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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  C04B
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C04B
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  C04B
管理番号 1301818
審判番号 無効2010-800137  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2010-08-04 
確定日 2015-04-27 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第3830342号「誘電体磁器及びこれを用いた誘電体共振器」の特許無効審判事件についてされた平成25年10月25日付け審決に対し、知的財産高等裁判所において審決取消の判決(平成25年(行ケ)第10324号 平成26年9月25日判決言渡)があったので、さらに審理のうえ、次のとおり審決する。 
結論 訂正を認める。 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 理 由
第1 手続の経緯
本件特許第3830342号についての手続の概要は、以下のとおりである。
平成12年 6月26日 優先権主張基礎出願
同年 9月18日 特許出願
平成18年 7月21日 特許権の設定登録
平成22年 8月 4日 特許無効審判の請求
同年10月25日 答弁書提出
平成23年 2月 9日 請求人口頭審理陳述要領書提出
同年 2月10日 被請求人口頭審理陳述要領書提出
同年 2月23日 口頭審理
同年 3月 9日 請求人上申書提出
同年 3月 9日 被請求人上申書提出
同年 3月23日 被請求人上申書提出
同年 3月29日 請求人上申書提出
同年 5月27日 一次審決(請求成立)
同年 7月 5日 審決取消訴訟(H23(行ケ)10210)提訴
同年 9月30日 訂正審判(訂正2011-390113)の請求
同年11月11日 審決取消訴訟差戻し決定
同年11月15日 訂正請求のための期間指定通知
同年12月 1日 被請求人上申書提出
平成24年 1月11日 弁駁書提出
同年 2月16日 被請求人上申書提出
同年 4月18日 二次審決(訂正認容、請求不成立)
同年 5月22日 審決取消訴訟(H24(行ケ)10180)提訴
平成25年 7月17日 審決取消
同年 8月21日 被請求人上申書提出
同年 9月26日 請求人上申書提出
同年 9月30日 被請求人上申書提出
同年10月25日 三次審決(訂正認容、請求成立)
同年12月 3日 審決取消訴訟(H25(行ケ)10324)提訴
平成26年 9月25日 審決取消

第2 訂正請求について
1 訂正の内容
被請求人が行った平成23年9月30日付け訂正審判請求(訂正2011-390113)は、平成23年法律第63号改正附則第2条第18項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下、「旧特許法」という。)第134条の3第5項の規定により、その訂正審判の請求書に添付された訂正明細書を同条第3項の規定により援用した同条第1項の訂正請求がされたものとみなされるから、その請求の趣旨は、「特許第3830342号の明細書を訂正審判請求書に添付した訂正明細書のとおり訂正すること求める。」ことであり、その訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は以下のとおりである(訂正に係る箇所に下線を付した。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲【請求項1】を、以下のとおり訂正する。
【訂正前】
「金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、
組成式をaLn_(2)O_(x)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)(但し、3≦x≦4)と表したときa、b、c、dが、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦C≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足し、結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり、前記A1の酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相として存在するとともに、前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を1/100000?3体積%含有することを特徴とする誘電体磁器。」
【訂正後】
「金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、
組成式をaLn_(2)O_(x)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)(但し、3≦x≦4)と表したときa、b、c、dが、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足し、結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり、前記A1の酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相として存在するとともに、前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を1/100000?3体積%含有し、1GHzでのQ値に換算した時のQ値が40000以上であることを特徴とする誘電体磁器。」

(2)訂正事項2
明細書段落【0009】に
「【課題を解決するための手段】
本発明の誘電体磁器は、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、
組成式をaLn_(2)O_(x)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)(但し、3≦x≦4)と表したときa、b、c、dが、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足し、結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相として存在するとともに、前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を1/100000?3体積%含有することを特徴とする。」とあるのを、
「【課題を解決するための手段】
本発明の誘電体磁器は、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、
組成式をaLn_(2)O_(x)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)(但し、3≦x≦4)と表したときa、b、c、dが、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足し、結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相として存在するとともに、前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を1/100000?3体積%含有し、1GHzでのQ値に換算した時のQ値が40000以上であることを特徴とする。」と訂正する。

(3)訂正事項3
明細書段落【0019】に
「本発明における誘電体磁器とは、未焼結体を成形し、焼成して得られる焼結体のことを意味している。そして、Q値を高くするためには、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaまたは/およびSr)、及びTiを含有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相として存在することが重要である。」とあるのを、
「本発明における誘電体磁器とは、未焼結体を成形し、焼成して得られる焼結体のことを意味している。そして、Q値を高くするためには、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaまたは/およびSr)、及びTiを含有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相として存在することが重要である。」と訂正する。

(4)訂正事項4
明細書段落【0028】に
「さらに、本発明における誘電体磁器は、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、組成式を
aLn_(2)O_(x)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)(但し、3≦x≦4)
と表したときa、b、c、dが、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足することが重要である。」とあるのを、
「さらに、本発明における誘電体磁器は、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、
組成式を
aLn_(2)O_(x)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)(但し、3≦x≦4)
と表したときa、b、c、dが、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足することが重要である。」と訂正する。

(5)訂正事項5
明細書段落【0049】に
「本発明の誘電体磁器の製造方法としては、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaまたは/およびSr)、及びTiを含有する成形体を1630?1680℃で5?10時間焼成した後、1630?1300℃を310?500℃/時間で降温し、さらに1300?1100℃を5?100℃/時間で降温し、さらにまた1100?1050℃で20時間以上保持する工程を含むことを特徴とする。この製造方法を用いることにより、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)が生成してQ値を高くすることができる。また、上述の本発明の製造方法により、稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなる結晶のうち、結晶系が六方晶および/または斜方晶である結晶を80体積%以上とすることができ、その結果Q値を向上させることができる。」とあるのを、
「本発明の誘電体磁器の製造方法としては、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaまたは/およびSr)、及びTiを含有する成形体を1630?1680℃で5?10時間焼成した後、1630?1300℃を310?500℃/時間で降温し、さらに1300?1100℃を5?100℃/時間で降温し、さらにまた1100?1050℃で20時間以上保持する工程を含むことを特徴とする。この製造方法を用いることにより、β-Al_(2)O_(3)、および/またはθ-Al_(2)O_(3)が生成してQ値を高くすることができる。また、上述の本発明の製造方法により、稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなる結晶のうち、結晶系が六方晶および/または斜方晶である結晶を80体積%以上とすることができ、その結果Q値を向上させることができる。」と訂正する。

(6)訂正事項6
明細書段落【0078】に
「表1?3から明らかなように、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)が存在する本発明の範囲内のN0.1?48は、比誘電率εrが30?48、1GHzに換算した時のQ値が40000以上、特にεrが40以上の場合のQ値が45000以上と高く、τfが±30(ppm/℃)以内の優れた誘電特性が得られた。」とあるのを、
「表1?3から明らかなように、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)が存在する本発明の範囲内のNo.1、22、27、29?48は、比誘電率εrが30?48、1GHzに換算した時のQ値が40000以上、特にεrが40以上の場合のQ値が45000以上と高く、τfが±30(ppm/℃)以内の優れた誘電特性が得られた。」と訂正する。

(7)訂正事項7
明細書段落【0080】【表1】において、「試料No.」の欄の2?26、28の前に「*」を追加する。

(8)訂正事項8
明細書段落【0081】【表2】において、「試料No.」の欄の2?26、28の前に「*」を追加する。

(9)訂正事項9
明細書段落【0082】【表3】において、「試料No.」の欄の2?26、28の前に「*」を追加する。

(10)訂正事項10
明細書段落【0083】に
「【発明の効果】
本発明において、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相として存在することにより、高周波領域において高い比誘電率εr及び高いQ値を得ることができる。これにより、マイクロ波やミリ波領域において使用される共振器用材料やMIC用誘電体基板材料、誘電体導波路、誘電体アンテナ、その他の各種電子部品等に適用することができる。」とあるのを、
「【発明の効果】
本発明において、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相として存在することにより、高周波領域において高い比誘電率εr及び高いQ値を得ることができる。これにより、マイクロ波やミリ波領域において使用される共振器用材料やMIC用誘電体基板材料、誘電体導波路、誘電体アンテナ、その他の各種電子部品等に適用することができる。」と訂正する。

(11)訂正事項11
明細書段落【0077】に
「これらの結果を表1?3に示す。なお、表1において例えば稀土類元素の比率が0.1Y・0.9Laの試料はYとNdのモル比が0.1:0.9であることを表す。」とあるのを、
「これらの結果を表1?3に示す。なお、表1において例えば稀土類元素の比率が0.1Y・0.9Laの試料はYとLaのモル比が0.1:0.9であることを表す。」と訂正する。

2 訂正の適否についての当審の判断
(1)訂正事項1について
ア 訂正事項1のうち、稀土類元素(Ln)をLaを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するものとする訂正は、訂正前の稀土類元素について、Laをモル比で90%以上含有する旨の限定を加えたものであって、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、この訂正は、訂正前の明細書段落【0048】の「さらにQ値を高くするためには稀土類元素はLa、Nd、Smのうち少なくとも1種以上からなることが特に望ましい。本発明においてQ値を高くするためには稀土類元素のうちLaが最も好ましい。」との記載、段落【0077】の「これらの結果を表1?3に示す。なお、表1において例えば稀土類元素の比率が0.1Y・0.9Laの試料はYとNdのモル比が0.1:0.9であることを表す。」との記載(審決注:「Nd」は「La」の明らかな誤記と認められる。)及び【表1】の試料No.1、27、29?48の記載に基づくものであるから、訂正前の明細書又は図面に記載された事項の範囲内において行うものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでない。

イ 訂正事項1のうち、1GHzでのQ値に換算した時のQ値が40000以上であることを規定する訂正は、本発明の誘電体磁器をQ値、すなわち共振の先鋭度という特性によって限定するものであり、特許請求の範囲の減縮を目的とする。
そして、この訂正は、訂正前の明細書段落【0008】の「その目的は、比誘電率εrが30?48の範囲内においてQ値40000以上」との記載、段落【0067】の「円柱共振器法により測定周波数3.5?4.5GHzで比誘電率εr、Q値、共振周波数の温度係数τfを測定した。Q値は、マイクロ波誘電体において一般に成立する(Q値)×(測定周波数f)=(一定)の関係から、1GHzでのQ値に換算した。」との記載、段落【0078】の「表1?3から明らかなように、β-Al_(2)O_(3)および/またはβ-Al_(2)O_(3)が存在する本発明の範囲内のNo.1?48は、比誘電率εrが30?48、1GHzに換算した時のQ値が40000以上」との記載、及び【表1】?【表3】の試料No.1、27、29?48の記載に基づくものであるから、訂正前の明細書又は図面に記載された事項の範囲内において行うものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでない。

(2)訂正事項2?10について
訂正事項2?10は、訂正事項1に伴い、明細書の発明の詳細な説明の記載を特許請求の範囲の記載と整合させるものであるから、明りょうでない記載の釈明を目的とするものであって、訂正前の明細書又は図面に記載された事項の範囲内において行うものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでない。

(3)訂正事項11について
訂正事項11は、NdをLaと訂正するものであるが、訂正前の明細書段落【0077】の「0.1Y・0.9Laの試料はYとNdのモル比が0.1:0.9であることを表す。」との記載から、「YとNdのモル比」が、「YとLaのモル比」の誤記であることは明らかであるから、誤記の訂正を目的とするものであって、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された事項の範囲内において行うものであり、かつ実質上特許請求の範囲を拡張または変更するものでない。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許請求の範囲の減縮、誤記の訂正及び明りょうでない記載の釈明を目的とするものに該当し、願書に添付された明細書又は図面(誤記の訂正を目的とする訂正の場合にあっては、願書に最初に添付した明細書又は図面)に記載した事項の範囲内においてしたものであり、かつ、実質上特許請求の範囲を拡張又は変更するものでない。
よって、本件訂正は、旧特許法第134条の2第1項ただし書き、及び、同条第5項において準用する同法第126条第3、4項の規定に適合するので適法な訂正と認める。

第3 本件発明
以上のとおり本件訂正が認められるので、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明は、以下のとおりのものである(以下、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?5に係る発明をそれぞれ「本件発明1」?「本件発明5」といい、これらをまとめて「本件発明」という。また、訂正請求書に添付された訂正明細書を「本件明細書」という。)

「【請求項1】
金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、
組成式をaLn_(2)O_(x)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)(但し、3≦x≦4)と表したときa、b、c、dが、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足し、結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)、の結晶相として存在するとともに、前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を1/100000?3体積%含有し、1GHzでのQ値に換算した時のQ値が40000以上であることを特徴とする誘電体磁器。
【請求項2】
金属元素としてMn、WおよびTaのうち少なくとも1種を合計でMnO_(2)、WO_(3)およびTa_(2)O_(5)換算で合計0.01?3重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器。
【請求項3】
前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を1/5000?0.5体積%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体磁器。
【請求項4】
前記β-Al_(2)O_(3)およびθ-Al_(2)O_(3)の平均結晶粒径は、0.1?40μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の誘電体磁器。
【請求項5】
一対の入出力端子間に請求項1乃至4のいずれかに記載の誘電体磁器を配置してなり、電磁界結合により作動するようにしたことを特徴とする誘電体共振器。」

第4 請求人の主張する無効理由及び証拠方法
請求人は、特許第3830342号の請求項1乃至5に係る発明についての特許を無効とする、審判請求費用は被請求人の負担とする、との審決を求め、証拠方法として、下記甲第1号証?甲第37号証を提出し、「第1 手続の経緯」で記載した各提出文書、手続において、以下の無効理由1?3により無効にすべきものである旨主張している。
なお、訂正前の特許請求の範囲の請求項1?5は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1?5にそれぞれ対応するから、無効理由1?3の対象となる請求項には変更がない。
また、甲各号証は以下の書面に添付されて提出された。
無効審判請求書(平成22年8月4日) :甲第1?16号証
口頭審理陳述要領書(平成23年2月9日):甲第17?23号証
上申書(平成23年3月9日) :甲第24?30号証
弁駁書(平成24年1月11日) :甲第31?37号証
上申書(平成25年9月26日) :甲第38?43号証

無効理由1:
本件の請求項1?5に係る発明は、その優先日前に日本国内において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項の規定に違反するから、本件請求項1?5に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

無効理由2:
本件の請求項1?5に係る発明は、その優先日前に日本国内において頒布された下記の甲第1号証に記載された発明と甲第5号証?甲第13号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定に違反するから、本件請求項1?5に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第2号の規定により無効とすべきである。

無効理由3:
本件請求項1、3に記載のβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を所定体積%含有することによる技術的意義が不明であることから、本件請求項1、3及び同項を引用した本件請求項2、4、5の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではなく、特許法第36条第6項第2号の規定に違反する。よって、本件請求項1?5に係る発明についての特許は、特許法第123条第1項第4号の規定により無効とすべきである。

(証拠方法)
○甲第1号証:特開平6-76633号公報
○甲第2号証:特許・実用新案審査基準、第II部、第2章、1、11?12、24?25、32?35頁
○甲第3号証:実験依頼書(平成22年5月11日付け)
○甲第4号証:依頼実験報告書(平成22年7月28日付け)
○甲第5号証:ソ連邦特許第590299号(明細書公開日:1978年2月21日)(甲第4号証における参考文献1)
○甲第6号証:Japanese Journal of Applied Physics, 1998, Vol.37, p.5625-5629(甲第4号証における参考文献2)
○甲第7号証:Japanese Journal of Applied Physics, 1999, Vol.38, p.6821-6826(甲第4号証における参考文献3)
○甲第8号証:Materials Research Bulletin, 1999, Vol.34, No.4, p.511-516(甲第4号証における参考文献4)
○甲第9号証:JCPDSカード、No.31-22、No.22-153(甲第4号証における参考文献5)
○甲第10号証:Journal of the American Ceramic Society, 1993, Vol.76, No.9, p.2359-2362(甲第4号証における参考文献6)
○甲第11号証: Materials Research Bulletin, 1999, Vol.34, Nos.10/11, p.1577-1582(甲第4号証における参考文献7)
○甲第12号証:Ernest M. Levin, Carl R. Robbins, Howard F. McMurdie, 「PHASE DIAGRAMS FOR CERAMISTS VOLUME II」, The American Ceramic Society, 1985, p.95(甲第4号証における参考文献8)
○甲第13号証:加藤悦朗、中重治、野田稲吉著、「無機材料化学-I」、株式会社コロナ社、昭和56年11月20日、74?75頁(甲第4号証における参考文献9)
○甲第14号証:特開平4-212405号公報
○甲第15号証:特開平5-85813号公報
○甲第16号証:特開平5-213662号公報
○甲第17号証:回答書(平成23年1月26日付け)
○甲第18号証:JlSハンドブック(35)セラミックス、日本規格協会、2005年6月28日、429?436頁、「マイクロ波用ファインセラミックスの誘電特性の試験方法 R1627 -1996 確認 2001」(甲第17号証における添付資料1)
○甲第19号証:JFCCホームページの「マイクロ波帯における複素誘電率測定用標準物質(ER-ZST)」に関するカタログページ(甲第17号証における添付資料2)
○甲第20号証:JISハンドブック(57)品質管理、日本規格協会、2007年7月23日、1127?1150頁、「データの統計的な解釈方法 Z9041-1:1999 確認 2005」(甲第17号証における添付資料3)
○甲第21号証:特開平11-130544号公報
○甲第22号証:特開平6-144927号公報
○甲第23号証:特開平6-199567号公報
○甲第24号証:報告書「第二相結晶の回折像の同定について」(2011年3月3日付け)
○甲第25号証:JCPDSカード、No.10-414(Al_(2)O_(3))(甲第24号証における添付資料A)
○甲第26号証:堀内繁雄、弘津禎彦、朝倉健太郎編、「電子顕微鏡Q&A」、株式会社アグネ承風社、1996年12月15日、104頁、272頁(甲第24号証における添付資料B)
○甲第27号証:THEO HAHN,「INTERNATIONAL TABLES FOR CRYSTALLOGRAPHY Volume A」,SPRINGER, Reprinted with corrections 2005, p.600-601(甲第24号証における添付資料C)
○甲第28号証:Robert S. Roth, Taki Negas, Lawrence P. Cook,「PHASE DIAGRAMS FOR CERAMISTS VOLUME V」, The American Ceramic Society, 1983, p.155-156
○甲第29号証:Anna E. McHale, Robert S. Roth,「PHASE EQUILIBRIA DIAGRAMS Volume XII」, The American Ceramic Society, 1996, p.198,200-201
○甲第30号証:Ernst M. Levin, Carl R. Robbins, Howard F. McMurdie,「PHASE DIAGRAMS FOR CERAMISTS VOLUME I」, The American Ceramic Society, FIFTH PRINTING 1985, p.21-24
○甲第31号証:知財高裁平成18年(行ケ)第10208号判決
○甲第32号証:知財高裁平成21年(行ケ)第10434号判決
○甲第33号証:特許・実用新案審査基準、第1部、第1章、1?26頁
○甲第34号証:報告書「試料No.35の第二相結晶の回折像の同定について」
○甲第35号証:実験成績証明書(平成24年1月6日付け)
○甲第36号証:「誘電体円柱試料のマイクロ波測定用ソフト」のカタログ(サムテック有限会社)
○甲第37号証:特開平7-57537号公報
○甲第38号証:平成23年(行ケ)10210号 の原告準備書面(1)(被請求人提出 平成23年9月7日付け)
○甲第39号証:平成24年(行ケ)10180号 の被告第2準備書面(被請求人提出 平成25年2月12日付け)
○甲第40号証:平成24年(行ケ)10180号 の原告準備書面(3)(被請求人提出 平成25年2月25日付け)
○甲第41号証:実験報告書(平成24年11月26日付け)
○甲第42号証:Journal of the European Ceramic Society, 2003, Vol. 23, p.1391-1400
○甲第43号証:Journal of the American Ceramic Society, 2007, Vol. 90, No.12 p.3947-3952

第5 被請求人の反論及び証拠方法
被請求人は、「第1 手続の経緯」で記載した各提出文書、手続において、本願発明1?5についての特許に無効理由は存在しない、と反論し、下記乙第1号証?乙第16号証を提示している。
また、乙各号証、参考資料は以下の提出物に添付されて提出された。
答弁書(平成22年10月25日) :乙第1号証
口頭審理陳述要領書(平成23年2月9日):乙第2?8号証
上申書(平成23年3月9日) :乙第9?11号証
上申書(平成23年3月23日) :乙第12号証
訂正請求書(平成23年9月30日) :参考資料1?17
上申書(平成23年12月1日) :乙第13?14号証
上申書(平成24年2月16日) :乙第15?16号証

(証拠方法)
○乙第1号証:加藤悦朗、中重治、野田稲吉著、「無機材料化学-I」、株式会社コロナ社、昭和53年9月15日、59?91、195?203頁
○乙第2号証:Materials Research Bulletin, 2002, Vol.37, p.605-615
○乙第3号証:稟議書(受付96年6月12日)
○乙第4号証:研究委託申込書(平成8年6月13日付け)
○乙第5号証:報告書「マイクロ波誘電体材料の焼結と微構造」
○乙第6号証:陳述書(佐久間純;平成23年2月6日付け)
○乙第7号証:山元大圭、東誠、福重安雄、鮫島宗一郎、平田好洋、マイクロ波誘導体材料の焼結と微構造、日本セラミックス協会 第10回秋季シンポジウム、学会発表データベース 書誌事項閲覧、Copyright(c) 2004 日本セラミックス協会、Copyright(c) 2004 国立情報学研究所
○乙第8号証:「誘電体材料に関する検討」(平成22年12月13日付け)
○乙第9号証:社団法人日本セラミックス協会、「セラミックス辞典 第2版」、丸善株式会社、平成9年3月25日、281?282頁
○乙第10号証:社団法人日本セラミックス協会、「セラミック工学ハンドブック」、技報堂出版株式会社、1989年4月10日、1883?1884頁
○乙第11号証:W. D. Kingery、H. K. Bowen、D. R. Uhlmann著、小松和藏、佐多敏之、守吉佑介、北澤宏一、植松敬三訳、「セラミックス材料科学入門 基礎編 第3版」、株式会社内田老鶴圃、昭和59年6月15日、121?134頁
○乙第12号証:陳述書(平原誠一郎;平成23年3月18日付け)
○乙第13号証:本件審判の審決取消訴訟(H23(行ケ)10210)について、被請求人の訂正審判請求(訂正2011-390113)に基づく特許法第181条第2項による取消決定の上申に対し、請求人が提出した意見書
○乙第14号証:実験報告書(浜田紀彰;平成23年8月18日?9月6日)
○乙第15号証:Materials Transactions, 2009, Vol.50, No.5, p.977-983
○乙第16号証:Journal of the European Ceramic Society, 27(2007)p.285-2859
○参考資料1:特開平6-76633号公報
○参考資料2:工業レアメタルNo.101、アルム出版社、1989年8月、82?83頁
○参考資料3:工業レアメタルNo.103、アルム出版社、1991年8月、84?85頁
○参考資料4:工業レアメタルNo.105、アルム出版社、1992年8月、46?47頁
○参考資料5:工業レアメタルNo.107、アルム出版社、1993年8月、26?27頁
○参考資料6:工業レアメタルNo.109、アルム出版社、1994年8月、18?19頁
○参考資料7:工業レアメタルNo.111、アルム出版社、1994年8月、68?69頁
○参考資料8:工業レアメタルNo.112、アルム出版社、1996年9月、52?53頁
○参考資料9:工業レアメタルNo.113、アルム出版社、1997年9月、14?15頁
○参考資料10:工業レアメタルNo.114、アルム出版社、1998年8月、12?13頁
○参考資料11:工業レアメタルNo.115、アルム出版社、1999年8月、12?13頁
○参考資料12:工業レアメタルNo.116、アルム出版社、2000年8月、14?15頁
○参考資料13:Journal of the American Ceramic Society, 1993, Vol.76, No.9, p.2359-2362
○参考資料14:Materials Research Bulletin, 1999, Vol.34, Nos.10/11, p.1577-1582
○参考資料15:Robert S. Roth, Taki Negas, Lawrence P. Cook,「PHASE DIAGRAMS FOR CERAMISTS VOLUME V」, The American Ceramic Society, 1983, p.155-156
○参考資料16:岡崎清著、「第4版 セラミック誘電体工学」、学献社、1992年6月1日、210?233頁
○参考資料17:加藤悦朗、中重治、野田稲吉著、「無機材料化学-I」、株式会社コロナ社、昭和53年9月15日、58?91頁、194?203頁

第6 甲各号証の記載事項
請求人が提出した甲第1号証?甲第43号証には、それぞれ以下の事項が記載されている。

○甲第1号証(特開平6-76633号公報)
(甲1-ア)「【特許請求の範囲】
【請求項1】金属元素として希土類元素(Ln),Al,CaおよびTiを含み、これらの成分をモル比で
aLn_(2 )O_(x )・bAl_(2 )O_(3 )・cCaO・dTiO_(2)
と表した時、a,b,c,dおよびxの値が
a+b+c+d=1
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
3≦x≦4
を満足することを特徴とする誘電体磁器組成物。
【請求項2】一対の入出力端子間に誘電体磁器を配置してなり、電磁界結合により作動する誘電体共振器において、前記誘電体磁器が、金属元素として希土類元素(Ln),Al,CaおよびTiを含み、これらの成分をモル比で
aLn_(2 )O_(x )・bAl_(2 )O_(3 )・cCaO・dTiO_(2)
と表した時、a,b,c,dおよびxの値が
a+b+c+d=1
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
3≦x≦4
を満足することを特徴とする誘電体共振器。」
(甲1-イ)「【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、例えば、自動車電話,コードレステレホン,パーソナル無線機,衛星放送受信機に搭載されるマイクロ波領域での共振器や回路基板材料として適した新規な誘電体磁器組成物および誘電体共振器に関する。
【0002】
【従来技術】近年、自動車電話,コードレステレホン,パーソナル無線機,衛星放送受信機の実用化に伴ってマイクロ波領域での誘電体磁器が広く使用されている。このようなマイクロ波用誘電体磁器は主として共振器に用いられるが、そこに要求される特性として(1) 誘電体中では波長が1/εr^(1/2)に短縮されるので、小型化の要求に対して比誘電率が大きい事、(2) 高周波での誘電損失が小さいこと、すなわち高Q値であること、(3) 共振周波数の温度に対する変化が小さいこと、即ち、比誘電率の温度依存性が小さく且つ安定であること、以上の3特性が主として挙げられる。
【0003】従来、この種の誘電体磁器としては、例えば、BaO-TiO_(2)系材料,BaO-REO-TiO_(2)( 但し、REO は希土類元素酸化物) 系材料,MgTiO_(3)- CaTiO_(3)系材料などの酸化物磁器材料が知られている(例えば、特開昭61-10806号公報,特開昭63-100058号公報,特開昭60-19603号公報等参照)。
【0004】
【発明が解決しようとする問題点】しかし乍ら、BaO-TiO_(2)系材料では比誘電率εrが37?40と高く、Q値は40000と大きいが、単一相では共振周波数の温度係数τfがゼロのものが得難く、組成変化に対する比誘電率及び比誘電率の温度依存性の変化も大きいため、高い比誘電率,低い誘電損失を維持したまま共振周波数の温度係数τfを安定に小さく制御することが困難である。
【0005】また、BaO-REO-TiO_(2)系材料についてはBa0-Nd_(2)O_(3)-TiO_(2)系あるいはBa0-Sm_(2)O_(3)-Ti0_(2)系等が知られているが、これらの系では比誘電率εrが40?60と非常に高く、また共振周波数の温度係数τfがゼロのものも得られているが、Q値が5000以下と小さい。
【0006】さらに、MgTiO_(3)-CaTiO_(3) 系材料ではQ値が30000と大きく、共振周波数の温度係数τfがゼロのものも得られているが、比誘電率εrが16?25と小さい。
【0007】このように、上記のいずれの材料においても高周波用誘電体材料に要求される前記3特性を共に充分には満足していない。
【0008】本発明は上記の欠点に鑑み案出されたもので、比誘電率が大きく、高Q値で、比誘電率の温度依存性が小さく且つ安定である誘電体磁器組成物および誘電体共振器を提供せんとするものである。
【0009】
【問題点を解決するための手段】本発明者等は上記問題に対し、検討を重ねた結果、Ln_(2 )O_(X ),Al_(2 )O_(3 ),CaO,TiO_(2 )(Lnは少なくとも1種類以上の希土類元素であり、3≦x≦4)からなり、これらを特定の範囲に調整することによって、比誘電率が大きく、高Q値で、比誘電率の温度依存性が小さく且つ安定である誘電体磁器組成物が得られることを知見した。」
(甲1-ウ)「【0016】希土類元素(Ln)としては、Y,La,Ce,Pr,Sm,Eu,Gd,Dy,Er,Yb,Nd等があり、これらのなかでもNdが最も良い。そして、本発明では、希土類元素(Ln)は2種類以上であっても良い。比誘電率の温度依存性の点からは、Y,Ce,Pr,Sm,Eu,Gd,Dy,Er,Ybが好ましい。」
(甲1-エ)「【0018】本発明の誘電体磁器組成物は、例えば、以下のようにして作成される。出発原料として、高純度の希土類酸化物,酸化アルミニウム,酸化チタン,炭酸カルシウムの各粉末を用いて、所望の割合となるように秤量する。この主成分に対してNb_(2 )O_(5 ),Ta_(2 )O_(5 ),ZnO等の粉末を添加しても良い。そして、この後、純水を加え、混合原料の平均粒径が1.6μm以下となるまで10?30時間、ジルコニアボール等を使用したミルにより湿式混合・粉砕を行う。この混合物を乾燥後、1100?1300℃で1?4時間仮焼し、さらに0.8?5重量%のバインダーを加えてから整粒し、得られた粉末を所望の成形手段、例えば、金型プレス,冷間静水圧プレス,押出し成形等により任意の形状に成形後、1500?1700℃の温度で1?10時間大気中において焼成することにより得られる。」
(甲1-オ)「【0020】
【作用】本発明の誘電体磁器組成物では、金属元素として希土類元素(Ln),Al,CaおよびTiを含む複合酸化物であるが、これらを特定の範囲に調整することによって、比誘電率が大きく、高Q値で、比誘電率の温度依存性が小さく且つ安定である誘電体磁器組成物が得られる。」
(甲1-カ)「【0022】
【実施例】出発原料として高純度の希土類酸化物(Nd_(2 )O_(3 )),酸化アルミニウム(Al_(2 )O_(3 )),酸化チタン(TiO_(2 )),炭酸カルシウム(CaCO_(3 ))の各粉末を用いてそれらを表1となるように秤量後、純水を加え、混合原料の平均粒径が1.6μm以下となるまで、ミルにより約20時間湿式混合・粉砕を行なった。」
(甲1-キ)「【0024】この混合物を乾燥後、1200℃で2時間仮焼し、さらに約1重量%のバイン ダーを加えてから整粒し、得られた粉末を約1000Kg/cm^(2)の圧力で円板状に成 形し、1500?1700℃の温度で2時間大気中において焼成した。
【0025】得られた磁器の円板部を平面研磨し、アセトン中で超音波洗浄し、150℃で1時間乾燥した後、円柱共振器法により測定周波数3.5?4.5GHzで誘電率,Q値,共振周波数の温度係数τfを測定した。Q値は、マイクロ波誘電体において一般に成立するQ値×測定周波数f=一定の関係から1GHzでのQ値に換算した。共振周波数の温度係数τfは、-40℃から+85℃間で共振周波数を測定し、25℃の時の共振周波数を基準にして、-40℃?25℃および25℃?+85℃の温度係数τfを算出した。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

【0027】表1からも明かなように、本発明により得られた誘電体は、比誘電率が30以上、Q値が20000(1GHzにおいて)以上、τfが±30〔ppm/℃〕以内の優れた誘電特性が得られた。一方、本発明の範囲外の誘電体では、比誘電率,またはQ値が低いか、またはτfの絶対値が30を越えている。
【0028】また、本発明者等は、表1の試料No.7,8,10において、Nd_(2 )O_(3 )のNdを他の希土類元素と代えて実験を行った。結果を表2に示す。尚、表2において、試料No.33?55では、表1の試料No.8のa,b,c,dの値、即ち、a,bが0.0881、c,dが0.4119であり、試料No.56?61では、表1の試料No.7のa,b,c,dの値、即ち、a,bが0.1061、c,dが0.3939であり、試料No.62?67では、表1の試料No.10のa,b,c,dの値、即ち、aが0.0941、bが0.0929、cが0.4587、dが0.3543を用いた。
【0029】
【表2】

【0030】この表2より、希土類酸化物としてNd_(2 )O_(3 )に代えて他の希土類酸化物を用いても、まだ比誘電率36以上、Q値が26000以上、τfの絶対値が26以内と実用用充分な特性値を有していることが判る。
【0031】さらに、本発明者等は、表1の試料No.8の組成を主成分として、この主成分に対して各種の金属酸化物を添加する実験を行った。結果を表3,4に示す。
【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

【0034】この表3,4より、希土類酸化物としてNd_(2 )O_(3 )を配合したものに、所定の金属酸化物を添加すると、無添加の場合よりも特性は低下するが、まだ比誘電率33以上、Q値が11000以上、τfの絶対値が12以内と実用用充分な特性値を有していることが判る。そして、Nb_(2 )O_(5 ),Ta_(2 )O_(5 )を4重量%以下添加した場合には、無添加の場合と比較してQ値および温度係数が少々低下するが、比誘電率が大きく向上していることが判る。」
(甲1-ク)「【0035】
【発明の効果】以上、詳述した通り、本発明の誘電体磁器組成物は、金属元素として希土類元素(Ln),Al,CaおよびTiを含む複合酸化物であるが、これらを特定の範囲に調整することによって、高周波において高い誘電率、高いQ値、及び共振周波数の温度係数の小さい誘電特性を有することができる。従って、高周波にて使用される共振器あるいは回路基板材料としての用途に対し満足したものが得られる。」

○甲第2号証(特許・実用新案審査基準,第II部,第2章)
(甲2-ア)新規性の判断基準に関し、「(3)機能・特性等による物の特定を含む請求項についての取り扱い」について記載されている。

○甲第3号証(実験依頼書)
(甲3-ア)「株式会社MARUWA法務・知財室 後藤孝市」から「愛知工業大学応用化学科教授 小林雄一」宛に実験を依頼することが記載されている。

○甲第4号証(依頼実験報告書)
(甲4-ア)「[依頼事項1]
特開平6-76633号公報(以下「対象文献」という)(発明の名称:誘電体磁器及びこれを用いた誘電体共振器)(出願人:京セラ株式会社)に実施例として記載された誘電体の各試料No.1,No.4,No.7,No.8,No.13,No.35を再現するように作製し,各試料について次の[1][2][3](当審注:原文は丸囲い数字。以下同じ。)の測定をお願いいたします(以下「再現実験」といいます。)。
[1]誘電特性(εr、Q値、τf)
[2]主要構成相酸化物の結晶系及びその比率
[3]第二相酸化物の結晶相及びその含有率並びに平均結晶粒径
[依頼事項2]
再現実験で作成した各試料が、対象文献の各試料を忠実に再現したと言えること(再現性)について、評価をお願いいたします。
[依頼事項3]
「[2]主要構成相酸化物の結晶系及びその比率」の測定結果について、考察をお願いいたします。
[依頼事項4]
「[3]第二相酸化物の結晶相及びその含有率」の測定結果について、考察をお願いいたします。」(1頁6行?同頁末行)
(甲4-イ)「1-4.再現実験の方法
対象文献の段落【0022】?【0026】に記載された方法に準拠した。
・・・1500?1700℃の温度で2時間大気中において焼成した。この焼成の昇降温方法について、対象文献には記載がないが、技術常識に基づく一般的な昇降温方法であると推認されるので、昇降温速度を300℃/hrとした」(2頁17行?3頁5行)
(甲4-ウ)「1-5.測定結果
1-5-1.誘電特性
各試料の誘電特性の測定結果を、対象文献に記載された誘電特性の値と比較して、表2に示す。
なお、対象文献では、温度特性τfを-40?+25℃及び+25?+85℃の二区間に分けて評価していたが、それぞれの区間における測定値はほぼ同じであり、ここでは平均値とした。

1-5-2.焼結体の微構造と結晶相解析
(a)焼結体の微構造
各試料の走査型電子顕微鏡写真を図1に示す。
いずれの試料も、均一なマトリックスに、板状または柱状の第二相結晶が析出して存在していた。第二相結晶の析出量は、試料No.1、No.4、No.13で比較的多く、試料No.7、No.8、No.35で比較的少なかった。各試料の電子顕微鏡写真の面積比から求めた第二相の含有率を表2に示す。
また、第二相結晶の平均結晶粒径は、試料No.1で1.8μm、No.4で2.1μm、No.7で1.6μm、No.8で1.6μm、No.13で2.4μm、No.35で1.4μmである。
・・・・・・
(b)析出相の化学組成
各試料の第二相結晶及びマトリックスに対する局部X線元素分析の結果を図2?図7に示す。
マトリックスのスペクトルは試料の配合組成によって幾らか違うが、それぞれは均一な酸化物であった。第二相結晶の組成はいずれもAlの酸化物が主成分であり、少量のCa及びNd(またはLa)を含む化合物であった。試料No.4はTiリッチな配合組成であったが、第二相結晶は同様にAl酸化物が主成分の化合物であった。
・・・・・・
(c)結晶相解析
次に、前記マトリックスの結晶系及び第二相の結晶相の解析を粉末X線回折及び電子線回折を用いて行った。各試料の粉末X線回折の結果を図8?図13に示す。
前記(a)の走査型電子顕微鏡写真で第二相結晶の析出量が比較的多かった試料No.1、No.4、No.13については、この粉末X線回折により、主要構成相の結晶系は斜方晶であり、第二相としてβ-Al_(2)O_(3)構造を有する化合物の存在が確認できた。
一方、第二相結晶の析出量が比較的少なかった試料No.7、No.8、No.35については、この粉末X線回折により、構成相は斜方晶の単一相であり、第二相は明瞭には現れなかった。しかし、前記(a)の走査型電子顕微鏡写真で僅かに第二相微結晶が観察されたことから、これらの試料について透過型電子顕微鏡観察及び制限視野電子回折を行った。
その結果、前記(a)と同様に、試料はマトリックス相とその中に存在する板状または柱状の第二相微結晶の存在が確認され、更にマトリックスの結晶系は斜方晶であり、第二相はβ-Al_(2)O_(3)の結晶構造を有する結晶相であることが分かった。一例として、試料No.8の透過型電子顕微鏡の観察結果を図14に示す。
これらの結晶相に対する解析結果と、前記微構造観察、組成分析の結果を合わせて考えると、マトリックスの結晶系は斜方晶であり、第二相の結晶相はβ-Al_(2)O_(3)であると言える。」(3頁16行?11頁16行)
(甲4-エ)「2.[依頼事項2]・・・についての報告
・・・・・・
2-1.「[1]誘電特性(εr、Q値、τf)」の測定結果からみた再現性の評価
前記の表2には、各試料の誘電特性の測定結果を、対象文献に記載された誘電特性の値と比較して示す。
誘電特性の測定結果は、対象文献値と比較すると、測定値との差が小さいことに加え、良い相関関係が見られる。図15?図17はこの相関関係を図示したものである。試料サイズ、測定冶具などによる影響や、使用原材料、試料作製条件の相違を考慮すると、本実験の測定結果は対象文献値と実質的に一致した。従って、再現実験で作製した各試料は、対象文献の各試料を忠実に再現している。
2-2.再現実験における試験条件について
対象文献(特開平6-76633号公報)はその実施例において、誘電体磁器の特性、微構造に影響を及ぼす重要なプロセス条件を明記しており、一部記載がない条件は技術常識に基づいて実施できるものと推定される。前記2-1.で述べたとおり誘電特性の測定結果が対象文献値と実質的に一致しており、その他記載のない条件は特性にほとんど影響を与えない程度のものであったと言える。たとえば、前記1-1.で説明したとおり、焼成時の昇降温方法について、対象文献には記載がないが、再現実験では一般的な昇降温速度である300℃/hrとした。
このことはきわめて妥当であると考えられるが、念のため、試料No.1、No.7及びNo.35における、降温速度を100℃/hrで単純に降温した場合と、降温速度500℃/hrで単純に降温した場合についても実験を行った(その他の方法に変更はない)。その場合の各試料の微構造を図18に示す。図1の降温速度300℃/hrの場合の結果と比べて、焼結体の誘電特性、析出する第二相結晶の組織や組成、結晶相、量ともにほとんど差異がないことが確認された。」(15頁1?23行)
(甲4-オ)「3.[依頼事項3](下記)についての報告
・・・・・・
従って、前記の表2に示したとおり、A/B比がそれぞれ0.748、0.874、0.783である試料No.1、No.4、No.13が、斜方晶の結晶を80体積%以上有していること、および化学量論組成からのずれに連動して、第二相を有していたことは、必然的である。」(18頁1行?末行)
(甲4-カ)「4.[依頼事項4](下記)についての報告
・・・・・・
4-1.第二相析出量と組成
・・・・・・
以上の結果、これらの焼結体を構成する主結晶はペロブスカイト型構造を有する固溶体結晶であり、前記の表2に示したとおり、A/B比がそれぞれ0.748、0.874、0.783である試料No.1、No.4、No.13の組成において、第二相のβ-Al_(2)O_(3)が析出していることは、必然的である。
また、A/B比がそれぞれ1.000である試料No.7、No.8、No.35の各組成においても、極微量の第二相のβ-Al_(2)O_(3)が析出している。その理由は、使用原料の純度、秤量精度による配合誤差に加え、固相反応による合成において一般的に存在する組成の局部的不均一さに起因すると考えられるものであり、特別の現象ではない。」(19頁1行?20頁下から4行)
(甲4-キ)「4-2.第二相析出量とプロセス条件
一般に多成分系からの相の析出は相律で決まり、平衡状態であれば析出相及びそれぞれの相の相対量は、プロセス条件によらないとされている。しかし、現実には完全なる平衡状態にはならず、第二相の析出はプロセス条件によって変化する可能性もある。
前記の再現実験では、前記の図18のとおり、降温条件を変えて第二相の析出量の変化を調べたが、同一組成において作製プロセスによる微組織の違いはほとんど見られない。また、写真から計算した第二相析出量の結果も同様な結果であった。」(20頁下から3行?21頁4行)
(甲4-ク)「4-3.第二相析出量と誘電体特性
・・・・・・
図Cは再現実験並びに追加実験で得られた結果を、誘電体のQ・f値を縦軸に、焼結体内に析出した第二相の体積%を横軸にプロットしたものである。第二相のβ-Al_(2)O_(3)の析出量が増加するにつれてQ・f値が低下し、D.G.Limらの研究結果と一致する。

従って、本再現実験並びに追加実験によっても、第二相のβ-Al_(2)O_(3)の析出は、その析出量が増加するほど,焼結体の誘電特性Q・f値を低下させるものであると結論づけることができる。」(21頁5行?末行)

○甲第5号証(ソ連邦特許第590299号)
(甲5-ア)「Изобретение относится к злектронной области промышленности, в частности к способам получения керамических материалов на основе твердых растворов алюмната лантанатнтаната кальция, используемых для изготовления тонкопленочных конденсаторов.」
(訳:本発明は、電子産業分野に関係し、特に、薄膜コンデンサに用いられるアルミン酸ランタン-チタン酸カルシウムの固溶体をベースとしたセラミック材を得る方法に関するものである。)(1頁左欄1?6行)
(甲5-イ)「Пример 1. Для получения 100 г продукта состава 5% LaAlO_(3)-95% CaTiO_(3) берутисходные компоненты в следующих количествах,」
(訳:例1.5%のLaAlO_(3)と95%のCaTiO_(3)の組成の生成物100gを得るには、次の量の出発組成を使う。)(2頁左欄4?7行)
(甲5-ウ)「Пример 2. Для получения 100 г продукта состава 90% LaAlO_(3)-10% CaTiO_(3) берутисходные компоненты в следующих количествах,」
(訳:例2.90%のLaAlO_(3)と10%のCaTiO_(3)の組成の生成物100gを得るには、次の量の出発組成を使う。)(2頁左欄45?48行)
(甲5-エ)「Для получения алюмината лантана-титаната кальция друсих составов в лределах (5-90%)LaAlO_(3)-(95-10%)CaTiO_(3) рассчитывают колнчество исходных компонентов по формуле」
(訳:LaAlO_(3)が5-90%、CaTiO_(3)が95-10%の範囲で他の組成のアルミン酸ランタン-チタン酸カルシウムを得るには、次式で出発組成の量を計算する。)(2頁左欄60行?右欄2行)

○甲第6号証(Jpn. J. Appl. Phys., 1998, Vol. 37, p.5625-5629)
(甲6-ア)「Dielectric Behavior of (1-x)LaAlO_(3)-xSrTiO_(3) Solid Solution System at Microwave Frequencies」
(訳:マイクロ波周波数における(1-x)LaAlO_(3)-xSrTiO_(3)固溶体系の誘電特性)(5625頁標題)
(甲6-イ)「The (1-x)LaAlO_(3)-xSrTiO_(3) solid solution system with the perovskite structure was synthesized and its dielectric behavior was investigated. ・・・・・・ 0.45LaAlO_(3)-0.55SrTiO_(3) shows a dielectric constant ε of 34, a temperature coefficient of resonant frequency τf of -8 ppmK^(-1) and a dielectric loss Q of 6900, which satisfy the suggested requirements for applications to mobile communications devices.」
(訳:ペロブスカイト構造を有する(1-x)LaAlO_(3)-xSrTiO_(3)固溶体系が合成され、その誘電特性が検討された。・・・・・・0.45LaAlO_(3)-0.55SrTiO_(3)は誘電率εが34、共振周波数温度係数τfが-8ppmK^(-1)及び誘電損失Qが6900という誘電特性を示し、移動通信デバイスヘの応用に提案されている要求を満たす。)(5625頁上欄9?13行)
(甲6-ウ)「Due to expectations of future experimental studies, the solid solution system (1-x)LaAlO_(3)-xSrTiO_(3) that shows complete solid solubility in the entire composition range with the perovskite structure has been synthesized.」
(訳:将来の実験的研究の期待のため、全組成範囲で完全な固溶を示すペロブスカイト構造の固溶体系(1-x)LaAlO_(3)-xSrTiO_(3)が合成されている。)(5625頁左欄15?18行)
(甲6-エ)「The lattice parameter increases linearly with an increase in SrTiO_(3) fraction, which implies complete solid solubility in the entire composition range.」
(訳:格子定数はSrTiO_(3)の比率の増加に伴って線形的に増加し、このことは全組成範囲において完全固溶を意味する。)(5626頁左欄末行?右欄2行)

○甲第7号証(Jpn. J. Appl. Phys., 1999, Vol. 38, p.6821-6826)
(甲7-ア)「Sintering Behavior and Microwave Dielectric Properties of(Ca,La)(Ti,Al)O_(3) Ceramics」
(訳:(Ca,La)(Ti,Al)O_(3)セラミックスの焼結挙動及びマイクロ波誘電特性)(6821頁標題)
(甲7-イ)「The dielectric and sintering properties of (1-x)CaTiO_(3)-xLaAlO_(3) were investigated. ・・・・・・ The microwave dielectric properties of εr = 37, Q・f0 = 47,000(at 7 GHz), and τf = 5 ppm/℃ were obtained at 0.65CaTiO_(3)-0.35LaAlO_(3).」
(訳:(1-x)CaTiO_(3)-xLaAlO_(3)の誘電特性及び焼結特性が研究された。・・・・・・εr=37、Q・f0=47,000(7GHzにおいて)及びτf=5ppm/℃というマイクロ波誘電特性が0.65CaTiO_(3)-0.35LaAlO_(3)において得られた。)(6821頁上欄6?10行)
(甲7-ウ)「Figures 3 and 4 shows the XRD micrographs of (1-x)CaTiO_(3)-xLaAlO_(3) sintered at 1600℃ for 4h and the lattice parameters calculated from the micrographs, respectively. A single phase of the peroveskite structure is found in all compositions.」
(訳:図3及び4は、それぞれ、1600℃で4時間焼成された(1-x)CaTiO_(3)-xLaAlO_(3)のX線回折マイクログラフとそれから計算される格子パラメータを示している。ペロブスカイト型結晶構造の単一相が(実験された)全組成で形成されている。)(6822頁右欄20?24行)
(甲7-エ)「As a result, (1-x)CaTiO_(3)-xLaAlO_(3) synthesized by two compounds of CaTiO_(3) having the orthorhombic (a=5.381, b=7.645, c=5.443Å) crystal system and LaAlO_(3) having the rhombohedral (a=b=c=3.788Å, α=90°4’) crystal system undergoes the transformation processes of orthorhombic (x ≦ 0.4) → pseudocubic (x = 0.5) → rhombohedral (x ≧ 0.6) as x increases.」
(訳:結果として、斜方晶(a=5.381、b=7.645、c=5.443Å)の結晶系を持つCaTiO_(3)と、菱面体晶(a=b=c=3.788Å、α=90°4′)の結晶系をもつLaAlO_(3)との二つの化合物から合成される(1-x)CaTiO_(3)-xLaAlO_(3)は、xの増加に伴って、斜方晶(x≦0.4)→擬立方晶(x=0.5)→菱面体晶(x≧0.6)という相転移プロセスを辿る。)(6823頁左欄下から7行?右欄1行)

○甲第8号証(Materials Research Bulletin, 1999, Vol. 34, No. 4, p.511-516)
(甲8-ア)「MIXTURE-LIKE BEHAVIOR IN THE MICROWAVE DIELECTRIC PROPERTIES OF THE (1-x) LaAlO3 -xSrTiO3 SYSTEM」
(訳:(1-x)LaAlO_(3)-xSrTiO_(3)系のマイクロ波誘電特性における混合物のような挙動)(511頁標題)
(甲8-イ)「Compositions in the (1-x)LaAlO_(3)-xSrTiO_(3) system were prepared in order to compensate the negative temperature coefficient of the resonant frequency (τf) of LaAlO_(3).」
(訳:LaAlO_(3)の共振周波数の負の温度係数(τf)を補償するために(1-x)LaAlO_(3)-xSrTiO_(3)系の組成が調製された。)(511頁要約1?3行)
(甲8-ウ)「As can be seen in this figure, LaAlO_(3) and SrTiO_(3) combine to form a solid solution.」
(訳:この図から読み取れるように、LaAlO_(3)とSrTiO_(3)は結合して固溶体を形成する。)(513頁下から14?13行)
(甲8-エ)「The (1-x)LaAlO_(3)-xSrTiO_(3) system forms a complete solid solution, as confirmed by the XRD patterns in Figure 1.」
(訳:図1のX線回折パターンで確認されたように、(1-x)LaAlO_(3)-xSrTiO_(3)系は完全な固溶体を形成する。)(515頁7?8行)

○甲第9号証(JCPDSカード,No.31-22,No.22-153)
(甲9-ア)「Card 31-22
Compound Name: Aluminium Lanthanum Oxide
Chemical Formula: LaAlO_(3)
・・・・・・
Crystal System: Rhombohedral」
(訳:カード31-22
化合物名:アルミニウムランタン酸化物
化学式:LaAlO_(3)
・・・・・・
結晶系:菱面体晶)
(甲9-イ)「Card 22-153
Compound Name: Calcium Titanium Oxide
Perovskite, syn
Chemical Formula: CaTiO_(3)
・・・・・・
Crystal System: Orthorhombic」
(訳:カード22-153
化合物名:カルシウムチタン酸化物
ペロブスカイト結晶系
化学式:CaTiO_(3)
・・・・・・
結晶系:斜方晶系)

○甲第10号証(J. Am. Ceram. Soc., 1993, Vol. 76, No. 9, p.2359-2362)
(甲10-ア)「X-ray Diffraction and Microstructual Investigation of the Al_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)-TiO_(2) System」
(訳:Al_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)-TiO_(2)系のX-線回折及び微細構造の研究)(2359頁標題)
(甲10-イ)「


(表のタイトルの訳:表I.Al_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)-TiO_(2)系(1400℃)における焼成試験の結果、項目の訳:(左から)試料番号、組成(モル%)、XRD及び微細構造分析により同定される相)(2359頁 Table I.)
(甲10-ウ)「


(図のタイトルの訳:図1.Al_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)-TiO_(2)系の1400℃における準固相線相平衡図)(2360頁 Fig.1.)

○甲第11号証(Materials Research Bulletin, 1999, Vol. 34, Nos. 10/11, p.1577-1582)
(甲11-ア)「MICROWAVE DIELECTRIC PROPERTIES OF THE (1-x)LaAlO_(3)-xTiO_(2) SYSTEM」
(訳:(1-x)LaAlO_(3)-xTiO_(2)系のマイクロ波誘電特性)(1577頁標題)
(甲11-イ)「


(表のタイトルの訳:表1 (1-x)LaA1O_(3)-xTiO_(2)系におけるマトリクスと第二相)(1580頁 TABLE 1)
(甲11-イ)「In the case of (1-x)LaAlO_(3) - xTiO_(2) system, the type and amount of second phases were closely related to the variation of Qxf with compositions. At the composition from x=0.1 to x=0.3, the second phase was identified as LaAl_(11)O_(18).・・・・・・The Qxf value of LaAl_(11)O_(1)8 is less than 15000, which means that LaAl_(11)O_(18) is likely to reduce the Qxf values of (1-x)LaAlO_(3) - xTiO_(2) system.」
(訳:(1-x)LaA1O_(3)-xTiO_(2)系の場合において、第二相のタイプと量は組成に伴うQxf値の変化に密接に関連する。x=0.1からx=0.3までの組成において、第二相はLaAl_(11)O_(18)と同定された。・・・・・・LaAl_(11)O_(18)のQxf値は15000より低く、LaAl_(11)O_(18)は(1-x)LaAlO_(3)-xTiO_(2)系のQxf値を低下させる傾向にあることを意味する。)(1581頁下から9?4行)

○甲第12号証(PHASE DIAGRAMS FOR CERAMISTS VOLUME II)
(甲12-ア)「


(95頁 FIG.2340)

○甲第13号証(無機材料化学-I)
(甲13-ア)「


(74頁)

(甲13-イ)「冷却中の共存する各相の相対量は,てこの規則(lever rule)によって計算できる。たとえば,図2・55のx_(0)組成の温度T_(2)における平衡状態を考えよう.組成x_(L)の液相と組成x_(α)の固相の二つの相が平衡にあり,その量比(液層x_(L)/固相x_(α))はx_(α)-x_(0)/x_(0)-x_(L)(審決注:下線は、原文ではアッパーライン。)である。)」(74頁下から6?3行)

○甲第14号証(特開平4-212405号公報)
(甲14-ア)「第2図?第7図に焼成パターンを示す。第2図?第7図において、横軸に時間軸(hr)をとり、縦軸に温度(℃)をとってある。・・・・・・昇温速度及び降温速度は第2図?第7図を通して、300℃/hrに設定されている。」(3頁右上欄14行?同頁左下欄2行)

○甲第15号証(特開平5-85813号公報)
(甲15-ア)「焼成スケジュールは図1に示すように、成形助剤を焼失させるために350℃で1時間保持(KEEP1)し、1150?1360℃の間で3時間保持(KEEP2)する以外は300℃/時間の速度で昇温し、最高焼成温度1425℃で1時間保持(KEEP3)して焼成した。」(【0017】)

○甲第16号証(特開平5-213662号公報)
(甲16-ア)「焼結温度を1550℃とし、焼結時間を1時間の前後で変化させた以外は実施例1と同様にして・・・・・・。なお、本実施例において電気炉の昇温、高温速度は何れも300℃/時間とし、焼結は大気中で行った。」(【0017】)

○甲第17号証(回答書)
(甲17-ア)甲第4号証(依頼実験報告書)に関する質問事項について、「愛知工業大学応用化学科教授 小林雄一」からの回答が記載されている。

○甲第18号証(JlSハンドブック(35)セラミックス、R1627)
(甲18-ア)「マイクロ波用ファインセラミックス誘電特性の試験方法」について記載されている。

○甲第19号証(JFCCホームページのカタログページ)
(甲19-ア)マイクロ波帯における複素誘電率測定用標準物質(ER-ZST)の特徴について記載されている。

○甲第20号証(JISハンドブック(57)品質管理、Z9041-1)
(甲20-ア)データの統計的な解釈方法について記載されている。

○甲第21号証(特開平11-130544号公報)
(甲21-ア)「aLa_(2)O_(x)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)(3≦x≦4)」の組成式を有する誘電体磁器組成物であって、以下のものが記載されている。
・【表4】(【0055】)試料No.103
a=0.080 b=0.0790 c=0.4700 d=0.3710 Q値=45000
・【表4】(【0055】)試料No.127
a=0.0790 b=0.0790 c=0.500 d=0.3420 Q値=41000
・【表5】(【0056】)試料No.165
a=0.080 b=0.0790 c=0.4700 d=0.3710 Q値=45000

○甲第22号証(特開平6-144927号公報)
(甲22-ア)「xMgTiO_(3)・(1-x)CaTiO_(3)」の組成の磁器組成物について、焼成温度を1300?1425℃の範囲の各温度とした実施例が記載され、それぞれ「Qu(6GHz)」、「比誘電率εr」、「τf」及び「焼結密度」のデータが記載されている。(3?6頁表1?4)

○甲第23号証(特開平6-199567号公報)
(甲23-ア)「xMgTiO_(3)・(1-x)CaTiO_(3)」の組成の磁器組成物について、焼成温度を1250?1425℃の範囲の各温度とした実施例が記載され、それぞれ「Qu(6GHz)」、「比誘電率εr」、「τf」及び「焼結密度」のデータが記載されている。(3?4頁表1?2)

○甲第24号証(報告書「第二相結晶の回折像の同定について」)
(甲24-ア)甲第4号証の14頁に記載されている図14の右下の電子回折像について、PDFカード(JCPDSカード)として、本件明細書の段落【0071】に記載された10-414を使用した同定方法の説明が記載されている。

○甲第25号証(JCPDSカード、No.10-414)
(甲25-ア)甲第24号証で説明されている同定方法において使用される「空間群:P63/mmc(no.194)」の「酸化アルミニウム」の回折ピークデータが記載されている。

○甲第26号証(電子顕微鏡Q&A)
(甲26-ア)電子線回折パターンの指数付けの手順について記載されている。

○甲第27号証(INTERNATIONAL TABLES FOR CRYSTALLOGRAPHY Volume A)
(甲27-ア)空間群P6_(3)/mmc(No.194)の「Reflection conditions」(反射条件)が記載されている。(601頁右上)

○甲第28号証(PHASE DIAGRAMS FOR CERAMISTS VOLUME V)
(甲28-ア)四面体状に図示された「KCl-NaF-NaCl-K_(2)TaF_(7)系」の状態図が記載されている。(155?156頁、図5922)

○甲第29号証(PHASE EQUILIBRIA DIAGRAMS VOLUME XII)
(甲29-ア)
「CaO-Al_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)

」(198頁Fig.10046)
(甲29-イ)「Compositions were fired at 1450°-1750℃, depending on composition, with several regrindings.」
(訳:これらの組成は幾度か粉砕を繰り返し、組成に依存して、1450?1750℃で焼成された。)(198頁右欄4?5行)
(甲29-ウ)
「CaO-Al_(2)O_(3)-TiO_(2)

」(200?201頁Fig.10049(A)(B))

○甲第30号証(PHASE DIAGRAMS FOR CERAMISTS VOLUME I)
(甲30-ア)A、B、Cの3成分系について、状態図の例示とともに、結晶化機構の説明が記載されている。(21?24頁)

○甲第31号証(知財高裁平成18年(行ケ)第10208号判決)
(甲31-ア)特許請求の範囲の記載について判示されている。

○甲第32号証(知財高裁平成21年(行ケ)第10434号判決)
(甲32-ア)特許請求の範囲の記載について判示されている。

○甲第33号証(特許・実用新案審査基準)
(甲33-ア)発明の詳細な説明の記載における実施可能要件の説明が記載されている。

○甲第34号証(報告書)
(甲34-ア)特開平6-76633号公報(甲第1号証)に実施例として記載された誘電体の各試料No.1、No.4、No.7、No.8、No.13、No.35の再現を試みた依頼実験報告書(甲第4号証)で報告の無かったNo.35の第二相の結晶について、透過型電子顕微鏡写真と回折像を示し、本件特許公報【0071】で「β-Al_(2)O_(3)」の同定に用いるJCPDS-ICDDカードのNo.10-0414を用いること等により、「β-Al_(2)O_(3)」であることを同定したことが記載されている。

○甲第35号証(実験成績証明書)
(甲35-ア)「4.実験の目的
特開平6-76633号公報(以下甲1)の試料No.35の組成近辺(甲1の請求項1の組成範囲内)の組成を再現実験し、その誘電特性(εr、Q値、τf)、主要構成相酸化物の結晶系、第二相酸化物の結晶相、その含有率及び平均結晶粒径を分析して、第二相の析出量による効果を確認する。

5.実験内容
甲1の【0022】?【0026】に記載された方法に準拠した。
出発原料として高純度の酸化ランタン(La_(2)O_(3))、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、酸化チタン(TiO_(2))及び炭酸カルシウム(CaCO_(3))の各粉末を用いて、表1のように秤量後、純水を加え、ボールミルにより20時間湿式混合粉砕を行なった。
混合原料の平均粒径は1.2μmとなった。
・・・・
この混合物を乾燥後、1200℃で2時間仮焼し、さらに約1重量%のバインダーを加えてから整粒した。得られた粉末を約1000kg/cm^(2)の圧力で円板状に成形し、1500?1700℃の温度で2時間大気中において焼成した。このときの降温速度は300℃/hrとした。
得られた焼結体円板を平面研磨し、アセトン中で超音波洗浄し、150℃1時間乾燥した後に、誘電特性を測定した。測定は円柱共振器法によって行い、測定周波数は5?7GHzであった。Q値は、マイクロ波誘電体において一般的に成立する「Q値×測定周波数f=一定」の関係から1GHzでのQ・f値に換算した。共振周波数の温度係数τfは-40℃?+85℃間の共振周波数を測定し、25℃の共振周波数を基準にして算出した。
焼結体の微構造の観察には走査型電子顕微鏡(日立 S-3400N)を、結晶相の組成分析にはエネルギー分散型X線分析装置(堀場 EX350)を使用した。結晶相の同定、解析には粉末X線回折装置(BRUKER AXS MXLabo)を使用した。また、第二相酸化物の含有率、及び第二相結晶の平均結晶粒径は特許第3830342号の方法に基づいて算出した。」(1頁12行?2頁10行)
(甲35-イ)「6.実験結果
6-1.誘電特性
各試料の誘電特性の測定結果を、小林雄一教授による平成22年7月28日付け依頼実験報告書(以下甲4)の試料No.35と比較して表2に示す。

」(2頁11行?同頁下から14行)
(甲35-ウ)「6-2.焼結体の微構造と結晶相解析
(a)焼結体の微構造
・・・・・
いずれの試料も、均一なマトリックスに、板状または柱状の第二相結晶が析出して存在していた。
・・・・・
(b)析出層の化学組成
・・・・・
マトリックスのスペクトルはほぼ同じであり、それぞれは均一な酸化物であった。第二相結晶の組成は試料によっては幾らか異なるが、それは周りのマトリックスからの影響によるものである。その第二相結晶はいずれもAlの酸化物が主成分であり、少量のCa及び/またはLaを含む化合物であった。
・・・・・
(c)粉末X線回折
・・・・・
これにより、図1の走査型電子顕微鏡写真に示す、マトリックス部は結晶系が斜方晶の酸化物であり、第二相はβ-Al_(2)O_(3)構造を有する化合物であることが明白である。各試料に含まれる第二相の体積%は10%以下であることから、主要構成相は結晶系が斜方晶を80%以上有し、その第二相はβ-Al_(2)O_(3)構造を有する化合物であることが分かる。」(2頁下から13行?7頁末行)

○甲第36号証(カタログ(サムテック有限会社))
(甲36-ア)誘電体円柱試料のマイクロ波測定用ソフトにおいて、誘電正接について、測定範囲が10^(-3)?10^(-7)で測定精度が±5?20%であることが記載されている。(2頁上欄)

○甲第37号証(特開平7-57537号公報)
(甲37-ア)「w(CaO)-x(TiO_(2))-y1(La_(2)O_(3))-z(Al_(2)O_(3))」の組成の誘電体磁器組成物について、10GHzでのQ値が4170?6580(1GHzでのQ値に換算すると41700?65800)のものが記載されている。(6頁【図1】試料1?7)

○甲第38号証(平成23年(行ケ)10210号の平成23年9月7日付け原告(審決注:被請求人)準備書面(1))
(甲38-ア)「4元系の状態図が、4面体の形で表現することができることは認めるが、4元系と3元系では、その組成の相互関係が根本的にことなるから、3元系の状態図を組み合わせれば、4元系の状態図になるわけではない。」(2頁13?15行)
(甲38-イ)「(9)(vii)のうち、本件発明1が甲第1号証発明の選択発明であることは認め、その余は否認する。」(3頁6?7行)
(甲38-ウ)「この点、本件発明は、審判甲1に記載された発明から、特定の発明特定事項を選択することで、Q値のばらつきを抑制し、高いQ値を持った誘電体磁器を実現する「選択発明」である。
よって、審判甲1に記載された構成の中に、本件発明の発明特定事項を有する「可能性がある」のは当然である。」(5頁1行?5行)

○甲第39号証(平成24年(行ケ)10180号の平成25年2月12日付け被告(審決注:被請求人)第2準備書面)
(甲39-ア)「1 本件審決は、甲1発明(特開平6-76633号公報)の結晶系でも本件発明の構成要件Dに係るβアルミナ等に係る構成があることを「肯定せざるをえない」と認定し(審決64頁2?34行)、甲1発明と本件発明との相違点として認定しなかった。」(1頁下から6行?下から1行)
(甲39-イ)「2 本件審決は、上記のように相違点の認定につき誤っているにもかかわらず、本件発明の進歩性を肯定する正しい結論を導いた。このような場合、本件審決の結論に誤りがあるということはできないから、本件審決は取り消されるべきではない。」(2頁7?10行)

○甲第40号証(平成24年(行ケ)10180号の平成25年2月25日付け原告(審決注:請求人)準備書面(3))
(甲40-ア)「仮に本件審決がβアルミナ等の構成を[相違点]として認定しなかったことが誤りであるなら、それだけで進歩性が肯定されるわけではない。」(2頁下から7行?下から5行)
(甲40-イ)「本件審決は、本件発明1の効果の認定の基礎にできない試料を基礎にしたり、本件明細書に記載されていないこと(必ずQ値40000以上)を採用したりするなど多くの誤りを犯して、本件発明1の効果の認定を誤っている。そして、効果の認定の誤りは、結論に影響を及ぼす。」(6頁17?20行)

○甲第41号証(実験報告書(平成24年11月26日付け))
(甲41-ア)本件発明に含まれるが、明細書に記載された試料No.1?56とは配合組成が異なる試料A?Lについて、Q値を確認すること、及び本件発明の実施例である試料No.29及び48について、Q値の標準偏差を確認することを目的とした実験の結果が記載されている。

○甲第42号証(Journal of the European Ceramic Society, 2003, Vol. 23, p.1391-1400)
(甲42-ア)CaTiO_(3)-NdAlO_(3)誘電体セラミックスのキャラクタライゼイションについて記載されている。

○甲第43号証(Journal of the American Ceramic Society, 2007, Vol. 90, No.12 p.3947-3952)
(甲43-ア)Ca_(0.7)Ti_(0.7)La_(0.3)Al_(0.3)O_(3)における高温構造相転移のX線回折による研究について記載されている。

第7 当審の判断
1 無効理由1について
(1)甲第1号証に記載された発明
上記「第6」のとおり、甲第1号証の請求項1には、特定の成分組成を満たす誘電体磁器組成物が記載され、同じく請求項2には、その組成物からなる誘電体磁器について記載されているから、甲第1号証には、以下の発明が記載されていると認められる。
「金属元素として希土類元素(Ln),Al,CaおよびTi を含み、これらの成分をモル比で
aLn_(2)O_(x)・bAl_(2)O_(3)・cCaO・dTiO_(2)
と表した時、a,b,c,dおよびxの値が
a+b+c+d=1
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
3≦x≦4
を満足する誘電体磁器。」
以下、これを「甲1発明A」という。

また、甲第1号証には、甲1発明Aの実施例であって、希土類元素(Ln)としてLaを単独で、すなわちLaを稀土類元素のうちモル比で100%含有し、a,bが0.0881、c,dが0.4119、xが3であり、1GHzでのQ値に換算した時のQ値(以下、単に「Q値」という。)が39000である例(【表2】の試料No.35)が記載されているから、甲第1号証には以下の発明も記載されていると認められる。
「金属元素として希土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で100%含有するもの),Al,CaおよびTi を含み、これらの成分をモル比で
aLn_(2)O_(x)・bAl_(2)O_(3)・cCaO・dTiO_(2)
と表した時、a,b,c,dおよびxの値が
a+b+c+d=1
a=0.0881
b=0.0881
c=0.4119
d=0.4119
x=3
を満足し、Q値が39000である誘電体磁器。」
以下、これを「甲1発明B」という。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明Aとの対比、検討
(ア)本件発明1と甲1発明Aとを対比すると、甲1発明Aの「Ca」は、本件発明1の「M(MはCaおよび/またはSr)」の下位概念であるから、本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点は以下のとおりである。

[一致点]
「金属元素として希土類元素(Ln),Al,M(MはCaおよび/またはSr)およびTi を含み、これらの成分をモル比で
aLn_(2)O_(x)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)(但し、3≦x≦4)
と表したときa,b,c,dの値が、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足する誘電体磁器。」

[相違点]
相違点A1:本件発明1は、稀土類元素(Ln)が、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有し、Q値が40000以上であるのに対して、甲1発明Aは、希土類元素についての限定がなく、Q値が40000以上と限定されない点。

相違点A2:本件発明1は、結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)、の結晶相として存在するとともに、前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を1/100000?3体積%含有するものであるのに対して、甲1発明Aは、結晶系及び結晶相(以下、まとめて「結晶構造」という。)が不明である点。

(イ)上記相違点A1及びA2について検討する。
(i)相違点A1について
甲1発明Aにおいて、稀土類元素(Ln)が、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するとの明示的な限定はされていない。また、甲1発明Aにおいて、明示的な限定はないにもかかわらず、稀土類元素(Ln)が、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有すると解すべき理由もない。
Q値についても、甲1発明Aにおいて明示的な限定がされているわけではない。また、甲第1号証の記載によれば、甲1発明Aの誘電体磁器は、その組成に応じ、Q値が40000以上のものの他、Q値が40000未満のものも存在すると認められるから((甲1-キ)表1?4)、甲1発明Aの誘電体磁器について、実質的にQ値が40000以上であると認めることはできない。
したがって、相違点A1が実質的な相違点でないとはいえない。

(ii)相違点A2について
甲1発明Aにおいて、誘電体磁器の結晶構造についての明示的な限定はない。また、甲1発明Aにおいて、明示的な限定がないにもかかわらず、誘電体磁器の結晶構造について、実質的に「結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)、の結晶相として存在するとともに、前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を1/100000?3体積%含有する」と解すべき理由もない。
したがって、相違点A2が実質的な相違点でないとはいえない。

(ウ)以上のとおり、上記相違点A1及びA2はいずれも実質的な相違点でないとはいえないから、本件発明1は、甲1発明Aと同一であるとはいえない。

イ 本件発明1と甲1発明Bとの対比、検討
(ア)本件発明1と甲1発明Bとを対比すると、甲1発明Bの「希土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で100%含有するもの)」は、本件発明1の「稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)」との要件を満たしており、また、甲1発明Bの「Ca」は、本件発明1の「M(MはCaおよび/またはSr)」の下位概念である。さらに、甲1発明Bのa、b、c、d及びxの値は、本件発明1のa、b、c、d及びxの条件を満足する。
したがって、両者は以下の点で一致し、以下の点で相違する。

[一致点]
「金属元素として稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの),Al,M(MはCaおよび/またはSr)およびTi を含み、これらの成分をモル比で
aLn_(2)O_(x)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)(但し、3≦x≦4)
と表したときa,b,c,dの値が、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足する誘電体磁器。」

[相違点]
相違点B1:本件発明1は、Q値が40000以上であるのに対して、甲1発明Bは、Q値が39000である点。

相違点B2:本件発明1は、結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)、の結晶相として存在するとともに、前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を1/100000?3体積%含有するものであるのに対して、甲1発明Bは、結晶構造が不明である点。

(イ)上記相違点について検討する。
(i)相違点B1のとおり、本件発明1のQ値は40000であり、甲1発明BのQ値は39000である。これら数値は、明らかに異なる数値であり、実質的に同一であるとはいえない。したがって、相違点B1は実質的な相違点である。
よって、相違点B2について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明Bと同一であるとはいえない。

(ii)なお、甲第1号証には、甲1発明Bである誘電体磁器(甲第1号証の試料No.35)について、その結晶構造についての明示的な記載はないところ、請求人は、甲第4号証の実験において、甲第1号証の試料No.35の再現実験を試みている。しかしながら、当該試料No.35は、そもそもQ値が39000であるから、その再現実験をして、結晶構造を確認したとしても、本件発明1の新規性を否定することはできない。また、甲第35号証により、甲第1号証の試料No.35と比べ、甲1発明Aの範囲内でAl_(2)O_(3)のモル比が一部異なる試料を作製し、これにより作製した試料によって、その結晶構造やQ値を確認したとしても、それは甲第1号証に記載された実施例である甲1発明Bそのものを再現実験したものではないから、この結晶構造等を刊行物記載発明と認めることはできない。

(ウ)以上のことから、本件発明1は、甲1発明Bと同一であるとはいえない。

ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえず、特許法第29条第1項第3号の「刊行物に記載された発明」には当たらない。

(3)本件発明2?5について
本件発明2?5は、いずれも本件発明1を引用して特定されており、本件発明1の特定事項をすべて備えている。
したがって、本件発明2?5は、上記(2)で述べたのと同様の理由により、特許法第29条第1項第3号の「刊行物に記載された発明」には当たらない。

(4)無効理由1についてのまとめ
以上のとおり、本件発明1?5は、いずれも特許法第29条第1項第3号の「刊行物に記載された発明」であるとはいえないから、請求人が主張する無効理由1によっては、本件発明1?5についての特許を無効とすることはできない。

2 無効理由2について
(1)本件発明1について
ア 甲1発明Aを主引用発明として
本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点は、上記「1(2)ア(ア)」に記載したとおりである。
以下、相違点について検討する。
事案に鑑み、まず相違点A2について検討する。

[相違点A2について]
(ア)本件発明の意義
本件明細書の記載によれば、本件発明の意義は次のとおりである。
本件発明は、マイクロ波、ミリ波等の高周波領域において、高い比誘電率εr 、共振の先鋭度Q値を有する誘電体磁器に関するものである(【0001】)。
誘電体磁器は、マイクロ波やミリ波等の高周波領域において、誘電体共振器、MIC用誘電体基板や導波路等に広く利用されているが、要求される特性としては、比誘電率が大きいこと、高周波領域での誘電損失が小さいこと(すなわち高Qであること)、比誘電率εrの温度依存性が小さく且つ安定であることの3特性が主として挙げられる(【0002】)。
このような誘電体磁器として従来提案されているLnAlCaTi系誘電体磁器では、比誘電率εrが30?47の範囲において、Q値が20000?58000であり、LnAlSrCaTi系の誘電体磁器では、比誘電率εrが30?48の範囲においてQ値が20000?75000であり、LnAlCaSrBaTi系の誘電体磁器では、比誘電率εrが31?47でQ値が30000?68000であり、いずれも、場合によってはQ値が35000より小さくなるので、Q値を向上させる必要があるという課題があった(【0004】?【0007】)。
本件発明は、比誘電率εrが30?48の範囲においてQ値40000以上、特にεrが40以上の範囲においてQ値が45000以上と高く、かつ比誘電率εrの温度依存性が小さくかつ安定である誘電体磁器を提供することを目的としたものである(【0008】)。
本件発明は、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、組成式をaLn_(2)O_(X)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)(但し、3≦x≦4)と表したときa、b、c、dが所定範囲を満足し、結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり、Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相として存在するとともに、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を1/100000?3体積%含有し、Q値が40000以上である誘電体磁器である。本件発明においては、結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上とすることにより、また、1/100000?3体積%のβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)(以下「βアルミナ等」ということがある。)の結晶相を存在させることにより、Q値を向上させることができる(【0015】【0016】【0023】)。本件発明によれば、高周波領域において高い比誘電率εr及び高いQ値が得られるという効果を奏するものである(【0083】)。

(イ)甲1発明Aの要旨
甲第1号証の記載によれば、甲1発明Aの要旨は次のとおりである。
甲1発明Aは、マイクロ波領域での共振器や回路基板材料として適した新規な誘電体磁器組成物に関するものである(【0001】)。
マイクロ波用誘電体磁器は、主として共振器に用いられるが、要求される特性として、比誘電率が大きいこと、高周波での誘電損失が小さいこと(すなわち高Q値であること)、比誘電率の温度依存性が小さく且つ安定であることの3特性が主として挙げられる(【0002】)。従来、この種の誘電体磁器として知られている酸化物磁器材料は、いずれも、高周波用誘電体材料に要求される上記の3特性を共に充分には満足していない(【0003】?【0007】)。
甲1発明Aは、比誘電率が大きく、高Q値で、比誘電率の温度依存性が小さく且つ安定である誘電体磁器組成物を提供することを目的としてなされたものであり(【0008】)、金属元素として希土類元素(Ln)、Al、CaおよびTiを含み、aLn_(2)O_(x)・bAl_(2)O_(3)・cCaO・dTiO_(2)と表される誘電体磁器であって、a、b、c、d、xの値を所定の範囲に調整したものである。そして、それにより、比誘電率が大きく、高Q値で、比誘電率の温度依存性が小さく且つ安定である誘電体磁器組成物が得られるという効果を奏するものである(【0020】【0035】)。

(ウ)上記(ア)のとおり、本件発明1は、所定の組成を有する酸化物からなる誘電体磁器に関するものであるところ、結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上とすることにより、また、1/100000?3体積%のβアルミナ等の結晶相を存在させることにより、Q値を向上させたものである。他方、上記「1(2)ア」のとおり、甲1発明Aも、希土類元素(Ln)が、「Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの」である点を除き、本件発明1と同じ組成を有する酸化物からなる誘電体磁器に関するものである。
このように、甲1発明Aは、高Q値の誘電体磁器組成物を提供することを課題の一つとするものであるが、このような課題は、甲1発明Aにおいては酸化物の組成を特定の範囲に調整することにより解決されている。甲第1号証には、少なくとも、1/100000?3体積%のβアルミナ等の結晶相を存在させること、また、それによりQ値を向上させることについて記載も示唆もなく、甲第1号証は、甲1発明Aにおいて、Q値を向上させるために、1/100000?3体積%のβアルミナ等の結晶相を存在させることを動機付けるものではない。

(エ)また、以下のとおり、本件における他の証拠にも、甲1発明AのようなLn_(2)O_(3)-Al_(2)O_(3)-CaO-TiO_(2)の4成分系の誘電体磁器において、1/100000?3体積%のβアルミナ等の結晶相を存在させることにより、Q値を向上させることについて記載も示唆もない。
すなわち、甲第5号証には、薄膜コンデンサに用いられるアルミン酸ランタン-チタン酸カルシウムの固溶体をベースとしたセラミック材を得る方法について、甲第6号証には、マイクロ波周波数における(1-x)LaAlO_(3)-xSrTiO_(3)固溶体系の誘電特性について、甲第7号証には、(1-x)CaTiO_(3)-xLaAlO_(3)の誘電特性及び焼結特性について、甲第8号証には、(1-x)LaAlO_(3)-xSrTiO_(3)系のマイクロ波誘電特性及び結晶構造について、甲第9号証には、アルミニウムランタン酸化物及びカルシウムチタン酸化物の化学式、結晶系について、甲第13号証には、2成分系状態図における冷却中の共存する各相の相対量を計算する「てこの規則」について、それぞれ記載されているが、いずれにも、βアルミナ等の結晶相については何ら記載されていない。
甲第10号証には、1400℃におけるAl_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)-TiO_(2)の3成分系状態図が示されており、また、TiO_(2)、Al_(2)O_(3)、La_(2)O_(3)の組成が、それぞれ、10、70、20の場合と、10、85、5の場合(表I.の試料番号10及び11)において、β-Al_(2)O_(3)が生成することが示されている。しかし、同号証には、β-Al_(2)O_(3)とQ値との関係については何ら記載されていない。また、上記の状態図は、Al_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)-TiO_(2)の3成分系のものであり、しかも、1400℃におけるものであって、Ln_(2)O_(3)-Al_(2)O_(3)-CaO-TiO_(2)の4成分系の誘電体磁器において、室温でβ-Al_(2)O_(3)の結晶相が生成することを示すものではない。
甲第11号証には、(1-x)LaA1O_(3)-xTiO_(2)系のマイクロ波誘電特性について記載されており、x=0.1からx=0.3までの組成において、第二相はLaAl_(11)O_(18)(審決注:β-Al_(2)O_(3)である。)と同定されたこと、LaAl_(11)O_(18)のQxf値は15000より低く、LaAl_(11)O_(18)は、(1-x)LaA1O_(3)-xTiO_(2)系のQxf値を低下させる傾向にあることが記載されている。しかし、同号証に示されているのは、(1-x)LaA1O_(3)-xTiO_(2)系のものであって、Ln_(2)O_(3)-Al_(2)O_(3)-CaO-TiO_(2)の4成分系の誘電体磁器において、β-Al_(2)O_(3)の結晶相が生成することを示すものではなく、また、同4成分系の誘電体磁器において、β-Al_(2)O_(3)の結晶相を存在させることにより、Q値を向上させることを示すものでもない。
甲第12号証には、Al_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)の2成分系状態図が示されており、組成によりLa_(2)O_(3)・11Al_(2)O_(3)(審決注:β-Al_(2)O_(3)である。)が生成することが示されている。しかし、同号証には、β-Al_(2)O_(3)とQ値との関係については何ら記載されていない。また、上記の状態図は、Al_(2)O_(3)-La_(2)O_(3)の2成分系のもので、Ln_(2)O_(3)-Al_(2)O_(3)-CaO-TiO_(2)の4成分系の誘電体磁器において、β-Al_(2)O_(3)の結晶相が生成することを示すものではない。
以上のとおり、本件で提出された上記証拠には、甲1発明AのようなLn_(2)O_(3)-Al_(2)O_(3)-CaO-TiO_(2)の4成分系の誘電体磁器において、1/100000?3体積%のβアルミナ等の結晶相を存在させることにより、Q値を向上させることについて記載も示唆もない。上記の各証拠は、甲1発明Aにおいて、Q値を向上させるために、1/100000?3体積%のβアルミナ等の結晶相を存在させることを動機付けるものではない。

(オ)甲第35号証における実験は、甲1発明Aの試料No.35とはその組成を異にした試料についての実験であり、これによりその結晶構造が判明したとしても、それは前記試料No.35そのものを再現実験したものではないから、これを出願時の公知技術と同視することはできない。
また、甲第4号証において作製された、甲1発明Aの試料No.35に相当する物は、その結晶構造においてβアルミナ等の第二相を有し、そのQ値は50200であり、甲1発明Aの試料No.35のQ値39000とはQ値が異なることからすると、甲第4号証で作製された物を、直ちに甲1発明Aの試料No.35の再現実験であるとして、その結晶構造が確認できたと認めることは困難である。
また、仮に、甲第4号証の結果から甲1発明Aの試料No.35の結晶構造の確認ができたとして、甲第1号証には、斜方晶型固溶体相である均一なマトリックス相と、0.07体積%のβ-Al_(2)O_(3)構造の第二相を有し、Q値が39000である試料No.35の誘電体磁器が開示されていると認定できると仮定すると、本件発明1とは、Q値が40000以上であるか否かの点でのみ相違することになる。
念のため、この場合について検討するに、甲第1号証には、上記(イ)認定のとおり、高Q値の誘電体磁器組成物を提供することを目的とすることが記載されているところ、上記(エ)認定のとおり、甲第11号証によれば、β-Al_(2)O_(3)はQ値を低下させるものであることが知られていたから、このようなβ-Al_(2)O_(3)を含む上記結晶構造を有する試料No.35の誘電体磁器において、Q値を向上させるには、β-Al_(2)O_(3)を含まない結晶構造とすることが、当業者にとって自然な選択といえる。しかしながら、このようにβ-Al_(2)O_(3)を含まない結晶構造とすれば、本件発明1における結晶構造に関する構成を充たさないものとなる。また、甲第4号証の結果から、甲第1号証の試料No.35の誘電体磁器が、β-Al_(2)O_(3)を含む上記結晶構造を有するものであることが判明したとしても、上記結晶構造を有することの技術的意義は不明であるから、Q値を向上させるにあたり、Q値を低下させるβ-Al_(2)O_(3)をあえて少量だけ存在させる理由も見当たらない。
また、誘電体磁器の製造方法や製造条件を調整することにより、Q値を向上し得ることが考えられるものの、上記結晶構造を有する試料No.35の誘電体磁器において、どのように調整すればQ値を向上し得るかは不明であり、さらに、そのような調整により誘電体磁器の結晶構造も変化し、本件発明1における結晶構造に関する構成を満たさないものとなってしまう場合もあると考えられる。
そうすると、本件発明1は、上記結晶構造を有し、Q値が39000である試料No.35の誘電体磁器に基づいて、容易に想到することができたものとは言い難い。
以上によれば、本件発明1は、甲1発明Aとこれに甲第4号証の結果を加えたものに基づいても、1/100000?3体積%のβアルミナ等の結晶相を存在させることが容易に想到し得たものということはできない。

(カ)さらに、その他の証拠(甲第2号証?甲第4号証、甲第14号証ないし甲第43号証)の記載を合わせ見ても、甲1発明Aにおいて1/100000?3体積%のβアルミナ等の結晶相を存在させることが、当業者が容易に想到し得たものであるというに足る根拠を見出すことはできない。

(キ)以上のことから、相違点A2に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得るものとはいえず、相違点A1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明A及び甲第5号証ないし甲第13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 甲1発明Bを主引用発明として
本件発明1と甲1発明Bとの一致点及び相違点は、上記「1(2)イ(ア)」に記載したとおりである。
以下、相違点について検討する。
事案に鑑み、まず相違点B2について検討する。

[相違点B2について]
相違点B2は、本件発明1と甲1発明1Aとの相違点A2と同じである。
したがって、上記アで述べたのと同様の理由により、相違点B2に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得るものとはいえず、相違点B1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明B及び甲第5号証ないし甲第13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 本件発明1についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(2)本件発明2?5について
本件発明2?5は、いずれも本件発明1を引用して特定されており、本件発明1の特定事項をすべて備えている。
したがって、本件発明2?5は、上記(1)で述べたのと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)無効理由2についてのまとめ
上記のとおり、本件発明1?5は、いずれも甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証ないし甲第13号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえないから、請求人が主張する無効理由2によっては、本件発明1?5についての特許を無効とすることはできない。

4 無効理由3について
請求人は、審判請求書において、甲第4号証の(甲4-ク)の記載を引用しつつ、「本再現実験並びに追加実験によっても、第二相のβ-A1_(2)O_(3)の析出は、その析出量が増加するほど、焼結体の誘電特性Q・f値を低下させるものであると結論づけることができる。
・・・・・・本件明細書の段落【0015】に【作用】として記載された「本発明の誘電体磁器ではβ-Al_(2)O_(3)、および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を含有させることによりQ値を向上させることができる。」という事項は、事実に反する誤解であるといわざるを得ない。第二相の析出には、むしろQ値を低下させるマイナスの作用しかない。
そうすると、本件請求項1、3に記載のβ-Al_(2)O_(3)、および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を所定体積%含有することによる技術的意義は不明であるから、本件請求項1、3及び同項を引用した本件請求項2、4、5の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではない」(審判請求書32頁5行?33頁6行)と主張している。
しかしながら、請求人の上記主張は採用できない。その理由は以下のとおりである。
本件明細書には、本件発明においてβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を所定体積%含有することの技術的意義について、「本発明の誘電体磁器においてQ値を高くすることができるのは、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)を含有させることによって焼結体中の酸素欠陥が減少するためであると考えられる。」(【0022】)との記載がある。そして、ここに記載された考察について、被請求人は、平成23年3月9日付け上申書の5頁11行?7頁5行において、乙第11号証記載の式(4.7)と同様の欠陥反応式を示しつつ、Al_(2)O_(3)が固溶して酸素欠陥を含有するCaTiO_(3)のペロブスカイト型結晶から1/12モルのβ-Al_(2)O_(3)が析出するとき、17/12モルの酸素欠陥が消滅すること、そして、θ-Al_(2)O_(3)が析出する場合も酸素欠陥が減少することを説明している。
したがって、本件明細書には、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を所定体積%含有することについて、合理的に理解し得る一応の技術的意義が記載されているということができる。
よって、本件の請求項1、3に記載されたβ-Al_(2)O_(3)、および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を所定体積%含有することによる技術的意義が不明であるとはいえず、本件の請求項1、3及び同項を引用した請求項2、4、5の記載は、特許を受けようとする発明が明確ではないとはいえない。
したがって、請求人が主張する無効理由3によっては、本件発明1?5についての特許を無効とすることはできない。

第8 むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1?5についての特許を無効とすることはできない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
誘電体磁器及びこれを用いた誘電体共振器
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、
組成式をaLn_(2)O_(X)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)(但し、3≦x≦4)と表したときa、b、c、dが、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足し、結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相として存在するとともに、前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を1/100000?3体積%含有し、1GHzでのQ値に換算した時のQ値が40000以上であることを特徴とする誘電体磁器。
【請求項2】
金属元素としてMn、WおよびTaのうち少なくとも1種を合計でMnO_(2)、WO_(3)およびTa_(2)O_(5)換算で合計0.01?3重量%含有することを特徴とする請求項1に記載の誘電体磁器。
【請求項3】
前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を1/5000?0.5体積%含有することを特徴とする請求項1または2に記載の誘電体磁器。
【請求項4】
前記β-Al_(2)O_(3)およびθ-Al_(2)O_(3)の平均結晶粒径は、0.1?40μmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の誘電体磁器。
【請求項5】
一対の入出力端子間に請求項1乃至4のいずれかに記載の誘電体磁器を配置してなり、電磁界結合により作動するようにしたことを特徴とする誘電体共振器。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、マイクロ波、ミリ波等の高周波領域において、高い比誘電率εr、共振の先鋭度Q値を有する誘電体磁器及び誘電体共振器に関し、例えば前記高周波領域において使用される種々の共振器用材料やMIC(Monolithic IC)用誘電体基板材料、誘電体導波路用材料や積層型セラミックコンデンサー等に使用される誘電体磁器及びこれを用いた誘電体共振器に関する。
【0002】
【従来の技術】
誘電体磁器は、マイクロ波やミリ波等の高周波領域において、誘電体共振器、MIC用誘電体基板や導波路等に広く利用されている。その要求される特性としては、(1)誘電体中では伝搬する電磁波の波長が(1/εr)^(1/2)に短縮されるので、小型化の要求に対して比誘電率が大きいこと、(2)高周波領域での誘電損失が小さいこと、すなわち高Qであること、(3)共振周波数の温度に対する変化が小さいこと、即ち比誘電率εrの温度依存性が小さく且つ安定であること、以上の3特性が主として挙げられる。
【0003】
この様な誘電体磁器として、例えば特開平4-118807にはCaO-TiO_(2)-Nb_(2)O_(5)-MO(MはZn、Mg、Co、Mn等)系からなる誘電体磁器が示されている。しかし、この誘電体磁器では、1GHzに換算した時のQ値が1600?25000程度と低く、共振周波数の温度係数τfが215?835ppm/℃程度と大きいため、Q値を向上させ、かつτfを小さくするという課題があった。
【0004】
そこで、本出願人は、LnAlCaTi系の誘電体磁器(特開平6-76633号公報参照、Lnは稀土類元素)、LnAlSrCaTi系の誘電体磁器(特開平11-278927号参照)およびLnAlCaSrBaTi系の誘電体磁器(特開平11-106255号参照)を提案した。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、LnAlCaTi系誘電体磁器(特開平6-76633号公報参照、Lnは稀土類元素)では、比誘電率εrが30?47の範囲においてQ値が20000?58000であり、場合によってはQ値が35000より小さくなるのでQ値を向上させる必要があるという課題があった。
【0006】
また、LnAlSrCaTi系の誘電体磁器(特開平11-278927号参照)では比誘電率εrが30?48の範囲においてQ値が20000?75000であり、同様に場合によってはQ値が35000より小さくなるのでQ値を向上させる必要があるという課題があった。
【0007】
さらに、LnAlCaSrBaTi系の誘電体磁器(特開平11-106255号参照)では、比誘電率εrが31?47でQ値が30000?68000であり、同様に場合によってはQ値が35000より小さくなるのでQ値を向上させる必要があるという課題があった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みて完成されたもので、その目的は比誘電率εrが30?48の範囲においてQ値40000以上、特にεrが40以上の範囲においてQ値が45000以上と高く、かつ比誘電率εrの温度依存性が小さくかつ安定である誘電体磁器及び誘電体共振器を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の誘電体磁器は、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、
組成式をaLn_(2)O_(X)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)(但し、3≦x≦4)と表したときa、b、c、dが、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足し、結晶系が六方晶および/または斜方晶の結晶を80体積%以上有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相として存在するとともに、前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を1/100000?3体積%含有し、1GHzでのQ値に換算した時のQ値が40000以上であることを特徴とする。
【0011】
さらに、金属元素としてMn、WおよびTaのうち少なくとも1種を合計でMnO_(2)、WO_(3)およびTa_(2)O_(5)換算で0.01?3重量%含有することを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明の誘電体共振器は、一対の入出力端子間に上記誘電体磁器を配置し、電磁界結合により作動する誘電体共振器を構成したものである。
【0015】
【作用】
本発明の誘電体磁器ではβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相を含有させることによりQ値を向上させることができる。
【0016】
また、結晶系が六方晶および/または斜方晶である結晶を80体積%以上とすることにより、Q値を向上させることができる。
【0017】
なお、本発明の誘電体磁器は、上記原料を成形し、1630℃?1680℃で5?10時間保持した後、1630?1300℃を310?500℃/時間で降温し、さらに1300?1100℃を5?100℃/時間で降温し、さらにまた1100?1050℃で20時間以上保持して焼成する工程を含む製造方法により、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)を生成させ、結晶系が六方晶または/および斜方晶である結晶を80体積%以上とすることにより高いQ値を得ることができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明について以下に説明する。
【0019】
本発明における誘電体磁器とは、未焼結体を成形し、焼成して得られる焼結体のことを意味している。そして、Q値を高くするためには、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaまたは/およびSr)、及びTiを含有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相として存在することが重要である。
【0020】
特に本発明の誘電体磁器はLnAlO_((X+3)/2)(3≦x≦4)とMTiO_(3)との固溶体からなるペロブスカイト型結晶を主結晶相とし、他の結晶相としてβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)が存在することが好ましい。
【0021】
このように本発明の誘電体磁器はβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)を含有することにより、特に共振器用の誘電体磁器として優れた誘電特性を得ることができる。
【0022】
本発明の誘電体磁器においてQ値を高くすることができるのは、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)を含有させることによって焼結体中の酸素欠陥が減少するためであると考えられる。
【0023】
また、前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)を1/100000?3体積%含有することが重要である。これは前記β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の含有量を1/100000?3体積%含有すると著しくQ値が向上するからである。さらにQ値を高くするためには1/20000?2体積%含有することが好ましい。またさらにQ値を高くするためには1/5000?0.5体積%の範囲で含有することが特に好ましい。
【0024】
また、Q値を著しく高くするためには、β-Al_(2)O_(3)とθ-Al_(2)O_(3)との平均結晶粒径は0.1?40μmが好ましく、特に好ましくはβ-Al_(2)O_(3)の平均結晶粒径は0.1?6μm、θ-Al_(2)O_(3)の平均結晶粒径は3?40μmである。また著しくQ値を高くするためには前記β-Al_(2)O_(3)の結晶の平均アスペクト比は2?30が好ましい。
【0025】
また、前記稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなる結晶のうち、結晶系が六方晶および/または斜方晶である結晶が80体積%以上であることが重要であり、これによってさらにQ値を向上させることができる。特にQ値を向上させるためには六方晶および/または斜方晶である結晶が90体積%以上であることが望ましい。本発明において、六方晶および/または斜方晶である結晶の体積%が80体積%以上であるとQ値を向上させることができる理由は、六方晶および斜方晶は比較的対称性の高い結晶系であるため、六方晶および/または斜方晶である結晶系を多く含有させることによりQ値が向上すると考えられる。
【0026】
前記稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなる結晶のうち、結晶系が六方晶および斜方晶である結晶であるとは、該結晶が六方晶および斜方晶いずれの結晶系をも満足するということである。例えば該結晶は六方晶のLaAlO_(3)と斜方晶のCaTiO_(3)の結晶構造を同時に満足する。
【0027】
さらに、本発明の誘電体磁器は金属元素としてMn、WおよびTaのうち少なくとも1種以上をMnO_(2)、WO_(3)およびTa_(2)O_(5)換算で0.01?3重量%含有するものである。Mn、WおよびTaのうち少なくとも1種以上をMnO_(2)、WO_(3)およびTa_(2)O_(5)換算で0.01?3重量%含有するのは、0.01?3重量%含有すると著しくQ値が向上するからである。Q値を高くするためにはMn、WおよびTaのうち少なくとも1種を全量中MnO_(2)、WO_(3)およびTa_(2)O_(5)換算で特に0.02?2重量%含有することが好ましく、さらにMnをMnO_(2)換算で0.02?0.5重量%含有することが好ましい。
【0028】
さらに、本発明における誘電体磁器は、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有し、組成式を
aLn_(2)O_(X)・bAl_(2)O_(3)・cMO・dTiO_(2)
(但し、3≦x≦4)
と表したときa、b、c、dが、
0.056≦a≦0.214
0.056≦b≦0.214
0.286≦c≦0.500
0.230<d<0.470
a+b+c+d=1
を満足することが重要である。
【0029】
本発明の誘電体磁器において、各成分のモル比a、b、c、dを上記の範囲に限定した理由は以下の通りである。
【0030】
即ち、0.056≦a≦0.214としたのは、0.056≦a≦0.214の場合、εrが大きく、Q値が高く、共振周波数の温度係数τfの絶対値が小さくなるからである。特に、0.078≦a≦0.1166が好ましい。
【0031】
0.056≦b≦0.214としたのは、0.056≦b≦0.214の場合、εrが大きく、Q値が高く、τfの絶対値が小さくなるからである。特に、0.078≦b≦0.1166が好ましい。
【0032】
0.286≦c≦0.500としたのは、0.286≦c≦0.500の場合、εrが大きく、Q値が高く、τfの絶対値が小さくなるからである。特に、0.330≦c≦0.470が好ましい。
【0033】
0.230<d<0.470としたのは、0.230<d<0.470の場合、εrが大きく、Q値が高く、τfの絶対値が小さくなるからである。特に、0.340≦d≦0.45が好ましい。
【0034】
本発明においてはQ値を高くするためには0.75≦(b+d)/(a+c)≦1.25が好ましい。さらにQ値を高くするためには0.85≦(b+d)/(a+c)≦1.15であることが特に好ましい。
【0035】
ここで、本発明の誘電体磁器に含まれるβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)からなる結晶の存在、各結晶の結晶系の同定は、透過電子顕微鏡による観察、制限視野電子回折像による解析およびエネルギ-分散型X線分光分析(EDS分析)による測定、または微小X線回折法などによる測定等により行う。本発明の誘電体磁器に含まれるβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)からなる結晶の存在、および結晶系が六方晶および/または斜方晶である結晶の体積%などを測定する場合は、透過電子顕微鏡による観察、制限視野電子回折像による解析およびエネルギ-分散型X線分光分析(EDS分析)による測定が好ましい。
【0036】
透過電子顕微鏡による観察、制限視野電子回折像による解析およびEDS分析により、本発明の誘電体磁器に含まれるβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)からなる結晶の存在の確認、各結晶の結晶系の同定等を行う場合は、例えば以下の(A)?(G)の様に行う。
【0037】
(A)誘電体磁器の内部の結晶を倍率2000?8000倍程度で、5×10^(-3)?5×10^(-2)mm^(2)程度の面積を写真および制限視野回折像により観察し、各結晶の電子回折像を解析し結晶構造を同定する。
【0038】
(B)(A)で同定した結晶の結晶構造がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)である場合、この結晶を本発明の誘電体磁器に含有するβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)とする。
【0039】
(C)(A)で観察した結晶写真の総面積に対する(B)で同定したβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)に該当する結晶の面積の割合を求め、この割合をそれぞれβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の体積%とする。
【0040】
(D)(B)で同定したβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の平均結晶粒径Hdを、(C)のβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)に該当する結晶の面積をβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶の数で割った値をAとして、Hd=2(A/π)^(1/2)により求める。
【0041】
(E)β-Al_(2)O_(3)の結晶のアスペクト比は結晶写真より求める。
【0042】
(F)さらに、上記(A)で同定した各結晶をEDS分析し、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)である結晶は他の結晶に比べてAlが相対的に多いかまたは/およびTiが相対的に少ない結晶であることを確認することができる。
【0043】
(G)(A)で同定した結晶のうち、稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなる結晶の結晶構造が六方晶および/または斜方晶である結晶の体積%を求める。前記体積%は磁器が写っている写真の面積のうち、稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなる結晶の面積%を体積%と換算する。
【0044】
なお、測定装置は例えばJEOL社の透過型電子顕微鏡JEM2010FおよびNoran Instruments社のEDS分析装置VoyagerIVを用いる。また、上記(A)?(F)の測定は焼結体内部を測定する。また、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)からなる結晶は本発明の誘電体磁器に含まれる六方晶および/または斜方晶からなる結晶とは定義しない。
【0045】
また、本発明の誘電体磁器に含まれる六方晶および/または斜方晶の結晶は、例えば六方晶のLaAlO_(3)、AlNdO_(3)、斜方晶のCaTiO_(3)などのうち少なくとも1種以上で同定される。本発明の誘電体磁器に含まれる六方晶および/または斜方晶の結晶系からなる結晶が同時に立方晶の結晶系からなる結晶構造でも同定される場合の結晶系は、六方晶および/または斜方晶と定義する。例えば結晶系が立方晶であるSrTiO_(3)および/またはLaTiO_(3)で同定され、かつ六方晶および/または斜方晶でも同定される結晶は、六方晶および/または斜方晶の結晶系からなる結晶とする。
【0046】
また、本発明の試料に含まれる稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなる結晶のうち、結晶系が六方晶および/または斜方晶以外の結晶系からなる結晶は、結晶構造が不明であるか、または例えば正方晶のSrLaAlO_(3)、Sr_(4)Ti_(3)O_(10)、Sr_(2)TiO_(4)、Sr_(3)Al_(2)O_(7)、SrLa_(2)Ti_(14)O_(12)、単斜晶のSrAl_(2)O_(4)、Nd_(2)Ti_(2)O_(7)、SrAl_(4)O_(7)、などの結晶構造のうち少なくとも1種以上で同定される。
【0047】
本発明の誘電体磁器中に含有するβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)は例えば、La_(2)O_(3)・11Al_(2)O_(3)、Nd_(2)O_(3)・11Al_(2)O_(3)、CaO・6Al_(2)O_(3)、SrO・6Al_(2)O_(3)などのうち少なくとも1種からなる。また、本発明の誘電体磁器に含有するβ-Al_(2)O_(3)の結晶構造は例えばJCPDS-ICDDのNo.10-0414のβ-Al_(2)O_(3)からなり、θ-Al_(2)O_(3)の結晶構造はJCPDS-ICDDのNo.11-0517のθ-Al_(2)O_(3)からなる。また、本発明の誘電体磁器に含有するβ-Al_(2)O_(3)はβ′-Al_(2)O_(3)および/またはβ″-Al_(2)O_(3)であっても良い。
【0048】
本発明の誘電体磁器に含有される稀土類元素(Ln)はY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、ErおよびYbの酸化物のうち少なくとも1種以上からなることが望ましい。Q値を高くするためには稀土類元素はLa、Nd、Sm、Eu、Gd、Dyのうち少なくとも1種以上からなることが好ましい。さらにQ値を高くするためには稀土類元素はLa、Nd、Smのうち少なくとも1種以上からなることが特に望ましい。本発明においてQ値を高くするためには稀土類元素のうちLaが最も好ましい。
【0049】
本発明の誘電体磁器の製造方法としては、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaまたは/およびSr)、及びTiを含有する成形体を1630?1680℃で5?10時間焼成した後、1630?1300℃を310?500℃/時間で降温し、さらに1300?1100℃を5?100℃/時間で降温し、さらにまた1100?1050℃で20時間以上保持する工程を含むことを特徴とする。この製造方法を用いることにより、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)が生成してQ値を高くすることができる。また、上述の本発明の製造方法により、稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなる結晶のうち、結晶系が六方晶および/または斜方晶である結晶を80体積%以上とすることができ、その結果Q値を向上させることができる。
【0050】
さらにQ値を高くするため、さらに1050?1000℃で20時間以上保持することが好ましい。好ましくは、1630℃?1680℃で6?9時間保持した後、1630?1300℃を350?450℃/時間で降温し、さらに1300?1100℃を8?40℃/時間で降温し、さらにまた1100?1050℃で30時間以上保持して焼成する。また、本発明の製造方法は、前記原料を所定形状に成形する前に前記原料を1320?1350℃で1?10時間仮焼する工程を含むことが好ましい。1320℃未満あるいは1350℃よりも高い温度での仮焼では焼成工程でβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)が十分生成しないため、Q値の向上の効果が著しくないからである。
【0051】
本発明の仮焼条件にすることにより焼成工程でβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)が十分生成し、その結果Q値を著しく向上させることができる。また、本発明の誘電体磁器の製造方法として、前記誘電体磁器の出発原料にさらに金属元素としてMn、WおよびTaのうち少なくとも1種をMnO_(2)、WO_(3)およびTa_(2)O_(5)換算で全量中0.01?3重量%含有する原料を前記の工程により製造することにより、さらにQ値の高い誘電体磁器を得ることができる。
【0052】
本発明の製造方法によりQ値を高くすることができるのは、焼結過程、特に高温での保持とその後の降温過程を本発明の製造方法に限定することにより、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)が生成するとともに焼結体中の酸素欠陥が減少するためであると考えられる。また、Mn、WおよびTaをMnO_(2)、WO_(3)およびTa_(2)O_(5)換算で0.01?3重量%含有することによりさらに酸素欠陥が減少し、さらにQ値を高くすることができると考えられる。
【0053】
本発明の誘電体磁器の製造方法は具体的には、例えば以下の工程(1a)?(5a)から成る。
【0054】
(1a)出発原料として、高純度の稀土類酸化物および酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸ストロンチウムおよび酸化チタンの各粉末を用いて、所望の割合となるように秤量後、純水を加え、混合原料の平均粒径が2.0μm以下、望ましくは0.6?1.4μmとなるまで1?100時間、ジルコニアボール等を使用したボールミルにより湿式混合及び粉砕を行う。
【0055】
(2a)この混合物を乾燥後、1320?1350℃で1?10時間仮焼し、仮焼物を得る。
【0056】
(3a)得られた仮焼物と、炭酸マンガン(MnCO_(3))、酸化タングステン(WO_(3))および酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))とを混合し、純水を加え、平均粒径が2.0μm以下、望ましくは0.6?1.4μmとなるまで1?100時間、ジルコニアボール等を使用したボールミルにより湿式混合及び粉砕を行う。
【0057】
(4a)更に、3?10重量%のバインダーを加えてから脱水し、その後公知の例えばスプレードライ法等により造粒または整粒し、得られた造粒体又は整粒粉体等を公知の成型法、例えば金型プレス法、冷間静水圧プレス法、押し出し成形法等により任意の形状に成形する。尚、造粒体又は整粒粉体等の形態は粉体等の固体のみならず、スラリー等の固体、液体混合物でも良い。この場合、液体は水以外の液体、例えばIPA(イソプロピルアルコール)、メタノ-ル、エタノ-ル、トルエン、アセトン等でも良い。
【0058】
(5a)得られた成形体を1630℃?1680℃で5?10時間保持した後、1630?1300℃を310?500℃/時間で降温し、さらに1300?1100℃を5?100℃/時間で降温し、さらにまた1100?1050℃で20時間以上保持して焼成し、本発明の誘電体磁器を得ることができる。また、さらに1050?1000℃で20時間以上保持して本発明の誘電体磁器を製造しても良い。
【0059】
また、本発明の誘電体磁器の製造方法において、1630℃?1680℃で5?10時間保持するのは1630℃未満あるいは1680℃より高い温度で保持するとQ値が低下するからであり、1630?1300℃を310?500℃/時間で降温するのは310℃/時間未満あるいは500℃/時間より大きい降温速度ではQ値が低下するからであり、さらに1300?1100℃を5?100℃/時間で降温するのは5℃/時間未満あるいは100℃/時間より大きい降温速度ではQ値が低下するからであり、さらにまた1100?1050℃で20時間以上保持して焼成するのは20時間未満の保持ではQ値が低下するからである。またさらにQ値を上げるため1050?1000℃で20時間以上保持するのは20時間未満の保持ではQ値が低下するからである。また、1320?1350℃で仮焼するのはQ値を向上させるためである。
【0060】
更に、本発明の誘電体磁器は、さらにZnO、NiO、SnO_(2)、Co_(3)O_(4)、ZrO_(2)、LiCO_(3)、Rb_(2)CO_(3)、Sc_(2)O_(3)、V_(2)O_(5)、CuO、SiO_(2)、BaCO_(3)、MgCO_(3)、Cr_(2)O_(3)、B_(2)O_(3)、GeO_(2)、Sb_(2)O_(5)、Nb_(2)O_(5)、Ga_(2)O_(3)等を添加しても良い。これらは、その添加成分にもよるが、εrや共振周波数の温度係数τfの値の適正化などを目的として主成分100重量部に対して合計5重量部以下の割合で添加することができる。
【0061】
また、本発明の誘電体磁器は、特に誘電体共振器の誘電体磁器として最も好適に用いられる。図1に、TEモ-ド型の誘電体共振器の概略図を示した。図1の誘電体共振器は、金属ケース1内壁の相対する両側に入力端子2及び出力端子3を設け、これらの入出力端子2、3の間に上記誘電体磁器からなる誘電体磁器4を配置して構成される。このようなTEモ-ド型誘電体共振器は、入力端子2からマイクロ波が入力され、マイクロ波は誘電体磁器4と自由空間との境界の反射によって誘電体磁器4内に閉じこめられ、特定の周波数で共振を起こす。この信号が出力端子3と電磁界結合して出力される。
【0062】
また、図示しないが、本発明の誘電体磁器を、TEMモードを用いた同軸型共振器やストリップ線路共振器、TMモードの誘電体磁器共振器、その他の共振器に適用して良いことは勿論である。更には、入力端子2及び出力端子3を誘電体磁器4に直接設けても誘電体共振器を構成できる。
【0063】
上記誘電体磁器4は、本発明の誘電体磁器からなる所定形状の共振媒体であるが、その形状は直方体、立方体、板状体、円板、円柱、多角柱、その他共振が可能な立体形状であればよい。また、入力される高周波信号の周波数は1?500GHz程度であり、共振周波数としては2GHz?80GHz程度が実用上好ましい。
【0064】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更は何等差し支えない。
【0065】
【実施例】
出発原料として高純度の稀土類酸化物、酸化アルミニウム(Al_(2)O_(3))、炭酸カルシウム(CaCO_(3))、炭酸ストロンチウム(SrCO_(3))、酸化チタン(TiO_(2))の各粉末を用いそれらを表1のモル比a、b、c、dとなるように秤量後、純水を加え混合し、この混合原料の平均粒径が2.0μm以下となるまで、ボールミルにより約20時間湿式混合し、粉砕を行った。この混合物を乾燥後、1330℃で2時間仮焼し、仮焼物を得た。この仮焼物に炭酸マンガン(MnCO_(3))、酸化タングステン(WO_(3))および酸化タンタル(Ta_(2)O_(5))を表1の重量%となる様混合後、純水を加え、この混合原料の平均粒径が2.0μm以下となるまで、ボールミルにより約20時間湿式混合し、粉砕を行った。
【0066】
更に、得られたスラリーに5重量%のバインダーを加え、スプレードライにより整粒した。得られた整粒粉体を約1ton/cm^(2)の圧力で円板状に成形後脱脂した。脱脂した成形体を大気中で1630℃?1680℃で5?10時間保持した後、1630?1300℃を310?500℃/時間で降温し、さらに1300?1100℃を5?100℃/時間で降温し、さらにまた1100?1050℃で30時間保持、1050?1000℃で30時間保持して焼成した。
【0067】
そして、得られた焼結体の円板部(主面)を平面研磨し、アセトン中で超音波洗浄し、150℃で1時間乾燥した後、円柱共振器法により測定周波数3.5?4.5GHzで比誘電率εr、Q値、共振周波数の温度係数τfを測定した。Q値は、マイクロ波誘電体において一般に成立する(Q値)×(測定周波数f)=(一定)の関係から、1GHzでのQ値に換算した。共振周波数の温度係数は、25℃の時の共振周波数を基準にして、25?85℃の温度係数τfを算出した。
【0068】
また、焼結体をTechnoorg Linda製イオンシニング装置を用いて加工し、透過電子顕微鏡による観察、制限視野電子回折像による解析およびEDS分析により、焼結体に含有するβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の体積%、結晶粒径、アスペクト比等、および結晶系が六方晶および/または斜方晶である結晶の体積%などを下記(2a)?(2f)の通り測定した。
【0069】
(2a)焼結体の内部の結晶を倍率5000倍で、1×10^(-3)mm^(2)以上の面積を制限視野回折像により観察し、30個以上の結晶について結晶構造の同定およびEDS分析を行った。
【0070】
(2b)(2a)のEDS分析においてAlが他の結晶よりも相対的に多くかつTiが検出されなかった結晶の制限視野電子回折像を解析し、結晶構造を同定した。図2(a)および2(b)にAlが他の結晶粒子よりも相対的に多くTiが検出されなかったβ-Al_(2)O_(3)の結晶粒子11およびθ-Al_(2)O_(3)の結晶粒子12の制限視野回折像の模式図の例を示した。また、各結晶粒子11、12のEDS分析結果の模式図の例をそれぞれ図4、5に示した。図4より結晶粒子11はAlを主成分として、CaおよびLaを含有していることがわかる。また図5より結晶粒子12はAlを主成分として、SrおよびLaを含有していることがわかる。なお図4、5においてMoは試料補強板より検出されたものである。
【0071】
(2c)(2b)で同定した結晶構造がJCPDS-ICDDのNo.10-0414のβ-Al_(2)O_(3)および/またはJCPDS-ICDDのNo.11-0517のθ-Al_(2)O_(3)に該当する結晶を、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)とした。一例として図2(a)の結晶粒子11の結晶構造を同定したところJCPDS-ICDDのNo.10-0414のβ-Al_(2)O_(3)であることがわかった。この結果を図3(a)に模式図として示した。図3(a)はJCPDS-ICDDのNo.10-0414のβ-Al_(2)O_(3)の(h=-1、k=1、l=0)面と同定されたことを示す。また図2(b)の結晶粒子12の結晶構造を同定したところJCPDS-ICDDのNo.11-0517のθ-Al_(2)O_(3)であることがわかった。この結果を図3(b)に示した。図3(b)はJCPDS-ICDDのNo.11-0517のθ-Al_(2)O_(3)の(h=-2、k=4、l=-1)面と同定されたことを示す。
【0072】
(2d)(2a)で観察した結晶写真の面積に対する(2c)で同定したβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)に該当する結晶の面積の割合を求め、この割合をβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の体積%とした。
【0073】
(2e)β-Al_(2)O_(3)の結晶の平均アスペクト比は結晶写真より2?8であった。
【0074】
(2f)(2a)で同定した結晶のうち、稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなる結晶の結晶構造が六方晶および/または斜方晶である結晶の体積%を求めた。前記体積%は磁器が写っている写真の面積のうち、稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなる結晶の面積%を体積%とした。ただし、β-Al_(2)O_(3)およびθ-Al_(2)O_(3)からなる結晶は六方晶または/および斜方晶からなる結晶の体積%には含めなかった。
【0075】
本発明の誘電体磁器試料に含まれる結晶系が六方晶および/または斜方晶である結晶は、結晶構造がJCPDS-ICDDのNo.31-0022の六方晶LaAlO_(3)、JCPDS-ICDDのNo.39-0487の六方晶AlNdO_(3)、JCPDS-ICDDのNo.42-0423の斜方晶CaTiO_(3)のうち少なくとも1種以上で同定された。また、本発明の誘電体磁器試料のうち結晶構造が六方晶LaAlO_(3)で同定されたもののいくつかは、結晶構造が立方晶SrTiO_(3)および/または立方晶LaTiO_(3)でも同定された。また、本発明の誘電体磁器試料のうち結晶構造が六方晶LaAlO_(3)で同定されたもののいくつかは、結晶構造が斜方晶CaTiO_(3)でも同定された。
【0076】
また、本発明の試料に含まれる稀土類元素(Ln)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなる結晶のうち、結晶系が六方晶および/または斜方晶以外の結晶系からなる結晶は、結晶構造が不明であるか、または例えば正方晶のSrLaAlO_(3)、Sr_(4)Ti_(3)O_(10)、Sr_(2)TiO_(4)、Sr_(3)Al_(2)O_(7)、SrLa_(2)Ti_(14)O_(12)、単斜晶のSrAl_(2)O_(4)、Nd_(2)Ti_(2)O_(7)、SrAl_(4)O_(7)などの結晶構造のうち少なくとも1種以上で同定された
なお、測定装置はJEOL社の透過型電子顕微鏡JEM2010FおよびNoran Instruments社のEDS分析装置VoyagerIVを用いた。
【0077】
これらの結果を表1?3に示す。なお、表1において例えば稀土類元素の比率が0.1Y・0.9Laの試料はYとLaのモル比が0.1:0.9であることを表す。
【0078】
表1?3から明らかなように、β-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)が存在する本発明の範囲内のNo.1、22、27、29?48は、比誘電率εrが30?48、1GHzに換算した時のQ値が40000以上、特にεrが40以上の場合のQ値が45000以上と高く、τfが±30(ppm/℃)以内の優れた誘電特性が得られた。
【0079】
一方、β-Al_(2)O_(3)、θ-Al_(2)O_(3)を含まない本発明の範囲外の誘電体磁器(No.49?56)は、εrが低いか、Q値が低いか、又はτfの絶対値が30を超えていた。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
【発明の効果】
本発明において、金属元素として少なくとも稀土類元素(Ln:但し、Laを稀土類元素のうちモル比で90%以上含有するもの)、Al、M(MはCaおよび/またはSr)、及びTiを含有する酸化物からなり、前記Alの酸化物の少なくとも一部がβ-Al_(2)O_(3)および/またはθ-Al_(2)O_(3)の結晶相として存在することにより、高周波領域において高い比誘電率εr及び高いQ値を得ることができる。これにより、マイクロ波やミリ波領域において使用される共振器用材料やMIC用誘電体基板材料、誘電体導波路、誘電体アンテナ、その他の各種電子部品等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の誘電体共振器を示す断面図である。
【図2】(a)(b)は本発明の誘電体磁器の制限視野電子回折像を示す写真の模式図である。
【図3】(a)(b)は図2の結晶粒子11、12の制限視野電子回折像の解析結果を示す写真の模式図である。
【図4】図2(a)の結晶粒子11のEDS分析結果の模式図である。
【図5】図2(b)の結晶粒子12のEDS分析結果の模式図である。
【符号の説明】
1:金属ケ-ス
2:入力端子
3:出力端子
4:誘電体磁器
11:結晶粒子
12:結晶粒子
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の誘電体共振器を示す断面図である。
【図2】(a)(b)は本発明の誘電体磁器の制限視野電子回折像を示す写真の模式図である。
【図3】(a)(b)は図2の結晶粒子11、12の制限視野電子回折像の解析結果を示す写真の模式図である。
【図4】図2(a)の結晶粒子11のEDS分析結果の模式図である。
【図5】図2(b)の結晶粒子12のEDS分析結果の模式図である。
【符号の説明】
1:金属ケ-ス
2:入力端子
3:出力端子
4:誘電体磁器
11:結晶粒子
12:結晶粒子
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2015-02-27 
結審通知日 2015-03-03 
審決日 2015-03-18 
出願番号 特願2000-282287(P2000-282287)
審決分類 P 1 113・ 121- YA (C04B)
P 1 113・ 537- YA (C04B)
P 1 113・ 113- YA (C04B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 大橋 賢一  
特許庁審判長 木村 孔一
特許庁審判官 河原 英雄
鈴木 正紀
登録日 2006-07-21 
登録番号 特許第3830342号(P3830342)
発明の名称 誘電体磁器及びこれを用いた誘電体共振器  
代理人 田上 洋平  
代理人 井上 裕史  
代理人 松本 司  
代理人 松本 司  
代理人 松原 等  
代理人 田上 洋平  
代理人 井上 裕史  

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