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審決分類 審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 G02B
審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 G02B
管理番号 1302490
審判番号 不服2014-6513  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2014-04-08 
確定日 2015-06-25 
事件の表示 特願2010- 45779「光学体およびその製造方法、窓材、ならびに光学体の貼り合わせ方法」拒絶査定不服審判事件〔平成23年 9月15日出願公開,特開2011-180449〕について,次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は,成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は,平成22年3月2日の出願であって,平成25年10月29日付けで拒絶理由が通知され,同年12月2日に意見書及び手続補正書が提出されたが,平成26年1月22日付けで拒絶査定がなされたところ,同年4月8日に拒絶査定不服審判が請求されると同時に手続補正書が提出されたものである。


第2 補正却下の決定
〔補正却下の決定の結論〕
平成26年4月8日提出の手続補正書による手続補正を却下する。

〔理由〕
1 補正の内容
平成26年4月8日提出の手続補正書による手続補正(以下「本件補正」という。)は,平成25年12月2日提出の手続補正書による手続補正によって補正された(以下「本件補正前」という。)特許請求の範囲及び明細書について補正しようとするものであって,そのうち,特許請求の範囲の請求項2についての補正(以下,「請求項2に係る本件補正」という。)は次のとおりである。(下線は補正箇所を示す。)
(1)本件補正前
「帯状または矩形状を有するとともに,光が入射する入射面を有する光学層と,
上記光学層の入射面上に形成された,コーナーキューブ形状を有する反射層と
を備え,
上記反射層は,入射角(θ,φ)で上記入射面に入射した光を指向反射し,上記コーナーキューブ形状の稜線の方向が,上記帯状または矩形状の光学層の長手方向と略平行であり,上記稜線の方向の反射率が高い上記コーナーキューブ形状を有する光学体。
(但し,θ:上記入射面に対する垂線l_(l)と,上記入射面に入射する入射光または上記入射面から出射される反射光とのなす角,φ:上記コーナーキューブ形状の稜線と,上記入射光または上記反射光を上記入射面に射影した成分とのなす角)」

(2)本件補正後
「帯状または矩形状を有するとともに,光が入射する入射面を有する光学層と,
上記光学層の入射面上に形成された,コーナーキューブ形状を有する反射層と
を備え,
上記反射層は,入射角(θ,φ)で上記入射面に入射した光を指向反射し,上記コーナーキューブ形状の稜線の方向が,上記帯状または矩形状の光学層の長手方向と略平行であり,上記稜線の方向の反射率が最も高い上記コーナーキューブ形状を有する光学体。
(但し,θ:上記入射面に対する垂線l_(1)と,上記入射面に入射する入射光または上記入射面から出射される反射光とのなす角,φ:上記コーナーキューブ形状の稜線と,上記入射光または上記反射光を上記入射面に射影した成分とのなす角)」

2 新規事項の追加及び補正の目的について
本件補正により請求項2に付加された,稜線の方向の反射率が「最も高い」という事項は,願書に最初に添付した明細書の【0033】,【0034】,【0189】ないし【0192】に記載された事項から自明であって,請求項2に係る本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされた補正であるから,特許法17条の2第3項の規定に適合する。
また,請求項2に係る本件補正は,本件補正前の請求項2に記載された「稜線の方向の反射率が高い」という発明特定事項について,「最も」高いと限定するものであって,本件補正の前後で当該請求項に係る発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題は同一であると認められるから,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

3 独立特許要件について
請求項2に係る本件補正は,特許法17条の2第5項2号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当するから,本件補正後の請求項2に係る発明(以下,「本願補正発明」という。)について,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に適合するか(特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか)について検討する。
(1)本願補正発明
本願補正発明は,前記1(2)にて示したとおりのものと認められる。

(2)引用例
ア 特開2007-10893号公報の記載
特開2007-10893号公報(以下,「引用刊行物」という。)は,原査定の拒絶の理由において「引用文献1」として引用された,本願の出願前に頒布された刊行物であって,当該引用刊行物には次の記載がある。(下線は,後述する引用発明の認定に特に関係する箇所を示す。)
(ア) 「【技術分野】
【0001】
本発明は,波長選択性を有する再帰反射体に関し,特に,可視光は透過させて可視光以外の特定波長域の光を選択的に反射する透明波長選択性再帰反射体に関する。
【背景技術】
・・・(中略)・・・
【0006】
特許文献2には赤外線反射性キューブコーナーシートが記載されている。このキューブコーナーシートは,キューブコーナーを構成するポリマーに,赤外線に対しては透明であるが,可視光線に対しては実質的に不透明である着色剤を含有している。このようなキューブコーナーシートは入射した赤外線を再帰反射させることができるが,可視光線は吸収してしまう。そのため,このキューブコーナーシートは赤外線反射板として使用するとシートの下の色やイメージが隠される。そのため,デザインや美感が重視される場所には設置することができない。
【0007】
特許文献3には波長選択性再帰反射体が記載されている。この反射体は,再帰反射体の表面上に,波長選択透過性を有する多層反射フィルムを配置している。このような反射体は,多層反射フィルムを透過する特定波長域の光線のみ再帰反射させ,それ以外の光線は鏡面反射する。そのため,例えば,赤外線を選択的に再帰反射させようとすると,可視光線は鏡面反射してしまい,鏡のような外観を呈する。そのため,この反射体もその下の色やイメージを隠すという用途に使用される。
【特許文献1】特表2002-535691
【特許文献2】特開平5-346767号公報
【特許文献3】特表2002-509276
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり,その目的とするところは,可視光に対する透明性を保ちながら,特定波長域の光線のみ再帰反射させることができる透明波長選択性再帰反射体を提供することにある。」

(イ) 「【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
図1は本発明の透明波長選択性再帰反射体の一実施態様を示す正面図である。この透明波長選択性再帰反射体100は,表面および裏面を有し,表面にキューブコーナー型キャビティを備える光学構造層101と,キューブコーナー型キャビティに沿って形成された波長選択反射層102とを有している。表面とは,再帰反射体の光が入射する側の面をいう。光学構造層101の裏面は実質的に平坦であってよく,凹凸があってもよい。
【0013】
本明細書において構造とは形状の配列及び構成をいう。再帰反射構造とは入射光を再帰反射させるために必要な,光学的形状の配列及び構成を含んでいう。かかる形状の配列及び構成には,例えば,キューブコーナー型三角錐,キューブコーナー型キャビティ,反射層を有するキューブコーナー型三角錐,反射層を有するキューブコーナー型キャビティなどが含まれる。図1に示されている光学構造層101は表面に,波長選択反射層102を有するキューブコーナー型キャビティの再帰反射構造を備えている。
【0014】
図2は光学構造層101の表面からみたキューブコーナー型再帰反射構造の例を示す平面図である。この再帰反射構造は底面Sを共通にして細密充填状に配置された複数のキューブコーナー型キャビティ201から構成されている。この場合,底面Sは光学構造層の表面に一致する。隣接するキューブコーナー型キャビティ201a,201bは底面Sを基準にして凹凹の関係になっている。このキューブコーナー型再帰反射構造は,表面に当たった光を再帰反射させることができる。
・・・(中略)・・・
【0017】
本発明では,基本的に全波長域の光を透過する樹脂或いはガラスなどを使用し,キューブコーナー型キャビティを構成し,再帰反射特性を持たないただほとんど全波長域の光を透過するだけの構造のものにある特定の波長域の光を反射させる反射層をキューブコーナー型キャビティの上に構成することで,特定波長のみ再帰反射させ,それ以外を透過させることに成功した。」

(ウ) 「【0061】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが,本発明はこれらに限定されない。
【実施例1】
【0062】
図2に示されるような複数のキューブコーナー型キャビティから構成された構造を有するシート(オムロン社製反射板「E39-R1」,キューブコーナー型キャビティの一辺の長さ1.5mm)を準備した。また,波長940?1100nmの光に対して50%以上の反射率を示す波長選択性フィルム(3M社製「SRF1200」)を準備した。
【0063】
このシートを縦横寸法3cm×5cmに裁断して光学構造層を得た。波長選択性フィルムを一辺1.5mmの直角二等辺三角形に切り,光学構造層のキューブコーナー型キャビティの凹面に,一枚ずつアクリル系接着剤で貼り付けて,透明波長選択性再帰反射体を得た。」

(エ) 「【図面の簡単な説明】
【0074】
【図1】本発明の透明波長選択性再帰反射体の一実施態様を示す正面図である。
【図2】光学構造層の表面からみたキューブコーナー型再帰反射構造の一例を示す平面図である。
・・・(中略)・・・
【図1】

【図2】



イ 引用刊行物に記載された発明
便宜上,キューブコーナー型キャビティ201の底面S上における正三角形(正三角形であることは,同一サイズの直角二等辺三角形の波長選択性フィルム3枚によりキューブコーナー型キャビティ201が形成されることから自明である。)の各辺をそれぞれ「底辺」と表現し,キューブコーナー型キャビティ201の三角錐形状の頂点から底面Sへ延びる3つの線分をそれぞれ「谷線」と表現すると,引用刊行物の図2から,複数のキューブコーナー型キャビティ201が細密充填状に配置された再帰反射構造において,各キューブコーナー型キャビティ201の3つの底辺がそれぞれ隣接するキューブコーナー型キャビティ201のいずれかの底辺と接続され,当該接続された複数の底辺が複数のキューブコーナー型キャビティ201にまたがって3方向(引用刊行物の図2における左右方向,当該左右方向から時計回りに60°回転した方向,及び,前記左右方向から時計回りに120°回転した方向)に延びる直線をなしていることを看て取れ,かつ,引用刊行物の【0062】に記載されたオムロン社製反射板「E39-R1」の「キューブコーナー型キャビティの一辺」とは谷線のことと解される(【0063】に「一辺1.5mmの直角二等辺三角形」と表現されているところ,当該表現から「一辺」とは90°の内角を挟む二辺すなわち谷線を指していると解され,当該「一辺」の長さと同じ値である「キューブコーナー型キャビティの一辺」も谷線を指していると解される。)から,前記ア(ア)ないし(エ)で摘記した記載からは,引用刊行物には「実施例1」として次の発明が記載されていると認められる。

「光が入射する表面にキューブコーナー型再帰反射構造を備えた光学構造層101と,
前記キューブコーナー型再帰反射構造に沿って形成された波長選択反射層102とを有し,
前記キューブコーナー型再帰反射構造は,前記光学構造層101の表面からみて,光学構造層の表面に一致する底面Sを共通にして細密充填状に配置された複数のキューブコーナー型キャビティ201から構成され,隣接するキューブコーナー型キャビティ201a,201bは底面Sを基準にして凹凹の関係になっており,
前記各キューブコーナー型キャビティ201の3つの底辺がそれぞれ隣接するキューブコーナー型キャビティ201のいずれかの底辺と接続され,当該接続された複数の底辺が複数のキューブコーナー型キャビティ201にまたがって3方向に延びる直線をなしている,透明波長選択性再帰反射体100であって,
谷線の長さが1.5mmである複数の前記キューブコーナー型キャビティ201から構成された構造を有するオムロン社製反射板「E39-R1」を縦横寸法3cm×5cmに裁断して前記光学構造層101とし,
波長940?1100nmの光に対して50%以上の反射率を示す3M社製波長選択性フィルム「SRF1200」を直角二等辺三角形に切って,前記複数のキューブコーナー型キャビティ201の各凹面に貼り付けるという方法によって製造した,
透明波長選択性再帰反射体100。」

(3)対比
本願補正発明と引用発明とを対比する。
ア 引用発明の「光学構造層101」,当該光学構造層101の「光が入射する表面」,「波長選択反射層12」及び「透明波長選択性再帰反射体10」は,本願補正発明の「光学層」,当該光学層の「光が入射する入射面」,「反射層」及び「光学体」にそれぞれ相当する。

イ 引用発明の「光学構造層101」(光学層)の形状が縦横寸法3cm×5cmの長方形すなわち矩形であることは自明であり,かつ,当該「光学構造層101」は「光が入射する表面」(光が入射する入射面)を備えているから,引用発明は,は,「帯状または矩形状を有するとともに,光が入射する入射面を有する光学層」という本願補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備している。

ウ 引用発明の「波長選択反射層102」(反射層)は,3M社製波長選択性フィルム「SRF1200」をキューブコーナー型キャビティ201の各凹面に貼り付けることにより形成されたものであるから,当該「波長選択反射層102」が,キューブコーナー型キャビティ201と同じキューブコーナー形状を有していることは明らかである。
そして,当該「波長選択反射層102」の「キューブコーナー形状」とは,本願補正発明の反射層の「コーナーキューブ形状」のことに他ならないから,引用発明の「波長選択反射層102」と本願補正発明の「反射層」は,「光学層の入射面上に形成された,コーナーキューブ形状を有する」点で一致する。

エ 引用発明の「接続された複数の底辺」は,凹部である複数のキューブコーナー型キャビティ201間に形成される凸状の部分すなわち稜線であるといえるから,本願補正発明の「コーナーキューブ形状の稜線」に相当する。
また,引用発明の「波長選択反射層102」(反射層)は,入射した光を再帰反射するものであるから,θを光学構造層101の「光が入射する表面」(入射面)に対する垂線l_(1)と,前記「光が入射する表面」に入射する入射光または「光が入射する表面」から出射される反射光とのなす角と定義し,φを「接続された複数の底辺」(コーナーキューブ形状の稜線)と,前記入射光または前記反射光を前記「光が入射する表面」に射影した成分とのなす角と定義すると,入射角(θ,φ)で前記「光が入射する表面」(入射面)に入射した光を,概ね出射角(θ,φ)で指向反射するものであるといえる。
したがって,引用発明の「波長選択反射層102」と本願補正発明の「反射層」は,「入射角(θ,φ)で上記入射面に入射した光を指向反射する(但し,θ:上記入射面に対する垂線l_(1)と,上記入射面に入射する入射光または上記入射面から出射される反射光とのなす角,φ:上記コーナーキューブ形状の稜線と,上記入射光または上記反射光を上記入射面に射影した成分とのなす角)」点で一致する。

オ 前記ウで述べたように,引用発明の「波長選択反射層102」(反射層)は,キューブコーナー型キャビティ201と同じ「キューブコーナー形状」を有しているところ,当該「波長選択反射層102」の「キューブコーナー形状」にも,キューブコーナー型キャビティ201と同様に,3つの底辺がそれぞれ隣接する「キューブコーナー形状」のいずれかの底辺と接続され,当該接続された複数の底辺が複数の「キューブコーナー形状」にまたがって「3方向」に延びる直線をなしている。
そして,当該「波長選択反射層102」の「キューブコーナー形状」における「3方向」が,いずれも本願補正発明の「反射層」の「コーナーキューブ形状」における「稜線の方向」に相当するところ,次の(ア)ないし(ウ)に後述する理由から,引用発明の前記「3方向」の反射率は最も高いと認められるから,引用発明の「波長選択反射層102」における「キューブコーナー形状」と本願補正発明の「反射層」における「コーナーキューブ形状」は,「稜線の方向の反射率が最も高い」点で一致する。
(ア) 方向が異なることによる反射率の違いについて,本願明細書の発明の詳細な説明の【0184】ないし【0192】には,概略,ピッチが100μmで頂角の角度が90°のコーナーキューブを最稠密充填した指向反射面S_(CCP)について,入射角(θ,φ)が(30°,0°),(45°,0°),(60°,0°)でそれぞれ光を入射させた場合における,指向反射面S_(CCP)の稜線方向のうちのある一つと,入射光を入射面に射影した成分の方向(以下,「入射光の方位」という。)とのなす角度(当該角度においては他の稜線方向とのなす角度は考慮されておらず,例えば,当該角度が30°の場合の入射角φは30°で両者の値は一致するが,当該角度が60°の場合の入射角φは0°になるから,厳密には当該角度と入射角φは対応しない。混乱を避けるため,以下,当該角度を「方位角」という。)を変化させたときの,【0181】記載の式(1)で定義される上方反射率の変化を,ORA(Optical Research Associates)社製照明設計解析ソフトウェアLight Toolsを用いたシミュレーションにより算出した試験例2ないし試験例4について記載されており,当該試験例2ないし試験例4での算出結果から,方位角が0°の場合には,入射角度θが30°,45°,60°のいずれであっても上方反射率が100%であり,方位角が30°の場合には,入射角度θが45°の上方反射率が約93%に,入射角度θが60°の上方反射率が約80%に低下し,方位角が60°の場合には,入射角度θが30度,45度,60度のいずれであっても上方反射率が100%となり,さらに方位角を増加させていった場合の上方反射率が,方位角が0°ないし60°と同様の傾向を示すことがわかると説明されている。
前記試験例2ないし試験例4のシミュレーションにより求められた上方反射率を示すグラフである図36は次のとおりである。


(イ) 前記アで述べた方位角が0°及び60°,さらには当該0°及び60°と同様の上方反射率となると推認される120°である場合とは,入射光の方位が稜線の方向と一致する場合に他ならないから,前記アで述べた本願明細書の発明の詳細な説明の【0184】ないし【0192】及び図36に記載された事項に照らせば,本願補正発明の「稜線の方向の反射率が最も高い」との発明特定事項が,入射光の方位が稜線の方向と一致するときの上方反射率が,最も高いことを意味していることは明らかである。

(ウ) ここで,前記アで述べた試験例2ないし4で用いた指向反射面S_(CCP)は,ピッチが100μmで頂角の角度が90°のコーナーキューブを最稠密充填したものであるところ,図36の下段に示された当該指向反射面S_(CCP)の表面凹凸形状の平面図を参酌すると,当該指向反射面S_(CCP)のコーナーキューブは,3枚の直角二等辺三角形と1枚の正三角形とで囲まれた三角錐であって,引用発明のキューブコーナー型キャビティ201と(サイズは異なるものの)相似であることを把握できる。
そうすると,前記指向反射面S_(CCP)のコーナーキューブを最稠密充填した再帰反射構造は,引用発明の複数のキューブコーナー型キャビティ201を細密充填状に配置したキューブコーナー型再帰反射構造と(ピッチは異なるものの)相似であると認められる。(以下,コーナーキューブ型キャビティを最稠密充填した再帰反射構造を,「最稠密充填構造」という。)
しかるに,相似の最稠密充填構造であれば,ピッチが異なったとしても,方位角が異なることによる上方反射率の変化の傾向に違いが生じることがないことは,自然法則から明らかであるから,引用発明の「透明波長選択性再帰反射体100」の上方反射率は,方位角が0°,60°,120°の場合,すなわち,入射光の方位が「稜線の方向」である「3方向」と一致する場合に,最も高くなると認められる。
したがって,引用発明の「3方向」(稜線の方向)の「反射率」は最も高いと認められる。

カ 前記アないしオから,本願補正発明と引用発明とは,
「帯状または矩形状を有するとともに,光が入射する入射面を有する光学層と,
上記光学層の入射面上に形成された,コーナーキューブ形状を有する反射層と
を備え,
上記反射層は,入射角(θ,φ)で上記入射面に入射した光を指向反射し,上記稜線の方向の反射率が最も高い上記コーナーキューブ形状を有する光学体。
(但し,θ:上記入射面に対する垂線l_(1)と,上記入射面に入射する入射光または上記入射面から出射される反射光とのなす角,φ:上記コーナーキューブ形状の稜線と,上記入射光または上記反射光を上記入射面に射影した成分とのなす角)」である点で一致し,次の点で相違している。

相違点:
本願補正発明では,「反射層」の「コーナーキューブ形状」における「稜線の方向」が,「光学層」の長手方向と略平行であるのに対して,
引用発明では,「波長選択反射層102」の「キューブコーナー形状」における「3方向」と,「光学構造層101」の長手方向とがなす角度が定かでない点。

(4)相違点の容易想到性
ア オムロン社のデータシート(URL:http://www.fa.omron.co.jp/products/family/433/download/catalog.htmlからダウンロードできる。)によれば,引用発明の光学構造層101を得るために用いているオムロン社製反射板「E39-R1」は,その形状が,縦59.9mm,横40.3mm(データシートの18ページを参照。)の長方形であるところ,当該「E39-R1」の表面を観察すると(前記データシートの18ページに示された斜視図のほか,例えば,URL:http://mail.angelhamshopjapan.com/products/detail1603.htmlに掲載された反射板E39-R1を撮影した画像を参照。),「E39-R1」における稜線の方向が,長さ40.3mmの短辺と平行な方向(以下,「短辺方向」という。),前記短辺方向から60°時計回りに回転した方向,及び,前記短辺方向から120°時計回りに回転した方向であることを把握できる。
したがって,引用発明における「波長選択反射層102」の「キューブコーナー形状」における「3方向」と,「光学構造層101」の長手方向とがなす角度は,オムロン社製反射板「E39-R1」に対して光学構造層101をどのような向きで裁断するのかによって決まることとなる。

イ 一般に,大きな材料から小さな部材を裁断して得るときには,できるだけ多くの部材が得られるように,前記材料上に最も多くの前記部材が配置できる配列となるように裁断するのが常套手段であるところ,矩形の材料から矩形の部材を裁断して得る場合,前記最も多くの部材が得られる配列が,材料の長手方向と部材の長手方向が一致するように配置したもの(以下,「平行配列」という。),材料の短手方向と部材の長手方向が一致するように配置したもの(以下,「直交配列」という。),または,平行配列と直交配列を組み合わせたもののいずれかとなることは自明であり,かつ,前記平行配列,前記直交配列及び両者の組み合わせのうちのいずれが,最も多くの部材が得られるのかは,材料の縦横サイズと部材の縦横サイズの組み合わせによって決まるものである。

ウ 引用発明の光学構造層101の縦横寸法としてどのような値を選択するのかは,引用発明の用途等を考慮して当業者が適宜決定する設計上の事項にすぎないところ,例えば,光学構造層の縦寸法を14mm,横寸法を40mmとした場合には,当該光学構造層の長手方向を,「E39-R1」の短辺方向(横方向)に一致させ,長手方向(縦方向)に1列に配列すると,4枚という最も多くの光学構造層が得られることになる。(なお,データシートによると「E39-R1」の2つの角部にはキューブコーナーが形成されていないようであるが,説明を簡単にするために,縦59.9mm,横40.3mmの全面にキューブコーナーが形成されているものと仮定する。)
しかるに,このような裁断をした光学構造層の長手方向は,オムロン社製反射板「E39-R1」の「短辺方向」に平行であるのだから,当該光学構造層における「稜線の方向」は,光学構造層の長手方向に平行である。

エ 前記アないしウから,引用発明において,「波長選択反射層102」の「キューブコーナー形状」における「3方向」のうちの1つの方向を,「光学構造層101」の長手方向と平行とすること,すなわち,引用発明を,相違点に係る本願補正発明の発明特定事項に相当する構成を具備したものとすることは,当業者が容易になし得たことである。

(5)効果について
ア 本願補正発明の効果は,引用発明が有する効果と比較して,本願補正発明における進歩性の存在を推認できるほどの格別のものではない。

イ なお,請求人は,審判請求書において,
「本願発明(審決注:本件補正後の各請求項に係る発明を指している。)では,光学体の反射層は,入射角(θ,φ)で入射面に入射した光を指向反射し,コーナーキューブ形状の稜線の方向が,帯状または矩形状の光学層の長手方向と略平行であり,上記稜線の方向の反射率が最も高い上記コーナーキューブ形状を有するものとしたので,光学体の反射機能を有効に発現可能な方向に,光学体を容易に建築物に貼り合わせることができ,光を上空に効率よく戻すことのできる光学体およびその製造方法,それを備える窓材,ならびに光学体の貼り合わせ方法を提供することができる。」(下線は,本願補正発明の効果と解される箇所を示す。)などと主張するが,請求人が主張する反射機能を有効に発現可能な方向に貼り合わせることができ,光を上空に効率よく戻すことができるという効果は,稜線の方向(本願補正発明の光学体においては,光学層の長手方向)が光源からの光の方位(光源を太陽とする本願明細書に記載の態様においては,鉛直方向)に一致するように光学体を配置することによって生じる効果である。
本願補正発明では,稜線の方向と光源からの光の方位との関係は何ら特定されていないのだから,前記請求人主張の効果は,請求項2に記載された発明特定事項に基づくものでない。
さらに,本願明細書の【0118】ないし【0120】に記載され,図17に図示されているように,そもそも,最稠密充填構造の光学体において,稜線の方向に直交する方向すなわち最も反射率が小さくなる方向が,光学層の長手方向に平行な光学体であっても,当該光学体の長手方向が横方向となるように貼り付けることによって,本願補正発明を長手方向が縦方向となるように貼り付ける場合と同じように,太陽光を上空に効率よく戻すことができる上,当該光学体の貼り付け対象が縦長の部材であるのか否かは,本願補正発明では特定されていないのだから,本願補正発明を用いれば,光学層の長手方向を横方向に貼り付ける場合と比べて,貼り付け回数が少なくなるというわけでないことも明らかである。
したがって,本願補正発明の効果は,本願補正発明における進歩性の存在を推認できるほどの格別のものとはいえない。

(6)独立特許要件についてのまとめ
以上のとおり,本願補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。
したがって,本件補正は,特許法17条の2第6項において準用する同法126条7項の規定に違反するから,同法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
本件補正は前記のとおり却下されたので,本願の請求項2に係る発明(以下「本願発明」という。)は,前記第2〔理由〕1(1)に示したとおりのものと認められる。

2 引用例
原査定の拒絶の理由に引用された引用刊行物の記載事項及び引用発明については,前記第2〔理由〕3(2)ア及びイのとおりである。

3 対比・判断
前記第2〔理由〕2で述べたとおり,本願補正発明は,本願発明を特定するために必要な事項について限定を付加したものに相当する。
そして,本願発明の構成要件をすべて含みさらに限定を付加したものに相当する本願補正発明が,前記第2〔理由〕3で述べたとおり,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,本願発明も,同様の理由で,引用発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,他の請求項について検討するまでもなく,本願は,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない。
よって,結論のとおり審決する。
 
審理終結日 2015-04-16 
結審通知日 2015-04-21 
審決日 2015-05-13 
出願番号 特願2010-45779(P2010-45779)
審決分類 P 1 8・ 121- Z (G02B)
P 1 8・ 575- Z (G02B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 早川 貴之  
特許庁審判長 西村 仁志
特許庁審判官 清水 康司
鉄 豊郎
発明の名称 光学体およびその製造方法、窓材、ならびに光学体の貼り合わせ方法  
代理人 小池 晃  
代理人 伊賀 誠司  
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