」と記載されている。
しかし、請求人が、平成25年1月8日付口頭審理陳述要領書に添付した甲第19号証は、同じく「Fmoc solid phase peptide synthesis」と題する文献の写しであって、その3頁目左欄16行に「Oxford University Press 2000」と記載されているが「Reprinted 2004」との記載がないことから、甲第1号証の「Reprinted」(再版)の基となる文献であると認められる。そして、甲第1号証と甲第19号証とを比較すると、以下に摘記する記載事項は両者において同じと認められるから、甲第1号証の下記記載事項は、本願優先日(2003年6月23日)前に頒布された刊行物に記載された事項であると認める。

甲第1号証には、下記の事項が記載されている。

a.「Fmocペプチド固相合成」(1頁目表題)

b.「標的ペプチドのC-末端アミノ酸残基を、カルボキシル基を介して不溶性担体に付着させる。アミノ酸側鎖の機能的な官能基は、ペプチド鎖集合時の反応条件の影響を受けない永久保護基で遮へいしなければならない。当初のレジンローディング時にα-アミノ基を遮へいしていた一時的保護基は除去する。第二のアミノ酸を過剰に導入する(このアミノ酸のカルボキシ基は、活性化エステルの産生によって、あるいはカップリング試薬との反応によって活性化させて、アミド結合を形成させる)。カップリングの後、過剰な試薬を洗浄によって除去し、保護基をジペプチドのN-末端から除去してから、第三のアミノ酸残基を付加する。所望のペプチド配列が得られるまで、この過程を反復して行う。最終段階では、ペプチドを担体から遊離させ、側鎖保護基を除去する。一般に、側鎖保護基とレジン結合は、保護基の除去と結合ペプチドの遊離が同1条件下で生じるように選択する。」(9頁第19行?10頁4行)

f.



(13頁)

g.「Fmoc/tBuアプローチ法の顕著な特徴を図3に要約した。C-末端残基をTFA不安定性結合剤に固定する。側鎖の官能基はTFA不安定性保護基で保護する。一時的Nα-Fmoc保護基は、20%ピペリジンDMF溶液で除去する。カップリングは一般に、事前に合成した活性エステルを利用して、又はベンゾトリアゾリルエステルをin situで生成する活性化試薬を利用して、DMF又はNMP溶液中で行う。ペプチドのレジンからの切断、及び全側鎖の脱保護は、95%TFA溶液で行う。」(13頁3?10行)

h.「ペプチド50μmol超を調製する場合、合成は通常ビーズレジンを用いて行う。」(第13頁下から2行?最終行)

l.「1963年にメリフィールドによって提唱されたペプチド固相合成の概念は、高分子支持体上での2段階の繰り返し過程、つまり、Nα保護基の除去および次に入ってくるアミノ酸のカップリング、を通じたペプチド鎖の伸長を含んでいる。固相合成技術の2番目の特徴は、試薬が大過剰に添加され、大過剰の試薬は単純な濾過と洗浄によって除去できる点である。これらの操作は一つの反応容器内で生じるので、全てのプロセスは自動化に適している。」(277頁セクション1の1?7行)


(2)甲第9号証の記載事項

本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第9号証には、下記の事項が記載されている。

a.「高温でのペプチドの固相合成」(102頁タイトル)

b.「ペプチドの固相合成(SPPS)において、カップリングの速度を速めるために高い温度を用いることへの関心は新しいものではない(1-3)。しかしながら、合成の全工程を高い温度で行なうとの発想は極めて最近のものである(4,5)。この着想はペプチドを形成するのに要する時間を短縮することができるので興味深い。」(102頁の右欄第1?6行)

c.「ペプチド合成.ペプチドは、湯浴サーキュレータ(PolyScience 8001)に接続された湯浴反応器において行なった。t-Boc(6)およびFmoc(18)を用いた合成手順はスキーム1,2にしたがった。」(103頁の左欄下から2行目?右欄3行)

d.「スキーム1
従来からのSPPSの一般的なプロトコル(27℃)
初期洗浄
・・・
カップリング/再カップリング、
Boc- 又は Fmoc-aa(2.5倍
過剰量),60分
・・・
カップリング洗浄、
・・・
脱保護、
50% TFA/DCM + 1% アニソール,
20分 又は20% ピペリジン/
NMP,10分
・・・
脱保護洗浄
・・・」(103頁右欄スキーム1)

e.「スキーム2
高温でのSPPSの一般的なプロトコル
初期洗浄
・・・
カップリング/再カップリング
Boc- or Fmoc-aa(2.5倍
過剰量),
25% DMSO/トルエン 又は
NMP, 20分
・・・
カップリング洗浄
・・・
脱保護
50%
TFA/トルエン + 1%
アニソール,10分 又は 20%
ピペリジン/トルエン,3分
・・・
脱保護洗浄
・・・」(104頁左欄スキーム2)

f.「ACP65-74(VQAAISYING)合成
最初に、我々は、t-Boc化学及びDIC/HOBt(1:1)をカップリング剤として用いてBoc-Gly-PAM上に形成される粗ACP65-74の、回収(ペプチドのミリグラム/切断されるペプチジル化樹脂のミリグラム)と質(純度パーセント)に関する温度の影響を研究した。27℃(通常のSPPS、スキーム1)、45℃、60℃および75℃(高い温度でのSPPS、スキーム2)で合成を行なった。45℃では20分のカップリング時間は十分ではなく、再カップリングがしばしば必要であった。図1(A)は、60℃が最も適した高い温度であることを示しているが、その理由は、27℃での通常のSPPSと比較して、同等の収率でより純度の高い粗ペプチドが迅速に得られたからである。」(104頁の右欄下から8行?105頁の左欄7行)

g.「t-Boc 及びFmocストラテジーによる27℃(従来からのSPPS)及び60℃におけるACP65-74の合成
純度(%)
温度(℃) t-Boc Fmoc
27 58 36
60 61 37 」(106頁左欄)


(3)甲第10号証の記載事項

本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第10号証には、以下の事項が記載されている。

a.「マイクロ波照射により固相合成の速度向上」(13頁タイトル)

b. 「



」(15頁)

c.「固相合成に関連した反応時間が比較的長いことから、数年前にマイクロ波支援ペプチド合成の適用例が報告されたときにも特に驚きはなかった。・・・(中略)・・・実際、報告された実験のほとんどが、反応が密閉容器であっても開放容器であっても、標準的な加熱プロトコルと比べて速度の有意な増加が観測されていた。」(15頁の左欄7行?中央欄11行)

d.「


」(16頁)


(4)引用発明・対比

ア.甲第1号証に記載された発明(引用発明)について

まず、第6.1(1)で指摘した甲第1号証の記載事項を検討する。

記載事項fには、α位のNがFmoc で保護され、C末端側が固相粒子に結合した第一のアミノ酸を、「ピペリジン/DMF」によりそのFmocを脱保護する工程、続いて、脱保護により得られたNH2残基が、「Fmoc-Ala-OH/HBTU/DIPEA」により、Fmoc-Ala-OHと縮合することで、新たなアミド結合を形成してN末端方向に1アミノ酸(Fmoc-Ala)伸長する工程、これらの工程を「反復施行」することによりペプチドを合成する方法が記載されている。
また、記載事項hには、合成は通常ビーズレジンを用いて行うと記載されていることから、固相粒子がビーズレジンであることは明らかである。
さらに、記載事項bには、過剰に導入された第二のアミノ酸のカルボキシ基を、カップリング試薬との反応によって活性化させて、アミド結合を形成させると記載され、かつ、記載事項gには、カップリング反応が、ベンゾトリアゾリルエステルをin situで生成する活性化試薬を利用して、DMF又はNMP溶液中で行うと記載されているので、活性化試薬を含む溶液を用いることが記載されているに等しいといえる。
さらに、記載事項lには、Nα保護基の除去および次に入ってくるアミノ酸のカップリングを通じたペプチド鎖の伸長を含むペプチド固相合成に関し、操作が一つの反応容器内で生じるので、全てのプロセスは自動化に適していることが記載されているから、Nα保護基の除去工程、次のアミノ酸の活性化工程及びカップリング工程を有するペプチド鎖の伸長が、サイクルとサイクルとの間にペプチドを取り出すことなく同一の容器で行われることが記載されているといえる。

したがって、甲第1号証には、

「ペプチドの固相合成方法であって:
α位のNがFmocで保護され、固相ビーズレジンに結合された第一アミノ酸のα-アミノ基を、容器において該保護され結合されたアミノ酸をピペリジン/DMFと混合し、脱保護する工程;
第二のアミノ酸及び活性化試薬を含有する溶液を同一容器に添加し、該第二アミノ酸を活性化させる工程;
該第二アミノ酸を該第一アミノ酸にカップリングさせる工程;及び
サイクルとサイクルとの間に該同一の容器からペプチドを取り出すことなく、該同一の容器において連続的に前記脱保護工程、活性化工程、およびカップリング工程を行い、複数のアミノ酸をカップリングしてペプチドを形成する工程、
を含む方法。」の発明が記載されている(以下、「引用発明1」という)。


イ.対比

本件発明1と引用発明1とを対比する。

引用発明1の「固相ビーズレジン」は本件発明1の「固相樹脂粒子」に相当するから、引用発明1の「α位のNがFmocで保護され、固相ビーズレジンに結合された第一アミノ酸」は、本件発明1の 「Na-9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)の組成物で保護され、固相樹脂粒子に結合された第一アミノ酸」に相当する。そして、引用発明1の「ピペリジン/DMF」は、本件発明1の「脱保護性溶液」に相当する。また、引用発明1の「活性化試薬を含有する溶液」は、本件発明1の「活性化溶液」に相当する。

したがって、両者は、

「ペプチドの固相合成方法であって:
Na-9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)の組成物で保護され、固相樹脂粒子に結合された第一アミノ酸のα-アミノ基を、容器において該保護され結合されたアミノ酸を脱保護性溶液と混合し、脱保護する工程;
第二アミノ酸及び活性化溶液を該同一容器に添加し、該第二アミノ酸を活性化させる工程;
該第二アミノ酸を該第一アミノ酸にカップリングさせる工程;及び
サイクルとサイクルとの間に該同一の容器からペプチドを取り出すことなく、該同一の容器において連続的に前記脱保護工程、活性化工程、およびカップリング工程を行い、複数のアミノ酸をカップリングしてペプチドを形成する工程、
を含む方法。」という点で一致する。

そして、本件発明1は、脱保護工程及びカップリング工程において、マイクロ波透過性容器中の組成物に対してマイクロ波を照射し、ペプチドの合成を促進することが特定されているのに対し、引用発明1では、そのような特定がなされていない点で相違する(相違点1)。


(5)判断

甲第9号証は、「高温でのペプチドの固相合成」というタイトルの(記載事項a参照)、Fmoc又はt-Bocを保護基として用いたペプチドの固相合成(SPPS)に関する文献であって(記載事項c?e等参照)、合成の全工程を高い温度で行うという着想が、ペプチドの形成に要する時間を短縮することができることが記載され(記載事項b)、そして、従来からのSPPSの一般的なプロトコル(27℃)を示したスキーム1と高温でのSPPSの一般的なプロトコルを示したスキーム2(記載事項d、e)を比較すると、脱保護工程の反応時間が、27℃で20分(50% TFA/DCM +1% アニソール)又は10分(20%ピペリジン/NMP)、高温下では10分(50% TFA/トルエン+1%アニソール)又は3分(20%ピペリジン/トルエン)であり、また、カップリング工程の反応時間が、27℃で60分、高温下で20分であることがわかり、よって、27℃を高温とすることで、脱保護工程及びカップリング工程のいずれについても、反応時間を短縮したことが確認できる。
具体的には 、t-Bocを保護基とした10アミノ酸からなるペプチドであるACP65-74の合成に関し、45℃、60℃及び75℃で合成を行ったところ、45℃では20分のカップリング時間が十分でないこと、及び、60℃が、27℃での通常のSPPSと比較して、同等の収率でより純度の高いペプチドが迅速に得られたことから、60℃が最も適した高い温度であることが記載されている(記載事項f)。さらに、その後の実験では、Fmoc保護基を用いた合成及びt-Boc保護基を用いた合成に関し、27℃と60℃との比較がなされている(記載事項g)。

一方、「マイクロ波照射による固相合成の速度向上」という表題の(記載事項a)甲第10号証は、本件優先日(2003年)よりも2年も前に頒布された総説であって、固相を用いた各種の化学合成反応において、マイクロ波照射を用いた実験がそれ以前になされていたことがレビューされている(記載事項b、d)。そして、固相合成においては反応時間が比較的長いことから、マイクロ波支援ペプチド合成の適用が報告されたこと、標準的な加熱プロトコルと比較した場合に、マイクロ波照射によると反応速度の有意な増加が観測されたことが記載されている(記載事項c)。その一例として、Fmoc保護基アミノ酸を固相上のアミノ酸にマイクロ波照射をしながら合成した例も記載されている(記載事項b)。

以上のことから、引用発明1と同じく、Fmoc保護基を有する固相上のアミノ酸を脱保護し、続いて、新たなFmoc保護基を有するアミノ酸とカップリングする工程を備えたペプチドの固相合成方法に係る甲第9号証に接した当業者であれば、ペプチドの固相合成の脱保護工程及びカップリング工程の反応時間が、27℃よりも温度を高めた場合に短縮されることを認識する。
一方、総説である甲第10号証からは、マイクロ波照射が、ペプチド合成におけるFmoc保護基を有するアミノ酸を固相上のアミノ酸に付加する反応を含む種々の固相合成反応において利用できる当業者の周知の手段であること、マイクロ波照射が標準的な加熱プロトコルと比べて反応速度の有意な増加をもたらすことが理解できる。
ここで、引用発明1、甲第9号証及び甲第10号証は、いずれも、Fmoc保護基で保護されたアミノ酸を用いた、ペプチドの固相合成という点で共通するものであるところ、固相合成の反応時間が長く、これを短縮することは当業者に自明の課題である(甲第2号証、甲第3号証、甲第9号証、甲第10号証等参照。)。
したがって、甲第9号証より、Fmoc保護基を用いたカップリングによるペプチドの化学合成において、反応温度を高めることで脱保護工程及びカップリング工程の反応時間が短縮されることを認識した当業者であれば、引用発明1においても、脱保護工程及びカップリング工程の反応時間を短縮すべく、反応温度を高めるための手段として、甲第10号証に標準的な加熱プロトコルと比較して反応速度の増加が有意であることが示されるマイクロ波照射を用いて所望の温度とすることは、容易になし得る事項である。また、その際に引用発明1における容器をマイクロ波透過性のものとすることは当然行うことにすぎない。
そして、本件発明1の奏する効果は、マイクロ波照射によるペプチド合成の促進、すなわち、反応時間の短縮であって、これは、引用発明1、甲第9号証及び甲第10号証から、予測し得る範囲のものにすぎない。

したがって、本件発明1は、引用発明1、甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


(6)被請求人の主張

被請求人は、平成24年9月24日付答弁書、平成25年1月22日付上申書及び平成25年7月18日付上申書において下記の点を主張している。

ア)甲第10号証には、保護されたアミノ酸の脱保護工程においてマイクロ波を照射することについては開示されておらず、また、甲第9号証と甲第10号証は、具体的な技術内容については大きく異なるものであるので、これらを組み合わせることは困難である。(答弁書19頁14?18行)

イ)本件発明1の構成を採用することにより、高温自体による欠点を生じることを回避しつつ、効率的なペプチドの合成方法を提供することが可能となったという効果は予測できるものではない。(答弁書19頁23?26行)

ウ)脱保護工程はアミド結合の切断反応をともなうものであり、ペプチド結合自体の切断や副反応を回避する観点から、当業者であれば、加熱などの強い条件を避けることは当業者の技術常識である。例えば、甲第2号証、甲第3号証、甲第20号証は、脱保護工程は室温で行われていることから、脱保護工程におけるマイクロ波の使用を避けていたことは明らかである。(平成25年1月22日付上申書5頁3行?14行、平成25年7月18日付上申書3頁14行?4頁2行)

エ)ペプチド合成における脱保護反応について、アスパラチミド形成等の副反応が問題となるが、副反応を避けるためには、当業者であれば、低温条件下で反応を行うことを選択する。よって、脱保護反応をマイクロ波照射下で行うことについて動機付けを有し得ない。(平成25年1月22日付上申書5頁下から4行?6頁15行)

オ)甲第9号証のACP_(65-74)の合成結果の収率及び純度は低いものであるので、甲第9号証はSPPSの改良を試みる当業者に考慮されるに足るものではない。(平成25年7月18日付上申書3頁3行?13行)

カ)甲第9号証の記載より、高温とすることで反応時間が短縮されたことを確認することができないので、「27℃を高温とすることで、脱保護工程及びカップリング工程のいずれについても、反応時間を短縮したことが確認できる。」とした第6.1.(5)の認定は誤りである。(平成25年7月18日付上申書4頁3行?下から5行)

キ)甲第9号証の、スキーム1及びスキーム2の条件は、反応温度のみならず反応溶媒などの他の反応条件に相違があるので、高い反応温度がカップリング工程や脱保護工程に有益であるということを導くことはできない。(平成25年7月18日付上申書5頁12行?7頁19行)

ク)本件実施例では、アスパルチミド形成が可能な二つの部分を有するペプチドを、アスパルチミド形成を防止するための保護基を用いることなく、マイクロ波照射下で製造できているが、このような本件発明の効果は、従来技術から予期できるものではない。(平成25年7月18日付上申書9頁下から8行?10頁下から3行)
乙第2号証の表3にマイクロ波照射を適用することにより、生成物を高い純度、短い時間で得られたことが示されるように、本件発明の効果が顕著であることは明らかである。(平成25年7月18日付上申書10頁下から2行?11頁最終行)


上記被請求人の主張について検討する。

ア)について
甲第9号証には、ペプチドの固相合成の脱保護工程及びカップリング工程の反応時間が、温度を高めた場合に短縮されることが示され、また、甲第10号証には、固相合成における各種の化学反応において、標準的な加熱と比べて有利なものとしてマイクロ波照射を利用することが示されているのだから(記載事項b、d)、マイクロ波照射をFmoc保護基の脱保護工程にも適用することは、当業者が容易になし得たことである。

イ)について
本件発明1には、高温自体による欠点を生じることを回避できることを可能とする構成が含まれているとは認められない。

ウ)について
脱保護工程を加温して実施することは甲第9号証に具体的に記載されているから、脱保護工程で加熱を避けることが技術常識であったとはいえない。また、甲第2号証、甲第3号証及び甲第20号証は、カップリング工程にマイクロ波照射を施すことに着目した文献であると認められるから、これらの証拠において脱保護工程にマイクロ波照射を施すことが行われていないことをもって、当業者が脱保護工程におけるマイクロ波の使用を避けていたとはいえない。

エ)について
乙第4、5号証はいずれも、アスパルチミドという、隣り合う特定のアミノ酸配列で発生する副生成物に関する文献であり、当該副生成物が特定の隣り合うアミノ酸配列で発生することも、その発生を防止するために適当な保護基で保護するという手法も当業者の技術常識であったと認められる(甲第1号証32?35頁の「3.9 Side reactions」の項参照)。
そうすると、特定のアミノ酸配列でアスパルチミド形成が発生することは当業者の想定内であって、アスパルチミド形成がおきやすい特定のアミノ酸配列が目的とするペプチドにあるときには、これを当業者の常套手段である適当な保護基の利用により防止すればよく、乙第4、5号証において、アスパルチミドを形成しやすいアミノ酸配列では低温条件下の方がアスパルチミド形成が少ないことが示されていることをもって、反応速度を高める点で有利であるマイクロ波照射の適用を当業者が断念するとはいえない。

オ)について
甲第9号証の、Fmoc保護基を用いた固相ペプチド合成の結果である図3、図5には、60℃の条件下、50%前後の純度かつ相当程度の収率で目的のペプチドが得られたことが示されており、そこに示されている収率及び純度は、当業者が甲第9号証を考慮することを阻害する程に低いとはいえない。むしろ、甲第9号証からは、反応温度を高めることで反応時間が短縮されることが認識されるのだから、甲第9号証は、当業者が考慮するに足るものである。

カ)について
甲第9号証のスキーム1、2は、高温下での反応時間を27℃における反応時間より短く設定したものであるが、このように設定された反応時間で目的のペプチドが合成されたことが、図3、5に示されているから、27℃を高温とすることで、脱保護工程及びカップリング工程のいずれについても、反応時間を短縮したことが確認できるといえる。さらにいえば、甲第9号証には、「CCKのより長い分子型(CCK-22,-39及び-58)を、従来からのSPPSに比して短い時間で調製するために、温度を高めたSPPSの利用の可能性を開くものであるので、これらの結果は、非常に有望である。」(108頁左欄1?5行)と記載されているように、甲第9号証には、温度を高めることで、従来に比して、反応時間を短くすることが可能となることの記載もあることからも、上記の認定に誤りはない。

キ)について
甲第9号証のスキーム1及びスキーム2の条件は、温度条件が相違することに加えて、詳細に比較すると反応溶媒等の温度条件以外の条件にも相違があるものの、甲第9号証が、高温でのペプチド合成がペプチド形成に要する時間を短縮することを念頭においた論文であると認められること(記載事項a、b)及び上記「カ)について」で指摘した甲第9号証の108頁左欄1?5行の記載を考慮すれば、スキーム1及びスキーム2の条件の相違のうち、高い反応温度が、カップリング工程や脱保護工程において、反応速度の短縮という観点で有益であることは明らかである。

ク)について
本件実施例についてみると、「Asn-Gly-Val」という3アミノ酸からなるペプチドの合成に関し、その実験条件は「このペプチドにおけるすべての反応に関して、マイクロ波出力は、はじめに50Wに設定し、次いで60℃未満の温度に保たれるように調節した。」と記載され、また、「Gly-Asn-Ile-Tyr-Asp-Ile-Ala-Ala-Gln-Val」というペプチドの合成については、「脱保護は、25Wのマイクロ波出力中で30秒間行い、次いでそのマイクロ波中で1:00分間新しい脱保護溶液を用いて繰り返した。
・・・。カップリング反応は、15秒間オン及び45秒間オフを交互に繰り返す出力でマイクロ波中において5:00分間行った。出力の第一サイクルは25Wであり、残りの4サイクルは各々20Wであった。」と記載されており、マイクロ波照射の条件が、相当程度制御されていることが理解される。
また、乙第2号証の実験条件をみると、「MW-assisted SPPS」(マイクロ波アシストSPPS)の実験条件は、第1脱保護、第2脱保護、及びカップリング全てにおいて、温度条件が「75℃」であることが読み取れる。さらに、Arg,Hisのカップリング工程は、室温によるステップ1及び特定条件のマイクロ波照射によるステップ2により実施されたことがわかる(710頁左欄9?16行、712頁表2)。
これらの記載から、マイクロ波照射による温度条件や照射条件を相当程度制御することで、純度の良いポリペプチドが合成されたことは把握できる。
そうすると、本件実施例及び乙第2号証に示される純度の結果は、特定のマイクロ波照射による温度条件や照射条件を設定することにより得られると理解される。

ここで、本件発明1は、脱保護工程及びカップリング工程において施す「マイクロ波照射」の条件が何ら特定されていない。
一方、総説である甲第10号証の記載事項dをみると、マイクロ波照射による固相合成反応が200℃、120℃であることが記載され、また、マイクロ波照射を用いたSPPSの技術分野に属する甲第2号証によれば(1592頁右欄表参照)、マイクロ波照射によるカップリング反応が110℃、130℃で実施されたことがわかるから、マイクロ波照射を利用した固相合成反応では、110?200℃程度の反応温度を含むと理解される。
したがって、本件発明1は、実施例や乙第2号証の温度をはるかに超える高温域でのマイクロ波照射も幅広く含んでいるのであって、このようなマイクロ波照射の条件を特定していない本件発明1全般が、極めて制御されたマイクロ波照射等の条件により達成された純度と同等の効果が得られると推認することはできない。
したがって、本件発明1全般が、予測し得ない顕著な効果を奏するとはいえない。


よって、被請求人の主張はいずれについても採用できない。


2.本件発明2について

(1)甲第5号証の記載事項

本件特許の優先日前頒布された刊行物である甲第5号証には、以下の事項が記載されている。

a.「開放容器および密閉容器のマイクロ波化学のシステム」(第1欄1?2行)

b.「発明の属する技術分野
本発明は、分解、乾燥、蒸発、抽出、加水分解、ケルダール法、合成および実施に際してある程度の加熱を要するその他の工程のようなマイクロ波化学に用いられる方法および装置に関する。」(第1欄6?11行)

c.「典型的な手順では、開放容器3のサンプルは、マイクロ波オーブン1で加熱される。・・・(中略)・・・加熱手順の間に試料は、開放容器3のそれぞれにおいて、沸騰または蒸発し始め、漏出しようとするが、漏出が続くと要素の損失をもたらすことになるであろう。このことは、冷却した薄膜状の液体のチャンネル17(一実施形態では開放容器3のネック部分の周囲に設けられたジャケットであってもよい)によって防ぐことができる。蒸気は液体冷却チャンネル17と接触し、凝縮し、解放容器3の底に流れて戻る。・・・(中略)・・・液体冷却チャンネル17は、冷却チャネル17の中の液体により、マイクロ波の吸収を最小限にするとともに、試料からの熱を効率的に吸収できるように設計されている。それゆえに、液体は、マイクロ波透過性であることにより、マイクロ波加熱システムの効率を大きく低減させることなく、開放容器3のサンプルからの熱を効果的に吸収し、サンプルの蒸発と損失を防ぐ。」(第3欄14?57行)

(2)対比
本件発明2と第6.1.(4)アで述べた引用発明1とを対比すると、第6.1.(4)イで述べたとおりの点で一致し、相違点1で相違する。
さらに、本件発明2においては、「脱保護工程、活性化工程、カップリング工程及び切断工程の任意の1つ以上の工程の間に容器を冷却して、マイクロ波エネルギーからの熱の蓄積により固相支持体又はペプチドが分解するのを防ぐ工程を含む」ものであるのに対し、引用発明1においては、そのような冷却により分解を防ぐ工程が設けられていない点でも相違する(相違点2)。

(3)判断
相違点2について検討する。
甲第5号証には、合成等の実施に際してマイクロ波を施す場合に、開放容器において沸騰または蒸発により試料が漏出することを防ぐことを目的として、冷却した薄膜上の液体チャンネルを設けることが記載されている。
確かに、甲第5号証は、マイクロ波照射を用いた合成等の化学的操作において、温度上昇に起因した望まない状況を回避するために冷却する手段を設けるものではあるものの、その目的は容器内の試料の漏出の防止であって、相違点2に係る「マイクロ波エネルギーからの熱の蓄積により固相支持体又はペプチドが分解するのを防ぐ」という目的とは顕著に異なるものである。
よって、引用発明1に対して、甲第5号証に記載される発明を組み合わせても、本件発明2の相違点2に係る構成を導き出すことはできない。
したがって、本件発明2は、引用発明1、甲第9号証、甲第10号証及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


3.本件発明3について

(1)甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、下記の事項も記載されている。

c.「表1 最終生成物の収率に対する累積誤差の影響
反応数 各反応の収率(%)
10
20
30 (省略)
40
50 」(10頁)

(2)対比
本件発明3は、「3つ以上のアミノ酸に関して脱保護工程、活性化工程及びカップリング工程を連続して周期的に繰り返すことにより、所望のペプチドを合成することを含む、請求項1記載のペプチド合成方法。」である。
甲第1号証には、反応数が10、20、30、40、及び50であること(記載事項c)、所望のペプチド配列が得られるまで反復して行うこと(記載事項b、f)も記載されているから、「3つ以上のアミノ酸に関して脱保護工程、活性化工程及びカップリング工程を連続して周期的に繰り返すことにより、所望のペプチドを合成すること」が記載されているといえる。
したがって、本件発明3と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、第6.1.(4)イで述べたとおりの点で一致することに加え、「3つ以上のアミノ酸に関して脱保護工程、活性化工程及びカップリング工程を連続して周期的に繰り返すことにより、所望のペプチドを合成することを含む」点でも一致し、相違点1で相違する。

(3)判断
第6.1(5)で述べたのと同様、本件発明3は、甲第1号証、甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


4.本件発明4について

(1)対比
本件発明4は、「複数の周期の間にペプチドを固相樹脂から又は容器から取り出すことなく、連続する脱保護工程、活性化工程、カップリング工程及び切断工程を単一反応器において実施することを含む、請求項1記載のペプチド合成方法。」である。
甲第1号証には、「Nα保護基の除去および次に入ってくるアミノ酸のカップリング、を通じたペプチド鎖の伸長を含んでいる。固相合成技術の2番目の特徴は、試薬が大過剰に添加され、大過剰の試薬は単純な濾過と洗浄によって除去できる点である。これらの操作は一つの反応容器内で生じるので、全てのプロセスは自動化に適している。」(記載事項l)と記載され、かつ、脱保護工程とカップリング工程の間に活性化工程があることも記載されている(記載事項f)。さらに、活性化工程をin situで行うことも記載されているから(記載事項g)、「複数の周期の間にペプチドを固相樹脂から又は容器から取り出すことなく、連続する脱保護工程、活性化工程及びカップリング工程を単一反応器において実施することを含む」ことが記載されているといえる。
したがって、本件発明4と、甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は、第6.1.(4)イで述べた点で一致することに加え、「複数の周期の間にペプチドを固相樹脂から又は容器から取り出すことなく、連続する脱保護工程、活性化工程及びカップリング工程を単一反応器において実施することを含む」点でも一致し、相違点1で相違する。
さらに、本件発明4は単一反応器において実施される工程として、「切断工程」をも含むのに対し、甲第1号証に記載の発明は、切断工程をも単一反応器において実施することについて、記載されていない点でも相違する(相違点3)。

(2)判断
相違点3について検討する。
甲第1号証の「これらの操作は一つの反応容器内で生じるので、全てのプロセスは自動化に適している。」(記載事項l)という記載及びFmocのSPPSと題された図3(記載事項f)に接した当業者であれば、脱保護工程やカップリング工程のみならず、それに続く切断工程についても、そのままの容器で実施することは容易に想到し得たことである。
したがって、本件発明4は、甲第1号証、甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


5.本件発明5について

(1)甲第1号証の記載事項

甲第1号証には、下記の事項も記載されている。

m.「反応容器を揺する、ボルテックスする、逆さにする、または不活性ガスを反応容器の底からバブリングさせることにより、固相支持体を攪拌する。」(279頁下から9行目?7行目)

(2)対比
本件発明5は、「更に、脱保護工程、活性化工程、カップリング工程及び切断工程の1つ以上の工程の間に、混合物を窒素気体により撹拌する工程を含む、請求項1記載のペプチド合成方法。」である。
甲第1号証には、不活性ガスを反応容器の底からバブリングすることにより、固相支持体を撹拌することが記載されている(記載事項m)。ここで、バブリングされる固相支持体とは、混合物であることは技術的に明らかである。
よって、本件発明5と、甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は、第6.1.(4)イで述べたとおりの点で一致することに加え、「更に、脱保護工程、活性化工程及びカップリング工程の1つ以上の工程の間に、混合物を不活性ガスにより撹拌する工程を含む」点でも一致する。
一方、上記の相違点1で相違するのに加え、両者は、本件発明5が不活性ガスが「窒素気体」であるのに対し、甲第1号証に記載の発明は、それより上位概念である「不活性ガス」である点でも一応相違する(相違点4)。

(3)判断
相違点4について検討する。
「不活性ガス」といえば、窒素気体は当業者が直ちに想起するものの一つであるから、この点は、実質的な相違点ではない。
例え相違点であったとしても、不活性ガスとして窒素気体を選択することは、当業者が適宜行う事項にすぎず、窒素気体を選択したことで、予想外の効果が奏されるとも認められない。
したがって、本件発明5は、甲第1号証、甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

6.本件発明6?9について

(1)甲第1号証の記載事項

甲第1号証には、以下の事項も記載されている。

e.「実際には、t-ブチル及びトリチルをベースとした側鎖保護基、及びアルコキシベンジルをベースとしたリンカーが使用されている。その理由は、これらはTFAによって除去できるからである。TFAはペプチド用溶媒として優れており、標準的な実験用ガラス製品内で使用可能であり、また揮発性であるため、蒸発によって容易に除去できる。」(12頁4?8行)

k.「表 5.Fmoc/tBu SPPS で利用されるカップリング法
カップリング試薬 添加物 活性種
・・・
DIC(又はDCC) HOBt ベンゾトリアゾリルエステル
・・・」(28頁表5)

(2)対比
本件発明6?9は、それぞれ、
「アミノ酸の側鎖を脱保護することを含む、請求項1記載のペプチド合成方法。」(本件発明6)、
「該アミノ酸の該側鎖を、t-ブチルをベースとする側鎖保護基を除去するのに適する組成物で脱保護することを含む、請求項6記載のペプチド合成方法。」(本件発明7)、
「更に、カルボジイミド型のカップリング試薬を用いて、第二アミノ酸をin situで活性化させカップリングさせることを含む、請求項1記載のペプチド合成方法。」(本件発明8)、及び、
「該同一容器内の組成物にマイクロ波を照射しながら第一アミノ酸に第二アミノ酸をカップリングさせる、請求項1記載のペプチド合成方法。」(本件発明9)
である。

甲第1号証の記載事項eには、t-ブチルを側鎖保護基として使用すること、及びそれをTFAによって除去することが記載されているから、本件発明6、7と、甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は、「アミノ酸の側鎖を脱保護することを含む」点、「該アミノ酸の該側鎖を、t-ブチルをベースとする側鎖保護基を除去するのに適する組成物で脱保護することを含む」点でも一致する。

次に、甲第1号証の記載事項gには、ベンゾトリアゾルエステルを in situ で生成する活性化試薬を利用してカップリングを行うことが記載され、記載事項kには、ベンゾトリアゾルエステルを活性種とするカップリング試薬として、DIC(=ジイソプロピルカルボジイミド)が記載されているから、本件発明8と甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は、「更に、カルボジイミド型のカップリング試薬を用いて、第二アミノ酸をin situで活性化させカップリングさせることを含む」点でも一致する。

さらに、本件発明9の「該同一容器内の組成物にマイクロ波を照射しながら第一アミノ酸に第二アミノ酸をカップリングさせる、請求項1記載のペプチド合成方法。」という発明特定事項は、既に本件発明1で有しているものである。
よって、本件発明6?9と、甲第1号証に記載の発明とは、上記の相違点1のみで相違する。

(3)判断
相違点1については、第6.1(5)で述べたとおりであるから、本件発明6?9は、甲第1号証、甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。


7.本件発明10、11について

(1)甲第6号証の記載事項

本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

a.「全自動でマイクロモル量の複数のペプチドを同時に合成する方法」(7759頁タイトル)

b.「樹脂からの切断はマイクロプレートの液相装置を用いて手動で行なわれる。樹脂はジクロロメタンで5回洗浄され、デシケータ内で減圧下のもと乾燥させ、トリフルオロ酢酸/5%のアニソールを300μL用いた10分間の処理が2回行われる。」(7764頁表3の下1?4行)

(2)甲第9号証の記載事項

甲第9号証には、下記の事項も記載されている。

i.「最終的な脱保護及び切断
・・・(略)
Fmoc法においては、ペプチドか樹脂はReagent Kを室温で2時間(ACP65-74)又は6時間(非硫酸化CCKs)で処置された。」(103頁右欄4?15行)

(3)対比
本件発明10は、「固相樹脂に結合されたペプチドを、該同一容器において切断性組成物と混合し、該組成物にマイクロ波を照射しながら、該結合ペプチドを該固相樹脂から切断する工程を含む、請求項1記載のペプチド合成方法。」であり、本件発明11は、「更に、トリフルオロ酢酸から成り、保護基及びリンカーから生ずる反応性カルボニウムイオンを消失させるための複数の掃去剤を含有する切断性組成物を用いることを含む、請求項10記載のペプチド合成方法。」である。

本件発明10と、甲第1号証に記載の発明とを対比すると、両者は、上記の相違点1に加え、本件発明10は「固相樹脂に結合されたペプチドを、該同一容器において切断性組成物と混合し、該組成物にマイクロ波を照射しながら、該結合ペプチドを該固相樹脂から切断する工程を含む」ものであるのに対し、甲第1号証には、そのようなマイクロ波を照射しながらペプチドを固相樹脂から切断する工程の記載がない点でも相違する(相違点5)。

(4)判断
相違点5について検討する。
甲第9号証は、高温でのペプチド合成に係る文献であり、「カップリング工程」、「脱保護工程」及び「洗浄工程」を高い温度で行うことが記載されているものの(記載事項e)、最終段階の樹脂からの切断については、「室温」で行うものである(記載事項i)。
そうすると、甲第9号証より把握される事項は、脱保護工程及びカップリング工程は高温で実施し、かつ、最後の切断工程は室温で実施することであるから、甲第1号証に記載の切断工程にまで、甲第10号証のマイクロ波照射を施すことの動機付けがあるとはいえない。
したがって、相違点5は、甲第1号証、甲第9号証及び甲第10号証より、当業者が容易になし得たものではない。

そして、本件発明11は、本件発明1を引用する方法に係る発明であって、かつ、上述のとおり、当業者が容易になし得ない本件発明10を引用するものである。そして、甲第6号証によっても、相違点5に係る構成を導くことが容易であるとはいえないから、同様に、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

したがって、本件発明10は、甲第1号証、甲第9号証及び甲第10号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。また、本件発明11は、甲第1号証、甲第9号証、甲第10号証及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。


8.小括

したがって、本件発明1、3?9は、甲第1号証、甲第9号証、及び甲第10号証(以下、この項において「前記証拠」という)に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、これらの発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

また、本件発明2は、前記証拠及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、本件発明10は、前記証拠に記載された発明に基づいて、本件発明11は、前記証拠及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。よって、これらの発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。


第7.無効理由1について

1.本件発明1について

(1)甲第2号証の記載事項

本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第2号証には、下記の事項が記載されている。

a.「マイクロ波照射支援高速固相ペプチド合成」(1592頁タイトル)

b.「マイクロ波加熱の利用は、種々の有機反応において利点となることが示されている。」(1592頁左欄6?8行)

c.「Rinkアミド結合剤を用いてポリスチレン樹脂に固定されたFmoc保護アミノ酸のカップリングを行なった。固相支持体の分解は観察されなかった。最初のFmoc脱保護ステップ(15分)は室温で行われ、そしてカップリングステップはマイクロ波照射の下で行われた。」(1592頁右欄9?14行)

d.「アゾベンゾトリアゾール誘導体は、110℃まで温度の上昇にしたがってカップリング効率が増大した。高温では、反応混合物の色の変化により試薬の分解が示された。完了までに二度または三度のカップリングステップを要する通常のSPPSと比較して、マイクロ波照射下では、一度目のカップリングステップの後、数分以内にカップリングは既に完了していた。」(1592頁右欄19?27行)


(2)甲第3号証の記載事項

本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第3号証には、下記の事項が記載されている。

a.「マイクロ波照射によるペプチド固相合成におけるカップリングの高効率化」(4781頁タイトル)

b.「アシルキャリアタンパク質の断片65-74(65-74Acp、スキーム1に記載の配列)、・・・(中略)・・・、がDMF中において予め形成された活性エステルを用いて合成されたが、各カップリングステップは4分間のマイクロ波照射を含んでいた。65-74Acpは、アミノ酸誘導体を段階的にカップリングすることにより合成された。」(4782頁右欄2行?4783頁左欄4行)。

c.「マイクロ波を照射することにより、ペプチド結合の形成は4分以内に完了した。マイクロ波を照射しない室温での反応は30分を要し、相対的に遅いといえる。」(4783頁の左欄9?13行)


(3)甲第4号証の記載事項

本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第4号証には、下記の事項が記載されている。

a.「マイクロ波照射により支援されたN-CbzおよびN-Bn誘導体の高速脱保護」(5191頁タイトル)

b.「マイクロ波照射条件下でのイソプロパノール中における触媒移動水素化により、N-CbzおよびN-Bn誘導体は高速に脱保護された。この方法は、短いペプチドの合成に特に適しており、支持された分子においても利用できる。」(5191頁要旨の項)

c.「N-Fmocが存在する場合(リジン8のように二重に保護されている場合のように)、我々の観察では、Cbzは完全に除去され、Fmocは脱保護されなかった。しかしながら、N-FmocProOMeを10サイクルの照射に供し静置させた時は、10%の脱保護が観察された。」(5193頁左欄21?27行)

d.「最後に、脱保護はMeO-PEG(MW5000)12、およびWang樹脂13に支持された基材に対してもうまく適用することができる。」(5193頁左欄31?33行)

e.「

」、


」(5192頁表1)

f.「

」(5191頁 スキーム1)

(4)対比

本件発明1と第6.1.(4)アで述べた引用発明1とを対比すると、同イで述べたとおりの点で一致し、相違点1で相違する。


(5)判断

ア.相違点1について

甲第4号証は、「マイクロ波照射により支援されたN-CbzおよびN-Bn誘導体の高速脱保護」(記載事項a)とタイトルにあるように、アミノ基がベンジルカーバメート(Cbz)又はベンジル(Bn)で保護された化合物の当該保護基の除去にマイクロ波を使用することを主に開示しているものであって、Fmoc保護基を脱保護する技術を主に研究した報告に関するものではない。
また、甲第4号証の記載事項bにおいて、短いペプチドの合成に特に適しており、支持された分子においても利用できると記載されているのは、Fmoc保護基の脱保護工程を備えたペプチド合成ではなく、N-CbzおよびN-Bn誘導体の脱保護工程を備えたペプチド合成である。
そして、甲第4号証の記載事項dには、Wang樹脂13に支持された基材に対してもうまく適用することができると記載されているものの、Wang樹脂13とは、記載事項eに示されるように、保護基としてCbzのみを有しているものであって、Fmoc基を有しているものではない。また、アミノ酸であるプロリンのNをFmocで保護した化合物であるN-FmocProOMeは、固相に結合されたアミノ酸ではないし、樹脂の担体に結合した化合物として認識される化合物は、記載事項eの化合物12及び13のみであるが、これらはPEGあるいは樹脂に結合した化合物の「Cbz」を保護基として有するものであって、Fmocを保護基として有するものではない。
さらに、引用発明1は、脱保護剤としてピペリジンを用いて、Fmoc基を脱保護するものであるのに対し、甲第4証記載の発明は、脱保護工程においてPd/C触媒、すなわち、パラジウム炭素触媒を用いる方法である(記載事項f参照)。化学反応において、反応系を構成する触媒等の成分が非常に重要であることは当業者の技術常識であるところ、引用発明1記載の脱保護工程と、甲第4号証に記載の脱保護工程とは、その反応系の構成が全く異なるものである。
したがって、甲第4号証に記載された方法は、引用発明1のように固相担体に結合し、かつFmoc保護基で保護されたアミノ酸の脱保護でないこと、引用発明1とは反応系の構成が全く異なることから、引用発明1と甲第4号証に記載された発明とは、脱保護の前提が異なるものである。
また、甲第4号証の記載事項cには、「N-Fmocが存在する場合(リジン8のように二重に保護されている場合のように)、我々の観察では、Cbzは完全に除去され、Fmocは脱保護されなかった。しかしながら、N-FmocProOMeを10サイクルの照射に供し静置させた時は、10%の脱保護が観察された。」と記載されているが、これは、Cbz及びFmoc保護基の両者を有する化合物8(記載事項e参照)においては、マイクロ波の照射によりCbzは完全に除去されるにもかかわらず、Fmocは脱保護されなかったこと、及び、N-FmocProOMeに対し、10サイクル(表1に示される他の化合物に対しては、3?8サイクル)もの多サイクルのマイクロ波照射を施した場合であっても、わずか10%の脱保護(表1に示される他の化合物では、90?95%)が観察されたことが記載されているのであって、この記載から当業者は、多サイクルのマイクロ波照射を施しても、90%は脱保護されなかったことを把握するといえる。
したがって、甲第4号証の記載から、当業者は、マイクロ波照射により、Cbz基は完全に除去されうるのに対し、Fmoc基は脱保護が非常にされにくいと認識するのであって、Fmocで保護されているアミノ酸を脱保護するためにマイクロ波を照射する技術が有効であると認識するとはいえないから、引用発明1に対して、甲第4号証におけるマイクロ波照射による脱保護を適用する動機付けがあったとは認められない。

以上のとおり、主として、N-CbzおよびN-Bn誘導体のマイクロ波照射による高速脱保護を開示しており、引用発明1とは脱保護の前提が異なる技術を開示している甲第4号証における、固相に結合されていないN-FmocProOMeに対し、マイクロ波照射を施した場合に10%の脱保護が観察された、すなわち、90%が脱保護されなかったという記載を見た当業者が、Fmoc保護基の脱保護工程を有するペプチドの固相合成方法に関する引用発明1において、Fmoc保護基の脱保護にマイクロ波照射を利用するとするとは考えにくく、引用発明1に対し、甲第4号証に記載されるマイクロ波照射による脱保護の技術を組み合わせる動機付けがあるとはいえない。

また、甲第2号証及び甲第3号証に記載の発明は、いずれも、固相樹脂に結合したアミノ酸を、他のアミノ酸とカップリングする工程を含むペプチドの固相合成に係るものであり、カップリング工程をマイクロ波照射のもとで行うと、カップリング時間が短縮されたことが記載されているが(甲第2号証記載事項d、甲第3号証の記載事項c)、脱保護工程にマイクロ波照射することについては記載されていない。
したがって、相違点1は、引用発明1、甲第2号証または甲第3号証、及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到し得なかったものである。

よって、本件発明1は、引用発明1、甲第2号証または甲第3号証、及び甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本件発明2?11について
本件発明2?11は、いずれも、本件発明1を引用する方法に係る発明であって、かつ、当業者が容易になし得ないと第7.1.(5)アで判断した引用発明1との相違点1である、「脱保護工程及びカップリング工程において、マイクロ波透過性容器中の組成物に対してマイクロ波を照射し、ペプチドの合成を促進する」という発明特定事項を含むものである。
そして、甲第5号証、甲第6号証、及び甲第10号証は、いずれも、当該発明特定事項を導くための証拠として提出されたものではない。
よって、本件発明1と同様に、本件発明2?11についても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3.小括
本件発明1、3?9は、甲第1号証、甲第2号証または甲第3号証、及び甲第4号証(以下、この項において「前記証拠」という)に記載された発明に基づいて、本件発明2は、前記証拠及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、本件発明10は、前記証拠及び甲第10号証に記載された発明に基づいて、本件発明11は、前記証拠及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、これらの発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。


第8.無効理由2について

1.本件発明1について

(1)甲第7号証の記載事項

本件特許の優先日前に頒布された刊行物である甲第7号証には、以下の事項が記載されている。

a.「発明の分野
本発明は全般的には、組み合わせ合成に関し、詳細には、既知の組成の化学ライブラリを生成する方法および装置に関する。」(16頁3?5行)

b.「そのようなリガンドを生成する一般的な方法は、固相樹脂上のリガンドのライブラリを合成することである。ペプチドを固相合成する技法はたとえば、AthertonおよびSheppard著「Solid Phase Peptide Synthesis: A Practical Approach」(IRL Press at Oxford University Press、英国オックスフォード、1989年)に記載されている。」(第16頁下から2?7行)

c.「組み合わせ化学ライブラリの生成を助けるために、そのようなライブラリを生成するのに必要な多数のステップまたはすべてのステップを自動的に実行できる科学機器が生産されている。自動組み合わせ化学ライブラリシンセサイザの一例として、ケンタッキー州ルイズビルのアドバンストケムテック社(Advanced ChemTech, Inc.(「ACT」))によって製造されているモデル(Model)396MPS全自動複数ペプチドシンセサイザが挙げられる。モデル396MPSは、単一のランで最大96個の異なるペプチドまたはその他の小さな分子を生成することができる。合成は同時に行われ、一つのアミノ酸が、成長する各ポリペプチド鎖に添加され、その後、次の連続アミノ酸が任意のポリペプチド鎖に添加される。」(20頁20行?21頁3行)

d.「各反応ブロック140は、48個の反応チャンバ110(たとえば、第4図を参照されたい)からなるアレイを含む。・・・反応チャンバ110は、ポリプロピレンなど、射出成形または押し出し成形されたポリマーで構成することが好ましい。ただし、ポリエチレンや、テフロンや、ガラスや、反応チャンバ110がさらされる温度環境、圧力環境、化学環境に耐えることができるその他の不活性材料を使用することもできる。」(27頁17行?27行)

e.「反応ブロック140は、適当な金属、またはエンジニアリングプラスチック、または充填プラスチック、または結晶プラスチック、またはセラミックス、または機械加工可能なセラミックス、または反応ブロック140がさらされる温度環境、圧力環境、化学環境に耐えることができるその他の材料を機械加工または成形して製作することもできる。非金属材料を使用する場合、マイクロ波を印加することによって生成物の反応を高めることができる。」(30頁3?8行)

f.「通常の操作では、反応チャンバ110内の各フリット124上に固相樹脂などの合成担体を堆積させる。・・・次いで、ピペッティング作業ステーション250が、コンピュータ制御の下で、試薬の選択された組合せを反応チャンバ110に供給するように動作する。・・・反応ブロック140は、ステーション306Aに取り付けられているときはいつでも、前述のように、加熱または冷却することも、あるいは不活性気体で加圧することも、あるいは渦流させることもできる。・・・所望の生成物の合成が完了した後、適当な試薬を使用して生成物を合成担体からクリーブすることができる。」(38頁15行?39頁12行)

(2)対比

本件発明1と第6.1.(4)アで述べた引用発明1とを対比すると、同イで述べたとおりの点で一致し、相違点1で相違する。

(3)当審の判断

ア.相違点1について

甲第7号証は、「既知の組成の化学ライブラリを生成する方法および装置」に関して記載されており(記載事項a)、具体的には、固相樹脂などの合成担体を堆積させた反応チャンバ110内に、試薬を添加し、所望の生成物の合成が完了した後、適当な試薬を使用して生成物を合成担体からクリーブすることが記載されている(記載事項f)。かかる発明の背景、すなわち、適用される化学ライブラリ生成の一例として、ペプチド合成(記載事項b、c)が挙げられており、特に記載事項bには、SPPSによりペプチドを固相合成することも記載されている。
さらに、「反応ブロック140は、・・・非金属材料を使用する場合、マイクロ波を印加することによって生成物の反応を高めることができる。」と記載され(記載事項e)、反応チャンバ110の素材として、ポリプロピレン、ガラスなどが例示されている(記載事項d)。

しかしながら、これらの記載は、プラスチックやガラスなどの非金属材料から構成される反応ブロックで、ライブラリを作成するために化学反応を実施する際に、マイクロ波を印加することによって反応を高めることが可能であるという一般的な開示に過ぎない。そもそも、甲第7号証は、特にその特許請求の範囲や図面に示されるように、化学ライブラリを生成するための装置構成に特徴を有する発明に係る文献であって、本件発明1や引用発明1のような、Fmoc保護基の脱保護、アミノ酸の活性化及びカップリング工程を備えた特定の化学反応工程に関する記載はない。

したがって、甲第7号証には、化学ライブラリを合成するために、反応チャンバとしてマイクロ波透過性のポリプロピレン、ガラスなどの容器を用い、生成物の反応を高めるために、マイクロ波を印加することは開示され、その一例としてSPPSによるペプチド合成は挙げられているといえるものの、マイクロ波照射を適用する反応が、Fmoc保護基の脱保護、アミノ酸の活性化及びカップリング工程を備えた特定のペプチド合成であることは具体的に記載されておらず、さらにいえば、この3工程のうちの、特に脱保護工程及びカップリング工程の両者にマイクロ波照射を行うことは、何ら示されていない。

してみれば、引用発明1と甲第7号証に記載の発明とは、技術分野が共通あるいは密接に関連しているとはいえず、Fmoc保護基の脱保護、アミノ酸の活性化及びカップリング工程を備えた特定のペプチド合成に係る引用発明1に対して、甲第7号証に記載される、装置構成に特徴のある発明における、マイクロ波印加に関する一般的な記載を参酌してこれらを組み合わせるとはいえない。

よって、Fmoc基の脱保護、第二アミノ酸の活性化及びカップリング工程を備えたペプチドの合成法におけるマイクロ波照射に係る相違点である相違点1は、当業者が容易になし得たものとはいえない。

したがって、相違点1は、当業者が容易になし得たものではないから、本件発明1は、引用発明1及び甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。


2.本件発明2?11について

本件発明2?11は、いずれも、本件発明1を引用する方法に係る発明であって、かつ、当業者が容易になし得ないと第8.1.(3)アで判断した引用発明1との相違点1を、発明特定事項として含むものである。
そして、甲第6号証は、当該相違点を導くための証拠として提出されたものではない。
よって、本件発明1と同様に、本件発明2?11についても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


3.小括

したがって、本件発明1?10は、甲第1号証及び甲第7号証に記載された発明に基づいて、本件発明11は、甲第1号証、甲第7号証、及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、これらの発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。


第9.無効理由3について

1.本件発明1?11について

甲第8号証として提出された証拠は、請求人が平成25年1月8日付口頭審理陳述要領書(3-2)a)において認めるように、本件特許の優先日である2003年6月23日の前に頒布されたものとは認められない。
したがって、審判請求時に主張された、甲第8号証が本願優先日前に頒布されたものであることを前提とした、無効理由3の主張は認められない。

なお、平成25年1月8日付の請求人による口頭審理陳述要領書の第7頁第19行から第9頁第11行における無効理由3についての主張は、請求の理由の要旨を変更するものであるから、特許法第131条の2第1項及び第2項の規定により許可しない(平成25年1月22日付第1回口頭審理調書)。

2.小括

したがって、本件発明1、3?10は、甲第1号証及び甲第8号証(以下、この項において、「前記証拠」という)に記載された発明に基づいて、本件発明2は、前記証拠及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、本件発明11は、前記証拠及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、これらの発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。


第10.無効理由4について

1.本件発明1について

(1)対比

本件発明1と第6.1.(4)アで述べた引用発明1とを対比すると、同イで述べたとおりの点で一致し、相違点1で相違する。

(2)当審の判断

ア.相違点1について

甲第2号証は、引用発明1及び甲第9号証と、Fmocを保護基として用いた、カップリング反応によるポリペプチドの固相合成方法という点では共通するものの、甲第2号証に記載されるマイクロ波照射は、カップリング工程に施されることに留まるものである(第7 1.(1)参照)。また、甲第9号証に記載されるカップリング工程及び脱保護工程における反応温度上昇のための手段として、甲第2号証に記載されるマイクロ波照射が有利である等の、甲第2号証のマイクロ波照射という温度上昇手段を積極的に用いることの示唆はない。
そうすると、固相ペプチド合成を促進するために、甲第9号証において、脱保護工程にも加温がなされていても、当該工程にまでマイクロ波照射を用いる動機付けがあるとまではいえない。
よって、相違点1は、当業者が容易になし得たものではないから、本件発明1は、引用発明1、甲第9号証及び甲第2号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。


2.本件発明2?11について

本件発明2?11は、いずれも、本件発明1を引用する方法に係る発明であって、かつ、当業者が容易になし得ないと第10.1.(2)アで判断した引用発明1との相違点1を、発明特定事項として含むものである。
そして、甲第5号証及び甲第6号証は、当該相違点を導くための証拠として提出されたものではない。
よって、本件発明1と同様に、本件発明2?11についても、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。


3.小括

したがって、本件発明1、3?10は、甲第1号証、甲第9号証及び甲第2号証(以下、この項において「前記証拠」という)に記載された発明に基づいて、本件発明2は、前記証拠及び甲第5号証に記載された発明に基づいて、本件発明11は、前記証拠及び甲第6号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、これらの発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであるとはいえない。


第11.無効理由8について

1.審判請求人の主張の内容

(1)平成22年8月5日に提出された手続補正書(甲第15号証)による補正により請求項1において追加された「サイクルとサイクルとの間に該一つのマイクロ波透過性の容器からペプチドを取り出すことなく、該一つの容器において複数のアミノ酸を連続的に脱保護し、活性化し、そしてカップリングしてペプチドを形成すること」との構成要件Eは、マイクロ波照射について言及がないから、連続して行なう脱保護工程、カップリング工程について、マイクロ波照射を行なわない態様が含まれる。しかしながら、明細書の段落[0017](甲第18号証-a)には、「(d)マイクロ波のエネルギーを施用して、脱保護、活性化及びカップリングのサイクルを促進する工程を含む方法である」と記載されており、構成要件Eに含まれると解されるマイクロ波を照射せずに連続する脱保護工程、活性化工程およびカップリング工程を行なう態様は、出願時の明細書に記載がない。(審判請求書78?81頁)

(2)追加された構成要件Eにおいて、「サイクルとサイクルとの間に該一つのマイクロ波透過性の容器からペプチドを取り出すことなく」との点が限定されているが、サイクルとサイクルとの間にマイクロ波透過性容器からペプチドが取り出されないようにするための手段(構成要件E)は出願時の明細書に記載されていないから、当該手段は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項ではない。(審判請求書78?81頁)


2.当審の判断

(1)について

第2.において、適法と判断した訂正請求により、構成要件Eに、マイクロ波を照射せずに連続的に脱保護工程、活性化工程およびカップリング工程を行う態様が含まれないことが明確となったため、請求人の主張する理由(1)は、成り立たない。

(2)について

請求人の指摘する「サイクルとサイクルとの間に該一つのマイクロ波透過性の容器からペプチドを取り出すことなく」という記載は、訂正特許請求の範囲の請求項1における「サイクルとサイクルとの間に該同一のマイクロ波透過性容器からペプチドを取り出すことなく」に相当するが、当該記載は、そうするための特定の手段を特定するものではないから、サイクルとサイクルとの間にマイクロ波透過性容器からペプチドが取り出されないようにするための手段が当初明細書に記載されていないとする請求人の主張は失当である。
さらに、本件の当初明細書には、「特に好ましい態様において、本方法は、サイクルとサイクルとの間に、固相樹脂からペプチドを取り出すことなく、単一の容器において複数のアミノ酸を連続的に脱保護し、活性化し、そしてカップリングさせてペプチドにすることを含む。」(段落番号【0066】)や「本発明の特定の態様においては、サイクルとサイクルの間に固相樹脂又は容器からペプチドを取り出すことなく、単一の反応容器中で脱保護、活性化、カップリング及びプリーディングの連続工程を実施する。」(段落番号【0077】)との記載があるから、「サイクルとサイクルとの間に容器から取り出すことなく」行うことは記載されているといえ、かつ、「更に別の側面において、本発明は、ペプチドの固相合成を促進するための方法であって:固相樹脂に対して結合された保護第一アミノ酸をマイクロ波透過性容器において脱保護性溶液と混合しながら、該混合アミノ酸及び溶液にマイクロ波を照射することにより、該保護結合アミノ酸を脱保護する工程;第二アミノ酸及び活性化溶液を該同一容器に添加しながら、該容器にマイクロ波を照射することにより、該第二アミノ酸を活性化させる工程;該同一容器中の組成物にマイクロ波を照射しながら、該第二アミノ酸を該第一アミノ酸にカップリングさせる工程;及び、結合されたペプチドを該同一容器において切断性組成物と混合しながら、該組成物にマイクロ波を照射することにより、該結合ペプチドを該固相樹脂から切断する工程を含む方法である。」(段落【0020】)等の記載から、「マイクロ波透過性容器」の使用に関しても記載されている。
したがって、「サイクルとサイクルとの間に該同一のマイクロ波透過性の容器からペプチドを取り出すことなく」との記載は、当初明細書の記載の範囲内のものである。


3.小括

したがって、本件の特許請求の範囲の請求項1に関して、平成22年8月5日に提出された手続補正書によりなされた補正は、願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではないとはいえない。
よって、本件特許は、特許法第17条の2第3項に規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたものとはいえない。


第12.無効理由9について

1.審判請求人の主張の内容

請求人は、審判請求書において、下記(1)の点を主張し、その具体的内容として、口頭審理陳述要領書で下記(2)?(4)の点、及び、平成25年3月5日付上申書で下記(5)の点を主張している。

(1)本件発明は、ペプチド合成に必要な時間が長いこと、及びペプチド配列の凝集を解決することを課題としているものと解されるが、本件明細書には、これまでの合成方法と比較した実験結果が示されておらず、本件明細書の記載から上記課題が解決されたことを読み取ることはできない。また、当業者にとって、課題が解決されることが明確となるように発明の詳細が記載されていない。(審判請求書82頁1?12行)

(2)本願明細書の段落[0015]には、従来のSPPSにおいて、最も時間を要している工程は切断工程であることが記載されており、本件発明1は少なくともこの工程を構成要件として含まないものであるので、明細書の記載に基づいても、従来法による時間の長さより顕著に短いことを理解することはできない。(口頭審理陳述要領書5頁最終行?6頁4行)

(3)本願明細書の段落[0015]には、「マイクロ波による加熱は、マイクロ波は組成物又は溶媒と即座に直接相互作用する傾向があることから、有機合成を含む多様な化学反応において有利である。初期の研究者は、キッチン型の電子レンジにおける単純なカップリング工程(完全なペプチド合成ではない)を報告している。」と記載されており、ここで記載されているマイクロ波による加熱を従来法とすると、本件明細書には、本件発明1におけるマイクロ波照射と、従来法におけるマイクロ波による加熱との違い(照射条件、照射時間等)が記載されていないので、本件発明1の方法は従来法より短縮されていることを理解することはできない。なお、マイクロ波照射について詳細な条件が規定されていない本件発明1について、従来法におけるマイクロ波による加熱と比較した効果の違いを主張することは認められない。(口頭審理陳述要領書6頁5?16行)

(4)本願明細書の段落[0016]には、「現在の技術の別の問題は、ペプチド配列の凝集である。凝集とは、成長ペプチドがそれ自体の上に折り畳まれてループを形成し、水素結合によってくっつく傾向をいう。これは、更なる鎖の伸長に関して明らかな問題を生む。理論的には、温度が高くなると水素結合が減少するので、折り畳みの問題が少なくなるが、そのように温度が高いと、熱に敏感なペプチドカップリング試薬に悪影響が及ぼされることがあるので、高温自体による欠点が生じることがある。」と記載されており、高温にすることにより凝集の問題が解決されることが示されているものの、明細書の記載の全体を通しても、本件発明1によりペプチドの凝集が解決されているのか不明である。(口頭審理陳述要領書6頁17?26行)

(5)本件発明の方法が「凝集」という課題を解決できることは、当業者が理解することができないという主張に関し、参考資料2(Nature Biotechnology, October 2004,Vol.22,p.1302-1306)で説明されるプログラムであるTANGOにより計算すると、参考資料3に示されるように、本件明細書で用いられた10残基のペプチド配列「Gly-Asn-Ile-Tyr-Asp-Ile-Ala-Ala-Gln-Val」は、凝集傾向を示す指標(AGG)が0であって、凝集傾向がないものである。したがって、本件明細書の実施例において、図9に示されるように不完全なカップリングに対応するピークが観察されなかったのは、そもそも凝集しにくい配列のペプチドを合成していることによるものと推認され、本件発明の方法により合成したことによるものと理解することはできない。(上申書3?5頁「(1)無効理由9について」の項)

2.当審の判断

(1)について
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(サポート要件)を満たしているといえるためには、特許請求の範囲の記載が、発明の詳細な説明において、発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えていないことを必要とする。
ここで、発明の詳細な説明から把握できる課題の全てが解決されると認識できなければ、サポート要件を満たさないとすることは相当でない(知財高判平成24年10月29日(平成24年(行ケ)10076号))から、サポート要件の判断における「発明の課題」とは、発明の詳細な説明から把握されるいずれかの課題であると解するのが相当である。

ここで、本件明細書の発明の詳細な説明には、記載事項アにあるように、「時間の長さ」という課題が記載され、また、記載事項イにあるように、「ペプチド配列の凝集」という課題が記載されている。

そこで、本件発明の「時間の長さ」という課題について検討することとする。
段落【0015】には、現在のSPPS技術の第1の欠点(すなわち課題)が、合成するのに必要な時間の長さであること、この問題を解決するためにペプチド合成及びカップリングの代替的な方法をマイクロ波技術を用いて試みたと記載され、マイクロ波による加熱は有機合成を含む多様な化学反応において有利であると記載されている。さらに、マイクロ波を用いてカップリング速度を速めることが報告されたことも記載されている。
ここで、化学反応において、熱を加えれば通常反応速度が高まることは当業者の技術常識であるから、上記の発明の詳細な説明の記載から、本件発明1で特定されるように脱保護工程及びカップリング工程にマイクロ波照射を用いることで、各々の工程の反応速度が高まることを当業者は認識できるといえる。
よって、本件発明の課題として記載される「時間の長さ」を解決できることは、発明の詳細な説明の記載に具体的な実験結果が示されていなくとも、上記発明の詳細な説明【0015】の記載及び技術常識から当業者が認識することができるといえる。

したがって、発明の詳細な説明の記載から、少なくとも、「時間の長さ」という課題を解決できることを当業者は認識することができるといえ、特許請求の範囲の記載は、発明の詳細な説明において上記課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものではないから、請求人の主張は採用できない。

(2)について
本件特許明細書の段落【0015】には、「現在のSPPS技術に関しては2つの明確な欠点が存在する。第一は、所与のペプチドを合成するのに必要な時間の長さである。脱保護工程は30分以上かかることがある。上記のように各々のアミノ酸をアミノ酸鎖にカップリングさせるには、約45分必要であり、各々のアミノ酸の活性化工程は15?20分必要とし、切断工程では2?4時間必要とする。」(記載事項ア)と記載されている。
しかし、切断工程が他の工程に比較して長い時間を要するとしても、脱保護工程及びカップリング工程の反応時間が、マイクロ波照射を施すことにより、マイクロ波照射を施さない従来法よりも短いことを理解できることは、(1)で述べたとおりであり、そうであれば、ペプチド合成の反応時間全体がマイクロ波照射を施すことにより従来法より短いことも当然理解できる。

(3)について
審判請求人が指摘した【0015】の記載の直後には、「しかしながら、そのような結果の再現は、放射線源として家庭用電子レンジでは限界があり、出力制御ができず、また電子レンジごとに再現性の問題があることから容易ではない。」とあり、キッチン型の電子レンジの利用は、再現性に問題があることが記載されているのであって、本件発明の課題である「時間の短縮」の比較対照となる従来法をキッチン型の電子レンジであるとしてサポート要件への適合性を論じることは、妥当ではない。

(4)(5)について
(1)で述べたとおり、発明の詳細な説明の記載から、「時間の長さ」という課題を解決できることを当業者は認識することができるといえ、「ペプチドの凝集」という課題を解決できることを認識することができないとしても、そのことをもって、特許請求の範囲の記載が、サポート要件を満たしていないとまではいえない。

なお、上述のとおり、特許請求の範囲の記載がサポート要件を満たすためには、発明の詳細な説明の記載から、「ペプチドの凝集」という課題までもが解決できると当業者が認識できることを要するものではないが、両者において、この点について争いがあるので、念のため、「ペプチド凝集」という課題を解決できることが発明の詳細な説明の記載から当業者が認識することができるかどうかについても以下に検討することとする。

発明の詳細な説明の段落【0016】には、「凝集とは、成長ペプチドがそれ自体の上に折り畳まれてループを形成し、水素結合によってくっつく傾向をいう。これは、更なる鎖の伸長に関して明らかな問題を生む。理論的には、温度が高くなると水素結合が減少するので、折り畳みの問題が少なくなるが、そのように温度が高いと、熱に敏感なペプチドカップリング試薬に悪影響が及ぼされることがあるので、高温自体による欠点が生じることがある。」(記載事項イ)と記載されていることから、凝集とは、成長ペプチド分子内の水素結合によってくっつく傾向を意味するものであって、温度が高くなれば水素結合が減少することに伴い、凝集そのものも減少することが理解される。そうすると、温度を高める効果を本質的に有するものであるマイクロ波照射を備えた本件発明は、凝集という課題を解決することができるものと理解される。

ここで、請求人は、上記(5)で述べるように、参考資料2、3を示しながら、本件実験で用いられた10アミノ酸からなるペプチドが、そもそも凝集しにくい配列のものであると主張している。
しかし、参考資料2は本願出願日後に公知となった論文であり、本願出願日前の技術常識を示す証拠としての適格性を欠くものである。しかも、参考資料2に記載される特定のアルゴリズムが、本件発明のような、Fmocを保護基として用い、脱保護工程、及びカップリング工程を備えたペプチドの合成における、凝集の傾向の評価に適当であることは読み取ることができない。
一方、Fmocを保護基として用い、脱保護工程、及びカップリング工程を備えたペプチドの合成に係る甲第1号証の「3.7凝集」の項には、「アラニン、バリン、イソロイシン、アスパラギン、グルタミン残基が高率に含まれているアミノ酸配列は、特に凝集する傾向にある。」(30頁20?23行)と記載されており、この記載を参酌すれば、本件明細書の第2の実験で用いられた10アミノ酸からなるペプチドは、10アミノ酸中7アミノ酸が、ここで挙げられたアミノ酸に含まれるのであるから、むしろ、凝集する傾向にあるペプチドであると推認される。

以上のとおりであるから、発明の詳細な説明の記載から、ペプチドの凝集という課題も解決できることを当業者が認識できるといえ、よって、この点でもサポート要件を満たしていない、とはいえない。


3.小括

以上のとおり、特許法第36条第6項第1号に関する主張は理由がない。

また、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしてないことに関しては、何ら具体的な主張はなされていない。

よって、本件発明1?11についての特許は、特許法第36条第4項第1号および同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。


第13.むすび

以上のとおりであるから、本件特許の請求項1、3?9に係る発明についての特許は無効理由5によって無効とすべきものである。また、請求人の主張及び証拠方法によっては、請求項2、10、11に係る発明についての特許は無効とすることができない。

審判に関する費用については、特許法第169条第2項で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が11分の3を、被請求人が11分の8を負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
マイクロ波利用のペプチド合成
【発明の開示】
【0001】
発明の分野
本発明は、固相ペプチド合成(SPPS)に関するものであり、詳しくは、SPPSのためのマイクロ波利用技術に関するものである。
【0002】
発明の背景
20世紀初めには、合成製造されたペプチドによって、化学構造と生物活性との関係に関する研究を大いに促進できるという科学研究における新しい概念が誕生した。それまでは、ペプチドとそれらの生物学的機能との間の構造活性関係に関する研究は、精製された天然のペプチドを用いて行われてきた。しかしながら、その初期のペプチド精製のための溶液ベースの技術では、例えば、生成物の収率が低い、不純物による汚染、手間がかかる、いくつかのペプチドの溶解性が予想できないというような問題に悩まされていた。20世紀前半の間は、いくつかの溶液ベースの合成技術では、公知の技術をそれらの限界まで用いることによって、一定の「難しい」ペプチドを製造できた。より高い収率及び純度でペプチドを得たいという需要が増加することにより、まず最初に、固相ペプチド合成(SPPS)と現在呼ばれている、1963年に示されたアミノ酸から直接ペプチドを合成するための画期的な技術が生まれた。
【0003】
溶液ベースのペプチド合成に固有の欠点は、ペプチド合成のためにSPPSをほぼ限定的に使用することに起因していた。固相カップリングにより、試薬の分離がより容易になり、従来の化学(蒸発、再結晶など)による生成物の損失が排除され、更に、過剰の試薬を添加することにより反応を強制的に完了させることができる。
【0004】
ペプチドとは、一方のアミノ酸のカルボキシル基と他方のアミノ酸のアミノ基とを結合させた2つ以上のアミノ酸からなる小さなタンパク質と定義される。したがって、基本的なレベルでは、どのようなタイプのペプチド合成であっても、複数のアミノ酸分子を、互いに又は存在するアミノ酸のペプチド鎖に添加する繰り返し工程を含む。
【0005】
ペプチドの合成製造は、科学研究分野では、多くの理由から計り知れないほど貴重な手段である。例えば、インフルエンザ及びヒト免疫不全ウイルス(HIV)のために存在する抗ウイルスワクチンには、ペプチドをベースとするものがある。同様に、抗菌ペプチドをベースとするワクチン(ジフテリア毒素及びコレラ毒素)に関して行われた研究もある。合成により変質されたペプチドは、放射性同位体などのトレーサーで標識でき、また天然のペプチドの生物学的受容体(レセプターとして知られている)の量、場所及び作用メカニズムを解明するために用いることができる。次に、その情報を利用して、そのレセプターを介して作用するより良好な薬剤を設計することができる。また、ペプチドは、ペプチドをベースとする抗体などの抗原目的のために用いて、新しく発見された遺伝子のタンパク質を同定することもできる。最終的に、いくつかのペプチドは、疾患の原因物質であるかもしれない。例えば、β-アミロイドタンパク質の生物学的な処理の失敗によって、脳において神経線維の「もつれ」が生じて、神経斑が形成される。これらの斑の存在は、アルツハイマー病の病理学的特徴である。β-アミロイドの前駆体又は親分子の合成製造により、アルツハイマー病の研究が促進される。
【0006】
これらは、もちろん、ペプチド合成を基礎的な科学的手段とする、多種多様な話題及び研究基礎のほんの一例である。
SPPSの基本原則は、カップリング相が完成したら切断及び精製することができる固相粒子にリンカー分子を介して固定される成長ポリペプチド鎖に対して、アミノ酸を段階的に添加することである。簡単に言えば、固相樹脂支持体及び出発アミノ酸は、リンカー分子を介して互いに付着する。そのような樹脂-リンカー-酸マトリクスは商業的に入手可能である(例えば、ドイツのダルムシュタットのMerck KGaAの関係会社であるEMD Biosciencesの商標であるCalbiochem;又は、ドイツのハイデルベルクにあるORPEGEN Pharma)。出発アミノ酸は、そのアミノ末端において化学基によって保護され、また化学側鎖保護基を有していてもよい。保護基は、遊離アミノ酸の非保護カルボキシル基と成長ペプチド鎖の脱保護α-アミノとの間での新しいペプチド結合の形成中に、不所望な反応又は有害な反応がα-アミノ基において起こるのを防ぐ。続いて、最後までカップリング結合させるためのペプチド鎖において、一連の化学的工程によりアミノ酸が脱保護され、次のアミノ酸が準備される。換言すれば、アミノ酸を「保護」することにより、不所望な副反応又は競争反応が防止され、アミノ酸を「脱保護」することにより、その官能基(単数又は複数)は所望の反応のために利用可能となる。
【0007】
アミノ酸の所望の配列が達成されたら、ペプチドは、リンカー分子において、固相支持体から切断される。この技術は、多くの繰返し工程からなり、可能であるときは必ず自動化を魅力あるものにする。
【0008】
SPPSの様々な工程には反応のタイプをはじめとする多くの選択が存在する。SPPSは、連続フロー法又はバッチフロー法を用いて行うことができる。連続フローは、分光光度計によって、反応の進行度をリアルタイムにモニターできるので有用である。しかしながら、連続フローは、樹脂上のペプチドと接触する試薬が希釈されることと、固相樹脂の物理的な寸法の制約により規模が限定されることの2つの明確な欠点を有する。バッチフローは濾過反応器で起こり、反応体がアクセス可能で、手動又は自動的に添加できることから有用である。
【0009】
α-アミノ末端を化学的に保護するための他の選択が存在する。第一は、「Boc」(Nα’-t-ブトキシカルボニル)として知られている。Boc法のための試薬は比較的費用がかからないが、高度に腐食性で、高価な装置が必要となる。好ましい別法は、「Fmoc」(9-フルオレニルメチルオキシカルボニル)による保護スキームであり、これは腐食性は低いがより高価な試薬である。
【0010】
SPPSの場合、固体支持体相は、通常はポリスチレン懸濁液であり;最近では、ポリアミドのようなポリマー支持体も用いられている。固相支持体の調製としては、適切な溶媒(例えば、ジメチルホルムアミド又はDMF)中に支持体を「溶媒和」させることが挙げられる。固相支持体は、溶媒和中に体積がかなり膨潤する傾向があり、それにより、ペプチド合成を実施するのに利用可能な表面積が増加する。これまでに説明したように、リンカー分子は、アミノ酸鎖を固相樹脂に接続させる。リンカー分子は、最後の切断により、カルボキシル末端において遊離酸又は遊離アミドを提供するように設計される。リンカーは、樹脂に特異的ではなく、4-ヒドロキシメチルフェノキシアセチル-4’-メチルベンジヒドリルアミン(HMP)のようなペプチド酸、又はベンズヒドリルアミン誘導体のようなペプチドアミドが挙げられる。
【0011】
適切な溶媒によって固相支持体を調製したら、次の工程では、ペプチド鎖にくっつけるアミノ酸を脱保護する。脱保護は、一時的な保護基については緩塩基処理(例えば、ピクロジン又はピペリジン)によって実施され、永久的な側鎖保護基は、緩酸分解(例として、トリフルオロ酢酸又はTFA)によって除去される。
【0012】
脱保護についで、アミノ酸鎖の伸長又はカップリングは、ペプチド結合の形成によって特徴付けられる。この方法では、C-α-カルボキシル基の活性化が必要であり、その活性化は、5つの異なる技術のうち1つを用いて達成できる。これらは、順番は関係ないが、in situ試薬、予め形成された対称無水物、活性エステル、酸ハロゲン化物及びウレタン保護N-カルボキシ無水物である。in situ法は、同時に活性化させカップリングさせることが可能であり;最も一般的なタイプのカップリング試薬は、カルボジイミド誘導体、例えばN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド又はN,N-ジイソプロピルカルボジイミドである。
【0013】
所望の配列が合成されたら、ペプチドは樹脂から切断される。この方法は、ペプチドのアミノ酸組成物と側鎖保護基との感受性に依存する。しかし、一般的には、切断は保護基及びリンカーから生ずる反応性カルボニウムイオンを消失させるための掃去剤を複数含有する環境において実施される。1つの一般的な切断剤はTFAである。
【0014】
端的に言えば、SPPSでは、各々のアミノ酸を付加するための脱保護、活性化及びカップリングの繰返し工程を必要とし、続いて、最終ペプチドを元の固体支持体から分離するための最終切断工程を必要とする。
【0015】
現在のSPPS技術に関しては2つの明確な欠点が存在する。第一は、所与のペプチドを合成するのに必要な時間の長さである。脱保護工程は30分以上かかることがある。上記のように各々のアミノ酸をアミノ酸鎖にカップリングさせるには、約45分必要であり、各々のアミノ酸の活性化工程は15?20分必要とし、切断工程では2?4時間必要とする。したがって、単に12個のアミノ酸からなるペプチドを合成するのに最大14時間かかることがある。この問題を解決するために、ペプチド合成及びカップリングの代替的な方法をマイクロ波技術を用いて試みた。マイクロ波による加熱は、マイクロ波は組成物又は溶媒と即座に直接相互作用する傾向があることから、有機合成を含む多様な化学反応において有利である。初期の研究者は、キッチン型の電子レンジにおける単純なカップリング工程(完全なペプチド合成ではない)を報告している。しかしながら、そのような結果の再現は、放射線源として家庭用電子レンジでは限界があり、出力制御ができず、また電子レンジごとに再現性の問題があることから容易ではない。別の研究者は、マイクロ波を用いてカップリング速度を速めることを報告したが、同時に高温が発生して、固相支持体及び反応混合物が変質する傾向があった。工程間におけるサンプルの移動による欠点も生じた。
【0016】
現在の技術の別の問題は、ペプチド配列の凝集である。凝集とは、成長ペプチドがそれ自体の上に折り畳まれてループを形成し、水素結合によってくっつく傾向をいう。これは、更なる鎖の伸長に関して明らかな問題を生む。理論的には、温度が高くなると水素結合が減少するので、折り畳みの問題が少なくなるが、そのように温度が高いと、熱に敏感なペプチドカップリング試薬に悪影響が及ぼされることがあるので、高温自体による欠点が生じることがある。この理由から、SPPS反応は一般的に室温で行われ、特徴的に反応時間が延長される。
【0017】
発明の要旨
一の側面において、本発明は、ペプチドの固相合成のための方法であって:(a)固相樹脂に結合された第一アミノ酸を、保護第一化学基を除去することにより脱保護する工程;(b)第二アミノ酸上の化学基を活性化して、該第一アミノ酸とのカップリングのための第二アミノ酸を調製する工程;(c)該活性化第二アミノ酸を該脱保護第一アミノ酸にカップリングさせて、該第一アミノ酸及び該第二アミノ酸からペプチドを形成する工程;及び(d)マイクロ波のエネルギーを施用して、脱保護、活性化及びカップリングのサイクルを促進する工程を含む方法である。
【0018】
別の側面において、本発明は、固相法によるペプチドの促進合成のための装置であって:マイクロ波放射に対して透過性である反応セル;該反応セルに液体を添加するための通路;該反応セルから固体ではなく液体を取り出すため通路;該反応セルを保持するためのマイクロ波キャビティ;及び該キャビティと波動連絡しているマイクロ波源を含む装置である。
【0019】
更に別の側面において、本発明は、固相法によるペプチドの促進合成のための容器系であって:マイクロ波放射に対して透過性である反応セル;該セルと流体連絡している、該セルに対して外部にある樹脂源と該セルとの間で固相樹脂を移動させるための第一通路;少なくとも1つのアミノ酸源と該セルとの間を流体連絡している、アミノ酸を該セルに添加するための第二通路;不活性気体源及びベントと気体連絡している第三通路であって、該セルに対する及び該セルからの制御された気体流れを用いて、流体及び流動固体を該セルに添加したり該セルから取り出したりできるように、気体圧力を該セルに施用したり、気体圧力を該セルから放出したりするための第三通路を含む容器系である。
【0020】
更に別の側面において、本発明は、ペプチドの固相合成を促進するための方法であって:固相樹脂に対して結合された保護第一アミノ酸をマイクロ波透過性容器において脱保護性溶液と混合しながら、該混合アミノ酸及び溶液にマイクロ波を照射することにより、該保護結合アミノ酸を脱保護する工程;第二アミノ酸及び活性化溶液を該同一容器に添加しながら、該容器にマイクロ波を照射することにより、該第二アミノ酸を活性化させる工程;該同一容器中の組成物にマイクロ波を照射しながら、該第二アミノ酸を該第一アミノ酸にカップリングさせる工程;及び、結合されたペプチドを該同一容器において切断性組成物と混合しながら、該組成物にマイクロ波を照射することにより、該結合ペプチドを該固相樹脂から切断する工程を含む方法である。
【0021】
具体的な説明
本発明は、1つ以上のペプチドを固相合成するための装置及び方法であって、具体的には、マイクロ波エネルギーを利用してかかる方法を促進する装置及び方法である。
【0022】
図1は、固相ペプチド合成法のいくつかの側面を図示する概略図である。図1は、本質的に一般的なものであり、本発明を限定するものではないことが理解される。図1は、第一アミノ酸10を示しており、第一アミノ酸10は、それにくっついているN-α保護基11及び側鎖保護基12を含む。リンカー分子13は樹脂支持体14にくっついている。矢印15で示されている第一の工程では、第一アミノ酸及びその保護基11と12が、リンカー13及び樹脂支持体14にくっつく。矢印17で示されている第二の工程では、N-α保護基が除去されて(脱保護)、第一アミノ酸10及びその側鎖保護基12がリンカー分子13を介して支持体14に結合されている構造が生成される。矢印21で示されている次の工程では、第一アミノ酸10は、20で示されている第二アミノ酸にカップリングされる。第二アミノ酸は、それにくっついているN-α保護基11とカップリングを促進するための活性基22とを同様に有する。カップリング工程21の後、得られる構造には、互いに接続された第一アミノ酸10及び第二アミノ酸20が含まれ、更に第二アミノ酸20にくっついているN-α保護基11と、第一アミノ酸10にくっついている側鎖保護基12とが含まれ、接続されたアミノ酸は、リンカー分子13を介して支持体14に結合している。破線長方形25で示されている追加のアミノ酸は、同じやり方(矢印21´)で添加されて、ペプチド鎖を所望の長さに延長する。
【0023】
最終工程では、接続されたアミノ酸10,20及び25は、矢印23で示されているように、保護基及び支持体から切断されて、樹脂支持体14から分離した所望のペプチドが得られる。カップリング工程は、本明細書中の他のところで何度も示されるように、所望の回数繰り返して、得られるペプチドを製造することができる。
【0024】
図2には、30で広範に示される本発明の1つの商業的態様が図示してある。図2は、本発明の広範な構造的側面のいくつかを示しており、その詳細は、図3及び図6で説明する。
【0025】
まず第一に、図2は、デバイス31のマイクロ波部分を示している。容器にマイクロ波照射を施用する装置の部分は、好ましくは、本発明の方法において用いられるサンプル寸法及び材料に対して適する出力量を施用するように制御することができる、単一モードキャビティ装置である。本発明の好ましい態様において、装置のマイクロ波部分は、同時係属する又は共通して譲渡された数多くの米国特許出願において記載されている設計を有しそのように運転できる。これらには、公開出願として(U.S.)第20030089706号及び第20020117498号が挙げられ、未公開出願として2002年4月19日に出願された第10/126,838号;2002年6月26日に出願された第10/064,261号;及び2002年7月31日に出願された第10/064,623号が挙げられる。これらの引用文献のすべての開示は、参照により本願明細書中に全体として援用される。そのような単一モードマイクロ波装置の市販型は、本発明の譲受人である、ノースカロライナ州マシューズにあるCEM CorporationからDISCOVERY(商標)、VOYAGER(商標)及びEXPLORER(商標)という商品名で入手可能である。
【0026】
上記の事実を考慮して図2を参照する。図2は、キャビティ32、ハウジング33及び運転中の指示又は情報を提供するための適切なディスプレー34の配置が図示してある。複数のアミノ酸源のコンテナー又はボトルが、それぞれ35で示してある。それぞれの樹脂コンテナーは36で示してあり、生成物ペプチドコンテナーは37で示してある。一連の流体通路は、40で広範に示してある配管の部分によって図示してあり、それについては図6でより詳細に考察する。同様に、装置30には、本願明細書で説明されるやり方で流体及び樹脂を物理的に移動させるための、適切なマニホールドを含む上部ハウジング部分41が含まれる。マニホールドは図示されていないが、本願明細書で説明され、特に図6の回路図に関して特定的に説明されるやり方で流体を指向させるのに役立つ通路及びバルブのいずれかの系列を含むことができる。
【0027】
したがって、図2に示す態様においては、自動化された様式で、最大20までの異なるアミノ酸をそれぞれのコンテナー35の中に受け入れることができ、また最大で12の異なるペプチドをそれぞれのコンテナー37中で生成し配置することができる。それらは商業的な態様での数であるが、本発明はその数に限定されず、また図示してあるように多くの供給源又は生成物コンテナーを有する必要も無いことは理解される。
【0028】
また、図2は、42で広範に明示される配管として示される通路の相補的系列も図示してあり、この系列は反応容器アダプター43に直接接続されている。反応容器アダプター43は、図2に部分的に図示されているが、図3、4及び5でより詳細に説明する。
【0029】
図3は、その部分が図2にも図示されている、反応容器45及び容器アダプター43の部分的斜視図である。反応容器45は、好ましくは西洋ナシの形状であり、マイクロ波照射に対して透過性である材料から形成される。好ましい材料としては、ガラス、テフロン(登録商標)及びポリプロピレンが挙げられるが、それらに限定されない。配管46として示される第一通路は、セル45の外部にある樹脂源とセル45との間で固相樹脂を移動させるために、反応容器(又は「セル」、本願明細書では互換性をもって用いられる)45と流体連絡している。第二通路47は、アミノ酸をセル45に添加するために、少なくとも1つのアミノ酸源(図6)とセル45との間を流体連絡している。第三通路50は、マニホールドにおける、またセル45に対する及びセル45からの制御された気体流れを用いて、流体及び流動固体をセル45に添加したりセル45から取り出したりできるように、気体圧力をセル45に施用したり、気体圧力をセル45から放出したりするために、不活性気体源(図6)及びベント(図6)と気体連絡している。
【0030】
図3には第二通路47も図示され、第二通路47には、固相樹脂がセル45から第二通路47へと入るのを防ぐために、フリット51として示してあるフィルターも含まれる。
好ましい態様において、本発明は更に第四通路52も含み、第四通路52は、セル45を溶媒で洗い流すため、外部溶媒源(図6)とセル45との間を流体連絡している。図3に示すように、第四通路52には、セル45に溶媒を添加するためにスプレーヘッド53又はそれと等価な構造が含まれる。
【0031】
アダプター43は、マイクロ波透過性で化学的に不活性な材料から形成され、好ましくは、フッ化ポリマー(例えば、PTFE)又は適切な等級のポリプロピレンなどのポリマーから形成される。アダプター43は、好ましくは、穴をあけられたか又はくり抜かれた通路46、47、50及び52を有する中実の筒である。通路46、47、50及び52は、単純に、アダプター43を貫通する穿孔を含むことができるが、好ましくは、同様に、PTFE、PTFE変体又はポリプロピレンなどのマイクロ波透過性で化学的に不活性な材料から形成される配管も含むことができる。配管は、好ましくは外径1/8インチ(0.32cm)で内径1/16インチ(0.16cm)である。
【0032】
図3には示されていないが(図が複雑にならないようにするため)、容器ネック54は、好ましくは外部にねじ山が切られていて、アダプター43の下部において外部にねじ山が切られた穿孔55と係合する。容器45とアダプター43とのねじ係合によって、これら2つのアイテムを確実に係合でき、容器45をアダプター43に係合させたり、アダプター43からはずしたりするのを容易に行うことができる。特に、異なる寸法の容器又は異なる材料から形成された容器は、ネックが同じ寸法で、ねじ山が切られているならば、置換することができ、更にアダプター43に取り付けることができる。
【0033】
いくつかの最終的な詳細として、図3には、それぞれ第一、第二、第三及び第四の通路46、47、50及び52に対するねじ付き管継手56、57、60及び62も含まれる。これらによりアダプター43と容器45の全体を装置30の他の部分に容易に接続したり、他の部分から容易に取り外すことができる。
【0034】
図4及び図5は、それぞれ、図3のアダプターの組立て斜視図及び分解斜視図であり、同じ要素を図示している。いずれの図にもアダプター43及びセル45が含まれている。ねじ付き管継手57、60、56及び62は図5に図示されており、57、60及び56は54中にも見ることができる。図5の分解図には、第一通路及び第二通路46、47の一部、ならびにねじ付き容器ネック54、及びアダプター43の下部にあるボード開口部55も図示されている。
【0035】
図6は、本発明のための流れ回路図である。可能な場合には必ず、図6に示されている要素は他の図でも同じ番号で示してある。図6に図示されている要素のほとんどは一般的に入手可能であり、よく理解されていることから、当業者は過度に実験を行うことなく図6に基づいて本発明を実行できるので、特に詳しくは説明しない。
【0036】
したがって、図6は、固相法によるペプチドの促進合成のための容器系を示している。容器系は、図6に概略的に正方形で示してある反応セル(又は容器)45を含む。反応セル45は、他の点では既に説明した特徴のすべてを有しており、このことは図6に関して繰り返して説明しない。第一通路46は、外部樹脂源36とセル45との間で固相樹脂を移動させるため、セル45と流体連絡している。3つの樹脂源36(A、B及びC)が図6に示してあり、図2に示した樹脂源36に対応している。図2で説明したように、樹脂源の数は決まっているものではなく選択できるものであり、図2の態様では12であり、図6では単純化及び概略化するために3つで示してある。樹脂源36の各々は、三方バルブ64、A、B及びCそれぞれと連絡し、次いで三方バルブは、適切な樹脂ライン65、A、B及びCと連絡し、更にそれらは、樹脂を第一通路46を通してセル45に送達するため、セル45に隣接する別の三方バルブ66と連絡している。三方バルブ66は、別の三方バルブ67と直接連絡している。その目的を以下で簡潔に説明する。
【0037】
図6には、第二通路47が示してあり、第二通路は、図6の上部に長方形として図示されているアミノ酸源35の少なくとも1つと連絡している。概略的に示してあるアミノ酸源又はコンテナー35は、図2に示したコンテナー35に対応している。
【0038】
第三通路50は、セル45への及びセル45からの制御された気体流れを用いて、流体及び流動固体をセルに添加したり、セルから取り出したりできるように、気体圧力をセル45に施用したり、気体圧力をセル45から気体圧力を放出したりするため、不活性気体源70及びベント71と気体連絡している。第三通路50は、その方向に依存して第三通路50を気体供給源70又はベント71のいずれかと連絡させることができる少なくとも1つのバルブ72と一緒になって前記作業を達成する。気体供給源は、適切に加圧でき、ペプチド合成の化学反応又は装置自体の要素の障害とならない任意の気体であることができる。したがって、多くの種類の不活性気体が適するが、広範な利用可能性、低コスト、使い易さ及び毒性が無いことから、典型的には、加圧窒素が好適である。図6は、窒素供給源70が、二方バルブ72及び適切なレギュレータ73によって(フィルターが含まれてもよい)制御されることを示している。図6の方向では、二方バルブ72からベント71への気体ラインは74で示してあり、バルブ72からレギュレータ73への通路は75で示してある。
【0039】
また、図6には、固相樹脂がセル45から第二通路に入ることを防ぐための、第二通路47中に存在するフィルターも図示してある。
更に、図6には、スプレーヘッド53とともに第四通路52も図示してある。図3に関して説明したように、第四通路52は、そのうちの3つは76,A,B及びCで示されている1つ以上の外部溶媒源と流体連絡している。2つの他の外部溶媒源77及び80は、任意に異なる流体の通路なので、別々に標識してある。
【0040】
図6は、組成物がペプチド、溶媒、廃棄物又は樹脂であるかどうかに関わらず所望であれば、気体供給源70からの加圧気体を用いて、反応セル45へと組成物を送達し、次いで、反応セル45から組成物を取り出すことができるやり方も説明している。したがって、そのような送達の1つの側面において、図6にはいくつかのアイテムと連絡している気体通路81が図示してある。第一に、気体通路81は、82A、B、C及びDで示されている一連の二方バルブと連絡し、二方バルブは各々、それぞれのバルブがその対応するアミノ酸コンテナー35に対して開放しているときに気体の通路を提供する。コンテナー35に入る加圧気体は、それぞれの送達ライン83A、B、C又はDを通してアミノ酸を押し流し、送達ライン83A、B、C又はDは、それぞれのアミノ酸バルブ84A、B、C及びDと連絡し、次いで、第二通路47ならびにそのそれぞれの二方バルブ85及び三方バルブ86と連絡している。説明するために、バルブ82A及び84Aが開き、残りのバルブ82B、C及びDが閉じると、供給源70からの気体は、気体通路81、バルブ82Aを通って、アミノ酸ボトル35Aへと向けることができ、ボトル35Aからバルブ84A、85及び86を通って、セル45へと向けることができる。
【0041】
それぞれのバルブは、合成の適切な時点においてセルに所望の組成物(例えば、樹脂、溶媒、酸など)を提供するため、ならびに他の適切な時点においてセルから組成物(ペプチド、廃棄物)を取り出すために、自動化されている。必要なプログラミング及びプロセッサ性能は、パーソナルコンピュータ型のプロセッサ(例えば、PENTIUM III(登録商標))の能力の範囲内で充分であり、自動化された制御及びシーケンスは当技術分野及び関連技術分野においてよく理解されている(例えば、Dorf,The Electrical Engineering Handbook,2d Ed.(CRC Press 1997))。
【0042】
多くの種類のアミノ酸が存在する一方、これに限定されないが、この装置の20の供給源コンテナーが意図され、当業者にとって周知であるタンパク質を合成するための20種の「必須」アミノ酸を含有することを理解すべきである。これらの商業的に入手可能な必須アミノ酸は、化学的に「保護された」形態で購入して(同様にSigma-Aldrichから)、望ましくない及び/又は有害な反応が起こるのを防ぐことができる。
【0043】
溶媒は、類似のやり方でセルに送達できる。溶媒は、バルブ87A、B及びC及び90及び91を介して気体通路81と連絡している。それにより、気体は、外部溶媒槽76A、B及びC及び77及び80と直接連絡している状態におかれる。外部溶媒槽76A、B及びCは、更に、それぞれ二方バルブ92A、B及びCと、それぞれ三方バルブ93及び94と連絡している。バルブを適切な方向に向けると、これらすべてにより、アミノ酸を送達するのと同じやり方で気体圧力を用いて溶媒を反応容器45に送達するための第二通路47へと導かれる。TFA溶媒は、外部リザーバ76Cで用いられるので、任意に単離するための代替的なラインを通して方向付けることができる。
【0044】
図6は、アミノ酸及び外部溶媒リザーバに対してすべてのバルブを閉じ、次いで気体を、レギュレータ及びフィルター92及びそれと関連している通路93を通して、直接バルブ67及び66に向け、次いで第一通路46及びセル45の中へと向けることにより、気体供給源70を用いて、直接セル45からアイテムを押し流すことができることを示している。
【0045】
別法として、第一通路46を用いてセル45を空にすることができる。この側面において、バルブ72は、気体を、気体供給源70から通路75を通してバルブ72へ、そして第三通路50を通してセルの中に向けるように設定される。次いで、気体圧力により、セル45中の流体を、バルブ86、66及び67の方向に依存して第二通路47又は第一通路46に通すように方向付ける。また図6は、図2に示してある生成物コンテナー37に対応する生成物コンテナー37A、B及びCへと生成物を向けることができる追加の三方バルブ95も図示してある。生成物バルブ96A、B及びCの適切なセットは、所望のペプチド生成物を所望の生成物コンテナー37A、B又はCへと方向付けることを望む場合に、開けるか又は閉じることができる。
【0046】
別法として、バルブ86、66、67及び95の方向に依存し、そして廃棄物コンテナー102A及び102Bに隣接する追加の二方バルブ100及び三方バルブ101と一緒になって、材料をセル45から廃棄物コンテナー102A及びBのいずれかへと方向付けることができる。
【0047】
また、気体供給源70からの加圧気体を用いて樹脂を送達することもできる。この側面において、加圧気体を気体通路81及び三方バルブ103及び104を通るように方向付ける。しかし樹脂の送達に関して、バルブ103及び104の両方が樹脂コンテナーに対して開放しており、それらのバルブにより、加圧気体は、樹脂コンテナー36、次いで出口バルブ64A、64B及び64Cに連絡している3つのそれぞれのバルブ105A、B及びCへと方向付けられ、出口バルブ64A、64B及び64Cは、送達される気体圧力を用いて、樹脂を樹脂ライン65を通して最終的に反応容器45の中に送達するための第一通路46へと押し流す。
【0048】
樹脂供給源は、これらに限定されないが、Wang樹脂、Trityl樹脂及びRink酸不安定樹脂などの量や種類を変動できる樹脂を含有してもよい;これらの樹脂はセントルイス、MO 63101にあるSigma-Aldrich Corp.などのベンダーから商業的に入手可能である。
【0049】
溶媒は、溶媒リザーバと樹脂コンテナーの間のバルブ103、104を用いて、外部リザーバ77、80から樹脂コンテナー36A、B、Cへと向けることができる。
図6Aは、反応器45に隣接するバルブ系に関する更に詳細な説明である。特に、図6Aは、一連の三方バルブ111、112、113、114及び115と共に、一連の液体センサー106、107及び110を示している。これらのセンサーにしたがってバルブを操作すると、望ましいか又は必要な場合に、計量された量の液体を反応容器45に添加することができる。例えば、図6Aの方向で示されているバルブ111、113及び114により、反応容器45の中に直接延びている第二通路47のそれらの部分に対して、流体をバルブ86から直接流すことができる。別法として、バルブ111がバルブ112の方へと開放している場合、流体は、液体センサー107及び110に達するまで、バルブ111及び112を通って流れる。液体センサーは適切な又は所望な量の液体が含まれている場合に系に通知し、バルブ112の操作を変更することにより、これらの液体を、望まされるようにバルブ113、次いでバルブ114、更に次いで第二通路47、そして最終的にセル45の中に送達することができる。
【0050】
したがって、全様式において、図6は、それぞれの供給源から単一の反応セルへの前駆体組成物(アミノ酸、溶媒、樹脂、脱保護剤、活性化剤)の送達を図示しており、更に、生成物及び副生物(ペプチド、廃棄物、切断された樹脂)の反応セルからそれぞれの行き先への送達を図示している。特定の流路及びバルブ配置は本発明を説明するが限定するものではないことが理解される。
【0051】
はじめに言及したように、合成装置のマイクロ波装置部分は、共通して譲渡された同時係属する多くの米国特許出願に記載されているものと実質的に同じであることができる。したがって、本願明細書中では過度に説明せずに、図7には装置のマイクロ波部分の一定の側面を強調するために含まれている。特に、図7は、先に援用された2002年6月26日に出願された出願番号第10/064261号の図1と実質的に同じである。図7は、破断図で示してあるマイクロ波キャビティ117を明確にするため示している。キャビティは導波管120にくっ付いており、導波管は適切な照射源(図示せず)とマイクロ波連絡している。マイクロ波源は広く入手可能であり、当業者には充分に理解されている。マイクロ波源としては、マグネトロン、クライストロン及び固体ダイオードが挙げられる。図7には、キャビティ117にある試験管形状のセル121が示してあり、このセルは所望であれば本発明の反応に用いることができるが、一般的には、洋ナシ形状の容器45が好ましい。
【0052】
同時冷却を実施するため、装置には、冷却気体をフローバルブ123(典型的にはソレノイド)上の入口管継手122へと送達する冷却気体源(図示せず)が含まれる。活性冷却の間、冷却気体は、典型的にはソフトウェアで制御されるソレノイド123により、配管124を介して冷却ノズル125へと向けられ、更に冷却ノズル125により反応容器121へと向けられる。
【0053】
しかしながら、他の冷却機構、例えば、冷却空気流、又はマイクロ波エネルギーの移動を妨害しないと考えられる様式で反応セル周囲に冷凍液を循環させる液体冷却機構などをこの方法に適合できることも指摘されるべきである。
【0054】
また、図7には、典型的には反応バイアル121の温度観察を可能にするために用いられる円筒形開口部126も図示してある。この温度観察は、対象物によって生成される赤外線放射を読み取ることにより対象物の温度を測定できる任意の適切なデバイスで実施することができる。このようなデバイスは、当技術分野において充分に理解されており、いくつかの側面は援用された参考文献中で既に考察されているので、本願明細書中では更に詳細には説明しない。
【0055】
好ましい態様において、マイクロ波源は、これに限定されないが、マイクロ波エネルギーを「スパイキング(spiking)」することができる。言い換えれば、マイクロ波源は、高出力を短時間発生することができ、これに限定されないが、反対に低出力を長時間発生することができる。この特徴は、反応容器の内容物を過熱する不所望な効果を防止するのに役立ち、また反応速度も増大させると考えられる。
【0056】
装置には、場合により、温度を測定するための赤外線光センサーが含まれる。赤外線センサーは、反応セルの内容物とは接触しないが、単に内容物周囲の空気温度ではなく、反応セルの内容物の平均温度を正確に測定する。赤外線温度分析は、高度に正確で、非侵襲的であり、局所的領域のみを測定し内容物との物理的接触が必要と考えられるプローブなどに比べて、より単純化された装置設計が可能である。
【0057】
第二通路は、更に、樹脂の通過を妨げるフィルターを有することを特徴とする。また、第一通路及び第二通路は、液体溶媒及び流動固体の移動に関して互いに流体連絡している;本明細書中において、「流動固体」とは、くっ付いているアミノ酸又はペプチドの有無に関わらす、適切な溶媒中に懸濁された樹脂を指している。
【0058】
別の側面において、本発明は、マイクロ波エネルギーの使用を含む、1つ以上のペプチドを固相合成する方法である。脱保護工程、活性化工程、カップリング工程及び切断工程中に反応セルの内容物に施用されるマイクロ波エネルギーにより、これらの反応を完了するのに要する時間が大いに短縮される。マイクロ波エネルギーを施用する方法は、最短の反応時間を提供しながら熱の蓄積量は少なくするようなやり方で、マイクロ波源により緩和することができるので、高いマイクロ波エネルギーを施用してもよく、熱に付随する反応セル内容物の分解は起こらない。この方法には、これに限定されないが、短時間に大量にマイクロ波エネルギーをスパイキングすることが含まれる。
【0059】
本方法には、場合により、単一の反応器における2種類以上のアミノ酸からなる最終的なペプチドの合成が含まれ、1種類以上のアミノ酸を、固相樹脂にくっ付いている1種類以上のアミノ酸にカップリングすることが含まれてもよい。
【0060】
本方法には、マイクロ波エネルギーの施用中及び施用と施用の間に、反応セル、したがってその内容物を冷却する工程が含まれ、そして最終の切断工程が含まれる。本方法の冷却機構は、アミノ酸の伸長サイクル中に行う。本願明細書で使用する「サイクル」という用語は、1つのアミノ酸を別のアミノ酸に結合させるのに必要な脱保護、活性化、及びカップリングを指している。また、冷却系は、所与のサイクルにおいてマイクロ波エネルギーの施用中及びマイクロ波エネルギーの施用と施用との間に動作させて、反応セルの内容物のバルク温度を低く保つこともできる。冷却系は、最終ペプチドを樹脂から切断するときに動作させることもできる。
【0061】
別法では、温度を厳密に制御するのではなく出力を制御することにより、反応の進行にわたって所望の制御を提供できることも発見した。本明細書中の他のところで言及したように、可変又は切換え電源の使用によりこの目的を果たすことができ、その例は共通して譲渡された米国特許第6,288,379号に与えられている;その内容は、本明細書中に全体と
して援用される。
【0062】
この方法には、溶媒及び遊離アミノ酸に対して、樹脂と樹脂にくっ付いているあらゆるアミノ酸又はペプチドとを最も効果的に暴露することを促進するため、窒素気体で反応セルの内容物を撹拌することが含まれる。
【0063】
好ましい態様において、この方法は、選択された樹脂に結合された第一の必須アミノ酸(どちらも適切な溶媒中に懸濁されている)を加圧された窒素気体によって反応セルへと移動させることを含む。次いで、脱保護溶液をポンプで反応セル中に送る。この方法は、マイクロ波エネルギーを施用することによって促進され、マイクロ波エネルギーにより発生する熱は、冷却機構によって最少限に抑えられる。多数の脱保護工程を行ってもよい。次いで、脱保護溶液を反応セルから抜き出し、樹脂に結合された脱保護必須アミノ酸を残留させる。各々適切な溶媒を用いて、約1樹脂体積の樹脂を数回(3?5回)洗浄し、洗浄溶媒を除去した後、次の「遊離」必須アミノ酸(一種又は複数種)(溶液中に溶解されている)を活性化溶液とともに反応セルに添加する。遊離アミノ酸の活性化は、マイクロ波エネルギーを施用することにより促進され、反応セル温度は、上記の冷却機構により制御される。この方法は、更に、方法を促進させるためにマイクロ波エネルギーを用いて、遊離アミノ酸(一種又は複数種)を脱保護された結合アミノ酸にカップリングさせ、ペプチドを形成させることを含む。上記のとおり、マイクロ波エネルギーにより発生する熱は冷却機構によって最少限に抑えられる。カップリング工程は、更に、反応セル内容物の窒素撹拌を含むことが好ましい。この工程の完了は、1回以上のアミノ酸添加の一サイクルで表される。カップリング工程の後、活性化溶液を抜き出し、樹脂を上記のとおり洗浄する。このサイクルを、所望のペプチド配列が合成されるまで繰り返す。ペプチド合成が完了したら、更なる脱保護工程を実施して、アミノ酸の側鎖にくっ付いている保護化学基を取り除くことができる。この脱保護工程は上記のとおりに実施する。次に、くっ付いている最終ペプチドを含有する樹脂を、第二の溶媒で上記のように洗浄して、ペプチドを樹脂から切断する準備をする。第二溶媒を除去したら、切断性溶液を反応セルに加え、マイクロ波エネルギーを施用することによって切断を促進し、マイクロ波エネルギーによって生じる熱は、冷却機構によって最少限に抑える。切断が完了したら、ペプチド生成物を生成物管に移す。場合により、ペプチドを、合成プロセス中の任意の時点で「キャップ」してもよい。キャップは、不完全にカップリングしたペプチドを終止させ、ペプチド配列の適切な折り畳みを助け、そして所与のペプチドに対して特異的な化学的な識別タグを提供するのに役立つ。しかし、これらの修飾により合成ペプチドの溶解度が低下するので、注意しなければならない。キャップは、例えば、限定するものではないが、固相合成において無水酢酸又はフルオラス(fluorous)によるキャップを用いるか又は、ビオチンなどの多様な化学基のいずれかをペプチドのN-末端、C-末端又は側鎖のいずれかにくっ付けることにより実施する。
【0064】
別の態様において、本発明は、保護第一化学基を除去することにより、固相樹脂に結合された第一アミノ酸を脱保護し、第二アミノ酸上の化学基を活性化させて、第一アミノ酸とカップリングさせるため第二アミノ酸を調製し、活性化された第二アミノ酸を脱保護された第一アミノ酸にカップリングさせて、第一アミノ酸及び第二アミノ酸からペプチドを形成し、ペプチドを固相樹脂から切断し、マイクロ波エネルギーを施用して、脱保護、活性化及びカップリングのサイクルを促進させ、そしてマイクロ波エネルギーを施用して切断工程を促進させる工程を含む。
【0065】
もちろん、多数のアミノ酸を互いに添加してペプチド配列を形成することは通常の手順である。したがって、この方法は、通常は、脱保護、活性化及びカップリングのサイクルを繰り返して、第三アミノ酸及び連続するアミノ酸を添加して、所望の配列からなるペプチドを形成する工程を含むことができる。
【0066】
この点において、本明細書中に用いられる「第一」、「第二」又は「第三」という用語は、絶対的な意味ではなく、相対的な意味で用いていることが理解される。
特に好ましい態様において、本方法は、サイクルとサイクルとの間に、固相樹脂からペプチドを取り出すことなく、単一の容器において複数のアミノ酸を連続的に脱保護し、活性化し、そしてカップリングさせてペプチドにすることを含む。本発明のこの側面及び追加の側面は、図に関する考察によって理解される。
【0067】
別の態様において、本方法は、マイクロ波エネルギーの施用中に容器とその内容物とを未然に冷却して、それにより、マイクロ波エネルギーの施用に起因するであろう熱の蓄積を制限することによりペプチド又は酸の不所望な分解を防ぐことを含む。
【0068】
ペプチド合成においては典型的であるように、脱保護工程は、アミノ酸のα-アミノ基を脱保護することを含むが、また、マイクロ波及び放射線のいずれの存在下においても、ペプチドのアミノ酸上の側鎖を脱保護することを含むこともできる。同様に、活性化工程は、典型的には第二アミノ酸のα-カルボキシル基を活性化させることを含む。
【0069】
アミノ酸及びペプチドは過剰な熱に敏感であるので、上記の未然の冷却工程に加えて、マイクロ波エネルギーを施用する工程は、マイクロ波エネルギーの施用を比較的短い時間間隔に「スパイキング」し、それにより、マイクロ波エネルギーの連続施用によって促進され得る熱の蓄積を制限して、ペプチド酸の不所望な分解を防ぐことを含むことができる。本明細書中で用いる「スパイキング」という用語は、マイクロ波エネルギーの施用を、比較的短い時間間隔に制限することを指している。別法として、マイクロ波出力は、共通して譲渡された米国特許第6,288,379号(その内容は参照により本明細書中に全体として援用される)に記載されている切換え電源から供給することができる。
【0070】
他の態様において、ペプチド合成法は、カルボジイミド型のカップリングフリー薬剤(coupling free agent)を用いてin situで活性化及びカップリングさせることを含むことができる。
【0071】
別の側面において、本発明はペプチドの固相合成を促進するための方法である。この側面において、本方法は、マイクロ波透過性容器において保護結合酸を脱保護性溶液と混合しながら、混合された酸及び溶液にマイクロ波を照射し、混合物を冷却して(または別法では、施用される出力を制御して、あるいはこれら両方により)、マイクロ波エネルギーかの熱の蓄積により固相支持体又は混合組成物のうちいずれかが分解しないよう防ぐことにより、固相樹脂に結合された保護第一アミノ酸を脱保護することを含む。特に、本方法はアミノ酸のα-アミノ基を脱保護すること、最も典型的には、fmoc及びbocからなる群から選択される保護化学物質を除去するのに適する組成物により脱保護することを含む。脱保護の化学に精通している当業者にとっては既知であるように、脱保護工程は、アミノ酸の側鎖を脱保護することを含むこともできる。それらの環境において、脱保護工程は、t-ブチルをベースとする側鎖保護基を除去するのに適する組成物を用いることを含む。
【0072】
脱保護工程の後、本方法は、この第二アミノ酸及び活性化溶液を同じ容器に添加しながら、この容器にマイクロ波を照射し、同時にこの容器を冷却して、マイクロ波エネルギーからの熱の蓄積により固相支持体又は混合組成物のうちのいずれかが分解するのを防ぐことにより、第二アミノ酸を活性化させる工程を含む。
【0073】
次に、本方法は、第二アミノ酸を第一アミノ酸にカップリングさせながら、同一容器においてその組成物にマイクロ波を照射し、混合物を冷却して、マイクロ波エネルギーからの熱の蓄積により固相支持体又は混合組成物のうちいずれかが分解するのを防ぐことを含む。
【0074】
最後に、本方法は、結合されたペプチドを同一容器において切断性組成物と混合しながら、この組成物にマイクロ波を照射し、この容器を冷却して、マイクロ波エネルギーからの熱の蓄積により固相支持体又はペプチドが分解するのを防ぐことにより、結合ペプチドを固相樹脂から切断することを含む。
【0075】
また、活性化工程は、in situ活性化法と、ホスホリウム又はウラニウム活性剤、HATU、HBTU、PyBOP,PyAOP及びHOBTなどの組成物とを用いて、第二アミノ酸を活性化させ且つカップリングさせることを含むこともできる。
【0076】
また、ペプチドの合成には殆ど常に、3つ以上のアミノ酸を鎖中に添加することが含まれるので、本方法は、連続して3つ以上のアミノ酸に関して脱保護工程、活性化工程及びカップリング工程を周期的に繰り返し、それにより、所望のペプチドを合成することを含むことができる。
【0077】
本発明の特定の態様においては、サイクルとサイクルの間に固相樹脂又は容器からペプチドを取り出すことなく、単一の反応容器中で脱保護、活性化、カップリング及びプリーディング(pleading)の連続工程を実施する。
【0078】
本方法は、混合物を、好ましくは脱保護工程、活性化工程、カップリング工程及びプリーディング工程の1つ以上の工程中に窒素ガスとともに、撹拌する工程を更に含むことができる。合成化学、すなわちペプチド又はアミノ酸に干渉しないという条件で、撹拌に関して任意の気体を用いることができるが、その広い入手可能性、低コスト及び特定の反応に関して化学的に不活性であるので、典型的にはこの目的には窒素が好ましい。
実験:
ペプチド:Asn-Gly-Val
-MW=288
規模=0.10mmol
用いた樹脂=Fmoc-Val-Wang樹脂
樹脂置換=樹脂1gあたり0.27×10^(-3)モル
マイクロ波プロトコル:
このペプチドにおけるすべての反応に関して、マイクロ波出力は、はじめに50Wに設定し、次いで60℃未満の温度に保たれるように調節した。
【0079】
脱保護:DMF中20%ピペリジン溶液を脱保護に用いた。反応はそのマイクロ波中で30秒間行い、次いでマイクロ波中で1:00分間新しい脱保護溶液を用いて繰り返した。
【0080】
カップリング:合成における各々カップリングのために、HCTUを0.40mmol、DIPEAを0.80mmol及び各々のFmoc-アミノ酸を0.40mmol用いて活性化を行った。約10mLのDMFを用いてその混合物を溶解させた。反応はマイクロ波中において5:00分間行った。
【0081】
洗浄:容器に約10mLのDMFを充填し、脱保護工程及びカップリング工程それぞれの後に5回すすいだ。
切断:切断は、95%TFA及び5%H_(2)Oを用いて90:00分間行った。
【0082】
ペプチドは、冷エチルエーテル50mL中で一晩沈殿させた。生成物を収集し乾燥させた。Thermo Finnigan Advantage LC/MSを用いるエレクトロスプレーイオン化質量分析によって、粗生成物に関する質量スペクトルを得た。
【0083】
結果:エレクトロスプレーイオン化質量分析(図8)は、Asn-Gly-Valの分子量に対応する289.1で単一ピークを示した。不完全なカップリングに対応する他のピークは認められなかった。
ペプチド:Gly-Asn-Ile-Tyr-Asp-Ile-Ala-Ala-Gln-Val
-MW=1062
規模=0.25mmol
用いた樹脂=Fmoc-Val-Wang樹脂
樹脂置換=樹脂1gあたり0.27×10^(-3)モル
マイクロ波プロトコル:
このペプチドは、出力時間制御法によって合成した。
【0084】
脱保護:DMF中20%ピペリジン溶液を脱保護に用いた。脱保護は、25Wのマイクロ波出力中で30秒間行い、次いでそのマイクロ波中で1:00分間新しい脱保護溶液を用いて繰り返した。
【0085】
カップリング:合成における各々のカップリングのために、HBTU/HOBtをそれぞれ0.9/1.0mmol、DIPEAを2mmol及びFmoc-アミノ酸を1.0mmol用いて活性化を行った。DMFを約15mL用いてその混合物を溶解させた。カップリング反応は、15秒間オン及び45秒間オフを交互に繰り返す出力でマイクロ波中において5:00分間行った。出力の第一サイクルは25Wであり、残りの4サイクルは各々20Wであった。
【0086】
洗浄:反応器にDMFを約15mL充填し、脱保護工程及びカップリング工程各々の後5回すすいだ。
切断:切断は、95%TFA、2.5%H_(2)O及び2.5%TISを用いて行った。
【0087】
ペプチドは、冷エチルエーテル100mL中で一晩沈殿させた。生成物を集め乾燥させた。Thermo Finnigan Advantage LC/MSを用いるエレクトロスプレーイオン化質量分析によって、粗生成物に関する質量スペクトルを得た。
【0088】
結果:エレクトロスプレーイオン化質量分析(図9)は、所望のペプチド質量に対応する1063.3において単一ピークを示している。不完全なカップリングに対応するピークは検出されなかった。第二のピークは、余分なIleアミノ酸を有する所望のペプチドに対応する1176.5において得られた。このピークは、複数のIleカップリング反応のうち1つの反応の前において脱保護溶液の除去が不完全であって、それにより2つのIleアミノ酸がペプチドに付加されていることに対応している。
【0089】
図面及び明細書では、本発明の典型的な態様を開示した。特定の用語の使用は、説明のためにのみ用いており、それらの用語は、特許請求の範囲に記載してある本発明の範囲を限定することを意図していない。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】図1は、固相ペプチド合成の一の側面を図示する概略図である
【図2】図2は、本発明にしたがった合成装置の斜視図である。
【図3】図3は、本発明にしたがった反応容器及びアダプターの斜視図である。
【図4】図4は、本発明にしたがった反応容器及びアダプターの斜視図である。
【図5】図5は、本発明にしたがった反応容器及びアダプターの斜視図である。
【図6】図6は、本発明の側面を図示する流れ回路図である。
【図7】図7は、本発明のキャビティ及び導波管の破断斜視図である。
【図8】図8は、本発明の方法にしたがって合成された一のペプチドの質量スペクト
ルである。
【図9】図9は、本発明の方法にしたがって合成された第二のペプチドの質量スペクトルである。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペプチドの固相合成を促進する方法であって:
Na-9-フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)及びNa-t-ブトキシカルボニル(Boc)からなる群から選択された組成物で保護され、固相樹脂粒子に結合された第一アミノ酸のα-アミノ基を、マイクロ波透過性容器において該保護され結合されたアミノ酸を脱保護性溶液と混合し、該混合したアミノ酸及び溶液にマイクロ波を照射することにより、脱保護する工程;
第二アミノ酸及び活性化溶液を該同一容器に添加し、該第二アミノ酸を活性化させる工程;
該同一容器中の組成物にマイクロ波を照射しながら、該第二アミノ酸を該第一アミノ酸にカップリングさせる工程;及び
サイクルとサイクルとの間に該同一のマイクロ波透過性容器からペプチドを取り出すことなく、該同一の容器において連続的に前記脱保護工程、活性化工程、およびカップリング工程を行い、複数のアミノ酸をカップリングしてペプチドを形成する工程、
を含む方法。
【請求項2】
脱保護工程、活性化工程、カップリング工程及び切断工程の任意の1つ以上の工程の間に容器を冷却して、マイクロ波エネルギーからの熱の蓄積により固相支持体又はペプチドが分解するのを防ぐ工程を含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項3】
3つ以上のアミノ酸に関して脱保護工程、活性化工程及びカップリング工程を連続して周期的に繰り返すことにより、所望のペプチドを合成することを含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項4】
複数の周期の間にペプチドを固相樹脂から又は容器から取り出すことなく、連続する脱保護工程、活性化工程、カップリング工程及び切断工程を単一反応器において実施することを含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項5】
更に、脱保護工程、活性化工程、カップリング工程及び切断工程の1つ以上の工程の間に、混合物を窒素気体により撹拌する工程を含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項6】
アミノ酸の側鎖を脱保護することを含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項7】
該アミノ酸の該側鎖を、t-ブチルをベースとする側鎖保護基を除去するのに適する組成物で脱保護することを含む、請求項6記載のペプチド合成方法。
【請求項8】
更に、カルボジイミド型のカップリング試薬を用いて、第二アミノ酸をin situで活性化させカップリングさせることを含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項9】
該同一容器内の組成物にマイクロ波を照射しながら第一アミノ酸に第二アミノ酸をカップリングさせる、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項10】
固相樹脂に結合されたペプチドを、該同一容器において切断性組成物と混合し、該組成物にマイクロ波を照射しながら、該結合ペプチドを該固相樹脂から切断する工程を含む、請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項11】
更に、トリフルオロ酢酸から成り、保護基及びリンカーから生ずる反応性カルボニウムイオンを消失させるための複数の掃去剤を含有する切断性組成物を用いることを含む、請求項10記載のペプチド合成方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2013-08-27 
結審通知日 2013-08-30 
審決日 2013-09-10 
出願番号 特願2004-184604(P2004-184604)
審決分類 P 1 113・ 121- ZDA (C07K)
最終処分 一部成立  
前審関与審査官 名和 大輔  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 鈴木 恵理子
田中 晴絵
登録日 2011-07-01 
登録番号 特許第4773695号(P4773695)
発明の名称 マイクロ波利用のペプチド合成  
代理人 内山 泉  
代理人 森田 俊雄  
代理人 深見 久郎  
代理人 寺地 拓己  
代理人 仲村 義平  
代理人 中田 尚志  
代理人 寺地 拓己  
代理人 中田 尚志  
  • この表をプリントする

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ