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審決分類 審判 一部無効 1項3号刊行物記載  H04W
審判 一部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H04W
審判 一部無効 特36条4項詳細な説明の記載不備  H04W
審判 一部無効 2項進歩性  H04W
管理番号 1302078
審判番号 無効2013-800082  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-05-10 
確定日 2014-10-01 
事件の表示 上記当事者間の特許第3980478号発明「直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)セルラー・ネットワークの媒体アクセス制御」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 1.手続の経緯
手続の経緯はおおむね以下のとおりである。
平成13年10月10日(パリ条約による優先権主張 2000年10月10日(US)アメリカ合衆国)
:出願(特願2002-535271号)
平成19年 7月 6日:特許権の設定登録(特許第3980478号)
平成25年 5月10日:本件無効審判請求
平成25年 9月 3日:答弁書提出(被請求人)
平成26年 2月 5日:弁駁書提出(請求人)
平成26年 5月27日:口頭審理陳述要領書提出(請求人及び被請求
人)
平成26年 6月10日:口頭審理

2.特許請求の範囲の記載
請求人は、請求項1及び請求項7に係る特許について、無効理由を主張するものであり、特許請求の範囲の請求項1及び請求項7は、以下のとおりに記載されている。

「【請求項1】 直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を使用して、それぞれが複数の基地局のうちの一つの基地局と通信する複数の加入者を含んでおり、
前記基地局は、基地局と複数の加入者との間での多重アクセスと情報交換とを調整するためのロジックを有し、該ロジックは、複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMAチャネル情報及び少なくとも一つの他の基地局から収集されたOFDMAチャネル情報に基づいて、複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択し、そして、前記少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供することを特徴とするセルラー・ネットワーク。」

「【請求項7】 複数の基地局から複数の加入者にサウンディング信号を送る段階と、
各基地局において、少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から、複数のOFDMAトラフィックチャネルに関するチャネル状態情報を受け取る段階と、
少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から受け取った前記OFDMAチャネル状態情報と、複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得とに基づいて、前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラ
フィックチャネルを割り当て、そして、前記少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する、OFDMAマルチユーザトラフィックチャネル割り当てを行う段階と、
を含むことを特徴とする方法。」

3.当事者の主張
3-1.請求人の主張
請求人は、特許3980478号の請求項1及び請求項7に係る発明についての特許を無効とする、審判費用は被請求人の負担とするとの審決を求
め、その理由として、以下の無効理由1-4を主張し、証拠方法として甲第1号証-甲第21号証を提出した。

無効理由1
請求項1に係る発明は、甲第1号証記載の発明と同一であるので、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものであ
る。
請求項1に係る発明は、甲第1号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、
請求項7に係る発明は、甲第1号証記載の発明及び甲第15号証記載の発明(並びに甲第2-14号証に示される周知技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、特許法第123条第1項第2号により無効とされるべきである。

無効理由2
請求項1に係る発明は、甲第16号証記載の発明と同一であるので、特許法第29条第1項第3号の規定により特許を受けることができないものである。
請求項1に係る発明は、甲第16号証記載の発明と、甲第1号証及び甲第17-21号証のいずれかに記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
請求項7に係る発明は、甲第16号証記載の発明及び甲第15号証記載の発明(並びに甲第2-14号証に示される周知技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
請求項7に係る発明は、甲第16号証記載の発明と、甲第1号証及び甲第17-21号証のいずれかに記載の発明と、甲第15号証記載の発明と(甲第2-14号証に示される周知技術)に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、特許法第123条第1項第2号により無効とされるべきである。

無効理由3
請求項1及び7に係る発明は明確でないので、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号により無効とされるべきである。

無効理由4
明細書の発明の詳細な説明が、請求項1及び7に係る発明を当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されていないので、特許法第36条第4項に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号により無効とされるべきである。
請求項1及び7に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないので、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、
また、請求項1の記載が特許法第36条第6項第3号に規定する要件を満たしておらず、特許法第123条第1項第4号により無効とされるべきである。

甲第1号証 国際公開第98/24258号
甲第2号証 特開平10-209931号公報
甲第3号証 特開平11-88288号公報
甲第4号証 特開平11-163822号公報
甲第5号証 特開平11-239115号公報
甲第6号証 特開平11-298434号公報
甲第7号証 特開2000-22660号公報
甲第8号証 特開2000-68975号公報
甲第9号証 特開2000-183844号公報
甲第10号証 特開2000-196560号公報
甲第11号証 特開2000-201134号公報
甲第12号証 特開2000-216748号公報
甲第13号証 特開2000-244442号公報
甲第14号証 特開2000-269926号公報
甲第15号証 特開2000-13290号公報
甲第16号証 特開2000-78651号公報
甲第17号証 Rainer Gruheid(注:「u」はウムラウト), Hermann Rohling, Adaptive modulation and Multiple Access for the OFDM Transmission Technique, Wireless Personal Communications May 2000 Volume 13, Issue 1-2, pp 5-13
甲第18号証 V. Tralli et al, Adaptive C-OFDM System at 30 GHz for the Last Mile Wireless Broadband Access to Interactive Services,
IEEE 1998, pp 1314-1319
甲第19号証 MOTEGI M at al, Optimum Band Allocation According to
Subband Condition for BST-OFDM, 11^(th) IEEE International Symposium on Personal Indoor and Mobile Radio Communications, US, IEEE, September 18 2000, VOL.2, pp1236-1240
甲第20号証 国際公開第99/65155号
甲第21号証 特表平11-508417号公報

3-2.被請求人の主張
被請求人は、答弁書を提出し、本件審判請求は成り立たない、審判費用は請求人の負担とするとの審決を求め、請求人の主張する無効理由に対して、以下のように反論した。

請求項1及び請求項7は、無効理由1あるい無効理由2によって特許法第29条第1項第3号及び同条第2項に該当しない。
請求項1及び請求項7は、無効理由3によって特許法第36条第6項第2号に該当しない。
請求項1及び請求項7は、無効理由4によって特許法第36条第4項及び同条第6項第1号及び同項第3号に該当しない。
本件審判の請求は成り立たない。

4.無効理由3(特許法第36条第6項第2号)について
4-1.請求人の主張する無効理由
請求人は、本件特許請求の範囲の記載が不備であるとして、次の事項を主張している。
4-1-1.請求項1について
(1)「フィードバックOFDMAチャネル情報」、「OFDMAチャネル情報」、「OFDMAトラフィックチャネル」、及び「結合OFDMAチャネル割り当て」の文言は不明確なものである。

(2)「複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMAチャネル情報及び少なくとも一つの他の基地局から収集されたOFDMAチャネル情報に基づいて」という文言は、「複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択し」という文言のみを修飾しているのか、又は、「複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択し」という文言及び「前記少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する」という文言の両方を修飾しているのか不明確である。

(3)「一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択」することと、「結合OFDMAチャネル割り当てを提供する」ことと、の関係が不明確であ
る。

4-1-2.請求項7について
(1)「OFDMAトラフィックチャネルに関するチャネル状態情報」、
「OFDMAチャネル状態情報」、「推定空間利得」、「OFDMAトラ
フィックチャネル」、「結合OFDMAチャネル割り当て」、及び「OFDMAマルチユーザトラフィックチャネル割り当て」の文言は不明確なものである。

(2)「少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から受け取った前記OFDMAチャネル状態情報と、複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得とに基づいて」という文言
は、「前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラフィックチャネルを割り当て」という文言のみを修飾しているのか、又は、「前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラフィックチャネルを割り当て」という文言及び「前記少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する」という文言の両方を修飾しているのか不明確である。

(3)「OFDMAトラフィックチャネルを割り当て」ることと、「結合OFDMAチャネル割り当てを提供する」ことと、の関係が不明確である。

4-2.無効理由3に対する当審の判断
4-2-1.請求項1についての判断
(1)「4-1-1.請求項1について」の(1)の主張について
「フィードバック」、「OFDMA」、「チャネル」、「情報」、「トラフィックチャネル」、及び「チャネル割り当て」が移動通信の分野において一般的に用いられる用語であることは説明の要もない
「OFDMAチャネル情報」が、OFDMAのチャネルに関する情報であり、チャネル情報が具体的には本件明細書の段落【0021】に「加入者にて測定されたフィードバックチャネル利得及び雑音及び干渉情報」と記載されているようなものを含む情報であることは、当業者には明らかである。
「フィードバックOFDMAチャネル情報」は、フィードバックされたOFDMAチャネル情報であり、請求項1では「前記基地局は、……、複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMAチャネル情報」と記載されていることから、加入者から基地局へフィードバックされる情報であることは明確である。
「OFDMAトラフィックチャネル」が、OFDMAのトラフィックチャネルであることは明らかである。
「結合OFDMAチャネル割り当て」のうち、「OFDMAチャネル割り当て」がOFDMAのチャネル割り当てであることは明らかであり、OFDMAのチャネル割り当てでは、例えば本件の図3のように、各加入者に複数のOFDMAチャネルが割り当てられ、また請求項1にも「一組のOFDMAトラフィックチャネル」と記載されており、これを「結合」と解することは、当業者であれば何の困難もない。
以上のように、「4-1-1.請求項1について」の(1)において、請求人が不明確なものとする文言は、いずれも明確なものである。

なお、請求人は、「これらの文言は、学術用語でもなく、また、移動通信の分野において一般的に用いられる用語でもない。さらに、これらの文言
は、単に3つ以上の用語を結合して構成されたものであることにより著しく不明確になっているにもかかわらず、何らの定義も含んでいない。」としている。
しかし、特許法第36条第6項第2号は発明が明確であることを規定するものであり、その要件が満たされるのであれば、学術用語やその分野において一般的に用いられる用語のみで記載する必要がないのは当然のことであ
る。
また、単に3つ以上の用語を結合して構成された文言が、文章表現とし一般的には好ましくないものであるのかもしれないが、そのことにより直ちに不明確といえるわけではない。

(2)「4-1-1.請求項1について」の(2)の主張について
チャネル割り当ての処理は、割り当てるチャネルの決定(選択)だけでなく、その決定(選択)したチャネルを使用可能とする(提供する)ための処理が必要なことは、当業者の技術常識である。
例えば、甲第1号証のパテントファミリである特表2001-506071号公報には、以下のように割り当てチャネルを決定するだけでなく、その
チャネルを使用可能とする(提供する)ための処理であるチャネル割り当てメッセージを送信することが記載されている。

「図5は、ACAプロセス中システムのACA処理部内で遂行されるプロセス・ステップを示す。ステップ502で、リンク受信機でNのチャネルに遂行されたI測定の結果がACAプロセッサによって受信される。次に、ス
テップ504で、ACAプロセッサは、Nのチャネル上で行われたI測定の結果からMの最少干渉未使用チャネルを決定する。次いで、プロセスは、ステップ504からステップ506へ移動し、ここで、リンク上の最少干渉Mのチャネルの部分集合を割り当てるチャネル割り当てメッセージがリンク受信機及びリンク送信機の両方へ送信される。」(第27ページ第18-25行)

また「I測定の結果」は、請求項1の「フィードバックOFDMAチャネル情報」と同種の情報であり、「ACAプロセッサは、Nのチャネル上で行われたI測定の結果からMの最少干渉未使用チャネルを決定する。」とあるように、チャネル情報に基づいて割り当てるチャネルを決定(選択)することも示されている。

上記のような技術常識に基づけば、「複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMAチャネル情報及び少なくとも一つの他の基地局から収集されたOFDMAチャネル情報に基づいて」という文言が、「複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択し」という文言のみを修飾していることは明らかである。

(3)「4-1-1.請求項1について」の(3)の主張について
上記(2)の技術常識に基づけば、「一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択」することと、「結合OFDMAチャネル割り当てを提供する」ことと、の関係は明確である。

4-2-2.請求項7についての判断
(1)「4-1-2.請求項7について」の(1)の主張について
「OFDMAトラフィックチャネル」及び「結合OFDMAチャネル割り当て」については、「4-2-1.請求項1についての判断」の(1)のとおり明確である。
「チャネル状態情報」は、チャネルの状態に関する情報であり、具体的には本件明細書の段落【0021】に「加入者にて測定されたフィードバックチャネル利得及び雑音及び干渉情報」と記載されているようなものを含む情報であることは、当業者には明らかであるから、「OFDMAトラフィックチャネルに関するチャネル状態情報」及び「OFDMAチャネル状態情報」は、「4-2-1.請求項1についての判断」の(1)の「OFDMAチャネル情報」が明確であるのと同様、明確である。
「推定空間利得」のうち「空間利得」は、伝送路の特性の中で特に利得に着目したもので、「推定」とあることは直接測定されたものではなく、計算により得られたものと解され、不明確な点はない。
「OFDMAマルチユーザトラフィックチャネル割り当て」が、OFDMAのマルチユーザに対するトラフィックチャネルの割り当てであることは明確である。
以上のように、「4-1-2.請求項7について」の(1)において、請求人が不明確なものとする文言は、いずれも明確なものである。

(2)「4-1-2.請求項7について」の(2)の主張について
「4-2-1.請求項1についての判断」の(2)と同様に、当業者の技術常識に基づけば、「少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から受け取った前記OFDMAチャネル状態情報と、複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得とに基づいて」という文言は、「前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラ
フィックチャネルからOFDMAトラフィックチャネルを割り当て」という文言のみを修飾していることは明らかである。

(3)「4-1-2.請求項7について」の(3)の主張について
請求項7の「前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラフィックチャネルを割り当て」とあるのは、請求項1の「複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択し」に対応するものであるから、「4-2-1.請求項1についての判断」の(3)と同様に、当業者の技術常識に基づけば、「OFDMAトラフィックチャネルを割り当て」ることと、「結合OFDMAチャネル割り当てを提供する」ことと、の関係は明確である。

4-3.無効理由3についての小括
上記のとおり、無効理由3で指摘された点で請求項1及び請求項7に係る発明を不明確なものとすることはできず、また、他に不明確な点はないの
で、請求項1及び請求項7に係る発明は明確である。

5.無効理由4(特許法第36条第4項、第6項第1号、及び同項第3号)について
5-1.請求人の主張する無効理由
請求人は、本件特許請求の範囲及び明細書の発明の詳細な説明の記載が不備であるとして、次の事項を主張している。
5-1-1.請求項1について
(1)「複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMAチャネル情報及び少なくとも一つの他の基地局から収集されたOFDMAチャネル情報に基づいて」「複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択」することを開示する記載が本件特許の明細書には見当たらない。

(1’)段落【0052】は上記(1)の構成要件に対応する構成を開示しているように思われるが、この段落は「少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する」ことに対応する構成を開示するものであり、両方の構成を開示するものであるとすると、全体として冗長な記載を形成していることになり、本件特許請求項1の記載は、特許法第36条第6項第3号に規定する要件を満たさないものである。

(2)「少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する」と規定してお
り、この構成要件に関連する記載は、本件特許の段落【0052】に見受けられるが、ある基地局が2つ以上の他の基地局と協働して複数の加入者に対してチャネルを割り当てることについては、全く開示できていない。

5-1-2.請求項7について
(1)「少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から受け取った前記OFDMAチャネル状態情報と、複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得とに基づいて」「前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラフィックチャネルを割り当て」ることを開示する記載が本件特許の明細書には見当たらない。

(2)本件特許の明細書は、具体的にどのようにして、「複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得」に基づいて
「前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラフィックチャネルを割り当て」るのかを全く記載していない。すなわち、本件特許の明細書は、「複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得」をどのようにして得るのか、それをどのようにして「OFDMAトラフィックチャネルを割り当て」に用いるのかを記載していない。

(3)「少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する」と規定してお
り、この構成要件に関連する記載は、本件特許の段落【0052】に見受けられるが、ある基地局が2つ以上の他の基地局と協働して複数の加入者に対してチャネルを割り当てることについては、全く開示できていない。

5-2.無効理由4に対する当審の判断
5-2-1.請求項1についての判断
(1)「5-1-1.請求項1について」の(1)の主張について
本件明細書には以下の記載がある。

「 【0051】
多数基地局のプロトコル
結合トラフィックチャネル割り当ての1つの用途は、マルチセルOFDMAネットワークである。このような設定において、ネットワーク容量は、任意の所定状況において実効転送速度を増大させ、潜在的に最大化する動的
ローディング/適応変調によって相当な利点を得ることができる。本質的には、マルチセルは、全体的なスペクトル資源を共有して、動的ネットワークにおいて「オン・デマンド」トラフィックチャネル割り当てを提供することができる。
【0052】
結合マルチセルトラフィックチャネル割り当てを可能にするために、各セル内の基地局は、プロトコル及び上述の方式を利用して、アップリンク及びダウンリンクのトラフィックチャネル推定を行う。更に、図9に示すよう
に、隣接する基地局は、基地局制御装置又は基地局間の専用リンクを介し
て、このような情報を交換する。トラフィックチャネル状態、割り当て表、並びに隣接するセルのアクセス中の全加入者のQoS要件は、トラフィックチャネル割り当てを行う際に明らかにされることができる。例えば、2つの基地局が、異なるセル内で互いに近い2人の加入者に、チャネル1から10まで(これらの加入者に対して高い利得を有するチャネルがある)のいずれかを割り当てることができると分かっている場合、一方の基地局は、チャネル1から5までを加入者に割り当てることができ、他方の基地局は、チャネル6から10までを加入者に割り当てることができる。」

上記記載によれば、隣接する基地局で交換した情報を含むチャネル情報に基づいて、チャネルを割り当てることが示されている。
上記記載に対して請求人は、「5-1-1.請求項1について」の
(1’)のように、段落【0052】は「少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する」ことに対応する構成を開示するものである旨主張してい
る。
しかし、「4-2-1.請求項1についての判断」(2)で示した当業者の技術常識のように、チャネル割り当て処理は、割り当てるチャネルの決定(選択)だけでなく、その決定(選択)したチャネルを使用可能とする(提供する)ための、例えばチャネル割り当てメッセージの送信のような処理が必要であるから、「選択」および「提供」の明示的な記載はないが、当業者の技術常識に基づけば、上記記載は割り当てに関して「選択」および「提
供」の両者を開示していることは明らかである。

(1’)「5-1-1.請求項1について」の(1’)の主張について
上記(1)のとおり、「4-2-1.請求項1についての判断」(2)で示した当業者の技術常識のように、チャネル割り当て処理は、割り当てる
チャネルの決定(選択)だけでなく、その決定(選択)したチャネルを使用可能とする(提供する)ための、例えばチャネル割り当てメッセージの送信のような処理が必要であるから、請求項1に「複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMAチャネル情報及び少なくとも一つの他の基地局から収集されたOFDMAチャネル情報に基づいて」「複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択」すること、及び「少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する」ことの両者が記載されていることは、チャネル割り当て処理について明確に記載された適切なものであり、冗長な記載ではない。

(2)「5-1-1.請求項1について」の(2)の主張について
1つの基地局が3以上を含む複数の加入者に対してチャネル割り当てを行うことは周知のことであり、当業者にとって自明な技術事項にすぎない。
本件明細書の段落【0052】には、2つの基地局についての多数基地局のプロトコルが示されており、これに基づいて3以上の場合を想定することは、当業者にとって何ら困難な点はない。例えば3つの場合を以下のように考えることができる。

3つの基地局が、異なるセル内で互いに近い3人の加入者に、チャネル1から10まで(これらの加入者に対して高い利得を有するチャネルがある)のいずれかを割り当てる場合、第1の基地局は、チャネル1から3までを加入者1に割り当てることができ、第2の基地局は、チャネル4から6までを加入者2に割り当てることができ、第3の基地局は、チャネル7から10までを加入者3に割り当てることができる。

ここで、第1の基地局、第2の基地局、及び第3の基地局は、チャネル情報の交換を行うのであるから、第1の基地局については、加入者1から直接フィードバックされたチャネル情報が得られ、加入者2からフィードバックされたチャネル情報が第2の基地局から得られ、加入者3からフィードバックされたチャネル情報が第3の基地局から得られる。
そして、第1の基地局が、全ての加入者1-3のチャネル情報に基づい
て、加入者1にチャネルを割り当てることは、上記当業者にとって自明な技術事項と同様にしてできることは明らかで、第2の基地局が加入者2に、第3の基地局が加入者3にチャネルを割り当てることも同様である。
したがって、本件明細書には、多数基地局のプロトコルとして2つの基地局の場合しか、直接的な記載はないが、ある基地局が2つ以上の他の基地局と協働する、基地局が3以上の場合についても、当業者であれば、2つの基地局の場合の記載から自明なことにすぎない。

5-2-2.請求項7についての判断
(1)「5-1-2.請求項7について」の(1)の主張について
サウンディング信号のような基地局から全方向に送信される信号に基づいて測定された、信号対干渉雑音比(SINR)のようなチャネル状態情報
は、ビームフォーミングのような空間処理により空間利得を有する場合に
は、補正が必要なことが知られている。このことは、本件明細書に、

「【0044】
……基地局は、当技術分野で周知の方法で生成される空間的選択ビーム
フォーミングビームパターン702を使用して、チャネル特性を判定して、その後加入者712と(ビームフォーミングを使用して)通信することができる。このような理由から、サウンディング信号に基づいて加入者で判定されたOFDMAトラフィックチャネル状態は、ダウンリンクのビームフォーミングが行われた場合には、実際のトラフィックチャネル状態は反映されない。換言すると、全方向性サウンディング信号の「悪い」ダウンリンクトラフィックチャネルは、ダウンリンクビームフォーミングを伴う実際のデータトラフィック向けの「良い」チャネルである可能性が十分にある。」

と記載されていることからも明らかである。
本件明細書には、

「【0026】
別の実施形態において、多数の基地局に関連するチャネル割り当てのプロトコルを説明する。このような実施形態において、マルチセルラー環境では、各セル内の基地局は、まず、全てのアクティブな及びアクセス中の加入者に関して、全てのOFDMAトラフィックチャネルにわたってアップリンク及びダウンリンクのSINRを推定する。また、各基地局は、QoS要件(例えば、データ転送速度、タイムアウト、ビットエラー率、待ち時間)をバッファすることができる。隣接するセル内の基地局は、多数の加入者に関して結合でトラフィックチャネル割り当てを行う前に、このような情報を交換する。」

と記載されており、「アップリンク及びダウンリンクのSINRを推定す
る」とあるSINRが、アップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得により補正されたチャネル状態情報であることは明らかである。

また、本件明細書には、

「【0052】
結合マルチセルトラフィックチャネル割り当てを可能にするために、各セル内の基地局は、プロトコル及び上述の方式を利用して、アップリンク及びダウンリンクのトラフィックチャネル推定を行う。更に、図9に示すように、隣接する基地局は、基地局制御装置又は基地局間の専用リンクを介して、このような情報を交換する。トラフィックチャネル状態、割り当て表、並びに隣接するセルのアクセス中の全加入者のQoS要件は、トラフィックチャネル割り当てを行う際に明らかにされることができる。例えば、2つの基地局が、異なるセル内で互いに近い2人の加入者に、チャネル1から10まで
(これらの加入者に対して高い利得を有するチャネルがある)のいずれかを割り当てることができると分かっている場合、一方の基地局は、チャネル1から5までを加入者に割り当てることができ、他方の基地局は、チャネル6から10までを加入者に割り当てることができる。」

と記載されており、「トラフィックチャネル状態」も「アップリンク及びダウンリンクのトラフィックチャネル推定」に基づいて補正されたもの、すなわちアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得により補正されたチャネル状態情報と解釈するのが自然である。
さらに本件明細書には、

「【0045】
一実施形態において、基地局は、空間的ビームフォーミング中のダウンリンクトラフィックチャネル状態を判定する。このような基地局は、以下の演算を行うことができる。まず、待機加入者は、全方向性サウンディング信号を受信して、OFDMAトラフィックチャネルの各々の信号対干渉雑音率を判定する。
即ち、
SINR_i,i=1,..,K,
上式で、SINR_iは、i番目のトラフィックチャネル上の信号対干渉雑音率であり、Kは、基地局によって許可されたトラフィックチャネルの総数である。
【0046】
呼び出し時、又は待機加入者が送信するパケットを有すると、加入者は、測定されたSINR情報をアクセスチャネルの1つを介して基地局に返信す
る。基地局の広帯域空間チャネル推定器は、アップリンク空間チャネルを推定する。
即ち、
(a_1i,a_2i,...,a_Mi),i=1,...,K
上式で、a_miは、m番目アンテナからのi番目トラフィックチャネルのアンテナ応答であり、Mはアンテナ素子の総数である。
【0047】
推定された空間チャネルに基づいて、基地局は、例えば、以下のような全方向性送信にわたるビームフォーミングの「付加的な」空間利得を予測する。
即ち、
G_i=10log10(|a_1i|^2+|a_2i|^2+...+|a_Mi|^2)/|a_1i+a_2i+...+a_Mi|^2[dB],i=1,...,K.
【0048】
他の多くの方法を使用して、全方向性送信にわたる空間処理利得を推定することができる。G_iが計算されると、ダウンリンクビームフォーミングを有するトラフィックチャネルiにわたる期待SINR_iを以下のように決定することができる。
即ち、
SINR_i,new=SINR_i+G_i,i=1,...,K
【0049】
上述の情報は、基地局のトラフィックチャネル割り当て器によって使用さ
れ、チャネル割り当てを判定する。」

と記載されており、推定空間利得であるGにより、チャネル状態情報であるSINR_iを補正して、それを使用してチャネル割り当てを判定するのであるから、「チャネル状態情報」及び「推定空間利得」の両方に基づいて
チャネル割り当てを行うことが示されている。
したがって、本件明細書には「少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から受け取った前記OFDMAチャネル状態情報と、複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得とに基づいて」「前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラフィックチャネルを割り当て」ることが開示されている。

(2)「5-1-2.請求項7について」の(2)の主張について
ビームフォーミングのような空間処理により空間利得(指向性利得)が得られることは、甲第15号証の以下の記載のように周知技術にすぎない。

「【0002】
【従来の技術】従来の適応ダイバーシチ送信技術の一例について説明する。適応ダイバーシチ送信とは、移動体通信システムにおいて主に基地局が携帯電話機等の移動局に対して行うことを前提に検討されている技術である。
【0003】具体的には、まず、基地局において、アダプティブアレイアンテナなどの基地局のダイバーシチ受信回路により得られた受信重み係数情報をもとに、移動局の方向を推定する。そして、基地局から移動局に対して信号を送信する場合に、その推定した方向に対して指向性利得を持たせた信号を生成して送信する方式である。このような、適応ダイバーシチ送信を行うことにより移動局側での受信利得の改善、他移動局への干渉の軽減が可能となる。」

したがって、当業者であれば上記(1)で示した本件明細書の段落【0047】等の記載に基づいて、「複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得」を計算することに、何ら困難な点はないから、本件明細書には、「推定空間利得」をどのようにして得るのかが開示されている。

また、上記(1)のとおり、本件明細書には、推定空間利得であるGにより、チャネル状態情報であるSINR_iを補正して、それを使用してチャネル割り当てを判定することが示されているから、本件明細書には、「複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得」に基づいて「前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラフィックチャネルを割り当て」ること、及び
「複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得」をどのようにして「OFDMAトラフィックチャネルを割り当て」に用いることが、明確に記載されている。

(3)「5-1-2.請求項7について」の(3)の主張について
「5-2-1.請求項1についての判断」の(2)と同様であり、本件明細書の記載から自明なことである。


5-3.無効理由4についての小括
上記のとおり、請求項1及び請求項7に係る発明の無効理由4で指摘された発明を特定する事項は、明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであり、他の発明を特定する事項も発明の詳細な説明に記載されたものであるから、請求項1及び請求項7に係る発明は発明の詳細な説明に記載されたものである。
また、請求項1の記載は、無効理由4で指摘された点で冗長でなく、他に冗長な点もないから、その記載は簡潔である。
さらに、発明の詳細な説明は、無効理由4で開示されていないと指摘された事項も開示されており、他の事項も開示されているので、発明の詳細な説明は、請求項1及び請求項7に係る発明を、当業者が、その実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されている。

なお、上記のとおり、本件の特許請求の範囲及び明細書の記載は、明確かつ十分なもので、特許法第36条第4項、及び同第6項各号に規定する要件を満たすものであるが、これらの要件に関する被請求人の答弁書及び口頭審理陳述要領書の記載は、必ずしも適切なものとはいえない。特に、「結合OFDMAチャネル割り当て」に関する記載は不明りょうである。

6.無効理由1(特許法第29条第1項及び同第2項)について
6-1.請求項1に係る発明について
6-1-1.請求項1に係る発明
「4.無効理由3(特許法第36条第6項第2号)について」のとおり、特許請求の範囲の請求項1の記載は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすので、請求項1に係る発明(以下、「本件発明
1」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。
その記載は再掲すると、以下のとおりである。

「【請求項1】 直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を使用して、それぞれが複数の基地局のうちの一つの基地局と通信する複数の加入者を含んでおり、
前記基地局は、基地局と複数の加入者との間での多重アクセスと情報交換とを調整するためのロジックを有し、該ロジックは、複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMAチャネル情報及び少なくとも一つの他の基地局から収集されたOFDMAチャネル情報に基づいて、複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択し、そして、前記少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供することを特徴とするセルラー・ネットワーク。」

6-1-2.甲第1号証(国際公開第98/24258号)に記載された発明
甲第1号証には、図面とともに以下の記載がされている。

(1)「BACKGROUND OF THE INVENTION

Field of the Invention

The present invention relates to cellular telecommunications systems More particularly, the present invention relates to a method and system of adaptive channel allocation in a multi-slot, multi-carrier communication system.」
(明細書第1ページ第10-14行)

(2)「In these OFDM cellular systems a set of subcarrier frequencies is assigned to each communications link created for transmission from a base station to a mobile station (downlink) and from a mobile station to a base station (uplink) operating within a cell. The set of subcarrier frequencies allocated to each communications link is chosen from all subcarrier frequencies available to the system. Within a cell the same subcarrier frequency cannot be assigned to more than one communications link. Thus, co-channel interference between subcarriers within the same cell does not occur.」
(明細書第3ページ第12-18行)

(3)「However, it is possible in such an OFDM system that a communications link in a cell of the system is assigned a set of subcarriers frequencies that includes one or more subcarriers frequencies also assigned to a communications link set up in another cell within the system. Each of these commonly assigned subcarriers frequencies may be subject to co-channel interference caused by the use of the same subcarrier frequency in the other cells. In these OFDM systems no method or system exists for coordinating the assignment of subcarrier frequencies to communications links created within different cells. In such a system the co-channel interference in a communications link caused by a subcarrier used in a neighboring cell could be very large.」
(明細書第3ページ第19-27行)

(4)「Analogous to the channels defined in a FDM communication system, the channels defined in a multi-carrier, multi-slot communication system are also susceptible co-channel interference. And, signals generated upon such channels are susceptible to frequency-selective multi-path fading. As a result, the channels assigned to a communication link in a multi-carrier, multi-slot communication system might not exhibit identical characteristics.
It would provide an advantage then, to have a method and system of adaptive channel allocation for use in an a multi-carrier, multi-slot communication system.」
(明細書第5ページ第14-21行)

(5)「SUMMARY OF THE INVENTION

The present invention provides a method and system of adaptive channel allocation (ACA) in a multi-carrier, multi-slot communication system.」
(明細書第6ページ第1-3行)

(6)「DETAILED DESCRIPTION OF THE INVENTION

Referring to Figure 1, there is illustrated a multi-slot cellular telecommunications system of the type to which the present invention generally pertains. Frequency-division, time-division multiple access (FD/TDMA) signals are generated and transmitted during operation of the system. In Figure 1, an arbitrary geographic area may be divided into a plurality of contiguous radio coverage areas, or cells C1-C10. While the system of Figure 1 is illustratively shown to include only 10 cells, it should be clearly understood that in practice, the number of cells will be much larger.」
(明細書第8ページ第15-23行)

(7)「Each of the mobile stations M1-M10 is capable of initiating or receiving a telephone call through one or more of the base stations B1-B10 and a mobile station switching center MSC.」
(明細書第9ページ第15-17行)

(8)「In the ACA of the invention, for each up/down link between a mobile station and base station, the system chooses a subset of a number (M) of channel from set of a number (N) of channels. The set of N channels is the set of channels available within the system for each link, where N>M.」
(明細書第11ページ第6-9行)

(9)「Referring now to Figure 2A, therein is illustrated the allocation of channels in accordance with an embodiment of the present invention, a multi-carrier, multi-slot communication system. Base station 200 communicates with mobile station 202 over downlinks 206 and uplinks 208. Base station 200 also communicates with mobile station 204 over downlinks 210 and uplinks 212. Transmissions on links 206,208, 210, and 212, within the cell uses a separate subset of M channels. The channels are used once within a cell.」
(明細書第11ページ第14-20行)

(10)「The ACA process begins when it is necessary for the system to create a communications link between a mobile station base station pair on either the uplink or the downlink. Referring again to Figure 4A, at step 402 the link receiver receives from the system a measurement order message to measure interference (I) on each of a group of N channels available for the link. The N channels may be all channels available within the system or a smaller group of channels chosen from all channels available within the system. Next, at step 404 the I measurements are performed. Then, from step 404 the process moves to step 406 where the I measurement results are sent to the system. When a mobile station is the link receiver, the I measurement results are transmitted over the DCCH or PCCH channel to the base station and then transferred to the MSC. When a base station is the link receiver, the I measurement results are transferred to the MSC via the appropriate overland means. After transmitting the I measurement results the process moves to step 408 where the link receiver waits for a response from the system. The process steps that take place when the link receiver is in the wait state at step 408 will now be described with reference to Figure 5.
Referring now to Figure 5, therein are shown the process steps performed within the ACA processing portion of system during the ACA process. At step 502 the results of the I measurement performed on the N channels at the link receiver are received by the ACA processor. Next, at step 504 the ACA processor determines the M least interfered unused channels from the results of the I measurements made on the N channels. From step 504 the process then moves to step 506 where a channel assignment message assigning the subset of the least interfered M channels to the link is sent to both the link receiver and the link transmitter. The ACA processor now moves to step 508 and waits for further input from the link receiver. The process flow now returns to step 408 Figure 4A. Alternative methods of determining the M channels for the channel assignment message may be used in place of step 506. For example, the channels could be assigned on the basis of how their use effects transmissions in neighboring cells. If one of the least interfered M channels was used in a neighbor cell, the channel would not be used. In this case the M channels may not be the least interfered M channels.」
(明細書第16ページ第21行-明細書第17ページ第20行)

(11)「The subset could also be reconfigured according to other criteria. For example, the subset of M could be reconfigured on the basis of the effect of using the subset, in the cell of the link, on communications occurring in neighbor cells. If some of the M channels used in the cell were also used in neighbor cells, these could be replaced with channels unused in the cell and also not used in neighbor cells. Reconfiguration could take place even if the used channels were not below a C/I threshold or even if the unused channel had an interference level greater than the replaced channel.」
(明細書第20ページ第22-29行)

(12)「Figure 8 illustrates a portion of a cellular communication system 800 in which an embodiment of the present invention is operable A base station 852 and a single mobile terminal 854 is shown to be coupled by way of a communication link 815, thereby to permit the transmission of downlink and uplink signals therebetween The system 800 is operable pursuant to a multi-slot, multi-carrier communication scheme in which the downlink and uplink comprises pairs of time slots and carriers, as described previously.」
(明細書第24ページ第22-28行)

(13)「A source-encoded signal generated by the encoder 864 is applied to a channel encoder 866 The channel encoder 866 channel-encodes the signal applied thereto, e g , by increasing the redundancy of the signal applied thereto.」
(明細書第25ページ第1-4行)

(14)「A channel-encoded signal generated by the encoder 866 is applied to a modulator 868 which modulates the channel-encoded signal according to the multi-slot, multi-carrier communication scheme That is to say, the modulator modulates the channel-encoded signal upon a selected carrier and transmits the modulated signal during selected time slots The signals generated by the modulator 868 form the downlink transmissions which are communicated to the mobile terminal 854 by way of the link created therebetween.」
(明細書第25ページ第5-11行)

(15)「In the illustrated embodiment, a channel condition measurer 902 forms a portion of the mobile terminal 854 The channel condition measurer 902 is operable to measure channel conditions of channels available to form the link 815 between the base station 852 and mobile terminal 854 In one embodiment, the channel condition measurer measures the interference levels of a plurality of at least some of the N available channels, available to form the link 815 Such measurements may be made responsive to signal levels of signals applied to the measurer 902 by way of a tap 904.
In the illustrated embodiment, the channel condition measurer 902 is further operable to measure levels of multi-path fading exhibited upon channels upon which signals are transmitted to the mobile terminal 854 Indications of such multi-path fading are provided to the channel condition measurer 902 by way of the tap 906.
Measured values of the channel condition exhibited by the channels are applied to the transmit portion of the mobile terminal 854, here indicated by way of a tap 908. As noted previously, in one embodiment, the measured indications of channel conditions are provided to the base station 852 by way of a control channel.」
(明細書第26ページ第8-22行)

(16)「An ACA processor 928 is here shown to include a channel evaluator 914 and channel allocator 916.」
(明細書第26ページ第28-29行)

(17)「Indications of measured values, measured by the measurer 902 or 909 are provided to the channel evaluator by way of taps 917 and 918, respectively. The channel evaluator which evaluates the channel characteristics determined by the determiner. Responsive to evaluations made by the evaluator 914, the channel allocator 916 is operable to allocate channels to form the link 815 between the base station 852 and the mobile terminal 854. Channel allocations allocated by the allocator 916 allocate channels which create the downlink as well as the uplink between the base station and mobile terminal. In one embodiment, indications of the channels allocated by the allocator 916 to form the uplink are transmitted upon control channels to the mobile terminal 854.」
(明細書第27ページ第1-10行)

(18)「Because the channels are dynamically allocated to form the communication link 815 between the base station 852 and mobile 854 channel allocations of channels to be used to form the link between the base station and mobile terminal are changed, as necessary.」
(明細書第27ページ第11-14行)

(19)「As can be seen from the above description, the invention provides a method and system of adaptive channel allocation for a multi-slot, multi-carrier communication scheme. Use of the invention will enhance the performance of such systems into which it is implemented.」
(明細書第27ページ第15-18行)

甲第1号証のパテントファミリである特表2001-506071号公報の上記(1)-(19)に対応する記載は以下のとおりである。

(1’)「発明の背景
発明の分野
本発明は、セルラ電気通信システムに関する。特に、本発明は、多スロット、多搬送波通信システムにおける適応チャネル分配方法及びシステムに関する。」
(第10ページ第7-10行)

(2’)「これらのOFDMセルラ・システムでは、セル内で動作する基地局から移動局へ(ダウンリンク)及び移動局から基地局へ(アップリンク)の伝送用に設立された各通信リンクに副搬送波周波数の集合が割り当てられる。各通信リンクに分配された副搬送波周波数の集合は、システムに利用可能な全ての副搬送波周波数から選択される。或る1つのセル内で同じ副搬送波周波数を2つ以上の通信リンクに割り当てることはできない。それゆえ、
同じセル内の副搬送波間で同一チャネル干渉は起こらない。」
(第12ページ第22行-第13ページ第1行)

(3’)「しかしながら、システムの或る1つのセル内の或る1つの通信リンクがそのシステム内の他のセル内にセット・アップされた通信リンクにまた割り当てられた1つ以上の副搬送波周波数を含む副搬送波周波数の集合を割り当てられることは、このようなOFDMシステムでは可能である。これらの共通に割り当てられた副搬送波周波数の各々は、他のセル内に同じ副搬送波周波数を使用することによって引き起こされた同一チャネル干渉を受けることがある。これらのOFDMシステムでは、いくつかの異なるセル内に設立された通信リンクへの副搬送波周波数の割り当てを組織的に調整する方法及びシステムは、存在しない。このようなシステムでは、近隣のセルに使用された副搬送波によって引き起こされた通信リンク内の同一チャネル干渉が非常に大きいこともあり得る。」
(第13ページ第1-11行)

(4’)「FDM通信システムにおいて定義されたチャネルに類似して、多搬送波、多スロット通信システムにおいて定義されたチャネルは、同一チャネル干渉をまた受けやすい。しかも、このようなチャネル上に発生された信号は、周波数選択性多経路フェージングにかかりやすい。結果として、多搬送波、多スロット通信システム内の通信リンクに割り当てられたチャネルが同等の特性を現わさないこともある。
したがって、多搬送波、多スロット通信システムに適応チャネル分配方法及びシステムを使用することが利点をもたらすことになろう。」
(第15ページ第10-17行)

(5’)「発明の要約
本発明は、多搬送波、多スロット通信システム内の適応チャネル分配(ACA)方法及びシステムを提供する。」
(第15ページ第25-27行)

(6’)「発明の詳細な説明
本発明が一般に適する型式の多スロット・セルラ電気通信システムを示
す。周波数分割、時分割多元接続(frequency-divisio
n,time-division multiple access; FD/TDMA)信号がシステムの動作中発生されかつ伝送される。図1で、任意の地理的エリアが多数の連続する無線カバレージ・エリア、すなわち、セルC1?C10に分割されることがある。図1のシステムは10セルだけを含むように図解上示されているが、云うまでもなく明らかなように、実際上はセルの数は遥かに大きい。」
(第18ページ第7-14行)

(7’)「移動局M1?M10の各々は、基地局B1?B10の1つ以上及び移動局交換

センタMSCを通して電話呼び出しを発信し又は受信する能力を有する。」
(第19ページ第6-8行)

(8’)「本発明のACAでは、移動局と基地局との間の各アップリンク/ダウンリンク毎に、システムは、或る数(N)のチャネルの集合から或る数(M)のチャネルの部分集合を選択する。Nのチャネルの集合は、各リンク毎にシステム内で利用可能なチャネルの集合であり、ここにN>Mであ
る。」
(第21ページ第2-5行)

(9’)「図2Aは、本発明の、多搬送波、多スロット通信システムの実施例に従うチャネルの分配を示す。基地局200がダウンリンク206及び
アップリンク208を通じて移動局202と通信する。基地局200はま
た、ダウンリンク210及びアップリンク212を通じて移動局204と通信する。セル内のリンク206、208、210、及び212上の伝送は、Mのチャネルの分離部分集合を使用する。それらのチャネルは或る1つのセル内で一回使用される。」
(第21ページ第11-16行)

(10’)「ACAプロセスは、アップリンク又はダウンリンクのどちらか上で移動局基地局対間に通信リンクを設立することがシステムに必要であるとき、開始する。図4Aを参照すると、ステップ402で、リンクはシステムから、そのリンクに利用可能なNのチャネル群の各々上の干渉(I)を測定するようにとの測定命令メッセージを受信する。Nのチャネルは、システム内の利用可能な全てのチャネルであるか又はシステム内の利用可能な全てのチャネルから選択されたチャネルのやや小さい群であってよい。次に、ステップ404で、I測定が遂行される。次いで、ステップ404からプロセスはステップ406へ移動し、ここでI測定結果がシステムへ送信される。移動局がリンク受信機であるとき、I測定結果はDCCHチャネル又はPCCHチャネルを通じて基地局へ伝送され、次いで、MSCへ転送される。基地局がリンク受信機であるとき、I測定結果は適当な陸上(overland)手段を経由してMSCへ転送される。I測定結果を伝送し

た後、プロセスはステップ408へ移動し、ここでリンク受信機がシステムからの応答を待機する。リンク受信機がステップ408で待機状態にあるとき取られるプロセス・ステップを図5を参照して説明する。
図5は、ACAプロセス中システムのACA処理部内で遂行されるプロセス・ステップを示す。ステップ502で、リンク受信機でNのチャネルに遂行されたI測定の結果がACAプロセッサによって受信される。次に、ス
テップ504で、ACAプロセッサは、Nのチャネル上で行われたI測定の結果からMの最少干渉未使用チャネルを決定する。次いで、プロセスは、ステップ504からステップ506へ移動し、ここで、リンク上の最少干渉Mのチャネルの部分集合を割り当てるチャネル割り当てメッセージがリンク受信機及びリンク送信機の両方へ送信される。ACAプロセッサは、そこでステップ508へ移動し、かつリンク受信機からの更に入力を待機する。プロセスの流れは、そこで、図4Aのステップ408へ復帰する。チャネル割り当てメッセージ用Mのチャネルを決定する代替方法がステップ506の代わりに使用されてよい。例えば、チャネルは、それらの使用が近隣セル内の伝送にいかに影響するかを基礎として割り当てることもできる。もし最少干渉Mのチャネルのうちの1つが近隣セル内で使用されたならば、そのチャネルは使用されないことになろう。この場合、Mのチャネルは最少干渉Mのチャネルではないことがある。」
(第27ページ第2行-第28ページ第3行)

(11’)「その部分集合を他の判定基準に従って再構成することもでき
る。例えば、Mの部分集合は、そのリンクのセル内でその部分集合を使用することの近隣セル内に起こる通信への影響を基礎として、再構成することもできる。もしそのセル内で使用された
M

のチャネルのうちの或るチャネルが近隣セル内でもまた使用されたとしたならば、これらのそのセル内で未使用でありかつまた近隣セル内で使用されないチャネルで以て置換することができるであろう。たとえ使用されたチャネルがC/Iしきい値の下でなかったとしても、又はたとえ未使用チャネルが置換されるチャネルより大きい干渉レベルを持ったとしても、再構成は、行うことができるであろう。」
(第31ページ第16-27行)

(12’)「図8は、本発明の実施例がその中で動作可能であるセルラ通信システム800の部分を示す。基地局852と単一移動端末854が通信リンク815を経由して結合されて示されており、それによって両者間にダウンリンク及びアップリンクの伝送を可能にする。システム800は、多ス
ロット多搬送波通信方式に従って動作可能であり、この方式でダウンリンク及びアップリンクは先に説明したようにタイム・スロットと搬送波の対を含む。」
(第36ページ第15-20行)

(13’)「エンコーダ864によって発生された原始コード化信号がチャネル・エンコーダ866に印加される。チャネル・エンコーダ866は、例えば、これに印加される信号の冗長性を増大することによって、これに印加される信号をチャネル・コード化する。」
(第36ページ第24-27行)

(14’)「エンコーダ866によって発生されたチャネル・コード化信号が変調器868に印加され、この変調器が多スロット、多搬送波通信方式に従ってチャネル・コード化信号を変調する。換言すると、変調器は選択された搬送波上でチャネル・コード化信号を変調しかつ選択されたタイム・ス
ロット中被変調信号を伝送する。変調器868によって発生された信号はダウンリンク伝送を形成し、これらが移動端末854へ、両者間に設立されたリンクを経由して通信される。」
(第36ページ第28行-第37ページ第5行)

(15’)「図示の実施例では、チャネル条件測定器902が移動端末854の部分を形成する。チャネル条件測定器902は、基地局852と移動局854との間にリンク815を形成するために利用可能なチャネルのチャネル条件を測定するように動作可能である。1実施例では、チャネル条件測定器は、リンク815を形成するために利用可能な、Nの利用可能チャネルのうちの複数の少なくとも或るものの干渉レベルを測定する。このような測定は、タップ904を経由して測定器902に印加された信号の信号レベルに応答して行われることがある。 図示の実施例では、チャネル条件測定器902は、移動端末854へ信号を伝送するチャネル上に現される多経路
フェージングのレベルを測定するように更に動作可能である。このような多経路フェージングの表示は、タップ906を経由してチャネル条件測定器902に供給される。 チャネルによって現されるチャネル条件の測定値が移動端末854の伝送部に印加され、ここでは、タップ908を経由して表示される。先に挙げたように、1実施例では、チャネル条件の測定表示は、制御チャネルを経由して基地局852に供給される。」
(第38ページ第4-18行)

(16’)「ACAプロセッサ928は、ここでは、チャネル評価器914及びチャネル分配器916を含むように示されている。」
(第38ページ第24-25行)

(17’)「測定器902又は909によって測定された測定値の表示は、それぞれ、タップ917及び918を経由してチャネル評価器に供給され
る。チャネル評価器は、決定器(determiner)によって決定されるチャネル特性を評価する。評価器914によって行われた評価に応答し
て、チャネル分配器916が基地局852と移動端末854との間にリンク815を形成するためにチャネルを分配するように動作可能である。分配器916によって分配されたチャネル分配は、基地局と移動端末との間にダウンリンクばかりでなくまたアップリンクを設立するチャネルを分配する。1実施例では、アップリンクを形成するために分配器916によって分配されたチャネルの表示が移動端末854へ制御チャネルを通じて伝送される。」
(第38ページ第29行-第39ページ第9行)

(18’)「チャネルは基地局852と移動端末854との間に通信リンク815を形成するためにダイナミックに分配されると云う理由から、基地局と移動端末との間にリンクを形成するために使用されるチャネル分配は、必要に従って、変更される。」
(第39ページ第10-13行)

(19’)「上の説明から判るように、本発明は、多スロット、多搬送波通信方式に対する適応チャネル分配方法及びシステムを提供する。本発明の使用は、それを実施されるこのようなシステムの性能を強化することにな
る。」
(第39ページ第14-16行)

したがって、甲第1号証には、次の発明(以下、「発明甲1」という。)が記載されているといえる。

周波数分割、時分割多元接続(frequency-division,time-division multiple access; FD/TDMA)を使用して、複数の移動局(M1?M10)の各々が、複数の基地局(B1?B10)の1つ以上及び移動局交換センタ(MSC)を通して電話呼び出しを発信し又は受信する能力を有する多スロット・セルラ電気通信システムにおいて、
移動局基地局対間に通信リンクを設立することがシステムに必要であるとき、そのリンクに利用可能なNのチャネル群の各々上の干渉(I)を測定
し、干渉(I)測定結果がシステムへ送信されるもので、移動局から、干渉(I)測定結果は基地局へ伝送され、次いで、移動局交換センタ(MSC)へ転送され、
干渉(I)測定の結果がACA(適応チャネル分配)プロセッサによって受信され、ACAプロセッサは、Nのチャネル上で行われた干渉(I)測定の結果からMの最少干渉未使用チャネルを決定し、リンク上の最少干渉Mのチャネルの部分集合を割り当てるチャネル割り当てメッセージが移動局及び基地局の両方へ送信されるものであり、もし最少干渉Mのチャネルのうちの1つが近隣セル内で使用されたならば、そのチャネルは使用されないことになる、
多スロット・セルラ電気通信システム。

6-1-3.対比(本件発明1と発明甲1)
直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)及び周波数分割、時分割多元接続(frequency-division,time-division multiple access; FD/TDMA)は、多重アクセスの方式であり、発明甲1はの「移動局」は本件発明1の「加入者」に相当し、複数の移動局(M1?M10)の各々が、複数の基地局(B1?
B10)の1つ以上及び移動局交換センタ(MSC)を通して電話呼び出しを発信し又は受信する能力を有するのであるから、本件発明1と発明甲1とは、多重アクセスを使用して、それぞれが複数の基地局のうちの一つの基地局と通信する複数の加入者を含む点で共通する。
発明甲1の「移動局交換センタ(MSC)」は、「ACA(適応チャネル分配)プロセッサ」を有するので、本件発明1の「基地局と複数の加入者との間での多重アクセスと情報交換とを調整するためのロジック」と同様の機能を有するといえる。
発明甲1の「干渉(I)測定結果」は、移動局基地局対間の通信リンクに利用可能なNのチャネル群の各々上で測定される干渉(I)であるから、
チャネルに関する情報であり、移動局から基地局へ伝送されるものであるから、本件発明1の「フィードバックOFDMAチャネル情報」とは、複数の加入者から収集されたフィードバックチャネル情報である点で共通する。
発明甲1の「ACA(適応チャネル分配)プロセッサ」は、「干渉(I)測定の結果からMの最少干渉未使用チャネルを決定し」及び「リンク上の最少干渉Mのチャネルの部分集合を割り当てるチャネル割り当てメッセージが移動局及び基地局の両方へ送信される」とするものであり、割り当てるチャネルはトラフィックチャネルに対応するものであるから、本件発明1の「ロジック」とは、複数の加入者から収集されたフィードバックチャネル情報に基づいて、複数のトラフィックチャネル候補から一組のトラフィックチャネルを選択し、そして、前記複数の加入者のうちの複数に対してチャネル割り当てを提供する点で共通する。
発明甲1は、多スロット・セルラ電気通信システムに関するものであるから、セルラー・ネットワークを開示している。
したがって、本件発明1と発明甲1とを対比すると、次の点で一致及び相違する。

【一致点】
多重アクセスを使用して、それぞれが複数の基地局のうちの一つの基地局と通信する複数の加入者を含んでおり、
基地局と複数の加入者との間での多重アクセスと情報交換とを調整するためのロジックを有し、該ロジックは、複数の加入者から収集されたフィードバックチャネル情報に基づいて、複数のトラフィックチャネル候補から一組のトラフィックチャネルを選択し、そして、前記複数の加入者のうちの複数に対してチャネル割り当てを提供することを特徴とするセルラー・ネット
ワーク。

【相違点1】
多重アクセスが本件発明1では直交周波数分割多重アクセス(OFDM
A)であり、それにともないチャネル情報、トラフィックチャネル、及び
チャネル割り当てが、それぞれOFDMAチャネル情報、OFDMAトラ
フィックチャネル、及び結合OFDMAチャネル割り当てであるのに対し
て、発明甲1では周波数分割、時分割多元接続(frequency-division,time-division multiple access; FD/TDMA)である点。

【相違点2】
本件発明1は「基地局と複数の加入者との間での多重アクセスと情報交換とを調整するためのロジック」を基地局が有し、複数の加入者から収集されたフィードバックチャネル情報だけでなく、そのフィードバックチャネル情報及び「少なくとも一つの他の基地局から収集されたOFDMAチャネル情報」に基づいて、トラフィックチャネルを選択し、「そして、前記少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する」とするのに対して、発明甲1は、「移動局交換センタ(MSC)」が「ACA(適応チャネル分配)プロセッサ」を有し、チャネルの選択については「もし最少干渉Mのチャネルのうちの1つが近隣セル内で使用されたならば、そのチャネルは使用されないことになる」とするものであり、「少なくとも一つの他の基地局と協働して」とすることについては特定がない点。

6-1-4.判断1(本件発明1の新規性)
「6-1-3.対比」のとおり、本件発明1と発明甲1とを対比すると、【相違点1】及び【相違点2】で異なるので、本件発明1は発明甲1と同一の発明ではない。

6-1-5.判断2(本件発明1の進歩性)
【相違点1】について
直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)は、多重アクセスの方式として周知のものであり、本件発明1が直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を使用することで、格別の効果を得ているものではなく、本件発明1が直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を使用するために、特別な工夫がなされているわけでもないから、発明甲1において、多重アクセスの方式として、周波数分割、時分割多元接続(frequency-division,time-division multiple access; FD/TDMA)に代えて、直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を使用することに、困難な点はない。

【相違点2】について
発明甲1は、「移動局交換センタ(MSC)」が「ACA(適応チャネル分配)プロセッサ」を有しているが、チャネル割り当てに関する機能を基地局が行うこと自体は格別なことではなく、チャネル割り当てに関する機能を含んだ、基地局と複数の加入者との間での多重アクセスと情報交換とを調整するためのロジックを、基地局が有することに困難な点はない。
本件発明1の「複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMA
チャネル情報」のチャネル情報と、「少なくとも一つの他の基地局から収集されたOFDMAチャネル情報」のチャネル情報とは、異なる旨の明示がないので、同じ種類のチャネルに関する情報であると解釈するのが適当であ
り、発明の詳細な説明に記載された実施例においても、それらのチャネル情報が異なる種類のものである例は示されていない。
ただし、請求項1の記載は、それらのチャネル情報が異なる種類のものであることを排除まではしていないので、発明甲1の「干渉(I)測定結果」が本件発明1の「複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMA
チャネル情報」のチャネル情報に対応し、発明甲1は「もし最少干渉Mの
チャネルのうちの1つが近隣セル内で使用されたならば、そのチャネルは使用されないことになる」とすることから、近隣セルの基地局からチャネルの使用に関する情報が得られているといえ、そのような情報が本件発明1の
「少なくとも一つの他の基地局から収集されたOFDMAチャネル情報」のチャネル情報に対応するといえる余地はある。
しかし、多重アクセスの方式がOFDMAである点を除いても、本件発明1のように「複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMAチャネル情報及び少なくとも一つの他の基地局から収集されたOFDMAチャネル情報に基づいて、複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択し、そして、前記少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供すること」でチャネル割り当てを行うことは、発明甲1に基づいて当業者が容易にできることとはいえない。
本件発明1の「前記基地局は、基地局と複数の加入者との間での多重アクセスと情報交換とを調整するためのロジックを有し」とある「基地局」は、セルラー・ネットワークの特別な基地局だけではなく、何らの限定もないことから、全ての基地局が「ロジック」を有するものと解される。
このことは、発明の詳細な説明の以下の記載からも明らかである。

「【0052】
結合マルチセルトラフィックチャネル割り当てを可能にするために、各セル内の基地局は、プロトコル及び上述の方式を利用して、アップリンク及びダウンリンクのトラフィックチャネル推定を行う。更に、図9に示すよう
に、隣接する基地局は、基地局制御装置又は基地局間の専用リンクを介し
て、このような情報を交換する。トラフィックチャネル状態、割り当て表、並びに隣接するセルのアクセス中の全加入者のQoS要件は、トラフィックチャネル割り当てを行う際に明らかにされることができる。例えば、2つの基地局が、異なるセル内で互いに近い2人の加入者に、チャネル1から10まで(これらの加入者に対して高い利得を有するチャネルがある)のいずれかを割り当てることができると分かっている場合、一方の基地局は、チャネル1から5までを加入者に割り当てることができ、他方の基地局は、チャネル6から10までを加入者に割り当てることができる。」

上記記載のように、「一方の基地局」が割り当てを行うだけではなく、
「他方の基地局」も割り当てを行うことが示されており、「異なるセル内で互いに近い2人の加入者に、チャネル1から10まで(これらの加入者に対して高い利得を有するチャネルがある)のいずれかを割り当てることができると分かっている場合、」とあるように「2人の加入者」に対して割り当て前であり、それに対してそれぞれ割り当てることができるので、同時に割り当てることができるものである。
この「一方の基地局」と「他方の基地局」の割り当てを、請求項1の記載を用いて表現すると、以下のようになる。

「一方の基地局」は、「一方の基地局」のセル内の複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMAチャネル情報及び「他方の基地局」から収集されたOFDMAチャネル情報に基づいて、複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択し、そして、「一方の基地局」のセル内の前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供し、
「他方の基地局」は、「他方の基地局」のセル内の複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMAチャネル情報及び「一方の基地局」から収集されたOFDMAチャネル情報に基づいて、複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択し、そして、「他方の基地局」のセル内の前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する。

本件発明1において「少なくとも一つの他の基地局と協働して」とは、上記のように1つの基地局において割り当てが行われるだけでなく、複数の基地局が割り当てを同時に行うものと解される。
これに対して発明甲1では、少なくとも一つの他の基地局から収集されたチャネル情報は、前記のとおり「もし最少干渉Mのチャネルのうちの1つが近隣セル内で使用されたならば、そのチャネルは使用されないことになる」とすることから、近隣セルの基地局におけるチャネルの使用に関する情報であるから、近隣セルの基地局ではチャネル割り当てが既に完了していることになる。なぜなら、チャネル割り当てが完了していなければ、チャネルが使用されているか、未使用であるかは確定していないからである。
したがって、発明甲1は、「少なくとも一つの他の基地局と協働して」とするものではなく、「もし最少干渉Mのチャネルのうちの1つが近隣セル内で使用されたならば、そのチャネルは使用されないことになる」とする限
り、「少なくとも一つの他の基地局と協働して」とすることはできないし、発明甲1において「もし最少干渉Mのチャネルのうちの1つが近隣セル内で使用されたならば、そのチャネルは使用されないことになる」としない理由もない。

以上のとおり、本件発明1は、発明甲1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6-2.請求項7に係る発明について
6-2-1.請求項7に係る発明
「4.無効理由3(特許法第36条第6項第2号)について」のとおり、特許請求の範囲の請求項7の記載は明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たすので、請求項7に係る発明(以下、「本件発明
7」という。)は、その特許請求の範囲の請求項7に記載された事項により特定されるとおりのものである。
その記載は再掲すると、以下のとおりである。

「【請求項7】 複数の基地局から複数の加入者にサウンディング信号を送る段階と、
各基地局において、少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から、複数のOFDMAトラフィックチャネルに関するチャネル状態情報を受け取る段階と、
少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から受け取った前記OFDMAチャネル状態情報と、複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得とに基づいて、前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラ
フィックチャネルを割り当て、そして、前記少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する、OFDMAマルチユーザトラフィックチャネル割り当てを行う段階と、
を含むことを特徴とする方法。」

6-2-2.対比(本件発明7と発明甲1)
発明甲1は、「6-1-2.甲第1号証(国際公開第98/24258
号)に記載された発明」に記載したとおりであり、「多スロット・セルラ電気通信システム」に関するものであるから、そのための方法も開示しているといえる。
したがって、本件発明7と発明甲1とを対比すると、次の点で一致及び相違する。

【一致点】
複数の基地局の各基地局において、少なくとも一つの加入者から、複数のトラフィックチャネルに関するチャネル状態情報を受け取る段階と、
少なくとも一つの加入者から受け取った前記チャネル状態情報に基づい
て、前記複数の加入者に対して前記複数のトラフィックチャネルからトラ
フィックチャネルを割り当て、そして、前記複数の加入者のうちの複数に対してチャネル割り当てを提供する、マルチユーザトラフィックチャネル割り当てを行う段階と、
を含むことを特徴とする方法。

【相違点1】
本件発明7は、多重アクセスの方式がOFDMAであり、トラフィック
チャネル、チャネル状態情報、チャネル割り当て、及びマルチユーザトラ
フィックチャネル割り当てが、それぞれOFDMAトラフィックチャネル、OFDMAチャネル状態情報、OFDMAチャネル割り当て、及びOFDMAマルチユーザトラフィックチャネル割り当てであるのに対して、発明甲1では、多重アクセスの方式が周波数分割、時分割多元接続(frequency-division,time-division multiple access; FD/TDMA)である点。

【相違点2】
本件発明7は、「複数の基地局から複数の加入者にサウンディング信号を送る段階」を含むのに対して、発明甲1では、そのような段階についての特定がない点。

【相違点3】
本件発明7は、少なくとも一つの加入者から、複数の(OFDMA)トラフィックチャネルに関するチャネル状態情報を受け取るだけでなく、少なくとも一つの他の基地局からチャネル状態情報を受け取るのに対して、発明甲1では、他の基地局からも受け取るのかどうか明らかでない点。

【相違点4】
本件発明7はマルチユーザトラフィックチャネル割り当てを行う段階が、「少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から受け取った前記OFDMAチャネル状態情報と、複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得とに基づいて、前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラ
フィックチャネルを割り当て、そして、前記少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する、OFDMAマルチユーザトラフィックチャネル割り当てを行う段階」であるのに対して、発明甲1では、割り当て(決定)に関して「少なくとも一つの他の基地局から受け取った前記OFDMAチャネル状態情報」及び「複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得」に基づくこと、また割り当ての提供に関して「前記少なくとも一つの他の基地局と協働して」行うこと、については特定されていない点。

6-2-3.判断3(本件発明7の進歩性)
【相違点1】について
「6-1-5.判断2(本件発明1の進歩性)」の「【相違点1】について」の判断と同様に、発明甲1において、多重アクセスの方式として、周波数分割、時分割多元接続(frequency-division,time-division multiple access; FD/TDMA)に代えて、直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を使用することに、困難な点はない。

【相違点2】について
甲第2号証-甲第14号証には、移動体通信の分野において、基地局などの送信側の装置が、移動局などの受信側の装置にとって既知であるパイロット信号を送信し、受信側の装置が、受信したパイロット信号を用いてチャネル推定を行うことが開示されている。
サウンディング信号もチャネル推定を行うための信号であり、発明甲1においても、チャネル状態情報である「干渉(I)測定結果」を得るために、本件発明7と同様ににサウンディング信号を送ることに格別の点はない。

【相違点3】について
本件発明7は、「各基地局において、少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から、複数のOFDMAトラフィックチャネルに関するチャネル状態情報を受け取る段階」とあるように、加入者からのチャネル状態情報と基地局からのチャネル状態情報とを区別する記載とはなっていないので、それらは同種のチャネル状態情報であると解するのが自然である。
しかし、「6-1-5.判断2(本件発明1の進歩性)」の「【相違点
2】について」で検討したように、発明甲1の、近隣セルの基地局から得られるチャネルの使用に関する情報が、本件発明7の少なくとも一つの他の基地局から受け取るチャネル状態情報に対応するということもできるが、そのような対応であるとすると、次の「【相違点4】について」のとおり、不都合を生じることになる。

【相違点4】について
「5-2-2.請求項7についての判断」の(2)のとおり、ビーム
フォーミングのような空間処理により空間利得(指向性利得)が得られることは、甲第15号証に記載されたように周知技術にすぎない。
そして、「5-2-2.請求項7についての判断」の(1)のとおり、サウンディング信号のような基地局から全方向に送信される信号に基づいて測定された、信号対干渉雑音比(SINR)のようなチャネル状態情報は、
ビームフォーミングのような空間処理により空間利得を有する場合には、補正が必要なことが知られているから、発明甲1において、ビームフォーミングのような空間処理により空間利得が得られるようにするとともに、チャネル状態情報である「干渉(I)測定結果」を、複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得とに基づいて補正することについては、困難な点はないといえる。
しかし、多重アクセスの方式がOFDMAである点を除いても、本件発明7のように「少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から受け取った前記OFDMAチャネル状態情報と、複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得とに基づいて、前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラフィックチャネルを割り当て、そして、前記少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する」ことでチャネル割り当てを行うことは、発明甲1に示されていないし、発明甲1に基づいて当業者が容易にできることとはいえない。
本件発明7は、
「複数の基地局から複数の加入者にサウンディング信号を送る段階と、
各基地局において、……」と記載されているように、「各基地局」で同様の処理が行われるもので、「少なくとも一つの他の基地局」とある基地局
も、それとは異なる基地局と協働して割り当てに関する処理を行うものであることは明らかである。
そして、本件発明1の場合と同様の理由により、少なくとも一つの他の基地局から受け取るチャネル状態情報が近隣セルの基地局から得られるチャネルの使用に関する情報であると、他の基地局と協働して割り当てに関する処理を行うことはできないから、本件発明7は、発明甲1に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

6-3.無効理由1についての小括
上記のとおり、請求項1に係る発明は、甲第1号証記載の発明と同一ではなく、甲第1号証記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
請求項7に係る発明は、甲第1号証記載の発明及び甲第15号証記載の発明、並びに甲第2-14号証に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

7.無効理由2(特許法第29条第1項及び同第2項)について
7-1.請求項1に係る発明(本件発明1)について
7-1-1.甲第16号証(特開2000-78651号公報)に記載された発明
甲第16号証には、図面とともに以下の記載がされている。

(1)「【要約】
【課題】 本発明は、無線パケット網内で、チャネルを、キャリアの再使用を伴って、動的に割当てるための方法に関する。
【解決手段】本発明は、時間あるいは周波数多重を、あるいは時間および周波数多重の両方を採用する無線伝送システムに対する動的チャネル割当ての方法に関する。本発明は、特に、これらシステムのチャネルの干渉を回避する問題に向けられる。広い意味においては、本発明は、網の基地局を、非干渉セットに分割することに係わる。チャネルは、需要に応じて、これら非干渉セットに割当てられる。チャネル再割当てのステージは、周期的に遂行され、この再割当ては、基地局による協調された動作を通じて遂行される。つまり、チャネルの再割当ては、幾つか実施例においては、基地局の間で交換される情報に応答して遂行され、他の幾つかの実施例においては、基地局によって網にパスされた情報に応答しての網による中央からの指示下で遂行される。」

(2)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 各基地局に対してバッファ内の待ちユニットのキューが累積できるタイプの無線通信網に属する複数の基地局の間に、複数の通信チャネルを動的に割当てるための方法であって、前記キューがおのおののキュー長を持ち、この方法が:チャネルを複数の基地局に、互いに干渉する基地局によって同一のチャネルが同時に用いられるのを禁止するような規則に従って割当てるステップ;および定期的に一つあるいは複数のチャネルを前記複数の基地局の少なくとも一つの基地局に、前記規則に従って再割当てするス
テップを含み、前記チャネルの再割当てが、前記基地局と少なくとも一つの他の網エンティティとの間の通信に応答して遂行され、前記チャネルの再割当てが前記基地局のキュー長に依存するようなやり方で遂行されることを特徴とする方法。
【請求項2】 前記チャネルを少なくとも一つの基地局に再割当てするス
テップが、少なくとも一つのチャネルを基地局に隣接基地局から借用して再割当てするステップを含むことを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】 基地局と網エンティティとの間で通信するステップが、少なくとも一つの隣接基地局が、前記基地局にメッセージを発行することで、再割当てのために空いているチャネルを識別するステップを含み;前記チャネルを前記基地局への再割当てするステップが、空いているものとして識別されたチャネルから、一つあるいは複数のチャネルを再割当てのために選択するステップを含むことを特徴とする請求項2の方法。
【請求項4】 さらに:前記複数の基地局の少なくとも幾つかのおのおのに対して、前記複数の基地局の少なくとも幾つかのおのおのに対する目標チャネル数を計算するステップ;および前記基地局が前記再割当てのために空いたチャネルを識別するメッセージを、前記基地局に現在割当てられている
チャネルが前記基地局の目標チャネル数を超える場合に、その余剰チャネルを反映するよう生成するステップを含むことを特徴とする請求項3の方法。
……
【請求項25】 前記割当てられたチャネルが、基地局から移動機への下りリンクチャネルを構成することを特徴とする請求項1の方法。
【請求項26】 前記割当てられたチャネルが、移動機から基地局への登りチャネルを構成することを特徴とする請求項1の方法。」

(3)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ユーザ端末、例えば、移動機と、それらにサービスを提供する基地局との間で信号を送信するために複数の無線周波数チャネルが利用可能なパケット無線通信網を動作するための方法に関する。より詳細には、本発明は、これら利用可能なチャネルを、基地局のグ
ループの間に、時間とともに変化し、空間的に均等でない伝送容量に対する需要に応じて割当てるための方法に関する。」

(4)「【0016】
【課題を解決するための手段】我々は、動的チャネル割当て(DCA)に対す
る方法を発明した。我々の発明は、時間あるいは周波数多重、あるいは時間および周波数多重の両方を採用する無線伝送システムに関する。本発明は、特に、これらシステムのチャネルの干渉を回避する問題に向けられる。一例として、本発明の用途の特定な分野は、時分割多元アクセス(Time-Division Multiple Access、TDMA)であり、これには、直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing、OFDM)も含まれる(OFDMは、TDMAの一つのバリエーションである)。」

(5)「【0023】チャネル(channel)なる用語は、ここでは、時間あ
るいは周波数分割を用いる方法との関連で用いられる。時分割多重網においては、チャネルは、ある与えられたタイムスロットに対応し;周波数分割多重網においては、チャネルは、ある与えられたキャリア周波数あるいは周波数バンドに対応し;時分割多重と周波数分割多重の両方を用いる網においては、チャネルは、ある与えられたキャリア周波数におけるある与えられたタイムスロットに対応する。」

(6)「【0029】
【発明の実施の形態】以下の議論は、解説の目的で、主として、無線通信
網、例えば、セルラ電話システムの下りリンク方向のチャネル割当てに向けられる。ただし、本発明は、下りリンク方向にのみ制限されるものではな
い。本発明の原理は、個々の送信機が複数の割当て可能なチャネルを用いて登りリンク伝送を行なう場合にも、同様に適用し、従って、下りリンク伝送も登りリンク伝送も、両者とも、本発明の範囲内に入るものである。」

(7)「【0034】いったん基地局にチャネルのシェア(取り分)が割当てられると、次のステップとして、(各基地局は)これらチャネルを自身のセットの移動機に割当てる。このプロセスに対しては、各移動機に属する各キュー(の長さ)を考慮する必要がある。
……
【0037】例えば、図3との関連で、c(キャリアの総数)が15であるものと想定すると、図3に示すプロセス30において、15個のチャネルが網20によって基地局25に割当てられる。移動機35.1、35.2、および35.3が、それぞれ、30、100、および20なるキュー長さを持ち、Smax=8であるものと想定すると、当初の割当てにおいて、図3のプ
ロセス40の結果として示されるように、3個のチャネルが移動機35.1に、10個のチャネルが移動機35.2に、そして2個のチャネルが移動機35.3に割当てられる。移動機35.2は、現在、それが使用することが許されるより2個だけ余分なチャネルを持つ。このため、この移動機はさらなる考察から排除され、この2つの余剰チャネルが、以下に説明するよう
に、再割当てされる。」

(8)「【0040】キャリアリクエスト法(Carrier Requesting
Method)
次に、A-マトリックスを満たすためのキャリアリクエスト(carrier requesting)法について説明する。この方法においては、網の基地局は再使用グ
ループに分割され、これら再使用グループは、各基地局の受信ゾーンが他の再使用グループ内の基地局の受信ゾーンとのみ重複するようなやり方で選択される。簡単に述べると、隣接基地局は、異なる別個の再使用グループに属するようにされる。フルセットのチャネルが、同数のサブセットに分割さ
れ、当初は、これらが各再使用グループに割当てられる。後に説明するように、これは、単に、公称割当てにすぎない。解説の目的では、公称の均等配分(nominal even sharing)の一例として、32個のチャネルから成るフルセットが4個の再使用グループの間に割当てられ、8個のチャネルが各再使用グループに割当てられるものと想定される。これらサブセットの一つの
チャネルの数が、ここでは、NRGによって表される。
【0041】一例としての均等な公称割当てが図2のA-マトリックスによって表される。図2に示すように(図1にも示され、図1は図2と一緒に参照されるべきであるが)、各再使用グループは、ローマ数字I?IVによって表され、各チャネルには、1?32の番号が付けられる。再使用グループIには、図2において参照符号50を持つ非零のエントリの塊によって示されるように、チャネル1?8が割当てられ;再使用グループIIには、塊55によって示されるように、チャネル9?16が割当てられ;再使用グループIIIには、塊60によって示されるようにチャネル17?24が割当てられ;再使用グループIVには、塊65によって示されるようにチャネル25?32が割当てられる。」

(9)「【0045】NGR個以上のチャネルに対するリクエストは、この段
階においては、一部、まだ満たされてない状態となる。このようなリクエストを発行した基地局は、以降、借用局(borrowers)と呼ばれる。
【0046】次に、各借用局は、自身のものではない再使用グループに属する隣接(neighboring)基地局から、一つあるいはそれ以上のチャネルをリ
クエストする。この再使用グループの選択は、どの再使用グループも自身を写像(イメージ)として持たないような再使用グループの置換(あるいは順列)(パーミュテーション)を施すことで遂行される。この方法によると、各借用局は、それが属する再使用グループが、置換操作の下で、借用局自身の再使用グループの写像(イメージ)となるような隣接基地局に対してこのリクエストを行なう。簡単化のためには、この置換として、各再使用グループが1位置だけ移る巡回置換を用いると便利である。」

(10)「【0048】ラウンド1において、各借用局は、選択された再使用グループに属する各隣接基地局にリクエストを送る。各リクエストの際
に、借用局は、順番に、選択された再使用グループに割当てられた各チャネルについてポーリングする。こうして、説明の例においては、例えば、グ
ループIの借用局は、グループIIの隣接基地局に、“チャネル9がアイドルであるか?”尋ねる。グループIIの隣接基地局全ての返事が肯定である場合は、借用局はチャネル9を借用し、それが借用することを必要とする
チャネルの数を1だけ減らす。グループIIの隣接基地局の少なくとも一つの返事が否定である場合は、借用局は、次の順番のチャネルに進む。このプロセスが、借用局のチャネルに対する要件が満たされるまで、あるいは、選択されたグループに割当てられた最後のチャネルがポーリングされるまで継続される。」

(11)「【0083】図10Aおよび図10Bは、一例としてのトランザクションのラウンドを示す。図10のボックス125によって示されるように、最初、(現在パッシブな再使用グループの)各基地局は、おのおのの目標チャネル数を計算する。次に、ボックス130によって示されるように、各基地局は、現在自身に割当てられているチャネルの数が、目標数を超えないか否か決定する。超えない場合は、ボックス135によって示されるように、全てのチャネルを保持する。超える場合は、ボックス145において、余剰チャネルを空いているとマークする。
【0084】次に、図10Bのボックス145によって示されるように、アクティブな再使用グループ内の基地局は、その全ての隣接基地局に、どの
チャネルが空いてないかを照会する。次に、ボックス150によって示されるように、ある与えられたアクティブな基地局の隣接基地局によって使用が主張されないチャネルが、これらアクティブな基地局によって借用される。
【0085】図11は、さらなる解説の目的で、一つの基地局によって、トランザクションの1ラウンドにおいて行なわれる借用の結果を示す。ここでは、借用基地局は、図1の配列の基地局1であるものと想定され、初期の割当ては、図2のA-マトリックスによって表されるような割当てであると想定される。図11において、文字“C”は、割当てられたが、その使用を主張されたチャネルを表し;文字“A”は、当初の割当てにおいて対応する基地局に割当てられたが、ただし、基地局によって次のスーパーフレームにおいてその使用を主張されなかったチャネルを表す。」

したがって、甲第16号証には、次の発明(以下、「発明甲16」とい
う。)が記載されているといえる。

直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing、OFDM)も含まれる時分割多元アクセス(Time-Division Multiple Access、TDMA)を採用するセルラ電話システムである無線通信網において、
チャネルを複数の基地局に、互いに干渉する基地局によって同一のチャネルが同時に用いられるのを禁止するような規則に従って割当てるステップ
と、
複数のチャネルを前記複数の基地局の少なくとも一つの基地局に、前記規則に従って再割当てするステップを含み、前記再割当てするステップが、少なくとも一つの隣接基地局が前記基地局にメッセージを発行することで、再割当てのために空いているチャネルを識別し、空いているものとして識別されたチャネルから、一つあるいは複数のチャネルを再割当てのために選択
し、少なくとも一つのチャネルを前記基地局に前記隣接基地局から借用して再割当てするステップを含み、
前記割当てられたチャネルが、前記基地局自身のセットの各移動機に割当てられることで、前記基地局から前記移動機への下りリンクチャネルを構成する、又は前記移動機から前記基地局への上りチャネルを構成する、セルラ電話システムである無線通信網。

7-1-2.対比(本件発明1と発明甲16)
発明甲16の「直交周波数分割多重(Orthogonal Frequency-Division Multiplexing、OFDM)も含まれる時分割多元アクセス(Time-Division Multiple Access、TDMA)」は、多元(多重)アクセスであるからこの「OFD
M」は、OFDMAのことと解され、「移動機」及び「セルラ電話システムである無線通信網」は、それぞれ本件発明1の「加入者」及び「セルラー・ネットワーク」に対応するので、本件発明1と発明甲16とは、直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を使用して、それぞれが複数の基地局のうちの一つの基地局と通信する複数の加入者を含んでいるセルラー・ネット
ワークである点で共通する。
発明甲16は、「前記割当てられたチャネルが、前記基地局自身のセットの各移動機に割当てられることで、前記基地局から前記移動機への下りリンクチャネルを構成する、又は前記移動機から前記基地局への上りチャネルを構成する」とするもので、上記のように直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を使用するものであり、その機能のための手段を有することは当然であるから、本件発明1と発明甲16とは、基地局は、基地局と複数の加入者との間での多重アクセスと情報交換とを調整するためのロジックを有し、該ロジックは、複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択し、そして、前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する点で共通する。
したがって、本件発明1と発明甲16とを対比すると、次の点で一致及び相違する。

【一致点】
直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)を使用して、それぞれが複数の基地局のうちの一つの基地局と通信する複数の加入者を含んでおり、
前記基地局は、基地局と複数の加入者との間での多重アクセスと情報交換とを調整するためのロジックを有し、該ロジックは、複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択
し、そして、前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供することを特徴とするセルラー・ネットワーク。

【相違点】
本件発明1は、「加入者」に対するチャネル割り当てに関して、「複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMAチャネル情報及び少なくとも一つの他の基地局から収集されたOFDMAチャネル情報に基づいて、複数のOFDMAトラフィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択し、そして、前記少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供すること」とするものであるのに対して、発明甲16では、「基地局」に対して、「チャネルを複数の基地局に、互いに干渉する基地局によって同一のチャネルが同時に用いられるのを禁止するような規則に従って割当てるステップと、
複数のチャネルを前記複数の基地局の少なくとも一つの基地局に、前記規則に従って再割当てするステップを含み、前記再割当てするステップが、少なくとも一つの隣接基地局が前記基地局にメッセージを発行することで、再割当てのために空いているチャネルを識別し、空いているものとして識別されたチャネルから、一つあるいは複数のチャネルを再割当てのために選択
し、少なくとも一つのチャネルを前記基地局に前記隣接基地局から借用して再割当てするステップを含み」とすることは特定されているが、「加入者」に対応する「移動機」に対しては、「前記割当てられたチャネルが、前記基地局自身のセットの各移動機に割当てられることで、前記基地局から前記移動機への下りリンクチャネルを構成する、又は前記移動機から前記基地局への上りチャネルを構成する」とするもので、チャネル情報に基づいて選択すること、及び少なくとも一つの他の基地局と協働する点については明らかでない点。

7-1-3.判断4(本件発明1の新規性)
「7-1-2.対比」のとおり、本件発明1と発明甲16とを対比する
と、【相違点】で異なるので、本件発明1は発明甲16と同一の発明ではない。

7-1-4.判断5(本件発明1の進歩性)
【相違点】について
複数の加入者から収集されたフィードバックチャネル情報に基づいて、複数のトラフィックチャネル候補からトラフィックチャネルを選択すること
が、甲第1号証及び甲第17号証-甲第21号証に示されているように周知技術であったとしても、発明甲16において、複数の加入者から収集されたフィードバックOFDMAチャネル情報基づいて、複数のOFDMAトラ
フィックチャネル候補から一組のOFDMAトラフィックチャネルを選択することに困難な点がないだけで、「少なくとも一つの他の基地局から収集されたOFDMAチャネル情報」に基づくことが、容易といえるわけではな
い。
発明甲16では、「少なくとも一つの隣接基地局が前記基地局にメッセージを発行することで、再割当てのために空いているチャネルを識別し」とあり、空いているチャネルを識別できるのであるから、そのメッセージはチャネルの使用状態に関する情報といえるので、本件発明1の「少なくとも一つの他の基地局から収集されたOFDMAチャネル情報」と同様のものとしても、本件発明1では、加入者に対してチャネルを割り当てるための情報であるのに対して、発明甲16では基地局に対してチャネルを割り当てるための情報である。
また、チャネルに関する情報であるが、チャネルの使用状態に関する情報であるから、仮に、発明甲16で「少なくとも一つの隣接基地局が前記基地局にメッセージを発行することで、再割当てのために空いているチャネルを識別し」とある「メッセージ」に基づいて、加入者に対してチャネルを割り当てるようにすることができたとしても、「6-1-5.判断2」の「【相違点2】について」の発明甲1と同様に、本件発明1のように「少なくとも一つの他の基地局と協働して」とすることはできない。
したがって、本件発明1は、発明甲16に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

7-2.請求項7に係る発明(本件発明7)について
7-2-1.対比(本件発明7と発明甲16)
発明甲16は、「7-1-1.甲第16号証(特開2000-78651号公報)に記載された発明」に記載したとおりであり、「セルラ電話システムである無線通信網」に関するものであるから、そのための方法も開示しているといえる。
したがって、本件発明7と発明甲16とを対比すると、次の点で一致及び相違する。

【一致点】
複数の基地局の各基地局において、少なくとも一つの加入者から、複数のOFDMAトラフィックチャネルに関するチャネル状態情報を受け取る段階と、
少なくとも一つの加入者から受け取った前記OFDMAチャネル状態情報に基づいて、前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラフィックチャネルを割り当て、そして、前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する、OFDMAマルチユーザトラフィックチャネル割り当てを行う段階と、
を含むことを特徴とする方法。

【相違点1】
本件発明7は、「複数の基地局から複数の加入者にサウンディング信号を送る段階」を含むのに対して、発明甲16では、そのような段階についての特定がない点。

【相違点2】
本件発明7は、「各基地局において、少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から、複数のOFDMAトラフィックチャネルに関するチャネル状態情報を受け取る段階」を含むのに対して、発明甲16では、「少なくとも一つの隣接基地局が前記基地局にメッセージを発行すること
で、再割当てのために空いているチャネルを識別し」とある「メッセージ」は受け取るが、加入者からチャネル状態情報を受け取ることについての特定がない点。

【相違点3】
本件発明7はOFDMAマルチユーザトラフィックチャネル割り当てを行う段階が、「少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から受け取った前記OFDMAチャネル状態情報と、複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得とに基づいて、前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラフィックチャネルを割り当て、そして、前記少なくとも一つの他の基地局と協働して前記複数の加入者のうちの複数に対して結合OFDMAチャネル割り当てを提供する、OFDMAマルチユーザトラフィックチャネル割り当てを行う段階」であるのに対して、発明甲16では、割り当て(選択)に関して「少なくとも一つの他の基地局から受け取った前記OFDMAチャネル状態情報」及び「複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得」に基づくこと、また割り当ての提供に関して「前記少なくとも一つの他の基地局と協働して」行うこと、については特定されていない点。

7-2-2.判断6(本件発明7の進歩性)
【相違点1】について
甲第2号証-甲第14号証には、移動体通信の分野において、基地局などの送信側の装置が、移動局などの受信側の装置にとって既知であるパイロット信号を送信し、受信側の装置が、受信したパイロット信号を用いてチャネル推定を行うことが開示されており、サウンディング信号もチャネル推定を行うための信号であるから、加入者からチャネル状態情報を受け取るものであれば、本件発明7と同様に、複数の基地局から複数の加入者にサウンディング信号を送ることに格別の点はない。
しかし、複数の加入者からチャネル状態情報を受け取り、それに基づい
て、複数のトラフィックチャネルからトラフィックチャネルを選択することが、甲第1号証及び甲第17号証-甲第21号証に示されているように周知技術であるとしても、「移動機」(加入者)からチャネル状態情報を受け取ることについて何らの特定のない発明甲16において、複数の基地局から複数の加入者に、加入者からチャネル推定の結果としてチャネル状態情報を受け取るためのサウンディング信号を送ることは、当業者であっても容易にできることではない。

【相違点2】について
上記「【相違点1】について」のように、複数の加入者からチャネル状態情報を受け取り、それに基づいて、複数のトラフィックチャネルからトラ
フィックチャネルを割り当てる(選択する)ことが、甲第1号証及び甲第17号証-甲第21号証に示されているように周知技術であり、「5-2-
2.請求項7についての判断」の(2)のとおり、ビームフォーミングのような空間処理により空間利得(指向性利得)が得られることは、甲第15号証に記載されたように周知技術にすぎず、「複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得」を得ることに格別の点がないとしても、複数の加入者からチャネル状態情報を受け取るのでなければ、それを「複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得」で補正する必要がないので、発明甲16において、本件発明7のように「少なくとも一つの加入者及び少なくとも一つの他の基地局から受け取った前記OFDMAチャネル状態情報と、複数の加入者に関するアップリンク信号及びダウンリンク信号の推定空間利得とに基づいて、前記複数の加入者に対して前記複数のOFDMAトラフィックチャネルからOFDMAトラフィックチャネルを割り当て」とすることは、当業者であっても容易にできることではない。
また、発明甲16の「少なくとも一つの隣接基地局が前記基地局にメッ
セージを発行することで、再割当てのために空いているチャネルを識別し」とある「メッセージ」は、それにより隣接基地局の空いているチャネルを識別できるので、チャネルの使用状態を示すチャネル状態情報といえるが、本件発明7ではチャネル状態情報は、加入者に対してチャネルを割り当てるための情報であるのに対して、発明甲16の「メッセージ」は基地局に対してチャネルを割り当てるための情報であり、加入者に対してチャネルを割り当てるようにすることが仮にできたとしても、下記「【相違点3】について」のとおり、不都合なものとなってしまう。

【相違点3】について
上記「【相違点2】について」のとおり、発明甲16の「メッセージ」
は、それにより隣接基地局の空いているチャネルを識別できるので、チャネルの使用状態を示すチャネル状態情報といえるものであるとしても、「6-1-5.判断2」の「【相違点2】について」の発明甲1と同様に、本件発明7のように「少なくとも一つの他の基地局と協働して」とすることはできない。

したがって、本件発明7は、発明甲16に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

7-3.無効理由2についての小括
上記のとおり、請求項1に係る発明は、甲第16号証記載の発明と同一ではなく、甲第16号証記載の発明と、甲第1号証及び甲第17-21号証のいずれかに記載の発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
請求項7に係る発明は、甲第16号証記載の発明、甲第15号証記載の発明、及び甲第2-14号証に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないし、請求項7に係る発明は、甲第16号証記載の発明、甲第17-21号証のいずれかに記載の発明、甲第15号証記載の発明、及び甲第2-14号証に示される周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

8.むすび
以上のとおりであるから、請求人の主張する理由及び証拠方法によっては、本件発明1及び本件発明7に係る特許は、無効とすることができない。
審判に関する費用については、特許法第169条第2項において準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-08-07 
結審通知日 2014-08-11 
審決日 2014-08-22 
出願番号 特願2002-535271(P2002-535271)
審決分類 P 1 123・ 536- Y (H04W)
P 1 123・ 537- Y (H04W)
P 1 123・ 113- Y (H04W)
P 1 123・ 121- Y (H04W)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 望月 章俊  
特許庁審判長 加藤 恵一
特許庁審判官 近藤 聡
佐藤 聡史
登録日 2007-07-06 
登録番号 特許第3980478号(P3980478)
発明の名称 直交周波数分割多重アクセス(OFDMA)セルラー・ネットワークの媒体アクセス制御  
復代理人 青木 孝博  
代理人 隈部 泰正  
代理人 黒田 博道  
代理人 城山 康文  
代理人 金山 賢教  
代理人 ▲崎▼地 康文  
代理人 飯田 秀郷  
復代理人 岡 浩喜  
代理人 森山 航洋  
代理人 北口 智英  
復代理人 後藤 未来  
代理人 市川 英彦  

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