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審決分類 |
審判 査定不服 発明同一 特許、登録しない(前置又は当審拒絶理由) C03B |
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管理番号 | 1302201 |
審判番号 | 不服2014-2121 |
総通号数 | 188 |
発行国 | 日本国特許庁(JP) |
公報種別 | 特許審決公報 |
発行日 | 2015-08-28 |
種別 | 拒絶査定不服の審決 |
審判請求日 | 2014-02-05 |
確定日 | 2015-06-19 |
事件の表示 | 特願2009-194979「封止ガラスの製造方法および封止ガラス」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 3月10日出願公開、特開2011- 46550〕について、次のとおり審決する。 |
結論 | 本件審判の請求は、成り立たない。 |
理由 |
1.手続の経緯 本願は、平成21年 8月26日の出願であって、原審にて、平成25年12月25日付けで拒絶査定がされ、この査定を不服として平成26年 2月 5日付けで本件審判が請求されると同時に手続補正がされたものであり、当審にて、平成27年 1月16日付けで審判請求時の補正の却下の決定と拒絶理由の通知がされ、同年 3月 4日付けで手続補正がされたものである。 2.当審の拒絶理由 当審にて通知した拒絶理由の一つは、 「本願の請求項1,7に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特開2010-57893号として出願公開がされた特願2009-133166号の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、まとめて「先願明細書」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本願出願時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。」 というものである。 3.本願発明の認定 本願の請求項1,7に係る発明(以下、それぞれ「本願製法発明」「本願製造物発明」という。)は、平成27年 3月 4日付けの手続補正により補正された特許請求の範囲において、請求項1,7に記載された次の事項により特定されるとおりのものと認める。 【請求項1】 ガラスバッチを溶融し、溶融ガラスを得た後、前記溶融ガラスを成形し、封止ガラスを得る封止ガラスの製造方法において、 前記封止ガラスが実質的にPbOを含有しないように、ガラスバッチを選択し、 且つ前記封止ガラス中のβ-OH値が0.4/mm以上、1.5/mm以下になるように、加熱されたH_(2)O中にガスを通過させることにより、H_(2)O含有ガスを作製し、前記溶融ガラスに前記H_(2)O含有ガスを接触させることを特徴とする封止ガラスの製造方法。 【請求項7】 請求項1?6のいずれかに記載の方法により作製されたことを特徴とする封止ガラス。 4.先願明細書の記載事項 先願明細書には、次の記載がある。 【請求項1】 金属製真空二重容器に設けられた排気口を真空封止するための封止ガラスにおいて、 真空封止工程で排気口の鉛直上方以外の位置に封止ガラスが載置される構造の金属製真空二重容器に用いられるとともに、 実質的にPb成分を含有せず、 真空状態で30℃から700℃まで15℃/分で昇温した時に発生する気体総量が900?7000μL/cm^(3)であることを特徴とする封止ガラス。 【0014】 本発明の封止ガラスは、真空状態で30℃から700℃まで15℃/分で昇温した時に発生する気体総量を900μL/cm^(3)以上に規制している。このようにすれば、真空封止工程で封止ガラスが発泡し、封止ガラスの流動性を促進させることができ、その結果、真空封止工程で排気口の鉛直上方以外の位置に所定の距離を隔てて載置される場合であっても、封止ガラスが排気口まで到達しやすくなり、排気口を封止しやすくなる。一方、本発明の封止ガラスは、真空状態で30℃から700℃まで15℃/分で昇温した時に発生する気体総量を7000μL/cm^(3)以下に規制している。このようにすれば、真空封止工程後、封止ガラスに残存する気泡部分からリークが発生し、金属製真空二重容器の気密性が損なわれる事態を防止しやすくなる。 【0030】 本発明の封止ガラスは、滴下成形法で成形されてなることが好ましい。滴下成形法で溶融ガラスを直接成形すれば、リドロー法(溶融ガラスを棒状にドローした後、アニール処理し、所定寸法に切断加工する方法)よりも、封止ガラス中に気体を多く残存させることができるとともに、熱履歴を少なくでき、ガラス中に失透が生じ難くなる。また、滴下成形法で成形する場合、直接、ガラスバッチから溶融ガラスを作製することが好ましい。このようにすれば、封止ガラス中に溶存する気体総量が低下し難くなる。 【0033】 封止ガラス中に気体を導入する方法には、(1)ガラス原料から気体を導入する方法、(2)溶融時に気体を導入する方法、(3)成形時に気体を導入する方法がある。(1)の方法として、水分含有率が高い原料、例えば水酸化物原料を使用し、真空封止工程でH_(2)Oの放出を多くする方法、或いは炭酸化合物原料を使用し、真空封止工程でCO_(2)の放出を多くする方法が挙げられる。(2)の方法として、溶融温度を極力低温化する方法、具体的には溶融温度を1000℃以下にする方法、或いは溶融時間を短くする方法、具体的にはガラスバッチを溶融炉に投入した後、ガラスバッチの溶解に要する時間を5時間以下にする方法、溶融雰囲気または溶融ガラス中において、H_(2)Oを多く含有する気体を導入する方法が挙げられる。特に、溶融ガラス中において、H_(2)Oを多く含有する気体を直接バブリングする方法(例えば、図3に示すように、大気、N_(2)、O_(2)等の気体を水中でバブリングさせて、気体中にH_(2)Oを多く含ませた後に、この気体を溶融ガラス中で直接バブリングする方法)は、溶融雰囲気中にH_(2)Oを多く含有する気体を導入する方法に比べて、封止ガラス中に気体を多量に導入することができる。(3)の方法として、溶融ガラスを成形型に流し出さずに、滴下成形法により、溶融ガラスを液滴状に成形する方法が挙げられる。 5.引用発明の認定 先願明細書には、「実質的にPb成分を含有せず、真空状態で30℃から700℃まで15℃/分で昇温した時に発生する気体総量が900?7000μL/cm^(3)であることを特徴とする封止ガラス」(【請求項1】)について、 「滴下成形法で成形されてなることが好ましい。」(【0030】)ことや、「封止ガラス中に気体を導入する方法には、・・・(2)溶融時に気体を導入する方法・・・がある。・・・(2)の方法として、・・・具体的にはガラスバッチを溶融炉に投入した後、・・・特に、溶融ガラス中において、H_(2)Oを多く含有する気体を直接バブリングする方法(例えば、図3に示すように、大気、N_(2)、O_(2)等の気体を水中でバブリングさせて、気体中にH_(2)Oを多く含ませた後に、この気体を溶融ガラス中で直接バブリングする方法)は、・・・封止ガラス中に気体を多量に導入することができる。」(【0033】)ことが記載されている。 してみると、先願明細書には、次の発明(以下、「引用発明」という。)が記載されていると認められる。 「ガラスバッチを溶融炉に投入して得た溶融ガラスを滴下成形し、封止ガラスを得る封止ガラスの製造方法において、 前記封止ガラスが実質的にPb成分を含有せず、 且つ、前記封止ガラスの真空状態で30℃から700℃まで15℃/分で昇温した時に発生する気体総量が900?7000μL/cm^(3)になるように、水中で気体をバブリングさせることにより、気体中にH_(2)Oを多く含ませた後に、この気体を溶融ガラス中で直接バブリングする封止ガラスの製造方法。」 6.本願製法発明について (1)発明の対比 本願製法発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「ガラスバッチを溶融炉に投入して得た溶融ガラスを滴下成形し」が本願製法発明の「ガラスバッチを溶融し、溶融ガラスを得た後、前記溶融ガラスを成形し」に相当し、以下、「水中で気体をバブリングさせる」が「H_(2)O中にガスを通過させる」、「気体中にH_(2)Oを多く含ませ」が「H_(2)O含有ガスを作製」、「この気体を溶融ガラス中で直接バブリング」が「前記溶融ガラスに前記H_(2)O含有ガスを接触させる」にそれぞれ相当する。また、引用発明の「封止ガラスが実質的にPb成分を含有せず」が本願製法発明の「封止ガラスが実質的にPbOを含有しないように、ガラスバッチを選択」することを意味するのは自明である。 してみると、本願製法発明のうち、 「ガラスバッチを溶融し、溶融ガラスを得た後、前記溶融ガラスを成形し、封止ガラスを得る封止ガラスの製造方法において、 前記封止ガラスが実質的にPbOを含有しないように、ガラスバッチを選択し、 且つH_(2)O中にガスを通過させることにより、H_(2)O含有ガスを作製し、前記溶融ガラスに前記H_(2)O含有ガスを接触させる封止ガラスの製造方法。」 の点は、引用発明と一致し、次の点で両者は一応相違する。 相違点1:本願製法発明において、「封止ガラス中のβ-OH値が0.4/mm以上、1.5/mm以下になる」のに対し、引用発明において、「封止ガラスの真空状態で30℃から700℃まで15℃/分で昇温した時に発生する気体総量が900?7000μL/cm^(3)になる」点。 相違点2:本願製法発明において、ガスが通過するH_(2)Oが「加熱された」ものであるのに対し、引用発明の気体をバブリングする水が加熱されたものであるか不明な点。 (2)相違点の判断 相違点1について 本願製法発明のβ-OH値の数値限定について、本願明細書の【0024】には、「本発明の封止ガラスの製造方法は、封止ガラス中のβ-OH値が0.4/mm以上・・・になるように、溶融ガラスにH_(2)O含有ガスを接触させることを特徴とする。封止ガラス中のβ-OH値が高い程、真空封止工程で封止ガラスが発泡しやすくなるため、封止ガラスの流動性を促進させることができ、結果として、排気口の鉛直上方以外の位置に置かれた場合でも、封止ガラスが排気口まで到達しやすくなり、金属製真空二重容器内の気密性を確保しやすくなる。しかし、封止ガラス中のβ-OH値が高過ぎると、真空封止工程後の封止部分に泡が残存しやすくなり、封止部分の信頼性(機械的強度等)が低下しやすくなる。このため、本発明の封止ガラスの製造方法は、封止ガラス中のβ-OH値が1.5/mm以下・・・になるように、溶融ガラスにH_(2)O含有ガスを接触させることが好ましい。」と記載されている。 これに対し、引用発明の気体総量の数値限定について、先願明細書の【0014】には、「本発明の封止ガラスは、・・・気体総量を900μL/cm^(3)以上に規制している。このようにすれば、真空封止工程で封止ガラスが発泡し、封止ガラスの流動性を促進させることができ、その結果、真空封止工程で排気口の鉛直上方以外の位置に所定の距離を隔てて載置される場合であっても、封止ガラスが排気口まで到達しやすくなり、排気口を封止しやすくなる。一方、本発明の封止ガラスは、・・・気体総量を7000μL/cm^(3)以下に規制している。このようにすれば、真空封止工程後、封止ガラスに残存する気泡部分からリークが発生し、金属製真空二重容器の気密性が損なわれる事態を防止しやすくなる。」と記載されている。 以上の記載によれば、本願製法発明のβ-OH値も引用発明の気体総量も、封止ガラスの発泡の程度を示す物性値であって、いずれも、真空封止工程で排気口の鉛直上方以外の位置に置かれた封止ガラスが排気口まで到達するのに必要な流動性により下限値が決定され、真空封止工程後の気密性(信頼性)により上限値が決定されているものと認められる。 してみると、相違点1は、本願製法発明と引用発明により作製された封止ガラスが、真空封止時に同程度の発泡をすることを、異なる物性値により表現したにすぎず、実質的な差異ではない。 相違点2について 水中で気体をバブリングさせる際、気体中にH_(2)Oをより多く含ませるために、水を加熱することは周知慣用手段と認められる(要すれば、当審拒絶理由通知中でも引用した特開2008-84820号公報【0057】【図14】、同じく特開2008-208283号公報【0027】等参照)。 してみると、引用発明において、「水中で気体をバブリングさせる」のは、気体中にH_(2)Oを多く含ませるためであるから、その際、加熱された水を使用することは、周知慣用手段の付加であって新たな効果を奏するものではない。すなわち、相違点2は、課題解決のための具体化手段における微差であって、実質的な差異ではない。 したがって、本願製法発明は、先願明細書に記載された発明(引用発明)と実質的に同一である。 7.本願製造物発明について 引用発明によれば、先願明細書には、引用発明により作製された封止ガラスについて、「実質的にPb成分を含有せず、真空状態で30℃から700℃まで15℃/分で昇温した時に発生する気体総量が900?7000μL/cm^(3)」であることが記載されていると認められる。 これに対し、本願製法発明によれば、本願製法発明により作製された本願製造物発明は、封止ガラスについて、「実質的にPbOを含有しない、β-OH値が0.4/mm以上、1.5/mm以下」であることを特定したものと認められる。 してみると、両者を対比すると、「6.(1)」に述べた相違点2は差異にならず、相違点1でのみ一応相違するが、この相違点1が実質的な差異ではないことは、「6.(2)」に述べたとおりである。 したがって、本願製造物発明も、先願明細書に記載された発明と実質的に同一である。 8.むすび 以上のとおり、本願製法発明及び本願製造物発明は、先願明細書に記載された発明と実質的に同一であり、しかも、本願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本願出願時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。 したがって、本願は、その余の拒絶理由について検討するまでもなく、拒絶すべきものである。 よって、結論のとおり審決する。 |
審理終結日 | 2015-04-24 |
結審通知日 | 2015-04-27 |
審決日 | 2015-05-08 |
出願番号 | 特願2009-194979(P2009-194979) |
審決分類 |
P
1
8・
161-
WZ
(C03B)
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最終処分 | 不成立 |
前審関与審査官 | 吉川 潤、山田 貴之 |
特許庁審判長 |
河原 英雄 |
特許庁審判官 |
真々田 忠博 大橋 賢一 |
発明の名称 | 封止ガラスの製造方法および封止ガラス |
代理人 | 楠本 高義 |