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審決分類 審判 全部無効 2項進歩性  D04H
審判 全部無効 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  D04H
審判 全部無効 特17条の2、3項新規事項追加の補正  D04H
管理番号 1302351
審判番号 無効2013-800208  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 無効の審決 
審判請求日 2013-11-01 
確定日 2015-07-08 
事件の表示 上記当事者間の特許第5270014号発明「立体網状構造体製造方法及び立体網状構造体製造装置」の特許無効審判事件について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 
理由 第1.手続の経緯
平成13年 3月16日 原出願(特願2001-76171号)
平成13年11月14日 分割出願(特願2001-348871号)
平成24年 2月 3日 本件分割出願(特願2012-22551号)
平成25年 5月17日 設定登録(特許第5270014号)
平成25年11月 1日付 無効審判請求書
平成26年 1月24日付 答弁書
平成26年 3月 5日付 審理事項通知
平成26年 3月24日付 両者・口頭審理陳述要領書
平成26年 4月 4日付 請求人上申書
平成26年 4月 7日 口頭審理
平成26年 4月10日付 審理終結通知

以下各証拠は、「甲第1号証」を「甲1」のように、口頭審理陳述要領書は、「要領書」と略記する。

第2.本件発明
本件特許の請求項1ないし2に係る発明(以下「本件発明1ないし2」という。)は、以下のとおりである。

「【請求項1】
熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶融した線条を複数の孔を有するダイスから下方へ押し出し、
一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置された無端コンベアの間に前記線条を自然降下させ、
該無端コンベアが前記降下速度より前記線条を遅く引き込み、
前記押出された線条の集合体の幅より狭く設定された間隔の無端コンベアが、水没する前記線条の集合体の少なくとも二面に接触する、
立体網状構造体製造方法において、
前記無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり、
前記板材の隙間に水が流れることを特徴とする立体網状構造体製造方法。
【請求項2】
熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶融した線条を複数の孔を有するダイスから下方へ押し出し、
一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置された無端コンベアの間に前記線条を自然降下させ、
該無端コンベアが前記降下速度より前記線条を遅く引き込み、
前記押出された線条の集合体の幅より前記無端コンベアの間隔が狭く設定され、
前記無端コンベアが、水没する前記線条の集合体の少なくとも二面に接触する、立体網状構造体製造装置において、
前記無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり、
前記板材の隙間に水が流れることを特徴とする立体網状構造体製造装置。」

第3.請求人の主張
1.無効理由の要点
請求人が主張する無効理由は、以下のとおりである(審判請求書2?10頁、請求人要領書6.2(1)イ)。

本件発明1?2に対し
理由1:甲1に記載された発明に甲3乃至甲5のいずれか1つを適用することで容易である。(特許法第29条第2項)

理由2:甲2に記載された発明に甲3乃至甲5のいずれか1つを適用することで容易である。(特許法第29条第2項)

理由3:「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に間隔を開けて連結したもの」及び「板材の隙間に水が流れること」が、発明の詳細に記載されていないから、本願発明1及び2は、発明の詳細な説明に記載されたものではない。(特許法第36条第6項第1号)

理由4:「板材の隙間に水が流れること」は出願当初明細書に記載されたものではなく、これを追加する補正は出願当初の明細書の記載の範囲内でされたものではない。(特許法第17条の2第3項)

2.証拠
請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。

甲1:特開平11-241264号公報
甲2:特開2000-328422号公報
甲3:特開平8-226069号公報
甲4:特公昭44-25393号公報
甲5:特開平5-16206号公報
甲6:特開2001-54706号公報
甲7:特開平9-302586号公報
甲8:米国特許第5,639,543号,及び抄訳
甲9:平成25年2月11日付け手続補正書
甲10:平成25年2月11日付け意見書
甲11:JIS B 0140-1993「コンベア用語-種類」
甲12:特開2000-212868号公報
甲13:特開平6-134881号公報
甲14:特開平8-165262号公報
甲15:特開平7-238448号公報
甲16:特開平10-251440号公報
甲17:特開平11-172026号公報
甲18:特開2010-58481号公報

甲1ないし18の成立に争いはない。なお、甲1ないし10は、審判請求書とともに、甲11ないし12は、平成26年3月24日付け要領書とともに、甲13ないし18は、平成26年4月4日付け上申書とともに、提出された。

3.主張の概要
(1)理由1(甲1)
甲1には、「溶融した熱可塑性樹脂を複数のノズルより下方へ押し出し、一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置された無端ベルトコンベアーの間にノズルから押し出した熱可塑性樹脂を自然落下させ、無端ベルトコンベアーが上記の降下速度より押し出された熱可塑性樹脂を遅く引き取り、押し出された溶融樹脂の線条の集合体の幅より狭く設定された無端ベルトコンベアーが、水没する溶融樹脂の線条の集合体の二面に接触する、立体網状構造体の製造方法及び製造装置」(甲1の発明)が記載されており、本件発明1と甲1の発明とは、本件発明1が「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり、前記板材の隙間に水が流れる」構成を備えるのに対し、甲1の発明が当該構成を備えていない点で相違する。
これに関し、甲3には、繊維製品の熱処理成形に使用され、多数の横棧がエンドレス状に設けられ、且つ、横棧間に間隔が形成された無端のスラットコンベアにおいて、横棧間の隙間に、熱風を流すことが記載され、多数の横棧は、「間隔を開けて連結」された複数の「板材」に該当する。
また、甲4には、合成樹脂不織体の製造に使用され、且つ、複数の断面半月形の受函が隙間を開けて連結された無端のエンドレス回転機構が記載され、「断面半月形の受函を連結された無端のエンドレス回転機構」はスラットコンベアの一種であって「無端コンベア」であり、「断面半月形の受函」は、「隙間を開けて連結」された複数の「板材」である。
また、甲5には、成形体の搬送に使用され、且つ、ステンレス製のスラットで構成された無端のスラットコンベヤーにより、成形物を引き取ることが記載され、当該「スラットコンベヤー」は、「無端コンベア」であり、「ステンレス製」の「スラット」は、「金属製の板材」に該当する。
そして、甲3に記載の技術事項は「熱融着繊維、樹脂綿等でなる繊維製品に熱処理を施し、所定の厚み、硬さの製品(各工業用、車輪用、土木用、マット・ベット等の寝具用等の基礎繊維資材)を得ることができる熱処理成形機・・・に関する」ものであり、且つ、甲4に記載されている技術事項は「合成樹脂不織体の連続製造法およびその装置に関する」ものであるから、甲3及び甲4の技術分野と甲1の発明の技術分野は、ともに繊維製品の製造方法及び製造装置に関する分野である点において共通する。また、甲5には,その技術分野が繊維製品の製造方法及び製造装置に関することは明示されていないものの、甲5に記載された「スラットコンベヤー」は、「成形体の搬送」に使用されるものである点において,甲1の発明の「無端コンベア」と用途が同一であり、また、甲3及び甲4に記載されたコンベアも甲5と同様「スラットコンベア」である。
以上のことを考慮すれば、当業者が甲1の発明に、甲3乃至甲5に記載されたコンベアに関する技術を適用することは格別困難ではなく、これにより、本件発明1の「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり」という構成を得ることは、本件特許の出願時点において当業者が容易に想到することができたことである。
また、「板材の隙間に水が流れる」構成に関し、甲3には、「スラットコンベアの横棧間に隙間が形成され、この隙間にある繊維製品に直接熱風が供給される」ことが記載されている。このように、甲3においては熱処理のための熱風が横棧間の隙間に流れるが、繊維製品の冷却が必要であれば、横棧間の隙間に、熱風に代えて冷媒を供給すればよいことは技術常識である。例えば、冷媒として水を用いれば、板材である横棧間の隙間にその水が流れることとなる。より具体的には、横棧間に隙間が設けられたスラットコンベアを水没させれば、その隙間を水が流れることは言うまでもない。すなわち、繊維製品の冷却が必要な場合には、単に、甲3に記載の熱風に代えて例えば水が隙間を流れるようにすればよいだけのことに過ぎない。
したがって、当業者が甲1の発明に、甲3に記載された熱処理に関する技術及び技術常識を組合わせて適用することは格別困難ではなく、これにより、本件発明1の「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり」という構成を得ることは、本件特許の出願時点において当業者が容易に想到することができたことである。
そして、本件発明1及び2は、それぞれのカテゴリーの相違(立体網状構造体製造方法及び立体網状構造体製造装置)に応じて表現形式が異なるものの、実質的に同一であるから、進歩性の判断は同一となる。

よって、本件発明1?2は、いずれも甲1に記載された発明、並びに甲3乃至甲5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(審判請求書2?4頁の(1-1)、同11?20頁の(3-1)、審理事項通知書の第1、請求人要領書3?4頁6.2(1)イ、ウ)

(2)理由2(甲2)
甲2には、「溶融温度に保持した熱可塑性PLA樹脂の線状を複数のオリフィスを持つ多列ノズルより下方へ向けて吐出し、一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置された無端コンベアである引き取り装置の間に多列ノズルから吐出された溶融線条を降下させ、無端コンベアである引き取り装置が落下速度より溶融線条のループ径の弛み分だけ遅く引き取り、吐出された溶融線条の集合体の幅より狭く設定された間隔の引き取り装置が、水没する溶融線条の集合体の二面に接触する、網状の三次元構造に形成された抗菌防黴性ポリ乳酸構造体の製造方法及び製造装置」(甲2の発明)が記載されており、本件発明1と甲2の発明とは、本件発明1が「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり、前記板材の隙間に水が流れる」構成を備えるのに対し、甲2の発明が当該構成を備えていない点で相違する。
これに関し、甲3乃至甲5にはコンベアに関する技術が記載されており、甲3及び甲4の技術分野と甲2の発明の技術分野は、ともに繊維製品の製造方法及び製造装置に関する分野である点において共通する。また、甲5には,その技術分野が繊維製品の製造方法及び製造装置に関することは明示されていないものの、甲5に記載された「スラットコンベヤー」は、「成形体の搬送」に使用されるものである点において、甲2の発明の「無端コンベア」と用途が同一であり、また、甲3及び甲4に記載されたコンベアも甲5と同様「スラットコンベア」である。
以上のことを考慮すれば、当業者が甲2の発明に、甲3乃至甲5に記載されたコンベアに関する技術を適用することは格別困難ではなく、これにより、本件発明1の「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり」という構成を得ることは、本件特許の出願時点において当業者が容易に想到することができたことである。
また、「板材の隙間に水が流れる」構成に関し、甲3には、スラットコンベアの横棧間に熱風が供給される隙間が形成されることが記載されているところ、繊維製品の冷却が必要な場合には、単に、甲3に記載の熱風に代えて例えば水が隙間を流れるようにすればよいだけのことに過ぎない。
したがって、当業者が甲2の発明に、甲3に記載された熱処理に関する技術及び技術常識を組合わせて適用することは格別困難ではなく、これにより、本件発明1の「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり」という構成を得ることは、本件特許の出願時点において当業者が容易に想到することができたことである。
そして、本件発明1及び2は、それぞれのカテゴリーの相違(立体網状構造体製造方法及び立体網状構造体製造装置)に応じて表現形式が異なるものの、実質的に同一であるから、進歩性の判断は同一となる。
よって、本件発明1?2は、いずれも甲2に記載された発明、並びに甲3乃至甲5に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件特許は、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきである。
(審判請求書5?8頁の(1-2)、同20?27頁の(3-2)、審理事項通知書の第1、請求人要領書3?4頁6.2(1)イ、ウ)

(3)理由3(第36条第6項第1号)
本件発明1?2の「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり、前記板材の隙間に水が流れる」構成は発明の詳細な説明に記載されていない。当該構成には、甲10で主張している効果を奏すること自体が内包されていると解するべきであるが、本件特許明細書における発明の詳細な説明には、甲10で主張している効果については何ら記載されていない。このとおり、「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり、前記板材の隙間に水が流れる」構成は発明の詳細な説明に記載されていないのであるから、それを備える本件発明1及び2もまた、発明の詳細な説明に記載されたものではない。
よって、本件発明1?2は、発明の詳細な説明に記載されたものではないから、特許法第36条第6項第1号の規定を満たしておらず、本件特許は、同法第123条第1項第4号に該当し、無効とすべきである。
(審判請求書9頁の(1-3)、同27?29頁の(3-3)、請求人要領書3頁6.2(1)ア、同26?29頁6.2(5))

(4)理由4(第17条の2第2項)
本件発明1?2の「板材の隙間に水が流れる」構成は出願当初の明細書に記載されたものではなく、甲10に記載された出願人による主張の説明も出願当初の明細書に記載されていない。
よって、本件発明1?2に係る補正は、本件特許の出願当初の明細書に記載した事項の範囲内においてされたものではないから、本件特許は、特許法第17条の2第3項の規定を満たしておらず、本件特許は、同法第123条第1項第1号に該当し、無効とすべきである。
(審判請求書10頁の(1-4)、同29頁の(3-4)、請求人要領書28?29頁6.2(5)(ウ)(エ))

第4.被請求人の主張
1.要点
これに対し、被請求人は、「本件審判請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決を求めている。

2.証拠
被請求人が提出した証拠は、以下のとおりである。
乙1:特開平8-310626号公報

乙1の成立に争いはない。なお、乙1は、平成26年3月24日付け要領書とともに、提出された。

3.主張の概要
その主張の概要は、以下のとおりである。

(1)理由1(甲1)
甲3の「スラットコンベア」を備えた従来の熱処理成形機は横棧間に隙間を有するため、「この隙間にある繊維製品に直接熱風が供給されることから、当該隙間の幅に相当する部位にマークが付き易く、品質低下の要因となること、並びに均一な厚み、硬さが確保されないこと」といった問題点が指摘されている。そうすると、当該記載に接した当業者であれば、敢えてかかる問題点を有するスラットコンベアを甲1の発明に適用する動機付けは何ら存在せず、むしろそのような適用を阻害するものというべきである。
さらに、甲3の「透過孔性を有する上下側のエンドレスベルト、モータ及び回転機構でなる搬送装置」は熱処理される繊維製品を搬送する機能を有するに過ぎず、甲1の発明のコンベアのように、溶融樹脂を「1対のベルトコンベアーの間に自然降下させ、上記の降下速度より遅く引き取ることにより立体網状構造体を製造する際に、押出された溶融樹脂の束の巾より1対のベルトコンベアーの間隔が狭く、かつベルトコンベアーが水没する前に上記溶融樹脂の束の両面あるいは片面がベルトコンベアーに接触」して立体網状構造体を形成する、というような成形機能を備えるものではなく、その技術思想が全く相違するものである。よって、このようにコンベアの機能が異なる甲3と甲1とを組合わせる動機付けはない。
甲4に開示される技術は、「遠心力による延伸」と「上下振動による溶着角度の増大」とを利用した技術であり、甲1の発明の「溶融した熱可塑性樹脂を押し出し、一対のベルトコンベアーの間に自然降下させ、降下速度よりも遅く引き取ること」を含む立体網状構造体の製造技術とは全く異なる技術思想に基づくものである。したがって、全く異なる技術思想に基づく製造技術である甲4に記載の発明を甲1の発明へと適用する動機付けはない。また、甲4の「断面半月形の受け函を連結したエンドレス回転機構」と本件発明1の「複数の金属製の板材を上下方向に間隔を開けて連結した」無端コンベアとは全く異なるものである。したがって、甲4に記載の「断面半月形の受け函を連結したエンドレス回転機構」を甲1の発明に適用したとしても、本件発明1には想到するものではない。
甲5は、「異型形状の成形体を、外観,成形面,品質面を悪化させることなく、かつ、所望の引き取り速度通りに引き取ることができる無機異型押出成形体の引き取り方法及び装置」に関するものであり、「無機」成形体を単に外観を変化させることなく「搬送」するためのものである。したがって、当業者が、互いに機能の異なる甲5と甲1の発明とを組合わせる動機付けがない。
以上より、甲1の発明と甲3乃至甲5とを組合わせる動機付けはなく、当業者は本件発明1の「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり」の構成に想到し得ない。
また、本件発明2は立体網状構造体製造装置に関する発明であり、立体網状構造体製造方法に係る本件発明1と同様に、相違点として「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に間隔を開けて連結したもの」及び「板材の隙間に水が流れる」構成を含むものである。上記の通り、本件発明1の当該構成は、甲1の発明と甲3乃至甲5とから容易に想到できたものではないから、本件特許発明2も同様に、甲1の発明と甲3乃至甲5とから容易に想到できたものではない。
(答弁書3?8頁の(1)、被請求人要領書2?3頁の第1)

(2)理由2(甲2)
甲2の発明の引き取り装置は、ポリ乳酸構造体を成形する機能を備えるものであり、甲3において採用される「透孔性を有する上下側のエンドレスベルト、モータ及び回転機構でなる搬送装置」は、熱処理される繊維製品を搬送する機能を備えるに過ぎない。したがって、甲2の発明と甲3とは、コンベアの機能が異なる。このようなコンベアの機能が異なる甲2の発明と甲3を組合わせる動機付けはない。
また、甲4は「遠心力による延伸」と「上下振動による溶着角度の増大」とを利用した不織体製造に関するものであり、かかる不織体製造技術は、甲2の発明の「溶融物を、複数のオリフィスを持つノズルより下方に向けて吐出させ、溶融状体で繰り返し屈曲させつつ互いに接触させて接合させながら、引き取り装置で挟み込んで冷却する」ことを含む乳酸構造体の製造技術とは全く異なる技術である。したがって、甲2の発明とは製造技術の異なる甲4を甲2の発明へ適用する動機付けはない。さらに、甲4の「断面半月形の受け函を連結したエンドレス回転機構」は、本件発明1の「複数の金属製の板材を上下方向に隙間を空けて連結した」無端コンベアとは全く異なるものであるから、これを甲2の発明に適用したとしても、本件発明1の前記構成に想到するものではない。
また、甲5のコンベアは単に「搬送」機能を有するだけのものであり、構造体を搬送する機能を有するだけでなく、「成形」する機能を有する甲2の発明の引き取り装置とは用途が異なるものである。
したがって、甲2の発明に、コンベアの機能が異なる甲3及び甲5の技術や、製造技術が異なる甲4の技術を組合わせる動機付けは存在しない。
さらに、上記の通り、本件発明1の「複数の金属製の板材を上下方向に隙間を空けて連結した」無端コンベアの構成に想到し得ないのであるから、本件発明1の「板材の隙間に水が流れる」という構成にも、当業者は想到し得ない。
また、本件発明1の「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり、前記板材の隙間に水が流れる」構成による効果は明細書の発明の詳細な説明に記載されたものである。
以上より、本件発明1は、甲2の発明と甲3乃至甲5とを組合わせて容易に想到し得たものではない。
本件発明2は立体網状構造体製造装置に関する発明であり、立体網状構造体製造方法に係る本件発明1と同様に、相違点として「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に間隔を開けて連結したもの」及び「板材の隙間に水が流れる」構成を含むものである。上記の通り、本件発明1の当該構成は、甲2の発明と甲3乃至甲5とから容易に想到できたものではないから、本件特許発明2も同様に、甲2の発明と甲3乃至甲5とから容易に想到し得たものではない。
(答弁書8?11頁の(2)、被請求人陳述要領書2?3頁の第1)

(3)理由3(第36条第6項第1号)
本件発明1及び2の「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に間隔を開けて連結したもの」である構成については、本件特許の図面、例えば図6及び7の記載から、無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に間隔を開けて連結したものであることが明らかである。そして、当業者であれば、本件特許の明脚書及び図面の記載と出願時の技術常識とから、かかる無端コンベアを水中に設置した場合には、「前記板材の隙間に水が流れること」という構成を当然理解できる。
よって、「前記板材の隙間に水が流れること」という構成は本件特許発明の詳細な説明に記載されたものであり、当該構成を備える本件発明1及び2は発明の詳細な説明に記載されたものといえ、特許法第36条第6項第1号の規定の違反はない。
(答弁書12頁の(3))

(4)理由4(第17条の2第2項)
本件特許の図面、特に、図6及び図7等において、本件発明1及び本件発明2の「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に間隔を開けて連結したもの」であることは記載されている。そして、当業者であれば、かかる無端コンベアを水中に設置した場合、複数の板材の隙間に水が流れることは、本件特許の出願時の技術常識に基づき理解することができる。よって、「板材の隙間に水が流れること」という構成を追加する補正は、本件特許の出願当初明細書及び図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであり、特許法17条の2第3項の規定に違反して特許されたものではない。
(答弁書12?13頁の(4))

第5.当審の判断
1.本件発明
本件発明1ないし2は、上記第2.のとおりである。

2.理由1(甲1)
(1)甲1発明
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲1には次の記載がある。
(ア)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、クッション部材、水処理材、フィルター材、暗渠排水材、法面緑化用基材などに使用する空隙を有する立体網状構造体に関する。」
(イ)「【0008】本発明の立体網状構造体を得る方法の一つとしては、溶融した熱可塑性樹脂を複数のノズルより下方へ押出し、一部水没した1対のベルトコンベアーの間に自然降下させ、上記の降下速度より遅く引き取ることにより立体網状構造体を製造する際に、押出された溶融樹脂の束の巾より1対のベルトコンベアーの間隔が狭く、かつベルトコンベアーが水没する前に上記溶融樹脂の束の両面あるいは片面がベルトコンベアーに接触するようにした。
【0009】つまり、溶融した熱可塑性樹脂の束の両面あるいは片面の表面部分は、ベルトコンベアー上に落下し、溶融した熱可塑性樹脂の束の内側へ移動し密な状態となるため、水中にそのまま落下した中央部分より空隙率が小さくなるわけである。当然ながら空隙率が低くなった表面部分は、空隙率が高い中央部分より交点の数が多くなり、引張り強度が著しく強くなる。また、空隙率が低い表面部分は空隙部の面積が小さくなり、細かいフィルター層となるわけである。」
(ウ)「【0016】
【発明の実施の形態】図1は本発明の代表的な立体網状構造体の製造装置の断面図である。また、以下の実施例に基いて、本発明の実施の形態を説明する。
【0017】
【実施例】実施例1として、スクリューの直径が90mmの単軸押出し機に、1.0m×50mmの面積に直径0.8mmのノズル4が、ほぼ等間隔で約800あるダイス2を取り付けた。ノズル4の下約120mmの位置に水位がある冷却水槽6を設置し、巾1.2mのベルトコンベアー1を25mmの間隔をあけて1対、ベルトコンベアー1の上部が40mm程度水面から出るようにほぼ垂直に設置した。
【0018】この装置で、EVA樹脂を熱を加えて可塑化しながら樹脂温度が240℃になるように、ダイス2の温度をコントロールして、1時間当たり120kgの押出し量でノズル4から出た溶融樹脂の束5の両面がベルトコンベアー1上に落ちるように1対のベルトコンベアー1の間に押出した。この時のベルトコンベアー1の引取速度は0.7m/分とした。ベルトコンベアー1に挟まれて下方へ移動した成形物は、冷却水槽6の下部で向きを変え、押出し機とは反対の側から水面へと移動し、冷却水槽6から出た時点で圧縮エアーで水分を吹き飛ばした。」
(エ)図1より、ベルトコンベアー1は無端状であり、一対が間隔をあけて対向しほぼ垂直に設置されている点がみてとれる。

かかる記載を、本件発明1に照らし整理すると、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されている。

「溶融した熱可塑性樹脂を複数のノズル4から下方へ押し出し、
一対が間隔をあけて対向しほぼ垂直に設置された無端ベルトコンベアー1の間に複数のノズル4を有するダイス2から押し出した前記熱可塑性樹脂を自然降下させ、
無端ベルトコンベアー1が降下速度より前記熱可塑性樹脂を遅く引き取り、
前記押し出された熱可塑性樹脂の束の幅より狭く設定された無端ベルトコンベアー1が、水没する熱可塑性樹脂の束の二面に接触する、
立体網状構造体の製造方法。」

なお、甲1発明の認定について、両者間に争いはない。(審理事項通知の第3.の1、請求人要領書4頁6.2(3)ア、被請求人要領書3頁第3(2))

(2)甲3ないし甲5の記載
(2-1)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲3には次の記載がある。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、熱融着繊維、樹脂綿等でなる繊維製品に熱処理を施し、所定の厚み、硬さの製品(各工業用、車輪用、土木用、マット・ベット等の寝具用等の基礎繊維資材)を得ることができる熱処理成形機(以下、成形機とする)に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、この種繊維製品に熱処理を施し、前記製品を得る成形機としては、通常スラットコンベアと称される成形機が市販されている。この成形機は、図8に示す如く、多数の横棧をエンドレス状に設けてなるスラットコンベアを上下側に配設し、この上側のスラットコンベアの上方に熱風供給装置を設け、また前記下側のスラットコンベアの下方に排風吸込装置を設け、前記上下側のスラットコンベアの終端に矯正ロール群を設けてなる構成である。この構成を採用する成形機で前記製品を得るには、先ず、繊維製品を、この上下側のスラットコンベア間に挿入する。この繊維製品は、当該上下側のスラットコンベアの進行に伴って搬送されるとともに、その上側のスラットコンベアの上方より供給される熱風で順次熱処理される。この熱処理加工済み繊維製品は、続いて、上下側の矯正ロール群の押圧・成形処理により所定の厚さ、硬さを有する製品に処理加工され、その後、前記上下側のスラットコンベアより製品として送り出される。」
(イ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】前記スラットコンベアを備えた成形機では、上下側のスラットコンベアの横棧間に隙間が形成され、この隙間にある繊維製品に直接熱風が供給されることから、当該隙間の幅に相当する部位にマークが付き易く、品質低下の要因となること、並びに均一な厚み、硬さが確保されないこと、等の課題がある。またこのスラットコンベアでは、蛇行又は振動が発生し易く、スピードコントロールに難点があること、及び作業能率面で十分でないこと、等の課題がある。」

(2-2)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲4には次の記載がある。
(ア)「この発明は合成樹脂不織体の連続製造法およびその装置に関する。」(第1欄20?21行)
(イ)「回転金型の周側に小孔を穿設し、その内側に加熱装置を内蔵せしめると共に回転金型の両側で相互に組合いかつ同一ピッチで上下に振動しつつ下方に回動する断面半月形の受函を連結したエンドレス回転機構にその駆動用動力装置を併設した」(第2欄7?12行)
(ウ)「19,19’は無端帯チェーンで、上下振動フレーム13の上下に軸支したスプロケット歯車21,21’,22,22’の間に架設され駆動装置20,20によつて互いに矢頭方向に回動する。このチェーンの外側には断面半月形の内面平滑な同規格の受函23が一連に枢着され、金型4の下方において対向的に組合わさつて個々の円筒割型24を形成する。(第2図参照)
このように形成される個々の円筒割型は回転金型の下方において、金型の小孔から糸条に噴出する溶融樹脂が遠心力によつて延伸されながら円筒割型の内面に圧着されるが、この時円筒割型は規則的に上下振動するのでこの間に噴出する糸条は溶着角度が大となり不規則かつ網目状に圧着重合すると共にその重合面において互いに融着し糸条間に網状部を形成する」(第3欄24?39行)

(2-3)本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲5には次の記載がある。
(ア)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、異型形状の無機押出成形体の引き取り方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、セメント,石膏などの無機水硬化性材料を主成分(バインダー)とし、必要に応じ骨材,繊維,軽量化材,成形助剤などを加えた組成物を水と混合混練した成形材料を押出成形して得られた成形体は、図12にみるように、金型2から成形体3が押し出された直後に、押出速度と同調もしくはやや早い速度でコンベアー等の搬送手段に載って移動するトレー7の上に直接引き取られて次の養生硬化工程などへ搬送されるようになっている。」
(イ)「【特許請求の範囲】
【請求項1】無機水硬性材料を主成分とする押出成形材料を金型から押し出して得た異型形状の成形体を搬送手段によって搬送されるトレー上に連続的に引き取る方法であって、前記金型と搬送手段との間に、表面に成形体の凹部に対応する凸部を有するとともに、その各平面部上に無端ベルトが巻回されているスラットコンベアーを介在させ、まず、金型から押し出された成形体をスラットコンベアーの凸部を前記成形体の凹部内に臨ませつつスラットコンベアーによって所望の引き取り速度で引き取ったのち、運転速度を前記スラットコンベアーの運転速度と同調させた搬送手段上のトレーに載せて成形体を引き取ることを特徴とする無機押出異型成形体の引き取り方法。」
(ウ)「【0011】
【作用】つまり、上記構成によれば、凹凸を有する立体異型形状,勘合部等の片持ちばり状部を有する異型形状の成形体等を直接トレーに引き取るのではなく、一旦前記凹部に対応する凸部を有するスラストコンベアーあるいはベルトコンベアーで引き取ることにより金型とトレーとの段差の軽減と所望の引き取り速度での引き取りを可能にするとともに、そのコンベアー上を成形体が移動するときに生じる自重によるたれ等の形崩れを、凸部を成形体の凹部内に臨ませて受けることにより防いでいるのである。
【0012】
【実施例】以下に、実施例を比較例と対比して詳しく説明する。
(実施例1)下記配合に示す材料をアイリッヒミキサーで1000rpmで2分間ドライ混合した後、水を添加し、更に1000rpmで2分間混合し、押出成形用混合材料を作成した。次にこの混合物をニーダーで4分間混練し、その混練物を宮崎鉄工社製MV-100型押出機で図4に示す異型形状の成形体を成形後、ステンレス製の図5のような断面形状を持ったスラットで構成され、平面部分に1.5mmの厚みのゴムベルトを巻回したスラットコンベヤーを使用して本発明の方法で成形物を引き取った。」

(3)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「複数のノズル4」、「ほぼ垂直」、「無端ベルトコンベアー1」は、本件発明1の「複数の孔」、「縦方向」、「無端コンベア」に相当し、また、甲1発明の「溶融した熱可塑性樹脂を複数のノズル4から下方へ押し出し」は、複数のノズル4はダイス2に形成されており、複数のノズル4から下方へ押し出した溶融した熱可塑性樹脂が線条となることから、本件発明1の「熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶融した線条を複数の孔を有するダイスから下方へ押し出し」に、甲1発明の「押し出された熱可塑性の束」は本件発明1の「押し出された線条の集合体」に相当する。
したがって、両者は次の点で一致する。
「熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶融した線条を複数の孔を有するダイスから下方へ押し出し、
一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置された無端コンベアの間に前記線条を自然降下させ、
該無端コンベアが前記降下速度より前記線条を遅く引き込み、
前記押出された線条の集合体の幅より狭く設定された間隔の無端コンベアが、水没する前記線条の集合体の少なくとも二面に接触する、
立体網状構造体製造方法。」

また、本件発明1と甲1発明は、次の点で相違する。

相違点1:無端コンベアに関して、本件発明1では「複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり、前記板材の隙間に水が流れる」のに対して、甲1発明では、ベルトコンベアである点。

なお、一致点、相違点1の認定について、両者間に争いはない。(審理事項通知の第3.の2、請求人要領書4頁6.2(3)ア、被請求人要領書3頁第3(2))

(4)判断
理由1は、本件発明1は甲1に記載された発明に甲3ないし甲5のいずれか1つを適用することで当業者が容易になしえたというものである。

(4-1)甲3
しかし、甲3に記載された熱処理成形機は「熱融着繊維、樹脂綿等でなる繊維製品」を多数の横棧をエンドレス状に設けてなる「スラットコンベア」で搬送しながら熱風を供給し、続いて、矯正ロール群の押圧・成形処理により所定の厚さ、硬さを得るものであって(上記(2-1)(ア))、甲1発明の溶融した熱可塑性樹脂を複数のノズルを有するダイスから水中に自然落下させ、「無端ベルトコンベアー」が水没する熱可塑性樹脂の束の二面に接触することによる立体網状構造体の製造方法とは、コンベアを用いる工程が全く異なるものである。
しかも、甲3では押圧の成形処理は、「上下側の矯正ロール群」によって行われるものであり、「スラットコンベア」を「熱融着繊維、樹脂綿等でなる繊維製品」に熱風を供給する際の専ら「搬送」機能を有するコンベアとして用いているのに対して、甲1発明では「押し出された熱可塑性樹脂の束の幅より狭く設定された」点から解るように「無端コンベアー」を自然落下する熱可塑性樹脂の束の二面に接触して立体網状構造体を製造する「押圧・成形」機能を有するものとして用いている。
したがって、両者はコンベアを用いる目的が同じであるとはいえない。
また、甲3の「スラットコンベア」は、その横棧間の隙間を通して繊維製品に直接熱風を供給するものであるから(上記(2-1)(イ))、その隙間は、繊維製品に熱風を供給できるのに十分な大きさに設定すると認められる。
これに対して、甲1発明の「無端コンベア」は、立体網状構造体の表面を押圧・成形するものであるから、一般に、製品である立体網状構造体表面の凹凸の形成を防止することを考えれば、「スラットコンベア」を用いる際には、横棧間の隙間は必要最小限に設定すると認められる。
さらに、熱媒体として風(空気)を用いる場合と、水を用いる場合では熱効果が異なると認められ、その目的・機能や熱媒体の違いによって「スラットコンベア」の設計は大きく異なるものとなり、甲3の「スラットコンベア」をそのまま甲1発明の「無端コンベア」として用いることは想到し得ないし、水中で甲3の「ストラットコンベア」を用いることも示唆されていないので、水中で用いるために設計することも想到し得ない。
加えて、甲3には「スラットコンベア」を水中で用いることは示唆されていないので、甲3の「スラットコンベア」を甲1発明の「無端コンベア」として用いた際の効果が、当業者にとって自明であるとも、当業者がその効果を予測し得たともいえない。
とすると、両者は技術思想が全く異なるものであって、甲1発明の「無端コンベア」として、甲3の「スラットコンベア」を用いることの動機付けがあるとは認められない。
請求人は、いずれも繊維製品の製造方法である点で共通すると主張するが(審判請求書16頁19?21行)、上記のようにコンベアを用いる工程は全く異なるものであって、コンベアを使う目的、コンベアの設計が異なり、適用した際の効果が当業者にとって自明ともいえないから、甲3の技術適用に動機付けがあるとはいえない。

(4-2)甲4
次に、甲4に記載された合成樹脂不織体の連続製造法は、金型4の小孔から糸条に噴出する溶融樹脂が、遠心力によつて延伸されながら、「チェーンの外側に設けた断面半月形の受函23」が組合わさつて形成される円筒割型24の内面に圧着されるが、この時円筒割型は規則的に上下振動するのでこの間に噴出する糸条は溶着角度が大となり不規則かつ網目状に圧着重合すると共にその重合面において互いに融着し糸条間に網状部を形成するものであり(上記(2-2)(ウ))、甲1発明の溶融した熱可塑性樹脂を複数のノズルを有するダイスから水中に自然落下させ、「無端ベルトコンベアー」が水没する熱可塑性樹脂の束の二面に接触する立体網状構造体の製造方法とは、コンベア(チェーンの外側に断面半月形の受函23を設けたもの)を用いる工程が全く異なるものである。
しかも、甲4では「受函23」が円筒割型24を形成するとともに、上下振動し、糸条が遠心力によって延伸されながらその内面に圧着されるとともに糸条間に網状部を形成するものであり、甲4の「チェーンの外側に設けた断面半月形の受函23」を設けたものは、甲1発明の自然落下する熱可塑性樹脂の束の二面に接触して立体網状構造体を製造する、押圧・成形機能を有する「無端コンベア」とは機能が異なる。
したがって、両者はコンベアを用いる目的が同じであるとはいえない。
また、甲4の「受函23」は、内面に溶融樹脂が圧着される円筒割型24を形成するように断面半月状であり、内面に溶融樹脂が圧着されるように形状が特定されたものであるから、これをチェーンに設けたものを一対対向させて繊維材を挟んで、成形に用いることを当業者が容易に想到し得たとは認めない。
加えて、甲4にはチェーンに設けた「受函23」を水中で用いることは示唆されていないので、それを甲1発明の「無端コンベア」として用いた際の効果が、当業者にとって自明であるとも、当業者がその効果を予測し得たともいえない。
とすると、甲1発明の「無端コンベア」として、甲4の「チェーンの外側に設けた断面半月形の受函23」を設けたものを用いることの動機付けがあるとは認められない。請求人は、いずれも繊維製品の製造方法である点で共通すると主張するが(審判請求書16頁19?21行)、上記のようにコンベアを用いる工程は全く異なるものであって、コンベアを使う目的、コンベアの設計が異なり、適用した際の効果が当業者にとって自明ともいえないから、甲4の技術適用に動機付けがあるとはいえない。

(4-3)甲5
次に、甲5に「スラットコンベアー」は、セメント,石膏などの無機水硬化性材料を主成分とした成形材料を押出成形して得られた成形体を引き取ってトレーに搬送するものであり(上記(2-3)(ア)(イ))、甲1発明の溶融した熱可塑性樹脂を複数のノズルを有するダイスから水中に自然落下させ、「無端ベルトコンベアー」が水没する熱可塑性樹脂の束の二面に接触する立体網状構造体の製造方法とは、コンベアを用いる対象物及びコンベアの機能が全く異なるものである。
また、甲5の「スラットコンベアー」は、無機水硬化性材料を主成分とした成形材料を単に引き取って搬送するものであり、これを一対対向させて、成形に用いることを当業者が容易に想到し得たとは認めない。
加えて、甲5には「スラットコンベアー」を水中で用いることは示唆されていないので、それを甲1発明の「無端コンベア」として用いた際の効果が、当業者にとって自明であるとも、当業者がその効果を予測し得たともいえない。
とすると、甲1発明の「無端コンベア」として、甲5の「スラットコンベアー」を設けたものを用いることの動機付けがあるとは認められない。請求人は、いずれも「成形体の搬送」に使用される点で共通すると主張するが(審判請求書16頁22?24行)、上記のようにコンベアを用いる対象物及びコンベアの機能は全く異なるものであって、コンベアを使う目的、コンベアの設計が異なり、適用した際の効果が当業者にとって自明ともいえないから、甲5の技術適用に動機付けがあるとはいえない。

(4-4)
そして、本件発明1は、上記相違点1に係る構成により、本件特許明細書の段落【0004】に「無端ベルトで巻き込んでいるが、無端ベルトが熱等によって損傷しやすく耐久性に問題が生じるおそれがある。そこで、本発明は・・・耐久性を向上させた立体網状構造体の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。」と記載されたように、熱等によって損傷しやすい無端ベルトの耐久力を向上したという格別な効果を奏すると認めることができる(被請求人要領書6頁2-2-b))。
これに対して請求人は、水での冷却について「冷却性能の観点から言えば,溶融した線条を水冷するために,複数の金属製の板材を上下方向に間隔を開けて連結した無端コンベアを用いることは,従来のネットコンベアを用いるのと同等,又は,それよりも劣る除熱効果しか得ることができないのである。」(審判請求書26頁下から5?2行)としながらも「(無端コンベアの)速度が遅く、しかも4面中2面はコンベアの形状にかかわらず、開放されているから、間隔を開けることの冷却効果は疑問である。」(口頭審理調書請求人の5)、と主張するが、本件特許明細書では(立体網状構造体の)4面をコンベアで覆うことも記載されており(段落【0035】、図9(c))、本件発明1の板材を上下方向に間隔を開けて連結した無端コンベアの形状では、成形に当たって、必ずしも2面の開放を要さない程度の冷却効果が生じるものと認められる。

以上より、甲1発明に甲3ないし甲5のいずれか1つを適用することの動機付けは認められず、本件発明1には、甲1発明にはない無端コンベアに「間隔」を開けた構成による冷却効果が認められるのであるから、本件発明1は甲1発明に甲3ないし甲5のいずれか1つを適用することで当業者が容易になし得たものであるとすることはできない。
また、本件発明2は、本件発明1とはカテゴリーの違いを除けば同一であるので、29条2項の判断は同一になり、この点については、両者間に争いはない(審理事項通知書の第1、請求人要領書3頁6.2(1)ウ、被請求人要領書2?3頁第1(2))。
したがって、本件発明1と同様な理由で、本件発明2は甲1発明に甲3ないし甲5のいずれか1つを適用することで当業者が容易になしえたものであるとすることはできない。

3.理由2(甲2)
(1)甲2発明
本件特許の原出願日前に頒布された刊行物である甲2には次の記載がある。
(ア)「【0032】図1に示すように、一般的な溶融押出機1を用い、所定のオリゴマー成分を含有させた熱可塑性PLA樹脂を溶融し(又はオリゴマーを含有しないPLAを用いる場合は、オリゴマーをPLAと同時に定量添加しつつ好ましくは混練用二軸溶融押出機にて溶融混練りしつつ)、ギヤポンプ等で融点より10℃以上80℃未満の溶融温度に保持した溶融物を複数のオリフィスを持つ多列ノズル5の背面に所定量だけ供給する。溶融物はオリフィスより下方へ向けて溶融線条2として吐出され、その下側で溶融状態にて繰返し屈曲されてループ等を形成しつつ、互いに接触して接合し、三次元構造体3を形成する。これが、引取り装置7で挟み込まれ、冷却槽6中の冷却水等にて冷却され、送りローラ8で水中から引き上げられ、更に脱水、乾燥等が行われて、抗菌防黴性ポリ乳酸構造体が得られる。」
(イ)「【0038】ノズルより下方に向けて吐出された溶融線条2は、引き取り装置7のネットと接する位置で、引き取り速度と線条の落下速度の差を与えて、弛み分のループ等を形成させる。また、引き取り装置7のネットで挟み込み、ループ等の形態が緩和により変形しない時間内に、連続して冷却媒体(通常は室温の水を用いるのが冷却速度が速く、コストも安価で好ましい)にて急冷固化させる。」
(ウ)「【0040】通常はネットの開口幅はオリフィスの有効幅より-5?-10mm狭くするのが好ましい。オリフィス有効幅より広くすると構造体に引き取り斑を発生したり表面に凹凸を発生する傾向がある。凹凸を発生させる場合は引き取りネットの搬出側の幅をオリフィス有効幅より狭くすることで引き取り斑を防止できる。引き取り速度は線条の落下速度より少なくともループ径の弛み分だけは遅くする必要があり、早すぎるとループ形成ができなくなったり接触点の接合が不充分になり好ましくない。遅すぎると溶融線条が滞留しすぎて密度が高くなり過ぎるので、引き取りネットの引き取り速度調整は吐出量と吐出線条の溶融粘度による落下速度とのバランスから所望の見掛密度に調整する。」
(エ)図1より、一対がオリフィスの有効幅より狭く設定された間隔を置いて対向し、縦方向に配置された無端コンベアである引き取り装置7がみてとれる。

上記(イ)より、溶融線条2に接し、挟み込む引き取り装置7の無端コンベアはネットであると認められ、かかる記載を、本件発明1に照らし整理すると、以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されている。

「溶融温度に保持した熱可塑性PLA樹脂の溶融線条2を複数のオリフィスを持つ多列ノズル5より下方へ向けて吐出し、
一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置されたネットである引き取り装置7の間に多列ノズルから吐出された溶融線条2を降下させ、
引き取り装置7が落下速度より溶融線条のループ径の弛み分だけ遅く引き取り、吐出された溶融線状2が接合した網状の三次元構造体3を形成し、
オリフィスの有効幅よりネット間の間隔が狭く設定された引き取り装置が、水没する三次元構造体3の二面に接触する、
網状の三次元構造に形成された抗菌防黴性ポリ乳酸構造体の製造方法。」

なお、甲2発明の認定について、両者間に争いはない(審理事項通知の第4.の1、請求人要領書18頁6.2(4)ア、被請求人要領書8頁第4(2))。

(2)対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
甲2発明の「溶融温度に保持した熱可塑性PLA樹脂」、「溶融線条2」、「オリフィス」、「多列ノズル5」、「網状の三次元構造体に形成された抗菌防黴性ポリ乳酸構造体」は、それぞれ本件発明1の「熱可塑性樹脂」、「溶融した線条2」、「孔」、「ダイス」、「立体網状構造体」に相当し、甲2発明の「溶融線条2を複数のオリフィスを持つ多列ノズル5より下方へ向けて吐出し」「多列ノズルから吐出された溶融線条2を降下させ」は本件発明1の「溶融した線条を複数の孔を有するダイスから下方へ押し出し」「前記線条を自然降下させ」に相当し、甲2発明の「引き取り装置7が落下速度より溶融線条のループ径の弛み分だけ遅く引き取り、吐出された溶融線状2が接合した網状の三次元構造体3を形成し、オリフィスの有効幅よりネット間の間隔が狭く設定された引き取り装置が、水没する三次元構造体3の二面に接触する、網状の三次元構造に形成された抗菌防黴性ポリ乳酸構造体の製造方法」は本件発明1の「無端コンベアが降下速度より線条を遅く引き込み、押出された線条の集合体の幅より狭く設定された間隔の無端コンベアが、水没する前記線条の集合体の少なくとも二面に接触する、立体網状構造体製造方法」とは、「無端コンベアが降下速度より線条を遅く引き込み、押出された線条の集合体の幅より狭く設定された間隔の無端コンベアが、水没する前記線条の集合体の少なくとも二面に接触する、立体網状構造体製造方法」に相当する。
また、甲2発明の「オリフィスの有効幅よりネット間の間隔が狭く設定された引き取り装置」と、本件発明1の「押出された線条の集合体の幅より狭く設定された間隔の無端コンベア」とは、「押出された線条の集合体の幅より狭く設定された間隔の無端コンベア」である限りにおいて一致する。

したがって、両者は次の点で一致する。
「熱可塑性樹脂を原料又は主原料とする溶融した線条を複数の孔を有するダイスから下方へ押し出し、
一対が間隔を置いて対向し縦方向に配置された無端コンベアの間に前記線条を自然降下させ、
該無端コンベアが前記降下速度より前記線条を遅く引き込み、
前記押出された線条の集合体の幅より狭く設定された間隔の無端コンベアが、水没する前記線条の集合体の少なくとも二面に接触する、
立体網状構造体製造方法。」

また、本件発明1と甲2発明は、次の点で相違する。

相違点2:無端コンベアに関して、本件発明1では「複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり、前記板材の隙間に水が流れる」のに対して、甲2発明では、ネットである点。

なお、一致点、相違点2の認定について、両者間に争いはない(審理事項通知の第4.の2、請求人要領書18頁6.2(4)ア、被請求人要領書8頁第4(2))。

(3)判断
理由2は、本件発明1は甲2に記載された発明に甲3ないし甲5のいずれか1つを適用することで当業者が容易になしえたというものである。

(3-1)甲3
しかし、甲3に記載された熱処理成形機は前記2.(4-1)のとおり「スラットコンベア」で搬送しながら熱風を供給し、続いて、矯正ロール群の押圧・成形処理により所定の厚さ、硬さを得るものであって、甲2発明の溶融した熱可塑性樹脂を複数のオリフィスを有する多列ノズル5から水中に自然落下させ、「ネットである引き取り装置7」が水没する三次元構造体3の二面に接触することによる網状の三次元構造に形成された抗菌防黴性ポリ乳酸構造体の製造方法とは、コンベアを用いる工程が全く異なるものである。
そして、その機能も、甲3では専ら「搬送」であるのに対して、甲2発明では「押圧・成形」機能を有するものとして用いており、その目的・機能や熱媒体の違いによって「スラットコンベア」の設計は大きく異なるものとなり、加えて、甲3の「スラットコンベア」を甲2発明の「ネットである引き取り装置7」として用いた際の効果が、当業者にとって自明であるとも、当業者がその効果を予測し得たともいえない。
とすると、両者は技術思想が全く異なるものであって、甲2発明の「ネットである引き取り装置7」として、甲3の「スラットコンベア」を用いることの動機付けがあるとは認められない。請求人は、いずれも繊維製品の製造方法である点で共通すると主張するが(審判請求書16頁19?21行)、上記のようにコンベアを用いる工程は全く異なるものであって、コンベアを使う目的、コンベアの設計が異なり、適用した際の効果が当業者にとって自明ともいえないから、甲3の技術適用に動機付けがあるとはいえない。

(3-2)甲4
次に、甲4に記載された合成樹脂不織体の連続製造法は、前記2.(4-2)のとおり溶融樹脂が、遠心力によつて延伸されながら、「チェーンの外側に設けた断面半月形の受函23」の内面に圧着されるものであり、甲2発明の溶融した熱可塑性樹脂を複数のオリフィスを有する多列ノズル5から水中に自然落下させ、「ネットである引き取り装置7」が水没する三次元構造体3の二面に接触する、網状の三次元構造に形成された抗菌防黴性ポリ乳酸構造体の製造方法とは、コンベア(チェーンの外側に断面半月形の受函23を設けたもの)を用いる工程が全く異なるものである。
そして、その機能も、甲4では「受函23」が円筒割型24を形成するとともに、上下振動し、糸条が遠心力によって延伸されながら圧着されるとともに糸条間に網状部を形成するのに対して、甲2発明の「ネットである引き取り装置7」は「押圧・成形」機能を有するものとして用いており、加えて、甲4にはチェーンに設けた「受函23」を甲2発明の「ネットである引き取り装置7」として用いた際の効果が、当業者にとって自明であるとも、当業者がその効果を予測し得たともいえない。
とすると、甲2発明の「ネットである引き取り装置7」として、甲4の「チェーンの外側に設けた断面半月形の受函23」を設けたものを用いることの動機付けがあるとは認められない。請求人は、いずれも繊維製品の製造方法である点で共通すると主張するが(審判請求書16頁19?21行)、上記のようにコンベアを用いる工程は全く異なるものであって、コンベアを使う目的、コンベアの設計が異なり、適用した際の効果が当業者にとって自明ともいえないから、甲4の技術適用に動機付けがあるとはいえない。

(3-3)甲5
次に、甲5の「スラットコンベアー」は、前記2.(4-3)のとおりセメント、石膏などの無機水硬化性材料を主成分とした成形材料を押出成形して得られた成形体を引き取ってトレーに搬送するものであり、甲2発明の溶融した熱可塑性樹脂を複数のオリフィスを有する多列ノズル5から水中に自然落下させ、「ネットである引き取り装置7」が水没する三次元構造体3の二面に接触する、網状の三次元構造に形成された抗菌防黴性ポリ乳酸構造体の製造方法とは、コンベアを用いる対象物及びコンベアの機能が全く異なるものである。
加えて、甲5の「スラットコンベアー」を甲2発明の「ネットである引き取り装置7」として用いた際の効果が、当業者にとって自明であるとも、当業者がその効果を予測し得たともいえない。
とすると、甲2発明の「ネットである引き取り装置7」として、甲5の「スラットコンベアー」を設けたものを用いることの動機付けがあるとは認められない。請求人は、いずれも「成形体の搬送」に使用される点で共通すると主張するが(審判請求書24頁14?16行)、上記のようにコンベアを用いる対象物及びコンベアの機能は全く異なるものであって、コンベアを使う目的、コンベアの設計が異なり、適用した際の効果が当業者にとって自明ともいえないから、甲5の技術適用に動機付けがあるとはいえない。

(3-4)
そして、本件発明1は、上記相違点2に係る構成により、本件特許明細書の段落【0004】に「束の両面部がベルトコンベアに接するため、実質的に表面がフラット化されるが、束の左・右端面はランダムな螺旋形状であって、側面は横方向に波打つように不整列になる…本発明は、後工程での仕上げを不要とし、整列度を高め、異形形状への対応を可能とし、耐久性を向上させた立体網状構造体の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。」と記載され、同段落【0035】に「図9(c)の通り、無端コンベア54,55と同様な構造で短尺の一対の無端コンベア59a,59bを直交して配置したものでも良い。この場合、一層、成形を精密に行うことができ、寸法精度が向上する。」と記載されたように、四面から押圧するので一般の二面成形より負荷の大きい、四面の同時成形の場合においても、無端コンベアが板材で構成されて従来比で高い剛性を持ち、撓まずに立体網状構造体の表面を精密に成形でき、また寸法精度も高いという効果を奏するものと認められる。(答弁書7頁下から9?4行、被請求人要領書6頁2-2-b))
これに対して請求人は、「撓まない点は、板材の厚さ等が特定されていない以上、効果は疑問である。」(口頭審理調書請求人の6)と主張するが、上記のように成形時に負荷のかかる無端コンベアを薄肉の剛性の低い板材より構成する理由は特には認められない。

以上より、甲2発明に甲3ないし甲5のいずれか1つを適用することの動機付けは認められず、本件発明1には、甲2発明にはない、撓まずに立体網状構造体の表面を精密に成形でき、また寸法精度も高いという効果が認められるのであるから、本件発明1は甲2発明に甲3ないし甲5のいずれか1つを適用することで当業者が容易になしえたものであるとすることはできない。
また、本件発明2は、本件発明1とはカテゴリーの違いを除けば同一であるので、29条2項の判断は同一になり、本件発明1と同様な理由で、本件発明2は甲2発明に甲3ないし甲5のいずれか1つを適用することで当業者が容易になしえたものであるとすることはできない。

4.甲11による請求人の主張
請求人は、さらに甲11を示し、甲1発明または甲2発明に、例えば甲11に掲載されている種々の周知のコンベアの適用を試行することは、当業者が発揮する通常の創作能力の範囲内のことであり、その程度の試行は、公知材料の中から最適材料の選択、好適化、均等物による置換、又は技術の具体的適用に伴う設計変更に過ぎないと主張するが(請求人要領書9頁(オ)、21頁(オ))、本件発明1及び本件発明2は、「溶融した線条を降下させ、線条の集合体が水没するときに無端コンベアで成形する」という立体網状構造体の製造方法に則して、上記のように引き取り装置の耐久性の向上と成形時の寸法精度の向上のために「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであり、 前記板材の隙間に水が流れる」という構成を用いたものであり、甲1発明の「無端ベルトコンベアー」や甲2発明の「ネットである引き取り装置」とは異なる効果を奏するのであって、たとえ、上記甲3?5、甲11から、「スラット」コンベアの構成が周知技術であるとしても、製造方法に則した目的や、効果の考察もなく、これを単に任意に選択しただけのものとはいえない。
したがって、甲11を参酌しても、依然、本件発明1及び本件発明2は甲1発明又は甲2発明に、甲3ないし甲5のいずれか1つを適用することで容易であるとする請求人の主張は採用できない。

5.理由3(第36条第6項第1号)
理由3は「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に間隔を開けて連結したもの」及び「板材の隙間に水が流れること」が、発明の詳細に記載されていないというものである。
本件特許明細書の段落【0032】の「無端部材12,13は複数の金属製(ここではステンレス等)の板材21が所定の隙間22(図8(a)参照)を設けて複数(ここでは各2本)の無端チェーン12a,13a(図7(a),(b)参照)にねじ(図示略)で連結されたものである。」との記載があり、また図6、図7より「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に隙間を開けて連結したものであ」る点が記載されている。
また、段落【0032】の「この立体網状構造体製造装置10は、図5の通り、押出成形機11、無端部材12,13を備えた一対の無端コンベア14,15(図7参照)、…一対の無端コンベア14,15を一部水没させる水槽18、…等から構成されている。」、段落【0039】の「図6の通り、溶融した熱可塑性樹脂を複数のダイス33より下方へ押出し、一部水没した1対の無端コンベア14,15の間に自然降下させ…かつ無端コンベア14,15が水没する前後に上記溶融樹脂の集合体の両面あるいは片面が無端コンベア14,15に接触するようにした。」、段落【0042】の「無端コンベア14,15を50mmの間隔をあけて1対、無端コンベア14,15の上部が40mm程度水面から出るようにほぼ垂直に設置した」の各記載、及び図5より、水層18に無端コンベアが水没している以上、「板材の隙間に水が流れること」が当然である。
請求人は、「板材の隙間」の間隔が冷却機能を有意に高めることができる量の水が流通しうる程度の隙間であって、かつ、その間隔を流通するような水の流路が形成されることが本件特許明細書に記載されていないと主張するが(請求人要領書28頁(ウ)、従来の立体網状構造体の製造方法の無端ベルトが熱等によって損傷しやすく耐久性に問題が生じるおそれがあるという課題を有し、本件発明1及び本件発明2が耐久性を向上させた立体網状構造体の製造方法及び製造装置を提供することを目的としていることを考えれば(本件特許明細書の段落【0004】)、あえてその間隔を、冷却効果が低下し、工作精度の高さも要求される、水が流通不可能な程狭隘な間隔に設定するとは考えられない。
よって、上記本件特許明細書の記載及び技術常識を踏まえれば、「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に間隔を開けて連結したもの」及び「板材の隙間に水が流れること」が、発明の詳細に記載された事項であるということができる。
したがって、「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に間隔を開けて連結したもの」及び「板材の隙間に水が流れること」は、発明の詳細に記載された事項であり、本願発明1及び2は特許法第36条第6項1号の規定に反しない。

6.理由4(第17条の2第2項)
理由4は「板材の隙間に水が流れること」は出願当初明細書に記載されたものではないということである。
上記5.に記載したように、本件特許明細書の記載及び図面、技術常識からみれば、「無端コンベアが、複数の金属製の板材を上下方向に間隔を開けて連結したもの」という構成を取れば「板材の隙間に水が流れる」ように設定することは普通に行われることにすぎず、この点を踏まえれば、「板材の隙間に水が流れること」は出願当初明細書に記載された事項といえ、これを追加する補正は特許法第17条の2第3項の規定に反しない。

第6.むすび
以上、請求人の主張及び証拠方法によっては、本件発明1ないし2に係る特許を無効とすることはできない。
また、他に本件発明1ないし2に係る特許を無効とすべき理由を発見しない。
審判費用については、特許法第169条第2項の規定で準用する民事訴訟法第61条の規定により、請求人が負担すべきものとする。
よって、結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2014-04-10 
結審通知日 2014-04-14 
審決日 2014-04-30 
出願番号 特願2012-22551(P2012-22551)
審決分類 P 1 113・ 121- Y (D04H)
P 1 113・ 561- Y (D04H)
P 1 113・ 537- Y (D04H)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 斎藤 克也  
特許庁審判長 千葉 成就
特許庁審判官 熊倉 強
渡邊 真
登録日 2013-05-17 
登録番号 特許第5270014号(P5270014)
発明の名称 立体網状構造体製造方法及び立体網状構造体製造装置  
代理人 津田 拓真  
代理人 岩瀬 吉和  
代理人 福田 一翔  
代理人 小野 誠  
代理人 深澤 拓司  
代理人 駒井 宏美  
復代理人 後藤 未来  
代理人 稲葉 良幸  
代理人 水戸 重之  
代理人 根本 浩  
代理人 鎌田 徹  
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