• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 査定不服 5項独立特許用件 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 1項3号刊行物記載 特許、登録しない。 A61B
審判 査定不服 2項進歩性 特許、登録しない。 A61B
管理番号 1302643
審判番号 不服2013-21599  
総通号数 188 
発行国 日本国特許庁(JP) 
公報種別 特許審決公報 
発行日 2015-08-28 
種別 拒絶査定不服の審決 
審判請求日 2013-11-05 
確定日 2015-07-01 
事件の表示 特願2010-102407「挿入深さを決定するシステム」拒絶査定不服審判事件〔平成22年11月 4日出願公開、特開2010-246933〕について、次のとおり審決する。 
結論 本件審判の請求は、成り立たない。 
理由 第1 手続の経緯
本願は、平成16年3月5日(パリ条約による優先権主張 2003年3月7日(US)アメリカ合衆国)を国際出願日とする特願2006-509221号の一部を,平成22年4月27日に新たな特許出願としたものであって,平成24年11月13日付けで拒絶理由が通知され,平成25年2月20日付けで意見書が提出されるとともに手続補正がなされたが,同年6月21日付けで拒絶査定がなされ,これに対して同年11月5日付けで拒絶査定不服審判の請求がなされると同時に手続補正がなされ,同年12月19日付けで審判請求書の請求の理由を変更する手続補正がなされたものである。

第2 平成25年11月5日付けの手続補正についての補正の却下の決定

[補正の却下の決定の結論]
平成25年11月5日付けの手続補正(以下「本件補正」という。)を却下する。

[理由]
1 本件補正について
(1)本件補正後の特許請求の範囲の記載
本件補正により,特許請求の範囲の請求項1は,次のとおり補正された。(下線部は補正箇所である。)
「装置の位置を検知する外部のセンサを用いることなく解剖学的ランドマークを基準として内視鏡装置の挿入深さを決定するシステムであって,
前記内視鏡装置の少なくとも一部の長さに沿って配置され,前記解剖学的ランドマークを通過するに従い変数を変化させる環境因子を検知し,検知された前記環境因子に基づいて前記変数をそれぞれ出力する複数のセンサと,
前記複数のセンサによって出力された前記変数から,前記解剖学的ランドマークを越えた前記内視鏡装置の挿入深さを決定するとともに前記内視鏡装置の移動方向を挿入方向又は引き出し方向と決定し,
前記決定された前記内視鏡装置の移動方向を出力するように構成された
センサシステムと,
を備えるシステム。」

(2)本件補正前の特許請求の範囲
本件補正前の,平成25年2月20日付けの手続補正による特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである。
「装置の位置を検知する外部のセンサを用いることなく解剖学的ランドマークを基準として内視鏡装置の挿入深さを決定するシステムであって、
前記内視鏡の少なくとも一部の長さに沿って配置され、前記解剖学的ランドマークを通過するに従い変数を変化させる環境因子を検知し、検知された前記環境因子に基づいて前記変数をそれぞれ出力する1つ以上のセンサと、
前記1つ以上のセンサによって出力された前記変数から、前記解剖学的ランドマークを越えた前記内視鏡装置の挿入深さ及び前記内視鏡の移動方向を決定するように構成されたセンサシステムと、
を備えるシステム。」

(3)上記補正は,補正前の請求項1に記載した発明を特定するために必要な事項である「センサ」についてその数を「1つ以上」から「複数」に,センサシステムが決定する「内視鏡」の「移動方向」を「挿入方向又は引き出し方向」に,そしてセンサシステムが決定する内視鏡装置の移動方向を出力するよう構成されるものであることに,それぞれ限定を付加するものであって,平成18年法律第55号改正附則第3条第1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前の特許法(以下「平成18年改正前特許法」という。)第17条の2第4項第2号の特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。

2 補正の適否
そこで,本件補正後の前記請求項1に記載された発明(以下「補正発明」という。)が特許出願の際独立して特許を受けることができるものであるか(平成18年改正前特許法第17条の2第5項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するか)について以下に検討する。
(1) 補正発明
補正発明は,上記1(1)に記載したとおりのものである。

(2) 引用例の記載事項
原査定の拒絶の理由で引用され,本願の優先権主張の日前に頒布された刊行物である特開平11-281897号公報(以下「引用例」という。)には,次の記載がある。なお,後に引用発明の認定に直接的に利用する箇所に当審が下線を付した。

ア 「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば各種設備の管路やタンク、航空機の機体や翼の内部、体腔等に挿入して観察や処置を行なうための内視鏡に関する。」

イ 「【0009】
【発明の実施の形態】(第1の実施の形態)以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1ないし図5は本発明の第1の実施の形態に係り、図1は内視鏡の全体構成を説明する説明図、図2は前方にT字状の分岐がある管路に挿入部を挿入した状態を説明する説明図、図3は前方にエルボ管がある管路に挿入部を挿入した状態を説明する説明図、図4管路内の観察映像の例((A)は前方にT字状の分岐がある管路内の観察映像、(B)は前方にエルボ管がある管路内の観察映像)、図5は様々な挿入方向を向きながら管路内を進む挿入部の状態を示す説明図である。
【0010】(構成)図1に示すように、内視鏡1は、管腔や配管等の管路といった観察対象に挿入する挿入部2、操作者が把持する操作部5等を備えている。挿入部2は、操作部5からの操作により湾曲自在な挿入部2の先端側に位置する湾曲部3、観察対象の映像を得るための撮像素子等といった観察手段及び観察対象を照明するライトガイド等といった照明手段が取り付けられている挿入部2の先端に位置する先端部4等を備えている。
【0011】操作部5の側部からは、管路内を照明するための照明光を内視鏡1に供給するための光源装置7及び撮像素子を制御してモニタ表示可能な映像信号を出力する機能等を有するCCU(カメラコントロールユニット)8等に他端が接続されているユニバーサルコード9が延出している。」

ウ 「【0028】(効果)以上述べた本実施の形態の内視鏡1によれば、観察映像における重力方向を検出することができ、操作性が向上する。例えば、挿入部2を大腸に挿入する際に、挿入部2を挿入し易いように操作部5の向きをひねったりしても、観察映像における重力方向を知ることができ、ガン等の病変部を発見したときにどの方向にガンがあるかを知ることができ、どの臓器に対してガンが浸潤している可能性があるかを推察する際等の操作性が向上する。」

エ 「【0043】(第3の実施の形態)図7乃至図10は本発明の第3の実施の形態に係り、図7は先端部の構成を説明する説明図、図8は画面表示の例、図9は管路内の挿入部の挿入形状の一例を説明する説明図、図10は挿入形状を補正する動作を説明する説明図((A)は補正する動作を説明する図、(B)は補正を行う個所の例を説明する図)である。
【0044】なお、本実施の形態で説明しない部位の構成は、第1の実施の形態で説明した構成と同じである。
【0045】(構成)図7に示すように、第1の実施の形態のようにジャイロ6を操作部5(図1参照)に設ける代わりに、本実施の形態では先端部4の位置を向きするためのジャイロ26を先端部4に設け、これに加えて、先端部4の位置を検出するための加速度検知手段である加速度センサ27をジャイロ26に設けた。」

オ 「【0068】(第5の実施の形態)図12乃至図13は本発明の第5の実施の形態に係り、図12は挿入部に設けられた感圧センサの構成を説明する説明図、図13は感圧センサの出力波形の例である。なお、本実施の形態で説明しない部位の構成は、第3の実施の形態で説明した構成と同じである。
【0069】(構成)図12に示すように、第3の実施の形態において加速度センサ27(図7参照)を先端部4に設けた代わりに、本実施の形態では、挿入部2の表面に圧力を検知する感圧センサ46を等間隔に複数個設けた。図12の例では、挿入部2の先端側から順に、3つの感圧センサ46a、46b、46cが設けられている。
【0070】ジャイロ26で検知された情報は角速度検出部47に入力され、各感圧センサ46で検知された情報は各感圧センサ毎に独立に設けられた圧力検出部42に入力される。角速度検出部47及び圧力検出部42を有する分析部49は、例えばCCU8(図1参照)内に設けられている。
【0071】分析部49は、ジャイロ26で検知された情報、及び圧力検出部42で検知された情報により、挿入部2の挿入方向や挿入経路を分析する機能を有しており、挿入経路等の情報をモニタ10に表示できるようになっている。
【0072】(動作)挿入部2を管路内に挿入していくと、感圧センサ46は管壁との接触により圧力を検知する。例えば湾曲している管路内を挿入部2が通過すると、挿入部2が曲げられ、感圧センサ46が圧力を検知する。管路形状と感圧センサ46の出力との関係を予め取得しておくことにより、分析部49は管路の節目個所等における挿入部2の挿入方向を検出する。
【0073】ここで、図13に示すように、3つの感圧センサ46a、46b、46cからの出力波形(それぞれ図中の(A)、(B)、(C)に対応している)を見比べてみる。すると、感圧センサ46bからの出力は、感圧センサ46aからの出力よりも時間t1だけ遅れを生じている。分析部49は、この遅れ時間t1を検出することにより、挿入部2の挿入速度を計算し、挿入部2の挿入量を計算する。以上により、管路の節目個所における挿入方向や挿入量を検出することができるため、分析部49は挿入部2の挿入経路を知ることができ、ジャイロ26からの出力により、先端部4の向きを知ることができる。」
(なお,上記の「圧力検出部」の符号は,下記カの記載や図12を勘案すると,「42」でなく「48」であると解される。)

カ 「【符号の説明】
1…内視鏡
2…挿入部
3…湾曲部
4…先端部
5…操作部
6…ジャイロ
7…光源装置
8…CCU
9…ユニバーサルコード
10…モニタ
・・・
46…感圧センサ
47…角速度検出部
48…圧力検出部
49…分析部
・・・」

キ 図1




ク 図12




ケ 図13




コ 上記イ及びカを参照すると,上記キの図1から,内視鏡1が,先端部4及び湾曲部3を備えた挿入部2,操作部5,ユニバーサルコード9,CCU8及びモニタ10を備えることが読み取れる。
また,上記オを参照すると,上記クの図12より,3つの感圧センサ46a,46b,46cが,挿入部2の長さに沿って設けられることが読み取れる。

サ 技術常識を勘案して以上を総合すると,引用例には次の発明が記載されているものと認められる。
「先端部(4)及び湾曲部(3)を備えた挿入部(2),操作部(5),ユニバーサルコード(9),CCU(8)及びモニタ(10)を備えた内視鏡(1)において,
先端部(4)にジャイロ(26)を,そして挿入部(2)の表面に,圧力を検知する3つの感圧センサ(46a,46b,46c)を挿入部(2)の長さ方向に沿って等間隔に設け,
ジャイロ(26)で検知された情報は角速度検出部(47)に入力され,感圧センサ(46)で検知された情報は各感圧センサ毎に独立に設けられた圧力検出部(48)に入力され,
角速度検出部(47)及び圧力検出部(48)を有する分析部(49)はCCU(8)内に設けられ,分析部(49)は,ジャイロ(26)で検知された情報及び圧力検出部(48)で検知された情報により,挿入部(2)の挿入方向や挿入経路を分析する機能を有し,挿入経路等の情報をモニタ(10)に表示できるようになっており,
挿入部(2)を管路内に挿入していくと,感圧センサ(46)は管壁との接触により圧力を検知し,分析部(49)は管路の節目個所等における挿入部(2)の挿入方向を検出し,
3つの感圧センサ(46a,46b,46c)からの出力波形から分析部(49)は挿入部(2)の挿入速度を計算し,挿入部(2)の挿入量を計算し,管路の節目個所における挿入方向や挿入量を検出することができる内視鏡(1)。」

(3)対比
補正発明と引用発明とを対比する。

ア 「解剖学的ランドマーク」の解釈
補正発明に「解剖学的ランドマーク」と特定されているが,これが何を意味するものか技術的に明確でないため,ここで明細書の記載を参酌する。
その明細書には,「解剖学的ランドマーク」との直接的な記載はないものの,それに関連したことが,次のように記載されている。なお,着目した箇所に当審が下線を付した。

「【0020】
[0063]このような内視鏡装置は、このような決定を、部分的には、内視鏡全体(又は内視鏡の長さの少なくとも一部)のステータスをポーリング(監視)し、次いで、内視鏡の位置を、解剖学的境界又はランドマーク(例えば、結腸鏡の場合は肛門)に関連付けて決定することにより達成し得る。」
「【0021】
・・・例えば、回路14により検知される、出力変数の変化をもたらし得る環境因子の一例は、周囲組織、例えば、内視鏡12が身体内に最初に挿入される部位である肛門から検知される圧力を含み得る。」
「【0022】
・・・或いは、内視鏡12は、穴すなわち肛門20の、装置の長さに沿った位置を検知し、次いで、身体外部に残っている長さ、又は、肛門20の位置に対する挿入長さを計算し得る。」
「【0023】
・・・内視鏡12が肛門20に挿入され、又は肛門20から引き出されるとき、計算される静電容量は、患者18の組織の誘電率と空気の誘電率との差に従って変化するであろう。この静電容量の変化は、常にモニタリングされ、患者18の内部に挿入された内視鏡12の長さを示すために、内視鏡12の長さに対して位置付け(mapped)され得る。」
「【0024】
・・・例えば肛門20を通して挿入されるとき、身体内への挿入地点における周囲組織からの圧力が、内視鏡12内でカーボン層25とフレックス回路26とを接触させ、それにより、挿入地点にて回路14を閉じる。内視鏡12が肛門20に挿入され、また肛門20から引き出されるとき、カーボン層25とフレックス回路26との接触点は、挿入時に圧力が加えられる場所に従って変化することになり、回路14の抵抗は、いつでも測定され、肛門20内に挿入された長さを示すために、内視鏡12の長さに対して位置付けされ得る。」
「【0035】
[0078]図7A及び図7Bは、内視鏡組立体90を、外部の検知装置又は基準装置96と共に用いることにおける一バリエーションを示す。基準装置96は、患者18の外部に、体腔への開口に隣接して、例えば結腸鏡処置のためには肛門20に隣接して配置され得る。これに応じて、基準装置96は、開口部100の付近に配置されたセンサ又はリーダ98を有し得る。・・・図7Bに示されているように、内視鏡92が、開口部100を介して基準装置96を通過し、肛門20に入るとき、基準装置96内に配置されたリーダ98が、タグ94の各々を、タグ94が開口部100を通過するときに検知し得る。従って、内視鏡92の方向及び挿入深さが、内視鏡92のリアルタイムの位置情報のために記録され、且つ/又は維持され得る。」

上記の【0020】の記載から,肛門が解剖学的境界やランドマークの一例,すなわち検査対象において目印となり得る個所であり,【0022】及び【0024】の記載から,肛門が挿入長さの基準となる個所であり,【0021】?【0024】及び【0035】の記載から,肛門において,回路14などのセンサ機能を有する手段が他の個所に比べ特異的な反応を示すことが分かる。
しかしながら,補正発明は内視鏡装置を挿入する検査対象を身体に特定するものではない。
したがって,補正発明における「解剖学的ランドマーク」とは,検査対象において目印となり得る個所であり,かつ,センサが他の個所に比べ特異的な反応を示す個所であると解されるので,以下,そのように解釈して検討する。

イ 解剖学的ランドマーク
引用発明の「感圧センサ」は,「挿入部の表面」に設けられ,「管壁との接触により圧力を検知」する。そして,「管壁」のうち,その「節目個所」において「挿入部」の表面が特異的に大きな圧力を受けるのは,上記(2)オの【0072】に記載されているとおりであるから,引用発明の「管路の節目個所」は「感圧センサ」が他の個所に比べ特異的な反応を示す個所である。
そして,その「管路の節目個所」は,「挿入量」を検出する基準であるから,「管路」を備えた検査対象において目印となり得る個所でもある。
してみれば,引用発明の「管路の節目個所」は,補正発明の「解剖学的ランドマーク」に相当する。

ウ 挿入深さの決定
引用発明の「内視鏡」から「感圧センサ」及び「分析部」を除いた構成は,補正発明の「内視鏡装置」に相当する。
そして,引用発明における「管路の節目個所における」「内視鏡の」「挿入部の」「挿入量」は,補正発明の「解剖学的ランドマークを基準とし」た「内視鏡装置の挿入深さ」に相当する。

エ センサ
引用発明において「挿入部」は「内視鏡」の一部である。
そして,引用発明の「感圧センサ」は補正発明の「センサ」に相当する。
また,引用発明の「感圧センサ」が,「管路の節目個所」から受ける圧力に応じて検知された情報が変化するものであることは明らかであるから,引用発明において「管路の節目個所」から受ける「圧力」が補正発明の「環境因子」に相当する。
さらに,引用発明の「感圧センサ」は,検知した圧力に応じた値を「検知された情報」として「圧力検出部」に出力するものであるから,その「検知された情報」は,補正発明の「変数」に相当する。
してみれば,引用発明の「挿入部の長さに沿って等間隔に設け」られ,「検知された情報」を「圧力検出部」に出力する「3つの感圧センサ」は,補正発明の「前記内視鏡装置の少なくとも一部の長さに沿って配置され,前記解剖学的ランドマークを通過するに従い変数を変化させる環境因子を検知し,検知された前記環境因子に基づいて前記変数をそれぞれ出力する複数のセンサ」に相当する。

オ 挿入方向,引き出し方向
引用発明においては,「3つの感圧センサからの出力波形から分析部は挿入部の挿入速度を計算し,挿入部の挿入量を計算し,管路の節目個所における挿入方向や挿入量を検出する」。
その「挿入速度」から「計算」される「挿入量」について検討する。内視鏡の挿入は,通常,進退を繰り返しながら行われるものであり,その挿入量を計算するにあたって,内視鏡の移動方向が挿入方向なのか引き出し方向なのかを決定して挿入量の計算に反映させることは,例えば,特開平6-304127号公報(段落【0013】?【0014】参照。)に記載されているように技術常識である。
そして,通常,速さといえばスカラー量を意味し,速度といえばベクトル量を意味するものであり,上記技術常識及び引用例において挿入速度の算出に用いる感圧センサ46a?46cの出力を3つ独立に得る様子を示した上記(2)ケの図13に照らせば,引用発明における「速度」が正負の向きの情報を含むと解するのが相当である。
したがって,引用発明において「挿入速度を計算し,挿入部の挿入量を計算」する際に,「挿入速度」が持つ正負の符号を勘案して,すなわち,挿入部の移動方向が挿入方向なのか引き出し方向なのかを決定して,「管路の節目個所における」「挿入量を検出」していることは,当業者にとって明らかなことである。そして,引用発明は「挿入経路等の情報をモニタに表示できるようになって」いるのであるから,引用発明において決定された内視鏡の移動方向が出力されるのも明らかである。
よって,引用発明における「3つの感圧センサからの出力波形から」「挿入部の挿入速度を計算し,挿入部の挿入量を計算し,管路の節目個所における」「挿入量を検出する」ように構成された「分析部」は,補正発明における「前記複数のセンサによって出力された前記変数から,前記解剖学的ランドマークを越えた前記内視鏡装置の挿入深さを決定するとともに前記内視鏡装置の移動方向を挿入方向又は引き出し方向と決定し,前記決定された前記内視鏡装置の移動方向を出力するように構成されたセンサシステム」に相当する。

カ システム
引用発明の「内視鏡」に設けられた「感圧センサ」及び「分析部」は,システムとして機能するから,補正発明の「システム」に相当する。
また,引用発明においては,「内視鏡」の「挿入部の」「管路の節目個所における」「挿入量」は,本願発明における「装置の位置」である。そして,引用発明においては,その「挿入量」を検出するために,外部のセンサを必要としない。
よって,「内視鏡」の位置を検出するために外部のセンサを必要としない引用発明の「管路の節目個所における」「内視鏡の」「挿入部の」「管路の節目個所における」「挿入量を検出する」「感圧センサ」及び「分析部」からなるシステムは,本願発明の「装置の位置を検知する外部のセンサを用いることなく解剖学的ランドマークを基準として内視鏡装置の挿入深さを決定するシステム」に相当する。

キ 以上より,引用発明と補正発明との間に格別な相違は見いだせない。

ク したがって,補正発明は,引用発明すなわち引用例に記載された発明であるから,特許法第29条第1項第3号に該当し,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

ケ 仮に,上記アの「解剖学的ランドマーク」についての解釈に基づく上記イの対比が妥当でなく,補正発明の「解剖学的ランドマーク」が肛門であると限定的に解釈したとしても,上記(2)ウに記載されているように,引用例には内視鏡の挿入部を大腸に挿入することも例示されていることから,引用発明を大腸に適用し,人体から挿入部周囲へ大きな圧力が加わる肛門を解剖学的ランドマークとすることは,当業者が容易に想到し得たことである。
よって,このとき,補正発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

(4)したがって,補正発明は,引用例に記載された発明,又は引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法第29条第1項3号に該当し,又は特許法第29条第2項の規定により,特許出願の際,独立して特許を受けることができないものである。

(5)本件補正についてのむすび
以上のとおり,本件補正は,平成18年改正前特許法第17条の2第5項
において準用する同法第126条第5項の規定に違反するので,同法第15




9条第1項の規定において読み替えて準用する同法第53条第1項の規定により却下すべきものである。


第3 本願発明について
1 本願発明
平成25年11月5日付けでなされた手続補正は,上記のとおり却下されたので,本願の請求項1?10に係る発明は,平成25年2月20日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1?10に記載された事項により特定されるものであるところ,その請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)は,明細書及び図面の記載からみて,その請求項1に記載された事項により特定される,上記第2[理由]1(2)に記載のとおりのものである。

2 引用例
原査定の拒絶の理由で引用された引用例及びその記載事項は,上記第2[理由]2(2)に記載したとおりである。

3 対比
補正発明は,上記第2[理由]1(3)に記載したとおり,本願発明にさらに限定事項を追加したものであるから,本願発明は,補正発明から限定事項を省いた発明といえる。その補正発明が,上記第2[理由]2に記載したとおり,引用例に記載された発明,又は引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである以上,本願発明も同様に引用例に記載された発明,又は引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

4 むすび
以上のとおり,本願発明は,特許法第29条第1項第3号に該当し,又は同法同条第2項の規定により特許を受けることができないから,他の請求項に係る発明について検討するまでもなく,本願は拒絶されるべきものである。
よって,結論の通り審決する。
 
審理終結日 2015-01-27 
結審通知日 2015-02-03 
審決日 2015-02-16 
出願番号 特願2010-102407(P2010-102407)
審決分類 P 1 8・ 575- Z (A61B)
P 1 8・ 121- Z (A61B)
P 1 8・ 113- Z (A61B)
最終処分 不成立  
前審関与審査官 濱本 禎広大塚 裕一  
特許庁審判長 尾崎 淳史
特許庁審判官 渡戸 正義
右▲高▼ 孝幸
発明の名称 挿入深さを決定するシステム  
代理人 池田 正人  
代理人 城戸 博兒  
代理人 池田 成人  
代理人 野田 雅一  
代理人 山田 行一  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ