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審判番号(事件番号) データベース 権利
無効2010800088 審決 特許
無効2014800135 審決 特許
無効2012800042 審決 特許
無効2011800071 審決 特許
無効2012800032 審決 特許

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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  A61K
審判 全部無効 1項3号刊行物記載  A61K
管理番号 1301834
審判番号 無効2014-800104  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2014-06-18 
確定日 2015-05-25 
訂正明細書 有 
事件の表示 上記当事者間の特許第5449730号発明「更年期障害改善剤及び栄養補助食品」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 請求のとおり訂正を認める。 特許第5449730号の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効とする。 審判費用は、被請求人の負担とする。 
理由
第1 手続の経緯

本件特許第5449730号は、平成20年9月29日に、平成23年改正前特許法第30条第1項の規定の適用を受けようとする旨を記載して出願され、その後、同年6月11日の電気通信回線を通じた発表(http://www.pla-ocean.com/、及び、http://www.pla-ocean.com/about/index.html)について記載した「発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書」を提出し、平成26年1月10日に特許権の設定登録がされたものである。

請求人は、平成26年6月18日付けで本件特許の請求項1及び2に係る発明について特許無効審判請求を行い、被請求人は、同年9月5日付けで答弁書を提出するとともに、同日付けで訂正請求を行った。その後、同年12月12日に口頭審理を行ったが、それに先立ち、請求人及び被請求人は、同年11月28日付けでそれぞれ口頭審理陳述要領書を提出した。

そして、平成26年12月25日付けで審決の予告をしたが、被請求人から訂正の請求はなされなかった。

第2 訂正請求について

(1)訂正請求の内容
平成26年9月5日付け訂正請求は、請求の趣旨を「特許第544973
0号の明細書、特許請求の範囲を本件請求書に添付した訂正明細書、特許請求の範囲のとおり請求項ごとに訂正することを求める」とするものであり、訂正事項は以下のとおりと認められる。

ア.訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「クエン酸及を含む」とあるのを、「クエン酸及び液糖を含む」に訂正する。

イ.訂正事項2
願書に添付した明細書の段落【0010】に記載された「イソフラボン及び高麗人参またはその抽出物の少なくとも一方を含む栄養補助食品」とあるのを、「イソフラボン及び高麗人参またはその抽出物を含むとともに、シャンピニオンエキスとクエン酸及び液糖を含む清涼飲料である栄養補助食品」に訂正する。

(2)訂正請求の適否
訂正事項1は、訂正前の請求項1に記載されていた栄養補助食品を「液糖」を含むものに限定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

また、訂正事項2は、訂正された特許請求の範囲に表現を一致させるべく、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、願書に添付した明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

したがって、本件訂正は、特許法第134条の2第1項ただし書の規定及び同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正を認める。

第3 当事者の主張の概要

1.請求人の主張の概要
審判請求書及び口頭審理陳述要領書の記載によれば、請求人が主張する無効理由の概要は、次のとおりであり、証拠方法として甲第1号証?甲第20号証を提出している。

(1)無効理由1
本件請求項2に係る発明は、甲第1号証に記載のとおり、本件特許の出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能になった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。

(2)無効理由2
本件請求項1に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明並びに周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものである。

<証拠方法>
甲第1号証:インターネット通販サイト「健康若葉」における「プラ オーシャン」の商品紹介ページ(http://www.kenko-wakaba.com/product/MZ-PO01.html)、2008年9月23日

甲第2号証: 特開2008-13441号公報

甲第3号証: 特開2000-262244号公報

甲第4号証: 特開2007-186483号公報

甲第5号証: 特開2005-229855号公報

甲第6号証: 特開平9-56368号公報

甲第7号証: 特開平7-267977号公報

甲第8号証: 特開2008-17815号公報

甲第9号証: 特開2007-244325号公報

甲第10号証: 「岩波 理化学辞典 第5版」、株式会社岩波書店、第5版第6刷、2002年10月15日、 「600 プロテアーゼ」の項

甲第11号証: 日本化粧品技術者会編、「化粧品事典」、丸善株式会社、第2刷、平成16年9月25日、第468?469頁、 「更年期」の項

甲第12号証: 「南山堂 医学大辞典」、株式会社南山堂、第17版第4刷、1992年8月31日、第1480頁、 「ニンジン」の項

甲第13号証: 特許第3691497号公報

甲第14号証: ウェブサイト「しわ・たるみケアに外せないポイントは?効果が上がる方法を教えます」の「加水分解コラーゲンとコラーゲンの違い|肌にハリを出す成分はどっち」のページ(http://hourei-info.seesaa.net/article/362812122.html)

甲第15号証: ウェブサイト「Cosmehouse」の「知っておこう!水溶性コラーゲンとコラーゲンについて!」のページ(http://cosumehouse.com/component/972/)

甲第16号証: ウェブサイト「VITA-BEAUTE」の「加水分解コラーゲン|ヴィタ・ボーテについて」のページ(http://www.vita-beaute.co.jp/about/kollagen.html)

甲第17号証: ウェブサイト「Cosmetic-info.jp」の「加水分解コラーゲン」のページ(http://cosmetic-info.jp/jcln/detail.php?id=3104)

甲第18号証: 「新素材・サケ由来プラセンタ様物質を発表 末端製品、調剤薬局等で販売 協和薬品」、ヘルスライフビジネス、2008年5月1日、第441号、第4面

甲第19号証: 「協和薬品 次代の抗酸化物質でPR 海のプラセンタSOPを発表」、健康産業流通新聞、平成20年5月8日、第700号、第3面

甲第20号証: ウェブサイト「社長の気まぐれブログ」の「2008年05月31日 20:20 プラ・オーシャン説明会」のページ(http://blog.livedoor.jp/evergreenmfc/archives/2008-05.html)

2.被請求人の主張
被請求人は、請求人の主張する無効理由1及び2はいずれも理由がないと主張し、証拠方法として乙第1号証?乙第5号証を提出している。

<証拠方法>
乙第1号証:ヴェルデジャパン株式会社による「プラオーシャン」無断掲載のお詫び

乙第2号証: 協和薬品株式会社からヴェルデジャパン株式会社への納品書控

乙第3号証: 協和薬品株式会社からヴェルデジャパン株式会社への請求書控

乙第4号証: 本件特許の出願時の担当者から出願人代理人への電子メール

乙第5号証: 協和薬品株式会社が得意先へ配布した新製品発売のお知らせ

第4 本件発明

本件特許の請求項1及び2に係る発明は、平成26年9月5日付け訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲に記載された、次のとおりのものと認める。

【請求項1】
鮭の卵巣外皮を蛋白分解酵素で処理して成るペプチドを主成分とし、イソフラボン及び高麗人参またはその抽出物を含むとともに、シャンピニオンエキスとクエン酸及び液糖を含む清涼飲料であることを特徴とする栄養補助食品。

【請求項2】
鮭の卵巣外皮を、蛋白分解酵素で処理して成るペプチドを主成分とし、コラーゲン及びヒアルロン酸を含むとともに、シルク加水分解物、サメ軟骨抽出物、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、及びビタミンCを含むことを特徴とする栄養補助食品。

(以下、請求項1及び2に係る発明を、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。)

第5 当審の判断

1.無効理由1について
(1)甲第1号証に記載された事項
甲第1号証には、以下の事項が記載されており、これらの事項は、本件出願前の平成20年9月23日に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったと認められる(下線は当審で付与した。)。

(1-ア)
「「プラオーシャン」は、鮭卵巣外皮加水分解物(サーモン・オバリー・ペプチド SOP)を主成分に、コラーゲン、ヒアルロン酸、5種類のビタミンなどを配合した、美容と健康のサポートドリンクです。」

(1-イ)
「商品名 プラ・オーシャン
メーカー 協和薬品株式会社
名称 清涼飲料水
内容量 50ml×10本
原材料 果糖ブドウ糖液糖、加水分解コラーゲン(魚鱗由来)、ガラクトオリゴ糖液糖、鮭卵巣外皮加水分解物(プラセンタ様物質)、シルク加水分解物、シャンピニオンエキス、サメ軟骨抽出物、ビタミンC、クエン酸、保存料(安息香酸Na)、ヒアルロン酸、リンゴ酸、甘味料(スクラロース)、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンB2、ビタミンB12
栄養成分 下記をご覧ください。」

(1-ウ)
「鮭卵巣外皮加水分解物 サーモンオバリーペプチド(SOP)とは?
サーモンオバリーペプチド(SOP)とは、北海道産鮭の卵巣外皮を特許取得の製法で酵素分解(ペプチド化)し濃縮したものです。」

(1-エ)
「栄養成分
熱量:21kcal、たんぱく質:1.25g、
脂質:0g、炭水化物:4.05g、ナトリウム:12.5mg、
・・・・
鮭卵巣外皮加水分解物:200mg、コラーゲン:1000mg、ヒアルロン酸:25mg、
シルク加水分解物:40mg、サメ軟骨抽出物:20mg、ガラクオリゴ糖:500mg」

(2)対比
甲第1号証によれば、
「鮭卵巣外皮加水分解物を主成分とする、果糖ブドウ糖液糖、加水分解コラーゲン(魚鱗由来)、ガラクトオリゴ糖液糖、シルク加水分解物、シャンピニオンエキス、サメ軟骨抽出物、ビタミンC、クエン酸、保存料(安息香酸Na)、ヒアルロン酸、リンゴ酸、甘味料(スクラロース)、ビタミンB1、ビタミンB6、ビタミンB2、ビタミンB12を含む清涼飲料。」
の発明(以下、「引用発明」という。)が本件出願前の平成20年9月23日に、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったと認められる。

本件発明2と引用発明とを対比する。
引用発明の「清涼飲料」は本件発明2の「栄養補助食品」に相当する。
そうすると、両者は、
「ヒアルロン酸を含むとともに、シルク加水分解物、サメ軟骨抽出物、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、及びビタミンCを含むことを特徴とする栄養補助食品。」
で一致し、以下の点で一応相違する。

<相違点>
相違点1.主成分が、本件発明2では「鮭の卵巣外皮を、蛋白分解酵素で処理して成るペプチド」であるのに対し、引用発明では「鮭卵巣外皮加水分解物」である点。
相違点2.本件発明2は「コラーゲン」を含むのに対し、引用発明はコラーゲンではなく「加水分解コラーゲン」を含む点。
相違点3.引用発明はさらに他の成分を含むのに対し、本件発明2は他の成分について特定されていない点。

(3)相違点についての検討
ア.相違点1について
上記(1-ウ)には、鮭卵巣外皮加水分解物が、鮭の卵巣外皮を酵素分解(ペプチド化)し濃縮したものであることが記載されているが、甲第10号証に、タンパク質分解酵素は、一般にタンパク質に作用して、そのペプチド結合(-CO-NH-)の分解を促進する加水分解酵素であることが記載されているとおり、タンパク質をタンパク質分解酵素で加水分解することによりペプチドが生成されることは技術常識であるから、引用発明の鮭の卵巣外皮を酵素分解(ペプチド化)した「鮭卵巣外皮加水分解物」は、本件発明2の「鮭の卵巣外皮を、蛋白分解酵素で処理して成るペプチド」に相当する。
したがって、相違点1は、実質的な相違点ではない。

イ.相違点2について
甲第1号証は、被請求人が製造した製品である「プラ・オーシャン」を紹介したものであるところ、甲第1号証の(1-ア)及び(1-エ)に、引用発明に含まれる「加水分解コラーゲン」を単に「コラーゲン」と表記した記載があるように、被請求人は、「加水分解コラーゲン」と「コラーゲン」を区別することなく表記しているものと認められる。
そうすると、引用発明の「加水分解コラーゲン」は、本件発明2の「コラーゲン」に相当する。
したがって、相違点2は、実質的な相違点ではない。

ウ.相違点3について
本件発明2は、請求項2に記載の成分を「含むことを特徴とする栄養補助食品」であり、他の成分をさらに含む態様をも包含することは明らかである。
したがって、相違点3も、実質的な相違点ではない。

エ.被請求人の主張について
被請求人は、甲第1号証に開示された商品を平成20年10月1日から一斉販売するのに向けて、取引先に資料の公表は行わないよう要請して営業していたが(乙第5号証)、これに反して、平成20年9月23日にヴェルデジャパンが、先に甲第1号証を公表してしまったこと(乙第1号証)、及び、被請求人自身のホームページでの公表は、自社商品のPRのための自らの公表であって、取引先の公表を認めるものではないことから、甲第1号証は、被請求人の意に反して公表されたものであり、平成23年改正前特許法第30条第2項の規定により、新規性喪失の証拠にはならないと主張するので、以下検討する。

平成20年5月1日の新聞記事である甲第18号証には、被請求人がサーモンオバリーペプチドSOPを200mg配合したドリンクタイプの新製品「プラ・オーシャン」を平成20年4月より発売したこと、この製品にはビタミン群、コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチンを配合していること、及び新製品発表会を行ったことが記載されている。平成20年5月8日の新聞記事である甲第19号証には、同年4月24日に被請求人が、新製品「プラ・オーシャン」の発表会を行い、企業の開発担当者など約150名が参集したことが記載されている。また、甲第20号証の「社長の気まぐれブログ」には、被請求人が同年4月に発売した「プラ・オーシャン」の商品説明会を同年5月31日に開催し、説明会後の特別販売では参加者からの注文が殺到していたこと、この製品にはSOPの他、コラーゲン、ヒアルロン酸、5種類のビタミンなどが配合されていること、及び「プラ・オーシャン」を通販カタログ6月号に掲載し、発売することが記載されている。

加えて、被請求人が特許出願に際して提出した「発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書」には、同年6月11日に、被請求人自身のインターネットウェブサイトで「プラ・オーシャン(50ml×10本)」の原材料名、及び栄養成分表示等を公表したことが記載されている。

一方、乙第5号証には、「平成20年4月吉日」、「新製品発売のお知らせ」と記載された上で、「さて、この度弊社では、新製品と致しまして、清涼飲料水「プラ・オーシャン50mL」を平成20年10月1日より販売することに相成りました。」、「尚、平成20年10月1日からの全国一斉発売とさせていただきますので、資料等のお取り扱いにはくれぐれもご留意いただけますよう、重ねてお願い申し上げます。」と記載され、乙第1号証には、「平成26年8月29日」、「プラオーシャン無断掲載のお詫び」と記載された上で、「平成20年10月1日以降での一斉販売をお聞きしておきながら、連絡不備により、サイトでの掲載に至ってしまいました。」と記載されている。

そして、被請求人は、口頭審理において、甲第18号証から甲第20号証に記載された「プラ・オーシャン」と乙第1号証から乙第5号証に記載の「プラ・オーシャン」は同一のものであること、甲第18号証から甲第20号証に記載の商品説明会が、特定顧客向けのものであったか確認できなかったこと、及び商品説明会に参加していた者の全てが守秘義務を負っていたか不明であったことを述べた。

ここで、乙第1号証は、甲第1号証の公表について詫びたものであるから、乙第1号証に記載の「プラオーシャン」は、甲第1号証に記載の「プラ・オーシャン」である。そして、乙第1号証から乙第5号証に記載の「プラ・オーシャン」は、甲第18号証から甲第20号証に記載の「プラ・オーシャン」と同一であるとの被請求人の主張に加え、甲第18号証及び甲第20号証に記載の「プラ・オーシャン」の主要配合成分が、甲第1号証に記載の「プラ・オーシャン」の含有成分と重複していることを考慮すれば、甲第18号証から甲第20号証に記載の「プラ・オーシャン」は、甲第1号証に記載の「プラ・オーシャン」と同一である。さらに、原材料名及び栄養成分表示等からみて、「発明の新規性の喪失の例外の規定の適用を受けるための証明書」に記載された「プラ・オーシャン」は、甲第1号証に記載の「プラ・オーシャン」と同一のものである。

以上によれば、被請求人は、甲第1号証に記載の「プラ・オーシャン」を平成20年4月には発売し、新製品発表会を行ったこと、新聞報道をするのが当然である記者を含む者に対し、当該「プラ・オーシャン」の主要配合成分を明らかにしたこと、同年5月には、参加していた全ての者が守秘義務を負っていたか不明であった商品説明会において、当該「プラ・オーシャン」の主要配合成分を明らかにすると共に、同商品の販売も行っていたこと、同年6月には、自身のホームページでも、当該「プラ・オーシャン」の原材料名及び栄養成分表示等を公表していたことが認められる。

そうすると、乙第1号証及び乙第5号証を根拠に、甲第1号証に開示された商品を同年10月1日から一斉販売する予定であったとする被請求人の主張は信憑性が乏しい。

さらに、乙第5号証に記載のとおり、請求人が、平成20年4月吉日に、同年10月1日からの一斉発売まで「プラ・オーシャン」の資料の取り扱いに留意するよう取引先に要請していたとしても、上記のとおり、被請求人は平成20年4月から6月にかけて、上記要請とは相容れない、むしろ同商品を宣伝する行為を繰り返していたことが認められるから、そのような同商品の宣伝行為を繰り返した後においてもなお、平成20年10月1日まで、ヴェルデジャパンを含めた取引先に対しては同商品の資料の公表は認めていなかったという請求人の主張は、合理性を欠くものである。

したがって、同年9月23日の甲第1号証の公表は、被請求人の意に反して行われたものであるから、平成23年改正前特許法第30条第2項の規定により新規性喪失の証拠にはならないとする被請求人の主張は、採用できない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明2は、甲第1号証により本件特許出願前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である。

2.無効理由2について
(1)甲各号証に記載された事項
本件特許出願前に頒布された甲第2号証には、以下の事項が記載されている。

(2-ア)
「【請求項1】
魚類の卵巣膜から抽出された成分を含むことを特徴とする抗加齢剤。
【請求項2】
請求項1記載の抗加齢剤において、前記卵巣膜から抽出された成分は、該卵巣膜をタンパク分解酵素で処理することにより抽出された成分であることを特徴とする抗加齢剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の抗加齢剤において、前記卵巣膜は、鮭の卵巣膜であることを特徴とする抗加齢剤。」(請求項1?3)

(2-イ)
「従来、魚類の卵巣膜(魚卵外皮)を予めオゾン水で処理した後、その構成タンパク質である筋原線維タンパク質を酵素分解してアミノ酸及びペプチドを抽出する方法が知られている(例えば特許文献1参照)。」(段落【0002】)

(2-ウ)
「本実施例では、まず、鮭の卵巣膜抽出成分を錠剤の形に製剤して、抗加齢剤を製造した。前記錠剤は、前記卵巣膜抽出物245mg、賦形剤(ラブリワックス(登録商標))5mgからなり、8mmの直径を備えている。」(段落【0018】)

(2-エ)
「さらに、図3から、本実施形態の抗加齢剤を摂取開始後、8週間目の体調の方が、摂取中止から2週間後の体調よりも優れていることが明らかである。」(段落【0026】)

(2-オ)


本件特許出願前に頒布された甲第3号証には、以下の事項が記載されている。

(3-ア)
「このように大豆イソフラボン類、特にゲニステイン(Genistein)系イソフラボンは人体にとって有益な生理的作用を有し、骨粗鬆症、ガン、循環器疾患、更年期障害等の予防に効果があるものと考えられる。」(段落【0005】)

本件特許出願前に頒布された甲第4号証には、以下の事項が記載されている。

(4-ア)
「【請求項4】
更年期障害の予防または改善、女性ホルモンバランスの改善、あるいは皮膚の老化を改善のためのプエラリアミリフィカおよび大豆イソフラボンを有効成分とする飲食品。」(請求項4)

(4-イ)
「・・・・
大豆中にもイソフラボンが含まれており、大豆イソフラボンの結合能はα型受容体に弱く、β型受容体に強い(Kuiper G.G.J.M.et al.,Endocrinology,139,4252-4263(1998))ので、更年期障害や骨粗しょう症、動脈硬化、アルツハイマー、前立腺肥大、癌(White.R.W.V.et al.,Urology,63,259-263(2004),Ozasa K.et al.,Cancer Sci.,95,65-71(2004))などの予防効果が期待されている。(Kurzer M.S.,J.Nutr.,133,1983S-1986S(2003))。・・・・」(段落【0004】)

本件特許出願前に頒布された甲第5号証には、以下の事項が記載されている。

(5-ア)
「【請求項7】 1)5?10質量%のアスコルビン酸及び/又はその塩と2)0.3?3質量%のα-トコフェロールと3)ダイズイソフラボン及びその配糖体を10?20質量%含有することを特徴とする、更年期症状を緩和するための食品組成物。」(請求項7)

本件特許出願前に頒布された甲第6号証には、以下の事項が記載されている。

(6-ア)
「コウライニンジンは元来滋養強壮等古くから抗疲労の薬効を有し、血行を促進する作用が認められていることと、特に女性の冷え性や更年期に現われる各種の不定愁訴に対しても有効であるため、女性に対しても健康飲料として最適であり、広く飲料にも用いられている。」(段落【0007】)

本件特許出願前に頒布された甲第7号証には、以下の事項が記載されている。

(7-ア)
「【請求項6】 オタネ人参の配糖体粉末、カルシウム、カフェインの混合物よりなる粒子の外側に糖衣を設けたことを特徴とするオタネ人参の果実エキスよりなる健康食品。」(請求項6)

(7-イ)
「【従来の技術】従来オタネ人参(高麗人参)は根の部分に薬効成分があるとされ、漢方生薬として使用されているが、果実は採種用以外は花蕾をつみとり、専ら根の発育向上に努めていた。」(段落【0002】)

(7-ウ)
「・・・・
この発明による製品には次のような効能がある。
・・・・
7.夜尿症・更年期障害・冷え症の治療に有効。
・・・・」(段落【0008】?【0009】)

本件特許出願前に頒布された甲第11号証には、以下の事項が記載されている。

(11-ア)
「更年期症状 閉経を契機に、女性ホルモンの減少によって様々な症状が起こるが、その症状は精神症状と身体症状とに大別される。精神症状としては気が散る、生活に張りが感じられないといった不定愁訴が大部分であるが、なかには心身症や神経症、更年期うつ病など精神神経科的疾患を有するものが含まれることがある。一方、身体症状はのぼせ、ほてり、いらいら、発汗、膣炎、性交障害、膀胱炎、尿道炎、皮膚萎縮、脱毛など多岐にわたる。」(第468頁右欄第30行?第469頁左欄第1行)

(2)対比
本件発明1と引用発明とを対比する。引用発明の「清涼飲料」は、本件発明1の「清涼飲料であることを特徴とする栄養補助食品」に相当する。また、引用発明の「果糖ブドウ糖液糖」及び「ガラクトオリゴ糖液糖」は、本件発明1の「液糖」に包含される。
そうすると、両者は、
「シャンピニオンエキスとクエン酸及び液糖を含む清涼飲料であることを特徴とする栄養補助食品。」
で一致し、以下の点で相違する。

<相違点>
相違点1.主成分が、本件発明1では「鮭の卵巣外皮を蛋白分解酵素で処理して成るペプチド」であるのに対し、引用発明では「鮭卵巣外皮加水分解物」である点。
相違点2.本件発明1は「イソフラボン及び高麗人参またはその抽出物」を含むのに対し、引用発明は含まない点。
相違点3.引用発明はさらに他の成分を含むのに対し、本件発明1は他の成分について特定されていない点。

(3)相違点についての検討
ア.相違点1及び3について
上記1.(3)ア.及びウ.で検討したとおり、相違点1及び3は実質的な相違点ではない。

イ.相違点2について
上記(2-ア)?(2-オ)の記載によれば、甲第2号証には、鮭の卵巣膜、すなわち卵巣外皮を、タンパク分解酵素で処理することにより抽出されたアミノ酸及びペプチドを摂取することにより、「イライラ」、「汗かき」、及び「ほてり」等の加齢に伴う症状が改善されることが認められる。また、甲第11号証の(11-ア)の記載のとおり、加齢にともない、イライラ、発汗、及びほてり等の身体的及び精神的症状が現れる状態を「更年期症状」と称することは技術常識である。
そうすると、甲第2号証に記載の抗加齢剤と同じく、「鮭の卵巣外皮を、蛋白分解酵素で処理して成るペプチド」を主成分として含む、引用発明の清涼飲料に、加齢に伴うイライラ、発汗、及びほてり等の更年期症状に対する抑制効果があることは、当業者が自然に認識し得ることである。
一方、上記(1)に示した甲第3号証から甲第7号証の記載からみて、イソフラボンまたは高麗人参は、更年期症状を改善するための食品組成物に含有される成分として周知である。また、栄養補助食品に複数の有効成分を添加することも技術常識である。
以上によれば、引用発明が有する更年期症状抑制効果を高めるために、引用発明の清涼飲料にイソフラボン及び高麗人参をさらに添加することは、当業者が容易に想到し得ることである。

ウ.本件発明1の効果について
本件明細書には、「鮭卵巣外皮由来ペプチド」、「イソフラボン含有大豆抽出エキス」及び「高麗人参エキスパウダー」を含む処方A、「鮭卵巣外皮由来ペプチド」を含む処方B、または「イソフラボン含有大豆抽出エキス」及び「高麗人参エキスパウダー」を含む処方Cを摂取した被験者群のクッパーマン指数の変化率が、それぞれ-8.6、-5.0、及び-5.2であったことが記載され(段落【0025】?【0028】)、この結果から、「鮭卵巣外皮由来ペプチド」と、「イソフラボン及び高麗人参」を含有させることにより、より更年期障害抑制効果が大きいことが分かったと記載されている(段落【0029】)。
上記クッパーマン指数の変化率を比較すると、「鮭卵巣外皮由来ペプチド」、「イソフラボン含有大豆抽出エキス」及び「高麗人参エキスパウダー」の3つの成分を組み合わせた処方Aの変化率は、処方B、C単独の変化率よりは大きいが、処方B、Cの変化率を足し合わせたものには及ばないから、3つの成分を組み合わせた効果は、相加的な効果にも満たないといえる。
そして、上記イ.で検討したとおり、それら3つの成分はいずれも更年期症状の抑制効果を目的とする食品組成物に含有させる成分として周知であったから、本件発明1が、甲第1号証及び甲第2号証の記載並びに周知技術から、当業者が予測できない格別の効果を奏するとは認められない。

エ.被請求人の主張について
被請求人は、本件発明1は、「鮭の卵巣外皮を蛋白分解酵素で処理して成るペプチド」と「イソフラボン及び高麗人参またはその抽出物」により、更年期障害の抑制効果を高めるとともに、これらの成分による飲みにくさを「シャンピニオンエキスとクエン酸及び液糖」により解消し、清涼飲料としておいしく摂取しやすくすることで、連続かつ長期間の飲用が容易に可能になり、更年期障害の抑制効果をより高めたことを主張する。

しかしながら、更年期障害の抑制効果については、上記ウ.で検討したとおりであるし、清涼飲料にクエン酸の酸味と液糖の甘味を加えると、他の成分に起因する不快な味がマスクされ、おいしく摂取しやすくなることは技術常識であるから、それにより連続かつ長期間の飲用が可能になり、更年期障害の抑制効果が高まることも、当業者の予測を超える格別の効果であるとはいえない。

したがって、被請求人の主張は理由がない。

(4)まとめ
以上のとおり、本件発明1は、甲第1号証により電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明並びに甲第2号証の記載及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

第6 むすび

以上のとおり、本件請求項2に係る発明は、特許法第29条第1項第3号に該当し、本件請求項1に係る発明は、同法第29条第2項の規定に違反しているから、本件請求項1及び請求項2に係る発明についての特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。

審判に関する費用については、特許法第169条2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、被請求人が負担すべきものとする。

よって、結論のとおり審決する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】
更年期障害改善剤及び栄養補助食品
【技術分野】
【0001】
この発明は、鮭等の魚の卵巣外皮を蛋白分解酵素で処理して成る成分を含む更年期障害改善剤及び栄養補助食品に関する。
【背景技術】
【0002】
水産加工食品のうち、魚卵の水産加工により発生する魚卵外皮である卵巣外皮は、ほとんどが産業廃棄物として処分されていたが、近年、特許文献1,2に開示されているように、医薬品や化粧品、栄養補助食品として利用されている。
【0003】
特許文献1には、魚類の卵巣外皮(魚卵外皮)を予めオゾン水で処理した後、その構成蛋白質である筋原線維蛋白質を酵素分解して、アミノ酸及びペプチドを抽出する方法が開示されている。このアミノ酸及びペプチドは、特に必須アミノ酸が多く含まれていることから、機能性栄養補助食品等として極めて有用である。また、ペプチドを多く含有するアミノ酸成分にはACE阻害活性を備え、血圧上昇抑制剤(降圧剤)として作用するとされている。
【0004】
また特許文献2には、鮭の卵巣外皮を蛋白分解酵素で処理して抽出した成分を含む肌荒れ改良剤が開示されている。
【特許文献1】特許3691497号公報
【特許文献2】特許3899116号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この魚類の卵巣外皮を酵素分解したアミノ酸及びペプチドは、農薬やPCB、重金属等の有害物質を含まず、安全性が高い。しかも、未だその機能は充分に解明されてはいないものであり、有効な利用方法が求められている。
【0006】
本発明の目的は、上記背景技術に鑑みて成されたもので、鱈、ニシン、鮭等の腹子外皮である卵巣外皮を酵素分解して、更年期障害の改善や健康維持に有効な更年期障害改善剤及び栄養補助食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、鮭等の魚の卵巣外皮を、蛋白分解酵素で処理して成るペプチドまたはアミノ酸を主成分とする更年期障害改善剤である。
【0008】
またこの発明は、鮭等の卵巣外皮を、蛋白分解酵素で処理して成るペプチドまたはアミノ酸を主成分とし、イソフラボン及び高麗人参またはその抽出物の少なくとも一方を含む更年期障害改善剤である。
【0009】
またこの発明は、鮭等の魚の卵巣外皮を、蛋白分解酵素で処理して成るペプチドまたはアミノ酸を主成分とし、人繊維芽細胞のコラーゲン生産能を向上させる更年期障害改善剤である。さらに、前記主成分に、コラーゲン及びヒアルロン酸の少なくとも一方を含み、人繊維芽細胞のコラーゲン生産能を向上させるものでも良い。
【0010】
またこの発明は、鮭等の魚の卵巣外皮を、蛋白分解酵素で処理して成るペプチドまたはアミノ酸を主成分とし、イソフラボン及び高麗人参またはその抽出物を含むとともに、シャンピニオンエキスとクエン酸及び液糖を含む清涼飲料である栄養補助食品である。
【0011】
またこの発明は、鮭等の魚の卵巣外皮を、蛋白分解酵素で処理して成るペプチドまたはアミノ酸を主成分とし、コラーゲン及びヒアルロン酸の少なくとも一方を含む栄養補助食品である。前記栄養補助食品は、例えば清涼飲料である。
【発明の効果】
【0012】
この発明の更年期障害改善剤は、有害物質を含まず、副作用がなく、安定的に作用するもので、長期間の服用が可能な薬剤である。
【0013】
またこの発明の栄養補助食品は、従来廃棄されていた部分を有効に活用するもので、有害物質を含まず、副作用がなく安定的に摂取可能な食品である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態の更年期障害改善剤及び栄養補助食品について説明する。始めに、更年期障害改善剤及び栄養補助食品に用いられる成分の、魚卵外皮の酵素分解によるアミノ酸及びペプチド(以下、アミノ酸成分と称す。)の製造方法の一例について説明する。
【0015】
先ず、魚卵外皮である卵巣外皮を冷水で洗浄した後、室温以下のオゾン水で処理する。これにより、付着細菌の除菌及び脱脂肪等が行なわれ、さらに構成蛋白である筋原線維蛋白の収縮蛋白質(ミオシン)の変成が防止される。オゾン水処理は、洗浄、脱水した卵巣外皮を冷水を入れたタンク中で撹拌しながら、オゾン発生装置からオゾン濃度0.2?10ppm/Lで供給し、5?30分間室温以下で処理する。卵巣外皮が分散状態で存在しているオゾン処理液は、溶存しているオゾンを消失させるために、撹拌しながら酵素反応温度、35?50℃付近まで加温する。
【0016】
オゾンが消失した後、バチルス属(Bacillus subtilis)の産生する蛋白分解酵素により収縮蛋白質(ミオシン)を分解する。次に、この分解液をそのまま、或いは分解液中の酵素を80℃以上に加温し、15分以上撹拌して、酵素を失活させた後、絲状菌(Aspergillus oryzae)の産生する蛋白分解酵素を用いて、さらに低分子化と他種類の魚卵蛋白に由来する苦味やアミノ酸臭等の分解処理を行なう。この両酵素による処理は、卵巣外皮に対し0.02?0.2質量%の酵素を用いて、撹拌の下、処理温度35?55℃、処理時間2?5時間、いずれもほぼ同じ条件で行なわれる。
【0017】
酵素処理を終えた処理液は、酵素を失活させた後、800メッシュの濾布を用いた遠心分離により固形物を除去し、さらに限外濾過法によりコロイド状不純物を除去する。得られたアミノ酸成分を含む濾液は、使用目的により、そのままの状態であるいは、適度の濃度に濃縮して、液状で利用することができる。
【0018】
アミノ酸成分を粉末として得る場合は、濾液を常圧乾燥、減圧乾燥、噴霧乾燥、凍結乾燥法などにより水分を速やかに除去する。乾燥方法としては、成分の分解を極力回避するため、減圧乾燥法あるいは噴霧乾燥法が適している。また、乾燥温度についても、130℃以下で行うことが望ましく、この温度を超えると有効成分の分解が始まり、品質の低下を招く。従って、好ましくは、乾燥温度は70?130℃である。
【0019】
得られたアミノ酸成分からなる粉末は、各種のアミノ酸及びそれらのペプチドが含まれる。蛋白分解酵素、特にバチルス属(Bacillus subtilis)の産生する蛋白分解酵素の使用量が少ない場合(0.05質量%以下)、ペプチドが多く含まれたアミノ酸成分が得られる。
【0020】
このようにして得られたアミノ酸成分は、後述する実施例に示すように定期的な摂取により、更年期障害改善剤として機能する。即ち、例えば、鮭の卵巣外皮を、蛋白分解酵素で処理して成るアミノ酸成分は、更年期障害による様々な不快感や体の機能の低下を抑える薬剤として用いることができる。さらに、このアミノ酸成分に、イソフラボンと、高麗人参またはその抽出物の少なくとも一方を加えたものは、より効果的に更年期障害を抑制する。
【0021】
また、鮭等の魚の卵巣外皮を、蛋白分解酵素で処理して成るアミノ酸成分と、イソフラボン及び高麗人参またはその抽出物の少なくとも一方を含む材料は、栄養補助食品として継続的に摂取することにより、更年期障害からくる不快感等を抑える働きをする。
【0022】
さらに、鮭等の魚の卵巣外皮を処理したアミノ酸成分と、コラーゲン及びヒアルロン酸の少なくとも一方を含む材料は、人繊維芽細胞のコラーゲン生産能を向上させる機能を有する。従って、これを定期的に摂取することにより、後述する実施例に示すように、更年期障害の一つである、肌の乾燥や弾力性の欠如を回復させ、肌の健康を維持することができる。
【0023】
また、摂取しやすい形態として、このアミノ酸成分を、ブドウ糖等を加えた水に溶解し、さらに各種ビタミンを加えたドリンク剤または清涼飲料とすると良い。これにより、より簡易に栄養補助食品として継続的に摂取することができる。
【0024】
この更年期障害改善剤及び栄養補助食品は、魚の卵巣外皮抽出成分を、例えばドリンクや顆粒・錠剤等の形に製剤したものであり、さらには、栄養補助食品等の食品として摂取することにより、更年期障害による皮膚の諸症状を緩和し、その他ののぼせ等の不快感も改善することができる。
【実施例1】
【0025】
次に、本発明の実施例と比較例とを比較して示す。先ず、鮭の卵巣外皮由来ペプチドを用いて、女性の更年期障害に対する改善効果を検証した。試験方法は、35歳以上の女性15名を対象に、一般的な更年期障害の改善効果に関する1ヶ月のモニター試験を実施した。
【0026】
実施内容は、3種類の処方ドリンク(50ml/本)を調整した。処方を表1に示す。
【表1】

【0027】
被験者を無作為に3群に分け、指定の処方ドリンクA,B,Cの別に各群30日間飲み続けてもらった。更年期障害の改善効果は、アンケートによるクッパーマン指数を用いて開始時と終了時の変化によって評価した。その変化の結果を各群毎に以下の表に示す。
【表2】

【0028】
【表3】

【0029】
この実施例の実験により、更年期障害による種々の体調不良が、この発明の実施例である鮭等の魚の卵巣外皮を蛋白分解酵素で処理して成るアミノ酸成分と、イソフラボン及び高麗人参を含有させることにより、より更年期障害抑制効果が大きいことが分かった。また、鮭等の魚の卵巣外皮由来のアミノ酸成分、イソフラボン及び高麗人参にも、更年期障害による不快感を緩和する効果があることが分かった。
【実施例2】
【0030】
次に、正常ヒト皮膚線維芽細胞を用いて、鮭の卵巣外皮由来ペプチドと、コラーゲン及びヒアルロン酸を被験品とするコラーゲン産生能に関する細胞試験を実施した。また、被験品の同細胞に対する細胞増殖性への影響についても併せて検討を行なった。
【0031】
線維芽細胞は、真皮のコラーゲン線維(膠原線維)、弾性線維(エラスチン)の主成分であるコラーゲンをつくるものであり、線維芽細胞は真皮の中に存在し、少しずつコラーゲンをつくる一方で、少しずつコラーゲンを分解する。
【0032】
線維芽細胞によるコラーゲン線維の合成と分解はコントロールされていて、合成と分解のバランスがとれているが、分解が合成を上回ればシワ、たるみ、肌老化が進行し、逆に合成が分解を上回れば、シワ、たるみ、肌老化の進行を抑える。正常な大人の場合、合成量と分解量は同じで、コラーゲンの総量は変わらずただ入れ替わりだけがおこるが、活性酸素等により線維芽細胞がダメージを受けると、コラーゲン繊維の合成と分解のバランス崩れて、皮膚の老化につながるものである。
【0033】
実験方法
細胞:正常ヒト皮膚線維芽細胞(以下、NB1RGBと称す。 理研Cell Bank)
細胞ストレイン番号-RCB0222
培地:10%牛胎仔血清含有イーグルMEM培地
基礎培地イーグルMEMに牛胎仔血清を10%になるように添加。
【0034】
試薬
細胞評価:コラーゲンステインキット(コスモバイオ社)
陽性対象:アスコルビン酸(以下、APMgと称す。)(和光純薬工業)
細胞評価:MTT(同仁化学)
【0035】
被験品
被験品1:鮭の卵巣外皮由来ペプチド(以下、Sample A)
被験品2:コラーゲン+ヒアルロン酸(コラーゲン:ヒアルロン酸=90:10、質量比)(以下、Sample B)
被験品3:鮭の卵巣外皮由来ペプチド+コラーゲン+ヒアルロン酸(卵巣外皮由来ペプチド:コラーゲン:ヒアルロン酸=50:45:5、質量比)(以下、Sample C)
Sample A?Sample Cについては、10%牛胎仔血清含有イーグルMEM培地にて以下のように溶解した。
Sample A?Sample C(0.5%、1%、2%)3段階
NB1RGBの培養
NB1RGBを96穴マイクロタイタープレートに2.0×10^(4) cell/wellになるように播種(100μl)して24hr前培養したのち、基本培地または各濃度に調製した被験品(Sample A?Sample C)を100μl添加して、CO_(2)インキュベーター(37℃,5%CO_(2))内で48hr培養した。
【0036】
コラーゲン産生能評価
基本培養後、培地成分を除去するためPBS(-)を用いて各ウェルを100μlで2回洗浄し、キット染色液(シリウスレッド+ファーストグリーン含有)を50μl添加後、室温(23℃±1℃)・暗所にて30min静置させた。
【0037】
各ウェルをPBS(-)を用いて着色が目視出来なくなるまで洗浄し,100μlのキット抽出液(含メタノール)にて室温で1min抽出した。これをマイクロプレートリーダーにより570-595nmの吸光度を測定し、得られた吸光度はNB1RGBの細胞内コラーゲン量としてコラーゲン生成能の指標とした。被験品の陽性対象としてはAPMgを用い、最終濃度が50μMになるように100μl添加して同様に培養した。
【0038】
被験品のNB1RGBに対する細胞増殖性への影響
被験品のNB1RGBに対する細胞増殖性への影響については、MTT還元法で確認した。基本培養後、0.5%MTT水溶液を各ウェルに20μl添加して37℃で2hrインキュベーションを行った。インキュベーション後の培地成分を除去するために,各ウェルをHEPES緩衝液でそれぞれ100μlずつ2回洗浄した後,100μlの0.04M塩酸含有イソプロパノール溶液を分注してさらに1hrインキュベーションを行い,生成したフォルマザンを抽出した。これをマイクロプレートリーダーにより570-655nmの吸光度を測定し、その値を細胞増殖性の指標とした。
【0039】
コラーゲン産生能評価
NB1RGBのコラーゲン合成能、に与えるSample A?Sample Cの影響についてそれぞれ図1から図3に示す。Sample Aについては、図1の斜線を付したグラフに示すように、各濃度(0.5?2%)ともに陽性対照であるAPMgと比べるとコラーゲン量は低かったものの、未処理(non treatment)と比較するとコラーゲン量は高かった。
【0040】
Sample Bにおいては、図2の斜線を付したグラフに示すように、0.5%でAPMgとほぼ同等、1%および2%でAPMgよりもコラーゲン量が高かった。
【0041】
Sample A及びSample Bの混合品であるSample Cでは、図3の斜線を付したグラフに示すように、全ての濃度(0.5?2%)で未処理及びAPMgよりもコラーゲン量は高かった。
【0042】
また、コラーゲン以外の蛋白(non collagen)は、図1?図3の白地のグラフに示すように、Sample A?Sample Cの各濃度においても未処理(non treatment)と同様であった。
【0043】
この結果から、Sample A?Sample Cの全てにおいてNB1RGBの蛋白産生能においてコラーゲン特異的に産生能向上効果が見られた。また、Samle Cにおいて最もコラーゲン量が高かったことから、サーモンオバリーペプチド(SOP)とコラーゲン+ヒアルロン酸はそれぞれでもコラーゲン産生能向上効果が見られているが、併用する事によって相乗効果が期待出来ることがわかった。
【0044】
被験品のNB1RGBに対する細胞増殖性への影響
Sample A?Sample CのNB1RGBに対する細胞増殖性への影響について図4?図6に示す。図示するように、Sample A?Sample Cの全ての濃度において、未処理(non treatment)とほぼ同様であったことから、本被験品の細胞毒性は見られず安全性が確認された。
【0045】
この試験により、鮭卵巣外皮由来のアミノ酸成分、及びコラーゲン+ヒアルロン酸のそれぞれで正常ヒト皮膚線維芽細胞のコラーゲン特異的な産生能向上効果が見られ、かつそれらの混合品においては相乗効果が確認された。また、被験品の同細胞に対する細胞増殖性への影響についても毒性は見られず安全性が確認された。
【実施例3】
【0046】
この実施例では、表4に示す処方の鮭の卵巣外皮由来ペプチドを用いた栄養補助食品であるドリンクについて、女性の更年期障害に対する改善効果を検証した。対象者は、更年期症状があるが治療を受けるほどではない、という女性17名に4週間、8名(うちプラセボ4名)に6週間(2週間延長)に亘り、表4に示す処方の飲料500mgを毎朝服用させた。
【0047】
試飲前・1週間後・4週間後・(1週間中断ののち)5週間後・6週間後において、肌状態の変化を測定した。また試飲前・4週間後・(1週間中断ののち)5週間後・6週間後に採血を実施し、生化学的手法を用いて体内の変化を調査した。また、更年期指数や肌状態変化をアンケート回答というかたちで調査した。
【0048】
【表4】

【0049】
結果、肌に関しては「かさつき」「くすみ」「なめらかさ」「化粧のり」「化粧もち」「シミの改善」「毛穴ひきしめ」という項目における有効性が示唆された。多くが1週間以内に肌状態の改善を自覚しており、また一時中断した時点でほぼ全員において状態が一時悪化したが、飲用を再開した群は再び改善した。一方、プラセボ群は悪化したままという結果が得られた。よって、この実施例の処方による飲料の肌改善効果が確認された。
【0050】
血液検査の結果では、ビタミン群等の変化に一定の規則性は発見できなかったが、女性ホルモンのバランスを調整している可能性が示唆された。また、中性脂肪値も改善するモニターが多かったことから、脂質代謝の改善に寄与する可能性も示唆された。自覚変化としては、「疲労回復」「睡眠の質改善」「寝つき改善」「イライラ解消」に対し、多くのモニターが1週間以内の改善を訴えまた。更年期指数変化を追っても、1週間ごとに全員の指数が改善しており、更年期女性への症状緩和の効果もみられた。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】この発明の鮭の卵巣由来ペプチドの作用について、培地で増殖させる正常ヒト皮膚線維芽細胞を用いて実験したもので、被験品1であるサンプルAの各濃度における細胞内コラーゲン量をコラーゲン生成能の指標とし、コラーゲン及びコラーゲン以外の蛋白を吸光度で測定したグラフである。
【図2】この発明の鮭の卵巣由来ペプチドの作用について、培地で増殖させる正常ヒト皮膚線維芽細胞を用いて実験したもので、被験品2であるサンプルBの各濃度における細胞内コラーゲン量をコラーゲン生成能の指標とし、コラーゲン及びコラーゲン以外の蛋白を吸光度で測定したグラフである。
【図3】この発明の鮭の卵巣由来ペプチドの作用について、培地で増殖させる正常ヒト皮膚線維芽細胞を用いて実験したもので、被験品3であるサンプルCの各濃度における細胞内コラーゲン量をコラーゲン生成能の指標とし、コラーゲン及びコラーゲン以外の蛋白を吸光度で測定したグラフである。
【図4】被験品の正常ヒト皮膚線維芽細胞に対する細胞増殖性への影響については、MTT還元法で確認したもので、サンプルAの各濃度における細胞増殖性及び比較対象の細胞増殖性を、吸光度で測定したグラフである。
【図5】被験品の正常ヒト皮膚線維芽細胞に対する細胞増殖性への影響については、MTT還元法で確認したもので、サンプルBの各濃度における細胞増殖性及び比較対象の細胞増殖性を、吸光度で測定したグラフである。
【図6】被験品の正常ヒト皮膚線維芽細胞に対する細胞増殖性への影響については、MTT還元法で確認したもので、サンプルCの各濃度における細胞増殖性及び比較対象の細胞増殖性を、吸光度で測定したグラフである。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鮭の卵巣外皮を蛋白分解酵素で処理して成るペプチドを主成分とし、イソフラボン及び高麗人参またはその抽出物を含むとともに、シャンピニオンエキスとクエン酸及び液糖を含む清涼飲料であることを特徴とする栄養補助食品。
【請求項2】
鮭の卵巣外皮を、蛋白分解酵素で処理して成るペプチドを主成分とし、コラーゲン及びヒアルロン酸を含むとともに、シルク加水分解物、サメ軟骨抽出物、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、及びビタミンCを含むことを特徴とする栄養補助食品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
審理終結日 2015-04-01 
結審通知日 2015-04-03 
審決日 2015-04-14 
出願番号 特願2008-250998(P2008-250998)
審決分類 P 1 113・ 121- ZAA (A61K)
P 1 113・ 113- ZAA (A61K)
最終処分 成立  
前審関与審査官 瀬下 浩一  
特許庁審判長 今村 玲英子
特許庁審判官 小堀 麻子
郡山 順
登録日 2014-01-10 
登録番号 特許第5449730号(P5449730)
発明の名称 更年期障害改善剤及び栄養補助食品  
代理人 廣澤 勲  
代理人 長谷川 靖  
代理人 吉田 雅比呂  
代理人 廣澤 勲  

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