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審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A23K
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A23K
管理番号 1302014
審判番号 不服2013-25551  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-12-26 
確定日 2015-06-09 
事件の表示 特願2007-549654号「動物による消費のための組成物の美味性を増強するための方法」拒絶査定不服審判事件〔平成18年 7月13日国際公開、WO2006/074087、平成20年 7月24日国内公表、特表2008-526208号〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1.手続の経緯
本願は、2005年(平成17年)12月30日(パリ条約による優先権主張外国庁受理2004年(平成16年)12月30日、米国)を国際出願日とする出願であって、平成23年10月18日付けで拒絶理由通知が通知され、平成24年1月20日付けで意見書・手続補正書が提出され、平成24年9月3日付けで拒絶理由通知(最後)が通知され、平成24年12月4日付けで意見書・手続補正書が提出され、平成25年8月26日付けで平成24年12月4日付け手続補正書でした補正の却下決定とともに、拒絶査定がされ、この査定に対し、平成25年12月26日に本件審判が請求されるとともに、手続補正がなされたものである。


第2.平成25年12月26日付けの手続補正についての補正却下の決定
[補正却下の決定の結論]
平成25年12月26日付けの手続補正を却下する。

[理由]
1.補正事項
平成25年12月26日の手続補正(以下、「本件補正」という。)は、特許請求の範囲について、補正前の請求項17を補正後の請求項11に補正することを含む補正であり、
補正前の請求項17は、
「美味性を増強する量の少なくとも1種のメチオニン化合物および美味性を増強する量の不活性酵母を含む、動物による消費に適した組成物であって、メチオニン化合物および不活性酵母を該組成物に局所施用する、前記組成物。」
から、
補正後の請求項11の
「美味性を増強する量の少なくとも1種のメチオニン化合物および美味性を増強する量の不活性酵母を含む、動物による消費に適した組成物であって、メチオニン化合物および不活性酵母を各々該組成物に、該組成物の0.05重量%?0.5重量%の量で加えて、該組成物に局所施用する、前記組成物。」
へ補正された。(下線部は、補正箇所。)

2.補正の目的及び新規事項の追加の有無
上記補正は、補正前の請求項17に記載された発明を特定するために必要な事項である、「メチオニン化合物および不活性酵母」を「組成物に局所施用する」際の量について、上記下線部のとおり限定を付加するものであって、かつ、補正前の請求項17に記載された発明と補正後の請求項11に記載される発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が同一であるので、上記補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、本件補正も同様に、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
そして、本件補正は新規事項を追加するものではない。

3.独立特許要件
そこで、本件補正後の前記請求項11に記載された発明(以下、「本件補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。

(1)引用例
(ア)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開昭56-58462号公報(以下、「引用例1」という。)には、次の事項が記載されている。

(a)「(11)50%より少ない水分含量を有し、且脂肪、タン白質、炭水化物、ビタミンおよびミネラルより成る栄養的にバランスのとれたドッグフードであって、約0.005?0.5%のL-メチオニンの添加量より成り、その量は犬に対するドッグフードの食性を効果的に増大することを特徴とする、上記ドッグフード。」(第2頁左上欄第16行目?右上欄第2行目)

(b)「本発明は主として食物の味の改良により全体として食性を増進させると信じられる。」(第3頁左下欄第14?15行目)

(c)「本発明により有用食性向上剤として特定的に確認されるものは、L-フェニルアラニン、L-チロシン、L-トリプトファン、L-メチオニン、L-アルギニン、L-イソロイシン、L-ロイシン、L-セリンおよびこれらの組合せである。」(第3頁左下欄第18行目?右下欄第2行目)

(d)「当業者は食物表面に食性向上剤を加えることは食物の内部に添加した食物に比しその効果を増大させるであろうことは理解されるであろう。このように、ドッグフードの表面に噴霧することはもっとも好ましい適用方法であり、その場合このタイプの処理工程は包含されるフードのあらゆる処理と相容性がある。」(第4頁左上欄第15行目?右上欄第1行目)

(e)「表2に示すレベルでアミノ酸を含むドッグフード試料の別のシリーズを製造した。ドッグフードのタイプおよびアミノ酸添加様式も示す。IMは中間水分を意味し、Dは乾燥を意味し、Iは内部添加を意味し、そしてSは表面被覆を意味する。・・・結果カラムにおいて「P」は有意選択を意味し、「L」は有意ロスを意味しそして「N」はその試験に対し統計的に有意差のないことを意味する。」(第6頁左下欄第20行目?右下欄第10行目)

(f)

(第7頁上欄)

(g)上記(a)の「約0.005?0.5%のL-メチオニンの添加量」という記載事項や、上記(f)の表2では、添加量が体積%か重量%かは明記されていないが、一般的に食品分野においては添加物の分量を重量%で表すことは技術常識であるので、重量%であることは明らかである。

したがって、表2のL-メチオニン欄最下行のドッグフード試料に着目して上記記載事項を総合すれば、引用例1には以下の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されている。
「食物の味の改良により全体として食性を増進させる量のL-メチオニンを添加したドッグフードであって、L-メチオニンを0.1重量%表面被覆で添加したドッグフード。」

(イ)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開昭64-39953号公報(以下、「引用例2」という。)には、次の事項が記載されている。

(a)「特許請求の範囲
ペットフードのための所要の原料を配合し、この原料配合物を造粒し、乾燥した後、このものを過熱処理するにあたり、その加熱処理の前工程および/または後工程において、油コーティングを施し、さらにその後呈味フレーバーコーティングを施すことからなる、嗜好性が改良されたペットフードの製造方法。」

(b)「ついでこのように処理した配合物に呈味フレーバーのコーティングが施される。このコーティングは配合物がまだ温かいうちに行うのが好ましく、そして呈味フレーバーとしてはミルクフレーバー、ビーフフレーバー、オニオンフレーバー、酵母粉末、動物性蛋白質消化物、動物性油脂、糖類、アミノ酸調味料などの単品および適宜の混合物が挙げられる。
上記した工程で得られるペットフードは従来法による加熱工程を欠く方法で得られたものに比較して著しく嗜好性が改良された。」(第2頁左下欄第14行目?右下欄第6行目)

(ウ)原査定の拒絶の理由に引用された、本願出願前に頒布された特開平8-242775号公報(以下、「引用例3」という。)には、次の事項が記載されている。

(a)「【0006】
本願で使用するビール酵母は、わが国でビール醸造に広く用いられている下面醗酵型の酵母である。かっては、サッカロミセス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)とか、サッカロミセス・ウバルム(Saccharomyces uvarum)とか呼ばれていたものであるが、最近の酵母分類ではこれらはすべてサッカロミセス・セレビッシエ(Saccharomyces cerevisiae)に統一されているので、本願で使用する酵母菌はサッカロミセス・セレビッシエ(Saccharomyces cerevisiae)である(食品工業利用微生物研究会編『食品工業利用微生物データブック』、東京化学同人、1994)。
【0007】
ビール製造時に発生する余剰な酵母菌体は、乾燥されて「ビール酵母製剤」に加工され、栄養剤ないし医薬品として市販されている。それらの中には、低温乾燥の方法によって乾燥し酵母の保有する各種酵素活性を温存させたタイプ(活性タイプ)と、高温乾燥の方法によって酵素活性を失活させたタイプ(不活性タイプ)とがある。本願発明では後者の不活性タイプのビール酵母乾燥物を使用する。」


(2)対比
本件補正発明と引用発明1とを対比する。
引用発明1の「食物の味の改良により全体として食性を増大させる量」は、本願発明の「美味性を増強する量」に相当し、以下同様にして、
「L-メチオニン」は、「少なくとも1種のメチオニン化合物」に、
「ドッグフード」は、「動物による消費に適した組成物」に、
「L-メチオニンを0.1重量%」「添加」することは、「メチオニン化合物」を「0.05重量%?0.5重量%の量で加え」たと言い換えることができる。
そして、「表面被覆」は、「組成物に局所施用」することの一形態である。

そうすると、両者は、
「美味性を増強する量の少なくとも1種のメチオニン化合物を含む、動物による消費に適した組成物であって、メチオニン化合物を該組成物に、該組成物の0.05重量%?0.5重量%の量で加えて、該組成物に局所施用する、前記組成物。」
である点で一致しており、次の点で相違する。

(相違点)
本件補正発明において、メチオニン化合物および不活性酵母を各々該組成物に、該組成物の0.05重量%?0.5重量%の量で加えて、該組成物に局所施用するのに対し、引用発明1においては、メチオニン化合物のみを組成物に局所施用する点。

(3)判断
上記(相違点)について検討する。
(a)引用例2の上記(1)(イ)(b)「呈味フレーバーとしてはミルクフレーバー、ビーフフレーバー、オニオンフレーバー、酵母粉末、動物性蛋白質消化物、動物性油脂、糖類、アミノ酸調味料などの単品および適宜の混合物が挙げられる。上記した工程で得られるペットフードは従来法による加熱工程を欠く方法で得られたものに比較して著しく嗜好性が改良された。」との記載事項から、結局、引用例2には、酵母粉末を他の成分と混合して呈味フレーバーとし、この呈味フレーバーコーティングを、原料配合物に施した、嗜好性が改良されたペットフードが開示されているといえる。

(b)一方、引用例1の上記(1)(ア)(b)には、「本発明は主として食物の味の改良により全体として食性を増大させると信じられる。」と記載されており、また、上記(1)(ア)(d)には、「当業者は食物表面に食性向上剤を加えることは食物の内部に添加した食物に比しその効果を増大させるであろうことは理解されるであろう。このように、ドッグフードの表面に噴霧することはもっとも好ましい適用方法であり・・・」と記載されている。

(c)また、引用例3の(1)(ウ)(a)に記載されているように、酵母として活性酵母も不活性酵母もどちらも広く用いられることは、本願出願日前に周知である。(以下「周知事項」という。)

(d)そうすると、引用発明1及び引用例2の記載事項は、ペットフードの味を改良するという共通した課題を有しているから、引用発明1の表面被覆で添加されるL-メチオニン(メチオニン化合物)を、さらに味を改良するために、引用例2の記載事項の酵母粉末と混合することは、当業者が容易に想到し得たことである。
その際、上記周知事項を考慮し、混合する酵母粉末を不活性酵母とし、ペットフードの味を改良するのに適した量として、本件補正発明の相違点に係る構成とすることは、当業者が適宜なし得たことである。

(e)次に、審判請求書の第3頁第13?21行目の「更に本願発明により達成される効果は顕著である。そして本願発明の効果は、本願明細書の実施例に実際に示されている。本願明細書の実施例5の表5において、市販のキャットフードにメチオニンおよびビール酵母を局所施用した(0.2%のビール酵母と0.2%のメチオニンを含むコーティングを施した)試験組成物について検討したところ、ネコは、コーティングを有しない対照組成物よりも試験組成物を好んで摂取したという結果が示されている。即ち実施例5の実験番号1には、試験組成物の嗜好%は80.0%であり、一方、対照組成物の嗜好%は20.0%であるという結果が示されている。更に実施例5の実験番号2では、試験組成物の嗜好%は66.7%であり、一方、対照組成物の嗜好%は33.3%であるという結果が示されている。」との主張について検討する。
実施例1の表1、実施例2の表2、実施例3の表3を参照すると、市販の乾燥キャットフードのコーティング中に適量のメチオニンを含ませることによって、美味性が増強されるといえるものの、実施例4の表4を参照すると、コーティング中に0.2%のビール酵母と0.2%のメチオニンを含む、鶏レバー着香剤入りの市販の乾燥キャットフードでは、対象組成物に対する嗜好性における差異が、統計的に有意であることが見いだされていない。
以上を考慮すると、メチオニン化合物と不活性酵母とを組合せて用いることによって、格別顕著な効果が生じるとはいえない。
よって、本件補正発明の作用効果は、引用発明1、引用例2の記載事項及び周知事項の奏する作用効果から予測される範囲内のものにすぎず、格別なものではない。

(f)したがって、本件補正発明は、引用発明1、引用例2の記載事項及び周知事項に基づいて容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)本件補正についてのむすび
よって、本件補正は、平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので、同法第159条第1項において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3.本願発明について
1.本願発明
平成25年12月26日付けの手続補正は、上記のとおり却下されたので、本願の請求項1ないし33に係る発明は、平成24年1月20日付けで補正された特許請求の範囲の請求項1ないし33に記載された事項により特定されるものであるところ、その請求項17に係る発明(以下、「本願発明」という。)は次のとおりのものである。

「美味性を増強する量の少なくとも1種のメチオニン化合物および美味性を増強する量の不活性酵母を含む、動物による消費に適した組成物であって、メチオニン化合物および不活性酵母を該組成物に局所施用する、前記組成物。」

2.引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例1ないし3の記載事項は、前記第2の[理由]3.(1)(ア)?(ウ)に記載したとおりである。

3.対比・判断
本願発明は、前記第2で検討した本件補正発明の「メチオニン化合物および不活性酵母」を「組成物に局所施用する」際の量についての限定事項である「各々該組成物に、該組成物の0.05重量%?0.5重量%の量で加えて、」との構成を省いたものである。
そうすると、本願発明の構成要件をすべて含み、さらに他の構成要件を付加したものに相当する本件補正発明が、前記第2の[理由]3.(3)において判断したとおり、引用発明1、引用例2の記載事項及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本願発明も同様の理由により、引用発明1、引用例2の記載事項及び周知事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

4. むすび
以上のとおり、本願発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから、他の請求項に係る発明について検討するまでもなく、本願は拒絶されるべきものである。

よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-01-13 
結審通知日 2015-01-14 
審決日 2015-01-28 
出願番号 特願2007-549654(P2007-549654)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (A23K)
P 1 8・ 575- Z (A23K)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 木村 隆一  
特許庁審判長 本郷 徹
特許庁審判官 門 良成
中川 真一
発明の名称 動物による消費のための組成物の美味性を増強するための方法  
代理人 小野 新次郎  
代理人 辻本 典子  
代理人 山本 修  
代理人 小林 泰  
代理人 竹内 茂雄  

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